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雑誌目次

雑誌文献

medicina12巻12号

1975年11月発行

雑誌目次

今月の主題 肺癌—その理解と対処のために

肺癌は増えているか

著者: 平山雄

ページ範囲:P.1738 - P.1740

肺癌は増えている
 日本の癌死亡は二重構造になっている,在来の環境条件の影響を強くうけて多発していた胃癌,子宮頸癌は,年々減少の一途をたどり,過去20年間に,前者は3分の1以上,後者は3分の2以上,40〜69歳の死亡が減少している.しかし一方,増加し続けている癌もある.その代表が肺癌で,そのほか,膵臓癌,膀胱癌,白血病,それに腸癌,乳癌も増えてきている.これらはいずれも西欧型の癌であり,新しい環境条件に対応して多発する癌である.主題の「肺癌は増えているか」という命題に対しては,「増えている」とはっきりいえる.
 表1は年次別の肺癌死亡数である.1947年には,男520,女248だった肺癌死亡は,1974年には,男9985,女3729と増えてきている.男で19.2倍,女で15.0倍の増加である.呼吸器の結核死亡を1972年から上回っている(図1).この肺癌の年次別死亡に,2次式をあてはめてみると,表1のように,男女とも比較的よく合致している.そこで,それを延長し,将来数を予測すると,1982年には年間2万人を越え,1992年には,年間3万人を越えると予測される.

肺癌はどうして起こるか

著者: 末舛恵一

ページ範囲:P.1742 - P.1743

 肺癌発生の原因は外因と内因に大別される.外因は化学発癌,ウイルス発癌,放射線発癌に分けて考えられ,研究されている。
 内因については,未だ研究が未熟であって,加齢ということ,内分泌環境,体質,遺伝関係などについて模索されたにすぎず,最近に至って,ある種の酵素系が具体的に取りあげられ始め,また,いずれは免疫監視機構が話題にのぼってくると思われる.

肺癌にどう対処するか

著者: 服部正次

ページ範囲:P.1744 - P.1746

欧米の肺癌対策
 昨年,筆者は2カ月間欧州各地を回った.各国の肺癌対策を調べて,わが国の参考とするのが大きな目的の1つであった.米国については,すでに調査済みである.ところが,肺癌王国である英国を訪れて,その無策なのに一驚した.もちろん,医師の禁煙は励行されているけれども…….
 米国では20年前,The Philadelphia Pulmonary Neoplasm Research Projectといって,年2回X線間接フィルムの読影などをして,肺癌をみつけようとしたが,早期肺癌の発見には満足すべき効果がなかった1,2).現在,The Mayo Lung Projectといって.治る肺癌をみつけるために,細胞診を加えた調査集検が,正確に大々的に行われている3).これはNCI(National Cancer Institute)の援助を得て,1971年からはじあられたもので,これまでに,45歳以上の男性で,1日20本以上の喫煙者4,353名が検査をうけ,occult lung cancer9例がみつけられている.今後の成果が注目されている.

肺癌の分類

臨床病期分類

著者: 本間日臣

ページ範囲:P.1748 - P.1749

 日本肺癌学会の臨床病期分類は,5年におよぶ臨床病期分類委員会(北本 治委員長)の検討を経て草案が作成され,1967年以降,日本肺癌学会臨床病期分類として,わが国においてはひろく利用されている,肺癌は,その多種多様性のゆえに分類作成上大きな困難があったが,委員各位の努力により,簡単かつ便利で理解されやすいものができ,しかも手術適応の可否および予後判定の参考となり得るという目的を充たしていることから,未だ改訂の声をきかず,広く活用されているものと思われる.事実,本分類と組織型分類および腺癌については,原発巣の大きさを考慮に入れるならば,かなり的確な手術適応,術式,あるいは予後の判定が可能である.
 この分類が有用であることは,目下日米両国の協同作業で作成されつつあるTNM分類によるstagingが,日本の臨床病期分類とほとんど同じものになりつつあるということが裏書きしている.以下,同分類を簡単に解説する.

TNM分類(UlCC)

著者: 吉村克俊

ページ範囲:P.1750 - P.1752

 癌の治療計画,予後への指針,治療効果判定,各病院間の情報交換のために病期を決めることは重要なことである.肺癌について病期を明らかにして実際に用いられているのは,わが国の日本肺癌学会の臨床病期分類が唯一のもので,1966年病期分類委員会(委員長北本 治)によって制定され,すでに臨床的に定着している8).しかし国際的に通用するためには国際対癌連合(UICC)のTNM委員会のとりきめの線に沿うて協力すべきである.
 UICCの肺癌に関するTrialは1966年にT,N,Mのそれぞれの暫定定義が決められ,これに基づいて1967〜1971年の5年間の初診患者について行うことを要請されていた.これを実行に移したのは日本と米国のみである.米国は2,155例の手術例に基づきretrospectiveに分析検討し,新しいT,N,Mの定義とTNM-Groupingすなわち病期をUICCのTNM分類委員会に提出し,採用され,すでにUICCとAJC両者の名前で1974年版として発行されている2).一方,日本ではUICC日本TNM委員会(委員長石川七郎)肺がん委員会(委員長吉村克俊)によって全国104施設の2,049例についてprospectiveに分析検討が行われ,米国とは別個にTNMの定義と病期の提案を行った3).その後,日本代表石川博士と米国代表との間で話合いがもたれ,日米間での微差についてほぼ一元化することができた.その結果,T,N,Mの定義については全く同一であるが,病期についてはTINIMOが,米国案はI期に,日本案についてはII期に含まれる.この点は1972〜1977年の第2次Trial Periodについて臨床試行について検討されることになる.

