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雑誌目次

雑誌文献

medicina11巻10号

1974年10月発行

雑誌目次

今月の主題 手術適応の問題点 手術適応のカレント・トピックス

一過性脳虚血発作

著者: 高木康行 ,   石飛幸三

ページ範囲:P.1230 - P.1231

 一過性脳虚血発作は脳硬塞の前駆症状として本邦でもかなりの高頻度にみられることが知られている1).このような患者の脳硬塞発症を内科的に予防する手段としては,抗凝固剤療法,血圧のコントロールなどが主となると思われる.しかし実際上,これらの治療が長期間持続的に行なわれうることはかなり困難なことが多い.頸部脳血管に対する外科的治療が安全にしかも有効に行ないうれば,内科医の側からみても魅力的な手段であり本項ではその適応について検討してみたい.

脳硬塞—とくに頭蓋内脳血管閉塞症

著者: 菊池晴彦

ページ範囲:P.1232 - P.1233

 近年,わが国においても脳硬塞,すなわち脳血管閉塞症が脳卒中のうち大きな比率を占めるようになり,しかも将来さらに増加の傾向にある.
 脳硬塞の成因については,なお,脳血管自体の閉塞,心内血栓や近位壁在血栓からの塞栓など,いろいろの説がある.脳血管閉塞症として総括されるものの中には成因の如何を問わず,臨床的にはいわゆる一過性脳虚血発作(TIA)から,狭義の脳硬塞(complete stroke)までいろいろの段階のものがある.

脳出血

著者: 古和田正悦

ページ範囲:P.1234 - P.1235

はじめに
 高血圧性脳出血に対する手術は,1903年,Cushingによって行なわれており,近代脳神経外科の発祥のうちにその歴史をみることができる.脳神経外科の課題の1つとして関心が持たれるようになったのは1930年以降で,手術適応についてすでに論じられている.脳血管撮影が臨床に導入された1940年後半から多くの報告がみられ,基底核出血に限らず,小脳や橋出血の手術成功例2,3)すらも報告された.1961年になってMcKissockら4)が外科的治療例と保存的治療例の予後を比較し,外科的治療が必ずしも保存的治療にまさるものではないと報告し,その手術適応に関して論議をよんだ.
 わが国では蔭山らの報告5)以来散発的に報告され,桂ら6)は高血圧性脳出血の外科的治療を文献的に考察してその問題点を指摘したが,積極的に試みられるようになったのは,1960年以降光野7),金谷8)らの先駆的な業績がみられてからで,保存的治療で絶望視される症例も救命されるようになった.頭蓋内血腫を外科的に除去するのが脳神経外科医の基本的立場であり,わが国で高血圧性脳出血のみが「絶対安静」を金科玉条として往診治療に終始し,例外的に取り扱われたこと自体,特異的であったといえよう.最近の外科的治療の進歩は著しく,McKissockら4)の見解を批判するに足る成果9,10)が得られており,早期の移送,脳血管連続撮影の普及につれ,高血圧性脳出血の外科的治療は,脳神経外科医にとってルーチンな診療手技として,より一層普及すべき時期にある.

自然気胸

著者: 武野良仁

ページ範囲:P.1236 - P.1237

自然気胸の治療法にはまだ定説がない
 最近,自然気胸が増加していることは,多くの統計の示すところである1〜3).一般医家における胸部X線検査が普及した現在,その診断についてはすでに問題となるような点はあまりなくなったといえる.しかしその治療に関しては,各施設・各医師によって千差万別といってよいほど,考え方に差があるのも事実であろう.すなわち,単なる安静から開胸手術にいたるいくつかの段階があって,その適応には未だ定説がない.これは自然気胸が多くの場合,重症感を欠き,かつ致命的でないという特殊性のためと考える.
 最近,筆者は胸腔鏡下接着剤噴霧による瘻孔閉鎖法を考案5),すでに自験例30を超え,好結果を得ている.これは自然気胸で手術禁忌の症例や開胸拒否例にも応用できるので,広く普及することが望まれる.ここには本法を中心に,広く自然気胸の治療適応についての概説
を試み,手術適応についてはとくに筆者なりの考えを述べてみたい.

難治性潰瘍

著者: 本田利男

ページ範囲:P.1238 - P.1239

 「消化性潰瘍は内科的治療が適当かあるいは外科的手術か」という問題は古くから論議が続けられてきたが,とくに大出血,幽門狭窄および胃・十二指腸穿孔などに対しては絶対的適応として手術が行なわれてきた.しかし,その頻度は比較的少ないものである.
 ところが最近は,X線,内視鏡検査の診断技術の進歩により,消化性潰瘍の長期にわたる経過観察によって,内科の立場から治りにくい潰瘍,すなわち難治性潰瘍に関する手術適応の考え方に多くの知見が得られるようになった.

消化管ポリペクトミー

著者: 崎田隆夫

ページ範囲:P.1240 - P.1241

 近来,内視鏡の大きな進歩により,内視鏡下のポリペクトミーが,胃および大腸で盛んに行なわれるようになった.そして,従来の開腹によるポリペクトミーに比しはるかに患者の侵襲は少なく,それにとってかわったといえる状況になった.したがって,ここでは内視鏡下のポリペクトミーについて述べることにする.

