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雑誌目次

雑誌文献

medicina13巻3号

1976年03月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医に必要な末梢血管病変の知識

理解のための10題

ページ範囲:P.378 - P.380

主な血管病

閉塞性動脈疾患—急性

著者: 草場昭

ページ範囲:P.314 - P.315

 急性動脈閉塞の約60%は頭蓋内動脈に発生するが,ここでは,四肢の急性動脈閉塞について述べる.四肢急性動脈閉塞症の特徴は,激烈な疼痛を主症状とする重篤な阻血症状が突発し,適切な処置を施さない限り,急速に症状が進行して患肢の壊死あるいは生命の危険にさらされるようになるが,一方においては,早期診断と適切な処置が施されれば,ほとんど完全にこれを治癒せしめ得ることである.本症患者は,まず市中の第一線病院に診療を求める場合が多いが,数日間の経過観察の上,不可逆性変化をきたした後に専門医の手にゆだねられることが少なくない.この点,本症の病態と重症度に対する正しい認識が強く要望される.

閉塞性動脈疾患—慢性

著者: 西村昭男

ページ範囲:P.316 - P.319

はじめに
 最近の閉塞性動脈疾患は平均寿命の延長,生活様式の変革などの影響もあって,動脈硬化に起因するものが次第に増加する傾向にある.しかし,本邦においてはBuerger病,大動脈炎症候群など比較的若年者を侵す難病が多いなどの点で,なお欧米との相違も大きい.したがって治療面でも,質的には欧米より困難な立場に立たされているといえよう.

動脈瘤

著者: 稲田潔

ページ範囲:P.320 - P.321

 動脈の疾患は閉塞性と拡張性病変(動脈瘤)に分けられるが,いずれも日本人では欧米人に比べると発生頻度が少ない.その第1の原因は,日本人の動脈硬化症の程度が比較的軽いことにある.しかし最近平均寿命の延長,社会環境の欧米化に伴い,これらも増加しており,しかも放置すれば予後不良であるが血管外科の発展により安全に治療しうるようになった現在,一般医家もこれらに関する知識を要求されるようになったといえる.

機能性動脈疾患

著者: 恒川謙吾

ページ範囲:P.322 - P.323

 血管運動神経の異常を本態とし,あるいはそれが大きく関与している動脈疾患を機能性動脈疾患という.この疾患群について,自験例に基づき2,3の解説を加えたいと思う.

動静脈瘻

著者: 阪口周吉

ページ範囲:P.324 - P.325

概念
 動静脈瘻(arteriovenous fistulae,以下AVF,瘻と記す)は、毛細管を経ないで動脈と静脈の間に生じた非生理的な短絡(shunt)をいう.発生する原因は先天性の異常と,主として外傷による後天性のものに2大別され,両者は各々異なる病像を呈する.身体のあらゆる組織に発生しうるが,四肢が圧倒的に多い.といっても,筆者らが最近15年間で経験した末梢血管疾患2330例中,先天性血管異常が133例(5.7%)であり,このうち先天性AVFが35例に過ぎない.後天性AVFはなお稀であるから,全体としては数少ない疾患と考えてよいであろう.

閉塞性静脈疾患

著者: 古川欽一

ページ範囲:P.326 - P.327

 末梢静脈の閉塞性疾患は動脈系のそれに比し,必ずしも致命的なものでなく等閑視されがちであったが,静脈血栓症,とくに腸骨大腿静脈血栓症は,本邦においても最近増加の傾向があり,肺塞栓のような重篤な合併症や難治性の静脈血栓後遺症などで治療に困難をきたす場合が少なくないので,改めて本症が再検討されてきた.とくに早期の静脈血栓症は血栓摘除術あるいは線溶,抗凝固療法によって劇的な改善が得られるが,慢性期に移行するとその治療効果も期待できないことから,早期診断,早期治療が本症に極めて重要な因子であることを強調したい.ここでは誌面の都合で,腸骨大腿静脈血栓症を中心としてその概略を述べる.

