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雑誌目次

雑誌文献

medicina11巻7号

1974年07月発行

雑誌目次

今月の主題 肝硬変—今日の視点 肝硬変の問題点

肝硬変とは—病理の立場から

著者: 志方俊夫

ページ範囲:P.838 - P.839

 肝硬変症というものは本質的には形態学的な病名である.静止状態になった肝硬変症では何ら臨床的症状を示さず,また生化学的な肝機能検査でもほとんど異常を認めない症例もある.しかし,かかる症例でもいきなり吐血をおこす可能性を持っている.
 肝硬変症とは形態学的に

肝硬変とは—内科の立場から

著者: 上野幸久

ページ範囲:P.840 - P.841

 肝硬変は衆知の如く,肝炎ウイルス,薬剤,毒物,アルコール,栄養障害などいろいろな原因による肝障害の終末像であり,なかでもウイルス肝炎に由来するものがわが国では最も大きな比率(約80%と推定される)を占めている.病理学者あるいはそれに近い臨床家は本症と慢性肝炎との形態的鑑別および肝硬変の形態的分類,あるいはさらにその成因まで組織像から読み取ろうと努力している,しかしながら,われわれ内科医にとってはそれらの分類が臨床症状,検査成績の相違と対応し,治療あるいは経過予後の判断などについて有力なinformationを与えてくれない限り,分類そのものは余り大きな臨床的意義を持たない.
 甲,甲′,乙,乙′という分類,門脈性,septal,nutritional, Laennec, posthepatitic,アルコール性,壊死後性といったさまざまな分類ないし形容のしかたが世界各国で横行しており,しかもそれぞれの意味するものが学者によって必ずしも一致していない.このような事実は現行のどの分類も完全なものでなく,形態学はみる人の主観に強く左右され得るという宿命のあらわれであり,肝硬変を細かく分類することの意義についても懐疑的にならざるを得ない.

肝硬変の分類—とくに成因との結びつきについて

著者: 兼高達貳

ページ範囲:P.842 - P.844

 肝硬変を分類する立場は,形態学,組織発生,成因およびこれらの組み合わせの4通りが主なものである.純粋に形態のみの分類は最も単純明快であるが,実際上は扱いにくく実用化されていない.すべての肝疾患は,十分に長く持続し進行した場合は肝硬変になりうると考えられている.したがって,成因による分類は数が多くなり過ぎる上に,異なる成因で同一の病像を示すものが多いので実用に耐えない.胆汁性,心臓性,寄生虫性,ヘモクロマトーシスやWilson病などの特殊型肝硬変にのみ使用されている.一般的な肝硬変については,形態に組織発生や成因を加味したものが実用化されている.

肝硬変の疫学—昭和47年度全国疫学調査成績を中心として

著者: 松下寛

ページ範囲:P.845 - P.847

肝硬変への疫学的アプローチ
 わが国の肝硬変死亡は戦後漸増傾向を示してきたが,昭和43年以来,死因順位の第10位を占めるにいたり,悪性新生物,脳血管疾患,心臓病に次ぐ重要な成人病となっている.
 肝硬変の発生原因の解明を目的とする疫学的研究は,集団におけるその発生,蔓延の実態を正しく把握することからはじあられるが,この場合重要なのは明確な母集団の上に立った確実な症例を研究対象とすることであり,また,その疫学的解明に最も有用な情報として,本症罹患の全国的状況を把握することが最も要望されてきた.

肝硬変とHB(オーストラリア)抗原

著者: 大林明

ページ範囲:P.848 - P.849

 肝炎B(オーストラリア)抗原(HB抗原)は,現在のところ,肝炎B(HB)ウイルスの外被成分であろうといわれている.HBウイルスは急性肝炎のみならず,これの慢性感染によって慢性肝炎,肝硬変の発病を招くことは明らかであり,さらに原発性肝癌(ヘパトーマ)の発癌との関係が検討されつつある.
 HB抗原が慢性肝疾患に検出される頻度は報告者によって差があり,慢性肝炎,肝硬変とも30〜60%である.

