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雑誌目次

雑誌文献

medicina13巻5号

1976年05月発行

雑誌目次

今月の主題 痛みとその対策

痛みの成り立ちと対策

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.594 - P.596

 痛いと訴える個体内の現象は複雑である.多くを言語に頼るとはいえ,随伴する生体現象との関連は,交感神経系の活動や脳内の諸物質によると推測されながらも,未知のことばかりである.
 ヒトで発痛テストや健康尺度,心理尺度などの多要素の主成分分折の結果は,臨床痛,性格,忍耐度といったものを主因にあげている1).したがって,ここにも実験痛とみなすものと,臨床で観察する急性痛,慢性痛とを一束にして論じられないことがみられる.

痛みの生理

頭痛

著者: 喜多村孝一 ,   宮崎崇 ,   谷川達也 ,   川畠弘子 ,   能谷正雄

ページ範囲:P.598 - P.601

はじめに
 人口の過半数は頭痛を経験するといわれる.Tunis(1953)によれば,成人の1割以上が頭痛のために医者を訪れているそうである.頭痛には全く病的扱いをされない頭痛もあれば,他方,脳腫瘍によって出現する頭痛もあり,その原因たるや千差万別である.そしてさらに複雑なことに,頭痛はすべて多少とも精神的要素によって修飾されている.本稿では,この一見とらえにくい頭痛の分類を中心にして,鑑別診断,治療方針などについて述べる.

腹痛

著者: 亀田治男

ページ範囲:P.602 - P.603

はじめに
 「腹が痛い」という訴えで,内科の外来を訪れる患者は多い.腹痛は極あて一般的な症状のひとつであり,しかもこれによって重要な診断の手がかりが得られるものである.
 腹痛症例の診断と治療にあたっては,腹痛の発生機構と,これによる特徴や相違点を心得ておく必要がある.このような意味から,腹痛のメカニズムを概説したい.

心臓痛

著者: 内田康美

ページ範囲:P.604 - P.608

はじめに
 心臓の痛みは古くから狭心痛として知られており,一般的に心筋虚血に伴う知覚神経の興奮によってひき起こされると考えられてきた.しかしながら,心臓の痛みに関与している知覚神経の興奮の機序が明らかにされだしたのは,ごく最近のことである1〜13).本文では,この知覚神経の興奮の機序について,現時点で判明している点を中心に述べる.

関節痛

著者: 玉川鐵雄

ページ範囲:P.609 - P.611

 神経については未解決の問題が多いが,中でも,客観的な評価に乏しい痛みという現象についてはとくに著しい.しかし,痛みの現象は臨床的には最もしばしば遭遇する症状で,医師にとっても,患者にとっても関心の深いものである.しかし,何故痛いかということになると,尽きることのない問題を提起する.その中でも,現実に,訴えとして最も普遍的であるといえる関節痛は,同じ痛みの中でも,その詳細について最も記載の少ない分野である.そこで,文献を中心としてこの関節痛の生理について述べようと思う.
 痛みを痛みとして認識するのは大脳の働きであるが,そこに痛みとして感じるのには一定の法則にしたがっていることは確かで,求心性の知覚神経のうち,痛みを伝えるある一定の神経の末端,すなわち受容器か,または神経線維に,正常と異なった条件の環境が起こった時に生ずるもので,その原因となるものを一般に刺激といい,物理的あるいは化学的のものとを区別している.

皮膚・筋肉痛

著者: 梅原忠雄

ページ範囲:P.612 - P.613

 痛みの神経機序については多くの学説があるも,いまだ解明されていない点が多いのが現状である.古くより,除痛の目的で外科手術により脊髄後根切断,脊髄前側索切断,視床下部切断,前頭葉切断術などが行われているように,多くの手術法があるも,なお確実な方法はなく,除痛作用の中枢神経系における仕組みは不明である.
 臨床上痛みを訴える患者,たとえば糖尿病性神経炎では主として下肢痛を,アルコール性神経炎では筋肉痛を,ヘルペス後の神経痛は焼きつくような表在性の痛みを訴えるなど,疾病により痛み方に差があることがわかる.この違いは,痛みを伝導する末梢神経線維のどの線維群が興奮するかにより,中枢において刺激が抑制されたり,興奮されたりして痛みの性質が変わるものと思われる.

本態のはっきりしない痛み

神経痛

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.614 - P.615

 日本人の会話の中や新聞記事に「神経痛」なる言葉がしばしば出て来る.“神経痛のために老人が逃げ遅れて火事で焼死した”とか,“私は神経痛で膝が十分に曲がらないので正座できないから失礼する”とか,この方面を専門とする者にとっては首をかしげたくなることが多い.その原因を遡って考えてみると,神経痛という表現を医師がまことに便利なものとして使用し,時には治療効果があがらない場合や,原因を探す努力をしない場合のexcuseにも利用してきたことが原因なのであろう.一方,好意的にみれば,神経痛と称する症候がそもそも何であるのか,大学では良く教えてもくれなかったのであろうから,医師に悪意はないともいえよう.神経痛の説明を求められると,筆者は何となく寒々とした気持ちになってしまう.

