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雑誌目次

雑誌文献

medicina15巻10号

1978年10月発行

雑誌目次

今月の主題 人工透析か腎移植か

理解のための10題

ページ範囲:P.1465 - P.1467

人工透析療法の現況

透析療法の適応と開始時期

著者: 中川成之輔 ,   寺岡次郎

ページ範囲:P.1402 - P.1403

透析療法の適応(indication)
 透析療法という用語が,広義に濾過法や吸着法も含めて用いられているのを最近みかける.これは誤りで,そういうときは代行療法substitution therapyとでも総称すべきであるが,その適応は表1に示すごとく,腎疾患以外の領域にも拡大されてきている,また,慢性腎不全に対する長期透析も,精神障害のないこととか悪性腫瘍のないことなどの条件を加えた考えがあったが,現在では,原則的にはいかなる制約もないと考えてよい.ただ疾患による特殊性はあるので注意を要する(「年齢や原疾患による特殊性」の項参照).

至適透析の在り方

著者: 三村信英

ページ範囲:P.1410 - P.1412

はじめに
 透析療法が普及してから,約10年になるが,現在の透析方法によっても,10年以上の生存者は全国で数十名を数えており,当院の透析患者72症例中でも8名が10年以上の症例である.
 これらの症例の最近の透析方法,臨床検査成績などは,表1のごとくであり,無腎症例A.M.を除外しては,ほぼ満足しうる状態にあるものと考えられる.これらの症例は経過中で,必ずしも適正な治療法であったとは考えがたいが,少なくとも10年間社会復帰を行いつつ治療を継続していることを考えると,一応,現在行っている透析方法でも至適透析を行っているといえよう.

透析か濾過か

著者: 平沢由平

ページ範囲:P.1413 - P.1415

はじめに
 腎不全に対する血液濾過法の応用は必ずしも新しい試みではない.最近になってにわかに注目をあびている背景には尿毒症形成にいわゆる中分子量仮説が根強く存在することと,濾過治療を行うに比較的適した濾過膜の開発が積極的に進められていることがあげられる.現行の透析法が驚異的な治療効果をあげることは周知のものとなってきているが,長期透析の患者ではなお不満足の面も少なくない.骨異栄養症,貧血,末梢神経や自律神経障害,一部の高血圧症,脂質や糖代謝障害,性機能障害,免疫能の低下,あるいは皮膚色素沈着などは現行の透析法では十分に改善されず,中には緩徐であるが進行する病態もある.これらの中で,いくつかは中分子量物質あるいはもっと高分子の物質の排泄障害が一部関係していると推定される傍証もあり,濾過法への期待がやや過剰気味となっているのも現実である.透析か濾過かの問題は,当分追究されることになると思われるので,筆者らの経験をもとに私見を述べてみたい.

グラフ

透析機器の現況

著者: 阿岸鉄三

ページ範囲:P.1405 - P.1409

はじめに
 透析療法が不全腎患者の生命維持に有効であることは,医学的にみて疑問の余地はない.しかし,莫大な費用を要すること,処置中は行動性が失われることなど社会的な問題点もある.医学的により理想的で,社会的により問題の少ない不全腎機能の代行手段を目ざして開発が行われている.「透析機器の現況」というテーマをいただいたが,やや広く解釈して透析だけに限らず,不全腎機能を人工的に代行する手段として用いられる機器・装置とその周辺機器・器材の開発現況について述べる.

特殊疾患での透析

合併症のある腎不全

著者: 佐谷誠

ページ範囲:P.1416 - P.1419

はじめに
 腎機能低下を招来し人工透析が必要な疾患として考えられるものは,表1,2のように多岐にわたっているが,これらの疾患と原因的にまったく別のもの,たとえば呼吸器系・消化器系・循環器系・血液系の疾患などを持ち,かつ腎障害をも伴える患者が合併症のある腎不全というべきかもしれないが,これらの患者においてはやはり腎不全対策と平行して個々の疾患に対する治療を施行すべきであって,その際とくに注意すべきことは,合併疾患に対する治療上の投薬量および投薬方法の問題がある.腎機能低下による薬剤の尿よりの排泄障害や,一方,透析中には薬剤の本外への排泄による血中濃度の変化や体液量および質の変動による薬効の変化,血中濃度(K濃度の変動でのジギタリス)などを考慮しなければならない.
 これらの問題はむしろ腎不全時における薬剤の使用法であって1),腎機能廃絶状態であっても腎不全に対する透析を十分に施行しておれば,なんら合併症に対して治療(内科的・外科的)を加えることに躊躇する必要はない.

