icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科76巻12号

2022年11月発行

雑誌目次

症例報告

天日干しされた靴中に含まれた2-ethylhexyl-4-methoxycinnamateおよびクロムが主なアレルゲンと診断した接触皮膚炎の1例

著者: 原田朋佳 ,   梅村薫 ,   横山大輔 ,   竹内千尋 ,   足立厚子 ,   沼田充 ,   佐々木和実

ページ範囲:P.955 - P.962

要約 78歳,女性.定期的に天日干しされた靴を,夏季の晴天の日に1日中着用したところ,翌日に両足部に接触皮膚炎を生じた.靴の成分分析とパッチテスト(patch test:PT)を施行したところ,紫外線吸収剤の2-ethylhexyl-4-methoxycinnamate光照射体で光PT陽性,香料のalpha-hexyl cinnamaldehydeでPT,光PT陽性,光安定剤のbis(2,2,6,6-tetramethy-4-piperidyl)sebacateで光PT陽性,クロムでPT陽性であった.前2者は紫外線照射によりcis-trans変換を起こす物質であるため,天日干しに伴う紫外線照射により抗原性を獲得したと推測した.日用品に含まれる化学物質が紫外線により変化し,光アレルギー性接触皮膚炎を生じた症例は自験例が2例目である.紫外線吸収剤や光安定剤は劣化予防の観点から多くの製品に含まれているため,注意が必要である.

肉芽腫性乳腺炎に続発した結節性紅斑の1例

著者: 朱樹李 ,   坂本正明 ,   田頭良介 ,   川原祐 ,   稲福和宏

ページ範囲:P.963 - P.968

要約 32歳,女性.左乳房内下の疼痛,硬結を自覚し,近医乳腺クリニックにて肉芽腫性乳腺炎と診断され,経過観察を行っていた.1か月後に発熱,圧痛を伴う紅斑が下肢に出現し,当科初診となった.皮膚生検ではseptal panniculitisの像であり,前医での経過も併せ肉芽腫性乳腺炎に続発した結節性紅斑の診断となった.プレドニゾロン(PSL)30mg/日の内服を開始し結節性紅斑は速やかに消退したが,乳房症状が増悪したため第15病日にPSL 60mg/日に増量し,3か月で内服終了となった.さらに5か月後のエコー検査では,炎症後変化をわずかに認めるのみであった.肉芽腫性乳腺炎は,出産後の若年女性に好発する原因不明の慢性炎症疾患であり,二次的免疫反応として結節性紅斑を併発するとの報告がある.若年女性の結節性紅斑を診断した際は,背景疾患の1つとして稀ではあるものの,肉芽腫性乳腺炎を念頭に置く必要がある.

トリクロロ酢酸が奏効したドーナツ疣贅の1例

著者: 山崎圭介 ,   島内隆寿 ,   藤山俊晴 ,   伊藤泰介 ,   本田哲也

ページ範囲:P.969 - P.974

要約 32歳,男性.左手掌の尋常性疣贅に対し液体窒素凍結療法を施行した.治療翌日から2日後に,疣贅周囲に血疱を形成したため,血疱内容物の穿刺吸引を施行した.10日後には同部位は上皮化し,中央の疣贅はいったん消退した.しかし,約2か月後には血疱形成部位にドーナツ疣贅として再発した.マキサカルシトール軟膏外用を2週間実施するも難治であったため,ヨクイニン内服と70%トリクロロ酢酸(TCA)の週1回外用を開始した.治療開始1週間後より疣贅周囲に僅かな落屑を伴う紅斑を認め,7週間後には疣贅は完全に消退した.TCA外用は,本邦における尋常性疣贅診療ガイドライン上推奨度C1に設定されているが,凍結療法後のドーナツ疣贅に対する治療選択肢の1つになりうると考えた.

