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雑誌目次

雑誌文献

medicina10巻5号

1973年05月発行

雑誌目次

今月の主題 消化管ホルモンの臨床

消化管ホルモンの歴史

著者: 和田武雄

ページ範囲:P.550 - P.551

 本特集のはじめに
 消化管ホルモンの歴史を回顧するようにとのことであるが,内外の2,3の発表1)〜3)のほかに私自身4)5)も最近その一部に触れたことがある.歴史をひもとくことの意義をこと新たに云々する必要もないが,生理学上の研究史は少なくとも考古学や未来学のとりあげるところとは立場が違うはずである.しかし一面また科学研究が問題をその由来にたどることには,たとえばあのW. FurtwaenglerがTon und Wort(芳賀檀訳,新潮社1957)の中で,………文献学的真実の方が生きた精神よりも重大なのかと問いかけて,1814年代の〈ベートーヴェン〉と当時の彼をめぐる社会よりも,いまわれわれと共に生きつづけている〈ベートーヴェン〉を考えるべきだとし,歴史的な観点はわれわれの生命に問いかけるものでなければならないとしているが,その点はこの課題においても同じことのように思える.しかも,そのことはかなり大切なことと思うので,多少そのようなことを念頭にしながら今後のためにこの歴史を回顧してみたい.

消化管ホルモンの化学—構造と機能

著者: 松尾裕

ページ範囲:P.552 - P.555

化学構造決定の歴史
 消化管ホルモンは,1902年にセクレチン,1905年にガストリンが発見され,ホルモンという名称もこの消化管ホルモンに対して初めて名付けられたのである.しかし,その化学構造が明らかにされたのは,他のホルモンよりもはるかに遅く,約半世紀以上もすぎた1964年以後のことである消化管ホルモンの化学構造決定が非常に遅れた理由は,消化管ホルモンの存在が明らかであっても,形態学的にどこから分泌するのか不明であったことと,消化管ホルモンを抽出精製し,その化学構造を決定する方法が困難であったことによる.1960年代になってペプタイド化学が急速に進歩したことにより1964年ガストリンの化学構造が決定されると,その後は急速に他の消化管ホルモンの化学構造が明らかにされ,1966年にはセクレチンの化学構造が明らかにされ,1967年にはコレチストキニンとパンクレオザイミンの化学構造が明らかにされ,両者が同じものであることが判明し,さらに1971年には胃液分泌抑制物質(エントロガストロン)の化学構造が決定し,1972年には胃運動を亢進し胃内容物の輸送を促進するモチリンの化学構造も決定した.

目でみる消化管ホルモンの分泌

著者: 大坂道敏 ,   小林繁 ,   藤田恒夫 ,   笹川力

ページ範囲:P.557 - P.563

 消化管ホルモンの起源細胞は,胃腸粘膜に散在しており,細胞質中の特殊顆粒が血管のある基底側(結合織側)に集積している.このため従来より基底顆粒細胞と呼ばれているが,近年その電子顕微鏡による観察が進むにつれて,下垂体や膵島などの蛋白性ホルモン分泌細胞ときわめてよく似た構造をもっていることが分かってきた.
 これらの基底顆粒細胞は,主にその特殊顆粒の微細構造の違いに基づいて,10種類ほどに分類されている1).そして,各細胞型は,それぞれ別種の消化管ホルモンを分泌していると信じられている.顆粒がクローム親和性を示すことからEC(Enterochromaffin)細胞と呼ばれているものは,電子顕微鏡下では,まっ黒な不整形の顆粒を特徴とする(図6).この細胞はセロトニンを分泌することが知られているが,最近では,同時に何らかの蛋白性ホルモンも分泌するものと考えられるようになった.また,G細胞と呼ばれる細胞は,特有な明るいまるい顆粒を持ち,胃の幽門前庭部に集中的に分布するため,ガストリンを分泌すると考えられている(図2)底そのほか,膵島のD細胞に酷似し,D様細胞と呼ばれるものは,特有な灰色の顆粒をもち(図4),膵島のD細胞と同じく,その分泌しているホルモンはまだ確認されていない.その他の細胞型についても,現在そのホルモンの同定が,螢光抗体法その他の方法で盛んに試みられている.

