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雑誌目次

雑誌文献

medicina12巻4号

1975年03月発行

雑誌目次

特集 これだけは知っておきたい検査のポイント I.尿検査

尿量

著者: 吉田尚

ページ範囲:P.396 - P.398

異常値を示す疾患
 尿量の異常をきたす疾患を表1に示す.正常人の尿量は600〜1,600ml/日であり,1日量500ml以下および3,000ml以上は異常とみなされる.尿量は腎の濃縮力,腎から排泄されるべき溶質量(電解質,尿素,そのほか)および血中抗利尿ホルモンADHレベルにより決定される.したがって正常の濃縮力とADH分泌能力がある人については腎から排泄される溶質量が強く尿量に影響する.尿量の異常を考える時には同時に尿比重または尿浸透圧を測定することにより,腎の濃縮力と排泄されている溶質量を考慮する必要がある.
 表1において急性に尿量を減少される疾患のうち腎性のもので最も重要な.ものは急性糸球体腎炎である.急性腎盂腎炎は両側性におかされなければ尿量の異常はみられない.この型で一番強いものは乳頭部壊死を伴う(急性壊死性乳頭炎)もので糖尿病あるいは衰弱した老人の腎盂腎炎にみられることがある.急性尿細管壊死は,これを中毒性と虚血性に大別することができる.腎に有害な物質としては水銀,砒素,鉛,亜鉛,四塩化炭素,塩素酸カリ,プロピレングリコール,スルフォナマイドなどが知られている.ポルフィリンおよびビリルビンも過量に血中に存在すると腎に対して有害に作用し,尿細管壊死の原因となる.虚血性のものは普通ショックや重症の脱水などにより腎の虚血が数時間以上にわたった時に発生する.

尿比重

著者: 浦壁重治

ページ範囲:P.400 - P.401

異常値を示す疾患
 尿比重の高低を判断する場合に,その検体が,①24時間尿の一部か,②来院時などの随時尿であるか,③濃縮希釈試験施行時の尿の一部であるか,によってその基準が異なる.表では24時間蓄尿の尿量と尿比重を対比させながら疾患,病態別に尿比重の読み方のポイントを示した、尿量が正常領域か,それより少ないか,多いかによって尿比重(高張,等張,低張)を適確に読み分ける必要がある.
 健常成人が普通の食事・飲水をしている場合には,24時間尿の比重は,おおよそ1.015付近で,尿量は1,500ml前後である.これに対して,経口摂取不能なために生じた水分欠乏型脱水症では,その進行とともに尿量が減少し,やがて乏尿となり尿比重は1.030以上を示すようになる,これは水分を保持しようとする抗利尿ホルモン(ADH)の分泌と,その支配下にある腎臓のネフロンの生理的機能にもとづくものである.もしADH分泌機能に障害があれば(下垂体性尿崩症),水の必要注とは無関係に低張多尿となる.また腎臓自身に障害があっても異常を生じる,その1つは,尿量の如何を問わず等張尿しか排泄できない場合で(濃縮能・希釈尿ともに障害),腎不全極期ないし末期(乏尿を伴う),腎不全多尿期がこれに当たる.もう1つは,濃縮能のみがおかされるために多尿傾向と低張尿を示す場合で,慢性腎盂腎炎・カリウム欠乏腎症(たとえば,原発性アルドステロン症)・腎硬化症・腎石灰沈着症などが挙げられる.一般にアシドーシスあるいはアルカローシスのとき,血液pHを反映して尿は酸性あるいはアルカリ性を示すが,これはアシドーシス,アルカローシスの初期や非代償期にみられ,代償期に入るとこのような関係はみられなくなる.尿pHはアシドーシスの場合4.5〜5.2,アルカローシスの場合7.0〜7.9の間の値を示すことが多く,4以下あるいは8以上となることは少ない.尿pHはほとんど生理的変動範囲内の値にとどまる.また,腎尿細管性アシドーシスやダイァモックスの過剰投与時はアシドーシスを示すにもかかわらず,腎尿細管からHイオン排泄が十分におこなわれないため,アルカリ性尿が排泄される.アルカローシス(とくに代謝性)が長く続くとK欠乏を生じ,またアルドステロン症やDOCA投与によるK喪失があると,酸性尿となる(para-doxical aciduria).これは腎尿細管上皮細胞内でHイオンとKイオンが競合的にNa再吸収と共役しているために起こる現象である,また全身性疾患とは別に尿路感染症のとき,とくに原因菌がプロテウス属などの尿素分解菌による場合はアルカリ性尿が排泄されることがある.

尿色

著者: 林康之

ページ範囲:P.402 - P.403

異常を示す原因物質と疾患
 尿色調異常を主訴として外来を訪れる患者の数はかなり多い.健康人尿色調は淡黄色むぎわら色と表現され,水利尿,濃縮などによって水様透明〜黄褐色までの変化を示すがそれほど激しいものではない.そして,尿色の異常を訴えた場合,ほとんどが淡黄色を基調とする色彩の変化を示すもので強調された変化に限るようである.
 表に尿色調の変化をきたす原因物質と対応する病名をあげた.変色は尿中物質の変化をきわめて端的に証明するものであり,診断の重要な情報源となり得る."Keine Diagnose ohne Harnuntersuchung"といわれてきたそのまた第一歩が尿色の観察であり,決して省略できない診断作法のひとつといえよう.尿色の観察は同時に透明か混濁尿かの診断もつき,ひと目でスクリーニングの網を絞ることができる.たとえば最も頻度の高いのは赤色尿であり,当然血尿,血色素尿,薬尿,ポルフィリン尿の順に考えられる疾患をあげ鑑別を進めることになる.したがって、尿路系の疾患,出血性素因,アレルギー疾患,服用薬剤,食用色素などを鑑別の対象にあげ,最後にまれな疾患であるがポルフィリン尿症,血色素尿症などを考えるのが一般的であろう.もちろん,臨床症状がポルフィリン尿症,発作性寒冷(または夜間)血色素尿症を疑うほど明瞭な場合,この順序は無視されてよい.

尿pH

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.404 - P.405

異常値を示す疾患
 健康人尿のpHは4.5〜8.0と変動し,1日プール尿では通常弱酸性(pH6付近)である.このような大きな変動幅をもつ尿pHの異常値はどこかというと,他の検査所見のように前述の範囲をはずれたら異常値という考え方はできない.健康人でも睡眠中は肺換気量減少のため呼吸性アシドーシスの状態となり,尿は酸性となり,起床とともに低下したpHはもとにもどる(moming alkaline tide).また食後尿は,食物にもよるが,大体アルカリ性に傾き(post parandial alkaline tide),1〜2時間後にふたたび酸性となる,一般に動物性タンパク摂取後は酸性に,植物性食品ではアルカリ性に傾き,はげしい運動後は血漿中乳酸が増加し,一過性のlactic acidosisとなり,尿は酸性を示すといわれている。したがって尿pH5あるいは8という成績がかえってきても,果してこの値が生理的なものか,異常状態のためにあらわれたものなのかを区別するのは受持医の仕事なのである.もちろん尿pHが4以下,8以上であれば異常値といえるが,病的状態における変動でもこのようなことはまず起こらない,したがって尿pH検査のみをみた場合,疾病診断としての有用性に乏しい.
 通常尿pHが酸性(アルカリ性)を示す疾患を表に示した.

尿混濁

著者: 村橋勲

ページ範囲:P.406 - P.407

異常を示す疾患
 尿混濁は,混濁をおこす混合物によって,血尿,膿尿,血膿尿,塩類尿,細菌尿,乳糜尿,乳歴血尿,精液尿,糞尿,雲翳および淋糸などに区別される。
 尿混濁をきたす疾患について表1に示した.

尿蛋白

著者: 岡野穰 ,   波多野道信

ページ範囲:P.408 - P.409

異常値を示す疾患
 尿に蛋白が証明されることが泌尿器疾患の手がかりになることはいうまでもない.一般に腎・尿路系の蛋白尿を大別すると表の如く種々の疾患が考えられる、正常人でも1日に尿中10〜100mgの蛋白の排泄がみられ,その量は微量で最も敏感なスルフォサリチル酸法で定性して証明されるかどうかの限界である.
 上田は尿蛋白陽性患者1,105名について疾患名の調査を行い,尿蛋白陽性者は腎尿路系が圧倒的に多く全体の52.2%を占め,そのうちわけは慢性糸球体腎炎34%,慢性腎不全20.3%,ネフローゼ症候群12.9%,腎盂腎炎6.9%,尿路感染症5.6%であると述べている.

糖尿

著者: 水野美淳

ページ範囲:P.410 - P.411

 尿糖検査は,最近蛋白と同様かなりルーチンに検査されるようになったが,反面,尿糖陽性者は直ちに糖尿病とする恐れもある.尿糖成績の応用には案外初歩的注意を忘れがちのように思われる.
 次に糖尿病の治療上,尿糖排泄量を利用することは手軽にみえるが,一定時間尿の蓄尿が必ずしも簡便ではない.大病院では最近尿糖を問題にしない傾向もあるが,これは一定時間尿の採取がそのための看護態勢を必要とし,「能率が悪い」ことにもよる.症例に応じ,意味を考えながら応用すれば,尿糖検査はかなり有用な場合も多い.

ブドウ糖以外の尿糖

著者: 大塚親哉

ページ範囲:P.412 - P.413

ブドウ糖以外の尿糖を認める疾患
 健康人は尿糖を認めないか,認めても普通痕跡程度である.ガラクトース,果糖,五炭糖,乳糖,庶糖など,ブドウ糖以外の糖であっても,その例外ではない.しかし,特殊な場合,生理的にこれらの糖を尿中に証明することがある.
 ブドウ糖以外の尿糖を認める,生理的状態および疾患を表に示した.ガラクトース,果糖,乳糖は未熟児および新生児の尿中に,正常な場合でも証明できるといわれる.しかし,果糖については認められないとする報告もある、健康者でも,多量の果物を食べたあと,l-アラビノースあるいはl-キシルロースなどの五炭糖尿を認めるし,蔗糖を多量摂取後に庶糖尿を認めるという.

尿アセトン体

著者: 斎藤正行

ページ範囲:P.414 - P.415

陽性を示す場合
 ケトン体(別名アセトン体)とはアセト酢酸,アセトン,β-オキシ酪酸の総称で,これらのうち生体内で一次的に生成されるのはアセト酢酸である.アセトンはアセト酢酸が脱炭酸して,β-オキシ酪酸は組織内でアセト酢酸が還元されて生ずる.アセト酢酸は比較的強酸で,血中で予備アルカリと強く結合することから過去においてはケトン体というとアチドージスや代謝異常の元凶のように考えられていた、しかし,もともとアセト酢酸は脂肪酸の生体内酸化の正常中間産物で,常時体内,特に肝において脂肪酸からアセチルCoAを経て生合成され,筋肉その他の組織に運ばれて,これらの組織のエネルギー源の一部として役立っている.たとえば心筋はエネルギーの50%を脂肪酸,つまりアセト酢酸に仰いでいるといわれる.
 ところが表の如く,何らかの機転で糖質の供給が不足または糖質の酸化に故障が生じ(利用障割,TCA回路の回転が流れなくなると生体はエネルギー供給源を脂肪に主に求めるようになり,肝でのアセト酢酸の合成は亢進し,一方,末梢組織での利用障害が展開すると,つまり分解の速度が肝における生成の速度に劣るようになるとケトン体は血中に異常増量し,腎排泄閾は低いことから尿中にすぐ排泄されるようになる.

尿中ビリルビン

著者: 小坂淳夫

ページ範囲:P.416 - P.418

 尿中にビリルビンを証明するには,通常グメリン(Gmelin)試薬,またはロザン(Rosin)試薬を尿に重層して,その境界面に緑色のビリベルヂンを証明することで判定する.この場合,尿中ビリルビン濃度は0.1〜0.2mg/dl以上である.一般にビリルビンを多量に含む黄疸尿は黄褐色を呈し,振盪して上層に泡沫を生ずると,その泡沫が黄色に染まることで間接的に証明することもできる.
 さて,尿中にビリルビンを証明する場合は少なくとも一定量の直接ビリルビンが血中に停滞していることが必要である.ビリルビンのうち直接ビリルビン,すなわち水溶性ビリルビンは腎より排泄される.排泄部位は糸球体を考えている学者も多いが,筆者らの教室での研究では尿細管であって,一定の排泄閾が存在する.直接ビリルビンは抱合ビリルビンとも呼ばれ,大部分はグルクロン酸と抱合しているが,一部は硫酸燐酸抱合,および塩型ビリルビンであり,それらは肝の小胞体で,遊離型のビリルビン(脂溶性)より生成される.また抱合ビリルビンは尿細管より排泄される際,一部は分解されてdipyrryl(propentdyopentなど)として排泄される.

尿クレアチン,クレアチニン

著者: 大森清彦 ,   置塩達郎

ページ範囲:P.419 - P.421

異常値を示す疾患
 クレアチン(Cr)は腎でglycineよりglycociamineが,次いで肝でのmethyl化で生合成され,血行によりその98%が骨格筋に運ばれ,半分近くがCr燐酸として活性化され収縮力源となる.筋肉では常に一定ペースでCrから非可逆的に脱水,クレアチニン(Crn)が生成され,ただちに血中に出され,まったくの老廃物として通常腎糸球体より容易に排泄され,尿細管再吸収分泌は見られない.一方Crもその腎排泄閾値は低く血清Cr正常レベル程度であって,少し高くなっても容易に排泄され,産生に対してもfeedback機構が働くといわれ,血中濃度は高くなり難い.臨床でのCr,Crn異常は表の如く通常3型に大別されるが,大部分は神経筋疾患に見られ,筋異常の反映として血中および尿中Cr↑,Cm↓のパターンを示し,しかも上記排泄動態よりして,腎障害が高度でない限り,その増減は血中レベルとしてより1日尿排泄量として増幅される.したがってCr,Crnの日常検査では,腎障害時を除いては尿中排泄量の変化の意義が大きい.
 表の〔I〕ではCr産生は正常でも筋細胞のCr取込み,保持あるいは利用の低下,障害,筋量減少のためにCrが血中に停留し尿Cr増加,一方Crn生成も低下して血中,尿Crn減少をきたすと考えられている.たとえばDMPは保持障害,神経原性萎縮は取込障害や筋量減少,HyTは筋萎縮も一因となり得るが,むしろ細胞膜透過性異常やこれに関連したK代謝異常が推定されている.成績を要約するとCr増加はDMPで最も大きくcreatine diabetesといわれるほど特徴的で,次いでDM(PM),ポリオ,HyT,SPMA,PN,ACSでの増加が目立つ.その他はミオパチーでも変化は軽度である.

膿尿

著者: 小川秋実

ページ範囲:P.422 - P.423

 正しい方法で採取した尿を新鮮なうちに検査して,尿沈渣の400倍1視野に数個以上の膿球(白血球)が存在すれば,肉眼的に清澄尿であっても厳密には膿尿である.しかし普通は,肉眼的な尿混濁があり,それが膿球による場合を膿尿と称する傾向がある.顕微鏡的な膿尿であっても,その臨床的意義は肉眼的膿尿とほとんど同一である.

顕微鏡的血尿

著者: 山本博章

ページ範囲:P.424 - P.425

異常値を示す疾患
 尿沈渣所見は,通常,鏡検上何視野に何個という表現がとられるので,定量的な印象を与えるが,原則的には,定性的なものと考えておくべきであり,かつ他の一般的定性的臨床検査に比し,再現性の困難なことも多い.
 尿沈渣検査は,一般には,尿10mlをスピッツにとり,1,500rpm,5分遠心し,上清を一気に捨て,管底に残る約0.2mlを軽く攪拌し,その一部をのせガラスにとり,400倍で鏡検し,10視野を平均して,何視野に何個という表現をする.

肉眼的血尿

著者: 村橋勲

ページ範囲:P.426 - P.427

異常を示す疾患
 血尿とは尿に血液を種々の程度に混じた状態を指し,一見して血尿とわかる状態を肉眼的血尿と称している,そして尿路系疾患の重要な症候の一つである.肉眼的血尿をきたす疾患を表に示した.
 肉眼的血尿をきたす疾患には,膀胱腫瘍をはじめ,腎,腎盂,尿管腫瘍など重大な疾患もあり,またしばしば見られる特発性腎出血,尿路結石,まれに見られるものとしては,腎動静脈瘻,尿路外傷,尿路結核あるいは全身性の出血性素因,たとえば血友病,白血病,紫斑病,抗凝固剤などの薬物投与に起因するものなど種々雑多である.

