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雑誌目次

雑誌文献

medicina12巻5号

1975年04月発行

雑誌目次

今月の主題 糖尿病への新たなる対処 最近の話題

インスリンレセプター

著者: 赤沼安夫

ページ範囲:P.738 - P.739

 インスリンは膵β細胞で生合成され,門脈血行を介して,まず肝細胞に作用した後に全身の組織に分配される.インスリンの標的細胞における作用はブドウ糖,アミノ酸の膜透過,蛋白や脂肪合成,グリコーゲン代謝や脂肪動員抑制,核酸代謝などの多岐にわたるが,細胞外液中に存在するインスリンの作用の細胞レベルにおける第1のステップは細胞膜上のインスリンレセプターとの結合である.この分野で多くの研究成果をあげてきたCuatrecasasによると1),インスリンレセプターとは細胞内の構成成分であり,インスリンを「認識」することができ,認識した後でインスリンの持つ生物学的情報を他の細胞成分に「伝達」することができ,結局上記インスリンの諸作用を惹起するという.インスリンとレセプターの結合は酵素と基質の結合に対比することができ,酵素の触媒作用上,酵素・基質複合体形成が必要条件であるごとく,インスリンのレセプターへの結合はインスリン作用発現の必要条件となっている.

糖尿病とグルカゴン

著者: 垂井清一郎

ページ範囲:P.740 - P.742

血糖調節におけるグルカゴンの役割
 生体において糖代謝が円滑に進行するためには,インスリン(I)とグルカゴン(G)の血中濃度が協調して変動する必要がある.Unger1)によれば,正常人では内因性の血糖生成の必要度が増大するにつれて,I/Gは小さくなる.たとえばブドウ糖の注入時を16.0とすれば,バランスのとれた食事摂取下では3.8,低含水炭素食で1.8,絶食では0.4である。糖尿病では,普通の摂食状況でも絶食に近い代謝パターンをとるところに特徴があり,I/Gは小さくなる傾向を示す.これらの場合,IとGの役割に同じ比重を置くべきか否かについては議論のあるところで,少なくともエネルギー源の供給に関して,ヒトを含む哺乳動物ではインスリンの低下が,鳥類ではグルカゴンが,魚では副腎皮質ホルモンが主導権を握っているといわれている2)
 しかし,最近,GH,TSH,インスリンなどの分泌を阻害するsomatostatinが,空腹時のグルカゴンレベルを下げ,アルギニンに対するグルカゴン分泌反応を消滅せしめることが明らかとなり,糖尿病患者における高血糖の維持に対するグルカゴンの役割を客観的に認識することが可能となった3).図1はその実例であり,2時間にわたるsomatostatinの注入により,血漿グルカゴンは150mg/mlより77へ低下し,これにやや遅れて血糖が,260mg/dlより191へ降下している.この血糖降下がGHの動きを介するものでないことは,図1でGHの2時間の動きが軽微なことや,血糖に対する類似の効果が下垂体摘除糖尿病患者でも観察できることから明らかである。somatostatinの血糖に対する効果の程度は,ほぼ空腹時の血漿グルカゴン濃度に比例することが示されており,重症糖尿病でグルカゴンの血中濃度が高い場合は著効を奏すると考えられる.すなわち,重症糖尿病における高血糖の成立に,グルカゴンが一定の役割を演じていることは確実であろう.この意味で,somatostatinが将来糖尿病の臨床にも応用される可能性は少なくない.ただし,投与中止後のreboundに対する対策は充分考慮されるべきであろう.

胃腸膵(GEP)内分泌系

著者: 藤田恒夫

ページ範囲:P.743 - P.745

 GEP内分泌系というのはGastro-Entero-Pancreatic Endocrine Systemの略称で,胃腸(消化管)の粘膜と膵臓に分布する内分泌細胞から構成される内分泌系の全体を指すものである.

合併症に関する新知見

細小血管症—その生化学

著者: 河村真人

ページ範囲:P.746 - P.750

細小血管病変の局在
 糖尿病性細小血管症は全身の毛細管にみられる病変であり,組織化学的にはPAS陽性物質の増量による毛細管壁の肥厚,電顕的には毛細管基底膜の肥厚であるとする考えが一般的である.しかしこの概念には問題がないわけではない.網膜のmicroaneurysmaの壁は肥厚していないという報告も多いし,最も特異的であるとされている腎糸球体の結節性病変はメサンギウムに局在し,これが基底膜物質の増加によって形成されるものかどうかは未だ明らかではない.すなわち,Osterby1)は電顕で,メサンギウムに増加している基底膜様物質と毛細管基底膜が連続していることを示し,Vracko2)も両者の連続を認めていることから,組織化学的にも性状の類似している両者は同一のものであり,結節性病変の多くの部分は基底膜物質から形成されていると考えられる.
 一方Scheinmanら3)は,免疫組織化学的方法による研究で,糖尿病性糸球体硬化症では,肥厚した基底膜は抗基底膜抗体および抗コラーゲン抗体により染色されるが,拡大したメサンギウムは,抗アクトミオシン抗体により染色されることから,メサンギウムに増量している物質は基底膜とは異なるもので,収縮蛋白としての機能を喪失したアクトミオシンの変性物質であろうと述べている.しかし,結節性病変はいずれの抗体によっても染色されないとしており,結節性病変の成因については疑問が残されている.

