icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科74巻13号

2020年12月発行

雑誌目次

症例報告

左足底悪性黒色腫の鼠径リンパ節郭清術後リンパ漏に対しV.A.C. Ulta®による灌流式持続陰圧洗浄療法を行った1例

著者: 雪野祐莉子 ,   伏間江貴之 ,   小田俊輔 ,   角田朝子 ,   川北梨乃 ,   𠮷田哲也

ページ範囲:P.1040 - P.1045

要約 77歳,男性.左足底悪性黒色腫に対し,原発切除および鼠径リンパ節郭清術を施行したが,術後リンパ漏による創離開を生じた.外用薬による保存的加療を行ったが,創部からのリンパ液の漏出が多くポケット部の創感染をきたした.V.A.C. Ulta®治療システムによる灌流式持続陰圧洗浄療法(negative pressure wound therapy with instillation and dwelling:NPWTi-d)を開始したところ,3週間で壊死組織はほぼ消失しポケットの縮小と良好な肉芽形成がみられた.陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:NPWT)は滲出液の除去や血流促進などにより創傷治癒を促すとされているが,細菌の定着を悪化させる可能性もあり感染創には使用しにくい.NPWTi-dは,通常のNPWTに周期的持続注入機能を組み合わせることで,自験例のように壊死組織を伴う汚染創においても使用可能で,早期からポケットに対する治療介入が可能であった.

母親の抗SS-A/SS-B抗体高値より発症が予測されていた新生児エリテマトーデスの1例

著者: 吉田春奈 ,   田代康哉 ,   渡辺秀晃 ,   末木博彦

ページ範囲:P.1046 - P.1050

要約 1か月,男児.母親はSjögren症候群に罹患.姉は出生時抗SS-A/SS-B抗体高値のみで,新生児エリテマトーデスは発症しなかった.日齢30日頃からほぼ全身に爪甲大までの類円形紅斑が多発.一部環状を呈する.抗SS-A抗体183.1U/ml,抗SS-B抗体315.3U/mlと高値であった.皮膚生検にて,表皮基底部に液状変性あり,真皮血管周囲と表皮内にリンパ球浸潤を認めた.蛍光抗体直接法は陰性であった.初診1か月後には抗SS-A/SS-B抗体価が低下し,皮疹も5か月後に自然軽快した.母親のSjögren症候群の影響により,姉はより高い抗SS-A/SS-B抗体価にもかかわらず新生児エリテマトーデスは発症しなかったが,自験例本児は発症したため,抗体価の値だけでなく遺伝子など他の要因の発症への関与が示唆された.母親がSjögren症候群に罹患している場合,出生前から胎児心電図に注意し,出生後も心ブロックの有無について経過観察が必要である.

足趾爪甲下に生じたsymplastic glomus tumorの1例

著者: 齋藤龍一 ,   長谷川道子 ,   田村敦志

ページ範囲:P.1051 - P.1055

要約 62歳,女性.初診の約10年前より右母趾爪部に圧痛があり,半年前より爪甲基部に紫紅色斑が出現した.初診時,右母趾爪甲基部に幅5mmの淡紫紅色斑があり,爪甲先端に亀裂がみられた.臨床像よりグロムス腫瘍と診断し,爪母下より腫瘍を摘出した.組織像ではシート状に増殖する卵円形のグロムス細胞に混じて核異型の顕著な腫瘍細胞が散在していた.核分裂像はみられなかった.Symplastic glomus tumorと診断し,術後2年5か月経過観察したが,再発はなかった.Symplastic glomus tumorはきわめて稀な疾患であり,これまで論文報告例は自験例を含め内外合わせて22例と少ない.核異型が強いため一見悪性を疑う組織像を呈するが,完全切除が得られれば再発することはなく良性の経過を辿る.本症の存在を認識しておくことは,過剰な治療を避けるうえで重要である.

