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雑誌目次

雑誌文献

medicina10巻9号

1973年09月発行

雑誌目次

今月の主題 慢性関節リウマチ(RA)の新しいプロフィール

RAのプロフィール—臨床的立場から

著者: 入交昭一郎

ページ範囲:P.1106 - P.1107

 今日慢性関節リウマチ(以下RA)を臨床家の立場でみた場合,主病変は関節とはいえ常に全身性の疾患としてとらえて行く必要があり,その観点に立って原因の追及,早期診断,より根本的な治療へのアプローチ,そして社会的諸問題の4つの点を中心に考えて行かなければならない.
 本年の第17回日本リウマチ学会総会でも,病因はシンポジウムのテーマとなり,診断は毎年症例をあげてのパネルディスカッションにとり上げられ,また治療は特別主題として各方面より検討がなされ解決の糸口をつかむ努力がなされている.一方社会的諸問題にっいては,現在RA患者は日本全国で50万人といわれるが,本年より漸くそのうちの悪性RAが国の難病対策の対象としてとり上げられたことは1つの進歩であり成果が期待される.

RAの免疫学的プロフィール—原因論の立場から

著者: 京極方久 ,   窪田彬

ページ範囲:P.1108 - P.1109

 RA(慢性関節リウマチ)の病因については,なお決定的なものはないが,感染説,基質代謝異常説,Lysosome説のいずれにせよ,その間に免疫的なかかわり合いを無視できないくらい本疾患の病因には"免疫",それも"自己免疫的"な因子が関与していることは明白な事実である.本稿においては最近の免疫細胞学の進歩に立脚してRAの病因を考えてみたいと思う.

日本人にみられるリウマチ性疾患の特色

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.1110 - P.1111

 日本人のリウマチ性疾患と主にヨーロッパ系白人とアフリカ系黒人とについて記されている欧米の教科書とは,異なっている点がありそうだとは誰でも気付くことと思う.たとえば,東南ヨーロッパからアジアにかけては非常に重要なリウマチ近縁疾患であるBehçet症候群の名前を知らない日本の臨床家はいないと思うが,ヨーロッパでは遠い国の病気であり,われわれが家族性地中海熱familial Mediterranean feverという病気を考えるときと似た気持のようである.因に,この病気は周期性・発作性に起こる多発関節炎と他の漿膜炎とを特色とする遺伝疾患で,いわゆる回帰性リウマチpalindromicrheumatismの診断を下すには第一に鑑別すべき重要疾患とされながら,日本では一顧をする価値すらないように扱われている.
 冒頭にひどく馴染めない病名が出てしまったが,これは1つの例として示したもので,より一般的にみられるリウマチ性疾患がどうであるのか,あるいは,勉強家の臨床家が原書を読まれて,そのままに日本に応用し得ない部分があるかどうか,貧弱な知識を動員して示したい.

病因論

細胞性免疫からみたRA

著者: 広瀬俊一 ,   茄原忠夫

ページ範囲:P.1112 - P.1113

 最近,自己免疫性疾患または免疫不全症候群といわれるものにおいて免疫状態の異常が血中抗体のみでなく細胞性免疫状態の異常との関係で注目されている.RAについても従来の変性IgGに対する抗体としてのリウマトイド因子の他,このような変性IgGに対する細胞性感作状態の存在が考えられている.RAにおいて病因論としての細胞性免疫がどのような位置を占めるかは不明であるが,変性IgGに対する細胞性感作状態の存在がみられているので,これについてわれわれのデータをもとに述べることにする。
 細胞とくにリンパ球上における変性IgGに対するreceptorの存在は変性IgGにI131をラベルしたものが特異的に結合することから知られている.変性IgGに対するリンパ球,とくにT細胞と考えられるものの細胞性感作状態を知るためには,変性IgGを抗原とする特異的抗原刺激による感作リンパ球の幼若化またはそれより遊離されるMigration Inhibitory Factor(MIF)によるマクロファージの遊走阻止試験(MIT)がある.われわれは抗原として還元アルキル化した後6モル尿素中で変性させたヒトIgGのpolymer typeのもの(pU-IgG(MM))を用いた1).このものはリウマトイド因子に対する抗原性は保持するが,変性IgGがもつ細胞などに対する非特異的障害作用,補体結合性など種々の生物活性を消失させたものである.以下このものを変性IgGとして使用してある.