頭部・顔面痛

著者: 土井一可 ,   後藤幾生

ページ範囲:P.616 - P.618

はじめに
 頭痛とは,広義には顔面および上項部を含む頭部の痛みや不快感をすべて含む.頭痛はほとんどすべての人が経験しており,大多数は一過性で予後良好であるが,その発現の複雑さのため,診断治療の困難なものもあり,また,脳腫瘍,頭部外傷,クモ膜下出血などのように,早期診断しないと重篤な予後をきたすものもある.また,生命にかかわらない頭痛でも,毎日悩まされるとなると日常の社会活動も制限される,よって頭痛の原因の追求をすることは治療を行う上で大切である.
 頭痛発現の基本的機序は,頭部の痛覚感受組織に刺激が加わり,脳幹または頸髄,さらに視床を介して,大脳皮質の痛覚中枢でこれを認知するのであるが,個人差が大きく,精神的,心因的要素も強く,痛み刺激はなくとも頭痛を訴えるものもあり,実際は複雑である.痛覚感受部としては,頭蓋外部では動脈と筋肉が主で,ほかに頭皮,骨膜,粘膜などがあり,頭蓋内部では,硬膜(とくに頭蓋底),硬膜動脈,静脈洞とそれに注ぐ大静脈の一部,脳底部の主幹動脈などがあり,さらに脳神経(三叉・中間・舌咽・迷走)および第2・3脊髄神経がある.一般に小脳天幕上部からの痛覚は三叉神経により伝達され,前頭,側頭,頭頂部痛として感じ,天幕下部からは舌咽,迷走,第2・3脊髄神経によって伝達され,後頭部痛となる.

肩甲痛

著者: 石田肇

ページ範囲:P.620 - P.621

どのような原因が考えられるか
 肩甲部周辺の漢然とした痛み,凝り,しびれなどは,日常臨床上しばしばみられるが,単なる肩凝りとしかいえないものから,癌の骨転移などのような重大な疾患の一症状であることもある.考えを整理する意味で,疾患が整形外科あるいは脳神経外科に属するものか,内科的な疾患の関連痛か,あるいは「うつ病」,「心身症」などの精神科領域のものかを鑑別することが重要であろう.整形外科的には,頸椎柱に由来するか,肩関節に由来するか,あるいは胸郭出口症候群としてまとめられる疾患かが問題である.さらに末梢手指の疼痛,シビレと肩甲痛がきた時は,手根管症候群やその他のentrapmentneuropathyも問題となる.なおその発痛組織も,脊髄,脊髄神経根,腕神経叢,末梢神経の圧迫刺激によるか,末梢循環不全,Raynaudのような血管運動,血管圧迫が関与するか,あるいは頭痛,めまい,霧視,眼精疲労,立ちくらみ,咽喉頭部異常感,胸のしめつけ,手のしびれなどを伴う自律神経関与の痛み,すなわちBarre-Lieou症候群ではなかろうかとの考慮も必要である.頸椎柱に由来するものは,頸椎の運動性の著明な制限と,天井を向く動作やくびを特定方向に捻転,側屈する時,症状が増悪するし,肩関節自身に由来するものは五十肩で代表されるごとく,肩関節の円滑な運動,ことに外転,外旋が制限され,肩甲骨と上腕が一かたまりになって動く,凍結肩の状態を示す.

腰背痛

著者: 西新助

ページ範囲:P.622 - P.623

 腰背痛は胸部内臓器疾患の関連痛として訴えられるものが少なくないので,それを除外して,整形外科的な立場からみた場合について考えてみることにする.
 整形外科を訪れる腰背痛患者ははなはだ多いが,原因疾患の明らかなものは約1/3で,他は確とした原因疾患のわからないもので,症候名である背痛症・腰痛症として取り扱われている.本題はこれについて問題を提起しているものと思う.ところで,このようなものでも痛みの表れ方がそれぞれ異なっており,急速に起こるものもあれば,徐々に起こるものもある.前者に激痛のことが多いが,後者はほぼ鈍痛で,これには種々の起こり方を示すものが多い.たとえば,動作を続けると疼痛が表れ,動けないほど苦しくなるが,安静により軽快するというものや,安静臥床によっても痛みの去らないもの,また,就寝後次第に痛み出し,明け方には苦しくて寝ていられないというのもあって,それぞれ特徴のある起こり方をしているので,原因もまた各々異なっているであろうことが想像される.したがって,痛みの性状や起こり方の特徴をつかむことが原因疾患を求める上に重要なポイントとなろう.

月経痛

著者: 我妻堯

ページ範囲:P.624 - P.625

 月経時に起こる下腹痛,腰背痛を月経痛あるいは月経困難症(Dysmenorrhea)とよぶが,主題に示す通り,未だにはっきりとした原因のわからない症例が多い.
 痛みは月経出血の始まる直前に,出血と同時に起こるが,多くの例では乳房緊満感,下肢浮腫感,下腹部不快感,いらいら,抑うつ状態などの前駆症状を経験する.さらに重症例では上記の下腹痛,腰背痛のほかに嘔気,嘔吐,頭痛,全身けん怠感などの全身症状を伴うことが多く,したがって月経困難症とよばれているのである.下腹痛の主体は痙攣様の疼痛で,不規則な子宮収縮に一致して起こり,しばしば凝血塊の排出を伴う.痛みが最も烈しいのは,月経出血開始から12時間位で,時としては24〜36時間続き,徐々に軽減する.ただし痛みが2日目以後も持続する例は比較的少ない.

上肢痛

著者: 松本淳

ページ範囲:P.626 - P.627

 確かに上肢には,どうして痛いのかわからないケースに会うことがある.しかし,丹念に症状や検査を分析すれば,たいていはわかるものである,それには,痛みを起こす疾患を知る必要がある.
 痛みを起こし得る組織は,骨,関節,筋,腱,神経,皮膚(皮下組織を含む)であり,これらに病変がなくても脳の病変や心のもちようで(心因性)上肢に痛みが投射されることがある.本当にわかりにくいのは最後の場合であろう.しかし,上肢に病変があるのに心因性とみなされる場合もあるから,順序として組織に病変をもつ上肢痛をひとつずつ簡単に述べてみる.

