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雑誌目次

雑誌文献

medicina11巻6号

1974年06月発行

雑誌目次

今月の主題 自己免疫疾患の臨床 座談会

自己免疫のトピックス

著者: 松橋直 ,   堀内淑彦 ,   河合忠 ,   鈴木秀郎

ページ範囲:P.710 - P.717

 免疫はどういう仕組で起こるのだろうか(免疫の成立),当然起こるはずの免疫が,ある場合にはどうして起こらなくなるのだろうか(免疫学的寛容),また一度でき上がった免疫学的寛容が,どのような仕組で破れるのであろうか(自己免疫の成立).自己免疫の発生機序に関する最新の理論をシェーマを用いてできるだけ解りやすくお話しいただいた.

自己抗体の検査法とその意義

著者: 河合忠

ページ範囲:P.718 - P.721

 自己免疫というのは,自己がもっている抗原—それが分子であるか,または細胞であるかは別として—と特異的に反応する因子があって生体内に起こる現象ということができよう.そして特異的反応因子には大きく2つあると考えられ,1つは血液およびその他の体液中に見出される自己抗体であり,他の1つはある種の感作リンパ球であろう.ここでは循環血中に検出される自己抗体について述べるわけである.

臨床的に用いられる遅延型アレルギーの検査

著者: 大藤真

ページ範囲:P.722 - P.725

はじめに
 遅延型アレルギー,すなわち細胞性免疫cell mediatedimmunityの検査法としては,長い間ツベルクリン反応,DNCB皮膚試験によるin vivo assayが主に行なわれてきた.しかるに1962年,George and Vaughan1)がmacrophage migration inhibition testを発表し,本法が上記皮膚反応とよく相関することが知られて以来,本法は細胞性免疫のin vitro assay systemとして高く評価され,近年は世界的に広く臨床面への応用が開発されてきている.
 すなわち,ツベルクリンやジフテリヤ毒素によって感作されたモルモットの腹腔滲出細胞のin vitroでの毛細管ガラス管よりの遊出が,特異抗原の添加によって抑制されることが,GeorgeらやDavid2)らによって発見された.この現象はその後,モルモットの腹腔滲出細胞中に含まれる少数の感作リンパ球が特異抗原と反応して産生放出する可溶性物質によって,同じ滲出液中の大多数を占める非感作のmacrophageの遊走が阻止されるために起こる現象であることが明らかにされた.この可溶性物質はmacrophage migration inhibition factor(MIF)と呼ばれ,分子量は3万5000〜5万5000の糖蛋白であることも知られた.

自己免疫疾患治療の実際

免疫抑制療法

著者: 螺良英郎 ,   矢田健太郎

ページ範囲:P.726 - P.732

免疫抑制療法のあらまし
 結合織病(膠原病)を含む自己免疫疾患群は,厚生省の「いわゆる難病」対策として種々の面からクローズアップされてきている.難病であるということの1つに,治療に抵抗することが挙げられている.これら難病に副腎皮質ステロイド剤(以下ステロイドと略す)が広く用いられ,その効果が時に著効を奏する反面,再発,再燃時に,また遷延化した症例にあっては効果をみない(ステロイド抵抗性とでもいうべきか)こともある.またより大量投与することや,再燃のために長期間にわたってステロイドの投与を続けて,なかなか離脱ができず,それに加えて種々の不快な副作用に悩まされ,時に重篤な副作用にいたることは,しばしば苦い経験として味わっているところである.こうした点からDameshek & Schwarz(1963)らが,抗癌剤のもつ免疫抑制効果を自己免疫性溶血性貧血(AHIA)に利用してみたところ効果をみたので,免疫抑制療法immunosuppressive therapyと称してステロイドに加えて自己免疫病の新しい治療分野を開拓した.
 爾来,早くも11年目を迎え,今では多数の経験例が重ねられてきた,ステロイド療法の限界に失望していた者にとって,抗癌剤の系統による免疫抑制療法は,最初は救世主の観もあったが,実際の効果にあっては当初の希望を満たすには程遠い.その反面,6メルカプトプリンの誘導体であるアザチオプリンのごとき免疫抑制剤が開発され,臓器移植における免疫抑制療法に偉力を発揮した.しかし,強力な免疫抑制剤の開発が全くなかったこと,またかかる免疫抑制療法をもってしても,ステロイド剤に代わる臨床効果は得られないばかりか,免疫抑制剤による免疫抑制という副作用が問題となってきつつある.