RAにおける免疫複合体の意味

著者: 園崎秀吉 ,   鳥巣要道

ページ範囲:P.1114 - P.1116

 近年リウマチ研究の進歩にともない関節リウマチにはいくつかの免疫学的異常が存在することが明らかになってきた。その結果時には本疾患がいわゆる「自己免疫疾患」の仲間に分類されることすらある現状である.
 一般に自己免疫疾患という概念は大別して二つの疾患群を包括している.第一は古典的自己免疫疾患で橋本氏病とか交感性眼炎,あるいは,ある種の脳脊髄炎の如く,組織特異抗原に対し,自己の生体が,これを異物(非自己)と認め,自己抗体を作り,抗原と反応して免疫反応を起こし,組織局所に病気を発症せしめるものである.第二はautologous immune complex diseaseとも呼ばれるもので,すなわちループス腎炎の如く体内のどこかで形成された,immune colnplexが流血を介して糸球体に沈着し,これに血清の補体等が作用して,糸球体に病変を生ずるものであり,他に毛細管などもその場となる.

再び脚光をあびるRAと細菌感染

著者: 青木重久

ページ範囲:P.1118 - P.1119

周期性をもったRAの病因論
 慢性関節リウマチ(RA)の原因は,現在なお不明である.しかし,RAの病因は古くから研究されており,歴史をさかのぼって調べてみると,その原因についてのいろいろな学説が,1つの周期性をもって発表されている1)ことに気づく。それは過去約70年間の観察であるが,1896年BannatyneらはRA患者の血液から細菌を分離し,RAが恐らく感染症であろうと述べた.それ以来,多種類の細菌がRA患者から分離され,それらに原因を求め,感染性関節炎という名称が一般に用いられた.また,たとえ関節の病変部から細菌が培養されなくても,そのtoxinが関係するとして,この頃にはRAの感染説が伝説的に主流をなしていた.
 その後,Klingeのリウマチ熱に関する一連の仕事(1929-1934年)は過敏症がRAに関係するのではないかということを示唆した.つづいて,1942年Klempererらによって膠原病という概念が提唱され,RAはエリテマトーデス,結節性動脈周囲炎,その他の疾患とともに,膠原病という疾患群の中に属せしめられた.膠原病の基本的形態的変化は結合組織のフィブリノイド変性である.そこで,この結合組織成分の異常状態がRAのpathogenesisに結びつくのではないかと考えられた.その後,Selye(1150年)のストレスと適応症候群に関する学説が重きをなし,副腎皮質ステロイド療法の発見から,RAにおけるストレスの意義や下垂体副腎皮質系の役割が支持をうるに至った,このようなRAの内分泌学説は,後にコーチゾンが特効薬ではなく,副作用が多く,他にサリチル酸剤など有用な薬剤があるため,しだいに支持を失った.ついで,自己免疫的な考え方が時代を風靡するにおよび,原因不明の疾患がこのような見地から究明されだした。そして,自己免疫の引き金として,感染は重視され,再び,初期の感染や過敏症がRAの病因的因子であるとする見解2)がよみがえってきたのである.

RAはいわゆる"アジュバント病"か

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.1120 - P.1121

 慢性関節リウマチ(RA)は患者数が非常に多いのにもかかわらず,現在までに原因は明らかにされていない.そこで,その原因の究明に際して実験動物が必要とされるのであるが,いままでに適当な動物実験のモデルが見つかっていない.