アルコールは肝硬変の原因となりうるか

著者: 藤沢洌

ページ範囲:P.850 - P.853

 酒客が脂肪肝や肝硬変を伴いやすいことからアルコール性肝障害の存在が注目されてすでに久しいが,これがはたしてアルコール自体の肝毒性によるものであるか,あるいは酒客にみられる食事量の低下ないしは食事組成のかたよりによるものであるかについては,いまだ明確な結論が得られていない.最近アルコール性肝障害の発症に栄養障害は副次的な役割を果たすにすぎないとして,この論争に終止符を打とうとする意見もあるが,問題はそのように単純ではない.ここではアルコールの肝毒性の問題,常習大酒家にみられる脂肪肝と肝硬変の発症頻度のひらき,肝硬変の前駆病変としてのアルコール性肝炎などの角度から,与えられた表題に対し私見をのべる.

慢性肝炎はいつ肝硬変に移行するか

著者: 小田正幸 ,   古田精市

ページ範囲:P.854 - P.855

 肝硬変の成因には種々のものがあげられているが,本邦における肝硬変症についてはウイルス性肝炎から進展したと考えられる症例の頻度が高いとされている.従来cryptogenic cirrhosisといわれている,全く無症候性に経過し,初診時すでに完成された肝硬変と診断される症例についてはその原因が全く不明とされていたが,オーストラリア抗原(以下HB-Ag)の発見以来,これらcryptogenic cirrhosis例に高頻度に血中HB-Agないしはその抗体が検出され,このような症例の大多数がその出発点にウイルス性肝炎が関与しているものと考えられるようになった.
 一方,急性ウイルス性肝炎ないしは慢性肝炎例について腹腔鏡あるいは肝生検によって形態学的に肝硬変に進展していることを確かめられた症例も多数報告されている.しかし数多くの症例を十数年以上にわたって経過を観察することはきわめて困難な問題であり,筆者れも与えられたテーマに答えられる充分なデータの蓄積を未だ持ち合わせていないが,以下諸家の報告を併せて筆者らの経験例からこの問題について考察を行なってみたい.

肝硬変と肝癌

著者: 桜井幹己

ページ範囲:P.856 - P.857

 わが国の肝硬変は世界的に有名なフランスに匹敵するほどには多くないが,肝癌が合併する率は数倍多く,アフリカや,近くでは台湾のように,肝癌は多いが肝硬変との合併はわが国ほど高率でないなど,地理病理学的特徴がある1).わが国の肝癌の成因を追求するに当たっては,その約80%に合併している肝硬変の成因との間に深い関係があろうことは疑う余地がない.今回はオーストラリア(Au)抗原感染症と肝癌の形態を中心に肝硬変全般と肝癌の関係について論及したい.

肝硬変の予後

著者: 織田敏次 ,   鈴木宏

ページ範囲:P.858 - P.860

 肝硬変は進行性の病気であり,予後はたしかによろしくない.しかし,それにしても昔のままではない.治療法が改良されるにつれて,それなりの効果はあった.教室の昭和13年以降の統計成績をみても明らかである.
 もっとも,この程度で,満足できるといった予後の改善には程遠いのだが,昨今のように肝炎ウイルスに対するアプローチがようやく現実のものになってくれば,その見通しにも,ようやく明るさを感じさせてくれる.喜ばしいことである.

検査でどこまでわかるか

肝機能検査

著者: 鈴木宏

ページ範囲:P.861 - P.863

 肝機能検査は肝疾患の診断だけでなく,肝障害の発見,重症度の判定,経過観察および治癒判定などにも用いられている.ここでは日常用いられている肝機能検査の臨床的意義について簡単に述べるとともに,肝硬変の診断および重症度の判定に対する意義について述べることとする.

腹腔鏡検査

著者: 島田宜浩

ページ範囲:P.864 - P.866

 肝硬変とは形態学的に肝小葉構造の破壊と改築が肝のほぼ全域に及ぶものであるとされ,同時に,肝実質の機能低下とこれに対する代償現象の出現,および門脈高圧や肝血流量の減少など肝循環障害の出現が認められる.肝硬変症の病像はこれらの諸病変が集約したものと解釈される.したがって,肝硬変の腹腔鏡診断に対する研究の中心は,いかにすれば,肝小葉構造の異常を,正確に観察することができるかを考えることにあるといえる.