細小血管症—その形態学

著者: 坂口弘

ページ範囲:P.751 - P.753

動脈硬化症および細小動脈硬化症
 糖尿病の際には太い動脈にも強い硬化症の起こることは広く知られている.日常剖検に携っていても,年齢不相応な高度の大動脈硬化症のある場合には糖尿病の家族的素因などをあらためて問いなおすほど,糖尿病と動脈硬化症の関係は密接である.そしてどちらかというと,小動脈の方に硬化がきやすく,これが心筋硬塞,脳出血など血管障害による死亡率を高める原因となっている.この程度の大きさの動脈では,光顕レベルの組織所見では通常の動脈硬化症と差はない.
 糸球体輸出入動脈程度の太さのいわゆる細動脈とよばれている血管では,図1に示すような型の動脈硬化症がみられ,通常の線維性の硬化と少し組織像を異にしている.すなわち,内皮細胞の下から筋層にかけてエオジンで濃染,均等に染まり,マロリー染色では赤く,脂肪染色も弱陽性である.lipo-hyalin型の動脈硬化症,subintimal "hyalin" depositionなどとよばれるもので,Blumenthalはこれとほぼ同じ変化をPAS陽性の肥厚としてとらえ,hemodynamic lesionとよんでいる1).この型の動脈硬化症も糖尿病以外の場合に全くみられないわけではない.しかし腎臓を例にとると,高齢者,その他でこの変化が糸球体輸入動脈にみられる場合には,通常はそれより太い動脈,すなわち弓動脈,小葉間動脈などに動脈硬化症がみられる.ところが糖尿病の場合には,これらの太い動脈にほとんど硬化症のみられない時期に,lipo-hyalin型の動脈硬化症が輸入血管に起こってくる.いいかえれば,光顕で腎臓に最初にみつけだすことのできる糖尿病性の組織変化はこの型の動脈硬化症であるといえる.日常,糖尿病の剖検例を注意してみていると,この大きさの血管では糸球体輸入動脈のみならず,肺,膵,肝,副腎など多くの臓器にこれと同じような型の動脈硬化症が現れている.ただ,その臨床的意義や診断的価値がはっきりしないので,一般的には動脈硬化症や時にはmicroangiopathyに含めて論じられていて系統的には調べられていないようである.一方に大動脈硬化症,股動脈におけるMonckeberg型の硬化症,心冠動脈硬化症など太い動脈の硬化症をおき,他方に毛細血管レベルのmicroangiopathyをおくと,このlipo-hyalin型の動脈硬化症はその中間の大きさの動脈にみられる変化ということができよう.糖尿病におけるこの型の動脈硬化症については将来検討の余地が残されているように思われる.

網膜症

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.754 - P.757

はじめに
 糖尿病性網膜症(以下網膜症と略す)は腎症とともに代表的な細小血管症であり,その形態学的または生化学的な病態については共通点が極めて多い.しかしその細小血管の背景にある循環組織は脳の一部ともいうべき網膜であり,これを取り巻く環境は硝子体と呼ぶ水の飽和組織や血液に富む脈絡膜であり,その機能は視覚という極めて鋭敏かつ特殊な感覚の受容器であるという全く特殊な部位であるため,その臨床には他の細小血管症とは異なる独自の問題が少なくない.
 その発症・進行には糖尿病という代謝異常の持続と,とくにその乱れとが密接に関係していることは事実であるが,長年月にわたるその代謝異常のコントロール状況の正当な評価が困難であることも手伝って,必ずしもこれだけでは意味づけのできぬ症例にしばしば遭遇する.しかし,その終末点が失明という死亡にも勝るとも劣らぬ苦痛を患者に与えるものである点,その病理学的解明を待っていられない臨床医学の悩みと焦りがある.

糖尿病性腎症の透析療法

著者: 広瀬賢次 ,   宍戸英雄 ,   渡辺孝太郎

ページ範囲:P.758 - P.760

はじめに
 糖尿病性腎症の典型的な終末像は,慢性腎不全⇀尿毒症であるが,周知のようにこの状態に陥ると,かつてはその余命はおのずと限定されていた.しかし,最近では透析療法が本症にも応用されるようになり,その結果現在では,短期間の延命効果のみならず,長期透析例も見受けられるようになってきている1,2).本稿では,このような透析療法の進歩にまつわる2,3の話題を,自験成績も混じえて紹介した.

知っておきたい合併症

糖尿病の血液凝固異常

著者: 松岡松三 ,   神保長三

ページ範囲:P.761 - P.763

 狭義の凝血障害は出血性素因を意味するものであるが,凝血障害を広く解釈すると,凝固亢進状態,血栓形成傾向も含まれてくる.糖尿病の合併症として出血傾向をみることは皆無にひとしく,文献的な報告もみあたらない.糖尿病にみられる凝固異常の主体は,基礎疾患である糖尿病の進展に伴う脂質代謝異常に基づく血栓形成傾向と動脈硬化の発生である.
 近年,糖尿病の死因として糖尿病性昏睡や感染症は減少し,心血管系の病変,すなわち血栓塞栓症と動脈硬化が大きくクローズアップされ,これと関連する虚血性心疾患,心筋硬塞,糖尿病性腎症どなの合併が予後を大きく支配するようになり,その対策が望まれている.