RAの亜型

若年性関節リウマチ

著者: 渡辺言夫

ページ範囲:P.1122 - P.1123

成人の慢性関節リウマチ(RA)との関係
 RAが15歳以下に発症した場合に若年性関節リウマチ(JRAと略す)と呼んでいるが,成人にみられるRAと同一疾患であるか否かは種々の学説があり,現在なお論議されているが,一般には同一の疾患が小児に発症したものと考えられている.しかし,その症状は成人のそれとは著しく異なっていることが多く,年齢の小さい小児に発症した場合は全身症状が烈しく,しばしば脾腫,リンパ腺腫脹,関節炎,発熱を伴い,このような症例をStill's diseaseと呼ぶことがある.現在では脾腫,リンパ腺腫脹を伴わないものについてもJRAイコールStill's diseaseという立場からStill's diseaseと診断するものもあるが,JRAのうちのStill's typeと考えるのが適当と思う.すなわちJRAは関節炎の発症の型から次の3型にわけられる.
 1)Acute type(Still's type)全身症状は著しく,関節炎は広汎であるが,一時的には全く存在しないこともある,一般に初発症状は発熱で,リンパ腺腫脹,脾腫を伴う.

Sjögren症候群

著者: 東威

ページ範囲:P.1124 - P.1125

歴 史
 乾性角結膜炎(keratoconjunctivitis sicca, KCS)に関節リウマチ(RA)をはじめとする関節炎の合併の多いことは古くから知られており,また涙腺と唾液腺に腫脹をきたす疾患も,すでに1888年Mikulitzにより報告されている.しかし,これを全身疾患の1つのあらわれとしてとらえたのはスウェーデンの眼科医H.Sjögrenが最初で,彼は,KCSに関する臨床的,病理的および文献的な検討をおこない,1933年に発表して今日の考え方の基礎をきずいた.
 その功績により,現在Sjögren症候群という名称が一般に用いられているが,この症候群が特に注目されるようになったのは,近年の免疫学の進歩,特に自己免疫という概念の発展によるところが大きい。この症候群を伴うことが多いRA,エリテマトーデス(SLE)をはじあとするいわゆる膠原病は,自己免疫疾患的色彩が強く,疾患相互間の移行や合併が問題とされているが,Sjögren症候群は,これら自己免疫疾患に共通の症候群,あるいはその間の橋渡し的な存在として重視されている.

膠原病への移行

著者: 安倍達

ページ範囲:P.1126 - P.1127

 結合織疾患で,ある時期に1つの疾患に特徴ある臨床症状を示したものが,次の次期に前の症状が全く消失し,他の疾患に特徴ある所見を示すものを移行とよぶ.これは病初期に示した症状が次の時期にみられた他の疾患のものと考えるか,1つの疾患が別の疾患に変化したと考えるかである.DuboisらはRA,SLEなどは遺伝的な異常蛋白血症を中心に車輪の輪のように配列し,その回転によって移行の可能性があることを示しているが,この立場をとると移行の過程に同一患者に2つの結合織疾患のそれぞれ特徴ある臨床像がともにみられることがある.かかるものをOverlap症候群とよぶ.結合織疾患の移行やOverlapの問題は1140年すでにKeilなどによっても指適されていた.教室の結合織疾患388例(RA 200例,SLE89例,PSS57例,PM30例,PN6例)の中RA-SLE2例,RA-PSS7例,RA-PM1例,RA-SLE-PSS5例,RA-PSS-PM1例,SLE-PSS7例,SLE-PSS-PM1例およびPSS-PM1例中の25例が移行あるいはOverlapで,その組み合わせは複雑である.
 RAで移行,Overlapが問題にされたのはLE細胞発見後であり,LE細胞現象が陽性のRAが見出されたことにRAとSLEのOverlapやRAからSLEに移行したと考えられるものに気付いた.そのような例はRAの亜型(RA with systemic manifestation),SLEの亜型(SLE with rheumatoid rnanifestation)あるいは合併のいずれかである.そのいずれかを決定することは診断に特異所見がない3で,極めて困難であり,臨床所見の詳細な観察が大切である.そこでRAとSLEにみられる関節症状,皮下結節,腎症を臨床所見として取り上げ,さらにLE細胞,抗核抗体,リウマチ因子について論じ,移行,とくにRA-SLEの問題を考える場合の参考としたい.

