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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科78巻3号

2024年03月発行

雑誌目次

原著

難治性アトピー性皮膚炎患者に対するデュピルマブとJAK阻害薬による治療経過—市中クリニックにおける実臨床に基づく考察

著者: 稲冨徹 ,   徳橋和子 ,   中島久美子 ,   藤巻光惠 ,   安倍弥生 ,   藤川一穂

ページ範囲:P.200 - P.207

要約 既存治療抵抗性で,EASI>20のアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis : AD)患者に対し,デュピルマブ(以下,Dupi)とJAK阻害薬(以下,JAKi)を導入し,1年間にわたり市中クリニックで経過を観察した.Dupiでは1年後に11/14例でEASI(eczema area and severity index)75を達成し,バイオマーカーであるIgEとTARC値も臨床経過に一致して低下した.一方JAKiでは1年後に10/14例がEASI 75を達成したが,IgEとTARC値には臨床経過との乖離がみられた.期待した効果が得られない場合,両者のスイッチが有用な症例がある.JAKiによる治療では,IgEやTARCが病勢や薬効を反映しない.また感染症を代表とする有害事象にも留意が必要なので,患者による自己評価や医師による皮疹の評価がより重要になる.経過を重視した柔軟な使い分けが重要と考える.

症例報告

血液浄化療法が有効であったバンコマイシン誘発型中毒性表皮壊死症様線状IgA水疱性皮膚症の1例

著者: 石﨑真由 ,   内山明彦 ,   西尾麻由 ,   遠藤雪恵 ,   安田正人 ,   太田浄 ,   高澤知規 ,   茂木精一郎

ページ範囲:P.209 - P.215

要約 61歳,男性.心筋梗塞に伴う急性腎不全で血液透析中,菌血症に対してバンコマイシンを含む抗菌薬を投与したところ全身にびらんを伴う紅斑と水疱が出現した.病理組織学的に表皮細胞の壊死を欠き,表皮下水疱,好中球主体の炎症細胞浸潤あり.蛍光抗体直接法では表皮基底膜部にIgAが線状に沈着していた.ELISA法を用いた検討では,患者血清中IgAのヒトⅦ型コラーゲンに対する結合能がバンコマイシン濃度依存性に増加した.以上から,バンコマイシン誘発型中毒性表皮壊死症様線状IgA水疱性皮膚症と診断した.投与中の薬剤を中止し,プレドニゾロン1 mg/kg,ジアフェニルスルホン投与を開始した.加えて血液透析および血漿交換療法を行い,徐々に皮疹は改善した.本疾患は致死率が高く,特に腎機能障害のある症例には早期の血液浄化療法が治療の選択肢となりうると考える.

バリシチニブ内服が奏効したTNF-α阻害薬誘発性掌蹠膿疱症様皮疹の1例

著者: 上野彩夏 ,   金子栄 ,   松本香奈枝 ,   角田佳子

ページ範囲:P.217 - P.222

要約 67歳,女性.51歳発症の関節リウマチに対し64歳よりTNF-α阻害薬のゴリムマブにて加療していた.67歳時に掌蹠の紅斑と膿疱,右下腿の紅斑が出現し,拡大するため当院を紹介受診した.TNF-α阻害薬によるparadoxical reactionも考えゴリムマブを中止し,ステロイド/ビタミンD3配合薬の外用を開始したが皮疹の増悪を認めた.掌蹠膿疱症様の皮疹であったためグセルクマブの投与に切り替え,2回の投与を行ったが,皮疹は不変,一部は悪化したため,グセルクマブを中止し,バリシチニブの投与に変更した.紅斑は速やかに軽減したが,変形の改善には半年の投与が必要であった.バリシチニブは関節リウマチにも保険適用のあるJAK阻害薬であり,paradoxical reactionに関与するとされているIFNも抑えるため,有効であったと考える.通常は薬剤中止や変更で改善することの多いparadoxical reactionだが治療抵抗性のこともある.そのようなときはJAK阻害薬が有効な治療選択肢となる可能性が示唆された.

