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雑誌目次

雑誌文献

medicina15巻12号

1978年12月発行

雑誌目次

臨時増刊特集 これだけは知っておきたい治療のポイント 第2集 I.救急車で運ばれてくる重症患者の処置

救急車によって運ばれる患者

著者: 西邑信男

ページ範囲:P.1716 - P.1717

はじめに
 わが国においては,とくに救急車で搬入されてくる患者は必ずしも重症患者を意味しない.しかし,比較的重症患者の多く瀬含まれているのは確かである.
 患者をひきうける側からみれば,救急車による搬入の仕方や,救急車内における患者の処置の方法など種々の問題があり,ほとんど解決されずにあるのが現状である.

DOA(Dead on Arrival;死亡患者)

著者: 西邑信男 ,   岡澤光芝

ページ範囲:P.1718 - P.1720

はじめに
 死亡と判定される患者,もしくは来院時死亡している患者が救急車で搬入されてくることがある,筆者らのセンターでも年間13〜14件がこのような状態の患者であって,一般にDOA(Dead on Arrival)として分類される.DOAでももちろん,救急車に乗せられるまで,または搬送の途中までは呼吸があり,循環系も作動していると考えられ,したがって,処置の方法によっては蘇生されうる可能性の残されているものも多い.
 以前は呼吸が止まり,心停止があれば一応死亡しているとして片づけられたが,現在は死亡の判定は必ずしも容易ではない.したがって,一見DOAであっても,蘇生に万全をつくすべきであろう.

昏睡

著者: 矢埜正実

ページ範囲:P.1721 - P.1723

はじめに
 意識障害,とくに昏睡状態で救急室に搬入されてくる患者は生命の危機に瀕しており,初期に適切な処置が施されない場合,死に直結する可能性が大きい.昏睡患者が入室した場合,まず速やかに救急処置を行い,併行して緊急検査,病歴あるいは事故の経過を聴取し,昏睡の原因を究明し,それに対処しなければならない.一般の医療は詳細な病歴をとり検査を行うが,救急,ことに昏睡あるいはショックの場合その手順が逆になる.

ショック

著者: 田頭勲

ページ範囲:P.1724 - P.1726

はじめに
 ショックの病態生理については,今なお十分解明れていないのが実状であるが,実際臨床面では,いかなるタイプに属するものかを正確に把握し,迅速な治療を開始することが,その予後を左右する上で最も重要なことは当然であろう.たとえば,hypovolemic shockやcardiogenic shockでは,一般的に血圧下降,頻脈,CVP低下,乏尿,心拍出量減少,皮膚冷感などの徴候を呈するが,敗血症の初期や急性心筋梗塞の一部では,これらの徴候が認められないこともあり,臨床的にショックを評価するのは,なかなか困難なこともある.
 近年,ショツクの定義は,その病態像より「末梢循環不全に伴う細胞の代謝異常」という考え方が定説となっている.1972年,M. H. Weilら1)は,循環性ショックの分類訂正を行って,4つのhemodynamic defectsのうちの1つ,もしくはいくつかの組み合わせによる末梢循環不全とした考え方を唱えており,われわれ臨床家にとってきわめて理解しやすい分類と思われる.そこで,これらを基に,末梢循環不全の把握,診断,治療の概要などについて述べてみたい.

失神

著者: 長澤紘一

ページ範囲:P.1727 - P.1729

はじめに
 失神syncopeとは,脳代謝の急激な低下によって起こる一過性の意識消失発作である.通常は血圧下降による脳血流量減少が原因であるが,Noble1)は失神の生ずる機序を表1のごとくに分類した.
 医師がこのような患者に接する場合,すでに失神から回復しているものが大部分を占め,意識消失の続いている患者をみる機会は少ない.したがって失神患者の救急治療といっても,治療を要する原因の有無を決定することが第1であって,治療を要さない場合も多い.診断を確定するためには病歴の詳細な聴取,理学的所見の把握,臨床検査が重要であって,医師が失神の病態生理に精通していれば,病歴,理学的所見,心電図所見のみから症例の99%が診断可能であると報告されている1)

全身けいれん

著者: 山本保博

ページ範囲:P.1730 - P.1731

はじめに
 けいれんとは発作性にあらわれる筋肉の急激で不随意な収縮をいい,原因疾患により大脳に由来の全身けいれん,ミオクロヌス,筋肉自身に由来するspasm,crampなどに分けられる.本稿では主として大脳起源の全身けいれんを中心に取り上げる.この発生機序としては脳のneuronの一部または全体が何らかの原因で突然異常に興奮し,周辺または離れた部位に伝播する現象であることは解明されてきたが,この原因がどのようにしてneuronに作用するかは未だ明らかでない1).また,けいれんをその性質により分けると,強直性けいれんと間代性けいれんになり,強直性けいれんとは持続的な筋の収縮で躯幹,四肢の固定するもので,間代性けいれんとは筋肉の収縮と弛緩が反復するものである.

ガス中毒—一酸化炭素中毒を中心として

著者: 田頭勲 ,   佐々木潤

ページ範囲:P.1732 - P.1734

はじめに
 ガス中毒は昭和51年度の消防庁統計によれば,救急車によって搬送された患者の0.18%と比較的少ない割合を占めている.
 しかし,その内容は自殺を目的とした都市ガス使用と,火災現場での不完全燃焼ガスの吸入などが最も多く,ことにCO中毒症状をきたす例が大部分であることから,CO中毒を中心に述べていきたい.なお都市ガス(6B型)の組成は表1のごときものである.

薬物中毒

著者: 大塚敏文

ページ範囲:P.1736 - P.1737

はじめに
 産業の発達とともに作業従事中,化学薬品の吸入,摂取などによる中毒,一方では社会機構の複雑化に伴って,自殺を企図しての薬物中毒が多くなってきており,これらの患者に接する機会も多い.

胸痛

著者: 大林完二

ページ範囲:P.1738 - P.1739

はじめに
 胸痛の性質,部位などは原因疾患によりかなり特徴的であるため,胸痛を主訴とずる救急患者の治療にあたっては十分な問診を行い,まず痛みの発生起源をさぐることが大切である.しかし,疼痛の性質は患者により表現されるのであるから,当然これのみですべて診断しうるわけではないし,また患者の状態が悪く問診が困難であれば,生命の危険性,発生頻度を考慮しながら聴打診,胸部X線写真,心電図,心エコー図,心音図,血液検査などの各種検査とともに,必要に応じて治療を始めることになる.

呼吸困難

著者: 黒川顕

ページ範囲:P.1740 - P.1743

はじめに
 意識のあるものでは,自覚症状として呼吸困難を訴えるが,意識のないものや乳幼児などでは,呼吸数,呼吸様式,チアノーゼ,動脈血ガス分析など他覚的所見から呼吸困難の状況を把えざるを得ない.すなわち,呼吸困難とはそれが自覚的,他覚的のいかんを問わず,なんらかの呼吸管理を要する異常な呼吸状態といえよう.

吐血

著者: 柳郁夫

ページ範囲:P.1744 - P.1746

はじめに
 吐血はTreitz靱帯より口側の上部消化管からの出血により起こる.出血によるショック状態の発現は,年齢,基礎疾患,合併疾患,循環系の状態,また出血の量,速度などにより異なり一概にいえないが,通常,循環血液量の25%以上,すなわち1200〜1700ml以上の出血があると中等度のショック状態を呈し,速やかな循環血液量の回復が行われないと不可逆性ショックに陥り,致命的ともなりかねない.
 したがって,吐血に対する第1の処置は失われた循環血液量を回復し,ショックの予防,治療を行うことである.ついで原因疾患を究明,内科的あるいは外科的に原疾患に対する治療を行う.

急性腹症

著者: 大塚敏文

ページ範囲:P.1748 - P.1749

はじめに
 腹部に激痛を伴い,短時間のうちに手術を必要とするか否かを決定しなければならないような腹腔内の急性疾患を総称して,一般には急性腹症と呼んでいる.したがって,急性腹症の患者に遭遇したならば,できるだけ迅速に,かつ正確に診断するように努力しなければならないが,ときには救命の目的で急性腹症の診断のまま手術に踏み切らざるをえない場合もある.このような症例では,診察や検査のために,不必要な時間を費すことなく,緊急手術の可否を決定することが極めて重要となってくる.しかし,実地臨床において,急性腹症に含まれる疾患は極めて多岐にわたっており,それぞれが同じような急性症状を呈することが多いので,診断や鑑別は必ずしも容易ではない.

熱傷—広範囲熱傷の初療を中心に

著者: 辺見弘

ページ範囲:P.1750 - P.1753

はじめに
 筆者らの施設では本年3月までの過去3年間に114例の広範囲熱傷(平均熱傷面積44.3%SD±15.2%)が入院した.その死亡率は30.3%ときわめて高く,死亡例のほとんどが50%以上の熱傷例に限られた.輸液の公式を厳密に適応した初期のミスを除いては,hypovolemic shockによる死亡はなく,そのほとんどがショック離脱後の感染に原因した.熱傷の病態は単に局所的だけでなく全身的な変化が著しい.治療に先立ち病態の理解が必要である.

乏尿—急性腎不全を中心に

著者: 辺見弘

ページ範囲:P.1754 - P.1757

はじめに
 救急車で来院する患者の中で,乏尿または無尿を唯一の主訴とすることは尿閉を除いては稀である.しかし,外傷,熱傷,イレウス,呼吸不全,心疾患,感染症,術後合併症などで搬送されてくる症例の一症状として乏尿をきたすことはきわめて多い.
 終末代謝産物を排泄し,生体のhomeostasisを維持するためには,腎の濃縮力の限界から400ml/dayの尿量が必要とされている.それゆえ400ml/day以下を乏尿,100ml/day以下を無尿と定義されているが,濃縮力の低下した症例では2〜3l/dayの尿量がありながら窒素血症の進行するいわゆるhigh output renal failureも良く知られた事実であることから,尿量の減少だけが急性腎不全の必須条件ではない.

心電図電話伝送

著者: 高野照夫 ,   岡野和弘 ,   大林完二

ページ範囲:P.1758 - P.1759

はじめに
 急性心筋梗塞,重症狭心症および重症不整脈は発作時の死亡率が高く,救急処置が必要であるばかりでなく,できるだけ早く適切な治療を行いうる専門施設へ収容することが望まれる.また,これらの疾患では心電図から重要な情報が得られるにもかかわらず,その判読には専門的知識が要求され,一般医が診断に苦しむこともしばしばある.こんな場合,心電図を一般電話回線を利用して心臓病の専門医のいる施設へ送り,診断・治療について指示を得ることができれば,最も適切な処置を行うとともに,最も適切な施設へ収容することも可能である.このような利点から,数年前よりわが国でも心電図の電話伝送が普及してきた.

II.循環器疾患 1.うっ血性心不全の治療

ジギタリス剤の使い方

著者: 富田籌夫 ,   安田寿一

ページ範囲:P.1762 - P.1764

はじめに
 うっ血性心不全治療でのジギタリス剤使用にあたっては,投与量や併用薬剤について微妙な"サジ加減"ともいうべき,きめ細かな配慮が要求され,臨床家としての力量が問われる領域でもある.本稿では,ジギタリス剤使用の実際と注意点の概要を述べる.

ジギタリス中毒のみかたとその対策

著者: 宮下英夫 ,   佐藤友英

ページ範囲:P.1765 - P.1767

はじめに
 ジギタリスは元来,治療域と中毒域との範囲の非常にせまい薬剤の一つであり,個体による反応差が大きく,また他の薬剤との併用により効果の差のある薬物である.たとえば十分な治療効果を得るためには中毒量の50%が投与されるし,中毒時には致死量の60%が投与されていることもある.老人や基礎心疾患の重篤な例では治療域と中毒域との差はさらにせまくなり,中毒を起こしやすくなる.また最近では強力な利尿剤の併用による電解質異常,ことに低K血症,低Mg血症,低Na血症が増したこと,さらに平均寿命の延長による老人の増加によりジギタリス中毒は明らかにふえつつあり,投与例の10〜20%に発生し6),しかもジギタリス中毒の患者の40%は死亡するとの報告もある1)
 ジギタリスを処方する医師は,その適応を知るのみでなく,ジギタリス中毒の早期徴候を熟知することが大切である.ジギタリス中毒に特徴的で,それのみで診断可能な,いわゆるpathognomonicな徴候はないので,患者の臨床症状,ジギタリス不整脈などの発現に注意し,血中濃度を参考にして早期発見につとめ,ジギタリス中毒をきたすことなく有効な治療を行うべきである.

ジギタリス不応性心不全の治療

著者: 中村芳郎 ,   継健

ページ範囲:P.1768 - P.1770

ジギタリス不応性心不全の定義
 字義通り解すれば,ジギタリス剤に反応しない心不全である.しかし,ジギタリスのみで心不全の治療を行うものではないから,ジギタリスだけで心不全が軽快しないからといって,その心不全に特別な意味づけをする必要があるとは考えられない.
 通常の心不全の治療法,すなわち①原疾患の治療,②機械的負荷の減少,③心筋収縮性の増加,を正しく行ったにもかかわらず,軽快しない心不全に対してintractable or reftactory heart failureの名を与えるが,これをジギタリス不応性心不全と同義にとるべきであろう,考えうる,あらゆる治療法を行っても反応しない心不全をrefractory heart failureと呼ぶ場合もあるが,このような心不全にはもはや治療法はない.

利尿剤の使い方

著者: 久保田昌良

ページ範囲:P.1772 - P.1773

はじめに
 うっ血性心不全(CHFと略)とは原因のいかんを問わず,心筋の収縮力が減弱して,生体組織が要求するだけの血液を拍出できないほどのポンプ機能不全(代償不全)を意味するものである.この場合,左心からの心拍出量は減少するが,右心への静脈還流が正常に保たれるならば,当然肺にうっ血が生ずることになる.そしてしだいに静脈還流も悪くなると,心臓性うっ血が各臓器にみられることになる.また,この状態を体液量という見地からみると,心拍出量の減少は腎血流量の減少からGFRを低下させ,生体にNaと水の貯留が生じて循環血液量はいっそう増加する.その結果,代償不全に陥った心筋への負荷はますます大きくなり,悪徳環が生ずることになる.
 そこで,この病態の治療としては,現在3つの方法が考えられている.第1は,不全心筋の収縮力を直接増大させるためにpositive inotropic作用をもつ薬物,たとえばジギタリス剤を用いること,第2は過剰な体液を尿として排出させ,心のpreloadを減少させようとする利尿剤の使用,第3は末梢血管抵抗を減少させて,心のafterloadを減少させようとする試みからの,末梢血管拡張剤の使用である1,2)

2.心原性ショックの薬物治療

β-刺激剤とdopamine

著者: 藤田達士

ページ範囲:P.1774 - P.1775

はじめに
 β-刺激剤を歴史的にみると,図のようなカテコラミン誘導体の順になる.isoproterenolを除き,従用量的にα-作用も出てくる.
 循環系の抑制に対するβ-刺激剤の使用には3つの制約がある.

α刺激剤とα遮断剤のいずれを用いるべきか

著者: 岡田和夫

ページ範囲:P.1776 - P.1777

はじめに
 心疾患(主に心筋梗塞)でショックに陥ると梗塞部位の収縮力が低下し,dyskinesiaも加わり,心拍出量が低下してくる.さらに臨床症状で四肢冷感,蒼白,チアノーゼ,大理石様斑がきて冷汗もみられる.これらは,交感神経系刺激が過剰になっている所見である.末梢血管が収縮して後負荷が増してきて心仕事量が増し,このために心不全が増悪する.カテコールアミンの増加により血管が収縮するが,この度合が臓器で均一でなく,心拍出量の不均等な体内分布が起こっている.このために重要臓器への血流も減少気味になることがある.
 かかる状態でも血圧が下降し,脈が触れず意識も混濁したときに,早急になんらかの手段で血圧を上昇させないと死亡してしまうときにはα刺激剤で血圧上昇をはからざるをえないときもある.最近はdopamineなどのα,β作用のある薬剤も開発され,さらに長期の対策として,intra-aortic balloon pumpingがあるので,ここまでもっていく初療としての意義が考えられる.

