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雑誌目次

雑誌文献

medicina10巻3号

1973年03月発行

雑誌目次

今月の主題 内科領域における輸液と輸血

輸液のための病態像のつかみ方

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.282 - P.286

 輸液を行なう必要のある病態といえば,いうまでもなく体液のバランスの異常である.体液のバランスの異常には種々のものが含まれているが,これらを病歴,身体所見,検査などから正確に把握し輸液の計画がたてられるべきである.

血液および血液製剤一覧と一般的適応

著者: 徳永栄一

ページ範囲:P.288 - P.289

 ごく最近まで輸血といえば保存血液(氷室に72時間以上保存した血液)を使う例がほとんどであったが,だんだんと患者の必要な成分のみを使う方向に進みかけている.必要な成分のみを濃厚な形で投与するほうが効率も良く,患者の心臓の負担を軽減しうることは明らかであるし,一方,貴重な血液をできるだけ有効に使うためにも望ましいことであろう.先進諸国ではかなり前からこのことが行なわれ始めており,血液成分療法と呼ばれている.血液製剤はすべて一定の規格によって製造され,保存血液その他主要なものは生物学的製剤基準に定められた方法が用いられており,その他のものも厚生省の基準外医薬品としての許可条件による方法がとられている.現在許可されている血液製剤の種類と適応を表に示してある.患者の症状に応じて最も適当なものをえらび,使用することが望ましい.

輸液剤の一覧表と一般的適応

著者: 加藤暎一

ページ範囲:P.290 - P.293

はじめに
 正しく行なわれた輸液が抗生物質,副腎皮質ホルモンにも優るとも劣らないdramaticな効果を示すことは多くの方が経験されていることと思う.一方,輸液が広く普及するにつれて,最近輸液の副作用,あるいは輸液による新しい体液障害も出現している.「敵を知り,己を知り戦わば百戦危うからず」という諺もあるように,対象となる患者の病態の的確な把握と,一方,注入する輸液の正しい適応,その長所,欠点などに関しての基礎的な知識さえ持っているなら,そのほとんどは避けられるものと思う.現在市販されている輸液剤は表に示す通りであるが,そのすべてにわたって述べることはいたずらに混乱を招くので,その中心となるいくつかのものについて述べてみたい.

輸液剤の正しい使い方

水・電解質の欠乏量輸液

著者: 折田義正

ページ範囲:P.294 - P.295

 欠乏量輸液の実施にあたっては,まず欠乏量の推定が心要で,ついで全身状態よりみた安全係数の決定,水・各溶質の欠乏量を満足する輸液剤の選定が心要となる.
 もちろん維持輸液も同時に行なわれなければならないから,毎日の水・電解質出納に関するバランスチャートの作成も心要である.

水・電解質摂取不足の維持輸液

著者: 杉野信博 ,   本田尚文

ページ範囲:P.296 - P.297

 水・電解質不足の場合,主として腎臓の調節作用により生体はその喪失を最小限にくいとめようとする.しかし消化管,肺,皮膚からの不可避的喪失はまぬがれ得ない.現在水・電解質異常を認あないが,適正な経口摂取が困難な症例では,患者の体液—電解質の病態をでき得るかぎり把握し,今後どんな型の体液異常が生ずるかを予測して維持輸液(maintenance therapy)を行なう.しかし1週間以上にわたる場合,輸液のみでカロリー,蛋白質,アミノ酸を充分補給することは困難で,できうる限り鼻腔栄養に切り換えるか,両者を併用すべきである.

利尿を目的とした滲透圧輸液

著者: 柴垣昌功

ページ範囲:P.298 - P.299

 滲透圧輸液が利尿を目的に用いられる理由 広義の滲透圧輸液としては,全血,血漿,アルブミンなどの血液製剤,デキストラン,アルギン酸ソーダなどの代用血漿,およびマニトール,尿素などがあげられる.
 これらが利尿の目的で用いられるのは,2つの理由がある.

酸塩基平衡異常の輸液

著者: 越川昭三

ページ範囲:P.300 - P.301

 酸塩基平衡異常にはアシドーシスとアルカローシスがあるが,アルカローシスを呈する疾患は少なく,かつ輸液の対象となることも稀である.ここでは主にアシドーシスについて述べる.

