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雑誌目次

雑誌文献

medicina10巻11号

1973年11月発行

雑誌目次

今月の主題 高血圧とその周辺

血圧はどうして調節されるか

著者: 八木繁

ページ範囲:P.1376 - P.1377

 動脈血圧は主として心拍出量と末梢血管低抗の2因子によって変化する.この基本的な血行動態の2因子に影響を及ぼすものは多数存在するけれども,われわれの血圧は,ほぼ一定の範囲内に調節・維持されている.正常者の体内における血圧調節の機構について,現在までの知見は,自律神経反射,体液量および電解質,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に関係するものが多い.このうちよく解明され,重要と思われる個々の機構について簡単に述べることにする.

高血圧はどうして現われるか

著者: 鴫谷亮一

ページ範囲:P.1378 - P.1379

 血圧は大動脈および動脈で構成されるWindkesselから,細動脈を通じて血液を駆出する圧力である.一定の範囲内で,健康な心臓は駆出に必要な圧力を出し得るものと仮定すれば,血圧は末梢細動脈の抵抗を通じて血液の流れる量,すなわち,心拍量と細動脈抵抗の積として決まる.

高血圧症のピック・アップ

血圧の測り方

著者: 梶原長雄

ページ範囲:P.1380 - P.1384

 高血圧症は血圧の測定によって初めて診断可能であり,血圧測定法の知識は高血圧症の診断につながるばかりでなく,治療の基礎的問題となるのである.
 血圧測定法は,血管内を拍動して流れる血流が心臓の拍出力によることを知って,これを定量的に表現しようと努力したStephane Halesの業績に始まる.そしてPoiseuilleのU字管水銀圧力計を直接動脈に連結することにより平均血圧の測定を可能にし,一方,Hérrisonの血圧計からMahomedの血圧計へとなされた努力は今日の間接法に用いられる血圧計へと発展した.

高血圧患者の血圧はこれだけ動く

著者: 平川千里 ,   伊藤裕康

ページ範囲:P.1386 - P.1387

血圧変動の要因
 血圧は心拍数・心送血量・大動脈壁の弾性・末梢血流抵抗・血液量その他の循環因子により,かつ多くの全身性条件(体位・寒冷・騒音・呼吸・精神興奮・運動等)の影響下に変動する.とくに精神緊張は血圧を強く上昇せしめ,医師が診察室で測定する値が家庭で(家人により)測定される値より著しく高い事例は珍しくない.ポータブル血圧計で測定したところ診察室内で210/120もあった血圧が,家庭での日常活動時には130/70近くに下がっており,再び病院に戻ると210/120に血圧が上がったという実例も報告されている.
 日本人の血圧の変動と測定誤差の分散度は東京の循環器管理研究協議会報告(第1集)中の成績としてすでに報告1)されているが,血圧測定値をばらつかせる要因の1つとして,情緒的なものがかなり入っているらしいとされている1)

高血圧症の自覚症状

著者: 守一雄

ページ範囲:P.1388 - P.1389

 本稿は編集者から与えられた命題であって筆者が提起したものではない.
 高血圧症とは本態性高血圧症を意味するとする.

本態性高血圧と昇圧物質

本態性高血圧とアルドステロン

著者: 吉永馨

ページ範囲:P.1390 - P.1391

アルドステロンの昇圧機序
 本態性高血圧症(以下EH)と昇圧物質,という場合,アルドステロンは,カテコールアミンやアンジオテンシンとはいささか異なる種類の昇圧物質であるといわなければならない.アルドステロンを静注しても血圧は上昇しない.アルドステロン--ないし広く電解質コルチコイド一般--は,数週間投与したのち初めて血圧が上昇する.その場合でさえ,被検者ないし被検動物がナトリウム(Na)の摂取を厳しく制限していれば,高血圧はおこらない.
 これらのことから,アルドステロンないし電解質コルチコイドの昇圧作用は間接的なものであって,Na依存性であることが分かる.現在,アルドステロンの昇圧機序は図1の如く考えられている.すなわち,アルドステロンは腎の遠位尿細管に作用してNaの再吸収を促し,これと引換えにカリウム(K)を尿中に排泄させる.水はNaに伴って移動するので,その結果,体内にNaと水とが蓄積されることとなる.これは,生理的状態ではこれら成分の体外への喪失を防ぐ働きをしているが,アルドステロンが多すぎると,これらが体内に過剰に貯溜することとなる.すると血圧が上がる.