DIC,代謝性アシドーシスの対策

著者: 石原昭

ページ範囲:P.1778 - P.1778

はじめに
 汎発性血管内凝固症候群disseminated intravascular coagulation(DIC)の原因となる基礎疾患は多岐にわたり,一概には論ぜられないが,基礎疾患が重篤であり,preshock状態,さらにshock状態を示した場合は,常にこのDICを念頭におき,早期発見,早期治療を開始しなければならない.心原性ショック,とくに心停止をきたしたものは心蘇生後には高率にDICが発生することが報告されている1,2)
 また筆者らの経験では,心原性ショックと代謝性アシドーシスの関係は,心原性ショック以前にはまったく代謝性アシドーシスを示していなかったものと,また代謝性アシドーシスを示していたものとがあり,これも結果としては招来するが,原因とは一概にいえないようである,また心原性ショックのあとの急性腎不全,ショック肺,ARDSや肝障害などはショックによる虚血または低酸素症によるものか,DICによるものかの鑑別は困難な場合が多いので,この両方を考慮しながら常に治療する必要がある.

3.不正拍の治療

発作性不正拍の治療と予防

著者: 真島三郎 ,   高柳寛

ページ範囲:P.1779 - P.1781

はじめに
 発作的に起こる心拍の不整にはいろいろの種類があるが,本稿では頻脈を基調とする発作性心房細(粗)動,発作性頻拍Paroxysmal tachycardiaの場合を扱う.ただしこれらは必ずしも頻脈,脈の不整を伴うとは限らない.

房室ブロックの薬物療法

著者: 杉本恒明

ページ範囲:P.1782 - P.1783

はじめに
 房室ブロックは心房から心室への興奮伝導の低下ないしは途絶した状態であり,心房から房室結節までの間,房室結節内,His束内,His束から両脚にいたる間,あるいは両脚・脚枝のすべて,のいずれに障害があっても起こりうる.ブロックの程度は完全と不完全とに分けられ,これによって生じる症状は無症状のものから,動悸めまい,失神発作(Adams-Stokes症状)やうっ血性心不全にまで及ぶ.原因としては薬物・電解質などの機能的異常,先天性障害,心筋梗塞などの虚血性障害,リウマチ熱などの心筋炎,原発性心筋疾患などがあり,伝導系に原発性に変性・線維化・硬化の進行する例の少なくないことも注目されている.
 房室ブロックの治療に当たっては,症状,ブロックの程度,原因・基礎疾患,ブロックの部位の4点を勘案し,当面の,そしてまた今後進展しうる病態を推測して対処するわけである.対処の仕方は,①経過観察,②薬物療法,③一時的ペースメーカー挿入,④恒久的ペースメーカー植え込み,に大別される.薬物療法は効果の上では限界があるものの,あらゆる場合において,まず緊急に行われる治療であり,この意味では第1選択の治療法である.

外来でみる期外収縮の対策

著者: 春見建一

ページ範囲:P.1784 - P.1785

はじめに
 期外収縮は型premature contractionで表現されるように,正常に期待される時点より前で収縮が起こることをいうので,その収縮の起源の場所から,心房期外収縮,房室接合部期外収縮,心室期外収縮の3つに大別される.
 また洞期外収縮も存在するはずであるが,実地臨床上はあまり問題にならない.心房期外収縮は,心房頻拍,房室接合部頻拍,心房細動,心房粗動を誘発し,心室期外収縮は心室頻拍,心室細動を誘発するので臨床上重要視され,また治療の対象となる.しかし,同じ心室期外収縮でも発生状況,基礎疾患の状態では治療の対象にならないこともあり,また状態により使用薬剤の選択も異なってくる.以下,臨床上重要と思われる心房期外収縮と心室期外収縮について,その治療に関する私見をまとめてみたい.したがって,いくつかの重要な薬剤が記載されていないが,これは筆者自身経験がないためと御了解いただきたいと思う.

4.虚血性心臓病の治療

狭心症の治療と予防

著者: 加藤和三

ページ範囲:P.1786 - P.1788

病態・重症度の診断
 狭心症の治療には,まずそれぞれの症例の病態ないし重症度を十分に把握し,臨床経過,予後の見通しを立てることが必要である.それらにもとづいて治療方針を決め,各例に最適の方法を選ばねばならない.
 狭心症の病態・重症度は病型としてとらえられる.すなわち,主として発作の誘因,症状の強さとその安定性,心電図所見(運動負荷試験を含む),血清酵素活性,白血球数などから次の病型に分けられている.

心筋梗塞急性期の処置

著者: 藤巻忠夫 ,   新谷博一

ページ範囲:P.1789 - P.1791

はじめに
 CCUなどにおいて不整脈の治療はほぼ確立され,一次性不整脈死は減少した.しかしながらショック,重症心不全など循環不全による死亡が減少せず,これに対する治療法の改善が問題となっている.また発症直後入院前に死亡するものがかなり多いことが知られており,入院前の適切な処置が望まれる.本稿においては確立された治療法について簡単に述べる.

心筋梗塞のリハビリテーション

著者: 竹内馬左也

ページ範囲:P.1792 - P.1793

一般的方針
 心筋梗塞では一般に突然に発作に襲われ,運動能力を失ったものが,一定の安静期間ののち,経過が順調ならば徐々に回復するという特徴を有するので,心疾患のなかでも心筋梗塞はリハビリテーションの最もよい対象といえる.
 心筋梗塞の経過は便宜上,急性期,回復期,社会生活への復帰の3段階に分けて考えることができる.急性期とは急性発作後,床上にて治療し,歩行開始までの期間,回復期とは歩行開始より社会復帰までの期間である.急性期においては従来の治療医学がそのまま適用されるが,従来のリハビリテーションを考慮して患者に希望と意欲を促し,精神の安定をはかるとともに,リハビリテーションの目的と意義を十分に理解させることが必要である.昔は心臓病患者の治療には安静のみを長くして心臓に負担をかけないように指導しがちであったが,絶対安静は必要最小限にとどめ,時期をみて,安全な方法で運動量を上げ,再訓練していく.この際には運動能力の評価がとくに重要である.社会復帰後も許容運動量を最大にするよう,ひきつづき訓練する.この時期には第二次予防が問題となる.また医学的リハビリテーションと並行して社会的,職業的リハビリテーションが問題となる.

無痛性冠硬化症に対する薬物療法の是非

著者: 戸山靖一

ページ範囲:P.1794 - P.1795

無痛性冠硬化症とは
 まず無痛性冠硬化症とは一体何をさすかということから論じる必要があろう.この無痛性は,狭心症や心筋梗塞のような症状がないという意味であるが,狭心症の症状は,痛みといった単純なものでなく,痛みを訴えなければ狭心症としないというのは,あまりにも単純な考え方である.したがって,無痛性という表現はむしろ誤解を与える用語であり,無症状性冠硬化症ないしは無症状性虚血性心疾患とよぶほうがよい.
 ところが,無症状性というと,まったく患者が症状を感じないということになり,ここにまた問題が生じる.というのは,無症状というと,まったく症状がないということであり,本人が自覚しないことも含まれている.しかし,こうした患者は集団検診とかドック検査で心電図で発見されるか,心疾患以外の疾患で医師を訪れた場合に限られてくる.

5.高血圧の治療

本態性高血圧に対する降圧剤の選択

著者: 吉永馨

ページ範囲:P.1797 - P.1799

はじめに
 高血圧の治療に当たって,二次性高血圧症を鑑別・除外することが大切である.二次性高血圧症は治療方針が違う.本稿では本態性高血圧症の治療についてのみ述べる.もっとも,慢性腎炎などに伴う高血圧は,二次性高血圧症ではあるが,本態性高血圧症に準じて治療される.
 次に降圧剤の選択を考えることになるが,ここでは外来治療の場合を考えよう.悪性高血圧や心不全を伴う高血圧など,極めて重症なものは入院加療が必要である.また,使う薬剤も特殊なものが多い.限られた誌面ですべてを述べつくすことはできないので,外来治療で繁用される薬剤について述べたいと思う.外来治療で用いる薬剤といっても,現在市販されているものだけでも100種を越えるほど多い.これらを適切に選択し,最大の治療効果をあげることは簡単ではない.

腎実質障害時の高血圧の対策

著者: 越川昭三

ページ範囲:P.1800 - P.1801

はじめに
 腎機能低下や高血圧の程度によって治療法が異なるので,次の4期に分けて述べる.①腎不全を伴わない時期,②腎不全期,③透析期,④悪性高血圧.①は血清クレアチニン(Cr)20mg/dl未満,③はCrが持続的に2.0mg/dl以上,GFR40ml/分を示す場合とする.

III.呼吸器疾患 1.薬剤の適応と使い方

鎮咳剤

著者: 龍華一男 ,   山川育夫

ページ範囲:P.1804 - P.1806

咳の生理と病理
 咳は吸入期(約0.06秒),緊張期(約0.2秒)および呼出期からなる.いきおいが最も強いのは呼出期で,声門が開放されてから約0.03秒後である(中村ら).ヒト気管の断面積は安静呼気時に約1.5cm2あるが,咳のときには膜様部の筋肉が著しく陥入して断面積は0.25cm2(16%)まで狭まる.このときに呼出される気流速度は音速の約85%にまで達する(Berte, J. B.).
 単発する咳よりも連続する咳のほうが,気道の浄化には有効に思われるが,実際には咳にひき続く深吸気時に,異物や気道液を逆に吸引し,肺の末端部に引き込むことがある.

消炎酵素剤

著者: 勝田静知

ページ範囲:P.1808 - P.1809

消炎酵素剤とその種類
 現在臨床的に広く用いられている抗炎症剤はステロイド剤と非ステロイド系抗炎症剤に2大別されるが,消炎酵素剤は後者に属する抗炎症剤の一種であって,抗炎症作用は他の抗炎症剤に比べるとそれほど強くはない.
 消炎酵素剤として現在使用されているものを列挙すると表のごとくである.蛋白分解酵素のほかに多糖体分解酵素があるが,前者には動物性,植物性,微生物由来など酵素起源を異にするいくつかの酵素がある.すなわち,動物性のものとしては,古くから知られているトリプシン,キモトリプシンがある.キモトリプシンはトリプシンに比べると副作用が少ない.植物性としてはプロメラインがある.パイナップルの茎から取れる蛋白分解酵素である.微生物由来としてはプロテアーゼ,プロクターゼ,プロナーゼ,セラチオペプチダーゼ,セミアルカリプロテアーゼ,ストレプトキナーゼなどがある.これらのほとんどは経口投与である.

ステロイド

著者: 可部順三郎

ページ範囲:P.1810 - P.1811

気管支喘息
 適応 死の転帰をとりうるような重症の喘息発作には大量のステロイド剤を躊躇なく使う.中等度の発作では状況の許すかぎり使用しないようにする.発作がステロイドなしでコントロールできるか否かは,その患者の以前の発作の状態でだいたい見当がつくし,感染の有無,チアノーゼ,気管支拡張剤に対する反応性,心循環系の状態などを考慮して判断する.以前ステロイド剤を使用したことがない患者では,発作がかなり重篤でもなるべくステロイドなしできりぬけるよう努力してみる.逆にステロイド使用量が長く,副腎皮質機能不全が認められたり,推測されるような場合は,ステロイドの使用を控えたり,その増量を制限するのは危険である,ステロイド離脱後6ないし9カ月以上副腎皮質機能が回復していない場合が少なくない.このような場合には発作がなくても手術などの時には術前から投与しておく.軽症発作ではステロイド剤を投与しない.しかしそれほど重病でなくても気管支拡張剤などの内服だけでは十分コントロールできず,頻回の注射,吸入を行わざるを得ないような場合とか,比較的少量のステロイドの連日あるいは間歇的使用で十分社会生活に耐えられるような状態が得られる場合,季節性で少量短期間の使用で卓効が期待できる場合,心・循環系の合併症の存在や気管支拡張剤に対する副作用が強くて十分量を使用できない場合などにはステロイド剤の使用を考慮してよい.

2.吸入療法

吸入療法のポイント

著者: 田村昌士 ,   鷲崎誠

ページ範囲:P.1812 - P.1814

はじめに
 吸入療法が呼吸器疾患の治療法の中でも重要な位置を占めるようになっていることは周知の事実である.とくに最近は,取り扱いが簡便で多目的に使用できるIPPB装置の開発改良が進み,薬剤の吸入ばかりでなく,慢性呼吸不全の管理も容易に行えるようになっている.吸入療法は主としてエロゾル吸入療法と酸素吸入療法であり,その目的は,①気道クリーニング,②気管支攣縮の除去,③低酸素血症の改善,④換気効率の改善などである.
 吸入療法の適応となる疾患は,慢性気管支炎,気管支喘息,慢性肺気腫,気管支拡張症,肺線維症そのほか種々の原因による気道・肺感染症などの呼吸器疾患のほか,外科手術前後の気道クリーニングのためにもエロゾル吸入が行われている.

酸素療法の適応と方法

著者: 末次勧

ページ範囲:P.1815 - P.1817

はじめに
 酸素療法とは,治療を目的として大気より高濃度のO2を吸入気に加えて生体に与えることである.

PEEP療法の適応と方法

著者: 大畑正昭

ページ範囲:P.1818 - P.1819

はじめに
 従来より呼吸不全の治療法として用いられてきた酸素療法や調節呼吸,とくに間歌的陽圧調節呼吸(IPPB)は高濃度の酸素による酸素中毒や,長時間同じ圧,同じ換気量でIPPBを行うと,肺胞虚脱によって肺内シャントが増加することが指摘され,濃度の低い酸素で肺胞虚脱を防ぐという考え方から,一時期かえりみられなかった陽圧調節呼吸法が,再びAshbaughらにより終末呼気にのみ陽圧をかける終末呼気陽圧呼吸法(positive end-expiratory pressure,PEEP)として重症呼吸不全に応用され,本邦においてもルーチンに日常臨床に使用されるようになってきた.

3.喘息治療の問題点

気管支喘息発作時の治療

著者: 佐々木孝夫

ページ範囲:P.1820 - P.1822

はじめに
 喘息発作は種々の誘因で起こり,多くの増強因子によって修飾される.すなわち,抗原への曝露,呼吸器感染,物理的・化学的刺激物質の吸入,アスピリンなどの薬剤,さらには運動あるいは心因と多くの因子が発作を誘発し,増強する.発作の治療は,誘因,増強因子の排除は当然として,すでに起こっている気管支筋攣縮,粘膜浮腫,喀痰排出困難に対する対策となり,なかでも,気管支筋攣縮の対策が中心となる.また,カテコールアミン系の治療に抗して発作が継続する喘息発作重積状態に患者が陥らないようにしなければならない.

気管支喘息の減感作療法と変調療法

著者: 信太隆夫

ページ範囲:P.1823 - P.1825

はじめに
 最近,種々の対症療法薬がとくにインタールなどの化学伝達物質遊離抑制剤を中心として開発が進み,いわゆる予防薬として使用されるようになってから,一般変調療法に対する考え方もかなり違ってきた.しかし,なお本療法が種々の問題点をかかえながらも必要とされるのは,より本質的な治療,患者の言を借りれば,原因的治療の要求にある.

重症喘息の治療

著者: 須藤守夫

ページ範囲:P.1826 - P.1828

はじめに
 重症喘息は大発作(重症発作)や頻回の発作を起こす症例であり,ステロイド剤依存・連用,アミノフィリン,アドレナリン耐性などが問題になっている.

喘息サマースクールの実態

著者: 西間三馨

ページ範囲:P.1829 - P.1831

はじめに
 気管支喘息治療の一環としてのサマーキャンプは学童を対象に,近年,さかんに行われるようになり好評である.このキャンプの目的としては次のようなことが考えられる.
 1)喘息児に,喘息で苦しんでいるのは自分一人ではなく,こんなに多くの友達が同じように苦しんでいる,しかし一生懸命にがんばって喘息を克服しようとしているのだということを見させ,いっしょにそれに打ち克とうという気持ちを持たせること.