日本の肺癌の特質

著者: 影山圭三 ,   河合俊明

ページ範囲:P.1753 - P.1755

はじめに
 筆者らに課せられた分担課題は,「肺癌の分類〜日本の肺癌の特質」である.
 ここでいう「分類」は,病理学的分類であり,肉眼的ならびに組識学的分類が含まれている.

随伴症候群

ニューロマイオパチー

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.1756 - P.1757

 悪性腫瘍に際して神経筋症状が出現する時には,それら症状はその腫瘍の神経系への転移によることが多いが,ときには腫瘍に随伴して起こる一連の神経筋疾患によることもある.このような神経筋疾患は癌性ニューロマイオパチー(carcinomatous neuromyopathy),remote effects of cancer on the nervous system,paraneoplastic syndromeなど種々の名称で呼ばれているが,それら疾患と悪性腫瘍の間の因果関係は必ずしも明確ではなく,それ故にその名称についても諸者の間に意見の一致がみられていない.
 本稿では一応癌性ニューロマイオパチーの名称のもとに,これら一連の神経筋疾患を論じていくこととする.

内分泌異常

著者: 阿部令彦

ページ範囲:P.1758 - P.1760

はじめに
 一般に悪性腫瘍の発生した臓器の機能障害やその転移による障害とは無関係ではあるが,腫瘍の存在に由来すると考えられる症状が概念的に一括されて腫瘍随伴症候群とよばれ,近年,その病態生理の解明が注目をあつめてきた.肺癌患者にみられる腫瘍随伴性症候群(paraneoplastic syndrome,extrathoracic manifestations of bronchogenic carcinoma)のうち,代謝異常に関連するものとしてCushing's syndrome,hypercalcemia,excessive antidiuretic horrnone production,carcinoid syndrome,gynecomastiaなどがあげられる1〜3)

電解質異常

著者: 山口建 ,   阿部薫

ページ範囲:P.1761 - P.1763

はじめに
 悪性腫瘍患者では,時に重篤な電解質異常が発現することがあるこれは担癌患者が,電解質異常を起こしやすい種々の要因を兼ね備えていることが多いためと考えられる.胸・腹水の貯溜,経口摂取の低下,嘔吐,下痢の持続,強力な治療の影響などが,この要因としてあげられるが,さらに腫瘍からのホルモン様物質の産生分泌が原因となって起こる電解質異常も決して稀ではないと考えられる.軽度の電解質異常は,とくに明らかな臨床症状を呈さず,検査をしないと見過ごされることも多い.また逆に,高度の電解質異常で意識障害などをきたし,それが脳転移と誤診されることもある.一般にこのような電解質異常は,適切な治療を行えば可逆的なことも多く,これを是正することにより悪性腫瘍に対する治療も可能となり,著明な延命効果を認めることも稀ではない.
 ここでは,肺癌患者に認められる電解質異常のうち,抵Na血症,高Ca血症,低K血症などについて述べてみたい.

X線診断

気管支造影像

著者: 長浜文雄 ,   山本征司

ページ範囲:P.1764 - P.1770

はじめに
 造影方法にとくに欠陥がなければ,気管支造影像は腫瘤の気管支分枝図上の発生部位,大きさ,気管支壁の表在性および深部性浸潤の拡がりなどを,さらにはまたその組織型までも推測させ,ひいてはその予後や治療法に対する有力な手がかりを与えてくれる。したがって,肺癌の診断と治療上で胸部X線写真(平面,断層),気管支鏡所見,喀痰および気管支擦過細胞診や生検所見などとともに欠かすことのできない検査法といえる.
 気管支造影法には,経皮的気管支穿刺法1),気管内カテーテル法があるが,筆者らはもっぱら後者による選択的造影法を実施している.

早期肺癌のX線像

著者: 河野通雄 ,   高田佳木 ,   石田哲哉 ,   楢林和之

ページ範囲:P.1771 - P.1777

はじめに
 肺癌は,ごく初期には点として発生する1)ので,現在のX線撮影装置の解像力からすれば,恐らくX線写真上に捉えることは不可能であるし,特異的なX線像は存在しない.しかし,肺癌を客観的に最初に捉え得るのは単純X線写真によるということも忘れることはできない.chest X-ray negative, sputum cytology positiveの場合,腫瘍が太い気管支に発生している時は内視鏡で診断し得ることもあるが,末梢の場合,癌の所在を明らかにできないこともあり,結局,X線写真で確認し得るまでfollowするということになりかねない.
 carcinoma in situあるいは病理学的にいう初期癌2)は除くとしても,X線学的に把握し得るいかなろ程度の大きさまでを早期癌といってよいのか,またその特徴所見を,主として単純および断層像を中心に考察してみたい.

