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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科78巻2号

2024年02月発行

雑誌目次

症例報告

ダーマボンド®アドバンスドの2-オクチルシアノアクリレートによる接触皮膚炎症候群の1例

著者: 水野彩加 ,   欠田成人 ,   山中恵一 ,   杉山真理子 ,   松永佳世子 ,   田原麻衣子 ,   河上強志

ページ範囲:P.106 - P.112

要約 30歳台,女性.術創にダーマボンド®アドバンスド(DA)を使用した約1か月後より,使用部位に一致して米粒大の丘疹が集簇し,使用部位以外の軀幹四肢にも丘疹や浮腫性紅斑が出現した.製品(as is)と主成分である2-オクチルシアノアクリレートのオープンテストが陽性を示し,DAに含まれる2-オクチルシアノアクリレートによる接触皮膚炎症候群と診断した.アクリレート・メタクリレート関連化学物質のパッチテストはすべて陰性であった.ダーマボンド®シリーズによる接触皮膚炎は,特に初回使用例では発症時期が約1か月後と比較的遅く,また,接触皮膚炎症候群への進展例が多いのが特徴である.DAの術創への長期接触による感作や症状悪化の可能性から,可能な限り早期に除去することが重要と考えた.自験例では,DA以外に交差感作の可能性のある他のシアノアクリレート製品やアクリレート・メタクリレートの使用を避けるよう指導した.

ヒドロキシクロロキン内服治療中に妊娠・出産した全身性エリテマトーデスの1例

著者: 小田俊輔 ,   椎谷千尋 ,   新川宏樹 ,   久保亮治 ,   末岡浩 ,   仁科直 ,   谷川瑛子

ページ範囲:P.113 - P.118

要約 31歳,女性.初診半年前より両頰部,耳介に紅斑が出現.白血球減少・低補体血症,抗核抗体・抗dsDNA抗体・抗Sm抗体上昇を認め,Systemic Lupus International Collaborating Clinicsの分類基準を満たし,病理所見とLupus band testと合わせ全身性エリテマトーデスと診断した.臓器病変はなく,ヒドロキシクロロキン(HCQ)200mgと400mgの隔日投与での内服を開始した.内服開始4週で臨床症状,抗体価は改善した.内服開始後に妊娠が判明.インフォームド・コンセントの後HCQ内服継続し,妊娠38週目に帝王切開で2,390gの女児を出産した.わずかに低出生体重であったが,産後3年経過し病勢悪化や子の成長障害を認めていない.全身性エリテマトーデスは妊娠することで増悪する可能性が高く,またHCQ中止により病勢が悪化し妊娠継続が困難になることがあるため,海外では妊娠中もHCQ内服の継続が推奨されている.内服継続によるメリット・デメリットを患者に十分に説明し理解と同意を得たうえで,HCQ継続使用を検討する必要がある.

エルロチニブとラムシルマブの併用療法中に穿孔性皮膚症と紫斑,皮膚潰瘍を生じた1例

著者: 森田裕介 ,   今福恵輔 ,   板本想太 ,   挽地史織 ,   眞井翔子 ,   宮澤元 ,   得地景子 ,   榊原純 ,   氏家英之

ページ範囲:P.119 - P.124

要約 64歳,女性.肺腺癌ステージⅣbと診断され,EGFR遺伝子変異陽性が確認されたため,EGFRチロシンキナーゼ阻害薬のエルロチニブとVEGFR2阻害薬のラムシルマブの併用療法が開始された.開始2か月後より皮疹が出現,増悪したため,当科を紹介され受診した.痂皮を伴う結節や紫斑を認め,これらの皮疹より皮膚生検を実施し,穿孔性皮膚症および血管炎の病理像を認めた.エルロチニブやラムシルマブの影響を疑い,これらを中止したが,紫斑の新生や下腿潰瘍の形成,拡大が数週間続いた.その後,抗潰瘍治療を実施したところ,潰瘍の改善,上皮化を認めた.EGFR阻害薬やVEGFR2阻害薬の投与例では,痤瘡様発疹などの頻度の高い皮膚症状とあわせて穿孔性皮膚症や紫斑,皮膚潰瘍が稀ではあるが生じうる可能性を考慮しておくのが望ましい.