静脈瘤

著者: 田辺達三

ページ範囲:P.328 - P.329

 プロローグ イギリス史上最大の繁栄を築いたヴィクトリヤ女王は,若い頃から両下肢静脈の怒張があり,妊娠,分娩を重ね,肥満するにつれて,両下肢が腫脹し,歩行も障害された.その後,下肢に潰瘍を生じ,その出血に生涯悩み続けた.
 静脈瘤は先天性血管奇形や動静脈瘻,深部静脈閉塞などの場合にもみられるが,通常は下肢表在静脈の弁機能不全によって表在静脈が拡張,屈曲,蛇行する下肢静脈瘤をいう.弁不全状態では,立体の場合,重力により静脈血は逆流し,表在静脈は拡張し,静脈血はうっ血する(図1).本症は,人類が立位生活を始めた頃からあったと推測され,古くHippocratesも治療法を述べているという.今日では,この病態は欧米人の間では極めて普遍しており,程度の相違はあれ,成人女性5人に1人,成人男性15人に1人の割合でみられるという.本邦ではやや少ないが,最近は生活様式,食生活,労働条件などとも関連して増加の傾向にある.一般に女性が男性の2倍程度に多く罹患し,中年から高年層にみられる.

血管病変を起こしやすい疾患

糖尿病と末梢医血管病変

著者: 石飛幸三

ページ範囲:P.330 - P.331

 糖尿病患者では,動脈硬化性病変の頻度が高いことはよく知られている.しかし,両者の関係については不明な点が多いのも事実である.ここでは統計上の関連,最近の学説,筆者が扱った症例の知見を述べ,糖尿病患者における末梢血管病変の特徴に触れてみたい.

膠原病

著者: 大橋重信

ページ範囲:P.332 - P.333

 膠原病は結合組織および膠原線維をおかす全身性疾患と考えられているが,主として小血管に病変を起こして循環障害を生ずることが多く,臨床的にRaynaud症状を合併することはよく知られている1,3,5〜9).これは種々の点で,いわゆるRaynaud病とは病態,予後を異にしている.

ベーチェット病

著者: 橋本喬史 ,   松本享 ,   清水保

ページ範囲:P.334 - P.335

 ベーチェット病(ベ病)は口腔粘膜,皮膚,眼,外陰部の病変を4主徴とするが,ほかに血管系,関節,消化管,中枢神経系などに多彩な症状が出現し,増悪・寛解をくり返しつつ,慢性に経過する全身性炎症性疾患である.
 本疾患における血管病変は,つぎの2点において重要な意義を有する.1つは大血管に閉塞や動・静脈瘤を形成し,神経ベ病とともにベ病死因の大きな部分を占め,臨床的に治療の対象となる血管型ベーチェット病(Vasculo-Behçet's syndrome1).Angio-Behçet's syndrome2))の問題である.他は全身諸臓器に認められる細小血管病変,とりわけ細静脈・毛細血管病変であり,この解析は現在不明であるベ病の病因,病態につながるものとして注目されている.以下,これらの点を中心にベ病の血管病変について述べる.

マルファン症候群

著者: 井上正

ページ範囲:P.336 - P.338

 マルファン(Marfan)症候群は全身結合織系の遺伝性障害として理解され臨床的には骨格系の異常,とくにarachnodactyly,眼の異常,とくに水晶体亜脱臼,心血管系の異常が顕らかに現れたものと考えられている.
 本症候群は,古く1896年,Marfanが,長い四肢(dolichostenomelia)と頭蓋骨の異常を有した5歳半の女児の1症例を報告したのに始まり,その後,骨格系の異常のほかに心血管系異常と眼症状が追加され,さらに遺伝性要因が加わって今日の表現となったものである.

診断

ベッドサイドでのみかた

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.340 - P.343

末梢血行障害の有無
 診断の第1歩は他の疾患と同様に,主訴による病態の推測に始まる.一般に,①指趾あるいは肢に限局する疼痛があって,運動により増強,安静により軽快,また肢の位置によって変わるような場合,②四肢末梢の皮膚色調の変化,ことに発作性のものや,肢の挙上・下垂などによって影響される場合,③四肢末梢の潰瘍・壊死,爪の変形,皮膚がうすくなったり,角化,爪周囲の感染などがみられる場合,④四肢が極端に冷たい,あるいは温かい場合,⑤異常な動脈拍動や拡張・迂曲した静脈がみられる場合,などの所見があれば末梢血行障害の存在が疑われる.したがって患者を診察する場合には,これらのことを頭において問診・視診・触診・聴診とすすめて行くが,①四肢の腫脹・萎縮・伸長・短縮,②潰瘍・壊死・硬皮症・静脈瘤・血栓性静脈炎,③皮膚温の異常,④皮膚色調の変化,ことに肢の位置による影響,⑤動脈拍動の異常,⑥血管雑音,などの有無に注目することが大切で,これらの所見がみられなければレイノー症候群やErythermalgiaなど機能的疾患を除けば四肢の動静脈に器質的な障害はないと考えてさしつかえない(図1).

