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雑誌目次

雑誌文献

medicina14巻4号

1977年04月発行

雑誌目次

今月の主題 内分泌疾患診断の進歩

理解のための10題

ページ範囲:P.558 - P.560

診断のすすめ方

視床下部

著者: 高原二郎

ページ範囲:P.479 - P.481

 最近の内分泌学の進歩,とくに視床下部ホルモンの発見やradioimmunoassayの発展により,下垂体ホルモン分泌動態が確実に把握できるようになり,視床下部異常に基づく内分泌疾患の診断が容易になってきている.本稿においては,視床下部・下垂体性疾患とくに視床下部疾患の診断のすすめ方の概略について述べる.

下垂体前葉

著者: 中川光二

ページ範囲:P.482 - P.486

はじめに
 下垂体前葉は,後葉を含めても0.5〜0.79の小さな臓器であるが,ここから少なくとも7種類のホルモンが分泌されているために,その疾患ではしばしばホルモン分泌機能の異常による全身症状,すなわち下垂体前葉機能障害が前面に現れる.
 下垂体前葉の疾患は,病理形態学的には,欠損,萎縮,変性,壊死,炎症,過形成,腫瘍などである(このうち壊死と腫瘍が大半を占める)が前5者は主として機能低下の病因となるものであり,過形成や1ないし数種のホルモンを分泌する(機能性)腫瘍は,機能亢進をきたす.一方,機能性と非機能性とを問わず,腫瘍は,下垂体の他の部分に圧迫などによる萎縮,変性,壊死などを招来して機能の低下を起こすことが多い.このような発生機転のために,機能亢進は単一のホルモン系に起こりやすく,下垂体原発の機能低下は,非特異的に複数のホルモン系に起こりやすい.

下垂体後葉

著者: 斉藤寿一

ページ範囲:P.488 - P.489

 下垂体後葉系疾患診断のための検査法としてはADHの主作用である腎集合管における自由水排泄の抑制を指標とした各種検査が,その確実さと容易さの故に必須の手技となっている.これに加えて,血中または尿中ナトリウムレベルの測定は,ADH分泌の不足すなわち尿崩症においても,またその過剰であるSIADHにおいても,有力な診断上の指標となる.
 血中または尿中後葉ホルモンの測定による後葉機能の診断は,他の内分泌疾患におけると同様,欠くことのできない項目となりつつある一方,とくに尿崩症の有無を診断する上で,ホルモン測定上の感度,特異性の点で改良さるべき技術上の問題が残されている.この点,下垂体後葉ホルモンの特異的結合蛋白,ニューロフィジンのラジオイムノアッセイによる測定も,今後後葉疾患診断法のひとつとなることが予想される.

甲状腺—内科から

著者: 稲田満夫

ページ範囲:P.490 - P.494

はじめに
 甲状腺疾患の診断には病歴の聴取,臨床症状の正確な把握,そして各種甲状腺機能検査法が利用されている.とくに血中甲状腺ホルモン濃度測定法の進歩は,甲状腺機能状態の診断に大きく寄与し,その早期診断を可能にしている.
 本稿では,甲状腺疾患の診断にあたって,まず診察時の注意すべき点を述べ,次に各種甲状腺機能検査法の意義および解釈法を概説し,甲状腺疾患の診断のすすめ方を考えてみたい.

甲状腺—外科から

著者: 増田富一 ,   星子直躬

ページ範囲:P.495 - P.497

 甲状腺疾患の診断に当たって,内科的には患者の一般的な主訴(たとえば疲労感,体重減少,下痢,動悸,四肢のしびれ感,浮腫感など)によって,甲状腺機能の異常を診断することが大事である.しかし,外科を訪れる患者の大半は表1のように前頸部腫瘤を主訴とし,その約1/3は他人の指摘によって来院することが多い.故に外科の診察では,前頸部腫脹が甲状腺腫であり,その手術適応を決定することが最も重要となってくる.以下,当科で行っている検査およびその成績を参考にして,診断のすすめ方を述べてみることにする.

