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雑誌目次

雑誌文献

medicina14巻12号

1977年12月発行

雑誌目次

臨時増刊特集 診断基準とその使い方 I.循環器疾患

うっ血性心不全

著者: 戸嶋裕徳 ,   古賀義則

ページ範囲:P.1652 - P.1654

概念
 心不全は一般に「体組織が要求するだけの血液を心臓が十分に拍出しえない状態」と定義され,重症調律異常(急性心停止,心室細動など),急性心筋障害(心筋梗塞など),心臓性ショックなどによる急性心不全と,高血圧性心臓病,弁膜疾患など慢性心疾患による慢性心不全とに分類される.慢性心不全では静脈圧は上昇し,浮腫,うっ血肝などうっ血や水分貯溜症状を示すことが多いためにうっ血性心不全と呼ばれる.
 うっ血性心不全は,その障害部位により,右心不全,左心不全に分類される.左心不全では僧帽弁,大動脈弁疾患,高血圧性・虚血性疾患など左心系,の障害により肺循環系のうっ血をきたすもので,咳,痰,労作性呼吸困難,発作性夜間呼吸困難,起坐呼吸,肺水腫などがみられる.右心不全は肺動脈弁,三尖弁疾患,肺気腫,肺高血圧症,進行した僧帽弁疾患などによる右心不全障害のために大循環系にうっ血を生じたもので,体静脈の怒張,肝腫大,腹水,浮腫などをきたす.また右心,左心が同時に犯されるか,左心不全に右心不全が続発する例もあり,両側不全と呼ばれる.

冠不全

著者: 倉持衛夫 ,   橋場邦武

ページ範囲:P.1655 - P.1659

概念
 冠不全とは心臓が必要な作業を行うのに際して適切な量または性状の血液が心筋に供給されなくなった状態をいう.その結果,心臓の機能はしばしば低下し,種々の症状を呈する.冠不全をきたす原因としては,表1に示すようなものがある.このうち冠動脈硬化は原因の大部分を占め,冠動脈硬化を有する心臓の多くは冠不全状態にある.また虚血性心疾患あるいは冠動脈疾患として一括されている疾患はいずれも冠不全が基盤をなしており,狭心症や心筋梗塞はその代表的なものである.冠不全という用語は病態生理学的な概念を示すもので,特定の疾患名をさすものではないが,実際臨床上からは虚血性心疾患が重要である.虚血性心疾患はWHO専門委員会によって表2のように分類されている.

収縮性心疾患

著者: 楠川禮造 ,   星野恒雄

ページ範囲:P.1660 - P.1663

概念
 心臓の拡張期における充満が障害・制約される一群の心疾患を収縮性心疾患(restrictive cardiac disease,あるいはconstrictive heart disease)として一般に総称されている.このような心臓の拡張期充満の障害は種々の疾患で起こり得る.なかでも収縮性心外膜炎(constrictive pericarditis)はよく知られた疾患である.これは心外膜炎の結果として,心外膜に硬い線維性肥厚を生じ,そのために心臓が外から硬く包まれた形となり,拡張期における充満が障害された状態である.同様な状態は心嚢内の貯留液のために心嚢内圧嚢が上昇し,心臓の拡張期充満が障害された場合にも生じ,心タンポナーデ(cardiac tamponade)と呼ばれる.一方,心筋あるいは心内膜の変化,あるいは異常物質の浸潤などにより心筋のコンプライアンスが低下し,心臓の拡張が障害される場合がある.収縮性心筋症(constrictive,or restrictive cardiornyopathy),心アミロイドーシス(cardiac arnyloidosis),心内膜筋線維症(endomyocardial fibrosis),Loffler壁心内膜炎,心内膜線維弾性症(endocardial fibroelastosis)などが含まれている.

特発性心筋症

著者: 若林章 ,   河合忠一

ページ範囲:P.1664 - P.1666

定義
 特発性心筋症(idiopathic cardiomyopathy:ICM)の定義は現在未だ混迷を続けているが,わが国ではGoodwinら1)の「原因または関連の不明な心筋の疾患」との考え方で一応まとまりつつある.リウマチ性心疾患,高血圧,冠動脈疾患などによる二次的な心筋異常を除外するのはもちろんのこと,アミロイドージス,サルコイドージスなど他の疾患に関連するものは「続発性心筋症」として区別される(表1).
 すなわち,特発性心筋症は他疾患の除外を前提とした原因不明の心筋疾患(群)で,病因は多様と考えられ,病態は複雑をきわめる.しかし,臨床的には2つの群に大別することができる.左室の収縮不全を主な病態とするうっ血型心筋症と,心室中隔および左室壁の肥厚を特徴とする肥大型心筋症で,後者はさらに左室流出路狭窄の有無により,閉塞性と非閉塞性に分類される(表2).

乳頭筋機能不全症候群

著者: 吉川純一

ページ範囲:P.1668 - P.1671

はじめに
 僧帽弁は弁尖,弁輪,腱索,乳頭筋から構成される僧帽弁複合(mitral complex1))の解剖学的かっ機械的な統一性が保持されて,はじあてその機能が維持される.さらに乳頭筋と心室自由壁との協調性も僧帽弁機能の維持に重要である、乳頭筋には前乳頭筋(anterolateral papillary muscle)と後乳頭筋(posteromedial papillary muscle)があり,それぞれ前尖と後尖の両者に腱索を送っている.前乳頭筋は左冠動脈回旋枝の鈍縁枝から,時には鈍縁枝と前下行枝の両者から血液の供給をうける.後乳頭筋は回旋枝の支流または右冠動脈後下行枝から血液供給をうける(図1).
 1963年,Burchらは,乳頭筋の虚血により発生する僧帽弁閉鎖不全に乳頭筋機能不全症候群(syndrome of papillary muscle dysfunction)なる名称を与えた2,3).その後,彼らはその概念を大幅に拡大して,種々の病態生理学的異常による乳頭筋機能不全を本症候群とした4).以下,本症候群の診断とその問題点について概説する.

心内膜床欠損症

著者: 高尾篤良

ページ範囲:P.1672 - P.1677

はじめに
 先天性心疾患の病態の理解や診断には,MAPアプローチ1)をとるのがよい.M→Morphogenesis形態形成,A→Anatomy,P→Physiologyである.

細菌性心内膜炎

著者: 窪倉武雄

ページ範囲:P.1678 - P.1681

はじめに
 細菌性心内膜炎(BE)は敗血症症候群の一つであるが,ほとんどの症例が基礎心疾患を有し,障害された心弁膜その他の心血管構造の上に感染巣を有するため,循環器系の感染症として一疾患単位として扱われる.有効な化学療法の台頭にもかかわらず,発生頻度,致命率に減少傾向がみられず,循環器疾患の難題の一つである.予防と早期診断が肝要である.またBEはhost,parasiteの相互条件の差違に基づく多彩な症候はもとより,診断手段,治療,経過,予後が各症例により必ずしも軌を一にしない.したがって,BEの診断は早期診断へのアプローチと,各症例に相応した「体系的診断」への配慮が望まれる.本稿では,諸文献および東女医大・心臓血圧研究所の資料をもとに述べる.

低送血症候群

著者: 岡田和夫

ページ範囲:P.1682 - P.1683

概念
 急性に心臓のポンプ機能が低下して急性循環不全を招く症状群である.機能面よりみると左心室駆出不全型と左心室充填不全型に分類される.前者には急性心筋梗塞による心原性ショック,開心術後の低送血症候群があり,後者には急性心臓タンポナーデがある.
 ショックは心原性,出血性,敗血症(エンドトキシン)などと分類されるが,末梢より心臓に戻る血液量が不足したり,末梢血管が拡張して相対的に血液が不足した状態でも心臓から駆出する血液が減少するようになる.これらも見方を変えれば低送血症候群とみなすことができよう.しかし,これらの場合は原因の出血などの治療が施されれば,低送血状態は回復するので,対象は心臓のポンプ機能の低下した場合に主眼が置かれることになる.

心脳症候群

著者: 藤井潤

ページ範囲:P.1684 - P.1685

概 念
 脳卒中様発作があり,それが心疾患に起因するような場合を心脳症候群という.そのなかで脳卒中様発作で発症する心筋梗塞を,とくに心脳卒中cardio-cerebral apoplexyと呼ぶ.心脳卒中のなかには冠血栓と脳血栓とがほとんど同時に発生するような例がある.こういう例では卒中発作が心筋梗塞に起因するとはいえないかもしれないが,現段階では心脳症候群に含める.
 心脳卒中という概念が形成される過程では,脳卒中様症状を示して死亡した患者の剖検時に生前予期されなかった急性心筋梗塞の合併を見出したという苦い経験がつみ重ねられた.いまでは,筆者は老人の脳卒中患者を診察したときには必ず心脳卒中ではないかと,一度は考えて心電図や血清酵素を検討する習慣がついている.

房室ブロック

著者: 松尾博司

ページ範囲:P.1687 - P.1689

概念
 房室ブロックの診断は,脈の触診(脈拍の数や規則性),心臓の聴診(I音の大きさやその変化),頸静脈波の視診(心房拍動数)などによってもある程度まで可能であるが,心電図によって初めて確かなものとなる.
 これまで多くの研究者によって,心電図による房室ブロックの分類および診断基準が発表された1〜5)が,それぞれに問題があり,広く認あられたものは未完成の現状である.しかし,表に示したように,ブロックの程度によって1〜3度に分け,またHis束心電図によってAHブロックとHVブロックに大別することには問題はないと考える.

Sick Sinus Syndrome(SSS)

著者: 加藤和三

ページ範囲:P.1690 - P.1693

概念
 近年,洞結節機能の障害により起こる症候ないしはそれを示す状態を,"Sick Sinus Syndrome(SSS)"とよぶことが多い.
 このSSSという用語は,最初Lownにより慢性心房細動の直流電撃療法直後にみられた洞結節障害を思わせる調律異常に対して用いられたものであるが,1968年,Ferrer1)はその定義を拡大し,種々の原因による洞結節機能障害すべてを含あてSSSとすることを提唱した.すなわち,それまで洞徐脈,洞房ブロック,洞停止,慢性心房細動など,主として心電図上の所見としてとらえられていたものを生理学的概念に発展させたもので,いずれもが洞結節およびその周辺の解剖学的または生理学的変化のあらわれと考えられることに基づく,Ferrer以後多くの研究者によりほぼ同様の立場からその臨床的意義が強調され,SSSの概念は,細部にはなお若干のずれがあるものの,おおよそ確立されたようにみえる.

本態性高血圧症

著者: 依藤進

ページ範囲:P.1694 - P.1698

概念および診断基準
 長期にわたって血圧が高く,しかもその原因となる基礎疾患が,現在の医学知識では発見できないようなものを本態性高血圧症という(表1).
 この定義は一見明瞭なように見えるが,いくら以上の血圧を高血圧とするのか,また血圧は1日のうちにおいてもずいぶんと変動するものであるが,そのうちのどれを代表的な血圧と考えるのか,さらに現在の医学知識ではその原因となる基礎疾患が発見できない高血圧ということは,原因の明らかな高血圧症,すなわち二次性高血圧を除外するということを意味しているが,それはどのようにすれば可能なのかという厄介な問題を含んでいる.

肺高血圧

著者: 前田如矢

ページ範囲:P.1700 - P.1703

概念
 肺高血圧とは,肺動脈圧が正常範囲をこえた高い状態をいうが,その原因疾患(慢性肺疾患,原因の明らかな肺動脈疾患,胸郭変形,先天性心疾患,うっ血性心不全など)が明らかな続発性肺高血圧と,原因がまったく不明な原発性肺高血圧とがある.
 原発性肺高血圧primary(idiopathic,essential)pulmonary hypertensionは,近年一つの独立疾患として取り扱われるようになったが,その成因に関しては,血管攣縮説,自己免疫説,多発肺血栓・塞栓説,先天性異常説など病因論的にいくつかの仮説があるが,現時点ではなお未解決なままである.大循環系の高血圧で原因不明のものを本態性高血圧とよんでいるのに相当して,原因がまったく不明なものを原発性肺高血圧としているわけで,確診するためには,右心カテーテル法によって肺動脈圧の上昇を証明しなければならない.

II.呼吸器疾患

喘息

著者: 光井庄太郎

ページ範囲:P.1706 - P.1710

はじめに
 典型的な気管支喘息では,胸部の所見は発作的に起こり,発作が消退すれば自然に消失する.発作が頻繁となり,1回の発作も長びくようになると,発作のないときにも胸部に多少の理学的所見をみるようになる.一般に前者を発作型,後者を慢性型というが,その区別をつけかねることもしばしばである.ことに肺・心の続発症を伴ってくると病像は複雑になる.
 気管支喘息発作の際の主症状は気管支の狭窄および閉塞に基づく換気障害で,その程度によっては生命の危険がある.このことは喘息死亡例の死因として窒息の頻度が著しく高いことから推定できる.他方,気管支喘息患者の病歴は多様であり,幼児期にのみ発作のあったもの,以前発作があったが,しばらくなくて再び起こるようになったもの,毎年ほぼ一定時期に発作をみるもの,特定の環境(職業,住居など)と関係あるもの,多少の消長はあるが,連日連夜喘息症状の続くものなどいろいろである.気管支喘息の重症度を生命に対する危険性を目標に規定するとき,発作の重症度(発作の強度)をまず問題にしなければならない.他方,患者一人一人についてみると,発作の程度,頻度を含めて患者自身の重症度も必要である.この場合は経過からみた一定の期間内の重症度が示される.以下,気管支喘息重症度の診断基準を喘息発作の重症度(発作の強度)と患者自身の経過からみた重症度について述べる.

慢性気管支炎

著者: 吉田清一

ページ範囲:P.1711 - P.1714

定義
 少なくとも2年以上にわたり,毎年少なくとも3カ月以上,痰を伴って咳が出る状態をいう.
 定義の解説 非特異的な臨床症状に基づいた定義であるため,類似の症状を呈する特殊な疾患,たとえば肺結核などは除くことを前提としている.

びまん性汎細気管支炎

著者: 谷本普一 ,   蒲田英明

ページ範囲:P.1715 - P.1717

概念
 びまん性汎細気管支炎とは,呼吸細気管支に病変の主座をおく慢性炎症が両肺びまん性に存在し,強い呼吸障害をきたす疾患である.形態像は,①肉芽組織による閉塞を起こす閉塞性と,②リンパ濾胞の新生を伴う円形細胞浸潤を示す壁内繁殖性の2型がある.性別では男性に多く,発病年齢は各年代層にわたり,高率に慢性副鼻腔炎を合併または既往にもつ.慢性の咳,痰,労作時息切れを主症状とし,病勢の進展とともに気道感染を合併し,呼吸不全のため不良の転帰をとる.
 ここで,びまん性とは病変が両側肺内に広汎緻密に散布することを意味し,汎とは汎血管炎と同様に,炎症が呼吸細気管支の全層にわたって生じていることを意味し,形態学の立場から山中1)によって名づけられ,その臨床像は本間および筆者らによって明確にされたもめである2,3)

慢性呼吸不全

著者: 佐々木孝夫

ページ範囲:P.1718 - P.1721

はじめに
 呼吸不全respiratory failureも心不全,腎不全と同様に,臨床像と検査所見両者から定義されるべきものであるが,諸家の定義はそれぞれ多少ニュアンスが異なっている.それらの中で最も実用的と考えられる定義は,Sykes,McNicolおよびCampbell1)の定義であろう.
 彼らは呼吸不全を「failure to maintain normal blood-gas homeostasis」と定義している.すなわち,呼吸不全は正常の動脈血ガス組成が維持されていない状態を示す.

過敏性肺臓炎

著者: 小林節雄

ページ範囲:P.1722 - P.1726

概念
 有機粉塵の吸入により非アトピー性のアレルギー反応によって起こる,びまん性(肉芽腫性)間質性肺炎で過敏性肺臓炎hypersensitivity pneumonitisと呼ばれるが,また(外因性)アレルギー性肺胞炎(extrinsic)allergic alveolitisともいわれる.これらは古くから農夫肺farmeir's lungとか鳩飼病pigeon breeder's lungなどといわれていた一連の疾患が,いずれも有機粉塵の吸入によるアレルギー反応で起こることがわかり,とくにそれがアルサス型アレルギー(GellとCoombsのIII型)であることがわかったことと,最近では遅延型(すなわちIV型)アレルギーも関与していることなどから呼吸器のアレルギー疾患の一つとして注目されるに至った.
 一方,最近では原因不明のいわゆるびまん性間質性線維化肺炎が,重大な肺疾患として注目を集めているが,過敏性肺臓炎をくり返すと肺線維症になることから,原因不明といわれる肺線維症の中に本症によるものが存在しうる可能性が考えられ,本症は今後広く検討されるべき疾患として注目されている.

マイコプラズマ肺炎

著者: 新津泰孝

ページ範囲:P.1728 - P.1731

概念
 マイコプラズマは,以前はPPLO(pleuropneumonia-like organisms)とよばれ,細菌と異なり,硬い細胞壁がなく,内外の蛋白質と中央の脂質とからなる薄い限界膜に包まれており,したがって細菌の細胞壁合成阻害剤であるペニシリン系,セファロスポリン系には感受性がなく,また柔軟性があることと,DNA,RNA,リボゾームをもち,その大きさは遺伝機構を容れうる最小の形態でパラミクソウイルス程度であることとから,細菌濾過板を通過し,またウィルスと異なり培養基上で増殖が可能で,菌糸状,球状,環状などの多形性を呈し,細菌,ウイルスとは分類の異なる微生物であって,植物,動物,ヒトそれぞれに特定の種が寄生し,種によっては病気を起こす.
 ヒトから分離される8種のマイコプラズマのうち,病原性が確認されているのは肺炎マイコプラズマ(Moycoplasma Pneumoniae)だけで,マイコプラズマ肺炎は肺炎マイコプラズマによる肺炎である.肺炎マイコプラズマは肺炎(原発性異型肺炎)のほか,気管支炎,咽頭炎,鼻炎,鼓膜炎,浸出性肋膜炎などの急性呼吸器感染症を起こし,また発疹,中枢神経系病変,表在リンパ節腫大,そのほか多彩な病像の原因となる.感染によって通例血清抗体価が上昇し,また不顕性感染がある.

肺結核症

著者: 岡安大仁

ページ範囲:P.1732 - P.1737

 肺結核症の診断は,胸部X線所見,結核菌検索,ツベルクリン反応などを主体として行われており,他疾患との鑑別を含んだ本疾患の診断基準には特定のものはない.肺結核症では,むしろその発症ならびに進展の型式の理解,治療および管理上の必要性のための病型分類が重視されており,そのための診断基準が確定されているので,これらについて概述したい.

肺気腫

著者: 吉良枝郎

ページ範囲:P.1738 - P.1741

概念
 呼吸細気管支または肺胞壁の破壊により,呼吸細気管支より末梢の気腔が異常に拡張した状態が肺気腫である.末梢気腔の拡張の基本型として,細葉あるいは小葉全体に肺胞道および肺胞嚢がほぼ均等に破壊拡大している汎小葉型(panlobulartype),細葉ないし小葉の中心部に気腫性変化がみられ,呼吸細気管支領域に破壊拡大がみられる小葉中心型(centrilobular type),および瘢痕部に隣接したり胸膜などに沿って発生するものを含め不規則に分布する巣状型(focal type)の3つに分類される(山中)1).巣状型は肺機能的にもあまり意義をもちえないとされており,前2者が単独の型で,あるいは両者が混合して,びまん性に病変が分布することにより生ずる病態が肺気腫症である(本間)2).本症に対するこのような病理学的見解は,欧米においてもほぼ一致しているといってよい.
 こうした本症の定義からいっても,肺気腫症という病名は病理学的診断名である.多くの症例の集積により,病理学的には本症の重症度の判定基準は明確にされている.表1は山中の重症度の判定基準で,汎小葉型と小葉中心型をそれぞれ変化の強度および広がりを目安に3度に分け,表のごとく軽度,中等度,高度の肺気腫症が分類されている.山中の重症度と1秒率の間には妥当な相関が存在することも明らかにされている.

無機じん肺

著者: 瀬良好澄 ,   姜健栄

ページ範囲:P.1742 - P.1745

概念
 粉じんを吸入することによって起こる肺線維症をじん肺といい,多くは職業的に発生する.遊離けい酸(SiO2)によるけい肺(珪肺)は無機じん肺の代表をなし,その発生があらゆる産業に分布していることから患者数も圧倒的に多い.無機じん肺の種類とその起因物質を表1に示したが,けい肺は結核,石綿肺は肺癌および悪性中皮腫を合併しやすく,アルミ肺は自然気胸を併発しやすい.

