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雑誌目次

雑誌文献

medicina12巻10号

1975年09月発行

雑誌目次

今月の主題 アレルギーのトピックス

アレルギーの概念

著者: 堀内淑彦

ページ範囲:P.1450 - P.1452

 最近の免疫学の進歩により,アレルギーの概念も著しく広く解釈され,かつ免疫反応の多様性から分類されるようになった.しかし,アレルギー反応とアレルギー性疾患とは分けて考える必要がある.

アレルギーに関する基礎知識

組織レベルからみたアレルギー

著者: 重松秀一

ページ範囲:P.1453 - P.1455

 感作をうけた生体の免疫機構の活動によってもたらされる抗原抗体反応の病的発動のもようを形態学的にとらえようというのが本論の目的である。このアレルギー性炎症の組織像は,この基盤となる抗原抗体反応の起こったその時点から刻々と変貌,修飾をうける.ここではこのアレルギーを便宜的に4つにわけて,主にその初期の変化を中心に述べてみたい.

免疫担当細胞

著者: 矢田純一

ページ範囲:P.1456 - P.1457

 免疫担当細胞にはどのようなものがあるか,そしてそれらは免疫反応,とくにアレルギー反応にどのように関与しているかについて解説する.

IgEとレアギン

著者: 八倉隆保

ページ範囲:P.1458 - P.1462

はじめに
 気管支喘息や花粉症などのアトピー性アレルギー疾患の発現に関与する抗体はレアギン(reagin)とよばれ,Prausnitz-Küstner(P-K)反応により検出されていたことは周知のとおりである.しかし,この抗体は極めて微量で,通常の試験管内抗原抗体反応では証明しがたく,その実体については永らくの間不明のままであった.そしてそのことが,アレルギー学そのものを非常にあいまいなものにしていたといっても過言ではないぐらいである.
 しかし,1966年石坂公成,照子夫妻ら1)により,レアギンの活性がそれまでに判明していた免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM,IgD)のいずれとも関係なく,全く新しい免疫グロブリンに属することが発見され,この免疫グロブリンがIgEと名づけられた.非常に幸いなことに,すぐ翌年,スウェーデンのJohanssonら2)が初めてIgE骨髄腫症例を発見したこともあって,IgEとレアギンの学問は,その後にわかに急速な進展をみせている.

アレルギー反応に関与する化学物質

著者: 江田昭英

ページ範囲:P.1464 - P.1466

 アレルギーについての研究はこの約20年間に急速な進歩をとげ,アレルギー反応に関与する化学物質についても今日では数多くの物質があげられるに至っている.アレルギー反応はCoombs and Gell1)によりtype 1〜4に分類されているので,アレルギー反応に関与する物質もこれらの分類に従って分けられるべきである.ここではtype 1のアナフィラキシー・アトピー型の反応における化学的物質について述べることにする.

素因と遺伝

著者: 山田昭夫

ページ範囲:P.1468 - P.1469

 気管支喘息,花粉症,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎などの,いわゆるアレルギー性疾患は,家族内発症頻度が高く,遺伝的疾患と考えられているが,疾患そのものが遺伝するのではなく,これらのアルレギー性疾患に罹患する可能性,すなわちアトピー素因が遺伝するのである.これに関して,すでに1916年にCookeらは,花粉症,気管支喘息,じんま疹,血管浮腫,食餌性急性胃腸炎などの患者621例について調査し,①患者の家族にこれらの疾患を有する率は正常者に比べ著明に高いこと,②遺伝関係の強いものほど幼少期に発症しやすいこと,③特定の疾患を遺伝するのではなく,異種蛋白に対する反応性が遺伝するのであること,などを報告している1).アトピーの遺伝形式に関しては,家族内発症頻度により,さまざまの形式が推測されたが,報告者によって異なり,明らかにならなかった.しかし最近になってIgEの発見により,その遺伝が研究され,また純系マウスにおける免疫応答遺伝子(Immune response gene-Ir gene)の発見により,この分野の研究は急速に発展してきた.

