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文献詳細

雑誌文献

medicina13巻9号

1976年09月発行

文献概要

私の失敗例・忘れられない患者

夏の少年

著者: 畑尾正彦1

所属機関: 1武蔵野赤十字病院外科

ページ範囲:P.1328 - P.1328

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 あのM君が担ぎ込まれたのは,真夏というほかない8月のある午さがりであった.前々日,久しぶりの野球で渇いた喉に冷水をしたたか飲んだというが,その夜から上腹痛と頻回の嘔吐が続き,紹介されてきたものである.近頃急に背が伸びた割には体重が増えないということ以外,至極健康であったという.
 意識清明だが口数少なく,無欲状顔貌で舌は乾燥し,上腹部全体が緊張して圧痛あり腸雑音を聴取し得ない.両手はテタニーを思わせる助産婦の手を示す.第一印象,急性膵炎.適当な空ベッドがなかったこともあって,ICUに収容し,早速輸液,胃管留置,時間尿測などがはじめられた.腹部単純X線で胃の著明な膨満がみられるが,腸内ガス像少なく,free airなどの異常も認められない.amylase値正常。胃管から1500mlの排液があると腹部は柔軟となり疼痛は全く消失し,尿量の得られはじめた午後8時頃には見違えるばかり元気となり,翌朝はさかんに空腹を訴えて全くの健康児としか思えない様子であった.疾病の本態は何だったのか,本当に病気だったのだろうか.入院翌々日より低脂肪食を出したところ,たちまちペロリと平らげてまだ足りない気配であったが,3日目の昼頃からまたもや嘔吐がはじまった.やはり何かある!!すぐガストログラフィンによる上部消化管透視が行われた.案の定,造影剤は十二指腸第3部中央で切られたように進まない.上腸間膜動脈性十二指腸閉塞症である.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

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