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雑誌目次

雑誌文献

medicina1巻7号

1964年10月発行

雑誌目次

今月の主題

てんかん

著者: 中沢恒幸

ページ範囲:P.988 - P.991

 てんかん―なんというイヤな言葉だろう。なんとか別な表現はないものか。この言葉から受ける印象は,てんかんの意識を消失して全身のけいれんを起こす発作―にのみ注目するからである。しかしこの病気は,精神運動発作や,臓器神経症や精神身体症など,内科的にも扱う疾患のなかへ,その考えかたがどんどん拡がりつつある。
 脳波の導入によつて,従来原因不明と考えられていた内科的疾患のうち,脳波上てんかん性のもののあることも判明してきた,―てんかんについての最新の考えかたを,最近の研究の話題のなかから紹介してみよう。

<話合い>てんかんをめぐつて—その考え方と治療

著者: 中沢恒幸 ,   斎藤佳雄 ,   石橋泰子

ページ範囲:P.992 - P.999

 中沢(司会)てんかんについて,3人でそれぞれの立場から話合いをすることになりましたが,まず外来に患者が来た場合に,それをどうやつててんかんと診断するか,見分けるかということから始めたいと思います。
 てんかんの特徴は,発作があつてそれが繰返されることです。その発作はよく調べると,持続時間1分のけいれん(ひきつけ発作)以外に短かい意識消失(欠神,absence)でほんの数秒間わからなくなつてしまう,いわゆる小発作に属するものや,朦朧状態になつてどこかへ歩いていくというものなどいろいろある。それはあくまで患者ならびに家族が訴える症状なんですが,まず石橋先生から,小児科の立場でしていただきましようか。

難治肺結核症の反省

著者: 島村喜久治

ページ範囲:P.1002 - P.1005

肺結核治療の焦点は難治肺結核症にしぼられてきた。10種をこえる抗結核剤を駆使しての化学療法と完成の域に達した外科療法が,この肺結核治療の最後の牙城に迫つているが,落城の日はまだ遠い。そこで,やや敗北主義めくがからめ手戦術として,これ以上難治肺結核を増やさない医学,つまり治療によつて肺結核を難治化させないという反省と,もう一つ医学以前の理由による肺結核の難治化を防ぐという反省がどうしても必要となる。昨年の実態調査によれば学会1型(広汎空洞型)は5万人,峠はすでに登りきつているのだが……………

いわゆる非特異性脳脊髄炎

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.1006 - P.1009

 いわゆる非特異性脳脊髄炎は特異的な原因が明らかにされない脳脊髄炎の一群を意味するもので,かなり広範な疾患がそのなかに含まれるものと理解される。臨床形態や病理像もさまざまなものが見られたがいに移行が考えられる。なかには比較的特異な臨床病理像を示すものがあるが,成因については不明で非特異性脳脊髄炎の範時にはいるものもかなりある。最近注目されている腹部症状ことに下痢に続発する神経障害の一群については成因,臨床病理知見にもとづきその位置づけが検討されつつあるが,現段階ではいわゆる非特異性脳脊髄炎の一つとして取り扱われるべきであろう。

EDITORIAL

輸血をめぐる最近の話題

著者: 高橋忠雄

ページ範囲:P.985 - P.987

 Landsteiner以来のすぐれた研究によつての血液型に関する知見は,輸血に伴う危険を完全にのぞいたかに思われ,古い時代には不可能視されたような手術さえ,それにより可能となつたことは,はかり知れない大きな貢献といわなくてはならない。

診断のポイント

心膜炎

著者: 高崎浩

ページ範囲:P.1011 - P.1013

兆候の分析は診断へのポイント
 心膜炎はいろいろの型で起こり,そして臨床日いくつかの特有な兆候を呈する疾患である。したがつて,前胸部痛とか,呼吸困難とか,上腹部の不快感とかを訴えて外来を訪れた患者で,心臓が左右に拡大していたり,心臓部が膨隆していたり,心音が微弱でかつ異常の摩擦音が聴かれたりするような場合には,一応心膜炎を疑つて病歴の追求,血圧の測定,胸部レ線の撮影,心音・心電図の描写,さらには心膜穿刺などとつぎつぎに実施して,診断への裏づけを積みかさねていくべきである。
 かくして患者に見いだされた種々の所見について,その所見がいかにして発生してきたかをも合わせ考察していくならば,診断は自から解明されるであろう。

知覚異常のテスト

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.1014 - P.1016

はじめに
 知覚異常はよく見られるもので,神経学的検査でも重要なものの一つである。知覚はまつたく主観的なものであるだけに,そのテストにはいろいろの困難さがある。知覚の種類,内容,性質についての十分な知識と知覚経路の解剖生理的な裏づけがテストの実施と所見の理解のうえに不可欠な要素である。また実施にあたつては心理的な側面も重要である。

