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雑誌目次

雑誌文献

medicina15巻11号

1978年11月発行

雑誌目次

今月の主題 デルマドローム—内科疾患と皮膚病変

デルマドロームの概念とその歴史

著者: 谷奥喜平

ページ範囲:P.1554 - P.1558

皮膚科の黎明期
 "Nature is neither husk nor kernel;she is all in One"なる言葉は,dermadromeなる術言を医学界に導入したWiener,K(1947)のそれである.今日のごとき精密な検査法がなく,視診・触診・聴診・打診が重んじられた古代では,多くの医師が常に皮膚病変に興味を抱き,内臓疾患の初期症状ならびに予後を皮膚症状から読んでいたことは周知の事実である(黄疸,蒼白,急性発疹症での特有な皮疹アジソン氏病の手掌鞍に一致した色素沈着,心臓病でのチアノーゼ,浮腫).したがって,"dermatologia est master medicinae"なる言葉が生まれた.さらに歴史的にも皮膚疾患は古くからAusflüsse innerer ZuständeとみなされていたとのSchonfeld,W. の言葉を俟つまでもなく,皮疹を"ふきでもの",Ausschlag,eruptionの字義で呼んでいた事実はこれを示している.フランス学派のeczéma maladie,eczématoseなる考えが,あらゆる皮膚疾患について自然的な発想とされていた.
 近代医学の開祖Virchow,R. の細胞病理学は疾患の本質を局所での細胞と全身との相互反応に置いた.

発熱を伴う発疹症の診断

著者: 西脇宗一

ページ範囲:P.1560 - P.1561

はじめに
 発熱を伴い,全身に紅斑や小水疱が散在性にあらわれる疾患は,頻度の高いものをあげれば,感染症と薬疹がある.たとえば,乳児であれば突発性発疹,幼小児であれば麻疹,風疹狸紅熱(溶連菌感染症),SSSS(S-TEN,)水痘,新しいウイルス性発疹症などの感染症が多い.これに対し成人では感染症よりも薬疹が多い.
 その理由は,小児では感染症に対する防御抗体がそろっていないので罹患しやすく,その上Echoウイルス感染などに際しては成人より発疹出現頻度が高いという年齢的特徴がある,一方,成人では過去の薬剤使用回数が多く,感作機会が多いため薬疹が多いと考えられる,とはいえ,小児に薬疹を,成人にウイルス性発疹症をみることがないわけではない.

感染症

細菌感染症と関係のある皮膚変化

著者: 朝田康夫

ページ範囲:P.1562 - P.1565

はじめに
 細菌感染症では細菌による局所性ないし全身性の中毒反応のほかに,病巣に二次的に生ずる病巣抗原(細菌毒素や菌体成分などがhaptenとなり,それに崩壊した組織蛋白成分がcarrier proteinとして結合して完全抗原となると考えられる)によるアレルギー反応が生じ得る,これらは時として互いに重なって生じ,互いに病像を修飾し合ったり,また時にはまったく別個の症状として生じ得る.
 皮膚科領域で細菌感染症と,それを基点とすると推定される反応性皮膚病変の主なものをあげると,表のごとくである.その数種を取りあげて解説を加えてみる.

Subsepsis allergica

著者: 白取昭

ページ範囲:P.1566 - P.1567

はじめに
 Subsepsis allergica(以下S. a. と略)は1944年H. Wisslerにより提唱された症候群の名称であり,同義語としてSubsepsis hyperergica,Wissler. Fanconi症候群がある.しかし,このものが独立疾患であるか否かは論議のあるところで,Wissler自身も他疾患との鑑別は困難であるとしている.ともあれ,症状がsepsisに似てはいるが,流血から菌が証明されないことからsubsepsisと呼び,これらの症状を惹起するにあたって,allergyまたはhyperergyが主役を演じているものとの考え方に基づいて提唱された症候群と理解される.
 本症がいかなる症状を呈するのか,いかなる場合に本症が疑われるのか,といった点について述べることにする.