X線像と組織型

著者: 西脇裕 ,   鈴木明

ページ範囲:P.1778 - P.1782

はじめに
 肺にはいくつかの異なった上皮組織があるために,それらを母地として発生する肺癌には組織型の異なるものが含まれる.これは単に組織型が異なるというだけでなく,発生部位,進展・転移様式,治療に対する反応,予後などにも重大な差異があるため,組織型についての考慮なしに肺癌患者を診療することはできない.しかし,これは単に組織型を知ればよいというものではなく,進展の時期を十分に把握しないなら,適切な治療の選択に結びつかない,つまり,治療前に種々の情報を十分に分析することにより,その組織型と進展時期・範囲を十分に把握することが必要となってくる.この点について,胸部X線単純写真・断層写真に現れた異常影と,気管支・肺血管・肋膜およびリンパ節などの肺の既存構造との関係を詳細に分析することは,このような目的に極めて重要な役割を果たすことができるものである.
 腫瘍の発生部位・進展様式と"気管支"との関係を考えると,腫瘍が原発性であるか,転移性であろか,悪性であるか,良性であるかの別なく,"気管支"の外から内へ進展するものと,気管支の外から内へ進展するものとに分けることができる,ここでいう"気管支"とは,肉眼的あるいはX線上とらえられる程度の太さの気管支である.これに肺血管系と肋膜などの変化を加えると,肺腫瘍のX線像をかなり正確に分所すること,すなわち,腫瘍の進展様式を把握することができ,それに基づいて,その進展時期と組織型を推察することが可能となる1〜4)

Coin lesionの鑑別

著者: 金上晴夫

ページ範囲:P.1783 - P.1785

 胸部X線写真でcoin lesionをみた場合,われわれはどのような疾患を考え,どのように鑑別すべきであろうか.
 胸部X線写真上の陰影は,同じようなcoin lesionであっても,炎症,悪性腫瘍,良性腫瘍,心不全によるものなど,その原因疾患によって,特徴と思われる所見を示すこともあるが,陰影そのものから確実な鑑別診断を行うことは困難なことが多い.したがって胸部X線写真はあくまで診断のための素材の1つであり,性別,年齢,問診をはじめ,断層像,気管支造影像,さらに気管支ファイバースコープ,喀痰の細菌学的並びに細胞診などの所見を綜合的に考慮して確実診断へもっていくべきであろう.そして確実診断がつかない場合には,年齢その他から少しでも悪性腫瘍を疑うべき点があれば,切除の方向へもっていくのが安全である."疑うべきは切る"がcoin lesionをみた時の現時点における1つの姿勢と考える.決して"疑うべきも経過をみて決める"といった消極的な姿勢は許されない.以下,coin lesionの鑑別について述べる.

浸潤型の鑑別

著者: 吉良枝郎 ,   荒井達夫 ,   鈴木俊光

ページ範囲:P.1786 - P.1788

 第15回日本医学会総会において本間教授が指摘されたように,肺癌のX線像は極めてヴァリエーションに富み,孤立性結節,無気肺,腫瘤,空洞形成,多発結節,浸潤影,粟粒影,索状,胸水像など多彩である.coin lesion,腫瘤影を示す患者をみた場合,患行が癌年齢にあり,重喫煙者であり,咳嗽,血痰のエピソードを伴っていれば肺癌を疑うにそう困難ではないが,輪郭の不鮮明な,限局する種瘍という陰影とは全くかけ離れた浸潤影がみられる場合が最も問題となろ.しかも,かかる浸潤影を示す症例はcoin lesion,腫瘤型の陰影を示す症例に比べ決して少ないものではない.

特殊診断

肺シンチ

著者: 飯尾正明

ページ範囲:P.1789 - P.1791

 中断されていたアイソトープによる研究が再開されて25年になる.その初年度輸入総額は3,905ドルであった.その後,医学への利用は盛んになり,一方,測定器も目覚ましく進歩した.現在では,その技術は臨床医学にも広く使用され,初期の物珍しさはなくなった.
 近年,腫瘍親和性放射性同位元素の開発,進歩に伴い,肺癌の診断にも放射性同位元素が利用されている,また,肺癌の転移の発見にも放射性同位元素が利用されている.早期遠隔転移巣の発見は治療の適正化に必要である.この方面での大いなる成果が期待される.

吸入肺スキャン

著者: 井沢豊春

ページ範囲:P.1792 - P.1795

はじめに
 吸入肺スキャンとは,99mTcまたは131I-MAAなどの粒状物質や,放射性ガスの水溶液を静注して得られる血流肺スキャンと対応する名称で,放射性エロソールまたはガスを吸入して得られる放射能の肺内分布図のことである.
 血流肺スキャンの普及に伴い,肺内血流分布の異常は必ずしも血管側の病変のためばかりではなく,気道の閉塞性障害がその原因になることが知られて1),肺動脈はもとより,気道のpatencyや換気分布の評価が重要になってきた.血流肺スキャンとともに吸入肺スキャンが応用される所以である.