刺激結腸

著者: 山形敞一

ページ範囲:P.1017 - P.1018

 不定の腹部症状や便通異常を訴えているにもかかわらず,明らかな器質的変化や先天異常を認めない場合のあることが,Howship(1830),Wilson(1922),Ryle(1928)らによりしだいに明らかにされ,ことにJordan & Kiefer(1929)以来Irritable colonと称されるにいたつた。本症はその症状に応じてSpastic colon,Unstable colon,Colonic neurosis,Functional colitis,Mucous colitisなどとも称せられ,わが国でも交替性便通異常症,大腸ジスキネジーなどといわれているが,近ごろでは刺激結腸または過敏性大腸という名称が多く用いられている。

治療のポイント

ビタミンB12

著者: 奥田邦雄

ページ範囲:P.1019 - P.1020

はじめに
 ビタミンB12の治療的用法について,従来の悪性貧血の治療のみならず,最近の大量療法にもふれ,またB12の同族体,ことにhydroxocobalaminが従来のcyanocobalaminより優れる点について述べる。
 ビタミンB12はそもそも悪性貧血の治療薬として肝臓から取り出されたものであり,ビタミンの中でもつとも微量,すなわちμg(γ,1/1000mg)単位でその生理的作用が論じられる。成人1日の食物からの摂取量は数γであり,B12欠乏による悪性貧血などに対しては1日数γの注射でも効果が認められる。

脳卒中初期のリハビリテーション

著者: 玉川鉄雄

ページ範囲:P.1021 - P.1023

 脳卒中初期のリハビリテーションということは,歩行練習のできるまでという意に解し,それに役立つ本としては,さきに出版した大島教授監修,著者訳の"Strike Back at Stroke"がもつとも実際的であると思う。そこでここでは医師にとつてその本だけでは不十分と思える点を補足するにとどめることにする。

肺吸虫症

著者: 岩崎基

ページ範囲:P.1024 - P.1026

肺吸虫症は根治できる
 肺吸虫症はわが国では北海道,青森以外はどこにもみられるが,中でも九州,四国などに濃厚に浸淫している。本症は衆知のように血痰,喀血など臨床症状が肺結核に酷似しているうえに,肺のレ線写真所見もはなはだ似ていて,患者の大半が肺結核と混同され,結核が化学療法によつて速やかに治癒するのに対し,本症には特効薬がなく長く患者を悩まして来た。
 肺吸虫症の治療薬としては,古くからエメチン・スチブナールが,近くはクロロキンがあるが,このうちもつとも強力とされたエメチン・サルファ剤の併用療法でも,長期間観察すれば,再発率が85%にも達し,また時に心筋障害など重篤な副作用を呈した。

老人性皮膚瘙痒症

著者: 安田利顕

ページ範囲:P.1026 - P.1028

掻破湿疹
 皮膚瘙痒症Pruritus cutaneumは皮膚病変がみられないで,瘙痒だけを主訴としている皮膚疾患と定義されている。しかし,Physiological itchingが一過性の皮膚の瘙痒であつて,皮膚になんらの変化もみられないのに比べると,本症では詳細にみると皮膚にいろいろの変化が伴つていることが多いのである。
 しばしばみられるのは,痒みのための掻破して起こる掻痕Kratzeffektである。

症例

胃幽門部に発生した好酸球性粘膜下肉芽腫の1例

著者: 斎藤泰弘 ,   柴山豊 ,   松本都喜夫 ,   渋谷敏朗 ,   多田靖

ページ範囲:P.1035 - P.1039

症例
 寺○明,41歳,会社員
 家族歴では父系の祖父ならびに父が気管支喘息に罹患している。

心電図をどう読むか

心電図CPC

著者: 和田敬

ページ範囲:P.1040 - P.1044

どこが異常か?
 この心電図を見た瞬間にいやな気がします。というのは一体どこに異常があるのかちよつと見当がつかないからです。異常な点がはつきりしているのなら,説明のもつていき方もあるのですが,とにかく,でぎるかぎりくわしくこの症例を見てみましよう。

異常脳波の症例

意識障害の脳波—脳幹部出血

著者: 安芸基雄 ,   江部充

ページ範囲:P.1045 - P.1047

はじめに
 日常の診療において,脳波の波形(pattern)からわれわれが受ける情報は,脳全体あるいは局所の機能的状態についてであり,ある疾患に特有な波型というものは脳波には見いだしえない。したがつて脳波が独自の立場から与える情報量は決して多くはない。診療にあたつて十分他の理学的所見あるいは一般検査所見を考慮し,それらを綜合したうえで脳波の波型を解釈してゆかねばならないゆえんである。
 しかし脳に由来すると思われる疾患,あるいはある疾患に伴う脳の機能的状態とその時間的推移をとらえるうえには,しばしば脳波が貴重な示唆を与え,時には決定的な意味をもちうる場合もある。以下脳波のはたしうる役割について,われわれの経験した若干の症例をあげてみよう。