肝生検

著者: 市田文弘 ,   井上恭一

ページ範囲:P.867 - P.869

 一般に肝疾患の病態の把握,治療方針の決定,予後の予測などにおいて,肝生検は極めて有用な検査法の1つであり,肝硬変においてもまた例外ではない.ここでは最近7年間,当内科において肝生検による組織学的検索によって肝硬変と診断した93例を中心に,肝硬変における肝生検の意義についてのべる.

肝シンチグラム

著者: 河田肇

ページ範囲:P.870 - P.872

はじめに
 シンチグラフィーという検査は,本来,放射性同位元素を利用して,臓器のかたちを,マクロのレベルで非観血的に表現しようとする方法である.したがって,かたちの変化をきたすような疾病,たとえば肝臓の場合は,肝癌や肝膿瘍のような限局性病変の診断に用いられ,その意義が認識されていた.しかし,シンチグラムの画像をより詳細に検討したり,経時的に追及するか,あるいは画像集積にいたる過程を計数表現し,さらに分析することによって,肝硬変のように,肝臓をびまん性に侵す病変に対しても,その病態診断や予後推測に役だつ情報を提供できることがわかってきた.以下,筆者らの成績を中心に,肝シンチグラムの診断限界を展望しよう.

肝血管造影法

著者: 山本貞博 ,   秀村立五

ページ範囲:P.874 - P.875

はじめに
 医師の頭脳を必要としなくなるような,いわゆるスクリーニングテストを除外すると,どのような検査法であっても,その適用,分析,判定にあたっては,コンピューターでは決して真似することのできない医師の洞察力を前提にしている.
 血管造影法は,それを適切に応用するならば診断的に決定的ともいうべき重要な結果を提示する方法となり得るが,その反面で,一つ注意を怠るならば何時でも,重大な医療過誤として責められる危険性を内蔵した診断法だということができる.

グラフ

諸検査からみた肝硬変像

著者: 鈴木宏 ,   志方俊夫 ,   島田宜浩 ,   市田文弘 ,   河田肇 ,   山本貞博

ページ範囲:P.877 - P.881

 肝硬変は種々の原因による肝障害の終末像ともいえるものであるが,わが国でみられる肝硬変の90%以上がウイルス肝炎によるものである.脂肪性(あるいはアルコール性)肝硬変は欧米に多くみられ,わが国でもアルコール消費の増加とともに,近年,多少増加の傾向にあるが,まだ少ない.そのほかに,胆汁うっ滞に基づく胆汁性肝硬変,Wilson病,ヘモクロマトーシス,日本住血吸虫病などによる肝硬変があるが,ここでは主としてウイルス肝炎性のものについて述べたい.
 肝硬変の診断はまず臨床所見および肝機能検査成績に基づいてなされる.非代償性のものでは臨床所見のみでも確定診断が可能である.しかし,代償性でかつ非活動性のものでは硬度の増強した肝腫以外に臨床所見および肝機能検査になんら異常を認めない場合がある.また,これらの所見からは慢性肝炎,アルコール性肝障害などとの鑑別が困難なこともしばしば認められる.これらの鑑別診断には腹腔鏡検査および肝生検が役立つ.肝炎性肝硬変ではヘパトーマの合併が約50%にみられている.このヘパトーマの合併の有無の検査には,α-フェトプロテイン(AFP)の測定のほかに,肝シンチグラムおよび選択的腹腔動脈造影が役立つ.

肝硬変をどう扱うか

消化管出血の治療—内科の立場から

著者: 奥田邦雄 ,   小藤田和郎

ページ範囲:P.885 - P.887

はじめに
 消化管出血の中ではとくに食道静脈瘤の出血が問題である.
 食道静脈瘤破裂による出血は,上部消化管出血の2〜4%を占めるといわれるが1),肝硬変症においては,その頻度もはるかに多く,致命率も極めて高い.またそれが直接死因とならない場合でも肝不全を誘発し,予後を著しく悪化させるので,救急ないし待期対策はもちろん,予防対策,ことに予後の見通しとそれによる手術適応の判定が重要である.以下,とくに危険な食道静脈瘤破裂による出血の対策を中心に述べる.

