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雑誌目次

雑誌文献

medicina10巻2号

1973年02月発行

雑誌目次

今月の主題 冠硬化症の新しい知見

冠不全の概念

著者: 小林太刀夫

ページ範囲:P.146 - P.147

 冠不全とは現在,病態生理学上の言葉として理解されている.すなわち心筋のO2需要に対し,冠循環よりのO2供給が絶対的または相対的に足りない状態をいう.したがって心筋にヒポキシアの存在することを意味する.
 かかる状態の下でしばしば狭心症が発症するため,狭心症と同義的に理解されたこともあったが,現在では一応別個の理念に基づくと理解すべきである.

冠硬化症の疫学

著者: 木村登 ,   高山一成

ページ範囲:P.148 - P.149

 戦後の生活習慣,とくに食習慣の変化とともに,従来欧米に比して少ないと言われていたアテローム硬化に基づく心筋硬塞を始めとする虚血性心臓病は,漸次増加の傾向にあり,将来は欧米の頻度に近づくと考えられる.

冠循環の病理

冠硬化症の冠循環—機能面から

著者: 中村芳郎

ページ範囲:P.150 - P.151

模式的な考察1)
 心筋酸素消費量 心筋酸素消費量を決定する因子には,心筋の張力,心拍数,心筋の収縮状態,外的仕事,心筋の安静時の代謝が関係している.このうち心筋の張力は,心室内圧と心室の半径,心室の壁厚に関係し,心室内圧が高く,心室の容積が大きいと張力が大となり,酸素消費量も大となる.
 心筋酸素消費量は冠状動静脈血酸素較差に冠血流量を乗じた値になるが,冠状動脈血酸素含量は動脈血のそれに等しく正常者ではほぼ一定であり,冠状静脈血酸素含量も5-6Vol%とほぼ一定している.そのため冠血流量は心筋酸素消費量によって決定されなければ,この需給のバランスはくずされてしまう.

冠硬化症の冠循環—器質面から

著者: 岡田了三

ページ範囲:P.152 - P.153

 冠状動脈は大動脈基部で左・右Valsalva洞より出る2本の主枝よりなり,左主幹はさらに前下行枝と回旋枝にわかれて左心室心筋の大部分を,右枝は右心房・右心室と左心室後壁の一部を灌流している.この動脈は図1Aのように中膜のよく発達した筋型動脈で,加齢とともに内膜の弾性線維とコラゲン線維が徐々に肥厚してくる.30歳台後半より40歳台前半にかけて内部にコレステロール沈着を伴うつよい内膜の限局性肥厚が発生し,図1Bのように内腔の50%以上におよぶ狭窄がみられるようになる.かような硬化板による狭窄が末梢域の動脈血灌流を減少させて,心筋内に虚血性変化を発生させると"冠状不全"の状態となる.硬化板は大部分限局性に発生するため,健常側の中膜平滑筋が収縮すると発作性に末梢部の虚血状態がつよまる事態が発生し,"狭心症"となる.アテローム硬化板が発育をつづけて図1Cのように内腔狭窄が75%をこえ,さらにアテローム内出血など,急速に内腔をせばめる要因が働くと末槍心筋の虚血性病変は非可逆性となり"心筋硬塞"を発生する.
 この場合硬塞の拡がりから予想される灌流枝に当たる動脈に図1Dのように血栓による閉塞を伴うことが多く,大量壊死(M)型硬塞で71%,散在壊死(S)型硬塞で29%にみられる.このことより典型的なM型硬塞は冠状動脈血栓と関係して発生するとみなされ,硬塞と同意義に"冠状動脈血栓症"の名称が長く愛用され,一方S型硬塞はいわゆる冠状不全の極型とみなされていた.