ヘモグロビン尿

著者: 瀧田資也 ,   柳務

ページ範囲:P.428 - P.429

 赤血球の生理的崩壊はもちろん,赤血球寿命の短縮に基づく異常な赤血球崩壌(溶血性貧血)も,通常は網内系細胞内にて行われ,血管内溶血は比較的まれな病的状態であるが,血管内溶血が生じると,ヘモグロビンは循環血漿中に遊離し,すみやかにα2グロブリン分画に属するハプトグロビンと結合し,分子量約31,000の複合体をつくる。この複合体は高分子量なので腎糸球体を通過せず,ヘモグロビンの尿中への流失,およびヘモグロビン尿による腎障害を防ぐ働きをしているが,比較的早い時期に網内系細胞にとりこまれ,ヘモグロビン処理代謝機構に入り,ヘム部会は間接ビリルビンに,グロビンはアミノ酸に変化する、血管内溶血が急激あるいは持続性でかつ高度の場合には,ヘモグロビンはハプトグロビン結合能(血漿100mlあたり100〜140mgのヘモグロビンを結合)をこえる量になり,遊離ヘモグロビンが循環血漿中に出現し,ヘモグロビン血症を呈し,その濃度に応じて,血漿は淡紅色からブドウ酒様鮮紅色まで種々の程度の赤色調を示す.遊離ヘモグロビンの一部はヘムとグロビンに分解し,ヘムはアルブミンと結合してメトヘムァルブミンとなるが,一定濃度以上に達した遊離ヘモグロビンは腎糸球体から濾過され,ヘモグロビン尿を生じ,酸性泉の場合にはメトヘモグロビンとなり濃褐色を呈し,アルカリ性尿の際には鮮紅色を示す.
 ヘモグロビンは近位尿細管にて一部が再吸収され,尿細管上皮内にてヘモジデリンに変化するが,その上皮細胞が変性脱落すると,ヘモジデリンは上皮細胞内外の褐色色素顆粒(プロシヤ青染色で青染)あるいは円柱として尿沈渣中に出現し,ヘモジデリン尿を呈す,血管内溶血の初期にはヘモグロビン尿はあってもヘモジデリン尿はなく,その出現は溶血後数日たってからである.

アミノ酸尿

著者: 北川照男

ページ範囲:P.430 - P.432

 尿中に排泄されているアミノ酸量が,正常よりも著しく増量している場合をアミノ酸尿という.一般にアミノ酸尿はその成因によって,臨床的にover-flow型,non-threshold型,specific-renal型,non-specific renal型の4型に分類されているが,その成因を明らかにするためには,血清アミノ酸と尿アミノ酸を同時に分析する必要がある1),2)

妊娠反応

著者: 長峰敏治

ページ範囲:P.434 - P.435

 妊娠の成立により発生する絨毛から分泌される性腺刺激ホルモン(HCG)を検出して,妊娠の診断を行う試みは,まずFriedman法,Mainini法などとして知られているように,動物を用いて始められたが,純度の高いHCGが得られるようになってからは免疫学的方法がこれに代わるものとなり,中でもWideおよびGemzellの赤血球凝集阻止反応(HIR)が広く応用されている.これによりHCGが検出されるか否か,すなわち妊娠か否かという定性的診断だけでなく,半定量的にHCGを測定することにより,妊娠の異常また妊娠に関連した疾患としての絨毛性腫瘍の診断に用いられている.さらにradioimmunoassayの導入により,微量のHCGも検出しうるようになり,特に絨毛性腫瘍の診断・管理に偉力を発揮しているが,最近では複雑な操作を要するradioimmunoassayに代わる簡単な微量HCG検出法が,Luteonosticon®,Hi-Gonavis®などとして考案され,実用化されるに至っている.

尿ポルフィリン体

著者: 松岡松三 ,   金子兼三

ページ範囲:P.436 - P.437

異常値を示す疾患
 尿ポルフィリン(ポ)体はδ-アミノレブリン酸(ALA),ポルフォビリノーゲン(PBG)のポ前駆物質とウロポルフィリン(UP),コプロポルフィリン(CP)の4種類のポ体よりなり,健常者ではいずれも微量で臨床上有意義な異常値はすべて増加値と考えてよい.
 尿ポ体の増加する疾患を表に示したが,臨床上重要なものはポルフィリン症(ポ症)と鉛中毒である.

II.糞便検査

便潜血反応

著者: 正宗研

ページ範囲:P.440 - P.441

 消化管疾患の症状のうち,消化管出血は最も重要なものの1つで,吐血,下血のごとき顕出血はもちろんのこと,潜出血の場合にも,これを他覚的に証明するために,糞便潜血反応は重要な日常の検査手技の1つとして,診断学上応用されている.

便脂肪

著者: 内藤聖二 ,   清水一夫

ページ範囲:P.442 - P.443

異常値を示す疾患
 便脂肪の増加する疾患を表に示した.
 正常人の便脂肪は総脂肪として1日量5gをこえないものとされている.便脂肪が7.5g/日以上になると糞便中に脂肪滴が出現する.

III.髄液検査

圧と外観

著者: 大和田隆

ページ範囲:P.446 - P.447

異常値を示す疾患
 圧の異常を示す疾患(表)頭蓋内圧測定の方法には,脳室内,後頭下大槽および腰椎穿刺などがあるが,普通補助診断に用いられるのは腰椎穿刺であるので,それについてのべる.腰椎穿刺にて得られる圧は,頭蓋および脊椎腔内の容積(脳,脊髄,血液,髄液および腫瘍,血腫など)の変化に対する容器(頭蓋や脊椎)からのひとしい大きさの反作用の力を髄液を介して測定しているのであり,単に脳脊髄液や脳実質だけの問題ではないことを考慮しなければならない.
 Queckenstedt test両側頸静脈を圧迫すると正常では100mmH2O以上のすみやかな圧の上昇があり,圧迫を除くと急速に圧は下降し初圧に戻る.この圧の変動がすみやかでないものを異常(Queckenstedt test陽性)という.異常を示すときはくも膜下腔の閉塞(ブロック)を意味しておりその程度により完全ブロック,不完全ブロックがある.脊椎管腔の狭窄ないしは閉塞を呈する疾患(脊髄腫瘍,脊髄外傷,椎間板障害,くも膜癒着)の際に重要である,また左右の頸静脈を交互に圧迫しその圧の上昇,下降の差をもって静脈洞血栓や小脳橋角部の腫瘍などを疑うこともある.

髄液蛋白

著者: 濱口勝彦 ,   大野良三

ページ範囲:P.448 - P.449

異常値を示す疾患
 髄液検査は神経疾患の補助診断法として今日もっとも広く行われ,かつ重要な位置をしめているが,とくに髄液蛋白に関しては近年電気泳動法および免疫電気泳動法の応用により,さらに詳細な検討がなされつつある.髄液蛋白の増加は表1に示すように多くの神経疾患に認められるが,50〜150mg/dl程度にとどまる場合が多く,200mg/dlをこえるものは化膿性,結核性および真菌性髄膜炎,脳室内出血,クモ膜下出血,ギランバレー症候群などに限られる.また脊髄腫瘍,クモ膜癒着などにより脊髄腔が遮断された場合には時に6g/dlにも及ぶ蛋白増加をみることがある(Froin徴候).また多発性硬化症では総蛋白に必ずしも増加を認めずγ-グロブリンの増加を認める.グロブリンの検査については従来,Pandy反応,Nonne-Apelt反応などが用いられてきた.これら諸反応の有用性を再検討するために当院中央検査科にて施行された成績を表2に示す.Pandy反応,Nonne-Apelt反応およびTryptophan反応につき,それぞれ既知濃度のγ-グロブリン,アルブミン,および希釈血清を用いて比較検討したものである、Pandy反応はアルブミン20mg/dl,あるいは希釈血清40mg/dlにてすでに(⧺)を示すほど鋭敏であり,グロブリンに特異的とはいえない.またTryptophan反応も40mg/dlではアルブミンにも希釈血清にもすべて(+)を示し,結核性髄膜炎に特異的でないことが明らかである.これに比しNonne-Apelt反応は相当量のアルブミンにも反応せず,グロブリンに特異的であり,ある程度γ-グロブリン濃度と相関をもつので,スクリーニングテストとしては有用であるといえる.しかし3〜4mどの髄液を用い比較的簡易に髄液蛋白分画を施行しうる現在では,むしろ蛋白分画測定をルーチン検査とすることが望ましい.

髄液糖

著者: 角田孝穂

ページ範囲:P.450 - P.451

異常値を示す疾患
 髄液糖の定量は,おもに中枢神経系感染症の鑑別診断上重要な検査である.しかし髄液糖だけで診断がつけられるわけでなく,髄液圧や外観,細胞,蛋白,病原体の検索などと対比して,はじめて診断価値があるといえる.
 髄液糖の正常値は40〜75mg/dlで,正常の状態では血糖値と平行しており,血糖の1/2〜1/3の値を示す.髄膜炎などの中枢神経系の病的状態になると,脈絡叢やクモ膜下腔における毛細血管の通過異常が生じ,また髄液中に浸出した細胞や病原菌によって糖分解作用が行われるために髄液糖は変化する.

髄液血球(赤血球・白血球)

著者: 角田孝穂

ページ範囲:P.452 - P.453

異常値を示す疾患
 正常な髄液中には,きわめてわずかなリンパ球と内皮細胞がみられるだけである,そのリンパ球の数も1mm3中2〜3個であるから,髄液中の細胞を算定して1mm3中5個以上の細胞が存在すれば異常で,細胞増多症という.
 細胞増多症では細胞数とともに細胞の種類が問題となる.細胞の種類は多核白血球,好酸球,形質球,リンパ球,白血病細胞,腫瘍細胞などさまざまであるが,一般には細胞の種類を多核白血球と単核白血球(そのほとんどはリンパ球)に区分して,その比が記載される。細胞数の算定に赤血球は除外され,それ以外の細胞を数える.髄液を採取する時にしばしば人工的出血をきたすこともあるが,人工的出血によるものでない赤血球を認めれば異常である.きわめて大量の赤血球を認めた時は脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血で,そのほか脳内出血の脳室穿破,動静脈奇形の破裂によるクモ膜下出血,脊髄出血などでも大量の赤血球を認める,ヘルペス脳炎において赤血球を認めることは特徴的であるが,その程度は少数のものから大量までさまざまである.

IV.穿刺液検査

穿刺液検査

著者: 河野均也

ページ範囲:P.456 - P.457

腔水症をきたす病態
 胸腔内や腹腔内,あるいは心のう内などの漿膜腔内に体液が病的に貯留する病態を腔水症というが,腔水症はきわめて多彩な病態に際して出現するものであるから,その病因を究明し,診断・治療に役立てるべく,これらの貯留液を穿刺し,種種の検査が実施されている.
 体腔液は血漿が漿膜の毛細管壁より限外濾過されたものであり,正常ではごく微量の体腔液しか存在せず,胸腔内には漿膜面を湿潤させる程度のごく微量が,腹腔内には100ml以下,心のう内には20ml内外の体腔液が存在するにすぎず,その病的な貯留はそれ自身病的であり,表2のような病態に際してしばしば出現する.

V.胃・十二指腸液検査

胃液酸度

著者: 佐藤寿雄 ,   関根毅

ページ範囲:P.460 - P.461

 胃液検査は胃分泌機能を知る方法として胃疾患,ことに胃・十二指腸潰瘍の病態生理の上できわめて重要である.しかしながら,胃生検や内視鏡検査などの診断法の導入により一時等閑視されていたが,最近再び検討されるようになってきた.
 胃液酸度はすべての疾患の診断ないし鑑別の上では必ずしも意義は大きくないが,とくに胃・十二指腸潰蕩において内科的見地からは胃酸分泌の推移を検討することにより治療,予後の判定,さらに再発,再燃の予防の点で意義がある.また,外科的見地からは単に酸分泌反応を知るだけでなく,分泌機序における各分泌相を体液性ないし神経性分泌枢との関連において把握することにより手術術式の適応ないし選択が検討されている.さらに潰瘍再発につながる術後の至適酸度や迷切術における迷切の完全性を検討する点でも意義がある.

胆汁

著者: 亀田治男

ページ範囲:P.462 - P.463

異常所見を示す疾患
 胆汁の検査は通常十二指腸ゾンデ法(Meltzer-Lyon法)によって行われている.本法によって得だ胆汁は,胆管から十二指腸へ流出したものであり,胆のうや胆管から直接得たもので,はないので,消化液の混入など,他の条件が加味されたものであることを念頭におく必要がある.また胆汁欝出刺激は一般に硫酸マグネシウム液の十二指腸内注入によって行われているが,オリーブ油やペプトン水を注入することもあるし,またピツイトリンやコレチストキニン・セルレインの注射によることもあるので,用いた胆汁排出促進剤もチェックしておく.
 十二指腸ゾンデ法により分画採取した胆汁については,外観・採取液量・Meulengracht値・沈渣鏡検・細菌学的検査・化学的検査などを行うので,つぎにこれらの異常所見を示すおもな疾患を列記する.

膵液

著者: 竹内正

ページ範囲:P.464 - P.465

 膵液は最も高濃度に重炭酸塩を含んでおり,アルカリ性を呈し,pH7.5〜8.8になっている.secretin刺激後,膵管から直接に採取した純粋膵液では,最高pH9.4,最高重炭酸塩濃度140mEq/lを示す(自験例).
 膵は1日に約1,500mlの膵液を分泌し(Bodansky),この中に含まれる蛋白量から概算すると,1日に合成し,分泌する蛋白は10〜20gまたはそれ以上にもなると考えられる.

VI.血液検査

ヘモグロビン濃度

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.468 - P.469

 血液を一定量とり,その中のヘモグロビン(Hb)量を比色で測定し,血中濃度g/dlに換算する.以前はSahli-小宮法を使っていたが,中央検査室では光電光度計によるシアンメトヘモグロビン法によることが多い.
 Hbは後述のヘマトクリット値や赤血球数とほぼ平行して増減するが,病的状態ではチグバグを生ずることがある.これを示すのが後述の赤血球恒数で,それから逆に病態の種類を推定できるから,Hbだけで判断しないほうがよい.

ヘマトクリット値と赤血球数

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.470 - P.471

 ヘマトクリット値(Ht)には高速遠心器によるミクロヘマトクリット法が最も広く使われている.Wintrobe法は検査室ではあまり使われなくなった.電子ミクロヘマトクリット法は間接測定法であって,血漿の電気伝導度によって成績が左右されるので,とくに病的状態では信頼性に乏しい.
 赤血球数(R)は視算法で測っていたが,近ごろの検査室では自動血球計数器を使っているところが多い.視算法は再現性に乏しく,大きな誤差のでる可能性があるけれども,赤血球そのものを数えている点が有利で,捨てがたい.自動血球計数器はよい再現性をもっている反面,粒子数を測っているだけのことであり,正しく調整されていないと正しい値は得られない.

赤血球恒数

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.472 - P.473

 Wintrobeの赤血球恒数はつぎの式による.
 平均赤血球容積(MCV)=Ht(%)×10/R(百万単位)(μm3
 平均赤血球Hb量(MCH)=Hb(g/dl)×10/R(百万単位)(Pg)
 平均赤血球Hb濃度(MCHC)=Hb(g/dl)×100/Ht(%)(%)
これらのあいだにはMCV×MCHC=MCH×100の関係があり,貧血の分類にはMCVとMCHCが用いられる,以前によく使われた色素指数はMCHに相当するものである.
 Htの再現性はよいが相対的な値であり,検査室間での誤差は必ずしも小さくない.Rはバラツキの大きい検査である.したがって,これらを使って割算した赤血球恒数のバラツキはいっそう大きいから,よほどの異常値でないと,1回の成績から最終的に判定することは危険である.

網赤血球数

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.474 - P.475

異常値を示す疾患
 網赤血球数に異常を示す疾患について表に示した.網赤血球数は図にも示したように新しく産生された赤血球である一正常人では赤血球の寿命が約120日であるので,その喪失に見合う赤血球の産生が行われており,一定数の網赤血球が認められ,その数は全赤血球のうちの0.5〜1.0%にあたる.しかし生体から異常な量の赤血球の喪失(貧血)が起こり,それによる低酸素血症が起こると,図に示したような経路が正常に働いていれば,その喪失に見合うだけの赤血球産生の増加が起こり,網赤血球の異常な増加が起こる.その典型的な例が表に示した各種の溶血性貧血と急性失血性貧血である.その他,新生時期には生理的に網赤血球は2〜6%と増加する.また髄外造血がある場合や摘脾後にも増加が認められるが,これらは赤血球系産生の増加を示すというよりはむしろ前者では網赤血球の造血部位からの放出の程度の変化,後者ではそのクリアランスの程度の変化によるものと思われる,またビタミンB12,葉酸や鉄欠乏の治療初期には網赤血球の急激な増加が起こり,これによって逆に原疾患の診断が確認される.
 図に示したような経路が十分に働いていないような貧血では,貧血相応の赤血球産生の増加,ひいては網赤血球数の増加が見られない.その典型的な例はエリトロポエチンの作用点である骨髄幹細胞になんらかの障害があると考えられている再生不良性貧血であり,その他に表(II-2)にあげたような疾患がある.またエリトロポエチンの産生に障害のある場合,たとえば腎疾患などでも同様である,さらにいったん赤芽球へ分化してから網赤血球へ成熟していく経路になんらかの障害のある場合,つまりビタミンB12,葉酸,鉄欠乏,鉄芽球性貧血などでも同様である.

白血球数

著者: 服部理男

ページ範囲:P.476 - P.478

異常値を示す疾患
 白血球という名で,顆粒球,単球,リンパ球を総称し,顆粒球は好中球,好酸球,好塩基球から成り立っている、したがって,それら各種血球の増減は白血球総数(以下白血球数)に直結しているわけであるが,好酸球,単球,好塩基球は絶対数が少ないため,ことに減少時に白血球数の異常としてとらえにくい.白血球数の異常は,主として好中球,あるいはリンパ球の数の異常によることが多いが,好酸球,単球,好塩基球のいずれかが著しく増加して白血球数増加をきたすこともある.表1は各血球種ごとに増加する原因を列挙してあるが,なかには単独で白血球数をかえることの少ないもの,あるいは単独では起こりにくいものも含まれている.しかし,最近の血液学書にみられる,原因論的に抽象的な血液学用語を用いた分類よりも理解しやすいし,疾患の頻度の記述という観点でも勝っているので,あえてこのような形式にした.
 表を一覧すればわかるように,白血球増多の原因はきわめて多いし,実際の症例でも白血球増多は複数の原因によって起こることが多い.表2には白血球減少の原因を顆粒球減少,リンパ球減少に分けてあげた.白血球減少の原因は,遺伝性のもののように特殊な原因によるもののほか,一般的な原因,あるいは複数の原因によっている場合もあるが,白血球増多よりやや特殊な原因で起こる場合が多い.