非定型抗酸菌症

著者: 山本正彦

ページ範囲:P.1746 - P.1748

概念
 非定型抗酸菌症(atypical mycobacterial disease)は非定型抗酸菌(atypical mycobacteria)による感染症である.非定型抗酸菌は単一の菌の名称ではなく,ヒト型結核菌M. tuberculosis(ウシ型菌M. bovisをも含む)以外の抗酸菌を示す総括名である,したがって,本菌はそれぞれの菌種に分類する必要があり,現在わが国においては結核病学会抗酸菌分類委員会試案1)(図)によることが推奨されている.
 非定型抗酸菌症の大部分は肺疾患であるが,一部にはリンパ節疾患,皮膚疾患,骨疾患,髄膜炎,全身播種型疾患などの肺外疾患2)もみられている.

PIE症候群

著者: 田村昌士

ページ範囲:P.1749 - P.1751

 PIE症候群pulmonary infiltration with(blood)eosinophilia1)は好酸球増多を伴う肺浸潤を認める場合の総称である.これと同義的に肺好酸球症pulmonary eosinophilia2),好酸球性肺炎eosinophilic pneumonia3),好酸球性肺疾患eosinophilic lung disease4)などの疾患名も用いられている.
 アレルギー性疾患に肺病変を伴うことについては,すでに1895年Oslerの記載があるが,それから37年経てLoefflerが好酸球増多を伴う一過性肺浸潤について報告した5).これがいわゆるレフレル症候群である.その後これと類似の病像を示すものをReederらがPIE症候群としてまとめ,さらにCroftonらが次の5つの疾患群に分類した.すなわちレフレル症候群,遷延性肺好酸球症,熱帯性好酸球症,喘息を伴う肺好酸球症および結節性動脈周囲炎である.しかし,今日ではウェゲナー肉芽腫症もこの中に含められ,さらに過敏性肺臓炎との関連についても注目されるようになってきた.

A-Cブロック症候群

著者: 金上晴夫

ページ範囲:P.1752 - P.1754

概念
 A-Cブロック症候群は正しくは肺胞毛細管ブロック症候群といい,alveolar-capillary block syndromeの略である.A-Cブロック症候群は肺胞膜におけるガス拡散障害を主徴とする疾患群につけられたもので,この病名は本症候群の特徴を極あて明快に表現している.
 さて本症候群は1951年Austrian,McClement,Renzetti,Donald,RileyおよびCournandにょって命名されたものであるが,肺胞毛細管膜の病的変化が特殊な機能障害を呈するという考えはかなり古くから指摘されている.すなわち,1922年Schjerningは"Grippe Pneumonie"におけるチアノーゼは酸素拡散障害がその主要原因をなしているだろうと報告しており,その後1932年から1935年の間にドィッ学派によって"Pneumonosis"と呼ぶ疾患群として肺胞毛細管膜の拡散障害をその主因とする肺疾患が報告されている.また1149年にはHammanおよびRichが肺胞毛細管膜の線維性浸潤を特徴とする疾患を報告,1949年にはBaldwinらが種々のびまん性肺疾患について拡散障害を示唆する所見を述べている.

過換気症候群

著者: 梅田博道

ページ範囲:P.1756 - P.1757

概念
 呼吸器系は情動emotionの影響をうけやすい.ちょっとした不安で胸がつまり,胸が痛む.また,喜びで胸がおどる.息を合わせるとか,呼吸が合っているとかいうことばは,こころとからだのつながりを示すものであろう.情動は自律神経の興奮(神経性調節)と内分泌腺の変化(体液性調節)をひき起こし,結果として呼吸・循環など身体面に影響がでてくる.このメカニズムが過換気症候群の基本的機構といえる.
 器質的疾患がなくて,感情・情緒の変化で起こる呼吸困難,息切れは,急性にも起こるし,慢性忙も起こる.また,現れ方,症状もさまざまである.つまり,心因性の過換気による障害のなかにも多くの異なったタイプのanxiety reactionがあると考えられる.また,すべての過換気が心因性ではないし,過換気を起こしたすべてが呼吸困難に陥るわけでもない.

Goodpasture症候群

著者: 近藤有好

ページ範囲:P.1758 - P.1761

概念
 肺出血と急速に進行する糸球体腎炎を主徴とする疾患を初めて記載したのはGoodpasture1)(1919)であり,そのような疾患をGoodpasture症候群と命名したのはStantonおよびTange2)(1958)である.
 StantonおよびTange2)は,9例の詳細な検索を行い,本症候群の臨床病理像を以下のごとく確立した.

縦隔腫瘍

著者: 吉村敬三

ページ範囲:P.1762 - P.1766

概念
 縦隔とは本来いくつかの臓器と結合組織とを含むごく薄い隔膜につつまれたもので,通常この部分には心臓,大血管(動脈および静脈),気管(支),胸腺,食道などの主要臓器と,これに付随した漿膜,血管,神経などいくつかの重要な組織が含まれる.また隣接臓器としては胸膜および肺があり,胸管,リンパ管など,また横隔膜や胸壁を形成する脊柱,胸骨肋骨および軟部組織がある.
 一般的には,このうち心・大血管,気管(支),食道などから発生する腫瘍は他に記述し,胸腺およびその付近の組織から発生する真性腫瘍と,実地臨床的にはさらに炎症性腫瘤,転移性悪性腫瘍や先天性のう胞など,あるいは全身の系統的疾患の一分症としてあらわれた腫瘍(瘤)なども含めて,はなはだ漠然とした意味で,使用されている場合が多い.

Vanishing Tumor

著者: 清水浩

ページ範囲:P.1767 - P.1774

概念
 近年,肺癌の増加が大きくクローズアップされてきた.したがって,胸部X線診断に際して肺癌と紛わしい陰影との鑑別が重要となっている.その一つとして,いわゆる"vanishing tumor of the lung"(消える腫瘤)がある.
 これは1950年Gefterら1)が心不全の症例で葉間腔の限局性胸水貯留陰影が正面X線像で肺腫瘍と類似しており,心不全の治療によって速やかに消失するものを肺腫瘍とまちがえないように"vanishing tumor of the lung"(localized interlobareffusion in congestive heart failure)と表現し,注意を喚起したのが最初で,その後,数多くアメリカの学者の報告をみるようになり,Federら(1956)は"phantom turnor"(まぼろしの腫瘤)という表現を使っている.わが国でも1960年,里吉ら3),が本症の2例を報告して以来,注目されるようになった.

III.消化管疾患

食道静脈瘤—重症度分類を中心に

著者: 常岡健二 ,   瀬底正彦 ,   浜中捷彦

ページ範囲:P.1776 - P.1780

概念
 食道下部の粘膜下には豊富な静脈網が疎な結合組織で支持されている.そのため,この食道粘膜下静脈叢は血流うっ滞が起こりやすく,さらに胸腔内陰圧も加わって,これが粘膜面に膨隆して静脈瘤を生ずる.血流うっ滞をきたす原因には門脈高血圧症,上大静脈圧の上昇および局所循環障害があるが,出血などと関連して臨床的に問題となるのは門脈循環障害の結果,左胃静脈,短胃静脈を経て食道粘膜下静脈叢に静脈瘤を形成して上大静脈に流入する側副路によるものである.
 食道静脈瘤は,破綻出血が致命的となることも多く,消化管出血では最も重篤なものである.上部消化管出血に占める食道静脈瘤の割合は,2〜30%以上までと報告者による差が大きいが,5%前後とするものが多く,食道静脈瘤出血の頻度は少なくない.食道静脈瘤を併発する疾患も数多いが,遭偶する機会の最も多いのは肝硬変に生じたものである.

慢性胃炎

著者: 崎田隆夫

ページ範囲:P.1782 - P.1784

概念
 慢性胃炎という診断名は,日常まことにきわめて多く使われてきた病名である.胃の症状を慢性的に訴えて病院・診療所を訪れる患者に,健康保険の病名として,「慢性胃炎」が広く使われていることは,衆知の事実であろう.
 そもそも,医学の未熟期--といっても,胃腸の病気に関しては10〜20年前までのことになるわけだが--,病気によっては,現在なお未熟期にあるものが決して少なくないというのが現実の姿である.たとえば,大腸の粘液疝痛,イリタブルコロン,潰瘍性大腸炎,Crohn病などの疾病は,とくにその病因について,まだほとんど解明さ,れていないといっても決して過言ではなかろう.

胃潰瘍

著者: 原義雄

ページ範囲:P.1785 - P.1788

胃潰瘍の性質上の分類
 胃潰瘍を広義に解釈するときには,急性胃潰瘍と,慢性胃潰瘍とが含まれる.しかし,通常,胃潰瘍といえば慢性胃潰瘍をさす.まず急性胃潰瘍について簡単に述べる.

胃良性隆起性病変

著者: 竹本忠良 ,   渡辺正俊

ページ範囲:P.1790 - P.1793

はじめに
 胃内腔に向かって隆起する病変として,古くから,悪性病変としてはBorrmann I型の進行胃癌,ポリープ癌,悪性ポリープ,良性病変としては胃ポリープ,胃ポリープ様病変,胃粘膜下腫瘍などという言葉が親しく使われてきた.このような隆起性の病変のなかでも,もっともしばしば愛用され,今日でも捨てがたい魅力をもったものは胃ポリープという名称である.この胃ポリープという定義をめぐって数多くの論争があったし,隆起性の病変をめぐる混乱のもとは胃ポリープという名称にあったのである.とくに,最近のように,胃の診断学が発達してくると,小さい胃ポリープまで容易にみつかるようになって,軽度な粘膜隆起と胃ポリープの境界線をどこで引くか迷う始末であり,また小さな隆起型早期胃癌との鑑別診断,あるいはポリープの癌化の問題の再検討が焦眉の問題となった.このような状況のもとに山田ら1)によって胃内に発生するすべての隆起をふくめた胃隆起性病変という名称とともに分類が提唱された.今日では,胃隆起性病変という言葉はきわめてポピュラーになっており,本号の主題の一つにもとりあげられたわけである.一方,胃ポリープあるいは胃のpolypoid lesionという名前も相変わらず臨床的に使われている2)

胃切除後症候群

著者: 丹羽寛文

ページ範囲:P.1794 - P.1799

はじめに
 胃切除後症候群とは,胃切除後の残胃の狭小化および胃より小腸への食事の通過促進などに基づく主として機能的な障害を意味しており,その中には,ダンピング症候群,食後低血糖症候群,輸入脚症候群,さらに不定の上腹部愁訴,栄養障害などが含まれる.
 しかし,この用語の定義,意味する範囲は必ずしも明確でなく,人によっては術後発生した吻合部潰瘍などの器質的病変までを含めている.筆者自身は,胃切除後症候群という場合は機能的なものに限るほうがよいと考えてはいるが,機能的な障害と器質的病変は症状の似ていることも多く,また器質的病変の診断がむずかしいこともあって,実際には器質的病変,機能的病変を含めて扱っていることが多いと思われる.

十二指腸潰瘍

著者: 斉藤利彦 ,   白川和夫 ,   芦沢真六

ページ範囲:P.1800 - P.1803

はじめに
 十二指腸漬瘍の診断は,内視鏡検査が行われる以前は主にX線による診断がその主体をなしていた.しかし,十二指腸ファイバースコープなどの内視鏡の応用により,診断のみならず,より詳細な病態の解明がなされつつあり,さらに潰瘍の経過観察からも,それが明らかにされるようになってきた.

特発性大腸疾患

著者: 吉田豊 ,   棟方昭博

ページ範囲:P.1805 - P.1809

はじめに
 特発性大腸疾患は数多く,ほとんどの大腸疾患を包含するので,その一つ一つを述べるには誌面の制限もあり困難である.そこで本稿では日常比較的よく遭遇する潰瘍性大腸炎,大腸Crohn病および非特異性腸潰瘍の概要について述べる.

過敏性大腸症候群

著者: 並木正義

ページ範囲:P.1810 - P.1813

概念
 過敏性大腸症候群(irritable colon syndrome)についての考え方や定義は人によって異なるが,これを腸管の機能異常とみなす点において諸家の意見はほぼ一致している.要するに,腸管の機能異常に基づき,その緊張・運動の亢進,その他の不調和が起こり,種々の腹部症状を伴う便通異常が持続している病態をいう.
 本症の成り立ちには,消化管自体の神経筋機構の障害,自律神経失調,精神的要因のほか,体質的,性格的因子などが複雑微妙にからみ合っている.したがって,過敏性大腸症候群の病態の理解には,人間を心身両面から全体的なものとして見つめるといった心身医学的立場からの考慮がどうしても必要である.

吸収不良症候群

著者: 笹川力

ページ範囲:P.1814 - P.1816

概念
 吸収不良症候群とは,脂肪,蛋白質,糖質,ビタミン,電解質,鉄などの各種栄養素の消化吸収不良により特徴的な欠乏症状を示す疾患群の総称である.疾患によって一栄養素の吸収不良が認められるものから全栄養素の吸収不良が認められるものまでいろいろあり,その症状は一様でない.

IV.肝・胆道・膵疾患

劇症肝炎

著者: 太田康幸

ページ範囲:P.1818 - P.1821

概念
 1964年,LuckéおよびMallory1)は,第二次世界大戦に際して,戦地で兵士たちのあいだに流行した重篤で劇的な経過をとるウイルス肝炎患者の病理解剖所見について記載した.彼らが観察した196例の剖検例のうち半数以上は発症後10日以内に死亡し,およそ3/4例は3週間以内に死亡しており,このような症例を彼らは流行性肝炎の劇症型と呼び,通常の良性の経過をとる症例と区別することを提案したのである.かつてカタル性黄疸と呼ばれた黄疸患者が,肝生検法の普及と臨床疫学的研究によってウイルス肝炎であることが明らかにされたのは,RoholmおよびIversen2)やNeefeら3)の功績に負うところ大であるが,通常,良性の経過をとる急性ウイルス肝炎に対して,戦地での兵士たちのあいだで流行した超急性の経過をとる肝炎患者の存在は,急性黄色肝萎縮ないし赤色肝萎縮もまたウィルス肝炎の特殊型として,その病因との関連が明らかにされたことで,ウイルス肝炎研究での一時期を画したといえよう.

慢性肝炎

著者: 市田文弘

ページ範囲:P.1822 - P.1824

はじめに
 慢性肝炎のための補助診断法には,近年種々の改良が加えられているが,診断をめぐっていくつかの問題点は依然として議論が多い.一般には臨床症状,肝機能検査成績,肝生検組織診断によって慢性肝炎の診断が試みられるが,これら3者間の相関が不確実な場合が多く,正確に診断できるのはやはり肝生検による組織学的所見からである.それ故に,わが国における慢性肝炎の診断基準は,1967年第1回犬山シンポジウムにおいて定められた慢性肝炎の組織学的定義,および分類を根底において,臨床症状,諸検査成績がそれを補足して,診断されている現状である.

ルポイド肝炎

著者: 鈴木宏

ページ範囲:P.1826 - P.1827

概念
 ルポイド肝炎は1956年,Mackayらが7例のSLEに類似した臨床症状を示し,LE細胞現象陽性の慢性肝炎を報告し,ルポイド肝炎と呼ぶことを提唱したのが最初である.その後,同様の病像を示しながらLE細胞現象が陰性のものも認められ,LE細胞現象の有無にかかわらず,これらを包括して活動性慢性肝炎(active chronic hepatitis)あるいは自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis)とも呼ばれている(ルポイド肝炎も広義にはLE細胞現象の陽性を絶対条件とせず,活動性慢性肝炎あるいは自己免疫性肝炎と同義語に用いている者もある).最近では,慢性活動性肝炎(chronicactive hepatitis)のなかに含めて,とくにルポイド肝炎を一つの疾患単位としないとする考え方が,欧米では有力である.本稿では慢性活動性肝炎のなかで,自己免疫に関連した症状および所見が強くみられるものをルポイド肝炎として取り扱うこととする.

薬物性肝障害

著者: 山本祐夫

ページ範囲:P.1828 - P.1829

はじめに
 薬物は医薬品,および化学物質を意味するが,薬物性肝障害は,中毒性機序によるものとアレルギー性機序によるものとに大別される。医薬品による肝障害は,アレルギー性機序によるものが大多数である.
 薬物性肝障害の診断では,薬物の服用にひき続いて肝障害が起こったことを確かめることがまず必要であるが,最近にいたり,患者末梢血リンパ球培養法による優れた薬物アレルギー性試験が開発され,本症の診断は大きな進歩を遂げた.

アルコール性肝障害

著者: 山内真義 ,   木村和夫 ,   藤沢洌

ページ範囲:P.1830 - P.1832

概念
 常習大酒家に認められる,いわゆるアルコール性肝障害は,一般に脂肪肝,アルコール性肝炎および肝硬変症の3つの病態に分類されている.従来より,アルコール性肝硬変の前駆病変としては脂肪肝が重視され,脂肪沈着による二次的な肝細胞の変性壊死が脂肪肝から肝硬変症への橋渡しをすると考えられてきたが,実際には大酒家における脂肪肝の高頻度の発症に比して,アルコール性肝炎ないしは肝硬変の発症頻度は著しく低く,脂肪肝から重症な肝硬変症へ移行する症例はきわめて少ない.したがって,アルコール性肝硬変の前駆病変としては,脂肪肝よりもアルコール性肝炎が重要な役割を果たすことが指摘されている.
 実験的アルコール性肝障害では,低蛋白食あるいは高脂肪食下にアルコールを長期投与すると脂肪肝を確実に発症させることができる1)

肝硬変症

著者: 河田肇

ページ範囲:P.1834 - P.1837

定義
 英語のcirrhosisやドイツ語のZirrhoseは,黄色あるいは橙色を意味するギリシャ語のKirrosが語源で,肝臓が黄疸のために,硬く黄色くなる状態に名づけられたもので,日本語の肝硬変という字句のほうが,病態を正しく表現しているともいえる.
 現在,肝硬変の定義としては,1956年の国際委員会の試案1)が広く用いられている.すなわち,

特発性門脈圧亢進症

著者: 杉浦光雄

ページ範囲:P.1838 - P.1841

概念
 門脈圧亢進症は門脈系の血流がなんらかの原因によって阻害され門脈圧亢進状態を呈することによってみられ,種々の臨床症状を総称する症候群名である.厚生省特発性門脈圧亢進症調査研究班で作成した診断の手引き(表1)では,特発性門脈圧亢進症の概念を脾腫,貧血,門脈圧亢進を示し,しかも原因となるべき肝硬変,肝外門脈・肝静脈閉塞,血液疾患,寄生虫症などを証明しえない疾患をいうとしている.診断基準からして特発性門脈圧亢進症と診断された症例の病因分科会における検討では頻度は必ずしも高くはないが,HB抗原,すなわちB型肝炎の関与は事実として認められているおり,なおウイルス性肝炎の関与が不明なもの,あるいは免疫学的機構の関与が多少推定されている症例も時にみられるが,現状では診断の手引きで示された概念から本症が逸脱するものではなく,現在もなおこの診断基準は十分用いられる段階である.

体質性黄疸

著者: 瀧野辰郎

ページ範囲:P.1842 - P.1846

概念
 先天性のビリルビン代謝異常に基づく過ビリルビン血症(過「ビ」血症と略す)で,過「ビ」血症の原因として,著明な溶血,光顕レベルの肝細胞障害,胆道の閉塞機転などが認められないものを体質性黄疸constitutional jaundiceあるいは体質性過「ビ」血症constitutional hyperbilirubinemiaという.本症の病因はいまだ十分に解明されていないが,肝細胞におけるビリルビンの摂取,抱合,移送,排泄の機構になんらかの先天的な欠陥があると考えられている.

胆道ジスキネジー

著者: 玉沢佳巳

ページ範囲:P.1847 - P.1850

概念
 胆道ジスキネジーの概念は,1923年Westphal一派によって唱道されたもので,胆汁流出装置すなわちOddi括約筋,胆嚢および胆管の機能的運動障害によってひき起こされる病態である.したがって本症では,胆石症のような症状を示しながら胆道や胆道以外の臓器に原因となる器質的変化を認めないもので,このような胆汁流出装置の機能異常は胆石症や胆道感染症などに伴ったり,糖尿病,肝炎などにも合併しうるのであるが,これらは,二次的あるいは症候性胆道ジスキネジーと呼んでいる.したがって,純粋に本症をとらえる場合には,概念的にもまた臨床的にも把握しにくい疾患である.胆汁排出装置に関する歴史的背景として総胆管十二指腸開口部近くに括約筋のあることは300年以上前から知られていた.1887年Oddiはこれが胆汁排出機構の要であることを明らかにし,それ以来Oddi括約筋と呼ばれている.その後Kruckenbergらは胆石のないのに癌痛発作を示した症例を報告し,AschoffおよびBacmeister,MeltzerおよびLyonなどによってそれらは胆嚢管の屈曲,うっ滞胆嚢,胆嚢アトニーなどと呼ばれていた.

