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雑誌目次

雑誌文献

medicina11巻3号

1974年03月発行

雑誌目次

今月の主題 貧血の現況

貧血の臨床上の注意すべき点

著者: 中尾喜久

ページ範囲:P.290 - P.291

 一般に貧血というと,さほど心配にならない病気のように思われがちであるが,その中にはきわめて難治で生命をおびやかす種類のものから,適切に加療すれば比較的経過のよいものまでさまざまな病態がふくまれている.いずれにしても,貧血状態をそのまま放置すると諸臓器に不可逆性病変をひきおこすことにもなるので,できるだけ早い時期に正しく診断し,適切な治療を施すことが望ましい.

貧血の起こりかたと診かた

今日における貧血の診断技術

著者: 刈米重夫

ページ範囲:P.292 - P.296

はじめに
 貧血とは,生体内の赤血球に関する因子が正常者より少ない状態をいうわけであるが,通常は単位血液容量中の赤血球の数,容積,ないし血色素量が少ない場合と定義してほぼ間違いない.
 貧血のある患者のうち,他の疾患から続発したものも非常に多いので,貧血の有無,種類の鑑別を行なう場合,常に他疾患の存在をも念頭におかねばならない.

赤血球の産生低下によるもの

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.298 - P.299

赤血球産生低下の原因
 赤血球の産生は図に示したように骨髄中の造血幹細胞(stem cell)が造血因子エリトロポエチンの作用で前赤芽球になることから始まる.一度前赤芽球に分化した赤血球系細胞は活発に分裂を行なって数をふやすとともに,ヘモグロビン蛋白をその中で合成し,数日のうちに完全に分化成熟した赤血球となって末梢血液中に出現する.赤血球の産生低下はこの図の中のどこに異常があっても起こってくる.すなわち,ⓐ幹細胞の質的あるいは量的な異常,ⓑ幹細胞をとりまく造血の場(hematopoietic microenvironrnent:HIM)の異常,ⓒエリトロポエチンの産生低下,ⓓ赤芽球のDNA合成,ひいては分裂の異常,ⓔヘモグロビン合成の低下,などが赤血球産生の低下による貧血症の原因としてあげられる.この中のⓐとⓑ,すなわち造血幹細胞あるいはそのまわりのHIMの異常による貧血症の代表的なものであると考えられているのが再生不良性貧血で,本症にみられる骨髄の低形成は幹細胞自身あるいはそのHIMに異常があって起こったものと解されている.その他急性白血病,骨髄線維症,腫瘍の骨髄転移の際の貧血もⓐ,ⓑいずれか,あるいは両者の混在によって起こっていると考えられる.また老年者では幹細胞の数の減少があり,それが高年齢にみられる貧血の一因であろうと推定されている.ⓒのエリトロポエチンの産生低下による貧血症として,代表的なものに腎性貧血がある.高度の腎機能障害に伴う腎性貧血では一般に赤血球産生能力の低下がみとめられるが,これはエリトロポエチンの産生に腎が密接に関連し,腎の障害に際してはその機構が障害されるためであると解される.ⓓ,ⓔの異常はおのおのビタミンB12,葉酸の欠乏症並びに鉄欠乏性貧血,タラセミアなどが代表とされている.このうち,白血病,骨髄線維症,腫瘍の転移,B12,葉酸欠乏症,鉄欠乏性貧血,タラセミァなどについてはそれぞれの項目を参照されたい.また,腎性貧血は診断上それほど困難でない場合が多いので,ここでは主として再生不良性貧血の診断について説明を加えたい.

赤血球の崩壊亢進によるもの

著者: 三輪史朗

ページ範囲:P.300 - P.301

はじめに
 赤血球崩壊亢進によって生ずる貧血とはとりもなおさず溶血性貧血のことを指す.したがって,ここでは溶血性貧血の発症機序・主症状ないし検査所見・診断法について述べることにする.