血小板数

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.480 - P.481

異常値を示す疾患
 血小板数の測定は方法により,また検者により値が非常に変動しやすいので,必ず検査方法を確認し,一度の検査値で異常と決めず,2回以上の検査で判断すべきである.
 血小板減少をきたす疾患 頻度の順に示すと表1の如くになる,このなかで日常の臨床で最も遭遇するものは急性骨髄性白血病の場合で,本症の初発症状は,①発熱,②急激に進行した貧血,③血欄小板減少による出血傾向であることを忘れてはならない.

赤血球形態

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.482 - P.484

異常を示す疾患
 末梢血液中の正常赤血球は直径7.5〜8.3μmの扁平円形の血球で,中心部がうすくなっている.その形態の異常は大部分の貧血症の患者で認められ,鑑別診断上重要な役割を果たしている.しかしながら,一部の楕円赤血球症の如く,あきらか強形態異常があるにもかかわらず貧血のない症例があり,また逆に再生不良性貧血のように高度の貧血症があるにもかかわらず赤血球の形態にほとんど異常を認めない症例もあるので注意を要する.図および表は赤血球形態異常の種類と特徴的な変化,特有な変化を起こす主要な疾患をまとめたものである.

白血球形態

著者: 新谷和夫

ページ範囲:P.486 - P.487

 血液像は赤血球,血小板,白血球の質的・量的情報が得られるので,スクリーニング検査の中でも代表的なものとされているが,白血球に関するものが特に重視されている.数量的に白血球増多症や白血球減少症はないかということの他に白血球の分類,殊に幼若細胞,異型細胞の有無といったことがポイントになる。表1に日本人正常者の白血球百分比を示したが乳幼児を除けば性別,年齢別とも大きな差はなく,本表の数値を使用してよいと考えられる.

赤血球酵素

著者: 三輪史朗

ページ範囲:P.488 - P.489

異常値を示す疾患
 赤血球酵素活性の異常値(低値)を示す疾患は大別して,①遺伝性溶血性貧血,②遺伝性メトヘモグロビン血症,③血液疾患以外の疾患で赤血球酵素活性測定が診断上役立つもの,④後天性疾患の診断に役立つもの,に分けられる。その大要を表に示した.いずれも活性低値を示す場合が問題になる.
 したがって赤血球酵素活性の測定を必要とする場合は,①遺伝性溶血性貧血で遺伝性球状赤血球症・遺伝性楕円赤血球症・不安定血色素症・タラセミアに属さない症例,②遺伝性メトヘモグロビン血症,③表にあげたように無カタラーゼ血症,ガラクトース血症,混合型免疫不全症候群,infantile renal tubular acidosis,Lesch-Nyhan症候群などが疑われた場合,④PNHが疑われる場合などについて原因究明ないしは診断確定のために行うものである.

毛細管抵抗試験

著者: 浅井紀一

ページ範囲:P.490 - P.491

 毛細管抵抗試験は細血管外に赤血球が漏れやすいかどうかを検査する方法であるが,血管組織,血管透過性,甑小板,凝固因子,線溶因子,キニン・カリクレイン系などの関与があり,それらの乱れによる細血管の脆弱性の検査といえる.
 日常用いられる方法は陽圧法(Rumpel-Leede)と陰圧法(Borbély限界圧法と定圧法〉であり,両者は必ずしも平行せず,病態により差があり,前者は皮膚面のやや深部の毛細管や細小静脈より,後者は表在細血管より出血しやすいので通常両者を併用してテストする.なお陽,陰圧を併用した複合法もある.

血餅収縮試験

著者: 鈴木弘文

ページ範囲:P.492 - P.493

 血餅収縮は血小板の大切な機能の1つとして広く知られている.しかし,その機序については定説がなく,久しく不明とされていたが,近年に至り,血小板中のthrombostheninが主役をなしていることが明らかにされてきた,そして,このthrombostheninが作用するためにはATPが重要な役割を演じていることが次第に解明されてきた.したがって,血餅収縮試験はこうした血小板の機能を反映するものであり,また,血小板の数も血餅収縮試験に大きな影響を及ぼすことになる.しかし,今日用いられている血餅収縮試験の測定手技は試験管に入れた血液が凝固して血餅をつくり,その血餅の収縮状態を試験管の外から肉眼的に観察する方法と血餅を試験管から分離して残った血清量を測定する方法のいずれかが用いられているために,血小板自体の性状のほかに表1に示したような多数の因子が関与している.したがって,血餅収縮試験の判定にはこれらの因子についても考慮されなければならない.

血小板粘着凝集試験

著者: 安永幸二郎

ページ範囲:P.494 - P.495

 塩小板の粘着と凝集はよく似た現象であり,その異常もおおむね平行するが,ときには解離することもあるから,一応区別して考える方がよい.ルーチン検査としては,まだ充分に確立されているとはいいがたいが,出血傾向や血栓傾向の診断にはきわめて重要な意義をもつことが認識されるようになって,むしろ臨床家の方からルーチン検査としての普及が要望されている趨勢である.

出血時間

著者: 山中學

ページ範囲:P.496 - P.497

異常値を示す疾患
 出血時間の異常はその延長である,異常値を示す疾患を表に示した.出血時間は皮膚毛細血管を穿刺して,湧出する血液が自然に止まるまでの時間であるが,その異常を反映する本態については不明な点が多い.毛細血管が損傷されると,一過性の血管収縮が起こる.そして損傷部位に血小板が粘着凝集して血小板凝集塊(血小板血栓)をつくる.この凝集塊が血管の破損個所を埋めて出血を止める.これを一次止血といい,ここまでの時間を出血時間という.実際には血管からの出血は血管周囲組織の穿刺孔を通り皮膚面に到達し,乾燥した皮膚面で外気に曝されるので,その間の種々の要因の影響も受けることになる.しかし,一般的には,血小板数の減少,血小板機能(質的)低下で出血時間が延長し,凝固因子異常は極端な減少のほかは正常と考えてよい.
 血小板減少をきたす疾患は特発性血小板減少性紫斑病と,症候性血小板減少症である.先天性のものは稀である.症候性は白血病,再生不良性貧血,悪性貧血などの血液疾患のほか,悪性腫瘍の骨髄転移,SLEがあり,数のみならず機能的異常を伴うことがある.血管内凝固症候群は,基礎疾患を常に念頭におくことが大切である.

全血凝固時間

著者: 梅垣健三

ページ範囲:P.498 - P.499

 血液は血管外にとり出されると,次第に流動性を失って凝固する,これは一つには血管壁と異なる異物面との接触による内因性凝固因子の活性化により,また一つには組織液の混入による外因性凝固因子の活性化により,プロトロンビンはトロンビンに転化し,続いてトロンビン-フィブリノーゲン反応が起こり,フィブリンが形成されることによる.全血凝固時間似下CTと略す)測定は,この複雑な凝固の全過程を総括的に観察していることになり,凝固検査の最も基本的な検査法である.しかしCTの大部分は,内因性凝固因子(第XII,XI,IX,VIII,XおよびV因子)が活性化されて,血液トロンボプラスチンを形成するに要する時間に消費される.現在では,Lee-White法により,臨床病理学会血液検査室医師会議で標準化されている.

プロトロンビン時間

著者: 松岡松三 ,   桜川信男

ページ範囲:P.500 - P.501

 プロトロンビン時間(PT)はQuick(1935)により創案されたもので,血液凝固の外因性凝固系の異常の診断に用いられる.PTの測定は蓚酸ソーダ1容と血液9容の割合にて採血し,3,000回転15分間遠心して得た血漿0.1mlを小試験管にとり,37℃に加温し,あらかじめ37℃に加温した組織トロンボプラスチン-カルシウム混液0.2mlを加えて凝固時間,あるいはフィブリンの析出するまでの時間を測定するのである.

部分トロンボプラスチン時間(PTT)

著者: 藤巻道男

ページ範囲:P.502 - P.503

 PTTはLangdell(1953)によって血友病のスクリーニングテストとして考案され,軽度の凝血因子の欠乏をも鋭敏に反応し,その異常を検出するので全血凝固時間に代わるべき方法として日常広く実施されている.これは被検血漿に血小板因子としてのリン脂質を十分に補って,内因系の血漿凝固因子の欠乏を測定する方法である.またPTTにおいて,さらに接触因子を十分に活性化させて安定性のある成績を得るためにKaolin,Celite,およびEllagic acidなどを添加して測定する活性化部分トロンボプラスチン時間(activated PTT,APTT)もある.

トロンビン時間

著者: 青木延雄

ページ範囲:P.504 - P.505

 トロンビン時間(以下TT),正確にいえばトロンビン凝固時間は,トロンビンによる血漿の凝固時間を測定する方法であり,血漿中のフィブリノゲンが一定量のトロンビンにより,フィブリンに転換する反応速度を観察するものである.この場合,トロンビンは外より加えるわけで,検体それ自体のトロンビン生成能はこの検査には関与しない.したがってTTに影響を与える因子としては,フィブリノゲンの質と量,フィブリノゲン・フィブリン転換を規制する血漿内部環境因子および阻害する因子,すなわち血漿のpH,血漿蛋白の変化,ヘパリン,ヘパリン様物質,フィブリン分解産物(FDP)の存在などがある.

フィブリノゲン

著者: 山田外春

ページ範囲:P.506 - P.507

 フィブリノゲンは血液凝固第工因子といわれ,その確実なる生理的機能は凝固作用であり,その質的異常としては,遺伝性のフィブリノゲンの分子構造上の異常による病的状態と後天性にある種の肝疾患で異常フィブリノゲンの出ることが知られている.しかし,これらは稀な疾患であり,一般にはフィブリノゲンよりフィブリンに転化する際の分子学的変化によって起こる凝固障害による出血性素因が臨床的に重視されている,
 最近はさらにプラスミンによりフィブリノゲン(またはフィブリン)が分解された結果生ずるFDP(Fibrinogen Degradation Product)により惹起される凝固障害や高フィブリノゲン血症もその原因の1つである血管内凝固亢進状態が惹起する脱線維素症候群におけるフィブリノゲン減少,線溶亢進が問題視されている.これらとは別にフィブリノゲンは外的侵襲に対する生体の防衛反応に重要な意義を有することが認められてきている.

線溶現象

著者: 安部英

ページ範囲:P.508 - P.509

 線溶現象の測定には多くの方法があるが,まだこれだけで十分だというものはなく,実際にはいくつかの方法による測定値を組み合わせて線溶活性を判断している.現在一般には①フィブリン平板(従来からの標準平板と加熱平板のほかに,最近は基質フィブリノゲンからまじっているプラスミノゲンを除き,アガローズまたはアガールとともに固めて,加熱平板と同じ目的に用いる平板がある)の上に,検体である血漿,血清あるいはそれらのユーグロブリン分画をそのままか,またはこれにストレプトキナーゼ(SK)かウロキナーゼ(UK)を加えて載せ溶解面積を測る方法と,②検体である血漿のユーグロブリン分画の溶解時間を測る方法と,③検体に一定量のプラスミンを加えてフィブリン平板に載せ,同量のプラスミンのみの対照と溶解面積を比較して線溶阻害物質を測定する方法と,④線溶によりフィブリン体が分解されてできた分解産物(FDP)を測る方法が行われている.うち④は次項で述べられるので,ここでは初めの方法を頭において異常値の得られる場合を考えてみる.
 生体内で線溶活性が異常値を示すには,もとよりプラスミンの活性が異常に高いか,反対に異常に低いかでなければならないが,プラスミノゲンが活性化されてプラスミンになるとやがて阻害物質の作用で活性が中和される(10分後にはすでにこの中和作用がみられる).したがって生体内でプラスミン活性が把握できるには,活性化の起こりつつある時に採血しなければならない(①の加熱平板や純化フィブリン平板ではプラスミン活性が測れる).しかし実際にはこの活性化の時期を予知することも,確認することも容易でないので,随時このような活性化が起こった時どれだけの活性が発揮されるか,そのポテンシャルをみる意味で血液中のプラスミノゲン量(①で検体にSKやUKを加えたもので測れる)やこれを活性化するアクチベータの活性(検体としてユーグロブリン分画を用いる場合は①,②,ことに②でアクチベータ作用を優位に反映する.しかしこの場合プラスミノゲン量やフィブリノゲン濃度も測定値に影響する)を測定する.

FDP

著者: 松田保

ページ範囲:P.510 - P.511

 FDP(fibrinogen/fibrin degradation Products)はプラスミンによって生じたフィブリノゲンまたはフィブリンの分解産物を指している、フィブリノゲンはプラスミンの作用により,順次分解して4種のFDP(fragments X,Y,D,E)を生ずる.フィブリンの分解によりFDPを生ずる場合にも,フィブリノゲンの分解の場合とほとんど同様の過程をとる.
 これらのFDPはフィブリノゲンとは異なりトロンビンによる凝固性が極めて悪い(fragment X)か,または全く凝固しない(fragments Y,D,E)が,免疫学的にはフィブリノゲンと同様の抗原性を有するので,血液よりフィブリノゲンを除去した血清または脱線維素血漿を用いて免疫学的な測定が行われている,ただし,このような方法によって測定された物質がすべてフィブリノゲンまたはフィブリンのプラスミンによる分解産物であるかにはなお間題もあり,fibrinogen related antigenと呼ぶものもある.

赤沈

著者: 磯貝行秀

ページ範囲:P.512 - P.513

異常値を示す疾患
 赤沈は健常者では狭い数値内に恒常性を保っているが,疾患の際には病変の進行・停止,あるいは治癒へと動的な変化にしたがって赤沈も動揺がみられる.赤沈の促進は,炎症・組織の崩壊・貧血および血漿蛋白分画の異常などを反映しており,疾患の活動性を示すよい指標となる.
 また,赤沈の促進は一つの急性期反応とみなされるが,その動きは発症後30時間以上を経過しないと明らかでないので,たとえば急性虫垂炎のときの白血球数増加のごとき速やかな反応性の変動はみられない.同時に異常から正常への復帰も緩徐であるという特質をもっている.しかし,慢性に経過する結核性疾患などの場合,体温・白血球数,あるいはCRPの動きがみられないのに赤沈のみが促進を示して再燃増悪を鋭敏に示唆するという一面をもっている.表1は赤沈の正常値を示したものである.赤沈の異常は「促進」と「遅延」に大別されるが,臨床的意義は前者の方がはるかに大である.「遅延」は正常者でもしばしばみられ,その意義は必ずしも大きくない.

赤血球抵抗試験

著者: 高木皇輝

ページ範囲:P.514 - P.516

異常値を示す疾患
 溶血亢進の有無に関する検査として,広く行われている赤血球滲透圧抵抗(脆弱性)試験は低張食塩水に対する抵抗をみる方法であり,そのほかにサポニン抵抗,酸抵抗,機械的抵抗をみる方法もあるが一般的でない。低張食塩水に対する赤血球抵抗が減弱する(脆弱性が亢進している)疾患,増強する(脆弱性が低下している)疾患,正常を示す疾患を表1に示した.溶血性貧血では一般に抵抗が減弱するが,その種類によって多少異なり遺伝性球状赤血球症では著しく減弱する.しかし,これは本症に特異的なものでなく,球状赤血球は低張食塩水中では水が滲透し容積が増大し極限に達して溶血するまでの余裕が乏しいいためであると考えられる.自己免疫性溶血性貧血では溶血が盛んな時は減弱する.同種免疫性溶血性貧血の場合,抗Rhでは正常であるが抗A,Bでは減弱する.中毒性溶血性貧血では軽度減弱を示し,悪性貧血では多くは正常を示すが,減弱や増強を示す例もある.急性出血後の血液など新鮮な赤血球は抵抗が強く,溶血性貧血以外の黄疸でも抵抗が増強している.

異常ヘモグロビン

著者: 宮地隆興

ページ範囲:P.518 - P.519

異常値を示す疾患
 ヘモグロビンは,4個のヘムとそれぞれのヘムを支えてとり囲む4個のポリペプチド鎖から構成される.このポリペプチド鎖は4種類があり,141個のアミノ酸からなる賦鎖と,146個のアミノ酸からなるβ鎖,γ鎖およびδ鎖の3種の非α鎖である.このポリペプチド鎖の組み合わせにより3種類の正常成人のヘモグロビンが作られる。すなわちHbA(主要ヘモグロビンで2個のα鎖と2個のβ鎖からなりα2β2で表される),HbF(胎児ヘモグロビンで2個のα鎖と2個のγ鎖からなりα2γ2で表される)およびHbA2(生後産生されるヘモグロビンで2個のα鎖と2個のδ鎖からなりα2δ2で表される)である.
 これらのポリペプチド鎖の産生は他の蛋白の合成と同様に遺伝的に支配されている.それ故遺伝の過程で異常が生ずると(突然変異など)1個以上のアミノ酸の置換,欠除および増加が,ポリペプチド鎖のアミノ酸配列に起こり,正常とは異なったアミノ酸の配列をもったヘモグロビンが産生される性これを異常ヘモグロビンという.α鎖にこのような異常が起こると,HbA,HbFおよびHbA2の3種のヘモグロビンが異常ヘモグロビンとなる.

