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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科78巻11号

2024年10月発行

雑誌目次

原著

過去15年間に当科で経験した肉芽腫性口唇炎16例の臨床的検討

著者: 齋藤聡一郎 ,   高村さおり ,   人見勝博 ,   福田知雄

ページ範囲:P.809 - P.815

要約 過去15年間で当科を受診し,臨床または病理組織所見により確定診断をつけた肉芽腫性口唇炎のうち1年以上経過観察ができた16例を臨床的に検討した.明らかな原因および増悪因子として,歯性感染症が3例,金属アレルギーが1例で確認された.上記4例のうち,原因の除去も併せて行い,2例では完全奏効が得られた.治療は全例がトラニラストを内服し,他剤の内服併用,タクロリムス軟膏併用が各8例,メトロニダゾールクリーム併用が3例,ステロイド外用併用が2例で行われていた.完全奏効を除いた14例の結果は,部分奏効11例,不変3例と,難治ながら多くの症例が軽快していた.誘因および増悪因子が明確であるものに関しては,完全奏効が得られる可能性があり,その除去を積極的に行うべきと考える.より難治な症例においては,薬剤の組み合わせ,いっそうの工夫が改善のためには必要と考えた.

症例報告

G-CSF製剤投与によりSweet病と大動脈炎を併発した1例

著者: 木下真太郎 ,   井関梢 ,   亀田瑛佑

ページ範囲:P.817 - P.822

要約 72歳,女性.卵巣癌に対して化学療法中.ペグフィルグラスチム投与後に発熱と左前腕の紅斑・腫脹・疼痛を認め,当科を初診した.蜂窩織炎を疑い抗菌薬内服を開始したが,左前腕の紅斑は改善せず,左手関節部に新規の紅斑が出現した.紅斑部の病理組織像では真皮から皮下脂肪織にかけてびまん性に好中球浸潤があり,Sweet病と診断した.また造影CTで左総頸動脈と下行大動脈の周囲に脂肪織濃度上昇を認め,大動脈炎も併発していた.G-CSF製剤投与後にSweet病と大動脈炎を併発した症例は調べえた限り過去に報告はない.G-CSF製剤投与後に疼痛を伴う紅斑を認めた際にはSweet病を鑑別に挙げる必要があると考える.また皮膚症状が軽度にも関わらず発熱や炎症反応高値がみられた際には,血管炎や感染症などSweet病以外の病態を併発している可能性を考慮し,画像検査などによる原因検索を検討するべきである.

インフリキシマブ投与中のCrohn病患者に生じたヘルペス関連多形紅斑の1例—ウステキヌマブへ変更後の長期観察を含めて

著者: 菅原成美 ,   高村さおり ,   田口良吉 ,   寺木祐一 ,   福田知雄

ページ範囲:P.823 - P.827

要約 50歳,男性.体幹四肢の紅斑,口唇のびらんを主訴に受診.47歳からCrohn病に対しインフリキシマブが開始されていた.口唇から単純ヘルペスウイルスの特異抗原を検出,口唇ヘルペスと連動する多形紅斑の繰り返しより,ヘルペス関連多形紅斑(herpes-assaciated erythema multiforme : HAEM)と診断した.再発抑制療法としておよそ9年間のバラシクロビル長期投与を行ったが,HAEMの発症は続いた.9年経ち,Crohn病の治療がウステキヌマブに変更された.その後は,再発抑制療法を行うことなく,4年間HAEMを認めていない.インフリキシマブ投与患者でEMを繰り返す際は,他を標的とする生物学的製剤に変更を検討する必要があると考えた.

COX-2選択的阻害薬で治療した再発性多発軟骨炎の1例

著者: 平福啓一伍 ,   宮田義久 ,   遠藤幸紀

ページ範囲:P.829 - P.834

要約 55歳,男性.初診の2か月前より両側耳介の腫脹,疼痛が出現したため近医を受診.抗菌薬を処方されるも改善せず当科を受診した.初診時,両側耳介に限局した発赤,腫脹がみられ,熱感,圧痛を伴っていた.皮膚生検では真皮と軟骨の境界部に少数のリンパ球浸潤が確認された.また抗Ⅱ型コラーゲン抗体価の上昇を認めた.以上より自験例を再発性多発軟骨炎と診断した.自験例は症状が耳介に限局しており,中等症と診断した.耳介の疼痛が強く,当初はステロイド全身療法も検討したが未治療の糖尿病が判明したため,腎障害や消化管障害のリスクのより低いCOX-2選択的阻害薬であるセレコキシブを選択した.セレコキシブの内服を開始したところ6週間で症状は改善した.他症状の続発に注意する必要があるがCOX-2選択的阻害薬は再発性多発軟骨炎の治療選択肢となりうる.