鉄欠乏性貧血

著者: 宮﨑保

ページ範囲:P.302 - P.303

はじめに
 鉄欠乏性貧血は日常の臨床にて遭遇する貧血を主徴とする疾患のうち,最も多いもので,本態性低色素性貧血(萎黄病,胃液欠乏性萎黄貧血),慢性失血性貧血,十二指腸虫症あるいは鉤虫症による貧血,無胃性低色素性貧血,妊娠性低色素性貧血などが含まれ,幼・小児の貧血にも鉄欠乏によるものが多い.本貧血の原因についての究明,診断の確定は鉄治療の絶対適応を決定するにとどまらず,鉄欠乏の原因としての慢性持続性出血を呈している重大な疾患を明らかにし得るし,その予後判定にとってもきわめて重要である.鉄欠乏性貧血は低色素性貧血の主群でもあるが,この逆,すなわち低色素性貧血が全て鉄欠乏性とは限らず,少数ながら鉄利用障害性貧血,サラセミヤ,ピリドキシン欠乏性貧血なども低色素性貧血を呈するから,これに対して十分な検索もせずに鉄欠乏性貧血と速断して鉄剤を安易に投与すると鉄の過剰吸収による臓器鉄沈着が組織障害性に働く可能性も指摘されている,鉄欠乏性貧血は生体の鉄欠乏が最も進行した状態であることから,日常臨床の問題として貧血の認め.られぬ鉄欠乏症の診断こそ早期治療の対象として重要であることを認識する必要がある.かかる見地から鉄欠乏の起こりかたならびにその診断について述べる.

ビタミンB12欠乏症

著者: 内野治人

ページ範囲:P.304 - P.305

 ビタミンB12(以下B12と略)欠乏症の代表的疾患は悪性貧血という疾患単位であるが,B12欠乏でも葉酸欠乏でも共通して現われる貧血の特徴は巨赤芽球性貧血megaloblastic anemiaと総称される.したがって,B12欠乏症の起こりかたと診かたは①B12欠乏症の成因と②巨赤芽球性貧血の特徴,③悪性貧血を中心とする疾患の特徴とに分けられる.

老人性貧血

著者: 前川正 ,   白倉卓夫

ページ範囲:P.306 - P.308

はじめに
 貧血とは循環Hb量や赤血球数が正常値より減少する状態であるが,循環血漿量の著しい減少のない限り、Hb濃度や単位容積中の赤血球数の減少で判定することができる.したがって老人性貧血を文字通りに解釈すれば,老人の正常値に対しHbか赤血球数が減少することである.ここで問題となるのは正常者とか正常値という言葉を老人に対しどのような意味で使用できるかということであろう.老人では老化に従って様々な変化がみられる.たとえば動脈硬化は高齢になれば必発の変化であり,その強弱が異なるのみである.このほか様々な年齢的変化がおこるが,それらがどの程度までであれば正常の老化過程によるもので,どこからさきが病的であるかをもし決めることが可能であるなら正常老人を定義できよう。しかし,臨床で老人を取り扱う場合,このようなことが現実には困難であることは容易に想像される.

小児の貧血—その特徴と診断上の注意点

著者: 赤羽太郎

ページ範囲:P.310 - P.311

 小児の貧血の特徴といえば,年齢的な要因と遺伝的な要因の顕著なことをまずあげねばならないであろう.
 小児の貧血の種類には,年齢によって特有な疾患があり,成人にみられないものもあれば,それぞれの年齢によって好発する貧血もあり,また.遺伝性疾患が比較的多くを占めている.

骨髄が他の組織でおきかえられたとき

著者: 柴田昭

ページ範囲:P.312 - P.313

 骨髄が他の組織でおきかえられたときにみられる貧血は一般にmyelophthisic anemia とよばれている.

薬剤投与によるもの

著者: 小鶴三男

ページ範囲:P.314 - P.315

 薬剤投与によって惹起される貧血には,再生不良性貧血,pur red cell aplasia,巨赤芽球性貧血,溶血性貧血,鉄芽球性貧血などが知られている.これらの薬剤による各種貧血が如何なる機序によって惹起されたか,個便の症例で必ずしも明確でないが,一般にtoxicの障害,すなわち薬剤の使用量と比例的に増加する障害と,アレルギー性に発症するものおよびidiosyncrasy,すなわち体質的欠陥が基礎にあるところの障害様式がある.

悪性腫瘍に伴うもの

著者: 野村武夫

ページ範囲:P.316 - P.317

貧血の頻度
 悪性腫瘍患者にしばしば貧血がみられるのは衆知のことがらである.事実,内外の文献を参照すると1〜4),過半の症例に貧血の合併をみることが示されている(表).もっとも,貧血の程度は軽度ないし中等度にとどまり,血算を行なってはじめて貧血の存在に気付かれる場合が多いのであるが,一部の症例では貧血が高度に達し,ときにはこれを主訴として受診する悪性腫瘍患者も経験される.とくに消化管に悪性腫瘍を生じたさいには,貧血が高頻度に発生するばかりではなく,高度になる傾向がうかがわれる.

