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雑誌目次

雑誌文献

medicina10巻12号

1973年11月発行

雑誌目次

I 循環器・高血圧 1.強心剤としてのジギタリス

ジギタリス剤の使い方

著者: 加藤和三

ページ範囲:P.1526 - P.1527

 ジギタリス剤は最も有用な強心剤である.その使い方には従来やや秘伝めいたところがあったが,最近の知見によって特別な薬ではないことが次第に明らかになりつつある.実際上適量の判定は必ずしも容易でないとはいえ,その使用はそれほどむずかしいものではない.

ジギタリス中毒とその対策

著者: 宮下英夫 ,   佐藤友英

ページ範囲:P.1528 - P.1530

 ジギタリスは1785年William Witheringが始めて臨床の場に導入してから,今日まで,①うっ血性心不全,②心房細動を主とした上室性起源の不整脈の治療には欠くことのできない薬剤の1つである.最近では強力な利尿剤使用による電解質異常,ことに低K血症がましたこと,および平均寿命の延長による老人の増加がジギタリス中毒を明らかに増しつつある.ジギタリスは元来,治療域と中毒域との範囲のせまい薬剤であり,治療量は中毒量の60%に及ぶ.老人や基礎心疾患の進行例では,治療域と中毒域との差はさらにせまくなり,中毒をおこし易くなる.中毒はジギタリス投与患者の10〜20%にみとめられると考えてよい.
 ジギタリス中毒に特徴的で,それのみで診断可能な確証をうることは困難であり,したがって臨床症状,不整脈の発現に注意し,早期発見につとめることが大切である.とくに生命の危険を伴うものは不整脈であり,ただちに治療を要することが多い.

ジギタリスの効かない心不全

著者: 友松達弥

ページ範囲:P.1532 - P.1533

ジギタリスの効く心不全
 ジギタリス(以下ジギと略す)の効かない心不全を考える前にジギの効く心不全を明らかにしておくことが必要である.
 心不全は心筋の器質的障害による筋因性の場合と,機械的因子すなわち量負荷(流入負荷)または圧負荷(流出負荷)による場合とがある.左心に対する流入負荷の場合よくきく.大動脈閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全であり,いずれも低拍出性心不全である,それ以外の弁膜症,高血圧症,先天性心疾患の場合にも奏効するが,効果の充分でないことがある.ことに僧帽弁狭窄で頻脈性心房細動を伴わない時はジギが効かない部類に入る.筋因性心不全とは心筋硬塞,心筋症,心筋炎であるが,前者機械因性にくらべ効果が劣る.殊に心筋の障害が広く,線維化して心筋にとって代わると効かなくなる.心筋炎の場合,心外性要因によって心筋が障害される場合も効かない.筋因性の場合は複雑である.

2.心臓のポンプ不全の対策

心不全の栄養指導

著者: 塩田登志也

ページ範囲:P.1534 - P.1535

 New York Heart Associationの機能分類にもとづいて 心臓病には原因的にもリウマチ性,先天性,高血圧性,動脈硬化性,梅毒性,甲状腺性,貧血性,栄養障害性などいろいろのものがあり,なかでも高血圧症,動脈硬化症,脚気心,脂肪心などでは,予防ならびに治療の意味で,食事指導が重要なことは論をまたない.しかし,ここでは紙数の余裕もないので,うっ血性心不全の栄養指導についてのみ述べる.
 うっ血性心不全はNew York Heart Associationの機能的分類にもとづいて,重症度を判定しているのが通例である(表参照).

ショックの治療

著者: 山村秀夫

ページ範囲:P.1536 - P.1537

 ショックにはいろいろの原因があるが,その病態生理は大体同じようなものであり,したがって治療も共通しているところが多い.したがってここでは一括してのべる.

急性心停止と蘇生術

著者: 川田繁

ページ範囲:P.1538 - P.1539

 急性心停止とは 急性心停止acute cardiac arrestとは活動していた心機能が突然停止するもので,つぎの2種類がある.
 1)心動停止cardiac standstill心臓の動きが全く停止した状態で,心電図はほとんど平坦化する.

3.利尿剤と心筋賦活剤

利尿剤の使い方

著者: 関清

ページ範囲:P.1540 - P.1541

 多数の強力な利尿剤が開発されているが,それぞれ作用機序,特性が異なり,したがって適応,使い方も異なるので,実際の治療に当っては,副作用と共にそれらを熟知する必要があろう.

心筋代謝賦活剤の意味

著者: 長尾透

ページ範囲:P.1542 - P.1545

心筋代謝賦活剤適応の背景
 心筋のエネルギー産生障害によっておこる原発性代謝性心不全は,左右両心に均等な代謝障害を発生させ,その結果,左右両心の心迫出量を同時に減少させるため,みかけのうっ血症状を現わすことなく,潜在性心不全の形をとることが多い.
 原発性代謝性心不全では,心電図においてQT間隔(電気的心収縮期)の延長がHegglinによって指摘された.これと同様に,機械的にも心収縮期の延長が見られる.この場合,駆出時間の延びは少ないが,等容縮期の延びは明らかである.そして,その結果,心弛期を短縮し,心房から心室への血量の流入を減少させる.

4.虚血性心臓病の治療

狭心症の治療方針

著者: 金沢知博

ページ範囲:P.1546 - P.1547

 冠硬化を基盤とする狭心症治療の基本は,①狭心症であることの正確な診断と重症度の判定,②狭心症の発生機序,病態,促進ないし助長因子および予後の理解,③狭心症治療薬作用機序の理解,④外科的療法の理解,⑤信頼にもとづく主治医と患者のよき人間関係にあり,この基本の上に個々の狭心症患者に即した生活指導,薬剤の取捨選択,外科的療法への考慮が行なわれるべきである.またそのためには発作時心電図の把握はもちろん,必要に応じて各種負荷試験,心機能検査,冠動脈造影や左室造影などの諸検査が行なわれなければならない.

新鮮心筋硬塞をどう扱うか

著者: 町井潔

ページ範囲:P.1548 - P.1549

一般的治療
 病院への迅速な収容 心室細動などの重篤な不整脈の2/3は発症後5時間以内に発生するから,直ちにCCUを備えた病院に収容すべきである.移送には心電計,除細動装置を備えたmobile CCUが理想的であるが,医師が附添い,電池式心電計を備えていれば,これに代用できる.酸素吸入と静脈確保は必須である.移送前に50以下の徐脈があれば,硫酸アトロピン0.5mg〜1.0mg皮下注,心室性期外収縮に対してはキシロカイン50〜100mg静注を行なう.
 鎮痛,鎮静 鎮痛には塩酸モルヒネ1筒10mgを皮下に注射する.10〜20分を経過しても効果がなければ更に10mgを追加する.静注するばあいには,1分間1mgの速度で緩徐に行い,効果が現われたら中止する.呼吸抑制,血圧低下,徐脈,悪心等の副作用予防のためには硫酸アトロピンをモルヒネ10mg当たり0.3〜0.5mgを皮下注するか静注する.ただし,アトロピンには頻脈作用があるので,心拍数80以上の時には併用しない方が無難である.

心筋硬塞回復期の指導

著者: 戸嶋裕徳 ,   田代寛美

ページ範囲:P.1550 - P.1551

 急性心筋硬塞発症後は6ないし8週の安静臥床が必要老考えられていたのは,そう古いことではないが,最近は早期離床,早期のリハビリテーションの必要性が広く認識されてきた.特別な合併症がない限り,Harpurらのように7日臥床,15日退院といった早い回復も可能であるが,回復期の判断と社会復帰を目標にトレーニング療法を行なう場合,個々の症例に応じての慎重かつ細心な配慮が必要である.回復期の管理に際しても,決して一律に規定されるものではなく,高血圧,糖尿病,肥満,高脂血症の有無,心予備力の程度ないし冠動脈病変の強さなどにも注意しながら個々のケースに応じた指導がなされねばならない.

心筋硬塞と社会復帰

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1552 - P.1554

急性期の安静度と運動の開始
 心筋硬塞というと,発病後1月も2月も安静をとらせたままというのが,長い間の日本における内科医のやり方であった.これは今日の心臓病学からいって誤りである.
 本症の急性期の安静と運動を考えるには,まず本症の急性期の死亡状況をしらなければならない.筆者の例では,発病6時間以内に入院した患者で死亡したものの90.7%は2週間以内に死亡している.この2週間内は特に厳重に監視すべきである.

5.弁膜症をとり扱うときの問題点

弁膜症の手術適応

著者: 西村正也

ページ範囲:P.1556 - P.1557

 弁膜症は後天性心疾患のうちで最も多いもので,僧帽弁膜症とくに僧帽弁狭窄症(MS)が最も多く,心臓外科が開始されて以来,手術の対象となることも多かった.しかし最近は開心術,人工弁の進歩に伴って他の弁膜症に対しても手術の適応が拡大されて来た.
 また手術の適応を論ずる場合,非直視下(閉鎖式)に行なうか,直視下(開心術)あるいは弁置換手術を行なうべきかの手術術式の適応も論ぜられるようになってきた.

弁膜症患者の生活指導

著者: 広沢弘七郎

ページ範囲:P.1558 - P.1559

 弁膜症の弁の変形は手術でもしない限り治らない.弁の変形による狭窄・逆流の血行力学的負荷は,24時間を通じて心筋等にかかっており,運動などにより更に大きな重荷となる.ある程度以上の重さの狭窄・逆流は心筋肥大→心筋障害を次第に増して,病気を重症化させ,最後には生命の危険を招来するまでになる.どの程度までの逆流や狭窄であれば,適当な節制を守ったとして,その患者のいわゆる天寿まで生命を長びかせ得るかは,今日,何も分ってはいない.言うなれば,定量的には殆んど分らないまま,いつ破綻をおこすか分らないという可能性におびえながら,何となく運動量を規制したり,生活の幅を狭めたりしているのが実情ではないかと思う.言い換えれば,じっと寝て安静にしていれば,心臓に対する負荷という点に関する限り,最も理想的であるが,それでは生きる喜びもないし,経済的にも苦しい.そこで,苦しくなければといった程度の運動量制限で,何となく我慢しているのが,今日の医療の実際ではないだろうか.

リウマチ熱から心臓を守るには

著者: 大国真彦

ページ範囲:P.1560 - P.1561

リウマチ性心臓病の予防
 リウマチ熱の後遺症,あるいは欠損治癒した形であるリウマチ性弁膜症は後天性弁膜症の中では最も多いものである.本症において,とくに注目されるべきことは,本症は「予防しうる疾患である」という点である.
 一般にある疾患の予防というばあい,その方法は一次予防と二次予防に分けられる.リウマチ性心臓病の一次予防法,すなわちリウマチ熱発症防止のためには,溶連菌感染の早期診断とそれに対する十分な治療,溶連菌ワクチンの開発および社会経済的要因の改善などがあげられる.

細菌性心内膜炎の治療

著者: 長谷川弥人

ページ範囲:P.1562 - P.1563

 心内膜に敗血巣を有する敗血症を細菌性心内膜炎という.
 診 断 本症の治療成績の向上には早期に診断し,かつ適正な治療をすることである.診断の要訣は感染症状,心臓症状,血栓塞栓症状の三大症状の具備したときは,ほぼ確実で,二つ具備したときも疑わしい.とくに心弁膜症に何か症状が加わるとき本症を疑うべきである、確診は血液培養である.動静脈培養2回以上実施する.

6.主として右心不全の原因となる心臓病の治療

先天性心臓病のとり扱い方

著者: 楠川禮造

ページ範囲:P.1564 - P.1565

 小児期における先天性心臓病治療法については最近著るしい進歩を来たし,内科領域でみられる本疾患もこの影響により数年前に比べて,遭遇する頻度,治療内容も変化してきた.
 表は過去7年間に入院した先天性心臓病153名を疾患別,その合併症の発生頻度をみたものである.疾患別では心房中隔欠損症が約40%を占め,以下心室中隔欠損症,動脈管開存症,ファロー四徴症,肺動脈狭窄症,その他である.その合併症としては心不全症が全体の16%を占めており,次いで肺高血圧症が7%,細菌性心内膜炎が5%である.全体の約26%が成人期においてなんらかの合併症を来たすことになる.以下,先天性心臓病の取り扱い方としてこれら疾患の手術適応の問題,心不全症,肺高血圧症,細菌性心内膜炎,およびその他の合併症の治療法について述べる.

肺性心の治療

著者: 前田如矢

ページ範囲:P.1566 - P.1567

 肺性心は肺あるいは肺血管床の病変に基因する心疾患であり,経過により急性,亜急性,慢性にわけられるが,たんに肺性心という場合は慢性のものを意味することが多い.肺循環障害,右室肥大,さらに右心不全へと進展していく機序の基礎には非可逆性の肺の器質的変化があるので,治療も心肺両面の対策が必要であり,治療方針をきめるためには病態異常を把握するための機能的診断が必要となる.
 本稿では,慢性肺性心の基礎疾患による呼吸不全対策については基本原則を列記するにとどめ,心不全対策を中心として問題点のいくつかを述べることにする.

心嚢液貯留とその対策

著者: 中山龍

ページ範囲:P.1568 - P.1569

 心嚢液貯留とは,どの程度以上についていうのか明らかにされていない.現在一般に駆使されている診断方法で,どの程度以上の心嚢液貯留があれば,これを認めることが出来るかという問いには,ある程度答えることが可能であるが,これもそれ程たしかではない.というのは,心嚢液が異常に貯留しているか否かを診断することが時に大変困難な場合があるからである.しかし,このような例外的な場合を除き,ごく一般的な診断方法について考え直しておく必要がある.

7.心拍異常の対策

抗不整脈剤の使い方

著者: 五十嵐正男

ページ範囲:P.1570 - P.1571

 不整脈をみたら,どんなものでもすぐに治療薬を与えなければいけないと思ったら,たいへんな誤りで,頻度の一番多い期外収縮などは,その大部分が治療不要なものなのである.したがって不整脈をみたらすぐに抗不整脈剤投与という方向に走らず,次のような順序で考えていったらよい.
1)その不整脈の種類は何か.

期外収縮の処置

著者: 杉本恒明

ページ範囲:P.1572 - P.1574

処置を要する期外収縮
 日常の診療において期外収縮が問題となるのは,これが1)何らかの自覚症状の原因となっているとき,2)血行動態上好ましくない影響があるとき,3)細動に移行する恐れがあるとき,の3つの場合である.
 期外収縮が原因となる自覚症状には期外収縮が起こるたびに動悸や不安感を生じる場合と,期外収縮の存在に気づき,あるいはこれを指摘されたために患者が常に不安感をもつにいたる場合とがある.後者は患者の性格に神経症的な素因のあるときには,とくに問題となり,期外収縮そのものに対する処置というより背景にあるものへの考慮が大事となってくる,期外収縮が血行動態さらには冠循環にも悪影響をもつのは,それが頻発・連発するときである.また連結期が短いと血行動態的に無効の心収縮(pulse deficit)となりやすい.基礎に器質的心疾患をもち,また心不全状態にあるときはとくにこれらの影響は大きい.期外収縮が臨床的にもっとも大きな問題となるのは,これが細動に移行する危険のあるときである.心房細動は自覚症状・血行動態に大きな影響をもつし,心室細動が致命的であることはいうまでもない.一過性心室細動の既往があるもの・心筋硬塞急性期・ジギタリスやカテコラミン過剰のさいみられる心室期外収縮は心室細動に移行しやすい.心電図上の特徴としては,連発するもの・連結期が著しく短いもの・多形性(多源性)のもの・異様な形または幅が異常に広いもの・基礎調律にQT延長やUの異常な増大を伴うものなどは注意を要する(図1).連結期が短く心室期外収縮のRが先行収縮のT波の頂きに重なるものはR on T現象とよばれ,一過性心室細動の間歇期にはしばしばみられる.

除細動器の適応と使用法

著者: 岩喬 ,   上山武史

ページ範囲:P.1576 - P.1577

 1962年Lownの直流通電の有用性に関する報告1)以来,出力エネルギー数百ws.の放電能力を有する直流除細動装置が救急処置に必須の装置としてようやく普及し,これにつれ適応も拡大されてきた.本法は現在,直流通電,除細動,カルヂオバージョン,カウンターショックなど種々の名称で呼ばれているが,直流通電が事実そのままの記載でもっとも適していると考える.

心臓の人工ペーシング

著者: 堀原一

ページ範囲:P.1578 - P.1579

 各種抗不整脈薬の出現は不整脈治療の進歩をもたらしつつあるが,このなかにあって,さらに電気的治療が大幅に取り入れられつつある.その一つが主として頻拍や細動に対する直流除細動器によるカルディオバージョンや除細動であって,すでに述べられている.
 もう一つは主として徐拍に対する人工ペースメーカーによる心臓ペーシングで,薬物などで治療あるいは予防困難な場合に,緊急的・一時的に即効的に有効なばかりでなく,近年は人工ペースメーカーの植込みによって,ほとんど患者の一生にわたってペーシングを続けることにより,徐拍性不整脈あるいは随伴する重症不整脈によって起こる突然死やAdams-Stokes発作,心不全,心身の活動・労作・運動制限などの合併症を予防ないし治療することが常識になってきている.

8.日常生活の指導が重要な心臓病

酒,アルコールと心臓病

著者: 鷹津正

ページ範囲:P.1580 - P.1581

 心疾患患者にアルコール飲料を許容すべきか否かは,従来常識的に処理され,論議されることは少なかった.しかるに最近欧米においてアルコール性心筋症alcoholic cardiomyopathyが原因不明の心肥大,すなわち特発性心筋症の大部分を占めるとされ,ここにアルコールの心臓に対する作用を改めて検討する必要が生じる.

心臓神経症の治し方

著者: 筒井末春

ページ範囲:P.1582 - P.1583

一般的注意
 心臓神経症は臓器神経症のうちでも頻度の高い神経症の一つで,心臓症状(動悸,胸痛,胸内苦悶感,胸部圧迫感など)を主症状とし,これを説明するにたる器質的疾患が見出されない機能性障害を示す場合,診断名として一般に使用されることが多いが,充分な除外診断がなされていないと,他疾患と誤る場合があり注意を要する.
 しかし一方心臓に器質的病変(例えば冠硬化)があっても,それに神経症的傾向が加重される場合もあり,あくまでも心身不分離の立場で日常診療に従事することが重要である.

動脈硬化の予防

著者: 中村治雄

ページ範囲:P.1584 - P.1585

 動脈硬化は,10歳代より始まり,次第に年齢増加に伴って,その程度と範囲を増し,多くは40歳代に至って,脳,心,腎,末梢などにおいて,脳卒中,冠硬化,大動脈瘤,腎硬化,末梢動脈閉塞などの臨床症状を呈してくる.つまり,20〜30年にわたる無症状の時期に,動脈硬化に対する予防的処置をとり,臨床症状を示すことを防ぐことが重要である.以下,この点に注目して,具体的な予防手段についてふれてみたい.

9.高血圧を治療する際のポイント

降圧剤の種類

著者: 増山善明

ページ範囲:P.1586 - P.1587

 現在用いられている降圧剤はその主な作用機序の上から利尿降圧剤・交感神経抑制剤・末梢血管拡張剤に大別される.

降圧剤の副作用

著者: 依藤進

ページ範囲:P.1588 - P.1589

 普通行なわれている高血圧の療法はいわゆる積み重ね方式で,最初に基本になる降圧剤を1〜2種類与え,これで充分の効果が得られない場合,更に次の降圧剤を積み重ねて行く方法である.基本になる降圧剤として最も普通に用いられているのはサイアザイド剤とレセルピン剤であるので,まず基本になる薬の副作用を述べ,次いで簡単にそれに積み重ねられる降圧剤の副作用を述べる事にしよう.

本態性高血圧の生活指導

著者: 岸本道太

ページ範囲:P.1590 - P.1591

厳しい規制は実用的でない
 本態性高血圧症の生活指導というテーマであるが,私は本態性高血圧症に特有な生活指導というものはないと考えている.もちろん,私は国立東京第一病院において,高血圧の精密検査を受けた入院および,外来患者についてパンフレットを用いての生活指導を行なっているが,これは何も高血圧症に限られた生活指導ではなく,40歳以上の中年を過ぎた人々の健康維持に対する生活指導といった方がよいであろう.本態性高血圧症の大多数(97%以上)が良性であり,急性の脳,心臓,腎の合併症のない限り,平常の仕事を行ない,生活を楽しみながら生活することが原則であるから,あまり,患者が実行できないような厳しい生活や食事の規制は実用的ではない.私は高血圧症で良性のものに対してはあまり厳しい生活指導は行なわず,降圧剤の使用に頼っても血圧を正常またはそれ近くに維持することとしている.いいかえると高血圧症の治療の第一は降圧剤であり,生活指導,食事療法は第二義的なものと考えている.
 しかし,そうはいっても高血圧症のうち軽症なもの,特に初期高血圧で不安定な血圧動揺を示すものは生活指導や食事の規制のみで降圧剤を使用しなくても,血圧が正常値に管理されるものも少なくない.この意味で,高血圧症での生活指導の役割は軽視できないものである.以下,私が高血圧患者に行なっている生活指導を具体的に述べる.

腎炎に伴う高血圧の対策

著者: 尾前照雄

ページ範囲:P.1592 - P.1593

 腎炎に伴う高血圧の場合も,その対策は,本態性高血圧の場合と本質的に異なった点はない.本態性高血圧も,病期の進展に伴って腎障害がおこり,悪性高血圧の状態になると,しばしば腎不全が死因となることは周知の通りである.このように進行した場合は,高血圧の一次的原因が腎炎によるものか,あるいは腎硬化性病変との関連において高血圧がおこっているのかを臨床的に区別することが困難なことが稀でない.腎臓は高血圧の病因とその運命に最も深いかかわりをもつ臓器であるので,腎炎ないし腎障害に伴う高血圧の治療は,高血圧診療の上で,重要な部分を占めている.
 腎炎の際における高血圧の機序については,今日十分明らかでない点が多く残されているが,各病期における病態の相違を考えて,対策を述べることにする.