主な検査法

著者: 大原到

ページ範囲:P.344 - P.349

はじめに
 末梢血管病変の検査法には理学的検査法,血液の生化学的検査法および病理組織学的検査法とに3大別される.本稿では,主として血管病変と症状との関連よりみた理学的検査法について述べ,とくに一般に普及しており,かつこれからも用いられると思われる検査をとりあげる.
 血管病変に起因する症状は3つある.1つは血管壁の変化に由来する動脈瘤,あるいは静脈瘤の形態の異常である.2つめには血管の内腔狭窄や閉塞によって惹起される循環異常である.第3には血管壁の異常と血流異常とが合併したもので,動静脈瘻がその疾患のひとつである.血管の形態異常を伴うものは上肢,あるいは下肢の身体の表面から,その存在を観察できるし,また,疑診をもてばこれをさらに確認する方法としては,血管撮影が最も有力な検査法である.これに反し,血流異常に由来する諸症状に関する検査法は現在確立した方法はない.その理由は,四肢の血流支配が主幹動静脈と副血行路という二重構造になっている上に神経支配と血液中の化学的物質の影響のため,血流は一方が減少しても他方でこれを代償し,これによって局所の総血流量が左右されるからである.したがって乏血症状が恒常的に存在するということは稀で,むしろ絶えず変化することから,以下述べる諸検査法の成績の臨床的評価は多面的な情報資料のひとつとしてのみ取り扱われるべき性質であることを予め強調しておきたい.

血管撮影

著者: 多田祐輔

ページ範囲:P.351 - P.356

はじめに
 末梢血管病変の診断は,臨床症状,理学的所見によっても病変の性質,広がり,外科的治療の適応などについてかなりの程度に診断できるが,血管の内腔の状態,走行,閉塞の部位や広がりを詳細に診断するためには血管撮影が不可欠である.今日では,血管撮影法は各領域において最も普及した検査法のひとつとなっているが,四肢末梢血管撮影では,他の部位と異なる技術的要素を持っている.ここでは,とくに四肢の動脈撮影について述べる.

カラーグラフ

目でみる血管病

著者: 塩野谷恵彦

ページ範囲:P.358 - P.359

図1 36歳 男 Buerger病
 Buerger病は20〜40代の喫煙家に好発し,下腿・足・趾動脈が主として閉塞されるので,足部の間歓性跛行・冷感・しびれとともに,趾の乏血症状が特徴的である.趾はチアノーゼを呈するが.下肢の挙上で趾は直ちに蒼白となり,下肢を下垂すると異常に赤紫色になる.ちょっとした外傷が誘因となって.趾の爪の周囲に潰瘍や壊死が生じる(図のように第1趾に最も多くみられる).皮膚は萎縮し,発毛や爪の成長も悪い.

治療

末梢動脈閉塞に対する保存療法

著者: 西島早見

ページ範囲:P.362 - P.363

 末梢血管病変の多くは,緩解と増悪を反復しながら慢性の経過をたどるので,長期の観察と治療とが必要である.したがって,手術療法が進歩した現在でも,保存療法の果たす役割は極めて大きい.末梢血管病変に対する治療は,原因や誘因の治療,血行障害の改善,病変の進展防止および合併症に対する治療などが主眼であるから,保存療法もこれらの目的にそって各種の方法が行われている.以下,末梢動脈の動脈性血行不全に対する保存療法や管理法について述べることとする.

手術適応

著者: 和田達雄

ページ範囲:P.364 - P.365

はじめに
 手術の適応は,常に手術成績と裏腹の関係にある.どのような施設で,誰が,どのような術式を行うかによって,手術成績が変わってくるのであるから,同一症例であっても,状況によって手術適応が異なることは当然であろう.したがって,以下に述べる手術適応は,筆者自身の現時点のレベルに基づく私見に過ぎない.
 各疾患に対する手術適応は,別に述べられることと思うから,ここでは各種の末梢血管病変を惹起する全身的要因のうち,手術適応の決定に関係するものについて,簡単に述べてみたい.