本態性高血圧とカテコラミン

著者: 上羽康之

ページ範囲:P.1392 - P.1393

カテコラミンの発生
 われわれの日常生活において発生する種々の要因,例えば精神的興奮や肉体的労作を促すような因子が次々に生じ,これに対し個体はそれぞれの特色をもって反応する.この反応には内部環境維持機構を作動してできるだけ生存に適した内的環境を変えないでおこうとする反応と,外的侵襲に対して積極的に反応し,精神的興奮,肉体的労作により反応する場合とがある.いずれにしても生体にとり最も快適な状態を確保するために反応するが,この際に自律神経系と各種内分泌機能の活動程度を変えることにより適応しようとする.
 このうち交感神経活動は精神的興奮,肉体的労作,寒冷刺激,さらに騒音に対しても緊張亢進をもって反応する.この騒音も精神的興奮の1つとして考えられるが,種々の試験をうけた際,自動車の運転,精神的緊張をたかめるような映画やTVを観た場合に血中あるいは尿中において交感神経系の作動物質であるカテコラミン(以下CAと略)の増量をきたすことが知られている.またトレッドミル,エルゴメーター等により運動負荷を施した際,同様にCAの増量が認められるのである.

本態性高血圧とレニン

著者: 国府達郎

ページ範囲:P.1394 - P.1397

 高血圧の発症と腎障害との関係は,古くからいわれてきたが,腎組織中の昇圧物質の1つとして生化学的レベルで研究されてきたのが,レニン・アンジオテンシン系である.

本態性高血圧と電解質

著者: 柏井忠治郎

ページ範囲:P.1398 - P.1399

 電解質と高血圧の関係を,Naを中心に解説する.

二次性高血圧診断のポイント

外来診察で二次性高血圧をどのようにして見出すか

著者: 鳥飼龍生

ページ範囲:P.1400 - P.1401

 これは換言すれば,一次性(本態)性高血圧と二次性高血圧との外来診察による鑑別診断ということになる.本態性高血圧には積極的診断法というものはない.二次性高血圧を除外して残ったものが本態性高血圧ということになる.二次性高血圧の中には高血圧の他に特徴的な症状があって,診断の比較的に容易なものもあるが,入院後の詳細な検査によってはじめて診断の可能なものもある.本文では前者について述べることとする.
 一般的にいって,本態性高血圧は中年以後に多い.これに対して二次性高血圧は必ずしも中年以後とは限らない.したがって,若年者の高血圧には二次性高血圧の可能性がより大きいということになる.二次性高血圧のうち,主要なものは副腎疾患によるものと腎疾患によるものである.

腎血管性高血圧症

著者: 河合喜孝

ページ範囲:P.1402 - P.1403

はじめに
 腎血管性高血圧症とは,片側または両側腎動脈の主幹または分枝部に狭窄または閉塞性病変が生じ,その結果高血圧症が惹起される状態をいう.木症が二次的高血圧症の中でも,とくに注目される理由の第一は,1934年Goldblattが初めて動物に造った実験的腎性高血圧症に類似した高血圧症が,人でも臨床的に確認され,レニン・アンギオテンシン系昇圧機序が関与している.第二に,若年者の持続的高血圧症中,診断法の進歩とともに,発見頻度が増加している.第三に,治療上血管外科の進歩とともに,狭窄血管の修復手術が可能となり,治る高血圧症に属するからである.

原発性アルドステロン症

著者: 佐藤辰男

ページ範囲:P.1404 - P.1405

 原発性アルドステロン症(以下,本症)は,副腎皮質に腫瘍を生じ,大量のアルドステロンが分泌され,高血圧をはじめとする諸症状を呈する疾患である.本症は,正しく診断して腫瘍を除去すれば治癒せしめることが可能であり,実地上重要な疾患である.