慢性皮膚粘膜カンジダ症と免疫異常

著者: 村上通敏

ページ範囲:P.1568 - P.1570

はじめに
 Candida albicansを主とする病原性カンジダ属真菌による感染症は,総括して「カンジダ症」と呼称され,その病型は,近年の免疫学の進歩,各種の免疫抑制療法の繁用に伴って,きわめて多彩かつ種々の病型があげられ,発症要因からみると表11)のごとくなる.
 Candida albicansは,もとより弱病原性を呈することは周知の事実であり,健康者の各種分泌・排泄物からもしばしば分離されることからも,容易に理解されるところである.したがって,カンジダ症の発症機転には,生体側の防御機構のなんらかの全身的または局所的異常が必要となり,host-parasite relationshipが本症発生にきわめて重要な役割を演じることになる.

帯状庖疹と全身疾患

著者: 佐々田健四郎

ページ範囲:P.1571 - P.1573

はじめに
 帯状庖疹は皮膚科外来患者の0.5〜2.0%に発生するが,近年はやや増加の傾向にある.季節的変動はあまりなく,罹患年齢は従来の統計では20代と60代の2峰性に多発するとの報告が多いが,国立名古屋病院における昭和45年〜昭和50年までの6年間の帯状疱疹は576例で,全患者の1.4%を示し,41歳以上が302例で半数以上を占め,さらに61歳以上は130例に及んだ.性別は女性にやや多かった.
 最近の諸家の文献を考按しても,帯状疱疹は中高年層に多発する皮膚疾患の一つになってきたようである.R. Schmidtは帯状疱疹の発生部位によっては内臓病変と関連していることがあり,たとえば左上肢に発生するものでは狭心症,胸郭にみられるものにおいては胸膜またはその癒着部位に一致している.内臓病変によって神経障害を招くときは,その走行に一致して帯状疱疹の発症をみることも珍しくないと述べている.比較的高齢者においては副腫瘍性疾患paraneoplastische Erkrankung,すなわち内臓の悪性腫瘍に随伴する皮膚疾患として帯状疱疹を考えねばならない.さらに多発性硬化症の患者ではしばしば帯状疱疹が先行する(Steigleder, G. K. 1)).

内分泌・代謝疾患

甲状腺疾患と皮膚のムチン沈着

著者: 森俊二

ページ範囲:P.1574 - P.1575

はじめに
 皮膚にムチンの沈着することが直接疾患の発症に関係する疾患は,大きく分けて皮膚ムチノーシス(皮膚粘液沈着症,mucinosis cutis)と先天性ムコ多糖代謝異常症(mucopolysaccharidosis)があり,前者の中に甲状腺疾患との関係ある疾病が入る.皮膚ムチノーシスの分類を表に示す.代謝性ムチノーシスの中で甲状腺疾患との関係が明らかなのはⓐ汎発性粘液水腫とⓑ前脛骨部粘液水腫であり,ⓒ粘液水腫様苔癬は甲状腺機能には異常がない.それでⓐをHypothyreose,ⓑをHyperthyreose,ⓒをEuthyreoseと称する.

糖尿病の皮膚Microangiopathy

著者: 北村啓次郎

ページ範囲:P.1576 - P.1578

はじめに
 糖尿病は全身諸臓器を広くおかす全身病で,皮膚もその例外ではない.糖尿病の皮膚Microangiopathyは糖尿病者の一見正常に見える皮膚にもみられ,皮膚の血液循環の障害による機能低下のために,いろいろな皮膚疾患が生ずることになる.皮膚の血管の変化は,全身どこにおいても認められるが,とくに前腕,下肢,指趾の皮膚に生じやすい.血管壁の変化は組織学的に網膜,腎糸球体,筋肉および末梢神経におけるMicrovasculatureの変化と同じであるが,その病因,とくに全身諸臓器の毛細血管基底膜の変化の成因については,未だ確定されていない.
 最も普遍的な所見は,真皮上層の毛細血管壁肥厚で,これはPAS染色陽性Basement membranelike materialの沈着によるとされている.こうした沈着物はPericyteのまわりに生じ,さらに基底膜からその周囲のCollagen stromaへと連続的に沈着してゆき,ついに毛細血管を包埋するに至る.

