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雑誌目次

雑誌文献

medicina11巻12号

1974年12月発行

雑誌目次

今月の主題 喘息の本質から治療まで

気管支喘息の概念

著者: 川上保雄

ページ範囲:P.1510 - P.1513

 気管支喘息と称している疾患はごくありふれた病気であるが,これを厳密な意味での1つの疾患単位として規定しようと思うと幾多の問題がある.それは臨床症状の上から同一ないし類似した状態が,明らかに気管支喘息とは異なる疾患,たとえば気道の異物や呼吸器系の腫瘍や淋巴節腫脹,あるいは循環器系疾患でも起こりうるし,また一応これら疾患を除外したとしても,残りの喘息症状を呈する病気の原因がまた単一のものでなく,多様であることに起因している.ここでは筆者に課せられた喘息の概念を論ずるにあたり,まず喘息という言葉にもられた概念を歴史的に考察した後,現在における喘息の定義に論及したいと思う.

公衆衛生の立場からみた喘息

わが国の喘息の疫学

著者: 石崎達

ページ範囲:P.1514 - P.1516

 気管支喘息の疫学を考える場合に,まず決めておかねばならないのは喘息の定義である.「気管支喘息とは発作性に起こる喘鳴を伴った呼吸困難で,可逆性に軽快し,くり返し起こってくる」と考えるのが普通で,肺気腫性あるいは肺線維症の呼吸困難,心臓喘息および肺の腫瘍などによる呼吸困難との区別が必要で,また肺気腫,慢性気管支炎で呼吸困難を伴わない喘鳴もあるので注意を要する.

わが国の職業性喘息

著者: 中村晋

ページ範囲:P.1517 - P.1519

 職業アレルギー研究会が発足したのは1970年8月で,その後年1回会合が持たれ,全国から同好の士の参加と協力を得て毎年熱心な討議が行われ,多大の成果を挙げている.筆者はこれまで2回職業性喘息に関する総説を試みた.最初は第1回の本研究会までのわが国の職業性喘息に関する知見を概説
1),続篇では第3回までの新しい趨勢を紹介した2).その後もさらに多くの興味ある報告がみられているので,今回は本年7月開催された第5回研究会までの知見を中心に,アレルギー学会総会における発表,あるいは関係論文から若干の事項を引用し,最新の話題を加えてわが国の職業性喘息を一瞥してみたい.

公害病としての喘息

著者: 今井正之

ページ範囲:P.1520 - P.1521

 大気汚染の気管支喘息に及ぼす影響には2通りの考え方がある.1つは大気汚染が発病因子となって喘息を起こしうるかどうかという問題であり,もう1つは病状が大気汚染によって悪化するかどうかという問題である。
 これを証明する方法としては,この疾患自体がどこにでもあるような非特異的な疾患であり,患者個人をつかまえて大気汚染によって起こったものであるかどうかを判定することは非常に困難であるので,集団を対象とした疫学的手法が主として用いられている.

わが国の喘息死の分析

著者: 渡辺斌

ページ範囲:P.1522 - P.1524

喘息死とその推移
 わが国における喘息死の推移を厚生省人口動態統計よりみると図1のごとくである1).戦後,上昇の傾向にあり,1950年には最高となり,その後漸次低下をみている.Alexander2)は喘息死亡率の変遷を3期に分けている.第1期はおよそ1930年頃までで,アトピー型が主であり,比較的死亡率が高くなかった時期である.第2期はその後の25年の喘息死亡率が増加した時期で,この時期の死亡率の増加は主として感染型が加わったためである.第3期はおよそ1953年以後をいい,喘息死亡は明らかに減少しており,これにはステロイド剤や抗生物質が広く治療に利用されるにいたったためと述べているが,図1をみるとこれはわが国の喘息死の変遷にもほぼあてはまるようである.
 つぎに近年における喘息死亡率の推移を同じく国の統計から,年齢別,男女別に分けてみたのが図2である3).35〜64歳の年齢群の死亡率は男女ともに高いが,全年齢の死亡率とほぼ平行して漸減している.これに反して5〜34歳の年齢群のそれは男女ともに増加の傾向にあり,さらに10〜14歳の年齢群の死亡率は男女ともに近年急激に増加をみている.この高学年の学童期の死亡率の増加はわが国のみではなく,米国,英国,西ヨーロッパ,オーストラリアなどの国々にも共通する現象で,その原因は現在のところ明らかではない.