褐色細胞腫

著者: 佐藤利平

ページ範囲:P.1406 - P.1407

診断の要点
 ・発作性頭痛,視力障害,精神不安,発作性の著しい発汗,血管運動神経の異常,体重減少
 ・高血圧:しばしば発作性,持続性のことも多い

高血圧症と臓器変化

高血圧患者の尿所見

著者: 上田泰 ,   山本寛八郎

ページ範囲:P.1408 - P.1409

はじめに
 高血圧症患者のうち,ここでは二次性高血圧症の幾つかと本態性高血圧症で尿所見陽性のものについてその二,三を述べる.

本態性高血圧の重症度

著者: 増山善明

ページ範囲:P.1410 - P.1411

高血圧重症度分類の意義と問題点
 本態性高血圧と診断された場合には,血圧の高さ,持続,その変動などを吟味するとともに,高血圧性血管病変により,脳・心・腎・眼底の如き主要臓器にどの程度の変化がき,それにより機能障害がどの程度あるかを診断することが必要である.このような臓器所見を加味した高血圧症の診断が重症度診断である.
 この場合に問題となるのは,心血管系病変とそれにもとづく臓器障害のなかには,高血圧性変化とともに動脈硬化性ないし粥状硬化による病変が加味され,これを分離することがむずかしいこと,しかも患者を診療するに当たっては,両方の変化を考慮しなければならないことである.そのため高血圧の重症度診断に当たっては,高血圧性所見と動脈硬化性所見とをわけて考えながら,重症度分類に当たっては高血圧性所見に動脈硬化性所見を加味した像として分類せざるをえなくなる.

血圧値と予後

著者: 依藤進

ページ範囲:P.1412 - P.1413

 現在最も着実に利益をあげている会社の1つは生命保険会社であるが,その利潤の基礎は寿命の計算である.したがって,そこでは寿命に影響のあるあらゆる因子を数えあげ,これを綿密に計算していて当然であるが,しかし筆者の知る限り,生命保険会社の金科玉条は,「血圧の高い人は早く死ぬ」ということであり,しかもこの命題は他の寿命に関係あるあらゆる命題を圧倒して充分に機能を果たしているようである.すなわち,我々は否応なしに血圧の高さが寿命を決定する重要な因子であるということを認めなければならない.

高血圧と腎臓

著者: 尾前照雄 ,   上田一雄

ページ範囲:P.1414 - P.1416

 高血圧に伴っておこる臓器変化のうち,腎臓の病変はきわめて重要である.腎臓の病変(いわゆる腎硬化症)それ自体が死因となることは,悪性高血圧の場合を除いては少ないが,高血圧の維持と血管病変の進展に重要な役割を演じている.高血圧の病因論の歴史をふりかえると,高血圧と腎病変の因果関係は,最も古くから注目されてきたもので,Goldblattら(1934)の腎動脈狭窄による実験的高血圧の作製は,高血圧の際に腎硬化性病変が高率にみられることにその研究のいとぐちがあった.すなわち,腎虚血が高血圧の原因となるという考えである.その後の研究の多くは,腎の病変は高血圧の結果おこる,あるいは高血圧がそれを促進するという考えを支持しているが,高血圧症の運命に腎臓の病変が重要な役割を演ずることについては異論がない。
 高血圧に伴う腎病変としては,動脈硬化性腎硬化(arteriosclerotic nephrosclerosis),細動脈硬化性腎硬化または良性腎硬化(arteriolosclerotic nephrosclerosisまたはbenign nephrosclerosis),悪性腎硬化(malignantnephrosclerosis)の3種がある.

高血圧と脳

著者: 大友英一

ページ範囲:P.1417 - P.1419

 高血圧の影響を最も受けやすい臓器は脳である.心臓も高血圧の影響を受けやすいものであるが,脳におけるほどいろいろな自覚症状を示すことは少ない.すなわち,脳では軽度の血圧の上昇また下降によっても立ちくらみ,めまい,悪心,耳鳴り,頭痛など多彩な自覚症状を起こすことが少なくない.

高血圧と心臓

著者: 杉浦昌也

ページ範囲:P.1420 - P.1421

 高血圧の病因は種々あるが,いずれの原因でも長期間持続することにより心臓への影響,すなわち"左室肥大"が現われる.これが高血圧性心疾患である.高血圧の臓器変化の中でも脳・腎臓とともに重要な死因となるものである.

