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雑誌目次

雑誌文献

medicina13巻10号

1976年10月発行

雑誌目次

今月の主題 アルコール性障害のトピックス

理解のための10題

ページ範囲:P.1398 - P.1400

臓器障害,なぜ起こるか

肝臓

著者: 高田昭

ページ範囲:P.1348 - P.1349

アルコール性肝障害に対する概念の変遷
 アルコール性肝障害の発生機序については,現在もなお不明の点が多く残されており,真の成因は不明といわなければならない.歴史的にみると,大酒家に肝障害の多いことは,すでに16世紀頃より気づかれていたのであるが,その発生要因についての考え方には大きな変遷がみられている.20世紀初頭までは,大酒家に肝障害の多いことより,単純にアルコールが有害であると考えられていたが,1930年代頃より,栄養障害性肝硬変の実験的作成,栄養学の進歩などがあって,肝障害の発生はアルコールの過剰摂取に伴う栄養障害に由来するとする間接障害説が強調されるようになった,しかし,近年に到り,Rubinら1)によって,十分バランスのとれた栄養条件下でも,アルコールの過剰摂取によって肝炎・肝硬変が実験的に作成しうることが明らかにされ,アルコールの直接的障害作用が再認識されてきた里このように現在では,アルコールがなんらかの形で直接的肝障害作用を有し,栄養性因子は肝障害の発生には副次的な役割を果たすに過ぎないとの見方が大勢を占めるようになってきている.しかし,ヒト大酒家にみられる肝病変がアルコールのみの単独の障害作用に由来するのか,また,なぜアルコールが障害的に作用するかの詳細については不明のままである.

胃と腸

著者: 田中三千雄 ,   堤京子 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.1350 - P.1351

 appetizerとして食膳をにぎわしているアルコール飲料は,消化管に多大の作用を及ぼしている.
 胃液の分泌亢進は,その最たるものであろう,たとえば,1合の日本酒は,胃液検査法として今日広く行われているガストリン刺激法(4μg/kg,筋注)にほぼ匹敵するほどの,胃液の分泌刺激能をもっている1).また同時に,腸液の分泌2),胃腸管の蠕動運動3〜5),そして胃腸管粘膜血流量19)などにも影響を及ぼしている.

膵臓

著者: 小田正幸 ,   本間達二 ,   長田敦夫

ページ範囲:P.1352 - P.1353

はじめに
 アルコール過飲が膵炎の原因となることは古くより知られ,最近,わが国でもアルコール膵炎は著しく増加してきている.1974年,厚生省慢性膵炎調査研究班の報告工)では,慢性膵炎のうちアルコールが関与すると思われる症例は約半数に達している.
 この背景には,わが国での近年のアルコール消費量の著しい増加があると思われ,外国での報告をみても,慢性膵炎患者とアルコール消費量はほぼ正の相関が認められている.しかし,アルコール膵炎の頻度は国や民族(地理的因子,遺伝,体質),食生活(栄養因子)によって差があること,また,大酒家でも膵炎を発症しない人の方が多く,さらにアルコール膵炎とアルコール肝硬変を同時に合併することはまれであることなど,アルコールと膵との関係は疫学的事項からみても複雑である.

脳・神経・筋

著者: 古和久幸

ページ範囲:P.1354 - P.1355

 アルコールによる神経・筋症状は多彩で,その発生機序も一様でなく,不明なものも少なくない.一方,アルコールの摂取量と症状の発現についても個人差があり,摂取速度,期間,全身状態,平常の食事の状況など多くの因子の関与が想定される.したがって,アルコール痛飲あるいは多飲後にみられた神経系障害では,アルコールが症状発現のtriggerになった可能性は否定はできないが,それらすべてをアルコールに起因するとは断定できない場合もある.