縦隔鏡

著者: 武野良仁

ページ範囲:P.1796 - P.1798

縦隔は肺癌の関所である
 臨床医家が癌の患者を加療する際,最も注意すべきは,その転移であるといっても過言ではあるまい.転移こそは,癌を悪性と決定づける第一の要因であって,一口に言えば,まさしく「転移を制するものは癌を制す」である.
 肺癌の場合,その進展様式は決して単純ではなく,すくなくとも,局所における連続性進展をはじめとして,リンパ行性,血行性など種々の形式が認められている.

Flexible bronchofiberscope

著者: 池田茂人

ページ範囲:P.1802 - P.1804

 多くの肺癌は気管支に原発すると考えられる.そこで,これらの肺癌を経気管支的に診断することは,最も道理にかなっているといってよい.肺癌はその発生部位によって肺門部肺癌と,肺野末梢性肺癌に区分される.太い気管支に原発すろ肺門部肺癌は,多くの場合,組織学約に扁平上皮癌,小細胞癌であり,一部気管支腺原発の腺癌が含まれるが,これらは,早期であっても気管支鏡で直接にその所見を視ることができる.しかし,極めて末梢気管支に発生した肺野末梢性肺癌の場合は,組織学的に腺瘍,または大細胞癌のことが多いが,気管支ファイバースコープを用いても視診することは困難なことが多い.しがし,気管支ファイバースコープを用いて,X線テレビ透視下にキューレット,ブラシを気管支内に挿人し,気管支内の病変,または肺内丙変に刺人して細胞を採取して確定診断を行うことが可能である(図1).すなわち,ほとんどの肺癌は,気管支鏡で診断することができる.

細胞診

著者: 松田実

ページ範囲:P.1805 - P.1807

中心型肺癌に対する喀痰細胞診断の意義
 区域より中枢側に発生する肺癌は,中心型または肺門型肺癌とよばれているが,このような太い気管支に発生する肺癌の進展形式として,
 ①気管支内腔にポリープ状に発育するもの,

針生検

著者: 於保健吉 ,   林忠清

ページ範囲:P.1810 - P.1811

 肺癌の診断法の中で細胞診は,病巣より脱落した細胞,病巣の表面の擦過細胞,あるいは直接病巣を穿刺して細胞を採取する3つの方法がある.また,肺癌の細胞診は,診断のみならず細胞形態より組織型を推定し,治療方針をたてることと,各種治療経過における細胞の形態変化から治療効果の判定,治療法の適否の判定も可能である.

転移

肺癌の転移

著者: 岡田慶夫 ,   赤嶺安貞

ページ範囲:P.1812 - P.1816

はじめに
 肺癌は,他臓器の癌と同様に,直接浸潤,リンパ行性および血行性の3つの経路によって転移,進展する.ただし,血行性転移をきたす場合には,いわゆる"肺型"pulmonary typeの様式をとるから,左心から直接全身性に播種されることになる.したがって,転移臓器は広範囲にわたり,かつ転移の頻度も高い.このために,転移による臨床像も多彩で,診断や治療に困難を感ずることが多い.

転移性肺腫瘍

著者: 曽根脩輔 ,   東原悳郎 ,   森本静夫

ページ範囲:P.1817 - P.1821

はじめに
 転移性肺腫瘍では,リンパ管症型のものを除けば,その早期には自覚症状を欠くし,喀痰細胞診による陽性率も低いので,その診断は主として胸部X線検査によることになる.そして,われわれが日常臨床的に転移性肺腫瘍の問題に遭遇するのは,普通はどこかに確認された原発巣があり,その治療途上またはfollow-up中なので,胸部X線診断で重要なのは肺転移の有無の判定ともいえる.この意味では肺転移性腫瘍の示す種々のX線変化が明らかにされていなければならない.これは肺転移の早期発見に役立つし,誤診を少なくすることにも通じる.しかし,時には肺の転移巣の発見から原発巣の検索が始まることもある.この際には,当然悪性腫瘍の発生頻度やその肺転移率の高い原発臓器を中心にして,原発巣不明の転移癌の原因になりやすい臓器を含あて検査をすすめなければならないが,肺転移巣のX線所見になにか臓器特異性が認められるなら診断の方向づけが一層容易になろう.
 このような観点から,本文では転移性肺腫瘍のX線像の種々相を述べ,同時にこれらと原発臓器の関連性を示すことにしたい.