消化管ホルモンの生理

ガストリンの生理

著者: 石森章

ページ範囲:P.565 - P.567

 ガストリンがG細胞内において,いかに合成され,血中へ放出されるか,また血中ガストリンがいかに標的器官あるいは細胞に作用するかの詳細は未だ不明の点が多いが,ここではガストリンの血中放出をめぐって認められる生理的規制すなわち内分泌機序,およびガストリンの作用に2大別して考えることとする.ところで生体内のいわゆる内因性のガストリンは,主として胃幽門前庭部において産生されるが,かなりの部分は小腸上部においても粘膜中に分布することが認められている.しかし,腸由来のガストリンは生理学的意義がほとんど解明されておらず,不明の点が多いので,胃幽門前庭部を中心として述べることとする.図1は以上のような観点から,ガストリンの生理を総括してみたものである.

セクレチンの生理作用

著者: 内藤聖二

ページ範囲:P.568 - P.569

 セクレチンはグルカゴンと同様に下等動物も有しており,amphibia elasmobrachs類の小腸にも存在している.鳥類,爬虫類から哺乳類にわたり広く幽門,十二指腸,空腸,回腸より抽出されるが,特に十二指腸,空腸上部に最も多く,そこにはセクレチン分泌細胞と思われる分泌顆粒をもったForsmann分類で,AC細胞と命名された細胞が電子顕微鏡により証明され,十二指腸内に塩酸を注入することにより顆粒の消失が認められるという報告がある.セクレチンの測定はセクレチン抗体を作ることが容易ではなく,またアイソトープラベルが困難なために生物学的測定法しか確実にはできない.YoungのRadioimmunoassay法の報告があるが,疑問視されている.Jorpersは1961年にかなり純粋化することに成功し,Mutt & Jorpesは1966年にアミノ酸構成を明らかにしてBodanskyらと合成をおこなって図のごとき27個のアミノ酸よりなるペプタイドとして確立した.生体内の半減期は犬では3.3分,ヒトでは17分程度とされている.
 ICU≒Lagerlof Clinical Unit=20 HCU:Hammersten Cat Unit=1/9 CHRU:Crick Harper-Raper Unitで合成セクレチンは4000〜5000CU/mgとされている.

コレチストキニン—パンクレオザイミン(CCK-PZ)の生理作用

著者: 斎藤敏夫

ページ範囲:P.570 - P.571

 1970年,Bayliss & Starlingは上部小腸粘膜中に,特異的に膵液分泌を促進する物質の存在を認め,セクレチンと命名した.その後彼らの抽出したセクレチンは膵液のみならず胆汁分泌にも関係する成績が得られ,1926年頃には胆嚢収縮作用についても報告された.1928年に至りIvy & Oldbergは,上記の粗セクレチンから胆嚢収縮物質を分離してコレチストキニン(以下CCKと略す)と命名した.
 1943年,Harper & Raperは膵酵素分泌を促進する物質を分離してパンクレオザイミン(以下PZと略す)と名づけた.

胃液分泌と消化管ホルモン

著者: 関敦子

ページ範囲:P.572 - P.573

従来の胃液分泌機構についての説明
 胃液分泌の機構については生理学の教科書に頭相(cehalic phase),胃相(gastric phase),および腸相(intestinal phase)の3相について記載されている.頭相は、視覚,嗅覚,味覚あるいは条件反射的に中枢神経系より迷走神経を介して,胃酸分泌を亢進する神経性のものであり,胃相は,食物が胃に入ってからその機械的,化学的刺激により幽門洞粘膜からガストリンが内分泌され,それが胃底腺の壁細胞に働いて胃酸分泌を亢進する化学的機序によるものである.腸相は,胃において消化された消化粥が12指腸および小腸上部の粘膜に働いてガストリン様物質が内分泌され,胃底腺の壁細胞に働いて胃酸分泌を亢進するので,やはり化学的機序によるものである.そして胃液分泌における各相のしめる割合は,頭相,胃相がそれぞれ45%,腸相が10%程度ではないかと説明されている.
 以上の記載は,消化管ホルモンに関する知見が未だ乏しかった時代のものであり,今日のように消化管ホルモンに関する非常に多くの知見が分ってくると,消化管ホルモンを中心にした胃液分泌機構について新しい検討が必要となってきた.