膵炎

著者: 小田正幸 ,   本間達二

ページ範囲:P.1851 - P.1853

急性膵炎と慢性膵炎
 膵炎はその臨床経過から,急性膵炎と慢性膵炎とに分けられる.1963年マルセーユでの膵炎のシンポジウム1)で,①急性膵炎,②再発性急性膵炎,③慢性再発性膵炎,④慢性膵炎の4つに分類され,現状では一応妥当なものとして採用されている.図のように,症状・膵機能を経過とともに概観することもできるが,ここにみるように,急性の膵炎は可逆性の変化であり,慢性の膵炎は進行性の変化という点が要点である.
 したがって,1回の急性発作のときに「急性膵炎」か,「慢性膵炎」の急性期かを区別することはできない.逆に膵外分泌機能検査をして外分泌機能低下が認められても,「慢性膵炎」か,発作の軽度の「急性膵炎」の膵機能低下時期のものかを区別することもやはりできない.このようなとき,「急性膵炎」か「慢性膵炎」かを区別せず,単に「膵炎」とするのは臨床上やむをえないことであるし,欧米の文献ではしばしば「膵炎」と一括している.そのようなときでも急性発作の寛解時には各種膵検査を施行して,上述の4型のいずれかを診断して経過を観察するのは予後の面からも必要なことである.

V.内分泌・代謝疾患

バセドウ病

著者: 飯野史郎

ページ範囲:P.1856 - P.1858

 甲状腺機能亢進症とは,なんらかの原因により自己の甲状腺機能が亢進し,その結果,過剰に生成・分泌された甲状腺ホルモンによって中毒症状を呈するものと理解される.したがって,亜急性甲状腺炎などのように炎症などの結果,甲状腺組織の崩壊が起こり,過量の甲状腺ホルモンが循環血中に流出したために起こる甲状腺中毒症や,過量の甲状腺ホルモンを服用したたあに起こる甲状腺中毒症は除外される.また,最近では甲状腺機能亢進症が種々の原因によって起こることが明らかになってきたため,従来のように,甲状腺機能亢進症即バセドウ病と考えることは適切さを欠くこととなった.そこで,本稿ではまずバセドウ病の診断基準およびバセドウ・クリーゼの診断基準について述べ,あわせてその使い方とバセドウ病類似疾患との鑑別点についてふれたいと考える.

甲状腺機能低下症

著者: 入江実

ページ範囲:P.1859 - P.1861

概念
 甲状腺機能低下症hypothyroidismとは,なんらかの原因により血中に活性のある甲状腺ホルモンが欠乏ないし不足し,そのために種々の臨床的症状を呈する状態をいう.その分類は表1に示すごとくである.また,発症の時期により先天性,若年性,成人性と分ける.

甲状腺良性腫瘍—腺腫様甲状腺腫を含む

著者: 伊藤國彦

ページ範囲:P.1862 - P.1865

はじめに
 甲状腺に発生する腫瘍には良性腫瘍,腺腫様甲状腺腫,悪性腫瘍の3種類がある.これらの甲状腺腫瘍は甲状腺腫の形状から結節性甲状腺腫と表現されている.臨床診断の上からはこれらを一括して考慮すべきであるが,悪性甲状腺腫が別項で論ぜられるので,本項では主として良性腫瘍と腺腫様甲状腺腫の両者について述べることにした.

甲状腺炎

著者: 鳥塚莞爾

ページ範囲:P.1866 - P.1870

急性甲状腺炎
 咽頭炎,扁桃腺炎などに続発し,また全身性化膿性疾患において,他の化膿巣から血行性に感染して発症するが,きわめてまれであり,また甲状腺手術患者中0.03〜0.29%にみられるといわれる.
 正常甲状腺に発症する急性甲状腺炎と甲状腺腫に発症する急性甲状腺腫炎とに分けられ,起炎菌として,連鎖球菌,ブドウ球菌,肺炎双球菌などがあげられる.

副甲状腺機能亢進症

著者: 藤田拓男

ページ範囲:P.1872 - P.1873

診断基準
 副甲状腺ホルモンの分泌が増加している状態を副甲状腺機能亢進症と呼ぶが,原発性すなわち副甲状腺自身に原因のある場合と,続発性,すなわち腎不全その他の原因から二次的に起こる場合とは,臨床所見も治療もまったく異なるので,診断基準も別個のものが必要となる.両者の診断基準を表1,2に示す.

副甲状腺機能低下症—仮性副甲状腺機能低下症を含む

著者: 折茂肇

ページ範囲:P.1874 - P.1879

副甲状腺機能低下症
 概念副甲状腺からの副甲状腺ホルモンの合成,分泌が欠如または低下した状態をいう,本症はその原因によって特発性副甲状腺機能低下症と続発性副甲状腺機能低下症とに分けられる(表1).
 1)特発性副甲状腺機能低下症:不明の原因により副甲状腺機能低下症が起こった場合を特発性副甲状腺機能低下症と呼ぶ.生後まもなく発病するものには,伴性劣性遺伝により男性にのみ現われ,他の器官に異常を伴わず比較的予後良好なものと,男女両性にみられ,胸腺の先天性欠損を合併し,生後まもなく死亡するもの(DiGeorge症候群)がある.生後1年以後に発病するものの中には,Addison病やMonilia症を合併するものとしないものとがある.前者はhypoparathyroid-Addison-Monilia症候群とも呼ばれ,自己免疫疾患の一つと考えられている.それぞれの群に家族性のものと散発性のものとがある.

末端肥大症—巨人症を含めて

著者: 鎮目和夫 ,   出村黎子

ページ範囲:P.1880 - P.1881

概念
 末端肥大症または下垂体性巨人症は,成長ホルモン産生下垂体腺腫からの成長ホルモンの過剰分泌による病的状態であり,骨,軟骨,軟部組織,粘膜などの増殖,肥大によってきわめて特徴的な顔貌および全身所見を呈するので,一見して容易に診断される場合が多い.
 本症の診断基準は,昭和48年7月に結成された厚生省特定疾患下垂体機能障害調査研究班によって作製されたが1),その後,3年間の研究成果に基づいて一部改訂された2).この診断基準は,主に成長ホルモンの過剰に基づく臨床症状と,成長ホルモンの分泌異常に基づく検査所見,さらに下垂体腫瘍としての局所症状および種々の内分泌異常の3つに大別される.

Simmonds-Sheehan症候群

著者: 岡田義昭

ページ範囲:P.1882 - P.1885

はじめに
 Simmonds病が著明な"るいそう"と悪液質を伴う汎下垂体機能低下症であるのに対し,Sheehan症候群は出産時の大出血,ショック後に起こる下垂体前葉機能低下症を指す.しかし本稿では,原因がなんであれ,Simmonds-Sheehan症候群を含んだ下垂体前葉機能低下症について述べ,特殊な疾患として前葉ホルモン単独欠損症および下垂体性こびと症についても触れてみたいと思う.

尿崩症

著者: 吉田尚

ページ範囲:P.1886 - P.1888

概念
 尿崩症は下垂体後葉からの抗利尿ホルモン,ADH放出の障害により著しい口渇,多飲,多尿を呈している状態である.典型的な尿崩症においては著しい多尿が特徴的であり,1日3,000ml以上,大部分の症例では1日5,000ml以上となる.このような多尿を呈する疾患は尿崩症以外では腎性尿崩症,多飲症,および高Ca血症あるいは低K血症のごく一部の症例に限られる.慢性腎不全など糸球体濾過量の減少する腎疾患では尿の濃縮力が障害されて多尿状態となっても5,000ml/日以上になることはほとんどない.したがって,実際に尿崩症と慢性腎不全が多尿の鑑別という意味で問題になることは少ないが,念のために腎機能を検査する必要はある.糖尿病も口渇,多飲,多尿を呈するが,尿量が糖尿病のみで5,000ml/日以上になることはまずないといってよい.尿比重あるいは尿糖チェックにより容易に鑑別可能である.

ADH過剰症候群

著者: 斉藤寿一

ページ範囲:P.1890 - P.1893

概念
 体液浸透圧または体液量の恒常性を維持する上で,視床下部-下垂体後葉-腎で形成されるフィードバック機構が主要な役割をはたしており,その異常が臨床的には低ナトリウム血症または高ナトリウム血症として発現することがある。ADH過剰症候群(SIADH,Syndrome of Inappropriate Secretion of ADH)は,体液量の減少がない状態で,血漿浸透圧の低下があり,もしADH分泌調節が適切(appropriate)であれば,ADH分泌が抑制され,水利尿が発来して血漿浸透圧が正常域にまで上昇是正されてしかるべき病態で,ADH分泌が相対的高値にとどまるために,低Na血症がつづく状態である.症状および検査成績の組み合わせとして本病態は規定され,その成因となる原疾患は表1に示すごとく,きわめて多種のものが含まれるが,バゾプレシンの由来に基づいて2大別すれば,腫瘍とりわけ未分化癌による異所性ADH産生に基づく本症候群と,下垂体後葉に由来するADHの過剰とにわけられる.ここにあげた各疾患は,本症候群の提唱者Schwartzらの示した基準1)に合致する典型的な症状に基づいて報告されているが,これ以外の疾患における低Na血症,とりわけ副腎皮質機能低下症,下垂体前葉機能低下症,甲状腺機能低下症などにおいて,低Na血症の成立と病態維持にADH分泌がどの程度関与しているかは,なお今後にのこされた課題となっている.

副腎皮質不全

著者: 吉田尚義

ページ範囲:P.1894 - P.1896

はじめに
 副腎皮質不全とは副腎皮質ホルモンが急性または慢性に欠乏した状態をいう.副腎皮質不全は原発性と続発性とに分けられるが,続発性(下垂体性)は下垂体前葉機能低下症において述べられるので,本稿では,原発性の慢性副腎皮質不全(Addison病)と急性副腎皮質不全について述べる.

アルドステロン症

著者: 河野剛

ページ範囲:P.1898 - P.1901

概念
 アルドステロン症(aldosteronism)とはアルドステロン分泌過剰症(hyperaldosteronism)と同義語である.これには表1にあげるような多くの疾患がある.その中で,副腎皮質に原発性病変のあるものを原発性アルドステロン症(primary aldosteronism),副腎皮質以外の場所に原発性病変があるものを続発性アルドステロン症(secondary aldosteronism)と呼ぶことにしていたが,副腎癌ではアルドステロン以外の副腎皮質ホルモンの分泌増加をも伴うのが常であり,特発性高アルドステロン症では副腎皮質以外の所に原発性病変のある可能性もあるので,1961年以後,この両疾患は原発性アルドステロン症の範疇から外され1),現在では副腎皮質の良性腺腫によるアルドステロン症のみを原発性アルドステロン症と呼んでいる.
 表1の4)〜16)の疾患群は続発性アルドステロン症に入れられる.そのうち14)15)および16)については同名の題目で他の筆者が執筆されるので詳細は省略し,この3疾患以外のアルドステロン症の診断基準について以下に述べることにする.

Cushing症候群

著者: 井村裕夫

ページ範囲:P.1902 - P.1907

概念
 Cushing症候群は,1932年Harvey Cushingによってpituitary basophilismの名称のもとに初めて報告された,肥満,満月顔,高血圧,糖尿,月経異常,骨粗鬆症などの一連の症状をきたす疾患である.その後こうした症状は,副腎皮質よりのグルココルチコイド(とくにコルチゾール)の分泌亢進により起こることが明らかとなった.すなわち,Cushing症候群はコルチゾール過剰症であるといえる.しかし,1960年以降になって肺癌などの悪性腫瘍がACTHを産生する,いわゆる異所性ACTH産生腫瘍においては,コルチゾール過剰症があってもCushing症候群の症状を伴わない場合が多いことが知られるようになった.したがって,現在Cushing症候群はコルチゾールの分泌亢進に基づく肥満,満月顔などの臨床症状を呈するものに対して用いられる.一方こうした症状の有無にかかわらず,コルチゾールの分泌亢進がある場合,コルチゾール過剰症(hypercortisolism)と呼ぶことができる.
 Cushing症候群またはコルチゾール過剰症を成因別に分類すると表1のごとくである.このうち下垂体ACTH分泌亢進症は,Cushing病とも呼ばれ,下垂体に塩基好性または色素嫌性細胞腺腫を認めるものと腺腫が見られないものとがある.前者は下垂体性,後者は中枢性とも考えられる.

副腎性器症候群

著者: 井林博 ,   赤嶺康夫

ページ範囲:P.1908 - P.1913

概念
 副腎性器症候群(adrenogenital syndrome)は副腎皮質cortisol生合成系酵素の先天性欠損ないし不全による両側副腎過形成または副腎腫瘍とくに副腎癌が原因となり,副腎皮質から男性ホルモン,時に女性ホルモンの分泌過剰が起こり,男児の性早熟,女児における外性器その他の男性化あるいは男性の女性化をきたす疾患群である.先天性副腎過形成に起因するものを先天性副腎性器症候群,副腎腫瘍によるものを後天性副腎性器症候群という.正常人の副腎皮質ステロイド生合成系路とその主要代謝系は図1に示すごとく,cortsol生合成の主要経路は,cholesterol→pregnenolone→progesterone→17-OH progesterone→11-deoxycortisol→cortisolであり,先天性副腎過形成はこれら各stepの酵素の欠損や不全により起こりうる.すなわち酵素の欠損によりcortisolの生合成と分泌障害があると,negative feed back機序により内因性ACTHの合成分泌亢進が起こり副腎皮質の肥大過形成を生じる.生化学的には血中ACTH,β-MSHの上昇,血中cortisolの低値および欠損部以前のステロイド前駆物質の蓄積とcortisol系以外の経路すなわちandrogens系やmineralocor ticoids系への生合成代謝shiftが起こり,これらの異常な過剰分泌をきたす.

褐色細胞腫

著者: 山田律爾

ページ範囲:P.1914 - P.1915

概念
 褐色細胞腫は重クロム酸カリで染色して褐色になる腫瘍であることから名づけられた.現在ではカテコールアミンを大量に含有する腫瘍を意味している.副腎髄質細胞から発生することが多いが,交感神経細胞などのクロム親和性細胞からも発生する.したがって,褐色細胞腫は副腎部の後腹膜下に主として発生するが,腹部のZuckerkandl器官や腹部大動脈前部,膀胱部,胸部(胸腔内)などにも見られる.このことは褐色細胞腫と診断しただけでは不十分であって,体内のどの部位にあると診断しなければならないことを意味する.副腎髄質からのカテコールアミンの分泌は安静時は非常に少ないが,刺激されると噴出と形容されるように急激に多量が分泌される.褐色細胞腫も同様で,カテコールアミンがあまり分泌されないときと,多量に分泌されるときがあるので,その症状は多彩であると同時に時間的な変動が著明である.換言すれば無症状の褐色細胞腫があることを意味している.

カルチノイド症候群

著者: 細田峻

ページ範囲:P.1916 - P.1918

概念
 カルチノイド腫瘍は本来小腸由来の"良性経過をたどる未分化癌"(1907)に与えられた名称である.続いてこの腫瘍が消化管に散在する銀還元性のKultschitzky細胞と同じ銀還元性顆粒を保有することが明らかにされ,Argentaffinomaとも呼ばれた,その後類似の組織像を与える腫瘍が胃,虫垂,大腸,直腸などのみならず,気管支,卵巣にも発生することが明らかにされ,現在では,膵,胆嚢,胸腺,食道,睾丸,耳下腺,子宮,腎,膀胱,尿道,前立腺からの発生も知られている.
 本腫瘍は,消化器,呼吸器,泌尿生殖器の粘膜上皮に嵌入散布されたdiffuse endocrine glandsに由来する内分泌腫瘍一般を包括するため,発生腫瘍もそれぞれの母細胞の内分泌能に応じて異なった活性物質を産生し,時に過剰症候群を発現する.

糖尿病

著者: 平田幸正

ページ範囲:P.1920 - P.1923

概念
 糖尿病の概念は幅の広いものである.広義には一次性糖尿病以外に,インスリン作用の不足を惹起すると考えられる明らかに臨床的な原因を認める二次性糖尿病を含む.これに対し,先天的な素質に原因が求められる一次性糖尿病がある.これも広義にはprediabetesという発症前の時期を含むのであるが,狭義にはインスリンの慢性的な不足による代謝異常を認めた場合をいう.一般的には,最も狭い意味の糖尿病をもって糖尿病ということが多い.すなわち,先天的素質を原因としてインスリン不足を生じ,それによって代謝異常を呈するに至った場合を糖尿病という.このように,その基本は代謝異常であり,主要臓器には特有の病変を見出すことなく発症する.ただし若年型糖尿病のあるものでは,発症に際し,膵島炎を認めるものがある.なお,最近,若年発症若年型糖尿病に限って特有なHLA抗原を認める頻度が高いといわれ,わが国ではBW22が注目されるに至っている.

高脂血症

著者: 中村治雄

ページ範囲:P.1924 - P.1926

定義
 高脂血症(hyperlipemia,lipemia)は,狭義には血清白濁を示し,トリグリセライド(TG)の増加をみるものを指しているが,広義には高脂質血症(hyperlipidemia)と同意語である.これは血清TG,コレステロール(C),燐脂質(PL),遊離脂酸(FFA)のいずれか一つ以上の異常増加を指している,また,カイロマイクロン,pre-β-リポ蛋白(VLDL),β-リポ蛋白(LDL),α-リポ蛋白(HDL)の増加を示す高リポ蛋白血症(hyperlipoproteinemia)とも同意語的に用いられている.しかし,厳密には,これらの中でも高リポ蛋白血症と,高脂質血症または高脂血症とは区別すべきであると考えられる.それはリポ蛋白としての異常があるか,脂質側に異常があるかを鑑別する必要がある.

肥満症

著者: 内藤周幸

ページ範囲:P.1927 - P.1929

概念
 肥満(症)とは,正常以上に全身の脂肪組織が増加した状態である.したがって,普通は脂肪組織が局所的に増加した場合はlipoma(脂肪腫)といって肥満には入れないのが一般ではあるが,脂肪腫にもほぼ全身に拡がっているlipomatosis(脂肪腫症)もあり,また一方,むしろ四肢は細くなり躯幹でもっぱら脂肪組織が増加する,いわゆる中心性肥満であるCushing病(ないし症候群)の場合も肥満に含められるので,上述の定義では必ずしも十分ではない.しかし,肥満と脂肪腫症とでは脂肪組織の増加が一様でsmoothである(前者)か,腫瘤状に凸凹している(脂肪腫症)かによって,視診により鑑別は容易である.
 しかし一方,肥満を"症"すなわち疾患として捉えるか否か,また"症"とした場合,どの程度の肥満からを"症"とするかの基準は定められていない.したがって,ここでは肥満と肥満症とは同意語として取り扱っておく.

痛風—1977,ARA Criteriaの紹介と問題点

著者: 西岡久寿樹 ,   御巫清允

ページ範囲:P.1930 - P.1934

はじめに
 痛風は種々の原因による尿酸代謝から生じる高尿酸血症を基礎病変とし,痛風発作と称される特異的な関節周囲炎を主症状とする疾患である.
 痛風発作の特異的な臨床経過と,高尿酸血症の発症の機序を把握しておけば,診断および治療上,とくに問題となる点は比較的少ない.しかしながら本邦でも成人男性を中心に増加の一途にある疾患であり,筆者らの住民調査成績では,人口あたり0.4%,年間推定発症率0.02%となっている(西岡1976)1)

ポルフィリン症

著者: 佐々木英夫 ,   蛯谷功

ページ範囲:P.1935 - P.1939

概念
 ポルフィリン症(porphyria)はポルフィリン代謝障害に基づく症候が症状の主体を占め,ポルフィリンないしその前駆物質を多量に産生し,排泄する疾患と定義されている.これまでポルフィリンの先天的代謝異常によるとされていたが,最近では後天的にも種々の疾患や薬剤によっても二次的にも生ずることが判明している.しかし,癌や肝炎などの原因疾患があって二次的に尿ポルフィリンが増加するが,ポルフィリン代謝自体による症状を呈さぬポルフィリン尿症(porphyrinuria)とは一応区別されている.
 ポルフィリン症の分類は表1のごとく,ポルフィリンの代謝障害のある臓器により骨髄型と肝型に2大別され,それぞれ増加するポルフィリンの種類や遺伝性,原因などにより細別されている.しかし,症候的には光線過敏性皮膚炎を呈する皮膚ポルフィリン症と急性腹症,四肢麻痺,ヒステリーなどを呈する急性ポルフィリン症に分けられ,臨床的にはむしろこの分類が重要なので,以下それに沿って述べたい.