免疫チェックポイント阻害薬使用中に生じデュピルマブが奏効した水疱性類天疱瘡の1例

著者: 近藤あきほ ,   小野木裕梨 ,   渡邉直樹

ページ範囲:P.125 - P.130

要約 74歳,男性.7年前に右腎癌に対して腹腔鏡下摘出術を受けていた.2年前に右腎癌の再発および後腹膜播種とリンパ節転移が生じ,ニボルマブとイピリムマブの併用療法が開始となった.その後ニボルマブの単独療法に移行し増大なく経過していた.1年程前より全身に強い瘙痒を伴う紅斑が出現し当科を受診した.抗ヒスタミン薬内服とステロイド外用で一度症状は改善したが2022年6月頃より体幹と四肢に緊満性水疱が多発した.抗BP180抗体価の上昇があり,蛍光抗体直接法で基底膜にIgGとC3の沈着がみられたことから免疫チェックポイント阻害薬使用中に出現した水疱性類天疱瘡と診断した.ステロイド全身投与などの免疫抑制剤の使用に拒否があり,初診時の湿疹病変が残存していたことからデュピルマブ皮下注を開始し水疱と瘙痒は改善した.近年になって免疫チェックポイント阻害薬使用中に生じた水疱性類天疱瘡の報告が散見されるが,デュピルマブは治療の選択肢の1つとなりうる可能性を考えた.

ABCB6遺伝子にミスセンス変異を同定した遺伝性汎発性色素異常症の1家系

著者: 白水舞 ,   安井由紀 ,   下村裕

ページ範囲:P.131 - P.136

要約 36歳女性とその子供の11歳男児.母親は幼少時より上肢伸側に淡褐色の小色素斑の散在を認めていた.診察時,顔面,両四肢,足背,手背に雀卵斑様色素斑が散見された.一方で,体幹の皮疹はみられなかった.息子は1歳半頃から色素斑が出現.全身の皮膚に小色素斑と脱色素斑の散在を認めた.家族歴より常染色体顕性(優性)遺伝が強く示唆された.2名の患者のゲノムDNAを用いて遺伝子検査を行った結果,遺伝性対側性色素異常症の原因遺伝子であるADAR1遺伝子には異常を認めなかったが,ABCB6遺伝子に既知のミスセンス変異(c. 1358C>T;p. Ala453Val)がヘテロ接合型で同定され,遺伝性汎発性色素異常症と確定診断した.親子ともに同じ遺伝子型だったが,息子のほうがより症状が顕著であり,同一家系内でも重症度に差異があった.表現型については環境因子や何らかの修飾遺伝子が関連している可能性があり,今後の症例の蓄積が待たれる.

ボリコナゾール内服中に生じた多発日光角化症の1例

著者: 谷口江利菜 ,   東郷さやか ,   岡林綾

ページ範囲:P.137 - P.141

要約 70歳,男性.初診3年前に慢性進行性肺アスペルギルス症に対しボリコナゾール(VRCZ)の内服が開始された.VRCZ内服開始1年後から,禿頭部全体に小びらんや痂皮の形成を繰り返すようになった.皮膚生検を行い,日光角化症と診断した.VRCZの関与が疑われたが,難治性の肺アスペルギルス症のためVRCZの中止は困難で,イミキモド外用と遮光で経過をみた.イミキモド外用で皮疹は改善傾向だったが,外用開始7か月後に細菌性肺炎を併発し永眠された.VRCZは,その代謝物が紫外線を吸収し活性酸素を生じることで,表皮のDNAを損傷させ皮膚癌発症の起始に関わる作用と,VRCZそのものがCOX-2の転写活性を増強させて皮膚癌の進行を促進させる作用の2つを併せ持つと考えられている.VRCZ内服中に日光角化症を認めた際には,VRCZの中止が第一選択にはなるが,VRCZの中止が困難な際は,イミキモド外用や徹底的な遮光により,有棘細胞癌へ進行しないよう注意深く観察していく必要がある.

