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雑誌目次

雑誌文献

medicina13巻7号

1976年07月発行

雑誌目次

今月の主題 内科疾患としての先天性代謝異常

理解のための10題

ページ範囲:P.970 - P.972

高脂血症をみたとき

診断のすすめ方

著者: 中村治雄

ページ範囲:P.916 - P.917

 高脂血症の中でも,軽度の場合には,必ずしも高リポ蛋白血症と同一視できないが,ここでは,お互いに,ほぼ同様な意味をもつものとして取り扱ってみたい.
 高脂血症の中にある代謝異常が先天性のものかどうか,判断する手がかりについては,一般に,次のようなステップで検討が進められて行くことが多い.以下それぞれについて解説してみよう.

その成り立ち

著者: 関本博 ,   中村國雄

ページ範囲:P.918 - P.919

 高脂血症の定義や治療については,別の項目でくわしく記載されているので,ここではどのような臨床成績を得た時に家族性高脂血症と診断され,どのような機序で血中脂質が増加するかについて,現在まで明らかにされている事項について述べてみたい.
 家族性高脂血症は遺伝的素因の強いもので,血中脂質像,リボ蛋白像によって5つの型に分けられるが,個体の脂質の血中濃度のみからこの型別の決定的な診断を下すことは,特殊な症例を除いてかなりむずかしい.この遺伝の形質にも優性遺伝の型をとるものと,劣性遺伝の型をとるものがあり,血縁者の全例に出現するわけではなつ.優性遺伝の型式をとるIIa型(高コレステロール血症,高LDL血症)でも,通常,その子供の半数にみられるのが普通で,高脂血症患者を中心に血縁者を左右,前後へと検索をすすめ,同一家系にかなりの数の高脂血症者を発見して初めて,一つの家族性高脂血症の家系図が完成される.執ようなほどの追求が行われて,初めてこの診断が可能となる.以下,いくつかの家族性高脂血症について筆者らの成績をも含めて記述する.

治療のすすめ方

著者: 大平誠一 ,   後藤由夫

ページ範囲:P.920 - P.922

はじめに
 高脂血症には,原因疾患が明らかな二次性高脂血症と,遺伝性素因をもつ原発性高脂血症とがある.二次性高脂血症に比べると,原発性高脂血症の発生頻度は少ない.しかし,二次性高脂血症の原因となる肥満,糖尿病,膵炎などは,原発性高脂血症の高率な併発症でもあり,家族調査を行えば,原発性高脂血症の頻度はより高いものと思われる.
 原発性高脂血症は,二次性高脂血症に比べ動脈硬化症の発生も若年に多く,程度も重く,進展性も早い.治療の主流は食事と薬物による脱脂血療法であり,早期発見と適正な栄養素配分,さらに的確な薬物療法である.

高血圧をみたとき

診断のすすめ方

著者: 吉永馨

ページ範囲:P.924 - P.925

 先天性代謝異常で高血圧をきたすものは副腎の酵素異常である.これに二つの種類がある.一つは11-β-hydroxylase欠乏症であり,他は17-α-hydroxylase欠乏症である.これらはいずれもcortisol-副腎の最も大切な糖質コルチコイドの合成に必要な酵素である.
 このほかにも,高血圧を症状の一つとする先天性代謝異常があることはある.一例をあげればFabry病である.本症はα-galactosidaseの先天的欠損症で,cerarnide trihexosideと呼ぶ一種の糖脂質が網内系や血管内皮に蓄積し,発熱や関節痛,血管腫や腎不全をきたす.腎不全の結果として高血圧を呈することがある.このように,高血圧はあまり重要な意義を有しない.故に,ここでは上記副腎のhydroxylase欠乏症のみを取り上げて論じることとする.