副甲状腺

著者: 古川洋太郎 ,   孫孝義 ,   海上寛

ページ範囲:P.498 - P.500

副甲状腺疾患と血清カルシウム
 副甲状腺ホルモンは骨と腎に作用し,またビタミンDの活性化を促進することによって腸管にも働いて,血清カルシウムを高める作用をもつ.
 副甲状腺が腫瘍化して副甲状腺ホルモンが過剰に分泌される場合,血中に現れる変化は血清カルシウムの上昇であり,他方何らかの原因によって副甲状腺ホルモンの分泌が低下すると逆に血清カルシウムが低下する.

副腎皮質

著者: 安田圭吾 ,   奥山牧夫 ,   三浦清

ページ範囲:P.501 - P.505

 副腎皮質ホルモンの分泌過剰をきたす代表的疾患は,原発性アルドステロン症,クッシング症候群および副腎性器症候群で,副腎皮質の全般的機能低下をきたす疾患はアジソン病である.これらの疾患の診断で最も大切なことは,注意深い病歴の聴取,臨床所見の把握であり,これに加え内分泌機能検査として,対照時およびフィードバック機構を応用した血中および尿中ホルモン値やその変動の把握である.
 本稿では上記の代表的疾患の診断について,一部周辺疾患の鑑別とともに自験例を含めて解説する.

副腎髄質

著者: 山田律爾

ページ範囲:P.506 - P.507

はじめに
 副腎髄質からは主としてアドレナリンが分泌され,交感神経からはノルアドレナリンが分泌される.副腎髄質の機能が低下しても,交感神経系が代償する.したがって,副腎髄質では機能低下症は臨床上は問題とならない.事実,多くの剖検例で筆者らが副腎皮質と同様に髄質の萎縮と思われるような所見を組織学的に見ても,臨床所見ではとくに異常を思わせるものがない.
 副腎髄質の疾患は機能亢進が臨床上問題となる.すなわち,カテコラミン(ノルアドレナリン,アドレナリン)を多量に分泌する褐色細胞腫(重クロム酸で染色すると褐色になるので,こう命名されている)が重要となる、褐色細胞腫は明治44年に2剖検例が報告されて以後,大正には報告はなく,昭和17年に1例,昭和25年に1例しか発表されていなかった.褐色細胞腫の報告が急増したのは,筆者が日本で初めて24時間尿中カテコラミンを測定し,禍色細胞腫を診断して以後である1,2)

性腺・男性

著者: 島崎淳 ,   片山喬 ,   相川英男

ページ範囲:P.508 - P.510

段階的発育過程およびその異常
 胎生期に睾丸はテストステロンを分泌し,ミューラー管の退行およびウォルフ管や泌尿生殖洞の雄性副性器への分化を行う.この時期に睾丸の異常があるとき性分化の異常となり,外陰部が両性傾向を示すし,副性器の奇形となる.これらの病変は小児期に見過ごされても思春期にさらに増幅されることになり,半陰陽と診断されよう.
 出生時に胎盤のhCGによりテストステロンを分泌して間脳に雄性分化を起こした睾丸も,小児期にはほとんど内分泌機能を営まない.ところが,10歳を過ぎてからFSH,LH,およびテストステロンの分泌が亢進する(図1〜3).その結果,次のごとき外陰部の成熟現象が漸進的に起こり思春期を完成する.

性腺・女性

著者: 加藤順三

ページ範囲:P.511 - P.514

はじめに
 女性において性腺そのものおよび間脳・視床下部・卵巣の異常は,月経異常として出現することが多いので,臨床の実際上,本症状を目安として診断をすすめるのが有効である.月経異常は全身疾患の随伴症状のひとつでもあるので(後述),全体臨床像の把握が重要であることは論をまたない.