冠硬化症と副血行路

著者: 金沢知博

ページ範囲:P.154 - P.155

冠副血行路の種類1)2)
 かって冠動脈は終末動脈系であって,動脈相互間の吻合はないとされた.しかし,現在では,冠動脈相互間に細小動脈単位の前毛細管吻合が先天的,潜在的に存在することが知られている.
 これらの吻合は冠動脈各主分枝間(intercorohary anastomoses,1次吻合などとよばれる),同一主分枝の分枝間(intracoronary anastomoses,homocoronaryanastomoses,2次吻合などとよばれる),および同一分枝のさらに小分枝間(3次吻合)に存在する.その程度は1次吻合が全吻合の約2/3,2次吻合が1/3を占め,3次吻合は少数である.またその分布はヒト心臓では,心室壁の心内膜下,心室中隔に豊富で,心筋内,心外膜側には少ない.その他心房壁,心房中隔にも分布する.なお,この冠動脈間吻合のほかに心房壁の動脈と気管支動脈や縦隔動脈などとの心外吻合も認められている.

冠硬化症と心機能

著者: 谷口興一

ページ範囲:P.156 - P.157

 冠動脈硬化を主因とする心疾患は,陳旧性心筋硬塞や無痛性冠不全など無症状のものから,狭心症,新鮮心筋硬塞のように著しい症状を呈するものまで多彩である.したがって心機能も心臓の病変の程度や広さ,部位などにより当然異なったパターンを呈する.
 心機能Cardiac performanceと一口にいっても,心筋収縮能myocardial contractilityなども含むとすれば複雑となり,また,あらゆる臨床例でこれを測定することはいささか困難である.筆者は心機能の概念を主として心臓のポンプ作用という範囲でとらえ,冠硬化症の心機能について述べることにする.

冠循環の薬理

いわゆる冠拡張剤の作用機転

著者: 今井昭一

ページ範囲:P.158 - P.159

 狭心症の治療に広く使用されている薬物に,冠拡張剤と総称される一群の化合物がある(表1).
 これらの薬物による冠血流量増加の機転について論ずることが筆者に与えられた課題であるが,今回は紙面の都合もあるので特に3つの問題点をとりあげて論じてみてい.

冠不全とβ遮断薬

著者: 岳中典男

ページ範囲:P.160 - P.161

冠不全の病態生理
 酸素不足による代謝異常 心筋組織の血行障害が起こった場合に,まず注目されることは酸素不足のための代謝異常であろう.診断の根拠となる狭心痛や心電図変化を招来させるものは,嫌気性代謝の結果生じた物質であろうと思われるからである.狭心痛はヒトの自覚症であるから,動物実験で再現することはできないが,心筋酸素不足時には心臓交感神経に求心性インパルスの増加することが報告されている1).心筋虚血時にはATP依存性の膜イオン交換に障害がおこり,早期に細胞内K+の喪失を招き,電気的に正常と異なる反応を呈する部位を生じ,心電図はそれを反映してST-Tの変化を示すようになる.
 嫌気的代謝 嫌気的代謝では,解糖系の促進と乳酸の蓄積が顕著となる.ATPが減少し,AMP,ipなどが増加すれば,嫌気性解糖に関与する律速酸素の活性が上昇し,心筋エネルギーの大半は糖質により供給される.乳酸の利用は低下するだけでなく,最終の代謝物として冠静脈血中に放出され,冠動脈血乳酸量との較差が負に逆転する.心筋酸化還元電位も陰性化をきたす.

ニトログリセリンはなぜ狭心症に効くか

著者: 宮原光夫

ページ範囲:P.162 - P.163

 ニトログリセリン(以下NG)が狭心症発作の治療に有効なことが知られたのは1879年といわれるから,以来100年近くにわたり,第1選択薬としての地位を維持してきたことになる.

冠硬化症の診断

狭心症の問診のしかた

著者: 和田敬

ページ範囲:P.164 - P.165

 狭心症の問診であるが,典型的の労作性狭心症ならばまず見逃がすはずはないくらいはっきりしている.すなわち発作はつぎの短い文章によってつきる.
 Nitrate SAVES angina.