アファチニブによる紫斑型薬疹の1例

著者: 森下ナオミ ,   中澤慎介 ,   藤山俊晴 ,   伊藤泰介 ,   本田哲也

ページ範囲:P.835 - P.839

要約 60歳,女性.肺腺癌stage ⅣAに対し上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(epidermal growth factor receptor tyrosine kinase inhibitor : EGFR-TKI)であるアファチニブが開始された.アファチニブは休薬を挟みつつ減量されて継続されていたが,初回投与13か月後,両下肢に膿疱を伴う多発癒合傾向の紫斑が出現した.紫斑は浸潤を触れず組織学的に明らかな血管炎像は認めなかった.アファチニブの中止とクロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏外用で皮疹は1週間程度で消失した.随伴症状,臓器障害は認めなかった.これらの所見,経過からアファチニブによる紫斑型薬疹と診断した.EGFR阻害薬(EGFR-TKI,抗EGFR抗体)投与後に紫斑を生じた本邦既報例は自験例を含め18例あり,9例で紫斑に加え膿疱を伴っていた.EGFR阻害薬投与中に紫斑や膿疱が生じた場合,紫斑型薬疹の可能性にも留意する必要があると考えた.

出産後に自覚した鱗状毛包性角化症(土肥)の1例

著者: 波田野冴佳 ,   下田由莉江 ,   山﨑好美 ,   大山学

ページ範囲:P.841 - P.846

要約 29歳,女性.初診3年前の第2子出産後より鼠径部に皮疹を自覚した.皮疹は下腹部にも拡大した.近医にてステロイド軟膏を外用したが改善に乏しく当科を紹介受診した.初診時は妊娠2か月で,両側腹部から鼠径部にかけて5 mm大の褐色斑が多発していた.皮疹中央に黒点があり周囲には円形膜様の鱗屑がみられた.皮疹部からはcoagulase negative Staphylococciが検出された.病理組織学的に過角化と拡張した毛包漏斗部内に角栓と,グラム陽性球菌を認め鱗状毛包性角化症(土肥)と診断した.尿素軟膏,ビタミンD3軟膏外用により改善した.本症の本邦既報症例は自験例を含め39例と稀であった.既報症例の誘因・増悪因子として,妊娠,細菌叢の変化や衣類の摩擦などが推察されていた.本症は出産後に性ホルモンの変動や体重増加などの誘因が解除されれば自然軽快するといわれることがあるが,自験例のように長期持続しうることを念頭に置くべきと考えられた.

一部に色素斑を認めたdesmoplastic trichoepitheliomaの1例

著者: 堀内あゆみ ,   長谷川道子 ,   田村敦志

ページ範囲:P.847 - P.853

要約 67歳,男性.右頰部に15×9 mmの辺縁が堤防状に隆起する白色硬化局面があり,中央には帽針頭大の褐色色素斑と小潰瘍を伴っていた.基底細胞癌を疑って生検を行い,組織像よりdesmoplastic trichoepithelioma(DTE)と診断した.全摘切除標本の組織像では腫瘍は真皮内に限局し,増生した膠原線維間に小型で索状の腫瘍胞巣と散在する角質囊腫がみられた.一部の表皮に近い腫瘍胞巣内にはメラニン顆粒を,周囲の間質内にはメラニン顆粒の滴落やメラノファージを認めた.色素斑を伴うDTEは稀で,過去38年間の本邦論文報告25例を検討したが,自験例以外に色素斑やダーモスコピー上,色素性構造を伴う例の報告はなかった.DTEは組織学的に斑状強皮症型基底細胞癌や微小囊胞性付属器癌との鑑別を要することが多いが,自験例のように色素斑の存在により臨床像も類似することがある.過剰な治療を避けるためには術前の慎重な組織学的検討が必要と考えた.

