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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科76巻8号

2022年07月発行

雑誌目次

症例報告

透析患者に生じた非イオン性ヨード造影剤による多発性固定薬疹進展型中毒性表皮壊死症の1例

著者: 岩本雄太郎 ,   小笹静佳 ,   渡邊京子

ページ範囲:P.579 - P.585

要約 73歳,男性.2型糖尿病による腎不全で4年前から維持透析中.足趾壊疽に対してデブリードマン,血行再建目的に外科に入院した.イオパミドール(イオパミロン®)で下肢造影CTの撮影後に全身に水疱,びらんが出現.過去にも造影検査後に固定薬疹の症状があった.皮疹部の病理組織で表皮全層の壊死を認め,多発性固定薬疹進展型中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)と診断した.SCORTENは3点.造影剤のパッチテストは皮疹部,無疹部ともに陰性で,薬剤リンパ球刺激試験(drug-induced lymphocyte stimulation test:DLST)も陰性だった.ステロイドミニパルスにて治療し,治癒した.イオパミドールによる固定薬疹の報告は自験例を含め15例あるが,TENに至ったのは自験例が初めてである.透析患者は造影剤排泄遅延に加え,さまざまな科による頻回な造影剤投与の機会がある.皮膚科医が中心となって他科医師に周知徹底する必要がある.

眉毛部アートメイク部に生じた両側肺門リンパ節腫脹を伴う皮膚サルコイド反応の1例

著者: 山岸大樹 ,   菊池荘太 ,   市川晶博 ,   出来尾格 ,   朝比奈昭彦

ページ範囲:P.587 - P.591

要約 44歳,女性.5年前から眉毛部のアートメイクを1年毎に繰り返していた.初診4か月前にアートメイクを行ったところ,施術後1か月ほどで施術部全体の皮膚が硬結を伴い隆起してきた.初診時,施術部に一致した茶褐色の光沢を伴う結節があり,皮膚生検を施行した.病理組織学的には,Langhans型多核巨細胞を伴う非乾酪性類上皮肉芽腫を認めた.胸部CTで両側肺門リンパ節の腫脹がみられたが,他の臓器病変を認めず,サルコイドーシスの診断基準は満たさなかった.以上の所見より,皮膚サルコイド反応と診断した.副腎皮質ステロイドの外用やフルドロキシコルチドテープの貼付を行ったが改善に乏しく,約1年間,月に一度の副腎皮質ステロイドの局注を行ったところ,軽度の色素沈着を残して隆起は消退した.皮膚サルコイド反応を生じる患者では,全身検索を行う必要があると考えた.

腫瘤型毛母腫の2例—毛母腫のダーモスコピー所見についての考察を加えて

著者: 上村杏奈 ,   村上拓生 ,   柳澤宏人 ,   常深祐一郎 ,   土田哲也 ,   中村晃一郎

ページ範囲:P.593 - P.598

要約 毛母腫は,正常表皮に被覆された骨様硬に触れる結節としてみられることが多いが,時に特異な臨床像を呈する.今回,臨床的に腫瘤を形成し,ダーモスコピーで多彩な所見がみられた毛母腫の2例を経験した.症例1は76歳男性,症例2は53歳女性で2例とも顔面に生じ腫瘤を形成していた.ダーモスコピーでは,黄白色構造,不正な白色線条,多様な血管所見,赤青色調均一領域,潰瘍などの所見がみられた.それらの所見と病理組織所見を比較した結果,黄白色構造は陰影細胞を反映していると考えた.さらに当科で過去3年間のダーモスコピー所見のある毛母腫を振り返ったところ,11例中9例で黄白色構造がみられ,最も多い所見であった.ダーモスコピーでみられる黄白色構造は,特異な臨床像を呈する毛母腫の診断の手掛かりになりうると考えた.

Cellular blue nevusの1例

著者: 今井俊輔 ,   志水陽介 ,   橋本由起 ,   石河晃

ページ範囲:P.599 - P.604

要約 27歳,女性,4歳ごろから左臀部に結節を自覚していた.最近になって増大してきたため,当科を紹介され受診した.初診時,左臀部内側に扁平隆起する比較的左右対称の正円に近い20×15mmの弾性やや硬の黒色結節を認め,その周囲に不整で青黒色の染み出しがみられた.臨床的に青色母斑や悪性黒色腫を疑い,2mmマージンで全切除を施行した.病理組織所見は,真皮浅層から皮下組織にかけて,結節状の腫瘍があり,メラニン色素に乏しい上皮様細胞の胞巣と,メラニン色素に富む紡錘形細胞から成る二相性パターンを呈しており,cellular blue nevusと診断した.悪性黒色腫との鑑別には若年女性に多いという疫学的特徴や,病理組織学的所見にて核分裂や壊死像が乏しい点が重要な鑑別点と考えた.

