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雑誌目次

雑誌文献

medicina10巻4号

1973年04月発行

雑誌目次

今月の主題 内科最近の話題 心臓

肥大閉塞性心筋症

著者: 坂本二哉

ページ範囲:P.410 - P.411

 肥大閉塞性心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy:HOCM)はいわゆる原発性心筋疾患(primary myocardial disease:PMD)の中で,積極的に診断しうる特異な病像を持つ一亜型であり,過去10数年間にわたり心臓病学における1つのトピックとして扱われてきたものである.本症はその名の示す如く,心室筋自体に原発する肥大によって,左室(または両室)の閉塞ないし狭窄をきたす疾患である.この疾患は米国では特発性肥大性大動脈弁下狭窄(idiopathic hypertrophic subaortic stenosis:IHSS),また筋性大動脈弁下狭窄(muscular subaortic stenosis:MSS)などとも呼ばれるが,後述するように,これらは重複する点が極めて多いが,元全に同義語であるとはいえない.
 HOCMの頻度は正確には不明であるが,決して稀ではなく,米国NIHでは過去13年間に約400例の経験があるという.筆者は1966年来25例を観察しており,同年間における大動脈弁狭窄症の約1/2の頻度に相応する.しかし近年,この疾患が増加してきたという証拠は無い.従来本症に気づかなかったのは,そのような概念がなかったからであろう.

産褥心

著者: 鷹津正

ページ範囲:P.412 - P.413

定義
 産褥心postpartum heart diseaseは産褥性心筋症postpartum (postpartal) cardiomyopathyともいわれ,心疾患の既往をもたないものが,分娩後5カ月以内に心不全症状をきたし,しかもその原因が全く不明のものに名付けられた心症患である.少数例において,妊娠最終月に同様の症状が現われるので,総称してperipartumheart diseaseあるいはperipartum cardiomyopathyとも称される.
 本症記載の歴史は古いが,Meadows1),Walshら2)により注意が喚起され,近時世界の心臓病専門家の重要な研究課題の一つとなっている特発性心筋症idiopathiccardiomyopathyの範疇に入るものとして本症をとりあつかっている.わが国における報告は未だ多くはなく,筆者の特発性心筋症100例中本症は4例をみたにすぎない。

高血圧

悪性高血圧—最近の概念

著者: 安田寿一 ,   飯塚昌彦

ページ範囲:P.414 - P.415

 悪性高血圧の概念はその出発点より問題点を含み,また高血圧に関する知見の進歩に伴って解釈に若干の変更が見られている.したがって現状を理解するには,その歴史的進展のあとをたどるのが最良の方法であると考えられる.筆者らはこの歴史を以下の如く3期に分け,それに沿って解説を進める.

腎血管性高血圧症

著者: 和田達雄

ページ範囲:P.416 - P.417

はじめに
 腎臓に病変が存在するために生ずる高血圧症は,いわゆる腎性高血圧症と呼ばれている.このうち腎実質や腎盂,尿管などの疾患に起因する高血圧症では,その昇圧機構を明らかにすることが困難なことが多く,高血圧に対する手術の対象となる例は比較的少ないように思われる.これに対して,腎動脈の血行障害にもとつく腎血管性高血圧症は,最近の基礎的研究の進歩に伴い,その昇圧機構が解明されつつあり,外科医はこの昇圧機構そのものに対してメスを加えることが可能となっている.したがって厳密な意味で高血圧症に対する手術の適応を決定することができるものといえよう.この点は褐色細胞腫などのいわゆる内分泌性高血圧症も同様であって,数多い高血圧症の患者の中から,これらの外科的高血圧症を診断し,手術適応を正しく決定することは,高血圧症患者を診療する医師にとって,きわめて重要なことと考えられる.

脳血管障害

高血圧のレニン活性値と脳卒中

著者: 尾前照雄 ,   田仲謙次郎

ページ範囲:P.418 - P.419

 高血圧患者に脳卒中が多発することは周知の事実であるが,脳卒中の病型によって大きな差があり,高血圧と関係の深い順に並べてみると,高血圧性脳症,脳出血,脳血栓,くも膜下出血の順となる.このうち高血圧性脳症は悪性高血圧症や腎疾患の際に高度の拡張期血圧の上昇を伴って見られ,血圧を下げると症状が改善するので,その発症には腎障害と著明な血圧上昇の2つの因子が関与していると思われる.脳出血は拡張期性高血圧のあるものに多く起こるが,腎性因子の関与している可能性がある.脳血栓はむしろ動脈硬化性疾患として理解すべき点が多いし,くも膜下出血は勤脈瘤や動静脈奇形という局所性因子との関係が深い.

脳出血の新臨床分類とその根拠

著者: 工藤達之

ページ範囲:P.420 - P.422

 従来から脳出血の診断は剖検所見からの遡及的な類推を根底として,臨床症状を総合して行なわれるspeculationに止まった.臨床症例について,その病態を直接探究する手設を欠いていたからである.筆者らは脳血管撮影法を脳出血の急性期に応用して,その病態を臨床的に把握する努力を続けてきた.昭和30年以来,症例数はすでに1200例を越えた.この間の研究によって,われわれの到達した大脳出血についての新しい考え方と,それから導き出された臨床分類を中心に,2,3の解説を加えてみたいと思う.