下肢痛

著者: 桜田允也 ,   池田亀夫

ページ範囲:P.628 - P.630

はじめに
 下肢に疼痛を訴えるものには,下肢の局所的疾患によるものと,他の部位に病巣があり,その症状の一部分として,あるいは主な自覚症状として下肢痛を訴えるものとある.
 疼痛の性質としては,安静にしていても起こる自発痛,運動時に訴える運動痛,起立して体重のかかる時に訴える荷重痛,局所を圧迫した時にその部位に訴える限局性圧痛,長軸方向に衝撃を与えた時に訴える軸圧痛などに分類できる.また,別の分類としては,部位が局在し,単発性のもの,両側対称性のもの,多発性のもの,放散性のもの,疼痛の移動するもの,発作性の疼痛の反復するものなどがある.

精神科的な痛み

著者: 柏木哲夫

ページ範囲:P.632 - P.633

 痛みはすべての臨床領域にわたって広くみられ,日常の臨床の場で重要な位置を占めている.痛みは客観化されうる訴えではなく,患者の主観的な体験に基づく訴えであるが故に,臨床的アプローチの困難さがあり,この点で精神科との深い関連性が生じてくる.痛みを主訴として各科の外来を訪れる患者は非常に多いが,その痛みの原因となる身体疾患が発見できない場合,その痛みがなんらかの精神科的な疾患の一症状である可能性を常に念頭におく必要がある.痛みを心理学的,精神医学的,精神身体医学的にとらえた研究はフロイトをはじめ多数あるが,日常の臨床の場で参考になると思われるものをあげておく1〜8).以下,痛みが前面に出やすい精神科疾患についてその特徴を概観してみる.

薬の使い方

麻薬

著者: 藤田達士

ページ範囲:P.634 - P.635

 古来,麻薬,とりわけモルフィンが使用されてきた理由のひとつは鎮痛作用のみならず,痛みに対する恐怖感を除く作用が強いためである.このeuphoriaのために一次的精神依存が生ずるが,モルフィンは健康人ではdisphoriaを起こすので,精神的依存がもともと強いわけではなく,二次的精神依存6)(禁断症状からの逃避願望)が強いための精神依存であり,それだけ身体的依存が強いと考えられる.今日の麻薬の進歩は,モルフィンの持つ副作用を少なくすることにある.そのひとつは,pentazocineにみられるような依存性の減弱化であり,他のひとつは,fentanylにみられるような強力化(モルフィンの200倍)と,短時間作用性を組み合わせた調節性に富む麻薬の合成である.
 一方,使い方の面からも進歩が重ねられてきている.

非麻薬性鎮痛剤の功罪

著者: 渡辺敏

ページ範囲:P.636 - P.637

 鎮痛剤としての麻薬性鎮痛剤は昔から有名であるが,麻薬であるがため薬品管理が厳重に行われなければならず,また呼吸抑制・耽溺性などの合併症の危険性が常に存在する.このような難点を解決するため多くの研究・開発がなされ,1967年には耽溺性のない新しい非麻薬性鎮痛剤としてペンタゾシンが登場した.それ以後,ペンタゾシンは非常に広く使われてきているが,本文ではペンタゾシンに関する一般的知見を述べ,同時に近年問題になりつつある耽溺性などの副作用について言及する.
 ペンタゾシンは,1959年にSterling-Winthrop Reseaxch Instituteで合成され,1967年頃より臨床に使われ始めた薬剤で,薬理学的には麻薬拮抗剤に属する鎮痛剤である.ペンタゾシンは強力な鎮痛作用を有し,あらゆる疼痛に効き,効果の発現が早く,長期連続投与が可能で,副作用・毒性が低いといわれている.

解熱性鎮痛剤

著者: 本間光夫

ページ範囲:P.638 - P.639

 痛みは炎症性疾患の患者につきものである.炎症反応は生体の防禦反応といわれるが,痛みがあるからである.しかし,患者にとって痛みは大変な苦痛である.医学の歴史が,痛みとの闘いであったことを考えてもわかる.
 一方,鎮痛剤を大別すると中枢性鎮痛剤と末梢性鎮痛剤とに分けられる.中枢性鎮痛剤の代表はモルフィンであり,末梢よりのすべての痛みを抑制する.これに対し,末梢性に鎮痛作用を示すものに解熱性鎮痛剤と局所麻酔剤とがある.

緩和鎭痛剤

著者: 景山孝正

ページ範囲:P.640 - P.642

はじめに
 ここでいう緩和鎮痛剤とは,緩和ではあるが確実な鎮痛作用を有し,一方,副作用は軽少で耐薬性,安全性が高い鎮痛剤を指している.この意味で,アスピリンは古くから用いられている代表的な緩和鎮痛剤であるが,解熱性鎮痛剤の項で述べられているので,ここでは比較的最近に実用に供されるようになったいわゆる非ステロイド抗炎症・鎮痛剤のうち,該当するものについてふれる.実地臨床面において慢性疼痛性疾患は多く,とくに運動器の疼痛症状に対し,鎮痛剤の長期投与を要する場合が少なくなく,緩和鎮痛剤の適応が生じる.すなわち,総合的治療のひとつの補助的薬剤として安全に長期間使用しうる緩和鎮痛剤を投与し,疼痛症状の軽快をはかり,健常な日常生活・社会生活への復帰を促進する.