4.気管支拡張症の治療

気管支拡張症治療の要点

著者: 田中元一

ページ範囲:P.1832 - P.1833

一般的事項
 気管支拡張症は気管支内腔の不可逆性拡張を示すものとして定義されるが,このうちまったく無症状のものに対しては拡張症として取り扱わない場合もあり,またこれらに対しては治療の対象としないのが原則である.
 また本症は次のように分類される.

体位ドレナージの適応とポイント

著者: 福井俊夫

ページ範囲:P.1834 - P.1835

どんなとき体位ドレナージをするか
 体位ドレナージとは以下に述べるようないろいろな体位をとることによって,気管支内に貯留した痰を流出させ,喀出させる治療法で,その対象となる病態は,気道内分泌物が多く,咳による袪痰がうまくできない場合であり,その代表としては気管支拡張症,肺化膿症などがあげられるが,慢性気管支炎,汎細気管支炎,感染を伴う肺気腫などの痰の多い呼吸器疾患のすべてが体位ドレナージの適応となる.

5.呼吸器感染症の治療

抗生物質の選択と使い方

著者: 谷本普一

ページ範囲:P.1836 - P.1839

はじめに
 呼吸器感染症における抗生物質選択の条件として,つぎの5項目があげられる.
 1)原因菌の決定

慢性気管支炎の治療のポイント

著者: 吉田稔

ページ範囲:P.1840 - P.1841

はじめに
 慢性気管支炎は気管支における過剰な分泌を特徴とし,臨床的には慢性,持続性の咳嗽,喀痰を伴う疾患である.これらの症状が,厳密には1年間に3カ月以上でそれが2年以上にわたって反復持続する場合をいうが,咳嗽,喀痰の持続が3カ月以上という点はこだわらず,本邦では2年以上にわたって反復する点を重視する傾向にある.しかも,これらの症状が肺・気管支,上気道の限局性病変,たとえば肺結核症,肺腫瘍,気管支拡張症や,循環器疾患によらないで起こるものである.つまり,本症の診断は疫学的立場に立っての除外診断によりなされる.

肺真菌症の治療のポイント

著者: 渡辺一功 ,   池本秀雄

ページ範囲:P.1842 - P.1843

はじめに
 肺の真菌感染症の臨床診断は困難な場合が多いが,化学療法などを施行するに際しては正確な診断と病態の把握溝要求されることはいうまでもないことである.治療の大要は下記のとおりである1,2)
 1)一般療法:安静,栄養,皮膚・口腔・義歯などの清潔を保ち,全身や局所の抵抗力の増進をはかる.

かぜ症候群の治療

著者: 加地正郎

ページ範囲:P.1844 - P.1845

かぜ症候群の診断
 治療開始に先立って,正確な診断が要求されることは,すべての疾患を通じていえることであるが,かぜ症候群(かぜと略)では特徴的な症状,所見に乏しいため,他の疾患を除外してのち初めてかぜの診断を下す態度で臨むべきである.かぜが日常診療上あまりにも普遍的であるため,"かぜ症状"があればとかく安易にかぜとする傾向がみられる.しかし,実際には"かぜ症状"を呈してくるかぜ以外の疾患,しかもそれぞれに的確な早期治療を要求される疾患は数多い.
 したがって,高熱を呈する症例では主として急性熱性疾患との鑑別が,呼吸器症状,とくに咳,痰などの下気道症状が強い症例では,肺結核,胸膜炎,肺化膿症その他の呼吸器疾患との鑑別が問題となる.

肺炎に対する抗生物質の使い方

著者: 荻間勇

ページ範囲:P.1846 - P.1847

はじめに
 肺炎は,現在なお,すべての感染症,呼吸器疾患の中で中心的地位を占めており,したがってこれを早期に,かつ正しく診断し,治療するごとの重要性は今さら強調の必要もないであろう.
 肺炎治療の中心をなすのは抗生剤療法であるが,これを実施するにあたり,いくつかの考慮すべき点がある.

6.現代における肺結核

外来治療のポイントと生活指導

著者: 青柳昭雄

ページ範囲:P.1848 - P.1849

はじめに
 すぐれた抗結核薬が数多く登場して以来,肺結核症の治療は比較的容易になり,初回治療患者であれば病状が超重症であるか,副作用のため有力な抗結核薬が使用し得ないか,初回耐性などの症例を除けば治療6カ月似内に100%喀痰中結核菌は陰性化し,1カ月以内に約30%以上の症例が培養陰性化することが知られている.
 したがって,現在肺結核治療の主流は化学療法であり,抗結核薬出現までに結核に対する重要な治療法であった大気,安静,栄養などの一般療法の価値は減少している.

重症再治療患者の治療

著者: 岡安大仁 ,   児島克美

ページ範囲:P.1850 - P.1851

重症再治療患者とは
 重症肺結核とは,一般に病巣を両側広範に有する有症状者で,多くの場合排菌がある.このような重症例ではあっても,今日の進歩した抗結核剤を用いると,初回治療例ではかなりの効果が期待しうるので,重症肺結核は必ずしも難治肺結核とはいえない.この点,重症肺結核と難治肺結核とは区別しておく必要がある.
 再治療患者とは,化学療法の後,ある期間の無治療を経た後に再び化学療法を行う患者の場合をいうが,過去の化学療法期間や無治療の期間などについての一定の基準があるわけではない.しかし,常識的には,それぞれ1カ月以上の期間と考えてよいであろう.さて,初回治療と再治療とでは,その治療効果にかなりの差が生じうることは,病巣の陳旧化と再燃,既使用薬剤の感受性の低下などから当然理解しうることである.そこで,重症再治療例は,重症初回治療例に比較して,難治肺結核である可能性が大きいことも容易に推測しうる.とくに,RFP,EBなどの強力な二次抗結核剤の開発される以前では重症再治療例におけるこの傾向は強かったといえる.この点で,RFP,EB未使用の再治療患者と既使用のそれとでは,その治療効果にはかなりの差が生じうることとなる.

7.呼吸不全の治療と管理

急性呼吸不全

著者: 木村謙太郎

ページ範囲:P.1852 - P.1854

はじめに
 急性呼吸不全の定義は今日なお完全とはいえない.しかもその背景となる疾患は多様で,本病態の治療と管理を十分に概念の確立したentityにおけるごとく一義的に解説するには,いささかためらいを感じる.しかし,臨床の場面でしばしば出あう「数時間から数日間の経過中に,広義の呼吸器系を中心とする種々の病的過程に由来する血液ガス組成の異常により,生活機能が著しく障害された病態」と仮に定義してみると,基本的な治療と管理の原則を記述することは不可能ではない.すなわち,本稿では,「ガス交換障害の結果としての血液ガス組成の悪化(Pao2,Sao2の低下,Paco2の上昇)による急性危険症」としての急性呼吸不全に対する原則的対応について述べる.

慢性呼吸不全

著者: 徳田良一

ページ範囲:P.1855 - P.1859

はじめに
 慢性呼吸不全患者は,最近は肺結核に代わり,慢性閉塞性肺疾患,肺線維症,肺癌末期患者,慢性神経筋肉疾患などにみられるようになってきた.慢性呼吸不全は徐々に進行する.慢性の右心不全や多血症が存在するときは,慢性の低酸素血症や炭酸ガス蓄積を伴うようになる.このようなことから慢性呼吸不全の出現が疑われる.慢性呼吸不全は,肺機能障害の結果,動脈血中O2やCO2レベルを長期間正常に保つことができない状態(O2分圧75mmHg以下,CO2分圧47mmHg以上)をいう1).呼吸不全の確診には,動脈血ガス分析を行い,O2分圧,CO2分圧およびpHを測定することである.慢性呼吸不全の治療方針は,①呼吸仕事量の減少,②肺胞換気量の増大,③運動耐容量の改善,④急性増悪の予防,などである2)

肺洗浄療法

著者: 吉良枝郎 ,   飯島福生 ,   松岡緑郎

ページ範囲:P.1860 - P.1861

肺洗浄療法の適応
 慢性の閉塞性病変の存在,胸郭・腹部の手術,また筋萎縮性側索硬化症などで代表される筋・神経疾患の存在により,経気道性の加湿,抗生物質の投与,ステロイド剤を含めた気道拡張剤の投与,喀痰融解剤の十分な使用,postual drainageなどの理学療法の内科的治療を十分に行っても,気道内に増加した喀痰を十分に排除しえない状態,さらに肺胞蛋白症の場合のようにもともと気道系を介して除去しにくい物質が,びまん性に肺胞内に充填している場合に遭遇したとき,積極的にこれらを排除しなければPaO2の低下,ときにはPaCO2の上昇を伴った患者の呼吸不全状態を治療・管理することは困難となる.
 この場合,まず第1に行われる対策は気管カテーテルを挿入し,これを介してカニューレで分泌物を非直視下に吸引するか,ファイバー気管支鏡を挿入しての直視下での気道内分泌物の吸引であろう.いずれが優先されるかはその施設の設備のいかんに左右されるが,近年ファイバー気管支鏡の呼吸管理への導入が一般化している.いずれの場合も気道内に付加される機械的刺激が咳嗽反射を誘発し,末梢気管支領域を充填する分泌物がcough upされ,気管支鏡の非可視領域の末梢気道系内の分泌物の排除にも有効である.

呼吸不全のリハビリテーション

著者: 芳賀敏彦

ページ範囲:P.1862 - P.1863

はじめに
 呼吸に対するリハビリテーションというと,肺理学療法の代わりに用いられるきらいがあるが,そうではなく,もっと総合的なものである.すなわち呼吸不全という状態にある患者の一方では機能の改善を試み,一方では残された機能で最大の生活が可能なようにする一連の医療行為である.

8.その他の肺疾患の治療

慢性肺気腫の治療と管理

著者: 小野寺壮吉 ,   佐々木信博

ページ範囲:P.1864 - P.1865

はじめに
 慢性肺気腫はWHOの定義では「呼吸気管支梢壁または肺胞壁の破壊を伴うことによって特徴づけられる細気管支より末梢の含気空間の異常な増加」とされている.破壊された肺胞を修復することはできないので,肺気腫の治療の重点は,第1に合併する気管支炎,細気管支炎の治療と気道の清浄化によって,肺気腫の他の部位への進展を防止することであり,第2に肺理学療法などによって,残存する健常肺の機能を十分に活かすことにある.

自然気胸

著者: 於保健吉 ,   新妻雅行

ページ範囲:P.1866 - P.1868

はじめに
 自然気胸は近年増加の傾向にあり,大都市およびその周辺部にとくに著しいことから,大気汚染と本症との因果関係を指摘する報告もあるが,それよりも若年者に多いことから,気管支肺胞系の発育障害を考えねばならない.従来,特発性といわれていた自然気胸のほとんどが肺胞性嚢胞(気腫性嚢胞)の胸膜腔への破裂によって生ずることが明らかになってきた.治療法は安静を主体とする保存的療法から,気胸器あるいは注射器による穿刺脱気,胸腔ドレナージによる持続吸引,胸腔鏡下接着剤噴霧,開胸手術があるが,これらの各段階の治療法に対する適応についての考え方も各施設によって差異がみられる.本稿では筆者らの教室で行っている自然気胸治療のポイントを中心に,その概要について述べる.

肺癌に対する化学療法

著者: 西村穰

ページ範囲:P.1869 - P.1871

はじめに
 肺癌に対する化学療法は多剤併用,間歇投与を中心として行われている.薬剤の併用に際しての考え方としては,組み入れられる薬剤それぞれが対象とする腫瘍に対し有効であること,それぞれの副作用が異なることにより副作用の分散が行われること,また併用による相乗効果が期待されることが望ましい条件となっている.また肺癌は組織型によって薬剤に対する感受性も異なるから,組織型に従って併用方法を選択する必要がある.現在,細胞診の進歩により容易にその組織型が推定できるから,これはどこででも可能である.
 以下,筆者らが日常用いている方法を中心に,肺癌に対する化学療法の方法およびその適用について述べる.

IV.消化管疾患 1.薬物療法のポイント

抗コリン剤最近の動向

著者: 市岡四象

ページ範囲:P.1874 - P.1875

はじめに
 医療は古くから"痛みに始まり痛みに終わる"といわれている.
 臭化メタンテリン(Robinson,Cusie 1950)に始まる一連の合成抗コリン剤(抗コリン作動剤)の出現は,疼痛を主訴とする腹部疾患の診療に画期的な進歩をもたらした,とくに近年開発された抗コリン剤は,本剤特有の副作用,視力障害,排尿困難,心悸亢進などがかなり軽減され,疼痛,蠕動運動,胃液分泌抑制作用が強力であるという利点をもっている.

制酸剤

著者: 岡崎幸紀

ページ範囲:P.1876 - P.1877

はじめに
 制酸剤は,胃液の酸を中和し,また,その結果としてペプシンを不活性化することはよく知られている.Sippy療法以来,制酸剤は消化性潰瘍の代表的な治療薬として教科書にも常にトップにあげられている.ところが,現実には,消化性潰瘍の治療には,抗コリン剤を中心とした合剤が用いられることが多く,制酸剤は配合剤としてのみ用いられる傾向がある.ここで,もう一度,制酸剤の特徴とその効果的な使用法について考えてみよう.

精神安定剤

著者: 河野友信

ページ範囲:P.1878 - P.1880

はじめに
 消化管の機能は情動の影響を受けやすく,消化器病患者には心身相関の病態を示すものや精神的な愁訴をもつものが少なくない.
 管理職にみられる胃十二指腸潰瘍はマネージャー病と,過敏性大腸症候群は文明病ともいわれ,ともに消化器系のストレス病の典型とみなされている.この他の消化管疾患にも精神安定剤を必要とする病態を示す症例は多くみられる.むしろ現代のストレス社会における消化管疾患にはすべてなんらかのトランキライザーが必要とすら考えられる.

消化酵素剤

著者: 松尾裕

ページ範囲:P.1882 - P.1883

消化管疾患における消化酵素剤の適応
 消化酵素剤が治療として必要なのは,胃液,膵液,および腸液などの消化液分泌低下ないし欠如に基づく相対的絶対的消化不全に対してであり,したがって代償療法である.厳密にいえば,消化液分泌低下に基づく二次性のmalabsorption syndrome(吸収不良症候群)が絶対的適応といえる.しかし,実際には明らかな消化吸収障害はなくても,各種の消化器疾患に伴う消化器系愁訴を消化液の相対的分泌不全と考えて,一種の対症療法として用いることが多い(表).
 代償療法 わが国で多くみられる消化液分泌低下と関係のある二次性malabsorption syndromeをあげると,つぎのごとくである.

2.問題となる薬剤の適応と注意

抗生物質

著者: 大貫寿衛

ページ範囲:P.1884 - P.1885

適応症
 感染性腸炎 内科的消化管疾患で抗生剤による化学療法を行うものの大部分を占める.病原によって病像が異なり,また抗生剤の選択も多少違うが,考慮に入れるべき病原菌としては,①赤痢菌,②コレラ菌,③サルモネラ,④腸炎ビブリオ,⑤病原大腸菌⑥Yersinia,⑦Welch菌,ブドウ球菌その他,などがある.Virus性の下痢症は抗生剤療法の適応とならないので省略する.
 腸結核 腸結核も腸管の感染症であるが,結核症という全身疾患の部分現象であり,一般に感染性腸炎という場合は急性の腸管の感染症を意味することが多い.

抗炎症剤

著者: 平山洋二 ,   丹羽寛文

ページ範囲:P.1886 - P.1887

はじめに
 抗炎症剤のうち,副腎皮質ステロイドについては別項に記載があるので,ここでは非ステロイド抗炎症剤(以下単に抗炎症剤と記す)について述べる.抗炎症剤には鎮痛,解熱作用があり,広く用いられているが,ことにアスピリンは家庭常備薬ともなるほどに普及している.また,慢性関節リウマチに対しても抗炎症剤は多用されており,この場合その投与期間は長期に及ぶのが通常である.抗炎症剤は,一般に安全な副作用の少ない薬剤として安易に用いられているむきがあるが,実際にはその副作用は多岐にわたり,消化管,皮膚,肝,腎,骨髄,中枢神経などの障害が認められている.ことに長期使用の場合はその頻度も多くなる.これら副作用のうち最も一般的なものは消化管障害であり,各薬剤とも不定の胃症状をきたし,また,既存の消化性潰瘍の悪化をみるなどしばしば問題となっている.抗炎症剤による胃障害は,主として胃壁に直接作用して粘膜障害を起こすものであるが,坐薬のような剤型のものでも,吸収されたのち血行性に胃を障害する場合もある.
 抗炎症剤による胃腸障害は動物実験でも明らかにされており,ラットではアスピリンによって慢性潰瘍の悪化をみ,また,インドメサシン,フェニルブタゾンの常用量で胃および小腸に急性潰瘍の発生と,同時に出血や穿孔をきたしたという報告もある.