VII.血清検査

CRP

著者: 松田重三

ページ範囲:P.522 - P.523

異常値を示す疾患
 CRP(C-reactive Protein,C-反応性タンパク)が陽性を示す疾患を表にまとめた.
 CRPが発見された当初は,肺炎双球菌感染症に特異的に出現する病的タンパクと考えられていたが,その後,各種の炎症性疾患や組織の崩壊をきたす疾患でもCRPが陽性となることがわかり,現在では非特異的に出現してくる病的タンパク,いわゆる急性相反応物質の1つとして理解されている.

リウマチ因子の検出

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.524 - P.525

 リウマチ因子とその検出法 慢性関節リウマチ(以下RAと略す)の血清中にはリウマチ因子という一種のタンパク質がある.これは血清タンパク質のIgM分画に属し,同種,または異種のIgGと結合する能力があり,自己抗体の一種と考えられている,最近ではさらにIgG,IgAに属するリウマチ因子も見出され,総称して抗γグロブリン因子とよばれている.
 検査法として日常広く応用されているのは以上の原理に基づく感作粒子凝集反応である.すなわちリウマチ因子が同種,または異種のIgGと結合する性質を応用し,粒子の表面にIgGを吸着させ,これを用いて血清との間に凝集反応を行うのである.その粒子の種類により種々のテストがあるが,臨床検査に用いられているのは,1)ヒトIgGを吸着させたポリスチレン・ラテックスの粒子を用いるラテックス凝集反応(以下RAテスト)と,2)ウサギIgGを吸着させたヒツジ赤血球を用いるWaaler-Roseテスト以下WRテスト)の2つである.

抗サイログロブリン抗体の検出

著者: 新井加余子 ,   網野信行

ページ範囲:P.526 - P.527

 抗サイログロブリン抗体検出法には,沈降反応,タンニン酸処理赤血球凝集反応,ラテックス凝集反応,固定組織を用いる螢光抗体法がある.現在わが国においては,タンニン酸処理受身赤血球凝集反応(サイロイドテスト・富士臓器製薬)が日常検査として最もよく用いられているので,以下サイロイドテストにつき述べる.

ASO値

著者: 本間光夫

ページ範囲:P.528 - P.529

異常値を示す疾患
 ASO値の異常値をきたす疾患群を表に示した.
 れんさ球菌菌体外産生物ストレプトリジンOに対する抗体が抗ストレプトリジンOである。このASOの測定はれんさ球菌感染の血清検査で最も広く用いられる検査法である,それはASO以外の抗体は基質や抗原の調整が困難で,一定の品質が得がたいためである.

Coombs試験

著者: 浅川英男

ページ範囲:P.530 - P.531

クームス試験陽性を示すとき
 クームス試験は直接クームス試験と間接クームス試験がある。そこでそれぞれについて陽性成績を示す疾患について述べてみる.
 直接クームス試験陽性を示す疾患表1に示す如き疾患がある.直接クームス試験陽性とは赤血球を免疫グロブリンなどがcoatしている状態で,その抗体が自己抗体であるにせよ,免疫同種抗体であるにせよ,また薬剤由来によるにしても結合して溶血性貧血を起こしてくる.しかしきわめて稀ではあるが,クームス陽性正常人が存在するとの報告もある1).またクームス試験陰性の自己免疫性溶血性貧血があるともいわれている.

寒冷凝集反応

著者: 荒田孚

ページ範囲:P.532 - P.533

 血液を寒冷に爆すと血球が凝集することは1903年Landsteinerにより見出され,これが寒冷凝集反応のはじまりである.その後,肺炎やマラリアで本凝集素価が高値を示すことが臨床的に知られるようになった.1943年Petersonらが,原発性非定型(異型)肺炎(primary atypical pneumoniae)の患者血清中に本凝集素が高率に出現し,陽性の場合には臨床症状と併せて,他の型の肺炎との鑑別に役立つとした.本凝集素は,自己および同種の血球以外,ある種の動物赤血球を凝集し,IgMに属するマクログロブリンであり,あるものはクリオグロブリンの性質がある.しかし,その種類,出現機構,生理的意義は今後の問題であろう.
 寒冷凝集素の作用は低温(0~5℃)で最も強く、20℃では活性がほとんど失われ,37℃で凝集は解離する.

梅毒血清反応

著者: 河合忠

ページ範囲:P.534 - P.535

 梅毒血清反応には表1に示すような方法が用いられている.STSのうち1〜3法がスクリーニングの目的で使われ,確認診断にはTPHA,FTA-ABSが用いられる.しかし,TPHAテストが簡単に行うことができるため,STSのうちガラス板法と組み合わせてスクリーニングに用いられるようになっている.

ポール・バンネル反応(Paul-Bunnell反応)

著者: 熊谷直秀

ページ範囲:P.536 - P.538

 Paul-Bunmell反応とはPaul-Bunnell反応1),16),とは,感染性単核球症(Infectious Mononucleosis,以下 I. M.)の血清学的診断を目的とする臨床検査法である.患者血清を56℃,30分間で不活化し,生理的食塩水で倍数希釈した後,この列の各管によく洗ったヒツジの赤血球液を加え,室温(22℃)で2時間静置し,管底に沈殿したヒツジ赤血球の凝集の有無を肉眼で観察し,凝集を示した試験管の最高希釈倍数をもって,その患者血清の抗体価とする.
 抗体価はI. M. と血清病できわめて高く,稀に他の疾患でも高い値の示されることもあるが,この3種の抗体はいずれもヒツジの赤血球に蛇する凝集素,すなわち異好性抗体(Heterophile Antibody)ではあるが,3種はそれぞれ異なったものであり,Davidsohn吸収試験2)によって鑑別される.すなわち,I. M. の異好性抗体は煮沸したモルモットの腎臓では吸収されず,ウシの煮沸した赤血球抗原で吸収されるが,血清病の抗体は両者で吸収され,他の疾患および正常者にみられるForssman抗体は,I. M. とは逆に,モルモット腎臓で吸収され,ウシの煮沸赤血球では吸収されない.

ビダール反応

著者: 国井乙彦

ページ範囲:P.540 - P.541

 ビダール反応では腸チフス菌のVi,OおよびH抗原(Vi,TO,TH),パラチフス菌のOおよびH抗原(AQ,AH),パラチフス菌のOおよびH抗原(BO,BH)に対する抗体価を測定するが,通常はH抗原に対する抗体価は必要がない.病気の経過中に,これらの特異的抗体価上昇が認められれば,原因菌の決定に有力な手がかりが得られる.ただし,他の凝集反応試験にも共通のことであるが,単独の血清抗体価に診断的意義をもたせることは通常の場合,無理である.正常入の血清中にもかなりの凝集素が含まれているし,またチフス性疾患の既往,腸パラ予防接種を受けている場合などもあり,何倍までを正常値と決めることが難かしいからである.したがって診断的価値のある検査成績を得るためには,適当な間隔をおいて少なくとも2回以上血清をとり(ペア血清),前後の抗体価を比較する必要がある.これまでの報告をまとめられ,診断的価値のあるビダール反応抗体価のめやす1)として示されているものを引用したものが表である.

ワイルフェリックス

著者: 荻間勇

ページ範囲:P.542 - P.543

 ワイルフェリックス反応は,リッケチア性疾患の診断法として古くから用いられている反応であるが,これはリケッチアとProteus vulgalisのある種の菌株との間に共通抗原があり,このため,この菌を抗原として凝集反応を行えばリケッチア症患者に抗体が検出されるという理論に基づくものである.
 リケッチア症の血清学的診断法としては,リケッチア凝集反応,補体結合反応,中和試験,赤血球凝集抑制反応などが用いられ,実際にはこれらの諸反応の方がワイルフェリックス反応に比べて鋭敏であり,しかも特徴的であるといいうる.しかし,いずれの反応も操作が複雑であるため,日常検査法としてワイルフェリックス反応に代わり得る段階ではない.

血液型(ABO亜型,Rh0

著者: 竹中道子

ページ範囲:P.544 - P.545

 輸血のための血液型検査はABO式とRh0(D)の2つが不可欠である.ABO式血液型は血液型の基本となるもので,血球に抗原AとBがあり,血清中には抗A,抗B)が正常抗体として存在し,Landsteinerの法則が成立している。したがって血球のもつ凝集原を調べる"おもて検査"の判定と血清(血漿)中に含まれる凝集素を調べる"うら検査"の判定は一致するはずである.ここではおもて判定とうら判定が不一致の場合をとりあげる.

抗核抗体

著者: 大藤真

ページ範囲:P.546 - P.547

 一般にANFといわれるものは細胞核の種々の抗原に対する抗体の総称である.現在までに判明しているANFの種類は,nativeまたdenatured DNA,DNA-histone,Saline extractable nuclear antigenおよび核小体成分などに対する抗体である.これら抗原さえあれば,ほぼあらゆる免疫学的抗体検出手技を用いて各々の核抗原に対するANFを検出しうるが,日常検査として広く使用されているのは螢光抗体法によるtotalでのANF(いわゆるANF)の検出法,LE細胞検出法,抗DNA抗体検出法である.本稿での要求は第一のいわゆるANFの検出法と解されるので,以下本検出法についてのみ述べる.

IgG,IgA,IgMの定量

著者: 伊藤忠一

ページ範囲:P.548 - P.549

異常値を示す疾患
 免疫globulin(以下Igsと略す.IgD,IgEを除く)の血清濃度に異常をきたす疾患を表1にまとめて示した.血清Igs値上昇の多くの場合はpolyclonalである.polyclonalな増加は一般にIgG,IgAおよびIgMのすべてのクラスのIgsの増加として観察されるが,ときに1つのクラスのIgsのみが優先して増加する場合もある.たとえば,急性肝炎ではIgMの増加のみがみられ,IgGやIgAの増加は伴わない.ところが肝炎が遷延し,慢性肝炎(とくに活動型),肝硬変症に移行するとIgGおよびIgAの幅広い増加が起こる.このIgAの増加はcellulose-acetate膜電気泳動像でみられるβ-γ bridgingの原因である。アルコール性肝障害,消化管や呼吸器の慢性感染症ではIgAの増加,新生児の子宮内感染症,trypanosorniasis,胆汁性肝硬変症などではIgMの増加,SLEなどではIgGの増加が著明である.PolyclonalなIgsの増加の証明は疾患の診断に直接結びつくとはかぎらないが,一方,monoclonalなIgs(M-成分)の増加の証明はかなりの診断的意義をもつ.しかし増加しているIgsがmonoclonanであるかどうかは定量するだけでは決定し難く,後述するごとき各種の検索をまたなければならない.悪性のM-成分は2g/dl以上の場合が多く,またM-成分以外のIgsは著明に低下している.良性のM-成分を悪性のものと鑑別することは必ずしも容易ではないが,M-成分は1〜2g/dl程度である.しかも,この場合のM-成分は経過中に消失したり,減少したりすることがある.またM-成分以外の正常Igsの濃度に大きな変化はない.

補体

著者: 永木和義

ページ範囲:P.550 - P.551

 補体は単一な物質ではなく,現在までに少なくとも9つの成分から構成されていることが知られている.これらの成分は抗原抗体結合物と反応する順序によりC1,C4,C2,C3,C5,C6,C7,C8およびC9と名づけられている.さらにC1はC1q,C1rおよびC1sの3つの成分に分かれる.またこれら以外にC3から補体系を活性化するalternate pathwayに関与しているproperdin glycine rich beta glycoproteinなど,および補体成分の不活化物質であるC1,C3,C6およびC7 inactivatorも正常血清中に存在している.したがって血清補体価はこれら20種類近くの蛋白の量および活性によって左右されるものである.

VIII.血液化学検査

血清蛋白

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.554 - P.555

異常値を示す疾患
 血清蛋白濃度の異常をきたす疾患を表にまとめた.血清蛋白濃度が8.0g/dl以上のものを高蛋白血症,6.0g/dl以下のものを低蛋白血症という.このような異常値が得られた場合,反射的に何らかの病名に結びつけることなく,まず被検者の血液が濃縮あるいは希釈を起こしていないかどうかを考えるべきである.とくに,ごくわずかな高蛋白血症の場合は下痢,嘔吐,脱水といった場合が最も頻度が高いのである.
 高蛋白血症が著しい時は多発性骨髄腫,マクログロブリネミア,また,きわめて稀有ではあるがアミロイドーシスを,中等度の高蛋白血症の場合は,これらの各種疾患以外にサルコイドーシス,自己免疫疾患,結合織疾患などを考える.ごく軽度の高蛋白血症は,前述の血液濃縮をはじめとして,きわめて多数の疾患のさいにみられる.その具体例については表に示した.

血清膠質反応

著者: 畑下敏行

ページ範囲:P.556 - P.557

 血清膠質反応とは,血清中に溶存する各種の蛋白質や多糖類複合体,脂質複合体などが,健康者では十分な保護膠質の存在下で,きわめて安定な状態を保っているが,各種の疾患時に,A/G比の低下にも見られるように,その構成成分の濃度や量比に多様な変化が起きて,ある場合にはその膠質安定性が著しく低下して,沈殿や混濁などを生じやすくなったり,また,ある場合には,逆に病的に安定性が上昇することがある.この膠質安定性の度合いを情報として得るために工夫された反応が血清膠質反応である.
 現在最も多く実施されているのは,チモール混濁反応(TTT)と,硫酸亜鉛混濁反応(ZTT)であろうと思われるが,他の反応も各種疾患に対する情報として,別なものを提供してくれる点や,スクリーニングに便利である点などでいろいろな反応が使われていると思われるので,主なものを表1に示した.

血清蛋白電気泳動

著者: 青木紀生

ページ範囲:P.558 - P.559

異常値を示す疾患
 血清蛋白を電気泳動すると易動度の早いものからアルブミン,α1,α2,βおよびγの5分画に分かれる,この分画像に異常がみられる場合,その変動が特定疾患に直結することは少なく,また別の疾患でも同様の変動を示すため,血清蛋白異常を原因論的立場からとらえることはむずかしく,蛋白代謝の立場から分類するのが適当と思われる。表に血清蛋白分画異常像の基本型を示し,異常像をきたす代表的な原因疾患を記す.
 蛋白不足型 発生機序から栄養不足型と非選択性蛋白漏出型に分類される.前者は飢餓,悪液質,内分泌疾患,吸収不良症候群などで,後者は蛋白漏出性胃腸症,滲出性皮膚疾患,胸腹水貯留をきたす疾患などでみられる.

血糖

著者: 水野美淳

ページ範囲:P.560 - P.561

異常値を示す疾患
 きわめて多種多様なので,糖代謝異常の成因を考慮して分類表示した(表1).これらの場合にグルコース100g経口負荷試験で異常を示す頻度は,尿糖同陽性の頻度よりさらに多いと思われる.
 表2はグルコース負荷試験における糖代謝異常の頻度であるが,その判定基準の差,対象患者のかたよりのため種々である.表示してないが,臨床的に糖尿病との鑑別上,最も問題の多い肥満者でも全く同様である.

コレステロール

著者: 水本隆章 ,   山崎晴一朗

ページ範囲:P.562 - P.563

異常値を示す疾患
 血清コレステロールが,動脈硬化と関係のあることは古くよりいわれてきたことであり,重要なものであるが,他面,測定法による技術的誤差も問題となり,それらの事柄を考えてもコレステロールの異常値は脂質代謝異常を知る上でも最も有力な指標となる.食餌およびアルコールの影響は常に考えておかなければならない.同時にトリグリセライドの測定が,これらの判断の助けになる.次に血清コレステロール異常をきたす疾患群を表にあげる.

中性脂肪

著者: 村井哲夫

ページ範囲:P.564 - P.565

異常値を示す疾患
 血清トリグリセリド(TG)値の異常をきたす疾患群を表にまとめた.日常認められる異常値のほとんどは続発性の脂質代謝異常によるものである.血清(TG)は,エネルギー源としての脂質の吸収,貯蔵,消費,合成のバランスを示すものであるから,諸疾患群において脂質代謝に影響を与えた場合,異常値をとり得ることは当然考えられる.この続発性(TG)異常を示す疾患で,(TG)値のみが診断のきめ手になるようなことは表からも認められるごとく考えられない.ただ鑑別診断上,食餌性高脂血症,肥満症,動脈硬化症などにおける(TG)値を含む脂質検査の諸データの解釈は他の続発性高脂血症に比較して困難なことが多い.忘れてならないのは薬剤の副作用としての脂肪肝で,原疾患による影響か否かはかなりむずかしい判断となろう.現在まで示されたもののうち低下させるものとしてヘパリン,デキストランがある、薬剤と食餌性の場合とでは特定臓器疾患としての症候,所見などが不明瞭なことが多い.

遊離脂肪酸(FFA)

著者: 福井巌

ページ範囲:P.566 - P.569

異常値を示す疾患
 血漿中のFFAの濃度は非常に不安定なもので,わずかの刺激に対して敏感に変化する.とくに栄養および神経内分泌性の影響を敏感にうける.血漿中の量はほかの脂質にくらべて非常に少ないが,turn overが非常に早く,エネルギー源として重要な役割を果たしている.
 ほかの脂質と異なり,ただ1回の測定のみで疾患の診断的意義を有するばあいが少ない.むしろある刺激を加えてFFAの変化を見て,それらの刺激の生体内代謝におよぼす影響を見るばあいが多い.