消化管出血の治療—外科の立場から

著者: 井口潔

ページ範囲:P.888 - P.889

 肝硬変症に起因する消化管出血としては,食道静脈瘤出血,胃十二指腸潰瘍,びらんよりの出血,末期重症例にみられるびまん性の消化管出血などが挙げられるが,外科治療の立場から,もっとも重要なのはいうまでもなく食道静脈瘤からの出血である.しかも,肝硬変性食道出血の頻度は近年急激に増加し,肝硬変症死因の1/3近くを占めるにいたっており,一方,治療面からみても,肝障害高度なため,その予後極めて不良であり,肝硬変症治療上,重要な問題ということができる.
 したがって,外科の立場から,食道静脈瘤出血の治療について,具体的にのべてみたい.

肝不全の治療

著者: 平山千里

ページ範囲:P.890 - P.891

 肝硬変症における肝不全症状とみなされているのは,肝性昏睡,腹水,消化管出血,腎不全などであり,これらの症状は重篤な予後を示唆するため,正確な治療方針をたてることが必要である.これらの肝不全症状は独立してあらわれるよりも,相互に関連して出現する場合が多いが,代表的な症状とみなされているのは肝性昏睡である.
 一般に肝硬変症に出現する肝性昏睡は,門脈大循環性脳症のカテゴリーに含まれるため,劇症肝炎などに比べ慢性に経過し,また治療しやすい特徴をもっている.すなわち,本症は消化管内の中毒性因子の生成や吸収を抑制することによりコントロールしうる場合が多い.すなわち,一般論的にのべると,肝不全の対策は増悪因子の除去とならんで,消化管対策,さらに中毒性因子の除去または拮抗などの点に要約することができる(表).

腹水の治療

著者: 原田尚

ページ範囲:P.892 - P.893

 腹水は肝硬変症の重篤な末期症状の1つであり,食道静脈瘤からの出血,肝腎症候群,腹膜炎などにひきつづいて出現することが多い.肝硬変症の予後を左右する因子として腹水の有無は大いに重要であり,筆者の報告1)では肝硬変症132例中有腹水群は1年以内に33%,3年以内に52%が死亡するのに対し,腹水(-)群の死亡率は1年以内に12%,3年以内に23%と著しい差が認められている.
 腹水貯溜の原因としては,①門脈高圧症,②低アルブミン血症,③腎尿細管の再吸収障害,④腎の高アルドステロン効果,⑤エストロジェン増加などがあげられるが,通常これらは単独でくることはなく,いくつかの相乗作用によるものと思われている.したがって,肝硬変症末期における本症状の治療はきわめて複雑で困難なことが多い.

肝硬変患者の社会復帰基準

著者: 太田康幸

ページ範囲:P.894 - P.897

はじめに
 肝硬変患者を社会復帰させようとする場合,われわれは以下のような前提条件の上に立っていることを考えておく必要があろう.まず第1は,患者自身が社会復帰を希望しているということ,少なくとも意識下にそういう希望をもっているという前提である,第2は,肝硬変患者では治癒ということは所詮期待できないまでも,機能の上では代償されるという前提に立っているということである.そして第3は,社会ならびに患者の家庭環境が患者の社会復帰を求め,援助ないし庇護するという前提である.患者は社会的には生産年齢であり,家庭では家族扶養義務をもつ年齢であることから,このあたりの事情は十分納得されよう.
 したがって,肝硬変患者の社会復帰の基準を設けるということは,これらの前提条件をふまえた上で,ひとつの物指しを作ることであろう.そして当然のことながら,この種の基準は絶対的なものではなくて,おおよその目標を設定するという性質の内容にとどまることであろう,本稿では筆者の自験例から得られた資料と,昭和48年12月3日,第8回日本肝臓学会西部会でのパネルディスカッション,「肝硬変症の予後と社会復帰」において,パネリストたちが発表された成績を引用しながら,肝硬変患者の社会復帰の基準について述べてみたい.

座談会

肝硬変の治療

著者: 原田尚 ,   杉浦光雄 ,   亀谷麟与隆 ,   鈴木宏

ページ範囲:P.898 - P.907

 肝硬変症と一口に言っても,病因は複雑で,またその診断も臨床所見のみではむずかしいことが多く,種々の検査によって初めて明らかになる.
 同様に,その病像は肝障害の終末像といえるもので,さまざまなvariationを伴い,治療に際しても食事療法から緊急手術を要するものまで,症状に応じて臨機応変に行なわねばならない.
 今回は,肝硬変症の診断,治療から,予後および社会復帰の問題まで,内科,外科の立場から,広くお話いただいた.

