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雑誌目次

雑誌文献

medicina11巻8号

1974年08月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医に必要なバイオプシー

生検の必要性

著者: 木下康民

ページ範囲:P.978 - P.979

生検の定義と手技の種類
 臓器生検(以下,生検と略す)とは文字通りにいえば,生体の一部を検査の目的をもって採取することである.したがって,てれの行なわれる領域は広く臨床各科にわたるが,手技の面からいえば,目的臓器の一部を手術的に採取する手術的方法と非手術的方法の2つに大別できる.前者は,たとえば開胸肺生検とかリンパ節の摘出などである.後者には主として行なわれる経皮的方法のほか,特殊な方法として,肺のような特定臓器にあっては胸腔鏡下とか経気管支性の肺生検があり,胃腸ではbrushingという方法が行なわれる.経皮的生検として最も日常行なわれているのは腎と肝であるが,これらはいわゆる盲生検blind biopsyであり,臓器の正確な位置を確認した上で行なわれる.また非手術的生検法には臓器に穿刺針を刺入して切片を採取するのに吸収によるaspiration biopsyと切片を切りとるpunch biopsyがある.腎の場合についていえば,前者の代表的な針は先端が円鋸になったTurkel針であり,後者の代表的なものはVim-Silverman針である.

生検の限界

著者: 金子仁

ページ範囲:P.980 - P.981

 生検の定義は「患者の病的部分を外科的に摘出し,組織学的に検索するてと」である.病理学的検査法の1つであるが,その限界を知るためには他の病理学的検査法である細胞診と剖検との比較,さらに他検査法との比較を最初に記載せねばならない,ここで述べる生検は日常検査で使う意味の生検であることをあらかじめお断りしておく.

生検で何がわかるか

著者: 波多野道信 ,   春田一典

ページ範囲:P.982 - P.987

 腎生検の臨床面での応用は第1にその疾患の診断情報を得ることにあり,また第2に現在なお不明な病因を鮮明に有ることにある.すなわち,
 1)診断情報に:蛋白尿,血尿,高血圧等,腎症候の組織学的背景,治療効果の予測,予後の判定に資するものである.

著者: 朝長正徳

ページ範囲:P.990 - P.995

 筋生検は神経筋疾患の診断に極めて有用な検査法の1つとして,この10数年間にとくに盛んに行なわれてきた.神経系検査法の中では比較的苦痛が少なく短時間で行なえる利点を有しており,しかも生検によりはじめて診断される疾患さえあるほどである.一方,採取し検索される筋片は全体からみると極めてせまい範囲のものに過ぎず,その中から価値あるインフォーメーションがすべて得られるとは限らない.すなわち,ての方法はあくまでも臨床的観察の補助診断法の1つと考えないと大きな誤りを犯すことになる.そてで,どのようにしたら1回の筋生検を最も有効に行なえるか,それによりどのような所見が得られるか,について以下筆者の経験を中心にのべる.

著者: 安部井徹

ページ範囲:P.996 - P.997

 今日では,肝生検の第1の目的が肝の組織学的検索にあるように考えられ,確かにこの目的で肝生検が行なわれることが多いが,1883年にPaulEhrlichがはじめて肝生検を行なったのは,面白いことに,糖尿病患者の肝のグリコーゲン量を知るためであった.次いで熱帯地方の肝膿瘍の診断に肝生検が盛んに行なわれたといわれる.したがって,肝生検で何がわかるかとなると,死後という限られた条件ではなく,あらゆる疾病の,あらゆる過程のある時点における,肝の病理組織学的,細菌学的,生化学的変化のすべてを把えることができるといっても過言ではないであろう.ただ,生検可能な状況に制限があり,採取される組織片の大きさに限りがあり,採取の回数にも限りがあるから,おのずから制限をうける.
 今日一般に行なわれている肝生検の目的を大別すると,①黄疸患者における内科的および外科的黄疸の鑑別,②無黄疸性肝障害の診断,その中でとくに③肝細胞のびまん性変性疾患の診断,および④臨床研究における生検材料の応用の4つに分類することができる.さらに細菌学的検索や生化学的微量定量などをあげることができるであろう.