<カラーグラフ>高血圧と眼底

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1425 - P.1431

 血圧亢進を伴う疾患はきわめて多く,そのほとんどすべての疾患に,眼底変化が出現することが明らかにされている.そして,血圧亢進の際に細動脈の示す病態の観察が,きわめて重要な価値をもつことに注日し,血圧亢進をきたす基礎疾患の種類を問わずに,網膜細動脈の病変およびこれに続発する網膜実質の病変とを程度分類しようとする試みがある.たとえば,Scheieの分類である.このような試みは,血圧亢進に伴って出現する眼底病変の臨床的な意義を理解する上に,きわめて便利である.
 Scheie分類では,血圧亢進に伴って川現する眼底病変は,高血圧性変化hypertensive changesと硬化性変化arteriolosclerotic changesという2つの観点から評価される.

高血圧をどう取り扱うか

老人性高血圧をどう取り扱うか

著者: 喜々津良胤

ページ範囲:P.1432 - P.1433

 近年老人の増加と老人福祉行政の拡充により,日常診療において老人の占める割合が増大してきた.高血圧は老人に高頻度にみられ,また重要な疾患である,老人の高血圧は動脈硬化や心身両面に老化現象を伴ったものが多いので,治療上それらの点に充分考慮を払う必要がある.

脳卒中発作時の高血圧をどう取り扱うか

著者: 澤田徹

ページ範囲:P.1434 - P.1435

 脳卒中,とくに脳出血では,発作直後に著明な血圧上昇を認めることが少なくない.発作以前から高血圧を伴っていたものでも,さらに血圧が上昇することが多い.これは脳幹部の障害による中枢性高血圧であるとされているが,そのメカニズムの詳細はまだよく分かっていない.問題は,このような血圧上昇をみたときどう取り扱うかということであるが,この血圧上昇は患者にとって有害だとする意見がある一方,ある意味では合目的的な反応とする考え方も成り立ち,必ずしも簡単ではない.そこで,脳卒中発作時にみられるこのような高血圧の病態的意味を考えながら,筆者の意見を述べてみたい.

腎不全時の高血圧をどう取り扱うか

著者: 野村岳而

ページ範囲:P.1436 - P.1437

はじめに
 腎不全時の高血圧には図1のごとき場合が考えられる.まずはじめは高血圧がなく,急性・慢性腎不全の結果として高血圧を呈するもの,他ははじめに高血圧があり,そのため腎不全を呈するようになるものである.いずれの場合も高血圧の存在は腎不全を増悪し,腎不全が高血圧を助長するという悪循環を形成する.臨床上遭遇する機会のもっとも多いのは図1のI-bであり,ついで頻度はずっと少なくなるがIIである.
 腎不全時の高血圧をみた場合,まず最初にその原因を正しく診断し,腎不全が不可逆性か可逆性かを判断することがもっとも大切である.たとえば急性糸球体腎炎や尿路閉塞などによる急性腎不全は可逆性のことが多く,したがって腎不全の治療が主体となり,高血圧の意義はそれ程でないこともある.しかしこのさいも高血圧性脳症・うっ血性心不全などを呈するときは降圧療法が重要であることは論をまたない.

冠不全時の高血圧をどう取り扱うか

著者: 岸本道太

ページ範囲:P.1438 - P.1439

 高血圧症に狭心症,心筋硬塞,また無症状でも心電図ST-T変化,刺激伝導障害,その他の調律異常を示し,冠不全と考えられる例はかなり多い1〜3).高血圧自身が粥状動脈硬化を助長する大きな因子であることを考えると,このことは極めて当然のように思われる.高血圧に合併した狭心症で,血圧を適当なレベルに下げ,調節することによって狭心症発作が消失,またはその回数が減少することはしばしば経験される.しかし,一方において,高血圧症で降圧薬の使いすぎで血圧,とくに最大血圧が過度に下がると,狭心症発作を起こすことがある.最大血圧の低下に伴う心拍出量の減少が冠血流量の減少をもたらすためであろう.また,左室が拡大し,左室拡張期終圧が上昇し,心不全の状態になると冠流血量は抵抗の増大と心拍出量の減少により減少し,冠不全を起こす可能性があり,事実,高血圧で心不全とともに狭心症が起こってくる場合も少なくない.また,心筋硬塞も冠不全の極限として高血圧症では他の疾患より高率に合併する.このように高血圧と冠不全,冠硬化は病理学的にも臨床的にも密接な関係を有しており,高血圧の管理上重要な合併症といえる.高血圧において降圧薬を用いる際にも,適正降圧の問題,また,降圧薬の循環動態,冠血流量に対する作用を充分考慮することが大切な課題となる.このような事柄を前提として冠不全を合併する高血圧の取り扱いについて以下述べる.