消化管ホルモンによる診断法

ガストリン・テスト

著者: 春日井達造 ,   伊藤健 ,   青木勲

ページ範囲:P.574 - P.576

 胃液検査は胃液の採取法,試験食および試験飲料の相違によりEwald法,長与法,Ehrmann法,Katsch-Kalk法などが古くから行なわれ,その所見は診断上重視され,各種胃疾患の鑑別診断に応用されてきた.しかし,その後,胃生検の開発により胃粘膜の組織学的所見と胃分泌機能の対比が行なわれるようになり,両所見の間に不一致をみることがあり,とくに無酸症または低酸症とされたもののなかに相当数の壁細胞を証明することがしばしばあり,従来の刺激が胃粘膜に存在する壁細胞のすべてを刺激するに至らなかったことが指摘され,Kayによるaugmented histamine test1)の提唱となった.本法はparietal cell massを反映し,再現性のすぐれた点は高く評価されるが,副作用の点で一般臨床に広く利用されてきたとはいえなかった.
 1964年Gregoryら2)は豚の幽門洞粘膜からガストリンを抽出し,化学構造の決定,合成に成功し,Tracyら3)4)は合成で得た多くのpolypeptideから末端のtetrapeptideに活性部分があることを確認した.以来,現在ではこの活性部分を含む各種ガストリン様テトラペプチッドやペンタペプチッドが合成され,これらは生理的胃液分泌機序のうち,胃相の発動を担っている消化管ホルモンであるガストリンに類似し,壁細胞に対する刺激作用がつよく,しかも生理的で,再現性にとみ,ヒスタミンにみられるような強い副作用がない点で胃分泌機能検査の新しい刺激剤として広く使用されるようになった.

パンクレオザイミン・セクレチン・テスト

著者: 本田利男

ページ範囲:P.578 - P.579

 消化管ホルモンとして小腸粘膜より分泌されるPancreozyminとSecretinは,それぞれが体液性に膵外分泌を調節している.主に前者は膵の酵素や蛋白成分を分泌させ,後者は膵管へ水と重炭酸塩を含む膵液を分泌させる.
 したがって両者を続いて静脈注射すれば急速に大量の膵液分泌が開始される.この生理作用を応用して膵臓の機能を検討し,膵疾患を診断する目的で本法(P-Sテスト)が開発されたものである.

コレチストキニンおよびセルレインによる検査

著者: 亀田治男 ,   加藤善久 ,   八辻行信

ページ範囲:P.580 - P.581

 消化管ホルモンの一種であるコレチストキニンは,著明な胆嚢收縮作用を有するが,最近抽出・合成されたセルレインにも同様の効果が認められている.
 胆嚢造影法に際して,胆嚢収縮状態を観察するたあに通常卵黄またはYook錠を経口投与しているが,注射薬により確実な収縮効果を得ることものぞまれていた。コレチストキニンおよびセルレインは,胆嚢造影法にあたり,胆嚢収縮剤として用いうるばかりでなく,十二指腸ゾンデ胆汁採取法の硫酸マグネシウム液注入にも代用しうるので,ここに両剤の概略を解説したい.

消化管ホルモンの測定

ガストリンの測定

著者: 大倉久直

ページ範囲:P.582 - P.585

 近年ガストリンを中心とした消化管ホルモンの病態生理学に著しい進歩をもたらした要因の一つには,これら活性ペプタイドを超微量で正確に定量しうるラジオイムノアッセイ法(Radioimmunoassay,以下RIAと略す)の導入があげられる.
 したがって,本稿では主としてRIA法によるガストリンの測定について紹介したい.しかし,ホルモンとしての消化管活性ペプタイド群を考えるにあたっては,生体におけるホルモン作用そのものを指標とした測定法,すなわち,生物検定法が,単に歴史的価値としてでなく今後も要に応じて帰拠すべき基本的な系であると信じるので,以下,生物検定法についても少し触れてゆきたい.