治療のすすめ方

著者: 増山善明

ページ範囲:P.926 - P.927

 高血圧を先天性代謝異常という観点からながめ,高血圧の治療のすすめ方を考えてゆくということは,高血圧に関する現在までの知見からみて非常にむずかしい問題である.
 高血圧の成因に関する研究の進歩は,臨床的に多くの二次性高血圧の発見とその診断法の進歩をもたらし,同時に今日,本態性高血圧の概念に包括されているものについても,交感神経系,水電解質代謝,腎性因子,内分泌系などの面からいくつかの異なった病型のあることがわかり,その一部は先天性代謝異常につながる要素をもっている.

体質性黄疽をみたとき

その成り立ち

著者: 滝野辰郎 ,   坂中俊男 ,   高橋示人

ページ範囲:P.928 - P.929

 体質性黄疸は先天性ビリルビン代謝異常に基づく非溶血性の黄疸であり,Dubin-Johnson症候群,Rotor型過ビリルビン血症,Gilbert病,Crigler-Najjar症候群として知られている.これら疾患群の黄疸は溶血機転,肝細胞障害,肝内および肝外閉塞性機転の関与しない特殊な黄疸として注目されており,いずれも家族性に発生をみている.そのビリルビン代謝異常については,肝細胞による血中ビリルビンの摂取,肝内における移送と抱合化,毛細胆管への排泄の各過程においてなんらかの障害があるものと考えられる(図),ここでは主として,ビリルビン,BSP,ICGなどの色素代謝,肝内酵素,肝内褐色色素穎粒について考えてみたい.

診断と治療

著者: 島田宜浩

ページ範囲:P.930 - P.932

 体質性黄疸は血清中に間接型(非抱合型)ビリルビンの増加を主とする黄疸と直接型(抱合型)ビリルビンを主とする黄疸に区別され,前者には原発性シャント過ビリルビン血症(primary shunthyperbilirubinemia),Crigler-Najjar症候群およびGilbert病,後者にはDubin-Johnson症候群およびRotor型過ビリルビン血症がある.

溶血性貧血をみたとき

その成り立ち

著者: 三輪史朗

ページ範囲:P.934 - P.935

 溶血性貧血には種々の成因によるものがあり,大別すれば先天性(遺伝性)のものと後天性のものにわけられるが,本稿では先天性代謝異常疾患としての溶血性貧血を論じることになるので,先天性溶血性貧血の主な疾患について,その病態を解説してみることとする.

診断と治療

著者: 山口潜

ページ範囲:P.936 - P.937

 先天性の溶血性貧血は,通常赤血球自体に欠陥があって溶血の亢進をみるもの(内因性溶血性貧血)と考えられている.内因性溶血性貧血の治療は,今日のところ摘脾と輸血に限られると称しても過言ではない.摘脾は,遺伝性球形赤血球症ではほとんど常に著効を認めるが,他の疾患では適応を十分に選択する必要がある.輸血は,一般に先天性溶血性貧血例の患者体内で正常人赤血球が正常の寿命を保つので有効であるが,くり返し輸血を行った場合には,同種抗体の発生による輸血反応が問題となることが多い.
 日本人に比較的頻度の高いものとして,遺伝性球形赤血球症,赤血球酵素の欠乏ないし異常を伴う先天性非球形赤血球性溶血性貧血,先天性楕円赤血球症,行軍血色素尿症などがあげられ,このほか日本で稀にしかみられないものとして,口唇赤血球症候群,異常血色素症,サラセミア,不安定血色素症などがあり,当科で現在長期観察中のβ-サラセミアの摘脾例についてはすでに報告1)した.

高尿酸血症をみたとき

その成り立ち

著者: 有馬正高

ページ範囲:P.938 - P.939

血中尿酸値の調節
 血中の尿酸は,人体内では終末産物であるから尿および便に排泄される.血中尿酸値を定めるものは,生体内での尿酸の合成,体内における蓄積pool,および排泄の量である.これらのなかで,尿酸の合成と排泄のバランスが最も重要であり,そのいずれかの障害で高尿酸または低尿酸血症が認められる.
 先天代謝異常に伴う高尿酸血症は長期間の異常が持続した結果あらわれるものであるから,体内の蓄積は平衡状態に達していることが多く,一般に,尿酸Poolはかなり増加している.先天代謝異常症で高尿酸血症を伴うものとして,尿酸合成の亢進によるものが最近注目をあびているが,そのほかに,腎からの排泄障害によるものも存在する.