肝癌

著者: 水戸廸郎

ページ範囲:P.1242 - P.1243

 癌外科治療の目標は5年生存率が50%以上に達することにあるとされる.肝癌の治療現況を全国57施設の集計報告でみると1),肝切除を施行しえた症例は手術対象の約1/4にすぎない上,手術死が21%,切除例の5年生存率は11%と,所期の治療目標からはほど遠い.
 切除率が低く,かつ,再発死亡が多いことは手術対象が進行癌であること,手術適応に問題があるといわざるを得ない.胃癌治療成績の域にまで達するには,今一度,現在行なわれている各種の適応診断法を再検討し,かつ,適応基準を明確化する必要があろう.

心筋硬塞

著者: 遠藤真弘

ページ範囲:P.1244 - P.1246

はじめに
 医学は長足の進歩を遂げてきたが,老化現象の1つの現われである動脈硬化に基因する虚血性心疾患が問題視されてきた.本症に対する外科療法には,①狭心発作や心筋硬塞移行を防止するための冠血行再建術(主にAorto-coronary bypass),②心筋硬塞後の合併症に対する心室瘤切除,室中隔穿孔部閉鎖,僧帽弁置換術,補助循環などがある.Aorto-coronary bypassを例にとると,全米で年に25,000例もが施行されているが,毎年65万人が本症で死亡する数からすると,"焼石に水"程度で,さらに手術症例の増加が見込まれている.一方,bypass graftの長期予後などの問題もあり,本術式に批判的な意見も出されてきた.わが国での本症の死亡数は増加の一途をたどっているが,幸いにも,まだ年間3万6千人と少なく,この時期に本症に対する外科療法を充分吟味し,正しい適応のもとに,わが国独自の冠動脈外科を発展させるべきである.

冠状動脈硬化症

著者: 北村惣一郎 ,   川島康生 ,   曲直部寿夫

ページ範囲:P.1247 - P.1252

はじめに
 冠状動脈硬化症に対する外科的治療法は今や医学的にはもちろん,社会的にも広く認められてきており,心臓外科領域において先天性心疾患,弁膜症とともに重要なテーマとしてとりあげられている.現在,冠血行再建術の主流となっている大伏在静脈を用いた,あるいは内胸動脈との吻合による大動脈—冠状動脈バイパスグラフト移植術(Aortocoronary Bypass Graft, ACBGと略す)は,従来から行なわれていた内胸動脈の心筋内植え込み術と異なり,術後直ちに大血流量を心筋に送りうる.したがってその臨床的効果が術後早期より顕著なことが広く認められたたあに,本手術がかくも大々的に行なわれるようになったことは周知の通りである.
 しかし,本手術法に関して全てが解決されたわけではなく,未だ不明な点も少なくない.そこで本論文では,現在までに確立された,あるいは確立されつつある適応と問題点について,筆者らの経験も合わせ概述する.

原発性アルドステロン症

著者: 吉永馨

ページ範囲:P.1260 - P.1261

 原発性アルドステロン症(primary aldosteronism,以下PA)の治療の原則は,いうまでもなく,手術によって副腎腫瘍を除去することである.しかし,その手術適応に関しては種々の問題がある.この問題を本誌の企画に従って,以下に論じたいと思う.

グラフ

冠状動脈硬化症,心筋硬塞合併症に対する外科治療

著者: 北村惣一郎 ,   川島康生 ,   曲直部寿夫

ページ範囲:P.1254 - P.1259

 図1 症例1 60歳 男子 強い労作性および安静時の狭心痛を有する症例で,右冠状動脈の完全閉塞がある.大伏在静脈を用いたAortocoronary Bypass Graftは良好に開存し,グラフトを介して順行性および逆行性に右冠状動脈が造影されている.本例では心尖部の左室瘤も同時にplicationしている.術後,狭心痛は消失した.
 図2 症例2 46歳 男子 本例は以前に内胸動脈の埋め込み術(Vineberg's op.)を受けているが,狭心痛が改善しなかった.右冠状動派は完全に閉塞し,intracoronary collateralsを介して末梢が細く造影されている.グラフト移植後,右冠状動脈末稍は良く灌流されている.

他の治療法との関係からみた手術適応

舌がん

著者: 鷲津邦雄

ページ範囲:P.1262 - P.1263

 今日の舌がんに対する治療の主体は放射線治療である.大部分が扁平上皮がんであることから放射線感受性が高く,効果的である.一方,手術は,実質欠損と機能障害を伴うことと,頸転移の可能性が大きいということから,適応選択に際して不利な立場に立たされている.かつて舌がんでは,放射線治療と手術が治療成績を競った歴史があるが,ただ単に両者の治療成績の対比のみでは適応の優劣は決らず,しかも治療成績にさほど差が認められていない.両者同程度の治療成績であるならば,少しでも機能保存が可能な放射線治療を優先すべきであるとの主張が支配的である.
 国立がんセンターでは,過去11年間に300例を越す舌がん(UICCの国際分類で中咽頭がんに含まれる舌根がんを除く)の治療を行なってきたが,一次治療のほとんどは放射線治療であった.その結果は,3年粗生存率62.3%,5年粗生存率54.6%である.この成績は,放射線治療後の再発あるいは頸転移に対する救済手術(salvage operation)による結果を含み,舌がん治療に果たす手術の役割をみることができよう.

