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雑誌目次

雑誌文献

medicina15巻1号

1978年01月発行

雑誌目次

今月の主題 急性期脳卒中の臨床

理解のための10題

ページ範囲:P.91 - P.93

救急時の取り扱いかた

急性期の診かた

著者: 田崎義昭

ページ範囲:P.8 - P.12

はじめに
 急性期脳卒中の診断は脳血管撮影やcomputed tomography(CT),脳RIスキャンの普及により容易なものになりつつある.ことにCTスキャンは,発症当初から頭蓋内血腫の診断に威力を発揮し,外科的治療の適応決定にきわめて有用である.しかし,脳卒中は突発性疾患であり,急性期にはベッドサイドでの所見をもとに原因を鑑別し,手術適応をも考慮して治療方針をたてなければならない,本稿ではこのような場合の診察のすすめかたを簡単に述べてみたいと思う.

意識障害時の救急処置

著者: 入野忠芳

ページ範囲:P.13 - P.15

はじめに
 脳血管障害の症状は一般に意識障害あるいは運動障害に代表されるが,とくに救急診療の対象となる症例においては強い意識障害を伴っている場合が多い.実際上,急性期脳卒中患者を患家先や診療所などの検査設備の不十分な状況で診察するような場合では,脳卒中患者としてよりもむしろ意識障害患者として対処せざるを得ないことが少なからず経験される.したがって,意識障害を伴う脳卒中患者の救急時の取り扱いに際しては,意識障害患者全体をいかに診断,治療していくかという観点に立った知識が必要である.

移送の適応と注意

著者: 金谷春之

ページ範囲:P.16 - P.18

はじめに
 本邦における脳血管疾患の死亡総数は,年間約18万人であり,本邦死因の第1位にある.このうち,死亡の場所に関する厚生省の人口動態統計(表1)によれば,自宅死亡は最近やや減っているものの,昭和48年では死亡総数の67%であり,一方,病院死亡はわずかに26.5%である.このように急性な経過をとり,しかも最重症型に属する疾患の大部分が自宅にて死亡していることは,先進国としては諸外国にもその類例を見ないところである.その原因としては種々あるが,これら脳血管疾患は高齢者に多いこと,従来は治療成績が悪く,「不治の病」的な考えがその主たる原因と思う.一方,患者を動かすことが危険であるとする考えが,医師側にも患者側にも,今日なお根強く存在していることも事実である,昭和37年,筆者が本邦ではじめて脳卒中急性期の移送の安全性を指摘し2),その後経験を重ね,その都度,紙上にその成績を発表してきた3〜6)が,その間,諸家の追試もなされ7〜9),今日,移送の安全性については大方の了解されるところとなった.しかし「移送-入院」といった考え方が,現実においては未だ普遍化されていない現状である.今日の脳卒中の医療水準からして,脳卒中は助かる疾患であるといえるが,患家治療が主体をなす現状では,多くの助かるべき人が失われ,本邦死因の第1位にあることは,けだし当然の結果であり,患家治療から入院治療への転換は緊急の課題といえよう.

検査

検査のすすめかた

著者: 荒木五郎

ページ範囲:P.19 - P.23

はじめに
 急性期脳卒中の診断で,何が最も基本になるかといえば,やはり現病歴と既往症を詳細にとり,これに基づいて,神経学的検査を注意深く行うことであろう.そのうえで補助的診断法として各種臨床検査を行い,診断を確実なものにすることが常道であると考える.
 しかし,最近開発されたcomputerized tomography(CT)は脳卒中の診断に革命をもたらしたといっても過言ではない.すなわち,CTに入れさえすれば,大部分の症例において脳出血か,脳梗塞かが判明するし,さらに病巣の部位,大きさがわかってしまうわけである.しかし,現在においては,CTを利用し得る場合は一部に限られているので,やはりCTのみに頼ることなく,神経学的症状による診断,局所診断を十分に修得したうえで,CTを活用すべきであろう.

脳血管撮影

著者: 山口昂一

ページ範囲:P.24 - P.27

はじめに
 脳卒中に外科的治療を含め積極的な処置を行うには正しい診断が必要である.脳出血・脳梗塞・くも膜下出血の鑑別をするだけでなく,病因,病巣部位,循環動態を含めた病像の正しい把握が要求され,この目的で脳血管撮影が行われる.また,CTを設備する施設でも,脳卒中に対して外科的治療を考慮に入れる場合は,とくに脳血管撮影を略すことができない.それは,得られる情報にCTと質的に異なるものがあり,両者が要望されるからである.脳出血・脳梗塞・くも膜下出血の血管撮影診断の要点を表に示したが,それぞれについて概説していく.