消化管ホルモンの臨床

Zollinger-Ellison Syndrome

著者: 田井千秋

ページ範囲:P.586 - P.587

病因および病態
 今日Zollinger Ellisnn症候群として一般に理解されているのは,膵ラ氏島(非β細胞)腺腫と,それに随伴した胃酸分泌亢進,再燃を繰り返す上部消化管の難治性潰瘍を呈する一群の疾患である.ここで臨床上問題になるのは難治性消化性潰瘍で,大部分の症例が種々の抗潰瘍剤による保存的療法に頑固に抵抗し,やむなく外科にまわり広範胃切除術を受けることになる.今日一般化している広範胃切除術(幽門領域全域)で,普通の消化性潰瘍の場合,その98%は完治し,潰瘍の再発を認めないものである.ところが,本症に伴う消化性潰瘍の術後では,時たたずして潰瘍の再発を見,再発の部位も従来の吻合部潰瘍と異なり,多くの場合,吻合線より遠く隔れたところに,しかも多発性に生じるなどして結局2度,3度と開腹を余儀なくされるのが本症の定型的経過である.
 すでにZollingerらが指摘していたように,膵ラ氏島(非β細胞)腺腫から胃酸分泌刺激ホルモン(gastrin)がnoncontrolableに分泌される所にそもそも本症成立の秘密があるわけで,その意味から本症はまさしく膵のホルモン産生腫瘍に基づく内分泌疾患とみなされている.

WDHA症候群

著者: 広瀬昭一郎

ページ範囲:P.588 - P.589

 下痢の生起には腸管からの分泌過剰や吸収不全,さらに腸管の運動亢進も関与すると思われる1).この小文ではWDHA症候群を中心として腸管からの水・電解質の分泌や吸収に対するホルモンの影響についてふりかえってみることとする。

ダンピング症候群

著者: 戸部隆吉

ページ範囲:P.590 - P.591

ダンピング症候群とは
 胃切除を受けた患者は,原疾患が潰瘍であれ,癌であれ,原疾患が切除されるとほとんど大半は健常な状態に復するものであるが,少数の胃切除術後患者の中には,食直後に,腹鳴,腹痛,腹部膨満,悪心,嘔吐,下痢,蠕動亢進,全身倦怠,めまい,頻脈,発汗,動悸などを訴え,desire to lie downと表現されるように,いわゆる血管運動性失調を伴った腹部症状を訴える症例がある.このような症候群を,ダンピング症候群といい,はじめて記載したのは,Denechau1)(1907)であり,ダンピング胃という名称をつけたのはMix1)(1922)である.その発生頻度2)は,欧米では32.1%,わが国では16.3%といわれるが,通常はもっと少なく,明らかにその定義を充たす症例は,1-2%,数%以下である.一般に癌手術後には発生は少なく,潰瘍手術後に多い.
 その原因に関しては,実に多くの学説が述べられてきた.1950年以降の文献からその原因に関するものを求めても表3)の如く枚挙にいとまがないが,いずれも二次的変化としても起こり得るので多くの反論を残してきた.

座談会

消化管ホルモンの臨床—現状と将来について

著者: 松尾裕 ,   竹内正 ,   神津忠彦 ,   大根田昭 ,   内藤聖二

ページ範囲:P.592 - P.603

 消化管ホルモンが発見されて60有余年になるが,この数年間に著しい進歩がみられ,合成,測定,臨床への応用,新しいホルモンの発見など医学界において注目されている分野である.この消化管ホルモンは大学の研究室から一般臨床医家に譲り渡される時期が到来したものと考えられる.今回この方面の第一線に活躍の松尾・大根田・竹内・神津の諸先生に消化管ホルモンの臨床の現状と将来についてお話しをうかがい,明日からの臨床の糧としていただけたら幸いである(内藤).