後頭部に生じた脱分化型脂肪肉腫の1例

著者: 岩田真衣 ,   藤城里香 ,   太田早紀 ,   今井聡子 ,   山田元人

ページ範囲:P.605 - P.610

要約 61歳,女性.15年前より後頭部皮下腫瘤を自覚しており,徐々に増大するため当科を受診した.後頭部に5cm大の皮下腫瘤を認めた.生検時の病理組織学的所見では粘液様基質の中に異型細胞の増殖を認め,免疫組織化学染色では異型細胞はビメンチン,S100蛋白,p53,MIB-1陽性であった.確定診断には至らず,骨膜を含め腫瘍を切除した.手術検体の病理組織学的所見では腫瘍の主体は粘液様基質を有しており,その周囲や内部に脂肪組織を含む高分化成分と,軟骨肉腫や未分化多形肉腫様の脱分化成分の双方を認め,免疫組織化学染色では生検時の所見に加えMDM2陽性であったため脱分化型脂肪肉腫と診断した.診断において高分化型,脱分化型脂肪肉腫に特異的であるMDM2が非常に有用であった.

皮膚原発腺様囊胞癌の1例

著者: 鈴木瑛子 ,   楠谷尚 ,   加茂理英 ,   鶴田大輔

ページ範囲:P.611 - P.615

要約 54歳,男性.初診約4か月前より左頰部に無症候性の約10mm大の紅色結節が出現した.前医で腫瘍摘出され,腺様囊胞癌(adenoid cystic carcinoma:ACC)の病理診断であったため,精査加療目的で当科を紹介受診した.病理組織学的に真皮内に管腔様構造,篩状構造を有する腫瘍胞巣を認め,画像検査にて他臓器,唾液腺の病変がないことから,皮膚原発の腺様囊胞癌(primary cutaneous adenoid cystic carcinoma:PCACC)と診断した.皮膚原発の腺様囊胞癌は非常に稀である.ACCは唾液腺に好発する悪性腫瘍の1つであり,その他涙腺,気管支,乳腺,子宮等にも発生することが知られている.PCACCにおいて画一的な治療方針はまだないが,深達度や病理組織所見での神経浸潤の有無で,個々の症例に応じて治療方針や術後経過観察期間を決定することが重要である.

砒素混入ミルク中毒被害者に生じた多発Bowen病の1例

著者: 長谷川道子 ,   齋藤龍一 ,   田村敦志

ページ範囲:P.617 - P.622

要約 64歳,男性.初診の4年前頃,左大腿部に,8か月前頃,右胸部にいずれも自覚症状のない皮疹があるのに気づいた.生検にて両者ともBowen病と診断し,切除した.非露出部の多発例であったため,砒素の関与を疑い詳しく問診を行ったところ乳児期に砒素混入ミルクによる亜急性砒素中毒の既往があった.その後の経過観察中に左大腿の別の部位にもBowen病を発症して切除した.砒素による皮膚癌の発生は井戸水摂取などによる慢性砒素中毒においてよく知られているが,亜急性砒素中毒においても起こりうる可能性がある.現在までのところ砒素ミルク事件被害者の皮膚癌報告は,他の集団砒素中毒事件における皮膚癌の発生率と比較すると低値である.しかし,砒素による発癌のリスクがきわめて長期間続くことを考えると,今後被害者における皮膚癌発生が増加する可能性もあり注意を要すると考えた.

頭部に日光角化症,有棘細胞癌,基底細胞癌を併発し,イミキモドクリーム外用で治療した1例

著者: 長岡麻美 ,   伊﨑聡志 ,   藤田英樹

ページ範囲:P.623 - P.628

要約 80歳,男性.初診9か月前に自覚した頭皮に多発する皮疹を主訴に受診した.初診時,頭皮の広範囲に禿髪がみられ,禿髪部には毛細血管拡張の目立つ紅斑が広がり,厚い鱗屑や痂皮が散在性に付着しており,3個の紅色結節がみられた.6病変から生検し,病理組織学的に日光角化症(3か所),充実型・浸潤型基底細胞癌(2か所),浸潤性有棘細胞癌と診断した.画像検査でリンパ節・遠隔転移を疑う所見はなかった.手術や放射線治療は同意が得られず,イミキモドクリームの外用を日光角化症治療の用法・用量で開始した.13か月経過した時点で,1か所の基底細胞癌の拡大と浸潤性有棘細胞癌の近傍に2つの紅色結節の新生がみられたが,他の病変は著明に改善した.限局した領域に日光角化症,基底細胞癌,有棘細胞癌が多発し,姑息的治療をせざるを得ない場合,イミキモド外用は症状の進行を抑える手段の1つとなりうると考える.