最近問題となっているアレルゲン

著者: 信太隆夫

ページ範囲:P.1470 - P.1473

 今日,アレルギー性疾患の原因抗原やその症状の成立過程に関する研究は急速に進み,抗原のみに限ってもその全貌を限られた誌面に載せることは至難に近い.その理由は,抗原として,かつては有機物にもっぱら注意が払われていたが,無機物も広く原因としてみられること,simple chemicalとしていわゆる薬品以外の低分子物質も問題となってきているためである.極論すればわれわれの環境の全ての物質がアレルギーの抗原となり得るかもしれない.これは単にirritantとして働くだけでなく,sensitizerとして働く可能性があるからである.一方,アレルギー性疾患の生体側の反応過程は複雑であり,現在一応Coombs and Gellの4型に臨床的表現を求めてはいるが,この4型間にさえ交錯した機構を示している.
 アレルゲンとはレアギンに対応した言葉である.つまりⅠ型反応にのみ使われるべきであるが,アレルギーという全体像からみると,従来用いられていたアレルゲンなるものもⅠ型以外の反応に関与していることがわかってきた.しかしここでは,アレルゲンとしてⅠ型反応を呈するものを主にあげ,必要に応じて遅延型反応抗原にもふれ,またその若干の機序にもふれてみたい.

検査法

アレルギー検査の進め方

著者: 高橋昭三 ,   杉田玄

ページ範囲:P.1474 - P.1475

 いかなる疾患においても,医師が適切な治療を行いうるか否かは,正確な診断がなされたか否かにかかっている.
 いうまでもなく,ある疾患の診断は,その疾患が何であるかという鑑別診断と,その原因が何であるか,の2つの角度より検討されねばならない.アレルギー牲疾患では鑑別診断そのものは比較的容易であり,重要なのはむしろ原因の決定である.他の疾患と異なり,アレルギー性疾患では,その原因が多種多様であるのみならず,原因の決定がとりもなおさず診断のみならず直接治療とも結びつく度合いが大きいからである.

注目されている試験管内検査法

著者: 伊藤幸治

ページ範囲:P.1476 - P.1481

IgEの定量法RIST
 RIST(Radioallergosorbent technique)はJohanssonら1)により開発されたIgEの測定法で,世界中で広く使われている.スウェーデンのPharmacia社より"Phadebas IgE Test"としてキットが販売されている.わが国でも最近,塩野義製薬および第一ラジオアイソトープより市販されており,アイソトープを使用できる施設があればできる.やり方はそれほどむずかしくはなく,説明書通りにやればできる.以下その原理と応用につき簡単に述べる.
 原理(図1参照)
 Sephadex(多糖体の格子状結合粒子)をCNBr(シァン化臭素)で活性化すると,蛋白を結合することができる結合基を作り得る.CNBrで活性化したSephadex粒子に精製したanti IgEを化学結合させて,Sephadex-anti IgE complexを作る.以下,図の番号に従って順序を述べる.

アレルギー診断法の実際―皮膚テストおよび誘発試験

著者: 石崎達

ページ範囲:P.1482 - P.1485

 アレルギー性眼結膜炎,アレルギー性鼻炎,気管支喘息,じんま疹,食餌アレルギー(消化器症状を起こす)など,いわゆる即時型アレルギー疾患の診断には,第1スクリーニングとしては,皮膚反応が必要不可欠である.
 皮膚反応には皮内法とスクラッチ(掻爬)法があるが,日常診療には,安全性と一時に多数行えることから,スクラッチ法が便利である.皮膚反応の陽性検出率は空中真菌類を除き,両法共にほとんど差がない.真菌類は皮内反応が高く出やすい.アレルゲンの有効期間は,皮内用エキス1年,スクラッチ用エキス3年である.