β-リポ蛋白

著者: 中村治雄

ページ範囲:P.570 - P.571

異常値を示す疾患
 まず,簡単にβ-リポ蛋白(β-Lp)の定義についてふれておきたい.それは,測定方法によって,意味するものが若干異なるからである.厳密にβ-Lp(狭義〉という場合には,超遠心法でSf 0〜20分画(低比重リポ蛋白)を指す.電気泳動法で,β-グロブリンに相当した部分のリポ蛋白分画に相当するものであるしかし沈殿を利用した方法(Dextran sulfate,Heparin-Ca,および免疫沈降を用いたβ-リポテストなど)では,表1に示す通り,超遠心法によるSf 20〜400(超低比重リポ蛋白),あるいは電気泳動法によるα2-グロブリン相当のpre-β-リポ蛋白をも共に灘定しており,両リポ蛋白を併せて,β-Lp(広義)と呼んでいる.それぞれに含まれる脂質成分が,やや異なるので,狭義のβ-Lpではコレステロールが,広義のβ-Lpではコレステロールと,中性脂肪が共に多く含まれることになる.
 現在,最も簡易法として普及している多くのKitは,ほとんど沈殿を利用したものであり,したがって,広義のβ-Lpを指しているので,ここでは,それを中心に述べてみたい.表2にβ-Lp(広義)の異常値を示す疾患を示してある.

尿素窒素

著者: 林康之

ページ範囲:P.572 - P.573

異常値を示す疾患
 血清尿素窒素の上昇(低下)する疾患を表に示した.高齢者の腎動脈硬化症による高窒素血症は正常値上限(20mg/dl)をわずかに越える程度(20〜35mg/dl)のまま変動していることが多い.逆に乳幼児,ことに10歳以下の腎炎では尿素窒素の上昇は頻度が低い.小児科領域での急性腎炎は尿素窒素より尿所見の推移が経過観察の目的には適しているといえるにの年齢により尿素窒素の上昇頻度が同じ腎障害であっても異なる点は注意する必要がある.尿素窒素の上昇は基本的に機能するネフロンの数と,体内合成尿素量とのバランスであり,ネフロンの機能が低下しても生成尿素量が比較的少なければ血中停滞は起こらない.この状態が小児であり,成人の場合はこの逆であると考えることができよう.したがって,成人,ことに高齢者ではわずかな腎障害でも上昇する頻度は高い.また,大手術後はしはしば尿素窒素の上昇をきたすが,上腹部臓器の手術後にみられる高窒素血症は単なる腎機能低下のみではなく,蛋白異化の亢進もかなり大きな原因となっている.膵壊死や上腹部膿瘍,縫合不全などにみられる高窒素血症は腎機能不全と考えられる他の所見がなくとも100mg/dl前後の値を示し得るのである.逆に蛋白同化の亢進は異常低値を示すことになる.表に腎炎またはネフローゼ症候群と同じく扱うべきものを示したが,中毒による腎障害も忘れてはならない.有機リン,水銀,クロミウム,フェナセチン,サルファ剤ほか抗生物質その他投与薬剤にも注意を向ける必要がある,ほかにエリテマトーデス,結節性動脈周囲炎,強皮症など膠原病による腎血管変化に伴うもの,腎血栓,凝固異常などでも当然高窒素血症は起こる場合がある.

クレアチンとクレアチニン

著者: 大野丞二 ,   大原憲一

ページ範囲:P.574 - P.575

 クレアチン,クレアチニンの生合成は,まずarginineのguanidine部がglycineに転移されglycocyamineが作られる.この過程に関与する酵素はtransamidinaseで主に腎臓に含有されている.次に肝臓でmethyltransferaseによりglycocyamineはmethyl化されクレアチンが作られる.肝臓以外では筋肉内でもクレアチン合成が行われているといわれるが確定的でない.血中にでたクレアチンは筋肉内に取り込まれcreatine phospho-kinase(CPK)の関与でcreatine phosphateと平衡状態を保っている.この反応は可逆的である.筋肉内に保有されるのはクレアチンの60〜80%で,残りの20〜40%は1分子の水がとれクレアチニンとなるこの反応は非可逆的である.
 筋肉内のクレアチンは筋肉収縮のエネルギーを供するcreatine phosphoric acidの構成分であり,高エネルギー酸化物として筋肉のエネルギー代謝に重要な役割をする物質である.

アンモニア窒素

著者: 高橋善弥太 ,   蟹江匡

ページ範囲:P.576 - P.577

異常値を示す疾患
 劇症肝炎では通常血中アンモニアの中等度上昇を認める1)が,アンモニア値が低くても肝性昏睡をきたしていることもあり,endogenous comaの成因をアンモニアのみでは十分に説明できない.
 猪瀬型の肝脳疾患では門脈副血行路をとおして,末梢血に流入するアンモニアが,海馬などの大脳辺縁系に働いて,興奮,情動行動の異常,健忘,羽ばたき振せん,唾液分泌の亢進などの症状を起こす.
 日本住血吸虫症やBudd-Chiari症候群のような短絡型の肝病変やEck瘻形成手術後でも,しばしば高アンモニア血をきたす,1962年に白木らによって報告された類瘢痕脳型pseudoulegyric typeの肝脳疾患では,脂肪肝または軽い脂肪性肝硬変症があるが,このさいに認められる高アンモニア血を,門脈,大循環系の短絡では十分に説明できない面がある.

ビリルビンと黄疸指数

著者: 亀谷麒与隆 ,   岡崎勲

ページ範囲:P.579 - P.582

 黄疸とは 黄疸とは血清ビリルビン値が過剰(1mg/dl以上)になった状態と定義されている.したがって黄疸の程度は血清ビリルビン値の定量により決定されるのであるが,皮膚・粘膜の黄染はビリルビンの増量による場合が一般であるために,簡便法として血清の黄色調を比色定量する黄疸指数(Meulengracht法)が用いられてき九すなわち血清を生食水で希釈して標準液(重クロム酸カリ0.01g/dl)の濃度と一致するまでに要した希釈倍数で表わされ,ビリルビン1mg/dlが黄疸指数10にほぼ対応する.健康人血清の黄疸指数は4〜6単位,血清総ビリルビン値は0.2〜0.8mg/dlである.血清総ビリルビン値が2mg/dl以上となると黄疸として認識できるので顕性黄疽,それ以下の場合には潜在性黄疸と呼ぶことがある.

血清鉄

著者: 黒川一郎

ページ範囲:P.584 - P.585

 血清鉄は決して単独に上下する値でなく,食餌中の鉄含量,摂取量,小腸からの吸収量と,同時に吸収されるアミノ酸などの種類(グルタミン酸,アスパラギン酸,VCは吸収を促進し,メチオニン,プロリン,セリン,リン酸化合物などは抑制的といわれる〉,組織への沈着,Hb合成への利用度,破壊,トランスフェリン量,感染,腫瘍などさまざまな因子の支配を受ける.鉄は腸管内で第1鉄イオン(Fe2+)として血流に入り.細胞内で酸化されFe3+となり,アポフェリチンと結合する.さらに体内を循環する時は血中のグロブリン分画と結合トランスフェリンと結合し鉄蛋白として担送される.鉄は体内で細胞(酵素Fe),細網内皮細胞(貯蔵Fe),骨髄(HbFe),筋肉(ミオグロビンFe)に利用されるから,血済鉄はこれら諸臓器の機能いかん,吸収・排泄のバランスおよび人間の成長,日内変動,性差など多面的な因子から影響を受けていると考えなければならない.

鉄結合能

著者: 黒川一郎

ページ範囲:P.586 - P.587

 生体内の鉄代謝の指標として,血清鉄と並んで鉄結合能の動態が注目される.血漿中の鉄はβ1グロブリンに属する分子量90,000のムコ蛋白質によって担送される.この蛋白質はトランスフェリン,鉄結合蛋白質,ジデロフィリンなどと呼ばれる.正常者の血清トランスフェリン値は平均260mg/dlといわれ,その1mgは1.3μgのFeと結合する性それ故,正常人血清1dlは260×1.3μg=338μgの鉄を結合しうる能力をもつ.これを総鉄結合能(TIBC)と呼び,このうち血清鉄と結合している割合を飽和率,フリーの部分を不飽和鉄結合能(UJBC)と呼ぶ.鉄結合能はTIBC,UIBCを一応区別し,かつ血清鉄値と関連づけて考えることがのぞましい.

血清銅

著者: 市田篤郎

ページ範囲:P.588 - P.589

異常値を示す疾患
 血清銅値の異常を表にまとめた。血清銅を上昇させる疾患はバラエティに富んでいるが,次のようにわけて考えたい.
 造血および網内系の刺激状態 血清銅の約93%を占めるセルロプラスミン銅は鉄の利用に必須であり,造血の促進される貧血などの場合には上昇する.この場合しばしば血清鉄とは逆相関を示すが,骨髄に動員された鉄濃度と平行して増量しているといわれる.種々な感染症,コラゲン病の増悪期などには,細網内皮系に捕捉・貯蔵された鉄の動員に役立っているものとみられ,急性反応期物質の1つのごとくに血清中で増量する.

Na

著者: 飯田喜俊 ,   白井大禄

ページ範囲:P.590 - P.591

異常値を示す疾患
 通常,血清Na値が150mEq/l以上の場合に高Na血症といわれ,135mEq/l以下になると低Na血症といわれる.高Na血症および低Na血症をきたす疾患について表1に示した.
 血清Na濃度の変化は必ずしも身体総Na濃度の如何を示すのではない.体内においてNaは主として細胞外液に存するが,何か疾患,状態によってこれが細胞内液に移行した場合に血清Naが低下することもあれば,細胞外液における水分とNaの相対的な比によっても高Na血あるいは低Na血をきたす.

K

著者: 白井大禄 ,   飯田喜俊

ページ範囲:P.592 - P.593

異常値を示す疾患
 生体の総K量は3,000〜4,000mEq(45〜55mEq/kg体重)あり,主として細胞内に分布しており細胞外には約2%が含まれているにすぎない.したがって血清K値の異常値は必ずしも体内のKバランスをただちに示しているのではなく,表に示したごとく体内総K量との関連からその異常値を読む必要がある.
 普通食物から摂取されるK量は1日約150mEqで,正常腎は血清K値をほぼ一定に維持するためその85〜90%を腎より排泄することからも明らかなごとく,腎に異常があれば血清K値に異常をきたしやすい.ことに慢性腎不全末期や急性腎不全乏尿期など腎よりのK排泄機能の低下がみられるときには高K血症は必発であり,出血,蛋自異化作用の亢進,脱水症,代謝性アシドーシスなどが加われば,血清K値は異常高値を示す.また逆に急性腎不全回復多尿期,慢性腎盂腎炎,尿細管性アシドーシスなど腎のK保持能の低下があるときには腎より容易にKを喪失し低K血症となる.また腎尿細管におけるK代謝は,Na代謝,酸塩基平衡副腎皮質ホルモン,利尿剤などと密接な関連があり,異常値をみたときこれらとの関連を考慮する必要がある.ことに低K血症からアルドステロン症が発見されることはしばしばであり,また最近は降圧利尿剤としてサイアザイド剤の長期連用による低K血症,逆にスピロノラクトンやトリアムテレンによる高血症などがある.

Cl

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.594 - P.595

異常値を示す疾患
 Clは血清の陰イオンの中でHCO3-と共に主要な部分を占めている.そして,HCO3-が酸塩基平衡に重要な役割をなしているのに対して,αはNaやHCO3-の動きに応じて陰イオンの総濃度を調整するのが主な役割と考えられており,NaやHCO3-の変化により二次的に変化することが多い.血清Cl値の異常をきたす疾患,状態について表に示した.すなわち,血清Na値が変化した場合,酸塩基平衡の異常の場合,Clの不適切な投与や喪失などが主な原因となる.
 高Cl血症は脱水症で血液か濃縮して高Na血となった場合,代謝性アシドーシスおよび呼吸性アルカローシス,Clを大量に与えた場合などにみられ,低C1血症は低Na血症,嘔吐や利尿剤使用によるCl喪失,代謝性アルカローシスおよび呼吸性アシドーシス,HCO3-の過剰投与などにみられる.

Ca

著者: 尾形悦郎

ページ範囲:P.596 - P.597

異常値を示す疾患
 日常検査では血清(あるいは血漿)の総Caを測定するわけであるが,それが正常値以下,あるいは以上をきたす疾患を列挙すると表1,2のごとくなる.血清CaはCa++(カルシウム・イオン),蛋白結合Ca,蛋白以外の陰イオンと結合したCaよりなり,それぞれ血清総Caの48%,46%,6%をなす.血清Caの中でもCa++がCaとしての生物学的活性の主体であり,その濃度は非常に狭い範囲でホメオスターシスが保たれている.これが副甲状腺ホルモン,ビタミンDおよびカルチトニンの作用によることはいうまでもない.蛋白結合Caの濃度はCaが結合する血清蛋白,それも主としてアルブミンの濃度によって変動する.血清総Ca濃度測定の際に見出された異常がCa++濃度の変化を伴うものか,ただ単に血清蛋白濃度の変動を反映するにすぎないものであるかを区別することは,その後の鑑別診断にとって重要である.血清蛋白濃度変動による血清総Caの変化は次の式による補正により除去できる.

無機リン

著者: 尾形悦郎

ページ範囲:P.598 - P.599

異常値を示す疾患
 血清あるいは血漿無機リン酸濃度の異常をきたす疾患を表に示す.血清あるいは血漿中のリン酸は,無機リン酸のほか,エステル型リン酸,リン脂質などの形で存在し,血漿中の総リンは12mg/100mlに達する.しかし,通常は無機リン酸の元素リンの量を血清リン(P)として表現している.高P血症をきたすもっとも多い疾患は腎不全である.甲状腺中毒症,先端肥大症の活動期にも高P血症となる.ビタミンD中毒症でも高P血症となることがある,ビタミンDそれ自体は血清Pを上昇させるように作用するが,同時にみられる高Ca血症は血清Pを低下の,一方高Ca血症に山来する腎障害は上昇の影響を示すので,これら病態のバランスにより,血清P値はいろいろの値をとる.抗腫瘍剤などにより白血病,とくに慢性白血病を治療する際に大量の白血病細胞の崩壊が起こると,細胞内から大量のPが遊離し,高P血症となり,その二次的結果として低Ca血症が起こってくる,副甲状腺ホルモンの作用の低下によっては低Ca血症とともに高P血症が起こってくる.
 血清Ca濃度に上昇がみられず,しかも低P血症が長期間つづくと,くる病あるいは骨軟化症が起こってくる.逆にくる病あるいは骨軟化症においては,一部の病態(hypophosphatasiaなど)を除いて,いずれも著しい低P血症がみられる.ビタミンD欠乏症あるいはビタミンD依存症(vitamin D dependent rickets)では当然低P血症となり,血清Ca値も低下する.各種原因による尿細管そのものの障害により尿細管におけるPの再吸収が障害されても低P血症となるが,この場合血清Ca値は正常値を保つ.いわゆるビタミンD抵抗性くる病(家族性および散発性低P血症),尿細管性アシドーシス,Fanconi症候群などがそれである。長期大量のアルミゲルの投与(リン酸の腸管からの吸収を阻害する),およびある種の利尿剤の投与によっても低P血症が起こりうる.副甲状腺機能亢進症では,典型的な場合,高Ca血症とともに低P血症の状態となる.ただし副甲状腺機能亢進症にかぎらず,高Ca血症は腎機能が正常であるかぎり,一般に低P血症をきたす傾向にある.低K血症では腎からのリン酸排泄が増し,低P血症をきたすことがある.またグラム陰性菌による敗血症でも低P血症が起こるとされている.

Mg

著者: 大野丞二 ,   吉田政彦

ページ範囲:P.600 - P.601

 生体内Mg Mgは生体内に広く分布し,陽イオンとしては4番目に多く存在している.分布はKと類似して細胞内液が主体となっている.細胞内濃度は約28mEq/Lで多くの酵素機構に関与し生体の生理的反応に重要な役割を果たしている.生体内全Mg量は成人で1,800〜2,300mEqであり,その半分は骨組織に存在し,その他は実質臓器や筋肉を中心とする軟部組織内に分布している.細胞外液中には約30mEqのMgが存在する.
 日常摂取している食事中には約30mEqのMgが含まれているが,実際に必要なMg量は1日18mEqで十分である.供給源は緑色野菜の葉緑素であるので,野菜嫌いの人,長期間非経口栄養をしている患者や胃腸液喪失患者などではMg欠乏をきたしやすい,過剰摂取されたMgは腸管から吸収されずにそのまま糞便中に含まれて体外に排出されてしまう.