高滲透圧時の輸液—糖尿病を中心に

著者: 繁田幸男

ページ範囲:P.302 - P.303

糖尿病患者の輸液とその問題点
 血清滲透圧の上昇は尿毒症や脱水症,火傷などの場合にみられるが,本稿では高滲透圧時の輸液に関するモデルとして糖尿病患者における輸液の原則と実際を述べることにする.
 糖尿病患者で輸液が必要な場合として1)糖尿病性昏睡,2)糖尿病性腎症からきた尿毒症,3)脳卒中や肝性昏睡など他の合併症の併発,4)手術の術中・術後管理などがあげられる.このうち2)および3)は合併症の種類と程度により輸液内容も質的・量的に修飾されるが,すべてに共通していえるのは高血糖とケトアシドーシスの存在であり,しかもこの傾向は上述合併症や手術によるストレスによりさらに加速され,往々にして糖尿病性昏睡自体にまで発展するおそれのあることである.したがってまず糖尿病患者の輸液の問題は,糖尿病性昏睡の場合の輸液のあり方が基本的な原則になる.

栄養補給のための輸液—高カロリー静脈栄養

著者: 林四郎

ページ範囲:P.304 - P.305

経静脈高カロリー栄養補給の開発
 栄養を摂取する方法としては経口的な摂取が本筋であり,いかなる条件下でもこの経口的栄養摂取をはかる努力を払うべきであるが,いろいろな疾患や術後のように,食物の摂取量が不足している場合や,摂取できても消化・吸収が障害されている場合には,避腸的,すなわち経静脈的な方法によらざるを得ない,現在のように糖質,アミノ酸,脂肪のいずれをも静脈内に注入できる段階となっても,経静脈的栄養補給には栄養学的効率からみて,いくつかの条件,すなわち各栄養素の間でバランスがとられ,しかも総カロリーも十分であることなどが満足されなければならない.
 最近まで静脈内注入による栄養補給で,生体に必要な栄養量を十分に補なうことが不可能に近かったことも事実で,筆者自身1)も10年以上前に共同研究者の玉熊と,ゴマ油を原料とした静注用脂肪乳剤の使用量を1g/体重kgにまで増し,糖質・アミノ酸製剤と併用して,ある程度の効果をあげることができたが,それでも1日の補給カロリーは1000Cal前後であった.ところが1967年ごろから新しい経静脈的栄養補給法が開発され,完全静脈内栄養輸液,あるいは経静脈高カロリー栄養補給と呼ばれて,深い関心が注がれている.

血液製剤の正しい使い方

貧血時の補給療法

著者: 松岡松三

ページ範囲:P.306 - P.307

 貧血は本来輸血の適応ではないのであって,鉄欠乏性貧血では欠乏している鉄,巨赤芽球性貧血では葉酸あるいはビタミンB12を投与すれば貧血は改善される.しかし,これら造血資材の欠乏による貧血のほかに種々の貧血があり,この中には輸血を必要とする貧血も あるが,この場合にも輸血は対症療法であるということを常に念頭におかねばならない.
 輸血の最も重要な効用は1)出血,外傷,火傷などにより失われた血液を補充すること,2)鉄剤やビタミンB12などの貧血治療剤によって改善されない貧血のヘモグロビン(Hb)濃度を一定のレベルに維持することである.ここでは後者について述べる.

血液凝固因子欠乏の補充療法

著者: 風間睦美

ページ範囲:P.308 - P.309

 血液凝固諸因子の欠乏による出血素因に対して,その欠乏因子の濃縮分画を輸注する補充療法は,循環血液量を増加せずに因子の血中レベルを上昇せしめ,その臨床効果もきわめて高い.本来この補充療法は,血友病や血小板減少症のごとき単一凝固因子欠乏疾患に対する療法であったが,今後は続発性出血のごとき多元的な凝固因子障害に対しても広い適応をもつと期待される(表).