アレルギー診断法の実際―パッチテスト(patch test)

著者: 古谷達孝

ページ範囲:P.1486 - P.1487

patch test(パッチテスト)の目的,意義
 20年前に出版された皮膚科教科書をみると急性湿疹亜急性湿疹,慢性湿疹,また部位名を付して顔面湿疹手湿疹,外陰湿疹などの病名が頻発しており,その病因論として極めて漠然とした湿疹性体質論(eczema diathesis)が説かれているが,最近出版された成書では接触性皮膚炎,細菌性湿疹,アトピー性皮膚炎,脂漏性皮膚炎,貨幣状湿疹,白家感作性皮膚炎,乾皮症性湿疹などとclear cutに整理,統合されている.そして,かつては病名的に使用された急性湿疹,亜急性湿疹,慢性湿疹などは病変部の症状を物語る形容詞的に使用されるに至っている.上記の変遷は湿疹性病変の発症病理の解明によるが,発症病理解日月に大きな役割を果たしたもののひとつにpatch testがある.例をあげれば,婦人の顔面に反復出没する掻痒性の紅斑落屑性病変があり,このものは従来"女子顔面再発性皮膚炎"と呼ばれ,原因不明とされてきたが,patch testの結果.単なる化粧品による接触性皮膚炎と判明するに至った,などが好例といえる.
 このようなわけで,patch testは湿疹性病変,厳密にいえば遅延型アレルギー(アレルギー反応の反応型でいえば第4型)性疾患,とくに接触アレルギー性疾患の原因究明のための重要な手技のひとつであり,これにより初めて原因物が判明し,これとの接触をさけることにより,以後発症をみなくなる.

アレルギー性疾患の問題点

気管支喘息

著者: 光井庄太郎 ,   須藤守夫

ページ範囲:P.1490 - P.1491

 多数の喘息患者に接していると,同じく気管支喘息と診断されたものでも,症状や経過に著しい差があり,合併症のために本来の喘息の症状が糊塗されて異なる疾患とみなされるものもないではない.戦後医学のすばらしい進歩の陰に,未解決のままとり残されている問題,その解決に新たな話題を投じているものなど,気管支喘息に関しては幾多のテーマが提供されているが,診断について私どもが日頃悩んでいることを主に述べる.

過敏性肺臓炎

著者: 近藤有好

ページ範囲:P.1492 - P.1495

 欧米では呼吸器疾患の一分野を占め,学問的にも確立されているにもかかわらず,本邦ではほとんど報告をみない疾患に過敏性肺臓炎がある.Hypersensetivity pneumonitisあるいはextrinsic allergic alveolitisと呼ばれ,Farmer's lungによって代表される疾患がそれである.本症は真菌胞子などの有機塵埃,あるいは動物性異種蛋白抗原の反復吸入によって経気道的に感作され,びまん性(肉芽腫性)間質性肺炎を主とする病理学的変化を起こす一群のアレルギー性疾患で,現在20数種類の疾患が知られている.
 本症で重要なことは,本症が気管支喘息と異なった.mechanismによって起こるアレルギー性疾患であるということと同時に,現在でも新しい抗原が発見されつつあり,従来の職業病的疾患であるという概念のほかに,一般家庭においても本症が発生する9〜11)など,予想以上に広く蔓延している可能性が示唆される点である.

アレルギー性鼻炎

著者: 奥田稔 ,   海野徳二

ページ範囲:P.1496 - P.1497

鼻アレルギーとは
 鼻アレルギーの主症状はくしゃみ,水性鼻漏,鼻閉であり,気管支喘息と同じく気道アレルギーの1つで,くしゃみは咳,水性鼻漏は痰,鼻閉は呼吸困難にあたろう.
 同じ気道アレルギーなので両者の合併は多く,鼻アレルギーの喘息合併率は約30%,小児喘息の鼻アレルギー合併率は約80%である.またアトピー性皮膚炎,乳幼児湿疹などの皮膚症状の現在,過去における合併は,16歳以下の鼻アレルギー83例中37例にみられ,そのうちの26例は皮膚発症が気道のそれに先行していた.このように鼻アレルギーといっても,鼻だけの疾患ではないことを銘記すべきである.