内科関係学会の話題

肺の末梢病変の診断法が焦点—第14回日本胸部疾患学会総会から,他

著者: 田中元一

ページ範囲:P.908 - P.913

 呼吸器疾患の多くは,X線検査,呼吸機能検査などさまざまな診断法を駆使することによって,診断が容易となってきているが,それでも現在なお解明の容易でないものに,細気管支以下の肺の末梢部分の病変がある.今回の本学会の焦点は,これらの問題に向けられていたといってよいであろう.横山博士の「肺の末梢領域における呼吸障害」は正にそのものについての特別講演であり,「大気汚染と呼吸機能障害の評価」も,そのほとんどが末梢気道病変の早期発見の方法論についてのシンポジウムであった.またこれら末梢領域に限局あるいは初発する疾患の1つは間質性肺炎であり,他は細気管支炎であって,これらの2疾患はまた今回はじめての試みであった本間教授司会のクリニカルカンファレンスの症例となっていた.
 間質性肺炎には,膠原病,ブレオマイシンなど薬剤の副作用あるいは放射線治療などの原因あるいは基礎疾患の明らかなもののほかに,原因不明のものがあり,後者のうち急性に経過する型はいわゆるHamman-Rich症候群といわれるが,最近比較的慢性の経過をとるものが増加しつつある.いずれも肺間質の線維化が著しく,最終的には広汎な肺線維症ともいうべき状態に陥り,予後は極めて不良とされている,これら一群の疾患は,急性あるいは慢性びまん性線維化性間質性肺炎と呼ばれるようになってきている.一方,細気管支炎は本間,谷本らの提唱したびまん性汎細気管支炎を含めて,比較的細気管支に限局したびまん性疾患として認識されている.これら2疾患はいずれも呼吸困難を主症状としているが,その診断は困難のことが多く,最終的には肺生検によらなければならないといわれてきた.

medicina CPC

青年時代より左自然気胸を頻発し,根治手術施行後約1年目,血痰,呼吸困難,左胸背痛および胸部X線上,左上肺野に異常陰影の出現した65歳の男性

著者: 岡安大仁 ,   金上晴夫 ,   伊藤和彦 ,   太田怜

ページ範囲:P.914 - P.925

症 例 患者:男65歳 ハイヤー運転手 ヘビースモーカー
 主 訴 呼吸困難,左胸背痛,血痰
 家族歴 特記すべきことなし

ベクトル心電図講座・7

左脚ブロック

著者: 石川恭三

ページ範囲:P.926 - P.931

 左脚ブロック(Left bundle branch block:LBBB)の際に,左室へどのような経路を経て上方からの刺激が伝播されるかということは,興味のある点です.Sodi-Palloresらは,心室中隔にはこれを左右に分ける"Electrical barrier"があるために,中隔内での右→左への伝導は遅れるとしています.Beckerらは,刺激は心室中隔をmuscle-to-muscle conductionでゆっくりと右→左へと伝わってゆくとしています.また,Grantらは,ブロック側で刺激伝導系から心筋に刺激が"escape"され,その刺激がmuscle-to-muscleconductionされるとしています.これらの詳細については,ここでは述べませんが,興味のある方はR. C. Scottの"Left bundle branch block-A clinical assessment, part 1."(Amer. Heart J.,70:535, 1965)を参照してください.
 LBBBでも,RBBBと同じように4相に分けて,心室内興奮伝播過程を見ていくことにします(図1参照).

アルコールによる臓器障害・6

アルコールと胃腸

著者: 石井裕正 ,   陶山匡一郎 ,   丸山圭一

ページ範囲:P.932 - P.936

 経口的に摂取されたアルコール性飲料は食道を経て胃粘膜に直接到達する.したがって,胃粘膜は生体の諸臓器のうちで,最も高濃度のアルコールに暴露される部位であり,急性出血性胃炎をはじめとする諸病変を惹起する因子としてアルコールは日常臨床上,重要な意義をもっている.

医学英語へのアプローチ・4

心臓病患者の診かた

著者: 高階経和

ページ範囲:P.938 - P.939

 今回は,心臓病患者の診かたを読者の先生方とともにステップIから始めてみましょう.リウマチ熱の病歴のある患者という想定のもとに診察をすすめて行きましょう.