病態生理からみた喘息

喘息の肺機能

著者: 佐々木孝夫

ページ範囲:P.1525 - P.1527

はじめに
 喘息を論ずる場合,定義に諸家の一致したものがないため,細かい点で不一致の点がでてくることが少なくない.すなわち,本症は,高度の発作時には,諸検査を行なわずして誰しも喘息以外の疑いを持たないほど明らかな臨床上の病態を持っているのに,たとえば喘息の特徴とされる「気道狭窄の可逆性」をとりあげても,発作性の呼吸困難がなく,慢性に気道狭窄を示す症例の中で,通常の気管支拡張剤ならびに化学療法で改善されない気道狭窄がステロイド療法によって改善をみる場合,これをいかに取り扱うかといった問題である.
 喘息の肺機能を論ずる場合にもこの種の問題がつきまとい,定型的なものはBatesら1)のspasmodic asthmaの表に代表されるごとき一定の傾向がみられるが,実際には症例個々でそれぞれ多少とも異なっている.そこで,今日望まれているのは,個々の症例の臨床像すなわち条件を明らかにし,しかるのち肺機能検査で示される病態生理の持つ意味の検討をかさねていくことである.そのためにはできるだけ総合的に検査を行ない,各指標相互の関連で喘息の肺機能を判断する必要がある.しかしながら限られた誌面では,この種の記述は不適当であり,本稿では今後いかなる検査法で喘息にアプローチするかの参考となることを考え,新しい検査法を中心に機械的変化について述べる.

喘息発作のメカニズム

著者: 中川武正 ,   宮本昭正

ページ範囲:P.1528 - P.1531

 気管支喘息とは「気道の過敏性という病因の上に,可逆的な気道狭窄という機能的変化が生じて起こる疾患」1)であり,呼吸困難発作と喘鳴とをその臨床的特徴とする.その病因に関してアレルギー,自律神経の異常,感染,心因,β-adrenergic blockadeなどさまざまな見解が出されているが,一元的な説では全てを説明することはむずかしい.また,その特徴である喘息発作のメカニズムの解明も未だ十分ではないが,現段階では過敏性を有する気管支に特異的なアレルゲンや,非特異的な刺激が加わって,気道平滑筋の攣縮,気道粘膜の浮腫,粘液の増多をきたし,それらが気道に閉塞性の変化をもたらして発作が成立すると考えられている(図1).この稿では喘息発作のメカニズムについて,アレルギー・chemical mediatorを中心に述べてみたい.

喘息とIgE

著者: 富岡玖夫 ,   大多和忠彦

ページ範囲:P.1532 - P.1533

 気管支喘息や花粉症の患者血清中に認めちれるレアギン(reagin)と呼ばれる抗体が,免疫グロブリンE(IgE)に属することが発見されてから,IgE抗体によって惹起されると考えられるアレルギー反応の発症機序が急速に解明され,それに伴う臨床での疾患にたいする考え方や治療の方向性も変わりつつある.ここでは,IgEの発見を契機として進歩しつつある一分野を気管支喘息の臨床と関連づけて概説
したい.

薬物喘息

著者: 可部順三郎

ページ範囲:P.1534 - P.1535

 薬物による喘息は,内服や注射によって薬物やその代謝産物が呼吸器に到達することによっても,また薬物の直接吸入によっても起こる.その作用機序としては薬物本来の薬理作用,直接的刺激作用,免疫学的機序による場合などがある.