自己汗を用いた好塩基球活性化試験が診断に寄与した汗アレルギー型コリン性蕁麻疹の1例

著者: 山崎圭介 ,   福地健祐 ,   柚木茉里那 ,   栗原和生 ,   島内隆寿 ,   伊藤泰介 ,   本田哲也

ページ範囲:P.975 - P.980

要約 26歳,女性.小児期アトピー性皮膚炎の既往歴あり.初診1か月前に清掃作業従事中,両上肢の膨疹と呼吸苦,一過性の意識消失を生じた.近医皮膚科を受診,コリン性蕁麻疹を疑われ当科紹介受診.コリン性蕁麻疹の診断確定と病型分類のため,アセチルコリン,自己汗,自己血清による皮内試験を計画した.両上肢に温熱負荷をかけ自己汗採取を開始したところ,四肢体幹に点状膨疹の出現と血圧低下,意識消失がみられた.コリン性蕁麻疹に伴うアナフィラキシーショックと診断,各種皮内試験は中止とし,代わりに自己汗を用いた好塩基球活性化試験を行った.自己汗は患者好塩基球の活性化を誘導したが,健常人好塩基球の活性化は誘導しなかった.以上の結果から,自験例を汗アレルギー型コリン性蕁麻疹と診断した.皮内試験が困難な症例では,自己汗を用いた好塩基球活性化試験がコリン性蕁麻疹の診断や病型分類に有用である可能性が示唆された.

DPP-4阻害薬内服中止にて軽快後に再増悪した難治性抗BP180NC16a抗体陽性水疱性類天疱瘡の1例

著者: 入來景悟 ,   丹生谷凛太郎 ,   知念克也 ,   新川宏樹 ,   山上淳 ,   木曽真弘 ,   横内麻里子

ページ範囲:P.981 - P.986

要約 77歳,男性.初診3年前に糖尿病に対しDPP-4阻害薬内服を開始した.初診2か月前に全身の瘙痒と紅斑が出現し,徐々に水疱も出現した.前医でDPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)を疑われ,血清抗BP180NC16a抗体陽性だった.初診2週前にDPP-4阻害薬投与を中止した.初診時,紅斑は褐色化傾向で瘙痒も改善しており,ステロイド外用で経過観察した.初診2週後に皮疹は改善するも,初診4週後に増悪した.病理組織学的に表皮基底層直下の裂隙を認め,直接蛍光抗体法でIgGが基底層に線状に沈着した.プレドニゾロン60mg/日投与で皮疹は改善せず,ステロイドパルス療法等の追加治療を要した.DPP-4阻害薬内服中止後の免疫再構築の病勢への関与等が推察され,抗BP180NC16a抗体陽性BPがDPP-4阻害薬中止後に改善しても,臨床的かつ血清学的に綿密な経過観察が肝要であると考えられた.

外科的治療が奏効した多発性pseudocyst of the scalpの1例

著者: 林航 ,   下田由莉江 ,   早川怜那 ,   佐藤洋平 ,   大山学

ページ範囲:P.987 - P.992

要約 21歳,男性.5か月前より出現した頭部の皮下腫瘤を主訴に受診した.臨床像・MRI画像所見よりpseudocyst of the scalp(PCS)と診断した.約1か月間に病変が増大・融合し疼痛を伴うようになったため,切開の上内容掻爬・ドレナージした.術中,脂肪様組織を含む血性内容液の排出をみた.頭頂部腫瘤の病理組織像では,皮下組織に好中球を混じる炎症性細胞浸潤と肉芽組織,血栓を認めた.術前の予想に反し,瘢痕を残さず治癒した.自験例はPCS既報告例と比べ,病変が広範囲であり,頭部に多発性皮下腫瘤を形成する膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎との差異について考察した.両者は,病変の数と,瘢痕性脱毛,瘻孔,毛包破壊像の有無が鑑別点となる.これらより自験例はPCSと考えた.血栓形成が急速な増大に関与した可能性を考えた.多発・増大傾向を認めるPCSには積極的な外科的治療が有用であることが示唆された.