呼吸器

アイソトープによる局所肺機能検査の応用

著者: 金上晴夫

ページ範囲:P.424 - P.425

 現在,肺機能検査法の進歩と共にその普及はめざましいものがあり,慢性肺気腫や喘息などの診断,重症度の決定や治療効果の判定に,A-Cブロックの診断に,呼吸不全の診断に,手術適応の決定に,またじん肺の補償などにひろく用いられ,いまや心機能,腎機能,肝機能検査などと共にstandard technicとなっている.しかし,現在主として行なわれている肺機能検査法は,肺全体の機能を把握する綜合的な肺機能検査法で,左右各肺の機能やもっと細かい肺局所の機能の検査法ではない.
 さて呼吸器疾患の病変について考えてみると,全肺野にびまん性の病変を示すびまん性散布性肺疾患の高度のものや,慢性肺気腫の高度の症例をのぞけば,いずれも肺の局所に炎症や腫瘍や,線維性病変や気腫性病変を示す局所性の疾患といえる.したがってこれら局所性の病変に由来する肺機能障害を肺の各局所について測定できれば,患者の機能障害の原因,性質,程度を適確に把握できるばかりでなく,それに対する適切な処置を行なうこともでき,またそれぞれの肺疾患の病態生理を詳細に把握できよう.

Isotope Pulmography—アイソトープによる局所肺機能検査

著者: 金上晴夫

ページ範囲:P.426 - P.431

 Isotope pulmographyとは,アイソトープを用いて,局所肺機能を測定する方法である.現在アイソトープとしては,133Xeが広く用いられているが,局所肺血流分布を測定する131IMAA肺シンチグラムや局所換気を測定する99mTc-アルブミンによる吸入肺スキャンニングも広い意味ではIsotope pulmographyに入る.
 ここでは,133Xeによる方法について,装置,実際の記録,臨床症例についての意義などについて,図,写真を中心に解説したい.

サイレントゾーン・末梢気道障害の診断と治療

著者: 谷木普一

ページ範囲:P.433 - P.435

 末梢気道の病変が最近,にわかに注目されはじめた.それは2つの理由による.第1には閉塞性肺疾患の気道閉塞が,主として末梢気道障害にもとづくことが,しだいに明らかにされてきたからであり,第2には末梢気道障害はしばしば重篤な不可逆性呼吸不全を惹き起こすが,病変がある程度進展するまで.胸部レ線上でも,ルチンの肺機能検査でも,客観的な把握が困難で,いわゆるsilentzone, quiet zone1)2)として,医学的検索からとり残されている領域として認識されてきたからである.
 従来内径2mm以下の末梢気道抵抗は,全肺抵抗の25%以下を占めるにすぎず3),ビーズによる広汎な末梢気道閉塞実験でも,その全肺抵抗に及ぼす影響は極めてわずかである4)とされているが,Anthonisenら(1968年)5)は肺機能検査が正常か,正常に近い慢性気管支炎患者が,換気血流比VA/Q異常を示すのは,末楕気道閉塞に帰因することを明らかにした.さらにHoggら(1968年)6)は慢性閉塞性肺疾患では,気道閉塞の部位が2mm以下の末梢気道であり,末梢気道抵抗は4-40倍に増加する事実を確かめ,以後気道閉塞における末梢気道の重要性が認識されるに至った.

感染症

難治感染症宿主の要因

著者: 藤井良知

ページ範囲:P.436 - P.437

はじめに
 患者の側からいえば癒り難い感染症であり,一方治療する側からは癒し難い感染症ということになるが,いずれにしろその内容は時代とともに移り変わってきた.抗生物質療法時代以前には致命的感染症はきわめて多数で,今日想像もできない情勢にあったことは,厚生者の衛生統副を昭和前半に遡ればよく解ることである.しかし抗生物質時代に入ると,いかに致命的と考えられた細菌感染症でも,適切な抗生剤で治療される限り容易に救われるようになった.
 もちろん,予防医学,化学療法以外の治療医学の発達を無視することはできないが,化学療法が最大の効果を発揮したことはいうまでもない.感染症の質的・量的変化が,その軽症化と滅少の傾向を示しているなかで,抗生物質の種類は止まるところなく増加し,その消費量も年々激増の一途をたどるこの20年間の歴史をふり返ると反省すべき点が多いが,難治感染症については数的の増加ではなく,もっぱら質的の変化が大きいのである.

抗生物質の代謝

著者: 清水喜八郎

ページ範囲:P.438 - P.439

 従来,抗生物質の検討は,抗菌作用の研究,つまりIn vitroの抗菌力の試験と生体内における活性型のものの追求がその主流であった.事実,菌に対する薬剤の抗菌力と病巣における薬剤レベルの相互反応によって,その抗生物質の薬効を推定する場合が多いからである.
 薬剤が生体に与えられたとき,生体は与えられた薬剤を吸収し,代謝し,そして排泄する.その過程における薬剤の分布が,その薬剤の効果を発揮することになる.薬物の生体側のうけいれ方が,その薬物の有効性と安全性を裏付ける重要なデータを提供することになる.

胃腸

消化管ホルモンをめぐって

著者: 松尾裕

ページ範囲:P.440 - P.441

 消化管ホルモンは,消化管粘膜に散在する内分泌細胞より,主として摂取された食物およびその消化粥により刺激されて分泌され,血中に入り消化器臓器に働いて,消化液の分泌や運動機能を調節し,生体内における消化吸収の過程を調節するペプタイドホルモンである.
 消化管の機能は消化吸収であるが,その機能は自律神経と消化管ホルモンによって調節されている.したがって消化器疾患とくに消化管の疾患あるいは症候は,この自律神経と消化管ホルモンの調節機能の異常によって説明されることが多い.近年,各種の消化管ホルモンについて化学構造が決定され,合成にも成功するようになると,消化器病を消化管ホルモンの分野から診断,治療することが可能となってきた.このことは,従来形態学的変化を中心にして進められてきた消化器病学を機能的な,あるいは内分泌学的な手法によって研究することが可能となり,消化器病にとって新しい動向といわなければならない.