座談会

降圧剤の使い方

著者: 額田忠篤 ,   青木久三 ,   黒瀬均二 ,   柴田宣彦 ,   依藤進

ページ範囲:P.1440 - P.1452

 高血圧症の治療では,まず第一に降圧剤の投与がその基本となろう,しかし,高血圧症は種々の病変,年齢および生活環境など,さまざまな原因が渾然一体となって顕現してくるものであり,また副作用の点なども考慮すると,一口に降圧剤といっても,その選択,投与法はなかなかむずかしい.
 そこで,ここでは降圧剤の使い方を中心に,高血圧症の主因が解明された際の治療上のmodificationまでを含めて,広くお話しいただく.

グラフ 血管造影のみかた

四肢(1)

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.1456 - P.1462

 四肢の血管について奇形,外傷,変性,増生,走行異常,狭窄あるいは閉塞の部位と範囲ならびに側副血行の発達の程度,拡張などの有無をみるのが末梢血管造影の主な目的である.この他に血管周囲にある軟部組織,骨関節の病変,ことに悪性腫瘍の診断にも役立つが,器質的動脈病変の部位,範囲,程度を最も正確に知ることができる.また連続撮影やX線映画などを応用して,血管運動神経の緊張状態などを知ろうとする試みもある.

海外論調

—George E. Burch, M D.—今日の心臓病の診断と治療

著者: 高階経和

ページ範囲:P.1463 - P.1465

 本項はAmerican Heart Journal vol. 85, 291-293, 1973に掲載されたG. E. Burch博士の"The Practice of Cardiology Todayの全文である.今日のアメリカ医学が陥っている臨床の危機を鋭くついた論文であるが,わが国の情況にもそのまま当てはまると思われる。(本稿はThe C. V. Mosby Co., St, Louis, Missouriにより翻訳掲載を許可された).

症例にみる精神身体医学・5

内科外来で扱った抑うつ症

著者: 石川中

ページ範囲:P.1466 - P.1468

軽症うつ病と仮面うつ病
 最近,精神科以外の一般臨床各科の外来や入院患者に,抑うつ状態を示すものが多くなった.そしてこのことに応じて,抗うっ剤を精神科以外の医師が患者に投与することも多くなった 今回は内科外来で扱った抑うつ症の2例を中心として,この問題を考えてみたい.
 一般臨床各科で扱うような抑うっ症は,軽症うっ病とか,仮面うっ病とか呼ばれているが,軽症うつ病という表現は,理論的には厳密を欠くが,事実,このような症例には軽症のものが多いのであるから,軽症うっ病と名づけてもよいと思う.

心電図講座

ヘミブロック

著者: 石川恭三

ページ範囲:P.1469 - P.1471

 ヘミブロックという言葉にあまり親しさを感じない人が読者の中にはおられるのではないでしょうか.このヘミブロックは,両脚ブロック→完全房室ブロック→人工ペースメーカーの挿入という一連の事態の発生に関連して,最近とくに注目をあびている.そこで,今回は,ヘミブロックの簡単な解説と,多くの問題点を含んだ左脚前枝ヘミブロックの1症例の経過を心電図を通して検討してゆきたいと思う.
 ヘミブロックという言葉は,Hemianopsia(半盲),Hemiplegia(半身不随)という言葉から想像されるように,"半ブロック"ということになる.では「どこの半分がブロックされるのか?」ということから,この話に入ることにしたい.