カラーグラフ 臨床医のための病理学

Ⅴ.胃癌

著者: 金子仁

ページ範囲:P.606 - P.607

 胃癌は日本人に最も多い癌であることは周知の事実である.最近ファイバースコープによる微小生検や,直視下洗滌細胞診などにより,初期癌,ことに粘膜だけの癌が発見されるようになった.この場合は印環細胞型の癖細胞を認めることが多い.
 胃癌の組織像は大部分が腺癌である.腺形成が少なく,未分化型になるほど予後は悪い.進行癌の肉眼的分類は今でもBorrmann分類(I度,II度,III度,IV度)を用いている.組織分類はCAT,SAT分類を行なうようになってきた.

グラフ 血管造影のみかた

心臓(その2)

著者: 都築正和

ページ範囲:P.609 - P.615

 前号につづいて,今回は右心系の心臓血管造影法(ACG法)について述べることとする.右心系ACG法は造影部位によって次のように分類することができる.
 i)上下大静脈造影

専門医に聞く・13

心窩部より左季肋部と左背部へ放散する激痛を訴えて入院した18歳女子例

著者: 土屋雅春 ,   小田正幸

ページ範囲:P.617 - P.619

症例18歳,女性,ブルガリヤ人
 主訴心窩部より左季肋部と左背部へ放散する激痛.
 現病歴 昭和47年10月心窩部痛を認め,更に右下腹部に疹痛を訴え某病院に入院した.白血球数9900で,虫垂炎の診断のもとに手術を受けた.手術所見としては,漿液性腹水を軽度に認め,虫垂には炎症所見があったが発赤や浮腫はなかったという.骨盤内臓器には異常を認めなかった.

心電図講座

右心室肥大心電図

著者: 森文信

ページ範囲:P.620 - P.623

右心室肥大をおこす疾患
 右心室肥大をきたす疾患は,大きく分けると,多くの先天性心疾患,僧帽弁狭窄症および肺性心である.種々の疾患があってもたいていはこの3つのどれかに入れることができる。たとえば,肥満のために多血症をきたし,呼吸促迫を示し,傾眠になるところのPickwickian syndromeも大きくいえば,肺性心である,右心室肥大をきたす疾患を前回の左心室肥大同様,圧負荷と容量負荷とに分けて整理すると,次のようになる.
 理屈では,圧負荷と容量負荷ときれいに区別することができるが,実際の症例ではこの両老が一緒にある場合の方が多い.たとえば,僧帽弁狭窄症では,左房から血液が出てゆかず,そのために肺高血圧となり,右心室肥大を招来する.ここまでは圧負荷である.ところが,肺動脈が肺高血圧のために拡張してくると,肺動脈弁のところで,半月弁が寸足らずとなり,機能的に肺動脈弁閉鎖不全をおこす.さらに,右心室が拡張すると三尖弁までが寸足らずとなって,同様に機能的な三尖弁閉鎖不全になる。こうなると,容量負荷によって右心室肥大をさらに増強することになる.

保険問答

Ⅴ.胆嚢症

著者: 守屋美喜雄 ,   古平義郎

ページ範囲:P.624 - P.626

 守屋 昭和16年生まれ,女性の胆嚢症で,4月分の請求だが,3月30日が初診だから,事実上初診月分と考えていい.
 古平胆嚢に関しては,胆嚢炎,胆石症,胆道ジスキネジーなどがあるが,クロマイを,ほとんど今月になって使い出している.