全身性アミロイドーシスの皮膚変化

著者: 堀嘉昭

ページ範囲:P.1579 - P.1581

はじめに
 アミロイドーシスに関する研究は最近急速に進められ,また症例報告も増加している.厚生省特定疾患調査研究班も組織され,さらに,本症の病態,病因なども詳細に追究されることが期待される.アミロイドーシスはいろいろな原因によって発症すると考えられ,アミロイドなる物質の沈着はいろいろな臓器に認められる.
 アミロイドがどの細胞でつくられるかについては,Cohen1)は細網系細胞が産生すると考えており,Hashimotoら2)は線維芽細胞も産生すると考えている.これらの細胞は一定の刺激によってアミロイドの前駆物質を産生し,細胞外に分泌し,この前駆物質は細胞外で酸性ムコ多糖と結合してアミロイド物質となり,細胞外に沈着すると考えられる.また一方,持続的な抗原刺激に基づく血液中の異常血清蛋白が血管外に溢出し,血管周囲で酸性ムコ多糖と結合してアミロイド物質として沈着するか,あるいは血管外にいったん溢出した異常血清蛋白が線維芽細胞内にいったん取り込まれてのち,アミロイドとして結合織内に沈着することも考えられる.すなわち,原発性全身性アミロイドーシスの患者では,血清,尿中にBence-Jones蛋白を含めてM成分が証明されることが多く,免疫グロブリン,Bence-Jones蛋白がアミロイドの構成成分,もしくは前駆体と考えられている3,4)

ポルフィリン症の皮膚症状

著者: 三浦隆

ページ範囲:P.1582 - P.1583

はじめに
 まだ定説ではないが,ポルフィリン症を8種に分類する見解をまずあげておく(表).これらポルフィリン症のうちAcute intermittent porphyriaを除く7種ポルフィリン症において皮膚症状が発現するが,この場合,皮膚光線過敏性の結果として露出部に皮疹が発生する点が特徴的である.したがって,各症例につき日光照射の多寡と皮疹発生との間の因果関係を問診により確認することが大切である.もっとも患者および患者家族が該関係に気づいていない場合も多く,また擦過などわずかな外力によって皮疹が発生する場合もある.一般に皮膚症状の臨床形態所見のみによって上記7種ポルフィリン症の各々を互いに鑑別することはできず,それらの確診は尿,糞赤血球についての生化学的ポルフィリン検索結果によることは言を俟たない.

消化器疾患

肝硬変と皮膚血管異常

著者: 大河原章 ,   山本和子

ページ範囲:P.1584 - P.1585

はじめに
 肝硬変症に伴う皮膚の血管異常としては,周知のごとく,vascular spider(クモ状血管腫),palmar erythema(手掌紅斑),scleral vessel engorgement(鞏膜血管怒張),paper money skin(紙幣状皮膚),caput medusae(メズサ冠)などが知られている.これらの血管変化は肝硬変症にとって特徴的ではあっても,特異的なものでなく,またvascular spiderのように健康な正常人にもみられることがあり,必ずしも異常所見とはいいがたいものもある.
 しかし,これら血管病変が肝硬変症や慢性肝疾患の早期に出現し,診断的意味を有する場合もあり,肝硬変症に伴う皮膚血管変化として認識しておくことが大切であることは言を俟たない.また,これらの血管変化はdermadromeの中では肝硬変症が先行し,その結果皮膚に生じたものと考えられるが,その発症機序は必ずしも十分に理解されているとはいいがたい.

HB抗原血症と皮膚変化

著者: 斉藤隆三

ページ範囲:P.1586 - P.1587

はじめに
 B型肝炎ウイルス(HBV)の感染では,急性感染と持続感染とがみられ,急性期では,全身倦怠感,嘔気,嘔吐,発熱,右季肋部痛,そして黄疸など肝炎の症状がみられるほかに,抗原抗体反応によると考えられる肝外病変(extrahepatic manifestation)をきたすことが知られている1)
 HBVに関連した抗原抗体系にはsurface antigenであるHBs抗原・抗体系,core antigenのHBc抗原・抗体系,そしてe抗原・抗体系の3つがあり,BlumbergらのAu抗原はHBs抗原に相当している.血清HBs抗原はHBV感染後3〜6週で通常陰性化し,その前後よりHBc抗体がみられ,HBs抗体は6ヵ月前後になり認められるようになる.

消化管出血をきたす皮膚疾患

著者: 吉田彦太郎

ページ範囲:P.1588 - P.1589

はじめに
 皮膚科の診療で,消化管出血に遭遇する機会は必ずしも多くはないが,それをきたしうる疾患の数は意外に多い.しかもときには死に至るほど重篤である場合も少なくないため,これらの疾患に関する十分な知識を貯えることは皮膚科医にとっても内科医にとってもきわめて重要と考えられる.今回筆者は消化管の出血病巣の種類によって分類し,表に示した.以下,順を追って主な疾患について説明を加えることにする.