診断と治療

著者: 有馬正高

ページ範囲:P.940 - P.941

臨床的問題点
 高尿酸血症に伴う臨床的な問題点は,痛風と尿酸結石が重視されている.これらは,血中もしくは尿中の尿酸が高いことに直接関係のある症状である.また,先天性ではないが,急速に細胞の崩壊が生じた時に著しい高尿酸血症,高尿酸尿症が生じ,腎機能不全の原因になることがある.白血病の抗がん剤使用開始時,およびてんかん重積症などの後に時としてみられることである.
 それに対し,直接,尿酸の高いことと関係はないが,高尿酸血症の原因となった基礎にある異常がより重要な問題になることがある.最も多いのは腎機能障害や代謝性アシドーシスであり,そのほか,HGPRTの変異を伴うLesch-Nyhan症候群や高尿酸血症を伴う脊髄小脳変性症,精神薄弱を伴う高尿酸血症,糖原病,楓糖尿症などの先天性疾患である.

知っておきたいその他の代謝異常

ウィルソン病

著者: 清水盈行

ページ範囲:P.942 - P.943

ウィルソン病とは
 ウィルソン病は脳レンズ核変性,肝硬変およびKayser-Fleischer角膜輪を主徴とする肝レンズ核変性疾患である,過剰の銅が肝臓,脳,角膜輪,腎臓などに沈着するために発症する常染色体性劣性遺伝の先天性銅代謝異常疾患である.本症は関東地方に最も多いが,全国的にみられる.男性にも女性にもみられるが,男性にやや多い.ヘテロ接合の両親から遺伝子を受けるのであるが,両親はなんらかの近親結婚であって,ことにいとこ結婚であったものが多い.わが国ではそのcarrierの頻度が500人ないし600人に1人といわれている.1912年にWilsonによって報告されたので,その名を冠してウィルソン病と呼ぶ.

ヘモクロマトーシス

著者: 白石忠雄

ページ範囲:P.944 - P.945

定義と分類
 全身,とくに肝,膵,皮膚,さらに心,副腎,睾丸,下垂体などへの過剰の鉄沈着が,これらの機能障害を招来し,臨床的には肝硬変症,糖尿病,皮膚の色素沈着,性機能不全,心不全などの症状を現してくるものである.鉄沈着の発生機転から特発性(原発性)と続発性とに分類され,特発性については未知の原因による腸管からの鉄過剰吸収のため上記所見を呈する疾患で,先天性鉄代謝異常(inborn error of iron metabolism)と考えられている1)
 続発性には食餌性,輸血性,造血異常,無トランスフェリン血症,鉄剤の内服,注射の過剰,長期にわたる場合,重金属中毒などが含まれる.

フェニールケトン尿症

著者: 北川照男

ページ範囲:P.946 - P.948

はじめに
 今から40年も前に,ノールウェーのフェーリング博士が,たまたま精神薄弱患者の尿を調べている中に,塩化第二鉄溶液を滴下するとその色調が緑変する尿を排泄する患者を見出し,さらにこの患者の尿には大量のフェニールピルビン酸が排泄されていることを発見して,フェニールピルビン酸を排泄する白痴と名付けた.その後,この研究はジャービス博士によって受け継がれ,遺伝病であることとフェニールアラニンを代謝するフェニールアラニンヒドロキシラーゼという酵素の先天異常に基づく疾患であることが明らかにされた.そして,1954年にドイツのピッケル博士は,フェニールアラニンを代謝する酵素に異常があり,フェニールアラニンやその代謝産物が蓄積して精神薄弱を生ずるのならば,フェニールアラニンの少ない食餌を与えて,体内に蓄積するフェニールアラニンやフェニールピルビン酸を減少させれば,精神薄弱の進行を予防できるのではないかと考えた.そして,フェニールアラニンを除いた特殊ミルクを作って,その治療を試み,精神薄弱が改善されたことを報告した.
 この研究が成功するまでは,フェニールケトン尿症を含めて,すべての精神薄弱には有効な治療法がないといわれていたが,治療のできる精神薄弱もあるとつうことが明らかとなって,フェニールケトン尿症が社会的に大きく注目されるようになった.