ヘモクロマトーシス

著者: 白石忠雄

ページ範囲:P.1940 - P.1942

はじめに
 体内への鉄過剰沈着状態はヘモシデローシスとヘモクロマトーシスとに大別され,鉄沈着の原因によって,特発性(原発性,内因性)と続発性(外因性)とに分類される.
 ヘモシデローシスとヘモクロマトーシスとの区別については,一般に,前者は鉄沈着部位が主として肝,脾,骨髄の網内系であり,器質的にも機能的にも異常は認められないが,後者では,沈着は全身臓器の上皮性細胞,とくに肝,膵,皮膚に著明で,心臓,副腎,睾丸,下垂体にも及び,鉄の有害作用によって,これらに器質的あるいは機能的変化を起こし,臨床的には肝硬変症,糖尿病,皮膚の着色(3主徴),性機能不全(4主徴),循環不全などの症状を現してくる.

糖原病

著者: 芳野信 ,   山下文雄

ページ範囲:P.1944 - P.1948

概念
 糖原病は,量的または質的に異常な糖原が肝,筋などの特定の組織または全身の諸臓器に蓄積する遺伝性代謝異常症である.同じ糖原の代謝異常症でも,糖原の合成が障害されていて蓄積の起こらないglyoogen synthetase欠乏症は,ここでは省略する.糖原病は,酵素欠損(または欠乏)の部位によって,表1のように分類されている.

VI.神経・筋疾患

脳血管疾患

著者: 田崎義昭

ページ範囲:P.1950 - P.1954

はじめに
 脳血管疾患の診断は,最近種々な補助診断法の導入により容易なものになりつつある.補助診断法としては,これまで主に脳血管撮影,脳スキャンなどが用いられてきたが,現在ではcomputed tomography(CT)が使用されるようになり,きわめて精度の高いものになりつつある.しかしCTを設置してある病院はまだ数少なく,突発する脳卒中患者をCTのある施設まで移送する体制も整備されていない.したがって現状では,実地医の大多数は往診先で脳血管疾患の大まかな診断をせねばならない.ここではベットサイドでの脳血管疾患の診断に必要なポイントをあげておこう.

くも膜下出血

著者: 加川瑞夫

ページ範囲:P.1956 - P.1960

概念
 くも膜下出血とは脳脊髄くも膜下腔への出血を意味する一つの徴候であり,起因疾患は必ずしも少なくない.症候学的には極あて特徴的な病像であり,突発する激しい頭痛,一過性意識障害,髄膜刺激症状,多くの場合局所神経症状を欠いており,血性髄液を証明する.これら臨床病態をもつものをくも膜下出血という.
 文部省脳卒中研究班(1962)の診断基準によれば,くも膜下出血の診断基準は表1のごとくである.

一過性脳虚血発作

著者: 大友英一

ページ範囲:P.1962 - P.1965

一過性脳虚血発作の概念
 一過性脳虚血発作(transient ischemic attack;TIA)は一過性に神経症状が出現するもので,頭蓋内外の脳動脈の粥状硬化と密接な関連を有し,脳梗塞を伴わないものとされている.神経症状の出現が一過性(通常5〜10分が最も多い)であることから,症状出現時医師が現場にいることは少なく,診断には患者の訴えが重要な役割を果たすこと,各種の臨床検査で確実な診断を決める所見に乏しいこと,受診時症状が存在していても確実な診断は症状消失(通常24時間以内)を待ってはじめてなされること,また臨床診断名に「脳梗塞を伴わない」という病理学的事項の枠がはめられていること,とくに脳梗塞への進展が少なくなく,脳梗塞の警戒警報ともいえる点など,臨床上極めて重要なものであるが,問題点も少なくないclinical entityである.

頭痛

著者: 古和久幸

ページ範囲:P.1966 - P.1969

頭痛の分類
 頭痛はいろいろな基礎疾患であらわれる自覚症状であり,それ自体を他覚的に把握することはむずかしい.頭痛の分類も種々試みられているが,いずれも完全といえるものはみあたらない.
 基礎疾患による分類は,あまりにも多岐にわたり,かえって混乱をまねく恐れもある.

めまい—メニエール病とその類似疾患を中心に

著者: 小松崎篤

ページ範囲:P.1970 - P.1972

はじめに
 耳鳴,難聴などを伴うめまいは一般にメニエール症候群と呼ばれているが,最近ではめまい=メニエール症候群とする短絡的な診断名が用いられることがある.
 しかし,めまいを起こす疾患は典型的なメニエール病をはじめとして第8神経末梢部の障害のみならず,聴神経腫瘍,その他の脳腫瘍や後頭蓋窩の血管障害などでもみられ,予後は異なってくるため注意を要する.

てんかん

著者: 玉井充

ページ範囲:P.1974 - P.1977

定義と診断基準
 てんかんの概念については,WHO国際てんかん用語委員会の定義が広く認められている,それによれば,「種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患であって,大脳ニューロンの過剰な発射による反復性の発作(てんかん発作)を主徴に,いろいろの臨床および検査所見を伴うもの」とされている.すなわち,てんかんは臨床的には反復性の発作症状を示し,脳波所見からそれが裏づけられるものである.
 これらを踏まえて考えると,てんかんの診断には表1の順序が必要になる.

急性期意識障害—"3・3・9度方式"による分類と診断基準

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.1978 - P.1981

概念
 意識障害を解析する場合,普通,次の3つの側面からアプローチされる(図1).すなわち,①覚醒(arousal)が可能であるか,②外的刺激に対して適切に反応(身体的)するか,③意識内容が正常であるか,の3点である.最も一般的な意識障害の型は覚醒障害で,外的刺激を加えても覚醒(一応,開眼と考えてもよい)しない場合,意識消失(loss of consciousness)または昏睡(coma)と呼ぶ.かかる意識消失患者からは意識内容の検討はできないので,外的刺激に対する反応の具合をチェックする.これに対し,診察している患者が覚醒していると,意識障害なしと判断されがちであるが,必ずしもそうでなく,適当に質問して意識内容の異常の有無を調べる必要がある.上述の中間の型,すなわち,外的刺激により覚醒し,覚醒のあと,意識内容がどうであるかをチェックしなければならない例は,臨床上非常に重要で,しかもやっかいなものである.
 普通,急性意識障害という場合,前述の3要素のうち覚醒障害が前景をなすものである.意識消失または昏睡は,当然急性期意識障害例であるが,植物症のように自発的覚醒はできるが,意識内容がないか,乏しいものは慢性意識障害と呼ばれる(表1).

多発性硬化症

著者: 柴崎浩

ページ範囲:P.1982 - P.1985

概念
 多発性硬化症(multiple scierosis,以下MSと略す)は,脱髄性脳脊髄炎の中で最も多いものであり,グリオーシスのために硬くなった脱髄斑が中枢神経系白質に散在するものである.臨床的には,若年成人に急激に発症し,中枢神経系の多巣性病変に基づく症候が緩解と再発をくり返すのが特徴である(図).MSの頻度は,欧米では若年成人の神経疾患の中でも最も多いものの一つであるが,わが国では人口10万2〜4と高くない.
 MSの診断は,髄液中のγ-グロブリン,中でもIgGが増加していると,かなりその可能性が高くなるが,そうでない場合もあり,もっぱら臨床的に,すなわち病歴と神経学的所見に基づいてなされるのが現状である.

運動ニューロン疾患

著者: 近藤喜代太郎

ページ範囲:P.1986 - P.1989

定義
 運動ニューロン系を選択的に侵し,徐々に進行する成人期の原因不明の変性疾患を運動ニューロン疾患(motor neuron disease,MND)と総称する.本症の歴史はCharcot(1869)の講義に始まるとされる.その詳細は萬年(1968)に再録されているが,女に多いと述べた誤りを除けば,今日なお生命を保っている.
 なお,運動ニューロン系にほぼ限局する変性疾患には,幼小児期に起こるWerdnig-Hoffmann病,青年〜中年期に起こり,近位筋萎縮を呈するKugelberg-Welander病はじめ,種々の特殊な疾患があるが,これらはMNDには含めないのがふつうである.

脊髄小脳変性症

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.1990 - P.1993

概念
 脊髄小脳変性症は臨床的には運動失調を主症状とし,病理的には小脳およびそれに関連する神経経路の変性を主体とする原因不明の変性疾患の総称である.したがって,病変の分布や拡がりによってあらわれる症状の組み合わせが異なり,発症の年齢や経過などにも違いがあるので,この中にはいくつかの疾患が含まれている.脊髄小脳変性症の歴史は古く,1861年Friedreich型の運動失調症が最初に記載され,1893年Pierre MarieによってFriedreich病とは別のMarie型遺伝性運動失調症が報告された.その後も臨床病理学的検索により次々に種々の型の疾患が報告されている.脊髄小脳変性症にはこのようにいくつかの疾患が含まれているが,これらのものがそれぞれ独立的なものとして理解してよいかどうか,お互いの疾患相互間の関連についてもなお問題点が残されている.
 運動失調を主体にし,他の随伴症候をもち,脊髄小脳変性症に類似するもので,代謝異常の存在などが明確にされたものがあるが,現在ではこれらのものは脊髄小脳変性症の群とは区別して取り扱われている.

Guillain-Barré症候群

著者: 濱口勝彦

ページ範囲:P.1994 - P.1996

はじめに
 Guillain-Barré症候群(以下GBSと略す)は,1916年,Guillain,BarréとStrohlが報告した2例の根神経炎に類似の臨床症状を呈するものにつき,DraganescuとClaudian(1927)が初めて命名した症候群である.その後Landryの上行性麻痺とも同一範疇に属するものとしてLandry-Guillain-Barré症候群とも呼ばれる(HaymakerおよびKernohan,1949).しかし,本症候群の概念や臨床的特徴あるいは診断基準について諸家の間に必ずしも意見の一致をみず,若干の混乱がみられる.これらの混乱を解決するために,Osler(1960)が原著に比較的忠実な診断基準を提唱したが,その後もなお統一見解は得られず,Marshall(1963),Poser(1963),Wiederholt(1964),McFarland(1966),Sigwald(1970),Masucci(1971)らがそれぞれの立場から診断基準につき考案している.このような状況下にあることを念頭において,診断基準について述べる.
 現在,GBSは原因不明の多発性根神経炎のうち,特徴的な発病様式,臨床症状,髄液所見および経過を呈するものと考えられる.

重症筋無力症

著者: 木下真男

ページ範囲:P.1998 - P.2000

概念
 神経・筋接合部に障害があって,神経から筋への伝達が不完全となり,しばしばブロックの状態が生じる疾患のうち,原因が明らかでないものを指す.神経・筋伝達ブロックを主症状とする疾患は表1のように分類できるが,これらのうち重症筋無力症は免疫異常によると推定されており,しばしば自己免疫疾患のひとつに数えられている.

周期性四肢麻痺

著者: 高木昭夫

ページ範囲:P.2001 - P.2003

概念
 本症はその病名から推定されるように,四肢を主体とした弛緩性麻痺が発作性に出現する状態である.本症は遺伝形式,麻痺中の血清カリウム(K)の変動,合併症の有無に基づき数種の病型に分類されている(表1).各症例の診断に際して,的確な病型分類を行うことは治療方針や予防法の決定に極めて重要である.病型分類上のポイントは,①詳細な家族歴の聴取により,家族内発症者の有無を確認する,②甲状腺機能亢進症の有無をチェックする,③自然発作の様子を観察する.ことに血清K値を測定する,④麻痺の誘発試験を慎重に試みるなどの諸点である.本症は決して頻度の高い疾病ではないため見逃されがちである.重要な点は,脱力発作を愁訴とする症例の診断に際して,本症候群を鑑別診断の一つとして忘れないことである.

パーキンソン病

著者: 清水夏繪

ページ範囲:P.2004 - P.2005

概念
 パーキンソン病は振戦・筋硬直・寡動を3主徴とする錐体外路系の変性疾患で,特発性パーキンソニズム,原発性パーキンソニズム,振戦麻痺などとも呼ばれ,1817年,James Parkinsonによりshaking palsyとして独立した疾患として記載された。病理学的には黒質緻密帯のメラニン含有細胞の変性,脱落およびLewy小体の出現,生化学的には尾状核,被殻のドーパミン含量の著明な低下が特徴であり,それがL-Dopa治療の理論的根拠となった.黒質線条体路はドーパミンニューロン系であって,黒質で作られたドーパミンが線条体へ送られる.錐体外路系にはセロトニン,GABA,substance P,ノルアドレナリン,ドーパミン,アセチルコリンなど種々の生物学的活性のある物質が多量に存在するが,パーキンソン病の病態生理にはとくにドーパミンとアセチルコリンが重要であると考えられている.ドーパミンは黒質,尾状核,被殻に,アセチルコリンは尾状核,被殻,淡蒼球に多量に存在する.パーキンソン病ではドーパミンが低下し,相対的にドーパミンとアセチルコリンの平衡がくずれて症状発現に関係するとする考えが多い.同様の症候は一酸化炭素やマンガンの中毒,向精神薬,変性疾患,大脳基底核の血管障害,腫瘍,炎症などでもみられ,それらは続発性パーキンソニズム,症候性パーキンソニズム,パーキンソン症候群と呼ばれている.

癌性ニューロパチー

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.2006 - P.2007

 悪性腫瘍の経過中に神経筋症状がみられることは稀ではない.このような症状の多くは,原発腫瘍,転移腫瘍による神経系の直接侵襲によるものであるが,その一部は腫瘍に対する治療の副作用によるもの,腫瘍に合併する循環障害によるもの,感染によるものなどである.しかし稀に原因不明の神経筋疾患が悪性腫瘍と相前後して発症することがあり,これら一群の神経筋疾患が"癌性ニューロパチー","癌性ニューロミオパチー","paraneoplastic syndrome","paracarcinomatous neurologic disorders","remote effects of cancer on the nervous system"などの名でよばれている.

VII.膠原病・免疫・アレルギー疾患

慢性関節リウマチ—悪性関節リウマチも含む

著者: 柏崎禎夫

ページ範囲:P.2010 - P.2015

概念
 関節痛を主症状とするリウマチ性疾患の中で,日常診療上,頻度の高いものが慢性関節リウマチ(RA)である.RAは慢性非化膿性の関節炎を有する全身性疾患であるが,現時点では特定の原因に対応した病気であるとはいえない.したがって,原因の明らかなものや判然とした疾患単位を構成するものを除外して,なおかつ一定の特徴像を有するものに付された症候群といえる.その特徴像は,①対称性に侵す慢性の多発性関節炎で,②緩解と再燃をくり返して徐々に進行し,早期では関節軟部組織の腫脹(典型例では紡錘状腫脹),晩期であれば尺骨側偏位などの特徴的な関節変形を呈する.③リウマトイド皮下結節などの関節外症状をしばしば有し,④リウマトイド因子が陽性になる.⑤X線上,骨多孔症に加えて,骨・軟骨の破壊像がみられることである.
 定型的なRA像を示す症例であれば診断は極めて容易である.しかし,上述の特徴像のいずれの一つをとっても診断の決め手になり得るものはないために,RAの早期例,軽症例,あるいは非定型例の場合に診断上混乱が起こる.とくに多施設間での研究成績の比較とか疫学調査の場合に問題が生ずるために,診断基準の必要性が出てくる.

リウマチ熱

著者: 大国真彦

ページ範囲:P.2016 - P.2019

はじめに
 リウマチ熱の診断はむずかしいといわれる.これはリウマチ熱の場合,診断上の決め手がないことによる.そのために,実際臨床上に極めて多くのoverdiagnosisとunderdiagnosisがみられる.これはリウマチ熱が溶連菌感染そのものではなく,その成立にはアレルギー性あるいは自己免疫性機転が関与しているために病像が極めて複雑になることにもよるし,また個々の症状に対する一般の理解が不十分なことにもよると考えられる.そのために改訂Jones基準をもとにして,厚生省研究班によるリウマチ熱の診断および治療基準が定められた.

全身性エリテマトーデス(SLE)

著者: 大藤眞

ページ範囲:P.2020 - P.2023

概念
 1948年Klempererは結合織の細胞間成分とくに膠原線維ほか線維成分の変性に注目してdiffuse collagen diseaseの概念を作ったが,全身性エリテマトーデス(SLE)はその素材の一つであった.
 その後1950年代になってSLEの患者の材料からLE因子,抗核抗体が発見され,自己免疫性溶血性貧血の抗赤血球抗体,慢性関節リウマチのリウマチ因子,慢性甲状腺炎の抗甲状腺抗体などの発見と相伴って,この時代に自己免疫の概念が確立されるに至った.

多発性筋炎,皮膚筋炎

著者: 里吉営二郎 ,   若田宣雄

ページ範囲:P.2024 - P.2027

概念と分類
 多発性筋炎と皮膚筋炎はいずれも筋に一次性の炎症性反応を伴って筋変性を示す疾患で,その分類や定義は未だ一定の見解に達していない.皮膚科領域では,多発性筋炎は皮膚症状のない皮膚筋炎と考える人も少なくないが,内科領域では両者およびその類縁疾患を含めて広義の多発性筋炎ないし多発性筋炎症候群として取り扱っているものが多い.
 内科では一般にWaltonおよびAdams1),ないしPearsonの分類が用いられ(表1)ているが,その分類の基準も少し曖昧で,なかなか判然としていない傾向がある.

全身性強皮症

著者: 菅原光雄

ページ範囲:P.2028 - P.2030

概念
 本症はZactus Lusitanusにより1634年に記載されたのが嚆矢とされている.1945年,Goetz2)はprogressive systemic sclerosis(以下PSSと略)なる病名を提唱した.本邦では,強皮症のほかに鞏皮症,硬皮症なる病名も同義語に使用されてきている.
 本症はPSSの病名が示すように,徐々に進行する全身性硬化を基調とする疾患であり,皮膚の病変に関しては,その経過により,①浮腫期,②硬化期,③萎縮期に大別される.すなわち,それぞれの経過に従い,皮膚硬化性,血管運動性病変が出現するわけであるが,さらに内臓における諸病変が並行して発生するのが特徴である.

結節性動脈周囲炎

著者: 吉沢久嘉

ページ範囲:P.2032 - P.2034

概念
 結節性動脈周囲炎periarteritis nodosaは1866年KussmaulおよびMaierによってはじめて紹介されたものである.その特徴として中小動脈の走向に沿った分節的な血管炎による結節をふれ,かつ諸臓器にもかかる病変の存在することが剖検で確かめられて,病理学的にこの名称が与えられた.しかし,その後必ずしも結節のみられぬものもあり,また病理組織学的には動脈周囲のみならず,全層にわたって病変を示すことが明らかとなってからは,むしろ多発性動脈炎polyarteritisと呼称するほうがより妥当と考えられている.さらに最近では,動脈のみならず静脈も含めて,炎症と壊死を伴うすべての血管病変をもつ疾患を一括して広く壊死性血管炎と呼称し,この概念の中で本症を捉えようとする方向にある.
 壊死性血管炎にはまだ十分な分類がなされていない.他の膠原病に伴うものや薬物によるものなど,原因の明らかな,いわば二次的な病変と,原因不詳のものとに大別すれば,本症は後者のカテゴリーに入る.

Buerger病

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.2035 - P.2037

概念
 Buerger病は青壮年男子の下肢に好発し,再発をくり返す傾向にあって,わが国では一般に四肢慢性動脈閉塞疾患の過半数を占めているが,実際にはいわゆるbasket diagnosisとして安易に用いられている.
 Buerger病を定義すれば,閉塞性血栓血管炎(thromboangitis obliterans)とは四肢,稀に内臓の動静脈の分節的疾患であって,動静脈壁全層のびまん性,炎症性,増殖性,非化膿性の病変ならびに罹患血管の血栓性閉塞を特徴とし,青壮年男子に主にみられる,ということになる.

大動脈炎症候群

著者: 伊藤巌

ページ範囲:P.2038 - P.2040

 厚生省特定疾患大動脈炎症候群調査研究班により作成された本症の診断の手引きには,表1のごとく述べられている.
 大動脈炎症候群の診断基準は,この手引きに要約されているが,以下に若干の解説,補足を加えることとする.