消化吸収試験の問題点

著者: 朝倉均

ページ範囲:P.442 - P.443

 消化吸収の研究は古くて新しい研究といえる.すなわち1960年代頃より,腸上皮のbrush border,とりわけmicrovilliにおけるmembrane digestion1)の機構が解ってくると,どこまでが従来の消化で,どこからが従来の吸収かということが区別しにくくなっている.
 今日までに知られているmalabsorption syndromeを呈する主な疾患は表1の如くまとめることができる.これらの病態を解明するための消化吸収試験も多数知られている(表2).消化吸収試験の実施方法2)3)やアイソトープ使用による診断の問題点4)は筆者の別著にゆずり,本項では注目を浴びている疾患や病態について,その消化吸収試験の問題点に言及してみたい.

肝・胆・膵

アルコール性肝炎

著者: 芳賀稔

ページ範囲:P.444 - P.445

はじめに
 アルコールと肝障害の関係については,古く16世紀頃から知られており,特に欧米では肝硬変の50-80%がアルコールに基因するといわれている.一方,わが国における肝硬変の成因としては,従来ウイルス肝炎に由来するものが大部分であり,アルコールが原因であるものは少ないとされてきた.ところが,近年わが国におけるアルコール消費量の増加とともに,アルコール由来の肝障害患者が漸増し,筆者らの施設でも肝疾患患者の10-15%を占めるに至っている.
 大酒家に見られる肝障害の病型としては,脂肪肝,アルコール性肝炎,肝硬変があげられているが,このうち特に常習飲酒家が大量の飲酒を契機として,黄疸などの急性肝機能不全状態を呈する,いわゆる急性アルコール性肝炎(以下AAHと略す)が,肝硬変の成り立ちに重要な意義を持つものとして注目されてきた.

進行肝癌の化学療法

著者: 菅原克彦 ,   河野信博

ページ範囲:P.446 - P.447

はじめに
 進行肝癌の治療は臨床家を悩ます課題の1つである.患者の自覚する大きな腹部腫瘤があり,肝障害,胆癌による悪液質などの諸条件は患者の状態を悪化せしめるのみで,多くの努力にかかわらず治療効果はあまり期待できない.
 原発性肝癌の切除率は0-13%と低く,その主な理由は肝硬変と併存していることが多く,局所的に切除可能であっても切除後の循環動態の変化,低酸素症などにより,残存正常細胞は生体の代謝を担い得ず肝不全にいたる.またcritical stageを経過し得ても再生肥大を起こし難いなど,特殊な病態がある.原発性肝癌患者のnatural historyは診断が下されてから2-4月といわれているが,剖検所見では30%に遠隔転移がみられるにすぎず,姑息的であるが,積極的な治療がのぞまれる.

慢性膵炎の成因に関する新しい考え方

著者: 石井兼央 ,   中村耕三

ページ範囲:P.448 - P.449

 慢性膵炎という器質疾患は組織学的検索がむずかしなために,日常診療上では臨床所見や検査成績にその診断根拠を求めざるをえない現況である.したがって,診断根拠があいまいであると臨床的実態の異なる多様な症例が含まれてくるおそれがあり,相互の臨床像を比較することも意味が少ないことになる.ここでは日本膵臓病研究会の慢性膵炎の臨床診断基準案1)による臨床的確診例についてのべることにする.なおその臨床的確診の診断基準はMarseille分類2)にもとつく最近の欧米の診断基準とほぼ同様で,国際的な比較も可能である.

消化器疾患における血管造影の意義

著者: 杉浦光雄

ページ範囲:P.450 - P.451

 消化器疾患のうち,血管造影がかなり臨床的意義をもつものは,肝,胆道,膵臓疾患である.

内分泌

副甲状腺ホルモンとカルチトニン

著者: 折茂肇 ,   大山俊郎

ページ範囲:P.452 - P.453

副甲状腺ホルモン(PTH)
 副甲状腺ホルモン(PTH)は副甲状腺より分泌される唯一のホルモンで,骨からのCa動員,腎でのCa再吸収増大,腸管からのCa吸収促進等の作用を通して,主として,生体内のカルシウム代謝を司るホルモンとして意義づけられる.物質的には84個のアミノ酸より成るポリペプチドとされ,特にウシPTHを中心に化学的な面,すなわち構造と作用の関連,抗原性等多くのことが明らかにされている.近年Bersonら1)によりglandular PTHとcirculating PTHが免疫学的にheterogeneityを示すという示唆がなされ,PTHの生合成と分泌に関する伝統的概念を改めて考え直させる発端を生んだが,その結果多くの実験を通して,PTHの免疫学的多様性,すなわち副甲状腺の中で作られ,血中に分泌され,代謝されていく一連の複雑な過程が明らかにされつつある.ここではPTH生合成と代謝に関する最近の考え方を記したい.
 図1に,これまでに明らかにされている事実を基にしてPTH合成→代謝の過程を,Schemaにして挙げる.PTHが副甲状腺の中で合成される際には,1-84個のアミノ酸よりなるポリペプチドよりさらに大きい分子(PTH precursor)として合成され,これが1-84個のアミノ酸よりなるPTHに分解されて血中に分泌されることはほぼ確実なようである.この際PTH-precursor→PTHへの変換は副甲腺組織抽出液中に見られるある種のプロテアーゼによって成されるらしい,このプロテアーゼはCa依存性を示し,このことから血中,細胞内のCa濃度が,PrecursorからのPTHの産生をコントロールしている機序が考えられる.一方,Pottsら2)は合成ペプタイドを用いて,副甲状腺ホルモンおよび,そのFragmentのradioimmuno assayを行ない,また副甲状腺近傍の静脈からカニューレによって直接分泌されるホルモンを得て,腺細胞にて合成されたホルモンのほとんどが,血中にそのまま放出され,循環する過程―血中あるいは末梢組織―で小さなFragmentに代謝されることを示している.