グラフ

急性ポルフイリン症の呈色反應

著者: 佐々木英夫

ページ範囲:P.974 - P.975

 急性Porphyrin症は遺伝性のPorphyrin代謝障害にもとつく疾患として周知であるが,本邦でも最近症例が増しており,かなり頻度の多いことがわかってきた。
 発病はほとんど思春期以後に限られ,女性に多く,症状は急激かつ多彩(急性腹症,精神症,四肢弛緩麻痺,球麻痺→死亡)のためしばしば他種疾患と誤られる。また本症には根本的な治療法がなく,かつ優性遺伝なるため潜在症を発見し,予防することが大切となっている。したがって診断および予防の意味からもScreening Testが重要である。従来尿Porphobilinogen(PBG)を検出するWatson-Schwartz Testが簡便で特異性も高く,広く用いられているが,最近亜型が知られ,尿PBGの検出のみでは十分でなく,尿porphyrin(Variegated Porphyria),あるいは尿Porphyrinの検出も必要となっている。

ヘマトクリット測定法の変遷

著者: 福武勝博 ,   鈴木弘文

ページ範囲:P.980 - P.982

 健康者の血液には一定量の赤血球が含まれ,血漿に対する量的比例はほとんど一定の値を示している。全血液に対する赤血球量の%を血球容積またはヘマトクリット%値と名づけ,検査法としても再現性が高いことから,診療上,たいせつな検査法の一つとなつている。従来,血球容積の測定法としては,○遠心法,○屈折計法,○比重法(硫酸銅法),○粘稠度法,○色素法,○アイソトープ法,○電気伝導法(電子ミクロヘマトクリット法),○他の測定値より算出する法,などがあるが,このうちかんたんに実施でき,しかも比較的信頼度が高く,日常の臨床検査法としてもつとも多く用いられているのが遠心法すなわちヘマトクリット法である。以下この遠心法の変遷についての概略を述べてみたいと思う。
 血液を遠心沈澱して,その赤血球容積を測定する検査法は1890年にドイツの生理学者Blixが初めて考えたものである。その後,Hedin(1891年),Daland,Gartnerらが相つづいてヘマトクリット管を発表した。これらはいずれも手動式の遠心分離機を用いて測定する方法で,ヘマトクリット管の構造あるいは抗凝固剤の使用法などに難点があり,したがつて測定値も不安定であつたようである。

ファースト・エイド

救急治療設備

著者: 浅井一太郎

ページ範囲:P.977 - P.979

 この病院はいわゆる救急指定病院ではないので救急治療は病院としては消極的にやらざるをえないのであるが,実際問題としては一日としてこの部屋に患者の姿を見ないとい5ことはなく,ことに先般の安保デモのさいには100人にあまる救急患者が一時に殺到して困つた経験もある。
 そこで病院としては救急治療のさいに必要最小限のものを各科医師および看護婦と協議のうえ選定しておくようにしたのが写真にあるような器材である。なお使用薬品は定数制として使用の翌日薬局から使用分を補給しておくようにし,当目不足したものは薬局当直に連絡して補給を受ける。

基礎医学

フィブリノイド変性—Fibrinoid degeneration

著者: 大高裕一

ページ範囲:P.1089 - P.1093

 結合組織の病理学的変化として,従来,もつとも関心をもたれ,こんにちでもその代表的病変として注目されているのがフィブリノイド変性である。かつてはアレルギーに特異的な形態病変とみなされ,最近では,膠原病における共通の特徴的変化ともいわれた。したがつてアレルギーとか膠原病という疾病観を正しく理解するためには,フィブリノイド変性の本態に関する考えかたの変遷を知つておくことが必要である。
 細胞の病変を中心とする過去の病理学とは異なつて,近代病理学については,結合組織,ことにその線維間の物質である基質の病理に関する研究がさかんである。この新しい動向も,もとをただせば,フィブリノイド変性の再検討が出発点となつている。

器械の使い方

心電計の選び方

著者: 樫田良精

ページ範囲:P.1032 - P.1034

 最近心電計が非常に普及し,X線診断装置と並んでもつとも日常診療に使われる機械となつた。このわけの一つは国産の心電計がよくなつて使いやすくなつたこと,もう一つは心臓に対する関心が医師にも患者側にも高まつて,心電図による検査がX線検査と同じように日常の診察に広くとり入れられたためである。このような状況から,われわれが入手できる心電計の種類も非常にふえ,はじめてこれを買おうとする人はもちろんのこと,いままで心電計を使つていた方でもいざ新しいものに買いかえようとする場合には迷うことが少なくないと思う。つぎに心電計の選び方について多少参考になることを述べてみよう。

他科との話合い

健康管理の現状と将来

著者: 西川滇八 ,   秋山房雄

ページ範囲:P.1082 - P.1088

健康管理とは何か
 西川 最近,健康管理とか疾病の管理とか,管理という言葉が使われるようになってまいりましたが,健康管理の場合の管理とほかで使われている管理と考えかたが違うと思うのです。つまり健康管理という言葉と人事管理とか,労務管理のようにコントロールするというのと同じに考えてよいものかどうか……。
 秋山 たとえば私たちが工場でやつている健康管理というのは,対象の全部の人たちの健康にわれわれの目がとどくという,その人たちの健康の保持と増進に役だっ操作をわれわれがやる,ということが健康管理で使つている管理ということになりませんか。