二次性高血圧の外科治療

著者: 板谷博之

ページ範囲:P.1594 - P.1595

 従来,本態性高血圧症として内科的に取扱われていたものの中から,外科的に根治可能な二次性高血圧症が見出される機会が多くなりつつある.しかも,これら二次性高血圧症は外科的療法の発達により,早期の適切な治療により全治しうるので,このような患者を一人でも多く見出すべく努力することこそ,われわれ臨床家の大きな責務といえる.外科的治療により根治可能な二次性高血圧は腎性高血圧(腎血管性高血圧や糸球体腎炎,慢性腎盂腎炎,嚢胞腎,腎結石および尿路閉塞をきたす疾患など)と内分泌性高血圧(主として副腎皮質および髄質の腫瘍や過形成など)に大別される.

II 呼吸器 1.呼吸器系薬剤の使い方

鎮咳剤の適応と使い方

著者: 佐竹辰夫

ページ範囲:P.1598 - P.1599

鎮咳剤を使う前に,まず原因の除去を!!
 鎮咳剤の使用は,対症療法に過ぎない.したがって,咳嗽反射の原因になっている気道の感染と炎症,化学的刺激,機械的病巣およびアレルギー,神経性,血管性などの原因を見極め,直接の原因を除いたり,基礎疾患に対する治療を行なうことが大切である.
 一例として,呼吸器感染症があれば,a)結核→結核化学療法剤,b)非定型抗酸菌感染が疑われる慢性型の気管支炎→ヒドラヂドなどを試みる.c)マイコプラスマ肺炎→テトラサイクレインかエリスロマイシン2g/日,d)緑膿菌感染→カーベニシリン8〜10g/日,ゲンタマイシン40〜80mg日の併用などの特殊なものの存在にも配慮しながら,起炎菌の確定に心がける.

消炎酵素剤の使い方と適応

著者: 西本幸男 ,   勝田静知

ページ範囲:P.1600 - P.1601

消炎酵素剤とは
 消炎酵素剤は抗炎症剤の一種である.今日臨床的に用いられている抗炎症剤はステロイド剤と非ステロイド抗炎症剤に2大別されるが,消炎酵素剤は狭義の非ステロイド速効性抗炎症剤,遅効性抗リウマチ剤および抗ヒスタミン剤などとともに後者に属している.
 消炎酵素剤には表に示すごとく,動物性・植物性・微生物由来など酵素起源を異にするいくつかのものがあり,多糖体分解酵素であるリゾチーム以外はすべて蛋白分解酵素である.現在市販中のものには動物性のものとしてトリプシン,キモトリプシンがあり,植物性としてプロメライン,微生物由来としてプロテアーゼ,プロクターゼ,プロナーゼ,セラチオペプチダーゼ,セミアルカリプロテアーゼ,ストレプトキナーゼなどがある.

呼吸器疾患におけるステロイド療法

著者: 本間日臣

ページ範囲:P.1602 - P.1603

 びまん性間質性肺炎 ステロイド療法以外に有効な治療法がない.
 原則は早期発見,早期治療.しかも十分強力に行なうこと.

2.吸入療法のポイント

吸入療法のポイント

著者: 梅田博道

ページ範囲:P.1604 - P.1605

 「気道の病気は気道から」と,気道に十分な湿度を与え,気管支拡張剤,喀たん溶解剤などをエロゾルとして気道粘膜に作用させるのが吸入療法である.そして,吸入療法の効果をあげるにはつぎの3点がポイントとなる.
 (1)ネブライザーの性能と選択

IPPB装置の取り扱い方

著者: 田村昌士

ページ範囲:P.1606 - P.1607

 IPPB,すなわち間歇的陽圧呼吸を行なう目的は,酸素吸入,エロゾール吸入,調節呼吸あるいは補助呼吸の3つがあり,それぞれの目的に応じて広く用いられている.すなわち呼吸器疾患では,1)呼吸停止あるいは抑制(肺癌脳転移,薬物中毒,呼吸筋麻痺など),2)呼吸不全(慢性気管支炎,気管支喘息,慢性肺気腫,気管支拡張症,肺線維症,肺感染症など)がその適応となる.IPPB装置による吸入療法によって生理学的には,肺胞換気量の増大,気管支拡張作用,ガス分布障害の除去,呼吸筋仕事量の軽減などいくつかの利点がある.なお,装置を正しく理解し使用しなければ,かえって逆効果をもたらすこともあるので注意しなければならない.したがって,吸入療法の実際については次項を参照することにして,ここでは主としてIPPB装置の取り扱い方を中心に述べる.

酸素療法の適応と方法

著者: 末次勧

ページ範囲:P.1608 - P.1609

 酸素療法とは治療の目的で大気よりも高濃度のO2を吸入気に加えて生体に与えることである.

3.喘息治療の問題点

気管支喘息発作時の治療

著者: 長野準

ページ範囲:P.1610 - P.1611

 気管支喘息発作時の治療にあたっては,患者の病態生理,すなわち発作の程度,発作の重症度をまず適確に把握してかからなくてはいけない.

気管支喘息と減感作療法

著者: 光井庄太郎

ページ範囲:P.1612 - P.1613

減感作療法の機序
 気管支喘息患者の血漿ヒスタミン,セロトニン値およびブラジキニン破壊酵素活性は発作のないときは健常者と大差はないが,発作の際にはヒスタミン,セロトニン値は上昇し,ブラジキニン破壊酵素活性は低下してブラジキニンの増加を思わせる.このような変化は発作の強いものほど著しいようである.したがって喘息発作ではこれらの物質(chemical mediator)が,その薬理作用により気管支の平滑筋の攣縮や分泌亢進を起こしたものといえる.
 アレルギーの立場からは,人体に抗原が侵入してこれを感作すると侵入した抗原に対応する抗体(reagin)が作られる.この抗体はIgEでマスト細胞や好塩基球の表面に付着している.マスト細胞や好塩基球のなかには上述のchemical mediatorを有する顆粒がある.抗原が再び侵入し,上記細胞表面のreaginとの間に一定の比率で抗原抗体結合物が形成されると,細胞内の酵素は活性化して顆粒を細胞外に脱出せしめ,chemical mediatorが遊離する.喘息発作の際にchemical mediatorが増加するのはこのように説明できる.

喘息児童の生活指導

著者: 馬場実

ページ範囲:P.1614 - P.1615

 小児気管支喘息(小児喘息)は発作性に始まる呼気性呼吸困難を繰り返しておこすことを特徴とするが,その原因としては,近時アレルギーの関与がつよく示唆されており,治療もアレルギー学的診断の上に立って行なわれることが多くなってきた.しかしながら,一部の小児喘息ではアレルギー的機序がまったく関与せず,心因的因子がつよく作用していると考えられる例もみられる.さらに,ひとたび発作が始まれば,その重篤化因子として不安,恐怖感,不信感などが程度の差はあっても何らかの形でかかわりあってくることは決して稀ではない.
 また,小児喘息は周知のごとく,発作を繰り返し,その経過は数年以上に及び,幼児期から少年期を経て成人期に至る例も少なくない、かかる症例においては,病気そのものによる肉体的な影響はもとより,精神的影響が患児に加わることも否定し得ない.

妊娠と喘息—治療のポイント

著者: 伊藤和彦

ページ範囲:P.1616 - P.1617

 一般的に気管支喘息の発生は,本邦においてはO.8〜1.4%,アメリカでは枯草熱を含めて2.6%1)前後といわれている.妊娠時の合併症としての喘息の頻度はあまり高いものではない.DerbesおよびSodemann2)らによると妊娠婦人が喘息で悩まされる率は0.4%であり,またKing Countory Hospital(Brooklyn)での出産14,800のうち,喘息の合併症を有する婦人は104名で0.7%であると報告している.
 気管支喘息の治療は最近の進歩により,気管支喘息患者の妊娠,分娩は充分管理しうるようになってきている.ここでは気管支喘息の妊娠に与える影響,妊娠,分娩の気管支喘息に与える影響およば妊娠分娩時の気管支喘息発作治療についてふれる.

4.気管支拡張症治療の要点

気管支拡張症の治療のポイント

著者: 三上理一郎

ページ範囲:P.1618 - P.1619

 気管支拡張症は,通常特発性と続発性にわけられる.続発性は,肺結核,肺化膿症,肺癌,慢性気管支炎,びまん性汎細気管支炎などによって二次的に発生するもので,気管支造影上,円柱状,紡錘状のものが多い.
 特発性気管支拡張症の典型例の病歴をたどると,乳幼小児期に百日咳か麻疹に罹患後気管支肺炎を合併し,その回復に月余の期間を要したことが聴取できる.このように肺の発育過程における肺炎や細気管支炎が,特発性気管支拡張症の原因となっている場合が多い.また,先天的形成異常と考えられるものも含まれる.嚢状の拡張像を呈するものが多い.

Sinobronchitisの治療のポイント

著者: 粟田口省吾

ページ範囲:P.1620 - P.1621

 Sinobronchitisという言葉は,端的にいって,Sinusitis(副鼻腔炎)とBronchitis(気管支炎)またはBronchiectasis(気管支拡張症)の合併した1つの徴候群である.
 したがって,その治療も気道全般にわたる共通した治療法と,副鼻腔炎に対する治療法および気管支炎または気管支拡張症に対する治療法とに分けて考えられる.

体位ドレナージの適応とポイント

著者: 谷本普一

ページ範囲:P.1622 - P.1623

目的と原理
 気道過分泌による粘稠な痰の貯留は,気道を閉塞し,とくに閉塞性肺疾患では,ガス交換へ影響することが多大である.気道内の痰の貯留は,細菌感染をまねきやすく,気道感染が繰り返されると,気管支線毛上皮細胞の破壊など,気道防御機構が障害され,痰の喀出困難が増強する.
 体位ドレナージpostural drainageは,各肺葉気管支の解剖学的区分にもとづき,種々の体位をとることにより,重力を利用し,水が低きに流れるように少ないエネルギーで効率よく痰の喀出を促す方法である.

5.肺疾患の治療と管理

慢性肺気腫の治療と管理

著者: 藤本淳

ページ範囲:P.1624 - P.1625

慢性肺気腫の病像の把握
 慢性肺気腫は病理学的には肺胞腔の破壊とそれに伴う肺胞の異常拡大により顕微鏡的に観察される.臨床的にはこの形態的変化により,残気量の拡大,そして肺胞腔と気道との不均衡すなわち異常に拡大した肺胞に比し気道径が拡大していないことによる不可逆性の閉塞性障害,次いで肺胞の低換気状態が招来し,肺の生理学的役割としての動脈血の生成能が低下することになるのである.この状態の患者群を臨床的に分類してみると,次の如く病期が分類される(アメリカ胸部疾患学会により分類).
 ①無症状期

呼吸不全者の生活管理

著者: 芳賀敏彦

ページ範囲:P.1626 - P.1627

 この問題を取り上げるには少なくとも次の2つの事柄を考慮せねばならない.

光化学スモッグによる肺障害の治療

著者: 長岡滋

ページ範囲:P.1628 - P.1629

 通称光化学スモッグは,現代社会の大きな問題となっている.しかし,光化学反応の結果生じる大気汚染現象が,広く認識されるようになってからの月日は,比較的浅い.わが国において,その人体影響が問題になりはじめたのは,1970年の夏のことである.従来の大気汚染の問題は,かなり長い歴史をもっている.1661年に,英国政府のダイアリストのジョン・エベリンという人が,"ロンドンの空は煤煙によごれ,そのために呼吸器をおかされる人が多い"という主旨の記録をのこしており,1930年には,ベルギーのミューズ谷で,多数の住民に健康上の被害が発生したという,大気汚染の最初のエピソードがおこっている.一方,光化学スモッグの存在が認識されはじめたのは,1940年代から1950年代のはじめにかけてであった.すなわち,アメリカのロス・アンゼルス市で,白色がかったもやが発生し,植物の被害がおこり,やがて眼の刺激症状を訴える人々が多発するようになり,従来の大気汚染とは異なる現象の存在が考えられるようになったのがきっかけとなって,研究者達による検討がはじめられたのである.そしてその結果,従来の大気汚染物質が,日光の紫外線により光化学反応をおこし,さらにそれに物質相互間の作用が加わって,二次的に汚染物質を形成するという,いわゆる光化学スモッグの存在が,うかび出されてきたのであった.

自然気胸の治療のポイント

著者: 塚田祐禧夫 ,   喜多川浩

ページ範囲:P.1630 - P.1631

 自然気胸の治療は常に二面性を持っている.すなわち肺の再膨張と再発の防止であり,両者を同時に勘案して治療しなければならない.
 本稿では肺結核症や肺癌に続発する続発性気胸を除き,blebまたはbullaに起因すると考えられているいわゆる特発性気胸の治療にのみ限定した.通常自然気胸の治療は,1)安静療法,2)胸腔穿刺,3)胸腔ドレイナージ,4)開胸手術,5)その他に大別することができるので,自験例の成績を参照してそれぞれについて述べる(表1,表2).

慢性呼吸不全の治療と管理

著者: 原沢道美

ページ範囲:P.1632 - P.1633

 慢性呼吸不全は,非可逆性の器質的変化に起因している部分が極めて大きいので,治療に対する反応は急性呼吸不全のように劇的ではない,しかし,存在する生理学的障害をよく理解し,それにもとづいた適切な治療を根気よく続けられれば,疾患の進行を遅らすことができるばかりでなく,残存する機能がある程度改善され,患者は生きがかのある日常生活を,永年にわたって送ることが可能となろう.
 〔治療方針〕1.呼吸仕事量の減少を計る.

6.往診での治療

呼吸困難で呼ばれたとき

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.1634 - P.1635

 呼吸困難とは"楽に息をすることができない",あるいは"息をするのに苦痛を感じる"という状態の自覚症状である.患者はしばしば"息苦しい","息がきれる"と訴える.呼吸困難といっても程度はいろいろあるが,Hugh-Jonesの分類によると,4〜5度のものが往診を需められる対象となろう.
 この場合,単に息ぎれを訴えることもあるが,喘鳴を伴う呼吸困難の発作である場合が最も多い.そのうちでも気管支喘息が圧倒的に多く,それにつぐものは心臓喘息であろう.まずこの両者を主体に考えてみる.

胸痛で呼ばれたとき

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.1636 - P.1637

 胸痛を訴える疾患の頻度 内科医にとって,胸痛を主訴とする患者を診る頻度は高いものであり,青柳1)によれば昭和43年の慶大内科外来新患の8.04%を占めているという.また入院患者を対象としては,東大第2内科(小池による1))の例を示すと表の如くである.いずれも胸痛以外の,呼吸困難,発熱など,他の訴えを伴ったものと解せられる.一方,前述の外来患者では,上気道気管支炎によるものが圧倒的に多く,ついで不整脈,頻脈,肋間神経痛,高血圧,肋膜癒着などが多く,入院患者にくらべ,疾病構成を全然異にしている.私の往診の経験から考えた場合,その対象となる疾病構成はこの入院患者のそれとよく一致しているようである.この表を見ると,胸痛を訴える患者を診るにあたって注意すべき疾患は虚血性心疾患,胸膜炎などであり,重篤な疾患としては解離性大動脈瘤,肺塞栓などであろう.往診に際しては,本表の疾患に注意しておくことが必要であろう.

喀血で呼ばれたとき

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.1638 - P.1639

 喀血による往診の頻度は,私の乏しい経験からはっきりは断定できないが,往診の中では比較的多い方に属すると思う.血痰という程度の出血量では,心不全か肺硬塞などのように他の苦痛を伴う場合以外は来診することが多いので,往診の対象ははっきりした喀血が主体になると考えられる.

7.現代における肺結核の治療

重症再治療肺結核患者に対するRifampicin治療

著者: 五味二郎

ページ範囲:P.1640 - P.1641

 昭和46年8月30日,厚生省告示第306号によって「結核医療の基準」の第4次改正が行なわれ,Rifampicin(以下RFPと略す)が二次抗結核薬として採用され,ひろく臨床に応用されるようになった,RFPの肺結核治療については,すでに結核療法研究協議会(以下療研と略す),日本結核化学療法研究会,国立療養所化学療法研究班,自治体病院などの協同研究の成績が発表されている.これらの研究報告はいずれもRFPが抗結核薬としてきわめてすぐれていることを示しているが,RFPによる結核治療については,なお2,3の問題が残されていると考えられるので,これらについて記すことにする.

肺結核—外来治療のポイントと生活指導

著者: 三上次郎

ページ範囲:P.1642 - P.1643

 肺結核の化学療法の進歩と,集団検診の徹底化,社会状態の好転は本症の治療法にも大きな変革をきたした.この10年来入院治療と外来治療と肺結核の治療経過に差が認められないという研究結果も数多くみられるようになり1,2),一方において集団検診の徹底化は早期発見により軽症例が多くなり,自宅外来治療例が必然的に増加してきた.しかし一方において安易に外来治療を行なって,手術適応の時期を失ったり,長く排菌が続くのを見過ごしてしだいに悪化をまねいたり,耐性菌を排出,感染源となったりする症例も絶無とはいえない.ここにおいて,われわれが肺結核の外来治療を行なうに当たり留意すべき点を今一度反省することが必要かと考える.

初回治療におけるRifampicinの使い方

著者: 今野淳

ページ範囲:P.1644 - P.1645

 Rifampicin(RFP)は1957年イタリアのSensiらによってstreptomyces mediterraneiから発見されたRifampicin Bを出発点として誘導された半合成抗生物質でグラム陽性,陰性菌および結核菌に有効である.結核菌に対しては非常に有効でDubos液体培地で人型結核菌の感性菌および種々抗結核剤耐性菌に対して,感性菌と同様に有効で最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration,MIC)は0.1mcg/mlないし1mcg/mlであり,従来の抗結核剤と交叉耐性は認められなかった1)(表).この試験管内抗菌力はstreptomycin(SM)よりすぐれ,INHとほぼ匹敵するものである.マウスの実験結核症においても同様のすぐれた抗結核作用が認められた.動物試験においてもkanamycin耐性菌’viomycin耐性菌で感染されたマウス結核症に耐性と関係なく効果が認められた.耐性の上昇は比較的早く4代継代培養で100mcg/mlの耐性が認められた.したがってRifampicinによる結核の単独治療はさけねばならないと考えられた.

8.今日の呼吸器感染症の治療

慢性気管支炎の治療のポイント

著者: 金上晴夫

ページ範囲:P.1646 - P.1647

 慢性気管支炎の治療方針を決めるにあたって,まず大切なことは慢性気管支炎かどうかを診断することと,とういうタイプのものか,そして臨床上軽症か重症かを診断することである.
 慢性気管支炎の診断は,現在,"肺,気管支,上気道の限局性病巣によらないで起こる痰を伴った慢性・持続性の咳のある疾患で,慢性とは,2冬連続的に少なくとも3カ月間ほとんど毎日病状のあるものをいう"という診断基準によるもので,痰および咳という臨床症状によって診断することと,それらの症状が,肺,気管支,上気道の限局性病変によらないものであるということを確かめるために,除外診断を十分に行なうということである.それから,慢性気管支炎,慢性肺気腫,気管支喘息は,慢性閉塞性肺疾患に包含されており,お互いに合併する頻度が高いので,単なる慢性気管支炎だけか,肺気腫や喘息に合併した慢性気管支炎かを診断することも必要である.

肺炎の治療—新しい抗生物質を中心に

著者: 村尾誠

ページ範囲:P.1648 - P.1649

一般的注意事項
 安静・補液と栄養・酸素吸入・循環障害への配慮・合併症への配慮とくに老年者においては,一見症状が顕著でない場合にも万全の配慮が必要である.

肺真菌症の治療のポイント

著者: 福島孝吉

ページ範囲:P.1650 - P.1651

真菌症の種類
 真菌症の中で日本にあるものは,アスペルギルス症,クリプトコックス症,カンジダ症,ムコール症,放線菌症,ノカルジア症等である.地方病的な真菌症は,日本にはないが,アメリカ大陸にあるコクシジオイデス症(coccidioidomycosis),南中米にあるパラコクシジオイデス症(南アメリカブラストミジス症,paracoccidioidomysosis),北中米およびアフリカにあるブラストミジス症(北アメリカブラストミジス症,blastomycosis),北中南米およびアフリカにあるヒストプラスマ症(histoplasmosis)などが肺に感染を起こす.

肺化膿症の内科的治療の限界

著者: 熊谷謙二

ページ範囲:P.1652 - P.1653

肺化膿症とは何か
 肺が細菌感染により壊死をおこし膿瘍を形成してくると肺膿瘍あるいは肺壊疽といわれることは周知のことであるが,1952年に篠井金吾氏によりこの両者を総括して肺化膿症と命名された.またさらにフリードレンデル肺炎桿菌性肺炎のような化膿性肺炎や肺癌または異物などによる気管支の閉塞に由来する続発性の肺膿瘍などもこれに含めることもあり,肺化膿症の定義については専門家によっても多少意見の相違がみられるようである.

III 消化管 1.胃炎の治療

急性胃炎の薬剤とその選択

著者: 本田利男

ページ範囲:P.1658 - P.1659

 急性胃炎は飲食物の不節制や過食など機械的刺激,薬物などによる外因的刺激,嗜好品や化学製剤などの化学的刺激,あるいは急性感染症や食中毒の細菌や毒素の刺激によって起こることが最も多く,胃粘膜に発赤と浮腫およびエロジオンなどを急激に発生するものである.

慢性胃炎の対策

著者: 並木正義

ページ範囲:P.1660 - P.1661

基本的考え方と治療方針
 筆者は次のような基本的考え方に基づいて慢性胃炎の患者を取り扱っている.
 1)諸検査でたとえ胃炎像がえられても,大した自覚症状のない場合は,あえて慢性胃炎という病名を患者に告げ,病気としての意識をもたせるようなことはしない.

