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雑誌目次

雑誌文献

臨床皮膚科78巻7号

2024年06月発行

雑誌目次

今月の症例

エゾウイルス感染症の1例

著者: 野口藍子 ,   小松成綱 ,   橋本喜夫 ,   金田和宏 ,   三津橋和也 ,   渡慧 ,   田宮和真 ,   後藤明子 ,   山口宏樹

ページ範囲:P.465 - P.470

要約 40歳台,男性.6月上旬,北海道内の山中に入った翌日に右上腹部のマダニに気づき,自己抜去した.抜去後4日目から発熱が持続し7日目に当科に紹介された.当科初診時,右腹部に直径1 cm大の痂皮の付着を認め,発熱,食欲不振,関節痛,筋肉痛を伴った.他のバイタルサインは異常なく,頸部・腋窩リンパ節は触知しなかった.血液検査では白血球減少,肝酵素上昇,フェリチン上昇,CRP上昇を認めた.ドキシサイクリンを処方し経過をみたところ4日後から解熱し,新規症状なく経過した.患者血液,マダニ刺咬部の皮膚,患者が持参したマダニ虫体からエゾウイルス遺伝子が検出され,エゾウイルス感染症と診断した.本症はダニ媒介性感染症の一種で2019年に本邦で初めて確認された.自験例では皮膚検体を採取していたことから感染経路がダニ媒介性であることがより明確になり,疫学的・公衆衛生学的にも重要な知見を得ることができた.

症例報告

ヒドロキシクロロキンにより良好な臨床経過を得た深在性エリテマトーデスの1例

著者: 桜莉唯心 ,   杉山由華 ,   高木正之 ,   戸倉新樹

ページ範囲:P.471 - P.475

要約 16歳,女性.20XX年に右上腕に皮下硬結を自覚し,他部位にも同病変が現れ,紹介医を受診した.血液検査では,dsDNAの軽度高値以外に異常所見はなかった.左上腕より皮膚生検し,リンパ球を中心とする炎症細胞が皮下脂肪組織の小葉中心性に浸潤していた.深在性エリテマトーデスと診断し,プレドニゾロン(PSL)20 mg/日内服を開始した.1か月後より経過観察を当院で行うこととなり,初診時,右上腕,左上腕,左大腿にそれぞれ硬結を認めた.ヒドロキシクロロキン(HCQ)200 mg/日内服を追加し,皮下硬結の縮小を認めたため,PSLを漸減した.現在HCQ 200 mg/日を継続しているが,皮下硬結は消退または一部消失している.LEPはエリテマトーデスの比較的稀な一型であり,経過中に脂肪組織の変性の程度に応じて種々の陥凹を呈する.HCQの使用により陥凹への進展を避けつつ,免疫抑制剤の早期減量を行うことは,特に成長期・若年者の患者には重要なことであり,早期のHCQ使用を考慮すべきである.

背部の皮疹の性状から抗SAE抗体を検出しえた皮膚筋炎の1例

著者: 小笠原渚 ,   福山雅大 ,   佐藤洋平 ,   小西里沙 ,   市村裕輝 ,   水川良子 ,   沖山奈緒子 ,   大山学

ページ範囲:P.477 - P.481

要約 64歳,女性.初診3か月前より顔面の皮疹を自覚した.ステロイド外用を行うも難治のため当科を初診した.受診時,前額部や頰部,下顎に紅斑がみられた.右下背部では広範囲に紅斑を認めた.手指にはGottron丘疹や爪囲紅斑がみられた.また顔面表情筋の筋力低下を示唆する開口障害を呈していた.皮膚筋炎を疑い,抗ARS,Mi-2,MDA5,TIF1-γ抗体を測定したが陰性であった.免疫沈降-ウェスタンブロット法にて抗SAE抗体が陽性となった.病理組織学的所見も合わせ,抗SAE抗体陽性皮膚筋炎と診断した.プレドニゾロン(PSL)50 mg/日の内服を開始し,皮疹や筋症状は改善傾向となった.現在PSL 11 mg/日まで漸減し,症状の再燃はない.自験例は抗SAE抗体陽性皮膚筋炎に特徴的なangel-wings徴候に類似した皮疹がみられた.皮膚筋炎では保有する抗体ごとに臨床像が異なることが知られる.保険収載の抗体検査が陰性であっても積極的に自己抗体を検索する必要があると考えた.

