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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科76巻1号

2022年01月発行

雑誌目次

症例報告

皮下深部解離性血腫の3例

著者: 小倉康晶 ,   森本広樹 ,   鶴見由季 ,   大塚正樹 ,   島内隆寿 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.13 - P.18

要約 症例1:60歳,女性,症例2:61歳,女性,症例3:67歳,女性.3例とも軽微な外傷を契機に広範な血腫を生じ,皮下深部解離性血腫(deep dissecting hematoma:DDH)と診断した.症例3は早急に治療介入し得たが,他の2例は他科にて一定期間フォローされていたため当科での治療介入が遅れた.2例はDDHのリスク因子である抗凝固薬やステロイドを内服していた.治療介入が遅れた症例1に関しては,陰圧閉鎖療法,分層植皮術を行い,治癒まで長期間を要した.対して早急に治療介入した例では皮膚壊死を認めず,その後の経過も良好であった.DDHは皮膚の脆弱性と皮膚機能不全を示すdermatoporosisの最重症型であり,早急に適切な治療を行うことが予後に直結する.自験3例の経験から,DDHに対しては早期対応が必要であり,外科的処置が重要であることを改めて認識した.皮膚科領域での救急疾患の1つであることを,救急に携わる医師へ認知させることが必要と考えた.

初診時落葉状天疱瘡を考えた尋常性天疱瘡の1例

著者: 小林英資 ,   下田由莉江 ,   佐藤洋平 ,   早川順 ,   廣瀬美希 ,   大山学

ページ範囲:P.19 - P.24

要約 53歳,女性.2か月前から続く軀幹の皮疹を主訴に当科を紹介受診した.初診時,軀幹に約2cm大までの痂皮を付すびらん・紅斑が散在し臨床的には軽症の落葉状天疱瘡を考えたが,検査所見は尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris:PV)を示唆した.入院加療を勧めたが拒否され,通院が途絶えた.初診3年後,粘膜疹と全身のびらんが増悪し,他院を受診.ステロイド導入後も改善なく,当院へ転院.抗デスモグレイン(Dsg)1抗体優位の抗Dsg1,Dsg3抗体の上昇,病理組織学的および蛍光抗体直接法の所見から改めてPVと診断した.ステロイド,アザチオプリン治療開始するも,症状が遷延し,血漿交換と大量γグロブリン療法の追加にて,症状の改善が得られた.抗体プロファイルから病状の進行を予測し早期より積極的加療を勧めるべきであった.自験例は皮膚型PVから粘膜皮膚型PVへ移行し,治療介入が遅れたことにより難治となった可能性がある.

骨髄異形成症候群に対する同種造血幹細胞移植後に発症した腫瘍随伴性天疱瘡の1例

著者: 富田和貴 ,   道丹哲志 ,   田嶋瑞帆 ,   影山玲子 ,   永田泰之 ,   小野孝明 ,   藤山俊晴 ,   伊藤泰介 ,   古賀浩嗣 ,   石井文人 ,   戸倉新樹 ,   本田哲也

ページ範囲:P.25 - P.32

要約 47歳,男性.骨髄異形成症候群に対して同種造血幹細胞移植を受けた.その1か月後に急性移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)を発症した.移植3か月後に口腔内びらんに加え,全身の紅斑・水疱・膿疱・びらんと多彩な皮膚症状が出現した.病理組織や蛍光抗体法,免疫ブロット法の所見より腫瘍随伴性天疱瘡と診断した.プレドニゾロン120mgから治療開始し,免疫グロブリン大量静注療法を組み合わせて皮疹は消退した.造血系腫瘍に伴って腫瘍随伴性天疱瘡が出現することは知られているが,自験例では造血幹細胞移植により骨髄異形成症候群の病勢が収まりつつある中で腫瘍随伴性天疱瘡が出現した.自験例の経過は移植後に出現したGVHDも表皮細胞を傷害し,自己抗体の産生を助長し,腫瘍随伴性天疱瘡の発症に寄与した可能性を示唆した.移植も自己免疫性水疱症発症の直接要因になりうることを臨床家として銘記したい.