循環器—アルコールの急性毒性および慢性毒性の発生機序

著者: 南勝 ,   安田寿一

ページ範囲:P.1356 - P.1358

はじめに
 アルコールの慢性摂取と,臨床的なアルコール性心筋症との間には,経験的に相関のあることが示唆されている1)が,この病因に関して,アルコールの果たしている役割については議論の多いところである.
 ここでは,長期のアルコール摂取者にしばしば合併する,ビタミンB1欠乏による脚気心2)や,ビール中の添加物であるコバルト塩過剰摂取によるコバルト心筋症3)のように原因の確定できるものを除いて,エタノール単独の心筋への影響,とくに心筋構造への影響,心機能との関わり合い,毒性発現の機序などを,急性と慢性効果に分けて考察を加えたい.

造血器

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.1359 - P.1361

 アルコール中毒の時に,骨髄の赤芽球および幼若顆粒球の空胞形成,胃腸出血による鉄欠乏性貧血,葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血,可逆的な鉄芽球性貧血,肝硬変症を伴う慢性溶血などの種々の型の貧血,顆粒球減少,顆粒球の動員障害および血小板減少などの多彩な血液異常の認められることが知られている1).しかし,不摂生な食事のための栄養失調症,とくにビタミン欠乏症,肝硬変症,胃潰瘍および感染症などを合併することが多いため,血液異常がアルコールの直接作用によるものか,合併症によるものかが明らかでなかった.
 最近,アルコール投与実験を中心に血液学的および生化学的研究が行われ,アルコールの直接作用によってどのような血液異常が起きるかが明らかにされつつある.しかし,なぜ起こるかについては未だに一部しか明らかにされていない.わが国におけるこの方面の研究はほとんどなく,したがって文献もほとんどないが,アルコール中毒による血液異常を認めることが多くなりつつあるので,その概要を述べてみたい.

免疫機能—アルコール中毒者を中心に

著者: 土屋雅春 ,   高木敏 ,   吉武泰俊

ページ範囲:P.1362 - P.1363

 アルコール中毒者における肝障害の発生機序については,アルコール自身による直接肝毒性1)を主とし,栄養障害等の種々の修飾因子が考えられている.しかし,中毒者の大多数は脂肪肝で,肝硬変症に進展していく者は10〜15%にすぎないとされている2),アルコール摂取量,飲酒期間,栄養状態が同じような条件下においても,一方では脂肪肝程度にとどまり,他方では,アルコール性肝硬変へ進展していくものがあることは,アルコールに対する生体の反応性の差,すなわち個体差の関与が重視される.
 アルコール中毒者では,高率に細胞性免疫異常がみられており3),さらに近年,アルコール性肝障害の進展機序の一部に細胞性免疫異常の関与していることが明らかにされてきている4).本稿では,とくにアルコール中毒者の細胞性免疫を中心に述べ,アルコール性肝障害の発生機序についても考察を加える.

アルコールと代謝異常

水・電解質代謝

著者: 庵政志

ページ範囲:P.1364 - P.1365

 アルコールと水・電解質バランスとの関係は,極めて身近の現象であるために各人の経験から,医師の間においてすらも見解の不一致がみられている.

糖質代謝

著者: 尾林紀雄 ,   種瀬富男

ページ範囲:P.1366 - P.1367

 消化管より吸収されたアルコールは,主に肝臓で代謝される.アルコール脱水素酵素と補酵素NDAによって,一部はmicrosomal ethanol oxidating system(MEOS)でNADPHによってアセトアルデヒドへと代謝される.次いでアセトアルデヒドは酢酸ないしacetyl COAに酸化され,TCA cycleに入ってCO2とH2Oへと酸化されていく.このようにアルコールが酸化されると,NAD+H→NADHへの反応がすすみ,NADH/NADが増加することになる.一方,糖代謝に関与する因子であるAMP(adenosine monophosphate)は少量のアルコールによって増加するといわれている1)

蛋白代謝

著者: 平山千里 ,   古賀俊逸 ,   関屋正彦

ページ範囲:P.1368 - P.1369

 アルコール性肝臓病の病態のひとつに,蛋白代謝障害があげられる.たとえば,アルコール性肝炎,アルコール性肝硬変などでは,低蛋白血症をみる場合が多いが,これは蛋白栄養や蛋白代謝の障害によって成立するものである.事実,アルコール性肝臓病にみられる浮腫,腹水などは,アルコールの禁止や栄養改善によってコントロールしうることが多い.すなわち,アルコール性肝臓病における蛋白代謝の異常は,アルコールの直接または間接の障害に起因するものと考えることができる.