ハイドロキシウレア投与患者に生じた踵部潰瘍の1例

著者: 落合咲和子 ,   山口礼門 ,   藤井俊樹 ,   金原拓郎 ,   清水晶

ページ範囲:P.483 - P.487

要約 72歳,男性.本態性血小板血症のためハイドロキシウレア(HU)内服中であった.内服開始2年後より左踵部,右内踝に有痛性皮膚潰瘍が出現した.抗菌薬内服・外用治療を行ったが難治であり,当科を紹介され受診した.採血,下肢動脈・静脈エコーで異常はなく,糖尿病,膠原病,血管炎,血栓症などは否定的であった.病理組織学的にリンパ管拡張と線維化があり,血管壁の変性,内皮細胞の腫大はあるが,血管炎を疑う所見はなかった.HUによる皮膚潰瘍と診断し,同薬剤を中止のうえ弾性包帯を使用したところ,潰瘍は3か月後に上皮化した.HUによる潰瘍は有痛性であり外踝,踵部に好発する.治療はHU中止であるが潰瘍の発症および増悪因子にうっ滞が挙げられることからうっ滞の早期改善に介入することも重要である.潰瘍部から悪性腫瘍を生じる例もあり注意を要する.HUは血液疾患に対する重要な薬剤であり,足部の難治性潰瘍の鑑別で考慮する必要がある.

中毒性表皮壊死症様の症状を呈したエンホルツマブ ベドチンによる皮膚障害の1例

著者: 須田文 ,   山田隆弘 ,   武藤正彦 ,   是永佳仁

ページ範囲:P.489 - P.493

要約 83歳,男性.左尿管癌の三次治療としてエンホルツマブ ベドチン(EV)が開始された.初回投与から9日後に全身に瘙痒を伴う紅斑を認め,その後発熱,粘膜症状が出現した.病理組織検査では表皮が全層性に脱落しており,EVによる皮膚障害と診断した.ベタメタゾン4 mgを開始したところ,紅斑は消退し,びらんは上皮化傾向を示した.EVは正常皮膚にも発現するnectin-4を標的とした抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)である.Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS)や中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)様の皮疹を生じた重症例も報告されており,死亡例もある.自験例はステロイド投与にて治癒したが,performance statusの悪化のためEV再投与は行われず,原疾患により死亡する経過を辿った.EVによる重篤な皮膚障害は従来のTENとは異なるメカニズムに起因する可能性があり,ステロイド内服の再投与など,適切な治療方針についての議論を他科主治医と熟議していく必要がある.

細菌感染を伴った増殖性天疱瘡の1例

著者: 三海瞳 ,   石井健 ,   鷲崎久美子 ,   石河晃

ページ範囲:P.495 - P.500

要約 86歳,女性.受診1か月前に外陰部に小指頭大の褐色斑が出現.その後,鼠径部や肛門部まで拡大傾向を認めた.徐々に瘙痒感と疼痛を伴ったため,近医を受診し精査目的に当科に紹介され受診した.当院初診時は口腔内病変と,外陰部に膿疱を混じる隆起性褐色斑を認めた.皮膚生検を行い,病理組織で基底層直上での棘融解と好酸球を含む表皮内膿疱形成がみられ,蛍光抗体直接法では細胞間にIgGが陽性.血液検査では抗デスモグレイン3抗体が上昇しておりHallopeau型増殖性天疱瘡と診断した.本疾患は外陰部や口腔粘膜に膿疱を混じる皮疹として発症することが特徴である.過去の本邦報告例を集計したところ表皮増殖部での好酸球性膿疱の存在がNeumann型より有意に多く,また,細菌感染合併例も多かった.細菌感染が発症機序あるいは病態の形成に関与している可能性があると推察した.