STAT6陽性が診断に有用であったsolitary fibrous tumorの1例

著者: 宜野座淳善 ,   布袋祐子

ページ範囲:P.855 - P.859

要約 38歳,女性.初診1か月前から左季肋部に皮下結節を自覚し精査加療目的に受診した.初診時,左季肋部に軽度圧痛を伴う境界明瞭,弾性やや硬の2 cm大の皮下結節を認めた.MRIで皮下脂肪識内にT1低信号,T2軽度高信号の皮下結節を認め,皮下軟部腫瘍を考え局所麻酔下にて切除した.病理組織学的には境界明瞭な腫瘍であり,好塩基性に濃染される紡錘形の核を有する細胞が一部花むしろ様を呈しながら不規則に増殖していた.また腫瘍内には分枝するように広がる血管構造と脂肪細胞の増生もみられた.Spindle cell lipomaなどの皮下軟部腫瘍が鑑別に挙げられたが腫瘍細胞核内にSTAT6染色陽性であったことからsolitary fibrous tumorと診断した.Solitary fibrous tumorは比較的稀な中間悪性群に分類される軟部腫瘍であり,組織的な亜型を有することから他の軟部腫瘍と鑑別を要する.Solitary fibrous tumorが疑われる場合は積極的にSTAT6染色を行う必要があると考えた.

ダーモスコピー所見が診断の一助となったaneurysmal fibrous histiocytomaの1例

著者: 石原麻衣子 ,   吉川真人 ,   井上優貴 ,   大見修也 ,   犬飼実紗子

ページ範囲:P.861 - P.865

要約 28歳,男性.初診の1年前より左大腿後面に圧痛を伴う結節が出現した.初診時,同部位に直径15 mmの暗赤色調結節を認めた.ダーモスコピーでは左右対称構造を認め,内部は赤紫色調の均一な領域を呈していた.また中央部には点状血管構造と,明るい白色調の構造を伴っていた.病理組織学的にも検討を行った上で,aneurysmal fibrous histiocytoma(AFH)と診断した.従来,AFHは視診のみで診断がつくことは少なく,免疫染色を施行し悪性腫瘍との鑑別を要するとされていた.しかし最近ではダーモスコピーで特徴的な所見を呈することが明らかになっており,視診のみでも診断を絞り込める可能性がある.

ステロイド外用の中止および皮膚生検を契機に自然消退した臀部Bowen病の1例

著者: 加藤有紀 ,   中村かおり ,   福田知雄

ページ範囲:P.867 - P.871

要約 72歳,女性.2年前より左臀部に紅斑を自覚し,近医内科,前医皮膚科でステロイド外用を行うも軽快なく,当院紹介受診した.初診時,左臀部に径5×4 cm大の境界明瞭な紅斑を認め,ステロイド外用を中止し皮膚生検を行ったところ,表皮全層にわたる異型ケラチノサイトが認められ,Bowen病と診断した.しかし,皮膚生検から2か月後の全摘時には,臨床像が鱗屑を付す淡褐色斑に変化しており,病理組織学的にも表皮内の異型細胞が完全に消褪していた.免疫染色で,皮膚生検組織と比べ全摘標本組織では,CD8陽性細胞数の増加,Foxp3陽性細胞の減少が認められた.臨床,経過および病理所見より,ステロイド外用の中止および皮膚生検を契機に局所の腫瘍免疫が亢進し,Bowen病が自然消退した可能性を考えた.自験例は自然消退を治療として誘導し,患者負担を軽減させる腫瘍免疫療法の可能性を示す貴重な1例になると考え報告した.

ステロイド局注療法が有効であった肉芽腫性口唇炎の1例

著者: 古舘和樹 ,   鎌田麻子

ページ範囲:P.873 - P.876

要約 56歳,男性.X年5月頃より下口唇の腫脹を自覚し,近医を受診するも診断に至らなかった.無治療経過観察の後,腫脹の増悪を認めたため,X年11月に当科を受診した.口唇皮膚生検で真皮浅層から筋層,結合組織に至る非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,肉芽腫性口唇炎と診断した.疾患原因として歯性感染症や歯科金属に対するアレルギーの関与を疑い精査を行ったが,明らかな異常所見は認めなかった.内服治療として,ベポタスチンベシル酸塩,トラネキサム酸,ミノサイクリン塩酸塩,トラニストを使用したが一切の改善は得られなかった.最終的にトリアムシノロンアセトニドによる5回のステロイド局注療法にて口唇皮膚所見は著明に改善した.治療終了後1年経過時点で再燃を認めていない.原因精査加療後の内服治療で改善が十分でない症例に対しては,比較的侵襲や副作用の少ないステロイド局注療法が選択肢になり得ると考える.