話題

リハビリテーション医学会総会に出席して

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.1010 - P.1010

リハビリテーション医学会の性格
  日本リハビリテーション医学会は昨年11月に創立された新学会で,去る7月12日に第1回総会が水野祥太郎会長主催のもとに大阪において開催された。最近は各科それぞれの領域のなかでの学会細分化がめだつが,リハビリテーション医学会は逆に臨床各科のもつ共通な問題をとりあげた広域な新学会としてユニークな性格をもつている。医学を,発病という一つの時点を中心に時間の経過にそつてながめてみると,基礎医学の一部をのぞき予防医学,治療医学リハビリテーション医学の三者に分けて考えることができる。したがつて,リハビリテーション医学会はかりに予防医学会,治療医学会といつたような膨大な分野を包括する医学会があれば,それとてい立する性質のものである。この性格は第1回総会の演題内容からも明らかで,脳血管損傷20題,脳性小児マヒ6題,循環器疾患6題,呼吸器疾患6題,運動機能訓練5題,精神疾患3題,眼科疾患3題,耳鼻科疾患3題,リウマチ2題,筋疾患2題,癩2題その他となつているし,待別講演も大阪府立身体障害者更生指導所所長田村春雄博士の職能療法に関するものと,東大物療内科大島良雄教授の脳血管障害に関するものが行なわれた。

文献

一般医general practitionerの将来—George James, M. D.—The New England Journal of Medicine 270(24):1286〜1291, 1964より

著者: 森皎祐

ページ範囲:P.1055 - P.1055

 Weiskottenらの調査によれば,近年米国では,一般医general practitioner(以下G. P.)が減少して来ている。現代は専門化の時代であり,医学生たちは多くは,将来専門医(以下S. P.)を志している。大病院以外でのG. P. の細やかな予防医学的役割など彼らが余り知るよしもなく,また米国では,兵役,保険などすべての点でS. P. が有利であるので,それも当然といえよう。
 しかし著者は次代の医学の中心をなすのはG. P. であると信じ,ここに一文を提する。

海外のシンポジウムから

肥満症に対する飢餓療法の臨床的観察,他

著者: 森皎祐

ページ範囲:P.1104 - P.1104

 過去2年間に観察した約600例の肥満症に関する知見は次のごとくである。
 1)長期に及ぶ間歇的飢餓療法は,無害で且つ有効な減量手段である。2)糖尿病の合併率は高く,約40%にこれを発見した。3)水分蓄積を伴う良性高血圧の合併も多く,これらの患者は,飢餓の第1日目に6〜10ポンド減量を示すことがよくある。4)食塩制限はしばしば減量の円滑化に役立つ。5)飢餓療法中常に過尿酸血症が起こるが,痛風患者が,このため急性発作を起こすことはなかつた。6)体重300ポンド以上の症例の60%強に胆石症がみられた。7)肝機能障害は殆どが飢餓療法中に正常化した。8)症例の選択を適切に行ない,治療中の運動を制限すれば,飢餓療法による副作用は最小限に食い止められる。9)長期観察の結果,肥満者には,飢餓療法がよく奏効するもの,比較的よく奏効するもの,全く無効なものの三型がある。10)BMRやPBIの値には影響がない。11)飢餓療法中にみられる食欲不振は過ケトン血症,塩分制限,脂質移動増大などの結果起こるものである。12)1回の飢餓の期間を2週間以上延長することは不必要であるが,重症例では年に3〜4回繰返し行なうと,減量に著明な効果がある。

海外ニュース

ブラジルにおける遺伝生物学的問題,他

著者:

ページ範囲:P.1063 - P.1063

 ブラジル,パラナ大学遺伝研究所のF. A. Marcallo氏と共同研究者たちは南ブラジル地方の血族結婚が死亡率,疾病罹患率に及ぼす影響について研究している。彼らによると,死亡率,全疾患罹患率とも血族結婚の子孫の方が,しからざる夫婦の子孫より著明に高い。
 遺伝的負荷は,胎生期に最も大きいと考えられる。不妊症や,未熟児の頻度には有意の差がなかつた。 この調査のため,Marcallo氏らは血族結婚の63家系の人々と面接し,役場や教会の力も借りて,家系図を作つているが,血族結婚の大部分は従兄妹同志であるという。

If…

つきまとつた外交官の夢—九大名誉教授 沢田藤一郎氏に聞く

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.1056 - P.1057

 長谷川 先生,もし医師にならなかつたらどんな途に進まれたとお思いでしようか。
 沢田 私にはこの問題は考えられんことです。なんとなれば私は医者のひとり息子でしたから。しかし中学のときにはいろいろのことを考えたことがあります。中学の3,4年のころに禅寺にひとりで下宿しておつたせいでしよう,仏典を読破し場合によつては坊主になろうかと思い,親に話して叱られ,おじやんになつたことがあります。宮沢賢治君は同級生であり,後に有名になつたが,当時は偉い人であつたとは思いませんでした。