関節リウマチ患者にリウマトイド結節と経表皮排泄を伴ったpalisaded neutrophilic granulomatous dermatitisがみられた1例

著者: 定本真梨子 ,   濱中美希 ,   藤岡彰 ,   石河晃

ページ範囲:P.223 - P.229

要約 55歳,女性.3年前に関節リウマチと診断された.半年前より四肢関節部に圧痛を伴う腫瘤が出現したため紹介され受診した.初診時,両肘頭部と両膝関節伸側に痂皮を付す大豆大の皮下結節を複数個認めた.病理組織所見では真皮浅層に壊死を中心とする柵状肉芽腫が形成され,壊死物質と変性した膠原線維の周囲には好中球と核塵がみられた.さらに肉芽腫性病変は経表皮排泄をきたしていた.以上より経表皮排泄を伴ったpalisaded neutrophilic granulomatous dermatitisと診断した.その半年後,左肘頭部に表皮変化のない結節を生じ,生検にて病理組織学的に典型的なリウマトイド結節の所見が認められた.関節リウマチ患者にpalisaded neutrophilic granulomatous dermatitisが生じた報告は比較的少ないが,臨床的にリウマトイド結節とされ,この診断名を使用されていない症例も多くあるのではないかと考えた.両者の臨床像,想定発症機序や病理組織像には共通点があり,これらの一部はオーバーラップする可能性がある.

アトピー性皮膚炎に続発した衛星病巣を伴う毛細血管拡張性肉芽腫の1例

著者: 佐々木直起 ,   長谷川道子 ,   田村敦志

ページ範囲:P.231 - P.236

要約 37歳,女性.アトピー性皮膚炎の病変内に毛細血管拡張性肉芽腫が出現し,その後明らかな誘因なく衛星病巣が発生した.初診時,右肘窩の苔癬化局面内に12×10 mmの紫紅色結節があり,周囲に同じ色調の小結節が散在していた.原発病巣を切除後,湿疹病変に対してステロイド外用を行うことで衛星病巣は消退傾向を示した.衛星病巣を伴う毛細血管拡張性肉芽腫は医中誌WEBで検索しえた限り,これまでに本邦で20例報告されていた.多くは原発巣に対する外科的治療を契機に発症しており,自験例のように特に誘因なく発生した例は4例のみであった.また,大部分は特別な発生母地を有しておらず,アトピー性皮膚炎に合併した例は2例のみであった.組織像の検討では主病変から離れた深部や側方に病巣を有する例が自験例以外に4例あり,病巣の拡がりを組織学的に検索することが,再発や衛星病巣発症要因の解明に役立つのではないかと考えた.

小児に発生したdermal schwannomaの1例—Dermal schwannoma内外報告例の臨床・組織学的特徴

著者: 佐々木直起 ,   長谷川道子 ,   田村敦志

ページ範囲:P.237 - P.240

要約 9歳,男児.初診の4,5年前に気づいた腹部の小結節が,徐々に増大し当科を受診した.初診時,右側腹部に弾性硬で表面に凹凸と光沢のある10×8 mmの淡紅褐色結節と隣接する径2.5 mmの小結節を認めた.小児のため経過観察としたが,その後も増大したため10歳で局所麻酔下に切除した.切除標本組織像では真皮全層に連なるように多数の腫瘍塊があり,Verocay bodyの存在から,蔓状神経鞘腫と診断した.真皮内に発生する神経鞘腫はdermal schwannomaと呼ばれることがあるが,その臨床・組織学的特徴はあまり知られていない.これまで国内外で報告されたdermal schwannoma 24例について検討したところ,組織学的には神経鞘腫としては稀とされる蔓状神経鞘腫が13例を占めた.臨床像では紅色調や褐色調の色調変化のほか,多結節性の組織像を反映して表面に凹凸を伴う例が6例存在し,dermal schwannomaを疑う臨床的な手掛かりになると考えた.

