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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科75巻8号

2021年07月発行

雑誌目次

原著

皮膚がんに関するインターネットアンケート調査

著者: 陣内駿一 ,   緒方大 ,   筒井啓太 ,   名嘉眞健太 ,   並川健二郎 ,   高橋聡 ,   山﨑直也

ページ範囲:P.562 - P.568

要約 本邦の皮膚がんの罹患率は欧米諸国と比較して低いが,進行期症例の割合は高い.一般市民の皮膚がんの認知度の低さが1つの原因として考えられている.皮膚がんの予後改善のために皮膚がん検診や啓発活動を行っている医療機関もあるが,海外では携帯電話を用いた皮膚がん判定アプリケーションソフトが登場しており,皮膚がん早期発見の一助となっている.本邦においてはこれまでほくろや皮膚がんの認知度に関して調査した報告はなく,今回われわれは皮膚がんに関する認知度についてインターネットアンケート調査を行った.結果は皮膚がんの認知度は低い一方で,皮膚がんの早期発見に向けた活動やインターネットを用いた手段に対して関心の高さがうかがえる回答結果であった.皮膚がんの予後改善のためには,積極的な情報提供や受診環境の整備を行う必要があるが,それらを遂行する上で今回の調査結果は意義のあるものではないかと考えた.

症例報告

潰瘍性大腸炎に対してゴリムマブ投与中にサルコイドーシスを発症した1例

著者: 谷口君香 ,   矢嶋萌 ,   北岡修二

ページ範囲:P.569 - P.574

要約 56歳,男性.潰瘍性大腸炎に対し,ゴリムマブ(GLM)投与開始1年後,左膝に隆起した紅斑を認めた.クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏外用では改善せず,生検した.病理組織標本で壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫を認めた.また両側肺門リンパ節腫脹を認めていること,採血で可溶性IL-2レセプターが高値であることからサルコイドーシスと診断した.病変は皮膚と肺のみであった.GLM開始後に両側肺門,縦隔のリンパ節腫大を認めており,GLM投与によるサルコイドーシス発症の可能性が高いと考え,GLMの投与を中止したところ皮膚や肺の所見は改善した.サルコイドーシスの皮膚病変を認めた際には,tumor necrosis factor阻害薬の投与により誘発された可能性を検討することが重要である.

Interventional radiology後に生じた臀部慢性放射線皮膚炎の1例

著者: 水田綾 ,   本田ひろみ ,   朝比奈昭彦

ページ範囲:P.575 - P.579

要約 48歳,男性.右骨盤内動静脈瘻に対し,初診1か月前にコイル塞栓術を施行した.その3週後より右臀部に紅斑・びらんが出現し,当科でステロイド外用により改善したが,1年半後に再度同部位の疼痛,潰瘍が出現した.コイル塞栓術術後の有害事象として臀筋壊死も疑われたが,骨盤造影CTで虚血を疑う所見はなかった.また,細菌培養は常在菌のみ検出され,病理組織学的検査で炎症細胞浸潤や表皮細胞の異型を認めなかった.臨床所見およびIVR歴から慢性放射線皮膚炎およびそれに伴う潰瘍形成と診断した.IVRによる慢性放射線皮膚炎の症例は冠動脈関連が多く,塞栓術施行によって臀部に生じた報告例は稀である.慢性放射線皮膚炎は皮膚悪性腫瘍の発生母地となりうるため,早期の診断と治療介入が望まれ,早期診断の向上には,放射線科と皮膚科医が連携して診療にあたることが重要である.

手指の皮膚硬化を伴った好酸球性筋膜炎の1例

著者: 小林英資 ,   佐藤洋平 ,   新田桐子 ,   大山学

ページ範囲:P.581 - P.585

要約 34歳,女性.初診の約1年前より手掌の疼痛と手指の皮膚硬化,下肢の腫脹を自覚した.症状改善なく当院内科を受診し,皮膚の硬化につき当科を紹介され受診した.初診時,両側の前腕から手指と両側下腿に皮膚硬化と腫脹を認めた.下肢MRIで皮下脂肪層と筋層の間に高信号を認めた.組織学的に筋線維間に軽度の好酸球,リンパ球,形質細胞の浸潤を認め,好酸球性筋膜炎と診断した.プレドニゾロン1mg/kg/日投与開始し,手指も含め皮膚硬化は速やかに改善した.好酸球性筋膜炎では手指の硬化は比較的稀である.自験例も含めた本邦報告48例のうち,手指硬化を伴う症例は13例であった.手指硬化のない症例では高用量ステロイド治療開始群と低用量開始群間で予後に差はなかったが,手指硬化のある症例では前群で予後が良い傾向にあった.本症では初診時の手指硬化の有無の確認が治療方針の決定に有用である可能性があると考えられた.