正常値

ヘマトクリットの正常値

著者: 福武勝博 ,   鈴木弘文

ページ範囲:P.1030 - P.1031

 われわれが,日常血液疾患,とくに貧血症の診療にさいして,しばしばヘマトクリットにより血球容積値を測定することがある。このヘマトクリットによる血球容積の測定は検査法が簡単であるにもかかわらず,その得られた値は貧血の程度を比較的よく示す。また信頼度が高いのみならず,血漿の色調につき黄疽の有無も知ることができる非常に便利な検査法の1つである。しかし,このヘマトクリット検査にさいして2,3注意しなければならない点がある。そこで,まずこれらの事項について簡単に述べておきたいと思う。

統計

性・年齢階級よりみた国民の受療状況

著者: 滝川勝人

ページ範囲:P.1001 - P.1001

 前号(Vol.1 no.6)でご紹介した「患者調査」より,性・年齢階級別に全国推計患者数をみますと,昭和37年7月18日における全国の推計受療患者500万人のうち,性別には男254万人(50.8%),女246万人(49.2%)とほぼ半数ずつを示しております。また,これを年齢階級別にみますと,総数では25〜34歳がもつとも多く,ついで15〜24歳となつており,この傾向は男・女別にみましても大体同様であります(表参照)。
 また,これより年齢階級別に人口対の受療率を求め,図示しますと,図のようになります。すなわち,受療率も年齢階級別死亡率とほぼ同様に,0歳の受療率がかなり高く,以後成長と共に漸減し,5〜14歳において最低を示し,さらに年齢階級の上昇とともに,その受療率も高くなつております。ここで非常に興味ある点として,昭和33年頃より高年齢層の受療率が非常に増加してきており,年次別に比較してみますと,それが一層はつきりとします(図参照)。

簡易臨床検査のやり方と評価

潜血反応について

著者: 林康之

ページ範囲:P.972 - P.972

 潜血反応は非常に簡易化され,ほとんど検査設備を要せず,また実施時にそれほど不潔さも感ぜずにできるようになつた。簡易法の市販製品を見ると源紙に試薬を塗布したもの(ヘモペーパー,ヘマスティックス,シノテスト1号)錠剤の形にしたもの(ヘマテスト),アンプルに封入したもの(シノテスト4号法)など多種類である。ところがこれら簡易法はその主剤としてすべてベンチジンまたはオルトトリジンを用いているにもかかわらず,その鋭敏度に多少のくい違いを示すことに注意せねばならない。もともとこれらの試薬は酸化されやすく,純度が高くしかも安定に保存することは非常に困難であり,鋭敏度について市販品を絶対的に信頼することは無理である。したがつてつねに陰性対照を作つておいて検俸と比較することが望ましい。また潜血反応自体が血色素のベルオキシダーゼ作用を応用した間接的な方法であり,偽陽性を示す条件はかなり多く,前記簡易法も使用前に適当な感度であるか否かを確かめることができればもつともよい。さらに簡易法試薬の保存は,もつとも注意しなければならぬ点で,湿気と直射日光は絶対に避けるべきである。たとえばベンチジン濾紙を自製した場合に,作製後毎日同一検体でチェックしてみると,ふつうにシャーレまたは箱に入れ,放置しておくと,気候その他の条件で異なるが約1週間から3週間で偽陽性が非常に多くなり,そのうえ変色によつて判定しがたくなることから明らかである。

ノモグラム

肺活量の予測値および%肺活量を求めるためのノモグラム

著者: 関原敏郎

ページ範囲:P.969 - P.969

 年齢,性別,身長からまずその人の肺活量予測値を求め,ついでこの値と実測した肺活量とから%肺活量を求める。まずB尺に年齢をとる。男性は右側の目盛,女性は左の目盛。E尺上に身長(cm)をとる。2点を結ぶ直線がD尺と交わる点が肺活量予測値である。A尺上に実測した肺活量をとり,これと肺活量予測値とを結ぶ線がC尺と交わる点が%肺活量である。

診断問答

進行性心不全の症状を伴った患者の診断

著者: 高階経和

ページ範囲:P.1079 - P.1081

はじめに
 私が,この診断問答を書く気になつたのは,毎日,数多くの患者を診察され,また研究室に一日中閉じこもつて研究に従事していられる先生方が,ほつと一息つかれてお茶でも飲みながら,本のページをパラパラと繰りながらサラリと読み流していただける……清涼剤……とでもいつたものを書いてみようかと思つたからです。
 この問答には,C.P.C.(臨床病理カンファレンス)のような固苦しさもなにもありません。ただ,2人の医師の問答のなかに,読者の先生方もともにはいつていただいて,ご自身も,第3番目のコンサルタントとしてご一緒に考えていただいて診断をくだしていただきたいと思います。