低蛋白血症の補給療法

著者: 和田武雄 ,   赤保内良和

ページ範囲:P.310 - P.311

低蛋白血症の病態
 輸液療法のねらいとして,まずその根底にあるものを考えると,血漿蛋白の生理的変動はその合成,崩壊,体内分布および体外への漏出という4つの因子によって規定され,動的平衡を保ちながら体内のhomeostasis保持にあずかるから,これらの因子のいずれかの変化によって低蛋白血症が発症する.肝においてはalbumin(以下alb.),fibrinogenのすべてと約80%のglobulin(以下g1ob.)が生産され,免疫glob.は網内系細胞でつくられるが,異化作用は主として腎・消化管・皮膚・筋肉などにおいて営まれているから,低蛋白血症はこれらの臓器病変に応じて成立する(表1).
 また低蛋白血症は主としてalb.の減少によるからalb.本来の生理作用である膠滲圧の維持に変化を生ずる.つまりalb.1g/dlは6.0mmHgの浸透圧をもつから(glob.のそれは1.5mmHg),組織から毛細管への円滑な水分還流に必要な浸透圧20mmHg以上を保つためにはalb.濃度としては3g/dl(総蛋白濃度は5g/dl)以上を要し,2.5g/dl以下では浮腫の発生を招く.なおその他蛋白代謝素材や担送蛋白としての役割にも変化を生ずる.

低ガンマグロブリン血症の補給療法

著者: 早川浩

ページ範囲:P.312 - P.313

 ここで低ガンマグロブリン血症とは,免疫不全症のそれ,ことに先天性免疫不全症候群におけるそれに限って述べる.実際の診療においては,これらの疾患より,後天性あるいは続発性免疫不全症としての低ガンマグロブリン血症が多くみられるが,「自然の実験」たる先天性不全症の理解が,これら疾患を治療する上にも必要だからである.なお,本稿では,紙数の関係で標題の補給療法に限って述べるので,免疫不全症治療の全般については成書など1)2)3)を参照されたい.

新鮮血輸血の必要なとき

著者: 川越裕也

ページ範囲:P.314 - P.315

 新鮮血とは星 新鮮血という名称は保存血に対応する概念として一般化されてきているが,現在法律的にも学問的にも明確に定義されていない.一般に採血後4日以内に用いるものを新鮮血と呼ぶが,実用上抗凝固剤としてヘパリンを用いた血液(ヘパリン血)は採血後24時間以内に使用すべきであり,ACD液を用いた血液(新鮮ACD血)は48時間以内に使用することを原則とし,これらを新鮮血と呼ぶ.また採血は血球ことに血小板の保存のため,シリコン加工ガラス瓶かプラスチックバッグに採血するのが望ましい.これらの新鮮血については可及的速やかに梅毒血清反応,トランスアミナーゼ活性,Au抗原などの検査がなされ,使用者に報告される.採血法および検査による採血早期血の危険性についてほとんど配慮されていないスペンダー血,すなわちいわゆる「生血」と新鮮血は厳密に区別されなければならない.

特殊な場合の輸液・輸血

老人の輸液・輸血

著者: 中山夏太郎

ページ範囲:P.316 - P.317

多い脱水症の合併
 老人では脱水症を合併する者がきわめて多く,老人の診療にあたって輸液の占める位置は重要である.
 高張性脱水症は水分摂取の不足から来るものであるが,老人にみられる原因としては一般的な食欲不振のほか,特に体動の不自由となった老人で排尿の回数を減らす目的で,みずから水分制限を行なう場合があり注意を要する.

腎不全患者の輸液・輸血

著者: 大野丞二 ,   角原孝

ページ範囲:P.318 - P.321

はじめに
 腎不全時の輸液・輸血を理解するには,まず腎不全の病態生理を熟知する必要がある.腎機能の役割を一口にいえば「尿の生成」である.すなわち生体内の過剰な物質を体外に排泄する一方,その過程において生体にとって必要な物質を保蓄し,体水分量,電解質濃度ならびにpHの3者を一定に保つという3っの大きな機能をつかさどり,これにより肺と共に生体のhomeostasisの維持機構の一翼をになっている.
 腎不全とは,この大切な機構に可逆性または不可逆性の乱れを生じた状態であるから,同じ輸液・輸血といっても腎不全時においてはその意味合いに大きな差があることは当然といえる.腎不全と一口にいっても種々の病期があり,それぞれの病態生理の詳細については成書に譲るとして,紙面の関係上本項にては腎不全を急性と慢性に分けて述べたい.