血行再建術

著者: 上野明

ページ範囲:P.366 - P.369

 血行再建術とは,狭義では閉塞性疾患ないし血管の急性閉塞状態に,その前後の血行を連結する術式の総称で,広義では罹患(傷害)している部分の切除後,その末梢への血流の再建を意味するもので,したがって副血行の多い静脈罹患より,動脈疾患に一般に行われるものを指す.以下にそれぞれの方法の要約を示す.

座談会

末梢血管病変患者の扱い方

著者: 勝村達喜 ,   大内博 ,   丸山雄二 ,   三島好雄

ページ範囲:P.370 - P.377

 血行再建術など,外科における末梢血管病変への対応は驚くほど進歩してきている.患者の窓口となることの多い内科との連けいを,より密にすることによって救われる患者は多いともいう.そのために,専門家の方々にその実情と合わせて内科への要望もお話しいただいた.

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内科専門医を志す人に・トレーニング3題

著者: 宮崎元滋 ,   日下部恒輔 ,   村中日出夫

ページ範囲:P.417 - P.419

 問題1.クッシング症候群を呈するもののうち,両側性副腎皮質過形成と副腎皮質腫瘍とを鑑別するためには下記の検査のうちいずれが最も有用であるか.
A:血清電解質濃度測定

内科専門医を志す人に・私のプロトコール

神経系

著者: 革島恒徳 ,   梅村康順

ページ範囲:P.420 - P.421

 神経疾患の診断は,ある程度のsimplifyした神経系の解剖学,生理学の知識をもとにして,最も印象に強く残る症状を示す疾患を経験し,診断能力を拡げて行くのが望ましく思われる.
 半身のしびれ感を主訴として来院した患者では,脳卒中,頸椎症などが鑑別の対象となる.ここに提示した症例は,原因究明のため各種検査を行ったが,プロトコールに示すように明らかな所見がなく,持続した高血圧症由来の全般的な脳動脈硬化,またはlacunare stateがあり,とくに視床分布領域(postero lateral areaが推定)が障害され,視床症候群をきたしたものと思われた.

演習・X線診断学 消化管X線写真による読影のコツ・3

胃の変形および胃辺縁の変形

著者: 熊倉賢二 ,   成松芳明

ページ範囲:P.382 - P.388

 胃の変形や胃辺縁の変化についての観察は,病変を側面像としてとらえる立場だといえます(もちろん,胃の変形には胃を全体的にみるといった立場もあります).このように病変を側面像としてとらえる立場は,X線診断では非常に重要なのですが,最近では,どうも軽視されているようです.そこで,今回は胃の変形と胃辺縁の変化を取りあげることにしました.
 胃の変形や胃辺縁の変化が軽視されがちな理由を考えてみますと,第1に内視鏡の進歩に関係がありそうです,内視鏡では病変を正面からとらえます.それでX線所見と内視鏡所見とを比較するとなると,X線でも正面像が要求されるようになります.それに,X線でも二重造影法などで病変を容易に正面像としてあらわせますので,最近では安易な二重造影法一辺倒といった傾向が強まりました.さらに,早期胃癌のような微細病変では,胃の変形はみられませんし,辺縁の変化もおこりにくいのが普通です.胃の変形や胃辺縁の変化がみられるのは潰瘍などの合併病変があるときでしょう.このように,X線でも正面像が重要視されていますが,内視鏡と違って,X線では病変を側面像としてみることができるのが特徴です.したがって,側面像の重要性をもう一度確認しておくことにいたします.

診断基準とその使い方

慢性肝炎

著者: 市田文弘 ,   井上恭一

ページ範囲:P.389 - P.391

 慢性肝炎のための補助診断法には,近年種々の改良が加えられているが,診断をめぐるいくつかの問題点は依然として議論の多いところである,一般には臨床症状,肝機能検査成績,肝生検組織診断によって慢性肝炎の診断が試みられているが,これら3者間の相関が不確実な場合が多く,正確に診断できるのはやはり肝生検による組織学的知見からである.それ故にわが国における慢性肝炎の診断基準は,1967年第1回犬山シンポジウムにおいて定められた慢性肝炎の組織学的定義および分類が根底にあり,臨床症状,諸検査成績は副次的なものとみなされているのが現状である.