脂質代謝

著者: 武藤泰敏

ページ範囲:P.1370 - P.1372

 アルコール摂取によって早期に,しかも最も高率に観察されるのは高脂血症と脂肪肝であり,アルコールの脂質代謝に及ぼす影響は極めて大きい.アルコールは高熱量源(7Cal/g)であるとともに,他の栄養素に先行して利用される化合物でもある.それゆえ,アルコールの代謝一般に及ぼす影響を論ずる場合には,どのような栄養状態にあるかを把握することが大切であろう.
 筆者らが実際に食事調査をしたところ,毎日約1009のアルコール(清酒約5合)を連用する場合,糖質摂取量は著減するが,脂肪および蛋白質摂取量には大きな影響がないという結果が得られた(図1).このように低蛋白栄養状態がなくとも,肝障害(血清γ-GTPおよびGOT活性上昇はそれぞれ約60%と30%)ならびに高脂血症(約50%)が観察されている.

カラーグラフ

アルコール性肝障害の病理所見

著者: 岩村健一郎

ページ範囲:P.1374 - P.1375

 病理学的にアルコール性肝障害を規定し得ろ特有な変化は認めろれていない.確かに国際肝臓学会において"アルコール性肝炎"とか"アルコール性肝硬変"の診断基準が提案されてはいる.だが,地理病理学的な違いも考えられることであるかろ,まずわが国におけるアルコール肝障害を臨床病理学的に検討することが大切であろう.そのような意味で,筆者が今日までに臨床の場で遭遇したた酒家における肝の病変を示すことにしよう.
 日常問題になるのは,長期にわたる大酒家における肝障害である.したがって,急性アルコール中毒性肝障害であっても,その基盤には慢性障害があると考えなければならないであろう.組織学的に急性と慢性を分けることは可能であるが,臨床上,腹腔鏡にとらえろれるアルコール肝障害としては,脂肪肝,炎症所見を伴う脂肪肝,あるいは脂肪性肝硬変がある.

アルコール性疾患診断のポイント

アルコール性心筋症

著者: 小出直

ページ範囲:P.1377 - P.1377

 大酒家に心筋症の多いこと,また,大酒家の心筋症患者が種々の点で他の特発性心筋症患者と異なる傾向を示すことなどから,"大酒家に発生した心筋症で大酒歴以外に明らかな心筋障害の原因の見当たらないもの"をアルコール性心筋症の名で呼び,ふつうの特発性心筋症と区別して扱うことがある.ただし,特異的な所見がないので,個々の症例について診断を下すには注意深く他疾患を除外することが極めて重要である.他方,実際的な立場からすると,重篤な心筋症に陥る前の軽症例をいかにして発見するかが,これに劣らず重要である.以下,診療の各段階を追って診断上の注意点を説明する.

アルコール性肝炎

著者: 伊藤進

ページ範囲:P.1378 - P.1379

 アルコール性肝障害として,臨床的にも脂肪肝,肝硬炎のあることは理解されていたが,最近,脂肪肝が直接的に肝硬変へ移行するのではなく,その間に肝細胞の変性,壊死,炎症が存在し,これがアルコール性肝炎として肝硬変へ導きうる病像であるということがわかってきた.当初は急性アルコール性肝炎,あるいはまた,alcoholic steatonecrosis,sclerosing hyaline necrosisなどともいわれていたが,現在では,alcoholic hepatitisが最も妥当性のある術語として用いられてきた.
 ここではFogarty international center proceedings No. 221)および筆者らの知見2〜5)に基づいて,その診断基準を概説し,ついで特徴的にみられるアルコール硝子体とこの肝炎の発症機構についても述べたい.