臨床免疫カンファレンス・1

Evans症候群の診断で摘脾後完全緩解し,約3年1カ月後SLEを発症した44歳の男性例

著者: 小宮正文 ,   天木一太 ,   浜島義博 ,   本間光夫 ,   堀内篤

ページ範囲:P.628 - P.639

症例 S. S. 44歳 男性 歯科医
 第1回入院の経過 昭和43年5月初旬,両側下腿に粟粒大〜米粒大の紫斑が出現し,大腿部にまで拡がった.3日後には歯肉出血,舌および頬粘膜に血腫の形成,さらに持続性の鼻出血を認めるようになった.同時に軽い打撲によっても著明な皮下出血をきたすようになったため,5月16日,日大・内科に入院した.
 約1年前に,原因と思われるものがなく両側下腿伸側に粟粒大の紫斑が多数出現し,約1週間で消褪したことがある.しかし薬剤および食物によるアレルギーの既往はない.

図解病態のしくみ

免疫グロブリン異常

著者: 河合忠

ページ範囲:P.642 - P.643

 免疫グロブリン(Ig)はアミノ酸を原料としてIg産生細胞(主として形質細胞)によって合成される.抗原性の違いからIgG, IgA, IgM, IgD, IgEの5つのクラスに分けられる.電気泳動による血清蛋白分画で,γ分画はほとんどIgGによって占められている.IgA, IgMなどはγ1領域に泳動されるが,微量であるためにピークとしては観察できない.

検体の取扱い方と検査成績

血液凝固に関する検査

著者: 藤巻道男

ページ範囲:P.644 - P.645

 凝血検査は出血性素因および血栓症などの検査室診断として重要な部門であるが,検査を実施またはその成績を判読するに際し,まず初歩的には検体の取扱い方と検査成績に及ぼす影響について知る必要があろう.今回は血漿凝固因子のスクリーニングテストの範囲内における,その注意事項について述べる.

緊急室

一酸化炭素中毒の救急処置

著者: 川田繁

ページ範囲:P.646 - P.647

 きょうもまた急性一酸化炭素中毒による事故死のニュースが流されていたが,数日に1件程度は中毒死が報道されるほどに,一酸化炭素(CO)中毒は私たちに身近なものである.

手術を考えるとき

胆石症

著者: 梅園明

ページ範囲:P.648 - P.649

 胆石症の治療は,外科的治療を原則とすることに異論はないと思うが,その手術適応,手術時期に関しては,種々論議がみられる.特に内科医と外科医との間には,なおその見解に,多少の差がみられ,一般に内科医は胆石症の手術に対して,比較的消極的になる傾向があるようである.
 そのことには,まず手術死亡の問題,術後胆石の再発,あるいは胆嚢摘出後困難症の出現などによる手術成績に対する不信感が影響しており,一方,胆石がありながら,無症状に経過するSilentstoneの存在,または胆石の自然消失,縮小するものが,少数ながらあることなどの問題も関係していると思われる底手術成績に関しては,丁術死亡率は,本邦において,1-2%の報告が多いが,その死亡例の大多数は,高齢者を主とする急性重症胆嚢炎,または高度黄疸などの重篤な合併症例で占められており,適応の点で論議のある間歇期における胆嚢摘出術については,手術死亡率は0.2-0.3%と極めて低い.

小児の診察

知能

著者: 高橋種昭

ページ範囲:P.650 - P.651

ダイナミックに,全人格的に考えよう
 知能の定義については学者の数ほどある,といわれるほどいろいろのことがいわれている,そして,従来はややもすれば知能を,思考・判断推理など人間のみがもつ高等度精神能力を知能としたり,学習に関する能力のみを知能とするような傾向が強かった.戦前につくられ,現在でも乳幼児の知能テストに用いられている愛育研究所の乳幼児精神発達検査法においても,知的能力を,生産的思考,学習,知覚というような,各種の能力に分けて考えるやり方がとられている.
 もちろん現在でも,知能というものをいくつかの要素に分けて考えることは行なわれており,それなりの利点も存在するわけである.表1はWISCと呼ばれる知能テストの結果の整理表であるが,この場合にも,知識,理解,記憶などに分かれて,その総合によってIQを出すようになっている.しかしながら,このように知能というものを考えた場合,いろいろな矛盾にぶつかることも事実である.たとえば,こうしたいくつもの能力の中で,1つだけずばぬけて優秀だが他の能力は低いというような場合,その子どもの知能というものをどのように評価すればよいか,というような問題も生じてくるわけである.一部のものに対する記憶とか,数に対する能力だけは素晴らしくよいが他はダメ,という例など精薄児や問題児の中にしばしばみられる例である.