貧血の治療

鉄治療剤の現状

著者: 岡崎通

ページ範囲:P.318 - P.320

はじめに
 鉄欠乏性貧血に対する鉄剤の効果は,内科疾患の治療の中で,最も確実なものの1つである.鉄が明らかに臨床的に使用されたのはBlaud(1832)硫酸第一鉄,Stockman(1893)還元鉄の萎黄病の治療に始まる.Blaud丸の1丸は硫酸第一鉄,重炭酸カリウム各々320mg(鉄64mg)を含有し,12丸まで用いられた.鉄治療は両者の優れた成績にもかかわらず,19世紀末には合成は植物界でのみ行なわれ,動物界では崩壊のみが行なわれるとの学説の権威にHbが鉄を素材として体内で合成されるという理論的根拠を失い,鉄治療は疑問視され,使用されても少量で効果は不定であった.鉄が再び脚光を浴びたのは1920年頃から鉄突撃療法として大量の還元鉄,Blaud丸が投与されるようになり,その効果が確実になってからである。鉄突撃療法は10数年前まで用いられてきたが,副作用が多いため1955年頃から硫酸第一鉄や有機鉄がつぎつぎと登場し,また鉄の注射剤も提供されるに至った.以下,鉄剤の現況について言及したい.

貧血のステロイド療法

著者: 梅原千治

ページ範囲:P.322 - P.323

 ステロイド(CS)療法の対象となる貧血は少なくないが,その主要なものは後天性溶血性貧血(AHA)と再生不良性貧血(再不貧血)とであろう.しかし,この両者に対するCS療法は効果の本質も目的も全く異なるのである.この点を中心に,両疾患に対するCS療法の概略について私見を述べておきたい.

治療薬としての造血ビタミン

著者: 藤岡成徳

ページ範囲:P.324 - P.325

 造血に必要で,その欠乏により貧血が起こるビタミンを造血ビタミンと呼ぶ.ビタミンB12をはじめ,何種類かのビタミンが知られており,骨髄内での血球産生のそれぞれ異なる生化学的過程に関与している.不足ビタミンに特有な型の貧血や症状が起こるので,まず血算成績や症状から造血ビタミンの欠乏を推定し,できれば特定の検査で確診してから,適当なビタミンを使用することが重要である.ビタミン不足によって生じた貧血であれば,それを補充することにより,文字通り劇的に貧血や症状が改善される.しかし,造血ビタミンの有効な貧血でも,大量に投与しないと反応しない貧血もある.

貧血治療法としての輸血

著者: 岩崎一郎

ページ範囲:P.326 - P.327

 輸血は貧血の重要な対症療法の1つではあるが,成因によっては輸血に治療効果を期待できない貧血もある.以下各種貧血について輸血適応の可否を順次述べることとする.

特異な経過をとった貧血例

発作性夜間血色素尿症(PNH)

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.328 - P.329

 発作性夜間血色素尿症paroxysmal nocturnal haemogiobinuria(PNH)は,血色素尿症を伴う慢性溶血性貧血で,本邦ではまれとされていたが,近年,HartmannおよびJenkins1)により本症の簡便なスクリーニング試験であるsugar water testが発表されて以来,本邦でもときどきみられる疾患となってきた.
 本症は,他の溶血性貧血に比し症状が多彩なため他疾患と誤診されることが少なくなく,最近のDacieおよびLewis2)の統計もこの点をよく示している.とくにLewisおよびDacie3)(表1)によりaplastic anaemia-PNH syndromeが提唱されて以来,再生不良性貧血(再不貧)を疑わせる汎血球減少症の型で発症し,経過中PNHとしての赤血球異常を示したり,PNHとしての臨床症状を示してくる症例のあることが注目され,本症と再不貧との関連が問題となっている4).DacieおよびLewis2)の80例の統計によれば,初診時再不貧と診断された症例が23例も認められ,再不貧との鑑別診断を要する症例が少なくないので,症例を呈示して鑑別診断の要点について述べてみたい.