治療

外科治療

著者: 成毛韶夫

ページ範囲:P.1822 - P.1824

はじめに
 肺癌治療の原則は,患者の来院とともに,病期・組織型および機能を正確に把握し,かつ症例のもつ1つ1つつの特徴を十分念頭においた上で,外科療法・放刻線療法・化学療法の長所を巧みに組み合わせた合理的な治療計画を設定し,執拗かつ勢力的に治療することにある.
 今も切除療法が肺癌治療の主役であることと,早期発見・早期治療(手術)の重要性は変わらないが,放射線医学の急速な進歩,癌化学療法の進歩と投与法の改良の結果,従来の外科療法万能時代は過ぎ,外科・放射線科・内科の3者が初めから会同して治療適応を考え,3者を取捨する併用療法が行われ,成果が上がりつつある1).10数年前までは病院を訪れる肺癌患者で本当に治る例は5〜6%で,切除例の成績も16%2)であったが,現在では入院症例の12%が5年生存例で,切除例では26.6%.治癒手術例のそれは56.0%までになった.

放射線療法

著者: 橋本省三

ページ範囲:P.1825 - P.1827

肺癌治療における放射線療法の位置
 わが国で放射線治療の指導的地位にある国立がんセンターにおける1968年までの肺癌の5年粗生存率は13%と梅垣が報告しているごとく,肺癌の放射線治療成績は頭頸部や子宮のそれに比してはるかに及ばない.それは早期肺癌を放射線療法で根治させるチャンスが少ないことにもよるが,延命効果としては十分な効果をあげ得るし,血痰・咳嗽・呼吸困難・胸痛・全身状態の改善には期待できるものがあるので,手術適応にならない進行症例にも照射療法は積極的に試みるべきである.治療成績としては一次的にはかなり良いものがあり,再燃や転移病巣に照射を行っても寛解を得ることができて,昔ならば最初に入院してそのまま死亡退院するものが,再々の入院によりそれなりの効果を得て,4〜5度目に死の転帰をとるというようになってきている.これは高エネルギー照射装置と治療技術の進歩,癌化学療法の進歩によるものであって,多角的な治療法のコンビネーションの成果であり,長期生存の治療成績はじりじりと上昇を続けて行くことであろう.放射線照射を行う限り,正常組織の障害を避けて腫瘍のみを絶滅させることは不可能であり,照射の影響を腫瘍の周囲組織について常に検討を加え,許容範囲ぎりぎりの線までもっていって勝負するのが放射線療法の立場である.

抗癌剤の選択と適応

著者: 斉藤達雄

ページ範囲:P.1828 - P.1830

はじめに
 これまで刊行されている多くの成書をみても,肺癌は決して抗癌剤の有効な疾患とは見做されていない.たとえば,すでに古くなったが,Hiatt1)の疾患別有効抗癌剤の表をみても,I.延命効果のあるもの,II.しばしば有効であるもの,III.時々有効であるもの,IV.稀または一時的に有効なもの,の4分類のうち,肺癌はIVにランクされている.
 また,かつて癌化学療法のみが施行された末期癌患者の生存期間について,国内66施設のアンケートをまとめたとき,肺癌の化学療法開始後2年生存数は898例中17例(1.9%),5年生存数は519例中1例(0.2%)という微々たるものであったことからも窺われる2)

B. A. I. の適応と効果

著者: 尾形利郎

ページ範囲:P.1831 - P.1833

はじめに
 悪性腫瘍に対する動注法は,副作用のために使用量の制約を受ける制癌剤の投与を,支配動脈を投与経路に選ぶことによって,目的とする病巣に薬剤を集中化し,効果と副作用の比率を有利に導こうとするところに発想の原点がある.原発性肺癌の支配動脈は一般に気管支動脈であり,病巣部に分布する気管支動脈に制癌剤を注入することをBronchial Arterial Infusionといい,B. A. I. と略して使用されている.
 しかし,肺癌はその病巣の拡がり,組織構築の状態によって必ずしも気管支動脈のみが支配動脈であるとは限らず,肋間動脈,縦隔内諸動脈,あるいは肺動脈系などから血流を受けている場合もある.したがって,このような症例に対しては気管支動脈以外にこれらの動脈系からの薬剤投与が当然考慮されねばならず,また実際に行われているが,ここでは気管支動脈内制癌剤投与を中心に,肺癌の制癌剤動注法の適応と効果について検討してみよう.

小細胞癌の治療

著者: 伊藤元彦 ,   寺松孝

ページ範囲:P.1834 - P.1835

 肺の小細胞癌は,全肺癌症例の10%前後を占めるにすぎないが1〜4),病理学的にも,機能性腫瘍といった観点からも,予後の悪さという点でも特異な位置を占め,手術適応や治療計画に特別の配慮が必要である.
 病理学的には,小細胞癌は4亜型にわけられ5,6),燕麦細胞型のものとそれ以外のものとでは予後がかなり異なるとされている.また,細胞診の立場からも,燕麦細胞型のものと,それ以外の型をわけようという研究もある7).しかし,もともと症例数があまり多くないものであることや,分類が必ずしも容易ではないということもあり,ここでは,一括して小細胞癌として論ずることとする.