皮膚

著者: 野波英一郎

ページ範囲:P.998 - P.999

目的
 皮膚生検を行なって病理組織学的検査を行なうには2つの目的がある.すなわち,①皮膚病変の肉眼的臨床診断の確定あるいは裏付けとして行なう場合と,②皮膚病変の発生,代謝,変性など,特殊検査や疾患の本態的研究を行なう場合とである.
 前者はroutine検査として臨床診断を確定する上に高い価値を有しているが,一方組織検査のみから診断できるのは腫瘍,母斑,沈着症,特異的肉芽腫,一部の反応性疾患などに限られ,おのずからそこに限界がある.

末梢神経

著者: 福原信義

ページ範囲:P.1000 - P.1001

 近年,各種神経疾患の診断と病態生理の追求のため,末梢神経生検が比較的広く行なわれるようになり,その方法・成績についても,種々報告されるようになったが,生検を行なう前に,その目的と期待される結果について充分に検討しておかないと,単なる脱髄や軸索変性の存在を確認するようにとどまり,神経学的所見以上のデータは得られない.以下,筆者らのところで行なっている具体的な方法,注意事項を記し,参考に供したい.

骨髄

著者: 肥後理

ページ範囲:P.1002 - P.1003

 骨髄の生検というと,従来より行なわれてきた骨髄穿刺吸引法も一種の生検ではあるが,最近では骨髄組織像を観察するための生検法が種々考案され,ての方面の研究が多くなってきた1).骨髄穿刺吸引法は骨髄内細胞個個の観察には優れているが,骨髄より剥離吸引された細胞と血液との混合物を塗抹標本によって観察するので,骨髄のありのままの細胞を量的に観察することにはならないし,骨髄を構成する支持組織,脂肪組織あるいは骨梁などの観察はできない.またdry tapといわれる骨髄穿刺吸引不能例では骨髄の状態は観察ができない.さらに吸引された細胞が少ないような場合,それが手技不良によるものか,低形成を意味するのか,あるいは骨髄内の線維化を意味するのかは知りえなかった.

滑液膜

著者: 塚本行男 ,   山本真

ページ範囲:P.1004 - P.1006

 滑液膜は運動器官の一部としての特殊性の他に,間葉系由来の組織として,いわゆる膠原病の症状発現の場となることがあるとともに種々の代謝疾患,神経疾患,血液疾患とも深く関わりをもっている.
 関節疾患の診断のためには,局所所見の他にX線撮影,関節液の検査は必須の事項であるが,滑液膜はそれら関節疾患の主要な病変存在部位となっていることが多く,したがってその生検は間接的な手段によって得られない知見をもたらすことがある.

迅速組織診断

著者: 高橋正宜

ページ範囲:P.1007 - P.1009

 迅速組織診断の主目的は手術実施中,手術野に現われる病巣を速やかに顕微鏡的に診断し,外科的治療方針の決定や術式の変更を決める重要な意義をもっている.したがって,この検査は主に外科医にとって有力な手がかりを得る方式である.ただし,迅速診を広義の立場から捺印標本による細胞診に言及すれば,あらゆる穿刺生検において,とくに悪性腫瘍の有無に関しては直ちに判定が下され,手術の適応ないし化学療法の開始に進むことが可能である.

どうしても必要な場合

腎臓病

著者: 丹羽豊郎

ページ範囲:P.1010 - P.1011

 本邦で木下教授により経皮的腎生検法が創始されてからの20年を顧みると,本法によって腎臓病学がいわば洗礼を受けたかの感がある.爾来いくつかの新しい疾患単位が見出されたのみならず,従来と同一の術語もその内容に種々の改変が加えられ,これに伴う多少の混乱をも併せて今日に至っているのである.現代医学は疾患概念を原因論に求める傾向にあるが,この立場において形態学的な実証への要求はかえってたかまったといえよう.
 本稿において腎生検法がもたらした知見を概観し,実地臨床に関する適要を述べてみたい.

肝疾患

著者: 広田喜代市

ページ範囲:P.1012 - P.1014

 肝臓病の診断のためには肝機能検査のほか,針生検,肝シンチグラム,腹腔鏡検査,血管造影法,超短波検査などの特殊検査法があり,中でも針生検法は肝疾患の本質把握のきめ手としての意義をもつ.この針生検の臨床的適応についてはすでに先人の解説があるが,今回本稿においては「どうしても必要なばあい」を中心に,実地診療の立場からこれを見なおしてみる.