先天性赤血球酵素異常による溶血性貧血

著者: 中島弘二

ページ範囲:P.330 - P.331

ピルビン酸キナーゼ異常症
 従来,ピルビン酸キナーゼ(PK)欠乏症と考えられてきた例についてさらに電気泳動,キネティックス,抗体中和反応を進めた結果,欠乏症というよりはむしろ異常蛋白構造をもった先天性酵素異常(variant)である例がみつかった.PK-Sapporo,PK-Nagasaki,PK-Kiyose,PK-Tokyo-1,PK-Tokyo-II,PK-Maebashi(未発表,群馬大3内科例),PK-Ube(未発表)であり,なお検索中の例を入れると10種類にも及ぶと思われる.加えて赤血球PK(PK-R)が全く認められない,いわゆる"classical type of PK deficiency"と呼ばれるものもあり,大分県立病院,大阪小児保健センター,三重大小児科の3家系4例がある.各家系の異常PKの性質にはそれぞれ違いがあり,とくに興味深いことはPKの性質そのものが患者の臨床像を反映していると考えられることである.
 PKには4つのアイソザイムがあるが,"classical type"では赤血球PK(PK-R)が全く認められず,肝のPK-Lも認められない.赤血球にはわずかに白血球,脾にあるPK-M2が認められるのみである.PK-LもPK-Rも電気泳動では異なった移動度を示すが,PK-R抗体により両方とも中和され,構造上,遺伝学上近いものと思われる."classical type"の場合,症状が最も重症で患者は生下時より強い溶血性貧血を示し,輸血を欠かすことができず,輸血の影響のため患者自身の赤血球について検索することは不可能で,摘脾後はじめて"classical type"と診断できるほどである.摘脾により貧血の改善が望める.大分県立病院例では1ヵ月以上輸血なしでは過ごせなかったものが摘脾後1ヵ年以上輸血なしで過ごすことができた.

Sideroblastic anemiaから急性白血病への移行について

著者: 青木洋祐

ページ範囲:P.332 - P.333

症例 49歳 男 会社員
 家族歴 父が糖尿病以外に特記すべきことなし.既往歴 特記すべきことなし.

胸腺腫と赤芽球癆

著者: 松友啓典 ,   田島恒雄

ページ範囲:P.334 - P.336

臨床診断
 赤芽球癆は,その半数以上が胸腺腫を合併していることから,本症の成因について胸腺の異常との関連性が推測され,検討されているが,現在なお.その原因もcriteriaも明確にされたとはいえない.
 Seaman1)らは本症の血液学的特徴として次の5つをあげている.

行軍血色素尿症

著者: 川口尚志 ,   川田健一

ページ範囲:P.338 - P.339

 いわゆる行軍血色素尿症は過激なランニングや行進後にみられ,運動中のみに起こる一過性の血管内の溶血発作による.本症の報告例は本邦では少なく,欧米での報告では白人男子に多く,女子についての報告もあるがきわめてまれとされている1).本症における赤血球異常は認められていなく,家族性に,また,小児期に発症しないことから,多くの後天性溶血性疾患と同様にその溶血機序として赤血球外因子が考慮され,Davidson2)はランニング後に本症をみた患者では足底部への物理的傷害が強いことから,本症は足底部での外傷性溶血に基づくことを証明している.筆者らは剣道練習後に血色素尿をみる本症3例を経験し,若干の知見を得たのでその中の1症例を中心に検討し得た成績について述べる.

自己免疫性溶血性貧血

著者: 三浦亮

ページ範囲:P.340 - P.341

 自己免疫性溶血性貧血はしばしば認められる疾患であるが,最近ではその大部分が続発性のものであるといわれ,とくに白血病,悪性リンパ腫,各種膠原病に合併することはけっして珍しくない.しかし上皮性悪性腫瘍に本症が続発することは稀であり,結腸癌との併発については筆者らの経験例をのぞいては未だ報告例がない.本例は生前に診断を確定しえなかった心残りの症例であるが,その概要を紹介してかかる症例の存在について注意を喚起したい.

座談会

貧血の診断と治療—最近の進歩

著者: 外山圭助 ,   溝口秀昭 ,   服部理男 ,   阿部帥 ,   高久史磨

ページ範囲:P.342 - P.352

 貧血は日常診療において最もpopularな病気といえるが,その発現には単一の原因で発現するものから,さまざまな要因が複雑に絡みあって発現するものなど,いろいろあり,したがって,その病態も種々の相を呈している.
 治療においても,鉄剤投与のみで簡単に治癒するものから,厚生省により難病に指定された再生不良性貧血などのように,治療に困難をきわめるものも少なくない.
 今回は,貧血の診断技術が近年どのように進歩したか,そしてまた,実際的な治療の方針などにつき,ご専門の分野からお話しいただく.