CTスキャン

著者: 加川瑞夫 ,   山本昌昭

ページ範囲:P.28 - P.34

はじめに
 Computed tomography(以下CTと略す)は,1972年,英国人Hounsfieldにより開発されたEMI-scanとして世に出て以来1),爆発的に普及し,今では頭蓋内疾患の診断に関する限り,必要不可欠の検査法となってきている4)
 CTの原理を一言でいえば,人体の任意の断層内(実際には横断断層,前額断層など)各部位でのX線吸収率の差を,多数の透過X線の読み取りと,それらをcomputer処理することにより,断層像として画像を再構成し,表示するものである.

脳シンチグラフィー

著者: 森厚文 ,   前田敏男

ページ範囲:P.35 - P.39

はじめに
 脳卒中は本邦における死因の第1位を占めてたり,また脳腫瘍などの疾患が脳卒中と誤診される症例も稀ではない.したがって,脳シンチグラフィーのような非侵襲性の検査法で脳卒中のスクリーニングおよび鑑別診断が可能であれば好都合であろう.脳シンチグラフィーは核医学,とくにイメージング領域の分野で重要な位置を占めており,脳疾患のスクリーニング検査法として広く繁用されてきた.しかし,最近におけるCTのめざましい発展ならびに普及に伴い,脳疾患における脳シンチグラフィーの適応症例が減少してきていることは否定できない.本稿では急性期(本稿では発作より4週以内)脳卒中(主として脳内出血および脳梗塞)における脳シンチグラフィーの診断的意義について,CTと比較しながら述べてみたい.

脳循環測定

著者: 額田忠篤 ,   多田邦彦

ページ範囲:P.40 - P.42

はじめに
 —般論として,臨床検査の意義は,疾患の診断・治療に直接的に結びつく情報が得られるという点にあらねばならない.しかし,臨床検査としての脳循環測定は,現時点では診断・治療面への貢献よりも,病態解明への志向性が大きいといわざるを得ない.本稿では,脳卒中(CVA)急性期における局所脳循環測定について,その歴史と知見の概要を述べ,CT scanをはじめとする優れた各種臨床検査法にては果たせ得ない役割を担う可能性への展望を述べたい.

CPC

脳幹障害の鑑別

著者: 小林祥泰 ,   米倉甫明 ,   朝長正徳 ,   沢口徹

ページ範囲:P.44 - P.58

症例 61歳 男
主訴 意識障害
家族歴 20年前に離婚.他不明

臨床のトピックス

RIND(完全回復性脳卒中)

著者: 大友英一

ページ範囲:P.60 - P.61

はじめに
 RINDとはreversible ischemic neurological deficitのそれぞれの頭文字をとったものであり,完全回復性脳卒中という邦語が適切である.すなわち,神経症状はほぼ1ヵ月以内に消失し,後遺を残さない脳卒中のことである.TIAなる概念が出現してから,これの定義である24時間以内では神経症状は消失しないが,比較的急速に症状が完全に消失する例が稀ならず認められるようになり,発作後,神経症状がほぼ永続的に残るcompleted attackとは異なるものとして,このRINDなる分類1)が出現してきたわけである.

Lacunar Stroke

著者: 山口武典

ページ範囲:P.62 - P.63

はじめに
 閉塞性脳血管障害は大別すると,頭蓋外ないしは頭蓋内主幹動脈の粥状硬化によるもの,心臓ないしは大血管の血栓に由来するもの,および脳内穿通枝の障害によるものの3つに分けられる.欧米諸国では,頭蓋外血管の病変が強く,高頻度にみられるためか,病因の追求はもっぱら前2者に向けられ,穿通枝の障害によるものは軽視されがちであった.
 一方,わが国では,高齢者の軽い手足のしびれ感や脱力,構語障害,嚥下障害,歩行障害などに対して,"脳動脈硬化症"という診断がつけられ,脳内の小病巣についてはあまり注目されていなかった.