神経・筋

著者: 東儀英夫

ページ範囲:P.1015 - P.1017

 末梢神経ならびに筋の疾患はきわめて多岐にわたり,その鑑別診断と新しい疾患の発掘に生検は大きく貢献してきた.それだけでなく末梢神経・筋は全身性疾患の際に障害されることがまれでなく,時には末梢神経・筋の生検によって初めて全身性疾患が明らかになることも少なくない.本稿では,どのような症例に神経・筋生検が有用であるかという観点からその適応を述べる.

開胸肺生検

著者: 正木幹雄 ,   伴場次郎

ページ範囲:P.1018 - P.1019

 肺のびまん性散布性陰影をもつ疾患群は,その種類が非常に多いが,X線像による陰影の性状による分析の診断も容易ではなく,また,肺機能上の閉塞性や拘束性換気障害などの分類により,疾患を推測して診断するのも未だ適確とはいい難いものがあり,結局は現在では,確実な方法として,肺生検によりその肺の疾患の病理組織変化をとらえて正しく診断して,適切な治療を行なう以外にない.

消化器疾患

著者: 渡辺晃 ,   上野恒太郎

ページ範囲:P.1020 - P.1021

 消化管は内視鏡検査の発達によって小腸を除くほとんど全域が内視鏡直視下に診断できるようになり,生検も内視鏡観察時に必要に応じて,随時行なえるようになったので,消化管疾患診断における生検の必要性は近年著しく増大してきている.

造血器疾患

著者: 長谷川淳

ページ範囲:P.1022 - P.1023

 血液疾患では末梢血の検索によって診断可能な疾患も数多いが,骨髄穿刺ないし生検は何故必要なのであろうか.
 末梢血液像は骨髄・血液関門を経たあとの骨髄機能の表現であることを考えると,病的状態では骨髄の正確な状態を把握しなければ造血機能を正確に理解し,さらに正確な診断を下し得ないからである.

どこを生検するか

アミロイドーシス

著者: 荒木淑郎 ,   調輝男

ページ範囲:P.1024 - P.1025

 Amyloidosisとは,原因不明の代謝異常性疾患であり,病理学的には非定型的な無構造の硝子様物質(amyloidと呼ばれるCongo red陽性物質)が身体内の種々の臓器および組織に異常に沈着することを特徴とする.臨床症状は罹患臓器の障害のひろがりと程度によって多彩であり,生前診断の困難な疾患のひとつとされている.近年,生検診断の発達によって生前診断の報告例が次第に増加している.本稿ではamyloidosisの生検について方法およびその価値を筆者らの経験を含めて述べることにする.

サルコイドージス

著者: 山本正彦

ページ範囲:P.1026 - P.1027

 サルコイドージス(以下サ症)の確診には特徴的な両側肺門リンパ節腫脹(BHL),しばしば認められる眼病変(虹彩炎,網膜病変),表在リンパ節腫脹や皮膚病変(皮疹や皮下結節)などの臨床所見の他に類上皮細胞からなる結節(通常壊死は認めない)を生検またはクベイム反応により認める必要があるとされ,国際的1)にも臨床所見,クベイム反応,生検の3つ揃ったものをI群,臨床所見,クベイム反応のものをII群,臨床所見,生検のものをIII群とし,工群からIII群までを臨床所見のみのIV群と区別している.わが国でも厚生省特定疾患サルコイドージス班2)ではBHLを有し,他疾患が否定される時,またはBHLを欠き,2個以上の臓器組織に本症罹患が推定される時を臨床診断群とし,それに生検and/orクベイム反応のあるものを組織診定群として両者を区別している.したがってクベイム反応を行なうか,どてかを生検することが確診のためには必要となる.

SLE

著者: 大藤真

ページ範囲:P.1028 - P.1030

 SLEではどてをバイオプシーするかと問われれば,日常的な意味からは腎と皮膚と答えるのが常識であろう.その理由としては,SLEの病態の臨床表現はての両者において最も頻度が高く,しかも生検が容易であるからである.
 てのほか,SLE病変のみられる可能性のある臓器・組織としては,心,肺,肝,脳,筋などがあげられようが,このうち心と脳の生検はもとより不可能であり,肺の生検は不可能ではないが技術的に容易ではなく,肝と筋の生検は容易ではあるが必要性に限界がある.したがってSLEではどてをバイオプシーするかという主題に正確に解答するとすれば,第一義的には腎と皮膚,第二義的には肺・肝・筋と答えるべきであろう.