糖原病

著者: 葛谷健

ページ範囲:P.949 - P.951

糖原病とグリコーゲン代謝
 糖原病glycogen storage diseaseは,グリコーゲン分解系または合成系酵素の先天的異常により,グリコーゲンが肝,筋その他の組織に異常に蓄積する疾患の総称であり,欠損する酵素の種類により,いくつもの型が区別されている1,2,3)
 グリコーゲンの合成・分解の大略は図に示す.ブドウ糖はATPとhexokinaseの存在下でglucose-6-phosphate(G-6-P)となり,これはphosphoglucomutaseの作用を受けてglucose-1-phosphate(G-1-P)となる.G-1-PはUDP-glucosepyrophosphorylaseの作用でUDP-glucose(UDPG)となり,UDPGのglucosyl基がグリコーゲン合成酵素の作用によって,既にあるグリコーゲン分子の外側枝に1-4結合で付加されて,外側枝は延長する.7〜21個の1,4結合が生ずると,amylo1,4→1,6-transglucosidase(brancher酵素)の作用を受けて1,6結合が生じ,こうしてできた枝分かれから再び1,4結合によって外側枝が延長し,樹枝状のグリコーゲン分子が成長する。

リピドーシス

著者: 宮武正

ページ範囲:P.952 - P.953

 約15年前より,脂質生化学の進歩に伴って,遺伝性脂質症の酵素欠損が次々と解明されてきた一これらの疾患は,Gaucher病,Niemann-Pick病,Krabbe病,Tay-Sachs病,metachromatic leukodystrophy,Sandhoff病,GM1-gangliosidosisなど,主として小児期に発症する疾患であり,これらの大部分は,病因が分子生物学的レベルで解決されたといえる(表).しかし,これらの脂質症の中でも,成人になって発症してくる,いわゆる成人型も症例は少ないが存在し,同一酵素の欠損にもかかわらず,臨床経過が異なる原因は,いまだ十分には解決されていない.今回は,われわれ内科医が直面する脂質症について概略する.

ポルフィリン症

著者: 佐々木英夫

ページ範囲:P.954 - P.956

 ポルフィリン症(ポ症)porphyriaは,遺伝性代謝疾患の中でも最も研究の進んだ分野のひとつではあるが,最近の研究の進展はさらに目ざましく,1965年,Tschudyら1)により提唱された画期的な"primary overproductiontheory"も新しい酵素活性測定の確立により,泡と消えようとしている.また,erythropoietic protoporphyriaにおける肝と骨髄の両方でのポルフィリン(ポ)代謝異常の発見2)や腎のALA synthetaseの発見3)などからも,病型分類の基本とされる肝性と骨髄の区分4)も再検討を余儀なくされている.
 本文ではこれらの新しつ知見を加えて,ポ症の概説を試みたい.

薬理遺伝病

著者: 和田攻

ページ範囲:P.957 - P.959

薬理遺伝病の概念
 遺伝的障害に基づく酵素異常による疾患は一般に先天性代謝異常とよばれる.この場合,障害酵素の基質は生理的な内因物質で,その蓄積,ないし代謝産物欠乏により異常をきたすことになる.これに対し,基質が外来性のもの--薬剤など--の場合は,日常はなんらの病的状態も呈しないにもかかわらず,その酵素の基質となる薬物が投与されて初めて異常状態が出現する.この状態は,かつては薬物過敏ないし特異体質の範疇に入れられていたが,1957年,Motulsky1)により,薬理遺伝学の基礎が確立され,1959年にはVogel2)によって初めて薬理遺伝学(Pharrnakogenetik)という言葉が用いられ,次第に臨床家の注目を集めるようになってきた.
 したがって,薬理遺伝病の定義は,厳密には薬物投与によって発見される薬物に対する反応の異常を示す遺伝病ということになる.