腎障害以外への応用

著者: 前田憲志

ページ範囲:P.1420 - P.1421

はじめに
 腎不全に対する透析療法の効果が確立すると同時に,長期におよぶ体外循環の技術および半透膜を用いた物質除去,そして投与法,限外濾過法が進歩し,これらの方法で治療しうるであろう腎疾患以外への応用が行われるようになってきた.最近では,研究面での興味以外に臨床的にも重要な武器となってきているので,そのいくつかについて概説する.

人工透析の合併症

長期透析療法における合併症と対策

著者: 川口良人

ページ範囲:P.1422 - P.1424

はじめに
 長期透析療法は,正常の腎臓が営んでいるregulation,production,degradationの排泄機能以外の腎機能を除外して生命維持を人工的に行っているものであり,当然このような状態が永続することにより生体系にとっていくつかの歪みが生じることは明らかである.このような"歪み"は顕性にしろ,潜在的なものにしろ"on dialysis"という人工的に作られた病態においては,必ず存在する.また,糸球体機能(排泄機能)もその作働する時間的スケールで考えるとき,週3回,1回6時間の定期透析ではGFRは正常腎の1/10,すなわち10ml/min前後に過ぎず,排泄機能の低下に基づく"歪み"も存在する,以下,通常の長期透析療法に伴う生体系の"歪み"を合併症という立場でとらえて概説する.
の症例は透折により水・Naの管理を適正に行っても十

腎移植の現況

腎移植の適応

著者: 雨宮浩

ページ範囲:P.1426 - P.1429

腎移植の適応に関する一般的事項
 腎移植の適応になるのが腎不全患者であることは言を待たない.しかし腎移植の歴史をみると,人工腎臓が現在のように発達していなかったときには腎移植は主として急性腎不全を対象として行われていたが,今では人工腎臓の進歩が著しく,急性腎不全はすべて腹膜灌流や血液透析により治療され,腎移植は慢性腎不全のしかも血液透析を受けている患者を対象としている,しかも最近では血液透析はきわめて安定した手技となり,単に急性腎不全に対する急性血液透析のみでなく,慢性腎不全に対する慢性血液透析が一般的となっている.
 血液透析と腎移植は車の両輪の関係にあり,慢性腎不全の治療としていずれが欠けてもならないものである.すなわち,人工腎臓の発達なくしては現在の腎移植の安全性は得られなかったであろうし,またこれから述べようとしている症例に対し,血液透析のみでは満足し得ないであろうことも明らかであろう.しかし,当然のことながら,透析と腎移植とでは特性を異にするので,本稿では腎移植の適応をどのように考え,決めていくかについて述べてみたい.腎移植には適応に対し禁忌もあるので,この両面にわたり,医学的見地から絶対的なものと相対的なものとに分けて考えてみたい.

腎移植の成績

著者: 大坪修

ページ範囲:P.1430 - P.1431

はじめに
 慢性腎不全の治療法として血液透析はあくまでも対症療法であり,根治療法としては腎臓移植であるが,透析療法の普及に比して,移植は本邦では著しく立ち遅れている.そこで,本邦における腎臓移植の現況と成績を検討し,今後の問題点について述べてみる.

腎提供者の選び方

著者: 柏木登

ページ範囲:P.1432 - P.1434

 腎移植のdonorがそのrecipientにとって最も適した腎提供者であるかどうかを判断するには,そのdonorを2つの側面から観る必要がある.2つの側面とは,①臨床的な観点と,②免疫学的なそれである.以下それらを順を追って述べることにする.

カラーグラフ

腎移植術式

著者: 佐川史郎

ページ範囲:P.1437 - P.1439

はじめに
 腎移植の移植部位は,今世紀はじめの動物実験では,頸部や大腿部に行われており,臨床例でも初期には大腿部に移植され尿管皮膚瘻術にしたものや,受者の腎動静脈へ同所性移植が行われたこともある.しかし,大腿部への移植では尿管皮膚瘻からの感染を生じやすく,同所性移植は,手技が困難であり,これらの欠点を解消するものとして,腸骨窩後腹膜において,腸骨動・静脈と移植腎動・静脈を吻合し,尿管は膀胱へ新吻合する術式が開発され,現在の標準手技となっている.
 移植側は,提供者の腎地管系・尿路系の異常の有無や左右腎機能差の有無により選択されるが,両腎ともに異常がないときは,提供者の左腎を受者の右腸骨窩に移植する.その理由は,左腎は腎静脈が長く,しかも受者の腸骨動・静脈は右側のほうが浅い位置にあり,手術操作が容易でかつ術後の血管系合併症が少ないからである.以下に標準的な腎移植術式について述べる.