喘息の診断

喘息診断のすすめ方

著者: 水谷明

ページ範囲:P.1536 - P.1539

はじめに
 従来,気管支喘息(以下喘息と略)は「非限局性喘鳴を伴う可逆性発作性の呼吸困難」として把握され,その発症にはアレルギー性因子の関与する場合が多いと考えられてきた.しかし1962年,American Thoracic Society(ATS)1)が喘息を「種々の刺激によって気管および気管支の反応性が増加することを特徴とし,広範な気道の狭窄の程度が自然にあるいは治療によって変化することを明瞭に示す疾患」と定義して以来,喘息の定義についての世界的趨勢はこの方向に向かいつつあるようである.すなわち,現在,喘息は"気道の過敏性"と"可逆生の気道狭窄"を2本の柱として特徴づけられており,必ずしもアレルギー性因子の存在を必要としていない.またATSは,「喘息という言葉は広汎な気管支感染(急性および慢性気管支炎など)や肺の破壊的疾患(たとえば肺気腫),あるいは心血管系疾患によってのみ起こる気管支狭窄には使用しない.喘息患者にはこれらの疾患が合併することはあるが,その場合の気管支狭窄はこれらの疾患が原因になるものではない」と断わっている.したがって喘息の診断は,個々の患者の"気道の過敏性"と"気道狭窄の可逆性"を証明するとともに,気道狭窄を起こす他の心肺疾患を鑑別しつつ,すすめられなければならない.

気管支喘息の重症度

著者: 坂井英一 ,   小野寺壮吉

ページ範囲:P.1540 - P.1541

 肺結核をはじめ,いくつかの呼吸器疾患には重症度分類がつくられており,治療法や予後の判定に用いられている.
 一般に,重症度は軽症,中等症,重症と分けられ,病理形態学的な基盤の裏付けられているものが多い.しかし,気管支喘息では,重症度をきめる基準に関する統一的見解はなく,諸家により,日常用いられているいくつかの分類がある.喘息は気道の閉塞を主体としたものであり,その閉塞の程度,持続時間,回数等を客観的に表現することは困難であり,それで,一定期間の観察による発作の頻度,発作の軽重,日常生活の障害度等の臨床症状と,種々の薬剤に対する反応度により基準が提唱されている.

閉塞性肺疾患と喘息

著者: 佐竹辰夫 ,   原通広

ページ範囲:P.1542 - P.1543

慢性閉塞性肺疾患の定義と鑑別診断の方向
 現在,慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive LungDiseases),すなわち気管支喘息,慢性気管支炎,慢性(び漫性)肺気腫については,表1に示したような定義が国際的に用いられている.さらに最近では,慢性び漫性に細気管支を侵す「慢性び漫性細気管支炎」の存在も注目されてきた.筆者ら1)は,これらを重症度や治療方針とも関連させて鑑別診断するため,表2のような方法をとっている.この際に用いる肺機能は,通常,肺活量,1秒量,1秒率(T),低肺気量位の流速流量曲線,呼吸抵抗,肺内ガス分布などのほか最近開発されたclosing volumeなどである.もちろん,喘息患者ではこれらが変わりやすい点に特徴がある.

抗原のみつけ方—皮膚反応のやり方とコツ

著者: 馬場実

ページ範囲:P.1544 - P.1546

喘息の原因診断法としての皮膚試験
 喘息の原因をアレルギーにもとめる立場からは,原因抗原を見出すことが必要である.
 皮膚試験の方法としてはスクラッチ(掻皮)法,プリック法,皮内法,PK法が主なものであり,やや特殊な方法としてはパッチ(貼布)法や厳密な意味での皮膚試験とは異なるが粘膜法がある.

喘息性気管支炎

著者: 石田尚之

ページ範囲:P.1547 - P.1549

 小児科領域では喘息性気管支炎という診断ないしは考え方が,昔からかなり確かな存在意義を持って定着していた.20年以上も前のことになるが,私共の学生時代には,"気管支喘息と喘息性気管支炎の相違について述べよ"などという試験問題にヤマをかけたものであった.
 一方,内科領域では気管支喘息でもない,慢性気管支炎ともいいかねる,喘鳴を伴う上気道疾患に喘息性気管支炎という病名が漠然と一部では使われていたようであるが,この病名がはっきり意識の上で問題になりはじめたのは,大気汚染とその補償問題が起こり,それにかかわる呼吸器疾患が公害認定の対象とされ,この公害病認定の4つの疾患の中に,喘息性気管支炎が入ってきてからのことである.内科領域と小児科領域ではこのように本症に関する歴史的な背景が非常に異なるので,その診断—診断というのはその病気に対する要約と考えられるが—については両者の間に大きな開きがあるようである.診断云々を論ずる前に,この喘息性気管支炎なる疾患自体を認めるべきか,抹殺すべきかという論議がまず展開されるのも上述のような理由からであろう.