食道癌

著者: 遠藤光夫

ページ範囲:P.1264 - P.1266

 食道癌の治療に,外科治療,放射線治療,制癌剤による治療がある.癌の本質から考えると,食道癌の治療も,当然全身療法である制癌剤による治療が望ましいのであるが,現状では制癌剤の場合,治療効果と副作用という点で問題があり,前2者が優先している.しかし,最近は外科治療の際にも併用し,また,放射線治療にも併用し,薬剤の投与量も少なく,また照射線量も単独治療に比べ少なくても同じ効果をあげうることが報告され,合併療法として注目されてきている.

脳腫瘍

著者: 畠中坦

ページ範囲:P.1267 - P.1271

緒言
 癌・腫瘍の本態についての考え方が近年革命的に変革を遂げつつあるが,脳腫瘍についても同様であり,今やヒトのビールスで実験的脳腫瘍さえ作れる世の中になり(向井,小川,小林)6),腫瘍の治療と免疫の関連がきわめて重要になってきた.おそらく腫瘍の治療を考えるにあたって,免疫による腫瘍の治療過程を阻害することは腫瘍の本質的治療の途ではないのではないかとさえ考えられる.患者生体の免疫機転を保持し,むしろ増強するような療法が今後,発展し続けるものと思われる.
 外科的手術それ自体は若干の免疫抑制が起こるものであるが,脳腫瘍の治療には,いかなる種類の脳腫瘍にも不可欠である.その理由は,①病理組織診断の確立のため,②薬物・免疫・放射線療法のいずれを問わず,腫瘍への充分な血流がなくては治療効果が期待できない(薬物,免疫因子,酸素,アイソトープなどが腫瘍に到達しない),③脳腫瘍のため阻害されている脳循環を改善しなくては脳機能の回復は望めない,などによる.

肺小細胞癌

著者: 岡田慶夫

ページ範囲:P.1272 - P.1273

 肺小細胞癌あるいは小細胞型未分化癌small cell anaplastic carcinomaは,全肺癌の10%内外を占めている1).このものは病理組織学的に2,3の亜型に分けられるが,いずれも悪性度が高く,中でも燕麦細胞型oat cell typeのものは,極めて悪性度が高いことで知られている.わが国のTNM分類委員会の追跡調査でも,小細胞癌の予後は他の型の肺癌のそれに比べて極端に劣っている.それであるから,同委員会の病期分類案では,小細胞癌であることが判明すれば,自動的にIII期として記載することになっている2)
 肺小細胞癌は悪性度が高い反面,放射線や制癌剤に対して感受性が高いという特徴を具えている.したがって,本型に属する症例に対しては,このような特徴を考慮しつつ,それぞれの進展度に応じた治療法を選ぶべきである.

進行性乳癌

著者: 阿部令彦

ページ範囲:P.1274 - P.1276

 進行性の乳癌は全身性疾患と考えるのが妥当である.したがって,転移部位の切除あるいは照射療法などの局所療法より,ホルモン療法または化学療法などの全身療法が一般には優先する.ホルモン療法は,内科的ホルモン投与により治療する方法と手術的に内分泌臓器の摘除による機能廃絶法ablative hormone therapyとに分けられる.後者のいわゆる外科的内分泌療法とは,卵巣摘除術,副腎摘除術および下垂体摘除術をさす.
 進行性乳癌に対する以上の各種療法をどういう順序でどう組み合わせたらよいかという問題について述べてみたい.

肺化膿症

著者: 早田義博 ,   関口令安

ページ範囲:P.1277 - P.1279

治療法の変遷
 従来までの膿瘍(空洞)を主体とする肺化膿症は,発病初期の化学療法によってほとんど影をひそめてきた.呼吸器を専門とする内科医のある者は肺化膿症は内科的に治療せしむべき疾患であると極言する向きもある.また我々胸部外科医も外科療法の適応と認める症例は最近全く経験がない.すなわち実地医家によって発病初期に治療させられるべきであり,かつそのようになりつつある.たとえば教室での283例の肺化膿症の治療法をみると,図1のごとく,昭和26年から40年までは肺切除の症例も非常に多くみられたが,昭和46年以降は2例が切除されているにすぎない.わずか2例でも切除されたということは前言をくつがえすことになるが,ここで注意すべき点は,この2例はいずれも肺癌との鑑別が困難であった例である.本来の肺化膿症の切除例は全くない.