膵腺房細胞癌に皮下結節性脂肪壊死症を合併した1例

著者: 亀田瑛佑 ,   松澤高光 ,   宮地秀明 ,   岸本充 ,   松江弘之

ページ範囲:P.629 - P.635

要約 62歳,男性.2か月前より両下腿に有痛性皮下結節が出現し,プレドニゾロン内服にて改善なく受診した.本症例は当科初診前に健診で肝腫瘤を指摘され,他院造影CTで多発肝腫瘤,膵尾部腫瘤があった.皮下結節の生検で皮下に脂肪壊死(ghost-like cells)があり,皮下結節性脂肪壊死症と診断した.血清アミラーゼ以外のリパーゼなどの膵外分泌酵素は著明高値で,膵,肝腫瘤の穿刺吸引の病理所見で多発肝転移を伴う膵腺房細胞癌と診断された.皮下結節性脂肪壊死症は主に膵炎,膵悪性腫瘍などの膵疾患に合併し,しばしば皮疹の出現が膵疾患の診断に先行する.本症例は多発肝転移を伴う進行した膵腺房細胞癌であったにもかかわらず,腹痛や黄疸などの症状はなく,先行する皮疹の生検が膵腺房細胞癌の診断の一助となった.下肢の有痛性皮下結節の鑑別疾患として皮下結節性脂肪壊死症を挙げ積極的に生検し,より早期に膵腺房細胞癌を含む膵疾患の発見につなげることは重要と考えた.

再発を繰り返した古典的Kaposi肉腫の1例

著者: 中嶋悠里 ,   伏間江貴之 ,   天谷雅行 ,   大内健嗣

ページ範囲:P.637 - P.641

要約 66歳,男性,九州地方出身.初診1か月前より右大腿伸側に米粒大の褐色丘疹を自覚し当科を受診した.切除生検の病理組織で,真皮内に異型の乏しい紡錘形細胞が増生し境界明瞭な結節を形成,結節内部には未熟な血管増生を伴っていた.腫瘍細胞はERG,CD31,CD34,D2-40,HHV-8 LANA-1が陽性であった.血中抗HIV抗体陰性で,基礎疾患や免疫抑制剤の使用歴なく,古典的Kaposi肉腫と診断した.外科的切除施行後2年で左大腿に急速に増大する褐色の皮膚結節が出現.切除生検の病理組織より,古典的Kaposi肉腫の再発と診断した.古典的Kaposi肉腫は緩徐な経過をたどり,予後良好とされているが,後ろ向き研究で再発率が高いこと,再発までの期間が長いことが示唆されいる.それゆえ,古典的Kaposi肉腫は長期の経過観察が重要であると考える.

3か所の神経支配領域に発症した多発性帯状疱疹の1例

著者: 岡本修 ,   柳井優花 ,   長松顕太郎 ,   小野敬司 ,   工藤洋一 ,   蒲池綾子 ,   小松栄二 ,   橋本裕之

ページ範囲:P.643 - P.649

要約 73歳,女性.多発性骨髄腫に対して血液内科で化学療法中,慢性腎不全のため血液透析中.右前額部,左側頸部,右下腹部—腰背部に小水疱を伴う浮腫性紅斑が出現した.血液内科でビダラビンの点滴投与が開始され,3日後に紹介された.水痘・帯状疱疹ウイルス抗原キットを用いた抗原検査は3か所ともに陽性で,Tzanck試験でもウイルス性巨細胞を認めた.このため,隣接しない3か所の神経支配領域に発症した多発性帯状疱疹と診断した.ビダラビン投与継続により皮疹はやや陳旧化したが,肺真菌症,カンジダ性敗血症,播種性血管内凝固症候群などを合併し,患者は初診9日目に死亡した.2000年以降多発性帯状疱疹の報告は英文を含めても数報で,自験例を稀少例として報告する.また,多発性帯状疱疹を見た場合には,基礎疾患に伴う不良な全身状態や免疫抑制が背景にあると認識すべきと考えた.