Overlap症候群

著者: 安倍達

ページ範囲:P.2042 - P.2045

Overlap症候群とは
 結合織疾患として取り扱われる各疾患は,臨床的,血清免疫学的ならびに病理形態学的にお互いに共通する所見を示すことがある.しかし,それら個々の疾患には診断特異性の高い臨床症状は非常に少なく,個々の疾病の診断は臨床症状,血清免疫学的所見,病理形態学的所見の組み合わせで下される.したがって,臨床的には2つ以上の疾患が重複していると思われる症例や,ある時期にお互いに移行したと思われるものがある.
 Overlap症候群は,同一患者が同じ時期に2つ以上の診断基準を同時に満足する症例を意味する.教室でこれまで経験したOverlap症候群は30例に及ぶが,その内訳をみると,SLE-PSS,SLE-PSS-PM,RA-PSS,RA-SLE,RA-SLE-PSS,PSS-PM,SLE-PM,RA-PSS-PMというように多くの組み合わせがみられる.しかし,その中で特に多かったものはSLE,PSSおよびPMの間でのOverlapであった.

Behçet病

著者: 吉田赳夫

ページ範囲:P.2046 - P.2047

はじめに
 1937年より1938年にかけて,イスタンブール大学皮膚科教授のHulusi Behçet氏は,3つの症状をそろい持った症候群を報告し,一つの疾患単位とすることを提唱した.これは口腔内の数箇のアフタと,陰部の潰瘍と眼の虹彩炎とから成り,これらが幾年もの間くり返し出没し,慢性の経過をとるというのであった.その後,多数の類似症例の報告があり,その異同,分類などにつき議論されたが,その原因は未詳である一ただ,これを一つの疾患として認めてゆくうちに,この症候群を呈するものの中に,同時に内臓諸臓器もまた侵されるものがしばしばあることが知られてきた.そして今日では,Behçet病とは,全身性の多系統的疾患で,発作性に再発と増悪をくり返し,病理学的には血管病変,血管炎が共通して認められるものである,と考えられている.

Sjögren病

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.2048 - P.2051

概念
 シェーグレン病(Sjögren's disease:以下Sj病と省略)はスウェーデンの眼科医Henrik Sjögren(1933)によりはじめて記載された.すでにMikuriczは唾液腺,涙腺の腫脹をみる症候群を記載し,Mikuricz症候群と名づけているが,これはSj病と同一とされている.また,乾燥性角結膜炎keratoconjunctivitis siccaと口腔乾燥症xerostomiaを有する症候群を乾燥症候群sicca syndromeとよぶ.Sj病はこの乾燥症候群と膠原病の合併したものである.

原発性免疫不全症

著者: 河合忠

ページ範囲:P.2052 - P.2055

概念
 免疫不全(immunodeficiency)というのは,本来生体が有すべき免疫機構が低下または欠損する病態を総称し,大きく原発性と続発性に分けられる.原発性免疫不全症は原因不明で発病し,多くは先天性に認められる.続発性免疫不全症は悪性リンパ腫,白血病,自己免疫病,骨髄腫,免疫抑制剤の投与,放射線療法などによって二次的に免疫機能がおかされる場合である。
 生体の免疫機構は一応,次の2つの系統に分けて考えられている.すなわち,体液性免疫機構(humoral antibody response)は,形質細胞およびそれに類縁の細胞により合成されるグロブリンによって遂行されるもので,血液およびその他の体液中に抗体が検出される.細胞性免疫機構(cell-mediated immune response)は感作リンパ球によって遂行されるもので,現段階では血清中に抗体様物質が検出されていない.これらの免疫機能に関する知見の進歩は最近めざましく,とくにTリンパ球,Bリンパ球の機能検査ならびにTリンパ球のhelper,supPressor functionなどに関する進歩がめざましい.それが臨床に応用され,原発性免疫不全症の病態の理解にも広く応用されつつある.したがって,原発性免疫不全症の本質は,Tリンパ球およびBリンパ球の機能不全と理解される.

サルコイドージス

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.2056 - P.2061

概念
 サルコイドージスの第1報はHutchinsonによる皮膚病変の記載(1869)である.病理組織学的には壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫(サルコイド)病変であることは1899年,Boeckによって記載されている.その後,Schaumann(1914)は同様の病変が皮膚だけでなく,全身のリンパ節,肺などにも認められる全身性疾患であることを明らかにした.本症の胸部X線所見を最初に報告したのはKuznitsky,Bittorf(1915)であり,Lofgren(1953)はBHL(bilateral hilar lymphoma syndrome)が本症の初発症状であることを明らかにした.
 第二次大戦前後から,健康診断としての胸部X線撮影が普及するとともに,BHLのみのサルコイドージスが多数発見されるようになった.わが国でも,本症症例の50〜70%は健康診断時に無症状で発見されている.胸部X線写真で発見される症例が多いため,サルコイドージスは主として胸部領域の疾患として取り扱われているが,本質的にはあくまで全身性疾患である.

VIII.腎・尿路疾患

糸球体腎炎

著者: 小出桂三

ページ範囲:P.2064 - P.2068

糸球体腎炎の分類
 糸球体腎炎の概念とそれに基づく分類は,腎臓病学の進歩とともに変遷をくりかえし,今日にいたっている,表1は,木下が現在までの特徴をもった分類を一括表示したものである.1951年にIversenおよびBrunが,今日の経皮的腎生検法を発表し,広く普及するにおよんで,糸球体腎炎の病型分類の再検討がさけばれるようになった.表1ではReubiの分類より以降のものが生検材料の所見を考慮したものである.
 腎生検が登場する以前の糸球体腎炎の分類は,剖検時の腎組織像に基づいたもので,腎病変の発生・推移などの理解もすべて剖検所見の上に組み立てられていた.しかし,腎生検の導入により①同一患者の発病より治癒または死亡にいたるまでの組織像を経時的に観察することが可能となり,②生検材料は死後の時間による生物学的崩壊を考慮に入れる必要がないため,電子顕微鏡による超微細構造の観察や螢光抗体法による免疫組織学的研究の導入など新しい研究診断技術が用いられ,腎組織の変化の由来をより正確に把握できるようになった結果,糸球体腎炎に関する新しい知見が蓄積されるようになり,新しい糸球体腎炎の分類が要求されてきた.

腎盂腎炎

著者: 越川昭三

ページ範囲:P.2069 - P.2071

疾患概念
 腎盂腎炎という診断名の用い方に以前はかなり混乱があったが,最近は次第に整理されてきた.腎盂腎炎の組織像は間質性腎炎interstitial nephritisの像である.このため腎盂腎炎を間質性腎炎と称したり,あるいは間質性腎炎の組織所見を呈するものをすべて腎盂腎炎と称した時期があった.しかし間質性腎炎の組織所見は腎の感染症以外の疾患でも認められることが判明して,現在では間質性腎炎のうち細菌感染によるものを腎盂腎炎と称することが一般化した.つまり腎盂腎炎とはbacterial interstitial nephritisである.
 急性腎盂腎炎acute pyelonephritis腎盂腎杯および腎実質の急性感染症をいう.急性腎盂炎acutepyelitisは炎症が腎盂粘膜に限局して腎実質に波及していないものをいう.定義の上では両者の区別は明確であるが,実際の臨床の場で両者を鑑別することは容易でない,臨床症状が軽くても腎実質に炎症が波及していることがあり,臨床症状の軽重は両者の鑑別に役立たない.病理組織学的にみると,腎盂粘膜に炎症が存在するときには多かれ少なかれ必ず腎実質にも炎症が及んでいるといわれる.

ネフローゼ症候群

著者: 三條貞三

ページ範囲:P.2073 - P.2075

概念
 ネフローゼ症候群とは,その原因疾患によって多少の差はあるが,一般に多量の蛋白尿,低蛋白血症,高脂質血症および浮腫などの症状を伴うもので,その主因は糸球体基底膜の透過性亢進による多量の体蛋白喪失である.わが国では1973年厚生省特定疾患ネフローゼ症候群調査研究班によって成人ならびに小児の診断基準について,表1のごとく設定されている.

腎不全

著者: 本田西男

ページ範囲:P.2076 - P.2079

急性腎不全の概念
 急性腎不全は,急激に出現する乏尿,腎機能の廃絶尿毒性症状を主徴候とする症候群である.なかには乏尿・無尿を欠如するものがあり,非乏尿性腎不全という(表1).これに対し,乏尿・無尿を伴うものを乏尿性腎不全とよび,非乏尿性腎不全に較べ,その頻度は圧倒的に高い.

妊娠腎(妊娠中毒症)

著者: 岡匡嗣 ,   加藤暎一

ページ範囲:P.2081 - P.2085

はじめに
 妊娠の経過中あるいは産褥期には,浮腫,蛋白尿,高血圧,時に痙攣や意識障害などが合併しやすいことが古くより知られていた.この中には,妊娠後期に発症し,分娩後速やかに軽快ないし治癒する(いわゆる純粋妊娠中毒症)ものと,妊娠前から腎疾患あるいは高血圧疾患などを有しており,妊娠の早期から顕症化して分娩後も症状の持続しやすいものとの2種類のあることが知られていた.これらは広く妊娠中毒症(toxemia of pregnancy)と呼ばれてきた.

IX.血液・造血器疾患

再生不良性貧血

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.2088 - P.2090

概念
 再生不良性貧血は原因となる他の疾患がなくて赤血球,顆粒球,血小板の3系統の血球の産生が低下した病的状態で,その結果として,末梢血液中では汎血球減少症が,骨髄では低形成が起こってくる1〜4)
 表1に示したごとく,再生不良性貧血には原発性のものと,薬剤などによって起こった二次性のものとがあり,原発性の型のうち,手足の骨の奇形,皮膚の色素異常沈着,染色体の異常などを伴ったものをFanconi貧血と呼んでいる.

発作性夜間血色素尿症

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.2092 - P.2095

概念
 発作性夜間血色素尿症paroxysmal nocturnalhemoglobinuria(以下PNHと略す)は,血色素尿またはヘモジデリン尿を伴う後天性の慢性溶血性貧血である.PNH患者赤血球にはPNHとしての異常を示す赤血球群と正常または正常に近い赤血球群とが存在し,PNHとしての異常を示す赤血球は正常赤血球に比し補体による溶血に対して感受性が高く,より少量の補体によって溶血を起こす.
 赤血球のみならず,好中球アルカリフォスファターゼ活性の低下,好中球の遊走能および貪食能の低下,好中球および血小板も補体による細胞溶解に対する感受性が高いなどの好中球および血小板の異常も認められるので,PNHは幹細胞の異常による疾患と考えられる.

自己免疫性溶血性貧血

著者: 恒松徳五郎 ,   神奈木玲児

ページ範囲:P.2096 - P.2101

溶血性貧血の診断基準
 厚生省特定疾患・溶血性貧血調査研究斑で作成された溶血性貧血診断の手引きを表1に示す1).溶血性貧血は,赤血球寿命の短縮に基づく症状を主徴とする疾患である.したがって,この基準でⅢの1)にはじめてとりあげられている赤血球寿命の短縮は,実は溶血性貧血の診断にとってきわめて重要な意味をもつ所見であるが,いずれの施設でも実施しうるとは限らないので,その適用は限定されている.
 そこで,この基準では間接ビリルビン増加,網赤血球増加,貧血の存在の3つを主要所見に定めている.この点を説明しよう.体外への出血によって起こる出血性貧血とは異なり,赤血球の崩壊が体内で起こり,そして体内で処理されるために黄疸,過ビリルビン血症,尿中ウロビリノーゲン排泄の増加などが起こる.この診断基準では,主要所見として間接ビリルビンの増加をとりあげている.次に骨髄での赤血球産生の低下による貧血症とは異なり,造血はむしろ亢進しているのが普通で,この点が網赤血球の増加という所見として捉えられる.赤血球の崩壊と造血の亢進のバランスが大きく崩れた時,第3項目である貧血があらわれる.この基準では男子で12.5g/dl,女子で11.5g/dlという数値を定めているが,一般には溶血性貧血における貧血はかなり重症で,しかも急激に進行するものが多く,この基準を大きく下回る症例が多い.しかし,代謝性造血が十分に亢進しておれば,赤血球の崩壊が起こっていても貧血が出現しないことも可能である.

Banti症候群

著者: 衣笠恵士

ページ範囲:P.2102 - P.2105

はじめに
 Banti(1894)が主張したような意味でのMorbus Bantiに関しては,記載された当時から数多くの議論がくり返されて今日に及んでいることは衆知のごとくであり,病理学的には脾のFibroadenieを原発としたBantiの考えたような病態はほとんど否定され,臨床の側からも疾患の独立性を主張するものはほとんどいない現状である.
 しかし,日常の診療に携っていると,大きな脾腫と貧血,または汎血球減少症とを主症状とした症例に接する機会は少なくない.

Sideroblastic anemia

著者: 青木洋祐

ページ範囲:P.2106 - P.2109

概念
 sideroblastic anemia(鉄芽球性貧血)は低色素性ないしは二相性貧血,ring sideroblastの出現を特徴とする貧血である1).本症は単一の疾患というよりは,むしろ種々の異質の疾患群を含む一種の症候群と考えるべきである.一般に自覚的には貧血の諸徴候(易疲労性,動悸,息切れ,眼瞼結膜の蒼白など)のみを有するが,発病が徐々のためになんらの自覚症状も訴えないこともかなり多い.他覚的には,貧血のほかには軽度の肝脾腫を認めることがある以外には所見はないのが普通である.検査所見では貧血,血清鉄上昇,多数のring sideroblastの出現が特徴である.
 最もわかりやすく実用的な分類は表1のごときものであろう.先天性,獲得性,ビタミンB6反応性,慢性赤白血病型と4群に分け,獲得性はさらに特発性と二次性に分ける.最も多いタイプはprimary acquired typeであり,これは遺伝性はなく,特殊な疾患や薬剤との因果関係も認められず,さらにビタミンB6投与無効な型である.secondary typeは他の血液疾患あるいは特殊な非血液疾患に随伴した型あるいは特殊な薬剤の副作用によるものである.遺伝性の証明されるものはhereditary typeであり,pyridoxine responsive typeはビタミンB6投与が著効を奏すタイプである.

赤血球酵素欠乏症と異常症

著者: 三輪史朗

ページ範囲:P.2110 - P.2113

赤血球酵素欠乏症と異常症の概念
 赤血球酵素欠乏症(erythrocyte enzyme deficiency)とは正常酵素の産生低下の場合もあり,質的に異常な酵素の産生のために正常の機能を営み得ず,結果として欠乏状態と考えられる場合も含まれる.後者の場合は赤血球酵素異常症(erythrocyteenzyme anomaly;erythroenzymopathy)の範疇にも属するわけである.
 赤血球酵素異常症は前述の正常な機能を営めない質的に異常な酵素の産生の場合のほかに,質的に異常な酵素であるが,機能的には欠陥がなく,まったく症状を呈しない場合も含まれる.したがって,欠乏症と異常症とは共通部分を有するが,厳密にはお互いに異なった概念である.しかしながら,現在まであまり厳密な区別なしに,症状を呈する場合には欠乏症という語のほうが多く用いられてきた(表1).

赤血球増加症

著者: 外山圭助

ページ範囲:P.2114 - P.2116

概念
 赤血球増加症(erythrocytosis)とは赤血球の増加をいう.一方,多血症(polycythemia)とは,厳密には全血球の増加を意味するが,一般には赤血球増加症とほぼ同義語に使用されている.真の赤血球増加症は総循環赤血球量(total RBC volume=TRV)の増加を指す.症状としては顔面や粘膜の紅潮,Ht値の増加,赤沈値の減少がみられる.診断には血液値が大体正常値+2標準偏差以上であれば赤血球増加症が疑わしくなるので,その診断基準は表1に示すごとくになる.
 赤血球増加症は病態により次のごとくに分類される.

非定型的急性白血病

著者: 喜多嶋康一

ページ範囲:P.2118 - P.2121

概念
 今日,急性白血病の本態は白血球系造血組織の悪性腫瘍,すなわち自律性をもった無制限増殖にあると考えられている.したがって,その定型的病像として想定されるのは骨髄またはリンパ組織における白血球系造血巣の過形成像と,それに伴う赤血球系ならびに栓球系造血巣の圧排減縮であり,末梢血では,これを反映した幼若型を含む白血球数の増加,貧血,血小板数の減少などが認められ,臨床的には高熱,貧血に伴う諸症状,著明な出血傾向,肝・脾・リンパ節腫大などが急激に発現して,適切な治療を施さない限り速やかに死の転帰をとるとされている.
 しかるに近年,高齢者白血病の増加に伴い,かかる定型的な病像の多くを,またはほとんどすべてを欠くところの白血病らしからぬ白血病,すなわち非定型的急性白血病に遭遇する機会が多くなってきた.これは近年における白血病像の変貌の一つとして注目されている.しかし,いざどこまでを"定型的"となし,どこからを"非定型的"とよぶかについては現在一致した一定の見解が存在しているわけではない.

骨髄増殖症候群

著者: 山口潜

ページ範囲:P.2122 - P.2125

はじめに
 Dameshek, W. 1)は,骨髄ないし髄外造血巣に原発する原因不明の増殖性病変がたがいに移行する,または深く関連していることに注目し,骨髄増殖症候群(myeloproliferative syndromeまたはdisorder)として一括し,これを表1のように慢性型と急性型に分類した.
 急性骨髄増殖症候群のうち,急性骨髄性白血病(以下AMLと省略)以外の疾患は稀で,鑑別に困難を感ずることは少ない2)が,慢性骨髄増殖症候群では,疾患相互に密接な関連性があり,とくに骨髄線維症(以下MFと省略)と慢性骨髄性白血病(以下CMLと省略)の関係は極めて近縁と考えられる.また,Bouroncle,B. A. ら3)は,真性多血症として経過を観察していた300例のうち10例が,5ないし13年の経過中にMFに移行したという.一方,血小板血症以外の慢性骨髄増殖症候群でも血小板数の著明な増加をみることがあるが,数的・形態学的に著変がなくても血小板の機能的な異常が証明される例が多い4)

類白血病反応

著者: 服部絢一

ページ範囲:P.2126 - P.2127

概念
 類白血病反応(類白反応)とは,白血病でない基礎疾患があって,血液中の白血球が増加し,未熟な血球(顆粒球では前骨髄球または骨髄球,赤血球系では赤芽球)が出現するものをいう.

原発性マクログロブリン血症

著者: 河合忠

ページ範囲:P.2128 - P.2129

概念
 マクログロブリン血症(macroglobulinemia)というのは,血清中に19S IgM型M-蛋白(monoclonal IgM)が増加する病態を総称し,原発性マクログロブリン血症と,基礎疾患があって合併する続発性マクログロブリン血症とに分けられる.しかるに,概念的には上記の2群に分けられるが,実際には関連する諸種疾患,たとえば骨髄腫,悪性リンパ腫,リンパ性白血病,慢性寒冷凝集素症などとの鑑別がきわめて困難なことが少なくない.

不安定血色素症

著者: 柴田進

ページ範囲:P.2130 - P.2132

概念
 不安定血色素症の概念は次のように要約される.①遺伝により分子の立体構造を安定させることができない根本的欠陥を持つ病的ヘモグロビンを産生し,②それが赤血球内部環境によって与えられる保護を全面的に受けても,それだけでは足らず,生成すると間もなく変性して不溶性の沈殿物または封入体になって析出し,赤血球の内部を撹乱し,膜を損傷する.③そのためにこのようなヘモグロビンをつくる骨髄の有核赤血球の一部は造血の途中で変性に陥って姿を消し(無効造血),その内容である病的ヘモグロビンは破壊され,その持っていたヘムは異常な代謝経路によってdipyrroleになり尿に排泄され,尿を醤油色に着色する(dipyrroluria).また④たとえ赤血球系の細胞が骨髄内で有核赤血球を経て赤血球となり,末梢血液に送り出されても,すでに損傷を受けているから,ただちに脾臓(網内系)に抑留されて破壊され,正常な寿命(120日)を維持できず,溶血性貧血(脾腫あるいは脾機能亢進症を随伴する)をひき起こす.以上の4条件を満足させる病気が不安定血色素症である.
 不安定血色素症は,わが国ではHbM症とともに症状を呈する異常血色素症(異常な分子構造のグロビンをもつヘモグロビンを生成する遺伝病)の最も重要なものとしてあげられるべき疾患である.そして最もはやく異常血色素症として発見された病気の一つである.

血小板障害症

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.2133 - P.2139

概念
 血小板障害症またはこれと同義語と思われる血小板病症(thrombocytopathy),血小板機能障害症(abnormal platelet function)という概念には一定の見解がなく,広義では血小板機能の異常を示すすべての病態を意味し,狭義では血小板第3因子能の異常に限定する考えから,血小板放出反応異常を示すものと定義する考えもある.その理由は先天性の血小板機能異常を示す症例がきわめて少ないこと,血小板機能検査の方法とその意味づけがなお一定していないためである.
 本稿では血小板障害症の定義を血小板機能異常症全体を意味するものとして,稿を進めていく.