アレルギー性肝障害

著者: 山本祐夫 ,   川合弘毅 ,   溝口靖紘

ページ範囲:P.1498 - P.1499

 抗原抗体反応,アレルギー反応に起因する肝障害,すなわちアレルギー性肝障害に関し,最近のトピックスと考えられる2つの事項について述べる.
 第1は肝特異抗原による自己免疫性肝障害の問題であり,肝特異抗原の存在部位である肝細胞膜を介して,Hepatitis B antigen(HB抗原)とinteractionが考えられるという興味ある事項である.

じんま疹

著者: 矢村卓三

ページ範囲:P.1500 - P.1501

 じんま疹はありふれた疾患で,その診断は一般に容易である.それはかゆみとともに,皮膚に散在性の局所性発赤を伴う膨疹としてあらわれ,数時間後,あとかたもなく消失する疾患である.

薬物アレルギー

著者: 村中正治

ページ範囲:P.1502 - P.1504

 蛋白質を含まず,比較的簡単な化学構造式をもった物質は,それ自身では容易に抗原性をもちえない.しかし,適当な方法で高分子化合物(担体)と共有結合をすると抗原性を示すに至る.かかる物質をハプテンと呼ぶが,多くの薬剤はハプテンの性格をもっている.近年,動物実験的には,ハプテン・担体を用いて,免疫現象の機序は急速に解明されつつある.ヒトにおいても,Tリンパ球はハプテン(薬剤)に対する細胞性免疫の成立にあずかる一方で,担体を異物と認識して,その情報を体液性抗体の産生細胞であるBリンパ球に伝え,抗体の産生を調節すると考えられる.
 それでは,ヒトの薬剤アレルギーでは担体として働く物質はどこにあって,薬剤はどういう形でその物質と結合して完全抗原になるのであろうか.薬剤アレルギーにおける問題点の根底には,常に動物実験を通じて明らかになったハプテン・担体系免疫現象の理論と,その応用の隣路になっている—担体が明らかでない薬剤アレルギーがある点は見逃せない.

アレルギー性皮膚疾患2つの話題

著者: 中山秀夫

ページ範囲:P.1506 - P.1508

アレルギー性皮膚疾患の分類
 アレルギー症の分類は古くから即時型と遅延型の2種に分ける方法が行われていたが,ここ数年来,液性抗体と補体などの研究の進歩により,前者をさらに3つに分類して,type I〜IVに分けるCoombs-Gell/Storckの分類法がよく用いられるようになった.しかし,皮膚というさまざまな反応型式をもった組織が起こす複雑なアレルギー反応を上記のtype I〜IVで説明することは,今なおほとんど不可能である.各種のアレルギー性発疹のメカニズムを説明するには,将来Coombs-Gellよりはるかに高度で,リンパ球,液性抗体,好中球,麦皮細胞,組織球,血清中の補体,などの連けい動作を網羅した分類法を考案しなくてはならないと予測される.
 皮膚のアレルギー症の分類には,本邦では以前から外国にはない.特有の価値の高い伊藤氏の分類法があった.それはアレルギーの反応の場の主体が表皮にあるようにみえるか,真皮にあるようにみえるかによって,表皮アレルギーと真皮アレルギーに分ける方法である.伊藤氏のoriginalな分類法は,近年知られたいくつかのアレルギー性皮膚疾患を含まないので,筆者の判断でこれらを追加すると,表のごとくになる.これをみると,各種のアレルギー性発疹が,Coombs-Gellの分類ではいかに説明しがたいものであるかがよくわかる.これらの中から.日常の診療でしばしばみられ,かつ非専門医によって白癬やAddison氏病とまちがわれやすい2種のアレルギー性皮膚疾患に関して簡単に述べてみたい.