海外だより

中国医療における中西結合について

著者: 陶棣土 ,   陶易王

ページ範囲:P.373 - P.380

はしがき
 最近,中国との交流がひらけるにつれ,ハリ麻酔,聾唖のハリ治療,断肢再値など,中国医学の成果がニュースの波にのってきた.そして,その大部分は中医学(漢方医学)と西洋医学の協力態勢の結果であることが報道されている.一見,異質とも思われる中医学と西洋医学が,どのような基礎の上に,どのようなやり方で合作しているのであろうか.
 日本で中世以後,健康をまもり,病気を治療した医療といえるものは,いわゆる漢方医学であった.明治17年,医療法によって,医学の主流からはずされ,同27年,ついに漢方医は独立した医師として認められないことが議会で決定されたあと,漢方医学が科学的根拠のない民間療法といわれながらも,地方,とくに辺鄙な農山村で,民衆によってまもられ,現在まで生きつづけてきたことは衆知のにとである.明治のはじめ,漢方をすてて,西洋医学一本に走った日本医療であるが,中国における中西結合の成果をまえに,もう一度,今後の医学の進路を考える意味で,中国の医療の実際を知っておくことも無駄ではないと思う.

グラフ

赤血球形態の異常と貧血症

著者: 新谷和夫

ページ範囲:P.353 - P.357

 正常人の赤血球は両面凹の円板状で,直径は6.2〜8.2μ,平均7.2μ,標準偏差0.5μという値が示すように,多少の大小不同はあっても大体揃った円形を示すと考えられている.しかし,実際に塗抹標本上の赤血球を観察すると,大きさが違うというばかりでなく形も円でないものに遭遇する場合が多いものである.このような現象には独自の命名がされて日常繁用されているが,最近では観察法に走査電顕が加わるとともに新しい問題を提供するようになっている.筆者のとにろでは未だ走査電顕の経験はないので文献を参照して本稿の構成を試みるにとどまったが,御参考になれば幸いである.

血管造影のみかた

—腹部・その3—消化管・膵

著者: 平松京一

ページ範囲:P.365 - P.372

 食道,胃,十二指腸,小腸,大腸などの消化管については,バリウム検査や内視鏡検査による診断が主流をなしている.しかし最近は,血管系の変化を観察することによって粘膜面からはとらえにくい病変の把握や,腫瘍における良性悪性の鑑別,浸潤の範囲などを知ることができ,さらに肝転移の有無をも診断し得ることが多く,血管造影が治療方針の決定に大いに役立っている.
 膵疾患については現在のところ,血管造影が最も重要な検査のうちの一つと考えられるようになり,膵管造影などとともに広く普及しつつある.

カラーグラフ 臨床医のための病理学

XIII.膵疾患(2)

著者: 金子仁

ページ範囲:P.362 - P.363

 膵腫瘍の大部分は膵癌である.膵外分泌腺細胞や導管上皮から発生する周組織学的に腺癌で癌細胞内に粘液を有することが多い.
 興味のあるのはランゲルハンス島の細胞から発生する腺腫や腺癌である.Islet cell adenomaまたはIslet cell carcinomaとも呼ぶ,β細胞より発生するものはインシュリンを分泌するので低血糖をきたす.
 転移性腫瘍は少ないが,悪性黒色腫を載せた.

ベクトル心電図講座・3

右室肥大

著者: 石川恭三

ページ範囲:P.381 - P.385

 心電図のパターン診断の中でも,右室肥大(Right ventricular hypertrophy:RVH)は最もむずかしい部類に属しています.成人における心電図波形の主な構成成分は,左室より由来しているわけであり,軽度なRVHが存在しても,この優勢な左室成分に覆い隠されてしまい,心電図上に現われないことがあります,また,小児の場合には,成人とは反対に右室が優勢であるため,RVHが存在しても,生理的な右室優勢との鑑別がむずかしくなってきます.このように,成人の場合にしろ,小児いの場合にしろ,心電図上でのみRVHの診断を下すことは,高度のRVHを除き,非常にむずかしいと理解すべきでしょう.そのたあに,いままでに多くのRVHのりCriteriaが報告されていますが,これといった決定版は残念ながらいまだに見られないといってよいと思われます.
 Sokolow & Lionのcriteria1)*は,最も広く知られていますが,これは著しいRVHの症例に当てはめて,はじめて満足されるものであり,とくにRVHの形成初期にある症例では,ほとんど満足されません.