鎮痛療法の適応と効果

ブロック療法

著者: 藤原孝憲

ページ範囲:P.643 - P.645

はじめに
 17世紀後半にエジンバラのWoodが,注射器と針とを世にひろめた頃より,痛みをとる目的で神経ブロックを行った記載がみられる.神経ブロックは主として外科手術に伴う無痛法として用いられていたが,1931年,Dogliottiが癌患者のクモ膜下腔にアルコールを注入して除痛に成功して以来,神経ブロックは痛みを主とする疾患の治療に一層注目されるようになった.そして,ペイン・クリニックが全世界に普及する推進力となった.
 最近,西ドイツのMainz大学のGerbershagenら1)は,過去4年間に7,800例の神経ブロックを行っており,その30%は診断的ブロックだが,治療成績が決して満足できるものではなかったとして,その理由を次のようにあげている.①痛みそのものがもつ複雑な性質,とくに慢性経過をとる痛みに対する知識が不足していること,②痛みの機序や伝導路に関する知識が不足していること,③局麻の効果および適応に対する知識が不足していること,④治療前の診断や適応に関する妥当性の欠如,⑤各専門分野の意見の導入が不十分であったこと,⑥ブロックの効果の記載が不十分であったこと,⑦ブロックに費す時間が十分なかったことなどを反省材料として,ペイン・クリニックの構成メンバーとして麻酔科医以外に各科専門医,精神科医,心理学者などを加えて組織化することを強調している.

手術的療法

著者: 吉井信夫

ページ範囲:P.646 - P.648

 痛みに対する手術的療法を大別すると,①末梢神経での痛覚伝導遮断,②脊髄から中脳視床に至るまでの痛みの伝導路の遮断,③痛みの認知中枢である視床への侵襲,④視床より大脳皮質に至る間,すなわち大脳皮質または皮質下線維の切除,または切断,⑤その他の5つになる.このうち①は神経の重複支配のため,1本の末梢神経が必ずしも有効でないこと,痛み以外の知覚の消失や運動麻痺を生ずるのであまり用いられない.ただ,三叉神経のごとく,知覚と運動線維が分離できるものには用いられる.④のうち,大脳皮質切除術は無効なことが多く,また,てんかんなどを起こす欠点があるのでほとんど行われない(図1).
 ここでは,現在有効とされている手術の適応とその効果について項目別に述べる.

経皮的電気刺激法

著者: 坪川孝志

ページ範囲:P.649 - P.651

 経皮的電気刺激による除痛術は,gate control説を理論的根拠として,1967年WallとSweetが臨床応用したにはじまる.この除痛法は簡便で,手術操作の必要もなく,知覚障害をはじめ神経脱落症状を伴わず,痺痛のみを除去できて,しかも無効な場合や除痛法を必要としなくなったときにはいつでも除けるという除痛術としては理想に近い方法として注目されている一臨床成績の報告でも,Long, Meyerら,Shealyら,Sweetら,Picazaらなどにより,急性期疼痛に対しては施行例の60〜80%に,慢性疼痛に対しては25〜55%に有効であったとしている.本治療法では,従来の前側索破壊や視床破壊の除痛効果のごとく,all or none的に効果が発現するのでなく,疼痛が抑えられる程度に各段階があるので,治療に先立って,疼痛の評価法を明確にしておくべきであるi筆者らは,表1のごとく,疼痛の特異的な面を6項目選び,各5段階に評価する方法をとっているが,Rayらの単純な疼痛の量的表現を用いてもよい.
 本稿では,経皮的電気刺激による除痛法の方法とその効果を紹介し,その結果より,本法が各種の除痛術のなかで,どのように位置づけられているかを考え,本法の適応を明確にしていきたい.

針(鍼)療法

著者: 鈴木太

ページ範囲:P.652 - P.653

針療法とは何か
 針療法は広い意味の刺激療法に含まれる.刺激療法とは,体表からなんらかの方法により刺激を加えることにより,痛みを和らげたり,異常な内臓機能を正常に戻そうとする治療法で,古来東洋医学で広く用いられてきた方法である.痛い局所をなでたりおさえたり,腹痛の時に腹部を圧迫したり暖めたりすることが,痛みや不快感を軽減することは経験的に誰でも知っている.これらも一種の刺激療法である.治療手段として用いる刺激には,針(鍼),灸,刺絡(局所的に小出血をさせる方法),あんま,指圧などが用いられている.これらのうち針刺激が最も強い刺激で,速効性があるため,疼痛治療に最適であるとされている1)

リハビリテーションとその留意点

著者: 間得之

ページ範囲:P.654 - P.656

安静と運動
 りハビリテーション領域における鎮痛的アプローチの対象となるものは,主として運動器疾患で,その多くは炎症が関与しているが,拘縮などに伴う疼痛もリハビリの対象となる.炎症が強い場合には,まず安静にするというのが医学的常識であり,この際,全身的安静と局所的安静に分けてその適応を考慮する必要があろう、疼痛を伴う運動器疾患の代表的なものとして,慢性関節リウマチを例にとった場合,全身反応(発熱,食思不振,るいそう,貧血,易疲労性など)の著明な場合には,全身的安静,すなわち臥床安静を命ずるこの間できれば廃用性筋萎縮を防ぐために筋調整運動(等尺性運動muscle setting)を1日数回試みることが望ましい.一方,関節局所の炎症活性のみが強い場合には,副子(splint)による局所安静の適応となり,温湯水による加熱で簡単に処理できる可塑性の材料が容易に入手できるので,個々の関節にあわせて短時間で作ることができるが,ボール紙発泡スチロールでも間に合う.局所安静の場合でも1日3〜4回splintを取り外して適度の関節可動域運動が必要である.