ステロイド

著者: 笹川力 ,   木村明

ページ範囲:P.1888 - P.1890

ステロイドの適応
 消化管疾患でステロイドを使用するものは,①潰瘍性大腸炎,②クローン病,③アレルギー性胃腸炎,④腸リンパ管拡張症などであるが,また⑤ウィップル病,⑥無γグロブリン血症でも抗生剤と併用して用いられる.

3.患者に応じた投薬のコツ

潰瘍患者

著者: 上野恒太郎 ,   片岡茂樹

ページ範囲:P.1891 - P.1893

薬物療法を考える前に
 消化性潰瘍は,"no acid,no ulcer"といわれるように,胃液が存在するどこの粘膜にでも発生する潰瘍であり発生機序については粘膜に対する攻撃因子と粘膜側の防禦因子の双方の均衡の破綻によるというShay(1961)の考え方が基本になっている.攻撃因子の増大とは,ガストリンまたは迷走神経を介しての胃液分泌の亢進や胆汁の胃内逆流などであり,防禦因子の減弱としては,粘膜の抵抗性(gastric mucosal barrier)や粘膜血流の低下あるいはセクレチン,CCK-PZ,GIPなどの十二指腸粘膜産生ホルモンによる腸性の胃液分泌抑制機能の低下などがあげられている.十二指腸潰瘍の場合は,過酸が特徴的であり,粘膜抵抗性の低下よりも攻撃因子の増加した状態が考えられるので,治療は胃液分泌の抑制と分泌された胃酸の中和に重点がおかれる.これに対し胃潰瘍の場合は過酸は必ずしも多くなく,正酸や低酸の患者も少なくないので,攻撃因子の増加よりも防禦因子の低下した状態が考えられ,治療も胃液中の酸の中和と粘膜の保護に重点がおかれる.
 消化性潰瘍のなかには,投薬治療を受けないでも,安静だけで自然治癒する例があることはしばしば経験することであるが,患者を精神的肉体的なストレスから解放して安静を得させることと適正な食事計画の下におくことは,薬物治療の効果を上げるためにも極めて大切なことである.

下痢患者

著者: 川上澄 ,   斉藤吉春

ページ範囲:P.1894 - P.1896

はじめに
 下痢患者は一般に頻回の排便を訴えるが,下痢とはこのような排便回数の増加とは別に,糞便の性状から水分の含有量が75%以上に増加して,糞便が形を失った状態と定義される.そして,その程度によって,軟便,泥状便,水様便などに分類される.
 ところで下痢は,腸疾患の際に最も多くあらわれるが,その他の消化器疾患,内分泌疾患,代謝疾患あるいは循環器疾患など,多くの原因疾患によってもあらわれる1)

便秘患者

著者: 増田久之

ページ範囲:P.1897 - P.1899

はじめに
 便通異常,ことに便秘を訴える患者はきわめて多いが,消化器疾患の患者に限られることなく,循環器系,呼吸器系,神経系,泌尿器系ならびに内分泌系の患者あるいは感染症,血液疾患などの内科系患者に広くみられるばかりでなく,外科,産婦人科,精神科,皮膚科,耳鼻咽喉科,眼科などの各科領域の患者にみられる.このため便秘の原因はきわめて多岐にわたり,その治療法も複雑である.
 したがって,便秘患者を対象として,患者に応じた投薬のコツを考えるには,便秘の根本問題,定義,排便機構,発生機序,下剤などについて考察を加え,さらに便秘を臨床的に分類し,それぞれについて治療法を検討することにしたい.

妊婦の消化器症状

著者: 名尾良憲

ページ範囲:P.1900 - P.1901

はじめに
 妊婦における消化器症状は,しばしばみられるが,その原因を2大別することができる.
 妊娠に直接的に関係するものとしては,妊娠悪阻にもとづく食欲不振,嘔気,嘔吐が代表的なものである.また妊娠後半期においては妊娠子宮の圧迫によって,腹部膨満感,便秘などが起こる.

4.食事療法のコツと注意

胃潰瘍

著者: 早川滉 ,   武井信介

ページ範囲:P.1903 - P.1905

胃潰瘍の治療
 胃・十二指腸潰瘍の病因については未だ十分に解明されていない現状であり,現在行われている治療は原因療法よりもむしろ対症療法に近いものである.治療方針は心身の安静と生活指導,薬物および食事療法が中心であり,この目的のためには,できるだけ入院治療がのぞましい.消化性潰瘍の薬物療法は抗コリン剤,抗ペプシン剤,抗ガストリン剤など多くの種類が開発され利用されているが,その治癒率,治癒期間などは従来の薬剤に比べてすぐれているとはいえず,食事療法の占める位置は依然として大きい.とくに再発再燃の頻度が高い本症では再発防止のはっきりした方法のない今日,薬物療法とともに生活指導の一環として食事療法の指導を十分に行う必要があると考えられる.

十二指腸潰瘍—成人

著者: 福地創太郎

ページ範囲:P.1906 - P.1907

消化性潰瘍の食事療法の基本
 胃・十二指腸潰瘍は,胃液中の酸およびペプシンによる胃壁の自己消化により発生するものと信じられているが,とくに十二指腸潰瘍では迷走神経緊張亢進により,胃液基礎分泌が亢進するばかりでなく,食事性刺激によるガストリンを介する体液性の胃液分泌が亢進している.したがって,消化性潰瘍の食事療法の基本としては,古くから攻撃因子としての胃液の分泌を促進せず,防御因手としての粘膜を庇護し,潰瘍の治癒を促進するような食事が必要と考えられ,牛乳やクリームと制酸剤を1時間ごとに頻回投与するSippy療法や,器械的ないし化学的刺激により,胃液分泌を促進する食品を避ける厳格な食事療法が唱道されてきた.
 実際に種々の食品成分を摂取した際の胃内pHの変動をpHテレメーターを使用したラジオカプセルで測定すると,図1のように炭水化物食品であるくず湯や脂肪食品であるバターでは,服用後,十数分から30分にかけて胃酸が稀釈されて,わずかにpHの上昇がみられたのち,旧値に復するが,動物性蛋白質として,肉汁エキスを投与すると,図2のように服用後約30分間は胃酸は蛋白質により中和緩衝されて,胃内pHは明らかに上昇し,その後,ガストリンを介する酸分泌の影響を受けて,胃内pHは食前値以下に低下する.

十二指腸潰瘍—小児

著者: 北山徹

ページ範囲:P.1908 - P.1909

はじめに
 近年,小児の消化性潰瘍は増加の傾向があるといわれ,その報告数も増えていて,子どもの現代病の一つとしても注目されている1〜4).これは診断技術の向上によることもあろうが,近代社会における変貌,とくにストレスの増加(学習塾通いなど)のほか,副腎ステロイド剤,サルチル酸療法などの医原病としての増加も考慮する必要があるといわれている.
 小児期の消化性潰瘍の特徴としては,十二指腸に多く発生し,年長児になると成人のような慢性型もみられるが,しばしば発症が急激で頻回の嘔吐,大量吐血,穿孔,ショックなどで発病することが稀ではないことなどである.しかし,自然治癒傾向も強く,ふつう3〜4週間の治療で治癒することが多い,さらに治療面では,本症発生に諸々の因子が複雑に関与していることから全体医学的な加療が望まれる.緊急時を除き内科的治療でよいが,その重要なウエイトを占める食餌療法も小児期の食事の特性をよく理解しての適切な指示が必要となる.

十二指腸潰瘍—老人

著者: 紀健二 ,   深沢俊男

ページ範囲:P.1910 - P.1911

はじめに
 老人の十二指腸潰瘍は,従来より若年者に比べ頻度の少ないものとされていたが,最近高齢化しつつある人口とともに,老人福祉がゆきわたり,老人の病院受診率が高まり,また老人に対して内視鏡検査も安全に行えるようになったため,われわれの日常診療で老人の消化性潰瘍を診る機会は増加している.老人の消化性潰瘍の主体をなすものは胃潰瘍であるが,ときどき十二指腸潰蕩にも遭遇するので,注意が必要である.このように十二指腸潰瘍を診る機会が増加した理由として,核家族化しつつある社会の中で老人の生活環境が昔と変わり,常に社会的ストレスにさらされる機会が増えたこともその一因としてあげられると思われる.
 老人における十二指腸潰瘍の病態は臨床症状のあらわれ方,頻度など若年者と若干趣を異にし,診断や食事療法,薬物療法の治療においても老年者として特別な配慮が必要であると思われる.以下,筆者らが都立養育院付属病院で経験した老人の十二指腸潰瘍の病態と治療,とくに食事療法を行う際の注意点を中心に述べてみたい.

下痢

著者: 渡辺晃

ページ範囲:P.1912 - P.1913

急性下痢の食事
 比較的短時日で回復するから栄養補給を急ぐ必要はない.初期には厳重な食事制限を行い,症状の激しい最初の1日ぐらいは絶食とする.この際,下痢で水分が失われるので,湯ざまし,薄い番茶や麦茶,薄い紅茶などを十分に与えて脱水を防ぐ.悪心・嘔吐があって経口的に水分の補給ができないときは,ブドウ糖液,生理食塩水を静注する.翌日頃からおも湯,くず湯,砂糖湯,ブドウ糖液などの流動食および野菜スープを与える.ついで便通の状態を考えあわせながら次第に制限をゆるめ,5分粥から全粥,うどん,ウェファース,ビスケット,プリン,バターをごく薄く塗ったトーストなどに移っていく.副食としては半熟卵や茶碗蒸しの卵,豆腐,脂肪の少ない白身の魚(ひらめ,かれい,さわら),鶏のささ身,焼麩,はんぺん,よく煮たにんじん,裏ごししたじゃがいもやほうれんそうを与える.原則として線維・脂肪の少ないもので,薄味に煮たものを用いる.症状が悪化しなければ早めに普通食に戻してよいが,はじめは少量ずつ頻回に与えたほうがよい.
 一般に生野菜,生の果物は線維が多いので避けるようにする.しかし,果物でもよく熟して酸味がなく線維に乏しいバナナやりんごはよく,とくにりんごをすりおろして与えると下痢が止まることが多い.脂肪の多い牛肉や豚肉,うなぎ,天ぷら,中華料理などは避けるようにする.牛乳は与えてもよいが,牛乳不耐症のあるものでは下痢を助長するので注意が必要である.

絶食療法—高カロリー輸液

著者: 岡田正

ページ範囲:P.1914 - P.1916

はじめに
 われわれが日常経験する疾患のうちには,摂取された食物が病巣を刺激し,病状のいっそうの悪化をきたしているものがある.このような疾患に対して一定期間絶食とし,食餌による病巣刺激を断つことは極めて合理的な治療法といえる.従来このような「絶食療法」は種々の消化器疾患に対して用いられ,その効果は広く認められている.しかしながら,この療法も治療期間の点では著しい制限があり,この間の栄養補給がなんらかの方法でなされないと患者は次第にるいそうをきたし,治癒を期待しうるどころか逆に症状のいっそうの悪化さえきたすことも稀ならず経験されてきたのである.このようないわば「絶食療法の限界」に対して新しいアプローチとして挑戦しつつあるのが高カロリー輸液療法である.
 高カロリー輸液法は衆知のごとく,上大静脈内に留置したカテーテルを通じて高張グルコース・アミノ酸混合液に主なる電解質類ビタミン類などを混合し,これを持続投与する方法である.本輸液法は米国のDudrickら1)の努力により最近10年間に長足の進歩を遂げ,次第に安全確実な治療手段として認められるに至った.当初は経口摂取の不能な患者に対する唯一の栄養維持手段として試みられてきた本輸液法も適応の幅が広げられ,種種のバラエティーに富んだ病態に対して応用がなされている.

5.内視鏡による治療法

内視鏡的止血

著者: 岩崎有良

ページ範囲:P.1917 - P.1919

はじめに
 吐血および下血を主訴とする消化管出血に対して,より早期に緊急内視鏡検査を施行することの重要性についてはいうまでもない.緊急内視鏡検査の定義については各施設により異なり,一定の見解を持たないが,時間的要素のみからいうと出血後24時間以内とする施設が多いようである.
 第11回日本消化器内視鏡学会秋季大会においてのシンポジウム「内視鏡下における治療の試み」の中で,内視鏡的緊急止血法についての討論がなされて以来,吐下血中の患者に対して緊急内視鏡検査を行う場合には,出血源の確認はもとより,内視鏡的止血を多くの症例で試みるようになってきており,かなりの効果をあげている.

消化管異物の内視鏡的摘出法

著者: 林貴雄

ページ範囲:P.1920 - P.1922

はじめに
 ファイバースコープの発達により,内視鏡は診断を目的としたいわゆる「検査」のみならず,内視鏡による処置へと大きく発展し,その一つとして,ファイバースコープによる異物摘出が行われるようになった.食道および胃などの上部消化管異物は,気管や気管支の異物のように気道閉塞を起こすケースは少ない.しかし,嚥下障害,異物感,疼痛などの症状があらわれ,ときには出血,呼吸困難が生じ緊急内視鏡の必要に迫まられる場合もある.
 口からの異物は多くが誤って飲み込んでしまったケースがほとんであるが,中には自殺目的や精神異常者が常識では考えられない物(爪切り,ボールペン,ピンセット,ゴムチューブなど)を飲み込んだケースも経験している.魚の骨,ピンなどが食道に刺さった場合は別として,消化管異物はほとんどが胃に落ちているが,食道に引っかかった場合はそれより下部の食道に狭窄(食道癌)などがあるものと考えねばならない.

上部消化管ポリペクトミー

著者: 大澤仁 ,   高橋正憲 ,   藤田力也

ページ範囲:P.1923 - P.1925

はじめに
 上部消化管における内視鏡的ポリペクトミーは,近年各医療機関でさかんに行われるようになった.
 第20回日本消化器内視鏡学会総会においても,ラウンドテーブルディスカッション-治療内視鏡学の中で,その研究成果が討論され注目を集めた.しかし,その討論でも明らかなように,ポリペクトミーの適応や切断機序の解明などについては若干の問題を残しており,レーザー光線の実用化などとともに,今後の研究が待たれる.

下部消化管ポリペクトミー

著者: 田島強

ページ範囲:P.1926 - P.1927

はじめに
 大腸ポリープの内視鏡的ポリペクトミーの意義については,改めて論ずるまでもなかろう.本法は,大腸早期癌の診断のみならず治療にも大きく貢献している.しかし,その適応はあくまでも有茎性ないしは亜有茎性ポリープにとどまり,広基性ないしは大きな無茎性ポリープ,粘膜下腫瘤などには本法は禁忌である.また,内視鏡的に明らかに癌と診断されるものは,原則として適応でない.

内視鏡的乳頭括約筋切開術

著者: 小野美貴子 ,   相馬智

ページ範囲:P.1928 - P.1931

はじめに
 内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphinctero-papillotomy)は,遺残胆道結石に対する内視鏡的治療法として1973年,川井1,2),Classen3),相馬4〜6)の三者によって各々独自に開発された方法である.遺残胆道結石の治療法として従来確立されてきた内視鏡の応用法は外胆汁瘻が存在することが前提となっており,外胆汁瘻のすでに閉鎖している症例では,観血的方法によらざるを得なかった.しかし,ここで述べる方法は外胆汁瘻のない症例にも非観血的に行える方法であるため,多くの関心を集めており,世界中から症例報告が相次いでいる.ちなみに1977年までの欧州における症例数(表1)と,1978年4月までの日本における症例数(表2)とを示す.