心電図における虚血性変化

著者: 長尾透 ,   飯田龍一

ページ範囲:P.166 - P.171

心電図における虚血性変化の臨床的判読
 心臓の虚血性変化の表現として,心電図における,重要で,かつ特異的情報として,狭義にはST-Tの変化があることはいうまでもない.しかも,この所見は現在,他の非観血的検査法では,これに代わる検査法は見当らない.また心電図所見のST-Tの変化の中には,臨床的に判読に苦しむことがしばしばある.一方,広義に解釈すれば,虚血性変化の所見としては,ST-Tの変化にとどまらず,各種伝導障害も,不整脈も虚血のための表現として,心電図にあらわれるのである.
 このように考えると,最も重要で,実際的にはその判断に苦しむことが多いのは,心電図における虚血性変化を心電図の単純な形の中から如何にして引き出すか,さらにこの所見を,単なる機能的の所見の中から総合的に鑑別するかが問題となる.最近の心電図における虚血性変化の推定は,このように,心電図の小さな形の変化にのみ目を奪われることなく,虚血性変化の起こる背景を広く,総合的に考えながら,心電図の隠された情報をとり出すことにつきると思う,以下限られた紙数の中ですべてをつくすことは困難なので,不整脈の虚血性変化についての詳細は本稿では除外して,広い観点から,実例をお目にかけながら述べてみたい.

負荷心電図のみかた

著者: 新谷博一

ページ範囲:P.172 - P.175

 冠硬化症の診断上,心電図はもっとも有力な検査法として,日常広く使用されている.しかし定型的狭心症を起こしているような代表的な冠硬化症ないし冠状動脈性心臓病の患者でも,安静時で発作を起こしていない時にとった心電図が,正常所見を示すことが少なくない.冠硬化によると思われる狭心症患者の40-50%は安静時心電図が正常であるといわれている.また,心電図と剖検所見とを比較した成績からも,相当強い冠硬化があっても安静時心電図上ST・Tの変化などの異常心電図を示すとは限らず,正常心電図を示すことが稀でない.したがって安静時心電図に異常がないからといって,冠硬化はない,あるいはその患者に起こる狭心症様の発作は冠不全発作ではないと,直ちに判断することはできない.
 このような場合,なんらかの方法で冠不全の状態を誘発させて心電図をとる方法が行なわれているわけで,運動負荷,薬物負荷,低酸素負荷などによる負荷心電図が用いられる.とくに,運動負荷心電図がもっとも広く用いられていることは周知のとおりである.

冠硬化症の診断に必要な血液化学的検査

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.176 - P.177

 冠硬化症と血液化学的検査
 冠硬化症の診断上必要な血液化学的検査には,その目的から次の2つの場合が考えられる.すなわち,1)冠硬化症と診断され,あるいはその結果虚血性心疾患が発現した際の検査と,2)予防医学的見地から早期診断のために行なう検査との2つである.
 しかし実際には虚血性心疾患が出現しない時期における冠硬化症の診断に対し,決め手となるような特異的な血液化学的検査法というものがあるわけではない.それは心筋硬塞症という発症があり,その時点から血中諸酵素がはなぱなしく上昇 してくるのとは異なり,この以前の状態における冠硬化症では一般の生理的加齢現象の際に認められる血液化学的変化しかないからである.この意味から,いわゆる成入病検診と称し,全身状態の偏向性を見るために行なわれる一般的な多種目スクリーニングテストを定期的にくり返し実施することが,冠硬化症の早期発見(予防),あるいは診断のための必要な血液化学的検査ということができる.しかしそうはいっても,同疾患と密接に関係すると考えられている脂質代謝を中心として検索を進めるのが常道であり,また虚血性心疾患の可能性を考慮すればトランスアミナーゼ,LDH,CPKといった血中諸酵素の測定も必要になってくる.さらに化学的な検査ではないが,凝固線溶系の検査も必要な検査項目となる.

