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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科75巻3号

2021年03月発行

雑誌目次

原著

抗Art v 1特異的IgE抗体陽性のセリ科スパイスアレルギーの2例

著者: 花田美穂 ,   中川倫代 ,   濱端明美 ,   天野博雄

ページ範囲:P.198 - P.204

要約 症例1:15歳男性,給食でカレーを摂取後に運動し,15分後に顔面が腫脹しアナフィラキシーを生じた.臨床病型は食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)で,花粉症や口腔アレルギー症候群の既往はなく,プリックテスト,抗原特異的IgE検査の結果,Art v 1によるクラス1アレルギーと考えた.症例2:35歳女性,カレードリアを摂取した30分後に口唇と眼瞼が腫脹し,アナフィラキシーを生じた.ヨモギ花粉症とカモミールやトマトの口腔アレルギー症候群の既往があり,検査の結果,Art v 1によるクラス2アレルギーと考えた.原因不明のアナフィラキシーやFDEIAでは,セリ科スパイスアレルギーを念頭に置き運動歴の聴取,スパイスのプリックテスト,ヨモギ花粉の特異的IgE検査を行う必要があると考えた.

症例報告

免疫グロブリン大量静注療法,ステロイドパルス療法に加えてシクロスポリンの併用が奏効した中毒性表皮壊死症の1例

著者: 白鳥隆宏

ページ範囲:P.205 - P.211

要約 23歳,男性.初診2日前に全身倦怠感,眼球結膜の充血があった.初診前日に39℃台の発熱が出現したため,総合感冒薬を内服した.翌日に体幹中心の紅斑,嚥下痛,呼吸苦,陰部痛で救急外来を受診した.呼吸苦があることから内科に入院となったが,皮疹の範囲が拡大し,口唇と陰部のびらんが認められたため入院2日目に当科紹介,Stevens-Johnson症候群の診断で転科となった.病勢が強く,ステロイドパルス療法と免疫グロブリン大量静注療法を同時に開始したが,入院5日目に中毒性表皮壊死症へ移行した.プレドニゾロン70mg/日の内服を開始したところ,口腔内症状は改善され皮疹の拡大は制御できたものの,びらんと同部に一致する強い疼痛が遷延した.シクロスポリンを追加すると,数日でびらんからの滲出液は減少し,上皮化傾向となった.シクロスポリンが奏効したと考えられた.中毒性表皮壊死症に対してシクロスポリン併用治療が有効である可能性がある.

心不全を伴う膿疱性乾癬に対しイキセキズマブが著効した1例

著者: 宮下加奈子 ,   本多教稔 ,   梶原一亨 ,   尹浩信

ページ範囲:P.213 - P.218

要約 83歳,女性.尋常性乾癬に対し30年前よりステロイド外用,シクロスポリン内服等で治療されたが,腎機能低下を認め加療中止となり,症状増悪したため光線療法目的で当科入院となった.加療中に皮疹が増悪し,38℃台の発熱を伴い全身に小膿疱を伴う潮紅が拡大した.生検にてKogoj海綿状膿疱を有する角層下膿疱を認め,汎発性膿疱性乾癬と診断した.腎機能低下に加え,心不全を合併したためエトレチナート,シクロスポリン,インフリキシマブ等は使用できず,イキセキズマブを選択した.イキセキズマブ投与後に皮疹・炎症所見ともに速やかに改善し,重症度は10点(中等症)から2点(軽症)まで低下した.膿疱性乾癬の難病特定疾患受給患者には一定数高齢者を含み,高齢者は特に合併症のために治療の選択肢が限られる場合がある.今回,心不全を伴う高齢の膿疱性乾癬患者に心不全を増悪させることなくイキセキズマブを安全に使用でき,著効したため報告する.