多発性動脈炎

著者: 深瀬政市

ページ範囲:P.1031 - P.1033

 多発性動脈炎(PN)とよばれる疾患については現在なおその病因はもちろん,病理学的所見についても多くの混乱がある。すなわちKussmaul et Maier(1866)による最初の報告以来,ごく最近までは本症は病理学的に多くの中または小あるいは両方の動脈の炎症,壊死ならびに動脈瘤を伴う1つの独立した疾患であり,臨床的にはこれらの血管障害によって惹起される多臓器の機能障害と考えられてきた.しかし最近では恐らくはその原因および発病機転を異にする疾患の集合体であって,ただ結果として壊死性動脈炎あるいは汎血管炎という病理組織所見を示すにすぎないもので,1っの独立した疾患ではなく疾患群であるだろうという考え方が次第に有力になってきている1).そうはいっても病理学的に壊死性動脈炎の像を示していても,多発性動脈炎に分類されない一群の疾患がある.たとえば結核性脳膜炎の病巣や肺硬塞症の場合のように原因が明らかで,二次的に血管炎を起こしているもの,あるいはSLE,慢性関節リウマチ,鞏皮症,血清病およびリウマチ熱などのごとく多発性の動脈炎や血管炎が存在していても病理学的にも臨床的にも独立した疾患と考えられている疾患などである.
 以上述べたことから明らかなように,PNは病理学的にも除外診断名である.したがって1ヵ所の小さな生検組織の所見のみでは,PNの診断を除外しうることがあっても,PNと確実に診断することはほとんど不可能であり,またたとえ数ヵ所に動脈炎の像を認める場合でも,局所に好酸球の浸潤が強くない場合にはPNの診断を保留すべきであるとされている1).現実には患者について数ヵ所の臓器あるいは組織を生検することができる場合は極めてまれである.したがってPNの診断をつけるためにはまずその臨床像の特徴を充分把握し,他の疾患を可能な限り除外せねばならない.しかしPNの臨床症状および所見は表1に示有ように本疾患に特異なものはなく,強いていえばその多彩さが特異といえる.したがってその臨床症状のみからはPNの疑いはおかれてもこれを確実に診断することは至難のわざであり,事実生検を行ないえなかった時代の本症の生前診断は欧米でも日本でも極めてまれである.てこに生検の必要性がある.

強皮症

著者: 皆見紀久男

ページ範囲:P.1034 - P.1035

 進行性強皮症(鞏皮症,PSSと略)は,皮膚の硬化を特徴として関節,筋肉,胸部,消化器,心,腎などの内臓器官を慢性に侵してゆく系統的な結合織の疾患と考えられ,その経過によって浮腫期,硬化期,萎縮期に分けられているが,各期が重なって判然としない場合が多く,初期と晩期に分けられることが多い.

特殊な生検

著者: 鳥居順三

ページ範囲:P.1036 - P.1037

 脳生検は他臓器の生検と異なり,技術的な問題以外に倫理的あるいは法的な問題をかかえている.このことは,脳が人間の最も高等な器官であり,さらに脳組織は再生しないのでその一部を取り去ることは,恒久的な障害を残す可能性があるというてとに起因している.
 しかしながら,てのような問題点をかかえながら,てれまで行なわれてきた脳生検は多くの新しい知見を得ることに貢献した.とくに電子顕微鏡による形態学的検査は,生検によって得られた標本からよく保存された組織が観察され,脳脂質症などにおける診断の精度が向上したといえる.

心筋

著者: 関口守衛 ,   今野草二

ページ範囲:P.1038 - P.1040

 心拡大がみられる,心電図が奇妙でありどうも普通の心臓病ではないらしい.このような直感を起こさせる症例に遭遇することがときどきある.この場合,心筋サルコイド症,アミロイドーシス,心筋炎,グリコーゲン蓄積症,筋ジストロフィー症などによる続発性心筋疾患のほかに原発性心筋疾患ないし特発性心筋症を疑う必要がある2,3).
 このような心筋の疾患に対し,肝や腎などと同様に生検診断が要望されたことは例外ではなく,開胸して心臓を露出して行なう方法や盲目的に体表面から生検針を穿入させるなど,大がかりでしかも危険の多い心臓生検が試みられたが,一般実用化にはいたらなかった.