冠動脈造影から見た冠硬化症

著者: 細田瑳一 ,   宮田捷信

ページ範囲:P.178 - P.183

 冠動脈硬化症は,元来病理学的所見であり,臨床的に確認できるものではない.冠動脈造影法は,現在のところ,臨床的に冠動脈の状態をみる唯一の方法である.冠動脈の血流量は正常の状態ではかなり余裕があり,間接的な冠動脈血流量の測定や心電図やカテーテル検査などによる血行動態の検討では,冠動脈の局所的な状態を知ることはできない.従って臨床的には,冠動脈造影法が冠動脈硬化を判定する最も直接的な指標である.
 冠動脈造影から冠硬化を判断する所見としては,1)狭窄像,とくに数個所以上に狭窄像を認め,狭窄部の前後の壁面が不整なもの,2)細かい分枝の増生,3)側副血行路,が主要なものであり,4)その他,蛇行,心筋濃染,閉塞なども冠硬化の所見としてとりあげられる場合がある.周辺部が平滑な狭窄は動脈痙攣である場合が多く,他に所見のない一個所だけの閉塞は塞栓症に見られる.年齢や動脈硬化を促進する合併症,心電図所見などは同時に考慮さるべきである.冠動脈の狭窄所見は左前下行枝の起始部から1-2cm付近に最も多く,右冠動脈の鋭縁枝付近と後下行枝分岐の直前がこれに次ぎ,左回旋枝でも起始部から1-2cmの部分に多い.一つの血管に狭窄のある場合他の血管にも少しは変化のあることが多い.冠硬化症と言う場合には,虚血性心疾患と区別は困難であり,一応ここでは冠動脈硬化性心疾患の冠動脈造影像をいくつかとりあげてみる.

冠硬化症の治療

無痛性虚血性心臓病の薬物療法

著者: 蔵本築

ページ範囲:P.186 - P.187

無痛性虚血性心臓病とは
 虚血性心疾患の定義として,1962年WHO専門委員会の報告1)は"冠動脈の病的過程に伴って生ずる心筋の血流減少または停止による,急性および慢性の心機能不全"と述べており,それを1)労作性狭心症,2)心筋硬塞,3)中間型,4)無痛性虚血性心疾患に分類している.
 この無痛性虚血性心疾患とは,無症候性,すなわち狭心症などの症状はないが,心電図上虚血性心疾患の所見を示すもので,虚血性ST・T変化が特に運動時に見られるとか,心以外に動脈硬化性病変を伴うものである.いまひとつは慢性心筋障害を思わせる多様な症状を示す群で,慢性心不全,心房細動,心ブロックなどが挙げられ,この診断は他の心疾患を除外するか心以外に動脈硬化性病変を見出すことによって仮につけられるものである.

いわゆる冠拡張剤は日本ではどのように使われているか

著者: 戸山靖一

ページ範囲:P.188 - P.189

 いわゆる冠拡張剤とは,dipyridamole(ペルサンチン),prenylamine(セゴンチン),carbochromen(インテンザイン),iproveratril(ワソラン)などのことである.もちろんこれらの薬剤は薬理作用として冠血管を拡張して,冠血流量をますので,冠拡張剤とよばれているわけである.

冠硬化症と合併した高血圧症の降圧療法

著者: 依藤進

ページ範囲:P.190 - P.191

要約
  「高血圧症に冠動脈硬化症が合併している場合,降圧療法はどのように行なうべきであるか」というのがテーマであるが,これはかなり難かしい話で,今までに,「心拍出量を増加させ,心臓に負担をかけるアプレソリンは禁忌である」ということ以外に,はっきりとした見解は示されていないように思うので,私自身の私見を述べることを許していただきたい.
 忙しい読者の便宜のためにまず結論から述べると,

冠硬化症の生活指導

著者: 竹内馬左也

ページ範囲:P.192 - P.193

 動脈硬化自体が加齢とともに進行するので,冠硬化症は慢性の経過をたどる,したがって治療により最良の状態に戻ったら,さらに悪化しないよう,より長く生き,社会に貢献できるようにすることが理想となる.日常生活においてはある程度の肉体労作の制約下にあるものが多いので,生活指導にあたっては,まずどの程度の日常労作が可能かどうか,活動能力の評価が重要であり,さらに一般医療とともに冠硬化の進展を促進する諸種の要因の対策が問題となる.