難治性肺結核

著者: 今野淳

ページ範囲:P.1280 - P.1282

化学療法による効果の現況
 肺結核はなんといっても伝染病なので,喀痰中の結核菌を消失させることが第一義的に重要なことである.従来の療法であるSM・INH・PASの3者療法を初化療患者に実施すると5%位の菌非陰転者が残り,かつ近年この一次剤の耐性菌感染による肺結核も10%近くあるので,なお治療には注意しなければならない.また,不充分な治療,不徹底な治療で菌陰転せず,耐性菌となるものがある.抗結核剤は現在10指に余るほどあるので,いろいろな組み合わせが可能であるが,SM・PAS・INHのいわゆる一次剤耐性患者に二次剤を投与すると菌の陰転が期待できる.
 表1は抗酸菌病研究所付属病院に入院した患者で3剤以上(ほとんど大部分はSM・PAS・INHの一次剤に耐性で,二次剤に耐性のものも含む)の耐性患者を治療した年次表である.これらの患者は広い意味の難治肺結核と考えても良い.初めはKMが出現したのでKMのみで菌の陰転が見られ,次にKM・TH・CSを使用して35%の患者の菌が陰転し,さらにEBが出現したのでEB単独あるいはEB・VMの併用で44.8%の菌陰転があり,最近出現したRFPで患者の菌が陰転している.現在はもっと陰転率は良くなっている1).この表は新抗結核薬の出現により,そのたびに何割かの患者の菌が陰転することを示している.もちろん,全部の薬に耐性になってどうにもならない患者も出てきている.

胆のう炎

著者: 亀田治男

ページ範囲:P.1284 - P.1285

 胆石症の手術適応については種々の面からの検討が重ねられてきたが,なお必ずしも多くの意見が一致しているとは限らない.しかし胆のう炎を伴う胆石症については,積極的に手術をすべきだとの見解が大勢を占めている.胆石症の手術適応以上に不明確なのが胆石を伴わない胆のう炎,いわゆる無石胆のう炎の手術適応であろう.
 とくに胆のうの穿孔や蓄膿などの合併症を伴ったり,進展増悪傾向の明らかな症例は別として,通常の胆のう炎は,化学療法をはじめとする他の治療法によって一応改善することが多い.この緩解をもって治癒したと考えるか,あるいはまた将来の再燃や合併症の出現を予想するかによって,手術適応の考え方にも自ずから差異が現われる.またこの決定には,他の治療法の効果如何が問題になるはずであり,この面からの検討が必要となる.

潰瘍性大腸炎

著者: 吉田豊

ページ範囲:P.1286 - P.1287

 潰瘍性大腸炎の手術適応は内科的治療の限界を意味するが,手術時期の決定でもあるので,重症例を診ている内科医は常に念頭におかねばならない問題である.早期手術例の成績は極めて良好であるが,手術の時期を失したと思われる,一般状態の悪化した症例の成績はよくない.これは外科側よりも内科側の責任が大きいが,もともと重症例は内科と外科の境界領域の疾患であるとの認識が大切なのである.しかし,ごく一部のこれら重症例を除いた一般の症例では,適切な内科的治療の下で完全緩解が可能で,健康人とほとんど変わりない社会生活ができるので,本症は内科的治療が原則であり,いわゆる外科的疾患ではない1)
 Bargenらは,手術が必要となる症例は全体の12〜15%としているが,本邦症例の全国集計で18.2%,筆者らの教室例で近年は17.0%である.病気の早期発見,内科的治療の進歩などによって,最近は手術例が少なくなる傾向にあるが,10〜20%の症例は,結局は内科的治療の限界をこえた手術適応の症例といえよう.

甲状腺機能亢進症

著者: 原田種一 ,   伊藤國彦

ページ範囲:P.1288 - P.1289

 現在,甲状腺機能亢進症の治療としては,抗甲状腺剤あるいは無機ヨードによる内科的,放射性ヨードによる放射線科的,甲状腺切除術を行なう外科的の3つの治療法がある.Kocherにより成就された甲状腺切除術は,1943年,Astwoodらによる抗甲状腺剤およびほぼ同時代の放射性ヨードの臨床的応用の発展以来,一般病院では,その技術的困難と相俟つてあまり行なわれなくなったが,専門病院では最も確実な治療である故に,現在もなお積極的に施行されている.そして最近,他の治療法の欠点が次第に明らかとなるにつれて,手術療法は再認識される傾向にある.
 これらの個々の治療法の選択については専門家の間でも意見の一致をみておらず,患者の病状よりも,むしろ患者が訪れた医師の好みが相当大きく影響しているというのが偽らざる実状であろう.もちろん,治療にあたる医師が各自の見解と経験に基づいて特徴のある治療体系を持つのは当然のことである.しかし,各治療法の利害得失,限界を充分に知るべきであり,みだりに自己の方法に固執することは慎しむべきことである.伊藤病院においても,約10年前までは手術第一主義であり,手術の可能性を中心として治療方針をたてていた.しかし,抗甲状腺剤,放射性ヨードが導入され,これらの治療法に習熟し,経験を重ねて以来,一つの治療法に偏ることなく,一定の治療基準に従って治療方針の決定を行なっている.以下,手術適応を中心として,筆者らの治療基準およびその結果について述べたい.