専門医に聞く・16

肝硬変の診断の下に通院,意識障害,腹水,高アンモニア血症,下肢浮腫,皮膚の出血斑などが出没した48歳家婦の症例

著者: 大津留信 ,   高橋忠雄

ページ範囲:P.1472 - P.1477

症例 坂○マ○エ,48歳,家婦
 家族歴 母60歳時腹水を伴う肝疾患死,同胞3名のうち妹は肝硬変治療中,子供3名のうち長男25歳脳性小児麻痺,次男20歳肝疾患で治療中である.
 既往歴 生来健康で著患をしらない.黄疸や輸血の既往はない.33歳より数年間,時に日本酒1〜3合.

図解病態のしくみ

カルシウム代謝

著者: 森井浩世

ページ範囲:P.1480 - P.1481

 カルシウムは生体諸機能,すなわち骨形成,神経・筋の興奮,血液凝固,腎機能,ホルモン合成・分泌などに不可欠の要素である.カルシウムは生体において酸素,炭素,水素,窒素などについで多い元素であり,自然界にも広く分布しているので利用されやすい元素である.食塩から摂取されたカルシウムは腸管から吸収され,血中に入り,骨およびその他の組織と交換し,腎,腸から排泄されるが,これらの過程において多くの調節因子が関与しており,生体の恒常性が維持されている.

検体の取扱い方と検査成績

穿刺液,分泌物の微生物学的検査

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.1482 - P.1483

材料のとり方
 穿刺液 胸水,腹水,関節液などの場合,「無菌的に」皮膚を注射器等で穿刺してとるのであるが,皮膚の消毒が不完全であると,皮膚の常在菌(表皮ブドウ球菌,コリネバクテリウムなど)が混入する.穿刺部位にヨードチンキを塗布し,乾燥後アルコール綿で拭う方法が推奨される.不完全な消毒,不注意な穿刺は,穿刺液中に雑菌を混入し,原因菌の検出をむずかしくするのみならず,新たな感染を誘発することになりかねない.
 採取した液は滅菌試験管に入れる.細菌検査のみならず,一般検査,細胞診なども必要とする場合は,検査目的別にそれぞれの容器に必要量を入れるべきで,1本の試験管に入れて,種々の検査を依頼するのはよくない.

緊急室

静脈切開,気管切開法

著者: 川田繁

ページ範囲:P.1484 - P.1485

 "To be or not to be, that is the question" ながらうべきか死すべきか,それが問題だ!―のハムレットの心境に立つといえば大袈裟であるとのそしりもあろうが,事実,救急医療で,右すべきか左すべきか,採るべきか捨てるべきかの判断に迷うことがある.静脈切開,気管切開然り.そしてまた,胃洗浄その他然りである.これらは技術としては簡単なことである.迷いを生じたならまず実行するのが救急医療のコツではなかろうか.
 "攻撃は最大の防御である"といわれる.迷いがあれば攻撃をかけることが救命への1つの方法である.実施をためらったために時機を失し,後悔するよりは,踏み切ることが防御であり,勝つことへの道であると私は考えている.

手術を考えるとき

腎外傷

著者: 大原憲

ページ範囲:P.1486 - P.1487

 神奈川県交通救急センターが昭和40年8月に開設されてから本年7月末までの8年間に当センターで取り扱った腎外傷は115例である.8年間の1施設扱い数としてはわが国ではかなり多い方ではないかと思われる.これら症例の治療経験をもとに腎外傷治療の実際について2,3述べ,内科臨床医家への参考としたい.

小児の診察

聴診器の使い方

著者: 津田淳一

ページ範囲:P.1488 - P.1489

はじめに
 聴診器の歴史はLaennec(1819)の記述に始まり,わが国ではモーニッケ(1848)により伝えられ,筆者の曽祖父津田淳三も脈論(1858)にこれを窺胸鐘として紹介している.
 しかし,聴診器の性能や構造が音響学的に改良を加えられ進歩をとげたのは1951年Rappaportの報告以来のこととされ,主要改良点は次の三点である.