知っておきたいホルモン

カルチトニン

著者: 野田進一 ,   森井浩世

ページ範囲:P.516 - P.517

生理的意義
 カルチトニン(Calcitonin)は,1962〜3年にCopp,Munsonらによって発見されたホルモンであり,この15年間に基礎,臨床にわたり多数の研究が行われた.しかしながら,カルチトニンの生理的意義については,なお解明されていないといってよい.現在の時点におけるカルチトニンの知見を整理してみると,以下のごとくである.
 化学構造 ブタ,ウシ,ヒツジ,ヒト,サケ(I〜III),ウナギについて化学構造が確定され,いずれも32個のアミノ酸からなることが示された.さらにラットについても研究がすすめられている.

レニン・アンギオテンシン

著者: 福地總逸

ページ範囲:P.518 - P.519

 レニンは腎糸球体の血管極に存在する傍糸球体装置から血中に放出されてのち,血漿中のαまたはβ-グロブリン(レニン基質)の中の糖蛋白のleu-leu結合に作用して,デカペプチドであるアンギオテンシンIを遊離する蛋白酵素である.このアンギオテンシンIも,レニンと同様,生物学的に不活性であるが,血液中の転換酵素により直ちにhistidineとleucineを遊離して,アンギオテンシンIIになる.アンギオテンシンIIは血管壁の平滑筋を収縮させるだけでなく,副腎からのアルドステロンの分泌を刺激し,また直接腎の遠位尿細管に作用して,Na排泄を抑制する作用をもっている.
 レニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAA)系は血圧の調節に,また水・電解質の調節を介してホメオスターシスの維持に重要な役割を演じている.腎のレニン放出を増加する因子としては,腎の灌流圧の低下,腎血流量の減少,血漿Na濃度の低下,交感神経系の亢進が知られている.レニン放出を低下させる因子としては,増加させる因子の逆の機序のほかに,アンギオテンシンまたはレニンそれ自体がある.腎からのレニン放出が増加すると,アンギオテンシンを介して血圧を上昇させるとともに,副腎からのアルドステロン分泌を刺激し,アルドステロンは腎遠位尿細管におけるNa再吸収を促進し,K喪失を促がす.その結果,高血圧と低K血をきたし,腎灌流圧は上昇し腎血流量は増加するので,レニン放出を低下させる.

ソマトメジン

著者: 高野加寿恵

ページ範囲:P.520 - P.521

歴史と定義
 ソマトメジン(Somatomedin1))は,成長ホルモン(GH)の骨格組織への作用を仲介する物質として注目されてきたものである.1957年にSalmonとDaughadayは,下垂体摘出ラットの血清の軟骨への35Sの取り込みは正常ラットのそれよりはるかに少ないことを認めた.しかし,この35Sの取り込みは,GHをin vivoで投与すると促進されたが,in vitroで加えたのでは促進されなかった.これは成長ホルモンが体中でなんらかの物質を介して作用すると考え,この物質を"sulfation factor"と命名した.その後,sulfation factorが純化され,その作用についての研究が行われた結果,この因子は軟骨へのsulfateの取り込みを促進するばかりでなく,筋,脂肪組織においてインスリン様作用を示すことが明らかになったので,1972年,Daughadayらはこの因子にソマトメジンという言葉を使用することを提唱した.
 現在その定義については,学者によって必ずしも一致していないが,広義の意味では,血中に存在するGH依存性の成長因子であり,狭義の意味では,前項に加えて軟骨のsulfateまたはthymidineの取り込みを促進し,しかも標的組織に対してはインスリン様作用を持つ物質であるといえる.