診断

RAの診断基準

著者: 延永正

ページ範囲:P.1128 - P.1129

 RAの症状や検査所見には診断上絶対的根拠になるものがない.すなわちどの症状も検査成績もある程度RAに特徴的であるとはいえても決定的ではない.したがってこれらの症状や検査所見の組合せによって診断をおこなっているのが現状である.
 ここでは現在世界的にもっとも広く用いられているアメリカリウマチ協会(ARA)の診断基準1)をあげ,若干の解説と批判を加えてみたい.

RAのX線診断

著者: 有富寛 ,   山本真

ページ範囲:P.1130 - P.1136

 関節構成物における炎症過程は,そのさまざまな病理学的変化にともなってX線像に変化をきたす.慢性関節リウマチも同様で局所解剖学的特徴に従ってX線像に特異な変化を認める.X線診断は慢性関節リウマチの診断基準の一項日であり、また病変進展度を知るためにも重要である.慢性関節リウマチのX線像を正確に理解するためにはその病理変化を理解しなければならない.図1に示すごとく,シェーマ的に述べればまず滑液膜の炎症に始まり,その増殖性変化は肉芽を形成する.この肉芽の増殖は軟骨表面をおおい(パンヌス)軟骨を破壊する.軟骨下の骨内にも肉芽が浸入し、次第に増殖し骨軟骨を破壊する.関節運動および荷重などの機械的な要因によつても,さらに破壊され、骨は反応性に増殖する.やがて肉芽は繊維化されるが,てのような過程が再発し、また緩解しながら進行し続け,骨性強直にまで進展する.以上のような過程の器質変化のX線表現はまず関節の腫脹,関節嚢拡大が軟部組織陰影の変化として現われる.骨軟骨の変化はで骨皮質の菲薄化,骨稜の消失などpre-erosiveな変化より始まり,関節包付着部の骨新生,浸蝕像やcyst,pseudocyst,骨粗鬆,関節裂隙の狭少化,骨棘形成,骨硬化などの変化,さらには橈尺側偏位,山脱臼,脱臼,屈曲拘縮,骨性強直などの変形として認められる,Steinbrockerは慢性関節リウマチの関節X線変化を次のように分類している.
 Stage I(I期)に骨粗遜は認められうるが骨破壊を認めないもの.

関節鏡

著者: 渡辺正毅

ページ範囲:P.1138 - P.1139

関節鏡検査の特色
 1)関節腔内部の諸現象をまのあたり見ることができる.
 2)組織学的,細胞学的諸種検査に供するための正確な生検を行なうことができる.

RAのLaboratory Examination

著者: 河合忠 ,   中野栄二

ページ範囲:P.1142 - P.1143

 リウマチ様関節炎(以下RAと略)に関する臨床検査として主として血清中のリウマチ因子(以下RFと略)の検出が行なわれていることは衆知の通りで,RFの血清学的検査法がいくつか開発されている.しかし,いずれの方法もRAに特異的とはいえず,RA患者に対する陽性率も60〜80%で必ずしも高いとはいえない.RA近縁疾患との鑑別やRAの病勢判定にはRF検出以外に,CRP,血沈,白血球数,血清蛋白分画,RF以外の自己抗体の検出などの検査成績を組み合わせて考えなければならない.
 これら諸検査のうち,中心となるRFの検出法と関節液の臨床検査について述べる.

