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雑誌目次

雑誌文献

medicina14巻7号

1977年07月発行

雑誌目次

今月の主題 腹痛の診かた・とらえかた

理解のための10題

ページ範囲:P.1010 - P.1012

腹痛患者の診かた

問診のポイント

著者: 湯川永洋 ,   宮本新太郎

ページ範囲:P.936 - P.937

はじめに
 腹痛患者に対する問診のポイントはどこにあるか実例をあげて考えてみよう.
 症 例 34歳の男性事務員:来院約1時間半前執務中に突然上腹部に劇痛をきたした.付添ってきた看護婦によると,発作時患者は油汗をかき,血圧は最高血圧104mmHgで,ブスコパンを筋注したが痛みはまったく変化しないという.痛みの性質は持続性で,約半時間前から下腹部にも痛みが拡がり,少し便意を感じるという.患者はやや前屈みの姿勢で,人に介助されてそろりそうりと歩行する.顔面は苦悶状ではないが,痛みをこらえているために応答は流暢ではない.診察時患者は仰臥伸展位をとることができる.発熱はなく脈拍は毎分85・整,血圧は120〜80mmHgである.腹部は全体に板状硬で圧痛を認め,打診によりひびいて痛いと答える.打診上,肝濁音は消失していない.今までこのような強い痛みは経験したことはなく,15年ほど前から時々軽い空腹時痛があり,5年前に他医で古い十二指腸潰瘍といわれたことがあると答える.

身体所見のとらえかた

著者: 安部井徹

ページ範囲:P.938 - P.939

全身的にみるべきところ
 患者の姿勢や動作 弱い腹痛は言葉で訴えるだけである.強くなってくると,腹痛をこらえる表情や動作が表れる.顔貌は苦悶状となり,身体をくの字に曲げ,腹を抱えるような姿勢を示す.さらに強くなると,立っていることができなくなり,横になってころげ廻り,苦痛の叫び声を発する.私達はこのような姿勢や動作で,経験的に腹痛の強さを推定することができる.しかし,このような腹痛に対する反応には個人差があり,私達はこれを大げさだとか鈍感だとかいって斟酌する.大げさな人に対しては質問などして気をそらさせると,表現や反応が小さくなる.
 腹膜炎などが加わってきて,壁側腹膜に刺激性が大きくなると,もはや"もがく"ことがかえって腹痛を強める.患者は動かなくなり,じっと歯を食いしばってこらえるようになる.

随伴症状からみた腹痛

発熱

著者: 神坂幸良

ページ範囲:P.940 - P.941

はじめに
 何らかの原因で体内に導入または産生された発熱物質が作用し,体温調節中枢に異常をきたし,体温が正常より高くなっている状態が発熱である.この発熱物質としては細菌由来の燐脂質多糖体,白血球性発熱物質,内因性低分子発熱物質,化学的発熱物質などがあるとされている.
 一方,腹痛は腹膜の緊張,管腔臓器の伸展,筋肉の強い収縮などが痛みの刺激となっていて,末梢神経から内臓神経節,内臓神経,交感神経,脊髄白質交通枝,後根,後角,外側脊髄視床路を経て脳に伝達されて,痛みとして感じられる.

黄疸

著者: 平山洋二 ,   丹羽寛文

ページ範囲:P.942 - P.943

はじめに
 腹痛は日常われわれが遭遇する消化器症状のなかで最も頻度の高いものであり,腹痛をきたす疾患は多岐にわたるが,随伴症状として黄疸をみる場合,考えられる疾患はおのずと限定されてくる.もちろん,腹痛と黄疸の原因とが必ずしも同一疾患とは限らず,異なる疾患の合併による場合もある.たとえば,潰瘍性大腸炎に硬化性胆管炎の合併がみられることはよく知られており,また消化性潰瘍と肝硬変あるいは胆石症の合併も少なからず認められる.診断に当たってはこのような点に関しても考慮する必要がある.