心不全患者の輸液・輸血

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.322 - P.323

 心不全(heart failure)は,急性に起こる場合と慢性に起こる場合とがあるが,その心不全を招く原因により,それに対する薬物投与は異なるとともに,その際に輸液または輸血をすべきか,否,かえって避けるべきか,輸液をするにはどのような内容のものが選ばれなくてはならないかなど,処置はさまざまである.
 以下,輸液・輸血を必要とする場合を,その注意事項と共に述べようと思う(心不全に輸血をする場合は例外的であるので,主に輸液を中心に述べる).

急性出血時の輸液・輸血

著者: 岡田和夫

ページ範囲:P.324 - P.325

循環血液量,体液分布
 正常人の循環血液量は75-80ml/kgであるが,やせた人,心疾患患者,妊婦ではややこれより多く,肥満者,老齢者は少ない.ショック症状が失血で生じた時は,循環血液量の1/4-1/3を失っていると考えられるが,循環の代償反射のためわずかな出血だけではショックに陥るものではない.貧血状態の患者が出血した場合には,血液の酸素運搬に大切な赤血球量の減少が表面に出て,組織への酸素供給が不十分になるのが早期から起こる.健常人が出血した場合にも酸素運搬能は1/4-1/3の出血量で低下するのである.
 体重を50kgとして,このヒトで3.2-3.6lの血液が体内に分布するが,その半分以上は静脈側にあり,この部が血液量の増減に応じて拡張したり,収縮したりするのである.中等度出血(500-700ml)まではこの静脈側血管床が収縮して,循環動態を維持してくれる.さらに血管の成分はその周囲の組織液,狭義の細胞外液(9-11l/50kg),細胞内液(20l/5Okg)と平衡していて,末梢毛細管壁,リンパ管を介して血管内成分と交流している.出血により血管内の循環血液量が減ると,血管外から組織液が入って補ってくれる.これが完全に代償されるのには18-24時間ぐらいかかり,急な脱血直後では未だ血管外から内への水分の移動が起こっていないので,Ht値も低くなっていない.Ht値,Hb濃度は急性脱血期の指標になりえないことに注意する必要がある.失血の急性期を経過して後の,Hb濃度,Ht値は緊急の輸血・輸液がどの程度有効であったかの判定の手段として有用であり,これが低下しているようだと輸血が不十分で,細胞外液からの水分の移動が起こっていると考えてよい.

溶血性貧血の輸血

著者: 山口潜

ページ範囲:P.326 - P.327

 溶血性貧血といっても疾患によってその病態はいろいろであり,輸血の適応・禁忌もまったく異なる.以下2,3の疾患を挙げて解説する.

座談会

輸液・輸血の問題点—副作用を中心に

著者: 日野原重明 ,   岡田和夫 ,   飯田喜俊 ,   大河内一雄 ,   河合忠

ページ範囲:P.328 - P.336

円滑に自然治癒に導くこと—これは内科的治療法の本質であり理想であろう..しかし,電解質異常,酸塩基平衡異常,血液成分の欠乏状態に対しては,そうした体内の状態を改善するために輸血・輸液療法を人為的な操作によって外から加えざるを得ない.そこに副作用を含めたいろいろな問題が出てくる.では副作用等の特徴と対策は?……

専門医に聞く・12

昏睡・アシドーシス・低Na血症・低K血症を伴う患者の緊急輸液

著者: 越川昭三 ,   長谷川博

ページ範囲:P.337 - P.342

症例 男 32歳 事務系会社員
 主訴 意識障害・呼吸困難を主訴とし,呼吸器疾患の疑いで急患として入院.

カラーグラフ 臨床医のための病理学

III.肝疾患

著者: 金子仁

ページ範囲:P.346 - P.347

 肝は人体臓器の中で最も大きく(通常1,300g),栄養分の貯蔵,胆汁の分泌,解毒作用などが主な働きである.
 肝疾患は数多く,1回でその全部を網羅するのは無理だが,ありふれた疾患として,肝炎,肝硬変症,肝癌,白血病,胆石症をのせる.肝疾患として最も多く,重要なのは肝炎である.肝炎→肝硬変症→肝癌と1つのコースがあるからである.最後に,第2次世界大戦終了後,日本で猛威を振った回虫症の例をのせた.