CO2(bicarbonate重炭酸塩およびPaco2動脈血炭酸ガス分圧)

著者: 長谷川博

ページ範囲:P.602 - P.603

異常値に対する考え方
 bicarbonateとPaco2の異常に遭遇した時には,背広を着たドロ棒と,それを追いかける私服刑事を見かけたような判断の難かしさを要求される.つまり一見した限りではヨタ者が善良な一市民を追いかけているのか,ドロ棒を私服刑事が追いかけているのか見当がつかない.
 すなわちbicarbonateとPaco2,の動きは連動しており,同じ方向に動くことが多い.このような原因と結果を混同しやすい現象は生体の恒常性維持機構の働きによるものである.つまり,「bicarbonateとPaco2との間には,両者の比率が動脈血pHを自動的に決定する」という物理学的・数学的な法則があるため,生体はpHの恒常性保持のために「片方が病的にふえれば,他方をhorneostaticにふやす」からである.このような合目的々な生体反応はcompensationと呼ばれ,酸塩基平衡失調が生じても動脈血pHが可及的不変に保たれるようになっている,したがって常にデータのウラを読む姿勢が必要であり,そのためには臨床経過,患者の現状を熟知していると同時に,動脈血O2分圧(Pao2),「血液ガス分析と同時に採血」した血漿……血清Na,Cl,K,BUNのデータが揃っていなければならない.これらのデータが不揃いのまま,血液ガスのデータだけで病態を判断し治療すると,致命的な誤ちを犯す可能性がある.また血液ガスの測定は後述のように最近のあまりにも自動化された測定機器の進歩によって,測定技術者の実力能力が入り込む余地がなく,完全に「器械に振り廻される」可能性が高くなった.したがって,もしも「患者の状態が良いのに,血液ガスのデータだけが死ぬほど悪い」という立場におかれたら,血液ガスのデータは完全に黙殺すべきである.

pH(動脈血pH)

著者: 長谷川博

ページ範囲:P.604 - P.605

異常値を示す病態と疾患名
 動脈血pHの異常が来る疾患は,概して病勢の進行が早く重篤なものが多いが,大別すると次の6つに分類されよう(頻度順).
 代謝性acidosis prerenal,renal,postrenalいずれかの原因で酸性老廃物が体内に蓄積し,血中bicarbonateが激減した病態.血中尿素窒素の70〜80mg/dl以上の上昇が必発しているが,diabetic ketosisだけは例外である.diabetic ketosisでは血清電解質・尿素窒素いずれもほぼ正常のことが多く,血中bicarbonateのみ激滅し,それと引き換えにケトン体が増加している.

Pco2

著者: 岡安大仁 ,   西島昭吾

ページ範囲:P.606 - P.607

 血液ガス分析は,動脈血および静脈血について行われているが,限られた誌面で,静脈血にもふれることは混乱するので,ここでは動脈血についてだけ既述することとする.
 動脈血炭酸ガス分圧(以下Paco2)は,生体内代謝によって生ずる炭酸ガスと肺胞換気との関係によって規定される.

Po2

著者: 岡安大仁 ,   西島昭吾

ページ範囲:P.608 - P.609

異常を示す疾患
 Pao2(動脈血酸素分圧)は一般にはその低下が種々の疾患において重視されるが,過換気やO2吸入時では,その上昇も臨床上軽視しえない.
 Pao2の低下する原因と疾患を表1に示した.

Sao2

著者: 岡安大仁 ,   西島昭吾

ページ範囲:P.610 - P.611

Sao2の低下する疾患
 Sao2の低下する疾患は,Pao2の低下する疾患と同じといえる(Po2の項目参照).
 で求められる.血液が02と結合する場合,①血漿に物理的に溶解(Henryの法則)する溶解02の形式と,②Hbと化学的に結合するHbO2の形式との2つの形式で結合する.

血清アミラーゼ

著者: 内藤聖二 ,   田中素子

ページ範囲:P.612 - P.613

 血清アミラーゼの意義 血清アミラーゼ値の上昇する疾患は表に示すように多種にわたっているが,その大部分は膵疾患,耳下腺疾患であり,その他の臓器の疾患では稀である.正常においても血液中にアミラーゼは放出されており,ほぼ一定である.年齢,加齢による変動は殆どないと考えられるが,正常値の幅は60より160単位(Caraway法),140より360単位(Blue starch法)とかなり広く,その幅の中で変動している.したがって血清アミラーゼ値の上昇のみならず,極度に低値を示す場合も異常と考えなければならない.正常値の幅がかなり広いことと,毎日の変動があることは血清アミラーゼの分泌される臓器は膵臓と耳下腺であり,分泌刺激はそれぞれ異なっている.耳下腺は主として迷走神経の興奮によって分泌が開始されるが,膵臓では消化管ホルモンの分泌が先行し,これによって外分泌腺は分泌を行っており,食物の性質に左右される.したがって血清アミラーゼ値は耳下腺,膵外分泌腺より血中に逸脱してきたアミラーゼの総量で示される。一般に血清生化学的検査ではこの総量が測定されており,これを臓器別に区分するためにはアイソアミラーゼを検討しなければならない.従来肝にもアミラーゼがあるとされていたが,肝よりアミラーゼが分泌されることは証明されていない.現在では肝アミラーゼは血清アミラーゼであろうとされており,または肝のグルコシダーゼが反応するものと考えられている.また肝に証明されるアミラーゼ活性は微量であって診断の障害にはならないとされている。アイソアミラーゼの中にも肝に特有な分画はない.

アルカリフォスファターゼ

著者: 鈴木宏

ページ範囲:P.614 - P.615

異常値を示す疾患
 血清アルカリフォスファターゼ(ALP)の異常を示す疾患を表1に示した.血清ALPの上昇は他の多くの血中遊出酵素(GOT,GPT,LDHなど)と異なり,臓器でのALPの生成亢進を反映したものである.肝・胆道疾患では胆汁より腸管への排泄障害とともに肝細胞での生成亢進が関与している.また,骨疾患では骨性ALPの生成亢進を反映しており,癌患者の一部の症例では癌組織における胎盤性ALPの生成を反映して血中に増加する.
 黄疸があるばあいには肝細胞性黄疸であるか胆汁うっ滞性黄疸であるかの鑑別が問題となる。肝細胞性黄疸では30K.A.単位以下であることが多く,胆汁うっ滞性黄疸では30K.A.単位以上のことが多い.

アルカリフォスファターゼアイソザイム

著者: 鈴木宏

ページ範囲:P.616 - P.617

 血清アルカリフォスファターゼ(ALP)のアイソザイムは寒天ゲル,セルロゲルを支持体としたばあいと,殿粉ゲルおよびポリアクリルアマイドゲルのDisc電気泳動法のばあいとで泳動像が異なる(図).相違点は寒天ゲルで最も陽極寄りに泳動されるALP1が殿粉ゲルでは原点にとどまり,ALPVIIIとなり,殿粉ゲルで最も陽極寄りに泳動されるALP1は寒天ゲルではALP1と重なるため検出できない.その他のALPアイソザイムの移動度はほぼ同じである.なお,寒天ゲルではPVPを加えるとその量により移動度が低下し,ALP2の陰極寄りに泳動されることがある.
 血清ALPアイソザイムのなかには臓器ALPと同じ性質を有するものがある.肝ALPはALP2(ALPII),骨ALPはALP3(ALPIII),胎盤ALPはALP4(ALPIV),小腸ALPはALP5(ALPV)に一致する.なお,ALP1(ALPVIII)はALP2が高分子化したもので,n-ブタノール処理を行うとALP2(ALPII)と一致する.

γ-グルタミールトランスペプチダーゼ

著者: 藤沢洌

ページ範囲:P.618 - P.619

 成熟哺乳動物におけるγ-グルタミールトランスペプチダーゼ(γ-GTP)の臓器内分布をみると,腎に活性分布が最も高く,膵がこれにつぎ,肝の活性はきわめて低く,成人ではこれら3臓器活性は100:8:4である.しかし胎生期には肝のγ-GTP活性は腎に匹敵する分布をしめし,分化成長の過程で肝の活性は次第に減少し,成熟肝では胎児肝の1/30の活性を示すにすぎない.逆に腎の活性は次第に増して成熟腎では胎児腎の10倍の活性を示す.この酵素の生理的意義については未だ明らかでないが,腎組織では細尿管上皮細胞に局在してグルタチオンの分解と合成に共範しながらアミノ酸の細胞内への吸収と利用にあずかると考えられている1).肝組織では胆毛細管から門脈域の胆管上皮内に分布し,本酵素は肝細胞の顆粒分画で合成されて胆道系を経て排泄される2)。また膵ではacinusと膵管系に分布し,成人心筋にはほとんど活性が認められないが,胎児の心筋,心外膜の毛細血管内皮細胞には活性が認められる.

酸フォスファターゼ

著者: 名出頼男

ページ範囲:P.620 - P.621

異常値を示す疾患
 酸フォスファターゼの値は上昇する疾患のみが臨床的に問題とされる.最も高値を示すものは前立腺癌であるが,Stage IおよびII(前立腺被膜内のみに存在し,外部への浸潤および転移を示さないもの)では高値とはならず,また未分化癌も分化腺癌のようには上昇しないか,正常値にとどまる。前立腺癌以外の疾患で,軽度上昇を示すものは少なくないが,そのいずれも診断的価値は少なく,常に前立腺癌の疑いを持たせるものとして留意されるに過ぎない.また,これらのうち,泌尿器科医を受診する必要のある疾患,前立腺炎・前立腺肥大症などでは,前立腺の経直腸触診および前立腺マッサージ(前立腺分泌液を採取するために前立腺を経直腸的に圧迫する法)が行われ,これによって軽度上昇が見られることもある.

GOT,GPT

著者: 平山千里

ページ範囲:P.622 - P.623

異常値を示す疾患
 GOT(一般名:Aspartate Aminotransferase)は心筋や肝に高濃度に存在し,次いで筋肉,腎,膵などに認められる.GPT(一般名:Alanine Aminotransferase)は肝に最も多く,次いで腎,心筋,筋肉,膵,脾などに存在する、一般にGOT,GPTの肝,心筋などの濃度は,血清濃度の103〜4程度であるので,肝や筋肉の疾患では血清濃度が上昇する.GOT,GPTの上昇する疾患を表に示した.便宜上,高度,中等度,軽度上昇の3群にわけたが,およその目安であり,正確な分類は困難である.
 GOTは心筋をふくむ各種め筋肉疾患で増加するが,臨床上重要なのは心筋硬塞である.すなわち,多数例の統計によると,心筋硬塞の96%以上にGOTの中等度の上昇を認めるが,狭心症や冠不全では23%しか上昇しない.心筋硬塞では,GOTは硬塞後2〜12時間で上昇し,24〜36時間で最高値,3〜7日後正常に復する.この場合,同時にGPTの上昇をみることもある.このGPTの上昇は,心筋起原のもののほか,肝障害を合併するためと考えられている.

LDHとHBD

著者: 螺良英郎 ,   西山雅雄

ページ範囲:P.624 - P.625

 酵素の概要 乳酸脱水素酵素,Lactate dehydrogenase(LDH)とα-オキシ酪酸脱水素酵素,α-Hydroxybutyric acid dehydrogenase(HBD)とはともに脱水素酵素であり,その酵素作用機序の上できわめて類似している.
LDHの反応系

LDHアイソザイム

著者: 螺良英郎 ,   西山雅雄

ページ範囲:P.626 - P.627

 血清LDHの上昇をみる疾患については別項に述べた通りであるが,この際さらにLDHアイソザイムによって,疾患臓器と病因についての質的診断が加えられて役立つ場合がある.
 アイソザイムの測定法と分画 血清LDHアイソザイムの分画測定には電気泳動により5つの分画に分ける方法と,酵素蛋白の性質を利用して分離測定する方法の2つに分けることができる.電気泳動による分画では心筋由来と考えられているH型と骨格筋由来と考えられているM型の2つのサブユニットの4個の組み合わせからなるハイブリットで,H4,H3M,H2M2,HM3,M4の5つに分けられ,これらは電気泳動分画の陽極側からのバンドでLDH1,LDH2,LDH3,LDH4,LDH5にそれぞれ相当する(図).後者の分離測定には表1に示したような物理化学的方法によって測定している.すなわち,尿素添加や熱処理によってLDH1,2によるLDHアイソザイムが測定され,蔭酸による処理やピルビン酸,乳酸による生成物阻害によりLDH4,5によるLDHアイソザイムが測定される.なお,α-Hydroxybutyric acidを基質とする反応はHBDの項で述べた通りである.

LAP(ロシンアミノペプチダーゼ)

著者: 小泉岳夫

ページ範囲:P.628 - P.629

異常値を示す疾患
 血清中のLAP活性が上昇する機序は胆道系の機械的閉塞ないし狭窄であって,以前に考えられていたように膵癌に特異的なものではない.したがってLAPの上昇をきたす疾患は表に示したように,肝,胆道および膵疾患である.このうち胆石,胆道系の炎症性疾患および腫瘍による閉塞性黄疸では400単位をこえる場合が多く(正常値200単位以下),急性および慢性肝炎や肝硬変による黄疸では軽度の上昇を示し,400単位以上になることはまれなため,黄疸を呈する患者のLAP値は両者の鑑別の手助けになる.しかし胆汁うっ滞型の肝炎では著しい高値を示すこともある.肝癌では原発性および転移性のいずれでも,また黄疸の有無にかかわらず,とくに高値を示す.膵癌では黄疸を合併した場合にはLAPの著明な上昇がみられるが,胆道系を圧迫せず,肝に転移のない場合には通常異常をきたさない.急性膵炎では軽度ないし中等度の上昇が一過性にみられるが,慢性膵炎ではほとんど正常範囲にある.肝,胆道,膵以外の疾患では異常を示すことはきわめて少なく,全身各所の悪性腫瘍でも肝転位を起こさない限り正常である.このほか妊娠によって上昇し,妊娠末期には正常値の3ないし4倍に達する.妊娠2カ月後になってもLAPの上昇がみられないときには胞状鬼胎や絨毛上皮腫を疑う必要がある.

CPK

著者: 里吉営二郎 ,   中里厚

ページ範囲:P.630 - P.631

 CPK(Creatine phosphokinase)はsarcoplasmic enzymeの一つで,ATPおよびADPを補酵素とし,creatine+ATP⇄creatine phosphate十ADPの可逆反応(Lohman反応)を触媒し,高エネルギー燐酸結合の貯蔵またはATPの再生産に関係する酵素である.CPKの体内分布はとくに骨格筋に高値で,その他心筋,平滑筋組織,脳などにも存在するが,実質臓器や赤血球にはほとんどみられない.CPKは各種の筋疾患の診断に主として用いられ,とくに筋原性筋萎縮では高値を示すためその診断的価値が高い.本酵素の測定方法は測定する反応物質の違いから数種類の方法がある.従来本邦では,無機燐酸法が行われているが,その他NAD法,NADPH法,creatine法などがある.これらの正常値は各施設で異なるために,それを考慮に入れて結果を判読する必要がある.

BSP

著者: 浪久利彦 ,   山城雄二

ページ範囲:P.632 - P.633

異常値を示す疾患
 BSP静注後30分,あるいは45分の血中停滞率を求める方法は,肝実質障害,あるいは肝胆道系の障害を表す優れた肝機能検査法の一つである.その理由は,本法が肝胆道系の障害に対して特異性が高く,鋭敏で,かつ定量的表現が容易であることなどがある.すなわち,慢性肝炎,脂肪肝,アミロイド肝などで,他のいずれの検査でも,検出できないものが,BSP検査のみ異常を呈することがあり,スクリーニングテストとして優れた価値を有するが,発熱や感染症,貧血,ショック,手術後,リウマチ様関節炎,糖尿病などに一過性異常値を示すので,鋭敏すぎるきらいがある.
 BSP試験の正常値は,30分停滞率で0〜5%,45分停滞率で0〜3%であるから,境界値は10%以下の場合と考えられ,10%以上の停滞率を示した場合には,明らかに異常値と考えるべきであろう.

ICG

著者: 浪久利彦 ,   山城雄二

ページ範囲:P.634 - P.635

異常値を示す疾患
 ICG色素排泄試験の異常をきたす疾患を表に示した.現在行われているICG試験には大別して2つある.その1つは血漿消失率の測定であり,他の1つは15分停滞率の測定であるが,いずれの場合も,原理的には同一で,ある循環血漿量に対し,一定量のICGを投与し,それが血中から消失する速度を表現したものが消失率であり,一定時間後,血中に残存した量を投与量と比較したものが停滞率である.ICG血漿消失率の正常限界は0.168〜0.202であり,15分平均停滞率は10%以内とされているので,境界値は消失率として0.10〜0.15,停滞率として10〜15%としてみることができる.図1,2はICG試験を施行した症例中,肝生検にて診断を確認したもので,筆者らが最近2年間に経験した,肝硬変(LC)50例,慢性肝炎活動型(CAH)50例,慢性肝炎非活動型(CIH)35例について15分停滞率と消失率を百分比で表したものである.ICG15分停滞率が21%以上を示す場合には,その65%がLCであり,10%以下の停滞率をみることは稀である.また消失率が0.06以下の場合は90%以上LCである.慢性肝炎活動型の場合は,その病態によって,非常に良い値から,非常に悪い値まで,広い範囲に分布している.急性肝炎については,病期に応じてその成績が異なるが,経過を追ってICG試験を行うと,回復期に他の検査成績が全て正常化しても,なおICG試験のみが異常値を示すことがあり,その時期の生検像にはなお炎症の存在を認めるので,ICG試験が正常化するまでは完全に回復したとは考えられず,急性肝炎の治癒判定に用いることもできる.