冠硬化症の予防

著者: 八杉忠男 ,   清水隆

ページ範囲:P.194 - P.195

 虚血性心疾患の予防はprimary prevention(真の意味の予防)とsecondary prevention(再発予防)に分けられるが,虚血性心疾患の原因となる冠動脈硬化の予防はprimary preventionにつながるのは当然である.
 Stamlarは虚血性心疾患発病のmajor risk factorとして,1)高コレステロール血症,2)高血圧症,3)紙巻タバコの喫煙,4)糖尿病,5)過体重,6)若年者で虚血性心疾患罹患の家族歴を上げているが,冠動脈硬化はきわめて若年時代より始まっているもので,実際,真の意味の予防では,普通臨床検査上,特に異常所見の表われない頃から開始することが望ましいことは,朝鮮戦争で戦死した20歳台の兵士にもかなり高率に冠動脈硬化の進展がみられたことからも明らかである.この点American Heart Associationのポスターに"心臓病の予防は少年時代から"というのがあるが,まさに慧眼というべきであろう.このような意味での冠動脈硬化の予防は,高血圧や他のrisk facforに対する対策ももちろんであるが,高脂血症のコントロールが最も重要になってくる.

冠硬化症の外科治療

著者: 麻田栄

ページ範囲:P.196 - P.199

 冠硬化症の外科治療は,狭心症に対する手術と,心筋硬塞ならびにその合併症に対する手術の2つに分けられるが,現在,臨床的に実施されている手術について,特に米国における現況を解説し,さらに筆者らのささやかな経験について述べ,ご参考に供したい.

座談会

冠硬化症にどう対処するか

著者: 石見善一 ,   村上元孝 ,   中村治雄 ,   太田怜

ページ範囲:P.200 - P.208

 狭心症や心筋硬塞はきわめて重要な病気だが,量の上では,いわゆる無痛性の虚血性心臓病あるいは無症候性の冠硬化症が圧倒的に多いのが実情といわれる.ここではその診断から治療まで含めたとり扱い方について—.

カラーグラフ 臨床医のための病理学

II.心筋硬塞

著者: 金子仁

ページ範囲:P.210 - P.211

 心筋硬塞は脳卒中,癌とならんで成人の三大病変のひとつである.硬塞とは,動脈が閉塞または狭窄し,その支配下の組織が壊死に陥った状態をいう.心筋硬塞とは,冠状動脈に病変が起こり,心筋壊死を生じたものである.新しいうちは出血や軟化が起こるが,古くなると心筋が消失し,代わりに結合組織が増殖してくる,この状態を心筋胼胝と呼ぶ.

グラフ 血管造影のみかた

肺(その2)

著者: 尾形利郎 ,   山本鼎 ,   河井敏幸

ページ範囲:P.213 - P.219

肺動脈,肺静脈の変化
 1.鑑別診断的なみかた
 肺動脈,肺静脈など肺循環系の異常には,その病変の主体が肺血管系自体にある場合と,血管系以外の肺疾患の影響によって発生する場合の2つが存在する.肺癌を中心とした臨床において,前者は肺血管造影により直接的に肺癌との鑑別が可能であり,後者は肺癌の示す特徴的な変化と鑑別肺疾患の示す特徴的な変化との対比から間接的な鑑別診断が可能である.
 肺血管系自身の病変は決して頻度の多いものではなく,さらに臨床的に肺癌と鑑別を必要とする症例に対象をしぼると,その数はいっそう減少する.しかしこのような疾患群では,肺血管造影によって決定的な診断が可能である点,鑑別診断上重要であるといえる.