非ケトン性高血糖性高滲透圧性昏睡

著者: 中川昌一 ,   青木伸

ページ範囲:P.764 - P.765

 本症は通常の糖尿病性昏睡が高度のケトアシドーシスを主徴とするのに反し,高血糖,高浸透圧,脱水が高度であるのを特徴とし,1886年Dreschfeldにより一般の糖尿病性昏睡より分離されたが,1957年Sament & Schwarzによって報告1)されるまで,一般には注目されなかった.その後1965年,Schwarzらにより63例の集録がなされ,本邦では1965年橘の最初の報告2)以来,現在までに54例の報告3)がある.本症はケトアシドーシス性昏睡に比べると,その頻度は約1/6であるが,致命率は高く,約40%であり4),ケトアシドーシス以上に適確な診断と迅速な治療が望まれる.以下,本症の診断,病態並びに治療について簡単に述べる.

アミオトロフィー

著者: 尾形安三

ページ範囲:P.766 - P.767

はじめに
 糖尿病患者にみられる筋萎縮は,一般に遠位筋に認めることが多いが,近位筋の萎縮,筋力低下を呈する症例が一部に存在する.遠位筋の萎縮は糖尿病性ニューロパチーが原因となって起こると一般に解されている.他方,近位筋の萎縮,筋力低下は,その本態は現在明らかでないが,糖尿病性ニューロパチーにみられる遠位筋の萎縮とは臨床的に異なった特徴をもった症候群とみなされ,一般にdiabetic amyotrophyと呼ばれている.以下,diabetic amyotrophyについて述べる.

神経因性膀胱

著者: 藤原昇

ページ範囲:P.768 - P.769

 糖尿病患者で自然排尿が停止したとき,各種の原因による神経損傷,局所性尿路疾患による場合を除けば,糖尿病性神経因性膀胱が想起される.いうまでもなく糖尿病性神経障害は糖尿病患者の大多数に何らかの異常を示し,多彩な症状,中でも自律神経症候を伴いやすいところに特徴があるが,これに基づく膀胱機能障害を糖尿病性神経因性膀胱と呼び,Cord bladder,Atonic bladderの別名がある.Marchal de Calvi(1864)により初めて記述されたといわれ1),その頻度は糖尿病者の1〜2%に過ぎず,比較的稀な合併症と考えられてきた.ところが何らかの排尿障害を訴えるものは意外に多く,末梢神経障害をもつ糖尿病患者で83%に膀胱機能低下を認めた報告2)もあり,潜在性異常は相当な数に達するものと推測される.
 神経組織学的には実験糖尿病で下腹・骨盤神経のみならず,腰・仙髄に脱髄変性を認めており3),その病因については古くから血管障害あるいは代謝異常などが考察されているが,未だ明確でなく,ストレスに求めるものもある,本症が糖尿病の初発症状であったとする報告もあるが,一般に罹病期間の長いものほど他の神経障害を含めて高率に出現し,代謝の破綻が顕症化の誘因となる症例が多くみられるのは事実であり,網膜症・腎症を合併しやすいことも病因解明の手がかりとして考慮されるべきであろう.

糖尿病性壊疽

著者: 坪井修平

ページ範囲:P.770 - P.771

 糖尿病性壊疽は欧米では頻度の高い合併症で,Bell1)は1946〜1955年に剖検した糖尿病患者1,058例中206例(19.4%)に壊疽を認め,またSemple2)は無作為に選んだ50歳以上の糖尿病患者100例中,間歇性跛行,壊疽などの末梢血管障害者は42例あったと報告している.一方,わが国では従来稀なものと考えられていた.しかし最近の報告では1〜2%に認められ3〜8),今後糖尿病患者の増大,生活様式の欧米化に伴い,本症が注目されてくると思われる.

インスリンをめぐる診療のトピックス

血中インスリンの測定と糖尿病の臨床

著者: 小坂樹徳

ページ範囲:P.772 - P.775

 糖尿病はその自然歴からpre-,latent,chemicalおよびovert diabetesなど特徴ある病期が区別されるが,糖尿病ではあらゆる病期を通じてインスリン分泌不全の存在することがほぼ確実にされてきた.この小論文では,その成績の大要と,それを糖尿病診断に導入しようとする試み,ならびにそれからみた現行糖尿病治療の問題点を述べることにしたい.