便通異常

著者: 笹川力

ページ範囲:P.944 - P.946

はじめに
 消化管の平滑筋の強い収縮(痙攣)または拡張(伸展),炎症,組織の酸素欠乏などの刺激は粘膜下のマイスネル神経叢,筋層内のアウエルバッハ神経叢から腹腔神経節,上および下腸間膜神経節に伝えられ,そこから大内臓神経,小内臓神経,腰内臓神経の求心性交感神経線維によって,また直腸からの刺激は仙骨神経のなかの求心性副交感神経線維により,脊髄後根から脊髄に伝えられ,さらに脊髄視床路を通って視床から大脳皮質に達し,腹痛を感ずる.
 本稿では便通異常,すなわち下痢または便秘を伴う腹痛患者をみた場合,どのような疾患を疑い,どのように診断をすすめていくかを述べる.

吐血・下血

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.948 - P.949

はじめに
 吐血・下血を伴う腹痛患者をみた場合,ポピュラーで,簡明な教科書にすら記載してある消化器疾患をまず思い浮かべることは常識というものである.しかし,稀には常識ではなかなか考えられない出血病変もあって,そういうときにはどこまで検査をすすめたらよいのか,またどの方向に検査を組み立てていくかおおいに迷うものである.たとえば.Lamら1)が報告しているような,軽度の腹痛のあるアルコール膵炎で偽のう胞が脾動脈をおかし,のう胞内出血が主膵管を通って大量の吐血を起こした症例など,普通のX線,内視鏡検査では診断がつきにくい.この症例など腹腔動脈撮影で脾動脈領域に造影剤のpoolingを認めて手術している.また,胆道からの出血は血胆汁hemobiliaといい,興味ある人はSandblom2)のモノグラフ Hemobilia(Biliary Tract Hemorrhage)を読んでみて欲しい.稀ではあるが,ときに致死的な大量出血を起こし,しかも原因不明のままで死亡し,剖検によってはじめて出血源が判明することがある.
 したがって,吐血・下血,つまり消化管顕出血患者で,しかも腹痛があるものに対する診断的アプローチの常道は,まず消化管の主要病変を中心に,消化管出血と腹痛の両面から原因病変を追究することであるが,とくに出血源がなかなかみつからない場合には常に消化器系を注意深く広く検査する必要がある.小病変といえども見逃さない鋭い目を全消化器にむけておくことが大切な態度であろう.今日,消化管出血に対する緊急内視鏡検査が急速に普及しているが,このような検査のすすめ方によって,現在でもなお少なくない出血源不明例が減少する可能性があると思っている.

腹痛の検査法

腹部単純X線

著者: 永井純 ,   西岡清春

ページ範囲:P.950 - P.953

はじめに
 腹痛に限らず,腹部に愁訴をもつ患者をみた場合,まず行うべきX線検査法は腹部単純写真の撮影であろう.腹部単純写真のみで診断のつく場合もあるし,また,次に進むべき検査法に対して有用な情報を与えてくれることが多いからである.
 本稿では,腹痛を主訴とする患者をみた場合の腹部単純写真の撮影法と読み方について述べてみる.

血管造影

著者: 磯部義憲 ,   平松京一

ページ範囲:P.954 - P.957

はじめに
 血管造影によって得られる情報は,疾患によっては極めて高く有効であることはここであえていうまでもないが,腹痛を主訴とする疾患に限らず,血管造影が最初に行われるべき検査であることは少ない.あくまで十分な問診,臨床所見,臨床化学データ,腹部単純写真など,ほかの検討を重ねた上で,ある程度の疑うべき的をしぼってから施行すべきものである(表1).
 そこで本稿では,腹痛の原因を腫瘤性病変,炎症性病変,血管性病変,および外傷その他に分けて,それぞれにおける血管造影のもつ利点,弱点を中心に適応を考えてみたい(表2).