2.消化性潰瘍とその対策

消化性潰瘍の食事とその管理

著者: 早川滉

ページ範囲:P.1662 - P.1664

 消化性潰瘍の食事療法については従来より多くの意見が提唱されているが,これは大きく以下の2つにわけられるようである.1っはCruveilhier,Leubeらによって提唱された庇護制限食事療法であり,わが国においては南,善光寺が本邦向きに改良している.これは消化性潰瘍の特異性を考慮し,食事療法の目的は栄養補給という面よりも,病変局所に対する機械的刺激が出血その他を促し治癒を遷延させるという考えからつくられたものである.他方はLehnhartz,Meulengrachtの積極的栄養補給食事療法であり,山川,黒川,山形,松永らにより改良が加えられている.この方法はMeulengrachtより積極的ではないが,従来の庇護療法より早期に高カロリーの栄養補給を行なおうとするものであろう.最近の消化性潰瘍の治療は,抗コリン剤,抗ペプシン剤,抗ガストリン製剤など多くの種類の薬剤が開発されているが,治癒期間,治癒率などは従来の薬剤よりすぐれているとはいいきれず,入院安静療法とともに食事療法の占める割合は大きいと考えられ,とくに急性期においてはその感が強い.筆者は胃X線内視鏡検査があまり発達していなかった時代に用いられた食事療法,すなわち潰瘍の出血,あるいは胃粘膜に対する機械的刺激,胃十二指腸の運動亢進を抑制する点を考慮した庇護療法をそのまま用いてはいないが,一方Meulengrachtらが始めた大量の出血直後より多量の高カロリー食を投与することは行なっていない.一般に出血直後の患者は食欲もなく,一般状態もまた精神的にも不安な状態で,流動食でも嘔気などとともに再出血をみることがあるからであり,出血直後には絶食期間をもうけ,その後はできるだけ早期に高カロリー食を投与するようにしている.

再発を繰り返す胃・十二指腸潰瘍

著者: 和田武雄 ,   高須重家 ,   楢崎義一

ページ範囲:P.1666 - P.1667

再発性胃・十二指腸潰瘍の特徴
 胃・十二指腸潰瘍は,本来病変の性質として再発・再燃を繰り返しやすく,したがって,慢性経過をたどる例が多いとされているが,教室のさきにまとめた成績1)では63%にもおよんで認あられた.その再発の予知ならびに予防についてはこれを適確にとらえる方法を見いだすことが困難であり,一応は定期的な検査によって経過を観察することが現状では最良であるとされている2).しかし,なお本症の初発時においてその経過.予後を見とおす上に何らかの手がかりが得られはせぬかと考え,教室においては潰瘍例の多面的な要因分析を行なって,いわば予後に対する予測的診断criteriaの確立を意図している.なお結論的な段階にはいたっていないが,身体上の条件の上では年齢と胃粘膜萎縮度・胃酸分泌能との間の解離的な現象,つまり若年にもかかわらず胃粘膜の萎縮性変化が強く,酸分泌能も低下が著明な例や,高年齢においても胃粘膜の萎縮性変化を伴わず,酸分泌能が高い例においては潰瘍の再発頻度が高い傾向を認めた3).目を再発局所に向けて検討すると,瘢痕治癒化を確実に見届けたさいには,その同一部位に潰瘍が生ずることはむしろ少なく,したがって,瘢痕組織周辺に潰瘍成立を容易にする要因は必ずしも考えることはできない.初発潰瘍同様に,Shay4)の酸・ペプシンを中心とした攻撃因子と,粘膜抵抗性.血流動態などの防御因子とのアンバランスによって,内分泌性あるいは精神神経性機能の異常等を背景として潰瘍がひき起こされるものと考えられる.その誘因となる精神緊張や不安,あるいは情動ストレスの影響については諸家の説くところであり,動物実験上も実証されているが,とくに胃潰瘍の慢性.再発例と初発例についてManifest Anxiety Scale(MAS・Taylor-杉山法)やMPI等の上で調査を進めると,ほぼ年齢・性等の上で等質性の吟味された対象において,初発例のMAS平均は19.5(10〜27)であるが,再発例においては22.5(10.5〜40)と高値を示した.これを酸分泌能との間に対比すると図のごとく対照域をはみ出して不安得点の高い例が多くみられるが,それらの酸分泌能は必ずしも高くない.しかし,全体としてはMASと酸度には平行関係がうかがわれ,かつメコリール反応型をみると再発例にはP型が多いと同時に,P型例にはMAS得点も高い傾向をうかがうことができる.このような相互関係は十二指腸潰瘍のさいにはさらに顕著となる5,6)

3.胃切除後の問題点

ダンピング症候群—その対策

著者: 湯川永洋 ,   宮本新太郎

ページ範囲:P.1668 - P.1669

 ダンピング症候群とは,胃の手術を受けた患者が摂食中から,または摂食後すぐに倦怠感・発汗・頻脈・顔面潮紅・熱感・頭重感.頭痛.胸部狭窄感・呼吸困難・めまい・失神等の血管運動経神症状を主とする全身性の症候群を示す場合をいうが,その他,悪心・嘔吐・腹鳴・下痢・腹痛等の腹部症状を伴うことがある.ダンピング症状は多くは摂食中か摂食後30分以内に現われる早期ダンピングであるが,時には摂食後2ないし4時間後に現われる後期ダンピングもある.

胃切除後の貧血と低栄養

著者: 外山圭助

ページ範囲:P.1670 - P.1671

 最近麻酔の進歩に伴って手術の危険度は極めて減少し,胃切除術も容易に行なわれるようになった、その反面,胃切除後障害の問題が出現してきた.ここでは,このうちとくに内科的治療が重要な貧血と低栄養の治療法について記す.

4.腸の機能障害とその対策

便秘症の治療のポイント

著者: 渡辺晃

ページ範囲:P.1672 - P.1673

 便秘は器質性便秘と機能性便秘に大別され,機能性便秘はさらに痙攣性便秘,弛緩性便秘,排便困難(直腸性便秘)に分類される.したがって,便秘の治療にあたっては,まず便秘の種類を診断し,その後,それぞれに応じて適切な治療方法を講ずることが必要である.

心因性慢性下痢症の治療

著者: 河野友信 ,   中川哲也

ページ範囲:P.1674 - P.1675

 心因性慢性下痢症とは,心理的因子の関与した慢性の機能性下痢症,つまり過敏性大腸症候群のうち,下痢症状を呈するタイプと考えてよいだろう.これには,従来神経性下痢nervus diarrheaといわれた持続下痢型のものと,下痢便秘交替型の下痢症,さらに,とくに心因の関与がつよい粘液分泌型(粘液病痛colica mucosaといわれてきたもの)がある.
 本症では,単に下痢という身体症状を対症的に治療するだけでは問題の解決にならず,むしろ治療の重点は,心因の処理にあるといってよい.発症の誘因になったり,病気を修飾している心理的因子,つまり身体症状の背後にある心理的不安の除去や,症状に対する過度の病感の修正が,治療の重点になる.

過敏性大腸症候群の治療のポイント

著者: 井上幹夫

ページ範囲:P.1676 - P.1677

病態と治療方針
 過敏性大腸症候群の病態は腸管の運動および分泌の失調,なかんずくその亢進状態であり,同時に全身の自律神経失調状態を伴っていることが多い.発生要因としては食事性因子や種々の身体的因子(過労,体の冷えなど)とともに,精神的因子が重要な役割を果たしていることが少なくない.
 したがって,本症の治療方針としては,これら発生要因の除去ないしは軽減と,亢進した腸管機能の正常化が中心となり,治療法としては精神療法,生活指導,食事療法および薬物療法がある.

5.潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎の内科治療

著者: 吉田豊

ページ範囲:P.1678 - P.1679

 ある病気を適切に治療するためには,その病気の病因と発生病理に精通することが要求される.ところが潰瘍性大腸炎は病因も発生病理も不明な疾患であり,病状も多彩であるだけに治療がむずかしい.現段階では本症の内科治療は完全治癒が期待できないままに完全緩解を目標とする.しかし,病態が十分にコントロールされた緩解状態下では患者の社会復帰も可能であり,重大な合併症のない限り本症は内科治療が原則である.
 治療の基本方針をつくっている臨床上の理論は以下に要約され,内科治療を行なう場合,これを忘れてはならない.

潰瘍性大腸炎の外科的治療—適応と術式の選択

著者: 五戸達雄 ,   吉雄敏文

ページ範囲:P.1680 - P.1682

 潰瘍性大腸炎の治療法は本症の原因がまだ解明されていないために,保存的療法には決定的なものはなぐ,外科的には病巣を含めた広範大腸切除以外に方法がないのが現状である.保存的には多くの病例において完治することなく再燃と寛解を繰り返し,そのうちあるものは外科的に病巣を切除するという結果になる.しかし,外科的に切除しても,大腸全別除以外の病巣のみの切除では,この疾病より完全に解放されるとは限らないというまことにやっかいな病気である.残存結腸や直腸に再発し,再び保存的療法を繰り返したり,再手術により大腸全別除を行なう結果となることが多い.したがって,外科的治療法もその適応や術式についていろいろな方法が行なわれており,これらについての現時点での考え方を筆者らの経験とともに若干の検討を加えて報告する.

6.消化管出血

消化管出血の救急治療

著者: 河野実

ページ範囲:P.1683 - P.1685

 消化管大出血は多くの場合,吐血または下血に引き続いて貧血および失血による急性循環不全症状を呈するから通常診断は容易である.かかる患者に接した時にいかなる処置をとるか.ショック状態に陥ってる時はとりあえずの緊急処置を要するが,すぐ輸血を要するかどうかの重症度の判断,現在はそれほど重症でなくても出血が進行性であるか,再発の可能性が大であるかの判断,治療に直結する出血部位の診断,出血を促進するような基礎疾患の有無の検討,以上のことが治療方針の根底となるであろう.

7.老人の腹痛

老人の腹痛にどう対処するか

著者: 沢田藤一郎

ページ範囲:P.1686 - P.1687

 老人は抵抗が弱く,回復も遅く,案外もろいことを念頭におく必要があろう.例えば,急性胃腸カタルの場合には下痢と腹痛をきたすが,若い人ならば内容が充分出てしまえばちょっと抗性物質を用いる位で治ってしまうが,老人ではそのほかに心臓のことも顧慮しておく必要があり,念のために強心剤を与えるとか,水分欠乏に対し輸液でもってその平衡を保つ必要もあることがある.
 老人のもろいということは動脈硬化が進んでおり,体の代謝が一般に低下しているからで,刺激に対し反応が弱く,細菌の侵襲等に対してもその防御作用である炎症反応が弱いので,浮風充血,白血球の浸潤も少なく,したがって腫脹も少ないので疼痛も軽いということになる,実際には壊死のようなひどい変化が起こっているのに腹痛が軽いというようなことが起こりうる.

8.消化管疾患治療薬

制酸剤と抗コリン剤の処方とその使い方

著者: 安部井徹

ページ範囲:P.1688 - P.1690

 制酸剤と抗コリン剤は,因習に従って漫然と画一的に処方される傾向にある.最近このことに批判的な議論が多くなったことは喜ばしいことではある.しかし胃腸疾患の病態生理は複雑で,未知の分野が多すぎるし,これらの制酸剤や抗コリン剤による変化もよくわかっていない.一方,両剤の限界も最近になってようやく理解されはじめ,これに従った薪しい処方や使い方が確立されねばならない時期に達しているが,現在あるものは混乱だけであって,一定のコンセンサスは得られていないのである.
 したがって,ここでこの問題を取りあげるとすれば,私見を述べるに止どめざるを得ない.元来薬物を用いるためには,個々の患者の病態生理をつかんで,薬物のもつ薬理作用と併せ考えて適応を選び処方を工夫すべきである.しかし,消化器病ではこのことは至難のわざである.ある程度try and errorを繰り返さざるを得ない.しかしそれでも因習にとらわれた画一的な処方よりはましである.筆者はその意味もあって,両者の合剤を使用することには賛成できないし,そういう処方をここに示す気にもなれない.それよりもこれらの薬物を投与するときに考えてみなければならない幾つかの事項を示したい.

消化酵素剤の使い方

著者: 名尾良憲

ページ範囲:P.1692 - P.1693

消化酵素剤の使用にあたって
 消化管において,食物の栄養素は消化酵素の作用によって分解され,吸収されやすい形に変化されて吸収される.消化酵素は消化液中に含有されており,正常においては十分な機能が発揮されているから,とくに外部より補充する必要はない。消化液の分泌が減退すると,消化酵素が不足するために消化障害がおこり,したがって吸収障害を招くことになる.また消化液の分泌が正常であっても,過食などによって相対的に消化酵素の不足がおこりうる.このような場合には消化酵素剤を投与する必要がおこる.
 消化酵素には,糖質,蛋白質,脂肪などを分解するものがあり,また,その分解の過程において働く酵素も異なるために,その種類と作用は多種多様である.それゆえ単一な消化酵素剤のみでは十分な効果をあげえないために,最近,総合消化酵素剤がさかんに用いられるようになった.

腸管感染症と化学療法

著者: 斎藤誠

ページ範囲:P.1694 - P.1695

 腸管感染症の大部分はグラム陰性桿菌の感染によって小腸を炎症の場とするもの,大腸を場にするものに大別される.その主な症候は下痢によって表現される.
 小腸を場とする感染症を病原側からみると,コレラ菌,腸炎ビブリオ,サルモネラ,ブドウ球菌などがあげられ,大腸を場とする代表的なものは赤痢菌である.しかし病原大腸菌の感染は菌型によって,急性胃腸炎の病像を示すもの(026,055,0111など),赤痢に等しい大腸炎型の臨床像を現わすもの(028ac,0124など)があり,サルモネラなどの感染群と,赤痢との橋渡し的役割を果たしている.

IV 肝・胆・膵 1.肝炎の管理

急性肝炎の治癒判定と社会復帰

著者: 市田文弘 ,   井上恭一

ページ範囲:P.1698 - P.1699

 急性肝炎のうちで最も多く遭遇する急性ウイルス性肝炎の予後は比較的可良で,大部分の症例は3ないし4カ月の間に完全に治癒するが,3,4カ月以上にわたり肝機能検査成績の異常がつづくことがあり,かかる際には慢性肝炎,持続性肝炎への移行が考えられ,その判定が困難なことも多い.ここでは筆者らの内科教室において急性ウイルス性肝炎の治癒判定規準としている種々の指標についてのべ,それに応じた社会復帰の問題についても触れる.

慢性肝炎の安静度と食事

著者: 戸田剛太郎 ,   織田敏次

ページ範囲:P.1700 - P.1701

 慢性肝炎の治療は,その病的な肝を正常な肝にまでひきもどす積極的な治療が第一の目標でなければならない.しかし,これは容易なことではない.さしあたっての配慮は肝炎慢性化の要因をとり除くことである.しかし,肝炎の慢性化にはウイルスの毒性のみならず,これに対する宿主側の反応,遺伝的素因まで複雑にからみあい,真の要因となると不明といわざるを得ない、慢性肝炎から肝硬変への移行が停止ないし遅延するならば,それでも大変な進歩である.慢性肝炎が劇症型に移行することは稀である1).それならば,肝硬変に移行しない限り致命的ではない.慢性肝炎は間葉系の反応を伴う門脈域の持続的な炎症であり,肝細胞の懐死をともなう活動型(active)と,これをともなわない非活動型(inactive)に分けられるとしても2),この区別は慢性肝炎経過中におけるステージの差を示すものである.活動型の状態が長く持続すること,あるいは急性増悪をくりかえす例は肝硬変に移行する可能性を持っていると考えられる3).肝細胞の側からみる時,この肝細胞の壊死を阻止する決定的なものは現状ではなく,阻止というよりは肝細胞自身のもつ修復力,再生力に期待することになる.そのためには,肝細胞がその再生能を十分に発揮できる状態にすることである.病的な肝細胞が十分な機能を果たしていないのは,1つには慢性肝炎にみられるようなディッセ腔への線維の増生,microvilliの乱れ4)によって栄養分が摂取できない状態を考慮に入れる必要がある.また,ミトコンドリアの減少4)は細胞内のエネルギー代謝を低下させ,同化の過程全般に影響を与える可能性がある.したがって,十分な肝血流量を維持し,十分な栄養分を補給することがまず必要になる.安静・食事療法の意味は主としてこの点にある.

2.肝硬変とその周辺

肝硬変症の管理

著者: 亀谷麒与隆

ページ範囲:P.1702 - P.1703

 肝硬変症は種々の原因による肝障害の終末像で,原因的,形態学的に種々分類されているが,共通することは,機能肝細胞の全体としての不足と,肝の循環系の障害である.

肝性昏睡の治療方針

著者: 三辺謙

ページ範囲:P.1704 - P.1705

 肝性昏睡の発生機序がまだ完全に解明されていない現在,治療法として確立されたものはない.単一な因子で起こるのでもなく,症状としても同じではないからでもある.少なくとも,急性肝不全に生じる肝性昏睡と,慢性肝疾患に生じる肝性脳症とにわけて,治療方針をたてるのが実際的である.後者の治療方針は前者にも用いられるが,それで予後良好となる程有効ではない.

3.中毒性肝障害の治療

アルコール性肝障害をどう取り扱うか

著者: 石井裕正

ページ範囲:P.1706 - P.1707

 アルコール中毒患者はアメリカでは800〜1,000万人といわれている.わが国でも,近年アルコール中毒者が著しい増加傾向をたどっているが,それに伴い内科領域でも肝障害をはじめとし膵炎,胃炎などの消化器疾患の他に,神経・筋疾患,貧血や血小板減少症,心筋障害などの諸疾患が増加しており,アルコールの全身臓器へ及ぼす影響の大きさを再認識する必要があると思われる.本稿ではアルコール性肝障害(ただし肝硬変症は紙数の制限上省略する)に焦点をしぼって筆を進めていきたい.

薬物肝障害・治療のコツ

著者: 山本祐夫

ページ範囲:P.1708 - P.1709

起因薬剤の除去
 中毒性肝障害は毒物あるいは医薬品の服用によって生じた肝障害をいう.医薬品に起因する肝障害はdrug induced liver injury薬物または薬剤性肝障害と呼ばれる.
 医薬品に起因する肝障害の治療においてまず第1に重要なことは,できるだけ速やかに起因薬剤の投与を中止することである.患者は基礎疾患を有し,その治療の目的で投薬を受けているのが普通なので,主治医の注意が基礎疾患にのみ向けられ,発熱,発疹,皮膚掻痒感という薬剤性肝障害の重要な症状が出現していても,なお投薬を続け黄疸の出現により漸く薬剤性肝障害を疑う場合は,決してまれでない.

4.肝疾患に合併症のみられたとき

肝腎症候群

著者: 上野幸久

ページ範囲:P.1710 - P.1711

 肝・胆道疾患に腎障害が稀ならず認められることは古くから注目され,1939年Nonnenbruchにより提唱された肝腎症候群という概念が今日でもかなり広く一般に受け入れられている.しかしながら一方には,Martiniの指摘しているように,果たして真の意味での肝腎相関が存在するのか,また肝腎症候群という概念が妥当であるかについては疑問の余地が少なくない.肝腎の両者に障害が存在するばあいをMartiniに従って整理すると,1)胆道疾患における高窒素血症,2)肝硬変症に伴う糸球体腎炎,3)末期の肝硬変症あるいは劇症肝炎における水分および電解質代謝異常ないし腎不全,4)中毒あるいは感染などによる肝・腎の同時障害(Weil病,4塩化炭素中毒など)の4群に分類される.
 胆道疾患に併発する腎障害についてはショックに起因する血流の減少によるもの,つまりショック腎に他ならず,肝障害の関与を必ずしも必要とせず,したがって肝腎症候群とするのに当たらないとする考え方もかなり有力である.近年では非代償性肝硬変症あるいは劇症肝炎に伴う腎機能障害のほうがむしろ注目され,その方面の報告が多い,筆者らの症例でも胆道疾患に伴う高窒素血症がショックを契機としておこることが多く,また種々の原因による急性循環不全により著しい肝腎障害をきたすことがあり,筆者らもやはり肝腎症候群をショック腎の範疇に属するものと考えたい.しかしながら,胆道疾患における腎障害はとくに高度の黄疸と炎症とが持続し,しかも高齢者である症例におこりやすいという特異的な面をもっている.また頻度がかなり高く,因果関係が比較的明らかであり,ある程度予知と予防とが可能であり,しかも適切な治療により救命し得ることが多いという点において実地医学的に重要である.したがって,本稿においては,このような症例を肝腎症候群とすることの妥当性はさておいて,紙数の関係もあり,胆道疾患に伴う腎障害の対策に限定したい.

妊娠と黄疸

著者: 浪久利彦 ,   黒田博之

ページ範囲:P.1712 - P.1713

 妊娠は本来生理的な現象であるが,末期には肝機能検査成績に軽度の異常を示すものが多い.無黄疸性であるが,生化学的には,妊娠9カ月で,アルカリフォスファターゼ(Al-P),ロイシンアミノペプチターゼ(LAP),コレステロールの軽度上昇がみられ,分娩直前にはコリンエステラーゼの減少とγ-グロブリンの軽度上昇がみられる.膠質反応,トランスアミナーゼには異常なく,色素負荷試験は妊娠末期に軽度の異常をみることがある.これに対して肝は形態学的に正常である.妊娠中に黄疸が現われることはごく稀で,2,000〜4,000例に1例であり,その原因は表に示すように各種肝胆道系および血液疾患に基づき,その確診が治療の根本である.

5.肝疾患の薬物治療

肝疾患とステロイド剤の使い方

著者: 小坂淳夫

ページ範囲:P.1714 - P.1715

 肝疾患の治療にステロイド剤とくに糖質コルチコイドの使用が特異的な効果を示すことは既によく知られているが,その適応を誤ると,その効果がみられないのみか,かえって病像を悪化させたり,副作用を誘発することがある.そこで,まずその適応の選び方をのべ,使い方に触れたい.

肝疾患と抗生剤

著者: 大藤正雄

ページ範囲:P.1716 - P.1717

 抗生剤は微生物によって産生され,微量にて他の微生物を発育阻止,あるいは死滅させる作用を有する薬剤であり,各種の肝疾患の治療に応用される.なお,最近数多くの抗生剤が広く応用されるようになって,抗生剤による肝障害がこれまでより経験されつつあり,肝疾患と抗生剤は臨床上重要な関連を持つ問題となっている.