人型結核菌よりの抽出物質(いわゆる丸山ワクチン)による肺癌の治療

著者: 丸山千里 ,   藤田敬四郎 ,   小関正倫

ページ範囲:P.1836 - P.1838

 結核ワクチンの中で,歴史的に最も有名なのはツベルクリンであるが,発熱,出血などの副作用を伴う場合が多いため,次第に声価を失い,現在では,単に診断用として使用されているに過ぎない.

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内科専門医を志す人に・トレーニング3題

著者: 日下部恒輔 ,   河田肇 ,   高階経和

ページ範囲:P.1839 - P.1841

 問題1. 24歳女子.初診の2週間前(第1子出産後約1カ月余り)から心悸亢進,多汗,体重減少(1カ月間に約3kg)を自覚し来院した.前頸部の緊満感および嚥下時の疼痛を覚えることがあったという.既往歴・家族歴に特記すべきものはない.
 皮膚湿潤(+),手指振戦(+),眼球突出(-),脈拍140/分,整.甲状腺はびまん性に軽度腫大,弾性やや硬,甲状腺上にて雑音を聴取せず.

内科専門医を志す人に・私のプロトコール

XI.剖検

著者: 西崎統

ページ範囲:P.1842 - P.1843

臨床から剖検へ
 内科専門医受験の際には,内科臨床研修5年間に剖検例を少なくとも5例以上経験し,そのプロトコールを提出しなければならない.剖検例は,各病院によって,その症例数はさまざまであると思われるが,できれば症例数は多い方がよい.そもそも,臨床医学の進歩は,基礎医学をはじめ,病理解剖学の協力とともに今日に達してきたものである.臨床解剖は医師の誰もが日常臨床の場を通じ,体験しなければならない極めて大切な学問の場である.とくに患者の臨床症状を観察し,病因を探究し,治療を行ってゆく上に,剖検の経験が臨床上いかに役立っているかを先輩諸氏が語り,また,記載してきている.
 確かに,5年間の浅い臨床研修の経験からでも,患者の病気の診断は,かつて経験した同じ疾患ならば,剖検による正しい経験から臨床診断を自信をもってつけられるものである また,剖検の結果,臨床症状,検査成績,病因などの疑問点の解明に役立ち,さらに新しい知識を得る場合が決して少なくない.したがって,誠意ある治療を続けているにもかかわらず死亡した場合は,できるだけ剖検の許可を得るように努力しなければならない.そのためにも,医師と患者の間には信頼をもって日頃から臨床にあたり,患者の家族ともよく接し,病状,予後などについては,その都度話し合うことが大切である.

演習・X線診断学

単純X線写真による読影のコツ(11)骨および関節

著者: 大澤忠 ,   斎藤和彦 ,   古瀬信

ページ範囲:P.1845 - P.1848

 骨は一見静止しているようにみえますが,類骨組織(osteoid)を形成し,アルカリフォスファターゼを産生する骨芽細胞と,食細胞として働く破骨細胞のバランスのとれた関係で維持されています.またX線陰影としてあらわれるカルシウムの代謝にはカルシウム摂取量,血中カルシウム・燐濃度,血液のpH,腎機能,腸管機能,ビタミンD,副甲状腺ホルモンなどの因予が関係しています.骨・関節といえばとかく整形外科的疾患を考えやすいのですが,上記のような種々の機構の障害は多くの全身性またほ他領域の疾患によっておこることを忘れないでほしいと思います.
 骨・関節の単純撮影は2方向撮影(普通は正,側の直交する2方向)が原則です.また長管骨の場合,近位または遠位どちらかの関節がフィルムに含まれているべきです.骨には心臓や消化管のような不随意運動はないので,しいて短時間曝射を行う必要はなく,多少曝射時間がながくなっても微小焦点管球で鮮鋭度のよい写真をとりたいものです.高圧撮影は胸部写真に賞川されますが,骨が対象の場合,コントラスト,鮮鋭度ともに低下して得るところはありません.

超音波診断の読み方

産科

著者: 竹内久彌

ページ範囲:P.1850 - P.1855

 超音波診断にとって,骨のような硬組織や空気のようなガス体の存在は超音波ビームの入射を防げるため,これらに囲まれた臓器が診断対象として不利な条件にあることはいうまでもない.産科における診断対象である妊娠子宮は,妊娠4カ月を過ぎると腹壁に接して存在するため,超音波ビームの入射が容易であり,滑らかな腹壁表面は走査を行う際の障害がもっとも少ない.しかも,妊娠子宮内の構造は羊水中に胎児,胎盤が単純に配置されており,これも超音波診断に好適な条件ということができる.
 このような超音波診断の対象としての有利な解剖学的条件に加え,全く無侵襲的に,くり返して施行できるところから,産科への超音波診断の応用は非常に盛んに行われている,事実,超音波診断の一方法であるドプラ法による胎児心拍検出装置の普及率はわが国の産科診療施設の80%以上に達するといわれ,断層法も胎盤付着部位診断のように産科では必須の診断法として多くの施設で利用されつつある.ドプラ法は聴診による胎児心拍検出が完全に日常的に用いられ,またこのドプラ信号を用いた胎児心拍数計が分娩監視の目的で普及しつつあるが,ここではこれらについての解説を除外し,以下にもっぱら産科領域における超音波断層像の読み方を述べることとする.