心理療法

著者: 河野慶三 ,   祖父江逸郎

ページ範囲:P.657 - P.659

一般診療における心理療法
 「心理療法」という言葉は,その歴史的背景から精神分析と同義語的に理解される傾向があり,一般臨床とは無関係とする考え方が依然として強い.しかし,心理療法には,良好な医師・患者関係をベースにした受容・支持療法から,自律訓練,バイオフィードバック療法,行動療法など,独自の理論に基づく治療法に至るまでいくつかの方法がある.
 時間,設備など,種々の制約がある一般診療の場では,バイオフィードバック療法,行動療法,精神分析を行うことは困難であるが,このような治療が必要な患者の数は限られており,本来,専門家にその治療を任せるべきものである。比較的応用範囲の広い自律訓練でも,治療者としての一定の訓練をうけておくことは不可欠であるので,一般診療における心理療法の大部分は,受容・支持を中心とした,最もプリミティブな方法に頼ることになる.

疼痛への対処

術後痛

著者: 美馬昂 ,   岸養彦 ,   恩地裕

ページ範囲:P.660 - P.662

はじめに
 麻酔学の発達に伴い,手術中の痛みという苦痛に関しては,患者は完全に開放されている.しかしながら,麻酔を術後までも続けていくことは特殊な例を除いてはないので,手術後の痛みは,手術をうける患者にとっては今でも苦痛であると同時に,手術前の不安の大きな原因になっている場合が多い1)
 手術後の疼痛の中でも,胸部・腹部手術後のものは,その強い痛みのために呼吸・喀痰排出運動が妨げられて呼吸器合併症を惹起する原因となるので,積極的な疼痛の寛解を計る.そのため,呼吸・循環系の管理が必要となってくるが,それらに関しては麻酔医の最も関心の深いところであり,多くの研究が報告されている.これに対して,鎮痛効果ということに対する研究は,手術後の疼痛が他の場合と異なり,単に苦痛としてだけで,疾患の診断的価値を含まないので,積極的な鎮痛剤の使用によって完全にコントロールできる性格のものである。したがって,わずかしか報告されていない.

癌末期

著者: 橘直矢

ページ範囲:P.664 - P.665

決め手のない現況
 癌性の疼痛といえども,その理想的治療が原因除去による除痛であることは当然であるが,原因除去,すなわち癌の根治は未だに悲観的な現状にある.とくにいわゆる癌末期では癌そのものはいかんともしがたく,死を待つのみである.この時期に,激痛に悩む症例は珍しくない.癌,とくに末期癌の疼痛に対して,原因療法という理想の治療法が存在しない情況でこそ,理想の鎮痛剤が望まれることになるが,このような薬物はこれまた現存しない.いかなる原因が存在放置されたままであろうとも,これに起因する痛みは全く除かれ,しかもその他の感覚は正常に保たれ,当該原因以外で新たに侵害性要因があれば,同じ部分,他の部位を問わず疼痛が起こる—このような状態を作れれば,理想的鎮痛剤といえるであろう.しかし,これは存在しない.
 したがって,原因不明の痛み,原因が明瞭でも癌末期のごとく,原因療法のできない痛みの除痛は極めて困難な問題となってくる.麻薬性鎮痛剤を含めて,現存の鎮痛剤は効力の程度,効力の持続からいってはなはだしく不十分であり,時に副作用を償う有用性がない.このような症例ではしばしば神経ブロックや外科療法の適応性が考慮されるが,適応はかなり限定された症例にしかない.いわゆるelectroacupunctureや,硬膜外腔に電極を留置して電気刺激する方法などの物理的刺激療法も,効果の面で信頼性に劣り,決定的治療法とはいえない現況にある.

帯状疱疹

著者: 菅井直介

ページ範囲:P.666 - P.667

 帯状疱疹による痛みには,急性期の激しい痛みと,この時点を過ぎてから感覚神経の退行性変化のために起こってくる感覚異常あるいは慢性痛とがある.
 帯状疱疹は,水痘ウイルスによって起こされる1).このウイルスに免疫のない人が罹患した場合には水痘となり,不完全な免疫のある場合には帯状疱疹になるのではないかと考えられている.したがって水痘が小児に起こり,帯状疱疹が主として成人,また,老人の病気であることになる.

グラフ

経絡の実際—痛みに対する鍼臨床

著者: 芹澤勝助 ,   西條一止 ,   吉川恵士

ページ範囲:P.668 - P.678

臓腑経絡系(東洋医学における人体構造機能系)
 鍼灸臨床は,東洋に古くから発達した物理療法であるそこにみられる医学は,陰陽論五行論という中国古代自然哲学思想を根幹に体系づけられたために,形式的観念的な要素が多く入りこんでいる.しかし,その根底にあるのは,多くの人々による長年月にわたる素朴かつ鋭い生理的,病理的生体現象観察に基づいた経験的認識の集積したものである.
 人体の構造,機能系として現代医学における解剖学,生理学はなく,それに相当するのが臓腑経絡系であり,鍼灸臨床における診断治療の重要な根拠をなしている.