6.肝癌

原発性肝癌の手術治療

著者: 菅原克彦 ,   河野信博

ページ範囲:P.1718 - P.1719

 原発性肝癌はアフリカやアジアの特定地域に発生率が高かったが,ここ数年来汎世界的に増加の傾向にあり,病因の解明,診断法の開発とともに切除による治療成績の向上が望まれている.
 原発性肝癌の治療成績を向上させるためには,病態の早期における発見,安全な手術手技と患者管理および合理的抗癌剤の併用が必要である.現在のところ管腔臓器癌にみられる早期癌は規定しがたく,あえていえば切除可能な肝癌を想定せざるを得ない程,癌治療の面ではまことにさびしい領域である.

7.胆道疾患の治療

胆石症と食事

著者: 亀田治男

ページ範囲:P.1720 - P.1721

 胆石症の症状,とくに癌痛発作の発現には,食事が密接に関連するばあいが多いこと,また胆石の生成にも食事が関与しうることなどから,胆石症の診療にあたり,食事療法の意義が重視されている.一方,両者の関係を重くみるあまり,長期間にわたって食事制限を続け,栄養障害に陥っている患者もあるので,これらの点をも考慮しながら,胆石症の食事について記載してみたい.

胆石症の手術適応と術後管理

著者: 佐藤寿雄 ,   鈴木範美

ページ範囲:P.1722 - P.1723

 胆石症の絶対的手術適応に関しては保存的療法の限界を越えているので問題はないが,比較的適応となると,臨床上その手術適応,時期,手術術式などに関してはいまなお諸家の間に見解の相違をみるところである.以下教室症例を中心に胆石症の手術適応と術後管理について2,3述べてみたい.

胆道感染症と化学療法

著者: 真下啓明

ページ範囲:P.1724 - P.1725

 胆嚢疾患がBergmannのいうCholecystopathieと称せられる如く,Cholrcstitis,Dyskinesie,Gallensteinの3者が互いに密接に原因となり,結果となっていることは一般に考えられているところである.胆道感染症と称する場合には胆嚢,胆管の細菌性炎症の存在を意味するのであるが,純粋な型での感染炎症の存在することも確かであり,一部は急性胆嚢炎の形をとるが,大部分は慢性胆嚢炎の形であり,その原因,結果として胆石の存在あるいはジスキネジーの存在があることが多い.したがって,化学療法の目的は炎症の制圧であるから,背景として存在する胆石あるいはジスキネジーによる症状の改善のないことは当然である.

利胆剤の使い方

著者: 堀口正晴 ,   小沢靖 ,   吉沢国彦

ページ範囲:P.1726 - P.1727

 利胆剤には,胆嚢・胆管系からの胆汁排出を促す排胆剤cholagoguesと,直接肝細胞に作用して胆汁分泌を促す催胆剤cholereticsとがある.さらに排胆剤は,胆嚢を収縮させる胆嚢収縮性排胆剤cholecystokinetic cholagoguesと,Oddi筋を弛緩させるOddi括約筋弛緩性排胆剤non-cholecystokinetic cholagoguesに分けられ,催胆剤は,主として水分量を増加させる水分分泌促進剤hydrocholereticsと,主として固形成分を増加させる固形成分分泌促進剤cholanereticsに分けられている(表)。

8.膵炎

急性膵炎の管理

著者: 本間達二

ページ範囲:P.1728 - P.1729

急性膵炎の病因
 膵管の開口部と総胆管の開口部とが解剖学的に共通管をつくることが多く,別に開口していてもごく近いところに存在する.正常者では膵管内圧が胆汁の流出圧よりも格段に高いため胆汁は膵内には流入しないが,乳頭部の炎症・胆道疾患などの病的状態のときに胆汁は膵内へ逆流する.
 Opieがこのようにして膵炎が発症すると提唱して以来,膵炎の病因について多くの説が考えられている.

慢性膵炎の生活指導と治療

著者: 築山義雄

ページ範囲:P.1730 - P.1731

 比較的短期間で完全治癒が可能な急性膵炎と全治の望みが少なく,経過の長い慢性膵炎とは生活指導,治療といった面でもはっきり区別して取り扱う必要がある.急性膵炎は徹底的に治療し,厳重な病後管理を行ない,後に障害が残らないように治癒せしめることが大切であるが,慢性膵炎の場合には増悪を防いで病状を安定させるようにする.そしていたずらに長く入院させたり,きびしい療養を指導して社会復帰をおくらせてはならない、多少の障害があってもできるだけ職場に復帰せしめ,大きい不自由なしに生活を楽しませるといった配慮が必要である,一般に急性膵炎の場合に緩に過ぎ,慢性膵炎の場合に漫然ときびしい制限をする傾向があるのは戒しむべきことである.
 慢性膵炎という病名が意味する概念のなかには軽重の程度,病期,病態がいろいろなものがあるので,これらを一律に取り扱うことはできない.急性再発ないし増悪期には急性膵炎に準じた治療が必要であるが,これは本文の主題ではないので,以下主として慢性安定期ないしそれに近い状態の場合についてのべる.

V 内分泌 1.間脳—下垂体疾患の治療

下垂体前葉機能低下症の治療のポイント

著者: 鎮目和夫

ページ範囲:P.1734 - P.1735

 下垂体前葉機能低下症としては汎下垂体機能低下症,またはその不全型のほかに下垂体ホルモン単独欠損症も含まれる.しかし本稿では,汎下垂体機能低下症およびその不全型の治療について述べる.

尿崩症の新しい治療法

著者: 吉田尚

ページ範囲:P.1736 - P.1737

 尿崩症は,抗利尿ホルモンADHが不足しているために口渇,多飲,多尿を呈している疾患である.したがって,その治療法はADH製剤を投与して,その不足を補充することが最も合理的な治療法と考えられる.従来,このような治療目的をもって投与されたものに油性タンニン酸ピトレッシンがある.これは1アンプル中に5単位のADH(バゾプレシン)を含んでおり,筋肉注射により24〜72時間有効である.よく振盪してからアンプルより吸引するなど使用上の注意を怠らなければ効果は確実であり,副作用も少ないのであるが,経口投与が無効なことが最大の欠点である.補充療法という性質上,患者は2〜3日おきに注射をするという苦痛に一生悩まされることになる.また,ごく稀であるが抗体が発生してこの注射が無効になる例があるといわれている.したがって,最近の治療法は注射をさけて,経口投与あるいは鼻腔噴霧など簡便な投与法により,尿崩症の症状を軽減することを目的として開発されている.以下,これらの治療法を紹介する.

2.バセドウ病治療の要点

抗甲状腺剤の使い方—正しい方法と誤った使い方

著者: 入江實

ページ範囲:P.1738 - P.1739

 甲状腺機能亢進症—バセドウ病—の診断がついた場合,治療の方針としては次の3つの基本的な方法がある.それは,1)いわゆる抗甲状腺剤による治療法,2)手術療法,3)アイソトープ(131I)による治療法である.そのいずれを選ぶかという問題については,それぞれの医師の経験,施設の状況などによって異なるであろうが,もっとも手軽にできるものは抗甲状腺剤による治療である,また手術療法にしてもアイソトープ療法にしても,最初はまず抗甲状腺剤による治療を行なって患者の甲状腺機能を正常化し,その後に,それらの治療法を行なうべきものである.ここでは抗甲状腺剤を用いて永続的な治療効果をあげようとするための抗甲状腺剤療法について述べよう.

バセドウ病の手術療法—とくにその適応

著者: 伊藤國彦

ページ範囲:P.1740 - P.1741

 抗甲状腺剤治療,アイソトープ治療の普及により,今日ではバセドウ病が外科医の対象となることは稀である.しかし甲状腺疾患を専門とする外科医は現在でもかなりの症例に手術を施行している.しかし本症に対して外科的治療を最優先させることには問題がある.個々の症例に当面して,これら三者の治療法の特徴を認識した上で治療法をえらぶべきであり,手術の適応はむしろ消極的であるべき時代である.しかし本症の中には,病状や経過からみて手術がもっとも適切な症例は少なくない.以下手術の適応について筆者の見解を述べるが,他の治療法の特徴と比較する必要があるので,手術の問題のみに限定せず他の治療法の適応にも言及することにする.

131Iによるバセドウ病の治療—とくに投与量の問題

著者: 鳥塚莞爾

ページ範囲:P.1742 - P.1743

 バセドウ病の原因は今日なお不明で,したがってその原因的療法はない.131I療法は放射線による一種の破壊的療法であり,最良の方法とはいえないが,治癒率が高く,安全に実施し得ることから広く行なわれるようになっている.しかしながら高率な晩発性甲状腺機能低下症の発生1〜3がみられることから投与131I量の再検討が行なわれているのが現状である.
 以下,131I療法の適応,投与法および晩発性機能低下症の発生を中心に概説
する.

妊娠を合併したバセドウ病の治療

著者: 飯野史郎

ページ範囲:P.1744 - P.1745

診  断
 妊娠時には暑がり,神経質,動悸などの自覚症状や,頻脈,皮膚の高温・多湿などの他覚所見のほか,しばしば軽度の甲状腺腫を伴い,検査上でも基礎代謝率(BMR)は増加(最終月には+20〜30%)し,蛋白結合ヨード(PBI)および血清サイロキシン(T4)は,それぞれ7.0〜12.0μg/100m9(非妊時4.0〜8.0μg/100 ml1))および14.9〜19.2μg/100ml2)(非妊時6.2〜14.5μg/100ml3))(Tetrasorb)と比較的高値を示すため,軽症甲状腺機能亢進症とまぎらわしい場合が少なくない.しかし,Resin Triiodothyronine(T3)uptake(RT3U)は,正常妊娠時にはMitchell法(Triosorb,Triluteなど)で低値,Scholer法(Res-O-mat T3,Thyopac-3,Triakitなど)で高値を示すが,甲状腺機能亢進症を合併する場合には,低値(または高値)を示さない点で,両者の鑑別に有用である.すなわち,Triosorb値は妊娠10週には25%以下となり,14週以後はほぼ21%を続ける4)(正常域25.4〜37.3%5))が,甲状腺機能亢進症を合併する場合には,機能亢進域にあるかまたは正常域にある.したがって,RT3U値が10週以後において,機能低下症域に入らない場合には,切迫流産が除外できれば,甲状腺機能亢進症が疑われる.Free Thyroxine(F-T4)は妊娠合併の有無にかかわらず,甲状腺機能状態をよく反映するので両者の鑑別上有用であるが,その測定の技術的困難性のために実用的でない。しかし,T4濃度とRT3U値との積,すなわち,Free Thyroxine Index(FTI)がF-T4と平行するところから,最近では,このFTI(Res-O-mat ETRもその1つ)が上述の目的のために使用される.

3.甲状腺疾患治療の問題点

橋本病—その発見と治療のポイント

著者: 鈴木秀郎

ページ範囲:P.1746 - P.1747

 橋本病は中年の婦人に好発し,硬いびまん性の甲状腺腫をつくる他,ほとんど症状を示さず,慢性かつ潜在性に進行する疾患である.甲状腺機能は検査により始めて明らかになる程度の軽い障害を示すものが多いが,ときに明らかな粘液水腫像を示すものもあり,甲状腺の生検では特有な組織所見を示す.

甲状腺機能低下症

著者: 山本智英

ページ範囲:P.1748 - P.1749

 甲状腺機能低下症は甲状腺機能亢進症とは逆の病態であり,一次的または二次的(間脳,下垂体の異常の結果として)の甲状腺機能の低下した状態である.本稿では内科領域での本症の分類,臨床症状,注意すべき合併症,臨床検査および治療について述べる.

甲状腺腫—どのような場合に手術するか

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.1750 - P.1751

 甲状腺が大きく腫大していると,病因が何であろうと美容上よくないという理由で手術をしたり,甲状腺に硬く触れる部分があるとすぐ癌の疑いをおいて手術をしたのは昔のことであり,今日では術前にいろいろな検査ができるようになったので,手術をしなくても診断がだいたいつくようになり,診断がつけば個々の疾患の病態生理を十分にわきまえて手術適応を決めるようになった.
 さて手術適応があると決まった場合,手術中に新たに得られる所見や情報を加味して,生じている病変の綜合的判断を慎重に行ない,最も適切と考えられる手術術式を選ぶことが肝要である.

4.上皮小体疾患の治療

副甲状腺疾患

著者: 藤田拓男

ページ範囲:P.1752 - P.1753

 副甲状腺疾患には他の内分泌疾患と同様に機能亢進症と機能低下症がある(表1).
 これらのそれぞれが独特の疫学と病態生理をもつ疾患であり,その治療も個別化したものでなければならないが,理解の便宜上これを総括して原理として述べることにする.

5.副腎疾患の治療

副腎不全治療のポイント

著者: 井村裕夫

ページ範囲:P.1754 - P.1755

 副腎不全の治療にあたっては,まず原発性(副腎結核,特発性萎縮など)か,続発性(下垂体機能低下症,副腎皮質ステロイド長期投与後など)かを区別しておく必要がある.原発性副腎不全ではアルドステロンの分泌も障害されているため,ストレスに際して副腎クリーゼを起こしやすい.原発性と続発性の鑑別のためには,ACTH刺激試験が用いられる.
 治療の主眼は不足している主要な副腎皮質ステロイド,コーチゾールを補償することにある.補償の方法と量は慢性期と,急性期すなわちクリーゼの時期とでは異なる.

VI 糖尿病・代謝 1.糖尿病治療の問題点

糖尿病患者の食事を外来でどう指導するか

著者: 堀内光

ページ範囲:P.1758 - P.1759

糖尿病食事療法の考え方
 外来で初診の糖尿病患者と問答していてよく聞かされることであるが,糖尿病の疑があるといわれて米飯を半分以下にし,砂糖や菓子は一切とらぬようにした.一般の副食物は普通にとっており,ビールや日本酒は止めてウイスキーにしたというようなことがある.糖尿病治療の目標を尿糖の消失においた往年の考え方がまだそのまま残っている影響である.しかし現在は尿糖陰性化を目標とするのではなく,糖尿病病態のより本質的な所見と考えられる体内のインスリン作用の不足の解消を目ざして治療内容を工夫している.
 そのためにはまず1日摂取総カロリーをきめる.患者個人が日常生活のできる最少カロリーをもってこれに当てる.一般に成人,事務職で標準体重毎kg25〜30Calである.そして総カロリーを各栄養素に配分し,さらにビタミンやミネラルも不足のないよう食品を選択する.

経口剤による糖尿病の治療

著者: 小坂樹徳

ページ範囲:P.1760 - P.1761

糖尿病治療の基本と経口剤の適用
 糖尿病治療の目的は,その根底にあるインスリン作用の不足を解消し,糖尿病代謝を正常化した状態を長く維持することによって,好発する急性・慢性の合併症の発生・進行を防止するにある.この目的を達成するため,食餌制限と適度の運動を励行し,必要に応じてインスリンまたは経口剤を併用する必要がある.
 今日使用されている経口剤はいずれもインスリンに代わりうるものではなく,限られた症例にのみ有効であるが,一定の適応を考慮して慎重に用いれば,十分臨床効果の期待できることがほぼ明らかになったと思われる.一面安易に使用され,誤用とみなしうる危険な事例も報じられており,薬物療法の原則を十分ふまえた上で適用すべきである.

インスリンの投与量

著者: 後藤由夫

ページ範囲:P.1762 - P.1763

未治療時血糖値と必要とされた治療法
 糖尿病がはじめて発見されたときの空腹時血糖値(FBS)と入院後最終的に必要とした治療法との関係をみると表1のようになる.この成績からFBSが300mg/dl以上のものは全例,また250mg/dl以上のものではその大部分がインスリン治療を必要とすることが知られる。また160mg/dl以下のものは食事療法だけでもよいものが多いし,食事療法が予想以上に効果的であることもこの表からうかがうことができる.

小児糖尿病の治療法

著者: 丸山博

ページ範囲:P.1764 - P.1765

 小児糖尿病は若年型糖尿病(インスリン依存型)が大部分である.インスリンによる治療が原則であるので,発病の初期および寛解期において,食事療法だけあるいは経口糖尿病剤(多くは無効であるから使わない方がよい)との併用療法を行なっていても,いつもインスリンをいつから使用し始めるかについて考えておくことが必要である.

老年期の糖尿病治療の要点

著者: 村地悌二

ページ範囲:P.1766 - P.1767

老年期における糖尿病の診断
 老年期の患者を対象とした場合,まずどのような例を糖尿病として治療するかということが問題となる.一般に糖尿病の診断には,今日でも糖負荷試験が最も鋭敏かつ確実な診断法として広く利用されているが,糖尿病以外で糖負荷試験に異常をきたしやすい様々な状態のあることも常に念頭におかなければならない.特に老年期には,年齢そのものと関係してひき起こされる軽度の糖代謝障害が問題となってくる.
 日本糖尿病学会の委員会1)によって勧告された糖負荷試験の判定基準は,全年齢層を対象として一律に定められている関係もあって,糖尿病が多く含まれるという意味の糖尿病域の判定基準は比較的高い血糖値のところにおかれている.

2.糖尿病合併症の治療

糖尿病性腎症の治療のポイント

著者: 河村真人 ,   高田武夫

ページ範囲:P.1768 - P.1769

 糖尿病性腎症は糖尿病に特有な糸球体病変を示す疾患で,末期には腎不全になるが,初期には臨床症状がなく,腎生検によりはじめて糸球体に変化をみとめるのみのもの,あるいは軽度の蛋白尿のみのものもある.このような腎症に対しては,その進展を防止することが治療のポイントとなる。ネフローゼ症候群を示すもの,腎性高血圧,心不全,あるいは腎不全を呈するものの対策は他の腎疾患の場合と原則的には同一であるが,糖尿病に合併しているということでとくに考慮しなければならない問題が生じている.
 腎症の発症および進展の原因については,遺伝,インスリン以外の内分泌因子,とくに成長ホルモン,あるいは免疫機序などが考えられているが,最も一般的なものはインスリン作用不足によるとする考えであろう.このために糖尿病状態をコントロールすることが従来腎症予防の第一の方法とされてきたが,血糖値を指標とした糖尿病のコントロールが良好な症例にも腎症が合併すること,糖尿病性細小血管症が血糖値の高低よりも血中インスリンが低反応を示す群に発生頻度の高いことから,血糖コントロールの効果に疑問を抱くものもあるが,インスリン作用を正常に近づけるために血糖値を指標としたコントロールがまず必要である.

糖尿病性昏睡のとりあつかい方

著者: 平田幸正

ページ範囲:P.1770 - P.1771

治療方針の決定
 糖尿病性昏睡の治療方針の決定には(1)昏睡の原因ならびに経過,(2)昏睡の種類,(3)昏睡の深さ,(4)血糖値,(5)アチドーシスあるいは滲透圧上昇の程度,(6)虚脱(血圧低下)の程度,(7)電解質異常の種類と程度などが重要な因子となる.さらに(3)〜(6)のデータは治療開始後もくりかえし入手することが必要であり,次々に進めて行く治療法転換の根拠としなければならない.

糖尿病患者が妊娠したとき

著者: 大森安恵

ページ範囲:P.1772 - P.1773

 "糖尿病妊婦だからといって特別の処置があるわけではない.妊婦においても糖尿病そのものの基本的治療方針は変わらない.よりよい結果を得るには,糖尿病妊婦にまつわる特殊な問題に精通することである".これは,Lars HagbardがPregnancy and Diabetesの治療欄冒頭にかかげた文章である.Whiteは,糖尿病妊婦のnatural courseは一口に言ってdestruction(破滅)であるとのべた。糖尿病妊婦のnatural courseとは,糖尿病患者が治療をうけず,または不完全な治療のまま妊娠を経過することで,これはインスリンのなかった時代の糖尿病妊婦の運命に等しい.すなわち,たとえ妊娠しても流産または子宮内胎児死亡が起こり,母親は糖尿病昏睡で命を失うものが多かった.
 1921年Banting & Bestによって,インスリンが発見され,治療法が確立されてから,糖尿病患者の寿命は,ほぼ非糖尿病者のそれに近づいたが,同じように妊娠もまた,正しい治療と管理下にあれば,無事分娩を終了し得るようになった.

低血糖の治療法

著者: 馬場茂明

ページ範囲:P.1774 - P.1777

 生体は血糖が正常範囲を逸脱すると,ホルモン性,あるいは代謝性の平衡が乱されて,何らかの障害が起こる.特に低血糖状態において顕著に表現されるので,成人では血糖が50mg/100ml以下,満期分娩後48時間以内の新生児では30mg/100ml以下の状態を低血糖状態として定義される.
 しかし,単に低血糖のみで特有な臨床的症候が現われるとはかぎらず,個人差も特に大きいが,脳神経と自律神経障害による症候が主体である.臨床的には脳性低酸索症(hypoxia)のそれにきわめて類似した症状であり,例えば半身不随,半身不全麻痺,失語症,失音症,あくび,意識障害,冷汗,寒気,振せん,頭痛,視力障害,心悸亢進などである.発症はきわめて顕著に,かつ急速に起こり,適切な処置にて急速に低血糖が回復すれば容易に症状は寛快し,正常化するが,遷延した場合は,たとえ血糖が正常化しても意識障害は回復しない場合もあり,緊急処置を要する重要な症候といえる.またこれら低血糖をきたす原因はきわめて多岐にわたるため,治療控としてはその原因にもとづくことはいうまでもない.

3.高脂血症の治療

高脂血症の食事

著者: 高橋善弥太 ,   安藤喬

ページ範囲:P.1778 - P.1779

 高脂血症とは,血漿中にコレステロール,中性脂肪,リン脂質,遊離脂肪酸などの脂質のいずれかが増加した状態をいうが,実際にはこれら脂質がリポ蛋白の異常を伴わずに増加することは極めて稀であり,高脂血症は高リポ蛋白血症として把握することが,臨床上理解しやすい.
 血漿リポ蛋白は一般にカイロマイクロン,βリポ蛋白,preβリポ蛋白,αリポ蛋白の4種類に分類されており,それぞれ異なった脂質構成を持っている.