特殊な状態における手術適応

老人の肺癌

著者: 末舛恵一 ,   土屋了介

ページ範囲:P.1290 - P.1291

 肺癌は高齢者に多い疾患であり,最近日本人の生命の延長に伴って肺癌による死亡が増加しており,1972年には結核による死亡を上まわった.しかし,治療に当たって肺の広範な切除が要求されるため,70歳を越えるような高齢者の肺癌では,他の臓器と異なって加齢による心肺機能の低下と手術耐性との関係が問題となる.また一方,組織型分布が加齢によって変化しており,このことは切除予後を左右する.

老人の進行胃癌

著者: 服部孝雄 ,   永田信雄 ,   笹尾哲郎

ページ範囲:P.1292 - P.1295

はじめに
 最近における平均寿命の伸びは,当然のことながら高齢者人口の増加となり,一方では,麻酔,術前術後の管理などの著しい進歩によって,高齢者に対する手術は年々積極的に行なわれる機運にある.老人の進行胃癌の手術適応というテーマは甚だむずかしい問題を多く含んでいるが,ここではまず胃癌を手術する立場からみて,何歳から上を老人と考えるのが妥当かという点をはっきりさせた上で,次に一般の進行胃癌に対する治療法を論じて,これに年齢というファクターを加味したら,どのようになるかという風に考えてみたい.

子宮筋腫で妊娠したとき

著者: 古谷博

ページ範囲:P.1296 - P.1297

はじめに
 子宮筋腫は元来が多発性の良性腫瘍であり,その芽ともいうべきものは,すでに思春期の子宮筋層内に多数形成されている.この多くの筋腫芽のうちどれが,いつから,何が原因で,どのくらいの発育速度で,どの方向に向かって発育していくかという,筋腫の臨床的発症の機序についてはほとんど不明である.
 実際に子宮筋腫結節が単発的に著明に腫大し,それによって一群の臨床像が出現していると考えられる場合でも,摘出子宮を観察すると,結節以外の部位の筋層内に小結節ないし微小結節が多数発生しているのを見出すことが多い.また臨床症状からみても,腫瘤感だけがあって,その他には全く病的な症状を伴わないものから,腫瘍はそれほど大きくなくとも,過多月経,貧血,月経困難症,不妊など種々の症状が顕著なものまでがあり,一口に子宮筋腫といっても細かい点からみれば,症状はかなり多様である.

喘息のあるとき—とくに麻酔適応の問題をめぐって

著者: 黒須吉夫

ページ範囲:P.1298 - P.1299

 "喘息のあるとき"の麻酔適応を画一的に基準化することは,喘息の症状,誘因等が千差万別であり,加えて手術適応の緊急度など多角的な考慮が必要なため,事実上不可能かつはなはだ危険といわねばならない.かかる観点からわれわれは日常,喘息という特殊条件下の麻酔適応を決定するに当たって,①手術の緊急度,②患者の喘息状態の重症度,および③適切な麻酔の選択の3点に焦点を合わせて考える必要がある.誌面の都合上,それぞれの詳細は成書にこれを譲り,以下上記の各問題点について述べ,御参考に供したい.

心疾患のあるとき

著者: 太田怜

ページ範囲:P.1300 - P.1301

 NYHAのIV度と認められるようなうっ血性心不全や,心性ショックなどのときは,それ自身が致死的な状態なので,救急外科の必要な場合がたとえ生じたとしても,そのための手術を行なうことはできない,ただし,うっ血性心不全の原因として,左房内粘液腫の僧帽弁口嵌頓が考えられるとき,それを外科的に摘出すること,また,心性ショックのとき,その治療を目的として補助循環を行なうことなどのように,手術が上記の状態それ自身の治療に役立つ場合は別問題である.
 一方,NYHAのI〜II度と判定されるものは,明らかな心疾患があったところで,日常生活の大抵の負荷には堪えられるので,今日の外科手術の条件下では,どのような手術も受けられる.III度のものは,緊急を要する手術以外のものはさけたほうがよいが,これとても,強心剤その他によって,心機能の維持に万全をはかれば,緊急手術を行なうことはできる.

糖尿病のあるとき

著者: 後藤由夫

ページ範囲:P.1302 - P.1303

糖尿病患者で手術の実施を困難にし予後不良にしている理由
 代謝リズムの変化 糖尿病の良好なコントロールは,規則正しい食事,運動および適量のインスリン,経口血糖降下剤の使用によってはじめて得られる.手術時には食事摂取量や運動量は当然制限されるので,糖尿病のコントロールが不良になるのが普通である.また薬剤投与も非手術時と同様に行なえないことが少なくない.インスリンが不足すれば糖尿病状態が悪化し,糖利用が極度に低下すればケトーシスが発生し,アシドーシスになるし,過量であれば低血糖の危険が生ずる.いずれにしても,どんな小手術であっても糖尿病治療スケジュールの乱れを招くことは避けられない.このことが糖尿病で手術実施を困難にしている1つの理由である.

専門医に聞く・21

高熱を伴った若年女子の糖尿病昏睡の症例

著者: 上松一郎 ,   王子亘由

ページ範囲:P.1304 - P.1307

患者 13歳 女子 中学生
 家族歴 父方の祖父が肝硬変,母方の祖父が肺壊疸で死亡.両親と同胞3人は健康で近親者に糖尿病を認めない.
 既往歴生来健康で,学校検診での検尿でも異常は認めなかった.