胸腺腫による抗デスモグレイン抗体が陰性の腫瘍随伴性天疱瘡の1例

著者: 吉田諭 ,   宇都宮亮 ,   土居千晃 ,   武藤潤 ,   古賀浩嗣 ,   石井文人 ,   佐山浩二

ページ範囲:P.219 - P.224

要約 61歳,女性.59歳時に前縦隔腫瘍を健康診断で指摘され,60歳より口腔内潰瘍が出現し,前医を受診した.血清中の抗デスモグレイン抗体値を測定したが陰性であり,精査加療目的に当院皮膚科を紹介受診した.頰粘膜や舌縁にびらんや潰瘍を認めたが,体幹四肢にびらん,紅斑はなかった.頰粘膜部の生検,蛍光抗体法,免疫ブロット法を施行し,エンボプラキンとペリプラキンに対する自己抗体が検出され,腫瘍随伴性天疱瘡と診断した.前縦隔腫瘍は切除され,胸腺腫と診断された.手術後に口腔症状の増悪がみられたため,プレドニゾロン50mg(1mg/kg)内服を開始した.初診から9か月後時点で,口腔内潰瘍の新生はなく,閉塞性細気管支炎を生じていない.腫瘍随伴性天疱瘡は一般的に抗デスモグレイン抗体を有すると考えられているが,抗デスモグレイン抗体が検出されない症例もあり,デスモグレイン以外の抗原に対する自己抗体を精査する必要がある.

頭部に類円形の脱毛巣を伴う紅褐色斑をもつ抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎の1例

著者: 鈴木瑞穂 ,   竹中祐子 ,   鯨岡夏帆 ,   森山倫奈 ,   谷口敦夫 ,   針谷正祥 ,   石黒直子

ページ範囲:P.225 - P.230

要約 54歳,女性.2か月前より皮疹と脱毛が生じた.1か月前より発熱,咳嗽が出現した.初診時,上眼瞼に浮腫性の淡紅斑,両頰に浸潤をふれる紫紅色斑,手指ではGottron・逆Gottron徴候,メカニックスハンドがみられた.頭部には脱毛を伴う紅褐色斑が2か所あり.CK,アルドラーゼ,フェリチン,抗MDA-5抗体の上昇と肺野にすりガラス陰影がみられた.頭部の脱毛を伴う紅褐色斑について系統的病理診断を行い,縦断面では液状変性と毛包周囲のリンパ球浸潤,真皮にムチンの沈着,横断面では,毛包漏斗部,峡部で総毛包数の減少と毛包周囲に炎症細胞浸潤があった.抗MDA5抗体陽性で間質性肺炎を合併した皮膚筋炎と診断し,頭部の脱毛を伴う紅褐色斑は皮膚筋炎の皮膚症状と考えた.皮膚筋炎における脱毛や頭部紅斑についての報告は少なく,同様の検討による症例の集積は,本疾患の脱毛の病態解明につながると考えた.

口唇の皮疹を契機に中年期で診断された遺伝性出血性毛細血管拡張症の1例

著者: 宮川明大 ,   高宮城冴子 ,   崎山とも ,   稲積豊子 ,   久保亮治 ,   比留間淳一郎

ページ範囲:P.231 - P.236

要約 57歳,男性.5年前より両側指腹部に点状紅斑が出現した.2年前より下口唇にも点状紅斑が出現し,精査加療目的に当科を紹介受診した.幼少期より繰り返す鼻出血と,肺動静脈瘻の既往もあることから遺伝性出血性毛細血管拡張症と診断した.全身精査の結果,左後頭葉に陳旧性の脳梗塞,上部消化管粘膜に多数の毛細血管拡張,膵臓動静脈瘻,肺動静脈瘻が認められた.本疾患は鼻出血をはじめとして複数診療科に亘る臨床所見を時期を異にしながら呈するため早期診断が困難なケースがある.重要臓器の血管奇形は時として致死的病態を招くため,早期の病態評価と複数の専門家による集学的なアプローチが望まれる.また患者が皮膚粘膜病変を主訴に皮膚科を受診する場合があり,診断においてわれわれ皮膚科医が果たす役割は大きい.

コレステロール結晶塞栓症に対してステロイド療法にLDLアフェレーシスと局所陰圧閉鎖療法を併用した1例

著者: 加藤あずさ ,   中島充貴

ページ範囲:P.237 - P.242

要約 60歳台,男性.血栓性大動脈分岐閉塞症により左下腿壊疽を発症した.術前検査で判明した無症候性心筋虚血に対して経皮的冠動脈形成術,血栓性大動脈分岐閉塞症に対して末梢血管形成術,左下腿切断を施行された.術後より末梢血好酸球数が上昇し,術後4か月後に右足趾色調不良と網状皮斑を認めた.コレステロール結晶塞栓症としてプロスタグランジン製剤,HMG-CoA還元酵素阻害薬の投与に加え,ステロイドを投与するも右母趾は壊死し,趾切断に至った.右母趾切断から1か月半後より新たに足趾色調不良と潰瘍が出現した.趾切断が考慮される潰瘍だったが,ステロイド療法に加えてLDLアフェレーシスと局所陰圧閉鎖療法を併用したところ,経時的に色調は改善し潰瘍も上皮化した.本症の治療法は確立していないが,微小循環改善薬やステロイドの効果が乏しい皮膚潰瘍が主体で,基礎疾患のため高用量ステロイド療法を回避したい症例では3者併用療法が有用と考える.