海外だより

医学教育・医療組織の優秀さ—ミネソタ大学,ヘンリーフォード病院の印象

著者: 杉本公允

ページ範囲:P.1058 - P.1059

 1959年9月,私はそれに先だつ3ヵ月間のミシガン大学語学特殊コースを終了して,ミネソタ大学医学部生化学教室の研究客員として同大学に通う身となつた。ミシガン大学では最近,雑誌などに伝えられている東条英機のお嬢さんなども一緒であつた。ミネソタは寒い所とは聞いていたが実際10月中旬にはもう完全に冬で,雪の降る日がつづき11月になると連日のように氷点下何度という日の繰返しであつた。ここで私は,肝疾患研究分野で有名なホフバウエル教授やワトソン教授らの臨床講義に毎週出席するのが楽しみであつた。何しろ外はそのように寒い気候であるのでいやでもいろいろの講演に出席せざるを得なかつたのが実状である。ミネソタ大学で印象に残つた点は,まず,その医学生教育に対する各教室員の意気込みの点であつた。三年生になつてポリクリが始まると,まず大学病院の外来の内科に全員配置される。そして各新患者は一応全員,かならず内科外来を受診することになつていて,そこでstaff doctorから,各専門の科,たとえば耳鼻科とか眼科,外科という具合に患者を送られる。その際,その患者の予診を取り診察に当つた学生が,最後まで患者について廻つて行くことになつていた。したがつて,受持つた患者が外科へ送られたら,その学生はその患者について外科に行き,そこでstaff doctorから鍛えられる。

アウトサイダーの窓

医療費値上げ問題と経営実態調査

著者: 小林文男

ページ範囲:P.1102 - P.1103

 池田内閣の改造を契機に,医療費の値上げ問題が,医療界の新課題として,また再燃してきた。
 再燃の口火は,診療者側の2つの母体,つまり,日本医師会(武見太郎会長)と発足早々の全国公私病院連盟(荘寛会長)から切られた。

メディチーナジャーナル 消化器

膵臓疾患

著者: 松尾裕

ページ範囲:P.1098 - P.1098

 膵臓疾患の診断はわれわれ内科臨床医にとつてもつとも困難なもののひとつである。消化器疾患におけるもつとも重要な診断武器であるX線による諸検査も,また機能検査を主体とする臨床生化学的諸検査も現在の段階では,ごく一部の膵臓疾患を診断しうるにすぎない。しかしわれわれが日常遭遇する腹部の不定の疼痛,鼓腸あるいは下痢症状などには膵臓が一次的疾患ないしは二次的疾患として関与していることが非常に多いと思われる。また膵臓機能としていままで知られているような消化機能,糖同化機能以外にも,未知で重要な生理機能をもつている可能性があり,ほかの諸臓器疾患の病態生理に膵臓機能異常の関与する可能性もある。したがつて膵臓に関する問題は臨床診断上,あるいは病態生理学上今後発展しなければならない多くの諸問題が残されている。
 今回は,過去3年間Gastroenterologyに掲載されている膵臓に関するものから,とくに臨床に関係のあるものをとりあげてみることにする。

リハビリテーション

脳血管障害後遺症のリハビリテーションにおける阻害因子

著者: 片岡喜久雄

ページ範囲:P.1099 - P.1099

リハビリテーション(以下Rehと略す)は疾病による障害の程度を正しく評価することから出発するが,いざ実行に移してみると種々支障をきたすような場合に遭遇して困ることがある。これは各科のRehを通じて共通の問題でもある。脳血管障害後遺症でももちろん例外ではない。その上,脳血管障害後遺症の場合には他の疾患のRehとは異なる特殊な面もある。したがつてRehを実施する際に支障をきたす因子(Reh阻害因子)についても正しく評価する必要性は以前からもいわれていたが,本年7月大阪で開催された第一回日本リハビリテーション総会においてもこれを主張した演題がみられた(東大分院 小林,国立仙台病院 佐藤)
 脳血管障害後遺症のRehにおける阻害因子は社会的なもの,心理的および医学的なものに分けることができよう。

臨床生理

O2中毒

著者: 鈴木清

ページ範囲:P.1100 - P.1100

 LavoisierがO2を発見してより,これが人間の生命に不可欠であるとして,O2に関して種々の研究業績がある。しかしO2吸入が合理的におこなわれるようになつたのは,動脈血のガス分析が可能になつたからで,O2テント,マスクおよびchemberなどでO2吸入が有効におこなつて来たのは今世紀に入つてからである。その後,われわれの生活がsea levelのみでなく,deep sea diving,flyingとくにspaceまでおよび,常圧で各種疾患にたいしてO2吸入がおこなわれるのみならず,高圧,低圧状態での高圧O2吸入が問題になつてきた。
 1878年Paul Bertが潜函病の論文中にO2中毒を記載したのが始まりとされている。いずれにしても,過剰O2吸入がO2中毒の原因となることがわかつて来た。O2中毒の症状は,神経系では意識障害,けいれん(これはてんかん様),共調運動や注意力の減退,めまい,知覚喪失,危機感,孤独感,視力障害などがあげられる。呼吸器系ではO2吸入のため呼吸中枢の呼吸抑制がおこり,呼吸困難,チアノーゼ,長期間吸入時には気管支肺炎などの気管の過敏症があらわれる。普通0.8〜2気圧O2吸入では呼吸器に対する影響があるが神経系にはそれ以上のO2圧で障害がおこる。またO2中毒は突然発症して死の転帰をとることが特徴とされるので注意が必要である。