インスリン療法—私の考え方

著者: 後藤由夫

ページ範囲:P.776 - P.778

インスリン療法の適応
 糖尿病は体内でインスリン効果が不十分なために起こるものである.インスリン効果の不足は血糖の上昇として把握することができる.近年はradioimmunoassayによって血中のインスリン量を容易に測定できるようになった.その結果,古くから予想されていたように,糖尿病患者には血中のインスリンの欠乏している者と欠乏していない者,むしろ健常者よりも高値の者もいることが明らかになった.血中インスリンの低値の者で血糖が高いのは容易に理解されるが,インスリンが正常や高値でも血糖の高いのはどのような理由によるのであろうか.その1つは催糖尿病ホルモンがあってインスリン効果が減削されていることであるが,このほかにまだ実体は不明であるがhumoral insulin antagonist (s)の存在が考えられている.また,インスリン抗体の存在もその原因として考えられる.しかし,最も重要なことは組織のインスリンに対する感受性の低下ではなかろうか.現在この組織の感受性をin vivoの状態で知る方法がないので如何ともなし難いが,肝疾患で高血糖と高インスリン血症が共存することなどはインスリンに対する感受性低下を考えないと説明しにくい.Antoniadesの蛋白結合によるインスリン不活性化の考えもなお検討を要することであろう.
 このように血中インスリンの測定が可能になってから,高血糖に対する理解も深まったが,ではこれをどのように治療と関連づけるかとなると,まだ未整理,不明の点が多い.低インスリン血症に対してはインスリンの補充療法をやればよいわけであるが,血中インスリンが正常ないし高値のものはどうすればよいのであろうか.インスリン効果を減殺している因子を除くことが第一である,たとえば,肥満がある場合は体重が減少すると脂肪組織のインスリン感受性が増すことが知られている.催糖尿病ホルモンの過剰があるときにはその治療をすればよいわけである.しかしそのような原因が見当たらないときはどうすればよいのか,これは今後検討すべき問題の1つである. では,高血糖があっても血中インスリンが低値’でなければ,インスリン療法の対象とはならないと結論してよいのであろうか,これは議論の分かれるところである.猫の膵を部分切除して,糖質コルチコイドを連日注射するとステロイド糖尿病が起こってくる…血糖も上昇し,尿糖も大量排泄される.この状態が3週間位続いた時点で,膵生険を行い,ラ島をみると,ラ島は細胞が水腫変性して,その部分が透過して見える.つぎに糖質コルチコイドの投与を連日続けながら,インスリンも同時に注射して血糖を下げると,尿糖量も減少し,ついには痕跡的になる.この状態が2,3週間続いた頃にまた膵をとって組織学的検索を行うと,一度変性したラ島が全く正常になっているのがみられる1).これはLukens教授の実験で,筆者は時々猫に注射するのを手伝ったのであるが,その組織所見の変化があまりにも対礁的であったのに強く印象づけられ,十数年経た今日でもその組織像を想い出すことができる,この成績をみて以来,高血糖が長く継続すればラ島は疲葱変性し,血糖を1E常化すれば早期ならばラ島機能は回復するという考えを払拭することができない.したがって筆者は.どうしても高血糖が改善されないときは,インスリンの使用を躊躇すべきではないと考えている.肥満があって適切な食事療法をやり,またスルポニル尿素剤を投与してもなお血糖の上昇が高度なときには(もしこのような例があるとすれば)インスリン注射を行うべきであると思う.血糖が正常化すればインスリンの必要量は減少し,恐らくインスリンなしでもよいほどに改善する,すなわち寛解が起こると考えられるからである.したがって筆者は,十分な期間食事療法を行ってもなお血糖が高値(250mg/dZ以上,少なくとも200mg/dl以上)のものは,インスリン療法の対象にすべきであると考えているし,またそれ以外に方法がないと思う.

人工膵島

著者: 馬場茂明 ,   酒井英世

ページ範囲:P.780 - P.781

 生体内における血糖-インスリン相互関係は食餌,運動などをはじめとする諸因子の影響をうけ,時々刻々と変動している.しかし,糖尿病患者に対して今日まで広く行われてきたインスリン注射による補充療法では,このような生理的な相互関係を1日中厳密に維持することはきわめて困難である.
 近年,糖尿病患者に対するインスリン治療の実際として,とくに合併症の進展防止を意図して,より生理的な血糖-インスリン相互関係を自動的に維持できる人工膵島の開発がすすめられてきた.Soeldnerらのボストングループは,図1,2のような小型で皮下に移植可能なモデルを完成させるべく,現在,その各構成単位の試作を行いつつある.一方,Albisserらのトロントグループは,図3のようなカテーテルを通じて生体と接続する体外型の人工膵β細胞を試作し,臨床実験まで行っている.いずれにしろ,これらは生体における膵ラ氏島の生理機能をモデルにしたものであり,原理的には両者に大きな差はない.

膵移植

著者: 繁田幸男 ,   七里元亮

ページ範囲:P.782 - P.783

 すでに1892年MinkowskiやHédenらが膵臓移植により糖尿病の発症が阻止されることを認めているが,1922年のインスリン発見に伴い,膵臓移植は糖尿病治療法の1つとしての実験的研究の域を脱し得ず,陽の目をみるにいたらなかった.しかし近年にいたり,"若年型糖尿病患者にインスリン療法を行っても血管病変の発症および進展を阻止し得ない"というインスリン療法の限界をみるにいたり,刻々変化する生体リズムに一致したインスリン投与法の開発の1つとして,再び膵臓移植が注目されてきた.

この病態をどう扱うか

GTT境界型

著者: 田中剛二

ページ範囲:P.784 - P.785

 糖尿病患者の予後を支配するものとして,現在血管障害の合併が重要視されている.糖尿病合併症の発生原因はなお不明な点が多いとはいえ,糖尿病を早期に発見し,早期から適正な治療を行うことが合併症の発生,進展を阻止する有効な手段と考えられる.
 口喝,多飲,多尿,全身倦怠,体重減少などの自覚症状もなく,空腹時血糖値も高くないような糖尿病を早期に診断することは必ずしも容易ではない.

腎性糖尿

著者: 仲村吉弘

ページ範囲:P.786 - P.787

 腎性糖尿とは,血糖は正常範囲であるが尿糖が認められる状態をいうが,それ自体が臨床的に治療の対象となることは稀である.しかし,尿糖を認めたというだけで直ちに糖尿病として誤った薬物療法が行われたり,社会的には就職などに際して不当な取り扱いをうけやすく,正しい診断と認識が必要である.

妊婦の糖尿病

著者: 伊藤徳治

ページ範囲:P.788 - P.789

 妊娠と糖尿病は互いに不利な影響を及ぼしあう.妊婦の糖尿病をどう扱うかを述べる前に,糖尿病患者が妊娠する場合の準備についてふれる.