治療

金療法の行ない方

著者: 橋本明

ページ範囲:P.1144 - P.1145

 金が慢性関節リウマチ(以下RAと略)に対して初めて用いられたのは1920年代の終わりで,以降欧米においては40余年の歴史があるが,本邦においては1960年代のはじめからようやくその系統的な使用が始まり,現在に至るまでまだ10余年の歴史しかない.RAに対する金療法の有効性は1960年英国のEmpire Rheumatism Councilの"double blind"controlled trial1)によって確立されたものとなったが,筆者の限られた経験からも,金療法を柱として他の保存的基礎療法を適宜組み合わせることにより,80%以上の症例に完全寛解を含むRA病勢の改善効果を期待できる2)

金療法の副作用

著者: 橋本明

ページ範囲:P.1146 - P.1148

頻 度
 金療法が本邦に導入された初期の頃,筆者が維持療法として週100mg連続投与していた頃は副作用の頻度は相当に高く,全例の50%以上に何らかの副作用の発現がみられた1)
 副作用のうち最も多いのは皮疹で全副作用中の80%以上を占め,次いで口内炎,下痢,蛋白尿の順であった(図1).

クロロキン療法への反省

著者: 吉沢久嘉

ページ範囲:P.1150 - P.1151

 1951年Bronneckがはじめて抗マラリヤ剤を慢性関節リウマチ(RA)の治療に用い,さらに1953年Hayduが燐酸クロロキンを使用して著効をおさめて以来,クロロキン剤は金剤とともに長い間RAの特殊療法の一角を築いて今日にいたっている.この間二重盲検による1〜2年の長期の成績も発表されており1),RA治療上の効果については,一部なお疑問をいだくものがあるものの,大勢として認められている.
 わが国においても,1960年佐々木らがクロロキン剤のRAへの使用成績を発表し,さらに間が1963年2)遅効性ではあるが自他覚症ともに改善されるとしてその有用性を報告して以来,ひろく使用されており,RAの治療上欠くべからざる薬剤の1つとなっている.その後の報告は数多く,いずれも胃腸障害,発疹,めまい,頭痛,不眠,視障害などの副作用については比較的軽微で,とくに眼症状についても,不可逆的な網膜症の発生には十分注意すべきだが,その発生はきわめてまれとされている.

非ステロイド抗炎症剤の使い方

著者: 景山孝正

ページ範囲:P.1152 - P.1153

 RAの病因は未だ不明といってよく,RAに対し病因にもとずく根治的療法はなく,もっぱら対症療法が用いられる.RA治療の主眼は炎症の抑制であり,RAの基本病変である多関節の慢性増殖性炎症をよく抑制するなら,関節破壊・高度機能障害の招来が防止され得る.しかし,RA治療は極めて長期間に及ばざるをえないのであるから,とくに薬剤の長期連用による副作用が問題となる.すなわち,十分な炎症抑制を長期間持続するという治療目的の達成には,抗炎症剤投与による副作用の発現がっきまとい,RA治療の困難点となっている.したがって,RAに対する非ステロイド抗炎症剤の使い方のポイントは,危険・不利な副作用をおこさずに,最大の炎症抑制効果をあげることにある.

副腎皮質ホルモン剤は利用できるか

著者: 間得之

ページ範囲:P.1154 - P.1155

 RAの治療に副腎皮質ステロイド剤(以下CS)は利用できるかという命題に対して端的に答えるならば,利用できるということである.しかし,ここで考えねばならないことは,一般的なCSの適応となる疾患はなにかということ,これと表裏一体的に禁忌の対象となるものはどれかという薬物療法の通念よりも,むしろ薬物の副作用が世論としてもり上ってきている現在,CSを止むを得ず使わなければならないのはどのような場合であるかというところに利用という問いかけの真意があるとうけとめたい.したがって,適応の範囲をむしろ縮少する方向づけが要求されることになるが,きわめて多彩な病状と経過をたどるRAについてはまだまだ筆者も経験に乏しいので,むしろ成書に記されていることのむし返しになることをあらかじめおわびしておかねばならず,また別誌1)に発表したごとく,本邦におけるRAの治療に関するアンケート調査において得られた結果からみても,経口と関節内注入とを問わずCSを使用する施設が多く,使わざるを得ないRAという頑症の存在にあらためて目をみはらざるを得ないのである.しかし一方では,RA患者の治療歴をたどってみると,いとも安易にCSがfirst choiceとして使われていることも事実であり,命題の意図の一端はここにもあると思われる.