DICと脳卒中

著者: 東儀英夫 ,   山之内博

ページ範囲:P.64 - P.65

DICの診断
 DIC(disseminated intravascular coagulation)症候群は老人専門病院では決して稀ではない.筆者らの病院における剖検例のうち,約15%の症例が生前にDICの臨床所見を呈していた.このようにDICの頻度が高い理由として,老年者ではDICの原因となりうる疾患が多いことももちろんあるが,フィブリノーゲン,FDPなどの凝血学的検査を頻繁に行っていることも無視できない.したがって,小児科領域産婦人科領域,あるいは一般成人においても,凝血学的検査を頻繁に行えば,より多くのDIC例が見出される可能性もある.DICを疑う端緒となる最も簡単な検査は血沈であり,重篤な病状であるにもかかわらず血沈値が遅延している場合には,DICを強く疑う必要がある.
 患者が入院したときに,将来DICが問題になった場合に参考になる検査をあらかじめ行い,経時的に追跡しておくと,DICの傾向が出現し始めたときに,検査値の解釈に際し非常に参考になり,早期治療に結びつけることができる,なぜなら,DICの診断に際し,血液凝固学的検査の絶対値のみでなく,その変動も重要だからである.

一過性全健忘

著者: 篠原幸人

ページ範囲:P.66 - P.67

はじめに
 1958年,FisherおよびAdamsは55〜60歳ぐらいの成人に意識障害その他の神経症状を伴わず,突然高度の記銘力障害と逆行健忘を生じ,1〜24時間程度で回復する症例を"Transient Global Amnesia(一過性全健忘)"と名付けて報告した1,2),同様の症例は1956年,すでにBender3)により"Syndrome of isolated episode of confusion with amnesia"として報告されていたが,現在Transient Global Amnesia(TGAと略す)の名称が最も一般的に用いられている.

治療

治療のすすめかた

著者: 伊藤栄一

ページ範囲:P.68 - P.71

はじめに
 最近の脳卒中患者に対する救急医療,CTスキャン,脳血管撮影や手術的療法の進歩と普及により,われわれ臨床家は,急性期脳卒中患者の病態を的確に把握することによって,それぞれの症例に最も適した治療方針を立て,最善の治療法を選択するためのより迅速な判断とその確実な実施を求められるようになった.
 急性期脳卒中患者の治療は,このような配慮のもとに行われる必要があるが,治療をすすめるに当たっては,これを3つの段階に分けて考えることができる.すなわち,まず最初は急性重症脳卒中における初療としての救急医療であり,次は診断確定に至るまでと,さらに診断確定後も引き続き続けられなければならない急性期の治療管理であり,第3段階は診断確定後の治療である.それでは以下この順に従って治療のすすめかたについて述べることにする.

集中治療の意義

著者: 沓沢尚之

ページ範囲:P.72 - P.73

脳卒中集中治療の誕生
 1960年,ManchesterのMemorial Hospitalから病院をより合理的に管理運営する方法についての新しい考え方としてProgressive patient careなる概念が発表され,重症患者に対しては,Special Care Unit(Intensive Care Unit)として一つの独立した治療単位が設置された.ここでは,最新の医療機器を各病棟に分散することなく集中的に配置し,専門分野の医師および強力な看護チームのもとに積極的かつ濃厚な治療が行われた.現在,呼吸不全に対しては,Respiratory Unit,冠動脈疾患に対しては,Coronary Unit(CCU),さらにBurn Unit,Shock Unit,Renal failureのCenterおよびUnitなどがある.
 脳卒中のICUについては,Large, H. ら1)が1966年以来運営しているSt. Francis General Hospital(Pittsburgh)のStroke Intensive Care Unit(SICU)が報告の最初で,その後欧米各地の病院で,Neurological Care Unit,Neurosurgical CareUnitなどの呼称で多数の報告がある.

脳出血の手術適応

著者: 水上公宏

ページ範囲:P.74 - P.76

はじめに
 高血圧性脳出血(以下脳出血と略す)は,主として大脳基底核,脳幹,小脳などに発生するために,たとえ外科治療を行ったとしても救命は困難と考えられてきた.しかるに近時,脳出血のうちにも外科治療が有効な症例が,少なからず存在することが明らかにされつつある.ことにcomputedtomography(CT)の出現によって,血腫の部位や拡がりのみならず,出血発作によってもたらされる脳の種々の器質的病態変化(脳浮腫,脳室拡大,二次性出血など)を正確かつ短時間に知ることが可能となり,脳出血の外科治療は飛躍的に向上した.