専門医に聞く・11

"転び易い"という主訴に始まり,運動失調,眼球運動異常,構音障害をきたした6歳男子の例

著者: 本多虔夫 ,   吉倉範光

ページ範囲:P.222 - P.225

症例 6歳11カ月の男子
 主訴 転び易い.
 現病歴 幼稚園時代は健康で競走も早かったが,今春小学校に入学し,5月頃から物を落とすことが多くなり,さらに7月初旬から転び易くなった.顔つきも変わり,根気もなくなった.7月25日横浜市民病院に来院,ただちに入院した.

心電図講座 この心電図をどう診るか(2)

急性心筋梗塞症

著者: 和田敬

ページ範囲:P.226 - P.229

症例 76歳男 脳梗塞症
 7月10日に言語障害と右半身不随を起こし,脳梗塞症として入院.意識は清明.右上半身の麻痺は右下半身より強い.血圧は160/80mmHgで入院経過中も不変.

保険問答

II.高脂血症

著者: 守屋美喜雄 ,   古平義郎

ページ範囲:P.230 - P.232

守屋 高脂血症という何となく莫たる病名だが……
 古平 高脂血症という病名もあり得るが,大正12年生まれの壮年だから,脂質代謝異常などの影響で,動脈硬化がそろそろあるという見方をしていけば,全体的にはこれといって指摘する事項はない.

medicina CPC

白血球増多で始まり,末期に頻回の輸血を必要とした巨脾の例

著者: 山口潜 ,   肥後理 ,   高橋隆一

ページ範囲:P.233 - P.242

症例 I. I. 46歳 女.
入 院 昭和46年10月17日
死 亡 昭和47年2月17日
主 訴 腹部膨満,全身倦怠感
既往歴および家族歴 特記することなし.

図解病態のしくみ

肥満

著者: 湯地重壬

ページ範囲:P.246 - P.247

 肥満の原理は摂取するカロリーが消費されるカロリーよりも上まわって,余剰のカロリーが脂肪として蓄積されるという簡単な原理から成り立つが,実際の成立機転の解明は極めて困難である.現在までに得られた知見も肥満の発生病態をとらえたものではなく,肥満の結果にすぎないものが混同している.すなわち肥満の進展には過食があることが認められているが,この結果生じた肥満状態での代謝異常がさらに肥満の発症と関係していることも考えられ,肥満の病態生理を複雑にしているようである。

検体の取扱い方と検査成績

血清電解質,微量無機成分

著者: 石井暢

ページ範囲:P.248 - P.249

 ナトリウムNa,カリウムK,クロールCl,鉄Fe,ヨウ素Iなど,血清中の電解質ないし無機成分はその量きわめて微々たるものであるが,体内で生理学的に重要な役割を果たし,その濃度のわずかな変動が重大な意味をもつ.したがって測定法は精密,正確でなければならない.
 また一方,血清中のこれらの成分と同一物質は地上に広く存在し,生活環境内で普遍的にみられ,また種々の形の製品として身辺に存在するため,それらからの汚染にも常にさらされていると考えなければならない.

緊急室

器具・薬剤について

著者: 川田繁

ページ範囲:P.250 - P.251

器具の簡単な説明
 血圧聴診器 血圧専用の集音コップが平型の聴診器がよい.頻繁に測定するときは,集音コップをベルトか絆創膏で腕に固定しておく.
 酸素吸入用具 酸素吸入用経鼻(鼻腔)カテーテルまたはポリマスク,フェイステントなどと湿潤器(加湿瓶),酸素流量計,酸素ボンベが一組である.

手術を考えるとき

抜歯と内科疾患

著者: 上野正

ページ範囲:P.252 - P.253

 歯牙の抜去,すなわち抜歯と呼ばれる小手術は,その適応症患者が幼児における乳歯の自然脱落遅延症例から高齢者まで,また女性の妊娠期をも含めて,極めて広いという特徴をもっている.その手術侵襲の程度は,弛緩した乳歯あるいは歯槽膿漏罹患歯が少量の局所麻酔剤の使用によって,数秒以内に終わるものから,植立の強固な複根歯あるいは埋伏歯のごとく被覆歯肉の切開または切除,顎骨の一部削除,歯冠の分割あるいは一部削除などの操作を必要とし,時間も30分を越える例まで種々である.
 以上のごとき抜歯の可否を,主治医の内科医に患者が質問したとき,当該の抜歯操作が単純なものから複雑なものまで広い範囲にわたっていることを念頭を置いて,指示を決定する必要がある.さらに抜歯という歯科的医術は,通例外来治療として局所麻酔のもとに行なわれるから,たとえ単純な抜歯例においても,患者には多少の肉体的ならびに精神的影響を与えずにはおかないことは,次の研究結果からも明らかである.