内視鏡による胃・十二指腸潰瘍の局所注射療法

著者: 並木正義

ページ範囲:P.1932 - P.1934

胃潰瘍の局所注射療法(局注法)
 局注法のねらい 治りにくい潰瘍というものは,局所的にみて,その治癒過程に歪みが生じている場合が多い,何度も再発をくり返している潰瘍など,肉芽層の深部の胼胝組織は硬化し,弾力性を失い収縮する余裕さえなくなっている.このように潰瘍の辺縁や潰瘍底が線維化fibrosisをきたし,硬くなれば,いくら潰瘍治療剤を飲んだところで,潰瘍は縮小しようにも縮小できないであろう.それならば局所に何か薬を注射(注入)して,このfibrosisをとり除き,柔らかくしてやれば縮小への方向に向かうのではないか,つまり旧い潰瘍をいったん新しい潰瘍にし,そこへさらに肉芽形式を促進するような薬を注射すれば良好な治癒経過をとるのではなかろうかと考えたわけである.

6.心身医学的アプローチ

神経性胃炎

著者: 佐藤義雄

ページ範囲:P.1935 - P.1937

神経性胃炎とは
 神経的な胃症候群の病態である神経性胃炎という用語は,日常の診療における消化器症状のアプローチに際して,過敏性大腸症候群とならんでしばしば用いられている.しかし,過敏性大腸症候群はすでに一つの確固たる疾患単位であるけれども,神経性胃炎についてはまだ一般に通ずる疾病概念が確立されておらず,これを使う人によってその意味はかなり異なってくる.
 現今,諸家によって用いられている神経性胃炎は包括的な表現であって,その基調となる考え方には,機能的胃症状を主徴とする各種の病態を心身症として取り扱おうとする志向があることは事実である.

ストレス潰瘍

著者: 阿部政直

ページ範囲:P.1938 - P.1939

はじめに
 胃・十二指腸潰瘍は古くから心身症の代表的疾患とされているが,これは潰瘍の成因や再発再然の因子が単純なものでなく,いろいろ複雑な因子がからみ合っていると考えられるために,胃・十二指腸潰瘍を単に局所疾患としてのみとらえるのではなく,むしろ全身的疾患として心身両面から扱うべきであるという心身医学的な見地よりの解釈であり,このことは今日すでに常識となりつつある.一方,従来より潰瘍の再発や再然に関して精神的ストレスが関与している例が多いということはいうまでもないが,最近精神的ストレスが原因となって発生したと考えられる急性潰瘍性病変が注目されてきており,多方面からの検討が行われている.そこでまず一般的なストレス潰瘍の概念について少し述べてみる.

過敏性大腸症候群

著者: 渡辺豊 ,   長尾房大

ページ範囲:P.1940 - P.1941

はじめに
 心因性疾患は最近多くの人に注目されるようになってきたが,なかでも過敏性大腸症候群は消化器系における心因性疾患として重要であり,また手術と関連のあるものが多く,外科の側からみても無視できない大切な疾患である.また,筆者らは純粋に内科的な過敏性大腸症候群の患者の経験は少ないので,外科としての立場から本症候群について述べることにしたい.

神経性下痢

著者: 中川哲也

ページ範囲:P.1942 - P.1943

はじめに
 過敏性大腸症候群のうち,下痢症状を主体とするものが神経性下痢(nervous diarrhea)である.神経性下痢では,腸管の運動機能亢進にもとづいて,持続的または間歇的に下痢を呈する.一般に青壮年者の男子に多く,しばしば精神的な不安緊張によって病状が,誘発されやすい.

神経性食欲不振症

著者: 桂戴作

ページ範囲:P.1944 - P.1945

概念と症状
 神経性食欲不振症は思春期女子に多い疾患で,食欲不振,やせ,無月経を主症状とする.1968年にLasegueはapepsia hystericaと名づけ,1874年には,Guli, W. W. がAnorexia nervosaと名づけ,今日では,後者が一般に使われるようになった1).本疾患はこのほか,やせが著しいにもかかわらず病識がなく,活動性が高いなど特異な性状を呈している.
 この病因については,食欲中枢の存在する間脳の機能異常,あるいは脳下垂体を中心とした全身の内分泌機能の異常など,身体機能失調を主張する立場と,心因の意義を強調し,精神的・心理的な要因を病因と考える立場とにわかれているが,現在では,心理面での要因がまずあって,身体面での変化は二次的なものであろうとする考えが支配的である2)

7.消化管手術後の対策と管理

ダンピング症候群の管理

著者: 平塚秀雄

ページ範囲:P.1946 - P.1947

はじめに
 ダンピング症候群は胃切除患者の10〜20%に生ずると考えられているが,その病態は複雑であって完全に理解されていない.1922年Mixは初めてdumping stomachと命名し,胃切除後に食物が吻合部から急速に墜落様に排出するために起こる愁訴と考えられていた.しかし胃切除以外でも,胃腸吻合術あるいは空腸中に濃厚液をゾンデで注入しただけでも起こるため,急速排出のみによるものでないことが明らかとなった.その後AdlersbergおよびHammershlag(1947)はダンピング症候群には食後早期に起こってくる早期食後症状early postprandial dumping syndromeと,食後数時間してから起こる後期食後症状late postprandial dumping syndromeとがあり,前者は食物の急速排出が原因であり,後者は食後急速に上昇した血糖がインスリン過剰分泌により反動的に下降する低血糖が原因であると述べている.現在一般には,ダンピング症候群というと早期症状を意味し,後期症状late postprandial hypoglycemiaはダンピング症候群から除外されている.

胃切除後の対策と管理

著者: 竹添和英

ページ範囲:P.1949 - P.1952

はじめに
 術後の対策,管理のポイントは,手術のみでなく患者の術前の全身的ならびに局所的条件によって比重が異なってくる.したがって,術前に原疾患およびそれによってもたらされた病態をよく把握しておくべきことはもちろん,その他の主要臓器の機能異常の有無について十分な検査がなされていなければならない.しかし救急手術例では,局所ならびに全身状態に関する情報不足のまま手術に着手せざるをえないので,術中から術後に精力的な対応が要求されることになる.胃切除後の対策と管理ははなはだしく多岐にわたっており,誌面に限りのある本稿ではそのすべてを記述することは到底不可能であるので,主として胃切除後早期から中期(手術直後から約1カ月ぐらい)にかけての局所的な合併症に対する対策と管理を列記する.

大腸切除後の対策と管理

著者: 渡部洋三 ,   西崎弘之

ページ範囲:P.1953 - P.1956

はじめに
 近年,診断学の進歩により潰瘍性大腸炎,大腸ポリポージス,大腸クローン病などを経験することが多くなり,それに伴って結腸全摘例あるいは亜全摘例が増加しつつある.大腸切除術後の対策と管理で問題となるのはこれらの術式であり,結腸部分切除は術後苦慮することは少ない.したがって,本稿では結腸全摘あるいは亜全摘術後の対策と管理について述べるが,その前に大腸の生理機能について触れておく.

V.肝・胆道・膵疾患 1.急性肝炎の治療

急性肝炎の経過と社会復帰

著者: 小幡裕 ,   丸山ユキ子

ページ範囲:P.1958 - P.1959

はじめに
 本邦においては,急性肝炎は肝炎ウイルスに起因するものが約70%を占めている.肝炎ウイルス以外にEpstein barr(EB)ウイルス,サイトメガロウイルス,アデノウイルスなども,いわゆる急性肝炎を惹起することがある.しかし,これらは極めて稀であり,むしろ薬剤性の肝障害に遭遇する場合が多い.しかし,本稿では最も頻度の多い肝炎ウイルスによる急性肝炎について述べる.

劇症肝炎の治療のポイント

著者: 佐々木博

ページ範囲:P.1960 - P.1962

はじめに
 劇症肝炎とは発病後8週間以内に肝性昏睡をきたす重症型の急性肝炎で,病型としては電撃性肝炎および一部の亜急性肝炎がこの範疇に入り,病因としてはウイルス性,薬剤性のものがある1)
 本症の治療方法としては補液,ステロイドホルモンを主とした保存的療法が長らく行われてきたが,Trey2,3)らが多数例の劇症肝炎について交換輸血療法を行い,一定の成果を報告して以来,本邦でも試みられるようになり,さらに最近では活性炭4),polyacrylonitrile膜(PAN膜)5,6)を用いる人工肝補助装置による治療方法も試みられている.しかし,これらの方法による治療方法も劇症肝炎に対する画期的な治療方法とみなされるには到っていないのが現状である.

2.慢性肝炎の管理

副腎皮質ステロイド療法—適応と使い方

著者: 奥村英正

ページ範囲:P.1964 - P.1965

適応
 慢性肝炎に対して,副腎皮質ホルモンをどのような症例に対して使用するかという問題は,なかなかむずかしい点が多い.それは症例によって情報量が異なるからであって,大学病院のように肝生検はもとより,自己抗体の検査まで十分行って診断をつけておいて,それに本剤を使用する場合と,肝機能検査程度で半分は臨床的目安で使わねばならぬ場合とあるが,ここでは前者として書く.次に外国でいう本剤の適応であるchronic active hepatitisは,本邦でいういわゆるルポイド肝炎であって,日本の分類(犬山分類)での慢性肝炎活動型とイコールではないことに注意しなければならない.
 副腎皮質ホルモン剤の慢性肝炎の第1の適応は,いわゆるルポイド肝炎(別名自己免疫性慢性肝炎とか,Plasma cell hepatitisとか)であり,これについては効果も確認されている.ときにすでに肝硬変に移行していることもあるが絶対適応であって,よく効く.

食事と生活指導

著者: 上野幸久

ページ範囲:P.1966 - P.1967

はじめに
 慢性肝炎患者の治療を行うに当たっては,肝硬変,脂肪肝などを除外して,確実な診断をくだすばかりでなく,肝障害の強さ,病変の活動性,進行性および予後を判断することが必要である.そのためには短期間における肝機能検査の成績や,ある一時点における肝生検所見だけでなく,2〜3カ月以上,できれば6カ月にわたり全身的観察を行いつつ諸検査をくり返し,良性か悪性かといった疾病の動向をよく見きわめることが望まれる.

3.肝硬変症の合併症と対策

腹水の治療法とその選択

著者: 井上十四郎

ページ範囲:P.1968 - P.1970

はじめに
 肝硬変症の腹水の成因としては,低アルブミン血症,門脈圧亢進症,肝類洞の透過性亢進,肝リンパの濾出,アルドステロン・ADHなど体液因子の異常,腎機能の低下などが考えられている.このように多くの因子が複雑に関与しており,まだ十分明らかでないにしても,肝硬変の腹水発生のメカニズムをよく理解し,適切な治療を行うことが大切である.

食道静脈瘤をどうするか

著者: 杉浦光雄

ページ範囲:P.1971 - P.1973

はじめに
 食道静脈瘤の証明された患者は症例によっては即刻手術をしたほうがよい場合,また肝機能障害の改善を待ちながら手術時期を選択する余裕のある症例,また食道静脈瘤を観察しながら外科的治療を加えないですませうる症例もときには存在しうる.食道静脈瘤に対する治療にしても現在の食道離断術1,2)を中心とする直達手術のほかに,食道内腔からの硬化剤注入法3),あるいは経皮経肝門脈カテーテル法による血栓形成を促進する薬剤の門脈内注入法4)など比較的侵襲の少ない治療法も試みられている現状である.予防的手術,待期的手術,緊急処置および緊急手術,術式の選択などについて記述をすすめてみる.

糖尿病合併例の治療の要点

著者: 高岡善人 ,   三宅清兵衛

ページ範囲:P.1974 - P.1975

はじめに
 当科入院患者の統計で肝硬変症・糖尿病合併例は,近年増加傾向にあり,肝硬変患者330名の13.6%に糖尿病が,また糖尿病患者528名の8.5%に肝硬変が合併している.このうち大部分は空腹時血糖値が正常,ブドウ糖負荷で糖尿病型を示す軽症例であるが,なかには空腹時血糖値が150mg/dlをこえる症例もみられる.前者の場合には肥満者が多く,後者はアルコール常飲者に高率にみられる.
 肝硬変症,糖尿病ともに食事療法が治療の基礎となるので,両疾患が合併したときの治療も当然食事療法が中心となる.以下,治療前の検査,食事療法,インスリンの使用法,経口血糖降下剤の選び方,肝不全時の治療などについても述べる.

肝性昏睡治療のポイント

著者: 佐藤俊一

ページ範囲:P.1976 - P.1977

はじめに
 肝硬変の合併症としての肝性昏睡は死因の頻度も食道静脈瘤破裂とともに高く,臨床的に最も重要なものである.肝硬変による昏睡の発生機序はなお不明の点が多いが,高アンモニア血症が重要な役割をもつことはこれまでの研究で明らかであり1,2),これには門脈副血行路が主役をなし,それに肝細胞障害が加味して生ずる.
 したがって,肝硬変による昏睡の治療は高アンモニア血症に対する対策が中心となるが,アンモニアおよび腸管由来の有毒物質の作用を増長する諸因子の除去も大切である.なお最近,血漿遊離アミノ酸のアンバランスが偽性伝達物質との関連において肝性昏睡の発生因子として注目され,これに対する対策も望ましい3)

肝・胆道疾患の出血傾向と対策

著者: 門奈丈之 ,   吉村良之介

ページ範囲:P.1978 - P.1979

はじめに
 肝硬変症では血小板数,血液凝固因子などの減少による潜在性の出血傾向が認められる上に,血中線溶活性の異常亢進を伴う症例も少なくない.

4.肝癌の治療

肝細胞癌の手術適応と成績

著者: 葛西洋一 ,   玉置明

ページ範囲:P.1981 - P.1983

はじめに
 原発肝癌は肝細胞癌,胆管細胞癌および混合型に分類されるが,成人の肝癌の大部分は,肝細胞癌Hepatomaであって,本邦例4)では肝癌の77.6%を占めている.
 肝切除法の進歩に伴って,最近では本症に対する肝切除は積極的に行われる傾向にあり,切除不能例に対しては肝動脈結紮と経肝動脈または経門脈内持続的化学療法,制癌剤肝灌流法(Fortner)2)などが試みられている.また,欧米では本症に対し肝全摘と同所性肝移植も積極的に行われる傾向にある1)

制癌剤療法のポイント

著者: 岡崎伸生

ページ範囲:P.1984 - P.1985

はじめに
 肝癌の制癌剤療法は,多くの場合,肝切除不能な症例を対象に行われる.
 現在,肝癌に対する確立された制癌剤療法はなく,その有効率は必ずしも高くはない.しかし,対象となった症例の腫瘍に感受性のある薬剤が十分投与された場合の効果は顕著で,腫瘍が縮小するばかりではなく,全身状態の改善も著しい.

5.肝・胆道治療薬

肝臓薬の効果とその使い方

著者: 平山千里

ページ範囲:P.1986 - P.1987

はじめに
 肝臓病のうち,具体的にその治療が問題になるのは,腹水,意識障害,消化管出血など,非代償性肝疾患にみられる肝不全の対策である。したがって,われわれが日常遭遇する代償性肝疾患に対しては特殊な治療薬を必要としないという考え方が,欧米,とくに米国では有力である.しかし,古くから病的状態にある肝細胞の機能を改善する試みがなされており,このような薬物は肝臓治療薬,強肝薬,肝疵護薬などの名で医師および患者側から広く親しまれてきている.
 肝臓治療薬は,主として代謝性医薬品に属しており,動物実験で肝障害の予防や治癒促進に有用であるものが多いが,その作用が一般に緩徐であるため,はたして臨床的に有効か否かについては疑問点が多い.ただ治療に有効でなくとも,患者の診療上は有用であるといわれている.事実,これらの薬物のうちには二重盲検試験で,患者の自覚,他覚所見を改善する成績が得られているものもある.

利胆剤はどのように使うか

著者: 奥村恂

ページ範囲:P.1988 - P.1989

胆汁分泌について
 肝細胞より分泌される胆汁は1日量で1,000mlにも達し,胆汁酸,ビリルビン,コレステロール,レシチン,糖質,無機質などを含んでいる.このうち重要な生理的機能をもっているのは胆汁酸で,あとは排泄物と考えられている.
 腸に達した胆汁酸は脂肪の乳化と膵液の脂肪分解を助け,脂肪類の消化と吸収に関与し,同時に脂溶性ビタミンA,D,E,Kなどの吸収にあずかっている.胆汁酸自体はきわめて閉鎖的な循環系(enterohepatic circulation)を形成していることは周知のとおりである.