カラーグラフ

先天性代謝異常の皮膚所見

著者: 三浦修

ページ範囲:P.962 - P.963

図1 黄色腫
 皮膚に黄色の境界明確な斑,丘疹、結節などを形成し,自覚症はない.本症は現在,血清蛋白分両法によるリポプロティンの性状に従って5型に分類されている、いずれにしても,遺伝性と続発性があり,遣伝性は常染色体性優性が多く〈II,III,IV,V型〉飼:劣性型はI型のみである.臨床的には空腹時血清の白濁しているトリグリセリド(中性脂肪)血症と高コレステリン血症に分けたほうが便利である,前者にはI,IV,V型,後者にはII,III型が属し,臨床症状にも多少の相違が見られる.

グラフ

先天性代謝異常の病理所見

著者: 浦野順文

ページ範囲:P.965 - P.967

図1 Fabry病 症例 40歳 男
 兄に蛋白尿,血尿があり,娘が尿毒症で死亡している.患者には現在,蛋白尿,血尿はない.糸球体の上皮細胞の胞体はglycolipidの沈着のため,明るく,泡沫状となっている(HE染色,×200)(青梅市立綜含病院々長吉植生平博士提供).

演習・X線診断学 消化管X線写真による読影のコツ・7

変形からみた十二指腸潰瘍のX線診断

著者: 細井董三 ,   吉川保雄

ページ範囲:P.974 - P.980

 十二指腸潰瘍の存在診断は,胃のX線検査の際の充盈像か二重造影像で球部変形がチェックできさえすればほとんど十分である.これに,球部変形をきたさないものが十数パーセントあることを考慮に入れて,圧迫法を1枚加えておけばいっそう確実である.しかし,性状診断となると,なかなかそう簡単にいかないのが実情ではなかろうか.狭い場所に潰瘍が多発したり,線状にあらわれたり,周囲と癒着を起こしたりしやすいので,幽門輪との聞に,しばしば極めて複雑な変形を起こしてくるからである.田宮,W.Teschendorf,熊倉らの著書に掲げられた十二指腸潰瘍の球部変形の模写図をみても実に多種多彩である子この一見つかみどころのないようにみえる変形のパターンを整理して,そこから変形と潰瘍の形,数,場所,活動性の程度などとの間に,一定のルールを引き出すことはできないだろうか.つまり変形を見ただけで,ここのところに,こういう形の潰瘍があるということがわからないかということである.もし,それがある程度可能ならば,目標がはっきりしてくるので圧迫もしやすいし,十二指腸潰瘍の診断能はずっと向上するはずである.今回はそうした意味で,おもに充盈像を中心に,症例を検討してみたい.それには,まずよい充盈像をとることが診断の第1歩である.
 よい充盈像とは,変形をありのままに正しくあらわしたものを意味する.

診断基準とその使い方

慢性甲状腺炎

著者: 宮本正浩 ,   飯野史郎

ページ範囲:P.981 - P.984

概念
 慢性甲状腺炎は組織学的にstruma lymphomatosaとstruma fibrosaに分けられ,前者は橋本病とよばれ,後者はRiedel甲状腺腫とよばれているが,後者のわが国における頻度は極めて低く,慢性甲状腺炎を考える場合は橋本病の概念でよいものと思われる1)
 本症は1912年,橋本により報告された疾患で,その報告は病理組織学的になされたものであったが,その後,免疫学的検索が進み,本症の発症には自己免疫の関与が考えられるに至ったが,最近ではHL-A抗原との関連が注目されている.