くも膜下出血の手術適応

著者: 伊藤善太郎

ページ範囲:P.78 - P.81

はじめに
 くも膜下出血(SAH)は脳卒中全体の約10%を占めるといわれている,その出血原因は約80〜85%が脳動脈瘤破裂,約5%が脳動静脈奇形(AVM)破綻,約10%が原因不明または出血素因などによるものとされている.今やSAH例において脳動脈瘤が発見されれば,経験ある脳外科医の手に委ねることは常識であり,AVMもほぼ同じ傾向であろう.本稿では破裂脳動脈瘤の外科的治療について述べる.
 激烈な破裂発作によって致命的な脳損傷を受けるものは約10〜15%であり,このようなものはいかなる治療によっても救命しえない,それ以外の症例において,破裂脳動脈瘤治療の根本は急性期重症例をいかに救命するかということと,脳動脈瘤の再破裂をいかに防止するかということにあるといえよう.

脳血管閉塞症の手術適応—発症後早期例を中心に

著者: 小野博久

ページ範囲:P.82 - P.85

はじめに
 血流低下による脳組織の異常が原因となって起こる神経機能脱落症状は虚血性脳血管障害(ischemic cerebrovascular disease),または単に脳虚血症(cerebral ischemia)などとよばれる.脳虚血は①急激な低血圧や心拍出量の低下などの体循環の異常に随伴して起こる場合(起立性低血圧,Adams-Stokes症候群やその他のcardiacdysrhythmiaなど)と,②脳組織へ直接血流を供給する内頸動脈や椎骨動脈の各分枝の閉塞性病変(内腔の狭窄や完全閉塞)が原因となって起こる場合,および③この両者が共存して起こる場合の3つがある.③の場合,脳虚血症が局所的な神経症状を示すときは体循環と血管病変のどちらが病因となっているかを決定することは困難な場合があるが,②および③はいずれにしても脳血管の閉塞性病変が発症に関係しているものと考えられるので,脳血管閉塞症(occlusive cerebrovascular disease)とよばれる.通常は脳血管造影で指摘できる内径200〜300ミクロン程度以上の血管の病変(主として動脈硬化症によるもの)をいい,それ以下の細い血管の閉塞による脳虚血をも手術の対象とするものがあるが,本稿ではふれない.

薬物療法—抗凝血薬,血栓溶解剤,血小板凝集抑制薬を中心に

著者: 海老原進一郎

ページ範囲:P.86 - P.90

はじめに
 近年脳血栓の成立過程について,頭蓋外脳血管壁にできた血栓が末梢へ流れて塞栓となり閉塞を起こすという機序,すなわちthromboembolism説が注目されてきた1).それに対応して虚血性脳血管障害の治療薬として,まず抗凝血薬が,ついで血栓溶解剤,血小板凝集抑制薬が相次いで登場してきた.とくに最近では,欧米では血小板凝集抑制薬(アスピリン,スルフィンピラゾン)が,わが国では血栓溶解剤(ウロキナーゼ)が注目されている.したがって,われわれは,これら種々抗血栓剤を用いるにあたっては,血栓形成に関する基礎的知識抗血栓剤の作用機序,危険性などを理解しておく必要がある.本稿では1977年米国のJoint Committee for Stroke Resourcesの報告として掲載されたGentonらの綜説2)を中心に,抗血栓剤の現況を解説する.

心電図の診かたとその鑑別 基礎編・波型異常の診かた・1

正常およびボーダーライン

著者: 太田怜 ,   前田如矢

ページ範囲:P.94 - P.99

 心疾患の診断やvital signの把握の上で,心電図は診療上,欠くことのできない検査である,今回からはそうした心電図の利点をよりいっそう活かすために,症例を中心として心電図判読のポイントをお話しいただく.
 なお,最初の6回は基礎編として,波型異常の診かたを中心とし,後半は各論として各種心疾患の心電図所見の特徴,確診のために必要な他の検査法,さらに治療との関連などについてもふれていただく.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.100 - P.105