グラフ 血管造影のみかた

肺(その3)

著者: 尾形利郎 ,   山本鼎 ,   河井敏幸

ページ範囲:P.350 - P.356

III.気管支動脈造影
 肺病変は肺動脈,肺静脈など肺の機能血管系に変化を及ぼすと同時に,肺の栄養血管である気管支動脈系にもさまざまな変化をもたらす.
 肺疾患における気管支動脈の変化を血管造影によって検討しうるようになったのは比較的最近のことで,1963年Clifftonがカフ付きカテーテルを用い,胸部大動脈を上下で遮断して気管支動脈を造影したのを嚆矢とする.しかし,この方法は適応に制約があり,挿入動脈を損傷することがあるので普遍性をもつまでには至らなかった.

症例

Pachydermoperiostosisの一例

著者: 伊藤真一 ,   高野尚志 ,   渡辺宏 ,   光永慶吉 ,   野口規久男

ページ範囲:P.358 - P.361

はじめに
 Pachydermoperiostosisは,大鼓ばち指,発汗過多,皮膚の肥厚,骨膜性骨新生などを特徴とする比較的稀な原因不明の疾患である.最近,本症の完全型の一例を経験したので.従来記載のない口腔病変を報告するとともに.文献上集め得た戦後の本邦例をまとめ,若干の考察を加えた.

心電図講座 この心電図をどう診るか(3)

心筋梗塞と見誤る心電図

著者: 和田敬

ページ範囲:P.362 - P.364

症例 29歳女
 妊娠中に高血圧を指摘され治療をうけ,無事出産した.その後,大動脈弁閉鎖不全症と診断されている.8歳の頃発熱(数日間)のため休んだ以外はきわめて健康で,スポーツもやっていた.しかし,学校での健診では弁膜症といわれたことが2〜3回あった.
血圧220/100mmHg左

保険問答

III.不安定な症状の急性肝炎

著者: 守屋美喜雄 ,   古平義郎

ページ範囲:P.366 - P.368

 守屋 急性肝炎で,前月末初診.今月の実日数が20日間だからほとんど毎日のように通ってきている.肝機能検査もGOT, GPTがこの月に3回あるし,かなり不安定な症状の時期の症例のようだ.
 古平 治療面では,プロヘパールは急性症状のときは,一般には適応外とされており,問題がある.

図解病態のしくみ

るいそう

著者: 湯地重壬

ページ範囲:P.374 - P.375

るいそうと肥満
 るいそうは肥満と対比して論じられることが多い.すなわち肥満とは逆に,るいそうは貯蔵脂肪組織の量が異常に減少した状態であり,摂取カロリーが消費されるカロリーを下まわっていることがその成因とされている.しかし,るいそうでは脂肪組織のみでなく,筋肉の蛋白も滅少している.またすべての肥満組織は治療の対象とされるが,るいそうではその軽度のものは日常生活に何らさしつかえないものがある.さらに肥満では,単純性肥満が多いが,るいそうでは食物の摂取や吸収の障害,またカロリー消費の増加をきたす疾患などによる二次的なるいそうが多い.図の中央に示したごとく,摂取された食物は吸収されて栄養物となり,体内で利用・貯蔵されるが,まわりに示したように,このいずれかの過程の障害によっても,るいそうが成立する.

緊急室

酸素吸入の実際

著者: 川田繁

ページ範囲:P.376 - P.377

酸素吸入の適応
 適応はアノキシア(酸素の欠乏状態)の治療と予防で,主なものをあげると,
 1)血圧下降,出血:アノキシアにより二次的に起こる.出血などで起こった血圧下降,ショックも適応である.