アルコール性多発神経炎

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.1380 - P.1381

 アルコールは広く飲用されており,長期連用による中毒症状の発現も少なくなく,これまでにも尨大な報告がある.アルコールによる神経障害は,古くからすでに18世紀頃から知られているもので,欧米では頻度も高く重視されている.アルコール性多発神経炎は神経障害のひとつのタイプで,発現機序としてはアルコールそのものよりは,アルコール飲用者にみられる栄養障害性因子,ことにビタミン欠乏,肝障害などの関与が重視されている.
 最近本邦でも,アルコール性多発神経炎の診断が注目されているので,臨床における診断上のポイントを中心に述べることにした.

アルコール性脳症

著者: 朝長正徳

ページ範囲:P.1382 - P.1383

 ここでは,慢性アルコール中毒による脳症状の代表的なものについて述べる.これらは,アルコールそのものによる直接の脳障害よりも,慢性的アルコール大量飲用の結果としての栄養欠乏などによるものがほとんどであり,治療もこの点に留意してなされねばならない.

Zieve症候群

著者: 高橋善弥太

ページ範囲:P.1384 - P.1385

 Zieve症候群とは,1958年Zieveが1)黄疸と溶血性貧血と高中性脂肪血症あるいは高コレステロール血症を主徴とする20例の患者を集め,新しい症候群として提唱したものである里患者はいずれも多量のアルコール飲用の後に発症し,飲酒をやめると症状は改善し,高脂血症,高コレステロール血症も2〜3週間で消失する.貧血は軽度のものが多く,便の潜血反応は陰性で,大球性のことが多い.溶血は軽度で一過性であって,尿や大便中のウロビリノーゲンの増量と網赤血球の増加によって知り得る.血漿ビリルビンは全例増加しているが,入院時の最低は1.4mg/dl,最高は43.0mg/dlに及んでいる.
 多くの患者はいわゆる酒呑みであって,とくに大量に飲んだ後に発症する.食欲不振,嘔気,嘔吐,下痢,体重減少,寒気などがあり,ほとんどの例で上腹部痛がある.その程度はさまざまであるが,黄疸を伴うことから,胆石などが疑われ,開腹手術を受けることがある.白血球も増多を示すものが大部分であった.

治療の問題点

アルコール性肝障害

著者: 上野幸久

ページ範囲:P.1386 - P.1387

 Lieber一派の実験的ならびに臨床的研究によって,アルコールの肝細胞障害作用が確認され,エタノールそのものがアルコール性肝障害の主要因子であり,Hartroftらのいう栄養障害は二次的因子に過ぎないという見解が現在では支配的のようである.アルコールの多飲後,黄疸の出現,GOTをはじめとする肝機能検査の著明な悪化など,肝障害の徴候の発現ないし増悪がしばしばみられることも,アルコールの直接的肝障害作用を裏づけている.

糖尿病とアルコール

著者: 伊東三夫

ページ範囲:P.1388 - P.1389

 近年,わが国のアルコール消費量は増大しているといわれているが,糖尿病患者にも飲酒の機会は少なくない.筆者らの糖尿病教室に入院した男290例について,入院前の酒類摂取量を調査してみると,1日の平均アルコール摂取量が201 Cal以上であったものが62%にみられ,毎日501 CaI以上という例に限定してみても20%であった.この290例は新しく発見された糖尿病患者だけでなく,半数近くに既知糖尿病例が含まれていた.糖尿病教室では「糖尿病にはアルコールはいけないのでしょうか」,「ウイスキー,焼酎はよいといわれていますが本当でしょうか」というのが彼らの質問であった.
 Krallら1)は,糖尿病患者が飲酒を制限しなければならない理由として,①ビールやワインにはアルコール分は少ないが糖質が含まれており,その分だけ糖質の摂取量が追加されることになる,②アルコールの多いウイスキー,ジン,ブランデーは少量であれば尿糖を増加させることはないが食事量が多くなりやすい,③最も注意しなければならないこととして,アルコールによってひき起こされた低血糖が酩酊もしくは急性中毒と誤認されることがある.インスリンによって起こっている低血糖の場合でも,呼気に酒気があると酩酊と誤認され,その結果,緊急処置が等閑にされるおそれがある,④アルコールは体内で糖,アセトンに転換されることはないが,その熱量は体重増加を起こしうると述べている.