膠原病・免疫異常

全身性血管炎の皮膚症状

著者: 新井春枝

ページ範囲:P.1590 - P.1591

はじめに
 一般に"血管炎"というと含まれる疾患はかなり多くなるが,ここで述べる全身性血管炎(または広義の多発性結節性動脈炎ともいう)とは,第1に血管を場とする系統的な炎症性疾患であること,第2に表1の病理組織学的所見を満足する壊死性血管炎であること,第3に基礎疾患(例:全身性エリテマトーデスなど)を除外できること,そして表2の診断基準を満足する疾患と定義する.
 壊死性血管炎の皮膚症状は罹患血管の解剖学的大きさおよび位置によって異なるため,臨床病理学的に理解すると便利であろう.
 皮膚の血管を大きく分けてみると,一つは真皮全層に存在する筋層を欠く細小血管,他は真皮皮下境界部から下層に存在する筋層を有する小血管の2つになる.

クリオグロブリン血症の皮膚症状

著者: 中川昌次郎

ページ範囲:P.1598 - P.1599

はじめに
 正常血清は62℃以下の熱を加えても,逆に37℃以下に冷却しても明らかな肉眼的変化を示さない.加温あるいは冷却によって血清は沈殿凝固,ゲル化など変化をきたす場合があり,これをthermoproteinと総称する.そのうち冷却により変化する蛋白をcryoproteinといい,これにはcryoglobulinと血漿でみられるcryofibrinogenがある.クリオグロブリンはWintrobeら(1933)1)により発見,Lernerら(1947)2)により命名され,それ以来,クリオグロブリンが寒冷に接して種々の臨床症状をひき起こすとともに,その一部がmonoclonalな蛋白であること,さらにあるものは抗原抗体結合物として存在し,immune complex病を解明する手がかりになることから注目されてきた.寒冷に伴ってひき起こされる病的状態はcryopathies3)と呼ばれるが,cryoglobulinemiaはその一つである(表1).

カラーグラフ

膠原病の初期皮膚症状

著者: 大橋勝

ページ範囲:P.1592 - P.1595

はじめに
 膠原病はその名の示すように全身の膠原線維と基質に局在する病変をもつ疾患である.したがって,内臓の病変とともに皮膚の結合織にもその病変を有している.しかもこれらの疾患群では,皮膚症状は早期に出現し,特有な症状を示す.組織像,免疫螢光像および電子顕微鏡像でも特徴を有している.本稿では,膠原病のうち比較的よくみられる全身性エリテマトーデス,皮膚筋炎と全身性強皮症の皮膚症状と電子顕微鏡で認められる管状構造体について述べる.

トピックス

内臓悪性腫瘍のデルマドローム

著者: 関建次郎 ,   千葉紀子

ページ範囲:P.1600 - P.1601

はじめに
 内臓癌,悪性リンパ腫,白血病などに伴う皮膚病変のなかには,非特異的な皮疹も数多く含まれる.汎発性皮膚掻痒症,慢性蕁麻疹,痒疹などがそれである.本稿では比較的特異的なものをとりあげたい.なかには皮膚疾患と内臓悪性腫瘍との関係が確定的であり,疑いをさしはさむ余地のないものもあるが,両者の合併頻度があまり高くないため,人によっては疑いをさしはさむものも含まれる.また,現在なお内臓悪性腫瘍と関係ある皮膚病変の発見,確立のための努力が続けられており,年を追って新症状の追加もある.しかし,皮疹の発生機序まで,明らかにされたものは少ない.
 Curth(1976)は皮膚疾患と内臓悪性腫瘍との因果関係の立証に6項目をあげている.①両疾患、がほとんど同時に発症すること(例;皮膚筋炎).②両疾患が平行した経過をとること(例;悪性黒色表皮腫).③皮膚,内臓両症状とも遺伝に基づく症候群の一部である場合(例;Gardner症候群).④ある皮膚疾患と合併する悪性腫瘍が一つの特異的な腫瘍である場合(例;悪性黒色表皮腫と腺癌との関係).⑤皮膚疾患が普通よくみられるようなありふれたものでないこと(例;Erythemagyratum repensのようにユニークな皮疹であること).⑥皮膚,内臓両疾患の合併率が高率であること.以下,悪性腫瘍に関連する皮膚疾患をあげるが,なお到底これに尽きるものではない.