アルコールによる臓器障害・3

アルコールと肝臓—(1)アルコール性肝障害の発生機序

著者: 石井裕正 ,   重田洋介 ,   土屋雅春

ページ範囲:P.386 - P.390

はじめに
 慢性アルコール中毒,あるいは大酒家にみられる種々の臓器障害の中でも,肝障害(脂肪肝,アルコール性肝炎,肝硬変症)はその頻度からみても,疾患の重篤度からみても,日常臨床上もっとも重要な疾患のひとつである.アメリカの最近の統計によれば,肝硬変症は青壮年層の死因の4位を占めており,その3人のうち2人は慢性アルコール中毒者だといわれている.過去の統計をみても第一次世界大戦中のフランスにおけるワインの配給制や,アメリカの禁酒時代には,肝硬変症による死亡率が激減しており,その後アルコール飲料が自由に入手可能になると再び肝硬変症による死亡率が上昇する事実1)はエチルアルコール(以下アルコール)と肝疾患の発症とがきわめて高い相関にあることを物語っている.
 さて,わが国においてはどうであろうか?従来,アルコール性肝疾患の頻度はわが国では低いとされていた.しかし近年,生活水準の向上,生活様式の欧米化,社会構造の複雑化にともない,アルコール摂取量の著明な増加をみており,アルコール中毒数も増加し,1970年現在で約100万人と推定されている2).さらに,わが国のアルコール性肝障害の頻度に関しては第7回日本肝臓学会西部会における高田ら3)の全国集計報告によると,脂肪肝の頻度には著変はないが全肝炎および肝硬変中のアルコール性肝炎および肝硬変の比率は年々増加傾向を示し,昭和36年には全肝硬変中でアルコール性肝硬変の占める比率は約10%であったが,昭和46年には約30%に達している(図1).このような増加傾向は今後ますます助長されることが予想され,アルコール性肝障害の予防および治療は,社会的にも医学的にも極めて重要な目標となる.

図解病態のしくみ

神経3.大脳障害

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.392 - P.393

 大脳は諸動物のなかで人間が最もよく発達しており,人間の人間たる所以をなすものである.したがって,そのつかさどるものは主として最も高等な神経機能であり,この部と他の部の障害との鑑別では,これら高等機能障害の有無が主要点となるほどである.

検体の取り扱い方と検査成績

血清脂質の検査

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.394 - P.395

 脂質検査に限らず,検体の採取から臨床検査は始まるものであり,検体の管理なくしては正しいデータの評価はあり得ないのである.
 図1に検査の流れとその管理ポイントを示したのはそのためである.以下この図の流れに従って脂質検査の検査管理の概要を述べていきたい1)

くすりの副作用

クロラムフェニコールによる造血障害

著者: 野村武夫

ページ範囲:P.396 - P.397

 クロラムフェニコール(CP)の造血臓器に及ぼす毒性には,可逆的造血抑制と再生不良性貧血の2つのタイプがある1).この両副作用はいまだにしばしば混同されているようであるが,臨床的にも病因論的にも,はっきりと区別して考えねばならない.

小児の処置

輸液

著者: 北山徹

ページ範囲:P.398 - P.399

 小児の日常診療に際し,輸液は最も重要な処置である.というのも小児の体液生理の特異性から,各種の疾患に伴って容易に脱水症,酸・塩基平衡障害などをきたしやすいからである.輸液の目的は1)脱水症による水電解質異常の矯正,2)生理的必要量補給のための維持輸液,3)特殊な電解質・代謝異常の矯正にわけられるが,輸液はこれらの目的や,患児の病態の程度を正確に把握し,それぞれに適した方法を選択して,正しい計画のもとに施行しなければならない.