ソマトスタチン

著者: 澤野眞二

ページ範囲:P.522 - P.524

ソマトスタチン(GIF,SRIF)に関する研究の概要
 GIFは,1973年米国のGuillemin一派が,ヒツジ視床下部から単離し構造を決定したtetradecapeptide(図)で,「下垂体からの成長ホルモン(GH)の分泌を抑制する視床下部性ペプチド」として発表された1).この際,約50万頭分のヒツジ視床下部が原料とされ,GIFの最終的収量は,わずか8.5mgであったということである.
 この発見は直ちに世界的な反響を呼び,多くの研究者が合成GIFを用いてその生物作用に関する研究を行い,下垂体ホルモンの中ではTSHの分泌をも抑制することがわかり2),73年から74年にかけて,GIFが膵臓からのインスリン3),グルカゴン4)の分泌をも抑制すること,74〜75年には消化管からのガストリン5),セクレチン6)の分泌を抑制することが知られるに至って,現在GIFは,神経内分泌の分野のみならず,糖尿病,消化器の分野でも非常に注目を集めている.

プロスタグランディン

著者: 坂元正一 ,   佐藤和雄

ページ範囲:P.525 - P.528

プロスタグランディンとは?
 1930年Kurzrok & Liebが,ヒト精液がヒト子宮筋をin vitroで収縮または弛緩させることを報告した.次いで1934年Goldblatt,von Eulerによって独立に羊の精液および精嚢腺から平滑筋刺激作用,血管弛緩作用,血圧降下作用のある物質が抽出され,von Eulerによって前立腺由来であるとの考えから,プロスタグランディン(PG)と命名された.(しかしPGが主として精嚢腺で産生されることから,この名前が必ずしも正しくないことが後に明らかになった).その後Bergstromによって結晶化され,PG研究は飛躍的に進歩することになった.PGの生理作用は,非常に多彩で体温調節,気管支拡張,胃酸分泌抑制,血管拡張,血小板凝集抑制,黄体退行変化,子宮筋収縮弛緩など枚挙できないくらいであるが(図1),さらに天然に存在する物質のなかで最も活性の強いもののひとつで,平滑筋収縮作用もng(10-9g)単位で十分作用をあらわす.
 生体中には生体機能を調節する物質として,transmitter,autocoid,hormoneなどがあるが,PGは5-HT,histamine,bradykinin,angiotensin Iなどとともにautocoidに属すると考えられる.

グラフ

目でみる内分泌疾患

著者: 入江実 ,   高原二郎 ,   中川光二 ,   屋形稔 ,   斉藤寿一 ,   稲田満夫 ,   古川洋太郎 ,   増田富一 ,   安田圭吾 ,   奥山牧夫 ,   三浦清 ,   山田律爾 ,   島崎淳 ,   片山喬 ,   相川英男 ,   加藤順三

ページ範囲:P.529 - P.542

視床下部
◀図1 Anorexia nervosa(神経性食思不振症)
 思春期の女性に多い.極度の食思不振のため図のように高度の「やせ」がみられる.原因としては成熟した女性になることに対する嫌悪に基づくものとされている.本症は視床下部に機能的障害があることが明らかにされている.

座談会

内分泌疾患診断の進歩

著者: 紫芝良昌 ,   折茂肇 ,   清水直容 ,   出村黎子 ,   諏訪珹三 ,   入江実

ページ範囲:P.546 - P.556

 近年,内分泌疾患の臨床は,生化学分野の進歩と相まって,ホルモン測定とその数量化が可能となり,早期診断はもちろん,きめ細かな部位診断まで可能になりつつあるという.そこで,本座談会では,この方面の専門家に最新の知見をご披歴いただいた.

演習・X線診断学 血管造影写真読影のコツ・4

副腎血管造影

著者: 平松京一

ページ範囲:P.561 - P.568

 演習X線・血管造影読影シリーズも4回目に入りますが,今回は副腎血管造影読影のポイントを写真中心にして述べてみることにします.最近は副腎疾患の診断において血管造影の占める役割は非常に大きく,従来より主に用いられてきた後腹膜充気法に代わってその診断的価値が高く評価されていますが,その読影にあたってはその血管解剖とその変異,さらに副腎動脈静脈の正常像をまず知っておかねばなりません.