肺サルコイドージス

著者: 新津泰孝

ページ範囲:P.392 - P.394

 サルコイドージスは発生病理が不明で,組織学的に壊死のない類上皮細胞結節が,2以上の器官,組織にみられる全身の系統的疾患である.したがって同様な組織像がみられても,結核,非定型抗酸菌症,真菌症,ベリリウム中毒症,その他の発生原因の明らかな疾患は除外される.罹患器官の名を冠して,肺サルコイドージス,眼サルコイドージスなどとよばれるが,サルコイドージスという系統的疾患の顕性病変の存在を示しているにすぎない.
 肺(胸郭内)サルコイドージスは,胸郭内器官である肺門リンパ節,縦隔リンパ節,肺に病変がみとめられる例をいう.胸部X線写真によってその病変の存在を知る.

新薬の使い分け

新しい降圧剤の使い方—高血圧の重症度,原因,病態による降圧剤治療法

著者: 青木久三

ページ範囲:P.395 - P.397

はじめに
 高血圧症の降圧剤治療は,心不全,脳出血,腎不全など高血圧性心臓血管障害の予防のために異常に高い血圧を下げることにある.一方,高血圧症は種々の異なった病態により発症,また異なった病態を合併しているので,作用機序の異なった降圧剤を必要とする.まず新しい降圧剤で非サイアザイド系利尿剤,交感神経β遮断剤,Ca++拮抗性血管拡張剤にふれ,また以前から用いられているサイアザイド系,レセルピン系,ハイドラジン系などの降圧剤について使用法を述べる.

図解病態のしくみ

肝炎慢性化の機序・1—宿主の細胞性免疫能を中心に

著者: 亀谷麒与隆 ,   森実敏夫

ページ範囲:P.398 - P.399

肝炎慢性化とは
 肝炎が6カ月以上持続した場合,慢性化したと理解されている.BlumbergのHB抗原発見以来,病原体と肝炎との関係が比較的明らかとなったB型肝炎に例をとると,成人にB型肝炎ウイルスが感染し,末梢血液中にHBs抗原が検出されるようになってから1〜2カ月後に肝炎が発症し,その後2〜3カ月でHBs抗原は消失し,肝炎も消褪して再発しない例が多いが,急性B型肝炎の約10%は6カ月以上もHBs抗原が持続陽性で肝機能異常も持続し,グリソン鞘の小円形細胞浸潤と線維の増生による門脈域の拡大がみられるようになり,持続性肝炎あるいは慢性肝炎の所見を呈するようになる.慢性肝炎の約10%が3年ないし10数年後には肝硬変症に移行すると推定される.

臨床病理医はこう読む 酵素検査・1

LDHとLDHアイソエンザイム

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.400 - P.401

LDHの異常高値
 この症例の経時的に測定していった図1の成績からも明らかなように,血清LDHが3160単位というのはこの患者のピーク時における値である.もし,LDHが3000単位を越えていた場合,通常考えられる疾患は心筋硬塞症とある種の血液疾患(骨髄性白血病,悪性貧血など)の2つである.肝疾患,骨格筋疾患,あるいは普通に見られるような癌のときには,2000単位を越えるようなことはない.ただ心筋硬塞症のピーク時に3000単位を越えることはまれで,一般的には2000単位以下のことが多いので,LDH活性値の大小からは疾病の鑑別はできない.鑑別診断のためには後述するLDHアイソエンザイムの分画,あるいはHBDの同時測定が必要である.しかし,LDHをこのように総活性として測定するのは,経過ならびに予後を判定するために大切である.図1からもわかるように,心筋硬塞症の際に異常高値が最も長く持続しているのはLDHである.したがって,これが正常化することは(順調な経過をたどると,第8〜14病日で正常化する),本症の一応の鎮静化がみられたと判断することができる.また,本症のピーク時におけるLDHの高さが2000単位を越えると生存の確率は低く,さらに3000単位以上なら予後は極めて不良という判断材料を与えてくれる.

小児と隣接領域

耳鼻科

著者: 荒木昭夫

ページ範囲:P.402 - P.403

 消化器や呼吸器の最先端にある鼻腔や口腔は,常にいろいろの外来刺激をうける部位である.とくに乳幼児では,まだこれらの器官が未発育である上,疾患に対し防禦機能が弱いため,成人に比べ罹患しやすく,また,種種の合併症を併発・続発しやすい領域である.
 他科とも関係の深い小児耳鼻咽喉科領域の代表的ないくつかの疾患について述べてみたい.