グラフ X線造影のみかた 消化管・6

大腸

著者: 白壁彦夫 ,   吉川保雄 ,   勝田康夫

ページ範囲:P.1308 - P.1316

 胃X線診断は充満法,二重造影法,圧迫法の組み合わせで成り立っている.ところが大腸には,この組み合わせ理論がない.案の条,検査の実際では,Fischer法ではfine network patternがでない.また,隆起性病変の診断に欠かせない圧迫法がないことから不満がある.そこで二重造影法の改良に力が注がれ,Fischer法にはじまる透視診断に主力をおく検査からWelin法による写真診断Brown法による微細診断が取り入れられてきた.さらに最近では,ジャイロ式X線装置で合理的な盲点のないスクリーニング検査が行なわれるようになってきている.検査時間の短縮,体位変換による空気とバリウムの移動,それにバリウムの付着の加減を計りながら,盲点をなくそうという考え方である.現在,理論的には盲点はなくなった.意表をつく体位での撮影が可能になった.
 何といっても,大腸二重造影法が,現在のところ検査の主体である.それに用いる造影剤は,一般に,隆起性病変では比較的高濃度のバリウムがよく,陥凹性病変では比較的低濃度のバリウムがよい.高度の病変では検査法を云々という必要はないが,浅在性,微細病変では検査法の選択が診断を左右する.隆起性病変のひろい上げに関しては,注意深い検査で大きな病変を見落とすことはない.しかし,小さいポリープや粘膜下腫瘍は,しばしば見落とされる.陥凹性病変のひろい上げも,腸管径の1/3程度のものなら必ずチェックできる.潰瘍瘢痕もかなりみつかるようになった.憩室も注腸検査例の9%にみつかっている.

カラーグラフ 臨床医のための病理学

XVI.肺疾患

著者: 金子仁

ページ範囲:P.1318 - P.1319

 大人の肺のほとんどすべてに炭粉沈着が認められる.肉眼的に黒い.しかし,機能的に大きい障害はない.組織学的にも黒い炭粉が肺胞上皮細胞や間質組織に沈着している.
 肺胞の中には通常空気が入っているが,少なくなったり消失したりすると無気肺となり,多すぎると肺気腫になる.
 肺炎は肺癌と並んで重要な疾患で,老人はことに嚥下性肺炎や沈降性肺炎にかかりやすい.肺結核の中でも栗粒結核は,最近むしろ珍しい疾患に属すようになった.

ベクトル心電図講座・10

慢性閉塞性肺疾患

著者: 石川恭三

ページ範囲:P.1324 - P.1330

 人の平均寿命の延長,ならびに深刻化する大気汚染に伴い,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive lung disease:COLD)の発生頻度は年とともに増加する傾向にあります.従来からCOLDにおいては,慢性的に右室に負荷がかかっていることから,心電図上他の右室負荷群,たとえば僧帽弁狭窄症などと同じ判定基準に従って診断されてきましたが,その診断率は決して満足するものではないことが,多くの系統的な研究で実証されています.そこで最近では,COLDの心電図は,他の右室負荷群とは全く別個の判定基準に基づいて診断されるべきとする傾向が強くなってきています.
 成人でみられる右室肥大の心電図は,すでに右室肥大の項で述べたように,生理的な左室優勢を,本来は弱少勢力である右室がその勢力を増して切り崩しをかけている状態を反映しているわけですが,なかなか優勢な左室勢力を凌駕することができず,先天性心疾患でみるような典型的な右室肥大像はむしろ稀にしか見られないことが多いようです.COLDは確かに右室肥大を惹起する条件を有しているわけですが,それ以外に心電図波形を大きく修飾する因子が介在していて,多種多様の波形を作り出しています.

アルコールによる臓器障害・9

アルコールと内分泌臓器

著者: 石井裕正 ,   斎藤晴比古 ,   土屋雅春

ページ範囲:P.1331 - P.1334

 アルコールは実にさまざまな臓器に対して直接的あるいは間接的に影響を及ぼす.このことは内分泌機能に対しても例外ではなく,最近,内分泌機構の解明が進むにつれ,またラジオイムノアッセイにより種々のホルモンの微量定量が可能になったことと相俟って,この方面の研究が次第に盛んになりつつある.
 そこで今回はアルコールと内分泌機能をテーマとしてとりあげ,日常臨床上必要と思われる知見を要約して解説を加える.

医学英語へのアプローチ・7

Problem Case Conference(その2)

著者: 高階経和

ページ範囲:P.1338 - P.1339

 このケースは,筆者が経験した症例であり,きわめて稀な先天性心疾患の一例報告であります.症例報告を読む場合には,自分がその場に居合せた場合,どういった質問をし,疑問を持つだろうかということを実際に英文に書いて,ふだんから練習しておく必要があります.