自己免疫疾患治療の実際—私の経験

全身性エリテマトーデス

著者: 本間光夫 ,   市川陽一

ページ範囲:P.733 - P.736

症 例1)
 患 者 22歳,女子.
 家族歴 同胞9人.うち2名,腎炎に罹患.

慢性関節リウマチ

著者: 延永正

ページ範囲:P.737 - P.739

症 例
 患者 田○信○,51歳主婦.
 主 訴 多関節痛.

多発性または皮膚筋炎

著者: 鈴木秀郎

ページ範囲:P.740 - P.742

症例
 患者 H. H. 26歳,男,会社員.昭和43年初めより,両側上下肢筋の脱力が徐々に出現,そのため同年5月某病院に入院,進行性筋萎縮症と診断され,治療をうけたが軽快せず,診断と治療のため6月10日当科に入院した.

汎発性強皮症

著者: 石川英一 ,   田村多絵子

ページ範囲:P.743 - P.745

症 例
 患者 林○シ,49歳,女.
 現病歴 昭和47年夏頃(48歳)から右下腿伸側に浮腫感をおぼえたが,とくに治療をせず放置しておいたところ,次第に両下腿におよんできた.またこの頃から月経が不順になってきた.翌年4月頃から手のこわばり,しびれ感ならびに下腿の皮膚が硬くなったのに気づいた.全身症状はない.初診時,顔面やや浮腫状,指,手背は浮腫性硬化を,前腕は浮腫性,また下腿から足背にかけては浮腫性硬化を認め,舌小帯の短縮が顕著であった.

橋本病と特発性粘液水腫

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.746 - P.748

症 例
 患 者 T. S. 37歳男.
 主 訴 昭和43年6月13日,巨大なび漫性甲状腺腫を主訴として来院した.自覚症状はとくになく,来院する1週間前に家族のものに前頸部の腫大を指摘されてはじめて気がついた.

自己免疫性溶血性貧血

著者: 有森茂

ページ範囲:P.749 - P.751

症 例
 患 者 62歳,男性.
 主 訴 全身倦怠感,食思不振と体動に際しての胸部絞扼感.

特発性血小板減少性紫斑病

著者: 安永幸二郎

ページ範囲:P.752 - P.754

症 例
 患 者 T. O. 19歳,女.
 主 訴 鼻出血,歯肉出血および皮下出血斑.

潰瘍性大腸炎

著者: 丹羽寛文 ,   平山洋二

ページ範囲:P.755 - P.757

症 例
 12年の長期にわたり経過を観察し得た症例を提示する.経過表は初回治療時および再燃時のものである.
 患 者 初診時43歳,女性.

グラフ

Sjögren症候群

著者: 浅川英男

ページ範囲:P.758 - P.760

 Sjögren症候群はスエーデンの眼科医,H. Sjögren1)により初めて詳細に記載報告されてから既に40年になる.涙が出ない,眼がゴロゴロする,唾液が出にくいといった症状が顕著になり,他方関節痛を訴えるということで医師を訪れる.患者は多くは40歳以上,女性に圧倒的に多い.筆者の自験例24例中,男性は1例にすぎなかった.
 この疾患はその後の研究により,涙腺,唾液腺のみならず,その他の外分泌腺が主としておかされること,1948年B. Jones2)により患者血中に涙腺・唾液腺抽出液に対する沈降抗体が発見された.その後さらに臓器特異性,非臓器特異性抗体が証明され,本症候群が免疫学的機序の介入によって発症する可能性が示唆されるに至った.現在眼科医,口腔外科医,内科医,免疫学者の注目を浴びている疾患である.