図譜・大腸内視鏡診断学

I.大腸内視鏡検査

著者: 佐々木宏晃 ,   長廻紘

ページ範囲:P.108 - P.111

はじめに
 大腸の内視鏡検査には,硬性鏡によるロマノスコピーromanoscopyと,軟性鏡によるファイバーコロノスコピーfibercolonoscopyの2種がある.大腸病変の8割程度は硬性鏡の到達範囲にあることより,従来からromanoscopyは大腸疾患の診断上重要な地位を占めていた.前処置なしでも検査可能なこと,器具の洗浄・消毒・保存が簡単なこと,比較的手技が容易なこと,glassfiberなどの媒体を介さないため写真が鮮明なことなど種々の利点を有するため,fibercolonoscopyの発達した現在でもその有用性に変わりはない.現時点では,下部大腸のスクリーニング検査として最適と思われる.
 一方,fibercolonoscopyは挿入技術が比較的困難なこと.良好な前処置を要すること,検査時間も長くなること,疾患によっては全結腸の観察が不可能なこと,などの欠点はあるが,現在では大腸の検査法として必要不可欠なものになってきている.

演習・X線診断学 血管造影写真読影のコツ・13

頭部血管造影(1)

著者: 志賀逸夫

ページ範囲:P.113 - P.119

 種類 頸動脈造影と椎骨動脈造影とが主なものだが,眼窩静脈造影および海綿静脈洞造影も含まれる.本稿では後者については触れないことにする.

教養講座・比較生物学 生命と環境との調和

生命の誕生を探る

著者: 大島泰郎

ページ範囲:P.121 - P.125

ルーツ
 最近,「ルーツ」という小説が評判となっているようである.多分,評判をとるようになった理由の一つは,すべての人に自分の生まれてきた由来を知りたいという願いがあるので,まずこの小説の筋が共鳴をよんだということであるのではないかと思う.そして,このルーツ探訪の願望は,家系といったものだけでなく,生物種としてのルーツ,すなわち起原を知りたいと思う気持ちも多くの人の心の底にひそんでいるようである.
 おそらく,ルーツは人がものを考えるようになった時からの課題であろう.その証拠に,古代から伝わる世界各地の民話や宗教の教典のなかにさまざまな「生命の起原」,「種の起原」が描かれている.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・1

尿蛋白

著者: 河合忠

ページ範囲:P.126 - P.128

正常尿の蛋白組成とその由来
 正常人の尿を尿蛋白定性試験で検査するとほとんどが陰性となる.しかし,最も鋭敏な検査法であるスルフォサリチル酸法で陰性であるからといって,尿中に蛋白がまったく存在しないわけではない.正常尿中にも1日に40〜80mg程度の蛋白が排泄されている.スルフォサリチル酸法でも1日に100mg以上の蛋白が出ないと検出できないのである.
 正常尿中に含まれる蛋白をセルロース・アセテート膜電気泳動法で分画すると図1のような蛋白分画像が得られる.すなわち,alb分画が約40%を占め,グロブリン領域の分離は悪く,α2とβの領域に1つのなだらかな蛋白峰を形成している.これらの正常尿中の蛋白の由来を図示すると図2のようになる.

図解病態のしくみ 脳卒中・1

脳循環の基礎知識

著者: 吉田茂

ページ範囲:P.130 - P.131

 脳循環動態の面から脳血管障害の病態を把握しようとする研究が近年さかんに行われるようになり,診断と治療に種々の貢献がなされている,はじめにその手段となる脳血流測定法を紹介し,脳血流がどのような因子によって影響をうけ調節されているかを説明しよう.

プライマリー・ケアの実際

救急室における手および上肢の小処置

著者: 長嶺功一 ,   上江洌邦弘 ,   眞栄城優夫

ページ範囲:P.132 - P.135

 救急室での,ちょっとした処置により,患者の苦痛をとりさり,治療の目的を達し,かつ後遺障害を少なくできることがある,私たちが救急室でしばしばみる脱臼,骨折,軟部組織損傷,感染などの症例に対して筆者らが施行している処置について,その適応,手技,考え方を述べてみたい.

話題の新薬

ノイキノン(エーザイ)

著者: 石山太朗

ページ範囲:P.136 - P.137

 ノイキノンはCoenzyme Q10(一般名ユビデカレノン)を有効成分とする薬剤であり,その主たる作用はエネルギー代謝賦活作用であると考えられる.心筋は骨格筋とちがい,昼夜たえまなく拍動を続けているので,収縮に必要とするエネルギーは莫大である.したがって,病態心を心筋代謝面から考えるとき,エネルギー産生障害が容易に生じ,このことが重篤な心機能障害を惹起するであろうことが考えられる.
 では生体内でのエネルギー産生機構はどうなっているのであろうか.エネルギー産生系の中心となるTCAサイクル(図1)では脱水素反応が起こっている部位で,水素イオン(電子)が図2に示す電子伝達系に受け渡され,この系では酸化反応とそれに共役した燐酸化反応が行われ,生じたエネルギーがアデノシン3燐酸(ATP)の形で貯えられる.