6.胆道疾患の治療

胆石症の治療計画

著者: 亀田治男

ページ範囲:P.1990 - P.1991

はじめに
 胆石症の治療計画にあたっては,まず診断を確実にすることが重要である.診断は単に胆石があるということにとどまらず,胆石の大きさ・所在・種類,胆嚢の病態,炎症や胆汁うっ滞の合併と程度,全身状態,とくに肝・消化管・腎・心肺・代謝性疾患の有無,社会的活動や生活態度にまでわたり,総合的に検討すべきである.このような事項は治療方針の決定に必要な資料である.
 診断に基づいて治療方針を決める場合,まず手術すべきか否か,すなわち手術適応を決定せねばならない.さらに手術するとすれば,どのような術前の治療が必要か,手術しないとすれば,どのような治療をすべきかを決定する(図).

胆道感染症に対する抗生剤の選び方

著者: 岩村健一郎

ページ範囲:P.1992 - P.1993

はじめに
 感染症における抗生剤療法は原則として起炎菌の確認,感受性試験,適応と用量を考慮して行われ,そのためには抗生剤の作用機序とともに,吸収,血中濃度,組織内移行,代謝および排泄などについての理解がなければならない.胆道感染症の抗生剤療法にもこのような原則が通ずることはいうまでもない.

7.膵疾患の治療

急性膵炎の治療の要点

著者: 戸田安士 ,   早川哲夫

ページ範囲:P.1995 - P.1997

はじめに
 急性膵炎の治療の原則は,従来からいわれているように,①ショックおよび電解質異常に対する処置②鎮痛,③膵外分泌の抑制,④抗酵素療法,⑤二次感染の予防,⑥開腹術などで,最近これに高カロリー輸液療法を加えるものもある.一方,本症のように全身状態など病状の変化が急速な疾病に対しては,病状を正確に把握してそれぞれの時期に的確に対応しなければならない.そのためには,脈拍数,呼吸数,血圧,尿量,意識などのいわゆるvital signのほか,血液中ガス分圧,pH,浸透圧,電解質,糖,尿素窒素,ヘマトクリットや中心静脈圧などの情報を入手することが必要である.その意味からも,重症例はICUで管理されることが望ましい.その上で,次のような基本的姿勢で本症の治療に臨むことが大切である.
 1)発症時の重症度のいかんを問わず,発症2〜3日間は飢餓,輸液を実施して極力膵の安静をはかること.

慢性膵炎にどう対処するか

著者: 八田善夫 ,   竹内治男

ページ範囲:P.1998 - P.1999

はじめに
 慢性膵炎の成因は,胆石症やアルコールが最も多く,ついで外傷,原因不明のものに分けられる.一方,その病型は,石灰化膵炎,非石灰化膵炎,あるいはその経過や軽重によって,慢性反復性膵炎(chronic relapsing pancreatitis),非反復性膵炎(nonrelapsing pancreatitis)に分けて考えられている.また日膵研診断基準に基づいて,確診例,疑診例などと呼ばれるが,疑診例の中に,いわゆる軽症型膵炎が含まれる.このような成因および病型の相互関連性について,そのすべてが明らかにされているとはいいがたい,しかし可能なかぎり,そのタイプ,および成因などの観点から検討される必要があり,本稿ではその基本方針について述べることにする.

VI.内分泌疾患 1.間脳・下垂体疾患の治療

下垂体前葉疾患の新しい治療

著者: 出村黎子

ページ範囲:P.2002 - P.2003

はじめに
 ホルモン過剰を示す下垂体病変がmicroadenomaによることが多いという知見や,これに対するmicrosurgeryの進歩,さらにヒト成長ホルモンやCB-154の臨床応用によって下垂体疾患の治療は最近めざましく進歩した.以下に主要疾患別にその要点を述べる.

尿崩症治療の進歩

著者: 斉藤寿一

ページ範囲:P.2004 - P.2006

はじめに
 下垂体後葉のアルギニンバゾプレシン(AVP)の欠乏に起因する尿崩症の治療としては,持続性AVP製剤であるタンニン酸ピトレッシンによる補充療法が長くもちいられてきたが,近年各種の経口尿崩症治療剤の使用が可能となり,本症治療は新たな局面をむかえた.さらに最近,Desamino-8-d-arginine vasopressin(DDAVP)が,点鼻剤として尿崩症治療にきわめて有効であることが示され,近い将来に,本症治療の第一選択となるものと考えられる.これらの現状をふまえて,諸種治療法の選択と組み合わせての方法が今後の重要な課題となっている.

2.バセドウ病治療の要点

抗甲状腺剤—選択と投与法

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.2007 - P.2009

はじめに
 バセドウ病は糖尿病についで多い内分泌疾患で,かつては80%前後が心不全のため死に至ったとされている.しかし,抗甲状腺剤の導入により,もはやバセドウ病は死に至る病ではなくなったばかりでなく,永久緩解も期待される状態となった.本稿では抗甲状腺剤による治療成績をどのように向上させるかについて,筆者の経験を中心としながら述べることにしたい.

バセドウ病の手術適応と術前術後の管理

著者: 野口志郎

ページ範囲:P.2010 - P.2011

手術の適応
 バセドウ病の治療法の選択には絶対的な適応はなく,個々の症例についてどの治療が有利であるかを考えて選択する.手術が有利な場合は,一言でいえば早く治したほうがいい場合である.すなわち,青壮年の患者の場合,遠隔地または僻地に居住していて外来通院治療が容易でない場合,さらには抗甲状腺剤に副作用がある場合などであり,手術が不利な場合は,10歳未満の小児や60歳以上の高齢者,すでに一度手術を受けて再発したものなどである.
 抗甲状腺剤療法や放射性ヨード療法が,はじめに期待されたほどの効果がなく,手術療法の優秀性が近年再評価されてきた1,2).しかし,手術成績の良し悪しは外科医の伎倆と深く関係しているので,甲状腺の手術に熟練している外科医がいない場合には,手術成績はかなり劣悪となる.そのような場合には他の治療法を選択したほうが有利である.図は年齢階級別にみた抗甲状腺剤療法,手術,放射性ヨード療法の割合を示している.10代,20代,30代では手術が最も多く,40代以後になると放射性ヨード療法が多くなっている.この図は筆者らが1968〜1975年の9年間に大分県の患者に対して行った治療法の選択の例であるが,おおむね一般性のある選択になっていると思われる.40代以後になると手術が少ないのは,患者が手術以外の治療を希望する場合にはこの年齢層では積極的に放射性ヨード療法を行っているからである.

131Ⅰによる治療—とくに投与量の問題

著者: 鳥塚莞爾 ,   小西淳二

ページ範囲:P.2012 - P.2013

はじめに
 甲状腺機能亢進症の治療法として,抗甲状腺剤療法,放射性ヨード療法および外科的切除術が行われているが,このうち,放射性ヨード療法は甲状腺の選択的なヨード摂取能を利用したもので,甲状腺に集積した放射性ヨードの放出する放射線によって濾胞上皮を破壊することを目的としている.現在,主に131Ⅰ(半減期8日)が用いられ,簡便で治療効果のすぐれていることから,広く利用されてきたが,最近,治療後の長期にわたる観察から,甲状腺機能低下症の多発が知られるようになり,131Ⅰ減量療法1〜4)など,131Ⅰ療法の再検討が行われている.筆者ら5)も数年前より初回投与131Ⅰ量を一律に4mCiとし,しかも極力再投与を行わない治療法を実施してきた.以下,131Ⅰ減量療法の成績を述べ,さらに筆者らの現在の131Ⅰ療法の治療方針について述べる.

バセドウ・クリーゼの治療

著者: 飯野史郎

ページ範囲:P.2014 - P.2016

バセドウ・クリーゼの定義
 バセドウ・クリーゼの適正な治療を行うためには,まず,正確な診断を行うことが不可欠である.しかし,現在,バセドウ・クリーゼの定義については必ずしも統一見解が得られておらず,その判定基準も研究者によりまちまちである.それは,本クリーゼに特異的な検査所見はなく,その診断はもっぱら臨床的であって,絶対的なものではないからである.
 多くの学者の意見を総合すれば,『バセドウ・クリーゼとは,甲状腺中毒症状が急速かつ高度に増悪した状態で,しばしば致命的であり,発熱,高度頻脈,意識障害,心不全,肝機能障害などを随伴するものをいう』.しかし,より現実的には,バセドウ病患者において,甲状腺中毒症状の増悪のほかに,38℃以上の発熱と高度の頻脈が随伴する場合には,本状態の存在を疑うべきであろう.

バセドウ病患者と妊娠

著者: 水野正彦 ,   杉本充弘

ページ範囲:P.2017 - P.2019

 甲状腺機能亢進症は女性に多く,女性では半数以上が10歳台の後半から30歳台の前半までのいわゆるreproductive ageに発症していることを考えると,本症と妊娠との関係はきわめて重要である.reproductive ageの本症患者を取り扱っているときには妊娠の可能性を常に考えていなければならないし,また妊娠したらその予後を適切に推定しなければならない.
 そこで,この点について,筆者らの経験を中心として簡単に述べる.

3.甲状腺疾患治療の問題点

甲状腺腫—その手術適応

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.2020 - P.2021

はじめに
 近年甲状腺に関する各種検査法の進歩により,それぞれの疾患の診断が正確につくようになった.バセドウ病の手術適応は別に詳しく記されるので省略する.橋本病や亜急性甲状腺炎は原則として手術をする必要はない.
 比較的珍しい疾患として,先天性甲状腺ホルモン合成障害dyshormonogenesisがあり,この疾患では甲状腺が全体として腫大しているほかに,その中に大小さまざまの結節が合併して触れることがある,しばしば巨大な甲状腺腫を形成してくるので,外科医がみると直ちに切除をすすめる傾向があるが,基本にあるのは甲状腺ホルモン合成障害であるから,甲状腺機能検査を行い病態を正しく把握し,甲状腺ホルモンの投与を行うのが根本にある治療である.しかし,すでに結節状増殖を生じたもの,あるいはさらに腺腫を思わせる結節の生じているものでは,甲状腺ホルモン剤投与によっても十分縮小することはなく,悪性腫瘍あるいは増殖傾向の著しい腺腫の合併を疑って手術することがある.

橋本病の発見と治療

著者: 鈴木秀郎

ページ範囲:P.2022 - P.2023

はじめに
 橋本病は中年婦人に好発し,硬いびまん性の甲状腺腫をつくるほか,ほとんど症状を示さず,慢性かつ潜在性に進行する疾患である.甲状腺機能は検査により初めて明らかになる程度の軽い障害を示すものが多いが,ときに明らかな粘液水腫像を示すものもあり,甲状腺の生検では特有な組織所見を示す.

甲状腺機能低下症の発見と正しい治療

著者: 榎本仁志 ,   入江実

ページ範囲:P.2024 - P.2026

甲状腺機能低下症の発見
 甲状腺機能低下症は,先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)と成人における粘液水腫で代表され,その原因は表1に示すようなものがある.軽症のものでは甲状腺機能検査によらないと発見は困難であり,とくに先天性甲状腺機能低下症の診断はしばしば困難であり,臨床所見のみでは見逃されることがある.本症は発育障害,知能発達障害をきたし,とくに知能低下は通常不可逆性であり,放置または治療の遅れによって精神薄弱児となるため早期診断ならびに早期治療は極めて重要である.成人の場合においても心疾患,精神神経疾患,老人のぼけなどと間違われたり,徐々に発症して気付かれずに放置されていることもある.
 また慢性甲状腺炎あるいはHashitoxicosisといわれるものでは,その経過中に亢進症になったり,低下症になったりすることがある.

4.副甲状腺疾患の治療

副甲状腺機能亢進症および低下症

著者: 森井浩世

ページ範囲:P.2027 - P.2029

副甲状腺機能亢進症
 副甲状腺機能亢進症の分類の方法として,①原疾患別による方法,②血清Caのレベルによる方法などがある.
 ①原発性副甲状腺機能亢進症

5.副腎疾患の治療

副腎クリーゼの治療

著者: 吉田尚義

ページ範囲:P.2030 - P.2031

はじめに
 副腎クリーゼは緊急を要することが多いので,内分泌学的検査の結果を待たずに,ただちに治療を開始しなければならない.副腎クリーゼの原因としては次のようなものを考える.
 1)慢性副腎皮質不全(原発性または続発性)

VII.代謝・栄養障害 1.糖尿病の薬物療法

経口血糖降下剤の使い方

著者: 平田幸正

ページ範囲:P.2034 - P.2035

経口血糖降下剤の適応
 経口血糖降下剤を使うに当たって最も大切なことは,適応例を選ぶことであるといえる.適応の条件をあげると次のようになる.
 1)成人型糖尿病であること

インスリン療法の適応と使い方

著者: 繁田幸男

ページ範囲:P.2036 - P.2037

インスリン療法の適応
 糖尿病の薬物療法については,使用の簡便さから経口血糖降下剤が適応の範囲をこえて乱用されすぎているきらいがあるが,現在でもインスリン注射は薬物療法の基本であり,インスリンをどうしても使わなければならないという絶対適応の患者が少なくない.
 まず糖尿病性昏睡やケトアシドーシスのような急性代謝失調の状態にあるもの,および有熱性感染症,外傷,外科手術などによりケトアシドーシスをきたすおそれのある場合はインスリン療法の絶対適応である.また不安定型糖尿病のように,血糖の動揺の激しい患者にはインスリン製剤の種類をうまく選択して使用しなければならない.

2.糖尿病治療の問題点

肝腎障害を有する糖尿病の食事療法

著者: 池田義雄

ページ範囲:P.2038 - P.2039

はじめに
 糖尿病の食事療法は各人にみあった適正な1日総カロリーと,その範囲内での栄養素のバランスをとることにより,インスリン作用不足に基づく代謝異常の正常化と血管合併症の予防と進展阻止を目標にしている.糖尿病治療のための食事療法は,他の疾病における治療食と異なり,健康食・保健食として誰にでもすすめられる内容をもっているといってよい.
 食事療法の基本とその実際については,日本糖尿病学会編「糖尿病治療のための食品交換表」(南江堂)に,わかりやすく解説されている.しかし,それはあくまでも一般の糖尿病を対象にしたものであり,特別な合併症や余病の併発がみられる場合には,食事療法の指導に際して,またその実際において,特別な工夫と配慮が必要となる.なかでも肝障害や腎障害は,それぞれ独特の治療食が用意されているため,糖尿病にこれらの異常が併存した際の食事療法については,日常臨床上いかに対処すべきか,ときにとまどいと混乱がみられている.

糖尿病運動療法の外来指導

著者: 島雄道朗

ページ範囲:P.2040 - P.2041

はじめに
 糖尿病治療の基本的手段として運動療法は食事療法とならんで重視されている.糖尿病治療の上での運動の効果については,多くの研究で認められているが1〜4),その指導方法については,未だ確立されたものはないといってよい.一般に運動は適応さえ誤らなければ有効であるが,糖尿病者の病態は複雑であり,性,年齢,治療法,肥満度,合併症,生活環境などまちまちであり,一律に運動処方を決めることは困難である.
 しかし,運動療法の重要性を食事療法と同じように患者自身に認識させるためには,運動を定量的に指示することが必要のように思われる.以下糖尿病運動療法の外来指導における実際面についての筆者の方法を,順序に従って説明する.