脂質低下剤の現状

著者: 五島雄一郎

ページ範囲:P.1780 - P.1782

 脂質低下剤といわれるものは,従来脱コレステロール剤,脂質代謝改善剤とよばれていたものである.
 動脈硬化症が脂質代謝異常によって増悪され,促進するということは,現在疑いない事実である.したがって増加している血中脂質を正常化させることによって,動脈硬化性疾患の進行を阻止させようとするところに脂質低下剤の存在意義があると考えられる.以下本剤の現状を簡単に述べる.

4.痛風の治療

痛風の食事

著者: 小池五郎

ページ範囲:P.1784 - P.1785

現代人の食生活と痛風
  私の友人が最近突如痛風の発作に襲われた.年齢45歳,身長168cm,体重68kg,職業は某公団の管理職.学生時代はラグビー部で活躍し,その後も野球やゴルフで細々ながら運動とは縁を切らずに,健康管理に気をつけてきた.「牛乳は子どもや病人の飲むもの」という程度の「食事認識」の持主だが,夫人の栄養管理も比較的行き届いているし,つき合いとか宴会とかで美食する機会が多いので,栄養状態は佳良.いや,佳良にすぎて,体重が標準よりオーバーしている分ぐらいが,かえってマイナスになっている,と判断される.家系的に痛風の遺伝は認められず,その点,本人にとっては思いもよらぬ発作であった.あとから考えれば油断があったわけだが,この程度の食生活は,社会的地位などから考えればごく常識的なところだから,無知をわらうわけにはいかない.むしろ,やや太り気味で美食をする機会の多い人は,いつ痛風の発作におそわれるかわからない,とある程度覚悟していた方がよいだろう,彼の場合宴会でいささかすごしすぎたあと,発作に見舞われたという.一般にそういうケースが多いということだから,遺伝的素質のない人でも40歳代以上になったら気をっけるようにしたほうがよい,素質のある人,すなわち家系の中に発病者をもつ人は,30歳未満でも発病するというから,とくに注意が肝要である.痛風は,昔は帝王病などといわれ,美酒・美食に耽溺する上流社会人に多かったというが,最近は食糧事情がよくなったせいか,私の友人程度の生活レベルのものにも,こんな病気がふえてきたわけである.

痛風の薬物療法の実際

著者: 御巫清允

ページ範囲:P.1786 - P.1787

治療の根本原則
 痛風症がもはや決して珍しい症患とはいえなくなった今日でも,その治療の根本原則が充分理解されていないことは残念である.まず治療の根本原則について列挙してみると,
 1)プリン体,アルコールの過剰摂取さえしなければ,肥満せぬような食事療法以外の食事療法は不要である.

5.その他の栄養および代謝異常

肥満の治療

著者: 松木駿

ページ範囲:P.1788 - P.1789

予め患者に納得させること
 肥満の害肥満は糖尿病,高血圧,心臓病などに罹りやすく,したがって平均寿命が短いこと,現在病気がなくても生理的にhandicappingであることなど,肥満の害については患者自身も常識的に知っている.しかし,実感として肥満の害を認識しているものは少ない.そのうえ肥りつつある時などは,自分自身で身体の調子が良いと感ずることが多いので困る.それは誤った健康感であって,肥満の害は知識として認識する以外はない.肥満を治せば平均寿命が延長するという話をしても,患者自身はあまりピンとこないものが多い.したがって,それが美容上の目的であっても,医学的適応と一致して,肥満を治療しようという気持ちに患者がなれば,大へん結構なことである.

電解質異常を改善するには

著者: 大野丞二

ページ範囲:P.1790 - P.1791

 日常遭遇する電解質代謝異常はNa+,K+,Ca++,Mg++,Cl-,HCO3)-,有機酸および不揮発性無機酸の血清中濃度の増減および血液pHの変動として捉えられるが,ここではベッドサイドで常に考慮すべきNa+,K+代謝の異常の判断およびその対策を中心として述べて見たい.

ビタミン過剰症に対する治療のポイント

著者: 阿部達夫

ページ範囲:P.1792 - P.1793

 ビタミン過剰症はほとんどすべてが医原性疾患であるといってよい.ことに脂溶性ビタミンは吸収されたあと排泄がほとんどないために,異常に蓄積して過剰症を起こす.この中でビタミンDによるものが最も多く,ビタミンA過剰症がこれにつぐ.ビタミシKによる過剰症は,水溶性K4が広く使用された時代に,新生児においてK4過剰投与により赤血球の溶血が亢進し,過ビリルビン血症から核黄疸を起こす危険もあった.しかしその後天然型K1が使用されるようになって,この副作用は問題にされなくなった.
 水溶性ビタミンは一般にその排泄はきわめて早く,大量を使用してもほとんど副作用は認められない.ただまれにB群ビタミンの過剰投与によって他のビタミンの欠乏症状をみることがある.

VII 神経 1.日常みられる神経系愁訴の治療と生活指導

慢性めまいの治療と生活指導

著者: 渡辺勈

ページ範囲:P.1796 - P.1797

 慢性めまいの症例で一般的な治療対策や生活指導を必要とするものは,次の二群に大別される.
 1)原因不明のため,対症療法によらざるをえないもの(第I群).

慢性頭痛の薬物療法と生活指導

著者: 古和久幸

ページ範囲:P.1798 - P.1799

 頭痛の治療にあたって,原因が容易に想定できる場合,原因治療を行なうことはいうまでもないが,長期にわたって持続する頭痛(慢性頭痛)では,その全貌を把握できず治療に困惑することも少なくない.
 慢性頭痛患者のほとんどは全身的にも神経学的にも所見に乏しく,その診断は適切な病歴聴取によるといっても過言ではない.頭痛の性質,持続時間,頻度,部位,経過,増悪および緩解因子,随伴症状などが病歴をとる上でポイントとなる.また家族のなかに同様の「頭痛もち」がいるかどうかも参考となる.

頭部神経痛—その治療のすすめ方

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.1800 - P.1801

 神経痛というのは,あくまで症候名であって疾患名ではない.従って,出来るだけその起因をさがし,起因の知れる二次的なものと,定型的な神経痛症候を示し起因の把握できないもの(一次的)とを明確に鑑別することが,治療のすすめ方の基本である.
 頭部の痛みの訴えは,この点で明確な一次的および二次的な神経痛に分類されるもの,その何れとも分類しがたいもの,あるいは別項記載の頭痛各種と混乱しているものがあるが,それはことに脳神経(痛みを起こすのは混合神経である)と自律神経活動との関係がすっきりしていないことによる.

肩から腕の痛み—その生活指導

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.1802 - P.1803

痛む期間を乗りきる生活指導
 痛みのある病気はつらいもので,たとえ生命に危険がなく,やがて完治するとわかっていても患者には耐えがたいものである.肩から腕にかけての痛みはその代表で,ほとんどの例は予後良好であるが,痛みは耐え難く,日常の生活に多く使用する上肢が使えないことで,不便もひとしおである.
 そこで,医師たるものは,単に病気だけをみないで,一個の人格を有する患者のための生活指導をし,痛む期間を多少とも楽に乗りきるように考えてあげなければならない.生活指導の具体的な項目はごくつまらぬようにみえても,患者にとってはありがたい注意である.ここでは,肩から腕にかけての痛みを起こす代表的な病気である五十肩rotater-cuff syndromeについておもに説明し,ほかの病気については足りない点を補うようにするが,このような病人のあったときに本文をそのまま患者に見せていただくことを主眼として平易に解説する.

腰痛症

著者: 石田肇

ページ範囲:P.1804 - P.1805

 腰痛症は肩凝りとともに人類が二本足直立,歩行する宿命のもとに起こる疼痛状態で,必ずしもすべてが病的とはいえない.発痛に関する機構も,椎体,椎間板,小関節,靱帯とともにこれを支配する神経筋系の関与が考えられ,ことに人類の姿勢を無視しては腰痛は論じられない.このうち椎間板ヘルニア,脊椎分離辷り症などは青壮年期に,変形性脊椎症は加齢の変化として老人に,骨粗鬆症,脊椎圧迫骨折,癌脊椎転移などは更年期婦人や癌年齢の入に発症しやすい.臨床的には急性に発症した腰痛症と慢性に経過するものとに便宜的に区別されるが,その治療と予防に関しては生活指導ということが重要な地位をしめることは当然である.したがって腰痛の治療は多少の痛みをもちながらもいかに社会生活に適応し,日常生活を送るかにあるといっても過言でない.

手足のしびれ感—その治療のすすめ方

著者: 安藤一也

ページ範囲:P.1806 - P.1807

 手足のしびれを主訴として来院する患者はかなり多く,この場合にその障害部位や原因はさまざまである.実際上は末梢神経障害,末梢循環障害および脊椎疾患によるものが多いが,脊髄や脳の病変によるものや神経症や抑うつ症によるものも少なくない.
 患者の訴えるしびれ,またはしびれ感の内容も異常知覚や知覚鈍麻とは限らないで,時には脱力をさしていることもある.そこでしびれの内容を確かめ,その性質,起き方,部位,一過性か持続性か,どうした状況で起きるのか,来院までのしびれの経過について詳しく問診し,さらにしびれ以外の症状についても確かめておくことが必要である.最近では公害,中毒,薬剤の副作用によるものが注目され,全身性疾患の部分症として手足のしびれを生じることも少なくない.

自律神経失調症

著者: 筒井末春

ページ範囲:P.1808 - P.1809

 自律神経失調症は一般に主症状が自律神経症状であって,精神症状の出現はあっても主症状の発現に直接関与が考えにくく,これらの愁訴に見合う他覚的検査で所見の欠如があると,比較的安易に診断されているが,充分な除外をしないと他の身体疾患や精神疾患と誤ることもあり,さらに積極的に自律神経失調の存在を機能検査で確かめることも大切である.
 このように注意して他疾患を見落とすことのないように慎重な配慮を加えても,全て同一の要因で発生しているというよりは,いくつかの病像が混在して本症が発症していると考えるのが妥当である.

2.内科医に必要な精神科治療のポイント

仮面うつ病—その生活管理

著者: 長門宏 ,   中川哲也

ページ範囲:P.1810 - P.1811

 不定の身体症状を訴えて医師を転々とする患者の中には,最近問題になっているいわゆる仮面うつ病(masked depression)と思われる症例が少なくない.masked depressionとは,種々の身体症状が前景に出た,つまり身体症状の仮面をかぶったdepressionという意味である.その本態はあくまでもdepression(うつ病)なのである.もっとも,この種の患者は,内科医の前では主として身体症状を訴え,精神科医の前では主として精神症状を訴えるというように,患者側が意識的または無意識的に訴えをマスクするという点もあるかもしれない.
 いずれにしろ,masked depressionという言葉は,特殊な疾患ないし診断名を意味するわけでなく,depressionという病気をよりよく理解するための啓蒙的な考え方を示唆するものとして受け止めるべきであろう.

神経症

著者: 石川中

ページ範囲:P.1812 - P.1813

神経症が何故,内科に来るか
 神経症を治療する場合に,内科医に要求される治療のポイントについて述べる前に,簡単に,内科外来では神経症をどのように扱うべきかについて述べる必要がある.
 まず考えなければならないのは,本来ならば精神科を訪れるべき神経症の患者が,何故内科外来を訪れるかという問題である.第一に挙げるべき理由は,神経症としての精神症状が目立たず,身体症状のみが前景にある場合である.この場合は患者も自分が神経症であることを自覚していないし,医師もまたそれに気づかないことが多い.第二のグループは,患者自身も神経症ではないかと思っていたり,あるいは既に専門医に神経症と診断されている,精神症状が主体であるケースであるが,患者自身あるいは家族が精神科にかかることを避けている場合である.

不眠の対策

著者: 平井富雄

ページ範囲:P.1814 - P.1815

 一般に不眠はひとつの症状であって,それ自体が原因疾患ではない.したがって,不眠を誘発するような原因疾患が,その根底にあるということになる.
 不眠症状を訴えることが比較的多い症状としては,神経症,躁うつ病,精神分裂症などのほか,胃・十二指腸潰瘍から高血圧症などの身体疾患がある.これだけには限らないが,とくに精神神経科領域に属する症状の初期症状として,不眠が多く訴えられることをここに強調しておきたい.たとえば,神経症ではその約60%近くが不眠症状を訴えている.ごく平均的な公立病院の精神科外来を訪れた患者のうち,不眠症状についての統計をかかげると,表のようである.このうち,精神疾患であるための部分症状としての不眠が,約25%あるから,一般臨床においては,この統計における総数約44%から25%を引いた数,つまり約20%近くの不眠を訴える患者がいると推定できよう.アメリカでは,一般臨床における不眠症状を持つ患者は約40〜60%に及ぶといわれている.

てんかんの薬物療法と生活管理

著者: 中沢恒幸

ページ範囲:P.1816 - P.1817

 てんかんの薬物療法と生活管理は発作の抑制と精神症状改善のための車の両輪のごとき存在である.何故なら抗てんかん剤は現在のところすべて対症療法の域を出ていないので,極めて長期間服用しなければならず,したがって,その間の生活指導や職業上の問題特有の性格変化が示す生活障害などをコントロールしてやらねばならないからである.
 てんかんの薬物療法は,多くの成書に詳細に記述されているが,臨床的に繁用されているのはbarbiturate系,hydantoin系およびoxazolidine系の3種であり,これ以外の抗てんかん剤使用は専門医にまかすべきであろう.

老人痴呆の生活管理

著者: 大友英一

ページ範囲:P.1818 - P.1819

 正常に発達した知的活動が後天的病変により低下崩壊した状態が痴呆であり,老化と共に起こり社会的生活に支障をきたした状態が老年痴呆である.老年痴呆はその速度は種々であるが,絶えず進行性であり,痴呆そのものを治すことは不可能である.しかし進行をできる限り抑制する努力はなし得,また痴呆に伴ういろいろな症状,例えば興奮抑うつ状態,錯乱状態またせん妄などに対してはある程度積極的な治療を加え得る.また痴呆化に伴う種々の生活の乱れ,例えば長期臥床,失禁,褥創,感染などに対しての対策が存在する.全身のいろいろな症状に対する処置は痴呆化の進展に対してはある程度抑制的な働きをなし得るものと考えられる.老年痴呆の診断については必ずしも明確なcriteriaがなく,その統計について問題もあろうが60歳以上の約3〜6%,65歳以上の7%程とされており,外国の報告でも65歳以上で5%内外とされている.重篤な老人痴呆例は精神病院に収容されているが,老人痴呆の大部分にあたる比較的軽症例は一般家庭,老人ホームまたは老人病院にいると考えられる.本稿では内科的方面から主としてこのような症例を対象として述べる.

むちうち症の生活指導

著者: 三好邦達

ページ範囲:P.1820 - P.1821

 いわゆる"むちうち症"はwhiplash injuryの邦訳語であって,whiplashとはむちの先の軟かい部分のことであり,サーカスの動物使いなどが使う革のむちを空中で振ると,むちの先は蛇行して波状し運動する.ちょうどこのような運動が脊椎ことに頸椎におこって,頸椎ならびにその周辺のいろいろな部位にいろいろな程度の損傷がおこることからwhiplash injuryという名称が生じた.
 われわれが"むちうち"という言葉を使う時には,このような受傷機転を尊重して,重い頭部にかかった慣性により頸部がゆり動かされて起きた損傷にのみ限っている.

3.神経系治療薬剤の選び方

向精神薬—内科医に必要な知識

著者: 村崎光邦

ページ範囲:P.1823 - P.1825

 向精神薬は「精神機能,行動,あるいは経験に作用する薬物である」とWHO(1966年)で定義されているように,精神に作用する薬であり,広くは精神安定剤tranquilizerと呼ばれている.これを分類すると表1の如くなるが,ここでは内科方面でよく使用される緩和精神安定剤,抗うつ剤,抗精神病剤について述べよう.

筋弛緩剤—その作用と適応

著者: 渡辺誠介

ページ範囲:P.1826 - P.1827

筋トーヌスの異常
 筋の異常緊張は筋の受動的伸展に対する態度,いわゆる腱反射の程度などにより,固縮rigidityと痙縮spasticityに大別される.
 固縮というのはパーキンソニスムにみられるように,安静時にも筋トーヌスが高まっており,受動的伸展に対しては鉛管を曲げたり伸したりするときの感じ(lead pipe phenomen)を受ける、固縮は錐体外路系の異常--とくにγ系の異常--として説明される.

パーキンソン症候群の薬剤の選び方

著者: 加瀬正夫

ページ範囲:P.1828 - P.1829

 パーキンソン病が記載されて150数年になるが,その本態の一部が神経生化学的に解明されたのは最近10数年来のことである.しかもこれにもとついて本症候群の薬物療法が理論的根拠をえ,さらに従来経験的に用いられたいわゆる抗パーキンソン剤も,その意義がはじめて解明されつつあるという時点に達した.その意味で,まず本症候群の神経生理生化学的機序が理解されなければならない.

l-DOPA長期投与の問題点

著者: 宇尾野公義

ページ範囲:P.1830 - P.1831

 parkinsonismに対するl-DOPAの出現は従来の抗副交感神経剤をはるかに凌駕する画期的薬剤として注目され,今や治療法の主役として定着しているが,投与法,副作用の防止,併用薬剤の選択など長期投与に関する問題点を残している16,17)

4.神経病治療の問題点

末梢性顔面神経麻痺—その治療と予後の判定法

著者: 鳥居順三

ページ範囲:P.1832 - P.1833

 末梢性顔面神経麻痺は比較的頻度の高い神経疾患であり,臨床的にかなり遭遇するものである.この中でもっとも多く見られるものは原因のはっきりしない特発性のもので,いわゆるBellの麻痺といわれるものである.明らかな原疾患によって起こる2次的なものについては,あくまで原疾患の治療が主体となるので,ここではBell麻痺についてのべることにする.
 本症はふつう一側性に顔面の筋力低下をきたし,額のしわ寄せや閉眼が不能となり,口角下垂や食物が口内に貯留するなどの運動障害のほか,味覚異常,聴覚過敏などの知覚枝の障害を伴うこともある.

ヘルペス脳炎の治療

著者: 庄司紘史

ページ範囲:P.1834 - P.1835

 ヘルペス脳炎は散発性のウイルス脳炎中頻度がたかく,注目されている.新生児では全身感染の一環としてみられるが,成人例では脳に限定し,側頭葉および眼窩脳周辺が好発部位で,この部に壊死がみられ,神経・グリア細胞にCowdry A型の核内封入体をみとめる.
 臨床像は発熱,髄膜刺激症状,せん妄を含む意識障害,痙攣,異常行動,幻視,健忘症状群などが出現する1).本症の致命率は50〜70%とされており,とくに昏睡にいたる意識障害,けいれんの頻発,脳圧亢進症状をみとめる症例の予後は極めて不良である.稀に意識障害が比較的軽く,精神症状を前景とした経過良好な症例も存在する.

いわゆる脊髄炎の治療と管理

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.1836 - P.1837

脊髄炎とは
 脊髄炎myelitisとは,厳密にいえば脊髄の炎症性疾患をいう.しかし原因は必ずしも炎症性(例えば多発性硬化症による脱髄性脊髄炎,あるいは硬膜外膿瘍による細菌性脊髄炎など)に限らず,血管障害性,圧迫性,アレルギー性,あるいは中毒性などによることもあり,原因を確定することは困難な場合が多い.表題のごとく"いわゆる脊髄炎"と呼ばれるのは,このような理由によるものである.
 脊髄炎は,通常発症様式から急性型と慢性型に大別される.

周期性四肢麻痺の治療と管理

著者: 板原克哉

ページ範囲:P.1838 - P.1839

 周期性四肢麻痺の治療と管理に先行して,まず本症は単一の疾患ではなく,いろいろな原因でおこり得る症候群であることを認識しておかなければならない(板原,1961)1,2
 原因疾患の判明しないものを本態性(または原発性)周期性麻痺とし,はっきりした原病をもつか,合併症と考えられる疾患を持つ場合を症候性(または二次性)周期性四肢麻痺として一群にまとめ,それらの各々に発作時の血清電解質(とくにカリウム)濃度からの分類を念頭において,それぞれに対する治療ないし発作予防の対策を講じなければならない.

一過性脳虚血の生活指導

著者: 塚越広 ,   進藤政臣

ページ範囲:P.1840 - P.1841

 一過性脳虚血発作は短時間に回復するため,発作そのものの危険性は少ないが,後に脳硬塞発作を起こす可能性が大であり,その治療が問題となる。現在の所,一過性脳虚血に対して有効なのは抗凝固剤療法と外科的治療であるとされているが,いずれも全く安全というわけではなく,いずれをえらぶかについても一定の見解はない.一過性脳虚血がその後に脳硬塞を起こすことが確実であれば,いずれかの治療を行なうことになるのであろうが,実際には一過性脳虚血発作だけで脳硬塞をみないことも少なくないのであり,一過性脳虚血の症状から,その後の経過を予測することも困難な点に問題が存すると考えられる.
 今回は現段階における一過性脳虚血発作患者の取扱い,特に生活指導に重点をおいて記載する.

脳血管障害に対する降圧剤の使い方

著者: 後藤文男

ページ範囲:P.1842 - P.1843

 脳出血のみならず,脳血栓も含めて,高血圧症が脳血管障害の原因として重要であることはいうまでもない.また逆に脳血管障害発作によって二次的に高血圧となることも稀ではない.したがって,脳血管障害患者の治療にあたって降圧剤を使う機会が多いが,一歩使い方を誤れば非常に危険な結果をもたらす場合も少なくない.脳血管障害の病態生理をよく理解した上で降圧剤を使う必要がある.

片麻痺患者の生活管理

著者: 大友英一

ページ範囲:P.1844 - P.1845

 ここでは脳卒中(脳出血,脳梗塞)発作の急性期を過ぎた(少なくとも発作後2〜3週以後)片麻痺,不全片麻痺患者を対象として述べる.