図解病態のしくみ—消化管ホルモン・3

セクレチン代謝

著者: 石森章

ページ範囲:P.986 - P.987

 セクレチンはホルモンとしてその存在が指摘された最初の物質であり,内分泌学上特筆すべき地位を占めている.化学的には27個のアミノ酸から成る強い塩基性のポリペプチドであり,ガストリンに拮抗する代表的なホルモンとして類似の化学構造を示すGIP, VIPなどとsecretin familyを形成する,産生細胞はS細胞であり,十二指腸を中心とした上部小腸に分布するが,膵腺腫における異所性産生の可能性もある.

新薬の使い分け

貧血—原因別による薬剤の使い分け

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.988 - P.991

 日常遭遇する貧血患者のなかには診断不明のまま治療を受けている例が少なくなく,そのため診断および治療上支障をきたすこともある.また適切な診断の下に治療を行っていても,その後の経過観察が不十分のために貧血が完全に回復しなかったり,再発のために訪れる患者も少なくない.
 診断の確定されていることを前提として,日常診療上遭遇することの多い貧血について薬剤治療の原則について述べてみたい.

臨床病理医はこう読む 電解質異常・1

血清カリウム

著者: 毛利昌史

ページ範囲:P.992 - P.993

症例 46歳 男性
血清電解質
Na 145mEq/l,K 2.9mEq/l,Cl 99mEq/l

小児と隣接領域

小児整形外科

著者: 村上宝久

ページ範囲:P.994 - P.995

 小児の整形外科的疾患は多岐にわたるものの,中でも先天性疾患の占める割合は非常に多い.とくに,先天性股関節脱臼,先天性筋性斜頸,先天性内反足などは,日常小児の外来で最もしばしばみられるものであり,小児整形外科においては重要な疾患となっている.これらの疾患は,昔から多方面にわたる種々なる研究がなされているにもかかわらず,未だに古くて新しい問題を多く抱えており,診断・治療の面でも,ここ数年来大きな変遷を示している,そこで今回は,これらの疾患について最近の考え方,取り扱い方などについて,その概略を述べてみるが,これが専門治療機関に送られるまでの参考として役に立てば幸いである.

皮膚病変と内科疾患

瘢痕または局面形成を主徴とする皮膚病変と内科疾患

著者: 三浦修

ページ範囲:P.996 - P.997

瘢痕を主微とする皮膚病変と内科疾患
 瘢痕は醜形と,とくに関節部に形成された場合の機能障害とを主たる異常とする発疹である.しかし,放射線障害による瘢痕と火傷瘢痕は癌発生の母地をなす点に注意を要する.また神経や血行の障害,免疫や代謝異常などに基因する潰瘍や壊疽によって生じた瘢痕の場合には,原病の存する限り再発の可能性がある故,原病の治療を必須とすることはいうまでもない(いずれも既出).

外来診療・ここが聞きたい

持続する血中アミラーゼの高値

著者: 西崎統 ,   土屋雅春

ページ範囲:P.998 - P.1001

 患者 K. K. 54歳 男 会社役員.
 既往歴 24歳,虫垂切除.

ECG読解のポイント

ST上昇を示した狭心症

著者: 桂忍 ,   大田怜

ページ範囲:P.1002 - P.1005

患者 M. O. 61歳.男性
初診 昭和49年11月26日

診療相談室

脳浮腫に対するステロイド治療

著者: 海老原進一郎

ページ範囲:P.1006 - P.1006

質問 脳浮腫に対する内科的治療について,とくにステロイドの適応と禁忌を,具体的にご教示ください.(大阪府 T生 26歳)