下垂体ホルモン放出因子

著者: 入江實

ページ範囲:P.454 - P.455

放出因子とは
 下垂体前葉のホルモン分泌に関して,以前から間脳とくに視床下部の関与のあることが知られており,図1に示すように各内分泌臓器から分泌されるホルモンが視床下部に作用して何らかの形で下垂体前葉ホルモン分泌のコントロールを行なうことが示されてきた.末梢のホルモン分泌が小であれば視床下部の下垂体刺激作用は大きいという逆相関の関係があるため,この機構はnegative feed-back mechanismと呼ばれている.このうち,視床下部から下垂体前葉への指令が神経性neura1に行なわれるものか,体液性humoralに行なわれるかという点に当初の研究は集中したが,下垂体の静脈系は下垂体門脈系と呼ばれるように細かい静脈叢を通じて視床下部と連絡しており,体液性連絡の可能性が強く考えられた.そこでその想定下に生理学的な研究がエネルギッシュに行なわれ,今日ではここに述べる前葉ホルモンの放出因子Releasing Factorの存在が確実であると考えられている.一方研究の過程において放出よりもむしろ前葉ホルモン分泌の抑制を行なう因子もホルモンによっては存在することが判明し,抑制因子Inhibiting Factorとよばれている.放出因子,抑制因子ともに,なお研究途上にあって,学会においてもホットな話題であり,その臨床応用もふくめて今後の発展が期待されるところである.

糖尿病

糖尿病の血管障害

著者: 三木英司

ページ範囲:P.456 - P.457

 インスリンが発見されてから,昨年で50年が経過した.今日の糖尿病の臨床において,血管障害が最も重大な問題であることを運命づけたのは,インスリン注射によって糖尿病患者が長期にわたって生存可能になったことが最も決定的な要因であろう.さらに抗生物質により感染症の危険が少なくなったことも,あずかって力があったと考えられる.欧米においてはつとにこの点が注目されたが,昨年の日本糖尿病学会における死因に関する発表でも,半数以上が血管障害に関連したものであったことを各機関とも報じた.
 糖尿病の血管障害の解決を目標とする研究は,極めて基礎的なものから,重症合併症の治療まで,甚だ多岐にわたっている.いくつかの間題は結論に達したものの,重大でありながら解決の得られていない問題があまりに多い.これらのうちから,最近,論議の中心となっている点や.著しい進歩の見られた点を,その背景とともに展望を試みたい.

インスリン分泌と糖尿病

著者: 羽倉稜子

ページ範囲:P.458 - P.459

はじめに
 インスリン発見以来50年の歳月が経過したが,最近10年間におけるインスリン研究の進展にはめざましいものがある.第1に免疫学的測定法の開発は,基礎的な生理生化学的な立場からのインスリン分泌機序の解明に,また人における血中インスリン動態の解明に重要な鍵を与えた.第2にインスリンはβ細胞内でプロインスリンとして合成され,次いでA鎖,B鎖を結合しているC-peptideが離れてactiveなインスリンとなるという発見は,単に糖尿病学におけるトピックであるばかりでなく,蛋白合成化学の分野においても特筆さるべき偉業であった.ヒト血液中にも,プロィンスリン,C-peptideの存在が示され,最近はグルコース負荷後のインスリンとプロインスリンの比率の推移を追求した興味ある知見が報告されている.プロインスリンの測定にまだ問題を残すとしても,今後この方面の研究が,糖尿病の病態究明に大きな役割を果たすであろうことは想像に難くない.
 ここでは,本誌の求めに応じ,インスリン分泌と糖尿病について,これまで私どもが検討してきた血中インスリンの成績を中心に2,3述べてみたい.

神経・筋疾患

進行性筋ジストロフィー症—筋原性か神経原性か

著者: 木下真男

ページ範囲:P.460 - P.461

「筋原性」の定義について
 本文の副題のような議論をはじめるには,まず「筋原性」の定義にふれなければならない.現在この言葉はおよそ3つの意味に用いられているようである.1)筋自体に原因があるという意味,2)「神経原性」に対応する意味で,運動神経に原因があって生じた変化を除く筋の病変すべてを指す,3)骨格筋に由来するという意味.
 これらのうち1)と2)はしばしば混同され,混乱を招きやすい.筆者は前から2)の意味にこの言葉を用いることに反対で,この意味ではミオパチー,あるいはミオパチー性(myopathic)で充分であろうと考えている.従って本文の表題をより正確に書き改めれば,「進行性筋ジストロフィー症(ミオパチー性変化か,神経原性変化か.ミオパチーとすれば一次性か,二次性か)」とでもなろうか.