長期の胃瘻を必要とする嚥下機能障害が遷延した皮膚筋炎の1例

著者: 河合良奈 ,   古川佑来 ,   山崎菜央 ,   加藤恒平 ,   片桐一元

ページ範囲:P.587 - P.592

要約 61歳,女性.初診1か月前に背部,顔面に皮疹が出現.筋原性酵素の上昇,手背のGottron丘疹,爪囲紅斑,背部に多形皮膚萎縮あり.抗Mi-2抗体強陽性.間質性肺炎,内臓悪性腫瘍なし.プレドニゾロン(PSL)1mg/kg/日,アザチオプリン50mg/日を投与するも血清CK値が1,400U/lで下げ止まり,嚥下および体動困難となった.ガンマグロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIG)を追加したところ,血清CK値は速やかに低下したが,嚥下機能の回復が遅く,胃瘻を造設し,嚥下リハビリを行い,胃瘻は9か月後に閉鎖した.PSL減量で筋症状が再燃したが,増量で改善し,現在PSL 8mg/日とシクロスポリン150mg/日で維持している.自験例ではステロイド抵抗性の嚥下機能障害を合併する皮膚筋炎に対し,IVIGが血清学的に奏効した.また,胃瘻造設により,誤嚥性肺炎やカテーテル感染を起こすことなく,腸管機能も温存できた.長期の嚥下障害が予想される症例では胃瘻造設を治療選択肢として検討すべきである.

サルコイドーシスを合併した抗TIF1-γ抗体陽性皮膚筋炎の1例

著者: 中村紗和子 ,   松田杏奈 ,   西岡和恵 ,   下村裕

ページ範囲:P.593 - P.597

要約 75歳,女性.2か月前から出現した顔面の紅斑を主訴に近医を受診し,精査を目的に当科を紹介され受診した.初診時,顔面の浮腫性紅斑,関節伸側の角化性紅斑,爪上皮の延長と点状出血,前胸部や上背部の紅斑などを認めたが,明らかな筋症状はなかった.項部の紅斑部からの皮膚生検組織では表皮基底層の変性像と真皮上層のムチン沈着を認め,採血で抗TIF1-γ抗体が陽性だったことより皮膚筋炎と診断した.その後詳細な全身検索を行ったが,内臓悪性腫瘍および間質性肺炎は同定されなかった.造影CT検査で肺門・縦郭リンパ節の腫大を認め,血清ACE,リゾチームとsIL-2Rが高値だった.さらに肺門リンパ節からの生検で類上皮細胞肉芽腫を認めたため,サルコイドーシスと診断した.抗TIF1-γ抗体陽性皮膚筋炎においては,サルコイドーシスを合併している可能性も考慮し全身検索を行う必要があることが示唆された.

アダパレン外用が奏効したFavre-Racouchot症候群の1例

著者: 坊地実 ,   佐藤崇興 ,   甲斐宜貴

ページ範囲:P.599 - P.603

要約 65歳,女性.初診の2年前から両側頰部の黒色皮疹が生じ多発した.初診の1か月前に近医を受診し,当科を紹介され受診した.両側のこめかみ部から頰部にかけて毛孔一致性の黒色面皰様丘疹が多発,集簇しており,皮膚表面は凹凸不整で,周囲には細かい皺襞が刻まれていた.生活歴として,20年間新聞販売店に勤務し,1日20本,30年間の喫煙歴があった.これらの経過と臨床所見より,Favre-Racouchot症候群と診断した.日光曝露や老化によるエストロゲン減少,長期の喫煙による弾性線維の変性や皮膚老化が成因と考えられた.治療は紫外線防御とアダパレン外用を行った.アダパレンの外用を開始し,治療開始9週後には黒色面皰が著明に減少し,副作用なく治療継続できた.アダパレンの毛包漏斗部における角化異常の改善効果が治療効果につながっていると考えられた.アダパレンはFavre-Racouchot症候群に対して有効な外用治療の1つであると言える.