アルコール性膵炎

著者: 小島国次

ページ範囲:P.1390 - P.1392

 臨床の経験をもたない筆者が,「治療の問題点」という観点からアルコール性膵炎について述べることには,少し違和感があり,抵抗を感じないでもない.あるいはそのようなところに編集者の意図があるのかもしれない.そこでアルコール性膵炎の成り立ち方,細胞学的ならびに組織学的変化などの病理学的知見に基づいて原因〜増悪因子を考察してみた.
 結論的にいえば,その因子は飲酒,食事(低蛋白),膵管系の狭窄と閉塞とであり,治療上必要なのは,常識的な禁酒,低蛋白の改善とともに,膵管系の濃縮分泌物の排泄除去の努力とである.

アルコール症の治療

著者: 河野裕明 ,   堀井茂男 ,   吉武泰俊

ページ範囲:P.1393 - P.1395

アルコール症の概念
 従来アルコール症は,精神科では,その患者の「病的性格」として,内科では臓器毒性による「身体疾患」として扱われてきた.これはそれぞれアルコール症の一面の真理をついてはいるが,"人間におけるアルコール症の治療"の立場からは全く片手落ちであり,そのような一面的視野からの治療は時に逆効果さえもたらしてきた.したがって,ごく簡単に必要なアルコール症の概念を述べる.
 WHOの定義によると,アルコール症とは薬物依存の中のいわゆるBarbitur-Alcohol型の疾患ということになり,下図(図1)のようなシェーマで考えられている.

大酒家への薬剤投与

著者: 重田洋介 ,   石井裕正

ページ範囲:P.1396 - P.1397

 アルコールは過去,現代を問わず嗜好品として,また人間関係の潤滑油として,さらには「心の憂さの捨てどころ」としてストレス解消剤の役割を果たしてきている.また,最近は人間関係,社会機構がますます複雑になってくるにつれ,精神安定剤や睡眠剤などの僕用量が著増傾向にあり,アルコールと精神安定剤などを併用する人も稀ではなくなってきている.そのようなとき,生体でアルコールと薬物がどのように作用し合い,その結果としてなにを予期すべきであろうか.本稿では,これらの点につき解説をしていきたい.

演習・X線診断学 消化管X線写真による読影のコツ・10

大腸のX線診断(その1)

著者: 吉川保雄 ,   織田貫爾 ,   勝田康夫

ページ範囲:P.1401 - P.1407

 大腸X線検査は,胃X線検査のように,充満法,二重造影法,圧迫法の組み合わせ検査がうまくいかず,Fischer法(1923),Welin法(1955),Brown法(1969)ともっぱら二重造影法の改良に力が注がれてきた.そして,現在のところでは,二改造影法が大腸X線検査の主体である.二重造影法の利点は,何といっても,粘膜面の微細変化を直接描出できることであり,われわれは1970年以来,Brown法に基づく二重造影法が人腸の微細構造network patternをあらわすのに最も優れていることを報告してきた.そして,とくに陥凹性病変の診断に有用であることを強調してきた.