腎移植後の対策

免疫抑制療法

著者: 田口喜雄

ページ範囲:P.1442 - P.1443

はじめに
 臨床の移植において,全く同じ組織適合性抗原の所持者の組み合わせをみつけることは容易でない,何らかの処置を講じない限り免疫反応は起こり,移植片は拒絶される.筆者が腎移植長期生着例を得たのは1969年であるから,一昔前になる.そのときの抗免疫剤の使用の実際を図に示す,以後,試行錯誤をくり返しているが,本質的に変わっていない.1961年,azathioprine(イムラン)の免疫抑制効果が認められ,1964年,拒否反応の症状改善にステロイドが有効であると報告され,臓器移植はroutine surgeryとなった.ついで1967年,抗リンパ球グロブリン(ALG)が登場し,移植における免疫抑制法の3大柱となった.本稿では,筆者の経験をもととして,これらの免疫抑制療法について概説する.

拒絶反応の診断

著者: 中根佳宏

ページ範囲:P.1444 - P.1445

はじめに
 腎移植における急性拒絶反応は突然出現し,急激な腎機能低下を招来する.この拒絶反応に伴って,種々な臨床症状が観察されるが,これは同種移植免疫反応に由来する症状と,腎機能低下に基づく症状に大別される,しかし,これらの症状は決して一律に出現するものではなく,症例によってきわめて多彩である.このために,拒絶反応の診断には難渋することが多い,とくに,拒絶反応は早期に治療を行えば,ステロイドの大量投与で完全な寛解が可能であるのに反し,治療の開始時期が遅れた症例では,機能欠損を残したり,移植腎を廃絶に至らしむる1).したがって,腎移植における拒絶反応は,早期診断と迅速な治療が何よりも必要であるといえる.

腎移植の合併症

感染症

著者: 内田久則 ,   横田和彦

ページ範囲:P.1446 - P.1450

はじめに
 腎移植後の合併症のうち,感染症は今日でもなお,患者の死因の最大の原因となっており,また,感染合併のため免疫抑制療法を中断し,その結果,移植腎機能の喪失に到ることもしばしばある.
 昭和52年12月における日本移植学会の集計による本邦腎移植患者の統計では1),894例に対する918回の移植のうち,328例の死亡が報告されており,そのうち130例の死因が感染症であり,39.6%を占めている.また,機能喪失については,198回の移植のうち,10回,5.1%が感染の合併のため移植腎の摘出に到っており,感染症は機能喪失理由の4大原因の1つとなっている.

肝および消化管障害

著者: 落合武徳

ページ範囲:P.1451 - P.1453

はじめに
 腎移植患者における肝障害と消化管障害は,日本では感染症についで重要な合併症である,すなわち,死因の16.1%が消化管出血,6.8%が肝不全となっている1).しかし,NIHの統計によると,消化管出血による死亡は3.8%,肝炎によるもの0.5%,肝不全によるもの0.1%で,日本と諸外国の死因の頻度に,大きなちがいが認められる2).NIHの統計では膵炎による死亡が1.0%と報告されているが,日本では膵炎による死亡はほとんど報告されていない.
 千葉大学第2外科では,昭和42年以来58人の慢性腎不全患者に生体腎移植(LD)26回,死体腎移植(CD)を39回行った.この58症例に起こった消化管,肝障害を表1に要約した.各合併症について筆者らの経験と対策について述べる.

無腐性骨壊死

著者: 真角昭吾

ページ範囲:P.1454 - P.1457

はじめに
 腎移植の場合には長期間にわたる大量の免疫抑制療法が不可欠であるが,移植に成功し,長期生存例が増すに従って,免疫抑制剤に関連した晩期合併症が問題となってきた.
 骨関節系では,この種の合併症として,大腿骨頭を中心とした無腐性骨壊死がある.この合併症が起こると,腎不全はよくなっても高度な関節機能障害のため,日常生活や社会復帰を著しく阻害し,また新たな苦痛を背負うことになる.