小児の診察

体温,呼吸,脈拍

著者: 澤田俊一郎

ページ範囲:P.256 - P.257

正常体温
 小児の正常体温が変動に富むことはよく知られている.測定の方法や測定の条件によって異なるとともに,日差も無視できない.しかし特に研究用の測定を行なう場合を除き,一般臨床的にはさほどの厳密さを要求されないことが多いので,ほぼ常識的な測定方法・条件を決めておけばよいと思われる.欧米では成人は口腔温,小児は直腸温が用いられるが,わが国では腋窩温が普通であり,これは生活習慣と関連があるので当分このまま用いられるであろう,ただ腋窩温は装着の状態によって誤差が甚だ大きいこと,および時間を要すること(何分計と表示されたものでも約10分を要する)に注意しなければならず,少なくとも診療機関においては,乳児については直腸温を用いることが望ましいと思われる.直腸計を使用する場合は,肛門から3cmの深さに入れ,3-5分の判定で十分である.腋窩温および乳児の直腸温の正常値の1例を別表に示す(表1).
 幼児以下の場合は一応測定条件も考慮しておくべきであろう.哺乳や沐浴の直後を避け,できるだけ安静な状態で測定する必要がある.しかし何といっても検温の目的にそった測定法を選ぶことが最も重要である.たとえば眠っている乳児の体温がほぼ正常であるか否かは,襟首(後頸部皮膚と肌着の間)に体温計を挿入するだけで足りるのである.平静に眠っていられる乳児に対し,無理に起こしてまで正確な検温を必要とするほどの疾患があるとは思われない.

くすり

古い薬を見直す—ビスムート

著者: 澤田藤一郎

ページ範囲:P.258 - P.259

 制酸剤を中心に書けという御注文である.制酸剤というわけではないが私のぜひ書かなければならないのは胃潰瘍のビスムート療法である.

オスラー博士の生涯・6

マギル医学校時代—1870-72

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.262 - P.265

ホワード教授の感化
 カナダ,モントリオール市のマギル医学校に在学中,オスラーが内科教授ホワード博士から受けた感化には絶大なものがあった.それまでの大学で指導を受けたジョンソン師とボヴェル教授に次いで3人目にめぐり会ったのが教育の恩人ホワード博士であった.—私はモントリオールで,気高い「継父」とも慕うホワード博士に出会った.ボヴェルとホワード博士,それに最初の師ジョンソン.私の成功は—諸君が望むところのものを得,またそれに満足しているという意味での私の成功は—全くこの3人の師のお蔭なのである.
 これは晩年のオスラーが医学生を前によく語った言葉である.

診療相談室

潜在性心不全の臨床診断基準と治療の実際

著者: 吉村正治

ページ範囲:P.243 - P.243

質問 潜在性心不全の臨床診断基準(臨床症状および検査成績),およびその治療の実際,また経過観察上の注意点について,ご教示ください. (鳥取県・H生 33歳)
答 診断 この病態の診断には,主として労作負荷に伴って現われる心機能対応不全や代償不全の有無を,臨床症状や検査成績から検出することが重要であるが,通常以下の如き項目について判定するとよい.