心筋硬塞後症候群

著者: 成沢達郎 ,   伴良雄 ,   井上豊祐

ページ範囲:P.761 - P.764

 心筋硬塞後症候群とは,心筋硬塞発症後通常2ないし11週後に起こる①心包炎,②胸膜炎,③肺炎を3徴とする症候群である.この3徴がそろえば最も典型的であるが,2つの組み合わせ,あるいはいずれか1徴候のみを示す場合もある.
 患者 45歳,男,教員(図1参照)

X線造影のみかた 消化管・3

十二指腸

著者: 白壁彦夫 ,   黒沢彬 ,   高木直行

ページ範囲:P.784 - P.791

十二指腸球部
 十二指腸球部も,そのほかの十二指腸部も,胃検査の一部として胃検査に引き続いて行なうもので,欠かせない.とくに,慢性膵炎をひろい上げ,膵癌を今までよりも早く発見することが大切になっているいま,なおさらのことである.
 写真さえ写しておけばそれでよいのだ,あとで写真をみれば病変が写真にでているだろう,とたかをくくっていては検査にならない.透視のときに所見を確かめ,病状を自分で十分に納得したあとに,証拠として写真をとるのだという心構えでないと確診はつかない.写真の撮り方でどうにでもなるものであるから,漠然とした気持で撮した写真では,質的診断がつかずに推定診断に終わってしまう.所見がよくみえるように体位を変換し,圧迫も加え,病状と所見を納得してから透視を終えるようにする.もちろんコリオパン注射で低緊張にして検査をしやすくする工夫を,どしどし取り入れることである.

カラーグラフ

目でみる自己免疫疾患

著者: 古谷達孝

ページ範囲:P.766 - P.767

 Medicina今月号のテーマは"自己免疫性疾患"の臨床であるが,これら諸疾患中には皮膚科学的にみて,また検査所見で極めて特徴的な所見を小すものがある.全身性エリテマトーデス,汎発性強皮症,皮膚筋炎,牡発性血小板誠少性紫斑病などがこれに当る.これら疾患の定型的,特徴的皮膚病変を知ることにより,その診断も容易に下し得る."seeingis believing"とはまことにいい得て妙である.
 このようなわけで前記諸疾患について定型的な臨床スライドを供覧し,併わせて諸氏論説と重複の惧れはあるが厚生省特定疾患疫学調査協議会および東京都衛生局において決定された前記諸疾患の診断基準(診断の手引き)を列記しておく(70頁参照).日常診療に際して多少ともご参考になれば望外の喜びである.

自己免疫疾患の診断基準(手引き)

著者: 古谷達孝

ページ範囲:P.770 - P.771

 厚生省特定疾患協議会および東京都衛生局において全身性エリテマトーデス,汎発性強皮症,皮膚筋炎,特発性血小板減少性紫斑病,慢性関節リウマチについての診断基準(手引き)が作製されているのでここに列記しておく.カラーグラフ(66ページ参照)とともに日常診療に際してお役に立てば幸甚である.

臨床免疫カンファレンス・6<最終回>

約3年間,肝腫脹,高γ-globulin血症および弛張熱が持続し,肝性昏睡で死亡した29歳の男性

著者: 三上理一郎 ,   織田敏次 ,   志方俊夫 ,   伊藤憲一 ,   堀内篤

ページ範囲:P.772 - P.782

症例 ○名○久 29歳 男性 会社員
 主 訴 発熱および倦怠感.
 家族および既往歴 特記すべきことはない.

ベクトル心電図講座・6

右脚ブロック

著者: 石川恭三

ページ範囲:P.793 - P.799

 右脚ブロック(right bundle branch block:RBBB)は,日常かなりの頻度で遭遇する心室内刺激伝導障害です.このRBBBはご承知の通り全く心疾患のない健康な学童や成人に,しばしば見られることから"先天的なもので全く心配のいらないもの"として,いわば"正常心電図波形の一亜型"として受けとられることすらあります.
 HisおよびLambらは,122,043人の正常人についての心電図波形を検討した結果,231人(1,000人について1.8人の割合)のRBBB保有者を見出しております1).ここで興味深いことは,16歳〜19歳までのRBBB保有者は,0.5人/1,000人で加齢とともにその頻度は高くなり,40〜44歳の年齢層では,2.9人/1,000人という高率を示しております.この加齢とともにRBBBの保有者が増加するということは,その発症メカニズムに,心筋の退行性変化,冠動脈疾患を想定せざるを得ないと思います.とくに,長期にわたる心電図のfollow up中に,洞調律からRBBBに移行したような場合,若年者の場合には炎症性の機転,また40歳以上の成人の場合には冠動脈疾患がその原因ではないかと疑ってみる必要があります.