悪性黒色腫肺転移と同時期に妊娠が判明した1例

著者: 松本紗也加 ,   水橋覚 ,   栗山春香 ,   木村俊寛 ,   宮下梓 ,   福島聡

ページ範囲:P.241 - P.245

要約 35歳,女性.左下腹部悪性黒色腫(malignant melanoma:メラノーマ)術後7年で腰部右側に黒色斑が出現し,生検で原発性メラノーマの診断となった.拡大切除+センチネルリンパ節生検を施行し,pT3aN0M0,pStageIIAの診断となり,術後1か月で多発肺転移とほぼ同時に妊娠が判明した.妊娠継続しながら進行期の治療を行うことが困難であることや,妊娠そのものがメラノーマの増大や進展に寄与する可能性を考慮し,患者の同意の上,人工妊娠中絶を行い,ダブラフェニブ・トラメチニブを開始した.治療開始後3か月で腫瘍は縮小した.治療開始後13か月時点で,再発は認めていない.生殖可能年齢の患者をメラノーマと診断した場合,妊娠がメラノーマに及ぼす影響を十分に説明し,不妊カウンセリングの専門家や産婦人科と連携する必要がある.また,妊娠早期に進行期メラノーマの診断となった場合は,早急に産婦人科と協議し,人工妊娠中絶を検討する必要もある.

右踵に広基有茎性結節として生じた皮膚原発CIC遺伝子再構成肉腫の1例

著者: 松本薫郎 ,   川島裕平 ,   小林由季 ,   加藤達也 ,   森智章 ,   中山ロバート ,   辻川華子 ,   大喜多肇 ,   中村善雄

ページ範囲:P.247 - P.252

要約 55歳,女性.1年前より右踵に皮疹を自覚した.近医にて血管拡張性肉芽腫と診断され,冷凍凝固療法で加療されたが軽快せず,次第に潰瘍化した.3か月前より急速に増大し,長径29 mm大の潰瘍を伴う紫紅色広基有茎性結節となった.全切除生検の病理組織像では,濃染腫大核と明るい胞体を有する小円形細胞が表皮直下から皮下脂肪織にかけて胞巣を形成しながら増生していた.免疫組織学的所見ではAE1/AE3陰性,desmin陰性,CD99陽性,WT1陽性であり,Ewing様肉腫,特にCapicua transcriptional repressorCIC)遺伝子再構成肉腫を疑った.CIC遺伝子の再構成をFISH(fluorescence in situ hybridization)法にて確認し,自験例をCIC遺伝子再構成肉腫と確定診断した.本疾患概念は分子病理学の発展により近年確立したものである.皮膚原発例は稀であるものの,皮膚に生じうるsmall round cell tumorの1つとして念頭に置くべき疾患と考えた.

多形紅斑様皮疹を生じたヒル咬傷の1例

著者: 大澤絢香 ,   梅澤慶紀 ,   福地修

ページ範囲:P.253 - P.257

要約 75歳,男性.初診10日前にヤマビルに左腋窩と左上腕の2か所を吸血された.その7日後から,咬部に紅斑,四肢,体幹に紅色丘疹と小型の紅斑が出現した.また同時期に39 ℃台の発熱や全身倦怠感を生じたため当科を受診した.血液検査では,AST 86 U/l,ALT 48 U/l,CRP 4.08 mg/dlと異常値がみられた.ヒル咬傷に続発した発熱と紅斑を考え,プレドニゾロン20 mg/日とベポタスチンベシル酸塩酸塩20 mg/日を開始した.治療2日後には解熱し,7日後にはヒル咬部の紅斑と全身の皮疹も消退した.自験例はプレドニゾロン投与後に臨床症状が改善したこと,刺入部の好酸球浸潤が強かったことからヒルの唾液成分に対するアレルギー反応として全身に紅斑が出現したと考えた.既報告では,ヒル咬傷によるリケッチア感染症の報告があるため,自験例のように高熱を生じた症例では感染症の鑑別を行うべきであった.