胸腺

著者: 土屋雅春

ページ範囲:P.1041 - P.1043

 ここ数年間の進歩のうち,胸腺に対する概念ほど変貌の激しいものはない.今やBurnetのいうT-D System(thymus-dependent system)の異常を有する疾患群との関連において考える時代になっている.しかし,Thymology1)(胸腺学)は基礎医学を中心に華やかな発展をとげつつあるとはいえ,臨床においてどのように理解していけばよいのか迷う医家も少なくあるまい.
 縦隔鏡検査の開拓(Carlens,1959)は縦隔の直接的検索を可能にし,これはさらに胸骨後部の胸腺腫瘍の生検を可能にしたのみならず,その性状によっては,同一切開創から非腫瘍性病的胸腺の摘出可能なことを経験する契機となった.てこに頸部よりする胸腺生検法を述べ,胸腺組織の見方について記しておきたい.

専門医に聞く・19

高血圧と血清尿素窒素・クレアチニンの軽度上昇があり某病院で入院治療を受けていたが,さらに頭痛・めまいなど訴えて転院してきた52歳男子の例

著者: 中田不二男 ,   木下康民

ページ範囲:P.1044 - P.1046

患 者:52歳 男 商店主
 家族歴 父81歳で心筋梗塞のため死亡,母47歳で脳卒中のため死亡,兄1人,弟1人は現在健康であるが痛風に罹患している.

グラフ X線造影のみかた 消化管・4

小腸の潰瘍性病変

著者: 白壁彦夫 ,   高木直行 ,   河合信太郎

ページ範囲:P.1048 - P.1056

 小腸のX線像のうち,腸管や臓器の位置異常,機能異常,それに,盲管症候群,腸重積,腸捻転のような形態の異常などの諸像は,ポピュラーである.吸収不良症候群,腸壁内出血,腸管の浮腫などについては,造影診断の上からX線的な足がかりを得ようとする努力も,てれも造影診断の話題の1つである.
 次に述べるX線所見,すなわち,腸管の拡張,分節像,散布像,肥厚像,過分泌像などの所見を,病態に結びつける考え方も古くからある.てれらを,器質的所見と直結させる考え方が固定してきている.ところが,それらの所見の分析を腸間膜との相関において,逐一考察しなくてはなるまい.所見と病変との可逆性の証明は不可欠である.しかし,現実の問題として厳密な区別はできない面もある.ててに残されたままの問題がある.

ベクトル心電図講座・8

Hemiblock

著者: 石川恭三

ページ範囲:P.1057 - P.1060

 刺激伝導系は基本的には,右脚,左脚前枝,左脚後枝の3本のsystem,すなわちtrifascicularsystemとして理解されます.今回とりあげたテーマは,最近いろいろと問題となっているHemiblockについてです.Hemiblockとは,2本の左脚分枝(前枝と後枝)のうち,どちらかがブロックされた場合をいいます.てのHemiblockを充分理解していただくために,前々回(6月号),ならびに前回(7月号)の本講座で述べた刺激伝導系の解剖の項(付録)をもう一度見直していただきたいと思います.今回は誌面の制限もありますので,左脚前枝ブロック,左脚後枝ブロックの心電図についての一般的な説明は付録として記載し,てこでは左脚前枝ブロック(Left anterior hemiblock:LAH)に右脚ブロック(Right bundlebranch block:RBBB)が合併した場合のみについて解説します.
 このLAH+RBBBはtrifascicular systemのうちの2本がブロックされており,残りの1本,すなわち左脚後枝のみにより,かろうじて上方から心室への刺激伝導が行なわれているわけで,はなはだ不安定な状態といえます.もし左脚後枝にまで病変が及べば,完全両脚ブロックになり房室結節における房室完全ブロックと同じ病態像を呈するてとになります.確かに,このLAH+RBBBの症例の多くに,その臨床経過中にStokes-Adams発作を認あています.そのために,このLAH+RBBBは人工ペースメーカーの植込みの問題にもからんで,臨床的には大変重要な疾患といえます.以上のような理由から,ここではLAH+RBBBの症例をとりあげてみました.まず,ベクトル心電図のループ表示の特徴について述べることにします.