くすり

経口糖尿病薬長期使用例からみた問題点

著者: 永野美淳

ページ範囲:P.1490 - P.1491

 糖尿病治療史の中で,インスリン発見後の時代,持続性インスリンが開発され,食事療法についての検討が加えられた時代に続き,糖尿病内服剤が広く使用されるようになった現在はまた治療上の種々の問題をさらけ出した.内服剤は,医師も患者も比較的安易に考える傾向も加わって,治療を受けている糖尿病者の過半数に使用されるまでになっている.このように広く使用してもよいものかどうかが,最近,米国で行なわれたUniversity Group Diabetes Program(U. G. D. P.)の成績の発表以来,大きな問題としてとりあげられている.

オスラー博士の生涯・14

フィラデルフィア時代(2)—1884〜1888

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1496 - P.1499

 1884年10月にモントリオールを去ってフィラデルフィアに赴任してから,オスラーは大学病院の整備,臨床検査室の設置,また学生や卒後研修医師の臨床指導,さらに剖検による症例の病理学的追究やその記録の整理などで,せわしい毎日を過ごしていた.

診療相談室

頸椎牽引療法施行上の注意事項

著者: 山崎典郎

ページ範囲:P.1478 - P.1478

質問 内科診療所でも,最近多くの頸椎疾患に出くわします.せめて頸椎だけでも牽引療法を行ないたいと思いますが,その施行上の注意事項についてご教示ください.(東京都開業 H生 50歳)
答 牽引療法の目的は大別して次の如くに分けることができる.①骨析,脱臼の整復およびその保持,②免荷(関節裂隙を広くしたり椎聞板への免荷を目的とする),③安静.

洋書紹介

—by G. H. Whipple, M. D., M. A. Peterson, R. N. M. S., V. M. Haines, R. N. M. S., E. Learner, M. D. and E. L. McKinnon, R. N. Ph. D.—「Acute Coronary Care」

著者: 依藤進

ページ範囲:P.1477 - P.1477

C. C. U. 関係者には極めて有益な本
 心臓が止まってから4分以内に蘇生させなかったら,大脳は機能を失い,たとえ生きたとしても不可逆的な脳障が後に残る.4分というのが決定的な時間であり,C. C. U.(Ccronary Care Unit)においては,4分以内に心臓のPacingや心臓マッサージや除細動(電気的なCounter Shock等)を行なう必要がある.短時問の中に適当な判断をし,これらの処置を間違いなく行なうためには特殊な訓練をうけた看護婦が必要である.というより,C. C. U. の中心はこのような看護婦であるといってよい.
 本書は3人の看護婦(その中2人はM. S. を持つR. N.,1人はPh. D. をもつR. N.)と2人の医者(1人はカリフォルニヤ大学内科教授,他はボストン大学内科助教授)に依って書かれたもので,その焦点となっているのはC. C. U. における看護婦の広範な役割である.

私の本棚

自著に偲ぶ

著者: 相澤豊三

ページ範囲:P.1495 - P.1495

 私の家には書架というべきものはないが,各部屋に雑然と書物がおけるような棚がいくつかある.内科の分野は広いからおのおの専門別に大まかに並べてあるが,他科の書もあり,また医書以外のものも含まれており,これに学会誌まで加えると,ほかの人が見たら乱雑極まりなく感じることであろう.しかし自分には乱れがすなわち整いであり,それを便としているから,家人にも手を触れさせないようにしている.書物のために掃除ができないと妻は大袈裟に歎いている.
 ある先輩の家を訪ねたら,コンクリートで基盤をしっかり固めた立派な書庫を北側に持ち,いわゆる勉強室なるものを隣りの南側において優雅に書を読んでいた.私の家の一部屋にあのようにぎっちり本をつめたら,あっという間に床が抜け落ちてしまうであろう.

ある地方医の手紙・17

老人ホーム

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.1500 - P.1501

W先生
 今日はこれから市郊外の養護老人ホームにちょっと出かけるところです.この老人ホームは美しい松山の麓にあり,窓を開けると眼下に当市名所の旧城垣が見渡せ,しかも構内にお寺と墓地がある,という大変結構な場所にあります.実は,この老人ホーム,当市の,とある名刹の境内の空地を借り,お寺に地代を払って建てられているのだそうで,その結果,老人ホームがお寺の構内の大半を占領し,一見,老人ホームの構内にお寺と墓地があるような,変な恰好になってしまったのだそうです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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