演習・X線診断学 消化管X線写真による読影のコツ・5

圧迫法について

著者: 熊倉賢二 ,   竹田寛 ,   梅本俊治

ページ範囲:P.679 - P.685

 いまや二重造影法が普及しすぎていますが,微細な病変をよくあらわすのに最もよい方法のひとつとして圧迫法があります,今回は圧迫法を取りあげてみました.
 よい圧迫像をとるためには,十分検討しておかなければならない問題があります.まず,造影剤の量ですが,造影剤の量が多すぎると圧迫で病変(とくに微細病変)をあらわすことができなくなります.造影前の量が少ないと粘膜像になってしまいます.そこで,中等度充盈時の適当圧迫ということになりますが,造影剤の量は,個人差により,病変の存在部位や大きさ,それに検査体位によって違ってきます.立位で胃角部を圧迫するのでしたら200ml前後の造影剤が適当でしょう.やせた人の幽門前部や胃体部を圧迫検査するのなら,300mlぐらいの方がよいでしょう.腹臥位で圧迫検査するのなら,100〜200mlぐらいがよいでしょう.

診断基準とその使い方

慢性膵炎の診断基準

著者: 小田正幸 ,   本間達二

ページ範囲:P.689 - P.691

 はじめに 慢性膵炎の定義ないし概念は,現在なお確立しているとはいえない.臨床像でも,膵石灰化をともなう慢性膵炎ではかなり明確にされ,反復する上腹部痛・脂肪性下痢・X線上,膵部に結石像を認めるなどがおもな症候であり,間歇期でも診断を誤ることは少ない.しかし,膵石症の症例数は多いものではなく,膵石をともなわない慢性膵炎や軽症慢性膵炎といわれるもの,あるいは膵癌などの臨床像と移行し,重なりあい,臨床像を診断の根拠とすることはほとんどできない.
 他の臓器疾患ではまた臨床像および診断は組織学的変化によって基礎づけられているが,慢性膵炎ではこの面でさえ混乱し,範囲がかならずしもきめられていない状態にある.組織学的にも石灰化をともなう慢性膵炎あるいは慢性再発性膵炎については病理形態学的にもかなり明確にされているが,膵線維症もしくは膵硬変の診断はされても,慢性膵炎という病理組織学的診断はまれである.膵線維症が膵のどこに,どの程度あれば病的変化とするかの範囲も不明であり,逆に臨床像が慢性膵炎を疑わせたとしても,剖検で膵組織は正常とされることもある.また,肝・胆道疾患,消化性潰瘍悪性腫瘍などでは膵組織に変化をみとめることが少なくないが,随伴性膵炎とされ,高度の線維症をみとめることもある.このように膵の形態学的変化においても慢性膵炎の範囲は定められていない.

胆嚢摘出後困難症

著者: 佐藤寿雄 ,   松代隆

ページ範囲:P.692 - P.694

はじめに
 胆石症などの良性胆道疾患に対しては胆嚢摘出術をはじめとして種々の手術がなされるが,術後に再び胆道系に関係があると思われる症状や愁訴を訴えることがあるこのような症例は胆嚢摘出後症候群あるいは困難症と総称されている.本症は広義に解釈すれば胆道手術後の愁訴例がすべて含まれることになる.したがって,その発生頻度1)もわが国では9〜13%,欧米では4〜25%と報告者によりその頻度に差がみられることは当然であろう.その名称についても胆嚢摘出後あるいは胆道手術後症候群,困難症,後遣症,愁訴例などが用いられている.これは報告者により本症の解釈に異なる点があることを示唆している.このように,本症は定義について若干の問題を残しているので,ここではまず本症に対する筆者らの考え方を述べ,その原因と頻度,診断基準などについてふれてみたいと思う.

図解病態のしくみ—消化管ホルモン・1

ガストリン代謝

著者: 石森章

ページ範囲:P.696 - P.697

 ガストリンは17個のアミノ酸から成る代表的な胃酸分泌促進ホルモンであり,複数の目標器官に対し多彩な作用を示すが,その作用はC末端テトラペプチドTry-Met-Asp-Phe-NH2にもとづくことが知られている.産生細胞は主として胃幽門前庭粘膜に分布するG細胞であり,幽門を越えて上部小腸にも若干認められるが,時に異所性に膵腺腫中で産生されることもある.

新薬の使い分け

心不全のときの利尿剤の使い分け

著者: 関清 ,   矢吹壮

ページ範囲:P.698 - P.701

はじめに
 近年,利尿剤の急速な発達により,心不全の治療の様相が大きく変わってきた.心筋の収縮不全に対しては精神的,肉体的安静による心臓への負担軽減と,強心配糖体による心収縮力増強が治療の中心である.さらに循環障害の結果生じる全身の物質代謝障害,なかんずく細胞外液のhomeostasisの障害に対しては,水および食塩の制限ならびに各種利尿剤使用が治療の中心となる.最近,人工透析が難治性心不全に適用されるようになり,今後の課題となっている.強心配糖体については,心不全の第一義的治療剤であることは周知のごとくであるが,臨床的には本剤が単に不全心のみならず,代償心あるいは正常心にも心筋収縮力の増強をきたすことが知られており,かつ強力な利尿剤の併用により,在来の飽和量,維持量の考えかたを変えなければならなくなっている.反面,利尿剤の連用による副作用の出現および難治性心不全の増加も問題となってきている.したがって,利尿剤の適応を熟知することが心不全治療にきわめて重要となってくる(表).

臨床病理医はこう読む 酵素検査・3

GOTとGPT

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.702 - P.703

GOTとGPT
 症例のGOTとGPTの関係を見ると,GOT<GPTであり,仮にGOT/GPT比をとってみると0.46になっている.しかも両活性の高さはほぼ500単位と1000単位という異常増加を示している.
 本症は以上のデータだけで急性肝炎と診断してもほぼ間違いないという症例である.急性ウイルス性肝炎における諸血清酵素の典型的な経日変動を図1に模式的に示したが,このように第4病週までかなりの異常値を持続するが,この極期において次の2つの条件が満足されるとき,急性肝炎,と診断できるのである.