診断基準とその使い方

自己免疫性溶血性貧血

著者: 恒松徳五郎

ページ範囲:P.1410 - P.1413

はじめに
 日常診療において貧血症はしばしば遭遇する症候である.貧血は骨髄での赤血球産生と末梢組織での破壊,喪失とのバランスが崩れる状態で,後者が前者を大きく上回ったときに現れる.溶血性貧血は体内での赤血球破壊が著明に亢進し,骨髄造血能(代償的亢進)で補いきれないとき発現する病態である.溶血の存在を知るにはまず貧血の発現または進行が急速である点に注目すべきである.この点は赤血球産生低下による場合,すなわち低形成または無形成骨髄による貧血と異なる.骨髄での造血が全く停止したとしても,その結果として貧血が発現するにはかなりの日数がかかるのと対照的である.溶血性貧血はかかる状態で急速に発症する例が多いが,慢性の経過をとるものでは貧血の発現は緩徐である.かかる例も存在する.溶血性貧血では破壊された赤血球が体内で処理されるという点で,体外への出血と異なる症候や検査所見を呈する.黄疸,ことに間接ビリルビンの上昇,尿,糞便中へのウロビリノーゲンの排泄増加などがそれを示す所見である.
 溶血性貧血の原因には種々のものがあるが,そのうち自己免疫機序によるもの,すなわち自己免疫性溶血性貧血の診断基準について述べる.

図解病態のしくみ—消化管ホルモン・6

エンテログルカゴン代謝

著者: 石森章

ページ範囲:P.1414 - P.1415

 消化管粘膜に分布し,その作用が膵グルカゴンに類似すると考えられたことから,エンテログルカゴンと命名された本物質は,免疫学的にも膵グルカゴンとある程度の交差性を示し,化学構造の上からも類似性の認あられることから,一般にsecretin familyに属すると考えられてきた.しかし最近の知見によれば,これらは単一の物質ではなく,主として小腸,大腸に分布するglucagon-like immunoreactivity(GLI)と,主としてイヌにおいて胃に分布し,膵グルカゴンと免疫学的に同一性質を示すglucagon immunoreactivity(GI)とに分類することができ,作用の上でもそれぞれ特徴のあることが明らかとなった.産生細胞として前者ではL細胞,後者ではA細胞が指摘されているが,ここではこれまでの歴史的背景や種族特異性を考慮して,主としてGLIをエンテログルカゴンとして取り扱い,場合に応じてGIについても言及することとする.

新薬の使い分け

脳卒中に対する薬剤の使い分け

著者: 海老原進一郎

ページ範囲:P.1416 - P.1417

 脳卒中発作直後,後遺症の治療では,いずれも万人のコンセンサスをうる薬剤の選択はむずかしい,というのは脳卒中の特殊療法として用いられる薬剤は,その効果を臨床的に実証することがむずかしく,いままでのところ確実に有効とされるものはないからである.したがって,少なくとも筆者は,病態生理学的にその有効性が示唆されている薬剤を副作用の有無を重視し,選択して用いている,このような立場から,脳卒中に対する薬剤の使い分けについて述べる.
 脳卒中の治療に用いる特殊薬剤は,脳圧下降剤,脳血管拡張剤,脳代謝賦活剤,抗凝血薬,血栓溶解剤,血小板凝集阻止剤など,その種類は多く,多岐にわたっている.そして,これらは脳卒中の種類,発作後の病態によって使い分けられる.

臨床病理医はこう読む ホルモン異常・1

甲状腺機能低下症

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1418 - P.1419

T3テストについて
 この症例は各種甲状腺機能検査から,明らかな甲状腺機能低下症と考えられる.注意しなければならないのは,T3テストをTBC index法のごとく,レジンストリップをレジンスポンジの代わりに用いると,両法は機能亢進または低下で数値の多少が表現としては全く逆になることである.
 T3テストはレジンスポンジを用いるトリオソルブテストが10年前に紹介されてからPBIに代わって普及してきた.実地医家も自ら行わなくとも,病院検査室や検査センターに血清を送って報告を得,時にこれのみで診断に供しているが,キット毎に方法も表示値も異なるから,値の読みに心しないと混同するおそれがある.T3テストの原理は,表1のごとく,甲状腺機能低下症では内因性ホルモン分泌が少ないため,甲状腺ホルモン結合蛋白(TBP)飽和度が低く,血清への摂取率が高いことを利用している.甲状腺機能亢進症では逆の関係になる.吸着物質または血清の131I-T3摂取率を測定すれば,甲状腺機能状態を知ることができるが,測定されるものが血清であるか,吸着物質であるかにより,甲状腺機能状態と数値が逆になる.