肺癌術後の腹部ポート部再発から腋窩リンパ節転移をきたしたと考えられる1例

著者: 藤沼千尋 ,   鈴木貴子 ,   岩澤うつぎ ,   石井元

ページ範囲:P.143 - P.148

要約 73歳,男性.既往に2年前に原発巣は完治とされた左肺癌と現在治療中の前立腺癌(骨盤内リンパ節・骨転移あり)があった.初診の約半年前から左腹部の結節に気が付き,徐々に痛みが出現した.初診時,胸腔鏡のポート部と考えられる線状の瘢痕部の皮下に腫瘤を触知した.皮膚生検にて肺癌のポート部再発と診断した.同部位に放射線治療が行われたが,6か月後に同側の腋窩リンパ節腫脹,同側胸部皮下結節が出現した.再度皮下結節を生検したところ肺癌の転移の診断であった.経過から,ポート部再発からの皮下転移・腋窩リンパ節転移と考えられた.近年腹腔鏡・胸腔鏡手術が各診療科で普及しており,それに伴ってポート部再発の報告は散見されている.しかしポート部再発から,リンパ行性に皮下転移・リンパ節転移をきたした報告は,自験例の他にはなかった.ポート部再発に対しての啓発と根治的治療の重要性が示唆された.

Pagetoid reticulosisの1例

著者: 桑原彩乃 ,   吉田憲司 ,   中村元泰 ,   市村知佳 ,   栗川幸子 ,   石河晃

ページ範囲:P.149 - P.154

要約 44歳,女性.初診1年半前より左膝蓋部に自覚症状のない紅色皮疹が出現し徐々に拡大した.近医皮膚科を受診しマキサカルシトール軟膏の外用を開始するも改善なく精査加療目的で当院を紹介され受診した.初診時左膝蓋部に20×15 mmの扁平に隆起する可動性良好な硬い浸潤を伴う紅色局面があり,表面は厚い黄色の痂皮で被覆されていた.病理組織学的に表皮内に大小不同の核を有する胞体の明るい大型の細胞増殖を認めた.腫瘍細胞は免疫染色でCD3,CD5,CD8,CD30,Ki-67が陽性であり,遺伝子再構成はcβ1,Jγで陽性,Jδ1で陰性であり,pagetoid reticulosisと診断した.本症は皮膚T細胞リンパ腫の稀な1型で,自験例は部位,病理組織いずれも典型的な症例である.単発の浸潤を触れる角化性紅斑で外用治療で改善しない場合は皮膚リンパ腫の可能性もあり,積極的に皮膚生検を行い精査することが勧められる.

節性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の寛解中に発症した皮膚B細胞偽リンパ腫の1例

著者: 小倉康晶 ,   近藤峻平 ,   大塚正樹 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.155 - P.159

要約 80歳,男性.当科初診5年前にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma : DLBCL)を発症,化学放射線療法により4年前から完全寛解であった.2か月前より左前腕に皮膚腫瘤が出現し増大したため,DLBCLの皮膚転移を疑い当科紹介となった.初診時,左前腕に2 cm大のドーム状の皮膚腫瘤を認めた.皮膚生検では,真皮全層に胚中心過形成を伴うリンパ濾胞を形成していた.リンパ球はCD20陽性,MUM-1陰性,濾胞中心ではBCL-6陽性だった.免疫グロブリン重鎖JH遺伝子再構成は認めず,B細胞偽リンパ腫と診断した.生検を契機に消退し以後再発を認めていない.過去にDLBCL患者に生じた皮膚偽リンパ腫の症例はないものの,巨大リンパ濾胞を伴う反応性リンパ節過形成の報告はみられ,自験例でも同様の免疫学的背景から生じた可能性が推察された.DLBCLの既往を持つ患者に生じた皮膚偽リンパ腫では,DLBCLの転移との先入観を抱きがちになるが,それに左右されることなく正確な診断をする重要性を実感した.