小児と隣接領域

小児期に問題となる主要な性器系疾患

著者: 大田黒和生

ページ範囲:P.704 - P.705

 停留(潜伏)睾丸新生児(生下時)の10%はその睾丸(片側,または両側)を陰嚢内に触れないといわれている,しかし,1年後になると2%,思春期では1%,成人では僅かに0.3%という.未熟児や,多種奇形合併例,染色体異常例では,20〜30%と高率である.3歳までに降下しない時には6歳までに手術的治療を行う.そけい部に触知しうる場合には,手術で確実に陰嚢内へ収容せしめうるが,そけい管内輪附近,または腹部睾丸の場合には,しばしば困難で,陰嚢起始部への固定しかできぬ時もある.無形成,形成不全,萎縮のこともあり,後2者では摘除する.たとえ,そけい管附近に触知しても,手で陰?腔内へ誘導可能な場合は移動性睾丸といわれる型のもので手術の必要なく,思春期までに自然下降する.HCGなどの内分泌療法は,現在あまり推薦されていない.効果が不安定であるばかりでなく,睾丸誘導体終着位置が陰嚢底部にない場合には無意味だからである.

皮膚病変と内科疾患 皮膚萎縮を主徴とする病変と内的異常・1

"発疹としての萎縮"を主徴とする皮膚疾患

著者: 三浦修

ページ範囲:P.706 - P.707

 萎縮は表皮,真皮および皮下組織のそれぞれに見られるのみならず,それらの構成因子の個々の,たとえば結合織とか弾力線維のみにあらわれることもあり,またこれらの各組織が単独に萎縮を示す場合のほか,2,3の組織が同時に萎縮をきたしたり,逆に1の組織には増殖を,他には同時に萎縮をきたす事例もある.しかし"発疹としての萎縮"はこれとは少しく異なって,皮膚面がチリメン皺を示して光沢を帯び,つまむと薄く触れ,しばしば細血管が透見される状態をいい,すなわち視触診によって容易に確認しうる皮膚表面の変状に名づけられたものである.時にはこれに色素沈着や脱失を伴うこともあり,時に瘢痕との弁別に困難を覚えることもあって瘢痕様萎縮と呼称されることもある.なお萎縮は続発疹であるにもかかわらず,先天性萎縮などの名称が用いられている.萎縮に関しては,しかし,原発することはなく,少なくとも当初は真皮に炎症が先行すると解されている.
 "発疹としての萎縮"を示す病型は,表皮と真皮の両者の萎縮を併発しているのを例とする.時には真皮か皮下組織に増殖性変化をきたし,そのため表皮の萎縮を誘発する例もある.

ECG読解のポイント

前胸痛を訴えた患者

著者: 原健一 ,   太田怜

ページ範囲:P.708 - P.711

患者 T. O. 53歳,会社員
 家族歴 父は51歳,母は45歳で「心臓麻痺」で急死した.一弟は46歳で入浴中死亡した.

外来診療・ここが聞きたい

下腹部の膨満感および不快感

著者: 西崎統 ,   名尾良憲

ページ範囲:P.712 - P.715

 患者 K. M. 54歳,男,公務員.
 既往歴 とくになし.

開業医学入門 転医について・1

病院に入院させるとき

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.716 - P.719

 最初に私は"患者離れ"のいいことが開業医の必要条件であると述べたが,発病から治癒に至るまで,自分の手で管理し得る患者については問題はないが,それではどういう場合に入院させ,またどういう時に他の医療機関に精査を依頼したり,他科に紹介して転医させているか,その実態について述べてみることにする.私が実際に経験した病気についてだけでなく,もし出逢ったら現時点では転医させるだろうという病気も含めて述べてみたい.転医といっても,いろいろの形がありうるわけで,まず最初に入院させるように心がけているものについて述べる.

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内科専門医を志す人に・トレーニング3題

著者: 原耕平 ,   安永幸二郎 ,   村中日出夫

ページ範囲:P.721 - P.723

問題1.Mucoid impaction(粘液栓塞症)において,次の記述のどれが正しいか.
①一種の炎症性疾患で,アレルギーの関与は全く考えられていない.

内科専門医を志す人に・私のプロトコール

血液・呼吸器

著者: 革島恒徳 ,   梅村康順

ページ範囲:P.724 - P.725

 この症例は,昭和47年に経験した症例である.生来健康であった者が,昭和43年,溶接中に右眼に鉄片が入り,虹彩炎を生じ右眼摘出術を受けた.この時期を契機として貧血を認めるようになった.入院当初,発作性夜間血色素尿症(PNH)よりむしろ再生不良性貧血(再不良)と診察し治療を行った.再不良,とくにに非定型例に遭遇した場合,一応PNHを考慮してsugar-water-test, Ham's-testなどのPNHに関する検査をすすめる必要があるといわれている.供覧例では,病初にPNHを疑わなかったため,赤血球異常に関する検査や,血色素色,ヘモジデリン尿症について観察せず,再不良と診断してしまった.
 本症の溶血機序については,未だ明らかにされていないが,供覧例でも,赤血球中各種酵索,赤血球膜の脂酸構成について検討を加えたが,不明な点が多かった.