皮膚病変と内科疾患

皮膚の増殖性病変と内的異常(その1)

著者: 三浦修

ページ範囲:P.404 - P.405

 皮膚の増殖性変化はどの層またはどの構成因子が,平面的あるいは立体的に増殖するかによって皮膚表現は異なる.これに加えて複数の因子の増殖とかひとつの因子の増殖と同時に他の因子の萎縮や色素異常などをきたし,あるいは紅斑を伴うなど,皮膚表現はしばしば複雑である.しかし,概括していうと結節や腫瘤となることが多い.
 角化層の増殖はしばしば不全角化を伴い,剥離すれば鱗屑となり,平面的に限局すれば胼胝を形成し(共に既出),立体的に増殖すれば皮角となる.

外来診療・ここが聞きたい

夜間の激しい頭痛

著者: 西崎統 ,   本多虔夫

ページ範囲:P.406 - P.409

 患者 T. M. 42歳 印刷工 14-58-21.
 主訴 夜間の激しい頭痛.

ECG読解のポイント

心房細動と労作時の動悸,息切れおよび浮腫を呈した50歳男性の例

著者: 山田辰一 ,   太田怜

ページ範囲:P.410 - P.412

患者 K. W. 50歳,男性
初診 1975年8月13日
現病歴 1973年5月,たまたま血圧測定時に不整脈を指摘されていた.1974年5月以来,紹介医のとった3回の心電図は常に心房細動を呈していた.1975年2月頃より駅の階段を上昇する時に動悸と息切れを覚えるようになった.同年5月より下腿に浮腫を生じている.めまいや失神の歴史はない.

開業医学入門

意外に多い甲状腺疾患(その1)—診察のとき必ず頸をみよう!

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.413 - P.415

おろそかにされている甲状腺
 内科医は一般に診察のとき,甲状腺を忘れている傾向がないだろうか.阿部1)も述べているように,頭の方から順にみてゆくさい,頸部のリンパ節あたりは,触れてみることが多いものだが,その時ついでに前の方の甲状腺をみる習慣もぜひ身につけたいものである.
 私は何年か前まで,甲状腺といえば,まずバセドウ病のみが頭に浮かんできて,粘液水腫以下のいろいろの病気はむしろ稀で,めったに遭遇するものではないとばかり思いこんでいた,また実際20年ほど前までの甲状腺疾患に関する知識は,現在のそれに比べるとお話にならないほど低い水準にあったことも事実である.私はたまたま昭和30年頃,何かの雑誌で亜急性甲状腺炎に関する記事を読み,その数ヵ月前にたてつづけに,それと覚しき患者を2,3例診ていたので,ああこれがあの時の病気だったのかと感じたしだいだが,その時はそれだけのことで,副腎皮質ホルモンがよく効くものだという印象を持ったにすぎなかった.しかし,その後昭和44年藤本2)のモノグラフを読んだりするうちに,甲状腺の疾病そのものに興味をもつに至ったが,さしあたり自分でできる検査といえばBMR程度でこれとても時間的に無理であり,血沈くらいをみるに止まった.

オスラー博士の生涯・36

講演「25年後に」(その1)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.425 - P.427

 オスラーの名声がアメリ力中に広がるにつれて,遠いところからも立会い診察を希望するものがまし,大学での教育のほか,学会活動,講演に加えての往診などはオスラーの肉体に相当の無理を与えたようである.

私の失敗例・忘れられない患者

死を目前に大学受験

著者: 藤森岳夫

ページ範囲:P.428 - P.428

 もう6年前の秋のことになる.その頃私は長野県の佐久病院で呼吸器を担当していた.
 ある日一人の青年が自然気胸で入院して来た.若い男の自然気胸は意外に多いが,胸部レントゲン像で両側に円形陰影が数個ある.どうもそれは肺転移と思われるが,とにかく気胸に対して脱気してみたが,肺はいっこうに膨らまない.外科と相談して持続吸引後手術した.