最近の治療法

著者: 可部順三郎

ページ範囲:P.1510 - P.1513

 アレルギー性疾患の最も有効で根本的な治療法は,原因となっている物質を探し出し,それへの曝露を可能な限り防ぐことである.どうしても完全には避けることのできないようなアレルゲンに対しては,減感作療法が行われる.減感作療法は即時型アレルギーに対してのみ有効であって,アルサス型や遅延型アレルギーに対しても用いてよいか,またその方法などは現在知られていない.アレルゲンの回避や減感作療法が成功しない場合には,変調療法が行われることがある.個々の症状に対しては,対症療法をもって対処してゆくことになる.

座談会

アレルギーのトピックス

著者: 奥平博一 ,   松村行雄 ,   高橋昭三 ,   小林登 ,   宮本昭正

ページ範囲:P.1514 - P.1524

 いわゆるI型を中心に,アレルギーの基礎的なメカニズムから治療の実際まで,今どのように理解,把握が進められているか—最先端の話題に触れていただいた.

臨床医のための病理学(最終回)

XXV.寄生虫および奇形

著者: 金子仁

ページ範囲:P.1526 - P.1527

 肺ジストマ(Lungendistoma)は広く日本に分布し,中間宿主たる沢蟹などを生で食べたり,流行地の河水を生で飲むと罹患する.ここに載せた例は昭和33年12月の例で,東京の少年である.臨床的に肺結核と診断され,肺切除をしてから分かった.
 糞線虫(Strongyloides stercoralis)は九州地方に多い,十二指腸,小腸に寄生する.本例は尾久島の患者で,肺に寄生し死亡した患者である.奇形は真の奇形と奇形腫を出した.

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内科専門医を志す人に・トレーニング3題

著者: 岡安大仁 ,   早川滉 ,   河田肇

ページ範囲:P.1539 - P.1541

 問題1.肺サルコイドーシスについて誤っているのは,次のうちどれか.
 ①本邦例では高Ca血症は欧米例よりも低率である.

内科専門医を志す人に・私のプロトコール

IX.膠原病・アレルギー

著者: 西崎統

ページ範囲:P.1542 - P.1543

生検について
 内科臨床研修中には,診断に果たす臨床検査の役割がきわめて重要なものであることを幾度となく経験する.しかし,多種目検査の合理的な組み合わせをしても確診を得ない場合が決して少なくない.
 したがって,診断の不明確な患者の確診を得るために,また,患者の症状の経過,治療法の選択や予後の判定にも,どうしても生検が必要になってくる場合を経験する.たしかに,現在の内科臨床上,生検は必要欠くべからざる検査の1つとなってきている.これらの行われる領域は広く,臨床各科にわたっている.

演習・X線診断学

単純X線写真による読影のコツ(9)頭部単純写真

著者: 古瀬信 ,   斎藤和彦 ,   大澤忠

ページ範囲:P.1530 - P.1533

 たくさん見るところがあるので複雑なようですが,実は比較的単純なのが頭部X線写真であると思います.
 普通,正面と側面の2方向を標準撮影とします.この頭部写真には頭蓋骨と顔面骨がうつっており,そのほか,上部頸椎,上咽頭部なども観察できます.この誌面では頭蓋骨のみに話を限定しますが,読影に際しては,もちろん他の部分にも注意をはらいたいものです.

超音波診断の読み方

前立腺疾患

著者: 渡辺泱

ページ範囲:P.1534 - P.1538

 前立腺は充実性の腺性軟部組織なので,X線はほとんど透過してしまい,造影剤も有効に用いられないので,これまで前立腺そのものを具象化できる巨視的検査法はなかった.この目的に超音波断層法が適していることは明らかだったが,従来用いられてきた体表からの走査法では,骨盤骨によって音が遮られるために,実際の診断に応用できるような優秀な前立腺の超音波断層像は得られなかった,そこで筆者らは,超音波の送受信を行う探触子を肛門から直腸内に挿入し,経直腸的に骨盤腔内臓器の断層像を得る経直腸約超音波断層法の開発に着手し,その実用化に成功した.ここではまず筆者らが開発した経直腸的走査専用装置を紹介し,各種前立腺疾患の断層像を供覧して,その診断の要点を概説
したい.