重症筋無力症をめぐって

著者: 宇尾野公義

ページ範囲:P.462 - P.463

 重症筋無力症は一般に眼症状(眼瞼下垂,複視,兎眼など)で初発し,球筋(嚥下,咀噛,言語)障害,さらに全身骨格筋力低下をきたし,反復運動により悪化し,休息により一時的に回復する疾患で,朝は良く午後から夕方に悪いなど日内変動がある.初期にはtensilonまたはvagostigmine注射で脱力は改善される.筋電図では特有なwaning現象がみられる.胸腺腫の合併は高頻度で,その他甲状腺機能異常,筋萎縮を伴うが,錐体路症状や知覚障害はない.時に呼吸障害を主とした急性増悪(crisis)をきたすことがあり,緊急処置が重要である.

パーキンソン病の薬物療法—L-dopa長期使用の問題点

著者: 加瀬正夫

ページ範囲:P.464 - P.465

 L-dopaをパーキンソン病の治療にはじめて用いたのはBirkmayerとHornykiewiczで,1961年のことである1).その後1967年に,Cotziasら2)がDL-dopaの大量療法の有効性を報じ,その後諸家によりL-dopa療法があいついで報じられ,その有効性について今日疑うものはない.ところで,経口的に投与されたL-dopaの0.05%以下が脳ドパミンにかわるにすぎない.しかも体内で生じたL-dopaと異なり,外から投与されたL-dopaの代謝産物は血中に入り,各種臓器にどのような影響を与えるかが明らかでない,そこでL-opaの長期使用が各方面から注目されているが,その問題点を効果と副作用の面から検討してみよう.

Normal pressure hydrocephalus

著者: 北村勝俊

ページ範囲:P.466 - P.467

 脳水腫または水頭症(hydrocephalus)は,一般的に"髄液圧の亢進を伴う脳室の異常拡大"と解されており,脳室系に閉塞があり,それが原因となっている場合(閉塞性または非交通性)と,脳室と脊髄くも膜下腔の間には流通障害はなく,くも膜下腔での髄液吸収障害あるいは髄液の生成過多が原因となっているもの(交通性)とに大別される.先天性の,いわゆる福助頭のみでなく,成人にももちろん起こってくるものであり,その場合は,頭は大きくならないが,種々の頭蓋内圧亢進症状,すなわち,頭痛,嘔気,嘔吐,うっ血乳頭を呈するのが普通である.
 数年来,表題の"normal pressure hydrocephalus"(以下NPHと略記)といわれる症候群が提唱され,最近,わが国においても急速に経験例の報告が増加し,その成立機転についての基礎的研究も進められている.NPHは,常識的には改善の望みのないような症例が,シャント手術によりまことに劇的な回復を示す点で,極めて重要な症候群であり,しかも時として原因疾患が全く不明なものがあり,初老期痴呆として放置されるものの中にも,治療効果を期待することのできるNPHが少なからず含まれていることも考えられる.このような意味では,内科医,精神科医にまず理解して欲しい症候群である.

アレルギー・膠原病

粘膜の免疫防御機構

著者: 河合忠

ページ範囲:P.468 - P.469

はじめに
 粘膜は,皮膚と同じように,直接または間接的に外界と接触し,体の内部環境を被覆しており,様々な外界からの感染源あるいは抗原物質にさらされている.それにもかかわらず,皮膚と異なって,機械的抵抗がきわめて弱い.しかし,幸にして粘膜には特有な免疫抵抗性が備わっているのである.
 粘膜に局所免疫機構が存在するであろうという考え方はすでに1922年頃からあったが,最近の免疫学の進歩によってさらに具体的に解明されつつある.現在,もっとも大きな役割を果たしていると考えられるのは,分泌性IgA, IgEおよび小リンパ球である.以下これらの因子について新しい知見をまとめてみよう.

ベーチェット病と補体,免疫現象など

著者: 清水保 ,   稲葉午朗 ,   青山順子

ページ範囲:P.470 - P.472

 はじめに
 ベーチェット病(Behçet's disease以下ベ病と略す)の発症機構は現在未分明であり,関連諸領域から研究が推進されており,免疫血清学的アプローチもその1側面である.
 べ病の発病をvirus感染によるとする発症論とともに,感染アレルギー説から,1960年代前半頃から自己免疫機構の介在が注目されているが1)2),も発症を根拠づける研究成績には乏しい.

無症候性蛋白尿

著者: 東條静夫

ページ範囲:P.474 - P.475

無症候性蛋白尿とは
 無症候性蛋白尿(asymptomatic proteinuria)とは,症候診断名であり,次の如く定義されよう.
 1)腎疾患の既往なく,また蛋白尿を招来するような全身性,代謝性疾患なども存在しないこと

透析開始の時期

著者: 三村信英

ページ範囲:P.476 - P.477

はじめに
 透析療法が慢性腎不全の治療法として導入されてから約10年となり,その進歩は著しく,なお発展途上にあるとはいえ,臨床的治療法はほぼ確立した感がある.
 わが国でも,昨年から更生医療の対象となり,高価な治療法としての経済的な因子が少なくとも除去されたことは誠に喜ばしい.そのため最早,特殊な治療法ではなくroutineの治療法として広く応用されなければならない段階にきている.しかし,なお慢性腎不全の治療の現状は透析施設および専門のスタッフの不足のため,昨年秋の透析研究会の調査では,約3000名が透析療法を受けているに過ぎず,その成績も必ずしも良好ではない,そのため,慢性透析療法の適応が次第に甘くなって,比較的早期より開始される傾向が出て来ていることは反省すべきと考える.そこで,慢性腎不全の透析療法の適応とその開始の時期について,少しく考察を加えてみたい.