化学的滑膜切除術

著者: 星野孝

ページ範囲:P.1156 - P.1157

 慢性関節リウマチ(RA)は現在なお難治性疾患であるため,全身療法とともに局所療法も駆使してその活動性を抑え,関節症状の軽減・関節機能の保全をはかるべく,あらゆる努力がはらわれている.局所療法としては手術療法や理学療法のほかに関節腔内に副腎皮質ホルモンを注入する治療法がひろく行なわれているが,その効果が一過性であり,シャルコー関節を招来する恐れもあり,その施行にあたっては期待限界があることはいうまでもない.ことにその効果が数日間という短期間であることが最大の欠点であろう.
 そこで手術により病的滑膜組織を切除するいわゆるsurgical synovectomyがひろく行なわれるようになったが,手術は患者に対する侵襲が決して小さいとはいえず,またすみずみまで完全に除去することが困難なことが多い,そこで薬剤注入によりすみずみまで病的滑膜組織を腐蝕して壊死に陥らせ,関節より炎症の場を除去しようという考えのもとに各種の薬剤を主とする化学物質を関節に注入することが治療法として登場してきた.これが化学的滑膜切除術と呼ばれるものである.

RAの外科治療

著者: 高取正昭

ページ範囲:P.1158 - P.1160

 慢性関節リウマチ(RA)に対する外科的治療は最近目ざましい発展を示しているが,「リウマチは全身病であり,一生の難病である」といわれているごとく,ただ手術をすれば治るというものではなく,早期に適確な診断を下し,一般療法に加え,内科的基礎療法を正しく行ない,その上で手術的療法が行なわれ,リハビリテーションにて機能の改善が望まれるわけである.したがって内科医,外科医,パラメディカルスタッフの三者の検討の下に,各症例に対して一環した長期治療計画の樹立こそ肝要であり,このgroup approachの中ではじめて外科的療法の効果が現われることになる.
 RAの治療における外科的方面の役割は表1に示すごとくである.

対談

慢性関節リウマチの診かた,治しかた

著者: 佐々木智也 ,   柏崎禎夫

ページ範囲:P.1161 - P.1169

 慢性関節リウマチは日常診療で接触する機会の多い病気の1つである.それでは具体的にどのように診断し,どのように治療していくか,変形の予防はどうしたらできるのか,関節外症状から免疫抑制療法とその適応まで含めてお話しいただいた。

症例にみる精神身体医学

消化器心身症

著者: 石川中

ページ範囲:P.1170 - P.1172

消化器症状と抑うつ状態
 心身症という病気は,一般的には,身体症状と精神症状の両者を持っていることが多い.心身症という概念が,心理的な因子を持った身体疾患ということなのであるから,それは当然であろう.
 またこの身体症状と精神症状の間には,一定の関係があるという乙とも指摘されている.例えば,循環器症状には不安状態が,消化器症状には抑うつ状態が,神経症状にはヒステリーが,それぞれ関係深いことが認められている.このことを逆に見ると,不安状態では動悸,息切れ,めまいなどの循環器症状が起こりやすく,抑うつ状態では,食欲不振,便秘などの消化器症状が生じやすく,ヒステリーの転換症状としては,けいれん,手足の麻痺のような神経系の症状が出やすいのである.

グラフ 血管造影のみかた

脳(その3)

著者: 水上公宏

ページ範囲:P.1174 - P.1180

 頭蓋内space taking lesionの診断にあたっては,血管の偏位,進展像,異常血管の出現,ことに腫瘍陰影の性状ならびにその出現,消退時期,流入,流出血管の種類ならびに数などを総合的に考慮する必要がある.本篇では,腫瘍の診断にあたって必要なこれらの要点について記述することとする.

専門医に聞く・15

急激な悪寒・発熱で始まった50歳男子の例

著者: 藤森一平 ,   松本慶蔵

ページ範囲:P.1181 - P.1184

症 例 50歳 男,会社員
 主 訴 発熱
 現病歴 昭和47年12月3日伊豆へドライブ,その夕方より悪寒あり,12月4日,5日と悪寒つづく,5日に発熱40℃に気付きかぜ薬を服用した.しかし,12月6日下熱しないため本院内科救急外来を訪れ,諸検査を受く.せき(-),たん(-)だったがふらふらし,かぜ薬を処方されたが一向に下熱せず,発汗がひどかった.