老年者の糖尿病

著者: 盤若博司 ,   漆原彰

ページ範囲:P.790 - P.791

 老年期の糖尿病も,壮年期発症の糖尿病と同一疾患単位1)に含まれるもので,その病態も取り扱いも本質的には壮年期糖尿病と何ら変わるところはない.
 しかし,その病態は年齢約要因により修飾を受け,壮年期の糖尿病と多少異なった様相を呈してくる.そのため,老年糖尿病患者を扱う場合には,老化に伴う変化が加わっていることを常に考え,診断,治療に壮年期糖尿病患者の場合と多少異なった配慮を必要とする.以上のことを念頭におきながら,老年糖尿病患者を扱う場合の注意点を述べてゆきたい.

虚血性心疾患を合併したとき

著者: 水野美淳

ページ範囲:P.792 - P.793

糖尿病に合併した虚血性心疾患の特徴
 糖尿病者には非糖尿病者に比べて心筋硬塞で死亡するものが多いとされているが,心筋障害と糖尿病者は共に高齢者に多い疾患であり,かつ非糖尿病者でも心筋硬塞時には糖代謝異常を伴う.したがって,これまでの統計的な比較の基礎となっている糖尿病者,非糖尿病者の群別は極めて不確実な要素を含んでおり,単純な数値の比較はできない,しかし,それらを考慮して,数の上から糖尿病者には心筋硬塞が多いと一般に考えられ,Framingham Studyにおいても30〜62歳の住民を16年間追求した成績では,肥満,高脂血症,高血圧を考慮しても糖尿病者には心血管系死亡が多かったという3).しかし,それならば,糖尿病の存在は心筋障害の発生を促進しているはずである.ところが心筋硬塞死亡例については,心筋硬塞が糖尿病者では,対照群より若年で起こるという成績は得られていない.質的にも心筋障害,動脈硬化で糖尿病者に特徴的なものは知られていない.
 糖尿病者の心筋障害に多少の特徴があるとすれば,次のごとき非糖尿病者との差異が考えられている.

肝疾患を合併したとき

著者: 山吹隆寛 ,   岡崎悟 ,   渡辺圀武

ページ範囲:P.794 - P.795

 糖尿病と肝疾患(脂肪肝,肝硬変,肝炎)の合併については古くより注目され,両者の因果関係をめぐり多くの研究議論がなされているが1〜4),最近,腹腔鏡,肝生検などの肝疾患診断法の進歩に伴い,両者の合併頻度は従来考えられていたよりかなり高いことが指摘されている.両者とも最近とくに増加しているので,その合併患者は日常臨床においてしばしば経験されている.ここでは両者合併時の糖尿病の診断および両者の治療上,注意すべき2,3の問題について述べる.

高脂血症を合併したとき

著者: 丸浜喜亮 ,   阿部隆三

ページ範囲:P.796 - P.797

糖尿病における高脂血症の発生
 糖尿病患者には種々の原因により高脂血症が発生する.すなわち,糖尿病性代謝異常によるもの(糖尿病性高脂血症),加齢,飲酒,薬剤によるもの,合併疾患によるもの,さらに原因不明のものなどである.このうち,糖尿病性高脂血症が最もしばしばみられるが,一方,重症糖尿病(ケトーシス)にもかかわらず高脂血症のない症例もかなり存在する.重症糖尿病では組織レベルの代謝異常は必発と思われるが,それが糖尿病性高脂血症として反映される場合とそうでない場合があるのは何故であろうか.糖尿病性高脂血症は次のような多数のステップのバランスの崩れたときに発生すると考えられる.①食事(総カロリーおよび組成),②リポ蛋白の前駆体である血中遊離脂酸の濃度,③肝の脂肪合成,④肝のリポ蛋白合成(脂肪とアポリポ蛋白の結合),⑤肝からのリポ蛋白の血中への放出,⑥血中リポ蛋白の代謝,⑦血中リポ蛋白の組織へのとり込み.
 高血糖と異なり,高脂血症の発生に著しい個体差がみられるのは,血中脂質レベルが上記のような複数の因子で調節されているためではなかろうか.糖尿病性高脂血症の発生機序に関する仮説としては,図1に示すように,血中脂質の利用低下を要因とみるものと,血中脂質の産生過剰を要因とみるものとがある.前者は上記のステップ⑦の障害を一次性異常とみなすのに反し,後者ではステップ②,③,④,⑤の異常亢進が重視される.すなわち,利用低下説によると,糖尿病性代謝異常(インスリン作用不足により発生)が血中脂質除去の主役であるリポ蛋白リパーゼ活性を低下させるので高脂血症が発生するが,肝のリポ蛋白合成とその血中への放出は正常あるいは低下していても構わない.食事脂肪(カイロミクロン)も血中に停滞しやすいので,IV型,V型あるいは高度の乳濁血清を呈するI型高脂血症のこともあり,また,高脂血症が全くみられないこともありうる.一方,重症糖尿病でも血中脂質の除去機構に障害を認めないとの成績があり,産生過剰説はこれに基づく.すなわち,インスリンの作用不足の結果増加する遊離脂酸(脂肪組織由来)および糖新生の過程で生成されるα−グリセロ燐酸を素材として肝の脂肪合成が亢進し,高脂血症が発生する.しかし,肝のα−グリセロ燐酸およびアポリポ蛋白が重症糖尿病で実際に十分供給されうるかどうか,産生過剰説ではこの点の裏付けが不足している現状である.筆者らは,糖尿病性代謝異常としての高脂血症は主にリポ蛋白およびカイロミクロンの利用低下に基づいて発生することを示唆する成績を得ているが,なお不十分であり,今後の検討に待たなければならない.