くすり

ジギタリスの新しい使い方

著者: 太田昭夫

ページ範囲:P.652 - P.653

はじめに
 ジギタリス(以下ジギと略す)の使い方についてはすでにおびただしい解説があり,付け加えるべき何物もないように思われる.しかしジギの吸収・代謝・排泄・血中濃度および作用機序の解明等,基礎的知見の蓄積は,古典的なdigitalizationの概念と実際をようやく過去のものにしようとしている.この傾向は有力な利尿薬やβ遮断薬をはじめとする各種の抗不整脈薬の登場によって一層拍車をかけられ,実地診療上従来の定石的な使い方では律し切れない面が目立ってきた.したがって本稿ではこのような現況のもとでのdigitalizationを,われわれの施設におけるデータを混えながら述べるつもりである.

オスラー博士の生涯・9

病理学から内科臨床へ—1872-1883

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.658 - P.661

病院病理医のさきがけ
 その頃一即ち今から約百年近い前までのモントリオール総合病院では,入院患者が死ぬとその主治医が剖検を引き受けるならわしであったが,1876年5月からはオスラーが専門に死体の病理解剖をひきうけることになった.つまり病院における病理医(pathologist)としての地位づけを彼は自らの努力で打ち立てたので,この制度が英米では今日までも続いているわけである.それから以後,彼がペンシルヴァニア大学に転任するまでの8年間,この大学の病理の方面の検査と研究を引き受け,病理解剖が臨床家にとってどんな意義があるかということ,またよい臨床家となろうとするものには,どうしても病理学の基礎がなければならないことを,オスラーは自分の経験を通して多くの人に訴えたようである.後になって内科臨床医としての輝かしい地位を得たオスラーの成功の鍵は,彼が病理学の深い知識をもっていたためといえよう.
 今日アメリカ医学の一つの特徴は,臨床病理(clinicalpathology)が普及し,高く評価され,それが能率的に機能していることである.このことがドイツ医学との大きな違いであった.オスラーは狭い意味の病理学に自らを限定せず,一般臨床検査なども広く取り入れて,それを医学生や臨床家が診断や治療のための武器とすべきことを強調している.

私の本棚

臨床医学研究の反省のために

著者: 砂原茂一

ページ範囲:P.657 - P.657

 さきに,学術会議が新薬開発のための臨床試験の倫理について意見をのべたし,近くは,精神神経病学会理事会が患者を対象とする研究についてのCodeを発表した.日本でもようやく人体実験・臨床研究の倫理について,研究者自身の中に自覚と反省が芽ばえはじめたようである.
 一般の臨床家は必ずしも研究の当事者ではないけれども,医学研究の論理と倫理—現代医学の体質に関して正しい理解をもつことは必要であろう.一人一人の患者を正しく診断し,もっともよく治すことを心掛けることとともに,その営みを通じて医学の進歩,人類の福祉の増進に貢献したいというのは一人一人の臨床家の念願であるはずであるから.

ある地方医の手紙・11

留置場への往診

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.662 - P.663

 W先生.
 夜中の往診は辛いものですが,なかでも警察署の留置場(いわゆるブタバコ)への往診は,私にとって最も有難くないものです.というのは,留置場というところは実に気色のわるいところだし,患者が重患だったりすると色々厄介なことが多いし,たまたま患者が死んだりすれば遺族が怒鳴りこんできたりして,とんでもないトラブルにまきこまれるし,それに留置人の大半は暴力団員またはそれに類するような人種で,まず診療費は踏み倒されるものと覚悟しなければなりません.それどころか,こういう人種を患者にもつと,保釈出所後金をタカリにこられたり,ささいな疾患を理由に「刑の執行を免除して貫うように診断書を出してくれ」なんて外来で粘られたり,およそロクなコトはないからです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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