MRIで液面形成(fluid-fluid level)を認めた大型のsolid-cystic hidradenomaの1例

著者: 堀内あゆみ ,   長谷川道子 ,   齋藤龍一 ,   田村敦志

ページ範囲:P.605 - P.610

要約 48歳,男性.右上背部に表面の一部に淡紫紅色斑を伴う40×30mmの皮下結節あり.MRI検査で真皮から皮下にかけて囊腫状病変があり,T2強調画像で上部が下部に対して高信号を呈する液面形成(fluid-fluid level)を認めた.摘出標本の組織像では大型の囊腫構造があり,囊腫壁の一部には充実性腫瘍巣が存在した.囊腫壁を構成する細胞は小型のporoid cellと大型のcuticular cellが主体で,充実性腫瘍巣では一部にclear cellの増殖もみられた.また,囊腫内腔には多数の赤血球が観察された.皮膚腫瘍の画像検査で液面形成が記載された報告は稀である.国内外報告例11例を集計したところ,液面形成のみられた皮膚・皮下腫瘍の半数近くはsolid-cystic hidradenomaであった.液面形成の所見は臨床像に特徴のない皮下腫瘍の術前診断に大いに役立つ画像所見と考えた.

多発性成人型黄色肉芽腫の1例

著者: ,   伊藤靖敏 ,   村瀬千晶 ,   後藤康文 ,   森重彰

ページ範囲:P.611 - P.615

要約 35歳,家族歴,既往歴のない男性.初診2か月前に右鼠径部の小豆大の赤黄色の丘疹を自覚した.自覚症状はなかったが増大傾向と両側腋窩,左側の鼠径部にも同様の丘疹が出現したため受診した.初診時1〜8mm大の多発する赤黄色の丘疹が腋窩,鼠径部に散在し,病理組織所見でTouton細胞,リンパ球の浸潤を認め,CD68,第XIII因子陽性となり多発性成人型黄色肉芽腫(adult xanthogranuloma:AXG)と診断した.他臓器への浸潤は認めなかったが病変は増加傾向であったため,経過観察となった.自験例を含め国内外からの報告された29例をまとめたところ,経過観察のみで自然消退する症例から血液疾患を合併する症例まで,多様な臨床経過をたどりうることが明らかとなった.多発性AXGでは長期的なフォローが必要であると考えた.

舌腫瘍が疑われた再感染第2期梅毒の1例

著者: 磯貝理恵子 ,   山田秀和 ,   若狭朋子 ,   岩本展子 ,   長田哲次

ページ範囲:P.617 - P.621

要約 35歳,女性,職業commercial sex worker.初診の9か月前に治癒が確認された梅毒の感染歴がある.初診の3か月前に徐々に増大する舌の腫瘤に気づき,当院口腔外科を受診した.舌中央部に不規則な弾性硬の結節があり,舌腫瘍を疑い生検を行った.組織で表皮直下に形質細胞の著しい集簇を認め,梅毒が疑われたため,精査・治療目的で皮膚科に紹介された.血清反応検査はRPR 64倍,TPHA 81,920倍,免疫染色で表皮細胞間にらせん状の菌体を多数認めた.両手掌の丘疹性紅斑を伴っており,再感染第2期梅毒と診断した.肝胆道系酵素の上昇があり,梅毒性肝障害を伴っていた.自覚症状のない,舌に孤立性結節として生じた第2期梅毒の舌病変の報告は比較的稀である.近年,口腔粘膜疹が初発症状となる梅毒症例が増えており,皮膚科医としても注意が必要である.駆梅療法を受けている場合は非典型的な臨床像・検査結果を呈するため,患者の職業,病歴聴取も重要である.

Aspergillus tubingensisによる皮膚アスペルギルス症の1例

著者: 澤田利恵 ,   城野剛充 ,   栗山春香 ,   牧野公治 ,   亀井克彦

ページ範囲:P.622 - P.626

要約 82歳,男性.2015年12月に右第3指に棘が刺さり,近医で切開,異物除去と後に縫合術を受けた.2016年2月頃右前腕にびらんが出現し,同部位に結節が多発してきたため当科を受診した.初診時,右前腕に3か所の皮膚結節があった.結節を生検したところ,真皮内に好中球,形質細胞,多核巨細胞を含む膿瘍がみられた.組織培養の結果,菌の形態はAspergillus nigerに合致したが,遺伝子解析の結果,A. nigerの関連種であるA. tubingensisと判明した.画像検査上,他臓器にアスペルギルス症を示唆する所見はなく,A. tubingensisによる皮膚アスペルギルス症と診断した.イトラコナゾール200mg/日の3か月間内服で治癒した.真菌の遺伝子検査が発達し,「関連種(隠蔽種)」と呼ばれる,形態学的に同一視されてきた別菌種の存在が明らかになった.関連種によっては薬剤感受性が異なり,早期鑑別が適切な抗真菌薬治療に役立つ可能性がある.真菌の分子生物学的検査に関心を持って症例を蓄積・検討していくことは臨床的に有益だと考える.