超音波診断

著者: 室井龍夫

ページ範囲:P.958 - P.961

はじめに
 超音波診断はnon-invasiveな診断法として最近注目を浴びている.装置さえあればベッドサイドでも手軽に行い得,かつ患者に何らの侵襲をも与えない.腹痛に伴い触診で腹部に抵抗や腫瘤を触れた場合,これが膿瘍なのか腫瘍なのか,または腫大した胆嚢なのか,その性質の鑑別に困惑するような場合こそこの診断法の得意とするところである.また腹腔内にfree airが出ているか,また腹水なり浸出液が出ているか否か,Douglas窩に膿瘍を認めるか否か,これらに対する診断も比較的容易である.しかし,内腔に空気を含む消化管に対してはまったく無力で,空気の表面で超音波は多重反射をきたし,直ちに減衰し,それ以上深部へは到達しない.したがって,腸管の背後に存在する病変に対してもまた無力である.イレウスや消化管穿孔など消化管に由来する腹痛の診断には当然レントゲンにその主役の席をゆずるが,このような場合にも腹腔内のfree airとか浸出液とかの随伴する所見を確認することは可能である.しかし,今日,このような目的で繁用されているとは限らない.

ERCP

著者: 三浦清美 ,   山形倫 ,   迫研一

ページ範囲:P.963 - P.966

はじめに
 腹痛,ことに大小強弱,持続性,間歇性あるいは一時的なものによらず自発痛を訴えて訪れた患者を診た場合,腹痛の部位および範囲,発現状態,性質などからして,疾患は診断され,適切な処置が講ぜられることは周知の通りである.しかるに,より適切な診断と治療を行うには,状態によっては腹痛のある時点,普通には軽快した時点において必要と思われる各種検査を実施しなくてはならないわけである.ここで注意しなければならないことは,最近の傾向として,必要最少限の検査ではなく,必要以上の検査の網をかける傾向が認められるのは厳に戒めなくてはならないことである.本稿では,腹痛患者で,どのような疾患を疑うときにERCPを行ったらよいかについて,その適応を中心に2〜3の問題点などを吟味することにする.

グラフ

内視鏡的乳頭切開術による胆石の除去—乳頭部下部切開法とその適応

著者: 税所宏光 ,   唐沢英偉 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.969 - P.976

はじめに
 内視鏡的乳頭切開術による胆管胆石除去法は,胆汁酸製剤,とくにケノデオキシコール酸による胆石溶解療法とならんで,胆石症の治療における最近の話題である.本法は現在,わが国,ドイツおよびアメリカなどで臨床的に応用され,有用性が報告されつつある1〜5).しかし,術後多くの症例では乳頭部閉鎖不全をきたし,胆管内への逆流現象が認められる.また,大出血,十二指腸穿孔など重篤な合併症を伴う場合があるため,切開法に検討の余地が残されている.切開の範囲が大きいほど出血,穿孔などの危険は増し,乳頭部閉鎖不全を生ずると考えられるが,小切開にすぎても術後狭窄などの問題を残す.
 乳頭を通じて胆石除去を意図する乳頭切開術を述べる前に,その考え方の基礎として,胆石が乳頭から自然に排出され治癒する場合が少なくない事実を重視し,分析する必要がある.自然の胆石排出機序を応用した乳頭切開法を行えば,少ない侵襲で,安全かつ効果的に胆石を除去することができると考えられる.胆管胆石自然排出例の検討に基づいて乳頭部下部切開法を実施し,胆管胆石の除去において良好な成績を得たので,本法の実際と自験例の成績および胆管X線像からみた適応について述べる.

他科に送るべき腹痛

急性腹症

著者: 阿曽弘一 ,   榊原譲

ページ範囲:P.977 - P.979

はじめに
 "急性腹症"という言葉はacute abdomenの訳語であろうが,わが国において文献上に初めて現れたのは,昭和2年という1).現在では,臨床的に大変便利な概念であるため,一般的に安易に使われているが,その内容は各個人により多少の差異もある.文献上でも多くの定義がなされているが,現在一般には,"腹痛を主な症状とする疾患で緊急手術の必要性を強く考えるもの"と考えてよいと思われる.したがって,急性腹症の診療に際しては,できるだけ短時間に診断し緊急に治療をすることが必要であり,ここに急性腹症の特殊性がある.しかし,一方では不必要な開腹手術をすることのないように注意しなければならない.
 これまでに,急性腹症に関する詳細な成書や論文は多数発表されているが,本稿では,外科医としての立場から,主として診断面を中心に,基本的な事柄を述べてみたい.