アダリムマブの単独療法が奏効し寛解を維持できたストーマ周囲型壊疽性膿皮症の1例

著者: 山本由理 ,   石田済

ページ範囲:P.259 - P.264

要約 77歳,男性.既往歴に高血圧症,糖尿病,腎機能障害あり.初診3年前に膀胱癌に対して,腹腔鏡下膀胱全摘出術と回腸導管ストーマ形成術を施行された.初診1か月前よりストーマ周囲に皮膚びらん,過剰肉芽が出現.同部位より排膿があり,ストーマの使用が困難になった.皮膚潰瘍を呈し,生検にてストーマ周囲型壊疽性膿皮症と診断した.多数の既往歴があるため,副腎皮質ステロイドの全身投与や免疫抑制剤の使用は難しく,かつ外科的切除は困難であったことから,アダリムマブの単独療法を開始した.1年3か月の経過を経て治癒し,寛解を維持できた.アダリムマブをストーマ周囲型壊疽性膿皮症の患者に使用した報告は少なく,かつアダリムマブの単独療法が奏効した報告はさらに少ない.ストーマ周囲型壊疽性膿皮症の患者で免疫抑制療法を併用できない場合でも,アダリムマブの単独療法は有用であると考えた.

マイオピニオン

第六感を持つ皮膚科医になろう

著者: 野村有子

ページ範囲:P.198 - P.199

 私は,皮膚科医院を開業して25年になりました.皮膚は人間が持っている最大の臓器でありながら,まだまだ未知なことが多く,知れば知るほどその奥深さと魅力に取りつかれてしまいます.

連載 Clinical Exercise・199

Q考えられる疾患は何か?

著者: 西盛信幸

ページ範囲:P.195 - P.196

■症 例■
患 者:46歳,女性
主 訴:陰部腫瘤
既往歴:卵巣囊腫
現病歴:初診3年前から下腹部に赤色調の結節を自覚した.徐々に増大してきたが,医療機関を受診することなく様子をみていた.初診3か月前に表面がびらんしてきたため,近医皮膚科を受診し,精査加療目的に当科を紹介され受診した.
現 症:右大陰唇から連続して縦11.1 cm,横14.5 cm,高さ12 cmの褐色調で表面平滑な,島状の色素沈着と脱色斑が混在する軟らかい腫瘤があった.腫瘤表面には4 cmまでの不規則なびらん,潰瘍が散在していた(図1a).基部には14×8 mmの茎を有していた(図1b).

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目次

ページ範囲:P.191 - P.191

欧文目次

ページ範囲:P.193 - P.193

掲載論文の撤回について

ページ範囲:P.269 - P.269

本誌77巻13号(2023年12月号)に掲載された下記の論文は、Ohtsuka T, Odagaki A, Akatsuka T: Case of systemic sclerosis overlapping with neuromyelitis optica. J Dermatol 49: e40-e41, 2022との二重投稿であることが確認されたため、本誌掲載論文から撤回する。
小田垣彩花、大塚 勤、赤塚 太朗:抗MOG抗体陽性の視神経脊髄炎関連疾患を合併した全身性強皮症の1例.臨床皮膚科77:1055-1060、2023

文献紹介

ページ範囲:P.236 - P.236

書評

ページ範囲:P.266 - P.266

書評

ページ範囲:P.267 - P.267

次号予告

ページ範囲:P.268 - P.268

あとがき

著者: 阿部理一郎

ページ範囲:P.272 - P.272

 『臨床皮膚科』に多くの論文を投稿していただき,ありがとうございます.執筆した先生が時間をかけ,指導医の先生とともに悩みながら書き上げた論文を,少しでもさらによくできればと編集委員として関わらせていただけることは大変な幸せです.投稿されるのは若い先生が多いと思いますので,論文執筆の際に気を付けていただきたい点をいくつか書きます.
 まずは診断ですが,論文にしようと思われる症例は診断に悩まれたものが多いと思います.なかなか確定診断を断定できないことが多いかと思いますが,そのようなときこそ丹念な臨床情報,現症記載を通し,種々の鑑別診断の除外の考察は読者への教育的なメッセージになります.誰が診ても診断を疑わないという典型例が論文としてふさわしいのではなく,深い考察で診断にたどり着く過程は非常に良い疑似体験になります.

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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