Benign cephalic histiocytosisの1例

著者: 當麻秀信 ,   小林麻友子 ,   加藤寿香 ,   菊池瞳 ,   石井健 ,   石河晃

ページ範囲:P.993 - P.999

要約 1歳3か月,男児.出生直後から額部に黄褐色斑と丘疹が出現し,9か月時頃から右耳前部,右頰部にも新生するようになった.病理組織学的には,表皮直下に組織球様細胞の密な浸潤がみられ,リンパ球を混じていた.泡沫細胞やTouton型巨細胞はみられなかった.浸潤細胞は免疫染色にてCD68に陽性で,CD1aとS100蛋白は陰性だった.以上の所見からbenign cephalic histiocytosisと診断した.現在,初診から4か月後経過しており皮疹は軽度増加している.benign cephalic histiocytosisは本邦では6例の報告にとどまる稀な疾患で,Langerhans cell histiocytosis,juvenile xanthogranulomaおよびgeneralized eruptive histiocytomaとの鑑別および独立性が問題となっている.臨床的には皮疹は自然消退し,皮膚症状以外の病変は伴わないのが特徴である.しかし,稀にjuvenile xanthogranulomaに移行する例も報告されており,診断後も皮疹の特徴に変化がないか注意深く観察しながら経過を追うことが重要である.

表皮囊腫を疑った顔面の有棘細胞癌の1例

著者: 前田学 ,   松山かなこ

ページ範囲:P.1001 - P.1005

要約 80歳,女性,半年前より右頰部に拇指頭大の皮下結節が出現した.皮下結節のエコー検査は深さ4mmの部位に23.4×9.8×8.5mmの内部エコー低,不均一,辺縁整,後方エコー不変,血流なしの所見を認めたため,表皮囊腫と考え,へそ抜き法で摘出を試みたが,周囲との癒着が強固で不可能であった.病理組織検査で有棘細胞癌と判明,CT像から,原発は神経と耳下腺浸潤し,耳下腺内リンパ節浸潤を伴うステージ4であった.患者の希望で放射線治療を開始し,66(Gy)/33(fr)で終了した.1か月後にドセタキセル80mgを3回追加したが,効果なく,緩和病院に転院となった.自験例は初診時,皮下結節を臨床所見から表皮囊腫とみなしたが,病理組織で有棘細胞癌であることが判明した.臨床的に表皮囊腫とみなしても病理検査は必要不可欠と考えられる.

限界線照射部位に生じた多発基底細胞癌と有棘細胞癌—症例報告と限界線誘発皮膚癌の国内外報告60例の検討

著者: 長谷川道子 ,   日高太陽 ,   田村敦志

ページ範囲:P.1007 - P.1014

要約 65歳,男性.ステロイド外用に抵抗性の陰囊皮疹を主訴に当科を受診した.初診時,陰囊の淡紅褐色浸潤局面のほかに両側鼠径部に淡褐色から黒褐色の浸潤局面ないし結節が計4個みられた.問診で約40年前に陰股部の瘙痒性皮疹に対し限界線照射歴があった.生検組織像から陰囊は放射線角化症,両側鼠径部はいずれも基底細胞癌(basal cell carcinoma:BCC)と診断し,すべて切除した.陰囊の皮疹は切除標本の病理組織像より有棘細胞癌(squamous cell carcinoma:SCC)と確定診断した.限界線療法は50年以上前には白癬,乾癬,湿疹などの良性皮膚疾患に対し広く適用されていたが,現在では行われない.しかし,限界線誘発癌は現在でも稀にみられることがある.限界線誘発皮膚癌の国内外報告60例を検討したところ,発癌までの潜伏期間はSCCで平均15.7年,BCCで53.2年とBCCでより長い傾向があった.一定領域に多発する皮膚悪性腫瘍をみた際には限界線治療歴を含めた注意深い問診が必要である.