婦人科疾患にみられる腹痛

著者: 東條伸平

ページ範囲:P.980 - P.982

はじめに
 産婦人科疾患における腹痛は性器出血と共に最も重要な症状であり,異常妊娠と関連して発生するもの,月経周期に随伴するもの,腫瘍や炎症に伴うもの,その他の特殊疾患に伴うものなど,腹痛の原因は複雑である.

注目すべき腹痛

膵疾患

著者: 中沢三郎

ページ範囲:P.984 - P.988

自覚症状
 腹痛 膵疾患の自覚症状の中で腹痛の占める頻度は極めて高く,膵疾患診断上,腹痛の特徴を理解することが不可欠である.膵疾患における腹痛としては,一般的には①主として上腹部に存在し,②背部痛を伴いやすく,③持続的である,④痛みをこらえるために前屈姿勢をとる,⑤鎮痛剤が効きにくい,⑥飲酒,脂肪食摂取で増強する,などがあげられる.
 痛みの程度は漠然としたものから激烈なものまで広範囲にわたっており,部位と強さは病変の程度と拡がりに関係する.Blissらによれば,膵に電気的刺激を与えると刺激部位と疼痛部位は一致したという.しかし,膵臓痛の発生機序としては膵間質の浮腫,膵被膜の伸展,内臓神経の刺激,限局性腹膜炎,十二指腸乳頭部の機能的,機械的狭窄,膵管内圧上昇その他があげられており,これらが複雑に相互に影響し合っていると考えられるので,膵臓痛といっても単純なものではなく,疾患により,病態により腹痛の性状も異なってくると考えねばならない.Katsch以来,膵臓痛の特徴とされてきた左上腹部痛は急性膵炎の5〜20%にしかみられないといわれており,現在ではそれほど重要視されない.たとえば,膵炎は胆石症から二次的に惹起される場合が多いが,腹痛は右上腹部に訴えることがある.

潰瘍性大腸炎

著者: 川上澄 ,   斉藤吉春

ページ範囲:P.989 - P.993

はじめに
 腹痛は腹腔内の諸臓器に器質的あるいは機能的な障害が生じたときに,最もしばしば訴えられる症状の一つである.潰瘍性大腸炎においてもそれは例外ではなく,種々の程度の腹痛が多くの症例で訴えられる.
 図1は全国の主要医療機関381施設の協力を得て,筆者らの教室で行ったアンケート調査の資料から,潰瘍性大腸炎患者の主訴をまとめたものであるが,種々の程度・部位の腹痛が19%と最も高い頻度にある.しかし,続く粘血便,血便,水様便などの糞便異常を合わせると全体の44%にもなり,本症の主訴としては,腹痛よりは糞便異常を伴った便通異常のほうが多いということがいえる1)

血管疾患に基づくもの

著者: 太田怜

ページ範囲:P.994 - P.995

病変が心・大血管に限られているもの
 このような条件で,痛みを伴って急に発症するものといえば,心筋梗塞と解離性大動脈瘤がその主たるものである.いずれも胸痛を主訴とするが,腹痛で始まる場合も稀ではない.心筋梗塞についていえば,全体の20%近くが心窩部痛ないしは上腹部痛で発症している.下壁梗塞の場合に多くみられる.事実,筆者らも,立派な心筋梗塞でありながら,腹痛のため,胃疾患とまちがわれ,消化器疾患の病棟に入院させられた患者を経験している.これを誤診しないためには,心筋梗塞でも,上腹部痛で発症する場合のあることを銘記しておくことであろう.したがって,急性腹症と思っても,心筋梗塞の好発年齢の患者の場合は,念のため心電図検査を行うべきである.
 解離性大動脈瘤が腹部大動脈から発生することは比較的稀で,2.0〜2.5%程度であるが,それでも,そのような場合は腹痛で発症する.しかし,どちらかといえば,腰痛に近い痛みであり,その始まりも電撃的である.また,解離の進展とともに痛みの場所が移動する.たとえば,最初は上腹部痛で発症したが,そのうち背中から胸部にかけて痛みが放散してきたということであれば,解離性大動脈瘤が疑われる.