診断基準とその使い方

非定型性急性白血病

著者: 喜多嶋康一

ページ範囲:P.1546 - P.1549

 今日,急性白血病の本態は白血球系造血組織の悪性腫瘍,すなわち自律性をもった無制限増殖にあると考えられている.したがって,その定型的病像としては骨髄またはリンパ組織における白血球系造血巣の過形成像と,それに伴う赤血球系ならびに栓球系造血巣の圧排減縮,末梢血ではこれを反映した幼若型を含む白血球数の増加,貧血,血小板数の減少,臨床的には高熱,貧血に伴う諸症状,著明な出血傾向,肝,脾,リンパ節腫大などが急激に発現し,適切な治療を施さない限りすみやかに死の転帰をとるとされている.
 しかるに,近年,かかる定型的な病像の多くを,またはほとんど全てを欠くところの白血病らしからぬ白血病,すなわち非定型性急性白血病に遭遇する機会が多くなってきた.これは近年における白血病病像の変貌の1つとして注目されている.しかし,いざどこまでを"定型的"となし,どこからを"非定型的"とよぶかについては現在一致した一定の見解が存在しているわけではない.

体質性黄疸

著者: 滝野辰郎

ページ範囲:P.1550 - P.1553

概念
 黄疸の発生に溶血機転,肝細胞障害,胆管閉塞機転の関与しない特殊な黄疸で,先天性にビリルビン代謝が障害された病態である.本症の病因はいまだ十分に解明されていないが,肝細胞におけるビリルビンの摂取,抱合,移送,排泄の機構に何らかの先天的な欠陥があると考えられている.

術後障害とその管理

甲状腺手術後の障害 その2

著者: 柴田一郎 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1554 - P.1557

術後のテタニー
 柴田 甲状腺機能亢進症手術後のテタニーは,軽いものも含めるとかなり多いものでしょうか.
 牧野 テタニーを見ることはめったにありません.でも,テタニーがくるまで待っていてはいけないので,手術したあと翌日ないしは翌々日の回診のときに必ず唇の周りがしびれないかとか,指先がしびれないかと患者に聞きます.初発症状として,口の周りがちょっとしびれるとよくいいます.それから疑わしいときは顔面神経のところを叩いてみるとか,手のところをギューッとマンシェットでしばってみる.つまりChvostekとTrousseauのsignを調べてみるわけですが,出るものは少ないですね.

診療相談室

慢性胃炎の胃生検と治療

著者: 上野恒太郎

ページ範囲:P.1558 - P.1558

質問 慢性胃炎の胃生検と治療との結びつきについてご教示ください.(東京都 I生 病理専門)
答 慢性胃炎の診断は,胃ファイバースコープによる胃粘膜直視下観察所見と胃生検による組織学的診断の両者の併用によってなされるのが,現在最も確実な方法である.

甲状腺機能亢進症と妊娠

著者: 入江実

ページ範囲:P.1559 - P.1559

質問 甲状腺腫(甲状腺機能亢進)の娘が結婚,未だ妊娠しておりませんが,児を希望.現在,メルカゾール10 mg投与中(維持量).妊娠した場合を含めて,一般的な治療方針をご教示ください(メルカゾールと奇形との関係も).(大阪市 N生 49歳)
答 この質問のうち甲状腺腫(甲状腺機能充進症)とあるのを,バセドウ病と考えて,バセドウ病患者の妊娠ということについて述べる.方針としては次の3つが考えられる.