手術を考えるとき

いわゆる慢性のアッペ

著者: 渡辺晃

ページ範囲:P.378 - P.381

慢性のアッペとは何か5)7)11)
 故東北大武藤名誉教授は外科の講義で必ず,慢性虫垂炎というものは学問的にはないのだ,本来急性炎症であるべき虫垂炎を,医師たるものが無批判的に慢性虫垂炎と平気で用語を使っているのはけしからんと強調された.
 厳格にいうと慢性虫垂炎とは,その定義も明確でなく,人によって見解にも相違が見られる.病理組織学的にはAschoff, Moschcowitzらは始めから慢性の炎症の形でくるといわれている原発性慢性虫垂炎の存在を否定し,急性炎症の治癒過程であるとしている.本邦では2)浜口らも,44例のいわゆる慢性虫垂炎の病理組織学的検索で,原発性慢性虫垂炎はなかったと報告しているのは注目すべきことと思う1).Schenken & Burnsは急性炎症の遺残と原発性慢性炎症の2型に分けているが,組織学的に壁のFibrosisとリンパ球,エオジン好性白血球の浸潤が筋,粘膜下層にあり,粘膜に病変のないChronic focal Appendicitisと結合織により,虫垂内腔が閉塞されているChronic obliterative Appendicitisの2つに分類しているがPlavitz3)4),(1953)は①再発性虫垂炎,②続発性慢性虫垂炎,③原発性慢性虫垂炎に分類しているが,純学問的に見ると筆者は心の中では,Aschoff,武藤らのいう通り,慢性虫垂炎は急性炎症の治癒過程と見るべきものであろうと思う.

小児の診察

皮膚

著者: 野波英一郎

ページ範囲:P.382 - P.383

 皮膚は全身状態をうつす鏡といわれるとおり,各種の全身性疾患や内臓病変において皮膚変化の現われることは周知の事実であり,小児診療においても皮膚症状は最も重要な所見の1つである.ここでは,これらのすべてについて述べる余裕がないので,主として皮膚科領域で問題となる疾患について考えてみることとする.

くすり

非ステロイド系消炎剤の副作用

著者: 藤森一平

ページ範囲:P.384 - P.386

はじめに
 非ステロイド系消炎剤はステロイドホルモン以外の消炎剤(抗炎症剤)の総称で,化学構造によって表1に示すように6種類に分けられる.すなわちサリチル酸剤,フェニール酢酸誘導体,アントラニール酸誘導体,ピラゾリジン系,ピリミジン誘導体,トリプトファンおよびインダゾール誘導体などがある.本稿ではこれらの薬剤が主に使われている慢性関節リウマチ患者での副作用を中心に述べる.なお,このほかに特殊な消炎剤として消炎酵素剤,金製剤,クロロキンなどがあるが,紙面の都合でこれらの副作用については省略する.

オスラー博士の生涯・7

英国への留学と欧州の見学旅行—1872-1874

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.390 - P.393

ロンドンに留学―大学職を目指して
 当時カナダで医学校を卒業してM. D. を得たものは,さらに英本国に渡って仕上げをするのが普通であった.当時オスラー家は,上の子ども達は既に結婚して家を出てしまっており,子どもの生活費がそれ程かからないようにはなっていたが,しかしウィリアムの父には息子の希望通り2カ年間も英国に留学させるだけの経済的余裕はなかった.ところが幸い,ウィリアムのすぐ上の兄のエドムンドが,その長期の留学のための必要経費として千弗を工面してくれることになった,喜びにあふれたウィリアムは,たまたま英国にいる許嫁を訪問しようとしていたエドムンドと一緒に,1872年7月3日に乗船して英国に赴いた.
 彼は先ずロンドンに落ち着き,方々の病院を見学し,その夏はダブリンやグラスゴーやエジンバラなどの街を見物した.彼の遺した手帳には,その頃の旅の支出が細かく書き込まれていた.これによると,相当節約した旅のようすがうかがわれる.

診療相談室

老人の心房細動について

著者: 岸本道太

ページ範囲:P.369 - P.369

質問 偶然発見される老人の心房細動については甲状腺機能亢進症,僧帽弁狭窄のない場合には,冠硬化によるものと考えてよいでしょうか. (新潟市・Y生)
答 結論をいえば大体そのように考えてさしつかえないと思います.

高齢者の四肢のしびれ

著者: 宮崎元滋

ページ範囲:P.370 - P.370

質問 高齢者における四肢のしびれ感は末梢の神経(知覚神経)の障害によるものか,あるいは大脳の知覚領域の障害によるものか. (大阪・桃山市民病院 V生)
〔答〕一般に四肢のしびれ感というのは,神経系そのものの機能障害からくる場合と局所の循環障害からくる場合とがあり,前者ではその原因が中枢性の場合と末梢性の場合とがある.