代謝異常

著者: 佐々木英夫

ページ範囲:P.996 - P.997

はじめに
 代謝異常による腹痛は体液性変化による腹痛とも解されるので,本稿では内分泌疾患も含めて述べてみたい.一般に代謝内分泌疾患の腹痛は非常に多く,その程度,持続,部位なども一様でなく,極めて多彩である.腹痛の成立機序も一様でないが,大半は代謝異常による消化管の機能異常として現れ,自律神経系による内臓痛的な性格を示し,一過性で,動揺性のものが多く,なかなか一定の症状として捉えにくい場合が多い.一方,代謝疾患でも二次的に器質的変化を生じ,体神経痛と解される場合もある.

心身医学的に考慮すべき腹痛

著者: 並木正義

ページ範囲:P.998 - P.999

はじめに
 腹痛を含めて,痛みという症状は心理的因子によって大いに影響されるものである.一方,診療の実際において,いろいろ検査してみても腹痛の原因を説明するに足るだけの所見を見出し得ない例もしばしばあるし,そんなに痛いはずがないと思われるような苦痛の表現を示す例,さらに痛みの場所があちこちと変わる不定な腹痛を訴える例もある.しかし,たとえ痛みの訴えが曖昧であり,一見理屈に合わなくとも,苦しんでいるのは患者自身であって,それはそれなりに意味あることとして受けとめなければならないし,その苦痛はなんとかして取り除いてやらなければならない.このような場合,腹痛という感覚に悩む人間としての把握,つまりその患者を心身両面から全体的なものとしてみつめ,取り扱うといった心身医学的立場からの配慮がどうしても必要となる1,2).以下,このような配慮がとくに必要な腹痛について述べてみたい.

座談会

腹痛のマネージメント

著者: 大藤正雄 ,   平塚秀雄 ,   本間達二 ,   大貫寿衛

ページ範囲:P.1000 - P.1009

 救急で運ばれてくる患者は腹痛の場合が圧倒的に多いという.そういう患者に対処する際にも,純粋な腹部臓器疾患だけでなく,婦人科疾患や心身症,血管障害などが基礎にあったり,さらには緊急手術を要するものなど,診断がつかず,治療方針の決まらないことが多々ある.今回はそのような場合の応急処置,診断の決め手となる所見の把え方など,実際面を中心にお話しいただいた.

演習・X線診断学 血管造影写真読影のコツ・7

膵血管造影のみかた—とくに膵癌と慢性膵炎の鑑別を中心に

著者: 平松京一 ,   成松芳明 ,   久直史

ページ範囲:P.1014 - P.1019

 膵疾患における血管像を選択的腹腔動脈造影によって観察したのはÖdman(1958)が最初であります.それから20年近くたち膵の血管造影は著しく進歩し,膵疾患のルーチン検査として広く普及してきました.ただ膵の血管解剖が複雑で変異が多いことや周囲の血管がどうしても重なり合うことなどから,膵血管造影の読影にあたっては膵血管の解剖とその変異をまず頭に入れておくことが必要で,その上で各疾患の血管像を知るべきでしょう.したがって,膵血管造影では,そのテクニカルな問題もさることながら,読影についても相当なトレーニングを要することは事実であります.そこで今回は,膵血管造影の読影に必要なこれらの基礎知識と,その代表的な疾患,とくに膵癌と慢性膵炎の血管像を中心に述べることにします.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1020 - P.1023

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内科専門医を志す人に・トレーニング3題

著者: 大友英一 ,   深谷一太 ,   東條毅

ページ範囲:P.1025 - P.1027

問題1. くも膜下出血について,次のうち最も適切なものはどれか.
① 50歳代にピークがある.