最近注目される薬疹—末梢血管拡張剤および脳代謝促進剤による苔癬型薬疹と紅皮症型薬疹

著者: 山本達雄

ページ範囲:P.1602 - P.1603

はじめに
 筆者が老人に一種独特の水疱性疾患のあるのに気付いたのは,老人病の専門病院である東京都養育院付属病院に赴任した昭和47年の秋のことである.それは類天疱瘡に似るが,その水疱は大きくなく,小指頭大までの小紅斑上に小水疱をつけた皮疹が汎発するもので,一見滲出性紅斑型の薬疹のごとくに見え,組織学的には表皮下の水疱で,類天疱瘡とも疹出性紅斑ともとれなくもないが,むしろ苔癬様反応といったほうが妥当で,ステロイドを内服させると類天疱瘡とは違ってこれに非常によく反応するものである.道部1)は昭和47年4月の第71回皮膚科学会総会で脳卒中患者の療養生活中に水疱および苔癬様皮疹の単独発生ないし両皮疹が混在発生することに奇異の感を抱き,これを発表し,これら皮疹の発生には患者の素因もさることながら,脳血管障害の治療のための各種薬剤が,長期間投与されていることが関係すると推定した.また同じ学会で杉山2)らは扁平苔癬患者が昭和45年を境に,急速に増加し始め,しかもその増加分が高齢者の扁平苔癬患者に基づくことを指摘するとともに,その発生にはこれら老齢患者が内服していた主としてサイアザイド系降圧利尿剤をはじめとした各種薬剤が関与していると考えた.こうした報告ではまだ皮疹発生の主役が後述の末梢血管拡張剤であるシンナリジン(以下,シ剤と略す),脳代謝促進剤である塩酸ピリチオキシン(以下,塩ビ剤)であることには気付いていない.

皮膚T細胞リンパ腫

著者: 中嶋弘

ページ範囲:P.1604 - P.1606

はじめに
 悪性リンパ腫(ML)で,皮膚向性を示し,慢性に経過する菌状息肉症,sézary症候群は近年の研究により同一スペクトル上の疾患であることが明らかとなり,Lutznerら1)は"cutaneous T cell lymphomas"なる概念を提唱している.ここに包括される疾患を略述し,相互の関連についての最近の話題を紹介する.

Sign and Symptom

理解のための10題

ページ範囲:P.1625 - P.1627

カラーグラフ

デルマドローム

ページ範囲:P.1622 - P.1623

 1 Raynaud現象 31儀の家婦.初診の2年前よりRaynaud現象があらわれた.SLE特有の紅斑はみられないが,検査成績からSLEの疑いがある.右の3〜5指中節までpallorがみられる(右手だけ冷水に浸したあとの所見).
2 リベド症状

心電図の診かたとその鑑別 臨床編・各種心疾患の心電図・5

不整脈(その2)

著者: 高木誠 ,   前田如矢

ページ範囲:P.1628 - P.1640

房室ブロック
 前田 これ(症例1)はかなり徐脈の心電図ですが,どのような点が異常でしょうか.
 高木 心室のレートが37/分ぐらいの高度徐脈であることがまず目につきます,しかし,QRSは規則正しく出現しており,QRSだけでみると完全な整脈です.

図譜・大腸内視鏡診断学

XI.大腸隆起性病変—(4)大腸癌(付.大腸隆起性病変の拡大観察)

著者: 佐々木宏晃 ,   長廻紘

ページ範囲:P.1641 - P.1644

大腸進行癌の肉眼形態
 大腸進行癌の肉眼形態は,通常,胃のそれに準じて,Borrmann分類で表現される.BorrmannII型が圧倒的に多く,70〜80%を占める.胃における場合と異なり,Borrmann IV型はきわめて稀である.