Borst-Jadassohn現象がみられた色素性Bowen病から生じた有棘細胞癌の1例

著者: 水野清香 ,   延山嘉眞 ,   朝比奈昭彦

ページ範囲:P.1056 - P.1060

要約 74歳,女性.12年前に検診にて右鼠径部の結節性病変を指摘された.初診時,右鼠径部に紅色結節を伴う黒褐色で一部が紅色の局面を認めた.病理組織学的検査では,黒褐色局面で腫瘍細胞が表皮内に胞巣を形成して増殖し,腫瘍胞巣内に異型を伴う腫瘍細胞や多数のメラノサイトとメラニン顆粒を認めた.紅色局面では表皮内の腫瘍細胞巣のメラニン顆粒は乏しく,一部真皮へ腫瘍細胞の浸潤を認めた.紅色結節では表皮から真皮にかけて多形性のある腫瘍細胞の浸潤を認め,メラノサイトやメラニン顆粒は目立たなかった.病理組織学的所見よりBorst-Jadassohn現象をきたした色素性Bowen病から生じた有棘細胞癌と診断した.色素性上皮性腫瘍から低色素性病変が出現した場合,形質転換による悪性度の進行を疑う必要があると考えた.

鼠径部のfibroepithelioma of Pinkusの1例

著者: 小原明希 ,   青笹尚彦 ,   向川早紀 ,   角田麻衣子 ,   野々垣彰 ,   播摩瑶子 ,   冲永昌悟 ,   玉木毅 ,   伊東慶悟 ,   安齋眞一

ページ範囲:P.1061 - P.1064

要約 46歳,男性.慢性骨髄性白血病,慢性移植片対宿主病,Guillain-Barré症候群の既往があり,19年間にわたるステロイドと免疫抑制薬の内服歴がある.初診3年前から,右鼠径部に有茎性小豆大の紅色結節が出現した.軟性線維腫を第一に考え切除した.病理組織学的には基底細胞癌の像であった.一部有棘細胞の増殖を伴ったが,特殊染色もあわせ,fibroepithelioma of Pinkusと診断し,追加切除した.鼠径部に生じる有茎性の基底細胞癌は比較的稀であり,自験例は発症年齢としても若い.その誘因として,慢性骨髄性白血病に対する放射線照射や免疫抑制薬の長期投与が発症に関与したのではないかと考えた.

腎盂原発sarcomatoid carcinomaの皮膚転移の1例

著者: 湯川圭 ,   吉岡啓子 ,   播本幸司 ,   保坂直樹

ページ範囲:P.1065 - P.1069

要約 64歳,男性.2018年12月下旬に肉眼的血尿と左背部痛を主訴に当院泌尿器科を受診した.諸検査の結果,左腎腫瘍および左腎門部リンパ節と多発肺転移を認め,cT2aN1M1として左腎摘出術を施行された.摘出標本の病理組織学的検査の結果,腎盂sarcomatoid carcinomaと診断され,以後化学療法と放射線療法が行われた.2019年3月下旬に,後頭部と右側頭部に直径6〜14mmの充実性,弾性硬の紅色結節を4か所認めるようになり,当科紹介となった.皮膚生検の結果,真皮内に不規則な上皮様あるいは紡錘形の異型細胞の浸潤像を認め,免疫染色の結果も合わせて腎盂原発のsarcomatoid carcinomaの皮膚転移と診断した.腎盂sarcomatoid carcinomaは稀であり,それによる皮膚転移の報告はさらに稀である.経験する機会の少ない転移性皮膚腫瘍の病理組織を知る上でも貴重な症例と思われたために報告する.

性器ヘルペス様外観を呈したExophiala dermatitidisによる黒色分芽菌症の1例

著者: 早川怜那 ,   下田由莉江 ,   井田陽子 ,   下山田博明 ,   福田知雄 ,   大山学

ページ範囲:P.1071 - P.1076

要約 26歳,男性.初診10日前から陰茎基部の皮疹に気づき,当科を紹介され受診した.初診時,陰茎基部に紅暈を伴う米粒大までの小潰瘍が多発・集簇する臨床像から性器ヘルペスと診断し,アシクロビルを投与したが,皮疹は拡大した.皮膚生検を施行したところ,組織の真皮内にsclerotic cellが多数認められ,潰瘍部滲出液および生検皮膚の真菌培養で黒色真菌を分離し,臨床像と併せ黒色分芽菌症と確定診断した.原因菌は分子生物学的手法によりExophiala dermatitidisと同定された.イトラコナゾールの内服で皮疹は速やかに改善した.本菌は免疫抑制状態にある患者において囊腫様病変を呈する黒色菌糸症の原因菌として知られている.自験例の臨床像は非典型的であり,組織中にも菌糸の発育がみられず,診断に苦慮した.免疫不全状態の患者に性器ヘルペス様の難治性皮膚潰瘍を生じた場合は,本症を鑑別に挙げる必要があると考えた.