座談会

人工透析か腎移植か

著者: 川口良人 ,   東間紘 ,   落合武徳 ,   酒井糾

ページ範囲:P.1458 - P.1464

 欧米に比べ,腎不全患者の管理におけるわが国の腎移植の占める割合はあまりにも小さい.移植技術の水準ではひけをとらないのになぜなのか.その原因を探り,もう一度腎不全治療全体の中で透析療法と腎移植をとらえ直してみる必要があるだろう.そこで今回は,透析,移植,そして両者を扱うセンターと,それぞれ違った立場からこの問題を考え,いかにしたら腎移植を伸ばしていくことができるのかをお話いただいた.

心電図の診かたとその鑑別 臨床編・各種心疾患の心電図・4

不整脈(その1)

著者: 高木誠 ,   前田如矢

ページ範囲:P.1468 - P.1479

症例1 50歳 男
 4年前に心筋梗塞を発症し,入院した既往がある.退院後外来に通院し,定期的に経過観察を受けていた,最近,精神緊張時などに心臓がドキンとする感じや,動悸を訴えるようになった.

演習・放射線診断学 シンチグラム読影のコツ・4

脳・脳槽シンチグラム

著者: 久保敦司 ,   木下文雄

ページ範囲:P.1482 - P.1488

 中枢神経系のRIイメージ診断法を大別すると,脳シンチグラフィーと脳槽シンチグラフィー(システルノグラフィー)とに分けられます.両検査法ともかなり長い歴史を持っており,中枢神経系疾患の診断過程に重要な位置を占めてきました.生理的状態でCSF動態を知り得る脳槽シンチグラフィーの意義は依然として大きいのですが,近年,脳腫瘍,脳血管障害などにとって優れた検出能を持つコンピュータ断層撮影(computed tomography,CT)が急速に普及してきたため,形態診断の要素の強い脳シンチグラフィーの役割はやや減じた感があります、しかし将来,より解像力の優れたスキャン装置あるいはRI断層装置の開発,99mTcO4-とは異なった薬理作用を持つ放射性薬剤の出現が期待できるので,脳シンチグラフィーが形態診断というよりむしろ生理診断として,再び脚光を浴びる日がくるかも知れません.
 ここでは,従来の99mTcO4-による脳シンチグラフィーおよび脳槽シンチグラフィーについて,症例を中心に述べてみたいと思います.

図譜・大腸内視鏡診断学

X.大腸隆起性病変—(3)大腸ポリープ

著者: 佐々木宏晃 ,   長廻紘

ページ範囲:P.1489 - P.1491

 "大腸ポリープ"という言葉は,臨床的には,一般にその組織型を問わず粘膜面からの限局性隆起を意味する(当然この中には粘膜下腫瘍も含まれるが,本稿では上皮性のものに限って使用する).しかしながら,その組織型により.臨床的な取り扱い(治療)はまったく異なる.すなわち,悪性化をきたす可能性のあるものでは,見つけ次第摘除する必要があり,悪性化の可能性のないものでは,出血,通過障害などの合併症をきたさない限り放置してもよい.
 大腸ポリープの分類は種々あるが,現在最も多く引用されるのはMorsonの分類1)であろう(表1).この分類は,悪性化するものとそうでないものとを明確に分けた点で,臨床的にも使いやすいものである.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1492 - P.1497

教養講座・比較生物学 生命と環境との調和

無脊椎動物の血液色素

著者: 沼野井春雄

ページ範囲:P.1517 - P.1521

はじめに
 血液中に含まれている色素の多くは,酸素との親和力が大きく,酸素の運搬者または貯蔵所としての役割を果たしている一方,単に血液を着色している色素に過ぎなく,酸素との親和力がほとんど認められないか,不明の物質も少なくない.これに対して呼吸色素はその分布が血液や体液中とは限らず,チトクロームやグルタシオン系色素などのように,広く組織中に分布して酸化還元と密接に関連している物質であるため,両者を厳密に区別することが困難である場合も少なくない.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・10

白血球数と好中球数

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1500 - P.1503

白血球数算定と正常値
 流血中の白血球数は,現在多くの検査室では自動血球計数器を用いて測定されている.そのため,従来の目視法に比較して技術的変動が小さくなったが,それでも1.5〜2%程度の誤差がある.ただ,白血球数は以下に述べるようなさまざまな因子によって影響されるので,それらを十分考慮に入れて判定しなければならない.
 採血部位 静脈血は毛細血管血よりも15〜20%程度低目になる.毛細血管血のうちでも,耳朶血では十分もんで血液循環をよくしてから採血しないと,初めに湧出する血液は濃縮していて随分高い数値となる.