内科臨床に役立つ眼科の知識

糖尿病性網膜症(5)—質問に答えて

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.138 - P.139

 糖尿病性網膜症を4回にわたってご解説いただいたが,守屋美喜雄氏(一ツ橋診療所)から質問をお寄せいただいたので,今回はそれに答えながら,補足説明をお願いしました.

新春座談会

これからの開業医

著者: 渡辺淳 ,   三枝靖夫 ,   西田一彦 ,   日野原重明 ,   金上晴夫

ページ範囲:P.142 - P.151

 医療の専門分化の方向は,近年,ようやく見直されようとしている.プライマリー・ケアなど,医療の再編成を叫ぶ声が内外に高まっている状況の中で,わが国の開業医は,今後,どのような方向に向かおうとしているのであろうか.

天地人

シーツと風呂敷

著者:

ページ範囲:P.141 - P.141

 外来の患者で,ベッドの上に横になるたびに自分の着ていたシャツをベッドの上に敷くという律気な老人がいた。自分の汗でベッドのシーツを汚してはいけないという公徳心のあふれた行為にみえて,看護婦は感心していたが,そうではあるまい.よほどの潔癖で,むしろ自分の肌を,汚れた外来のシーツから守ったのであろう.
 むかし吉原で,不見転で花魁をかった男がいた,それにしてもあまりの御面相に辟易して,その花魁の顔に風呂敷を冠せて一件に及ぼうとした.流石に一寸の虫にも五分の魂で,その花魁が怒り出したという.さて,この男はよほどの粋客であったのだろう.「悪かった.許してくれ」とあっさり謝った揚句,今度は自分の顔に風呂敷を冠せて事をすませたという.

私の本棚

基礎と臨床をつなぐもの—山村雄一著「病理生化学」など

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.140 - P.140

 私は久しい間,一般教養書のほかはもっぱら内科,あるいはその関連領域の臨床的な医書ばかりを読んできた.むかし結核菌の薬剤耐性の問題を研究していた頃に,これに関連した範囲の基礎医学書を若干読んでこのかた,内科医としての自分の学識を作ってゆこうと考えて読んだのは臨床に直結している本ばかりであった.まためぼしい本は購入しておかないと気がすまない性分なので,買うには買うが,全巻を通して読むということは書評を頼まれたときは例外としてあまりなくなっていた.
 しかし,ここ数十年来,臨床に直結してゆく基礎医学の著しい発展があり,ある程度のまとまった基礎と臨床をつなぐ領域の知識の必要性を最近痛感し始めてきた.この領域の知識なくして,一般内科を根本から理解することの困難なことがやっとわかったのである.そしてあれも読みたい,この領域も読みたいと焦燥にかられながら,並べてある本を見渡したところ,目にとまったのが,山村雄一著「病理生化学」(1971,岩波書店)であった.

オスラー博士の生涯・57

オックスフォードの生活(1905)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.152 - P.155

 オスラーは16年間にわたるボルチモア市での生活に仕切りをつけ,1905年5月19日ニューヨーク港を立ち,5月27日夕には,新任地オックスフォードに着いた.オスラーは56歳であったが,彼の心境は現役を離れることを望み,静かな余生をこの英国の地に求めてきたのである.

Cyclopedia Medicina

Cellular synchronization-radiation therapy

著者: 設楽信行

ページ範囲:P.159 - P.160

 悪性腫瘍の放射線療法において,多くの放射線増感法が試みられている.化学療法剤の併用や,加温法,マイクロ波照射が,本来の殺細胞効果に加え,細胞の放射線感受性の獲得のために併用されている.
 Bagshaw1)は化学療法剤の放射線増感機構をsensitization(bromouridine,thimidine analog),augmentation(O2),potentiation(5-FU,FUDR,Methotrexate)additivity(alkilating agents,actinomycin D)と4群に類別しているが,多くの薬剤が実際に臨床の場で試みられ,成果をあげているわけである.佐野・星野らが開発したBAR療法もその一つである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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