健康管理

家庭・職場・学校をめぐる動向

著者: 山本武彦

ページ範囲:P.1101 - P.1101

 現在の健康管理活動は,大別して事業所,学校,地域住民に対して実施されている。事業所はとくに個人ならびに集団そして労働環境がよく整理されやすい対象であるが,このためには秀れた産業医または健康管理組織(チーム),理解ある経営者を持たなければ実際にはむつかしい。そういう人を得ている企業体の労働者は必ずしも多くない1)。事業所の健康管理は入社時の身体(心)検査から停年まで各種のものが行なわれている。したがつて一部の企業では内容は高度になり,成人病対策は各種がんの早期発見まで伸展されている。また一方複雑な勤務,生活環境を反映して精神衛生面の分野が重視され精神健康管理活動(対策)となつてその仕事の領域を拡大されつつある。一方結核,事故などの職場復帰,労務,厚生,人事対策に,事業所医師の健康管理には,広い社会性と真摯なる態度が要求されると同時に,健康管理組織の一員としての重要性が増えてきているといえよう。学校には,学校基本法,保健法などの定めるところによる生徒,学生に対する定期健康診断の他に,栄養問題にも無関心ではいられない。

座談会

臨床と臨床検査室との連絡をもっと十分に—臨床検査室からの要望

著者: 小酒井望 ,   斉藤正行 ,   永井諄爾 ,   福武勝博 ,   大川原康夫

ページ範囲:P.1049 - P.1054

●自分で検査をした時代からやって もらう時代への移行期に……
 小酒井(司会) 最近,検査室が,病院でも完備されてきたし,各地区医師会単位にも臨床検査センターがどんどんできてきました。昔は自分の受け持つた患者の検査は自分でするというのが建て前であつたんですね。それが検査の種類もふえたし,面倒な検査も多くなつてきたというようなことで,結局,検査は専門の技術員にゆだねる。そして臨床の医師は,そういう専門の技術員がやつた検査成績を読んで診断をするというふうに,医療の体系が変わつてきておるわけです。ところがまだ今は自分で検査をした時代から,検査をやつてもらう時代への移行期とでも申しましようか,そのために臨床家と検査室の間の連携のうまくいかないところがいろいろあると思うんです。
 そこで今日は,それぞれの大学病院で,臨床検査を専門におやりになつている検査室の専任の先生方にお集まりいただき,検査を依頼する臨床家へ,臨床検査室からの要望として,今までのご経験,あるいはお考えを思い切つてぶつけていただいたらどうかと思います。

保険問答

慢性胃炎の治療指針について

著者: 古平義郎

ページ範囲:P.1105 - P.1107

 日常胃が悪いという患者は非常に多く保険診療の上からもまた悪性腫瘍の早期発見という現下医療問題の面からも胃消化管障害に対する関心は重大な意味を持つている。しかしその割合に慢性胃炎に対する基本的な診療事項はかんたんに片づけられているように思われる。胃炎,胃潰瘍という病名は耳なれた病名になり治療薬も数多いため主として薬治療法によりかんたんに治癒するごとき感をもち基本的な問題はなおざりになりがちです。
 慢性胃炎の治療指針はかなり古くなつたが基本的な事項は現在も変わりない点を強調して前言といたします。

私の意見

なんとかしてほしいこと

著者: 片山富男

ページ範囲:P.1060 - P.1061

 日本の政情があい変わらず非近代的なまま時が流れているごとく,日本の医療社会も多くの矛盾を抱えており,しかもそれがわかつていながら早急には改められそうもない現状になんとなく気がおちつきません。

医師の片腕として—検査技師の発言 その1

著者: 堤昭憲

ページ範囲:P.1061 - P.1062

〈検査技師をめぐる最近の動向〉
 国立東京第一病院では,検査技師に病理組織診断を受けもたせるために専門のテクニシャンを養成中だということを,昨年の検査学会で聞いたことを覚えているし,千葉大学の奥井先生なども,検査技師が早く細胞診になれて,ファースト・スクリーニングの責任をはたす期待を述べられている。このように,日本の病院でも,専門の検査技師を育て,病理組織診断・細胞診・生理検査などを受けもたせているところ,その企画をもつている所が出てきたようである。現状ではかなり過分な期待だとも思われるが,検査技師が標本作製あるいは記録だけを受けもち,医師が診断するものと決められていた病理組織検査.細胞診・生理検査などにこうした変革がもたらされたのは,新鮮な反省の材料であると同時に,この十数年来各医療機関が完全な中央検査制を目ざしている必然の過程だとも思われる。