アルコールによる臓器障害・7

アルコールと糖代謝異常

著者: 石井裕正 ,   斎藤晴比古 ,   土屋雅春

ページ範囲:P.1061 - P.1064

 アルコールはカロリー源として1g7calを有すると同時に,薬物としても生体に作用し,その糖代謝に及ぼす影響は極めて複雑である.アルコールによる肝障害1,2)あるいは膵障害3)によって二次的に糖代謝異常をきたすことはよく知られているが,一方,アルコール自身が糖代謝に及ぼす影響の結果として,アルコールによる低血糖症やアルコールによる耐糖能低下をきたすてとが知られている.本稿ではカロリー源としてのアルコールのエネルギー代謝における意義,アルコールによる低血糖症,アルコールによる耐糖能の低下について,日常臨床上留意すべき問題点につき考察を加える.

医学英語へのアプローチ・5

心電図カンファレンス(ECG Conference)

著者: 高階経和

ページ範囲:P.1066 - P.1067

 心電図カンファレンスは,一枚のあたえられた心電図から自分の考—えている病態生理学的な考えを述べ,鑑別診断を行ない,心電図からどこまで臨床的データーに一致した所見が得られるかを繰り返し訓練する必要があります—本文の初めの質問の答はCが正解です.

図解病態のしくみ

抗核抗体と疾患1 抗核抗体の意義—SLEをめぐって

著者: 本間光夫 ,   富永教洋

ページ範囲:P.1068 - P.1069

 LE細胞現象が発見され,その血清因子が不溶性核蛋白と特異的に反応するγ-グロブリンであるてとが証明された.てれを契機として組織内各種成分と反応する種々の抗体の分析に大きな進歩がみられてきている.かつて抗核因子antinuclear factorsとして総称されていた一群の抗体群を,個個の抗体に分けて議論できるまでに至った進展過程に焦点をあてながら述べることにする.
 このような研究はある種の抗体が,①ある特定の病気の診断に役に立つ,②病気の活動性と関係している,③特殊な臓器障害の原因となっている,などのことがあきらかにされつつ進歩してきている.

検体の取り扱い方と検査成績

血液型検査と交差適合試験

著者: 竹中道子

ページ範囲:P.1070 - P.1071

 血液型検査と交差適合試験は輸血のための検査であり,まず患者と検体と伝票の一致の確認,あるいは供血者氏名,血液ビンとパイロットチューブの番号の一致の確認が必要である.これはどの検査でもいえるてとであるが,とくに輸血検査の人違いは人命に直結するてともあるので,十分な注意が必要である.抗凝固剤を用いることは,抗原抗体反応の原理と,血球保存の目的とから,利点と欠点があり,それぞれの場合に応じて取捨選択されなければならない.

くすりの副作用

鎮痛剤による血液障害

著者: 東島利夫 ,   塩川優一

ページ範囲:P.1072 - P.1073

 鎮痛剤には,麻薬性鎮痛剤と非麻薬性鎮痛剤がある.このうち内科領域で多用されるのは解熱,消炎作用を有する鎮痛剤で,いわゆる非ステロイド性消炎剤といわれるもので,サルチル酸系,ピラゾール系,インドール系,インダゾール系,フェニル酢酸系,ピリミジン系,アントラニル酸系,チェノピリジン系,およびその他これらの系に含まれないものとしてアザプロパゾンなどがある1).実際には,これらの薬剤の単独使用あるいは2種以上の併用,または2種以上の合剤として用いられたり,催眠剤や自律神経遮断剤などの併用あるいは合剤として用いられている.
 このように単に鎮痛解熱剤といっても,種類は多岐にわたっており,臨床医が個々の薬の副作用について全てを熟知するのは不可能に近い.今回われわれは,非ステロイド性消炎剤(非ス消炎剤)の血液障害について,本院で経験した症例を中心に報告する.

小児の処置

細管栄養(新生児,未熟児,一般)

著者: 中嶋健之

ページ範囲:P.1074 - P.1075

対象
 消化吸収の能力は正常であるのに,吸畷・嚥下の能力がない小児,たとえば未熟児,兎唇,口蓋裂,脳・神経疾患による嚥下障害などの小児が対象となる.しかし,疾患の急性期で一般状態が不良のもの,重大な心奇形のあるものなどでは慎重に行なう必要がある.