術後障害とその管理

肺切除後の障害とその管理

著者: 金上晴夫 ,   末舛恵一

ページ範囲:P.1856 - P.1860

 金上 肺切除といいますと,いままでは結核が第1の対象にあげられていたのですが,結核が化学療法で治るようになったために,肺切除をする症例がだんだん減ってきた.それに代わって肺癌がどんどん増えてきたので,肺切除といいますと,肺癌が第1の対象にあげられるようになりました。今日は,肺癌患者の術後管理についてお聞きしたいのですが,そこで,まず肺癌患者の肺切除後の障害として問題になるのは,どういうことでしょうか.

診断基準とその使い方

原発性胆汁性肝硬変

著者: 佐々木博 ,   稲垣威彦

ページ範囲:P.1861 - P.1863

臨床像
 原発性胆汁性肝硬変(PBC)の臨床的概念は,1950年,Ahrensら1)によって確立された.その臨床像の特徴は,
 1)中年女性に好発する原因不明の特異な胆汁うっ滞症である.

緊急時の薬剤投与

肺炎と抗生剤

著者: 荻間勇

ページ範囲:P.1864 - P.1865

抗生剤療法に際して
 肺炎の治療に当たり,まず考慮すべきことは,①その原因となる病原微生物の種類が極めて広範囲である,②適当な抗生剤療法を時期を失せず行えば,救命,もしくは速やかに軽快するが,これを誤れば,重篤化し,死亡することもありうる,という2点である.
 抗生剤投与の対象となるものは,主に細菌性肺炎,類細菌微生物による肺炎であり,前者には,

臨床病理医はこう読む

血液ガス分析(1)

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.1866 - P.1867

高血糖と血液ガス異常
 糖尿病のケトアシドーシスは代謝性アシドーシスの代表であるとともに,本例のPco2異常低値からみるように,Kussmaul大呼吸として知られる呼吸異常,さらに低ナトリウム血症で示されるような電解質異常の典型例ともなる.

図解病態のしくみ 炎症のしくみ・3

痛みのしくみと鎮痛剤

著者: 水島裕

ページ範囲:P.1868 - P.1869

炎症性疼痛の発症機序
 炎症に伴って痛みが起こるが,これが患者の訴えのうち最大のものであり,また,臨床医として,治療の対象になるものである.炎症性疼痛の発症機序はいまだ不明の点もあるが,圧迫のような物理的なもの,阻血,pH低下,そしてキニンなどの種々の発痛物質といった化学的なものの相加ないし相乗作用で起こることは間違いない.炎症部位を圧迫すると痛みが増し,排膿によって痛みが軽減することから,圧迫が炎症性疼痛の原因となっていることも間違いない.炎症あるいはそれに伴って起こる虚血により,局所はアチドーシスになる.このpH低下は種々の理由により炎症性疼痛に関与する.すなわちHとKが細胞内外で交換し,炎症巣ではKの濃度が上昇する.Kはそれ自体が発痛物質であると同時に,他の発痛物質の感度を⊥げる.一方,炎症によって直接,また,これらの局所の変化により種々のchemical mediatorが遊離する.多くのchemical mediatorには発痛ないし疼痛閾値低下作用があるが,このうちブラディキニンが重要と考えられている.一方,最近注目されているプロスタグランジンも痛みのsensitizerであり,また,種々の発痛物質による痛みを持続させるという重要な作用がある.プロスタグランジンそれ自体には発痛作用はない.なお,ブラディキニン,プロスタグランジンについては次の機会に詳しく解説する.
 以上のように,炎症巣でみられる物理的,化学的,また,生化学的変化が組み合わされ,図1に示したように,痛みを起こすわけであるが,痛みを感受する神経には特殊な終末装置がなく,また,刺激の種類がいかなるものであっても,痛みを感じ,しかも多くの場合,組織障害を起こす程度の強さの刺激により痛みが感じられる,これらのことからも,やはり炎症巣で生産された化学物質が痛みの発生に大きく作用していると考える方が理解しやすい.

小児の検査

起立試験

著者: 大国真彦

ページ範囲:P.1870 - P.1871

 起立試験は起立性調節障害(OD)の診断上,必要な検査として広く行われている.しかし,時にはその実施方法について誤解があったり,また過大評価あるいは過小評価されていることも少なくない.
 起立試験は,本来はSchellongにより,とくに起立性循環障害の機能判定法として始められたもので,Schellongテストと呼ばれるものであるが,実際には原法通り行うのはそれほど容易ではないので,通常は小児起立性調節障害研究班で定められた方法で行われている.