図解病態のしくみ

呼吸器感染防御のしくみ

著者: 岡安大仁 ,   池田種秀

ページ範囲:P.940 - P.941

 呼吸器は直接外界に接する臓器であるので,病原体の侵入の絶えざる危険にさらされている.鼻腔・咽頭には幾多の病原性および非病原性の細菌が常在しているが,喉頭下では一般には無菌状態とされている.ここに呼吸器感染防御機構の謎を解く鍵がかくされていると思いたい.
 呼吸器感染防御のしくみを,物理的機構と化学的および細胞・免疫学的機構の2つに分け,概略を述べてみる(図対比).

検体の取り扱い方と検査成績

感受性検査

著者: 小林章男

ページ範囲:P.942 - P.943

病原菌の決定と感受性検査
 検査室では患者の病状をみていないので,分離された菌から病原菌を選び,感受性検査を行なう際,安全率をかけて多少病原菌としては疑わしくとも感受性検査を行なってしまう.たとえば,尿で104/ml以上の菌が分離されれば,また痰から緑色連鎖球菌,ナイセリヤ属,非溶血連鎖菌以外の菌がかなり多数でた場合も一般に病原菌とみなす.血液,髄液,膿からは菌が分離されさえすれば,ふつう病原菌として感受性検査を行なう.したがって,臨床医は感受性検査の行なわれた菌をすべて病原菌とみなすことなく,必ず患者の病状,検体採取の事情も考えて病原菌かを自ら決定し,感受性検査成績を利用すべきである.漫然と検査成績を信じ,抗菌剤を乱用すべきでない.

くすりの副作用

エリスロマイシンエストレートの肝障害

著者: 清水喜八郎

ページ範囲:P.944 - P.945

 エリスロマイシンエストレートはエリスロマイシンプロピオン酸エステルのラウリル硫酸塩であるが,そのものの市販名が,アイロゾンであることが意外と知られていないという奇妙な現象があるようである.つまりエリスロマイシンエストレートには,肝障害があるという事実は知っているが,アイロゾンにあるということは必ずしも知られていないのではないかと考えられる面もある.このことは本誌10巻7号における座談会において石引博士が,市販名と一般名の関係が正しく理解されていないことをのべられているが,確かにそのような事実も存在する.このことと関連性はないのかもしれないけれど,この薬剤の使用が年年増加していることも,1つの不思議な現象と考えざるをえない.

小児の処置

採尿法

著者: 篠塚輝治

ページ範囲:P.946 - P.947

とのようにして採尿するか
 1)ささげれば排尿する乳児であったら,あらかじめきれいに洗い,乾かした便器などに採り,これを試験管に入れて持参させる.
 2)「おむつ」でなければ排尿しない乳児では工夫を要する,乳児を診察しようとして「おむつ」をひろげると2〜3分して排尿することが多い.これを利用して診察の時,きれいにした膿盆などに採尿できることがある.

小児緊急室

呼吸困難

著者: 本間道

ページ範囲:P.948 - P.949

 呼吸困難は小児の日常の診療においてよくみられる臨床症状である.救急の患者として呼吸困難を訴えて来る場合や,ある病気の経過中に呼吸困難を訴えるようになることなどさまざまであるが,後者の場合は予め疾患がわかっていることが多いから,起こることが予測でき,あわてることは少ない.前者の場合は,突然でもあり,家族の者もあわてているので,既往歴を聞いても正確に答えられないことが多く,つい当方も患者側にのせられて,あせりの気持が生じ適切な治療を行なうのに時間がかかることがある.
 これに対処するには,当方(医師側)の気持を鎮めてかかることが大切で,そのためには,どのような場合に呼吸困難が起こり得るか,乳児,幼児,学童のそれぞれの年齢において,呼吸困難が起こりやすい疾患としてはどんなものがあるかなどを,日常,簡単に整理しておく必要がある.

婦人の診察

婦人と不定愁訴

著者: 橋口精範

ページ範囲:P.950 - P.951

 婦人を診察する場合,とくに異常と思われるところがないのに,種々の不定愁訴を訴えて訪ねてくるものがある.
 一般には,内科や精神科,神経科などを訪れるものが少なくないと思うが,産婦人科にみえるものもある.