Central centrifugal cicatricial alopeciaと診断した黒人女性の1例—人種差を考慮したトリコスコピー実施の際の注意点を中心に

著者: 根本千絢 ,   木下美咲 ,   福山雅大 ,   大山学

ページ範囲:P.627 - P.631

要約 29歳,セネガル出身の黒人女性.初診4年前より頭頂部の脱毛斑を自覚した.初診時,頭頂部に直径8cmの比較的境界明瞭な脱毛斑を認めた.ジェルを用いずに施行したドライトリコスコピーでは全体像が不明瞭で詳細な観察が困難だった.脱毛部から行った皮膚生検では毛包周囲の線維化と炎症細胞浸潤,内毛根鞘のpremature desquamationを認めcentral centrifugal cicatricial alopeciaと診断した.ステロイド局所注射を開始し,症状に若干の改善を認めた.ドライトリコスコピーで特徴的な所見を観察できなかった理由として,生来の頭皮色の黒さに加え,頭皮の過量の油分がレンズに付着し評価の妨げとなったと推測された.今後,さまざまな人種の患者の診療の際にはヘアスタイルや頭髪の手入れの仕方など,患者特有の背景を考慮した診察を心掛ける必要があると考えた.

マイオピニオン

流れ者として

著者: 渡辺玲

ページ範囲:P.560 - P.561

 私は今まで都府県の異なる3か所の大学病院で皮膚科診療を経験してきました.1か所でじっくり研鑽を積むことはとても大切なことですが,最近,この流れ者生活も私にとって意外とよかったかもしれない,と感じはじめています.
 どこでも行われる診療は本質的には同じですが,細かな点でローカルルールがたくさんあります.皮膚生検一つとっても,マーキングの仕方,消毒薬の種類,縫合糸の種類,圧迫止血の程度,術後の処置方法,抗生剤内服の有無・期間,組織診断の際の染色方法,など,ゴールは同じでもその過程は多様です.患者さんあるいは若い先生方から質問をもらい,「あれ? どうして今までこのやり方が正しいと思っていたんだろう?」と疑問を抱いて初めて,私がしばしば習慣に疑問を抱かずに鵜呑みにしてきたことに気づきました.選択肢や比較対象がないと,これこそ唯一正しい,と信じ込みやすく,複数の施設を経験することで,そういう思い込みを少しずつ是正できるような気がします.

連載 Clinical Exercise・167

考えられる疾患は何か?

著者: 佐藤英嗣

ページ範囲:P.557 - P.558

症例
患 者:48歳,男性.
主 訴:顔面,両手の自覚症状のない皮疹.
既往歴:特記すべき事項なし.
現病歴:初診の5か月前に頭部,顔面や両手に紅色丘疹が多数出現し,朝の手のこわばり,手指,膝の関節痛も伴うようになってきた.
現 症:顔面や両手指に直径2〜10mm大の,弾性硬,ドーム状に隆起した紅色の丘疹や結節が散在ないしは癒合していた(図1a,b).爪囲にはサンゴビーズ様(coral bead sign)と形容される紅色丘疹が配列していた(図1c).

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目次

ページ範囲:P.553 - P.553

欧文目次

ページ範囲:P.555 - P.555

文献紹介

ページ範囲:P.603 - P.603

次号予告

ページ範囲:P.635 - P.635

あとがき

著者: 阿部理一郎

ページ範囲:P.636 - P.636

 医療の場での働き方改革は,同時に女性医師問題をさらに浮き彫りにしています.いまだ女性(医師)に対するステレオタイプが残り,女性医師自身が諦めの気持ちとなり,結果的に活躍の場を狭めてしまっています.これは多くの環境(個人,家庭,職場,社会)のそれぞれの問題が絡み合っていますが,逆に何か1つでも改善すれば,今より必ず良くなります.それが成功体験として次につながります.焦らず1つずつ取り組めば,ドミノ倒しのように女性医師の活躍できる社会になっていくはずです.2つ,当教室の取り組みを書きます.
 ・男性育休:女性しか子供を産めませんが,女性しか子供を育てられないわけではありません.当科では原則,男性も育休を取ってもらっています.当初教室の中からは,最短の1か月の育休に懐疑的な意見が多数でした.それに対する答えが,ある新聞記事にあったので引用します.「1カ月程度の育休で何が変わるのかと思うかもしれない.しかし,カナダのケベック州の育休改革を分析した研究によると,男性が5週間ほど育休を取ると,3年後の家事時間と子育て時間がいずれも2割程度増えた.育休取得をきっかけとして家族と仕事に対する価値観が変化し,そのライフスタイルの変化はその後も長く続いた.たかが1カ月.だが男性の育休は,人生を変える1カ月になりうるのだ.」(日本経済新聞朝刊2021年5月17日付 山口慎太郎)

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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