インターンを終えた頃の苦い経験

著者: 若松英男

ページ範囲:P.429 - P.429

 その1 今から18年前の夏の話である.1年間のローテイティング・インターンを終えて内科に入局した私は,3ヵ月目に信州S湖のほとりにあるS病院に1ヵ月間の短期出張を命ぜられた.仕事の内容はS病院の先輩の夏休み中の外来診療と当直を肩がわりすることであった.信州の夏は快適で,数日間は無事平穏だった.
 着任後10日目頃のことだった.夜11時頃,看護室で当直の看護婦たちと雑談していると,救急往診依頼が来た.近くの農家の老人が急に呼吸困難を起こしたので,至急往診をたのむとの事で,それっと当直の看護婦をつれて飛び出し,約10分位小走りに走って患家についた.患家は貧しげな農家で,薄ベリを敷いた部屋の裸電球の下で,70歳位のガッシリした身体つきの老人が重ねた布団によりかかって,苦しげに浅い早い呼吸をしている.顔面,四肢ともに浮腫著明,チアノーゼがあり,脈は頻数微弱,胸部は両側に湿性ラ音を聴取する.うっ血性心不全であり,呼吸困難は心臓性喘息,肺浮腫であることは一目瞭然である.インターンの時にも治したことがある経験から,急いで20%ブドウ糖20ccと静注用ネオフィリン10ccを注射器につめさせ,静注を試みるも入らない.周りを取りかこむ4,5人の家族の見まもる中で,次第にあせってきた.

ある胸膜炎の1例

著者: 笹村義一

ページ範囲:P.430 - P.430

 患者:34歳,男.
 現病歴:昭和46年11月某院にて左眼底出血,左眼中心性網膜炎の診断のもとに通院中のところ,同年12月より咳嗽,喀痰,左前胸部痛および血痰に気づき,昭和47年1月10日,本院に入院した.

脱水症状と思ってやった点滴が……

著者: 伊藤清昭

ページ範囲:P.431 - P.431

 今から考えるとずいぶん無茶をしたものだと思う.
 病棟の仕事も一段落した12時半頃,外来から緊急の入院の知らせがあって,すでにこちらへ担送中だという.詰所の掲示板は受持ち順が私になっていたので,午後の出張病院に少し遅れる由電話して待っていると,やって来た.60歳位の女性で,傾眠状態でほとんど喋れない.付き添ってきた娘さんに話をきくと,一昨日から下痢をして腹痛があったので,昨日も今日もほとんど食べたり飲んだりしていないという.2年間の義務出張帰りで,何でもやってやるという意気旺んだった私は,外来の検査室へ走って緊急用簡易検査箱をとってきた.糖尿病ではないし尿毒症でもなさそうである.皮膚は乾いて,舌はカサカサ,脈拍やや弱く脈圧が狭い.脱水症状であろうと思って採血して検査へ回し,ブドウ糖とリンゲルの点滴を開始して出張に出かけた.夕方早めに帰ってきて,行ってみると,呼吸は大きく,脈は高くて速い.意識の状態も改善なく様子が変である.点滴はリンゲルがまだ半分残っている.心電図をとってみて驚いた.QRS幅が著しく広くなって,テント状の高いTに連なっている.今にも心室細動に移行するのではないかと思われ,全身から汗が吹き出る感じであった.

診療相談室

飛蚊症について

著者: 湖崎弘

ページ範囲:P.422 - P.422

質問 眼の病気に飛蚊症という病気がありますが,生理的飛蚊症の場合,①なおるものか(症状が消失するか),②患者の心がまえ,③心配はいらないかなどについて,ご教示ください. (倉敷市 Y生)

特発性心筋症の治療

著者: 鷹津正

ページ範囲:P.423 - P.423

質問 特発性心筋症の治療についてご教示ください. (東京都 S生 25歳)

洋書紹介

—Isaias Raw, M. D 著—Anemia From Molecule to Medicine

著者: 新谷和夫

ページ範囲:P.369 - P.369

医学教育上の大きな転換を目指すスタイルの書
 大変ユニークな本が出たものだと感心させられた.著者はニューヨーク市立大学の生化学,栄養学科教授の肩書をもっているが,本書は著者のブラジルにおける医学教育の経験から作られたものである.
 序文にもあるように医学教育は世界的にみてどこも伝統的な学科構成に終始し,せいぜい新しい学科を追加するくらいである.ところが,実際には個々の学科で得られた知識の総合が必要なのに,それを実施する場がなく,またそれをやってみるとやたらに重複が目立ったりする現状にある.この本は貧血という,もっともありふれた疾患をテーマとして選定することにより,従来の伝統的学科構成から離れ,基礎と臨床を融合させてひとつの学習単位(講義単位でない)とすることを目標としており,このほかにも栄養失調,糖尿病,下痢,外傷など多くのテーマが考えられているという.新しい医学教育の第一陣としての本書は,著者の意気込みのほども偲ばれ,ぜひ一読をおすすめしたい本になっている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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