IX.膵外分泌機能検査

消化吸収試験

著者: 細田四郎

ページ範囲:P.638 - P.639

 消化吸収試験とよばれる検査は単一のものではなく,栄養素の消化吸収機能障害をみる検査の総称である,栄養素の種類により,またRIの使用の有無により,さらに測定試料の別によって種々の試験がある.多くの試験の中で,131I-トリオレイン脂肪消化吸収試験(131I-トリオレイン試験)が信頼性が高いので最も多く行われている.

膵刺激試験

著者: 菊地三郎

ページ範囲:P.640 - P.641

 膵外分泌刺激によって増量した膵液(臨床的には十二指腸ゾンデで採取した十二指腸液をもって代表する)の諸成分を測定し,あるいは膵の刺激によって血中に逸脱した膵酵素の増加の程度を測定し,これを正常対照者のそれと比較する方法は慢性膵障害の診断に古くから用いられている.膵外分泌を刺激する薬剤としてはエーテル,オリーブ油,塩酸などが初期に用いられ,次いでワゴスチグミン,インシュリンなどが使用され,近年になってセクレチンあるいはパンクレオザイミンのような消化管ホルモンが用いられるようになった.エーテルなど消化管に直接注入する必要のある薬剤は膵液の検査には不適当であり,ワゴスチグミンのように刺激作用が一定せず,かつ副作用の多い薬剤もまた敬遠されるようになった.最近ではパンクレオザイミンよりもセルレインが勝るとの報告もあり1),次第に合成薬剤に代わって行く可能性がある.

Fancreozymin-Secretin Test(P. S. Test)

著者: 菊地三郎

ページ範囲:P.642 - P.643

異常値を示す疾患
 膵臓疾患の診断法として今までさまざまなものがとりあげられたが,結局は膵外分泌機能検査法が最も適当という線に落着いている.膵外分泌検査法にも各様の方法があるが,現在のところSecretin単独(Secretin Test)あるいはPancreozyminとSeoretinの両方を用いての外分泌刺激法(P. S. Test)が広く用いられるようになった.P. S. Testで異常ありと判定された場合は膵臓に何らかの病変が存在すると考えて大過ないようである.胆石症を含めての胆道疾患患者はしばしばP. S. Test陽性を示すが,この場合の膵には何らかの炎症性病変を伴っているのであって,膵に全く病変がないのにP. S. Test異常を示すfalse positiveの事例はかなり少ないとされている.胃切除例や消化吸収不良症候群で必ずしも膵組織に病変がないのにP. S. Testで異常を示す場合があるといわれるが.その理由は良くわかっていない.低栄養の持続が膵機能障害をきたすのかも知れない.また,肝疾患あるいは糖尿病などでもP. S. Testの異常が相当の率で指摘されているが,これらはいずれも膵実質の病変に由来するものと理解されている.とくに慢性膵炎の診断には欠かせない検査法であり,P. S. Test正常の慢性膵炎は診断に慎重でなければならないとさえ極言できるかも知れない.膵癌でも高率に異常を示す.しかし,膵のう胞のような疾患では異常をきたすとは限らないので注意を要する.もちろん,急性膵炎あるいは慢性膵炎の急性発作期のP. S. Testは禁忌である.しかしながら,膵の病変が軽度の場合にはP. S. Testに異常を示さないことが少なくなく,判定基準の問題ともからんで本法の欠点の1つと考えられる.P. S. Testのもう1つの欠点は,膵の病変を指摘はするが病変の質の診断に対してはあまり大きな情報を与えないという点である.

X.内分泌機能検査

血漿ACTH測定

著者: 松倉茂

ページ範囲:P.646 - P.647

 血漿ACTHは,以前は操作が繁雑な生物学的測定法により,近年ではradioimmunoassayにより,主に研究室レベルで測定されてきた.しかしながら比較的小分子(分子量4.500)のACTHに対して,pgのオーダーの微量な血漿濃度を直接測定できるような優れた抗血清を作製することはきわめて困難であり,このことがACTHのradioimmunoassayの広い臨床横よを現在でも妨げている.
 最近,抽出操作を併用した血漿ACTHのradioimmunoassayのキット(科研化学)も商品化されているが,今後さらに鋭敏な抗血清が作製され,血漿ACTH測定も臨床生化学的検査の1つになることが期待される.

Rapid ACTH test

著者: 井林博 ,   本松利治

ページ範囲:P.648 - P.650

 従来ACTH負荷試験による副腎皮質機能検査法としては,主としてブタ,ウシの下垂体から抽出精製された臓器製剤のACTHを用い,尿中17-OHCSを指標として実施されてきた,近年血中cortisol変量法としてRudd(1966)の硫酸螢光法,次いでMurphyら(1967)によるcompetitive protein binding analysis(competitive radiostereoassay)や,westら(1973)によるradioimmunoassay(RIA)の開発によって操作が簡便迅速で再現性の高い微量定量法(血清試料はRudd法で1〜2ml,Murphy法,RIA法では0.05〜0.1mlを使用)が完成された.一方,スイスCibaのSchwyzerら(1963)によりβ1-24ACTHの合成ACTH製剤(cortrosyn,第一製薬)が開発され,本邦においてもシオノギ研究所大塚博士ら(1970)によって天然ACTHの活性を完全に具備した最小の合成ACTH peptide国産製剤として〔Gly1〕-ACTH(1-18)-octadecapeptide(aethormon,以下α1-18ACTH amideと略)が臨床界に登場した.

血中・尿中17-OHCS,11-OHCS,17-KS

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.652 - P.653

異常値を示す疾患
 尿17-OHCS,血中11-OHCS,尿17-KSの異常を示す疾患を表にまとめた.これらは副腎皮質機能異常を把握するものとしてルーチンによく用いられる.血中17-OHCS,17-KSもほぼ尿中値と平行するが,肝硬変では肝のステロイド代謝異常から尿17-OHCS,17-KSは低値を示す(ただし遊離17-OHCSは高目)にもかかわらず血中はやや高目の値を示す.また甲状腺機能亢進症では代謝亢進があるから内因性コルチゾール分泌は亢進しているが,分泌と代謝が平衡を保つため尿17-OHCSが増加を示す一方,血中17-OHCS,11-OHCSは正常である.11-OH lase欠損症では血中11-OHCSは低値を示すが尿17-OHCSは正常である.
 高値を示すばあいの中でもクッシング症候群は異常高値を示すことが多いが,血中17-OHCS,11-OHCSではとくに日内変動パターンを観察することが重要である.一般に高値のまま持続し午後から夜にかけての低下も平坦で変動を示さない.時に早朝の血中値が正常であっても夕刻や夜間では高値を示す.この点,単純性肥満ではやや高値を示しても日内パターンは正常なので鑑別される.異所性ACTH症候群もいずれの検査でも異常高値のことが多いが,本邦報告例ではクッシング症候群と同レベルである.副腎性器症候群は尿17-KSは異常高値の部類に入るが,21-OH lase欠乏による副腎性器症候群は尿17-OHCSはむしろ低値である.二次性副腎不全やアジソン病はいずれの検査も異常低値を示す.

GH測定

著者: 入江實

ページ範囲:P.654 - P.655

 GH測定検査の内容 GHはラジオイムノアッセイで測定されるが,血清を用い,空腹時の値と各種負荷試験の時の値とが参考とされる,空腹時の値は空腹時安静にして少なくとも30分後の採血によることを原則とする.それは血中GHの値が運動,ストレスなどによって増加するからである負荷試験には刺激試験と抑制試験とがあるが,主として前者である.刺激試験は各種刺激によって視床下部下垂体前葉を刺激し,下垂体前葉のGH分泌能をみる目的で用いられるもので多くの方法が考案されているが,もっとも広く臨床的に用いられているものはインスリン負荷試験とアルギニン負荷試験である.インスリン負荷試験は前採血後標準インスリン0.1u/kgを静注,30分毎に採血し2時間までの各血清につきGH測定を行う.低血糖を起こすのが目的であるので下垂体前葉機能低下などが強く疑われる症例では0.05u/kgの投与によりまず検査を行う.アルギニン負荷試験は前採血後10%l-アルギニン溶液を用い,アルギニンとして0.5g/kgの量を30分間に点滴静注し,その後2〜3時間,30分毎に採血し各血清についてGH測定を行う.インスリン負荷試験では普通60分をピークとして,アルギニン負荷試験では60〜90分をピークとしてGHは上昇反応を示すのが正常反応で,ピークの値は10〜40ng/ml程度である.その他,最近ではl-DOPA負荷試験(l-DOPA125〜500mg経口負荷),より強い刺激としてプロプラノロール・グルカゴン負荷試験(プロプラノロール40mg経口投与2時間後グルカゴン0.5mg注)などの方法も用いられる.抑制試験としては100gグルコース投与によって血清GHが抑制されるかどうかをみる方法が行われる.

血中TSH測定・TRH試験

著者: 佐古田雅弘 ,   大江勝 ,   立岩誠

ページ範囲:P.656 - P.658

 TSH測定については,その血中安静時レベルの測定と同時に,TSH放出作用をもつThyrotropin-Releasing Hormone(TRH)の静注後のTSH反応を併せ観察するのが診断的意義が大きいので,ここでは両者について述べる.また2抗体法にもとつくラジオイムノアッセイのキット化が進められた結果,TSH測定は普及しつつあるが,ここでは2抗体法の成績に限って記述する.

PBI,T4・I

著者: 福地稔

ページ範囲:P.660 - P.661

 血中甲状腺ホルモンのほとんどは血清蛋白と結合して存在するので除蛋白操作によりこれを沈殿として取り出し,その中に含まれるヨードの量,つまり血漿蛋白結合ヨード(PBI)を測定することにより血中甲状腺ホルモン量を知ることができる.本法は甲状腺機能検査法としては比較的古く,しかも広く臨床的に応用されている.ところが血中PBIは微量のためその測定は決して容易とはいえず,しかもヨードの影響をうけるため,あらゆる面で細心の注意が要求される,最近ではこれらPBI測定法の欠点を補うためイオン交換樹脂によって甲状腺ホルモンを分離し,これをT4・Iとして測定する方法がキット化されている.近年T4の測定法の進歩はめざましく比較的簡単にT4値を測定することが可能であるが,T4の分子量やT4の中に含まれるIの分子量とその数がわかっているのでT4の値が求まればT4・Iの値を求めることは容易である.

トリオソルブテスト

著者: 福地稔

ページ範囲:P.662 - P.663

 トリオソルブテスト(T3RSU)は血清試料に一定量の131I-T3を加え測定試料中の甲状腺ホルモン結合蛋白(TBP)と甲状腺ホルモンとの割合を飽和状態としておき,そこへ外からresin spongeを添加することによりTBPと結合した残りの131I-T3を吸着させ,その放射能を測定することによりその割合を算出する.血清試料中に甲状腺ホルモンが多いと,それに比例して添加131I-T3のresin spongeへの吸着の割合も増加し,また甲状腺ホルモンが少ないとその逆となる.本法は直接血中甲状腺ホルモンの絶対値を測定するものではなく,間接的に血中甲状腺ホルモン量を知る方法であるが,よく甲状腺機能を反映するため今日広く臨床検査法として用いられている.原理的には本法は血中甲状腺ホルモン量の変化以外に,TBP量やTBPの結合能の影響をうける.

インスリン測定

著者: 羽倉稜子

ページ範囲:P.664 - P.665

異常値を示す疾患
 血中インスリン値は,空腹時と種々の物質を負荷した場合とでは異なる,また同じ物質でも負荷量や投与方法により,血中インスリンの値は異なる.現在臨床的に最もひろく用いられているのは,グルコースを経口負荷して,その後のインスリンを2抗体法で測定する方法である.
 血中インスリン値に異常をきたす疾患を表に示した.空腹時から高値を示すものに,肥満,ステロイド投与,有熱時,インスリノーマなどがあるが,前3者は50μU/mlをこえることは少ない.

耐糖試験

著者: 石渡和男

ページ範囲:P.666 - P.667

異常を示す疾患
 耐糖試験の異常の大部分は糖質負荷後の血糖曲線が高血糖曲線を示す場合であるが,これには大きく分けて負荷後急速に高血糖を起こすが,その後速やか(2時間以内)に正常の空腹時血糖値に戻るoxyhyperglycemia型と高血糖が長く持続し,負荷後2時間以上たっても正常の空腹時血糖値に戻らない糖尿病型の2つの型がある.負荷後の血糖曲線が極端に平坦な場合も異常によることがある.負荷後,高血糖曲線や正常な血糖曲線を描いたあとで血糖が低下を続け低血糖に到るものも異常である.はじめから低血糖で,負荷後も低い平坦な血糖曲線を示す場合も異常である.これらの諸型の間には明確な境界はなく互いに連続的に移行する.
 上記の異常を示す疾患および状態を表に示す.

トルブタマイド試験

著者: 平塚任

ページ範囲:P.668 - P.669

異常値を示す疾患
 トルブタマイド試験の異常は大別すると2つある.それはトルブタマイド負荷後の血糖の下降が弱い場合と強い場合とである.すなわち,前者の場合はトルブタマイド負荷後,血糖の下降が正常に較べて緩やかで,最低値に達する時間が遅れ60分,あるいはそれ以上を要し,かつ血糖下降の程度が弱い場合であり,後者の場合はトルブタマイド負荷後,血糖の下降が正常に較べてより速やかで著明な低血糖を示し,その後の回復が遅れ3時間以上も正常値に復さない場合である.これらの異常を示す場合を表に示した.

グルカゴン試験

著者: 大根田昭

ページ範囲:P.670 - P.671

 グルカゴンが結晶として取り出され,その生理作用が明らかにされるに従って,グルカゴンを注射してその反応を観察し,種々の検査に用いるグルカゴン試験が行われている.グルカゴンの生理作用は広い範囲にみられるので,この試験は多くの臨床面に応用されている(表).各試験によって,その方法が多少異なるが,通常はグルカゴン0.5〜1.0mgを静注または筋注する.そのさい測定すべきパラメーターは表に示したように,血糖,血圧,血漿インスリンや成長ホルモン,血清カルシウムなどである.また,特殊な場合には,インスリンの分泌能を検査するのにトルブタマイドと併用したり,成長ホルモンの分泌試験にさいしてプロプラノロールを前処置するものもある.最近,高脂血症の鑑別診断に用いる可能性も示されている.

血中ガストリンの測定

著者: 松尾裕

ページ範囲:P.672 - P.673

 ガストリンは胃幽門の粘膜と十二指腸粘膜に存在する胃液分泌刺激ホルモンであり,生理的な胃液分泌機構において,いわゆる胃相(gastric phase)における主役的な役割をなす化学物質である.神経刺激,化学的刺激(アルコール,アミノ酸,pHの変化)および機械的刺激などによって分泌する.血中ガストリンの測定は1968〜1970年以後radioimmunoassay法により可能になり,その測定が一般に普及され,また各国で測定された空腹時血中ガストリン値の正常値が大体一致するようになったのは,ガストリンのradioimmunoassayキットが市販されるようになった1973年以後のことである.したがって,血中ガストリン測定検査の意義および異常値については未だ確立されているとはいえない.

XI.腎機能検査

尿素クリアランス

著者: 東条静夫 ,   土屋尚義

ページ範囲:P.676 - P.677

 尿素は糸球体で自由に限外濾過され,その中の種々の割合が尿細管で主として尿細管壁内外の濃度勾配に基づいて再吸収される.再吸収の割合は尿流量に影響され,分時尿量2mlを境として排泄態度を異にするので,2ml/min以下(standardclearance)と2ml/min以上(maximum clearance)とではクリアランスの計算方法も正常値も異なり,一般に正常値に対する%で機能の程度を表現する.
 したがって,尿素クリアランス(Curea)はより完全な糸球体性物質(Inulin,Thiosulfateなど)のクリアランスで示される糸球体炉過量(GFR)と一致せず,GFRほぼ正常ないし軽度低下の例では同時に測定したCurea/Cthio比は0.65〜0.40程度の値を示すが,GFRが30ml/min以下の高度腎機能障害例では尿細管再吸収の割合が低下してその比は1.0〜0.55と上昇する.

クレアチニンクリアランス

著者: 東条静夫 ,   土屋尚義

ページ範囲:P.678 - P.679

 クレアチニンは糸球体で限外炉過の後尿細管で一部の排泄がつけ加えられるが,ヒトにおける尿細管での態度には不明の部分も多い.臨床的定量法としてのFolin法は真のクレアチニンのほかにいわゆる"non-creatinine Chromogen Substance"にも反応し,両者の腎における排泄態度は全く異なるので(後者は腎での排泄は著しく低い),測定されるtotal clearance(Ccr)の意味づけは生理学的には難点が多い.臨床上糸球体炉過機能の正常ないし中等度低下の群では同時に正確に測定されたCcr/Cthioは0.8〜1.2でよく一致するが,これは前記non-creatinine chromogen substance(total chromogenの20%程度)とクレアチニンの尿細管排泄の相互のたまたまの結果であって,高度の糸球体機能障害(GFR 30ml/min以下)の例や外因性にクレアチニンを負荷してPcrの上昇している状態ではCcr/Cthio比は1.0〜2.5と上昇する.
 クレァチニンは骨格筋の代謝終末産物であって,外因性の食事蛋白に直接依存せず,Pcrは日内変動が少ない(10%以下),尿量も0.5ml/min以下でなければ排泄態度への影響が少ない性質を有するために長時間クリアランス法として有利であり,また内因性物質で特別の負荷を要しないために臨床例で容易に頻回くり返しの測定が可能である.また採尿が正確に行われる例では外来での短時間クリアランス(30分〜2時間)も可能である.クレアチニンの腎排泄態度に生理的な難点はあるにしても,正確に測定されたCcrは臨床的に糸球体の機能障害程度のおおよその目安をつけるのに十分であり,必要に応じてより正確な外因性クリアランス法(Inulin,Thiosulfateなど)を施行するための症例の選択や施行術式の決定,病状の経過の把握に最も簡便な指標となる.