部分切除と十字切除法により治療した鼻瘤の1例

著者: 古川博基

ページ範囲:P.243 - P.248

要約 59歳,男性.10歳台より鼻部も含めて顔面に尋常性痤瘡を繰り返し生じていた.約10年前より鼻尖部に痤瘡様皮疹が増大し,徐々に鼻全体が肥大してきた.鼻尖部から鼻背にかけて鼻全体がゴルフボール大に腫大し,両鼻翼も小指大に腫大していき,鼻尖の肥大部は下垂していた.表面は凹凸不整のクレーター状で毛孔は著明に開大していた.病理組織学的には,表皮は肥厚し,真皮から皮下組織にかけて膠原線維の増加,皮脂腺の増殖,小血管の拡張,血管周囲にはリンパ球主体の細胞が多数浸潤していた.以上より鼻瘤と診断した.治療は,過去の論文では全層切除と植皮もしくは分層切除施行例が多く散見されるが,自験例では腫瘤部に初回手術として部分切除を,2回目手術として十字切除法を行うことにより植皮を行わず治療し,整容的に満足できる状態になった.鼻瘤は日本では比較的稀であり,いまだその成因は不明である.今回,腫瘤部部分切除と十字切除法のみで良好な手術結果を得たので,治療法選択の1つとして腫瘤部分切除術も考慮すべきであると考えた.

多発性外毛根鞘囊腫の1例

著者: 山田翔子 ,   脇裕磨 ,   延山嘉眞 ,   福地修 ,   朝比奈昭彦

ページ範囲:P.249 - P.253

要約 56歳,男性.30歳頃より頭部,顔面の結節を自覚し,増大・増数傾向のため当科を受診した.初診時,後頭部,頭頂部,右頰部に最大4cmの多発する皮膚色,可動性良好な弾性硬の結節および腫瘤を6か所に認め,すべて切除した.病理組織学的に,外毛根鞘性角化を有する囊胞状構造であり,囊胞内腔には硝子様の過角化がみられたため,多発性外毛根鞘囊腫と診断した.外毛根鞘囊腫の多発例は海外で多く報告されているが,国内では自験例を含めて17例と少ない.常染色体優性遺伝例も報告されており,自験例では母,姉に同様の皮膚症状があるため,家族内発症の可能性がある.遺伝性の本症の原因として,3番染色体上のTRICY1やPLCD1遺伝子などの変異が指摘されている.また外毛根鞘囊腫は増殖性外毛根鞘囊腫や悪性増殖性外毛根鞘囊腫への移行の可能性もあり,好発部では注意深い経過観察や積極的な切除が望ましいと考える.

骨髄癌腫症を呈し急激な転帰をたどった足底悪性黒色腫の1例

著者: 和田昇悟 ,   片桐正博 ,   並木剛 ,   三浦圭子 ,   横関博雄

ページ範囲:P.255 - P.260

要約 69歳,女性.10年前に近医で右足底の黒色斑を切除され,母斑細胞性母斑と診断された.7年前より切除部に黒色斑が再度出現し,徐々に増大し結節となったため当科受診となった.初診時,右足底に直径17×12mm大の黒色結節と右鼠径リンパ節腫大を認めた.原発巣の切除と右鼠径リンパ節生検を施行し,右足底悪性黒色腫(pT4bN2bM0, p stage ⅢC)と診断した.初診3か月後頃より嘔気と食思不振が出現し,急激に血小板が減少,末梢血への骨髄球が出現した.骨髄生検にて異型メラノサイトの浸潤があり,骨髄癌腫症と診断した.CTでは多発転移を認め,骨髄癌腫症と判明した9日後に死亡した.骨髄癌腫症は,悪性腫瘍が骨髄にびまん性に転移し,平均生存期間2,3か月と予後が非常に悪い病態であるが,皮膚科領域での報告は稀である.進行期の悪性腫瘍において末梢血に骨髄球などの幼若顆粒球を認めた際は,骨髄癌腫症を念頭に置き骨髄穿刺を含めた対応を検討する必要がある.