カラーグラフ 臨床医のための病理学

XXII.運動器(1)

著者: 金子仁

ページ範囲:P.802 - P.803

 運動器疾患として最も恐るべきは肉腫である,骨組織からも,軟部組織からも発生する.
 最初,骨悪性腫瘍につき述べる.この代表は骨肉腫(osteosarcoma),軟骨肉腫(chondrosarcoma),骨巨細胞腫(giant cell tumor)であるが,今回はこれらと多発性骨髄腫(multiple myeloma)を示説する.

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内科専門医を志す人に・トレーニング3題

著者: 荻間勇 ,   早川滉 ,   安倍達

ページ範囲:P.833 - P.835

 問題1.下記の抗腫瘍剤のうち,肺障害をおこしうるものはどれか.
 ①Busulfan

内科専門医を志す人に・私のプロトコール

IV.消化器

著者: 西崎統

ページ範囲:P.836 - P.837

救急患者の処置から
 臨床研修期間中には,おそらく数多くの救急患者を取り扱わなければならないであろう.なかには,その処置に一刻を争うものもあり,速やかな適切なる処置によって一命を取りとめる場合も決して少なくない.どんなに幅広い知識をもっていても,救急患者を目の前にして,適切な診断,および治療ができないようではいい内科専門医とはいえない.
 ここでいう,いわゆる救急患者とは,主に一般病院の当直時に,救急車のサイレンとともに運ばれてくる患者である,実際,私の臨床研修中の経験から比較的多かった例をいくつかを挙げてみると,①ショック状態および昏睡状態,②急性腹症,③急性うっ血性心不全,④吐血,下血,⑤急性心筋硬塞,⑥感染症,などであった,このいくつかの例からでもわかるように,救急疾患は内科各分野にわたっているのである.

medicina CC

上腹部の圧迫感,労作時の息切れを主訴とする56歳,男子の例

著者: 太田昭夫 ,   野村正征 ,   町井潔 ,   太田怜

ページ範囲:P.817 - P.831

症例 56歳 男 医師
 主 訴 上腹部の圧迫感,労作時の息切れ.
 現病歴 昭和47年11月,胸痛のためある内科医を受診,肺結核と診断され,リファンピシン,サイクロセリン,ストレプトマイシン等で治療された.ストレプトマイシンはめまいのため1カ月で中止したが,化学療法を続けるうちに自覚症消失,Gaffky 5号の排菌も(-)となった.

演習・X線診断学

単純X線写真による読影のコツ(4)縦隔腫瘤陰影

著者: 大澤忠

ページ範囲:P.814 - P.816

 縦隔疾患に対するX線検査には,食道造影,断層撮影,気管支造影.診断的人工気胸.気縦隔,気腹,血管造影,脊椎腔造影などがある.しかしその前に,単純写真でできるだけ鑑別診断をしぼって次の検査を決める必要がある.この場合,単純撮影を高圧撮影で行うと縦隔の内部の状態もある程度判定できるので有利だが,一方,石灰陰影はわかりずらくなる.そのため.通常用いられる50〜70KVPで多少曝射過度の写真を加えるのが望ましい.
 さて,縦隔は胸部正面像では両肺に界されたいわゆる中央陰影として示され,症例1,2,3のように異常腫瘤陰影があってもその部位深さはわからないことが多い.側面写真で腫瘤陰影の深さ,存在位置を知ることが鑑別診断の第一歩である.また,正面像は正常で側面像でのみ腫瘤陰影が観察されることもある.

超音波診断の読み方

UCG

著者: 仁村泰治 ,   別府慎太郎

ページ範囲:P.805 - P.812

 心臓に対する超音波検査法は被検者に負担を与えずに,かつ比較的容易に心臓の内部構造物の形態や運動について直接視覚的な情報を提供するものであり,現今急速に進歩しつつある.ここではそのうちでも現在最も普及していろUCG(心エコー図,ultrasound cardiogram,echocardiogram)の大要1〜4)とその判読のポイント.ないしその記録に際しての注意などについて述べる.

診断基準とその使い方

一過性脳虚血発作

著者: 大友英一

ページ範囲:P.841 - P.843

 概念 一過性脳虚血発作とは,一過性に神経症状が出現するもので,動脈の粥状硬化と密接な関連を有し,脳梗塞を伴わないものとされている.神経症状は通常短時間(5〜10分が最も多い)出現して消失し,脳梗塞を伴わないということから,症状出現時医師が現場にいることは稀であり,医師を訪れた時神経学的所見のないこと,各種の臨床検査で必ずしも診断を確かにする所見に乏しく,診断は患者の訴えによってなされる点,また受診時症状があっても確実な診断は症状消失をまってはじめてなされることもあり,いろいろ問題の多いclinical entityといえる.
 一方,本発作は多いものであり,くり返しているうちに脳梗塞に進展することが少なくないことから,臨床上極めて重要なものである.通常,一過性脳虚血発作とは再発性のものを指し,本項ではこれについてのみ述べる.

