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今月の主題 最近の老人病—臨床とその特異性 老人によくみられる症状—どう対処するか
めまい
著者: 上村卓也1
所属機関: 1東女医大耳鼻咽喉科
ページ範囲:P.2072 - P.2073
文献購入ページに移動60歳以上の老年者に起こるめまいは,その大部分が動脈硬化を基盤とした脳の循環障害によって起こるものである.このことははめまいが剖検時の脳動脈硬化所見と最も関連の強い症状の1つであったこと1),さらにめまいが脳の循環動態を計測した場合の結果に最も関係のある症状であったこと2)などからも裏づけられている.
この場合の動脈硬化所見は脳動脈系のなかでもとくに脳底動脈に強い傾向が指摘されている.この脳底動脈系に属する前下小脳動脈,上小脳動脈に加えて椎骨動脈から分岐する後下小脳動脈が,その灌流領域に前庭神経核や前庭小脳(小脳片葉と虫部小節)をもつことより,めまいのもととなる循環障害を起こすことが推察される.ところが末梢迷路を循環する迷路動脈は前下小脳動脈ないしは直接に脳底動脈より分岐しており,脳底動脈系の循環障害はその結果として末梢迷路障害を起こす可能性をもっている.したがって動脈硬化に伴う脳の循環障害は中枢性前庭路の障害を起こすものと決めてかかることはできない.末梢性障害を起こした場合には自律神経失調によると考えられるメニエール病との鑑別が問題になる.後者の場合には特有の聴力障害(低音域に著しい,多くは中等度までの内耳性難聴)を伴っためまい発作を繰り返すのに対し,前者の場合は多く聴力障害を伴わないか,逆に高度め聴力障害を一度のめまい発作で起こすという異なった臨床像を示す.またメニエール病の初発は60歳以上では稀なこともその区別に参考となる.
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