特発性血小板減少性紫斑病

著者: 小宮正文

ページ範囲:P.2140 - P.2143

概念
 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,これまで原因がはっきり明らかにされていなかった血小板減少性紫斑病を指している.今日では,ITP患者の血小板寿命は0.51±0.43日というように,健康血小板寿命に比べて著しく短縮していることが明らかにされ,血漿中のなんらかの因子が血小板に作用して,その寿命を著しく短くしていることが疾病の主要な病態であることがわかってきた.しかし,血漿中の因子を証明する再現性の高い検査法が確立されていないこと,あるいは血小板寿命が赤血球寿命ほど簡便にルーチンで測定できないこと,などから,今日でも上述した概念が通用している.
 ITPは臨床像からみて,急激に出血症状が発現し,数週間ないし2〜3カ月で回復する急性型と,知らず知らずに発症しており,治療を施さないと軽快しない慢性型の2っの病型がある.しかし,出血症状が盛んな,医師を訪れる時期には,2つの病型の臨床像にほとんど差異がみられないので区別はつけがたい.経過を参照しながら両者を識別しているのが現状のようである.

von Willebrand病

著者: 風間睦美

ページ範囲:P.2144 - P.2147

はじめに
 1926年von Willebrandによって報告された先天性出血傾向の一疾患は,止血障害の複雑さのゆえに,その本態について長い間論争が続けられている.従来稀な疾患とされていたこのvon Willebrand病は凝血学的検索法の発展とともにclassical型のほかにいくつかのvariant型も報告されて,かなり発生頻度の高い疾患とみなされるようになった.一方,本疾患の本態については,凝固第VIII因子との関連が重視され,von Willebrand病は臨床的にも凝血学的にも注目を浴びている疾患である.

DIC症候群

著者: 松田道生

ページ範囲:P.2148 - P.2150

はじめに
 DIC(disseminated intravascular coagulation,播種性血管内凝固)症候群とは,その名のとおり,広範囲にわたり血管内凝血塊が形成され,その結果,腎,肺,腸間膜,その他の重要臓器の梗塞,さらに典型的な場合に認められる御しがたい出血傾向などが出現するもので,最初報告された当時は比較的珍しいものと考えられていたが,今日ではむしろかなり高頻度に出現していることが明らかにされてきている.
 DICに関しては内外の識者により多くの解説や症例報告がなされているので1〜5),詳細はこれらによっていただくことにして,今回は診断基準として,比較的広く受けいれられている事象および検査所見について小括したい.

アミロイドーシス

著者: 高月清

ページ範囲:P.2151 - P.2153

概念
 アミロイドーシスは線維構造をもつ特異な蛋白「アミロイド」の細胞外沈着を本態とする疾患である.しかし,アミロイドの発現機序は一様でなく,見かけが似たものを一括してアミロイドと呼んでいるから,病型の分類が大切である.一般に用いられる分類は,①原発性アミロイドーシス,②続発性アミロイドーシス,③骨髄腫に合併するアミロイドーシス,④局所性アミロイド腫瘤,⑤家族性アミロイドーシスの5型である.
 1)原発性アミロイドーシスは,原因と思われる疾患がなく,一般には平滑筋,横紋筋あるいは心臓,血管など中胚葉組織を侵す.そして染色態度は症例により異なり,非典型的であり,続発性アミロイドのアミロイドという言葉に対し,パラアミロイドと呼ばれることもある.

X.感染症

敗血症・菌血症

著者: 長谷川弥人

ページ範囲:P.2156 - P.2158

概念
 敗血症(septicemia)とは端的に表現すれば菌血症(bacteremia)を主症状とする全身感染症の一つの疾病単位で,その特徴として菌種に特異的な病変をほとんど示さないし,放置すれば死に至る経過をたどる.菌血症とは症状名であり,流血中に菌が存在することである.すなわち,腸チフスや肺炎双球菌性肺炎では流血中に菌を証明するが,これは菌血症で敗血症とはいわない.また抜歯,尿管カテーテル使用中などにも流血中に菌を証明できるが,これも一過性菌血症と呼ぶ.しかし,胆道感染症や血液疾患,とくに老人,糖尿病患者,抗腫瘍剤,副腎皮質ステロイド使用中の患者の流血中に菌を証明した時,菌血症であるか敗血症であるかは,抗菌剤を投与しないで経過をみないと鑑別はほとんど不可能である.また菌血症は,たとえ一過性であっても,敗血症となり得る可能性がある.臨床家の立場としては治療上,両者を必ずしも強いて鑑別の必要はなく,重きに従って敗血症として取り扱ってよいと思う.細菌性心内膜炎(bacterial endocarditis)とは心内膜に細菌感染を起こしたもので,換言すれば心内膜に敗血巣を有する敗血症である。亜急性細菌性心内膜炎(subacute bacterial endocarditis)とは心内膜のうち経過が遷延するもので,主として緑連菌群が原因菌である.

XI.小児の疾患

起立性調節障害

著者: 村上勝美

ページ範囲:P.2160 - P.2162

概念
 幼稚園,小・中学校の児童・生徒の中に,顔色がすぐれない,疲れやすい,朝起きがよくない,朝礼などで立っていると脳貧血を起こすなどの症状を示し,なんとなく覇気がないというものがある.これらの不定愁訴様の微症状を示す小児は,年齢的にはとくに小学校高学年に多く,女児にやや多い.もちろん,それらの小児には心,肺,腎などの器質的疾患は認められない.
 このような症状を示すものについて,教科書には,Nelson:orthostatic hypotension,Fanconi:vegetative Dystonie,Opitz:Die chronische Kreislaufregulationsstorungという記載がある.ところがBruckら(1956)はこれらの概念の表現としてDie orthostatische Dysregulation des Kindesと命名し,大国(1958)がわが国に起立性調節障害(OD)として紹介し,やがて研究班が組織され,疫学的,治療学的研究が進められ,さらに概念および診断基準について検討,決定された.しかし,それらについて疾患単位としての明確性を欠く点があり,NCA,自律神経症などとの鑑別についても論議が重ねられた.

難治性下痢

著者: 本間道

ページ範囲:P.2163 - P.2165

概念
 下痢とは一つの症状であり,したがって難治性下痢とは治りにくい下痢ということである.
 近年,乳児の下痢を伴う疾患を,治りやすいか治りにくいかということに重点を置いて研究し,治療をすることが行われている.これによると,乳児の下痢を起こす疾患は,①簡単な対症療法で治るもの,および容易に診断でき,抗生物質に反応する細菌性腸炎,②原因が明らかである原疾患に二次的に治りにくい下痢を伴うもの,③些細な原因で下痢が起こるが,徐々に悪化し治りにくいもの,の3グループに分けられるという1)

小児白血病

著者: 中山健太郎

ページ範囲:P.2166 - P.2170

はじめに
 白血病自体は,一つの疾患単位として十分に確立されている疾患である.小児期の白血病の95〜97%は急性白血病で,残りが慢性骨髄性白血病である.白血病の型別は,白血病細胞の形態学的所見によって行われている.この形態学的分類の基本的な考え方は,病的細胞を,正常細胞の特徴に基づいて分類することである.これは,理論的には不合理な弱みのある考え方であって,当然正常細胞と近似的な性質を持たない病的細胞を見ることもしばしばある.しかしこの分類法は,近年の化学療法の選択や予後の予測に役立っている.われわれが現在,日常の臨床において型を分類するのは,治療効果および予後の予測が主目的なのである.

新生児高ビリルビン血症

著者: 井村総一

ページ範囲:P.2171 - P.2174

はじめに
 新生児の大部分は,新生児期にいわゆる生理的黄疸と呼ばれる一過性の黄疸(高間接ビリルビン血症)を経過する.この生理的黄疸の原因は単一のものではなく,多くの因子が関与しており,ビリルビンの産生,肝におけるビリルビンのとり込み,抱合,排泄,腸管からのビリルビンの再吸収(腸・肝循環)などビリルビン代謝のいずれのステップにおいても,成人に比べて黄疸を増強する方向に働いていることが明らかにされている.
 Maisels1)は生理的黄疸の発症に関与する因子として以下の事項をあげている.

小児の肥満

著者: 日比逸郎

ページ範囲:P.2175 - P.2177

肥満の判定基準
 肥満は体脂肪が過剰に増加した状態であるが,同時にLean Body Mass(以下LBMと略)も過剰に増加している症例が多い.したがって,肥満の有無ないしその程度の指標としては,
 実際の体脂肪―年齢・性・身長から期待される標準体脂肪/年齢・性・身長から期待される標準体脂肪×100(%)
で表される数値が最も理論的に正しい.しかし,体脂肪の測定は日常臨床の場では実際上不可能なので,次式で表される肥満度(degree of overweight)で満足せざるをえない.

川崎病

著者: 川崎富作

ページ範囲:P.2178 - P.2181

概念
 川崎病(または本症と略)は主として4歳以下の乳幼児に好発する原因不明の熱性疾患で,その主な症状は,発熱,発疹,眼球結膜充血,口唇口腔粘膜充血,頸部リンパ節腫脹および掌蹠紅斑,硬性浮腫,指先からの落屑を伴う四肢末端の変化である.この主要症状の一つ一つはとくに特徴的とはいえないが,この6つの症状をすべて備えた症例は独特の疾病像を示し,他の小児疾患と容易に区別できるほど特徴的である.しかも,このような臨床像をもった小児では致命率が1〜2%で,剖検例はすべて冠動脈になんらかの病変が証明されているが,主な変化は冠動脈瘤と血栓閉塞である.冠動脈以外の動脈にもしばしば著明な病変をもち,病理組織学的には,欧米で以前から稀に報告されてきた乳児型結節性動脈周囲炎(IPNと略)と区別することができない.この故に,米国の病理学者はIPNと川崎病とは同一疾患と考えているようである.本症の生存例の20%内外に冠動脈瘤の形成が証明されており,小児の心筋梗塞を起こす疾患として,小児循環器の専門家の間にとくに注目されるようになった.本症は本邦に圧倒的に多発しているが,米国をはじめヨーロッパ,アジアなどでも報告されるようになり,日本独特の病気ではないことが判明した.昭和45年より厚生省の本症研究班が発足し,疫学,病理,病因,臨床の総合研究が続行されてきているが,残念ながら未だに原因は不明である.

XII.癌

脳腫瘍

著者: 高倉公朋

ページ範囲:P.2184 - P.2187

はじめに
 脳腫瘍は組織学的種類がきわめて多く,しかも発生する場所により,多彩な神経症状を呈するので,診断がむずかしい.一方で頭蓋内圧亢進をきたす腫瘍以外の病変,たとえば脳膿瘍や慢性硬膜外血腫などの疾患があり,他方,脳腫瘍でも頭蓋内圧充進を起こしにくいものもあるので,誤診することがある.
 脳腫瘍の診断にあたって最も重要なポイントは,慢性の頭痛や,進行する神経症状,また20歳以後に発生したてんかん発作などを訴える患者に接した場合に,まず鑑別診断の一つに脳腫瘍を加えて考えてみることである.

肺癌

著者: 末舛恵一

ページ範囲:P.2188 - P.2191

はじめに
 肺癌という複雑な疾患の実態を把握するために,X線病型,病気のひろがり(病期),組織型,細胞診について分類基準が定められた.
 これらは肺癌を診断し,適切な治療を選択し,予後を推定して行く上に重要な指針となっている.また,これらは時を経るに従って,少しずつ,ある時は大幅な改訂が加えられて動いてきた.

乳癌

著者: 渡辺弘

ページ範囲:P.2192 - P.2196

はじめに
 乳癌は体表近くに存在する乳腺に発生する疾病であるから医者はもちろん,患者自身でも容易に触診を行いうる利点がある.また最近では癌啓蒙運動も盛んで,比較的小さな乳腺腫瘤を発見して来院する者が多くなってきた.したがって,かなり早期の乳癌も多くなり,それだけ診断も困難な場合が多くなってきた.従来乳腺疾患の診断は,その大部分を触診法に頼ってきたが,触診法にも限界があり,それを補う意味で機械による補助診断(X線診断,超音波診断など)が採用され,これらの総合判定により診断率を向上させるよう努力がなされてきた.

胃癌

著者: 田口鐵男

ページ範囲:P.2197 - P.2201

概念
 末期癌は別として,胃癌患者には特有な症状が見られないのが普通である.したがって,現在の胃癌診断における理学的検査は,胃癌の疑いをチェックする意味と,進行癌に対しては浸潤,転移の範囲を決めるという2っの立場を持っている.胃癌を早く診断するためには,理学的検査もけっしておろそかにはできない.なかでも貧血は見逃してはならない重要な所見である.
 しかし,今日,胃癌の診断は早期診断にこそ意義があるのであって,この方面の進歩にはめざましいものがある.胃癌のX線診断,内視鏡診断,直視下生検が,早期胃癌診断の3本の柱として相補い合い,それぞれの診断の限界を拡大して,3者はいまや不可分の関係にある.どこの施設においても,ルーチンの検査の進め方として,最初にスクリーニングでX線検査概観撮影を行い,多少とも病変を思わせる部位をチェックする.もちろん明らかな病変が認められなくとも,次に内視鏡による概観検査を行い,異常があれば再度X線による精密検査を行うと同時に,内視鏡によって直視下精検を行って,3者の所見を合わせて判断し,確定診断とするわけである.病変を発見しえない場合でも初診の場合には3カ月後にX線,内視鏡の再検,以後6カ月ごとの定期検査を行うようにしているのが実状である.

大腸癌

著者: 長廻紘 ,   谷口友章

ページ範囲:P.2202 - P.2206

はじめに
 癌には臨床的な診断基準というものはなく,組織診がすべてである.大腸癌も同様である.したがって,大腸癌の存在を疑わせるという意味における診断基準と,それを確実としていくprocessについて述べる.

肝・胆道癌

著者: 遠藤康夫

ページ範囲:P.2208 - P.2209

肝癌
 肝癌は一般に原発性と転移性に分けられ,前者はさらに肝細胞癌と胆管細胞癌とに分けられる.本稿では主として原発性肝癌,とくに肝細胞癌を中心にその診断基準(表1)を述べ,胆管細胞癌,転移性肝癌については,そのつどふれることとする.
 現病歴,理学的所見 日本の肝細胞癌のほとんどが三宅の乙型肝硬変を合併しているので,前癌性変化としての肝硬変の存在は大切である.とくにHBs抗原陽性の肝硬変患者,家族性にHBs抗原陽性慢性肝疾患の集積している場合には肝癌発生の危険性が高いといえる.胆管細胞癌については肝硬変との関連性はなく,転移性肝癌はむしろ硬変肝には起こりにくいといわれている.

膵癌

著者: 片岡茂樹

ページ範囲:P.2210 - P.2214

はじめに
 近年,わが国での膵癌による死亡率は急速な増加を示し,癌死の部位別頻度では第5位を占めるに至っている.この現象は膵癌そのものの発生頻度の増加にもよるであろうが,むしろ診断技術の向上などによって膵癌と診断される症例の頻度が増加してきたためと考えるのが妥当である.しかし,根治手術の適応とされる症例の割合は現在なお低率であり,早期診療を目的とした納得のいく診断基準を提示することは,極めて困難な現状といってよい.

甲状腺癌

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.2215 - P.2218

甲状腺癌の組織分類
 表1に示したように,起源細胞の種類に従って3種に分け,また生じた腫瘍を分化したものと未分化のものに分けると理解しやすい.ここで注意していただきたいのは,濾胞上皮から生じる癌は分化癌と未分化癌に分類されそれぞれに名称がついているが,傍濾胞細胞由来のものと細網・リンパ系細胞由来のものは,とくに分化・未分化の区別をしていない.区別はされていなくても,実際には髄様癌・悪性リンパ腫とよぶものの中に,生物学的性状の非常におとなしいものからきわめて悪性のものまで幅広くあることを念頭におく必要がある.
 次の項に記すように,各病理組織型によって臨床症状から予後までそれぞれ特徴があるので,この病理組織型分類は臨床上でも重要な意義がある.

腎腫瘍

著者: 東福寺英之

ページ範囲:P.2219 - P.2221

はじめに
 腎悪性腫瘍は,小児腎悪性腫瘍と成人腎悪性腫瘍に代表される.前者は,Wilms tumorまたはnephroblastoma,後者は腎腺癌Grawitz tumorまたはrenal cell carcinoma(adenocarcinoma)といわれ,好発年齢も臨床症状も異なる.そのほか,成人では腎孟移行上皮性悪性腫瘍,扁平上皮癌,転移性または浸潤性癌,悪性リンパ腫,網状肉腫など全身性悪性腫瘍の一部も含まれる.
 本稿では成人腎腺癌について解説したい.

睾丸腫瘍

著者: 東福寺英之

ページ範囲:P.2222 - P.2224

はじめに
 睾丸腫瘍は定型的症例に関しては診断が困難ではない。しかし貯留腫などの合併症を伴ったり,原発巣がきわめて小さく,転移巣から本症が考えられる場合は必ずしも容易ではない.なお本症の診断に際しては慎重に,かつ的確に行い,そして早期の治療にふみ切ることが大切である.治療の時期が遅延することは広範な転移を招来し,予後をきわめて不良とする危険が増大する.治療は除睾術によって病理組織学的診断が下されてから始まるのであって終わるのではなく,診断基準の設定に治療上緊急的手術を要するものと保存的治療により経過観察を行ってよいものとの相違点に主眼を置くことにした.

卵巣腫瘍

著者: 寺島芳輝

ページ範囲:P.2225 - P.2229

はじめに
 一口に卵巣腫瘍といっても,多種多様の腫瘍の発生することは周知のとおりである.したがって,下腹部に腫瘤を触知した場合,①それが卵巣腫瘍であるか否か,②卵巣腫瘍であるならば腫瘍の種類ならびにその性状,③いかなる検査,診断基準で良,悪性を鑑別するか,④摘出標本の病理学的診断基準などの問題が生ずる.それゆえ,卵巣腫瘍を理解していただくために,はじめに腫瘍の発生と分類について述べ,以下,本特集の執筆要領に従って記述したいと思う.

子宮癌

著者: 笠松達弘

ページ範囲:P.2230 - P.2231

はじめに
 子宮癌には子宮頸部に原発する子宮頸癌と子宮体部に原発する子宮体癌とがある.両者は単に原発部位が異なるだけでなく,発生原因,治療法などかなり異なる点があり,区別して診断する.どちらが原発か不明の場合は,扁平上皮癌は頸癌に,腺癌は体癌に分類する.子宮癌の診断は必ず病理組織学的に確定されていなければならない(細胞診のみでは不可).

副腎腫瘍

著者: 清水直容

ページ範囲:P.2232 - P.2233

概念
 副腎から発生する腫瘍には,皮質腫瘍と髄質腫瘍があり,また生物学的活性ホルモンの過剰分泌の有無により,機能性と非機能性に分けられる.内科的にとくに重要なのは機能的な副腎腫瘍であるが,それについてはクッシング症候群,原発性アルドステロン症,副腎性器症候群,褐色細胞腫の項で述べられる.
 このほかに,副腎腫瘍としては,他の臓器癌よりの転移性腫瘍および副腎の構成組織より発生するneurilemmoma,fibrorna,myoma,lipoma,haemangioma,lymphangiomaなどがある.さらに原発性の悪性黒色腫の報告もある.また副腎のホルモン産生細胞の腺腫であるが,非機能性のものも少なくない.高血圧症では,小さな非機能性皮質腺腫が多発することが珍しくなく,これらは臨床的意義をほとんど有しない.同じく非機能性腫瘍でも大きい場合には周囲への圧迫により臨床症状(疼痛,他臓器圧迫,出血)を現してくることがある.小さな非機能性腫瘍は,主として剖検時に偶発的に発見されるにすぎない.

白血病

著者: 山田一正

ページ範囲:P.2234 - P.2238

はじめに
 白血病は骨髄,リンパ節,網内系などの造血組織において白血球系の全身系統的異常増殖をきたす疾患である.この異常増殖は自律性,進行性,非可逆的であり,全身各種臓器に浸潤,増殖し,流血中にも病的白血球の出現をみる.すなわち,白血病は白血球系造血組織の悪性腫瘍である.
 白血病は臨床経過が年余にわたる慢性白血病に対して,数週間から数カ月と急激な経過をとる急性白血病があり,その臨床経過の長短は一応考慮におくものの,むしろ異常増殖する白血球系細胞に成熟型への分化に乏しく,かかる幼若白血球(芽球)が増殖の主体を占めるものを急性型とし,一方,成熟型への分化のみられる白血球細胞増殖を主体とするものを慢性型として,明確な区別をおく.