血液

急性白血病治療のための無菌環境

著者: 天木一太

ページ範囲:P.478 - P.481

白血病の感染症
 急性白血病の治療は,この数年間著しく進歩をした.治療がもっとも困難な成人の急性骨髄性白血病でもその緩解率は向上し,昨年1年のわれわれの成績では70%を超えた.この進歩の理由は,第1に抗白血病剤が進歩して強力になり,第2に突然起こってくる出血や感染症の対策が進んだからである.出血は血小板輸血で防止することができるから,感染症の対策がとくに重要である.
 われわれの経験からいえば,6MP,プレドニソロンで緩解導入をしていたころは,重症感染症に悩まされることは少なかった.もちろん急性白血病も末期になると,白血病細胞の増殖によりあるいは抗白血病剤のため,感染症が起こったが,これは終末感染症terminal infectionとしてやむをえないものである.しかし緩解導入療法中には,以前それほど感染症に悩まされることはなかった.1967年頃サイトシン・アラビノシッドやダウノマイシンが使用できるようになり,これらを加えて強力な併用療法をするようになってから感染症が増加し,サイトシン・アラビノシッドと6MPとプレドニゾロン併用では,緩解率は56.2%と当時としては非常に立派な成績をあげたが,感染症もまた50%と増加し,以後つねにその対策に努力をしなければならなくなった.感染症としては,肺感染症,敗血症,蜂窩織炎,口腔・消化管の感染症などがあり,原因細菌にはグラム陰性桿菌の率が増加し,また結核や真菌症も問題になる.

血管内凝固症候群

著者: 松岡松三

ページ範囲:P.482 - P.483

概念
 血管内凝固症候群とは,生体内にて何らかの機転によって凝固能が亢進して末梢血管に広汎に微小血栓が形成され,その結果として凝血異常をはじめとする,種々の病態を呈する疾患群を総称したものである.この際め凝血異常は血小板と凝血因子が消費されて減少することから消耗性凝固異常症consumption coagulopathy,多数の微小血栓が作られるという意味から散布性血管内凝固disseminated intravascular coagulation(DIC),血栓ができるときに血管内凝固が起こるという意味から血管内凝固症候群intravascular coagulation syndromeなどの名称が使われているのであるが,本症候群では同時にしばしば線溶の亢進が認められるのである.

カラーグラフ 臨床医のための病理学

IV.肺癌

著者: 金子仁

ページ範囲:P.490 - P.491

 肺癌は,癌のうちでも特に最近クローズアップされてきた.煙草,大気汚染等々……,文明と共に多くなってきた観がある.
 肺癌の組織像は複雑で,扁平上皮癌,腺癌,未分化癌と分けられる.気管支上皮細胞から発生するので,本来なら腺癌であるが,化生によって扁平上皮癌の形をとる場合もある.喀痰による細胞診でもある程度の分類は可能である.

グラフ 血管造影のみかた

心臓(その1)

著者: 都築正和

ページ範囲:P.493 - P.500

 心臓血管造影法angiocardiography—(以下ACG法と略記する)について5回に分けて解説することとするが,1)総論と正常例,2)主として右心系造影について,3)左心系造影と冠状動脈造影について,の3回に分けて述べたいと思う.

保険問答

IV.感冒・急性湿疹

著者: 守屋美喜雄 ,   古平義郎

ページ範囲:P.501 - P.503

 守屋 例によって,まず全体的な感想から.
 古平 パンマイシンP(テトラサイクリン)を使っているが,抗生物質は感冒を直接治す薬ではないので,その使用がときどき問題になる.たとえば,何日間か発熱が続いており,売薬かなにかでかぜ薬を飲んだとか,それから全身症状および局所所見から,非常に弱っている,症状が強いというような場合には,抗生物質は混合感染というか,感冒に伴う細菌感染に対して使われる場合もあり得る.それから,老人と小児の場合には,やはり抗生物質が,壮年に比べて必要な場合が多い.

心電図講座

左心室肥大心電図

著者: 森文信

ページ範囲:P.504 - P.507

心電図でのみ心室肥大は診断できる
 肥大した心筋は,レ線では診断することは不可能である.レ線で心陰影が大きくなっているのは,心室または心房の拡張をみているわけである.したがって,心室肥大を判定するのは,心電図によらなければならない.

図解病態のしくみ

白血球増多

著者: 滝沢義矩 ,   天木一太

ページ範囲:P.510 - P.511

 白血球増多は,細胞の成熟度とか,種類に関係なく,末梢血において白血球の絶対数が増加している状態をいう。成人では,一般に,白血球数10000/mm3以上とするが,実際には白血球は好中球,単球,好酸球,好塩基球,リンパ球に分けられるので好中球増多,単球増多,…などとしてとらえることが妥当であろう.末梢血白血球が増加するうち,特殊なものに類白血病反応がある.感染あるいは炎症,中毒,腫瘍など,白血病以外の疾患によってひきおこされ,白血病に似た血液所見を呈する白血球増多で,その特長は,有核赤血球を含めた各種幼若細胞が出現することである.