肺気腫

著者: 西本幸男 ,   重信卓三 ,   行武正刀

ページ範囲:P.844 - P.847

 肺気腫は,もともと病理学的診断名であって,肺の形態学的な変化に基づいて定義されている.すなわち,Ciba Guest Symposium(1959)の定義によれば,「肺気腫とは,呼吸細気管支または肺胞壁の拡張あるいは破壊によって,終末気管支より末梢の気腔が異常に増加した状態である」とされている.WHO(1961)やAmerican Thoracic Society(1962)においてもほぼ同様の見解であり,肺気腫が病理形態学的な診断名である点にはかわりはない.
 ところが,このように病理形態学的に用いるべき肺気腫という言葉を臨床で用いることがあまりにも一般的になっているところに問題がある.日常肺気腫という臨床診断をつける場合にも定義に示されるような形態学的特徴が臨床的所見から泥しく捕えられていなければならない.すなわち,臨床的肺気腫をいかに病理形態学的肺気腫に近づけるかが問題である.そのためにいくつかの臨床診断基準が作られているが,ここではわが国の診断基準を中心に述べてみたいと思う.

術後障害とその管理

胆のう切除後の障害 その2

著者: 柴田一郎 ,   牧野永城

ページ範囲:P.848 - P.851

遺残胆のう管
 柴田 遺残結石のほかにはどんな障害がありますか.
 牧野 胆のう摘出のあと,胆石症のような症状が出てきたら,まず遺残結石を最初に考えて胆道撮影をするわけですが,遺残結石が否定されたら,今度はほかの少ない病気を考えます.その1つは遺残胆のう管ですね.これは私たちのレジデント時代からうるさくいわれたことで,胆のう管が総胆管に合流するところできちんととれ,胆のう管をちょっとでも残すといけないと…….なぜかといいますと,胆のう管を残すということは,胆のうの一部を残すことで,そこに結石が生じたり,炎症が残るというわけです。胆のう切除後症候群とおぼしき症状があって,なおかつ胆のう管が遺残している患者を何人か集めて,遺残胆のう管をとったら,70%とかに症状の改善をみたという報告があって以来,そんなことをいわれるようになったんです

緊急時の薬剤投与

心筋硬塞発作時の薬剤の使い方

著者: 梶原長雄 ,   上松瀬勝男

ページ範囲:P.852 - P.854

 最近,CCUを有する施設が多くなってきたが,なお急性期の心筋硬塞の死亡率は18〜30%ぐらいと高い.急性期の死因からみた合併症は,ショック,不整脈,急性心不全などが主なもので,次いで心破裂,塞栓症などである.表に筆者らの症例の死因頻度を示した.合併症の多くは薬剤投与により救われる可能性があるが,薬剤の使い方によってはかえって増悪せしめる場合もある.われわれの今日までの経験と諸家の報告とを参考に心筋硬塞発作時の薬剤の使い方を臨床家の立場から述べる.

臨床病理医はこう読む

血清蛋白分画像(4)

著者: 河合忠

ページ範囲:P.856 - P.857

血清総蛋白量の増加
 血清総蛋白濃度が9.2g/dlと著しく増加し高蛋白血症が明らかである.高蛋白血症は一般総合病院における全患者の約6%程度の割合で遭遇するが,9.0g/dl以上という著明な高蛋白血症を伴うのはほとんどが多発性骨髄腫である.きわめてまれに多クローン性高γグロブリン血症でみられることもある.

図解病態のしくみ 循環器シリーズ・2

大動脈弁逆流

著者: 博定

ページ範囲:P.858 - P.859

 大動脈閉鎖不全症(aortic insufficiency;A. I.)には成因を異にするいろいろな型があり,それぞれ発病の過程,大動脈逆流(aortic regurgitation)の程度,病態生理のしくみ,および予後の面でかなりの相違を示す.そこで臨床家としては本症を明確に理解するために,A. I. を慢性型と急性型の2群に分けて考え,治療法の選択にあやまちのないように努める必要がある,まず慢性型は全例の95%を占め,中でも圧倒的に多いのはリウマチ性(65%)であるが,梅毒性,高血圧性,動脈硬化性,結合織変性(老人型-杉浦),先天性(多くはVSDを合併),あるいは大動脈炎症候群,Reiter症候群,強直性脊椎炎に随伴するものなどすべて慢性型に入れてよい.一方急性型は細菌性心内膜炎に併発するものを筆頭とし,外傷性,解離性大動脈瘤,バルサルバ洞の破裂などによるものがあり,全体の5%を占めるが,その病態生理と予後は極めて特異かつ劇的である.
 急性型のA. I. は臨床像が極めて重篤で治療も緊急弁置換術などの外科的方法によらなければ救命しえない場合が多い.この理由は①逆流量が異常に大きいこと—破局的な弁組織ないし弁輪の崩壊による,②大量の逆流をきたした直後の段階では,患者心に血行動態の急激な変化(acute volume overload)に対応する代償機転(心肥大ないし拡大)ができ上がっていないからである.