喘息の治療

気管支拡張剤の使い方

著者: 長野準 ,   鶴谷秀人

ページ範囲:P.1550 - P.1551

 気管支喘息は平滑筋攣縮,粘膜の浮腫および粘液分泌の増加の3病態に基因する気道の狭窄により起こり,発作性,可逆的である.気管支拡張剤は,気道の狭窄を除去することを目的とする対症治療薬である.現在その主流をなすのはsympathomimetic drugsであるカテコールアミン系薬剤,キサンチン誘導体,副腎皮質ホルモンの3種類が挙げられる.従来からいわれている副交感神経抑制薬(アトロピン)および向筋性鎮痙剤(パパベリン)は作用が極めて弱く,補助的に使われる場合がある.その他,気管支拡張剤ではないが,分泌物の粘稠度を低下させてその喀出を容易にする蛋白溶解酵素剤やレアギン型抗原抗体反応によるヒスタミンの遊離を阻止するdisodium chromoglycate(インタール)等は,関連薬剤としてその使い方を心得ておくと便利である.

ステロイドの使い方

著者: 谷本普一 ,   南方保

ページ範囲:P.1552 - P.1553

 気管支喘息における副腎皮質ホルモン(以下ステロイドと略す)の使用は,1950年Carryerらにはじまり,その著明な臨床効果により,現在まで広く用いられている.しかし種々の副作用のために,その適用と使用法に関して,現在もなおいくつか見解の相違がある.

重症喘息の治療

著者: 光永慶吉

ページ範囲:P.1554 - P.1555

重症喘息とは
 喘息の重症度については,別に詳細な論述があるので,ここでは一般的に,気管支拡張剤の経口,吸入,注射などによる各種治療に抵抗し,しばしば急性呼吸不全など重篤な状態に陥って入院を要し,また副腎皮質ステロイドホルモン剤(以下ス剤と略)依存性となっているような症例を,その範疇として取り扱うこととする.

吸入療法のコツ

著者: 大久保隆男 ,   斉藤芳晃

ページ範囲:P.1556 - P.1558

はじめに
 気管支喘息の治療における吸入療法は,気管支拡張剤などの薬剤を気道に直接作用させ,速効的な効果をもたらすため,喘息発作,とくに軽〜中等度発作時に欠くことのできない治療法である.しかしその使用にあたっては,いくつかのポイントがあり,適切な使用を行わないと十分な効果を発揮し得ない.
 喘息発作の病態は気管支平滑筋のspasms,気管支粘液腺からの極めて粘稠度の高い分泌液の増加および気管支粘膜の浮腫による気道閉塞現象である.そのために呼吸仕事量の増加,肺胞低換気およびその不均等分布をもたらし,臨床的に呼吸困難発作が出現する.また気道分泌液の増加は細菌の培地として気道感染症の原因となり,重症喘息発作の誘因となる.

特異的減感作療法のポイント

著者: 中島重徳

ページ範囲:P.1559 - P.1561

 特異的減感作療法(以下減感作)がはじめられて,すでに半世紀を経たが,その作用機序はまだ十分明らかではない.本療法のポイントも,その作用機序を十分に駆使することにあるわけであるが,まだ今後に検討すべき問題点が多く残されているので,現在までに明らかにされた事項を中心に述べることにする.

変調療法のポイント

著者: 信太隆夫

ページ範囲:P.1562 - P.1563

 変調療法とは対症療法を除く,特異的減感作療法以外の全てを指すが,その作用機序はほとんど不明である.気管支喘息の原因ないし誘因は多彩であると想像され,変調療法とされるものは針灸や温泉療法も含めて多岐にわたる.ここでは比較的一般に行なわれている療法を中心に述べる.