高齢者糖尿病患者の治療の実際

著者: 北村信一

ページ範囲:P.2042 - P.2044

治療方針
 治療の進歩による糖尿病患者の寿命延長や高齢人口の増加に伴う老年発症糖尿病患者の増加によって,高齢者糖尿病患者は増加している.筆者らの病院の経験でも,最近5年間の初診糖尿病患者3477例のうち932例は60歳以上であり,日常の診療で扱う糖尿病患者の1/4が高齢者で占められている実情である.糖尿病の治療は糖尿病を治癒させることではなく,患者が体質に基づく糖尿病という病気をもちながら,健康的な社会生活をできるだけ長く続けることができるように管理していくことであるが,高齢者糖尿病患者の場合においても,このような糖尿病治療の基本的なあり方に変わりはない.また,治療方法においても,食事療法,運動療法を基礎とし,効果不十分のときにインスリン注射や経口血糖降下剤をつけ加えるという一般の糖尿病治療方法と同じである.
 ただ,高齢者糖尿病患者には臨床像にいくつかの特徴1)がある,その主なものをあげれば,①高齢者には耐糖能異常者が多い,②自覚症状に乏しい,③尿糖が出にくい,④合併症,とくに血管障害を伴うことが多い,⑤感染などを契機として急に高滲透圧性非ケトン性昏睡に陥ることがある,⑥新しい事態に対応しにくく,食事療法や運動療法に協力しにくい,⑦血糖降下剤使用時に低血糖を起こしやすい,などである.したがって,このような高齢者糖尿病患者の特徴をよく理解した上で実際の治療に当たらなければならない.

3.糖尿病合併症の治療

糖尿病性神経障害の治療—とくに疼痛,起立性失調,下痢,無力性膀胱に対して

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.2045 - P.2047

はじめに
 糖尿病性神経障害は全身に多彩な症状をもたらす.直接生命の予後に関係なさそうにみえるが,症状によっては代謝調整に悪影響を及ぼし,病気の予後に重大な影響を与える.図1は神経障害の自覚症状を無作為に抽出した男子336例,女子138例について調査したものである.
 これらの症状の中から,日常遭遇する最も困難な問題—疼痛,起立性失調,下痢,無力性膀胱について,とくに治療面について論述する.これらはいずれも糖尿病患者の全身管理をきわめて困難にするばかりか,心理的にも好ましくない状態である.

増悪した糖尿病性網膜症の扱い方

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.2048 - P.2050

はじめに
 糖尿病性網膜症は,増殖型と単純型(非増殖型)とに大別され,前者は内科的治療のみではその進行を阻止できず,外科的療法(網膜光凝固療法と脳下垂体手術療法)の併用が必要となる.したがって,糖尿病性網膜症の増悪をみたときは,それが増殖型化する危険があるか,すでに増殖型化したものと判定すべきかなどに細心の注意を払う必要があり,眼科専門医の判定・協力がぜひとも必要である.本誌は内科医または一般医を対象とするものと判断されるから,眼科的な専門事項には極力触れないようにしたいが,検眼鏡的には明らかな新生血管とはいえぬ程度の細小血管の変型,拡張,網膜浮腫,軟性白斑の多発,表在性網膜内出血の出現などが網膜症の増殖型化を示唆する重要所見であり,螢光眼底造影検査の実施も必要となることが多い.この検査上,螢光色素漏出血管の多発,毛細血管床閉塞野の拡大などの所見も増殖型化を知る重要な決め手となる.

腎不全を起こした糖尿病性腎症の治療

著者: 広瀬賢次

ページ範囲:P.2052 - P.2053

はじめに
 糖尿病性腎症(以下腎症と略)の進行速度は末期腎不全に至るまでは,一般に比較的ゆるやかである.しかし,その経過中に急性腎不全を起こしたり,慢性腎不全に急性増悪因子が加味されると,腎機能は急速に低下する.
 したがって本文では,腎不全を示す腎症を急性腎不全,慢性腎不全,末期腎不全に分けて,それぞれ治療上の要点を記述する.

糖尿病昏睡の種類別の治療

著者: 堀田饒 ,   坂本信夫

ページ範囲:P.2054 - P.2057

はじめに
 糖尿病患者に観察される意識障害は,表1に示すものが考えられる1).糖尿病に特異的なものとして,①ケト・アシドーシス性昏睡,②非ケトン性高浸透圧昏睡とがあげられ,また比較的特異的なものとして③乳酸アシドーシスがある.これら,3者の臨床的所見は各々特異的であるが,ここでは生化学的検査成績を表2にあげてみた.

遷延性低血糖症の治療

著者: 桑島正道

ページ範囲:P.2058 - P.2059

 糖尿病患者が意識障害をきたしている場合は,低血糖発作,糖尿病性昏睡,脳血管障害などによることが多い.このうち低血糖発作は最も頻度が高く,しかも治療が遅れると脳神経系の機能障害を後遺症として残したり,あるいは死に至らしめるので,最も注意を払う必要がある.本稿では,低血糖症状が数時間以上持続している,いわゆる遷延性低血糖症をとりあげ,診療上気をつける点を簡単に述べる1〜3)

4.高脂血症の治療

年齢と治療域レベル

著者: 和田光夫

ページ範囲:P.2060 - P.2062

はじめに
 本態性高脂血症の診断や治療に欠かすことのできない検査は血清総コレステロールおよび血清トリグリセリドの測定と血清リポ蛋白の分析である.これらの測定や分析は治療に先立って反復実施すべきで,夏期(7〜9月)および冬期(12〜2月)の両季をふくめることが望ましい.このようにして患者各個の脂質レベルやリポ蛋白の異常(パターン)が正しく判定されなければならない.
 血清コレステロール値およびトリグリセリド値は年齢,性,居住地域などによって多少の差があるので,その患者に適した正常値と比べて判定する必要がある.

高脂血剤の現状と使いわけ

著者: 葛谷文男

ページ範囲:P.2063 - P.2065

高脂血剤使用にあたって
 高脂血症の薬物療法は,これを是正することにより患者に与える薬物による副作用よりもbenefitが多いときにのみ適応される.血清中の中性脂肪(以下TGと略す)を降下せしめると膵炎とかそれに伴う腹痛がとれるということが臨床的にはプライマリケアまたは救急治療と関係づけられるのみで,不可欠の治療法としての意義をあまり他に多く求めることはできない,Xanthomaも美容上,心理的な面でこれを縮小ないし除去することは,たしかに臨床的に意義はあるが積極性は欠く.結局のところ動脈硬化におけるcomplicationの予防が,これら薬剤により可能であるか否か,また必要であるかということのみが抗脂血剤の適応に対する根拠となっているにすぎない.
 高脂血症の治療にはまず食餌療法が優先されるべきであり,食餌療法を行う前にいきなり薬物療法を行うことはつつしむべきである.しかし,一度薬物療法を行うことを決定したときにはかなり長期間,おそらくは一生続けることを覚悟すべきである.また二次性高脂血症の場合はもちろん原疾患の治療が優先されるべきで,それでもなお高脂血症が存在し,患者の予後をそれが大きく左右すると考えられるときにのみ薬物療法を試みるべきである.しかし,原疾患の治療がまったく困難であることがわかっている場合は,対症療法として食餌療法を経て抗脂血剤が初期から投与されることはあり得る.

食事による管理

著者: 中村

ページ範囲:P.2066 - P.2067

はじめに
 高脂血症は,その成因から外因性と内因性に大別でき,外因性の場合は環境因子,主として食事療法が治療の基本となる.内因性の場合は原疾患に続発する二次性の高脂血症や,遺伝性の家族性高脂血症があり,これらの症例でも摂取エネルギー,栄養素の配分,質の変化によって,血中脂質レベルが変動する.以下,食事療法の際のポイントについて述べることにする.

各種リポ蛋白濃度異常と治療の適応

著者: 中村治雄

ページ範囲:P.2068 - P.2069

リポ蛋白とその濃度
 血清中において正常者で認められるリポ蛋白は,カイロマイクロン(chy),超低比重リポ蛋白(VLDL,pre-βリポ蛋白),中間型リポ蛋白(IDL),低比重リポ蛋白(LDL,βリポ蛋白),高比重リポ蛋白(HDL,αリポ蛋白)である.そのほか,異常の状態の一現象として認められるリポ蛋白は,Lp-X,Floating-β(Broad-β),Lp(a)(Extra-pre-β,Midband,Double-pre-β)などがあり,一部では正常者にも認められる.
 しかも,最近,これらのリポ蛋白の役割が次第に明らかとなるにつれ,治療目標とすべきリポ蛋白が区別されるようになってきた.つまり,表に示すごとく,chyは,主として食事に由来した長鎖脂酸よりなる外因性トリグリセライド(TG)の転送を役目としている.これは,末梢の脂肪組織,筋肉などでリポ蛋白リパーゼの働きによりTGの分解を行い,エネルギー供給の役を果たしながら,chy遺残型(remnant)として肝で処理を受ける.一方,糖および脂酸を素材として,肝および腸管で内因性に合成されたTGをVLDLが運搬するが,これも同様に分解され,IDLに変化する.VLDLの分解は,必ずしも次第に小型化する経路を通るものばかりでなく,最も軽いVLDL1よりIDLへ変換するものもある.

5.痛風治療のポイント

痛風の急性発作時の治療と予防

著者: 西田琇太郎

ページ範囲:P.2070 - P.2071

はじめに
 痛風ではある日突然,多くは足の親指の趾骨関節に激しい疼痛と発赤,腫脹を伴って急性関節炎が発現する.この関節炎は放置しても数日で自然に緩解することが特徴で,単に痛風発作ともいわれる.痛風発作は外見上では細菌感染による炎症と同様で,検査所見でも血沈亢進,CRP陽性,白血球数増加がみられる.しかし痛風は中年以後の男性に多く,血清尿酸値も7mg/100ml以上の高値を示す.また以前にも同様の関節炎発作の既往があれば診断は容易である.発作時に関節液を採取して尿酸塩の針状結晶を証明すれば診断は確実である。痛風発作の特効薬であるcolchicineを試用して効果をみることも診断に役立つ.
 痛風ではプリン代謝の終末産物である尿酸が体内に増加している.尿酸は生理的機能を持たないが難溶性の物質で,高尿酸血症ではわずかの誘因で尿酸塩の針状結晶として析出する.この尿酸塩の針状結晶は負に荷電しており,関節液中のHageman因子を活性化,ついでkallikrein,kinin systemよりkininの生成をきたす.また結晶は生体にとって異物であるため多核白血球に貪喰され,白血球内のlysosomal enzymesを放出させる.このlysosomal enzymesが急性炎症を惹起させると考えられている.

痛風治療剤の適応と使いわけ—高尿酸血症を中心に

著者: 西岡久寿樹

ページ範囲:P.2072 - P.2073

はじめに
 近年,痛風の治療体系は,種々の尿酸コントロール剤による薬物療法を中心として,飛躍的な進歩を遂げてきている.痛風治療の薬物療法は,大別すると急性発作に対するコルヒチンやフェニールブタゾンなどを中心とする抗炎症剤による治療と,その基礎疾患である高尿酸血症を是正するための尿酸コントロール剤による治療の2つがあげられる.本稿では高尿酸血症の薬物療法を中心に述べてみたい.

腎合併症を有する痛風患者の指導と治療

著者: 加賀美年秀

ページ範囲:P.2075 - P.2077

はじめに
 かつては単なる関節疾患であると考えられがちであった痛風は,現在では,多様な成因からなる原発性高尿酸血症に基づき,独得な関節炎症状を主とし,腎障害,腎結石をはじめとして,心・脳血管系障害,高血圧症,脂質・糖質代謝異常,肥満症などを高率に合併する全身性代謝異常疾患であると解釈されるに至っている.すなわち,痛風は尿酸代謝異常に基づく全身性疾患であり,関節炎はその症状の一つにすぎないといっても過言ではない.

6.肥満とビタミン異常

肥満の治療

著者: 阿部達夫

ページ範囲:P.2078 - P.2079

はじめに
 食糧が豊富になるにつれて,わが国でも肥満のものが増加し,ことに中年以後の女性の肥満傾向が問題になっている.肥満は症候性肥満と単純性(体質性)肥満,調節性肥満と代謝性肥満,cellularityからhypertropic,hyperplasticおよびcombined typeといった分類がなされ,さらに最近,その病態生理の研究が進歩して興味をよんでいる.
 肥満の治療は摂取熱量(利用熱量)が消費熱量を下まわるようにすることである.そのためには,減食,運動ということになる.とくにこれといって目新しいことはない.薬物療法や手術療法(小腸の一部を短絡する)などはわが国ではほとんど行われていないといってよい.

ビタミンの過不足に対する治療

著者: 奥田邦雄

ページ範囲:P.2080 - P.2081

はじめに
 ビタミンの欠乏症は未・低開発地には多発する病態であるが,また本邦では,戦前では白米食の習慣にも起因してB1)などの欠乏症が多かったが,戦後は欠乏症は著明に減少した.反面,ビタミンの量産,その大衆薬化などによって不必要なビタミンの大量使用が行われるようになり,過剰の問題が起こってきた.ごく最近は厚生省の指導で過剰の問題も減ってきているが,欠乏症,過剰症の問題も的確に把握しておく必要があるであろう.

VIII.神経・筋疾患 1.日常みられる神経症状の治療計画

頭痛

著者: 田崎義昭

ページ範囲:P.2084 - P.2085

診断のすすめかた
 頭痛は種々な原因で起こりうる.したがって,頭痛の治療計画はその原因を診断し,これに対処することである.頭痛というありふれた訴えの蔭に,ときには脳腫瘍のような重大な疾患が潜んでいることもある.しかし,日常遭遇する頭痛患者の多くは,器質的な異常を伴わないものであり,これらを診わけるには一定の診断の原則を身につけておく必要がある.
 Sherrillは頭痛患者の診断のすすめかたを4段階に分けているので1),これを臨床医の実情に合わせて一部改訂して表に示した.すなわち,第1段階は病歴をとり,一般的な身体所見を診察し,さらに神経学的検査をすることである.第2段階は一般的な臨床検査である.頭痛を主訴とする患者では必ずこの第1,2段階は行うべきである.

腰痛

著者: 石田肇

ページ範囲:P.2086 - P.2087

 腰痛には脊柱に関連したものと,内科,外科,婦人科,泌尿器科,精神科などの領域の疾患の一症状として見られるものがあり,後者では原因疾患の究明と治療が問題となる.腰痛のうちとくに神経症状と関連あるものは成人に見る椎間板ヘルニアと50歳以後に見られる脊柱管狭窄症である.
 脊柱管狭窄症は近年注目されてきた疾患で,50歳以後の男子で変性性変化強く間歇的跛行症を特徴とし,一定距離歩行後,両下肢の重だるい感じで歩行が困難となり,しゃがむような姿勢で2〜3分休息すると再び歩行が可能となるという特有の病歴を示す.腰椎前彎の強いものが多い.

手足のしびれ

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.2088 - P.2089

はじめに
 しびれは種々の疾患の症状として生ずるものであり,治療はその基礎疾患に向けられねばならない.したがって,しびれの治療計画として最も重要な点は個々の患者において基礎疾患は何かを見出すことである.しかし,しびれの基礎疾患は種種雑多であるので,それを明確にするには系統的に考えを進めてゆく必要がある.表はこの鑑別診断に関する計画の大筋を示したものである.これに沿って病歴聴取,診察,検査を進めていくときに,どのような点に注意すれば的確に基礎疾患の診断,治療に到達できるかを次に述べる.

めまい

著者: 吉本裕

ページ範囲:P.2090 - P.2094

急性期(発作時)の治療のポイント
 めまいの急性期の治療に先立って,まず,めまいをきたした原因が何であるかを明らかにすることが大切であることはいうまでもない.しかし,激しいめまいに襲われている患者を前にして,まずなすべきことは,最小限の必要・十分な検査の後,とりあえずめまいを抑制する処置をとることである.そのあとに,めまいの原因を明らかにするため,精密検査を行うことになってもやむを得ない(好ましいことではないが).この点で急性期の診断と治療は慢性期,間歇期のそれとは異なる.なお,各時期の治療については表1に示した.以下,めまい発作中の患者に対する処置について述べる.

2.神経疾患と患者教育

てんかんの薬物療法

著者: 大高忠 ,   宮坂松衛

ページ範囲:P.2095 - P.2097

はじめに
 てんかんの発作は,その基礎に先天代謝異常や脳器質性病変をもつことが稀ながらあっても,大部分の場合,抗てんかん剤によって発作の抑制をはかる対症的薬物療法が治療の中心となる.
 てんかんの薬物療法の終極の目標は,臨床発作の完全抑制をはかることと同時に,脳波のてんかん性異常の持続的な正常化をはかり,治療を中止しても,患者の生涯にわたって発作が再発しないようにすることにある.このためには,つぎの点に留意して治療を開始することが必要となる.