尋常性魚鱗癬を伴った連圏状粃糠疹の1例

著者: 大草健弘 ,   武井華子 ,   荻原麻里 ,   鈴木茉莉恵 ,   伊藤雄太 ,   大歳晋平 ,   中田土起丈

ページ範囲:P.33 - P.36

要約 15歳,女児.家族歴として,父親は幼少時より極度の乾燥肌であった.現病歴は,約10年前から背部に黒褐色斑が多発し,夏季には不明であった.初診前の冬季に皮疹が増悪したため当科を受診した.腰背部と下腹部に指頭大から小児頭大までの類円形で環状を呈する淡黒褐色斑が多発し,表面はちり綿皺様でわずかな鱗屑の付着を伴っていた.組織像は,過角化,密な毛孔性角化を認め,顆粒層は菲薄化していた.以上より連圏状粃糠疹と診断した.同症は,①悪性腫瘍などの全身性消耗性疾患に随伴して発症する症候性,②若年者に遺伝性に発症する遺伝性,③遺伝性素因,基礎疾患のいずれもない特発性に分けられるが,自験例は父親の皮疹は確認できなかったが,初発年齢が5歳であったことから遺伝性と考えた.両下腿では粃糠様鱗屑を伴う皮膚の乾燥が認められ,尋常性魚鱗癬を併発していた.軀幹の連圏状粃糠疹,下腿の尋常性魚鱗癬ともに今後も経過観察が必要と考えられる.

インフリキシマブ,メトトレキサート,ステロイド剤投与中にニューモシスチス肺炎を合併した膿疱性乾癬の1例

著者: 石部純一 ,   大場操 ,   白濱茂穂 ,   松井隆

ページ範囲:P.37 - P.42

要約 69歳,男性.前医処方のステロイド剤と上気道感染が誘因となり尋常性乾癬が膿疱化した.エトレチナートで治療開始したが,効果がなく紅皮症状態になった.TNF-α阻害薬であるインフリキシマブ,メトトレキサート(MTX),ステロイド剤を投与したところ症状の改善を得た.ペンタミジン吸入を行っていたものの,入院52日目にニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)を発症した.PCP終息後はST合剤を予防量で投与しつつ,インフリキシマブとMTXを再開した.インフリキシマブは生物学的製剤の中では初期に登場した薬剤であるが,膿疱性乾癬の治療においては現在も重要な薬剤である.一方でPCP発症報告の多い薬剤でもある.MTXやステロイド剤の併用により,さらにリスクが上がる可能性がある.

高齢者の巨大先天性色素細胞母斑に生じた悪性黒色腫の1例

著者: 鈴木花瑠 ,   片桐正博 ,   小川晋司 ,   並木剛 ,   三浦圭子 ,   横関博雄

ページ範囲:P.43 - P.50

要約 73歳,男性.生下時より左下腿に巨大黒褐色斑あり.20年前に黒褐色斑上に結節が生じ,初診6か月前より結節にびらんと出血を認め受診した.下腿の30×26cmの黒褐色斑内に3×2.5cmの脱色素斑を伴う淡褐色結節があり,全摘生検とセンチネルリンパ節生検を行った.病理は表皮から真皮中層にメラノーマ細胞が増殖し,真皮下層に母斑細胞を認めた.センチネルリンパ節生検は陰性でリンパ節転移,遠隔転移はなし.巨大先天性色素細胞母斑に生じた結節型黒色腫pT4bN0M0(Stage Ⅱc)と診断した.巨大先天性色素細胞母斑由来の悪性黒色腫は真皮の母斑細胞が悪性化し皮内結節を生じる特徴があり,自験例も合致した.巨大先天性色素細胞母斑に続発した悪性黒色腫の本邦報告例の発症年齢は,乳幼児期と壮年・老年の二峰性分布を示した.巨大先天性色素細胞母斑は定期観察と母斑に変化が生じた際の積極的な生検が推奨され,予防的切除も検討すべきである.

黒色調を呈し悪性黒色腫との鑑別を要したpigmented mammary Paget's diseaseの1例

著者: 内田秀昭 ,   田中隆光 ,   冲永昌悟 ,   鎌田昌洋 ,   大西誉光 ,   松本暁子 ,   神野浩光 ,   斉藤光次 ,   近藤福雄 ,   多田弥生

ページ範囲:P.51 - P.57

要約 54歳,女性.1年前に右乳輪に大豆大の黒色の皮疹が出現し徐々に拡大,濃淡不整となり乳頭は平坦化した.現症:右乳輪に1.5×1.2cmの不整形で濃淡のある黒色斑を認めた.ダーモスコピーではatypical pigment networkを認め,一部に青黒く太い分枝状の構造とregression様構造あり.病理組織は表皮内にPaget細胞が増殖し,メラノサイトが共棲していた.Paget細胞はCK-7陽性,S-100,HMB-45陰性であった.乳輪部を切除し,乳管内にもPaget細胞を認めた.術後ホルモン療法併用放射線治療を施行し寛解した.Pigmented mammary Paget's diseaseは悪性黒色腫と臨床およびダーモスコピー所見が酷似しており,両者の鑑別には生検および免疫染色が必要である.また自験例のような比較的早期からの乳頭の平坦化は両者の鑑別の一助になる可能性があると考えた.