臨床的に悪性黒色腫と鑑別を要した手指爪部Bowen病の1例

著者: 加藤寿香 ,   志水陽介 ,   森須祥子 ,   三海瞳 ,   今井俊輔 ,   吉田憲司 ,   石河晃

ページ範囲:P.1015 - P.1019

要約 39歳,男性.10年前より右中指の爪甲色素線条を自覚し,3か月前より幅が拡大したため当科を受診した.初診時,右中指爪甲に色調の濃淡を伴い最大幅4mmの基部が太い黒褐色色素線条がみられ,悪性黒色腫を疑い生検を施行した.病理組織学的に爪母上皮内に異型ケラチノサイトや核分裂像がみられBowen病と診断した.表皮内にはメラニン顆粒の増加を伴っていた.異型メラノサイトはみられず,S100蛋白・Melan-Aは異型細胞では陰性のため悪性黒色腫を否定した.爪部Bowen病では黒色調を呈するとともに,何らかの爪甲変形・破壊を伴うことが多いが,色素線条のみ呈する症例は稀である.自験例では縦走する白色領域があり,Bowen病に伴う所見である可能性があると考えた.爪甲色素線条をみた場合に悪性黒色腫のみならずBowen病も鑑別に挙げ,詳細に観察し,適切に組織診断を行うことが重要である.

臨床統計

本邦におけるCOVID-19関連皮膚症状についての検討

著者: 石井貴之 ,   伏田奈津美 ,   藤井皓 ,   八田尚人

ページ範囲:P.1021 - P.1026

要約 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連皮膚症状についてはさまざまな報告がなされているが,日本をはじめアジア圏からの報告は限られている.今回われわれは866例の日本人COVID-19患者のうち9例(1%)にCOVID-19関連皮膚症状を経験した.そのうち2例は無症状感染者で6例に肺炎が確認された.皮疹型は蕁麻疹型5例・斑状丘疹型4例・網状皮斑型3例・水疱型1例で,4例で複数の皮疹型が重複していた.3例では肺炎の増悪に伴って皮疹の出現を認め,同時に末梢血異型リンパ球の上昇を認めた.本邦におけるCOVID-19関連皮膚症状の出現率は1%程度と多くはないが,今後治療薬の増加に伴い,薬疹との鑑別が重要となることが予想され,皮膚科医は皮疹の特徴について熟知しておく必要がある.

治療

高齢者の全異栄養性爪真菌症患者におけるエフィナコナゾール爪外用液の使用経験

著者: 東江里夏 ,   東美智子 ,   江原大輔 ,   廣瀬寮二

ページ範囲:P.1027 - P.1032

要約 エフィナコナゾールは軽度〜中等症の爪白癬には有効とされているが重症例や罹病期間の長い症例に関しての報告は少ない.われわれはエフィナコナゾール爪外用療法を12〜36か月使用した全異栄養性爪真菌症(total dystrophic onychomycosis:TDO)患者10例について臨床効果を検討した.患者の年齢は平均79.1歳,罹病期間は平均15.9年,治療期間は平均26か月であった.使用後感染面積は平均100%から18%に改善したのに伴い,爪真菌症の複合的臨床評価基準(scoring clinical index for onychomycosis:SCIO)の重症度スコアも平均30から15に改善した.今回の検討の結果,エフィナコナゾールは,爪の伸長が遅い後期高齢者の最重症型爪白癬においては,罹病期間の長い場合でも約26か月外用を行うと有効であり,重症度の改善に伴い治癒も達成可能と考えた.

マイオピニオン

低アレルゲン小麦「しまね夢こむぎ」の実用化で小麦アレルギーを予防!

著者: 森田栄伸

ページ範囲:P.952 - P.953

1. 小児期の体験から
 私は1957年に広島県北部山あいの無医地区に生まれました.病気の際には山道を2km歩いてJR三江線(2018年に廃止)に乗り,隣町の開業医さんを受診します.診察が終わるとまたJRに乗り山道を2km歩いて帰ります.この開業医さんは,受診できない患者のために月1回地区の保育所に開設される臨時診療所に,同様の道を辿って往診に来てくれていました.私もスズメバチに足を刺された小学生のとき,たまたま往診日で診察していただいたことがありました.こんな医療環境で,幼少児期から「医者いうもんは偉いもんじゃ」との両親の言葉を聞いて育ち,自然と医師を志すようになっていました.
 両親の勧めもあり広島大学医学部に入学,将来の目標は地域医療を担う家庭医でした.ところが,3年次の生化学特別講義で米国Paul Berg博士(1980年ノーベル生化学賞受賞)の遺伝子改変技術の講義を聞き,地域医療への志は何処へやら,すっかり研究志向になってしまったのです.1982年医学部卒業後,熱心にアレルギーの研究を行っていた皮膚科学教室に入局,6月に赴任された山本昇壮教授のご指導で,皮膚科研修の傍ら「ヒスタミン分解酵素の皮膚局在」のテーマで研究をさせていただくことになりました.