皮膚病変と内科疾患

壊疽を主徴とする皮膚病変と内科疾患

著者: 三浦修

ページ範囲:P.1872 - P.1873

 壊疽とは表在組織が壊死を起こして附着している状態をいい,その深さは問わない.したがってこれを除去すれば多くは潰瘍を露呈し,稀にはびらんのこともある.この壊死組織が乾燥している場合には乾性壊疽またはミイラ化と呼び,湿潤していれば湿性壊疽と呼ばれる.実際問題としては後者が多く,これに微生物が着生して腐敗臭のはなはだしいこともある.また乾性壊疽は分画線を形成し,境界明確に周囲の健常組織と界されて紅量にとり囲まれ,緑黄色から次第に暗褐色,黒色と変ずる.これに対して湿性壊疽は,辺縁には炎症を伴うものの,壊死組織の色は一様ではない.壊死部は治癒後に醜形や機能不全を遺す.
 かかる壊疽を惹起する原因は多様である.その中では血行障害によるものにもっとも頻度が高く,感染と物理的要因がこれに次ぐ.しかし,2,3の原因が同時に関与していることも稀ではない上,原因の追求に際して困難を感ずるのは,壊死組織の性状に原因に従った特徴を見出しえない点である.そのため多くの場合,壊疽の原因解明のためには多方面からの多様な検索を加える必要がある.

オスラー博士の生涯・32

オスラーの看護婦論(1897年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1877 - P.1879

 オスラーは,病理学を中心に,内科学の研究を行いながら,学生や卒後の医師教育にたずさわり,しかも学生を教室よりも病棟の病床や剖検室などで指導したが,その忙しい教育ならびに実地診療の時間の中にも,内科のテキストの執筆,学会での研究発表をさかんに行い,かつ学会やクラブの運営上の世話をよくしたのである.
 そのほか,オスラーは各地の医学生や,時には看護婦のための講演や諸学会での特別講演をしばしば依頼されたが,彼はよほどのことがない限り,これらを引き受け,聴衆には毎回多くの感動を与えたのであった.

診療相談室

ピリンアレルギーの患者と解熱剤

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.1874 - P.1874

質問 ピリンアレルギーの患者さんに対する解熱剤の注射および内服について,ご教示ください.(横浜市 K生 50歳)
答 ピリンというのはわが国ではピラゾロン系の薬物のことをいう.この系統の薬はほとんどすべてが解熱,鎮痛作用を有しており,医療機関のみならず民間においても広く用いられている.したがって副作用の問題も日常の臨床では重要である,この群に属する薬の主なものをあげると,アミノピリン,アンチピリン,スルピリン,ピラビタールなど,およびその合剤である.さらにフェニルブタゾン,ケトフェニルブタゾン,スルフィンピラゾンなどはピラソリジン系に属し,類似構造を有するが,ふつうはピリンとはよんでいない.またアスピリンは名称が似ており,同じく解熱,鎮痛作用を呈するのであるが,ピラゾロンの構造はなく,副作用の点でもいわゆるピリンとは異なっている.この点しばしば混同されているので一言付け加えておく.

いわゆる老人心について

著者: 杉浦昌也

ページ範囲:P.1875 - P.1875

質問 いわゆる老人心(Altersherz)とは,いかに定義したらよいでしょうか.最近,ECGと臨床所見とのdissociationに困っています.(横浜市 Y生 46歳)
答 大変難解な問題です.いわゆる老人心(Altersherz,presbycardia)の定義ですが,"老人の心臓"という広い意味にとりますと各種の心臓病と種々の老化とを含むこととなり混乱します.そこで"心臓病のない老化心"と考えておきます.60年ないし90年もの長期間休むことなく収縮を続けている以上,なんらかの異常,すなわち老化の存在が考えられるが,はたして老化しない心臓があるのか,それとも正常(生理的)に老化した心臓というべきものか議論のあるところです.また,老化だけにより心臓病が起こりうるのかどうかも問題です.

洋書紹介

—C. A. Owen Jr. et al.—「The Diagnosis of Bleeding Disorders」

著者: 塚田理康

ページ範囲:P.1863 - P.1863

Mayo Clinicの実例をもとに解説
 最近の数年間における血液凝固学,特に血小板およびフィブリン分解産物についての知見の蓄積や検査法の進歩は,各種血小板機能異常症,血栓症や血管内血液凝固症候群(DIC)の診断や治療を容易にしてきている.本書は,その点を考慮して,1969年に発行された第1版が改訂されたものである.
 第1版と同様に止血および血液凝固の概念とその研究の歴史を要領よく述べてたのち,現在Mayo Clinicで用いている止血および血液凝固の日常検査の種類と検査方法の詳細について解説している.経口抗凝血薬の投与量の決定に通常用いられているトロンボテストの評価が低かったり,プロトロンビン消費試験の有用性を強調したり,またフィブリン分解産物(FDP)の検出にはプロタミン試験がエタノール試験より秀れていると述べているなど,各項目が著者の経験をもとに書かれていることが知られる.もちろんこれらの考えに全く問題が無いわけではないが,1つの考え方として受け入れると良いと思う.各種の疾患については,凝固因子,血小板,血管などの原因別に説明しているが,各項ともにMayo Clinicにおける代表例の要約と検査結果をあげながら述べられており,読者の理解を容易にしている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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