小児緊急室

鼻出血

著者: 飯沼寿孝

ページ範囲:P.1076 - P.1077

 小児の鼻出血は日常の臨床において頻繁に見かける症状である.幸いにも生命を脅かすほどの鼻出血は稀であって,筆者らの外来において鼻出血からの死亡例はない.問題は少量の鼻出血でも鼻汁や唾液と混じて相当の量にみえることと患者および家族が興奮し落ち着きを失ってしまうことである.鼻出血の原因,解剖などは後に述べることとし,実際に小児の鼻出血に遭遇したときの治療順序につき,耳鼻科医の見地から触れてみたい.

婦人の診察

婦人と月経(1)

著者: 橋口精範

ページ範囲:P.1078 - P.1079

 婦人を診察する場合,月経のことも念頭におかねば点らない.たとえば,嘔き気,嘔吐,食欲不振などのいわゆる胃腸症状がある場合,問診をしてみると無月経を伴っていて,妊娠初期のつわりの症状の1つであるということもある.また気分がいらいらしたりというてとも,月経になる前の症状としてみられるてともある.肩こり,のぼせ,めまい,冷えも更年期の症状として起てってきていることもある.
 このように,婦人を診察する場合,月経との関係をみることが,診断,治療に役立つことが案外ある.したがってここでは,婦人の診察と月経のことについてのべることにする.

診療相談室

検尿のテステープ中のpHについて

著者: 杉野信博

ページ範囲:P.1081 - P.1081

質問 検尿のテステープの中,pHを入れているものがありますが,pHは何のためにつけているのか,またその必要性についてご教示ください.(東京 S生)
答 テステープの蛋白による変色反応はpH指示薬が,同一pH溶液であっても蛋白を含む溶液と含まない溶液とでは,色調が異なるという,pH指示薬の蛋白誤差現象を応用したものであり,テステープの試験部は指示薬としてテトラブロームフェノールブルーとpHを3.0に保つため緩衝剤としてクエン酸が塗布してある.これによって蛋白濃度を測定しているもので極端なアルカリ尿(尿pH 8.0以上)では,試験紙上のpHを3.0に保てなくなり指示薬が青変し,蛋白が存在しなくとも,あたかも存在するかのごとく陽性反応と同じ色調を呈する.正常人の尿pHは4.8〜8.2まで変化するので,尿pHを同時に測定するてとにより強アルカリによる蛋白陽性反応を除外しなければならない.テステープによる尿pHとpHメーターによる尿pHの測定値を比較すると表1のごとくであり,テステープによる尿pH測定のときは,蛋白,塩類,温度,膠質などによる影響が入る.また,尿中の大部分のHは適定酸度,NH4の型で存在し,摂取食物の影響もあり臨床的意義は少ないが,表2に示すごとく,持続的に酸性またはアルカリ性を呈するとき,治療のために尿pHをコントロールするときに臨床的意義がある.

病院訪問

新しい地域医療のあり方をさぐる—八干代中央病院 鈴木憲輔院長に聞く

著者: 編集室

ページ範囲:P.1082 - P.1084

昨年9月,診療所から39床の内科病院に
 —先生は長い間,てちらで診療所をやっておられると伺っていたのですが,病院を開設されたというので,たいへん驚きました,いつ開院なさったのでしょうか.
 鈴木 昨年の9月ですから,まだ1年たっておりません.

ある地方医の手紙・25

過換気症候群余談

著者: 穴沢咊光

ページ範囲:P.1086 - P.1087

W先生
 今年になってMedicinaに2度も過換気症候群に関する記事がでましたね.心因性の過呼吸が原因で呼吸性アルカローシスをおこし,テタニーや脳血流量の低下による諸症状をきたすという,ての症候群の発生の機序については諸大家の名論卓説にまかせましょう.私がこてでいいたいのは,これが実地医家にとって日常ごくありふれた「喜劇的」疾患であり,若い女(とくに水商売)の病気だということです,男の過換気症候群というのは,発熱の場合のほかはきわめて稀で,私も女房に逃げられた若い板前がてれでテタニーをおてして担ぎこまれてきたのを経験しただけです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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