マイオピニオン

地域の医療の未来について思うこと

著者: 加藤則人

ページ範囲:P.806 - P.807

 少子高齢化,生産年齢人口減少,医師・看護師など医療従事者を含む人口偏在などによって生じるさまざまな社会課題が顕著に表在化するとされる,いわゆる2040年問題は,地域での医療へのアクセスの課題など,われわれ皮膚科医にとっても避けて通れない大きな問題である.
 医師の偏在への対策として,数年前から医師数の多い地域での専門医研修プログラムへの採用専攻医数に上限(シーリング)を設ける制度が始まった.また2024年6月の医道審議会医師分科会医師臨床研修部会では,2026年度開始の臨床研修から,医師多数県の研修医の一定割合が医師少数県等の臨床研修病院で2年の研修のうち半年間程度研修を行うプログラム(広域連携プログラム)が示された1).いずれも,研修医や専門医を目指す専攻医の研修先を制限することによる医師偏在への対策と思われる.しかし,2023年度の厚生労働科学研究事業「日本専門医機構における医師専門研修シーリングによる医師偏在対策の効果検証」の報告によると,「少数県の採用数の増加については,地域によってばらつきがあり,特に東北・東海・甲信越地方の医師少数県においては,シーリングによる医師配分効果が十分に発揮されているとは言えない」とのことであった2)

連載 Clinical Exercise・206

Q考えられる疾患は何か?

著者: 石河晃

ページ範囲:P.803 - P.804

■症 例■
患 者:68歳,女性
主 訴:両下肢の瘙痒を伴う環状紅斑
既往歴:1年前から気管支喘息でステロイド吸入加療中,子宮筋腫,慢性硬膜下血腫
家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:1〜2週前から両下肢に環状紅斑や馬蹄状の紅斑,紫斑や大水疱が出現し,他院で抗菌薬内服,ステロイド外用治療に反応せず,当科を紹介され受診した.
初診時現症:両下肢に辺縁が堤防状に隆起し中央に消退傾向のある環状または馬蹄状の暗赤色斑が多発し,大腿には色素沈着がみられた(図1a).左下腿では暗赤色局面上に紫斑や大水疱も混在していた(図1b).
臨床検査所見:〈気管支喘息にて受診時〉WBC 12,300/μl(基準値:4,000〜9,000)(Neu 58.4%,Lym 16.4%,Mon 5.4%,Eos19.3%,Bas 0.5%).

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目次

ページ範囲:P.799 - P.799

欧文目次

ページ範囲:P.801 - P.801

文献紹介

ページ範囲:P.822 - P.822

文献紹介

ページ範囲:P.859 - P.859

書評

ページ範囲:P.878 - P.878

次号予告

ページ範囲:P.879 - P.879

あとがき

著者: 本田哲也

ページ範囲:P.882 - P.882

 この夏はオリンピックがパリで開催されました.始まる前はあまり気にも留めていませんでしたが,いざ始まると日本選手の活躍はめざましく,毎日オリンピック情報をチェックし,一喜一憂する日々になりました.最終的に日本は金メダル数でアメリカ,中国に続き3位となりました.決してメダルの数のみが大事というわけではないですが,経済,科学技術等,国力の低下ばかりが指摘され,なんとなく暗い話題の多い日本にとって,この結果はとても励みになったのではと思います.いまだ戦争中のウクライナからもメダリストが出ていました.日々の生活すら満足にできないなか,極限まで自分の肉体を追い込み,その一瞬にかけたアスリートの方々には本当に頭が下がります.
 一方,今回のオリンピックではこれまで以上に選手に対する誹謗中傷のニュースが多いようにも感じました.ほんのちょっとした些細な言動に対し,見苦しいだの,幻滅しただの,まるで自分が正義の味方,神様かのようにさまざまな雑言が飛び交っていました.そのような度を超えた投稿・コメントはごくごく一部の人によるものなのでしょうが,そうだとしても非常に不愉快なことであります.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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