尋常性天疱瘡から移行した落葉状天疱瘡にリツキシマブが奏効した1例

著者: 桑折信重 ,   白石研 ,   八束和樹 ,   林真衣子 ,   吉田諭 ,   武藤潤 ,   村上正基 ,   藤澤康弘

ページ範囲:P.501 - P.507

要約 68歳,女性.当科初診2か月前から咽頭の違和感を自覚した.その後,口腔内にびらん・潰瘍が出現し,皮膚にも水疱・びらんを認め,前医を受診した.尋常性天疱瘡が疑われ当科を紹介され受診した.抗デスモグレイン(Dsg)1および3抗体価が高値であり,生検組織で基底膜直上に表皮内水疱を認め,内部に好酸球浸潤・棘融解細胞がみられた.蛍光抗体直接法では表皮細胞間にIgG・C3の沈着を認め,粘膜皮膚型尋常性天疱瘡と診断した.ステロイドパルス,プレドニゾロン,アザチオプリン,血漿交換,免疫グロブリン大量静注療法で一時寛解するも,8か月後皮疹が再燃した.再燃時は粘膜疹を欠き抗Dsg1抗体価のみ上昇していたことから落葉状天疱瘡に移行したと判断した.治療再開で寛解するもプレドニゾロン減量で再燃したため,2回目の再燃時にリツキシマブ(RTX)を併用し,病勢は良好にコントロールされプレドニゾロンの減量が可能となった.RTXの効果持続期間は6か月から12か月とされるため効果減弱前に再投与を検討している.自験例のようにPSL減量困難な難治性天疱瘡に対してはRTX投与を積極的に検討すべきと考える.

ブロダルマブ投与中にCrohn病様腸炎を生じた尋常性乾癬の1例

著者: 山根万里子 ,   林宏明 ,   松本啓志 ,   青山裕美

ページ範囲:P.509 - P.515

要約 36歳,女性.尋常性乾癬に対しブロダルマブを導入した.投与開始33か月後に発熱,腹痛,嘔吐,下痢を認めた.血液検査で炎症反応の上昇あり,上腹部CTで回腸末端を中心に強い壁肥厚を占める腸炎所見あり.内視鏡検査で回腸末端部に大小さまざまな不整形の深い潰瘍が多発していた.各種培養検査は陰性だった.自験例はIL-17受容体A阻害薬の使用歴から,ブロダルマブによるCrohn病様腸炎と診断した.炎症性腸疾患の既往や合併症はなく,IL-17阻害薬投与によりde novo誘発されたと考えた.IL-17阻害薬の使用においては炎症性腸疾患のde novo誘発を惹起,もしくは悪化させる可能性が指摘されているが,ブロダルマブ誘発Crohn病様腸炎例の皮膚科からの症例報告は自験例が本邦初である.IL-17阻害薬を使用時の注意喚起のため報告した.

線状を呈した陰茎部Fordyce状態の1例

著者: 宜野座淳善 ,   川野貴代 ,   布袋祐子

ページ範囲:P.517 - P.521

要約 54歳,男性.初診1日前より陰茎部および頰粘膜の小丘疹に気づき当科を受診した.初診時,陰茎部に自覚症状を伴わない1 mm前後の常色から黄白色丘疹が主に皺に一致して線状に多発していた.さらに口唇辺縁にも黄白色の丘疹がみられた.陰茎部のダーモスコピー像では白色から黄白色の小球が皺に一致し,皺との間にも同様の小球がみられた.同部位から生検した病理組織所見では毛包付属器を伴わない複数の脂腺が直接表皮に開口しており,臨床と併せFordyce状態と診断した.自験例のように線状を呈したFordyce状態の報告数は少なく,3例のみであった.その発生機序は不明であるが,外用剤に含まれた成分による脂腺増生の可能性が示唆された.特徴的な分布を呈するFordyce状態を診察した際は,外用剤の使用を含めた生活習慣について聴取し,可能性のある要因を極力排除するよう生活指導を行うことが重要と考えた.

結節性硬化症と関節リウマチを合併した1例

著者: 酒井伽奈 ,   川口亜美 ,   田中美奈子 ,   上中智香子 ,   山本有紀 ,   神人正寿 ,   岩橋吉史

ページ範囲:P.523 - P.526

要約 40歳台,女性.小学生時に結節性硬化症と診断され,46歳時より関節リウマチと診断され,メトトレキサートを開始した.48歳時に両足趾爪下に多発する皮膚結節について手術を希望され,受診した.約4か月後に,最も大きい左第5足趾皮膚結節の全切除術を施行した.結節性硬化症と関節リウマチの合併例は2001〜2023年の範囲内では,今回が初の報告となる.両者の関係性について,自験例ではKoenen腫瘍の増大と関節リウマチの臨床経過が関連していたことより,CD8陽性T細胞におけるmTOR(mechanistic target of rapamycin)の活性化により,関節リウマチの病勢の悪化やKoenen腫瘍の増大をきたした可能性があると考えた.