PAHクリアランス

著者: 東条静夫 ,   土屋尚義

ページ範囲:P.680 - P.681

 PAH(パラアミノ馬尿酸ソーダ)の腎における排泄態度はDiodrastと同様で,定量が容易,正常血清や尿でblankがきわめて小,ヒト赤血球中に入らない,蛋白結合が僅小,無毒,市販試薬が安定などの理由で今日広く用いられている.静脈内に負荷されたPAHは腎糸球体で限外濾過後近位尿細管で排泄がつけ加えられ,低血漿濃度(PPAH O.5〜3.0mg/dl)では最終尿中に排泄される量の約15%が糸球体由来で,残りが尿細管で排泄のつけ加えられた部分である.低濃度では腎機能組織の1回循環でほぼ100%に除去され,したがってそのクリアランス値(CPAH)は,腎機能組織を環流する血漿流量(RPF)を表す、実際の全腎での除去率は約90%であるが,これは腎被膜や支持組織,脂肪組織,腎髄質など排泄機能に関与しない部分の血流が10%程度あるためで,その意味ではCPAHを正確には有効腎血漿流量(Effective RPF)と呼ぶこともある.病腎では器質的障害の程度に応じてこの機能に関与しない組織が増大し,CPAH 200ml/min以下では徐々に除去率が低下するが,この場合でもCPAHをもって臨床的なRPFとして支障はない.臨床的に問題となる除去率の低下は後に異常値の項で述べる.
 CPAHの測定法には1回静注,自然排尿による簡易法と持続点滴,留置カテーテルによる標準法があるが,簡便のため前者が用られることが多い.要するにCPAHは,臨床的にはRPFを表し,またそれが期待されるような測定方法で施行された値でなければならない.

PSP排泄試験

著者: 安東明夫

ページ範囲:P.682 - P.683

異常値を示す疾患
 PSP排泄試験は,腎の血行循環動態的性能を示す機能検査のうちでは,最も実施容易であり,かつ成績に誤差混入の機会の少ない有用な検査といえる.15分値がRPF(CPAH)と相関が高いことから,RPFの代用とするのが第1の目的であるが,さらに経時的排泄をみることにより,次のような利点がある.
 ①尿路死腔の有無,大きさの程度が推定できる(後述).②任意の時刻の採尿の値より,15分,30分など標準時刻値の推定が可能である(後述).③標準時採尿の完全性をチェックできる(尿路死腔のない場合).④腎機能障害の程度が推定できる.

Fishberg濃縮試験

著者: 折田義正

ページ範囲:P.684 - P.685

 Fishberg濃縮試験とは①生体を軽い脱水状態とし,血清浸透圧を上昇させると,②この現象が浸透圧受容器に感受され,視床下部の抗利尿ホルモン(ADH)産生を増加させ,このホルモンが脳下垂体後葉より血中に放出され,③腎遠位尿細管,集合管に働いて,尿細管腔より水の再吸収を増加させ,血清浸透圧を正常に戻そうとする一連の反応を利用して,遠位尿細管,集合管(いわゆる下部ネフロン)の機能をしらべる検査である.
 この検査には,採血,試薬などを必要としないが,患者自身の守るべき注意,食事,投薬内容などが関与し,測定にも誤差が入りやすいので,成績解読には注意を要する.

インジゴカルミン排泄試験

著者: 北川龍一

ページ範囲:P.686 - P.687

 インジゴカルミン排泄試験は簡易な分腎機能検査法で,排泄性腎盂撮影とともに,screening testとして泌尿器科領域では膀胱鏡検査と同時に容易に行われる検査方法である.
 インジゴカルミンは全く副作用がないので,ヨード過敏症や妊娠などのレントゲン撮影不可能な症例でも,膀胱鏡検査が可能であれば全例に適応となり,臨床的価値は大きい.しかし,インジゴカルミン排泄試験は静注されたインジゴカルミンが腎で排泄されて腎盂,尿管を通り尿管口で初あて観察されるために,利尿状態や腎盂尿管の状態によってかなり影響される,したがって,定量的腎機能検査としての意味は少ない.現今ではsereening testとして,排泄性腎盂撮影の方が好んで用いられている.

分腎尿検査

著者: 北川龍一

ページ範囲:P.688 - P.689

 腎性高血圧症の診断で,screening testとして排泄性腎盂撮影,インジゴカルミン排泄試験などを施行し,腎性高血圧症の疑いがもたれたならば,その確定診断およびその手術適応決定のために,分腎尿検査は重要な方法である.さらに片腎性の疾患において,排泄性腎盂撮影で罹患側が不明の場合に,患側の決定と左右腎機能の程度を比較するのに必要不可欠な検査法である.
 検査方法 数時問の禁食後,施行前1時間にわたり体重1kg当たり20 ml前後の飲水をさせる.尿管カテーテル用膀胱鏡にて,両側尿管へ尿管カテーテルを挿入し,内視鏡を抜去後ネラトンを膀胱へ留置,20分間以上尿流を観察した後,左右腎尿および膀胱尿の採取を開始する.尿管カテーテルは太さがNo.6〜7 F位の太めのものか,嚢尿管カテーテルを使用して,カテーテルの周囲からの尿漏れを最小限にするように試みる.採尿は工0〜30分で,膀胱への漏れが多い場合は2〜3回行い,膀胱への漏出の最も少ない場合を採用し,膀胱漏出尿は左右腎尿のクレアチニン濃度で左右腎尿量に比例配分し,計算上加算する.

XII.細菌検査

血液培養

著者: 勝正孝

ページ範囲:P.692 - P.693

異常値を示す疾患
 血液中には健常者では病原微生物は検出されない.慢性,亜急性,急性の敗血症の諸症状を呈している患者の血液から菌を検出すれば,その診断価値はきわめて大きい.菌血症は敗血症必発の症状で,敗血巣の確認と共に敗血症の重要な要素である.軽い悪寒,発熱,頭痛,腰痛など軽度の敗血症状を呈し,流血中より一過性に菌を検出する場合がある.多くは一疾患の経過中または処置後にみられ(肺炎,髄膜炎,重症腎盂腎炎,アンギーナ,抜歯,尿道ブジーまたはカテーテル挿入,子宮内膜掻破など),一過性の菌血症のみで終わることが多い.この菌血症も生体側の諸要因,侵入菌の毒力によっては,病巣が敗血巣となりあるいは新しい敗血巣が生じ,細菌性心内膜炎あるいは急性敗血症にまで発展移行する場合もある.敗血症あるいは菌血症いずれであっても,血中より菌を検出した場合の臨床上の意義はきわめて大きい.
 内科においては近頃,最初から敗血症あるいはその疑いとして入院して来る定型的な患者はきわめて稀である.最近では図に示すような基礎疾患患者に各種の治療または処置を行った場合に,それらが誘因または"trigger"となり,敗血症が誘起される,換言すれば"secondary septicemia"さらには死亡直前に来分する終末敗血症(terrninalsepticemia)が大部分を占めている.

原因菌の決定

著者: 富岡一

ページ範囲:P.694 - P.696

 早期に診断し,早期から適正な化学療法を開始することは,感染症の治療上でもっとも望ましく,それは当然原因因子と,その化学療法剤に対する感受性の把握からはじまる.しかし,原因因子の検出面では本項の課題である原因菌の決定がしばしば問題となる.それにはくりかえし検出を行うなど,少しでも決定への資料を求めるよう種々の対策が要求されている.また基本となる検出手技上の問題でも,最近では細菌面で,CO2,嫌気性培養の併行がつよくとりあげられてきている.しかし,いかなる範囲に被検因子の対象を求めるかは,とくに日常検査の段階で問題となる.そして実際面では検査対象とする病原因子におのずから限界のあることもいたしかたない.したがって,臨床診断にたよらざるをえないこともしばしばであるが,その一方で検体を保存し,また経過を追って血清を確保しておくなど,後日にそなえることなども十分念頭において,原因因子の検索,検査成績の判定にのぞむべきであろう.ここでは細菌面を中心にのべる.

感受性試験の読み方

著者: 石山俊次

ページ範囲:P.698 - P.699

比較値でみる感受性
 感受性値に絶対値はない.カップ法,重層法,希釈法,比濁法,ディスク法およびそれぞれの変法で,被検菌の感受性が,たとえば12.5mcg/ml,あるいは廾と示されても,その値は標準(純末)に対する比較値で表現されるので,生物活性の絶対値を示すわけではない.ある種の薬剤,たとえばサルファ剤などは,化学的定量が行われる.その時の値が仮に絶対値に近いとしても,必ずしも生物活性を示すとは限らない.感受性試験は,生物活性を示すわけであるから,実用的には生物学的測定が望ましいが,さて,その値は,化学的に測定された値と必ずしも一致しない.さらに,感受性試験の結果に基づいて薬剤を選択する場合,その最小阻止濃度(MIC),あるいは最大許容濃度(MAC),時には最小殺菌濃度(MCC)で,相互の抗菌力を比較して決めることになる.もともと比較値(比)を比較するわけだから錯覚を起こしやすい.はなはだしいときには,比較できない性質の数値を比較していることさえある.

XIII.細胞診

細胞診パパニコロ分類—とくにClass IIIを中心に

著者: 高橋正宜

ページ範囲:P.702 - P.703

パパニコロ外類の変遷
 細胞診のリポート用紙のほとんどすべてに判定記載法としてパパニコロ分類を用いている.ところがPapanicolaou自身,1941年に発表したものと現在普及している分類とに多少の変化を加えている(表1).本質的に異なるものでないことは表記したとおりで,Class IとIIが良性,Class IIIが疑悪性,Class IVとVが悪性という点に変わりはない.細かくみると,当初の分類ではClassIVは悪性の疑いある異型細胞を少数認めた場合と,Class Vを多数認めた場合とに分けたのであるが,1954年の成書には,悪性の疑い濃厚な異型細胞を認めた場合(Class IV)と,悪性と断定できる高度の異型細胞を認めた場合(Class V)とに分けて質的な変化を重くとりあげている.さらに晩年,ClassIIIについて亜型を設けて疑悪性(疑陽性)に説明を加味したのである.一方,細胞診の専門家はとくに婦人科領域で病理学的背景を強くこの分類にはめこもうとした.すなわち,細胞像全体をカウントして子宮頸部の上皮異常を推定しようとする一派はClassIIIを異形成,ないし異型上皮,Class IVを上皮内癌,Class Vを浸潤癌という枠づけを行うことを提唱している.
 かような混乱が生じた結果としてActa Cytologicaの編集委員によって論文の投稿にパパニコロ分類の使用が停止されるに到った.その理由としてClass区分のもつ意義の不明瞭なことをあげている.

消化器系の細胞診

著者: 信田重光

ページ範囲:P.704 - P.705

 fiber opticsの進歩により,glass fiberを用いたfberscopeが著しく進歩してきた現在,食道,胃,十二指腸,および大腸の細胞診は,以前の盲目的に行われた採取法に代わって,fiberscopeを用いた直視下細胞診が主に行われている.その採取法を表1に示す.食道,胃,大腸の細胞採取法は大体において表1の方法に準じているが,十二指腸の細胞診では,胆汁,膵液などの中に浮遊している細胞を採取するため,上述の諸臓器とは異なった方法をとっている.それを表2に示した.

呼吸器系の細胞診

著者: 早田義博 ,   市場政敏

ページ範囲:P.706 - P.707

呼吸器系の細胞診の目的
 呼吸器系疾患は非常に多く,これら疾患の診断には多くの診断方法が用いられている.これらの中で細胞診は,病巣より脱落した細胞,病巣の表面の擦過細胞,あるいは直接病巣の中を穿刺して細胞採取する3つの方法によって行われ,細胞の形態から疾患の診断を下すものである,今,仮に細胞形態によって診断が可能であると考えられる疾患をあげると,肺癌,悪性肺腫瘍,良性肺腫瘍,肺線維症,肺の炎症であるが,現実では肺癌と悪性肺腫瘍,あるいは転移性肺腫瘍に限定されてくる.しかし将来は良性肺腫瘍などにも応用されるべきである.また前述したように肺癌以外の悪性腫瘍,すなわち肺肉腫の細胞診は経験ある細胞診医では可能であろうが,実際には診断は困難であり,また症例数も非常に少ない.転移性肺腫瘍の細胞診も腎癌よりの転移例を除いては,悪性腫瘍細胞としての診断は可能であるが,原発巣の推定は非常に困難である.したがって,この項では肺癌の細胞診についてのみ述べることにする.また肺癌の細胞診は診断のみならず,各種治療経過における細胞の形態の変化から治療効果,あるいは治療法を選定することも可能である.

産婦人科領域の細胞診—内分泌細胞診

著者: 栗原操寿 ,   長谷川寿彦

ページ範囲:P.708 - P.709

 腟上皮は各種性ホルモン,特にエストロゲンに敏感に反応するので,腟上皮の細胞変化を観察することにより,各種性ホルモンの動態を知りうる.細胞は最も鋭敏に性ホルモンに反応を示すMüller管由来の腟側壁上部1/3から採取する.

穿刺液の細胞診

著者: 池田栄雄 ,   田中昇

ページ範囲:P.710 - P.712

穿刺液細胞診の正しい行い方
 穿刺液の細胞診としては,腹水,胸水が一般的であるが,心嚢液,関節腔液,腫瘍穿刺液など各病巣部よりのものが検査の対象となる,したがって,大部分はむしろ液状検体と称するのが妥当であろう.
 細胞診を正しく行うには,

染色体分析

著者: 田村昭蔵

ページ範囲:P.713 - P.715

 検査法の進歩により,患者を対象とする染色体分析が比較的容易となり,種々な疾患について染色体異常の成因的意義が次々と確認されるに及び,染色体分析も今日では臨床上の重要な検査項目の1つとして日常盛んに行われるようになった.すなわち典型的染色体異常疾患の診断を目的として行われることはもちろん,慢性骨髄性白血病の補助診断法として,あるいは半陰陽の鑑別診断法として,さらに最近では先天異常の出生前診断として羊水細胞の染色体分析が試みられるなど,その応用範囲も次第に多岐にわたっている.手技的には末梢血培養法が最も普及しているが,木法に関しても現在では微量の血液でも検査可能となり,希望する臨床例のすべてについて染色体分析が可能である.また補助手段として古くより用いられてきた性染色質(今日のX-chromatin)検査のほかY-chromatin検査やAutoradiography法が援用されるが,最近急速に進展したBanding法を用いると分析は極めて正確かつ詳細に行うことが可能で,臨床領域における染色体分析の意義はますます増大しつつある.表1にこれらの特殊検査手技の主な特徴点を示した.

産婦人科領域の細胞診—腫瘍細胞診

著者: 栗原操寿 ,   長谷川寿彦

ページ範囲:P.716 - P.717

 婦人科領域における細胞診の主たるものは子宮頸部の良性および悪性病変の発見のためのものであり,とくに子宮頸部の臨床前癌(上皮内癌と初期浸潤癌),さらには前癌病変(dysplasia)の発見にまで多大な効果を発揮している.このほかにも子宮内膜,外陰部,腹水での細胞診,さらに手術標本のスタンプスメアによる細胞診も行われている.
 病変の解剖学的関係から,表1のごとき細胞採取法によって,剥脱細胞を効率よく拾いあげる必要がある.

付録 臨床検査領域における新しい動向

1.単位の標準化—SI単位

著者: 河合忠

ページ範囲:P.720 - P.724

はじめに
 すべての動物個体は集団として社会をつくり生活している以上,互いに情報交換をしなければならない.そのたあには共通の"言葉",すなわち伝達手段をもっている.それと同じように,臨床検査についても,どこでいつ検査しても,同じ種類の検査で同じような臨床的意義づけがなされるようでなければならない.そこで臨床検査に関する標準化も近年活発な動きをみせている.ここではとくに測定値の表現法,すなわち単位についての国際的標準化の動きを紹介してみよう.
 1960年に開かれた国際度量衡総会(CGPM)において採択された国際単位系(世界共通の略称としてSI)が骨子となっている.すなわち,国際標準機構(IOS),国際純正・応用物理学連合(IUP-AP),国際純正・応用化学連合(IUPAC),国際生化学連合(IUB)が協力し,SI単位を原則的に採用するよう合意に達した.医学分野についても1972年9月14日にミュンヘン市において第8回臨床病理学世界会議が開かれた折,ICSH,IFCC,WASPの3つの国際団体が同じようにSI単位を基本的に採用することを提案した.

2.臨床検査成績に影響を及ぼす薬剤一覧

著者: 河合忠

ページ範囲:P.725 - P.732

 薬剤を投与することによって,さまざまな機転から臨床検査成績に影響を及ぼし,患者の病態把握に重大な誤りをきたす原因となる.したがって,臨床検査成績を正しく解釈するためには,単に被検患者の生理的要因を考慮するのみならず,ある特定の薬剤の投与の有無についても十分考慮しなければならない.
 以下,主な日常臨床検査項目について,その成績に直接または間接に影響を及ぼす薬剤を列記してみよう.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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