演習・放射線診断学 シンチグラム読影のコツ・5

心シンチグラム

著者: 近藤誠 ,   木下文雄

ページ範囲:P.1646 - P.1655

はじめに
 心臓のシンチグラムは,心筋へのRI取り込みを利用して心筋を描出する方法と,心腔内のRIを描出するプールシンチグラムに分けることができます.さらに心筋の描出法は,梗塞巣の部位を陽性像として得る梗塞シンチグラムと,健常心筋を描出する心筋シンチグラムの2法に分類されます.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1656 - P.1661

教養講座・比較生物学 生命と環境との調和

個体の識別—血液型を中心に

著者: 松本秀雄

ページ範囲:P.1662 - P.1667

はじめに
 個体の識別とは,他のすべての個体からの識別を可能にするような特徴によって決定される個体の認識を意味している.Aというヒトを,A以外のすべてのヒトから識別することを可能にするような,個々のヒトにみられる違い,多様性は,身長,体格,容貌といった外観的な特徴から,歯型,音声,皮膚紋理,さらに血球型,血清型,酵素型など分子レベルでの組織構成要素の違いといったものがその基礎となっている.ヒトはこのような遺伝的な構成において,個々に相違していることは明らかであって,たとえば皮膚の移植といったことも,一卵性双生児を除いた個体間では決して成功しないという事実は,よくこのことを物語っている.
 なにゆえに各個体の間にこのような多様性が生じているのであろうか,またどうしてある民族では他の民族と集団としての違いを生じているのであろうか.このような事柄について考えてみると,表現されている遺伝的多様性のよってきたるところは,相違する対立遺伝子の存在にあって,このような遺伝的多様性を招来した対立遺伝子というものは,それぞれの遺伝子座にある,それぞれ共通の祖先遺伝子から由来した遺伝子の,突然変異の積み重ねの結果生じたものである.また,遺伝子の流れ,遺伝的浮動,あるいは,ある集団に限られた遺伝子の突然変異とかいった事柄が集団の特徴づけとなっている.

図解病態のしくみ 血液疾患・2

網赤血球増加

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.1670 - P.1671

 ある種の塩基性色素(ブリリアント・クレシル青,ニューメチレン青など)によって赤血球の超生体染色を行うと,線状または腰粒状に青く染まる物質をもっている赤血球がみられる.これが網赤血球reticulocyteで,脱核した多染性赤血球から成熟した正染性赤血球への過程にある幼若赤血球であり,1〜2日で成熟した正染性赤血球となる.正常の場合には有核赤血球が末梢血中にあらわれることはなく,脱核した網赤血球または成熟赤血球になってから,骨髄から末梢血中へ遊出してくるが,その機序は十分にはわかっていない.
 正常の場合には,末梢血中の網赤血球は5〜10‰,実数として5×104/μl前後といわれているので,それ以上に増加した場合を網赤血球増加reticulocytosisとよんでいる.網赤血球増加は,骨髄の赤芽球系の過形成を反映する所見であるが,赤芽球系の過形成があっても網赤血球増加を認めない場合がある.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・11

リンパ球数とSubpopulation

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1672 - P.1676

リンパ球数算定と正常値
 リンパ球数の算定は,白血球数とリンパ球百分率から間接的に行われる.すなわち,自動血球計数器(または目視法)により末血中の白血球数(W)を測定し,次に末血塗抹標本で全白血球に対するリンパ球の占める百分比(x%)を求めて,リンパ球数(L)を次の式から算出するわけである.
 L=W×(x/100)

プライマリー・ケアの実際

上肢の非感染性炎症性疾患—腱および腱鞘炎を中心に

著者: 長嶺功一

ページ範囲:P.1677 - P.1679

 外来診療において,しばしばみる上肢の非感染性炎症性疾患について,診断および私たちが実際に用いている治療法を,主として保存的治療を中心に述べる.

外来診療・ここが聞きたい

白血球が少ないとき

著者: 日野志郎 ,   西崎統

ページ範囲:P.1680 - P.1682

症例
患者 T. Y. 43歳,男性,会社員(営業)
現症 生来健康であった本年2月,健康管理センターにて一日検診を受け,そのとき白血球が少ない(3,100)といわれ,再検しても変わりはなかった.今後ときどきチェックを受けるよっにとすすめられた.そのほかの診断は,軽度肥満,右難聴であった.白血球が少ないことについて,今後どのようなことを注意すべきかと来院した

内科臨床に役立つ眼科の知識

血液疾患の眼底病変

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1684 - P.1685

 前回は,dysproteinaemiaの眼底所見について解説を行ったが,今回はDIC(disseminated intravascular coagulopathy),血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura),meningeal leukemiaなど,比較的最近になって問題になっている疾患の眼所見について解説を行ってみたいと思う.