検体の取扱い方と検査成績

血球算定と血球形態

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.512 - P.514

 血球数の算定と血液像の観察は,一般血液検査として,日常もっとも大切な臨床検査である.さて血球計算は近年自動血球計数器のいろいろな型のものが普及して,1969年の調査では全国200床以上の病院の実に93%は赤血球算定に,また67%は白血球算定に自動計数器を用いており,その普及の速さは驚くばかりである.
 しかしながらメランジュールと計算板を用いる視算法は,患者のbed sideからの検査や救急検査として日常欠くことのできないもので,これを正しく迅速に行ない得ることは医師としての基本的素養である.

緊急室

人工呼吸と心マッサージ

著者: 川田繁

ページ範囲:P.516 - P.517

 もし呼吸や心臓が停止したら—万事休す—と諦めてしまうのは早い.ただちに救急蘇生法を施し起死回生をはからねばならない.酸素の供給を断たれた脳は3-4分で不可逆性の障害を受ける.蘇生法の実施が遅れれば,それだけ回復のチャンスは遠ざかるので,寸秒を争って実施に踏み切るべきことはいうまでもない.不慮の事故は,いつ起こるか予測できない.いわゆるエマージェンシーに対する蘇生法は,病院内のみの問題でなく,一般でも関心を向けねばならないことである.
 患者に直面しても,身の回りに役立つ器具がない,このときは素手で立ち向かうことになる,今回は,素手の立ち回りと多少の器具,つまり木刀での立ち回りを中心にして述べてみたい.

手術を考えるとき

妊娠中絶

著者: 杉山四郎

ページ範囲:P.518 - P.519

 産婦人科医—ことに私のような開業医家にとっては,人工妊娠中絶術は避けることのできない手術である.
 ところが御序知のように,人工妊娠中絶を行なうにはそこに何らかの適応がなければならない.

小児の診察

栄養状態

著者: 満川元行

ページ範囲:P.520 - P.521

栄養状態評価の意義は
 小児のからだの診察の第一歩は,その身体のいわば「器」の発育状態が良いか悪いかの評価にはじまる.身体が大きいのか小さいのか(体格),そのからだつきが細いのか太いのか(体型),肥っているのか痩せているのか(栄養状態)などを総合して,発育が順調であるか否かを見きわめる必要がある.
 ところで,体格を規定する最大の要素と思われる身長と,体型を規定する主たる要素である身長と胸囲の釣合いは,ともに個々の小児それぞれの固有の発育過程に支配されるので,これに医学的・人工的操作を加えて変更させることは甚だむずかしい.ところが栄養状態は,栄養という食餌とその摂取,消化吸収作用,中間代謝からなる栄養機転により左右されて招来される身体的状態であるので,栄養素の摂取状況(栄養法の適否),疾病の存否などにより割合に動揺しやすいので,医学的処置を行なって適正化し得る可能性をもつ.そこに栄養状態の良否を評価する最大の必要性がある.

くすり

抗生物質と耐性菌

著者: 深谷一太

ページ範囲:P.522 - P.523

耐性菌を克服する抗生物質
 歴史的な回顧はさておき,一般感染症の領域で現段階における抗生物質と耐性菌との関連を考えるとき,まず第一にあげられるのはDKBなる新化学療法剤の登場である.梅沢博士の研究により,カナマイシン(KM)に対する耐性獲得は3′位の水酸基を燐酸エステル化する能力を細菌が保有することにより,抗菌活性を失わしめることに由来することが知られた.そこでKM-Bの3′,4′の水酸基を水素に置換した3′,4′-dideoxy-KM-B(DKB)を作製して検討したところ,KM耐性菌に対して十分感受性を有し,さらに緑膿菌に対しても有効であることが見出された,この事実は,従来出現するにまかせてきた感のあった耐性菌に対して,人間がその機作を利して立ち向い,成功した最初とも考えられ,印象的である.しかしDKBもまた細菌由来の酵素により,アデニル化などの変化をうけて不活化されうることが知られており,なお問題の存在を暗示しているといえよう.

オスラー博士の生涯・8

マギル大学に招聘—1874-75

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.526 - P.529

 マギル大学医学部を1872年の秋に卒業したウィリアム・オスラーは英国に渡り,ロンドンのユニバーシティカレジのサンダーソン教授のもとで生理学を組織学の面から追求し,その間に,血小板の発見をした.
 1873年10月からは,ドイツ,オーストリア,パリーに学んだ.ベルリンでは特にビルヒョーの幅の広い研究活動と保健行政への政治力の実際にふれて感銘を覚えた.2年の欧州留学を終えて,カナダに帰国したのは1874年6月である.

診療相談室

総コレステロール,βリボ蛋白のいずれか一方の測定のみで足りるか?

著者: 五島雄一郎

ページ範囲:P.484 - P.484

質問 総コレステロールとβ-リポ蛋白の2つを測定する必要はなく,一方のみで足りるという意見がありますが,この点につき,五島先生のお考えをお聞かせください. (大田区 I生)
答 血液中の脂質には総コレステロール(エステル型,遊離型),中性脂肪(トリグリセライド),燐脂質,遊離脂肪酸などがあり,これらの脂質は水にとけないので,血漿中に存在するために蛋白と結合した状態となっている.つまり脂質の周囲を蛋白,主としてグロブリンがとりかこんで親水性の泣子となり,これをリポ蛋白とよんでいる.