骨髄異形成症候群の治療中に生じた播種性Fusarium感染症の1例

著者: 谷口智香 ,   藤沼千尋 ,   半田梓 ,   鈴木貴子 ,   岩澤うつぎ ,   亀高未奈子 ,   山内悠子 ,   矢口貴志 ,   上原さとみ

ページ範囲:P.527 - P.532

要約 91歳,女性.白血病化した骨髄異形成症候群に対するレナリドミドによる治療後の再燃に対し,アザシチジン導入目的に当院血液内科に入院した.導入5日後から,38℃台の発熱が遷延し,右頰部と左上腕部に中央に水疱を伴う母指頭大,類円形の紫紅色結節が出現した.体幹や四肢に同様の結節の増数,拡大を認め,右下腿の結節から皮膚生検と組織培養を行った.深在性真菌感染症を疑い,アムホテリシンBの投与を開始したが,皮疹はさらに増数,拡大した.全身状態の悪化により,皮疹出現後16日で永眠した.組織培養では,白色絨毛様のコロニーが発育し,スライドカルチャーでは三日月型の大分生子を認めた.遺伝子解析の結果,播種性Fusarium感染症と診断した.免疫不全状態の患者に,中心壊死を伴う結節・紅斑を認めた場合,播種性Fusarium感染症を鑑別に挙げるべきである.播種性Fusarium感染症は致死率が高く,早期診断・治療が望まれるため,早期に直接鏡検や皮膚生検,組織培養を積極的に行うことが重要である.

マイオピニオン

皮膚科医は上司の背中を見て育つ?

著者: 吉田雄一

ページ範囲:P.462 - P.463

1. はじめに
 2023年4月から皮膚科学講座の責任者となり,マネジメントの重要性を認識しているのですが,いまだに部下に仕事を振ることが苦手です.そこで,これまでお世話になった上司の先生がどのように後進の指導・育成を行っていたのかを振り返ってみることにしました.あくまでも筆者の個人的な見解に基づくものですが,読者の皆様の参考になれば幸いです.また,見る人が見ればすぐにわかってしまうのですが,勤務先とお名前はイニシャルで記載し,紙幅の関係上お世話になった一部の先生のみをこの場をお借りして紹介させていただきます.

連載 Clinical Exercise・202

Q考えられる疾患は何か?

著者: 藤尾由美

ページ範囲:P.459 - P.460

■症 例■
患 者:43歳,男性
主 訴:右下顎部の皮疹
既往歴:アトピー性皮膚炎
家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:初診1か月前より右下顎部に軽度の圧痛を伴う‘にきび’様の皮疹が出現した.近医にてセフジニル,バシトラシン・フラジオマイシン硫酸塩軟膏等にて加療されたが,改善なく当科を紹介され受診した.
現 症:右頰から下顎部の須毛部に軽度の圧痛を伴う手掌大の境界不明瞭な紅色局面を認め,滲出性痂皮,凝血塊と多数の毛孔一致性の膿栓や膿疱を伴っていた(図1a,b).病変部の須毛は大部分脱毛して疎になっており,局面の辺縁に残った毛も容易に抜毛された.また紅色局面とはやや離れた右頸部(図1a矢印)と下顎部正中(図1b矢印)に爪甲大の結節状病変を認めた.

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目次

ページ範囲:P.455 - P.455

欧文目次

ページ範囲:P.457 - P.457

文献紹介

ページ範囲:P.493 - P.493

書評

ページ範囲:P.534 - P.534

次号予告

ページ範囲:P.535 - P.535

あとがき

著者: 玉木毅

ページ範囲:P.538 - P.538

 ノイジーマイノリティという言葉を御存じだろうか? 声高な少数派などの意で,古くから政界では認識されているそうである.対義語はサイレントマジョリティである.医療機関はどこも,ノイジーマイノリティに振り回されている今日この頃ではないだろうか? 「御意見箱」でもきわめて非寛容な御意見にしばしば遭遇する.「〇〇先生は感じが悪い」といった御意見もよくあるが,漠然と「感じ悪い」という意見こそ上から目線で感じ悪い.
 誰でもSNSで発信できるようになってから,ますます幅を利かせている.さらに,元々人目を気にしたり忖度したりしやすく,故三波春夫氏の「お客様は神様です」を「お客様の言うことは絶対」と曲解している日本人では,振り回される度合が特に大きいのではないだろうか?

基本情報

臨床皮膚科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1324

印刷版ISSN 0021-4973

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