症例

左房内巨大球状血栓の一例

著者: 山崎喜義 ,   本田尚文 ,   仙波邦博 ,   小林忠章

ページ範囲:P.1185 - P.1189

 うっ血性心不全治療のため入院した僧帽弁狭窄症患者が急死し,剖検の機会を得た.その結果,左心耳と短い柄で強固に接着し,そのほか卵円窩および左房後壁にも血栓付着部を有する左房内巨大球状血栓の一例を経験したので報告する.

心電図講座 小児心電図の判読・3

小児の原発性心筋症

著者: 大国真彦

ページ範囲:P.1190 - P.1193

この心電図をどう読むか
 今回は,まず始めに心電図を読んでいただきたいと思う.

図解病態のしくみ

慢性腎不全

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.1198 - P.1199

 慢性腎不全とは,各種の慢性腎疾患により腎機能が著しく低下し,体内分解産物の蓄積,電解質の平衡障害をきたし,生体のホメオスターシスが維持できなくなった状態をいう.その原因となる疾患には慢性腎炎,ネフローゼ加味腎炎,腎盂腎炎,腎硬化症,糖尿病性腎症,ループス腎炎,嚢胞腎など各種の腎疾患がある.血中に尿素窒素,クレアチニンなどが増加し,高血圧,貧血症その他の臨床症状があらわれる.尿は等張尿となる.

検体の取扱い方と検査成績

尿中ホルモンの定量検査

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1200 - P.1201

 尿中のホルモン定量が従来ルチンの方法として多く用いられてきた理由は,24時間の蓄尿が可能で日内リズムにあまり左右されず,全体の情報が把握できることと,単位時間内に分泌される微量ホルモンでも1日尿という十分量から抽出できる利点によるものである,しかし尿中にはホルモン分子も含まれる一方,大量が代謝産物として排泄され,これも含めて定量している点や,尿中阻害物質の存在という問題があり,検体の取り扱い方と検査成績の判断にはこれら尿中ホルモンの性質を知って行なう必要がある.
 ルチンにしばしば用いられる尿中ホルモン定量はゴナドトロピン(GTP),カテコーラミン,VMA,17-OHCS,17-KGS,17-KS,17-KS分画,エストロゲン,プレグナンジオール,プレグナントリオールなどがあり,特殊検査としてはテストステロン,アルドステロン,セロトニン代謝物(5-HIAA)などがある1).

緊急室

意識障害の緊急処置

著者: 川田繁

ページ範囲:P.1202 - P.1203

 意識障害のある患者は,その基礎となっている疾患が重症であることが多いので,速やかな診断と基礎疾患の治療が必要であるが,それ以前に救急処置を行なわねばならぬ場合があり,救急処置の適否,遅速が,予後を左右することがある.

手術を考えるとき

小児の扁桃摘出をめぐって

著者: 平山恒夫

ページ範囲:P.1204 - P.1205

 扁桃は咽頭粘膜内に発達したリンパ細胞から成立つ濾胞の集合体であるが,独立した単一のものではない.口蓋扁桃,咽頭扁桃,耳管扁桃,舌根扁桃などがあってWaldeyer氏咽頭輪を形成している,ここでいう扁桃とは,臨床上最も重要である口蓋扁桃をさすが,小児ではこれとともに咽頭扁桃すなわちアデノイドが問題となる.
 小児における扁摘の適否については,古くから意見が分かれていたが,扁桃には生理的機能として,免疫機能ないしは防御機能があるとみなす考え方が次第に支配的となり,さらに最近扁桃は発生学的に,トリのBursaFabricusに相当するヒト中枢性免疫臓器に属する可能性が指摘され1),その摘出の適応の決定には非常に慎重な態度をとるようになった.