内科専門医を志す人に・私のプロトコール

POS編・その6

著者: 石村孝夫 ,   岡野弘

ページ範囲:P.1029 - P.1032

POS形式と従来形式折衷の記載
 今月の症例について解説する前に,前回例の問題点について今一度触れてみたい.
 前回例は#1のpure red cell aplasiaが基本的かつ主たるproblemであり,#2の縦隔腫瘍はその成因として,#4の右顎下結核性リンパ節炎は治療中の合併症としてとらえることができる大きなひとつの流れをもった症例である.このプロトコールについては山口潜先生がご指摘していらっしゃるとおり,病気に対する考察,治療の経過についての記載がとくに不明瞭で理解しにくいのである.この原因としては,もちろん,受持ちとして本例を完全に把握しえていないことはあげられるとしても,プロトコール記載にあたり,あまりにPOS形式に忠実に,active problem別に#1,2……と分類して著述したことがあげられよう.すなわち,1人の患者をproblem別に"分解"することにより,かえって病気の流れがぼやけてしまうのである.

診断基準とその使い方

肺梗塞

著者: 前田如矢

ページ範囲:P.1033 - P.1035

はじめに
 空気,脂肪,遊離した血栓などが静脈内に流入し,右心を経て肺動脈主幹から左右肺動脈あるいは末梢肺動脈に至る肺循環系を閉塞し,肺循環障害を発生した状態を肺塞栓pulmonary embolismという.
 塞栓子としては,静脈血栓(とくに下肢,骨盤付近の血栓性静脈炎)によるものが最も多く,静脈血栓症の最も重要な合併症ともいうべきものである.最近では悪性腫瘍や汎発性血管内血液凝固症候群(syndromes of disseminated intravascularcoagulation, DIC)と関連する広汎な微小肺塞栓も注目されている.心疾患によるものもかなりあるといい,とくに右心系内における血液凝固も重視されており,心房細動の状態にある右心房や心筋梗塞の右室に生じた壁在性血栓の剥離によって起こる.

図解病態のしくみ 高血圧シリーズ・3

動物とヒトの高血圧症

著者: 青木久三

ページ範囲:P.1036 - P.1037

 実験的高血圧症の研究は,動物に発症させた高血圧症とヒトの高血圧症との相同と差異を明らかにし,また,ヒトの高血圧症の成因と推察した因子を動物に帰納し,動物に高血圧症を発症させるなどして,血圧上昇機序を解明する過程として発展してきた.動物とヒトの高血圧を対比し,血圧上昇のしくみを考察する.

臨床病理医はこう読む

肝機能検査(3)

著者: 山崎晴一朗 ,   久原厚生

ページ範囲:P.1038 - P.1039

 直接型ビリルビン優位の軽度の黄疸であり,肝細胞障害の指標であるGOT,GPTも300U以下の中等度上昇であること,さらにTTT,ZnTTの高値より慢性肝疾患の存在が考えられる.なかでも肝硬変と慢性肝炎の鑑別が重要である.

疾患合併と薬剤

うつ病患者に降圧剤を使うとき

著者: 石川中

ページ範囲:P.1040 - P.1041

仮面うつ病と高血圧
 うつ病と高血圧が合併することは,頻度としては多くないが,時としてこの両者が合併することがある.うつ病と高血圧が合併したときに,うつ病と高血圧が別の原因からきているのか,あるいは相関関係があるのかということが問題になる.一般に,はじめ高血圧であった患者がのちにうつ病に罹患するということはあり得る.この場合には,高血圧とうつ病は,お互いに直接関係はない.しかしながら,うつ病の一つの身体症状として,高血圧を示す場合がある.このような場合を,われわれは仮面うつ病といっている.すなわち,本来はうつ病であるにもかかわらず,症状としては精神症状が目立たずに身体症状が目立っといううつ病である.
 ここで仮面うつ病が示す身体症状について若干説明する必要がある.元来,うつ病という精神病は精神的,心理的な原因によって発症するというよりは,身体的な原因,ことに代謝の低下という要因によって発症すると考えるべき疾患である.