手掌紅斑

著者: 上野幸久

ページ範囲:P.485 - P.485

質問 手掌紅斑は非常に頻度の高いものと考えますが,はたして,そのほとんどに肝疾患を考えるべきものでしょうか.(札幌市 N・S生)
答 手掌紅斑は慢性肝疾患,とくに肝硬変にかなりの頻度にみられ,蜘蛛状血管腫(Vascular-Spider)とともに肝疾患の皮膚症状のうちの双壁をなしています.手掌紅斑は蜘蛛状血管腫のみられる症例に非常にしばしば認められます.しかも手掌紅斑の程度(ひろがりと赤味の強さ)は肝疾患の重篤度とある程度まで比例し,病状の好転とともに手掌紅斑も漸次うすれて行くのが,しばしばみられます.蜘蛛状血管腫と同様に,手掌紅斑を認めたばあい,その患者が肝疾患,なかでも肝硬変をもっている可能性は大きいのですが,もとよりそれはあくまで診断の手がかりであって決め手にはなりません.すなわち手掌紅斑の存在イコール肝疾患ではないのです.肝疾患以外にも手掌紅斑は,妊婦,非常に高熱の続く疾患あるいは消耗性疾患に少なからず認められ,また健康であっても手掌紅斑を呈する人も稀ではありません.

SLEと小舞踏病との合併について

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.486 - P.486

質問 私はSLEに舞踏病を合併した症例を経験しましたが,現在の考え方としては舞踏病(chorea minor)はすべてリウマチ性のものと考えるべきなのでしょうか,また小児の点頭痙攣はリウマチと関係がありますか.(岡山市 T・H生)
答 全身性エリテマトーデス(SLE)において,中枢および末梢神経系の変化は,もっとも重要なもののひとつである.そして中枢神経系の症状にもノイローゼ程度のものから意識障害,精神病,痙攣に至るあらゆる段階がみられており,しばしばそのほうが初発症状であることもある.その原因は,主として本症にみられる血管炎と考えられているが,その他に本症に伴う中毒症状もあり得るし,さらに副腎皮質ステロイドなどの薬物の関与もつねに問題となるところである,

脳動脈硬化症におけるめまい,頭痛の発現機序について

著者: 大友英一

ページ範囲:P.487 - P.487

質問 脳動脈硬化症の診断基準として,めまい,頭痛などがあげられておりますが,このめまい,頭痛は,いかなる機序によって起こるとお考えですか.(広島市 K・M生)
答 めまいは種々の疾患時に出現するが,その発現機序としては,内耳炎,迷路水腫,また迷路を中心とした部の循環障害などが考えられている.

ある地方医の手紙・10

「死んでも医者さ行がね」(二)

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.530 - P.531

  (前回より続く)
 夜中の往診で僻村のI村から「死んでも医者さ行がね」というのを無理矢理に救急車で病院につれてきた心臓喘息の頑固婆様,入院後も治療を拒否して暴れつづけ,どうにもこうにも手におえません.ついに私も頭にきて,ベッドのそばに,さっきからボンヤリ突ったっている付添の家族をドヤしつけました.
「あんた方も,ボヤっとしていねいで,チートは手伝ってくろっ!」

上古史に拾う

千五百年前の解剖—科警研だより 14巻・6号1972 より

著者: 根岸猶衛

ページ範囲:P.532 - P.533

 今からおよそ千五百年前,すなわち五世紀後半のころ,犯罪の検証のため屍体の解剖が行なわれた,という記事が日本書紀にある.当時のわが国は,原始的宗教に支配されていた未開な社会と考えていた人びとにとって,これはまことに驚くべきことであろう.

洋書紹介

—Sir Macfarlane Burnet著—Auto-immunity and Auto-immune Disease A survey for physician or biologist

著者: 三好和夫

ページ範囲:P.473 - P.473

総合的視野から出された多くの仮説
 いうまでもなく,1960年度ノーベル受賞者Burnetの本である.医師や生物学者のための概観という副題がついている.Burnetは1957年頃,免疫を循環リンパ球間のダーウィン的淘汰の過程としてみる考えをうち立てた.彼のclonal selectiontheoryである.
 書評を依頼されたこともさることながら,読んでおかねばならない本として読み通した.内容はもちろん膨大で総合的であるが,文章にも難渋した,これはしかし,私の英語力の故かも知れない.240頁で,約70の文献がつけてあり,これらに必要な文献はみなしるされていると書いてある.

私の本棚

臨床医のためのアレルギー入門書

著者: 野田金次郎

ページ範囲:P.525 - P.525

 アレルギーなる言葉は医歯薬関係者のみならず現今では一般常識化したものとして繁用されている医学用語の一代表であるが,医師でもこれに対する正しい理解を持たないで何となく使って,しかもそれで何となく安心している場合が案外多いと見聞されるのも,私が抗原抗体反応の一つである血液型学を専攻しているので,その目で視るからばかりではなさそうに思われる.極言すれば,かなり多くの医師がこの言葉を自分の不知のかくれみのとして使っていると言えよう.
 アレルギーの根源は抗原抗体反応であるが,そもそもこの反応自体が医師に嫌われ勝ちなものであるらしい.なるほど抗原抗体反応といえぱ抗原があって始めて抗体が判り,抗体があって始めて抗原が判るものであり,一応難解の所もあるが,相対思考に慣れれば,こんな判り易い学問は他にあまりないほどのものである.ただ,検査法が,他の分野のそれに比して非常に簡単であって,しかもその語る所が非常に多いことも難解感を与える因となっていると考えられる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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