失語症患者の生活管理—いかに"コミュニケーション"をつけるか

著者: 竹田契一

ページ範囲:P.1846 - P.1847

 失語症を一言で定義すれば「コミュニケーションの障害」である.失語症では,一度獲得した言語機能が急激に破壊される.ここにこの疾患の特異性があるといえる.失語症とは,思つていることを話す力や書く力のみが障害されるのではなく,相手の話を聴いて理解する力,読む力,計算する力など言語機能全般に多かれ少なかれ障害は及んでいる.このように思いがけない事態に対して,患者のみならず,家族も大きな衝撃をうける.多くの失語症者は,コミュニケーション,家庭,職業など生活全般にわたって全く自分の意志通りにいかないことに気づき,次第に孤立化していく.患者の機能が回復し,自分の置かれている立場を認識すればするほど,それは悲惨なものになる.

5.神経・筋疾患におけるいわゆる"難病"の治療と管理

重症筋無力症

著者: 木下真男

ページ範囲:P.1848 - P.1849

 重症筋無力症と呼ばれているもののうちには定型的筋無力症(classical myasthenia),症候性筋無力症(symptomatic myasthenia)があり,治療上の問題からも両者を区別して取りあつかう必要がある.
 筋無力症は脱力が一定,持続性ではなく,力がある時とない時とがあり,充分な休養のあとは脱力は少なく,運動を繰り返すと増悪することが特徴的で,全身の筋のほか好んで外眼筋,眼瞼,咬筋,嚥下筋などを侵す.胸腺との関係,自己免疫との関係が論じられているが,明確な発現機序は見出されていない.

進行性筋ジストロフィー症

著者: 橋本俊顕

ページ範囲:P.1850 - P.1851

 進行性筋ジストロフィー症(以下DMPと略)は進行性の筋力低下と筋の荒廃をきたす遺伝性の疾患であり,原因は今なお明らかでない,一部の例外を除き,本症では骨格筋の近位筋群が犯され,病変の進展は宿命的であり,進行の遅促はあるが末期には呼吸筋,心筋も荒廃し,呼吸不全,心不全を起こし生命をおびやかすことになる.
 DMPの治療については,現在のところ原因不明の故に全く暗中模索の状態である.ニワトリ,マウス等の筋ジストロフィーに効果のある薬剤を人間に応用しているが,DMPの進行の阻止,改善,治癒をもたらしうる決定的な対策は見出されていない,しかしながら,種々の薬剤,リハビリテーションの加療をすることにより,自然に放置された場合と比較して,歩行期間の延長,血清CPKの低下,日常生活動作(ADL)の改善などの治療効果がえられることは確かである.特にリハビリテーションの実施は重要であり,ADLの改善は患者を勇気づけ,希望を与え,生活をenjoyさせることができる.

筋強直性ジストロフィー症

著者: 田辺等

ページ範囲:P.1852 - P.1853

診療のポイント
 第一線の医療における患者の発見 本症は一般にあまりにも稀な疾患と思われすぎていることと,患者自身が病識に乏しく(症状の一つ)本質的な症状を訴えないことなどにより,第一線の外来診療で見逃されたり誤診されたりする場合が少なくない.また原疾患が診断されないままに個別症状のみが診療の対象となっていることもあり,白内障(眼科)・異常性格(精神科)・不妊症(婦人科)・糖尿病(内科)などがその例である.本症発見の発端は偶然の機会(感冒・腹痛など直接原疾患と関係ない日常の受診など)に医師が気付く場合がむしろ多い.本症の生命に関する予後は比較的良好で50歳以上の生存が普通であるから,早期発見による治療および管理(care)の方針の早期計画は重要な意味をもつ.
 典型例の診断は,いわゆる"Blickdiagnose"の形で糸口が得られる.背をまるめて首を前屈,不安定な歩行,顔の筋肉にしまりがなく,男性では前頭部が禿げ上り,女性では額の生えぎわの毛が薄く,鼻にかかった不明瞭な声で早口に喋り,自己主張的に頑固であるが病識がない.このような状況下で本症を強く疑い問診すると視力が弱いか白内障といわれたことがあることが多く,診察により筋萎縮と筋力の低下(顔面・頸部・前腕・下腿など)および筋強直症状(握った手が急に開けない,またハンマーで拇指球を叩くと拇指が伸展背屈して他指に寄り添うようなゆるい運動をみる)があり,また男性では睾丸が小さく軟かく,男女とも結婚している場合には配偶者が健康であっても子供ができないか死産・流産となることが多い.家族歴では両親のどちらかに白内障が,また同世代(同胞・いとこなど)に同症らしい患者の居ることがわかることがある.以上述べたような根拠があれば一応の診断としてはまず本症は確実である.したがって次項に述べるような病態について精査し,個々の程度に応じて医師のレベルで治療すると同時にリハビリテーションの計画を立て,家族を含め,必要あれば福祉行政のルートに乗せる行動を開始する.その際,事情により初診した医療機関で続行するか,一時的または持続的に他の専門医・専門施設のある医療機関に紹介するかを判断し,わかり易く患者・家族に説明し,治療と管理に対する意欲を喚起する.

筋萎縮性側索硬化症

著者: 平山恵造

ページ範囲:P.1854 - P.1855

 難病中の難病である.その理由は,本病の病因が不明で,治療として効果的なものがなく,たとえ早期に診断が確定しても,進行を停止せしめることはできず,常に進行性で,発病後多くは2〜3年,長くとも5年以内に必ず死の転帰をとるからである.
 最も悪性な病気とされていた癌においてさえ,近年は治療が著しく進歩し,抗癌剤による治療ならびに,特に早期の手術により,癌の治療効果は大幅に上昇した.そのような意味から癌は治療可能な疾患であり,また治癒せしめることもできる病気であるということができる.これに比し,本病は病因全く不明で,いかなる薬物にも抵抗し,早期診断によっても治療効果は期待できず,必ず死の転帰をとることは,癌以上の難病と言わねばならない(したがって患者に病名をあかすことは慎まなくてはならない).

多発性硬化症

著者: 柴崎浩

ページ範囲:P.1856 - P.1857

 多発性硬化症(以下MSと略す)は脳,脊髄,視神経などに多巣性に起こる脱髄性炎症であり,臨床的には若年成人を急激に侵し,種々の神経症状が緩解と再発を繰り返すものである.その病因は未だ明らかでないが,一種の炎症でslow virus感染と免疫現象の両者が共に関係し合っているものと考えられている.したがって,その治療は非特異的な抗炎症作用,あるいは免疫抑制作用を有する薬剤が主として用いられ,その他一般対症療法が行なわれる1)

SMON

著者: 椿忠雄

ページ範囲:P.1858 - P.1859

 SMONの新患者の発生は,昭和45年9月のキノホルム使用見合わせ,販売停止措置以降急激に減少し,その後しばらくは少数ながら新患者発生の報告はあったが,この1〜2年は実質的にゼロと考えてよい.また,経過中にみられる急性増悪も著明なものはみられなくなった。すなわち,現在われわれの治療対象になっている患者はいずれも陳旧例であり,治療法も困難となっている,しかし,幸なことに上記の措置以降,軽快した例,軽快しつつある例が多いことも付記したい.本稿では慢性状態の治療について述べる.

VIII アレルギー・免疫 1.アレルギー疾患の局所療法

アレルギー性皮膚病変の局所療法

著者: 野波英一郎

ページ範囲:P.1862 - P.1863

 日常診る機会の多いアレルギー性皮膚疾患としては,接触皮膚炎,アトピー性皮膚炎などの湿疹性疾患,神経皮膚炎,痒疹,じんま疹,多形滲出性紅斑,結節性紅斑,中毒疹,薬疹などがある。これらのうち,じんま疹以下の疾患はほとんど局所療法を必要としないことが多く,時に局所療法を行なうとしても抗ヒスタミン剤軟膏や冷湿布などで充分な場合が多い.また薬疹では水庖糜燗を生ずることがあり,抗生物質軟膏の貼布を必要とする場合もあるが,一般に局所療法の特に必要な疾患は湿疹,神経皮膚炎,痒疹などの湿疹性疾患である.
 ここでは紙面の都合もあり,湿疹性疾患の局所療法のうち,その主流である軟膏療法,とくに副腎皮質ステロイドホルモン軟膏(ステロイド軟膏と略記)療法に焦点を合わせて概説
することとする.

鼻アレルギーにおけるnasal dropの適応と使い方

著者: 信太隆夫

ページ範囲:P.1864 - P.1865

点鼻液の種類
 点鼻液は血管収縮剤が主剤となっている.かつてはアドレナリンが使われていたが,副作用が少なく,作用時間をできるだけ長くするため,最近では種々の薬剤が開発されている.硝酸ナファゾリン,塩酸フェニレフリン,塩酸または硝酸テトラハイドロゾリン,塩酸オキシメタゾリンおよび塩酸トラマゾリンなどである.これらを主剤にした市販点鼻薬を表に示した.
 点鼻薬として望ましいのは,鼻粘膜に対する刺激性が少なく反応性充血ないし腫脹がないこと,血管収縮が大で効果持続時間が長いこと,さらに習慣性がないことである.とくに作用時間が短いと反復使用によりかえって粘膜を刺激する.作用時間は薬剤の用い方と症例にもよるが,アドレナリンは1時間前後,フェニレフリンとナファゾリンは2時間ほどとされ,その他のイミダゾリン系薬剤は遙かに延びて3〜5時間以上とされる.

2.アレルギー疾患の全身療法

アレルゲンエキスによる減感作療法

著者: 野口英世

ページ範囲:P.1866 - P.1867

 本邦で種々のアレルギー性疾患に対し,本格的に減感作療法が行なわれるようになったのは比較的最近のことである.これは欧米諸国のようにアレルゲンが明確である枯草熱のような疾患がなかったことも原因するが,また一面アレルゲン検索の努力が不十分であったことも否めない事実である.近時本邦でも優秀な診断用ないし治療用のアレルゲンエキスが市販されるにおよんで,減感作療法に対する関心が昂まってきた.

抗ヒスタミン剤の適応と与え方

著者: 高橋昭三

ページ範囲:P.1868 - P.1870

 ヒスタミンは即時型アレルギー反応のchemical mediatorとして重要な役割を演じているので,抗ヒスタミン剤(以下抗ヒ剤)は,即時型アレルギー性疾患の対症治療薬として欠かせぬものである.
 抗ヒ剤は細胞表面のヒスタミン受容体とヒスタミンとの結合に対して競合的に働き,抗ヒスタミン作用をあらわすと考えられているが,抗ヒスタミン作用の他にも,抗コリン作用,抗痙攣作用,アドレナリンおよび神経節遮断作用,中枢性の鎮静催眠作用,局所性の知覚麻酔作用などがあり,抗ヒ剤のなかには種類によりその適応が向精神薬,パーキンソン症候群治療剤,鎮暈剤などに向けられているものもある.ここでは抗アレルギー剤としての抗ヒ剤を中心にして述べる.

アレルギー疾患の心理療法

著者: 吾郷晋浩

ページ範囲:P.1872 - P.1873

 いわゆるアレルギー疾患の中で,心身症としても取り扱われている疾患には,気管支喘息,アレルギー性鼻炎(血管運動性鼻炎を含む),蕁麻疹,血管神経性浮腫などがある.
 しかし,これらの疾患すべてが,本格的な心理療法の対象となるわけではない.

アレルギー疾患の生活指導

著者: 荒木英斉

ページ範囲:P.1874 - P.1875

 アレルギー疾患は,体質的素因に密接な関係があり,また慢性再発性の疾患が多いので生活指導が臨床上重要な課題となる.

3.免疫抑制療法

免疫抑制療法の効果

著者: 螺良英郎

ページ範囲:P.1876 - P.1877

 免疫抑制療法とは免疫学的な異常に基づく生体反応を抑制して治療を計る方法である,このような免疫異常の抑制が対象となる疾患は内科的には自己免疫疾患群であり,外科的には臓器移植後の拒絶反応の2つに集約できる.
 後者は差し置いて,免疫抑制療法の実際の目標は前者の難治の自己免疫疾患群中にあって,通常最初用いられる副腎皮質ステロイド剤が奏効しないか,あるいはその副作用や離脱が困難である時にCytotoxic drugsによる免疫抑制療法が考慮される.この治療法応用の実際に当たってはCytotoxic drugsの副作用を十分考慮に入れて,かつ免疫抑制療法の効果の限界を知っておく必要がある.

血清病の予防と治療

著者: 海老沢功

ページ範囲:P.1878 - P.1879

 血清病は異種蛋白質,とくに種々の抗毒素注射の際起こる疾患である.本療法は感染症に対する特異的療法として最初の発見された療法であり,決して満足のゆく治療法ではない.しかしながら,今日なお本療法が必要な疾患があるうえに,近年抗リンパ球血清としてその応用範囲もひろがってきている.

IX 血液・造血臓器 1.貧血の治療

鉄欠乏性貧血における鉄剤の使い方

著者: 山口潜

ページ範囲:P.1882 - P.1883

 鉄剤は鉄欠乏性貧血の特異的治療剤である.鉄欠乏性貧血は日常診療上しばしばみられる疾患で,低色性小球性貧血・血清鉄値低下・不飽和鉄結合能上昇をみ,鉄欠乏を原因とする貧血の総称である.骨髄液では赤芽球は数的に増加するが形態学的に核の成熟に比して原形質の成熟の遅れを認あ,また原形質内可染鉄顆粒をもつ赤芽球(鉄芽球=ジデロブラスト)は著減する.低色性貧血の大多数は鉄欠乏によるもので鉄療法によく反応するが,わが国でもまれにみられるサラセミア・鉄芽球貧血・ピリドキシン反応性貧血なども低色性ではあっても血清鉄は高値を示し,鉄療法に不応である.
 鉄欠乏性貧血の原因としては鉄の消化管からの吸収障害と鉄の喪失(消化管・子宮・泌尿器からの出血)が主なものである.疾患としては本態性低色性貧血・失血性貧血・寄生虫性貧血(とくに十二指腸虫症)・Banti症候群・胃切除後貧血などに分類され,他に妊娠・内分泌疾患・腎疾患・悪性腫瘍などに合併することがある.

妊娠時における鉄・ビタミン剤の与え方

著者: 古谷博

ページ範囲:P.1884 - P.1885

 妊婦は必要とする熱量のみならず,種々の栄養素の必要量が非妊娠時よりも増加する.とくに妊娠中期以後は,妊娠子宮や肥大した乳腺への血流の供給,下半身の血液量の増加などによって,生理的に循環血流量が増加する.これは血漿量の増加と,赤血球量の増加となっている.この造血の亢進は生理的現象で,limiting factorである鉄の需要の亢進,鉄欠乏,鉄吸収能の増強となってあらわれてくる.妊娠後半期における鉄欠乏状態は,それが著しくならないかぎり,生理的に鉄吸収能の亢進をもたらす生理的homeostasisのあらわれとも考えられるが,元来婦入には妊娠前から顕性ないし潜在性鉄欠乏状態のものが多いので,生理的鉄欠乏をこえた鉄欠乏性貧血に陥りやすい素地がある.

思春期貧血の取り扱い方

著者: 古谷博

ページ範囲:P.1886 - P.1888

 思春期には急速な身体発育,性機能の発達を伴う内分泌の激しい変化があり,物質代謝にも男女の差異が明瞭になってくる.かつては卵巣機能の低下と低色素性貧血を特徴とする萎黄病が思春期の女子に珍しくなかったが,今日においても初潮発来の時期に低色素性貧血が多く現われ,これに卵巣機能の失調ないし低下を伴う場合があり,無月経を特徴とする萎黄病までには至らなくとも,この軽症型ともみなされるものが必ずしも少なくない.これを思春期貧血とよぶ表現が適切であるかどうか,明確な定義は与えられていないが,女性に多い低色素性貧血がこの年代から出現してくるので,この時期の内分泌,物質代謝,造血機能と関連して注目されている.
 思春期にみられる貧血は,大部分が鉄欠乏によるものである.それは栄養・代謝の面からみると,思春期における急速な身体発育と月経開始などによって鉄の需用が亢進し,一方食餌からの鉄の補給が不十分な場合に貧血が起こるものと考えられている.そしてかなり貧血が著明でも,自覚症状が少ないために放置されている場合が少なくない.これは学校保健の面からも,また将来の母性保健の面からも,見逃すことのできない問題である.

血液疾患に対するビタミンB12の与え方

著者: 河北靖夫 ,   片山則孝

ページ範囲:P.1889 - P.1891

 近年ビタミンB12(以下B12)の臨床治験は,血液疾患のみならず内科領域はもちろんのこと,皮膚科,整形外科領域に至るまで拡大されてきた.しかし,その治療効果は甚だあいまいで,ともすれば過剰診療にもなりかねないのが現状である.その中にあって,ただ1つB12の治療効果が最も劇的に示され,その絶対適応となるのはB12欠乏性の巨赤芽球性貧血(表1)であることは周知の通りである.

2.白血病,顆粒球減少症の治療

抗白血病剤の使いかた

著者: 衣笠恵士

ページ範囲:P.1892 - P.1893

 最近10年間に数多くの抗白血病剤が市販されるようになり,その中には投与方法も比較的簡単で,末梢血液中の白血病細胞を減少させる効果がほぼ確実に期待される薬剤も少なくない.したがって従来は専門家に送られていた患者も,最近では各病院で加療される傾向が一般になりつつある,例えば,現在最も広く用いられている6MP,プレドニン併用療法を例にとると,成人の急性骨髄性白血病(AML)の場合,寛解状態を期待できるのは約10%の症例で,高々20%どまりである.
 他の例では,たとえ臨床症状は改善され,末梢白血球数は減少しても,白血球の百分比で芽球の占める率は余り変化せず,骨髄所見はほとんど不変のことが多い.患者の平均生存期間の延長も余り期待できない.

急性白血病における感染予防と治療

著者: 天木一太 ,   石川宗高

ページ範囲:P.1894 - P.1895

 急性白血病に合併する感染症はしばしば重篤で,死因のもっとも大きい部分を占める.その診断,治療および予防は白血病治療上重要な課題である.
 抗白血病剤は骨髄あるいはリンパ組織の白血病細胞の増殖を阻止すると同時に,正常の顆粒球およびリンパ球をも著しく減少させる.そのために感染に対する免疫能の低下がおこり,患者は感染の危険にさらされる.これは現在のところ急性白血病を緩解させるために,やむを得ないことである。

白血病における出血傾向

著者: 長谷川淳

ページ範囲:P.1896 - P.1897

 血液疾患では出血性素因が主因となっている疾患を除外しても,出血傾向が初発症状ないし予後を左右する重要な因子となっている疾患が多く,とくに白血病はその代表的疾患の1つである.入院治療したAMLにおける出血傾向の出現頻度は初発症状では17%と発熱に次ぎ,主訴では25%と最も多く,CMLでは初発症状中23%,主訴中25%を占め最も頻度が高かった1).また日本病理剖検輯報(昭和45年度)によると,全剖検数の3.5%に当たる白血病症例765例中,出血ないし感染以外の原因で死亡した17%を除く635症例中80%の主死因は出血性素因であり,そのうち約20%は出血性素因と感染症との合併症例であった。また出血臓器別では重複記載も含めて,肺24%,消化管19%,脳16%,皮下10%,クモ膜下7%で,その他,腎,心,子宮等であった.以上のことから,白血病における出血傾向は白血病の種類によって頻度(AML:71%,CML:57%)に差異はあるが,初発の主要症状であり,予後を左右する因子であることが理解できる。しかし白血病の出血傾向の発現機序は白血病の種類,病態によって異なるので,それらを適確に把握し,適合した治療を実施することが治療成績を向上させる方法であると考えられる.

顆粒球減少症治療のコツ

著者: 滝川清治 ,   野田明孝

ページ範囲:P.1898 - P.1899

 顆粒球減少症(Granulocytopenia)とは末梢血中の顆粒球数が減少した状態をさし,狭義には赤血球系,栓球系に異常を認めず,選択的に顆粒球のみ減少する状態をいい,これがShultzの報告した古典的な顆粒球減少症(Agranulocytosis)であり,熱発,壊疽性口内炎等の症状で急性に発症する疾患である.広義には,症候的に他疾患に顆粒球減少が付随してみられるもので,臨床の実際に当たって頻度が高い.本稿では狭義の顆粒球減少症を取り扱うこととする.顆粒球減少症の90%前後の症例は発症前に薬剤服用の既往があり1),薬剤と顆粒球減少症との因果関係は,アミノピリン等でみられるアレルギー性機転とフェノチアジン系薬剤で代表される中毒性機転が考えられている.したがって,顆粒球減少症の治療の第1歩は,原因の除去,すなわち,原因薬剤を究明し,服用を中止することである.次に病態の中心となる感染症に対する対策が治療の主体となっている.この疾患は原因薬剤服用中止後5〜7日で白血球数の回復がみられるため,とくにこの期間をいかに切り抜けるかが大切な点である.顆粒球を増加させる治療法は,副腎皮質ホルモン以外みるべきものはなく,この点での顆粒球減少に対する治療の著しい進歩はないといえる.

3.薬剤使用のコツ

止血剤の選択と使い方

著者: 滝川清治 ,   加藤

ページ範囲:P.1900 - P.1902

 出血は血管が破綻し血液が血管外に流出することをいうが,正常な個体では血小板の粘着凝集,次いで血管収縮物質および凝固因子の放出が起こり,一方,組織因子による血中凝血因子の活性化,これに伴う線溶の活性化が関与して止血および損傷の修復がなされる.溢出する血液の圧力がこのような機転の働く余地のないほど強い外科的出血は別として,これらの機能が互いに密接にバランスを保ち正常状態を維持している.この機構のいずれかに病的状態があるときは互いに他系にも影響して出血素因が形成され出血しやすく止血しがたい状態となる.最近一般に用いられる止血剤は表の如くであるが,いずれも単独で目的を果し得るものでなく,病態に応じて種々の薬剤を使い分けることが必要である.以下,出血の原因別にその対策について述べる.