血液ガス分析データの解釈をめぐって

著者: 岡安大仁

ページ範囲:P.1007 - P.1007

質問 78歳 男子,意識障害の患者で,ガス分析の結果は次のとおりです.pH 7.605,PO2 44.8,PCO2 78,HCO3 49,BE+30,BB 80,電解質Na 134,K 1.4,Cl 86,BUN 15.1.このデータをいかに解釈すべきでしょうか,そして,その治療方針についてはいかがでしょうか.(仙台市 Y生 38歳)

開業医学入門

外来における高血圧について

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.1008 - P.1012

 最近の私ども内科系の外来で,最もポピュラーな病気の一つとなっている高血圧症について,私が日頃感じていることや,実際に行うように心がけていることなどについて述べてみたい.
 わが国では,昭和36年に成人病基礎調査が行われているが,高血圧として収縮期圧が150以上,拡張期圧が90以上という両方の条件を満たすものが,40歳以上の対象のなかに26%あり,その数は807万人と推定されている,この調査や米国の1965年の統計,昭和46年の高血圧患者の受診調査などをもとにして,増山1)は昭和46年の時点で,約180万人が高血圧として受診しているものと推定し,実際には150/90を越えるような人々のなかで,受診している人はわずか1/4〜1/5ということになり,残りの3/4〜4/5の少なくとも半分位は野放しになっていると推定している.糖尿病が百万人の病気であると俗にいわれているのに比べても,莫大な数である.

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内科専門医を志す人に・トレーニング3題

著者: 前田如矢 ,   宮崎元滋 ,   安部井徹

ページ範囲:P.1013 - P.1015

 問題1.55歳、男子、会議中に突然前胸部および背部に激烈な疹痛を訴え,その痛みは下肢にも放散し,呼吸困難,顔面蒼白,冷汗などをみとめた.ただちに仰臥し安静にしていたが,症状はまったくおさまる傾向がなく緊急入院した.
 理学的所見では心基部に駆出性収縮期雑音を聴取z血圧は180〜100mmHgと高く,ECGでは左室肥大および虚血性変化がみとめられた.

内科専門医を志す人に・私のプロトコール

内科より外科方面へ転科し,外科的治療を行った症例/消化器疾患から

著者: 瀬古敬 ,   宮薗千代子

ページ範囲:P.1016 - P.1017

 前頭葉腫瘍,心筋梗塞などの疑いのもとに,表面的な臨床症状にふりまわされ,あちらこちらの病院へ入院と退院をくりかえしてきた患者です,本院内科に入院し,最終的に外科的治療をうけて軽快退院しました.
 1人の患者を各専門分野にわたる深い知識を背景にして精緻にみていくことの重要さは言うまでもありませんが,私たち臨床内科医としては,各方面の知識を十分にもちながらも,クールな目で総合的にみていくことが大切だと思います.これは,私自身の日々新たな反省であり,同時に将来にむかっての目標でもあります.

心臓病診断へのアプローチ—問診を中心に

呼吸困難

著者: 石川恭三 ,   広木忠行 ,   前田如矢

ページ範囲:P.1018 - P.1024

呼吸困難の成因と定義
 前田(司会) はじめに,呼吸困難はなぜ起こるかということですが,第1は,空気が十分に肺胞まで入ってこないか,酸素のとりこみが不足した場合で,健康人だと,激しい運動をしたとき,気道に障害はないけれど必要量だけ酸素が入ってこないような場合,妊婦や腹水のあるときなど,それから気管支炎や気管支喘息で気道に故障のある場合.もう一つ大きな原因としては,空気は十分に肺胞まで入ってくるけれども,酸素の取り込みが悪いという場合,これは肺炎,重症肺結核,肺気腫,気管支拡張症,肺線維症があります,これにはさらに心不全も入る.いわゆる心臓喘息です.それから,血液成分の異常があるとき,たとえば貧血やアシドーシスがあるときです.以上二つの大きな原因以外に,神経性のもの,たとえば不安感情,強度のヒステリーなどがあります.
 ところで,息切れという言葉を使う人もありますが,呼吸困難と息切れとは本質的には同じものなのか,違うのか.石川先生は主訴として把握する場合,どう考えますか.