子宮後屈・内臓下垂と腰痛について

著者: 石田肇

ページ範囲:P.371 - P.371

質問 子宮後屈あるいは内臓下垂などが腰痛の原因と目されると成書には記載してありますが,はたして,現実に存在しうるものでしょうか.あるとすれば,その頻度はどのくらいあるものでしょうか。殊に整形外科の先生にうかがいたい.(北九州市・M生)
 〔答〕ご質問に対し,整形外科医としてお答えするには,いささか不適当,専門外のことと思うが,ご指名に従ってお答えしようと思う.

肺結核の気管支拡張症の合併について

著者: 植村敏彦

ページ範囲:P.372 - P.372

質問 肺結核(後遺症)における気管支拡張症の合併はどのくらいあるものでしょうか. (山口市 T生)
〔答〕肺結核が治癒する時,瘢痕萎縮を生ずるのが普通である.その牽引により多少とも気管支の拡張を来たすものである.その他,気管支結核が伴った場合,その瘢痕萎縮により,気管支狭窄を来たし,その末梢に分泌物の貯溜や無気肺を生じて,その結果気管支拡張を来たす場合もある.

話題

興味深かったインスリノーマの2症例—第10回糖尿病学会関東甲信越地方会から

著者: 池田義雄

ページ範囲:P.344 - P.344

 第10回糖尿病学会関東甲信越地方会は,1月27日野口記念会館で開かれた.日大有賀教授の会長のもとで活発な発表と討論がくり広げられ,充実した学会がもたれた.発表演題は40題と昨年の38題を上まわった.その内わけは症例報告17題,内服剤治療8題,臨床病理13題,基礎2題である.

新設医大内科めぐり

医大新設ブームのトップをきって—秋田大・内科

著者: 柴田昭

ページ範囲:P.365 - P.365

 最近の医大新設ブームのトップをきって秋田大学医学部が創設されたのは,昭和45年4月のことである.新しい酒は新しい革袋に盛られねばならない.従来の医学部がかかえていた弊害を是正し,理想的な医学部を建設するには,またとない好機である.参集したスタッフは,この一点において想いは一致していたといってよかろう.もちろん国立大学である以上,種々の制約があるのは止むを得ないところである.要はその枠のなかで如何に理想を達成するか,そこに一同の苦心があり,またその故にこそ本医学部の動向が広く各方面から注目を集めているともいえるのである.
 診療 まず診療態勢であるが,その基本方針は教授,助教授,講師から成る病院運営委員会によって決められる.病歴の統一中央化,主な研究機器の中央化などの合理化は既に軌道にのった.

私の本棚

内科学・消化器病学・医史学の本など

著者: 山形敞一

ページ範囲:P.389 - P.389

 学生時代に私淑した太田正雄教授—木下杢太郎先生は,かつて何かの文章のなかに,自分は大学の研究室にいる間は医学者の太田正雄であるが,午後7時に自宅の書斎に入ると文学者木下杢太郎になると述べられた.
 私の本棚をみると,教授室の本棚は内外の医学書で埋っているが,自宅の本棚には短歌や郷土史や紀行文や歴史小説の類が堆く積まれており,最近は美術や陶器の本なども集まってきているといった具合である.

ある地方医の手紙・9

「死んでも医者さ行がね」(一)

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.394 - P.395

 W先生.
 「所変われば品変わる」とは実にうまいことを言ったものだ,と最近つくづく思うことがあります.私が東京の大学の医局員だったころは,毎週外来で,しつこく不定愁訴をくどくどと並べたてる,心身症的,疾病恐怖症的な患者の大群に悩まされていたものですが,当地での目下の最大の悩みは,当地の方言でいうなれば「なんぼいってくっちぇもわかんねい(全く話のわからない)」頑迷医療拒否型の患者であります.当然のことながら,こういった患者は女より男に多く,都市部より郡部に多く,ある種の新興宗教の信者や教育程度の低い高齢者に多く,全くハシにも棒にもかからず処置に困ることがあります.とくに一番閉口するのは,即刻入院を要する重症患者が「医者さ行ぐくれいなら死んだほうがエエ」と往診先で駄々をこねる場合です.こういったワカラズヤの患者に私が散々ふりまわされた話を1ついたしましょう.

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公的血液センター一覧

ページ範囲:P.286 - P.286

赤十字血液センター一覧

ページ範囲:P.287 - P.287

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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