抗凝血薬治療のコツ

著者: 松岡松三

ページ範囲:P.1904 - P.1905

 血栓性疾患の予防的治療薬として抗凝血薬が臨床医学に登場してからすでに30年以上経ている.その治療効果に関してはなお論議があるにせよ,適応症の選択と使用法を的確に行なえば効果のあることはみとめられている.したがって,ここには抗凝血薬治療の要点をとらえて述べてみたい.

血液疾患におけるステロイド大量療法の適応と使い方

著者: 坂野輝夫 ,   木村禧代二

ページ範囲:P.1906 - P.1907

 副腎皮質ホルモン(ST.H)大量療法の適応として急性白血病および多発性骨髄腫(形質細胞腫)について述べる.

血液疾患における蛋白同化ホルモン療法

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.1908 - P.1909

 造血促進作用を有する男性ホルモン,androstane系蛋白同化ホルモンは表に示した如く数多くあり,その大部分のものは現在各種貧血症の治療にひろく用いられている.これらのホルモンは,174の位置にメチルあるいはエチルのアルキル基を有するかどうかによってnonalkylating androstaneとalkylating androstaneにわけられるが,アルキル基の有無は後述の如く副作用の発現に関連のあることが示されている.
 男性ホルモン,蛋白同化ホルモン(androstaneと総称)はともに造血因子エリトロポエチンの産生亢進をもたらし,その結果,赤血球の生成を増大させることが動物実験あるいは臨床的観察によって示されている,しかし,このエリトロポエチンの産生亢進がandrostaneによる造血亢進の唯一の機序であるかどうかについてはなお議論があるようで,androstaneはエリトロポエチンに対する造血幹細胞の反応も同時に亢進させることを示す事実なども報告されている.その機序の詳細は別として,androstaneが赤血球の生成を亢進させることは間違いなく,そのためこの系のホルモンは理論的にはあらゆる貧血症に対して有効なはずである.しかし臨床的には骨髄低形成,骨髄線維症の患者で用いられることが多く,また最近人工腎臓による透析治療中の患者の貧血の治療に有効であることが判明してきている.したがって,本文ではこれらの疾患に重点をおいてandrostaneの血液疾患に対する治療効果を紹介したい.

抗癌剤の使い方

著者: 古江尚

ページ範囲:P.1910 - P.1911

 抗癌剤の使い方の要点は,結局,つぎの2点にしぼられる.
 1)抗癌剤の適正な選択
 2)その適正な投与法

4.線溶亢進の対策

抗プラスミン剤の使い方—治療ならびに予防的使用法

著者: 長谷川淳

ページ範囲:P.1912 - P.1914

 血液凝固系と線溶系は健康な生体内で互いに平衡状態を保ち,前者は溶解しているフィブリノーゲンが不溶性の高度に重合した網状のフィブリンに変化する系であり,後者は止血や創傷治癒のため形成されたフィブリンがその生理的機能の満たされた場合に蛋白分解酵素であるプラスミンによって不溶性のフィブリンが分解される系である.その両系のうち,凝固系が優位になると血栓形成,線溶系が優位になると出血傾向の出現をみるようになるが,抗プラスミン剤は線溶系に対する阻害剤として開発され,線溶系の機能亢進が生体防御機構を逸脱して生体にとって不利益とみなされる際に使用の適応となる.

5.血液成分使用のコツ

血液成分の選択と与え方

著者: 湯浅晋治

ページ範囲:P.1916 - P.1917

 従来,輸血といえば,ほとんど全血輸血が行なわれてきた.もちろん大量出血など全血輸血を必要とする場合もあるが,本来輸血の目的は,1)組織への酸素の補給,2)循環血液量の増加,3)凝固因子の補給,4)血漿蛋白の補給などである。したがっていま輸血を必要とする患者がいる場合,その症状に応じてどの成分が必要なのかを考えることが大事である.輸血により患者の循環系の負担や,免疫抗体などによる副作用を少なくすることから最近血液の成分輸血が行なわれるようになってきた.
 この特長は次のようなものである.

冷凍血液とその適応

著者: 湯浅晋治

ページ範囲:P.1918 - P.1919

 最近の輸血の需要は著しく増大してきており,それとともに輸血面でもAu抗原,血液分画による成分輸血そして冷凍血液等大きな進歩をとげてきた.
 さて主題は冷凍血液の適応であるが,実際には未だ一部の施設のみで冷凍血液輸血が行なわれているに過ぎないので,まず冷凍血液につき概略を説明しその適応などについて述べることにする.

6.放射線および外科的治療

悪性リンパ腫における放射線療法の適応

著者: 鎌田力三郎

ページ範囲:P.1920 - P.1922

 悪性リンパ腫(細網肉腫,リンパ肉腫,ホジキン病,巨大濾胞リンパ腫)は放射線感受性が高く,照射により容易に消失あるいは縮少する反面,急速に連続的あるいは非連続的にリンパ節あるいは臓器に病変が進展する傾向が大きく全身病的な性格が極あて強い.したがって,初診時の進度および初回の治療が適切であったか否かが予後に大きく関係する,現在も本症の多くは放射線療法が第一選択であるが,最近は化学療法が急速に発達したので,進行例では放射線と化学療法の併用が普遍化している.

血液疾患における脾摘出の効果

著者: 小宮正文

ページ範囲:P.1924 - P.1925

脾臓摘出後の生体反応
 健康な個体が外傷などで摘脾をうけた際の後遺症としては,以下のものが知られている.
 赤血球形態の異常 標的赤血球の増加,ジデロサイト(10〜20%0),Jolly体赤血球(10〜50%0),Heinz体赤血球(1〜30%。)などの出現.

X 腎・泌尿器 1.腎炎とその周辺

急性腎炎の治癒判定

著者: 木下康民 ,   三浦義昭

ページ範囲:P.1928 - P.1929

 急性腎炎は治りやすく,子供の疾患と考えられ勝ちである.たしかに子供の急性腎炎は成人よりも大変治りやすく,老年者のそれはむしろ予後が大変悪い.また本症は子供に大変多いが,筆者らの教室でこの15年間に30歳以上の人が4名入院しているし,近年,70歳以上の老年者の本症の増加をArieffらは報じているが,筆者の目にふれただけでも数名の報告があり,Dinkelの例は5人中2人が80歳以上である.しかも,Arieffらによると典型的な病像をとらず,最初の診断学的印象は心不全とか感染症である.
 以上のことからも,本症は一般に考えられているほど,簡単に割り切れないし,年齢要因が予後を相当大きく支配している.本症には臨床的にも組織学的にも軽症から重症のものまである.本症には臨床的に治癒したと思われたものが,その後再燃のごとき観を呈してくることがあるので,「治癒」の判定基準は大変むずかしいし,また判定にあっては「近接転帰」,「遠隔転帰」に分けて同一患者を長年月追究していかないと,真の転帰の判断は困難である.外国にはこのような報告が若干みられるが,わが国にはまだ外国の報告に比肩しうるものは見当たらない.

学童期蛋白尿とその対策

著者: 小林収

ページ範囲:P.1930 - P.1931

 小児の腎疾患は学童期に頻度が高く,その主徴の1つは蛋白尿であり,したがって蛋白尿のあるときにはほとんど全腎疾患を考慮に入れて鑑別,診断し,その対策,処置を行なうことになり,また学童検診にての蛋白尿発見のさいにも検査,診断,その対策は同様に行なわれるが,発病時期の不明のことが多く,診断が困難で,全く対症的あるいは観察の外処置のないことも少なくない.

妊娠と慢性腎炎

著者: 宮原正 ,   岡部繁

ページ範囲:P.1932 - P.1933

 慢性腎炎患者が妊娠を希望する場合,あるいは妊娠した場合,妊娠継続が可能であるか,果たして無事出産し得るか。われわれは日常診療においてしばしばこの問題の決定をせまられる.
 以前は慢性腎炎患者が妊娠すると習慣的に危険視され,腎障害の程度とは無関係に妊娠を中絶するのが一般的であった,しかし,約十年前から欧米において腎疾患と妊娠について腎の面から検討が行なわれ,わが国では昭和38年上田がこれについて初めて系統的研究を報告した.今日では腎機能,血圧は妊娠継続可否の判断に重要な指針となることが認められている.

慢性腎炎患者の生活指導

著者: 古川俊之 ,   加藤俊夫

ページ範囲:P.1934 - P.1936

労働量(安静度)の基準
 慢性糸球体腎炎には適確な治療法がなく,日常の生活指導が重要な対策となる.生活指導の中でも,基本的な問題は労働量,すなわち安静度の決定である.しかし,慢性に経過する腎炎の場合,障害の程度によってどれくらいまでの労働量が許されるか,確実な根拠はまだない.したがって,それぞれの専門家が自分の経験をもとに便宜的な安静度基準を考案しているが,筆者らは厚生省の結核安静度表を参考として腎疾患安静度を作成し,患者に手渡している(表2).この安静度表の利点は,すべての安静度の等級が記載されているので,患者や家族が自分の安静度を他のそれと比較して,理解を深くすることができる点である.なお安静度の決定は病型と腎機能を目安にしているが,この欄は患者にみせないよう別表にしてある(表1).
 安静の効果については,このような安静度基準と予後との関係を今後充分調査研究することによって定量的に明らかにせねばならないが,少なくとも安静は患者の自由を束縛し,社会生活や収入に好ましからぬ影響を与えることであるから,不必要な安静は絶対避くべきである.しかし,腎疾患の場合には腎血流量が立位で減少し,運動負荷ではさらに減少することがわかっており,病変の存する限り,可及的安静が望ましい.また腎疾患には痛みや発熱のように患者自ら安静を守ろうとさせる動機がなく,前尿毒症期の患者が仕事に戻らせるよう要求することすらあるので,医師の都合からいうと安静の効用をいささか強調しておくこともやむをえない.

慢性腎炎の食事療法

著者: 平田清文

ページ範囲:P.1937 - P.1939

 慢性腎炎,すなわち慢性に経過する糸球体腎炎は,成人における腎疾患として日常の診療にもっとも多く経験する疾患である.
 慢性腎炎は,その成りたちや分類などについては多くの問題があるところであるが,その治療方針については,原因療法,保存療法,積極療法の3種類に分けられ,これらの諸治療に関する総合的配慮のもとに,診療すべきものと考えられる.

腎性貧血とその対策

著者: 平沢由平 ,   今井久弥 ,   酒井信治 ,   中沢了一

ページ範囲:P.1940 - P.1942

腎性貧血の成因について
 腎不全状態でみられる貧血の発展には種々の要因が関係していると理解される.
 腎の排泄機能障害に関係した要因 代謝産物の体内貯留は赤血球寿命の短縮1,2,3,4),赤血球の鉄利用率の減少5,6,7),エリスロポエチンに対する反応性の減退8,9)などをもたらし貧血の重要成因となる.

腎炎患者の扁摘の適応について

著者: 佐藤仁

ページ範囲:P.1944 - P.1945

 ネフローゼに対するステロイドホルモン剤以外は,現在のところ腎炎に対する特効薬はない,したがって,治癒傾向が思わしくない急性腎炎,紫斑病性腎炎,遷延性糸球体腎炎,慢性腎炎,無症候性蛋白尿,反復性血尿症候群などの治療の手段として,病巣があればこれを除去することが,広く行なわれている.病巣として問題になるのは慢性扁桃炎,う歯,副鼻腔炎などがおもなものである.
 扁桃摘出が腎炎の経過に好影響を与えることがあることは,古くから知られており,Volhard(1905)は急性腎炎の回復期(4〜6週以内)に病巣除去により腎炎を根治させることができるとして,扁桃摘出を提唱した.その後も扁摘により腎炎の経過を短縮させたりまたは好影響があったという報告は多い.しかし,一方では扁摘は腎炎の経過になんらの好影響を与えないという報告やむしろ症状が悪化したという報告も多い.結局,扁摘が腎炎の経過に好影響を与えるか否かに関しては,一致した意見がないのが現況である.

2.ネフローゼ治療のポイント

ネフローゼ症候群とステロイドの使い方

著者: 三條貞三

ページ範囲:P.1946 - P.1948

 ネフローゼ症候群は多量の蛋白尿(3.5g/日以上)低蛋白血症(血清蛋白6g/dl以下),高脂質血症(血清コレステロール250mg/dl以上)および浮腫を主体とする症候群で,その主因は糸球体基底膜の透過性亢進による多量の体蛋白喪失である.
 この基底膜の透過性亢進は抗原抗体反応,代謝障害などによって起こるが,一般にはその原因疾患から腎性ネフローゼ症候群(リポイドネフローゼ,糸球体腎炎)と二次性ネフローゼ症候群とに区別されている(表1).

ステロイド抵抗性ネフローゼの扱い方

著者: 東條靜夫

ページ範囲:P.1950 - P.1951

 ネフローゼ症候群とは,周知の如く,高度の蛋白尿(1日3.5g以上),低蛋白血症(血清総蛋白量6.0g/100ml以下),とくに低アルブミン血症(血清アルブミン量3.0g/100ml以下)を必須条件とし,その他多くの場合に高脂血症(血清総コレステロール量250mg/100ml以上)および浮腫を認め,尿沈渣中に多数の卵円型脂肪体,重屈折性脂肪体を検出する症候群である.
 したがって,これら特有の症状を呈するものに,多くの疾患があげられるが,日常の臨床でもっともしばしば経験されるものに,原発性腎(糸球体)疾患によるネフローゼ症候群があり,病因のほぼ80%を占めている.

ネフローゼ症候群と蛋白質の補給

著者: 山下泰正

ページ範囲:P.1952 - P.1953

 ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿の持続的な排泄,低蛋白血症,ことに低アルブミン血症,高脂血症(血清コレステロール値の上昇),全身性浮腫などを呈する疾患群を総称している.しかもネフローゼ症候群の場合にみられる特有な症状は,急,慢性腎炎の経過中に起こることもあり,糖尿病,痛風,悪性腫瘍,慢性伝染病,化学薬品中毒,その他,種々の原因で発生し,しかも腎臓ばかりでなく,前述のような他の全身的な因子で修飾されるので,ネフローゼ症候群として一括されている.
 本症候群を起こす疾患に真性のものと,それ以外のものとがある.

3.腎盂腎炎の治療

急性腎盂腎炎の抗生物質療法と治癒判定

著者: 名出頼男

ページ範囲:P.1954 - P.1955

 急性腎盂腎炎と一般に呼ばれるものの多くは,非閉塞性または一次性感染といわれる単純な感染症であるが,尿路の器質的異常がある場合や,ある種の免疫不全状態などで二次性感染と呼ばれる範躊に属しはするが,臨床的には急性腎盂腎炎の形をとってくるものもある.ただ,非閉塞性と呼ばれるものでも,慣用的な尿路の検査法では見出せない場合もあり,また膀胱炎→腎盂腎炎という常識的な経路による感染成立においても,一時的膀胱尿管逆流現象が重要な発生機転であるとすれば(これは最近定説化した感があるが)一時的にもせよ,機能的器質的異常が尿路にあることになる.一方,二次性感染でも恒常的膀胱尿管逆流現象があって成立する場合など,早期に発見して薬剤を投与し,厳密な監視態勢の下に置くと慢性症にはなかなか進行せず,時に急性症の再発(再感染によることが多い)をみるのみで経過することが少なくない.また軽度の通過障害による水腎症などがあった場合でも薬剤の種類により,また投与法により単純な急性症と区別のつかぬような反応を示して治癒に向かうこともある.したがって,急性腎盂腎炎と思われる症状・症候の揃った尿路感染症の治療に当たっても,薬剤投与による治療は無論必要ではあるが,充分な泌尿器科学的検査による尿路異常の有無の検索および爾後の追跡が不可欠である.

再発を繰り返す慢性腎盂腎炎の治療

著者: 山作房之輔

ページ範囲:P.1956 - P.1957

 再発を繰り返す慢性腎盂腎炎の治療は化学療法力中心となるが,抗生剤選択の幅が狭く,使用法が画一的でなく,長期間の治療を要する.

4.腎不全とその対策

急性腎不全の輸液

著者: 加藤暎一

ページ範囲:P.1958 - P.1960

 急性腎不全の治療として近年透析療法の普及がめざましいが,輸液を含めた内科的体液管理を軽視しては終局的予後の向上は望めない.乏尿期の体液バランスのポイントは次の三点である.1)過剰な水・Naが投与されると腎はそれを排泄し得ず体内に停滞する.2)stressが強いため脂肪や蛋白のcatabolismが亢進し,内因性の燃焼水も増加するし,さらに細胞破壊によって遊離する水も増加する.3)細胞内の多量のKが細胞外に遊出し,高K血症をきたしやすい.
 したがって,他の疾患に比べ急性腎不全ではきめの細かい配慮が必要である.詳細な既往,綿密な現症の把握,不可欠な検査所見などから,総合的に判断を下さねばならない.しかも病態がdynamicに時々刻々変化するため,余り時問的余裕がない点にむずかしさがある.

腹膜透析と血液透析法の特徴と適応

著者: 鈴木好夫 ,   越川昭三

ページ範囲:P.1962 - P.1963

 透析療法は日常の診療部門の1つとして成長したといえるが,最近急速に発展したわが国の透析療法の生存率からみた成績はヨーロッパ1)のそれに比べてはるかに劣り,この2年間はわずかながらむしろ低下している.透析療法の開発普及への努力が充分に実をあげていないのは誠に残念なことである.しかし一方,早くから施設の整備と臨床技術の研鑚を続けてきた病院施設での1年生存率は70〜90%であり,先進国と比べていささかの遜色もみられていない。このことは透折療法自体に改むべき点を認めても,それ以前にスタッフの透折技術の訓練・習熟が重要であることにほかならない.
 今回与えられたテーマに,腹膜透析Peritoneal dialysis(PD)と血液透析hemodialysis(HD)について,主として臨床成績向上という観点から,PD,HDのいずれを選択するかを,初期透析と慢性定期透析に分けて考える.

5.利尿法のポイント

腎疾患と利尿剤の使い方

著者: 波多野道信 ,   小船善弘

ページ範囲:P.1964 - P.1965

 浮腫(体内にNa,水が貯溜した状態)といえば,まず第一に腎疾患を念頭に浮かべる程,腎疾患と浮腫との間には密接な関連を有するものであり,したがって腎疾患の治療面での利尿剤のはたす役割は極めて大きい.しかし浮腫を合併している腎疾患の中で,絶対的に利尿剤の適応となることは比較的少ない.例えば急性腎炎時の浮腫は,安静と塩分摂取制限のみで消失するであろうし,浮腫をきたす代表的な疾患であるネフローゼ症候群にしても,利尿剤を最初の浮腫治療薬として選ぶことは少ない.
 一方,急性腎不全,慢性腎不全時の乏尿に対する利尿剤の役割は,単に患者の苦痛を除去するばかりでなく,代謝面の改善,他の治療法による治療効果促進などの面でも,極めて重要視されるものがある.

排尿障害の生活指導

著者: 和久正良 ,   河村毅

ページ範囲:P.1966 - P.1967

前立腺肥大症か,神経因性膀胱か
 まず最も大切な排尿困難について述べよう,これは,1)排尿開始までの時間がかかる.2)腹圧の助けで排尿する.3)細くて小さい尿線,4)尿線の中断,尿淋歴,5)排尿後に尿が残っている感じのあること,6)尿閉の有無について状態を聞いて判断する.これはほとんど男子にきやすい症状で,放置すると腎機能の低下をおこす.臨床的によくみる形を男子の年齢順にみると,幼少年期に高度の真性包茎がある.この時,排尿に際して包皮がふくれ,かなり排尿困難がおこることがある.このような時には背面切開を行なう.男児に環状切除を行なわない理由は,皮膚がまだ弱いために亀頭ならびに尿道口を包皮でおおっておかなければならないからである.これを取り去ると,尿道口が狭くなる副作用がおこることが多いからである.男児の場合このような排尿困難やたびたびおこる亀頭包皮炎がなければ,むやみに手術をすることは良くない.青年期,壮年期に,とくに40歳代に,排尿困難を訴えて来院する方が良くある.これらの多くの方を良く調べてみると,前立腺肥大症はなく,外括約筋の緊張が亢進していることが多いようである.その場合,尿線は細く,残尿感があり,尿が中断したりするが,残尿は全くないのが普通である.膀胱鏡検査でも異常がなく,外括約筋の抵抗が高まっている.原因は,はっきりしないが,精神的緊張,社会的ストレス,環境などによるようである.精神安定剤がかなり効果を奏する.50歳を過ぎると,膀胱頸部硬化症がおこってくる,外国では,30歳代から少しくみられるが,やはり50歳を過ぎると,急にふえるようである.これは前立腺がそれ程直腸内触診で大きくなく,しかも排尿困難を示し,徐々に残尿も出てくる.この病気は,膀胱鏡的にみると,膀胱頸部が狭くなっており,また排尿の時に動きが悪く,膀胱の入口が充分に開かない.そのために,排尿困難がおこる.この原因はまだはっきりしないが,外国での研究では,前立腺の中に精液の欝滞がよくおこり,前立腺に浮腫をきたし,それが徐々に線維化をきたして狭くなるようである.また外国ならびにわが国の解剖的な研究によれば,前立腺肥大症の蟻小型で,やはり前立腺の小さな腺腫がその狭くしている組織の中にかなりの部分を占めてみられる.このように50歳代からおこる排尿困難には膀胱頸部の疾患が多いが,60歳よりあとになると,いわゆる前立腺肥大症や,とくにその媛小型からくる膀胱頸部硬化症が非常に多くみられる.以上のように,機械的の原因による排尿困難を英語で,Mechanical obstructionという.

留置カテーテルの適応と感染予防の実際

著者: 斎藤豊一

ページ範囲:P.1968 - P.1970

留置カテーテルの適応
 留置カテーテルの適応としては第1に腎機能の維持,改善と,第2に膀胱手術後の尿流確保,縫合部の安静が考えられる.
 慢性不完全尿閉が持続すると膀胱内圧の上昇をきたし,ついで腎盂内圧の上昇をもたらし,水腎症となり腎不全に移行する.このような場合には留置カテーテルをおいて腎機能の維持,改善をはからなければならない。これは神経因性膀胱,脳脊髄疾患,骨盤内手術のあとなどにみられる状態である.