クロロサイアザイド系薬剤の皮膚反応について

著者: 依藤進

ページ範囲:P.1560 - P.1560

質問 クロロサイアザイド系降圧剤の副作用中,とくに皮膚障害について詳しく知りたいのです.薬剤の種類には関係ないものか,昔はほとんど経験しなかったのに,最近急に増加したように思われますが.(東京都 I生 50歳)
答 クロロサイアザイド系の降圧剤は多様な皮膚反応を示す薬剤の1つで,その皮膚反応としては紅斑様,麻疹様あるいは出血性の単純な薬剤アレルギー皮膚炎,血小板減少性の紫斑病,日光アレルギー性皮膚炎,色素沈着,色素脱出を伴った白斑性黒皮症,壊死性血管炎が挙げられます.

緊急時の薬剤投与

心不全をくり返すときのジギタリスの使い方

著者: 久保新一郎 ,   岩田征良 ,   河合忠一

ページ範囲:P.1561 - P.1563

はじめに
 うっ血性心不全の根本的な問題は心筋収縮性の低下にあり,その治療にあたっては心筋収縮増強作用を有する強心配糖体—ジギタリス—が基礎になる.ジギタリスのみでは十分な代償が得られぬ場合や重症例では利尿剤が併用される。通常の治療を行っても心不全をくり返す患者をみるとき,①適応に誤りはないか,②合併症はないか,③薬剤の投与法は適切か,を十分検討して対処しなければならない.本稿では,心不全をくり返す症例の分析と治療法を,ジギタリスの使い方を中心に述べてみたい.

臨床病理医はこう読む

血液凝固検査(3)

著者: 藤巻道男

ページ範囲:P.1564 - P.1565

血小板数は正常,出血時間は延長,血小板粘着は低下
 皮膚・粘膜の出血を主徴とした症例であり,凝血検査では血小板因子系の検査として血小板数は正常であるが,毛細血管抵抗試験は陽性でその減弱がみられ,出血時間は著しく延長しているが,血餅収縮は正常である.またガラスビーズ管法による血小板粘着能(停滞率)は低下している.血小板凝集能は,その誘発物質であるADP,コラーゲン,エピネフィリンなどを添加して血小板凝集計にて観察すると正常の凝集曲線が得られるが,リストセチンristocetin(終濃度1.0mg/ml)を添加した場合にのみ凝集能の低下がみられている.また,同様に血小板多血漿にリストセチンを添加し試験管内でみると正常者では白濁し,これを吹雪(snowstorm)のように,と表現されているが,von Willebrand病では吹雪の状態がみられない(図1).その他,血小板形態には異常がなく,トロンボプラスチン生成試験(TGT)による血小板第3因子能および血小板availability testによる血小板第3因子の放出反応などには異常を認めなかった.
 血漿凝画因子系の検査としてプロトロンビン時間(PT)は正常であるが,部分トロンボプラスチン時間(PTT)は明らかに延長している.したがって内因系に関与する凝血因子として第VIII因子,策IX因子および接触因子(第XII,第XI因子)などのうち,いずれかの因子に異常があるものと推定される.次にトロンボプラスチン生成試験(TGT)では,BaSO4吸着血漿に凝固時間の延長がみられるので,第VIII因子または第V因子の欠乏か異常が考えられる.なおPTが正常であることから,第VIII因子の欠乏か異常が推定されるので第VIII因子濃度を定量すると,15%と軽度ながら減少しているのが認められた.その他トロンビン時間は正常であるので,フィブリノゲン濃度には変化がなく,抗トロンビンも存在しないものと考えられる.線溶系の検査ではLysine-Sepharoseによるプラスミノゲンフリーフィブリン平板法にて活性プラスミンの存在はみられなかった.