悪性リンパ腫

著者: 若狭治毅

ページ範囲:P.2240 - P.2244

はじめに
 悪性リンパ腫には従来から細網肉腫,リンパ肉腫およびHodgkin病などがいれられている.しかし,近年,リンパ球に関する種々の知見が明らかにされるにつれ,その概念や分類に多くの混乱が生じてきている.とくに問題の多いのはnon-Hodgkin lymphomaとよばれるものであり,本稿では従来から用いられている分類を中心に,その修正案についてもふれる.

私の経験例

多発性腫瘍性微小肺塞栓症の一例

著者: 高橋唯郎

ページ範囲:P.1654 - P.1654

 患者は45歳の女性である.労作性呼吸困難(Hugh-Jones III度)が入院3カ月前から出現し,次第に増悪し,起坐呼吸状態となり入院.入院2年1カ月前左乳癌および左腋窩リンパ節転移にてMastectomyを受けた既往がある.入院時,理学的にはacutely ill,脈拍140/min整.呼吸40/minで浅.心音,呼吸音はともに純.頸静脈怒張(-).肝触知せず.下肢浮腫(-).胸部X線所見も正常.ECGは右室負荷所見のみ.血液ガスはPo2 56.5mmHg,Pco2 15.8mrnHg,pH 7.47と著明なhypoxiaを認めた.検査所見ではLDH 510単位と軽度上昇をみたのみである.以上の所見よりまず肺塞栓症を考えた.しかし,入院直前に骨折,手術,重症疾患などに罹患し,bed restを強要されたこともなく,表在性の血栓性静脈炎は認めない.また血液学的にも凝固能に異常はない.患者は肺動脈造影施行中急死し,剖検により多発性腫瘍性肺塞栓症と診断された.本例では悪性腫瘍に伴う血管内凝固症候群(DIC)は血液学的にはまったく考えられず,剖検でもfibrin血栓をまったく認めなかったことが極めて特異であり,乳癌による腫瘍性肺塞栓症の診断を遅らせた原因である.

消化性潰瘍経過中に発症した慢性骨髄性白血病の一例

著者: 笹村義一

ページ範囲:P.1659 - P.1659

 最近,消化性潰瘍を合併し,巨大な脾腫を欠く慢性骨髄性白血病症例が注目されている.われわれも消化性潰瘍として治療,経過観察中のところ,慢性骨髄性白血病を併発した一例を経験した.
 患者は42歳男子.家族歴に特記事項なし.既往歴としては昭和45年2月,胃集団検診にて十二指腸球部の変形を指摘された.現病歴では昭和45年10月7日,下血を主訴として入院,消化管レントゲン検査などを施行し十二指腸潰瘍と診断した.入院後経過は順調で,10月27日退院したが,特記すべきは末梢血液所見である.すなわち入院時所見はHb 14.2g/dl,Ht 43%,R 397×104,Thr 24.9×104,W 21,000(M 2,Met 3,St 17,Seg 59,E 0,B 3,M 3,L 13)であり,10月23日においてもなおW9,700(M 2,St 15,Seg 48,E 4,B 3,M 1,L 27)であり,白血球数は減少したとはいえ,やや多く,その分類でも骨髄球が出現していた.当時はこれを出血に対する造血器の反応と考えていた.

Factitious Hypoglycemia

著者: 田中亮一

ページ範囲:P.1663 - P.1663

 患者は24歳の女性で,職業は看護婦.主訴は意識消失発作.家族歴では父が脳出血にて死亡.既往歴として18歳虫垂切除.現病歴としては,昭和50年12月より食思不振出現,6カ月問で40kgから32kgと8kgの体重減少あり,近医を受診して精査受けるもとくに異常なく,心因性食思不振症といわれた.昭和51年12月頃より食欲改善し,むしろ亢進状態となる.昭和52年1月頃より空腹時ふらつき感あり,その症状は摂食により改善した.昭和52年2月9日早朝,動悸,四肢のシビレ感あり,近医受診後,昼頃意識消失.この時の血糖値13mg/dlにて,ブドウ糖の静注を受け意識回復した.低血糖の原因精査のため入院.入院時現症は身長157cm,体重41kg,脈拍64/分整,血圧110/64mmHg,その他理学的所見にてとくに異常を認めなかった.一般検査にて,検尿,検便,検血,血沈,血液化学,肝機能,チセリウス,胸・頭部単純,心電図などはすべて正常範囲であった.ついで,低血糖の原因精査のために諸検査を施行した.入院翌日の100gOGTTにて空腹時血糖は25mg/dl,5時間まで測定したが頂値50mg/dlの平坦型であり,IRIは前値25μu/ml,頂値40μU/mzを示した.空腹時の血糖/IRI比は1であり,Shatneyらは,その比が1以下の時はインスリノーマの診断根拠となるとしており,既往歴よりもインスリノーマの存在が強く疑われた.

尿毒症性心包炎の一例

著者: 野村正征

ページ範囲:P.1681 - P.1681

 患者は46歳女性で,41歳に急性腎炎,45歳に慢性腎炎と診断され食事療法中.入院3カ月前に感冒様症状出現,その後より急速に腎不全が進行,3日前乏尿に到り転院してきた.Acutely illの状態で,Somnolence,Anasarca血圧176/106mmHg.左胸水貯留,腹腔穿刺後,皮下血腫,皮下出血斑,麻痺性イレウス,肝腫を認め,BUN 91.1mg/dl,Creat 5.6mg/dl,K 4.4mEq/l,WBC 9,600,Ht 15.7%,出血時間15分以上,APTT 59′′,Prothrombin time 27′′,血沈1時間15mmで,尿中はFDP弱陽性.一過性DICを伴っていた(表).これらの問題点を解決するため,まず頻回血液透析を行った.意識は清となり,胸水減少,血腫吸収などの好転の兆しを認めたが,しかし14病日になり再び胸水貯留と著明な心拡大が出現し,患者は安静時呼吸困難を訴え,心胸比は75%に至った.毎回の血液透析時に除水を計ると,呼吸困難はさらにいっそう増強し,血圧132/100mmHg,吸気一呼気の血圧差8mmHg,Friction rubは聴取しなかったが,心エコー,99mTc心腔シンチグラムでは明らかな心のう液貯留を認めた.細菌,ウイルス,SLEに対する検索を行ったが,疑わせる所見はまったく得られず,尿毒症性心包炎の診断をしたのち,連日透析を行う一方,プレドニソロン80mg静注と抗結核剤の投与を開始した.

特発性脳内出血の一例

著者: 宮村正典

ページ範囲:P.1698 - P.1698

 症例は26歳の男子工員.1976年初旬より,左上下肢のしびれ感と脱力が出現.頭痛,嘔吐がしだいに増強した.同年10月17日入院.
 既往歴,家族歴にはなんら異常がなく,頭部外傷,けいれん,高血圧の既往もない.

下垂体前葉機能不全の一例

著者: 加藤文朗

ページ範囲:P.1710 - P.1710

 患者は35歳の独身女性で無職である.主訴は頭痛,食欲不振,全身倦怠感・既往歴としては2歳で髄膜炎,30歳で副鼻腔炎で手術を受けている.なお,初潮は14歳,家族歴には特筆すべきことはない.
 現病歴 10年来前頭部痛あり,とくに午前中に多い.朝食はいつも食べない習慣がある.51年1月頃より頭痛しだいに増強するも放置していたが,2月になり,食欲不振,全身倦怠感も著明となり某医受診し,三叉神経痛の診断のもとに局所注射施行後3日間ほど軽快したが,再度頭痛が出現したため精査のため入院となる.嘔気(+),嘔吐(-).

CO2 narcosisで発見されたmyotonic dystrophyの一例

著者: 高橋唯郎

ページ範囲:P.1726 - P.1726

 患者は39歳の男性.impending CO2 narcosisにて入院.理学的には入院時傾眠状態で呼吸32/minなるも浅く,胸郭のexpansionは極めて不良.頸静脈怒張が著明で四肢では前脛骨陵,足背の浮腫(⧻)と右心不全状態.胸部X線写真では右横隔膜挙上が著しく,心肥大を認めた.ECGは右室負荷を示すも右室肥大所見(-).肺胞低換気(Pco2 84.8mmHg)をきたした原因が当初不明で診断に苦慮した.既往歴に年1,2回くり返す気管支肺炎を認あるも,日常咳喇,喀痰はまったくなく,胸部X線写真でも慢性閉塞性肺疾患を疑わせる所見は(-).呼吸中枢を抑制する薬剤の使用も既往に認めず.CO2 narcosisから離脱後も胸郭のexpansionは依然として悪く,右横隔膜も著しく挙上していることから神経筋疾患を疑った,神経学的には腱反射減弱,握力の著明な低下をみるも四肢筋の筋萎縮(-).既往歴を詳細に聴取し筋力低下を認めたが,眼底状(-).またTensilontest(-)であり重症筋無力症は考えられなかった.たまたまハンマーで叩打した拇指球筋にpercussion myotoniaをみつけ,myotonic dystrophyを考え,諸種検索の結果,確診しえた.本症例は既往に筋力低下を認めたが,心不全による呼吸困難のためと考え問題としなかった.

Pneumocystis carinii肺炎を併発した腎移植症例

著者: 村山正昭

ページ範囲:P.1780 - P.1780

 白血病,癌などの悪性腫瘍の治療中に併発する肺感染症は,アスペルギルス症,クリプトコッカス症などの真菌症が多い.また近年,腎移植症例が増加するにつれ,強力な免疫抑制剤投与中に発症する肺合併症は極めて重篤で,なかでも肺原虫症であるPneumocystis carinii肺炎は診断の確定を待たず治療を開始しなければ救命がむずかしい.

難治性の中耳炎として加療されていた上咽頭癌の一例

著者: 瀬古敬

ページ範囲:P.1788 - P.1788

 患者は67歳男.生来健康であったが,1年前より左耳に蝉の啼くような耳鳴りを生じ,左中耳炎として近医で加療をうけていた.しかし,再燃を何度もくり返していた.半年後,舌の左側のしびれ感と味覚障害が出現,やがて左顔面のしびれもきたすようになり,さらに複視と両側頸部のリンパ節腫脹出現のため1976年3月当院受診,malignant lymphomaを考え入院.しかし,リンパ節生検では未分化癌ということであった.
 Anisocoria(+)(左<右),対光反射は直接,間接とも左で低下,左外転神経麻痺あり,胸部X線異常なく,胆嚢造影,胃食道造影,注腸造影など異常なし,脳波で左側頭部に徐波をかなり認める.血液,生化学的検査では異常なし.

左上腹部痛を主症状とした肺炎

著者: 西崎統

ページ範囲:P.1799 - P.1799

 72歳の男性.56歳時に虫垂切除,57歳時に腸閉塞で手術を受けた既往がある.
 来院の約3週間前から風邪気味で,微熱が続いていたが,咳嗽や喀痰はない.3日前ぐらいから左上腹部痛が出現してきた.その痛みは左上腹部に比較的限局しており,持続性である.痛みは次第に増強してきて,食事を摂るとなお痛みは強くなる.しかし,嘔気はなく,また便通は正常である,とのことで救急入院した.

激しい嘔吐発作を主訴とした多発性硬化症(MS)の一例

著者: 森川景子

ページ範囲:P.1803 - P.1803

 患者は31歳女性.入院2ヵ月前より心窩部痛に始まり,2週間前より激しい嘔吐発作にて食物をまったくうけつけなくなったとのことで,昭和49年12月初,ストレッチャーにて入院した.入院時消耗状態であったが,神経学的所見は異常なく,また現病歴にもまったくそれらしいものはなかった.当初消化器系の異常が考えられたので,胃腸透視をはじめとするあらゆる検査をしたがまったく異常所見はみられなかった.その他の検査所見でも他覚的な異常値はなく(電解質も嘔吐のわりに異常でなかった!),まったく診断に困った.その後嘔吐は自然に軽減していったが,次にしゃっくりが頻発した.髄液所見も異常なかったが脳外科を受診し,諸検査をうけたが異常はなかった.その後これも自然に止まり,次にはめまい,複視,皮膚の知覚異常,嚥下困難,嗄声,意図振戦,眼振,歩行障害が次々と見られ,他覚的にも外転神経麻痺,IX,X脳神経不全麻痺,小脳症状,迷路性失調,眼筋の核間麻痺などが確認された.しかし,これらは一過性のもので,短いものは数時間,長いもので数日間つづくだけであったため,ヒステリー症状ではないかと思われるふしもあった.これら多彩な症状も自然に1カ月で消失したが,次にsphincter disturbanceを生じ尿カテーテル留置を余儀なくされた.しかし,これも約1カ月で消失した.

体質性黄疽(Gilbert病)

著者: 革島恒徳

ページ範囲:P.1816 - P.1816

 患者は31歳男性.主訴は黄疸.既往歴として23歳より25歳まで黄疸で3回入院,飲酒,輸血歴なし.病名は不明.家族歴では祖父が胆嚢癌で死亡,甥が先天性胆道閉塞症で死亡.現病歴としては20歳頃より易疲労性であり,時々軽い黄疸を生じていた.昭和51年5月,黄疸の精査目的で外来を受診した.
 外来時検査成績 TP 8.0g/dl,ChE 0.89 ⊿pH,GOT 16KU,CPT 10KU,Al-P 5.1KAU,総ビリルビン(以下ビと略)7.9mg/dl,間接ビ 6.0mg/dl,LAP 150GRU,LDH 320Wr.U,RBC 516×104,Ht 44.9%,Hb 15.0mg/dl,MCV 87μ3,網状赤血球数 2‰,尿中Bilirubin(-),尿中Urobilinogen 2.0UE.

Myopathyで発見されたHypothyroidism

著者: 西野奨一

ページ範囲:P.1865 - P.1865

症例 72歳男.無職
 主訴 筋肉のこわばり,下肢のシビレ感.既往および家族歴 特になし.現病歴 入院6カ月前から体重増加,四肢のシビレ感および知覚低下を生じた.歩行時にも鉄下駄をはいているような重みを感じるようになり,フラツキも出現したため,精査のため入院.便秘(+).脱毛(+).下腿の筋肉のこわばり,痛みを訴える.

Cardiomyopathyの一例

著者: 野村正征

ページ範囲:P.1870 - P.1870

 患者は53歳男性で,4年前某院で慢性腎不全,高血圧と診断されていた.今回うっ血性心不全を起こして入院した.

尿路結石および痔核合併のために早期診断が遅れた上行結腸癌

著者: 梅村康順

ページ範囲:P.1879 - P.1879

 不定の腹部症状,持続性の糞便潜血反応陽性および漸次進行する貧血などの症状を呈した場合,結腸癌を疑う必要があるが,尿路結石および内痔核があったために,危うく見過ごすところであった上行結腸癌について記述する.
 患者は38歳の男性.2年前に尿路結石で治療したことがある.約1年半前に左上腹痛があり,筆者が当時勤務していた大阪労災病院を受診し諸検査実施.胃X線は異常なし.肝2横指触知するが弾性硬で平滑.肝機能検査,肝シンチグラムとも著変を認めず.ただし糞便潜血反応が陽性で気になったが,hemorrhoidsがあったため,多分それからの出血であろうと考えた.約1年前にも下腹痛,排尿障害があり当院泌尿科を受診しているが,その後症状軽快したため途中で治療を中断.さらに約2カ月前より左下腹痛および腰痛が出現し,再度当科を受診した.顕微鏡的血尿があり,尿路結石の疑いで泌尿器科を紹介したが(泌尿器科診断,左尿路結石),貧血もあり,糞便潜血反応陽性であったため,当科外来でも精査を行った.便通は以前より不規則で軟便傾向,経口的胃腸X線は著変なく,さらに注腸透視も行ったが病変を見つけることができなかった.外科でromaaoscopyを行ったが,内痔核を認める以外著変はなかった.しかし貧血は次第に増強し,RBC 321万,Hb 9.6gになったので精査のため入院した.

Munchausen症候群

著者: 高橋徹

ページ範囲:P.1888 - P.1888

 診断上の陥穽のあった症例として,まず頭に浮かぶのは,7年も前になるが,私が米国コネチカット州のある総合病院で入院係をしていた頃,救急室のレジデントから電話を受け,1人入院させたいが一度みてくれといわれた患者である.
 患者は24歳女.見たところ元気で顔色も悪くない.主訴は嘔気,嘔吐.現病歴は患者自身によるとこうである.英国の病院で脳腫瘍と診断され,1週間前まで入院してその治療を受けていた.その入院前より強度の頭痛,嘔気あり,また視力障害があり,今もそれは残っている.化学療法,放射線療法を受け症状は軽快したが顔がこうなった,と長い茶色の髪のかつらをとり,70%ぐらいの頭部の脱毛を示した.米国には知人を頼って旅行してきたが,その途中で嘔気,嘔吐が出現してきたためこの病院へ立ち寄ったらしい.うら若き女性とalopeciaという最も似つかわしくない組み合わせに,私はなるほどとうなずき,患者を入院させた.神経学的には簡単に検べて両眼の半盲があるが,乳頭浮腫なくルンバールも正常であった.翌日の神経科専門医の診療でやはりhemianopsiaが存在し,後頭葉のmassが考えられるとのことであった.病棟での回診時,彼女は読書していたが静かな微笑を浮かべて私にいった.「おかげ様で嘔気もおさまり気分がよろしいです.

末期まで異常所見の得られなかった膵癌の症例

著者: 森川景子

ページ範囲:P.1896 - P.1896

 患者は64歳女性.入院3カ月前より口渇と倦怠感を訴え,昭和49年4月入院した.GTTの結果は重症糖尿病がありInsulin治療を必要とした.現病歴聴取の際,腰痛と軟便を訴えたが,腰痛は2年前に背部打撲傷をうけて以来のものという.念のため整形外科を受診させたところ,腰椎間板症と診断されたため,とくに重視しなかった.また軟便も数年来あり,とくに牛乳を飲むと起こるとのことであった.既応歴には23年前に急性膵炎にて1週間入院したという,現症では腹部腫瘤も触知せず,肝脾リンパ節腫大もなかった.検査所見も肝機能検査をはじめとして胃腸透視,胆のう造影,肝シンチなどほぼ全部を網羅して検査したが異常なく,ただ便潜血反応のみが持続的に陽性であった.これら諸検査の結果,ほぼ1.5カ月を経過し,とくに著変がなかったが,その頃腹部に腫瘤を触知した.そこで超音波検査をしたが腹部諸臓器に悪性所見は見出せなかった.AFPも正常で,低緊張性胃腸透視の結果でもC-loopの拡大も見られなかった.そこで肝シンチの再検をしたところ,今回は多数のSOLが見られた.その頃すでにAI-Pが43.6KA,LDH 730wn,CRP(6+)と悪化していた.この時点で家族に膵癌,とくに発見の困難な体尾部のものが原発で,肝,骨に転移しているのであろうと話した.その後嘔吐発作がつづき,腹部膨隆著明となり,腸閉塞症状にて突然死亡した.

皮膚筋炎と診断しえた一例

著者: 村山正昭

ページ範囲:P.1907 - P.1907

 皮膚筋炎および多発性筋炎の診断は,臨床所見と血清酵素に特徴的な異常高値があれば比較的容易であるが,非定型例では鑑別診断に手間どることもある.

老人にみられたmasked hyperthyroidism

著者: 西崎統

ページ範囲:P.1948 - P.1948

 著患を知らない68歳の主婦が約1カ月前くらいから,夕方になると37.2〜37.5℃の微熱が出現するようになった.たいしたことはないだろうとのことで放置していた.ところが来院の2週間前頃から食欲がなくなり,また,胃部不快感も伴うようになってきた。同時に,その頃から明け方になると息切れのような息苦しさが出現し,目が覚めることがしばしばあった.しかも,その症状は約30〜40分続くとのことで来院した.
 理学所見では血圧102/60,脈拍80/分,整.明らかな貧血はなく,表在リンパ節触知せず,甲状腺腫認めず,また胸部,腹部および神経反射にも異常を認めなかった.一般検査所見にても,血球計算,血沈,検尿,肝機能および胸部X線にも異常は認めなかった.来院時はどこかに感染症でもあるのではないかと考えていたが,ルチーンの検査ではそのような所見はまったくみられず,また,心電図をチェックしてみたが,これにも異常はなかった.そこで,年齢,現症歴から悪性腫瘍も十分考えられたので,胃X線や静脈性腎盂撮影などの検査を行ったが,いずれもこれといった異常は認めなかった.その間,次第に訴えが神経症的にもなってきたので,トランキライザーおよび消化剤を投与して様子をみた.

きわめて興味ある臨床経過を呈したalveolar cell carcinomaの一例

著者: 石村孝夫

ページ範囲:P.1955 - P.1955

 供覧する症例は,大変急速な臨床経過をとって短期間のうちに死に至り,臨床診断としてはHamman-Rich症候群と考えられた症例であるが,その剖検結果が,見事にはずれた例である.まず,症例を提示する.
 患者は67歳の女性,既往歴,家族歴に特記するものはない.煙草は5年前まで吸っていた(本数不明).