特発性後天性全身性無汗症と尋常性白斑を同時期に発症した1例

著者: 髙木杏子 ,   齊藤華奈実 ,   梅木真由子 ,   後藤瑞生 ,   佐藤俊宏 ,   西田陽登 ,   駄阿勉 ,   波多野豊

ページ範囲:P.651 - P.656

要約 16歳,男性.既往歴にアトピー性皮膚炎,3親等以内に尋常性白斑が2人いる.X−1年12月頃より運動時の全身の発汗低下と手掌の代償性発汗過剰を自覚し,同時期に両手背から両前腕に白斑が出現したため前医より当科に紹介初診.温熱ミノール法では減汗〜無汗部と発汗部がモザイク状に分布し,減汗〜無汗部と白斑部が重複している箇所を認めた.無汗部では薬剤性発汗誘発試験で発汗誘発できず,同部の病理組織では汗腺・導管周囲のリンパ球浸潤を認めた.血液検査上,甲状腺ホルモン正常,抗アセチルコリン受容体抗体を含む各種自己抗体は陰性であった.尋常性白斑を合併した特発性後天性全身性無汗症(acquired idiopathic generalized anhidrosis:AIGA)と診断した.汗腺におけるM3受容体の低下は認めなかった.AIGAと尋常性白斑に共通の自己免疫的機序を予想したが,本症例では少なくともM3受容体は共通抗原ではないと考えられた.AIGA,尋常性白斑ともにその詳しい自己免疫的機序は明らかになっておらず,新たな原因自己抗体を解明するためにも今後の症例の蓄積が望まれる.

マイオピニオン

基礎研究と臨床研究の面白さ

著者: 氏家英之

ページ範囲:P.576 - P.577

1. はじめに
 自己免疫性水疱症は表皮細胞間や表皮基底膜部の蛋白に対する自己抗体によって生じる自己免疫疾患で,ほとんどの病型で標的抗原が明らかになっています.「自己抗体が抗原に結合し水疱ができる」という一見シンプルに見える病態ですが,実際には謎が多く解決すべき課題が山積しています.私はこれまで自己免疫性水疱症,特に水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)の研究に携わってきました.BPは研究すればするほど奥が深く,自己抗体や補体,好中球,好酸球,好塩基球,肥満細胞,Tリンパ球など多くの要素が入り乱れて混沌としています.そして最近ではDPP-4阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬なども絡んできてカオス状態になっていますが,これらのピースをうまく組み合わせることで病態解明や新たな治療戦略に結び付く可能性があり,面白さを感じています.私がこれまで自己免疫性水疱症研究を通じて感じたことを徒然なるままに書き記したいと思います.

連載 Clinical Exercise・179

Q考えられる疾患は何か?

著者: 平澤祐輔

ページ範囲:P.573 - P.574

症例
患 者:50歳,女性
主 訴:顔面の丘疹,紅色結節
現病歴:4か月前から,左下顎に軽度瘙痒を伴う紅色丘疹が出現した.2か月前から,左頰部にも同様の皮疹が出現し,徐々に増加,拡大したため受診し,皮膚生検が行われた.
初診時現症:左頰部に数mm大の紅色丘疹が多発,一部癒合し20mmまでの局面を形成していた.鼻尖部にも淡い紅色丘疹が1個みられた.いずれもやや弾性硬で軽度の瘙痒があり一部には膿疱が混在していた(図1).頸部などの表在リンパ節は触知せず,発熱や倦怠感などの全身症状もなかった.

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目次

ページ範囲:P.569 - P.569

欧文目次

ページ範囲:P.571 - P.571

文献紹介

ページ範囲:P.604 - P.604

書評

ページ範囲:P.642 - P.642

書評

ページ範囲:P.650 - P.650

次号予告

ページ範囲:P.657 - P.657

あとがき

著者: 本田哲也

ページ範囲:P.660 - P.660

 先日,京都で行われた日本皮膚科学会総会に現地参加してきました.昨年に引き続きハイブリッド開催でしたが,今年は昨年に比べ大幅に現地参加者が多い印象で,会場に活気を感じました.最近の学会はほとんどハイブリッド開催ですが,現地参加者の割合が少ないハイブリッド開催の会場は人数に比べ空席が目立ち,なんだか多少の寂しさが否めません.今回の総会での現地参加者の割合は把握していませんが,ハイブリッド開催でも現地参加者が5割以上くらいになると,ちょうどオンライン参加の利便性と学会会場の活気との釣り合いが取れる気がしました.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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