話題 内科専門医会の発足

臨床医学の場における今後の活躍を目指して

著者:

ページ範囲:P.960 - P.960

 日本内科学会総会の行われた去る5月28日夜,宮城県民会館で新しく内科専門医会(略称:内専医会)が発足した.内科専門医制度は,内科学における専門・細分化が進む中で,その弊害を防ぎ,subspecialtyを持ちながら,一方で内科領域全般に通じる幅広い知識を有する内科医の育成を目指して,昭和43年にスタートしたことは周知のとおりであるが,すでに3回の認定試験を終え,現在28名の内科専門医が誕生している.
 なお,このたびの内専医会発足の主旨および目的は,①定期的会合の開催,②教育・研究に関する活動と相互の協力,およびその情報交換,③内科専門医の社会的評価の高揚が骨子となっている.

忘れられない患者・私の失敗例

皮膚細網肉腫患者にみた教訓

著者: 二階堂昇

ページ範囲:P.1025 - P.1025

 症例 58歳 男 1963年3月中旬,左膝関節部の皮膚に米粒大の小結節に気づいた.同結節は次第に増大したが,痛みがないので放置していた.1カ月後,小指頭大となり,中心部に潰瘍を生じ,その周辺に新たに2個の結節が生じた.同年4月,某開業医を経て当センターを受診した.
 組織学的検査により分化型細網肉腫と診断された.また,同時に左大腿内側のリンパ腺腫からも同様な組織診が得られたので,全身転移の可能性が考えられた.

あわれ名花一輪

著者: 相沢豊三

ページ範囲:P.1026 - P.1026

 終戦後,何年か経った頃のことである.近い親戚にあたる○○子の具合がおかしいというので往診を依頼された,嫁して間もなく新郎方の立派な屋敷の一室に臥床していたこの美しい花嫁に,私は結節性紅斑という病名を献上し,これをきっかけに時折同家を訪れることになった.サリチル酸ナトリウムを内服しているうちに両下腿部の発疹は消失し,やがて微熱もとれたが,血沈の促進が正常にもどるには約2カ月を要した.胸部レ線には異常所見は認められない.この疾患は当時,結核との関連が問題にされたものであるが,現在では結核菌を除く細菌の病巣感染アレルギーと解せられ,副腎皮質ステロイド療法が効果を示していることは御承知の通りである.
 さて,そうこうしているうちに,今度はその夫君の方にかなり進行した両側肺結核のあることがわかり,もっぱら療養に専心し,会社も辞めることとなってしまった.楽しかるべき新婚家庭は引きつづいて病魔の魅いるところとなり,暗雲低迷,あれやこれや心の痛手に堪えかねたのか,新婦は両親の下に里帰りということになった.必然的に両家の和は保てなくなり,このような冷たい関係がなお続けば,お二人の縁も切れてしまうのではないかと危ぶまれつっ,心ならずも4年の月日が流れていった.

多忙にまぎれて患者の訴えに気づかずに

著者: 渡辺武

ページ範囲:P.1027 - P.1027

 「先生,どうもこの頃,左肩が張って,肋間神経痛でもおこしたのですかね.年ですかな」と10年来のひょろ長い患者さん(男,大正3年生まれ)が診察室に入ってきて,「まさか肺癌なんてことはないでしょうな.1年前,先生の所で体重測ったら40kg,先月は44kgで,食事もうまいし」と一気にしゃべり出した.それは昭和49年5月のこと.
 この患者さんは生命保険会社の事務職員で,39年3月,腎出血を主訴としてこられたのが始まりで,大学病院に紹介,特発性のものといわれ,その後胃炎・胆のう炎などでほとんど毎月1回以上はおつき合いしている間柄.その奥さんも肝炎で,おばあちゃんは高血圧で,一人娘の可愛いまち子ちゃんは時々感冒でと,一家のことは部屋数,畳の数までよく知っている.

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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