心理療法のポイント

著者: 中川俊二

ページ範囲:P.1564 - P.1565

心身医学的治療の要領
 ふつう喘息患者に対して行う心理療法の選択や治療目標の設定については,年齢,知能,自我の強さ,人格のひずみの程度,生活状態,心身相関の理解の程度および治療意欲などが一応考えられるが,問診または予備面接で,次の点を明らかにしておく必要がある.①発病当時ならびに現在の家庭や職場の状況と,それに対する本人の適応状態,②今までうけた喘息の治療法とその効果,また喘息に対する患者やその家族の者の考え方,③性格テスト,④乳幼児期の親子関係,とくにしつけの問題および主な身体疾患とその経過について,などである.

喘息児童の日常管理

著者: 中山喜弘

ページ範囲:P.1566 - P.1567

 喘息の治療には大別すると,発作時に行なう対症療法と,発作をくりかえさないようにするための根治療法がある.対症療法のみを行なっていたのでは,同じことをくりかえして,根治させることはできない.アレルギークリニックでは,原因療法そのほかの非特異療法を行なって根治させるための努力をするが,小児の喘息の場合には,医療と同じくらいの比率で重要なことは,喘息児の日常管理である.
 その理由は,患児が親の保護下にあるので,喘息児の経過をよくするのも悪くするのも親次第といわれるくらい,親が本症を充分に理解して看護にあたっているかどうかによって,その経過がちがってくるからである.

座談会

最近の喘息の話題をめぐって

著者: 中島重徳 ,   馬場実 ,   金上晴夫

ページ範囲:P.1568 - P.1576

 一見それと紛らわしい病態を含めて,喘息の訴えが増えている.古くて,しかも新しい病気であり,まだまだわかっていない面が多いことも事実のようだ.第一線の診療においてどうするか—最新の知見に触れつつ,その診断と治療の実際について,小児科,内科各専門の立場からお話しいただいた.

medicina CPC

上下肢に著明な浮腫,蛋白尿,腹水のみられた64歳,主婦の症例

著者: 三條貞三 ,   西崎統 ,   加藤暎一 ,   田崎義昭

ページ範囲:P.1588 - P.1600

症例 Z. T. 64歳 主婦
入院時主訴 浮腫,蛋白尿,食欲不振.
 家族歴 特記すべきことなし.

ベクトル心電図講座・12

総合練習(2)

著者: 石川恭三

ページ範囲:P.1578 - P.1582

 今年1月号から10月号までの10回にわたって述べてきたベクトル心電図の読み方の復習と,自己の実力判定を問題を通して行なっていただきたいと思います.ここに4つの症例のベクトル心電図のループ表示(A)とスカラー表示(B),そして標準12誘導心電図(C)を示します.同一の症例と思われるものを(A),(B),(C)の中から選びその診断をつけて下さい.

アルコールによる臓器障害・11

アルコールと循環器障害

著者: 小出直

ページ範囲:P.1583 - P.1587

はじめに
 臨床的な状況では,アルコールの影響が純粋な形で現れる場合はまずない.酒類に含まれるエチルアルコール以外の成分,食餌の貧弱なことや消化器障害に伴う栄養障害,種々の理由による水・電解質異常,エチルアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドの作用,ことにカテコールアミン分泌の促進などの影響が複雑に重なるのが常である.飲酒に伴う心臓障害の概念が,19世紀半ばにまで遡る歴史を持ちながら1),その実際的な重要性に比べて不当に無視されていたのも,複雑な要因のために疾患単位を確定しがたかったことが最大の原因である.以下,臨床的な立場から,飲酒に関連した循環器障害の種々相を解説する.

カラーグラフ 臨床医のための病理学

XVIII.皮膚疾患(2)

著者: 金子仁

ページ範囲:P.1602 - P.1603

 今回は主として皮膚結核症を載せる.皮膚結核には,真性皮膚結核症と結核疹がある.前者にはlupus vulgaris(尋常性狼瘡),皮膚疣状結核(tuberculosis verrucosa cutis),皮膚腺病(scrophuloderma)などがあり,後者には顔面播種状粟粒性狼瘡(lupus miliaris disseminatus faciei),バザン硬結性紅斑(erythema induratum Bazin)などがある.
 最後に臨床的に有名なRecklinghausen病の定型性を出した,いずれも日本医大皮膚科,宗像 醇教授の御厚意による.