オスラー博士の生涯・21

内科学テキスト執筆のころ—1890〜1892

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.953 - P.955

 オスラー博士は1889年にボルチモアに帰ってから,ジョンス・ホプキンス大学の医学部の基礎をつくるために,まず,ジョンス・ホプキンス病院の構成と教育,診療活動に最善を尽くした.しかし,経済的不況のため大学設立に日時を要したので,1890年6月から,彼が「4年毎の脳の塵払い」といっている4カ月間の欧州視察旅行を行って多くの見聞を得て帰国したのである.

診療相談室

潰瘍性大腸炎の軽快後の予防法

著者: 吉田豊

ページ範囲:P.960 - P.960

質問 潰瘍性大腸炎の軽快後の予防法,とくに副腎皮質ホルモンの使用量と維持量の間題についてご教示ください.(大阪府 T生 57歳)
 再発の予防には,緩解があくまでも完全緩解であることが要求されますので,まず副腎皮質ホルモンによる治療法から述べたいと思います.

七条の甲状腺腫の分類

著者: 柁原昭夫

ページ範囲:P.961 - P.961

質問 甲状腺腫に,七条の分類というのがあると聞きますが,具体的に教えてください. (青森県 Y生 53歳)
答 甲状腺は成人では平均20g程度で,これ以上に増大してこないと前頸部で甲状腺腫としては触れないとされている.

新設医大訪問・自治医科大学

新しいカリキュラムによる医師づくり—自治医大内科 高久史麿先生に聞く

著者: 編集室

ページ範囲:P.956 - P.958

各県下から英才を集めて
 自治医大も,創立3年目に入り,この4月には付属病院も開院になったと伺っております.来年からいよいよbedside teachingも始まるわけですが,こちらではどんなドクターを育てようとなさっているの。かを伺いたいと思います.まず日本の全県下から学生さんが選抜されてくるわけですが,どんなシステムで選抜が行なわれるのでしょうか.
 高久 この大学の入学のためには一次試験と二次試験があり,一次試験は各県で行なわれています.一次試験では学科と面接の両方が行なわれていまして,そこで,各県毎に6人から8人.全体で400人前後が選ばれます.その人たちがこの大学で二次試験を受げるわけですが,ここでも学科と面接の両方を行ないます.その結果,各県ごとに2人ないし3人を選抜します.

ある地方医の手紙・24

「ニセキチガイ」の告白

著者: 穴澤咊光

ページ範囲:P.962 - P.963

W先生
 正常人が精神病者の真似をするというのは至難の業だそうで,たいていどこかでボロがでるのがオチだそうですが,この話はこれに成功してマンマと戦場行きを免れたと称するあるアメリカ青年の体験談です.

洋書紹介

—H. I. Russek:編—Cardiovascular Disease:New Concepts in Diagnosis & Therapy

著者: 本間達二

ページ範囲:P.872 - P.872

要を得た論文集
 本書は,第5回のSymposium of the AmericanCollege of CardiologyをH. I. Russek教授がまとめたものである.前回のSymposiumをRussek & ZohmanのまとめたCardiovascular Therapy,The Art and the Scienceがかなりまとまった良い本であったので,本書も興味深く読みおえた.
 65人の執筆者が分担して,11の大きな項目を分けて論じているが,Russek教授の専門がら虚血性心疾患に関する項目のウエイトがやや高いようである.しかし,治療や外科的方面に関しても必要な項目については,かなりのページ数をさき,要をえた論文集としてまとめられている.

Fenton Schaffner, Sherlock & Carroll M. Leevy (ed.):The Liver and Its Diseases

著者: 高橋忠雄

ページ範囲:P.897 - P.897

現在の肝臓病学のベストメンバーをそろえる
 この本は,Hans Popperの70歳の誕生を祝い,彼の永年の肝臓学への功績に対して捧げるべく編集されたものである.Hans Popperの名は,およそ肝臓および肝疾患に関心を持つ人なら,おそらく知らない者はないと思う.過去4分1の世紀に亘る,彼の肝臓学における業績もさることながら,私は彼がこの間に,アメリカのそして国際の肝臓学会を樹立し,世界の新進の肝臓学者に,大きな刺激を与え,肝臓学を真の体系づけられた学に成長させたことを知っている,彼との長い間の友である私にとっては,まことにうれしく,心からの讃辞をのべたい気持である.
 この本は大きくわけて3部から成り立っている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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