総胆管結石

著者: 革島恒徳

ページ範囲:P.1960 - P.1960

 患者は68歳の女性.主訴は黄疸・既往歴では20歳時黄疸.現病歴としては,生来健康であったが,昨年10月頃より,脂肪摂取により嘔気を認めるようになった.本年5月頃より,発熱,右季肋部痛などなく,食後頻回に嘔吐を生じ6kgの体重減少を認め,眼球黄染を生ずるに到った.
 6月1日外来検査成績 ChE 0.54 ⊿pH,A1-P 47.8KAU,GOT 68KU,GPT 52KU,LAP 583GRU,LDH 407Wr. U,cholesterol 236mg/dl,T. Bili 5.1mg/dl,GI seriesは著変なし.C-loopの拡大なし.α-fetoprotein陰性.

脳卒中発作により黄疸・腹水の消失した肝硬変の一例

著者: 内潟雅信

ページ範囲:P.1969 - P.1969

 神経内科の領域では,CTスキャンの導入,神経化学,ウイルス学の進歩などにより,診療レベルが最近著しく向上しつつある.しかし,患者側からの情報があまりにも乏しい時はその診断に苦労することが少なくない.
 患者は52歳男性.数年来の肝硬変のため常時,黄疸・腹水を有していたが,3年前突然脳卒中発作を起こした.発作後奇妙なことに腹水が消失し,また腹水より腫瘍細胞が疑われたため,それらの精査と発作後頻発するけいれん発作の治療を兼ね入院となった.神経学的には知覚障害を伴う右片麻痺を示し,強い関節拘縮もみられた.深部反射は右側で亢進し,Babinski徴候陽性,他に重度の失語(主に運動性)と失書・計算力低下などが認められた,発作が突発している点と心房細動を有することからまず脳塞栓を疑った.一般理学的には血圧100/70,脈拍毎分90(不整)で,頸静脈の著明な怒張,腹壁静脈怒張,足背浮腫および黄疸が認められた.なお腹水,肝脾腫は認められず肝機能上も肝硬変を示唆する所見は得られなかった.胸部X線より胸膜肥厚のほかに心陰影の中等度拡大,第4弓内側の石灰化が認められ,さらに心カテにて典型的なdip and plateauが得られ慢性収縮性心膜炎の診断が下された.

頭痛を主訴とし,定型的皮疹を欠いたSLE

著者: 川崎森郎

ページ範囲:P.1989 - P.1989

 患者は40歳の主婦.頭痛を主訴として来院.家族歴に特記すべきことなく,既往歴では坐骨神経痛とピリン過敏症があるという.全身状態は良好で理学的に異常所見なく,血圧136/80mmHgであった.ただ両下肢に網の目状の紅斑がみられ,これは37歳頃より現れ,立位を長くつづけていると増悪するとのことであった.頭痛のほかに肩凝り,腰痛などいくつかの症状をとりとめなく訴え,印象としては更年期障害のごとくであった.下肢の皮疹のため皮膚科を受診させるとLivedo racemosaと診断され,皮膚生検所見はallergic angitisであった.この時,梅毒反応ガラス板法(+),TPHA(-),RA(-)で,赤沈は1時間値95mmと亢進していた.さらに腰痛のため整形外科を受診,オパイリンの投与を受けたところ発熱,顔面潮紅,浮腫が現れたが数日で軽快した.尿蛋白は陰性であった.その後リウマチとして時折出没する軽い関節炎や頭痛に対し,内科,整形外科で対症的に治療を受けていた.しかし,薬剤アレルギーを有すること,allergic angitisの組織所見を示したことなどから,より重大な免疫異常状態が潜在することが疑われてはいた.約半年後,咽頭痛にはじまり39℃に及ぶ発熱の持続と全身の強度の関節痛が出現し精査のため入院した.Livedoを除いて発疹はなく,脱毛,咽頭潰瘍も認められなかった.

空洞形成の著明にみられた転移性肺癌

著者: 宮村正典

ページ範囲:P.2015 - P.2015

 肺の多発性空洞性病変の原因は,bullaeを除けば,ほとんどが結核性,真菌性その他の細菌性病変や原発性肺癌が主体であり,壁の薄い転移性肺腫瘍による空洞形成は稀である.
 患者は52歳男性.昭和50年5月20日,直腸癌のため直腸切断および人工肛門造設術がなされた.その組織所見はadenocarcinoma-papillotubulareであった.この時の胸部X線ですでに右下肺野と左肺門部付近に直径各2cmと1.5cmの壁の薄い輪状の空洞陰影がみられた.

SLEによる痙攣発作

著者: 田中亮一

ページ範囲:P.2019 - P.2019

 患者は48歳の女性で主婦.主訴は全身性痙攣発作.家族歴,既往歴は特記すべきことなし.現病歴としては,昭和49年春頃,手の関節のこわばりに気づく.5月初旬より37℃台の微熱持続した.この頃,家庭内で心労が多かった.6月中旬夕方突然全身強直性痙攣,続いて昏睡状態となり近医に緊急入院.昏睡は約2時間持続した.3日後当院転院.身長160cm,体重45kgの神経質な婦人.意識は清明で,体温37.5℃,血圧124/64mmHg,両側耳下腺触知,腋窩,鼠径部リンパ節触知,関節はとくに異常なし.神経学的にも異常を認めなかった.入院後の検査にて,尿蛋白(±),沈渣異常なし.貧血,白血球減少,血沈亢進,γ-グロブリン高値を認め,膠原病の存在を疑わしめたが,ワ氏反応,抗甲状腺抗体,RA,ANF,LEテスト,LE細胞現象は陰性であった.痙攣発作は入院後みられず,神経学的所見に乏しく,脳脊髄液も正常,脳波にて時に徐波を認めるも特有のスパイクはなく,入院前に家庭内での心労が重なっていたことより,痙攣の原因をpsychogenic reactionと考えた.耳下腺を触知したことよりSjögren病を疑った.自覚的に乾燥症状は著明でなかったが,唾液腺造影にて拡大像を認め,Sjögren病疑いの診断のもとにステロイド療法を開始した.退院後,調子がよいため,またステロイドの副作用を懸念し勝手に内服を中止し,通院しなくなった.

各種検査法によっても診断困難な多彩な神経症状を示す症例

著者: 内潟雅信

ページ範囲:P.2027 - P.2027

 本例は各種検査法によりあまりにも多くの情報が得られたたあに,かえって診断に苦労している症例である.
 患者は48歳男性.昭和49年より吃逆が出没,昭和50年1月には歩行障害,意識障害および発熱が出現し入院した.入院時,傾眠状態でParinaud徴候,対光反射欠如,左片麻痺を示し,次いで作話,保続,項部硬直を認めた.以上の経過から第3脳室から中脳水道付近の腫蕩性病変を疑い,穿頭し脳室造影を行うも,mass lesionを証明することができなかった.その後,筋強剛,右方注視障害,Horner症候群(右)が出現,また検査上,血沈の中等度亢進,髄液の軽度の細胞・蛋白増多が認められるも,細菌,カビ,ウイルスなどは証明できず,抗生物質,ステロイド,L-dopaなどによる効果もみられなかった.

Non-secretary myelomaの一例

著者: 加藤文朗 ,   山田重樹

ページ範囲:P.2034 - P.2034

 患者は59歳,男性.無職である.主訴は右季肋部から右背部にかけての疼痛.既往歴としては,5年前より高血圧,3年前より右眼中心性脈絡網膜炎を加療中.なお家族歴には特記すべきことはない.
 現病歴としては,50年10月頃より主訴出現,某医にて神経痛として治療を受けたが改善せず,51年1月5日本院外来を訪れ,肝機能,胆嚢造影にて異常なし,胸椎X線に著明な変形性脊椎症を認め,1月9日本科入院となる.

肺炎にて初発し,頸部リンパ節生検および諸種検査で肺癌と診断された膵癌の一剖検例

著者: 斉藤清治

ページ範囲:P.2068 - P.2068

 肺炎にて初発し,頸部リンパ節生検および諸種検査にて肺癌と診断したが,死後剖検にて膵癌の肺転移であった例を経験した.
 患者は45歳男性で,15年前,虫垂切除術の既往がある.昭和45年9月初旬より,咳嗽,微熱を訴え近医の治療を受けていたが,改善せぬため,9月16日入院した.入院時,右肺に粗な呼吸音と左鎖骨上窩から左頸部にかけて小豆大から大豆大のリンパ節腫大を認めたが,他の理学的所見に異常は認めなかった.検査成績では,一般血液検査,諸種肝機能検査,血清学的検査,血糖および脂質検査などに異常なく,赤血球沈降速度のみ中等度亢進していた.また尿,糞便検査も正常で,喀痰検査にても病的細菌は培養されず,悪性細胞は認められなかった.胸部X線写真では,右肺上野にびまん性の陰影と断層写真にて胸壁側を底辺とする三角形の陰影が認められた.

トキソプラズマ抗体価高値で,診断に迷ったNeuro-Behçet病の一例

著者: 瀬古敬

ページ範囲:P.2071 - P.2071

 患者は58歳女.5年前より飛蚊症あり,虹彩炎を指摘されて加療をうけてきた.3年前肋間神経痛の治療をうけたことがある.その他にこれまでよく発熱し,そのわりには元気であるといった状態を何度かくり返している.1976年7月9日,勤務先で体がだるくなり帰宅,何日間か臥床したことがあったが,その時は38℃ぐらいの発熱と咽頭痛があった.7月末には口がまわりにくくなり,時には笑いだしたらとまらなくなった.左足が動きにくくなり自立歩行不能となった.目をふさぐと立っていることもできなくなった.その後も37〜38℃の熱発が消長しているが,1976年9月には39℃ぐらいの発熱をきたし救急外来を訪れたこともある.10月頃から特別な治療をうけることなく軽快し,家では掃除などもできるようになった.ロレツもまわるようになった.1976年12月17日精査のために入院.
 口角炎,舌潰瘍あり,四肢腱反射は亢進.Tromner,Babinski,Chaddock,Rossolimoなどの病的反射は左右に陽性.ロンベルグテスト(±),起立位では右へ転びやすい.指鼻試験,変換運動は左右とも拙劣,咽頭反射消失.

結核性腹膜炎

著者: 高橋徹

ページ範囲:P.2075 - P.2075

 内科医を悩ます臨床上の問題の一つに不明熱がある.患者および家族の焦躁感がつのり,焦躁が主治医にすら伝染する場合も往々にしてある.不明熱100例を分析したPetersdorfによると,そのうち結核症,ことに腹部臓器結核が高頻度にあることが指摘され,診断の困難さが示唆されている.本例は10日間の高熱のあと1日5〜6行の水様便が出現,その間急性腹症とされたり,腸チフス疑いとして隔離されたりした.その後血性腹水の貯留から悪性腫瘍を疑われたが,最終的には結核性腹膜炎と診断し,治療軽快した症例である.
 症例 40歳男.

著明な血沈亢進,CRP陽性を唯一の主訴とした早期腎癌の摘除例

著者: 梅村康順

ページ範囲:P.2101 - P.2101

 腎癌の症状としてclassic triadである腎腫瘤,血尿,疼痛が有名であるが,これらはいずれも進行した状態での場合に多く,早期のものはasymptomaticで,ほとんどが経過中にたまたま発見されるぐらいで,診断が困難とされる.とくに検尿で異常所見がない場合には,外来でのスクリーニングの段階で除外してしまい見逃しやすい.本例は尿所見にまったく異常を示さず,血沈異常亢進,CRP陽性所見のみを主訴とした早期腎癌の摘除例である.
 患者は60歳の男性.約5カ月前にドック健診を受け,血沈亢進(1時間値105,2時間値135),CRP(++++),RA(⧺),および胆嚢内結石を指摘され精査を受けるようにいわれたが,とくに自覚症状もなかったので放置.転勤になった機会に当院へ精査のため入院した.

薬物性肝炎

著者: 川崎森郎

ページ範囲:P.2147 - P.2147

 患者は46歳の主婦で,全身倦怠を主訴として来院した.家族歴に異常なく,既往歴では42歳でやはり全身倦怠があり,某医により黄疸を指摘されるも通院のみで軽快,44歳で不定の胃腸症状のため当科入院,内臓下垂のみで肝機能検査は正常であった.現病歴は約1カ月前に感冒様症状あり,某医で肝機能異常を認められ入院,軽快したが退院時に膀胱炎が出現したので投薬を受けた.しかし,全身倦怠感が強くなり当科へ入院した.37.7℃の発熱があり,黄疸を認め,GOT 500以上,GPT 450であった.HB抗原(-).安静と一般肝庇護を行ったが,1週間後にGOT 43,GPT 45と著明に改善され黄疸も消失した.膀胱炎には入院後にカネンドマイシンの注射を6日間つづけて治癒した.さらに1週間後に肝生検を行ったが,prolonged hepatitisという診断で,慢性肝炎とみるよりは急性肝炎の再燃と思われるという返事であった.その後は運動負荷によってもGOT,GPTの上昇はみられず,外来的に経過を追うことにした.
 退院後1カ月して残尿感,排尿痛のため来院,尿所見に乏しかったがウイントマイロン9錠を投与,1週間服用するも軽快せず,GOT 27,GPT 20と変化なく,泌尿器科を受診し慢性尿道膀胱炎として投薬をうけたが,悪寒戦慄,発熱,嘔気,嘔吐が出現し,1週間後再度当科に入院した.自覚症状が強く黄疸を認め,GOT 530以上,GPT 446以上であった.

徐脈頻脈症候群で初発し,約1年7ヵ月後に急性白血病様経過で死亡し,洞結節部に腫瘍性浸潤を認めた悪性細網細胞症の一剖検例

著者: 斉藤清治

ページ範囲:P.2153 - P.2153

 徐脈頻脈症候群で初発し,約1年7カ月後急性白血病様の経過をとり急死した悪性細網細胞症と考えられる例で,剖検にて洞結節を含む右房心外膜に腫瘍細胞の浸潤を認めた例を経験した.
 患者は45歳男性で,46年9月某病院で十二指腸潰瘍の治療を受け,その時の心電図は正常洞調律であった.47年4月,数分聞のAdarns-Stokes発作をきたし,以後不整を伴った脈拍数40程度の徐脈を自覚している.同年8月精査目的で本院へ入院した.心電図は洞房ブロックを基調とした房室解離で,時折心室捕捉を伴っていた.胸部X線写真は心肥大を示したが,心カテーテル検査,心血管造影に異常なく,一般理学的検査,一般血液検査,諸種肝機能検査,血清学的検査,尿糞便検査も正常で,原発性心筋症あるいは洞結節機能不全症候群と考え,経過を観察したが心電図所見に変化なく,48年1月退院した.以後外来通院にて経過を観察したが,徐脈性不整脈を呈し,時折発作性心房粗動を認めたが,ジギタリス剤でコントロールした.また血液検査にもなんら変化を認めなかったが,48年10月頃より,全身の体表リンパ節の腫大と右胸水を認めた.胸水は漏出液で,リンパ節生検では,実質は濾胞の過形成を示すのみであったが,被膜に細網系由来と考えるられ異型細胞の浸潤があった.βメサゾンの投与で12月にはリンパ節腫大,胸水とも消失した.その期間中赤血球数,白血球数ともまったく正常であったが,血小板数10〜12万に減少し,血液像ではリンパ球が43%と上昇した.以後49年2月まで自覚的にも,血液検査成績などにても変化なく外来通院を続けたが,2月末頃突然発熱および右胸水を認め入院した.赤血球数470万,白血球数5,900,血小板数3.8万で,血液像には病的細胞は認めなかったが,リンパ球67%であった.他の血液検査でも,CRP陽性化,LDH 1,860 U/mlと上昇し,骨髄穿刺はdry tapであった.急性白血病様変化と考え,βメサゾン,抗生剤を投与したが,3病日より出血傾向を認め,7病日にはTh 7以下の横断性脊髄麻痺を呈した.以後出血傾向増強し41病日に死亡した.死亡まで白血球数は6,000〜7,000で,血液像では50〜60%のリンパ球を認め,末期に1〜2%の異型細胞を認めた.

腫瘤が急速に縮小した腎癌

著者: 西野奨一

ページ範囲:P.2158 - P.2158

症例 68歳女,主婦
主訴 腹痛,腹部腫瘤

末期まで表在性リンパ節腫脹を欠き,診断困難であった細網肉腫の一例

著者: 笹村義一

ページ範囲:P.2187 - P.2187

 不明の発熱をきたす疾患としては,感染症と並んで悪性腫瘍がとくに注目される.われわれは,発熱を主訴として入院したが,末期まで表在性リンパ節腫脹を欠き,診断確定が困難であった細網肉腫の一例を経験した.
 患者は44歳男.家族歴,既往歴に特記事項はない.現病歴として昭和48年12月下旬より,38℃前後の発熱が出没し,昭和49年2月12日入院した.入院時,表在性リンパ節腫脹はなく,肝・脾腫も明らかではなかった.血沈1時間値83mm.末梢血液所見ではHb 11.2g/dlと軽度の貧血を認め,W 6,100(St 18,Seg 34,M 23,L 25)と白血球増多はなかった.血清生化学的検査ではLDH 810単位(I 18%,II 44%,III 28%,IV 10%,V 0%)が著明な所見であった.また,細菌,ウイルスに対する検索,LEテストなども施行したが,いずれも陰性であった.

原発巣が膵癌か胃癌か診断に迷った症例

著者: 渡辺昌裕

ページ範囲:P.2191 - P.2191

 原発巣が不明で転移巣のみがはっきりしている悪性腫瘍例を経験することはしばしばあるが,膵および胃に腫瘍病変が認められるのに,どちらが原発巣かを決定するのに困難であった症例を経験した.胆石症にて胆嚢摘除術を受けた既往歴のある64歳女子が,るいそうと発熱を主訴として入院.眼瞼結膜やや貧血ぎみ.黄疸はない.腹部では中央部に3×4横指大の硬い腫瘤を触知し軽度の圧痛を伴う.肝は2横指触知し,表面は粗大顆粒状である.検便にて潜血反応強陽性.血液一般検査で貧血を認める.LDH 1,200,CRP 5+,血清蛋白5.2g/dl,α1,α2グロブリン分画の増加をみる.GOT,GPTは正常であるがAl-P 29.2(K-A)と上昇.α-フェト蛋白陰性.血中および尿中アミラーゼ値は正常.50gGTTでは境界型を示す.上部消化管透視で前庭部のBorrmann III型胃癌が疑われた.胃ファイバースコープでもBorrmann III型を思わせる所見を認めたが,同時に施行した生検組織像はchronic gastritis,no malignantfindingであった.肝シンチは肝門部および右葉上部にspace occupying lesionを認め,膵シンチでも体部にspaceoccupying lesionを認めた.この患者は全身衰弱著明で死亡したが,生前には膵癌が胃へ浸潤および肝転移したものか,胃癌が膵へ浸潤および肝転移したものかは鑑別困難であった.

狭心症が先行した肺梗塞の一例

著者: 渡辺昌裕

ページ範囲:P.2233 - P.2233

 心筋梗塞と肺梗塞を症状のみから鑑別することは困難なことが多いが,狭心症が先行したために肺梗塞を診断できなかった症例を経験した.
 高血圧および心筋梗塞の既往歴のある79歳女子で,右片麻痺を伴う脳血栓症のため8カ月間臥床入院中であった.心電図は正常洞調律,電気軸+60°,胸部誘導のV1,V2にてQSパターンを認めるが,ST下降,T波の逆転は認めない.SV1+RV5=35mm.胸部X線正面像はCTR=0.56,肺野に異常陰影を認めない.血液一般検査で軽度の貧血をみるが,血清総コレステロール,トリグリセライド,尿酸,空腹時血糖値などは正常で肥満もない.死亡5日前に胸骨裏面に激しい痛みを訴え,心電図で左側胸部誘導に著明なST・下降を認めた.ニトログリセリン錠舌下により胸痛発作と心電図所見の改善をみた.呼吸困難はなく,同日撮影の胸部X線で著変なく,GOT,GPT,LDH,白血球数なども正常であった.死亡当日に同様の胸痛発作をきたし,軽度の呼吸困難および軽度のチアノーゼを伴い,肺野に乾性ラ音を聴取し,心音は微弱であった.心電図では胸部誘導のV1,V2でST上昇し,肢誘導の1,aVL,胸部誘導のV4,V5,V6でST高度に下降し,T波の陰性化を認めたが,電気軸は不変であった.ニトログリセリン錠は無効であり,血圧低下をきたして死亡した.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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