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内科専門医を志す人に・トレーニング3題

著者: 柏崎禎夫 ,   柴田昭 ,   永江和久

ページ範囲:P.569 - P.571

問題1. リウマチ性多発筋痛(polymyalgia rheumatica)について,次の事項のうち誤っているものはどれか.
①中年女性に好発し,四肢近位筋群の痛み,筋力低下およびこわばりが主症状である.

内科専門医を志す人に・私のプロトコール

POS編・その4

著者: 石村孝夫 ,   谷本普一

ページ範囲:P.573 - P.576

 今回からは複数のactive problemをもつ症例を提示する.
 POS形式の利点と欠点
 複数のproblemをもつ症例のプロトコールをPOS形式で記載するには,手順としては,まず入院経過をproblem別に"縦割り"整理をしなくてはならない.そのつぎに,各々のproblemをS,O,A,Pに今度は"横割り"をするわけである.すなわち,従来形式なら各problemをひとまとめにしてPresent illness,Physical examinationなどに"横割り"し,経過を追って記述していただけのものが,POS形式だとproblem別に"縦割り"する操作が必要となり,プロトコール記載にあたってはより面倒になるわけだが,問題点がひとつひとつ明確に浮き彫りにされ,他人が見ても把握しやすいという利点がある.

診断基準とその使い方

慢性関節リウマチ

著者: 柏崎禎夫

ページ範囲:P.577 - P.579

慢性関節リウマチとは
 関節痛を主症状とするリウマチ性疾患の中で,日常診療上,頻度の高いものが慢性関節リウマチ(RA)である.RAは慢性非化膿性の関節炎を有する全身性疾患であるが,現時点では特定の原因に対応した病気であるとはいえない.したがって,原因の明らかなものや,判然とした疾患単位を構成するものを除外して,なおかつ一定の特徴像を有するものに付された症候群といえる.その特徴像は,①対称性に侵す慢性の多発性関節炎で,②緩解と再燃をくり返して徐々に進行し,早期では関節軟部組織の腫脹(典型例では紡錘状腫脹),晩期であれば尺骨側偏位などの特徴的な関節変形を呈する.③リウマトイド皮下結節などの関節外症状をしばしば有し,④リウマトイド因子が陽性になる.⑤X線上,骨多孔症に加えて,骨・軟骨の破壊像がみられることである.
 定型的なRA像を示す症例であれば診断は極めて容易である.しかし,上述の特徴像のいずれのひとつをとっても,診断の決め手になり得るものはないために,RAの早期例,軽症例,あるいは非定型例の場合に診断上混乱が起こる.とくに多施設間での研究成績の比較とか疫学調査の場合に問題が生ずるために,診断基準の必要性が出てくるわけである.

図解病態のしくみ—甲状腺疾患・6

単純性びまん性甲状腺腫(simple diffuse goiter)の成因

著者: 永田格 ,   矢倉俊洋 ,   内野治人

ページ範囲:P.580 - P.581

 はじめに 機能的には正常である甲状腺疾患はおよそ表のように分類される.この表は1969年Wernerらの用語委員会報告を参考にしている.症状は甲状腺腫を主とする.これをびまん性と結節性とに分けると,表中A,E,Fが前者に,残りが後者に属する.しかし例外的症例も少なくない.Cはむしろびまん性に随所に結節性増殖を生じ,腺腫様甲状腺腫(adenomatous goiter)ともいわれる.E2は結節として触知されることが多い.結節性のものはほとんどが単発のadenomaで,嚢腫はその一部が変化したものである.臨床上重要な悪性腫瘍は予想以上に多く,その診断は必ずしも容易ではない.