医学英語へのアプローチ・9

婦人の患者の診察

著者: 高階経和

ページ範囲:P.1607 - P.1607

I CHARTING(チャーティング)
 1.Her periods have been regular.
 2.She uses five pads on the first day of her period.

図解病態のしくみ 肺機能の障害・2

閉塞性障害の機序―等圧点理論を中心に

著者: 田中元一

ページ範囲:P.1608 - P.1609

 閉塞性障害の発症機序については,完全に解明されているわけではなく,いくつかの仮設に基づいて,理論的に説明されているのが現状である.今回はMeadらの等圧点理論を中心に解説を加えたい.

検体の取り扱い方と検査成績

トリオソルブ試験

著者: 熊原雄一 ,   宮井潔 ,   畔立子 ,   沢崎憲夫

ページ範囲:P.1610 - P.1611

測定原理
 甲状腺機能検査法の1つとして,間接的に血中甲状腺ホルモン量を知るdirect saturation analysisが広く普及している.さて甲状腺ホルモンの1つであるthyroxine(T4)は血中でサイロキシン結合タンパク(TBP)と特異的に結合しているが,そのTBPのうちT4と結合していない部分を測定することによって,T4の量を間接的に知るのがdirect saturation analysisである.この原理を利用した測定法として,Triosorb test,Res-O-MatT3,Trilute,Thyopac-3,Charcoat T3,Tritab等のキットが市販されている.
 トリオソルブ試験(Triosorb test)について述べると,まず一定量の血清に131Iで標識したT3131I-T3)Triosorb試薬を加え,次にレジンスポンジを入れ吸着した放射能を測定し,この吸着率を求めたのが,131I-T3 resin sponge uptake値(RT3U値)であるT4の増加があれば,TBP未結合部分は減少しているので,スポンジに吸着する131I-T3が多くなりRT3U値は高値となる.一方,T4が正常でもTBPの減少があれば,同様の結果となる.本法は他の甲状腺機能検査に比べると,PBIのように有機ヨードや大量の無機ヨードにより影響されることもなく,甲状腺131I摂取率のように患者にラジオアイソトープ(RI)を投与しなくともよい有用な検査法である.類似検査のRes-O-Mat T3法はレジンスポンジの代わりにレジン片を用い,レジン片に吸着しない血清中の131I-T3を測定する方法であり,Thyopac-3法はあらかじめレジン顆粒に125I-T3を吸着させておき,125I-T3がこれより離れ血清に結合する割合を測定する方法であり,Trilute法はSephadexG-25カラムにより分離しカラムへの残留を測定する方法である.なおT4増加血清は,Triosorbtest,Triluteでは高値であるが,Res-O-Mat T3やThyopac-3ではレジン片やレジン顆粒に吸着しない血清の131I-T3を測定するため低値となるので注意を要する.

くすりの副作用

抗ヒスタミン剤の副作用

著者: 中山喜弘

ページ範囲:P.1612 - P.1613

 抗ヒスタミン剤(抗ヒ剤と略す)はヒスタミンの作用を中和する薬剤として発見されたものである.
 Dale(1927)は,抗原・抗体反応の結果,組織中にヒスタミンまたはヒスタミン様物質が遊離して,ショック症状が起こることを提案した.一方,Fourneau,Bovet(1933)はフェニールエーテル誘導体に抗ヒ作用があることを発見し,その後,ヒスタミンの作用を中和する薬剤として,多くの抗ヒ剤が発見された.

小児緊急室

心呼吸停止

著者: 草川三治 ,   永井蓉子

ページ範囲:P.1614 - P.1615

 私どものように,大学病院で,しかも心臓疾患を専門に扱っている所では,呼吸停止,心停止も日常よく遭遇することであり,医師も看護婦もすぐそれに対応して処置を次々と行なっていくことができる.しかし一般の医家の方々にとって,小児疾患は多いといっても,この心停止ばかりはめったに出くわすことではない.しかし医師である以上,どこでこの状態に遭遇するかもしれず,その時にすぐやるべきことはやらなければならない.蘇生法として簡単で思いつけばすぐその場でできることから,特殊な装置,器具を必要とすることまであるが,その行なう順序を追って記載しておく.読者が何かの時に,これを思い出して頂ければ幸いである.