小児と隣接領域 小児外科・III

消化管出血

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.1420 - P.1421

 小児の消化管出血にはいくつかの特徴がある.
 1)量と質の特徴:成人と比べて絶対量は少なくても,容易に貧血やショックをひき起こす.下血の方が吐血より機会が多い.血液の消化管内停滞時間が短いこと,消化液との量的相対関係により,下血ではメレーナよりも血液そのものの肛門からの排出(Hematochezia)が多く,吐血もコーヒー残渣様より鮮血色のHematoemesisが多い.

皮膚病変と内科疾患

体部異形または非相称と内的病変(その2)

著者: 三浦修

ページ範囲:P.1422 - P.1423


 眼の外形の異常は眼瞼の状態,眼裂の広狭と顔の水平線に対する角度,眼球の大小や凹凸による眼窩部の状態などによってひき起こされる.

ECG読解のポイント

心筋梗塞と思われるが,ST上昇が一時的であった54歳男性の例

著者: 植木一義 ,   太田怜

ページ範囲:P.1424 - P.1426

 開業医としての特徴のひとつは,発作時の心電図がとれることではないだろうか.本症例は,発作時の心電図と経過から,梗塞と考えたが,翌日の心電図で,梗塞曲線の消失した1例である.
 患者 男性54歳(昭和51年現在)

外来診療・ここが聞きたい

肺線維症を疑わせる動悸,息切れ

著者: 西崎統 ,   田中元一

ページ範囲:P.1427 - P.1429

 患者 O. S. 41歳 主婦.
 現症 約2年前頃から関節痛があり,近医に受診し治療を受けていた.関節痛はやや軽減した.しかし,約6カ月前位から動悸,息切れが現れ,労作時は増強する.さらに最近,咳嗽,喀疾(黄色)を伴ってきた.

開業医学入門

"かぜ"のこじれ

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.1430 - P.1434

 開業医にとって最も頭を悩ます問題のひとつに,いわゆる"かぜのこじれ"がある.およそ日本の開業医の診る患者の約半数はいわゆるかぜ症候群であると,最近なにかで読んだことがある.まず最初に,一般にかぜ症候群と呼ばれている一群の症候群とはなにか,ということについて検討してみたい.はじめに一応おことわりしておきたいことは,最近かぜ症候群について,大半の成書には,ウイルス学的検索などの実験室的検査について詳細に述べられ,個個のウイルスで起こる症候の分類まで詳しく述べられているが,筆者としては特殊なものを除き,これらの問題には立ち入らないつもりである.実際問題として,発病早期と回復期の2度にわたって検体をとり,これをさらに外注する,といっても結果が判明したときには患者は治癒してしまっている.検査結果が分かったとしても,抗ウイルス剤にっいてはABOBがわずかに有効なこと,また一部のウイルスに対してはアマンタジンに若干の効果がある程度でしかない現在,私たちとしては対症療法を行う以外に方法はないのである.

medicina CPC—下記の症例を診断してください

乏尿・吐血・発熱を主訴とし,急激な転帰をとった52歳,家婦の例

著者: 小沢安則 ,   中川成之輔 ,   青柳昭雄 ,   岡安大仁 ,   田崎義昭

ページ範囲:P.1435 - P.1446

症例 ○辺○子,52歳,家婦
 主訴 乏尿,吐血および発熱.
 既往歴 21歳,肺結核症に罹患,その他著患はない.