私の本棚

病気の治療と病める人間の治療—心身医学から精神病理学まで

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.1668 - P.1668

 ここ数年来,さまざまな患者の多彩な病変や病態をみながら,一体内科医として私は,主に患者の身体の一部分である臓器の病変の診断だけを考え診療をしてきたが,これでよいのであろうか,おそらく軽い感染性の病気などはそれで足りるであろう.しかし内科においても病める人格に対するアプローチの方法を考えなければならないのではないかと思うようになってきた.その間,数多く神経症の患者も診せられたり,ときには分裂症の患者を精神科に紹介したりしてきた.そのかたわらバセドウ病はもちろん,糖尿病などでさえ心身症としてあげられていることも知っていたし,また老人,あるいは癌などの患者の生命に対する不安感について真剣に考えるときもあり,なにかが従来の臨床医学には欠けていると思うようになってきた.
 その頃,アレキシス・カレルではないが,「人間—その未知なもの」の本態を求めて何冊かのてっとり早い新書版を次々に読んでみたが,中公新書の池見酉次郎著「心療内科」(1963)と,同じ著者の「続・心療内科」(1973)の2冊を続けて読み得るところが多かった.前著には「病いは気から」の医学,後著には人間回復をめざす医学という副題があり,その副題にふさわしい内容を素人向きによく解説してある.

天地人

安楽死

著者:

ページ範囲:P.1689 - P.1689

 8月のある夜,"カレンの裁判"というドキュメンタリードラマがテレビで放映された.植物状態に陥った娘の人工呼吸器を外してほしいという両親の訴えで裁判が行われ,安楽死をめぐっての論議が喚起された事件をドラマ化したものであった.何故,裁判してまでも争わねばならなかったのか,誰しも関心のあるところである.ドラマでは,両親は単に安楽死を望んだのではなく,回復の見込がまったくなくなった植物状態の娘を,特殊な人工装置で生命を維持させることを止め,神の手にゆだねてほしいという宗教的決心によるものであることを強調していた.
 リーダースダイジェスト9月号にも,この親達が最近出版した"カレン・アン"の要約が掲載された.この本でもその主張は同じもので,自分達の信ずるカトリックの神父の教えに従ったとしている.それは「人間はあらゆる尋常な手段をもって生命を維持すべき道義的義務があるが,そのように生命を維持していくことが本当に耐えられないものであるとき初めて死ぬことが許される」というのである,人工呼吸器は回復の望みがまったくない患者には,もはや尋常な医療手段ではないとしている.

オスラー博士の生涯・66

オスラーと爵位

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1690 - P.1693

 オスラーは,1911年の1月末に休養も兼ねて,約2ヵ月にわたるエジプトへの一人旅を楽しんだ.エジプトの各都市をまわり,その古い文化の跡を訪ねるとともに,地方病についての視察やまた太古のアラビア医学の歴史についていろいろ学ぶ機会をもった.帰途,イタリアに1週間あまり滞在した後,英国に帰った.

医師の眼・患者の眼

糖尿病週間によせて

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.1694 - P.1696

 SONY株式会社の春の健康診断が終わるのは毎年6月も半ば過ぎになる,健康管理室のメンバー,各事業所の医師,保健婦,看護婦が総出でかかっても,本社周辺には1万人あまりの従業員がいるからだ.健康管理室の医師や看護婦たちは受診率98.5%の成績に一応満足していたが,事後処理に忙殺されている折,1つの問題が持ち上がった.5年前の話である.

洋書紹介

—H. Kief 編—Iron metabolism and its disorders

著者: 宮崎保

ページ範囲:P.1676 - P.1676

研究の広さに驚かされる
 H. Kiefにより編集された"Iron metabolism and its disorders"は,1975年Schloss Reisenburgにて開催された第3回workshop conference Hoechstのproceedingsである.鉄代謝を中心に基礎的および臨床的研究にとりくんでいる私どもには,よく知られている研究者による多くの鉄代謝に関する新しい研究結果が収録されている.
 本文は4 sectionsに分けられているが,section IではA. Jacobsをchairmanとしてiron balanceについて鉄吸収,transferrin,ferritin,鉄過剰の面で新しい事実が述べられているi中でもM. C-Huebers,E. Huebers & W. Rummelにより,鉄吸収の機序として腸粘膜細胞内のferritinはslowly exchangeable ironpoolとして機能するに反して,transferrinlike proteinがintracellular carrierとしてrapidly exchangeableiron poolとして機能している事実が記されており,かつてのGranickによるmucosal block theoryとかConrad & Crosbyの説に対比して興味あるところである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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