医学英語へのアプローチ・3

病棟回診

著者: 高階経和

ページ範囲:P.802 - P.803

 今回は,病棟回診を読者の先生方とともにおこなってみたいとおもいます.

図解病態のしくみ

末梢神経筋障害

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.804 - P.805

 末梢神経およびそれにつらなる筋肉や感覚器は神経系の最末端に位置してはいるが,機能的には中枢神経と同等の重要さを持ち,当組織の正常な働きが失われれば中枢神経もその機能を発揮できなくなる.
 末梢神経 末梢神経は12対の脳神経と31対の脊髄神経から成る.脳神経は蝉,眼,耳などの特殊感覚器と頭部,顔面の皮膚,粘膜,筋肉を支配している.これに対して脊髄神経は頸から下の部分,すなわち上下肢躯幹の皮膚筋肉を支配している.両者ともその一部は自律神経として内臓機能にも関与していることは改めていうまでもない.

検体の取り扱い方と検査成績

消化管寄生虫の検査

著者: 浅見敬三

ページ範囲:P.806 - P.807

 腸管寄生虫病の診断には,糞便からの虫卵や虫体の顕微鏡による検出がもっとも信頼度の高い,しかも簡便で実際的な方法である.最近,活発に研究が進みつつあるとはいえ,免疫学的方法が糞便検査にとって代わるにはまだ相当の年月を要しよう.腸管腔に棲む寄生虫の抗体産成刺激の弱さや,微生物とは比較にならぬほど複雑な抗原物質構成などが,現存の免疫学的検査法の応用への大きな障害となっている.
 消化管寄生虫には蠕虫類と原虫類とがあり,前者では主に虫卵が,後者で虫体が検出対象となる.対象の相違のために両者の間には検体の取り扱い方や結果の意味づけにも相当な違いがある.

くすりの副作用

ジアゼパム

著者: 平井俊策

ページ範囲:P.808 - P.809

 ジアゼパム(商品名:セルシン「武田」,セレナミン「東洋醸造」,セレンジン「住友」,ソナコン「中外」,ホリゾン「山之内」)は,クロールジアゼポキサイドと同じく,ベンゾジアゼピン誘導体に属するminor tranquilizerであって,鎮静,緊張除去,催眠,自律神経安定,筋弛緩,抗痙攣などの諸作用のために,神経症,自律神経不安定症,筋緊張を伴う疾患,てんかん,各種精神疾患などに広く用いられていることは周知の通りである.

小児の処置

採血法

著者: 西村昻三

ページ範囲:P.810 - P.811

 小児の採血は,年齢によりかなり難易の差があるが,一番問題になるのは乳幼児の採血である.しかし,最近は各種の検査が微量化してきたため,一昔前ほど小さい乳幼児から成人と同量の血液の採血を要求されることは少なくなってきた.すなわち,毛細管血の採血により,すべての検査が行なわれる方向になりつつあるが,すべてが微量化されたわけではないので,その現状を考慮して,乳幼児期の採血法のうち,とくに日常臨床上必要と思われる方法につき解説することにする.