図解病態のしくみ

抗核抗体と疾患3 抗核抗体の意義—SLEをめぐって

著者: 本間光夫 ,   東條毅 ,   秋月正史 ,   宮地清光

ページ範囲:P.1340 - P.1341

沈降抗体
 組織エキスとSLE血清との反応が,最初に報告されたのは寒天拡散法による沈降反応であった.当時は,かかる抗原の生化学的分析が行われなかったばかりでなく,免疫反応と臨床状態との関係についてもほとんど注意が払われていなかった.しかし,かかる免疫系の1つであるSm抗原の研究がその端緒となって急速に研究が進歩した.

検体の取り扱い方と検査成績

PSP排泄試験

著者: 水田亘

ページ範囲:P.1342 - P.1343

 PSP試験は手技が容易であり測定操作も比較的簡単で精度のよい方法である.静脈に注射したPSPは94%が近位尿細管から排泄されるが,通常の負荷量(6mg)では尿細管機能が飽和されないので,PSPの排泄量の測定値は尿細管機能よりむしろ腎血流量を主に反映することになる.この意味から,15分値の測定が最も重視されている.腎血流量の減少している病的腎でも,120分もの長時間にはPSPの尿細管での排泄がくり返し行なわれるため正常値を示す場合もしばしばある.測定値の誤差要因を理解しやすくするため通常の検査方法を図1に示した.

くすりの副作用

L-dopaによる神経障害

著者: 古和久幸

ページ範囲:P.1344 - P.1345

 L-dopaはパーキンソン病(以下「パ病」と略す)治療のfirst choiceとして広く一般に使用され,かなりの効果をあげている.一方,パ病では,症状が徐々に進行性で,薬剤の維持量も漸増を余儀なくされ,また,一旦中止すると症状が逆戻りするために長期間の連続投与が必要となる.

小児の処置

腰椎穿刺

著者: 岡田良甫

ページ範囲:P.1346 - P.1347

 小児の腰椎穿刺を行う場合は,①診断のため髄液採取を目的とするとき,②治療上排液を必要とするとき,および③治療上薬剤を注入する必要のあるときである.小児では,これらの目的で日常診療に際して腰椎穿刺を行う必要性は決して少ないとはいえず,かつ診断上,髄液圧とくに初圧や髄液の性状はきわめて重要な情報を提供し,さらに決定的診断を下す根拠になる場合も少なくはない.したがって腰椎穿刺の手技に習熟し,技能の練成に心がけねばならない.すなわち,初回の腰椎穿刺の失敗(出血あるいは患児に著しい苦痛を与えるなど)は,時には診断に誤謬を招き,あるいは患児の協力を失墜することより悪循環を生じて不利な悪条件をくりかえすこともあるので,初回の腰椎穿刺はとくに慎重を期し,再度のやり直しはきかないという前提で処置に望む心構えが大切である.

小児緊急室

小児異物症

著者: 宮田辰夫

ページ範囲:P.1348 - P.1349

 鼻腔,外耳道,口腔,咽頭,気道,食道は異物症の好発部である.ことに小児異物は偶発性以外に故意的なものも多く,統計上,全異物症例の半分以上を占める.鼻腔,外耳道異物はほとんど故意的なものが多く,長期嵌在しやすく,緊急度もうすい.これに反し,食道,気道異物は偶発性のものが多いにもかかわらず,症状は激烈,顕現的であり,時には気道閉塞や感染合併で死に至る危険があり,最も緊急的なものである.現今,これら異物症患者は主として気管食道科技術を専攻した耳鼻咽喉科医の一部と,一部外科医により摘出,観血処理が行なわれているが,案外,患者の初訪医は内科医,小児科医,または外科医である場合が多い.したがって,初訪医の適切なる判断,対策が寸刻を争う異物症患者にとくに必要であるわけである.小児の場合,親が最初から異物を訴えてくる場合と,偶然に発見される場合とがある.また異物の種類や介在部位によって,発見の難易があり,誤って他の疾患として長期治療される例も少なくない.近年,診断法,器具の進歩と直達技術の向上,一般化により,異物症学は気管食道科学会を中心にして長足の進歩をとげ,内容も多岐にわたるので,本稿では一船医緊急対策関連のものに限定してみた.

婦人の診察

妊婦とくすり

著者: 橋口精範

ページ範囲:P.1350 - P.1351

 今回は妊婦に投与したくすりが胎児にどのような影響があると考えられているか,また合併症や検査が胎児にどのような影響を及ぼすか,ということについて述べることにする.
 これらの中には動物実験上みられるだけで,ヒトではみられないことも多いし,また胎児に影響がみられるといっても稀であることが多い.

オスラー博士の生涯・22

看護学校の第1回卒業式

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1353 - P.1355

 オスラーは1890年秋に欧州から帰ったあと,内科のテキスト書きに精神をかなり集中したようであるが,その間,ジョンス・ホプキンス病院の内科の責任者として診療を通して若い医師の指導や看護婦・学生の教育に参与した.当時オスラーは41歳で,まだ独身をつづけていた.