ホスラブコナゾールが奏効したTrichophyton interdigitaleCandida guilliermondiiCandida albicansによる混合感染の1例

著者: 大草康正 ,   田口良吉 ,   中村かおり ,   福田知雄

ページ範囲:P.161 - P.166

要約 80歳,女性.初診1か月前に右頰部に淡紅色の結節性病変が出現した.近医皮膚科にて癤の疑いで抗菌薬を投与されたが軽快せず,当科を受診した.初診数日前より左頰部にも同様の結節性病変が出現し,悪性リンパ腫を疑い右頰部の皮疹より皮膚生検を施行した.組織内に菌糸様の菌要素が確認されたが,生検組織の真菌培養は陰性であった.全身を確認したところ,趾間・趾爪・指爪に真菌症を疑わせる所見が認められた.真菌培養を行ったところ,趾間・趾爪からはTrichophyton interdigitale,指爪からはCandida guilliermondiiCandida albicansが分離培養された.爪白癬に対し,ホスラブコナゾールの内服を12週間行ったところ,趾・指の爪病変,顔面皮疹のいずれもが軽快した.複数箇所の皮膚真菌症を疑わせる病変を認めた場合には,混合感染を念頭に置き,真菌感染が疑われるすべての部位から検体を採取し,原因菌を同定し,適切な抗真菌薬を検討する必要があると考えた.

意識障害を合併した高齢者水痘の1例

著者: 島本佳保 ,   染田幸子 ,   鈴木秀和

ページ範囲:P.167 - P.171

要約 74歳,女性.自宅で倒れていたため,救急搬送された.受診時意識レベルはJCSI-2で,全身に水疱が散在しており,水痘の疑いで当直医によりアシクロビル(ACV)が開始された.第3病日に当科受診し,紅斑を伴う水疱が多発しており,デルマクイックVZV陽性より水痘と診断した.高齢者水痘は水痘帯状疱疹ウィルス(varicella-zoster virus : VZV)の再活性化もしくは再感染により発症する.自験例は関節リウマチに対して免疫抑制剤投与中で,VZV感染者との接触歴はないためVZVの再活性化と診断した.入院後意識レベルが更に低下したため,ACV脳症やVZV性髄膜炎を疑い,検査施行するも異常所見はなかった.ACVと補液のみで意識障害は改善し,自験例をVZVによる脳症と診断した.検査に異常がなく,ACVを投与していたにもかかわらず遅発性に意識障害が生じた例を経験したので報告する.

トリソミー8陽性骨髄異形成症候群に合併した陰茎壊疽性膿皮症の1例

著者: 横山彩乃 ,   濱菜摘 ,   吉澤優太 ,   柴崎康彦 ,   木村浄土 ,   鈴木隆晴 ,   関義信 ,   阿部理一郎

ページ範囲:P.172 - P.178

要約 41歳,男性.初診2か月前から発熱とともに陰茎潰瘍を認め,前医での抗菌薬治療にて潰瘍は軽快した.経過中貧血を認め,骨髄検査でトリソミー8陽性骨髄異形成症候群と診断された.初診11日前に発熱,陰茎の潰瘍が再燃し,精査加療目的に当科に紹介され受診した.血液検査で白血球31,950/μl,CRP 19.6 mg/dlと上昇し,病理組織で真皮全層に好中球を主体とする炎症細胞の浸潤を認め,各種培養検査は陰性であった.壊疽性膿皮症と診断し,プレドニゾロン60 mg/日(1 mg/kg/日)の内服を開始すると速やかに潰瘍は上皮化した.近年,トリソミー8陽性骨髄異形成症候群に腸管Behçet病を合併する報告が増えているが,その他にもSweet病や壊疽性膿皮症の合併例も報告されている.トリソミー8が好中球のアポトーシスを抑制することにより,好中球性皮膚症の病態に関与している可能性が示唆される.トリソミー8陽性骨髄異形成症候群では,好中球性皮膚症を合併しないか慎重に経過をみる必要がある.