小児緊急室

咬傷

著者: 羽鳥俊郎

ページ範囲:P.812 - P.813

咬傷に対する一般的処置
 動物の口腔内には多種類の起炎菌が常在しているので,咬傷の処置に当たりその創傷が汚染されているものと考えておくことが妥当である.またその動物に特有な微生物または毒素が存在し,それにより特異的な感染症または中毒症をきたすので,咬傷の状態および受傷時の状況・環境等より加害動物を判断せねばならない.応急処置に際し,創周囲を手術時の皮膚消毒に準じて充分に消毒し,創内を微温滅菌生食水または蒸留水で洗浄して創縁・創底の切除によりdebridementを行なう.時に硝酸銀で焼灼し生食水で中和することもある.原則的には創を開放創とし,一次縫合は受傷後短時間でしかも顔面以外には行なわれずかつ推奨もできない.局所の化膿に続発して所属リンパ管炎・リンパ節炎を伴ったり,全身感染症として重篤な敗血症に至ることもあるので,予防的にも抗生物質療法を行なわねばならない.一般に人獣咬傷では破傷風の合併頻度は極めて少ないが,土壌等により創部が汚染されている例では,一般外傷と同様に破傷風トキソイド0.5〜1mlを皮下注射して予防措置を講じておくことは必要である.
 さらに患者の精神的安静と受傷局所の安静に努め,四肢では副子による良性肢位固定を行なう.また受傷部の出血およびショックに対処し,毒素にはそれぞれの抗毒素血清あるいはワクチン療法を即刻開始する.

婦人の診察

婦人と下腹膨隆,腰痛

著者: 橋口精範

ページ範囲:P.814 - P.815

 婦人が来診する場合,下腹部が膨隆したり,はってきたりするときは内科,腰痛のある場合は整形外科を訪れることが少なくない.しかし,原因がそちらになくて,産婦人科の疾患によって起こってきていることもあるので,一応考えておくべきものをあげてみる.

オスラー博士の生涯・20

滞欧中のオスラーからレジデントにあてた第3の手紙—1890年5月27日ミュンヘンにて

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.817 - P.819

 オスラーは3回目の欧州旅行先から,ジョンス・ホプキンス病院の5人の病棟レジデントにあてた手紙を送り,ドイツ,オーストリア,スイスの医学の消息を伝えている.
 前号には2通の手紙を紹介したが,本号には第3の手紙を紹介する.

診療所訪問

患者のニードから守備範囲をきめる—医療法人社団一ツ橋診療所長 守屋美喜雄先生を訪ねて

著者: 編集室

ページ範囲:P.820 - P.821

貧民街の診療所で
 —先生は昭和26年に慶応を卒業されて,すぐにスラム街にとびこまれたそうですが,当時のことを伺いたいのですが.
 守屋 当時のことは恥ずかしいので,あまり話したくないんですけれど,実は私,卒業する当時とインターンの終わり頃にスランプになりまして,はたして自分は医師として適格な入間かどうか迷っていました.その頃,慶応の衛生学教室にしばらくお世話になりましたが,いろいろいきさつがあってとび出しました.たまたまスラム街みたいな所の診療所にいた友人に,医者になるべきかどうか迷っているなら,とにかく,こういう所に来てやってみうといわれ,当時はまだ焼トタンの家なんかでしたが,それを1日に10軒も20軒も往診するような所に行きました.畳もなく電灯もつかないバラックに,ムシロを敷いて両肺穴だらけの肺結核患者がねていたりして,往診に行くと喜んで,かけた茶椀に水みたいなお茶をいれて,漬物を手のひらにとってくれたりするんですね.そういう仕事の中で,自分のような人間でも人のために役立つことができるんだなと感じて,医者になったわけです.

ある地方医の手紙・23

「けんじょも喰いてい!」

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.822 - P.823

W先生
 米国の病院で珍しく思ったものにpastoral careという制度があります.入院すれば誰もが不安と孤独に苛まれるのが人の世の常,そこで牧師さんが病人のベッドサイドを渡り歩いて患者の話相手になってやり,精神的慰めを与えるという,いかにもキリスト教国らしい発想による制度なのです.日本でも,このごろ,この制度を模倣しようとする動きがあるようですが,さてどんなものでしょうか?宗教に関心が薄く,仏教も神道も冠婚葬祭のためだけに存在しているような,わがエコノミックアニマルの経済「大」国の病人のベッドサイドを,坊さんが珠数をつまぐりながら渡り歩いたら一体どんな反応がおこるでしょうか?容易に想像できよう,というものです.たいていの患者は,「エンギでもない!俺の葬式の下準備にきたのか!俺は医者の世話にはなっているが,まだ坊主の厄介にはならん.とっとと出ていけ!」などと激怒するでしょうし,大体が看護婦にも十分な給料も払えず,十分な人数もそろえられない健保制度下の病院では,pastoral careなんてとても高嶺の花,法外なゼイタクとしかいいようがありません.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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