臨床病理医はこう読む

肝機能検査(1)

著者: 山崎晴一朗 ,   久原厚生

ページ範囲:P.582 - P.583

黄疸の鑑別
 黄疸を主症状とした症例の鑑別は,まずいかなる型の黄疸かを明らかにし,次に他の肝機能検査値を参考にすることにより診断のマトが絞られてくる.ビリルビンの生成経路を模式図に示した(図1).赤血球の生理的もしくは病的崩壊により生じたヘモグロビンは,大部分がビリベルジンを経て間接型(非抱合型)ビリルビンとなる.これは肝細胞に極めて特異的に取り込まれ,肝細胞のマイクロソームにてグルクロン酸抱合を受けて直接型(抱合型)ビリルビンとなり胆汁中へ排泄される.
 ①の部位の障害は,ビリルビンの過剰供給による黄疸で,各種の溶血性黄疸や原発性シャント高ビリルビン血症がこれに該当する.②の部位の障害は,肝細胞への間接型ビリルビン摂取障害で,Gilbert症候群の主要病因と考えられている.③での障害,すなわち肝細胞マイクロソームにおける酵素欠損あるいは機能低下による黄疸で,Crigler-Najar症候群や新生児黄疸がある.④の部位の障害は毛細胆管へのビリルビン分泌障害を示すもので,Dubin-Johnson症候群やRotor症候群に代表される黄疸である.⑤の部位の障害は胆汁うっ滞による黄疸で,肝内胆汁うっ滞症と肝外閉塞性黄疸の2つに大別される.

疾患合併と薬剤

胃・十二指腸潰瘍患者の貧血

著者: 原沢茂 ,   三輪剛

ページ範囲:P.584 - P.585

はじめに
 胃・十二指腸潰瘍の合併症は出血,穿孔,通過障害がその主なものである.とくに穿孔,通過障害は外科的処置が第1選択される病態である.一方,出血は程度の差こそあれ,消化性潰瘍には必然的に存在するものであり,その程度により貧血にも程度の差が見られる.
 消化管出血は主として吐血または下血として現れ,その原因の70〜95%はこの消化性潰瘍によるものと考えられている.一般に吐血は胃潰瘍にみられ,下血は十二指腸潰瘍に起こることが多い.出血を初発症状とするいわゆる"silent ulcer"は約10%であるといわれ,消化性潰瘍患者全体の約25%が顕出血を呈するといわれている1)

今日の食事療法

肥満

著者: 内藤周幸

ページ範囲:P.586 - P.588

 肥満とは脂肪組織が全身性に正常以上に増加した状態であり,単純性と続発性とに分類される.単純性肥満の治療法の原則は運動と食事である.しかし,成人と成長期の子供とでは,異なった観点からの対策や治療法が必要である.以下,成人の単純性肥満を対象として,食事療法を中心とした治療法について述べようと思う.続発性肥満については原病に対する対策が中心となるので,本稿では述べないが,この場合の肥満に対しても補助的療法として単純性肥満症に対する食事療法の原則が利用できる場合もある.

プライマリー・ケアの実際

カットダウンと静脈カニュレーション

著者: 眞栄城優夫

ページ範囲:P.589 - P.591

はじめに
 ショック患者では,末梢静脈虚脱のため,通常の静脈穿刺による静脈路の確保が不可能なことがある.このようなときに,すべての医師は,独力で,カットダウンや静脈カニュレーションができなければならない、以下,それらの方法と合併症,中心静脈圧の意義などについて述べていきたい.

外来診療・ここが聞きたい

左頸部リンパ節腫脹

著者: 日野志郎 ,   西崎統

ページ範囲:P.592 - P.594

症例
 患者 A. S. 28歳 主婦.
 主訴左頸部リンパ節腫脹(4〜5個).

小児と隣接領域

精神科

著者: 小倉清

ページ範囲:P.596 - P.597

 近年,小児を対象とした精神科臨床は多岐にわたっている.ここで,それらすべてを網羅することはできないが,大雑把なところ,留意すべき点などについて述べてみよう.