小児緊急室

泣き止まぬ時

著者: 中村孝

ページ範囲:P.400 - P.401

 「急に泣き出して,全然泣き止まないんです.針でも刺さっているかと思って探してみたんですが,それもないし.」私たち小児科医は,当直の夜,こうした訴えで起こされることは決して稀ではない.月に1〜2回はあるだろう.ほとんどが乳児であるので,ここでは乳児についてのみ考えてみることにする.
 泣き止まないということは,乳児に何か大きな苦痛が与えられていると考えてよいであろう.大きな苦痛を痛みとおきかえてもよい.どこか痛い場所があるに違いない.それではどこが?それを探ることが第一の仕事になる.「ピンが刺さっていること?そんなことは数百年に一度です.」とスポック博士の育児書はのべている.実際その通りであろう.

婦人の診察

婦人の下腹痛(1)

著者: 橋口精範

ページ範囲:P.402 - P.403

 婦人を診察する場合,下腹痛がどこからきているかで鑑別しなければならないにとがでてくる.産婦人科領域から考えられる下腹痛としては次のようなものがあげられる.
 大別すると,月経に関係したもの,妊娠に関係したもの,それ以外のものをあげることができる.

臨床免疫カンファレンス・5

2回の肺感染症のたびに赤芽球癆を起こし,抗核抗体が陽性を示した女性

著者: 岡安大仁 ,   高久史麿 ,   野村武夫 ,   畔柳武雄 ,   堀内篤

ページ範囲:P.406 - P.415

症例 金○晴○,32歳 女性 家婦
 第1回目入院
 昭和47年5月10日発熱38℃,1週間後に咳,痰がみられるようになり,近医受診.胸部X線写真で肺炎と診断きれ,5月19日,日大呼吸器科に入院した.
 入院時38℃の熱があり,貧血はなく,リンパ節踵脹もみられなかった.心音清,胸部は左中肺野に小水泡性ラ音を聴取した.肝・脾は触知しなかった.

話題

インスリン自己免疫症候群ほか—第11回糖尿病学会関東甲信越地方会から

著者: 池田義雄

ページ範囲:P.405 - P.405

 第11回糖尿病学会関東甲信越地方会は,1月26日昭和大学,上条講堂で開かれた,1週間前にふった雪がそのまま,日陰に凍りつき,乾燥しきった寒風が旗の台に吹きつけるという土曜の午後,それでも熱心な参会者はコートをはおり36題の口演に耳を傾けた.演題は17題の症例報告を中にはさみ,前半にインスリン関連演題が8,後半,薬剤使用経験など治療に関連するもの5題,その他,臨床統計など6題である.

診療所訪問

新しいイメージのクリニック作り—新赤坂クリニック・松木康夫院長を訪ねて

著者: 編集室

ページ範囲:P.416 - P.417

医局長に立候補した頃
 --先生は昭和33年慶応のご卒業でいらっしゃいますね。慶応時代に医局長に立候補されたと伺ってますが,その頃の事情をお聞かせください.
 松木 当時は教授陣が保守的で,人事の問題にしても今では考えられないように独裁的でした.教授に行けといわれれば,どんな不満なところでも薄給で働かなければならない.その頃,ボクも若かったし,医局をよくしようと思った.民主的にしかも教授の権威を落とさないで,いい方向に持っていきたかった.で,発言の場をもつために医局長になろうと……当時1はすべて教授の出した候補が医局長に決まっていたんですが,そにに初あてボクが立候補したわけです.ところが,教授陣がそれを極度に警戒したわけです。そ重して教授が出した候補とせり合って,とにかく選挙ではボクが勝った.というの1はみんなの意向がそういう波に乗っていたわけですね.ところが,教授はそれを拒否してボクが外の病院に出たわけです.ボクはそこで1年間外に出て,また帰ってきて再挑戦したわけです.当時,国際学会があってほとんど外国に出ていて,選挙の1週間前に帰ってきて,なんの用意もなかったんですが,またボクが勝ってしまった.ところが,その2回目も教授陣がひっくり返してしまいました.しかし,それが教授陣の最後の抵抗だったんです.

ある地方医の手紙・21

さまよえる厄病神(2)

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.418 - P.419

(前号より続く)
 当院結核病棟でひんぽんとおこった盗難事件は,やがて未解決のままウヤムヤになってしまいました.方方の病院を流れ歩いた「さまよえる結核患者」のBに重大な容疑があることはもちろんですが,長年の療養生活で病院ズレし,六法全書を研究して,「憲法」や「人権」を口実に,自分が排菌のある「重症患者」であることを楯にとって法の追及を免れようとするBを,確証もないのに逮捕留置することは困難であるというのが警察の係官の告白でした.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻10号(2023年9月発行)

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