連載 Clinical Exercise・183

Q考えられる疾患は何か?

著者: 石河晃

ページ範囲:P.949 - P.950

症例
患 者:41歳,男性
主 訴:右こめかみの皮疹
家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:15年程前に右こめかみに皮疹が出現したが自覚症状なく放置していた.7年程前から疣状に隆起し,徐々に拡大傾向を認めたため,当院を受診した.
現 症:右こめかみ部に13×10mm大の,辺縁が軽度隆起し中央がやや陥凹している局面を認めた.辺縁の隆起部には正常皮膚色から黄白色調の丘疹が環状に配列していた(図1a,b).
ダーモスコピー所見:色素性構造なし.乳白色の領域に不規則なコンマ状・樹枝状の血管,およびmillia-like cystのような白色調の顆粒状・小球形状の構造物を多数認めた(図2a,b).

--------------------

目次

ページ範囲:P.945 - P.945

欧文目次

ページ範囲:P.947 - P.947

文献紹介

ページ範囲:P.986 - P.986

文献紹介

ページ範囲:P.999 - P.999

書評

ページ範囲:P.1020 - P.1020

次号予告

ページ範囲:P.1033 - P.1033

あとがき

著者: 石河晃

ページ範囲:P.1036 - P.1036

 最近,デルマドロームについて一般誌のインタビューを受ける機会があり,事前にいただいた質問の中に「デルマドロームの概念はいつ頃からあるのでしょうか」というものがありました.そこでまず,いくつか欧米の教科書を紐解いてみましたが,意外にも索引にdermadromeの語は見当たりませんでした.PubMedでdermadromeを検索してみましたところ20件の文献がヒットしましたが,そのうち14件が日本人著者の論文で,日本以外の論文は1960年代に書かれたものであることに驚きました.日本語の文献を調べてみると北村啓二郎先生の総説がみつかり,それによるとデルマドロームという用語を初めて学界に導入したのはWienerで,1959年に提唱されたようです(The Medical Clinics of North America 43:689-704, 1959).「内臓病変の存在を示す皮膚の症候」がデルマドロームの意味するところです.しかしながら,全身性疾患の皮膚症状であったり,直接関係しない内臓疾患に合併しやすい皮膚疾患であったり,原因が内臓疾患と共通である皮膚疾患であったり,とその内容は多彩で定義に曖昧さがあり,欧米では定着しなかったようです.三橋喜比古先生は某誌への投稿論文で,欧米では定着せず,日本で定着した理由は,曖昧さを許容したことにあるのではないかと指摘し,「意外にも」「ちょっとびっくり」という概念が含まれているものがデルマドロームではないか,と述べられています.たしかに,幼児期の葉状白斑は結節性硬化症のデルマドロームと言えるかもしれませんが,顔面の多発性血管線維腫はあまりに直接的に結節性硬化症を想起させるのでデルマドロームとあえて言う先生は少ないと思います.三橋先生の「意外性」は,言い換えると「忘れてはならない」ということだろうと思います.すなわち「潜在する内臓病変を見抜くために皮膚科医が忘れてはならない皮膚の徴候」を多様なパターンを容認してまとめたものがデルマドロームであるように思いました.医学書院の『標準皮膚科学』では1983年の第1版から全身障害と皮膚病変としてデルマドロームを取り上げ,井上勝平先生が執筆されています.第8版からは章として扱い,成澤寛先生が執筆を受け継がれています.欧米で生まれたデルマドロームの概念は日本の教科書の中で醸成されてきたと言えるかもしれません.一般誌記者の質問をきっかけに勉強した皮膚科雑学を共有させていただきました.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?