骨髄異形成症候群を合併したステロイド治療抵抗性壊疽性膿皮症にアダリムマブが奏効した1例

著者: 長岡さゆこ ,   林周次郎 ,   岡本麻希 ,   森ひとみ ,   安達夏紀 ,   野中一輝 ,   宮本沙織 ,   吉田愛 ,   渡邉千智 ,   井川健

ページ範囲:P.179 - P.183

要約 60歳,女性.1か月前より右頰部に痤瘡様の皮疹が出現し,徐々に拡大し潰瘍化した.組織学的検討や培養検査結果を含めて検討し,壊疽性膿皮症と診断した.経過中に汎血球減少を認め骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes : MDS)と診断された.プレドニゾロン1 mg/kg/日(50 mg/日)投与で治療開始したが難治であったため,血液内科と相談の上,アダリムマブを併用し症状は改善した.2019年壊疽性膿皮症の治療にアダリムマブが追加承認されたが,血液疾患を合併する症例への使用は少ない.もともとMDS合併の壊疽性膿皮症は難治例が多く,これまでは治療に難渋していたものと考えられる.血液疾患に対する抗TNF-α抗体の使用は慎重な対応が望まれるが,近年アダリムマブがMDSに有効であったとする報告も散見される.このことからも,MDSを合併する壊疽性膿皮症に対しては,アダリムマブによる治療を考慮してもよいのではと考えた.

マイオピニオン

若手医師の指導に関する私見

著者: 岸部麻里

ページ範囲:P.104 - P.105

1.はじめに
 ある日,本誌編集室より「若手を指導するにあたっての苦労や工夫」とのお題でコラム執筆の依頼をいただきました.さて,どうしよう? せっかくの機会ですから,指導される側から指導する側となるまでに学んだ,漠然と頭の中にある考えを整理したいと思います.

連載 Clinical Exercise・198

Q考えられる疾患は何か?

著者: 加藤塁

ページ範囲:P.101 - P.102

■症 例■
患 者:20歳台,男性
主 訴:全身の鱗屑・過角化,眼瞼外反
家族歴・既往歴:姉が同様の症状.家族内に近親婚はない.
現病歴:出生時には体幹・四肢は膜様の鱗屑に包まれていた.その後は全身に過角化・鱗屑が著明となり,近医でさまざまな外用治療が行われていたが皮膚症状の改善は得られなかった.近年では両眼瞼の外反が目立つようになった.
現 症:体幹,四肢に鱗屑,過角化を認め,鱗屑は大型で褐色であった(図1a).全身の潮紅,紅皮症はみられなかった.関節屈曲部や掌蹠でも顕著な角質増殖がみられた.顔面では著明な眼瞼外反を伴っていた(図1b).

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ページ範囲:P.97 - P.97

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ページ範囲:P.99 - P.99

文献紹介 フリーアクセス

ページ範囲:P.171 - P.171

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.185 - P.185

あとがき フリーアクセス

著者: 大山学

ページ範囲:P.188 - P.188

 「いくさ」には戦う双方にそれなりの理由があり第三者がどちらに大義があるのかということを正確に判断することはしばしば難しいと言えましょう.今,中東で起きている争いも長い歴史の流れのなかで生じたものであり,私たちが正しくコメントできるようなものではないのだと思っています.紛れもない事実は,何の罪もない人々が巻き込まれ,傷つき,悲しんでいるということでしょう.そうした状況のなか,奮闘する医療従事者の姿が報道されています.電源が落ちたなかで救命のためスマホの光を頼りに手術する医師,爆撃の合間に負傷者を搬送する看護師などの姿を目にすると同じ医療従事者として誇らしく,感動し,感謝の気持ちを抱きます.彼らにとって,診療や救命はもはや「仕事」の域を超え,「人としてするべきもの」なのでしょう.「医は仁術」という言葉が自然と思い浮かびます.
 一方,医療従事者である私たちにとって,医療行為が「仕事」であり「業務」であるのも事実です.それを嫌がうえでも実感するのが,この島国で今騒がれている「医師の働き方改革」でしょう.そもそも私たちの業務は常に自発的に知識・技量をアップデートしなくては成り立つのが難しい(少なくとも第一線にはいられない)という側面があります.また,医学は先人たちの経験を後進が引き継ぎ,たゆまぬ改良を加え発展してきた学問体系です.医育なくして医学なし,研鑽なくして良医なしです.そもそも不可分のものを法規的に定義し定量せよと言われても無理があるのではと思います.もはや「医は仁術」の気概を維持するのが難しくなりつつあるようにも見えてきてしまいます.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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