Spirometra ranarumによる孤虫症の1例

著者: 倉地祐之眞 ,   渡辺絵美子 ,   小林正規 ,   田島誠也 ,   鈴木淳 ,   宮川俊一

ページ範囲:P.1077 - P.1083

要約 54歳,女性.約10年前より腹部や両下肢に有痛性の皮下結節が出没するようになった.初診時には腹部,両下肢に圧痛を伴う長径約1cmの索状皮下結節を認め,血栓性静脈炎や脂肪織炎が疑われた.右大腿の皮下結節を生検のため切開したところ,皮下より白色紐状の生きた虫体が2匹出現した.虫体の病理所見では消化管や生殖器を認めず,内部に石灰化小体を有しており,条虫の幼虫と考えられた.虫体の遺伝子解析により,スピロメトラ属に属する裂頭条虫であるSpirometra ranarumによる皮膚幼虫移行症と診断した.経口感染が推定されたが,感染経路は特定できなかった.皮下結節が出没する場合は鑑別として孤虫症の可能性も考慮し,食習慣などの生活歴を十分に聴取するべきである.孤虫症が疑われた場合は虫体を摘出することが望ましく,積極的に生検を行うべきである.

両側性対称性帯状疱疹の1例

著者: 湯川圭 ,   吉岡啓子

ページ範囲:P.1084 - P.1088

要約 79歳,女性.2019年10月初旬,3日前からの前額部の皮疹,全身倦怠感を主訴に近医を受診し,精査加療目的に当科に紹介された.前頭部,前額部,両側上眼瞼と鼻背に小水疱の集簇を伴う浮腫性紅斑を認めた.左右前額部のいずれの皮疹からも皮疹部から施行したTzanck testではウイルス性巨細胞を認め,イムノクロマト法による水痘・帯状疱疹ウイルス抗原検査が陽性であった.三叉神経第1枝領域の両側性対称性帯状疱疹と診断し,アシクロビル250mg/日の7日間の投与で皮疹は改善した.離れた複数の神経支配領域に皮疹が出現する帯状疱疹は複発性・多発性帯状疱疹と定義されており,比較的稀な病型である.好発年齢,性差,予後や合併症に関しては通常の帯状疱疹と差がないと考えられるが,悪性腫瘍や膠原病の合併率は高いと考えられるため,より慎重に検索する必要があると考える.

複発性帯状疱疹の2例

著者: 黒川景子 ,   菅原隆光

ページ範囲:P.1089 - P.1093

要約 症例1:72歳,男性.初診1週間前から強い疼痛を伴う皮疹が左右のT1〜4領域に帯状,対称性にみられた.両側性対称性複発性帯状疱疹と診断し,アシクロビル点滴静注にて加療,帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia;PHN)を発症することなく軽快した.症例2:85歳,女性.初診10日前から強い疼痛を伴う左V1領域に皮疹が出現,数日後に左T10領域にも皮疹が出現した.片側性複発性帯状疱疹と診断し,アシクロビル点滴静注の加療を行った.顔面の疼痛が顕著であったため,神経節ブロックを行い,軽快した.今回,自験例を含めた1989〜2019年の30年間の本邦で発症した複発性帯状疱疹を検討し,通常の帯状疱疹と比較したところ,基礎疾患保有率が高く,なかでも悪性腫瘍の合併率が高かった.よって,適切に悪性腫瘍の全身検索を行うことも必要になると考えられた.

激しい腹痛と肝機能障害を伴い重症化した内臓播種性水痘・帯状疱疹ウイルス感染症の1例

著者: 野澤優 ,   朝倉涼平 ,   山上淳 ,   天谷雅行 ,   舩越建

ページ範囲:P.1095 - P.1100

要約 40歳,女性.水痘既往はないがワクチン接種歴はある.関節リウマチ,Sjögren症候群,IgA欠損症が併存症にあり,メトトレキサート8mg/週の内服中であった.水痘が疑われる児との接触後,前胸部の水疱と腹部違和感が出現し,紅暈を伴う小水疱は全身に多発した.腹痛増悪のため救急搬送となり,特徴的な皮疹から水痘と診断し,緊急入院した.激しい腹痛と血液検査での肝逸脱酵素上昇を認め,体幹部造影CT検査と腹部超音波検査を実施したが器質的な異常所見は認めなかった.経過から水痘による腹痛,肝機能障害と考えアシクロビル倍量投与を2週間行い,症状は軽快した.臓器障害を伴う水痘は内臓播種性水痘・帯状疱疹ウイルス感染症と呼ばれる.腹痛や背部痛で発症することが多いために診断や治療が遅れ,致命的となりうる.腹痛や背部痛を伴う水痘患者を診た際には本症を考え,早期に高用量アシクロビル投与を開始すべきだと考える.