心臓病診断へのアプローチ—問診を中心に

Palpitation(動悸)

著者: 広木忠行 ,   前田如矢 ,   石川恭三

ページ範囲:P.726 - P.733

 石川 心疾患の主要症状のひとつとされているpalpitation(心悸亢進)を訴えてきた患者さんを,どのように問診をして,その根底にある基礎疾患にアプローチするかというのが,今回の目的です.初めに,動悸をきたし得るものにどのような疾患があるか,広木先生お願いします.

medicina CC 下記の症例を診断してください

両股関節痛と四肢の脱力を訴えた32歳,主婦の例

著者: 宮本正浩 ,   高橋唯郎 ,   折茂肇 ,   小沢安則 ,   飯野史郎

ページ範囲:P.735 - P.744

症例 K・N・32歳,主婦
 主訴両股関節痛,四肢の脱力
 現病歴 昭和46年春,妊娠3カ月ごろ右股関節痛を生じ,妊娠7〜8ヵ月ごろにはそのため右下肢は動かなくなった.また,妊娠時より上下肢に力がはいらなくなり,自転車の方向が変えられなくなり,また,米俵が持てなくなった.性格的には人から怒りっぽくなったといわれた.

オスラー博士の生涯・38

オスラーの平静(Aequanimitas)の動揺

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.745 - P.748

 1899年9月21日に母校マギル大学で講演を終えたあと,オスラーはボルチモアに帰り,再び忙しい秋の診察と教育の活動が始められた.

私の失敗例・忘れられない患者

腸チフス? まさか…

著者: 古田穰治

ページ範囲:P.749 - P.750

 万博の行われた昭和45年といえば,高度経済成長下に,企業は利潤追求に急であり,政府は国民総所得の急上昇を誇らしげにうたい,また,個人生活も,物質的な豊かさのみが人間の幸福を保障するかのような価値観に支配されて,みなが走り回っていた時代として思い出される.
 当時,私も,外科教室生活10余年を経て,開業2年目であったが,新規開業早々の,多少の意気込みと,その時代の熱気,また,その患者来院時の,9月の暑かった気候とが脳裏に重なって,大層暑苦しい実感を伴って思い出される.

"とんでもない医者"

著者: 山田辰一

ページ範囲:P.750 - P.750

 昔のことではあるが,私には昨日のことのように思い出される若い女性の患者がある.
 昭和30年頃私は,ある診療所に勤務しながら,自宅で夜間診療をしていた.その頃の冬,私は,彼女が毎夜のように動悸と呼吸困難を訴えるため,往診を頼まれていた.行ってみるととくに異常と思われる所見がみつからない.「心臓ノイローゼです」,私はそう断言して鎮静剤を注射したり投薬したりしていた.しかし,患者は一向によくなったとはいってくれない.そのうちにパッタリ往診を頼んでこなくなった.

非結核性胸部疾患の2症例

著者: 笹村義一

ページ範囲:P.751 - P.751

 結核症の変貌は,結核病棟においても,大きな変化をもたらしたことはよく知られた事実である.すなわち,患者の高齢化とともに合併症を伴った症例の増加,非結核性胸部疾患の増加などであり,単なる隔離病棟ではなく,一般内科病棟に変貌しつつあることを示唆するものである.
 最近,結核病棟に入院した2例の非結核性胸部疾患を経験したが,いずれも入院6ヵ月後にはじめて確定診断を下し得たので,その概略を記述しておきたい.

診療相談室

労働衛生コンサルタントについて

著者: 高田勗

ページ範囲:P.734 - P.734

質問 労働衛生コンサルタントについて教えてください.資格取得方法,そのための具体的な準備(必要な参考書,教科書など)などについても.(横浜市 Y生 61歳)

春日豊和先生の死を悼みて

遺著"外来の詩"に寄せる

著者: 三上理一郎

ページ範囲:P.720 - P.720

 私が春日先生の最近の著書"外来の詩","続・外来の詩"(文庫版,医学研究社発行)の書評を依頼されたのはこの2月中頃でした.その脱稿期限のくる前に,3月25日朝突然先生の計報を知りました,この本に目を通すとき,先生の死が予感されないでもありません.前編の序文の中に,「私自身が49年9月,悪性の胃潰瘍で胃切除をうけ,現在なお治療を続けている日々であり,医師としての得がたい経験に生きてきた心の記念として,本書の出版に踏みきった」と書かれています.さらに昨年12月,続編のあとがきに次の言葉が残されています.「いつもながらの変わることのない皆さんの温かい友情と,懸命に私を大事にし看護をつづけてくれている家族に,心から感謝をしてあとがきを終ります」と…….先生は胃がんで1年半の闘病の甲斐なく,56歳で亡くなられました.この2冊の本は先生の遺著とも言えるものです.ご自身が死を意識して書かれた先生の悲痛なお気持ちを思いうかべるとき,私は途中でいく度か涙を禁じ得ませんでした.
 先生には生まれつき文才があって,この本は情緒豊かな文章と鋭い筆致でみちみちています.先生の専門は内科ですが,家庭医に徹するためには,その患者の子供や孫の診療や,健康管理までも引きうけなければなりません.前編には子供についてのエピソードが多くみられます.ここに第10章の「オジーとター坊どこいった」を短く引用してみます.

話題 糖尿病学会関東甲信越地方会から

糖尿病の食事療法に寄与する因子ほかについて

著者: 池田義雄

ページ範囲:P.597 - P.597

 カラカラ天気の東京地方で迎えた第13回糖尿病学会関東甲信越地方会は,1月31日の午後,野口英世記念館で開かれた.1施設2題以内と発表演題に制限が加えられたこともあり,演題総数は45と昨年を下回った.発表は例年の如く症例報告が中心で24題を数えた.ここでは以下に述べる3つのテーマについて地方会からの話題としてとりまとめてみた.

基本情報

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出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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