診療相談室

高血圧患者とKクリアランス

著者: 鳥飼龍生

ページ範囲:P.1321 - P.1321

質問 高血圧を有する患者にKクリアランスを行ないたいと思いますが,その具体的実施方法と臨床的評価の仕方をご教示ください.(岐阜市・Y生)
答 高血圧患者のKクリアランス測定は,原発性アルドステロン症の診断の目的で行なわれる.本症では,血清Kが低いのにかかわらず尿中K排泄量は多い.したがって,本症ではKクリアランス(CK)は高値を示すはずである.しかし通常の測定注により測定したCKは,必ずしも本症を他の疾患から鑑別できるほどには増大していない.たとえば塩路1)によれば,正常者20例で14.8±5.33,本熊性高血圧20例で12・5±5.56,原発性アルドステロン症30例で17.5±6.19m〃分となっている,これに対してチオ硫酸ソーダのような近位尿細管で再吸啄されることの少ないNa塩を負荷した後のCKは,原発性アルドステロン症では著明に上昇し,正常者や他の高血圧性疾患との間で明らかな差を示すのでこの測定は原発性アルドステロン症の診断上に有用と考えられる2)

心房硬塞の心電図診断について

著者: 加藤和三

ページ範囲:P.1322 - P.1323

質問 心房硬塞の診断,ことに心電図診断についてお教えください.(横浜市 KK生)
答 心房硬塞の診断は一般に困難一で,ほとんどの場合見逃されているようである.Cushingらの剖検例についての報告によれば,182例の心室硬塞中31例(17%)が心房硬塞を合併していたというが,生前に心房硬塞と診断された例の報告は極めて少ない.これは心房硬塞は独立して起こることはまれであり,その症候は通常,激烈かつ著明な心室硬塞のそれにおおわれる上,心電図変化も心室硬塞による変化ほど目立たないことによると思われる.しかし実際には心房硬塞が不整脈や脳・肺塞栓症の原因となっている場合がまれでない.また心房破裂を生じて心タンポナーデを起こす場合もある.心筋硬塞の治療ならびに予後判定上におけるその意義は決して小さくないと考えられる.

診療所訪問

心筋硬塞対策は第一線の家庭医の手に—アメリカの現状を聞く—横浜市前田橋医院 博 定先生を訪ねて

著者: 編集室

ページ範囲:P.1356 - P.1357

 —先生は1964年からずっとアメリカの各地で心臓をご専門にやってこられて,昨年の秋,日本に帰られこちらに開業されたと伺っております.そこで,まだ印象の新鮮なところで,アメリカの心臓病学の最近の動向やら,日本との相違などを中心にお話をお聞かせ願えればと思います.まず,先生が東大の医局から向こうの病院に行かれたのは,どんな事情からだったんでしょうか.

ある地方医の手紙・27

お勝手口の患者

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.1358 - P.1359

 W先生.
 私が郷里に帰って間もないころの話です.近くの,とある村役場の依頼で2回ほど衛生問題講演会の講師をやらされました.公民館の板の間にゴザを敷いて座っている200人ばかりの中年男女を前にして,まず村長殿が前座をつとめ,一席ブチましたが,私を紹介するお世辞にも事欠いて,「穴沢博士は現代の野口英世である……」なんて,とんでもないことをいうので,私はハラハラするやら……,穴があったら入りたいやら…….やおら糞度胸をきめて,演壇に上るなり,聴衆にむかって,まず開口番,大声で,

洋書紹介

—R. B. Scott & R. M. Walker:編—The Medical Annual;the Year Book of Treatment

著者: 和田正久

ページ範囲:P.1271 - P.1271

英国版"治療指針"
 Sir R. B. ScottとR. M. Walkerが編者になっているThe Medical Annual:The Year Book of Treatmentは一風変わった本であるが,便利にできている.
 内容は,種々な疾患の内科的ないし外科的な治療法を簡単にまとめてのせたものであるが,治療がどのように進歩したかということがわかるように配慮されており,いわば,その年における英国版の治療指針のようなものである.以前から,つづけて出版されていることをみても,臨床家に便利なように,臨床の進歩を簡単に理解し,医学の進歩におくれない治療をしやすくするように,編集者の苦心がしのばれる.

—T. E. Keats著—An Atlas of Normal Roentgen Variants that may Simulative Disease

著者: 楠本五郎

ページ範囲:P.1282 - P.1282

机上の常備書として推薦
 Dr. T. E. KeatsのAn Atlas of Normal Roentgen Variantsを読んで,日常の診療に非常に使いやすい本,実用価値に特に重点をおいた本という感を深くした.
 正常骨像に関する単行本は,今までに2,3刊行されているが,教科書的傾向というのか,重点が写真よりも本文にあって,一見して理解するというためには,やや遠いものが感じられた.

—H. Precht, J. Christophersen, H. Hensel, and W. Larcher:著—Temperature and Life

著者: 加地正郎

ページ範囲:P.1334 - P.1334

温度と生物の関係を16人が各専門分野から論ずる
 生物はすべてある環境の下にある.生物はその環境に順応し,あるいは順応させられながら生を維持し,代を重ねてゆく.したがって,環境の影響を考えることなしには,その生を論ずることはできない.
 このような環境を形成する諸条件の中でも,最も重要なのは温度であろう.本書はこの温度と生物との関係を,16名の専門家がそれぞれの領域から論じたものである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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