図解病態のしくみ 炎症のしくみ・1

炎症の定義と臨床症状

著者: 水島裕

ページ範囲:P.1566 - P.1567

 炎症とは 臨床医学において,また病理学をはじめとする基礎医学において,炎症ということばは実によく使われていて,炎症を除いては疾病論は成立しないといっても過言ではない.しかし,具体的に炎症とは何かというと,あまり的確な説明はない.臨床的,古典的には,熱感,発赤,腫脹,疼痛の4大徴候(図1)が炎症の特徴であり,組織学的には充血,血管透過性亢進,細胞浸潤などで特徴づけられる.
 一口にいって,炎症とは生体に有害な刺激に対する組織レベルでの防御反応と解釈されている.すなわち,炎症なしには,生体に有害な細菌などに対して生体は十分抵抗することができない.この理論は図2に示した原因のうち,特に病原体感染,そして物理的・化学的刺激,外傷などにもあてはまるものであるが,いわゆるアレルギー性炎といわれているものに対しては,通用しない.動物にみられるアルサス反応や,膠原病をはじめとする,いわゆる自己免疫疾患の場合には,炎症の原因となるものよりも,炎症そのものが,生体にとって,より大きな負担となっていることは,まず間違いない.このように,炎症を,有害な刺激に対する防御反応とも定義できず,結局,古くからいわれているように,炎症とは刺激に対して起こった組織の反応であり,刺激がとり除かれ,治癒に向かうか,あるいは悪化,再然をくり返すかは別として,その全経過をさすという以外にないと思われる.なお,当然のことながら,刺激に対して起こった反応でも,上記の臨床的・組織学的特徴に合わないものは,炎症とはいわない.

皮膚病変と内科疾患

びらん,潰瘍を主徴とする皮膚病変と内科疾患

著者: 三浦修

ページ範囲:P.1568 - P.1569

びらんを主徴とする皮膚病変と内科疾患
 びらんとは表皮表層が欠損してマルピギー層を露出し漿液を漏出している状態をいう.しかし少なくとも基底細胞層は残存し,したがって出血は見られず治癒後瘢痕を遺すこともない.びらんはその形成される過程に従って3つに分かちうる.

小児の検査

心電図

著者: 草川三治 ,   木口博之

ページ範囲:P.1570 - P.1572

 小児の心電図を読むにあたって,まず考えなければならないことは,年齢とともに変化してゆくということである.年齢に伴う正常の変化をまず十分理解した上で,個々の心電図を読んでもらいたい.図にそのシェーマを示したが,右室優勢から成人型に移行していく形を,まず全体として把握してほしい.さて,このような基礎の上で心電図を読んでゆくわけであるが,次のような順序でみてゆけば,比較的見逃しも少ない.ここではその順序にしたがって述べてゆき,そのなかで明らかに異常であり,見逃してはならないという点にふれていきたい.

medicina CPC

上腹部痛と全身倦怠感を主訴とし,肝腫大,クモ状血管腫を認め,十二指腸下行脚部の粘膜不整像をみた54歳男の例

著者: 西崎統 ,   村上義次 ,   河野実 ,   名尾良憲

ページ範囲:P.1573 - P.1584

症例 H. Y. 54歳 男性
入院時主訴 腹痛(上腹部),全身倦怠感.
家族歴 特記すべきことなし.

話題

多彩な演題で彩られた学会—第16回日本神経学会総会から

著者: 古和久幸

ページ範囲:P.1466 - P.1467

 第16回日本神経学会総会は西川光夫阪大教授会長の下に5月15〜17日の3日間,大阪市で開催された,昭和35年4月,福岡市で日本臨床神経学会と称して発足してから今年は満15周年にあたる.この間にあって,多発性硬化症のわが国における全国調査,水俣病,スモンの原因探求など数々の世界的な業績が本学会で討議され,わが国の神経学の水準の向上に貢献している.
 今年の本学会でも300余題の応募演題の中から241題の講演が行われたが,そのすべてについてここに紹介することはできないし,また筆者には到底その能力もない.ここでは一般臨床医家に必要と思われるものについて,筆者が聴いた範囲で紹介し,その責を果たしたい。

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻10号(2023年9月発行)

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60巻8号(2023年7月発行)

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60巻7号(2023年6月発行)

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60巻6号(2023年5月発行)

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60巻5号(2023年4月発行)

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60巻4号(2023年4月発行)

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60巻3号(2023年3月発行)

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59巻12号(2022年11月発行)

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59巻11号(2022年10月発行)

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59巻8号(2022年7月発行)

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