小児の検査

ASOとCRP

著者: 紺野昌俊

ページ範囲:P.860 - P.861

ASO
 ASOが,溶連菌感染の有無の判定,あるいは急性糸球体腎炎やリウマチ熱等の診断に重要な意義を有していることは,周知のことである.溶連菌による感染の有無を調べるには,ASO(anti-streptolysin-O)のほかにASK(antistreptokinase),AHD(antihyarulonidase),ADN-ase(antideoxyribonuclease),ANAD-ase(antinicotinamid adenine dinucleotidase),また,抗M抗体,抗T抗体などを調べる方法もあるが,これらの抗体を調べることのできる施設は,溶連菌感染症やその続発症である急性糸球体腎炎やリウマチ熱の研究をしている特殊な施設のみで,一般の中検レベルでは,もっぱらASOが日常臨床検査に使用されている.その理由は,ASOは溶連菌感染症の患者のうち,約85%に陽性と出てくるといわれ,診断の確立が高いことに起因する.
 そしてASOの値は,一般には単純な倍数稀釈によらないRantz-Landallの方法による,もう少しきめこまかな血清稀釈法により,その稀釈倍数によって表示される場合が多いのであるが,最近は,種々の簡易あるいは微量測定等の変法が考案され,中検で用いている方法によっては数値が多少変動しているものもあるが,大要としてはRantz-Landallの方法による稀釈倍数と大きな変動はない.

皮膚病変と内科疾患

斑(その1)

著者: 三浦修

ページ範囲:P.862 - P.863

紅斑(その1)
 紅斑はその形成因子に従ってつぎの4つに分けられる.
 ①は先天性または後天性の細血管拡張であり,②は自律神経機能異常によるもの,③は血管閉塞または血液うっ滞によるもの,④は炎症によるものである。①は長時日持続し,②は一過性かつ反復発来するのを常とし,③は長時日持続して,時には壊疽形成にまで至り,④はある程度の持続性を有する.

診療相談室

末期癌患者に対する免疫療法

著者: 古江尚

ページ範囲:P.838 - P.838

質問 末期癌患者に対する免疫療法,とくに丸山ワクチン,溶連菌製剤についてご教示ください.(東京都 N生 27歳)
答 癌の化学療法は,その理論的基礎を癌の寄生観においている.癌の発生に伴って,それに対応する抗体が出現しうる.しかし癌細胞は宿主にとってhomologousであり,これに対する生体の反応ははなはだ弱い.癌細胞の抗原性を高めるとか,あるいは対応する生体の反応性を高めるといった措置がとられているが,癌の免疫療法には本質的限界がつきまとっている.免疫療法は癌においては,結局は他療法の補助的位置にとどまるしかないであろうというのが大方の予想である.しかし癌化学療法剤の開発に大きな障害の感じられる今日,それをのりこえるための1つの着想として免疫療法が学界の注目を浴びているし,すぐれた抗癌剤の開発は,免疫療法の併用によって,癌を征服するものと期待されている.

大腸X線検査の前処置

著者: 山口保

ページ範囲:P.839 - P.839

質問 大腸のX線検査(外来患者)の前処置,とくに浣腸等を詳しくご教示下さい.(東京都 A生 46歳)
答 大腸X線検査の際の前処置を,外来患者の涜腸のみについて絞ってみると,結局は腸洗をするか,しないかのどちらかに分けられる.

オスラー博士の生涯・28

オスラーの大学論

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.865 - P.868

 オスラーは1894年7月には,ふたたび夫人とともに英国を訪れ,いろいろの学会に出席し,またロンドンの博物館にも出入りした.夫妻が2カ月余の旅を終えてボルチモアに帰ったのは10月上旬であった.

海外リポート

西ドイツにおける医師国家試験の改革

著者: 紀伊國献三

ページ範囲:P.869 - P.872

 医学部の新設・増設による学生の増加に伴い,わが国の医師国家試験も難解になってきているが,それと同時に,試験内容および方式の早急な改革が迫られている.
 折しも,今回,紀伊國氏から西ドイツの医師国家試験改革に関する詳細なリポートをお寄せいただいたが,たとえその改革案が過渡的な性格をもっていることは否めないにしても,ひとつの独立した機関を設けて,医師国家試験のあり方,および医学教育のあり方にまで言及しようという姿勢は注目に値しよう.

How about……?

遺伝の問題と今日の臨床医学

著者: 田中克己

ページ範囲:P.873 - P.876

 今日,とくに遺伝の問題が,世上の脚光を浴びつつあるように思われますが,それはなぜでしょうか.
 もちろん遺伝学の進歩が非常に早くて,すばらしい成果をあげてきたからでしょう…メンデルが考えた"遺伝子"は,いわば作業仮説だったのですが,今では実体をもった化学物質としての分子構造が明らかにされましたし,遺伝子がコピーを作って増殖して行く過程とか,酵素などのタンパク質を合成するメカニズムなども,ごく簡単なモデルで説明できるようになりました.最近では遺伝手を変化させたり,入れ換えたりすることも容易です.

洋書紹介

—H. Mehnert und K. Schöffling編—「Diabetologie in Klinik und Praxis」

著者: 繁田幸男

ページ範囲:P.847 - P.847

欧州の糖尿病学の現状
 糖尿病に関して,研修医の卒後教育,実地医家の臨床上の参考書となるだけではなく,糖尿病の専門家にとっても全般にわたって新しい知識の現状を整理するのに役立ち得る専門書としても利用できるような本は決して多くはない.
 現在そのような本として,世界的にもっともよく利用されているのは,"Joslin's Diabetes Mellitus"であろう.これは有名な米国ボストンのJoslin Clinicの4名の専門家の編集になるものであるが,1971年の第11版では面目を一新して各章ごとにその領域の専門家による分担執筆の形になった.この形式は最近の流行ともいえるが,全体的にむらがなく,最新の知識をおりこめる点で妥当な方法と思われる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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