図解病態のしくみ 血液疾患・1

赤血球増加症

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.1504 - P.1505

 単位血液量あたりの赤血球の増加を赤血球増加症という.
 ①赤血球総数,すなわち総赤血球量が増加している場合—絶対的赤血球増加症

プライマリー・ケアの実際

貧血—そのアプローチ

著者: 平安山英達

ページ範囲:P.1506 - P.1509

はじめに
 プライマリー・ケアに携わる医師がしばしば直面し,解決を要求される問題が貧血である.その原因究明は疾患の診断のみならず,patient careにも欠かせないものであろう.はじめに貧血とは何か,貧血の存在の確立について記す必要があるが,それはテキストにゆずるとして,ここでは貧血の存在は確立されたものとして話をすすめたい.
 当然のことであるが,貧血は診断名ではなく雑多な疾患の徴候であり,このことは貧血患者を診る基本的考え方であって,たとえば慢性関節リウマチなどの膠原病,慢性腎炎,慢性炎症性疾患,悪性疾患にみられる貧血がその好例であろう.したがって,貧血の原因究明は基礎疾患へのアプローチにも通ずるものであって,貧血のみに拘泥することなく,患者を総合的に観察する習慣も大切である.

話題の新薬

PLP注(ゼリア新薬)

著者: 中澤三郎

ページ範囲:P.1510 - P.1511

薬理学的特徴
 Filatov(1933)に始まるBiostimulatorの概念が各種臓器製剤の抽出に発展し,胎盤エキス製剤についても各種の疾患に広く用いられている.ヒト胎盤を特殊な方法で処理して得られたPLP注は核酸様物質,蛋白体(グロブリン),ムコ多糖体,アミノ酸,ビタミン類を含んでいる水溶性物質で1管(2ml)中,ヒト胎盤水溶性エキス0.5mlを含有している.
 薬理学的作用としては肝ホモジネート,ミトコンドリヤおよびイーストなどに作用させた場合,著明な酸素摂取量の増大がみられる,本剤の肝ホモジネートの酸素消費量に及ぼす影響をWarburg検圧計を用いて調べてみると,対照に比して約3.5倍の著明な促進作用が認められた.すなわち,細胞および組織の酸化代謝に強力な促進作用を有するものであり,著明な組織修復作用がみられる.

内科臨床に役立つ眼科の知識

血液粘性亢進網膜症

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1514 - P.1515

 血液粘性の亢進によって,眼底に網膜静脈の還流障害による異常所見,すなわち,網膜静脈の拡張・蛇行・迂曲,出血,浸出斑,網膜毛細血管瘤などが出現する.これは網膜中心静脈の切迫閉塞症とよばれる疾患の検眼鏡所見と一致する.
 このような血液粘性の亢進をきたす疾患,すなわちhyperviscosity syndromeを呈する疾患にはいろいろあるが,パラプロテイン血症paraproteinaemia(マクログロブリン血症,クリオグロブリン血症や骨髄腫など)のときに,ことに著明である.また,以上の疾患のうちでは,マクログロブリン血症のときに血液粘性の亢進がとくに顕著であり,これは分子量が1,000,000にも達するIgM分子の増加が原因とされている.これに対し,多発性骨髄腫ではIgGあるいはIgAの重合体が粘性亢進の原因となるが,粘性亢進が出現する頻度は,マクログロブリン血症と比較すると,はるかに低い.