肺扁平上皮癌に合併したBazex症候群の1例

著者: 塩野谷愛香 ,   肥田時征 ,   西坂尚大 ,   汐谷心 ,   宇原久

ページ範囲:P.1101 - P.1106

要約 70歳台,男性.初診の4か月前から掌蹠,臀部,膝に角化性紅斑局面と爪甲の変形が出現した.Bazex症候群を疑い全身精査を行ったが異常はなかった.乾癬型薬疹も考え,被疑薬を中止したが皮疹は増悪したため,初診の4か月後にCTを撮像したところ,右下肺野に結節が発見された.肺扁平上皮癌(pT3N0M0)であった.根治術後に皮疹と爪症状が著明に軽快した.Bazex症候群の本邦報告例(26例)を解析した結果,84%が皮疹先行例,11%が悪性腫瘍先行例であった.皮疹先行例のうち,腫瘍診断のタイミングは1年以内が73%,3年以内が95%であった.四肢末端に治療抵抗性の角化性紅斑と爪変形が出現した場合は本症候群を疑い,初診時に悪性腫瘍が発見されなくても2〜3年程度は,画像検査や内視鏡検査を含めた定期的な内臓癌の検査をする必要があると考えた.

マイオピニオン

膠原病治療について

著者: 松下貴史

ページ範囲:P.1038 - P.1039

1. 膠原病とは
 ここ十数年での膠原病の診断と治療の進歩には目覚ましい発展がみられる.特に関節リウマチにおいてはTNF-α阻害薬の登場により,その治療にパラダイムシフトをもたらした.また,膠原病のなかでわれわれ皮膚科が治療にあたることが多い,全身性強皮症と皮膚筋炎においても診断・治療法が劇的に進化してきている.本稿では,全身性強皮症と皮膚筋炎の診断と治療の進化について述べさせていただく.

連載 Clinical Exercise・160

考えられる疾患は何か?

著者: 糟谷啓

ページ範囲:P.1035 - P.1036

症例
患 者:32歳,男性
主 訴:耳介の発赤腫脹
既往歴:潰瘍性大腸炎にてサラゾスルファピリジン1.5g/日を内服中である.
現病歴:初診の4週間前に右耳介が腫脹した.当科受診後,プレドニゾロン15mg/日にて症状は軽快した.その4か月後,今後は左耳介が腫脹した.同時にぶどう膜炎が出現した.
現 症:左耳介の上部2/3に発赤,腫脹,熱感,疼痛があった(図1).

--------------------

目次

ページ範囲:P.1031 - P.1031

欧文目次

ページ範囲:P.1033 - P.1033

文献紹介

ページ範囲:P.1083 - P.1083

書評

ページ範囲:P.1108 - P.1108

次号予告

ページ範囲:P.1112 - P.1112

「臨床皮膚科」歴代編集委員

ページ範囲:P.1113 - P.1113

あとがき

著者: 朝比奈昭彦

ページ範囲:P.1114 - P.1114

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日常生活に入り込み,収束の願いをよそに,まだその兆しは見えません.本誌のあとがきは,半年以上すべてがこの話題です.またかと言われそうですが,他に話題が見つからないほど日々の生活が変貌し,インパクトをもたらしました.
 自らは医療従事者として出勤しないわけにいきませんが,大学外の方との面会は,大学側の訪問規制や,あるいは先方がリモートワークであるため,WEBを利用することが増えています.病院への受診患者も目に見えて減少し,そこからの戻りが限定的です.当大学の学生も,つい最近まで自宅学習を余儀なくされました.日本全国の多くの大学でも,本年度の新入生が顔合わせすらままならない状況がありました.学会も,ほとんどがWEB開催となりました.

臨床皮膚科 第74巻 事項索引

ページ範囲:P. - P.

臨床皮膚科 第74巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?