6.外科治療の考えられる泌尿器疾患

前立腺肥大症の治療

著者: 小川秋實

ページ範囲:P.1972 - P.1973

 前立腺肥大症は前立腺の一部に腺腫を生じ,これが増大して尿道を狭めるために臨床症状が現われたものを指している。ただし前立腺に腺腫を生じても臨床症状を全く呈さないこともあり,その場合は治療の対象にならない.
 前立腺肥大症の治療方針の決定には,1)愁訴の状態と程度,2)尿路性器合併症の有無,3)腎盂・尿管の状態,4)全身状態が関係するので,問診,理学的検査,尿検のほかに必ずIVPを行ない,必要に応じて全身状態に関して胸部X腺撮影,EKC,血液検査等を行なわなければならない.

特発性腎出血の治療

著者: 百瀬俊郎

ページ範囲:P.1974 - P.1975

 特発性腎出血とは通常の泌尿器科的および他の諸検査によっても,その原因を明らかにすることができない腎性血尿のことである.したがって,容易につけられる診断名ではない.
 本症の原因は一元的なものでなく複雑な因子を含むもので,1つの症候群と考えられている.臨床的に利用しやすいものとして笠井(1960)2)および米瀬(1967)3)の分類を表1および表2に示す.しかし実際にはこれらを明確にすることは困難であるので,系統的な検査によって原因の判明した疾患を除外してゆくとともに,種々の治療に対する反応から出血の原因を推定する治療的診断が行なわれる.

7.神経性泌尿器・性器疾患の治療

神経因性膀胱

著者: 後藤薫

ページ範囲:P.1976 - P.1977

 尿路の神経因性疾患は,一般に認められているよりはるかに高率であり,常に重症となり,しばしば死の転帰をとり,治療も困難である.乳幼児では主として脊髄の先天性奇形に由来し,成人では後天的なものであり,脊髄末梢神経の刺激性,変性,炎症性障害に由来するものである.すなわち,主として脊髄損傷,腫瘍,脊髄炎,脊髄癆,脊髄空洞症などである.脊髄損傷は最近頻発する交通事故のみならず,労働災害も多く補償問題などの重要な社会的事項となっている.このほかに悪性貧血,糖尿病などの全身性疾患にて障害をうける.またHexarnethonium,Pentapyrolidiumのごとき最近の抗高血圧剤,Atropine,Banthine,Probanthineなどの節遮断作用により尿路の神経因性疾患をきたすことがある.
 これらの神経因性尿路疾患は,尿路に萎縮,尿流停滞をひきおこし,さらに感染が加わって病変を一層進行させ,複雑化する1)

インポテンツの治療

著者: 金子栄寿

ページ範囲:P.1978 - P.1979

 インポテンツを狭い意味に解し,勃起力の不全だけに絞って,その治療法を述べることにする.
 勃起力不全を訴える患者は,大体において次の三通りに分けられる.

XI 感染症 1.諸種感染症の治療

破傷風の治療と予防

著者: 海老沢功

ページ範囲:P.1982 - P.1983

概説
 破傷風は感染症に属するが,病気の成り立ち,病像,治療の立場から眺めるとむしろ中毒性疾患といってよい.すなわち,この世の中で2番目に強力な毒物である破傷風毒素による中毒のため,全身の横紋筋が硬直ないしけいれんを起こしてくる疾患である.破傷風の治療に抗毒素療法は不可欠であるが,重症例では抗毒素を注射しても症状は悪化し,内科的に用いうる抗けいれん剤では押えられなくなる.麻酔科医の応援が是非必要である.また,たとえ麻酔科医の協力をえても,患者は絶えず頻死の状態にさらされている.その予後は発病後あるいは開口障害が明らかになってから2〜3日の中にきまってしまう.すなわちonsettimeが48時間以内なら,たとえその後5〜6日生きのびても約80%の患者は死亡する.onset timeが3日以上の時は致命率は15%以下にさげられる.
 以上の如く治療が非常に難かしく,致命率が高いため,積極的な予防対策に重点をおかれている.予防接種の効果はきわめてよい.

敗血症の変貌と化学療法のポイント

著者: 長谷川弥人

ページ範囲:P.1984 - P.1986

変貌の概略
 戦前の敗血症と戦後のそれの大きな差異は1)昔多かった基礎疾患のない敗血症は激減し,現在ではほとんどすべての症例は基礎疾患に伴って起こっている.2)溶連菌が主要な原因であったが,戦後それがほとんどなくなり,ブドウ球菌がこれに代わり,最近ではグラム陰性桿菌が主要原因を占めている,といえる.
 図はわれわれの年度別にみた最近約10年の菌検出の推移であるが,この成績は真下の本邦集計ときわめて近似である.またPseudomonasの増加傾向はアメリカの報告でも同様である.さらに注目すべきは2種以上の菌種を証明するいわゆる重複感染例が多くなったことであろう.

緑膿菌感染症の治療と効果判定

著者: 滝上正

ページ範囲:P.1988 - P.1989

抗生物質療法
 華々しい抗生物質療法時代にあっても,PS症の治療に登場する有効な抗生物質の種類はきわめて限られた少数であった.また,利用し得る抗生物質の中には,その副作用に悩まされるものもあった.しかし最近では,GM,CBPC,SBPCの実用化につづいて,DKBもわが国で開発され,PS症の治療は大きく前進した.
 1)CL:GM,SBPCなどのなかった時代には,CLはPL-BとならんでPS症のための特異的抗生物質であった.副作用が少なく,また,高い血中濃度が得られるという利点から,CL製剤の中,主に用いられているのはCL-Mである.通常,2mg力価(6万単位)/kgのCL-Mを1日量とし,これを2〜3回にわけて筋注する,CLの副作用には腎障害が知られているが,上記の使用量では,腎機能に異常のない限り,問題はない.

感冒の治療のポイント

著者: 加地正郎

ページ範囲:P.1990 - P.1991

感冒と感冒以外の疾患の鑑別
 一見極めて平凡なことのようであるが,実際には,感冒の治療の出発点として重要である.感冒以外の,より重篤な疾患が,発病当初に感冒としてとりあつかわれ,適切な治療の開始がおくれることはしばしば経験されるところであろう.
 かなりの高熱を呈する感冒では,急性熱性疾患との鑑別が必要となり,また,呼吸器症状,ことに咳,痰などの下気道症状が強い感冒では,肺結核,肋膜炎その他の胸部疾患との鑑別が問題となる.

最近のマラリアとその治療

著者: 海老沢功

ページ範囲:P.1992 - P.1993

 最近日本からなくなったマラリアが再び輸入マラリアとして登場してきた.1966年から1973年4月末日まで我々が経験した日本人のマラリア患者は74人に達した.この中26入はマラリア流行地に滞在中発病し,48人は帰国後発病している.そこでこれら日本人患者を中心にして,マラリアに関する近年の傾向や問題をとりあげてみたいとおもう.

梅毒の治療方針

著者: 小野田洋一

ページ範囲:P.1994 - P.1995

 ワッセルマン反応やガラス板反応などが陽性,あるいは偽陽性という結果でもどってくれば,次のようなことが考えられる.
 1) この反応結果に間違いはないか

2.特殊な感染症の治療

腸チフス長期保菌者の治療

著者: 平石浩

ページ範囲:P.1996 - P.1997

 腸チフスにおいて長期保菌者とは,放置すればおそらくは生涯にわたって排菌を続けるようなものをいう。本症に罹患後,ある期間排菌が持続するものがあるが,これが1年以上にもおよぶものはまず長期保菌者となる.その頻度は経過者の2〜3%とされている.長期保菌者の中には,本症罹患の既往歴を欠くものも少なくない.
 排菌巣の部位としては腎,骨髄,気管支などもあるが,実際には大部分がふん便中への排菌者であり,そのほとんどが胆道系(肝内および肝外胆管,胆嚢)保菌者によって占められている.さらに,その大多数は胆石症を合併している.ここでは胆道系長期保菌者の治療について述べる.

Terminal infection治療のポイント

著者: 石山俊次

ページ範囲:P.1998 - P.1999

意義
 Terminal infectionとは,もともと広く消耗性疾患その他によって衰弱したときに起こる感染症で,しばしば,死の直接の原因となるような場合に用いられたが,最近では専ら白血病その他の悪性疾患の進行した時期に,これに伴って発症するdrug rebellons infectionをいうようである.このような感染が起こると,多くは死の転帰から免れることは困難であるが,基礎疾患の治療法が進歩して,種々の意味での寛解をみることができるようになってみると,この感染が必ずしも,直ちに死に繋るとは限らず,したがってterminalという言葉が,それほど適切ではなくなったので,induced infectionと呼ばれたり,またこのようなばあい,宿主の感染に対する総合的な抵抗力減弱が関係し,多くは毒力の弱い細菌あるいは真菌が感染源となる.そこでopportunistic infection,low viruleuce infectionなどともいわれる.
 要は同様な感染症を,それぞれ別の角度からみて属性を表現しようとするもので,まだ画一的な定義を定められているものではない.

妊娠と化学療法

著者: 高瀬善次郎

ページ範囲:P.2000 - P.2001

 妊婦に化学療法を行なう場合,最も留意しなければならないことは,胎児への影響であろう.また,テトラサイクリン系抗生剤のように,母体に直接,影響を与える恐れのあるものもあるし,さらに,姓娠中毒症などで,腎機能の低下しているものでは,血中濃度の半減期の延長などが起こるので,1回の投与量,投与間隔などに考慮する必要がある.
 ところで,妊娠中に頻度の高い感染症は,腟トリコモナス,カンジダなどによる腟感染症,膀胱炎,腎盂腎炎,無症候性細菌尿などの尿路感染症,および前期破水についで起こる羊水感染,胎児子宮内感染などがある.さらに,呼吸器系感染症などの偶発感染症もみられるのである。

感染症と思われる原因不明の高熱患者をどう扱うか

著者: 真下啓明

ページ範囲:P.2002 - P.2003

発熱と疾患
 感染症と思われる原因不明の高熱疾患ということであるが,実は感染症と思われるという修飾が問題である.不明熱(fever of unknown origin)をみた場合に感染症をのみ考えるわけには行かず,また簡単に感染症と思われるという範疇に診断をせばめることも不可能である.
 確かに諸家の報告によっても発熱患者の過半数は感染症であり,また不明熱が後に明らかにされた結果においても感染症が多い.しかし,かつて発熱患者の調査において1位を占めた結核症が公衆衛生,化学療法等の進歩により減少,また感染症全体としてもいわゆる法定伝染病に属するものは減少傾向にあり,代わって白血病,膠原病,癌等の比率が増加していることが指摘されている,この比率は患者に接する立場によって当然異なり,第一線においては感染症が依然まず考えられなければならない.しかし,ともかく感染症以外の白血病,膠原病,悪性腫瘍,血管炎等への配慮も重要であるが,その鑑別等は本文の目的ではないので省略する.

感染症における副腎ステロイドの使い方

著者: 勝正孝

ページ範囲:P.2004 - P.2006

 感染症の治療の主役は,侵入病原微生物に直接奏効する抗生剤であることはいうまでもない.一方,感染症の病像の本態は炎症反応である.その病態の改善,修復に対しては抗生剤はほとんど寄与していない.
 感染により生じた炎症反応の改善,修復は宿主生体側の有する免疫,防衛反応等で表現される生体反応による組織修復である.したがって感染症治療の際に病原微生物に直接作用を示す抗生剤使用とともに炎症反応鎮静に有効なる手段を講ずることは大いに意味がある.ただし一般の感染症の場合には,抗生剤の卓効により,これのみの投与と単なる対症療法でこと足りているわけである.

3.化学療法剤の使い方

合成ペニシリンの使いわけ

著者: 塩田憲三

ページ範囲:P.2008 - P.2011

 合成ペニシリン(正確には半合成ペニシリン,semisynthetic penicmin)の事実上の夜明けはBatchlor等によって,PC・G,PC・Vを酵素的に分解して容易に大量の6-aminopeniciUaic acidを生産できるようになった時からはじまる.この6-aminopenicillaic acidを基に開発され,広範な基礎的ならびに臨床的検討を経て我国で市販にまでこぎつけた合成ペニシリンは,現在のところ12種ある.我国の諸研究者によって目下検討中の合成ペニシリンが数種あるが,本稿では市販のもののみを対象として解説する.
 その構造式,一般名,市販名などは,表に一括したが,本表ではさらに,これらの合成ペニシリンをその特長に従って3群に大別した.すなわち,第1群,抗菌スペクトルおよびそのスペクトル内の各種の細菌に対する抗菌力の強さがほぼPC・Gに匹敵し,しかも内服によって充分な血中濃度の得られるもの.第2群,主としてpenicillinase(以下pcaseと略す)耐性ブドウ球菌が対象となる一群.第3群,抗菌スペクトルがグラム陽性菌から陰性菌まで広い範囲に及ぶ一群である.

マクロライド剤の使い方と問題点

著者: 清水喜八郎

ページ範囲:P.2012 - P.2013

 マクロライド剤とは,化学構造上,巨大なラクタム環を有することが共通であり,大きくわけると,そのラクタム環を構成する原子数が14からなりたっているものと,16からなりたっているものの2種類がある.前者の14員環は,erythromycin,oleandomycinがあげられ,16員環としては,kitasamycin(leucomycin)spiramycin,josamycin,mydecamycin,propionernaridomycinなどがあげられる.
 これらのマクロライド剤は抗菌スペクトルがグラム陽性菌,グラム陰性球菌,リケッチア,大型ビールス,マイコプラズマにあり,一般にグラム陽性球菌に対して主として用いられているが,マイコプラズマに対してきわめてすぐれた抗菌力をもち,テトラサイクリンとともに有用な薬剤である。

抗ウイルス剤の現状

著者: 松本慶蔵

ページ範囲:P.2014 - P.2015

 近年の抗菌性抗生物質の目覚ましい進展は驚くべきであるが,感染症中でも主要な位置を占めているウイルス感染症に有効な薬剤は極めて少なく,実際臨床に応用されている抗ウイルス剤は4剤にすぎない.かくの如く発展の阻害されている背景にはウイルスが細胞内にて増殖すること,細菌のように細胞壁をもたないことなど多くの理由はあげられるが,ことに大きな要因はin vitroとin vivo成績の解離であり,また毒性の点であった1)
 しかし最近Interferonの研究の進展は,これまでagamrnagloburinemia(Bruton type)の患者がウィルス感染症では治癒するメカニズムを教え,さらにInterferonの収量の問題,精製の問題の克服のためにすすめられたInterferon誘発剤の研究は,生体の場でのInterferonの形成過程をますます明らかにした2).現段階では臨床的に急速な進歩はたとえ望めないにしても,その光明に一筋の希望を託することは許されるであろう.本誌の企画に即し,以下,具体的に抗ウイルス剤の応用の現状と筆者の考え方と評価を述べよう.

抗真菌剤の使用のポイント

著者: 福島孝吉

ページ範囲:P.2016 - P.2017

アンホテリシンB
 放線菌症とノカルジア症を除く多くの真菌症に効果がある.
 a)静脈内点滴注射法:基本的な治療法で,初感染肺炎病巣や播種巣である諸臓器の真菌病巣に効果がある.

4.化学療法との併用療法

細菌感染症における抗生剤の大量使用法—Carbenicillinを中心に

著者: 上田泰 ,   小林千鶴子

ページ範囲:P.2018 - P.2019

 最近Gram陰性桿菌による難治感染症の増加や宿主側の異常による感染症の増加が注目されている.これらの感染症に対して抗生剤療法の成果を挙げるための努力が種々検討されている.その一つに毒性が低く,大量に使用できる抗生剤のいわゆる「大量使用療法」が大きく注目されている.
 現在,この目的にそう大量使用可能の抗生剤としてはPenicillin G, Carbenicillin, Sulbenicillin,Cephalothinなどがある.以下Carbenicillinを中心に大量療法の適応,注意点などについて略記する。

化学療法剤相互併用の問題点

著者: 紺野昌俊

ページ範囲:P.2020 - P.2021

 化学療法剤相互併用については,化学療法剤が開発された初期から,相乗作用があるとか,拮抗作用があるとかが,やかましく論議されてきた.しかし,それらの多くは試験管内実験であり,生体の中でも果たしてその通りに行くのかどうかということを,厳密な比較試験を行なった資料は少ない.抗結核剤および亜急性心内膜炎で一部行なわれていることは周知のことであるが,起炎菌の検出が困難な一般感染症では,現在の効果判定基準では行ない得べくもないことである.

化学療法剤と静注用γ-グロブリンの併用

著者: 中沢進

ページ範囲:P.2022 - P.2023

 γ-Globulin(γ-Glob)と抗生剤ならびにSulfa剤の併用には,単独使用時に比較して相加または相乗的な治療効果のあることは,FischerらのChloramphenicolとr-Globの併用がブ菌,連鎖球菌緑膿菌,変形菌の対マウス感染治療実験の一部において単独使用時に比較して死亡率が著しく低くなることからも注目されてきたのであるが1),本邦においても須山らの類似した報告がある2).筆者らもマウス対ブ菌感染を対象としてCP単独とγ-Glob併用の効果を検討し,併用群の死亡率の著しく低くなる結果を観察している.

化学療法剤と抗炎症剤(非ステロイド剤,消炎酵素剤)の併用

著者: 斎藤篤

ページ範囲:P.2024 - P.2025

 細菌感染によって生じた炎症反応のうち,生体防御に不必要ないしはあまり必要でない反応を早期に鎮静する目的で抗炎症剤を化学療法に併用することがある.特に抗炎症作用が最も強力な副腎皮質ステロイド剤は乱用の傾向さえあり,副作用の点で臨床上重大な問題を提起している.そこで抗炎症作用は副腎皮質ステロイド剤ほどではないが,重篤な副作用も少ない非ステロイド剤ならびに消炎酵素剤が漸次臨床使用されるようになった.
 ここでは化学療法剤と非ステロイド剤あるいは消炎酵素剤併用の意義,適応症などについて述べるとともに,両剤併用時にみられる2,3の問題点についてふれてみたい.

5.化学療法の副作用

化学療法と副作用

著者: 三木文雄

ページ範囲:P.2026 - P.2027

 薬剤の臨床使用に際して副作用は常に問題になる事項であり,副作用の有無がその薬剤の有用性を判断する際の重要な因子の1つになるが,化学療法剤においてもこのことは例外ではない.
 化学療法剤の副作用は大別すると,1)細菌の代謝を阻害するという化学療法剤本来の薬理作用に由来するもの,2)化学療法剤本来の作用とは全く無関係に現われるもの,3)アレルギー反応により現われるもの,の3つが考えられる.このうち,化学療法剤本来の抗菌作用に基づく副作用は,副現象とも呼ばれ,生体内の常在細菌叢の攪乱,殊に腸内細菌叢の減少によるV.B群・V.Kの欠乏や血清コレステロールの低下,菌交代症の出現,V.B群の肝における活性化の障害などが挙げられる.これらの副現象は特定の化学療法剤に限ってみられるというものではないが,一般に広域抗菌スペクトラムの抗生剤の投与に際して特に注意を払い,ビタミン欠乏症に対しては活性V.B群,V.Kの非経口投与,菌交代症に対しては起炎菌の検索の反覆などにより,その発生予防に注意することが必要である.

洋書紹介

—J. L. Turk著—「lmmunology in Clinical Medicine」Second Ed.

著者: 高月清

ページ範囲:P.1870 - P.1870

一般臨床家のための臨床免疫学入門書
 免疫学のように研究の展開が急速な分野では単行本が出版された時点ですでに訂正あるいは追加すべき事項が続出してくるのは当然である.本書は初版が1969年で今回は1972年の第2版であるが,やはりその感は免れ得ない.しかし,もともと本書は疾患の解釈に免疫学の知見がいかに必要かを一般臨床家に伝えることを目的として書かれており,その点ではたしかによくまとまっている,著者は英国の病理学者で,いままでも総説的な論文を多く書いてし)るので多岐に亘ってよく消化されている,17章のうちはじめの4章が基礎的事項であり,あとは臨床であるが,内容はあくまでドグマを排しながら啓蒙的であり,臨床研修医にほぼレベルが合う.もちろん細かい検査法や統計的な数字などは皆無に等しく,米国での類似の啓蒙書にくらべて図や表の数も少なく記述的である.
 免疫不全,異常免疫グロブリン症,自己免疫の概念,免疫抑制剤,移殖,結合組織病,各種の臓器組織に特有な疾患,免疫血液学,癌と免疫などきわめて多岐に亘る内容であるが,最後に臨床免疫学者の役割という章があって今なお免疫学的検査の大部分がルーチンよりも研究途上の段階にあること,臨床免疫専門家の養成が必要なことを強調している.個々の項目を読めば古い点もあるが,分担執筆の書にはない一貫性があることは明らかで,それは入門書としては大切なことと思う.各章に代表的文献および単行書が紹介されている.したがって臨床家がこれを個々の疾患についての直接の参考にするのではなく通読して免疫学的解釈を体得するのに適していると思われる.現在臨床的にも重視されつつあるT細胞,B細胞の性質(ヒッジ血球ロゼット形成や表面免疫グロブリンの有無など)については全くふれられていないように,現在のトピックスあるいは動向を求めるものには不向きである.

—R. D. Collins—「lllustrated Diagnosis of Systemic Disease」

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.1960 - P.1960

内容の豊富さ,図解のうまさで心楽しくなる書物
 知識の整理をするにはいろいろな方法があるが,その一つに模型図を書いたり,見たりする方法が優れていることは明らかである,本書は,題名のillttstrated diagnosisとあるとおり,模型図によって166の症例の病変の所在を美事に示したものであり,すばらしい労作ということができる.
 著者は,さきに神経疾患の診断についても同じような手法を用いて一書を刊行している(lllustrated Manual of Neurologic Diagnosis).そのときも著者のすばらしい才能に圧倒されたことを今でもよくおぼえている.今回の著書は,著者自らが経験した116例の症例を中心に図解されたものであり,私たちがこれらの症例に遭遇したときの知識の整理に,あるいはまた,鑑別診断に役に立つこと受けあいというような内容の書物になっている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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