ブライマリー・ケアの実際

やけど

著者: 眞栄城優夫

ページ範囲:P.1042 - P.1045

はじめに
 やけどは,医学的に,経済的に,また患者の心理面からも,数々の問題をかかえているが,その病態生理の解明とともに,近年は進歩がめざましく,とくに体表面積30〜55%の火傷の救命率が改善してきた.新しい輸液療法や,局所療法なども,ここ数年来,出現してきているが,これらは,火傷を専門に扱う医師により実施されるもので,プライマリー・ケアの範囲を越えるものである.ここでは,プライマリー・ケアに必要な,外来や救急室でよくみられる1度や2度の火傷の治療,外来治療と入院治療の適応とその判断の根拠などについて述べていきたい.

外来診療・ここが聞きたい

腰痛

著者: 佐々木智也 ,   西崎統

ページ範囲:P.1046 - P.1049

症例
 患者:O. H. 43歳 男,会社事務.
主訴:腰痛

内科臨床に役立つ眼科の知識

緑内障

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1050 - P.1051

 緑内障の急性発作のときには,頭痛・眼痛,さらには悪心嘔吐を伴うこともあり,このため患者はまず内科医を訪れることがある.そして,この急性緑内障の発作は,早急に的確な処置を行わないと失明につながることもあるので,その診断法と緊急処置を内科医の方も理解しておいていただきたい.

今日の食事療法

糖尿病

著者: 磯貝庄 ,   羽生恒雄

ページ範囲:P.1052 - P.1054

はじめに
 糖尿病の成因と病態が解明されるにしたがい,糖尿病食事療法の基本的な考え方や方法は変遷してきた.しかし,糖尿病のコントロールに食事療法が基本となっていることは,今日でも変わりない.
 ここでは,食事療法の意義と最近の考え方,具体的な実施法,インスリン分泌能との関係,期待し得る効果につき述べてみたい.

medicina CPC—下記の症例を診断してください

多彩な症状を示した好酸球増多症

著者: 大岩孝誌 ,   柏崎禎夫 ,   森川景子 ,   高橋隆一 ,   河合忠

ページ範囲:P.1055 - P.1063

症例 A. T. 30歳 男 会社員
初診 昭和46年4月14日
入院〈第1回入院〉昭和46年4月14日〜47年3月24日

天地人

記憶

著者:

ページ範囲:P.1065 - P.1065

 Four ducks on a pond, Grass bank beyond, Blue sky of spring, White clouds on the wing.
 What a little thing, To remember for years, To remember with tears.

オスラー博士の生涯・51

オックスフォード大学からの招聘

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1066 - P.1068

 1904年の2月,ボルチモア市の火事はジョンス・ホプキンス大学病院にもかなりの被害を与え,火事のあとの復興対策にオスラーはたいへんな努力をした.
 この頃,オスラーはオックスフォード大学からスカウトされているという噂がすでに人々の口にのぼりはじめていたのである.

ここにも医療あり

人間はどこまで高さに耐えられるか—高所医学と取り組む

著者: 万木良平

ページ範囲:P.1070 - P.1071

 人類はその長い歴史のなかで,地球表面の海面に近い陸地で,比較的温暖な気候の地域を中心に繁栄してきた.ここには,太陽エネルギー,豊富な水と食物,21%の酸素を含む1気圧の空気があり,人体はその環境に適応し順化した機能と形態をそなえてきた.ところが,現代のように,与えられた空間から逸脱して,人間にとって不適当な環境にまで生活圏が拡大されてくると,必然的に環境への不適応現象が生じてきた.事の善悪は別として,現実にこういった現象が起こっている以上,人命守護の立場にある医者として,黙ってこれを見過ごすわけにはゆかない.私が環境適応生理学の研究を志したのは,別に意識したわけではないが,このような潜在的な動機があったからであろうと思っている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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