検査技師のおかれている立場—検査技師の発言 その2

著者: 宮崎武夫

ページ範囲:P.1062 - P.1063

〈診断の"助力者"から"最大の武器"へ〉
 規模の大小は別としても,医療機関には,医務,看護,事務など大別して系列がありますが,日常業務をどのようにスムースに行なつていくかはこれらの人間関係が互いに協力し合つて,さらに縦横の連絡をつねに心がけることがもつともたいせつでありましよう。話を便宜上医務部門に焦点をしぼりますと,当然医師を頂点とした上部の三角形の部分の下に,末広く薬剤師,検査技師,X線技師らがいてピラミッドを形成しています。そのなかの検査技師の身分はどうか,ひと口に検査技師といつても,衛生検査技師,臨床病理技術士,およびその助手と分かれます。臨床診断の助力といわれてきた臨床検査も,現今にいたつては,診断に欠くことのできない最大の武器となつてきましたし,今後さらにより深く,広く,進歩していくでしよう。

質問と答え

妊娠時における心電図上の変化

著者: 大宮善吉 ,   E生

ページ範囲:P.1108 - P.1108

質問
 妊娠時,心電図上の変化が問題になり,妊娠を継続するかどうかにも関係してきますが,どの程度までの変化は,ふつうの妊娠に見られるものでしようか。どういう所見が現われたら,中絶などを考えるべきでしようか。また,妊娠と心疾患についてもあわせてご教示ください。
(仙台・E生)

開設者と病院長の管理権について

著者: 穴田秀男 ,   K生

ページ範囲:P.1109 - P.1109

質問
 病院管理の点で開設者と病院長との関係はどうなつていますか。病院長の管理権は直接患者に対する医療上のそれのみで,その他のたとえば人事・給与・建築・設備.行事・給食などの管理は含まれていないのでしようか。もし含まれているとすれば,公立病院において開設者がこれらの管理を自ら行なうよう条令として明文化する場合,医療法と条令との関係はどうでしようか。もちろん開設者は医師でなく,また院長の運営能力はきわめてすぐれているものとします。
(岡山県・K生)

臨床検査の盲点

肺機能検査上の注意点

著者: 関原敏郎

ページ範囲:P.1029 - P.1029

正確な機械・正しい方法・用語
 肺の病気とくに慢性の肺疾患では,従来行なわれていた胸部レントゲン写真や,喀痰検査などの検査と並行して,肺の病態生理がどうなつているかを知ることが,病気の診断や治療に非常に貢献することが認識されてきたので,肺機能検査が昨今めざましい勢いで普及してきました。近い将来にはレントゲンや心電図と同じように普及するでしよう。
 さて肺機能検査で正しく患者の状態を把握するためには,正確な機械を用い,正しい方法で検査が行なわれなければなりません。

杏林間歩

森鴎外と津和野

著者:

ページ範囲:P.1093 - P.1093

 島根県鹿足郡津和野町には森鴎外の生家が保存されており,邸前には「歌日記」からとられた詩碑も建てられている。ここには鴎外の弟森潤三郎未亡人思都子がほとんど盲目の晩年を養つていたが,昨年逝去したから,いまは津和野町の管理に移されて,管理人がいるだけである。
 鴎外は10歳で故郷津和野を出てから,終生津和野には帰らなかつた。軍務で同地を通過するときに立寄つたとする説をなすものもあるが,記録にも止められておらず真偽不明である。鴎外の生まれ故郷が津和野であるとすれば,第2の故郷は青春彷徨の留学時代をおくつたドイツであるが,鴎外は生まれ故郷も,第2の故郷もともにふたたびその土を踏まなかつた。しかも死に臨んで賀古鶴所に筆録させた遺言には,石見の人森林太郎として死ぬことを肩ひじはつて強調している。死に臨んで胸裡に去来するのは,軍官の高位をきわめた権力の座ではなくして,人間鴎外を培つた故山のおもかげであつたかもしれない。

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医学英語論文の書き方7

著者: 紺野邦夫

ページ範囲:P.1048 - P.1048

文章について:Tenseの問題
 あまり直されていないがtenseとその使い方の統一が注意を要する点である。tenseの使い方は原著,報告,総説の別にかかわらず日本語の場合と同様で単に「―した」「―であった」という事実,成績,症例などを述べる場合には通常pastを用いる。また問題の提示,一般的現象,理論,法則などの論述の場合には主にpresentを用い,推定,可能性などを論ずる場合にはfutureないしsubjunctiveを用いる。
 もう少し具体的に述べれば,一般的な真理というものには時間的,年代的な制限がないから,一般的に既成事実として認められている事柄の記述には現在形が用いられる。その他一般的な結論や,数学,物理,化学などで確定している原理法則なども現在形でかかれる。Dataの表示(データの記載,呈示など)には現在形を用いる。実験的事実実際に実験してこうなつたという事実の記録であるから,これは過去形とするのが普通である。実験結果の考察 実験的事実とそれに関する考察とをおりまぜて出すのであるからそれぞれに過去形と現在形を使用し,自由に結果と一般論との間を行つたりきたり表現する。特殊な結論 特殊な結論は書いている人自身の特殊な結論を一般的なものと混同させないために,過去形を用いる。

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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