婦人の診察

合併症のある妊婦

著者: 橋口精範

ページ範囲:P.1616 - P.1617

 前に,婦人と妊娠ということで,妊婦を診察する場合の留意点,妊娠のときにみられる症状について述べたが,今回は合併症のある妊婦について,そのいくつかを述べることにする.合併症のある妊婦については,実際にはそれぞれの専門医の管理下に入ることになるが,産婦人科医の立場からふれることにする.

小児の処置

胸腹部X線撮影法—とくに新生児および乳幼児について

著者: 高橋良吉

ページ範囲:P.1618 - P.1620

 X線撮影に際して,その体位・固定はフィルムの良否を決定する大きな因子であり,また成人とは違って,取り扱い上に多くの問題点がある.

オスラー博士の生涯・24

教師と学生

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1621 - P.1624

 41歳のオスラーは,友人の未亡人グロス夫人と結婚式をひそかにあげた後2カ月にわたる英国への新婚旅行に出,それから帰るとすぐにトロント市に向かった.そこでは,オスラーの独身時代に,しばらく身の廻りの世話をやってくれた姪のジョージャ・オスラーがアボット医師と8月31日に結婚式をあげるので,それに出席するためであった.

診療相談室

60歳以上の老人の最大血圧について

著者: 相澤豊三

ページ範囲:P.1625 - P.1625

質問 medicina 10(13),p. 21に「60歳以上の老人では,最大血圧が160以上ないと脳循環を保てない」とありますが,160未満でも異常なく生活している人も相当あると思われますが,この点いかがでしょう.(国立市 ○生 54歳)
答 脳循環と血圧との関係をN20法でしらべた成績によると,脳血流量は最大血圧との関係が重要であり,若年者(35歳以下)においては,最大血圧の上昇とともに脳血流量は増加し,その回帰は直線的であるが,高年者(35歳以上)においては160〜170mmHgまでは血圧の上昇とともに脳血流量は増加するけれども,それ以上になると逆に徐々に減少し始め,なだらかな曲線を描く.この事実は血圧上昇の脳血流量におよぼす影響に2つの因子のあることを示す.

ある地方医の手紙・29最終回

「こーろーしーてー,こーろーしーてー」(2)

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.1626 - P.1627

(前号より続く)
 不治のフリードライヒ失調症の末期の患者で,歩行や会話はもとより,流動物の摂取にも困難をきたし,たえず嚥下障害による窒息死の危険にさらされているK子には,病状の進行するとともに,管理上の大きな問題がおこってきました.

診療所訪問

診断よりも治療に力点を—淳正診療所所長・渡辺淳先生に聞く

著者: 編集室

ページ範囲:P.1628 - P.1630

 —先生は京都大学を昭和22年にご卒業しておりますね.学生時代はちょうど戦争中で,いろいろ大変だったと思いますが…….
 渡辺 いや,静かさとか,落着いた雰囲気という点では今とあまり変わりありませんでしたよ.京都という土地柄のせいか,戦争の影響は他に比べて少なかったように思います.

洋書紹介

—E. Schubert編—Neue Ergebnisse der Elektrokardiologie

著者: 石川恭三

ページ範囲:P.1549 - P.1549

国際的レベルにある論文の紹介
 この本は,1972年の9月に東ドイツのDresdenにおいて開催された第13回国際ベクトル心電図学会で発表された82の論文を集録したものである(英文:50,独文:32).
 この学会は東ドイツで開かれたせいか,自由諸国からの論文は比較的少なく,共産圏内からの論文が数多く発表され,その点で大変興味深い.共産圏諸国での心電図,ベクトル心電図に関する研究報告に接する機会がなかなか得られず,"どの方向に,また,どの程度に"研究が進んでいるかがあまり明らかにされていない現在,この書から,そのいくぶんかを知ることができる.ここに紹介されている論文は,ベクトル心電図にかぎらず,標準12誘導に関するものも含まれている.

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「medicina」第11巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

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特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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