顔面に有棘細胞癌と基底細胞癌が併発した1例

著者: 長岡麻美 ,   車谷紋乃 ,   樫村勉 ,   藤田英樹 ,   照井正

ページ範囲:P.59 - P.65

要約 76歳,男性.初診の8か月前に右こめかみ部に紅色の皮疹が出現し,次第に増大したため受診した.また,約40年前から左下眼瞼に黒褐色斑があったが放置していた.初診時,右こめかみ部に40×35×18mm大の広基有茎性で表面にびらんを伴う紅色腫瘤がみられた.左下眼瞼から頰部には45×30mmの萎縮性瘢痕様局面があり,辺縁と内部に散在性に灰黒色丘疹を伴っていた.病理組織学的には,右こめかみ部の腫瘤では,好酸性の胞体を有する核異型の目立つ多角形の細胞が角化を伴い増殖し,有棘細胞癌と診断した.左下眼瞼から頰部の局面部の灰黒色丘疹では,真皮内に基底細胞様細胞が胞巣を形成して増殖し,胞巣辺縁では柵状配列がみられ,基底細胞癌と診断した.全身検索で転移はなく,両病変を全切除し,術後再発はない.特に中高年以上で,既に皮膚癌の診断に至っている場合,さらなる悪性腫瘍の所見がないか露光部を中心に十分に観察すべきである.

右耳前部に生じた有茎性基底細胞癌の1例

著者: 加藤めぐみ ,   赤星美帆 ,   渡邊陽香 ,   中田侑宏 ,   鈴木大介

ページ範囲:P.67 - P.72

要約 84歳,男性.初診5年前から右耳前部に腫瘍を自覚,増大傾向あり当院受診した.初診時には7×6×3cm大の広基有茎性で弾性硬に触れる常色〜紅色調を呈する腫瘤であり,表面平滑で潰瘍形成はみられなかった.画像検査で血流の豊富な腫瘤であったため,腫瘍基部から切除した.病理組織学的に腫瘍細胞は胞巣状・網状・索状に増殖しており,これらの細胞は免疫組織化学にてBer-EP4がびまん性に陽性,EMAは陰性であったことからnodular typeとadenoid typeが混在した基底細胞癌(basal cell carcinoma:BCC)と診断した.有茎性BCCは比較的稀な臨床型であり,自験例でも視診の段階でBCCは考えておらず,病理組織学的所見から診断することができた.自験例が有茎性の巨大腫瘤という特異な臨床を呈した理由として,浅側頭動脈の前頭枝と連続する栄養血管が流入しており血流が豊富であったこと,圧迫・間擦などの外的刺激が関与したことを考えた.条件により,BCCが有茎性になりうることは念頭に置いておくべきである.

BCG(Bacillus Calmette-Guerin)膀胱内注入療法後に発症した上腹部皮膚結核の1例

著者: 角田朝子 ,   雪野祐莉子 ,   矢富良寛 ,   小田俊輔 ,   川北梨乃 ,   西山徹 ,   入佐薫 ,   吉田哲也

ページ範囲:P.73 - P.78

要約 82歳,男性.表在性膀胱癌に対して経尿道的膀胱腫瘍切除術後,Bacillus Calmette-Guerin(BCG)(イムノブラダー®)膀胱内注入療法を施行した.3か月後から上腹部に腫瘤が出現し,病理組織学的に類上皮肉芽腫を認め,組織培養でMycobacterium tuberculosis complexが検出された.培養された菌種は遺伝子検査によりイムノブラダー®のウシ型結核であるMycobacterium bovis BCGに一致することが判明し,BCG膀胱内注入療法により発症した上腹部皮膚結核と診断した.標準的結核治療に準じて治療し創閉鎖を得た.今までに報告されたBCG膀胱内注入療法による皮膚結核は亀頭や陰茎に好発し,その多くは薬剤が皮膚に付着し直接浸潤した可能性を示唆している.自験例は上腹部と稀な部位であったが,患者が尿失禁状態であり,皮膚以外の臓器に病巣を認めなかったことから,手や洋服を介して皮膚へ直接感染した可能性を推測する.BCG膀胱内注入療法後に難治性の皮膚病変を認めた場合には皮膚結核も念頭に精査する必要がある.