くも膜下出血発症後2カ月経て,髄圧のみが300mmH2Oを示している症例について

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.244 - P.244

質問 くも膜下出血発症後2カ月経て,自覚的症状はすべてとれ,予想通りの臨床経過をたどりながら,髄圧のみ300mmH20前後を示している症例について,積極的に圧をさげる治療をすべきか,それとも放置して,経過をみてよいかについてご教示ください・なお髄圧充進による臨床所見は全くなしです.患者は41歳男,剛健な肉体労働者です.脳血管撮影で,動脈瘤や動静脈痩は発見されませんでした.うっ血乳頭(-). (福岡市・S生)
答 御質問の症例は,41歳男で,くも膜下出血後2カ月を経過し,自覚症状はすべてとれ,髄液圧のみ300mmH2O前後を示しており,髄液圧上昇以外は一応異常所見は認められていない.また脳血管撮影でも動脈瘤や動静脈奇形も確認されておらず,その他の原因による二次的出血の可能性もまた除外されている.

話題

癌の本質解明に幅ひろい立場から—第31回日本癌学会総会から

著者: 石井兼央

ページ範囲:P.185 - P.185

 第31回日本癌学会総会が昭和47年10月24日から3日間,愛知県がんセンター赤崎兼義研究所長を会長として名古屋市において開かれ,シンポジウム6題と一般演題651題という盛大な研究発表が行なわれた.
 シンポジウムとしては,1)気管支腺由来の腫瘍(肺癌学会と合同),2)癌の治癒と再発,3)悪性リンパ腫,4)癌化学療法の基礎,5)生物学的立場からみた加齢と癌,6)環境発癌の展望とその問題点,と幅のひろい課題がとりあげられた.

新設医大内科めぐり

新しい臨床医の育成を目指す—帝京大・内科

著者: 安部英

ページ範囲:P.221 - P.221

 本学は東京山手線(支線)十条駅から徒歩10分のところにあり,新設医科大学としては唯一の東京都区内の建設である.昭和46年9月竣工したばかりの病棟で,新しい構想により,新しい設備で内科もスタートした.文部省の基準に従って2講座からなり,47年12月現在教授2名,助教授5名,講師13名のスタッフ陣容である.
 診療 開院以来,患者数は急増し,診療は一般および専門外来と入院の患者を対象としているが,スタッフの専門別により循環器,血液,腎臓,消化器,呼吸器,アレルギー,膠原病,リウマチ疾患,内分泌,代謝,運動器,神経系およびリハビリテーションと内科学全般をカバーしている.講座の上では分かれているが,実際の運営では両内科合同の検討会,発表会などを行ない,実地診療面はもちろん研究,教育の面でも連繋をとり,歩調を合わせており,また地域医療に参加する立場から近隣開業の方々の参加も頂いている.

私の本棚

ナサニエル・ブランデンの「自尊の心理学」

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.261 - P.261

「心」の客観的把握に迫る
 さいきん,"生存のための科学"science for survivalといわれるようになったライフサイエンスのうちで,もっとも開発がむずかしく,したがって,もっとも立ち遅れているのは,「心」に関する科学,つまり心理学であろう.
 未確立な学問の魅力 しかし私は,心理学にもっとも深い興味を覚える.一つには,ライフサイエンスの他の諸科学,たとえば生物学にせよ,生化学にせよ,生理学(大脳生理学をふくむ)にせよ,また,動物行動学や生態学にせよ,その方法論は大スジがハッキリしており,したがって,今後どういった知識が入手できるかは,およそ想像がつくが,一方,心理学のほうは,方法論すらハッキリ確立されていないだけに,これから入手できるであろう知識の種類と範囲の予想が皆目つかないからである.

ある地方医の手紙・8

生前の「検死」

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.266 - P.267

 W先生.
 この前の手紙で,当市郊外の高い山の尾根の上にある僻地のO村に雪をかきわけて往診し,病人の老入(M)を四苦八苦して転送した話をしましたね.あの老人,幸いにも軽快退院しましたが,実はあの話,あれからの後日談があるのです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

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特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

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60巻5号(2023年4月発行)

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60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

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60巻1号(2023年1月発行)

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59巻12号(2022年11月発行)

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59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

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59巻9号(2022年8月発行)

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59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

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59巻5号(2022年4月発行)

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特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

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