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内科門医を志す人に・トレーニング3題

著者: 涌井和夫 ,   安永幸二郎 ,   前田如矢

ページ範囲:P.1447 - P.1449

 問題1. 膵炎について,次のうち正しいものはどれか.
 A:急性膵炎時の膵の組織障害の程度は,血清アミラーゼの濃度によく反映する.したがって,膵炎の組織学的所見の重篤度を血清アミラーゼ値から推定することができる.

内科専門医を志す人に・私のプロトコール

血液疾患/循環器疾患

著者: 森川景子 ,   村山正昭

ページ範囲:P.1450 - P.1452

 血液疾患は将来の専門としたい領域であるので,全体としてプロトコールがこの分野に偏りすぎたきらいがある.血液疾患の研修にさいしては,血液塗抹標本を検査室まかせにしないで主治医が自分の眼で見ることが大切であると思う.1枚の標本から得られる情報はかなりあるが,白血病の場合はとくに重要である.
 ひと口に骨髄性白血病細胞といっても,それぞれに症例により違うし,この白血病細胞が経過中に変わることもある.最初,穎粒のないリンパ芽球様のものが,再発時には穎粒を有する典型的な骨髄芽球となることがあるが,この症例もそうであった.

オスラー博士の生涯・42

講演「19世紀の医学の進歩」

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1453 - P.1455

 オスラーは,50歳代になる頃から,大学における教育,診察のほかに,立会い診察や講演の依頼を受けることがますます多くなった.自分が育てた歴史クラブの毎月の例会も彼が主宰し,また喜んでこの会の話題提供者となった.
 1900年の1月,ボストン医学図書館の落成式での「本と人」と題する講演を終えてわずか15日後に,彼はジョンス・ホプキンス大学の歴史クラブの例会に「19世紀の医学の進歩」と題して2時間にもわたる講演をした.

忘れられない患者・私の失敗例

MCLS

著者: 石垣四郎

ページ範囲:P.1456 - P.1456

 約20年間の病院勤務と6年間の開業医生活の中には,忘れがたい印象を残して去来した幾多の子ども達の顔が浮かんでくる.昭和43年11月5日に,神戸市立中央市民病院小児科に入院してきた4ヵ月の乳児も,その1例である.この患児は入院5日前頃から咳がでていたが,4日前より38℃の発熱があり,顔色が著しく不良となった.また2日前から全身に発疹が出現し,一向に解熱の徴がないために入院してきたのである.みると全身に麻疹様紅斑があり,四肢には多形滲出性紅斑を思わせる発疹がある里手掌,足蹠はびまん性に発赤し,眼球結膜の充血も著明である.頸部にはえん豆大のリンパ節を触れる.心,肺に異常なし.肝は1cmに触れる.白血球数15000,Hb 11.1g/dl,尿蛋白陽性,尿沈渣に多数の白血球を認める.入院後は抗生物質とステロイド剤により解熱,症状はいったん軽快するが,ステロイド剤を中止すると再び症状が再燃する.指尖部の落屑も認めるようになる.3回の再燃をくりかえした後に次第に回復をした.以上の経過から,読者もおそらく直ちに診断をくだされるように,急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群(MCLS)と診断した.本疾患は前年の昭和42年に川崎富作博士により報告されたもので,小児科医の関心を惹いたものであった.入院後約1ヵ月を経過して,一般状態も良く,退院を考慮していた矢先のことである.

末梢血中に赤芽球が出現した1症例

著者: 笹村義一

ページ範囲:P.1457 - P.1457

 私が医師となり,はじめて経験した死亡例は急性白血病であったが,本症例は種々教えられることが多く,またその後の私の進路に大きな影響を及ぼした忘れがたい1例であった.
 34歳,男.昭和34年1月始めより易疲労性,心悸亢進を覚え,2月にはいり赤血球,白血球がともに少ないことを指摘された里2月20日より3月14日まで,某国立病院にて再生不良性貧血の診断のもとに入院,加療を受け,3月15日本院に転入院した.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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