内科臨床に役立つ眼科の知識

眼筋麻痺

著者: 松井瑞夫 ,   伊藤研一

ページ範囲:P.598 - P.599

 前回は,眼筋麻痺による複視と麻痺筋の診断方法について述べたので,今回は眼筋麻痺のうち,主として核性および末梢性麻痺の病型,原因などについて,述べてみたい.

心疾患の治療・今日の考え方

肺性心・心包炎

著者: 広木忠行 ,   前田如矢 ,   石川恭三

ページ範囲:P.602 - P.608

 石川(司会) 今回は,肺性心の治療について,重篤な心肺不全を起こしていないときと,急性な心肺不全状態になっているときに分けてお話を進めたいと思います.

特別座談会

内科の卒後研修を考える

著者: 柴田進 ,   岡博 ,   石村孝夫 ,   小林祥泰 ,   田崎義昭

ページ範囲:P.610 - P.618

 厚生省は,医学部卒業後の臨床研修期間を2年と定めているが,まだ封建的色彩が強く残っているといわれるわが国の教育風土の中で,どの程度の効果をあげているのであろうか.内科専門医制度を含めて,これからの方向を探っていただいた.

話題

ソマトスタチンとSU剤の血中濃度ほか—第14回糖尿病学会関東甲信越地方会より

著者: 池田義雄

ページ範囲:P.545 - P.545

 日本糖尿病学会関東甲信越ブロックの年次学術集会である地方会が1月29日,野口記念会館において開かれた.数えて14回目である.このところ毎年発表演題数が増加し,本年は57題と多数にのぼった.例年午後から開かれていたこの集まりも,本年は丸一日にわたる盛況ぶりをみせた.地方会の楽しみは,興味ある症例報告の数々をじっくり聞けるところにある.その期待に答えるがごとく,本年も発表演題の半数はそれぞれのクリニックにおいてwork upされた症例の提示であった.

天地人

強者と弱者

著者:

ページ範囲:P.609 - P.609

 昔さる教授が,学生にむかって,ここに複数の患者がいるとして,どの患者からさきに診るのかという旨の質問をした.学生が答に困っていたところ,「もっとも重篤な患者をまっさきに診るのに決まっているではないか」と一喝されたという.納得できる話である.
 ところが,同じことでも,場面がちがえば様相はまったく異なってくる.戦場で,いわゆる大量傷者がでた場合,軽傷者から診るのだそうである.所詮助からないような重傷者に手をとられていては,助かるものも助からないという人間経済の上での発想で,きわあて非人道的な響があるが,戦場そのものがもともと非人道的な場であることを考えると,そのときの医療も,戦場のモラルに立脚しなければならぬということになる.とすれば,この話も解らぬわけではない.

オスラー博士の生涯・48

講演「医学の金言—医学に進む人々への提言」

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.620 - P.623

 1903年の夏,オスラーは百日咳の治りきらない夫人と息子リビヤを伴ってフランスの海岸で過ごし,帰途,英国とスコットランドにまわり,その間に,ボルチモアの大学病院の結核病棟に1万ドルの寄付をしたフィプスの別荘を訪れた.

洋書紹介

—C. V. Nelson & P. B. Geselowitz 著—「The theoretical basis of electrocardiology」

著者: 山田和生

ページ範囲:P.528 - P.528

心臓電気現象に関する基礎と臨床を結ぶ好著
 最近,心疾患の診断法は新しい診断機器の開発により急速に発展したが,心臓電気現象による診断法も従来の心電図,ベクトル心電図法に加えて,ヒス束心電図法,心電図長時間記録法,体表面心臓電位分布図法などが発達し,その診断能力は飛躍的に増大した.
 また,これらの心臓電気現象による診断法は簡便であり,その多くは非観血的であることなどから,今後も心疾患の診断法の中心をなすと考えられる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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