medicina CPC—下記の症例を診断してください

上腹部痛で始まり,体重増加とともに尿量減少をきたし,足背に浮腫がでてきた56歳女性の例

著者: 桜井幸弘 ,   早川裕 ,   藤井彰 ,   坂本穆彦 ,   金上晴夫

ページ範囲:P.1522 - P.1532

症例 56歳 女
主訴 腹水
既往歴 31歳虫垂炎切除と卵管結紮

私の本棚

新しい貧血の知識をもとに血液病学へ

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.1512 - P.1512

 私はかつて医師になりたての海軍時代,終戦からひと月あまり,長崎で原爆症の治療に携わる機会があった.当初は激症の無顆粒球症ともいうべき形で発病し,9月に入る頃には再生不良性貧血の形をとって発病したが,当時小宮先生の血液図譜と金井先生の検査法だけを頼りに善意のみあっても能力も薬も足りずに苦労した,以来,血液学に愛着を持って復員し,入手不能であった小宮先生の臨床血液学を友人に借りて筆写したこともあったが,当時の形態学的血液学は完成したものと考えられたし,いつのまにか他の領域に興味の対象が移ってしまい,長い間ご無沙汰していた.
 たまたま対談形式による三輪史朗,高久史麿著「貧血」(医学書院,1974)を読み始めて,またそちらの興味が蘇ってきた.この本は新しい病態生理に基づき貧血の診断と治療を語り,しかも非常に読みやすく,肩のこらない文体で,なんの予備知識がなくとも気軽に読める本であるが,溶血性貧血では高久氏が,その他の項では三輪氏がそれぞれ主に聞き役になり,かなり高度な貧血の知識を知らぬうちに与えてくれる.貧血といっても,凝血学と多血症以外の血液病のほとんどに触れ,この方面ではマンネリ化した診療にとどまっていた私に異常な感銘を残してくれた.血液学入門の本としては最も新しくかつ実用的で,誰が読んでも明日の診療にも役立つ本である.

天地人

関連病院か関連大学か—勤務医急増期を迎えて

著者:

ページ範囲:P.1533 - P.1533

 わが国の医師の就業状況調査では,勤務医の比率は年々上昇をつづけ,最近,ついに開業医の数を上回ったということである.医師向け月刊誌のアンケートでも,将来,開業を考えていないという勤務医が増え,勤務医が開業医の予備軍であった時代は終わったとみなされる.個人の投資ではとても採算がとれないうような高額医療機器の発達,普及や,それに伴う一般民衆の病院志向,専門医崇拝・家庭医軽視の風潮,家族ぐるみの肉体労働を強いられながら,ちょっとしたことでも患者からのクレームに脅かされ,その上,マスコミに叩かれる開業医生活にイヤ気を感じるなど,いくつもの原因が重なりあった結果であろう.
 勤務医といえば,永いあいだ大学の医局支配が圧倒的だった.大都市の総合病院から山間僻地の小病院,個人病院にいたるまで,学閥地図がピッタリと色分けされ,ひとつの大学のなかでも隣りの内科や外科の勢力範囲を侵さない暗黙の諒解があった.これらは"関連病院"と呼ばれ,その数が多いほど,また優秀な病院を支配している医局ほど,羨望の眼で見られたものである.一方,病院の管理者や,病院を設置している地方自治体,農協などの団体の当事者にとっては,医師を派遣していただく大学の教授や医局長に,智慧をしぼって最大のサービスにつとめ,ご機嫌を損じないよう,あらゆる手段を尽くさねばならないのがアタマの痛い仕事であった.

オスラー博士の生涯・65

大学と病院

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1534 - P.1538

 1910年6月末から6週間は,オスラー一家そろってカナダと合衆国への旅を楽しんだが,これはオックスフォード赴任以来5回目の北米訪問であった.
 帰国すると間もなく,オックスフォードのオープンアームスの家は,来客でにぎわった.オスラーの旧友であるペンシルバニア大学医学部のJ.W.White教授と夫人もその頃訪れている.彼はもう退官する年齢に達していたが,自分ではなかなか思い切れなかったところをオスラーは,手術のできない老医となった外科教授は,やはり早く辞めて後進に席を譲るべきことを忠告し,Whiteはオラスーの忠告を素直に受けたという.

医師の眼・患者の眼

「ムコール菌症始末記」

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.1539 - P.1541

外車セールスマン木俣氏の現病歴
 外車セールスマンの木俣氏は岡山県のある素封家から下取りのLincoln Continentalを駆って帰路についた.彼が大学を卒業して以来6年,同郷のよしみでひいきにしてくれている,東京に本社を持つ青年実業家の車であった.たいへんな上客で一銭も値切ることなく,岡山の実家でも帰りぎわに赤飯の弁当をご祝儀とともに持たせてくれたのであった.
 7月も終わりの酷暑の2号線を神戸に向かって走り始めた.木俣氏はやたらと喉の渇きを覚え,自動販売器でコーラやジュースを買っては飲んだ.夕食用の赤飯の弁当もまたお三時として食べてしまった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

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60巻12号(2023年11月発行)

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増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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