小児の診察

先天異常

著者: 本谷尚

ページ範囲:P.1208 - P.1209

 小児の診察のみで先天異常を診断することは,外表奇形,特徴ある染色体異常症およびいくつかの代謝異常症を除いては大変むずかしい.しかし小児を診察するさい先天異常の疑いは常にもっていなければならない.かなりの頻度で先天異常と考えられる疾患が見られるからである1,2).先天異常による疾患は実に広範であり,遺伝子病,染色体異常症,胎芽病および胎児病の中に含まれる全てにわたるが,これらを全て記述することは到底不能なので,小児の診察にさいして先天異常に留意すべきチェックポイントを要約する.なお出生前診断をはじめ種々のすぐれた検査・診断法については文献3)4)を参考とされたい.

くすり

造影剤使用上の注意

著者: 山口保

ページ範囲:P.1210 - P.1211

 造影剤は,日常の検査,とくに消化管の検査では極めて使用頻度の高い「くすり」である.われわれ消化器系で用いる造影剤は,硫酸バリウムと,経口法・経静脈法,あるいは経皮法による胆道系撮影のためのヨード製剤である.他に気管支造影法および腎盂・尿管撮影法に用いられる造影剤がある.ここでは消化管系の造影剤についてのみ,2,3の知見をのべる.

オスラー博士の生涯・12

オスラーのフィラデルフィア赴任—1884-1885

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1214 - P.1217

 1870年にマギル大学医学部を卒業したオスラーは,2カ年間英国および欧州に留学し,1874年6月から母校に帰り,25歳の若さで最初は生理学の講師,ついで教授として学生の教育並びに研究に精進した.
 彼はさらに病理学,ついで内科臨床の専門医として,学生の臨床指導に励み,また同僚とともにマギル大学の医学教育の革新を図った.彼はさらにカナダにおける諸学会の活動の推進力となり,また専門誌の編集などにも参与して,きわめて多忙な生活を続けた.しかし,10年間のこの大学での働き心あと,彼は母校を去ることを決意したのである.

ある地方医の手紙・15

「ぶっ返る!」(4)

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.1218 - P.1219

W先生
「痛い!痛い!看護婦さぁーん!わァーッ!わァーッ!わァーッ」

私の本棚

必要な小児救急治療の知識

著者: 尾村偉久

ページ範囲:P.1213 - P.1213

 現今の我国医療機関にとって,夜間,日曜,休日等,正規の診療業務時間外に日時を選ばず診療を需めておし寄せてくる患者の処理策は,最大の悩みの種であろう,従前は利用者の側に,深夜や休日の診療機関に迷惑をかけては気の毒であるという気持ちがあって,事故や急病でのよくよくの場合を除いては自制することが一般の通念であり,一方診療側にあっては,医療に対する奉仕的,犠牲的な理解の範囲で何とか処理することができて,この両者間の一応のバランスによって過してきたものである.
 ところが近年の皆保険制度下になると,欲するがままに診療を受けようとする権利思想が普及し,加うるに自己負担率の軽減ないし徹廃,疾病の早期受診,早期治療の唱導,運輸手段の改善,公共救急自動車の整備等によって夜間,休日等の診療需要は急増の一途をたどるようになった.すでに利用者に対する医療知識の普及や衛生教育によって必要な自制をうながす可能性の時期は遙かに超えてしまったようである.恐らく近い将来,1年365日,毎日24時間を通しての診療体制に対する国民一般の要請はますます熾烈になるのではなかろうか.ところがこの需要に対応するに足る肝腎の医療供給側(医療機関)の体制整備に対しては,制度上,行政上,経営上,人員確保上の公の配慮は未だ微々たるものであり,まことに遅れていると言わざるを得ない.僅かに必要原価の数分の一にも達しない深夜加算であるとか,休日輪番制に対する僅少な手当が講じられているぐらいであって,依然として専ら医療機関の聖職的犠牲心や社会奉仕精神に頼っているといっても過言ではない.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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