基底細胞癌との鑑別を要した色素性有棘細胞癌の1例

著者: 中西雄也 ,   安藤純実 ,   坂井浩志

ページ範囲:P.261 - P.266

要約 88歳,女性.顔面の黒色結節を主訴に受診した.左頰部に黒色痂皮が付着したように見える6mm大の黒色小結節を認め,周囲には紅暈を伴っていた.ダーモスコピー上,小結節中央の黒色領域は角化によるものと考えられ,辺縁に青灰色領域を認めた.明らかな皮膚潰瘍および樹枝状血管は認めなかった.病理組織上,表皮と連続して真皮内に胞巣を形成する不整な腫瘍性病変を認め,胞巣内で角化傾向を示し角質真珠を伴っていた.免疫組織染色では腫瘍内にS100蛋白陽性,HMB-45陽性の樹枝状のメラノサイトを認めた.色素性有棘細胞癌と診断し,腫瘍辺縁より1cm離して全切除した.術後約1年半転移再発を認めていない.色素性有棘細胞癌は基底細胞癌と鑑別を要する.ダーモスコピー像はともに青灰色領域,黒色領域を認め類似する.両者の鑑別には,角化所見の有無,樹枝状血管所見の有無が重要であると考えた.

マイオピニオン

油症ダイオキシン研究診療センター

著者: 辻学

ページ範囲:P.196 - P.197

1. 油症とは
 「先生のご専門は何科ですか.」私が九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センターに勤務していることを伝えると,よく聞かれる質問の1つです.確かに,何をしている施設なのか,なかなかわかりづらいかと思います.そこでまず,油症についてご説明していきたいと思います.油症とは,1968年に起きたカネミ油症事件のことを指します.当時,西日本一帯,特に福岡県,長崎県を中心に,全身に痤瘡様発疹と色素沈着を生じる患者が集団発生しました.この発疹は,九州大学医学部附属病院皮膚科で塩素痤瘡と診断され,何らかの有害物質の摂取の可能性が考えられました.皮膚科の要請で油症研究班が組織され,疫学・化学分析調査によって,この発疹を生じた患者はカネミ食用米ぬか油を摂取していること,そしてこのカネミ食用米ぬか油にPCBs(有害化学物質polychlorinated biphenyl;ポリ塩化ビフェニール)が混入していることがわかりました.その後,製油工場の調査で,食用米ぬか油の製造工程でPCBsが混入したことが明らかとなりました.つまり,カネミ油症の原因解明の発端は皮膚科の診断から始まったということになります.研究を進めるにしたがって,混入したPCBsがダイオキシン類に変化していることが判明しました.これにより,カネミ油症はPCBsの経口摂取による食中毒事件であると同時に,ダイオキシン類による中毒症であることがわかりました.この事実は,ダイオキシン類をはじめとした環境汚染物質の人体に与える影響が世界的な懸念材料となってきた背景もあり,カネミ油症の研究が大きく関心を持たれるきっかけになりました.そして,2004年に厚生労働省の食品の安全確保推進研究事業として,現在の油症ダイオキシン研究診療センターが設立されました.

連載 Clinical Exercise・163

考えられる疾患は何か?

著者: 中川倫代

ページ範囲:P.193 - P.194

症例
患 者:39歳,女性
主 訴:両腋窩のしこり
既往歴:子宮筋腫,子宮内膜症,高プロラクチン血症
現病歴:1妊1産の産後7日目の経産婦.28歳頃より両腋窩に軽度圧痛を伴う10円硬貨ほどのしこりを自覚していた.その後大きさに変化はなかったが,出産直後から急激に増大し持続する疼痛を伴うようになったため当科を受診した.
現 症:両腋窩に鶏卵大,弾性軟の皮下腫瘤を1個ずつ認め,軽度の圧痛を伴っていた.表面皮膚は常色であった(図1a, b).

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目次

ページ範囲:P.189 - P.189

欧文目次

ページ範囲:P.191 - P.191

文献紹介

ページ範囲:P.248 - P.248

次号予告

ページ範囲:P.271 - P.271

あとがき

著者: 戸倉新樹

ページ範囲:P.272 - P.272

 9年間,本誌の編集委員として投稿論文の査読をしてきたが,本号をもって退任となった.医師になって初めて書いた論文は本誌に掲載されたので,読者としても編集委員としても長い付き合いであった.専門誌とは言え,本誌は自由な意気込みで書かれたものを掲載する.基本的に書きたいと思う人がいて成り立つものである.しかし著者の中には,専門医をとるために渋々書いている方も居られよう.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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