ミノサイクリンの内服と局所温熱療法で治癒した皮膚Mycobacterium marinum感染症の1例

著者: 山口礼門 ,   多賀史晃 ,   久保田佳子 ,   安澤数史 ,   八田順子 ,   望月隆

ページ範囲:P.79 - P.83

要約 74歳,男性.熱帯魚や爬虫類を飼育していた.初診の4か月前に右手背に小結節が出現し,次第に右前腕へ拡大した.右前腕の小結節からの皮膚生検組織では真皮に膿瘍と多核巨細胞を含む類上皮細胞性肉芽腫がみられた.膿汁および生検組織の抗酸菌培養では光照射により黄色に発色する遅発育性のコロニーが観察され,分離菌はMALDI-TOF MSによりMycobacterium marinumと判定された.ミノサイクリン200mg/日の内服と使い捨てカイロによる局所温熱療法を開始したところ結節は速やかに縮小し,8週間で治癒した.本症に対しては局所温熱療法が有効であることが知られているが,本邦での過去10年間の報告例38例のうち,本治療が施行された例はわずかに10例(26.3%)と実施率は低かった.局所温熱療法は本症に対する抗菌薬の投与期間を短縮し,かつ安全に行える治療法であるため,より積極的な併用が望まれる.

左前腕に発症したFonsecaea monophoraによる黒色分芽菌症の1例

著者: 手塚純子 ,   浦田陽一郎 ,   楠葉展大

ページ範囲:P.85 - P.90

要約 83歳,女性.左前腕の2cm大の結節を主訴に当科を受診した.病理組織検査にて真皮全層性の肉芽腫と肉芽腫内のmuriform cellを確認し,黒色分芽菌症と診断した.原因菌は菌体の分子生物学的解析によりFonsecaea monophoraと同定した.抗真菌薬の内服療法,冷凍凝固療法,温熱療法を行い,病変縮小後に切除術を施行した.術後3か月時点で臨床的に再発はない.黒色分芽菌症は鱗屑のKOH直接鏡検法で菌体を容易に確認することができるため,積極的にKOH直接鏡検を行い,皮膚生検により早期に診断することが重要である.切除可能な病変では外科的治療が第一選択となるが,切除範囲が広い場合,手術痕が整容面で問題となることがある.術前に抗真菌薬を投与することで,手術による侵襲,手術痕を軽減できると考えた.

マイオピニオン

細胞医薬の時代を目指して—恩師の思いとともに

著者: 福島聡

ページ範囲:P.10 - P.11

1. はじめに
 私の専門はメラノーマ,そしてがん免疫療法です.専門とする大きな転機となったのは,大学院生として熊本大学免疫識別学教室で過ごした4年間です.『マイオピニオン』として,私ががん免疫療法,特に細胞医薬の研究に携わることになった頃の話をしてみたいと思います.なぜ臨床医として細胞医薬の基礎研究を今も続けているのか? そもそも研究なんて臨床医がする必要があるのか? それに対する答えとして,私の場合は研究のお師匠さん達から受け取った多くの言葉や思いなどがあります.基礎研究離れが叫ばれる昨今,これを読んでくださった若い皮膚科医が一人でも,研究というものに興味を持ってくれれば嬉しいです.

連載 Clinical Exercise・173

Q考えられる疾患は何か?

著者: 千田聡子

ページ範囲:P.7 - P.8

症例
 患 者:78歳,男性
 主 訴:体幹・四肢の紅斑とびらん
 既往歴:高血圧症,糖尿病,アルコール依存症(50歳台から).脳挫傷,脳梗塞,認知症(72歳から).
 家族歴:妹2人(兄弟6人),娘2人(子供2人)にも夏期に増悪する間擦疹がある.
 現 症:40年来毎年夏期に増悪する臀裂部,陰股部の紅斑やびらんを自覚し,内科でステロイド外用を処方されていた.某年7月頃より体幹部にも同様の皮疹が拡大し,近医皮膚科で加療を試みられたが難治であったため当科を紹介され受診した(図1a,b).

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目次

ページ範囲:P.3 - P.3

欧文目次

ページ範囲:P.5 - P.5

文献紹介

ページ範囲:P.42 - P.42

次号予告

ページ範囲:P.91 - P.91

あとがき

著者: 本田哲也

ページ範囲:P.94 - P.94

 2022年となりました.本年も皆さま方にとって良い年となりますことをお祈り申し上げます.
 さてこの原稿を書いている2021年暮れ,プロ野球に新庄監督が誕生しました.既存概念にとらわれない独自の言動・指導スタイルで,すでにいろいろと話題を振りまいています.なんだかわかりませんが,何か面白いことが起こるのではと期待が膨らみます.そんな新庄監督のユニーク指導の1つとして,インタビューでの「そうですね」というフレーズを禁止にした,とのニュースを見かけました.確かにプロ野球選手に限らず,ほとんどのスポーツ選手の第一声がそれであることは,私も密かに気になっておりました.それにちなんで,もう1つ私が禁止あるいは極力控えたほうが良いのではと思うフレーズは「(そう)かもしれないですね」です.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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