不眠

著者: 石川中

ページ範囲:P.2098 - P.2099

不眠についての問診
 精神・神経科ないし心療内科ばかりでなく,一般内科や婦人科,あるいは外科などの日常診察においても不眠を訴える患者は多く,ことに一般診療科では,不眠の内容について深くたずねることもなく,安易に睡眠薬が投与される傾向がある.
 現在,日常診療で用いられている睡眠薬は主としてベンゾジアゼピン系の精神安定剤であるから,バルビツール系の睡眠薬の場合のような習慣性は少ないので,睡眠薬が安易に与えられることの危険性は少なくなっているとはいえ,精神安定剤でも,習慣性は皆無とはいえず,患者教育による指導は必要である.

頭部外傷後遺症

著者: 平井秀幸

ページ範囲:P.2100 - P.2101

はじめに
 頭部外傷後遺症とは,一般に頭部外傷受傷後3〜4週を経ていわゆる慢性期に入り,患者の症状が固定する傾向にあって,なお症状の持続しているもの,およびいったん軽快治癒したと思われた患者に何らかの症状が発生した場合を総称している.しかし,後遺症とする時期を頭部外傷受傷後のどの時期に定めるかは問題のあるところであり,また頭部外傷に合併する病状や,続発する病態を後遺症とは区別するという考え方もあり,厳密に定義することはむずかしい.
 通常,頭部外傷後遺症とよばれる項目について佐野・中村の分類(表)に従って表記する.明解で,詳細な病型をすべて含んでいるが,各疾患ごとに脳神経外科として重要かつむずかしい問題であると考える.そこで,われわれが日常の診療でみるいくつかの問題点を中心にして,最近の話題となっている重要な課題について述べることとする.

心身症

著者: 筒井末春

ページ範囲:P.2102 - P.2103

神経系の心身症の種類
 神経系の心身症として知られているものに片頭痛,筋緊張性頭痛,脳血管障害とその後遺症,自律神経失調症,多発性硬化症,SMON,眩暈,冷え性,知覚異常,運動異常,失神発作,けいれん発作,慢性疲労などがある.
 そのほか,骨・筋肉系の心身症である書痙,痙性斜痙,頸腕症候群,振せん,チック,失立,失行なども神経系と関連する心身症である.

3.神経系治療薬の選び方

脳循環改善剤—脳血管障害に対する適応

著者: 澤田徹

ページ範囲:P.2104 - P.2105

はじめに
 最近のわが国の薬効評価は二重盲検試験が義務づけられ,脳循環改善剤の場合も臨床評価が重要な意味をもっている.そこで本稿では,脳循環改善剤の臨床症状からみた適応に焦点を合わせ,筆者の意見を述べてみたい.

抗めまい剤

著者: 松永喬

ページ範囲:P.2106 - P.2109

めまい疾患の治療方針
 日常臨床上,筆者らが主治医として治療にあたっているめまい疾患は,まず末梢性めまい(以下耳性めまいという)として,メニエール病確実例ならびに疑い例,内耳炎(中耳炎性,脳膜炎性),良性発作性頭位眩暈症,めまいを伴うハント症候群,前庭神経炎,内耳梅毒,外傷性内耳・内耳道障害,加速度病などがある.次に椎骨脳底動脈循環不全症,高血圧症,起立性低血圧症,脳動脈硬化症,高脂血症のときのめまい,頭頸部外傷後のめまいなどを内科医,精神神経科医と相談して加療している.そのほか鼻性めまい,原因不明の眩暈症,とくに一般内科的神経学的検査で明確な所見の得られないめまいが神経耳科医の治療の対象疾患となる.
 これらの疾患に用いられる抗めまい剤としては,向循環改善剤,向神経剤(自律神経調整剤,phenothiazine誘導体,minor tranquilizerなどを便宜上総称していう.以下同じ),向脳代謝改善剤およびビタミン剤の4者が対症的に用いられ,利尿剤,ステロイド剤,抗ヒスタミン剤が選択的に用いられている.

精神安定剤

著者: 坂部先平

ページ範囲:P.2110 - P.2111

はじめに
 緩和精神安定剤は病的な不安,緊張,焦躁感などを鎮める目的で,主として神経症の治療に用いられるものと定義することができる.ただ,神経症の発生機序として,発症の直接の動機である結実因子と相補的に働く,適応障害を起こしやすい人格傾向が考えられるため,安定剤の投与は精神療法の補助手段であると考えるべきである.しかし,強い自覚的苦痛をまず軽減することで,精神療法に必要な医師・患者関係の成立を容易にし,また,心身相互の悪循環を断ち切る効果などにより,薬物療法の必要性はきわめて高く,臨床の実際上からも安定剤の便利性は高く買われている.

抗うつ剤

著者: 伊藤斉

ページ範囲:P.2112 - P.2113

はじめに
 うつ病ならびにうつ状態の受診患者数は徐々に,しかも確実に増えつつある.専門領域の精神神経科だけでなく,各診療科を訪れる患者の中にも少なからず見出される.本邦でははっきりした数字は得られていないが,スイスのバーゼル大学附属病院では1948年には全科の入院患者のうちわずか8%しか合併症としてのうつ病が存在したに過ぎなかったものが,1977年には一躍28%に増加していることが報告されている.このように増加しつつある抑うつ患者の治療をいかに考えていったらよいか?抗うつ薬が出現し,その種類も十指に余るようになった.個々の患者に最適の治療薬を選ぶことは必ずしも容易ではないが,実地診療上の問題点として,①抗うつ薬の臨床作用スペクトル,②うつ病,うつ状態の病因別分類と治療,③抗うつ薬の副作用,④抗うつ薬の相互作用,⑤難治例を取り上げて簡単に述べ,参考に供したい.

催眠剤

著者: 森温理

ページ範囲:P.2114 - P.2115

催眠剤の種類
 催眠剤は化学構造の上からバルビツール酸系と非バルビツール酸系とに大別される.非バルビツール酸系催眠剤には古くはbromvalerylureaをはじめ種々のものがあり,最近では抗不安薬や抗精神病薬に属する構造式のものが出現しているが,とくにbenzodiazepine系催眠剤は現在最も広く使用されている(表).
 不眠症の型のうち,入眠障害を主とするものに対しては作用発現が速く作用持続時間の比較的短いnitrazepam,flurazepamなどbenzodiazepine系のものが最もよく使用されている.以前にはbromvalerylureaやcyclobarbital,pentobarbitalなどが用いられたが,依存性形成などのおそれが強いので,最近ではあまり使用されない.

筋弛緩剤

著者: 渡辺誠介

ページ範囲:P.2116 - P.2117

筋緊張の病態生理
 睡眠中は筋トーヌスは低下している.強い催眠剤にも筋弛緩作用があるが,筋弛緩剤というときには催眠作用が主なものは除くことになっている.しかし筋弛緩剤の副作用として,しばしば眠気があげられているように,脊髄レベルだけに働く筋弛緩剤は考えにくい.
 パーキンソニスムの筋トーヌス異常は固縮と呼ばれ,筋を受動的に伸展すると鉛管を曲げるような抵抗を感ずることが特徴とされている.この病態は錐体外路系のドーパミンやアセチルコリンの代謝異常であるが,この治療薬のL-dopaや塩酸トリヘキシフェニジル(アーテン)なども通常筋弛緩剤とはいわない.しかし逆に,いわゆる筋弛緩剤が錐体外路系に作用している可能性はかなりある.

4.パーキンソン病の治療

薬物治療の原則

著者: 宇尾野公義

ページ範囲:P.2118 - P.2120

はじめに
 パーキンソン病(本態性パーキンソニズム,振戦麻痺)は大部分中年期以後に初発する慢性進行性変性疾患(時に若年発症,家族性のものあり)で,本態については錐体外路系とくに黒質,尾状核を中心とするドーパミン代謝異常が近年大きくクローズアップされ,治療面でも従来の副交感神経遮断剤とともにL-dopaを中心とした薬剤が広く用いられる.つまり線条体におけるアセチルコリン活性を抑制し,ドーパミン活性を高めるのが治療の原則である(図1).
 本症の主症状は筋強剛,振戦,無動〜寡動である.その他独特な仮面様顔貌,脂顔,流涎,言語緩徐〜小声,前屈姿位,歩行緩徐および突進現象,書字障害・小字症,膀胱障害,便秘などを示すほか,洗面,食事,寝がえり,着衣,用便など日常生活動作にも著しい支障をきたし,また抑うつ,消極的,無気力,自己中心的,時に幻覚など精神症状を伴うこともある.これらの症状を観察しつつ薬物の効果を評価する.

長期治療の問題点と対策—up and down現象とon and off現象

著者: 安藤一也

ページ範囲:P.2122 - P.2123

はじめに
 8年来パーキンソン病の治療はL-dopa療法が主体となっている.L-dopa療法は治療初期には劇的な効果をみることが多いが,治療開始1,2年後から効果の減退を示すものが出現してくる.この治療効果の低下は,①L-dopaの中枢性副作用であるdyskinesiaや精神症状の出現率が漸次高くなり,十分有効な1日量の服用が困難となる例がでてくること,②服用後の効果の持続時間が短縮し,効果が切れてくると症状が悪化し,次の服薬でまた良くなるという症状の日内変動(up and down現象)をみるものが増加すること,③脳内の変性過程の進行により線条体でL-dopaをドパミンに変える脱炭酸酵素の減少やドパミン受容体の感受性の低下などの起きてくることなどの要因による.
 さらに治療効果の減退のほかにlong-term L-dopa syndromeという特殊な状態をみることも少なくない.

長期治療の問題点と対策—L-dopaにょる精神症状

著者: 雨宮克彦

ページ範囲:P.2124 - P.2125

はじめに
 今日,L-dopaはパーキンソン病(以下,パ病と略す)治療の第一選択薬物となっている.しかし,L-dopa治療中に多彩な精神症状が出現し,そのため治療を中断せざるを得ない場合も多い.そして,この精神症状は治療開始数ヵ月以内で発現することが多く,dyskinesiaが投与期間と平行して増加するのと対称的である.そこで本稿では標題のごとく必ずしも長期投与の症例のみに限定せず考察する.

5.神経病治療の問題点

顔面けいれん

著者: 若杉文吉

ページ範囲:P.2126 - P.2128

はじめに
 顔面けいれんは痛みもかゆみもなく,生命の危険もないことから長い間医療のスポットを当てられなかった不思議な疾患である.
 わが国で若干注目されるようになったのは昭和37年,筆者が穿刺圧迫法による神経ブロック療法を創案してからである.それまでは稀であるといわれていたが,実際に診療してみると悩んでいる例が多く,現在の病院に赴任してから,53年3月末までに4,781例を診察している.おそらくわが国には10万人の患者がいるものと推定している.

周期性四肢麻痺

著者: 篠原幸人 ,   高木繁治

ページ範囲:P.2130 - P.2131

はじめに
 周期性四肢麻痺は発作性に起こる四肢および躯幹の脱力と弛緩性麻痺を主症状とする一種の症候群と考えられ,臨床的にいくつかの型に分類される.発作間歇期には通常自他覚的に異常をみないが,麻痺発作の頻発する症例では稀に筋萎縮,持続性の筋力低下がみられる,本症の原因は未だ不明であるが1),本症に共通した因子として電解質異常がみられる.本来,良性の疾患で,主として下肢の脱力ではじまり,上肢,稀に躯幹筋を侵すが,発作の際呼吸筋麻痺のため死亡した例も報告されている2).本邦における周期性四肢麻痺は欧米に比し家族性のものが少なく,甲状腺機能亢進症を伴う症例の多いことが特徴である.以下,代表的な病型について,麻痺発作に対する治療と発作の予防法とに分けて述べてみよう.

多発性筋炎

著者: 恒松徳五郎

ページ範囲:P.2132 - P.2133

はじめに
 多発性筋炎(polymyositis)は筋力低下を主症状とする一次性筋疾患で,筋線維の変性壊死,単核炎症細胞の浸潤を主病変とする.同時に皮膚病変を伴うものを皮膚筋炎(dermatomyositis)と呼ぶ.臨床的に他の血管結合織疾患(膠原病)と密接な関連を持つ.病因は不明であるが,自己免疫,ことに細胞性免疫異常によるとする考えが有力である.電子顕微鏡で筋生検組織中にウイルス様構造物が見出されているが,ウイルス説を支持するに足る根拠は乏しい.本症には悪性腫瘍を合併する頻度が大きいことも特徴である.

一過性脳虚血発作の治療

著者: 高木康行

ページ範囲:P.2134 - P.2135

はじめに
 脳卒中発作を予知し,予防することは脳血管障害の死亡率を減少させる最も有効な方法である.脳梗塞の前兆として注目されている一過性脳虚血発作を効果的に治療することはその第一歩といってよい.
 一過性脳虚血発作(TIA)は,脳血管発作の一型と考えられているが,本来この診断名は病理的変化をもとにつけられたものでなく,病期あるいは一つの臨床症状をさしたものであることを銘記しなくてはならない1)

脳卒中の救急治療

著者: 沓沢尚之

ページ範囲:P.2136 - P.2137

脳卒中に対する救急医療の必要性
 脳卒中は重篤で,死亡率の高い疾患である.いったん発症すると経過は急激で,一般に生存期間が短いことが知られている.従来,わが国においては,脳中には安静が重んじられ,患者は倒れた場所にできるだけ動かさないようにし,医師の往診による在宅治療を行う慣わしがあった.その理由として,疾病の性質上,重篤かつ経過が急激で,病院へ移送する期間的余裕がないことも一因と考えられるが,さらに脳卒中で倒れた場合は,何よりも安静が第1という長い間の慣習が今なおつよく残っていることを示しているように思われる.
 たしかに脳卒中に安静が大切であることは,今も昔も変わりない治療上の原則と考えられるが,安静のみに固執して合理的治療に必要な診断,検査がなされないまま,いつまでも倒れた場所で保存的治療に終始することは,近代医学の進歩からみて必ずしも得策とは思われない.

頭蓋内出血の手術適応

著者: 伊藤善太郎 ,   大田英則

ページ範囲:P.2138 - P.2141

はじめに
 頭蓋内出血には通常,高血圧性脳出血,クモ膜下出血,その他の原因によるものがある(表1).これらは適切な外科的処置によって良好な結果を得る症例も多く,破裂脳動脈瘤,重症脳出血例などでは手術が唯一の治療法である場合が多い.すべてにわたって詳述することはできないので,本稿では高血圧性脳出血と破裂脳動脈瘤について手術適応のたて方について述べる.

片麻痺の早期リハビリテーション

著者: 横山巌

ページ範囲:P.2142 - P.2143

はじめに
 片麻痺の早期リハビリテーションの主なる目的は二次的合併症の予防にある.片麻痺の最大の原因疾患である脳卒中について,その機能回復の経過をみると,発病直後の広範囲にわたる重度の麻痺は,脳内の浮腫の消退,diaschisisの改善とともに軽快し,大部分の患者は発病後ほぼ6カ月で,脳内の実際に破壊された脳細胞に由来する麻痺その他の神経症状をのこすようになる.
 しかし,現実には,脳卒中発病後数カ月の間に各種の合併症が二次的に派生し,この時点で上記の病巣症状に付け加わって病像を複雑化し,機能障害を重度化していることが常である.起こりやすい合併症としては拘縮,褥瘡,筋萎縮,骨萎縮,起立性低血圧,二次的痴呆,二次的屎尿失禁(以上は廃用症候群とよばれている),肩亜脱臼,反張膝,肩手症候群,異所性骨化,末梢神経麻痺などがあげられる.これらの二次的合併症の予防が片麻痺の早期リハビリテーションの目的である.

6.神経障害患者の対策

老年痴呆

著者: 長谷川和夫

ページ範囲:P.2144 - P.2145

はじめに
 老年痴呆は脳の老化と密接な関連をもつとされている.少なくともその発症頻度は加齢とともに急速に増加する.近年の人口高齢化に伴って,本疾患も増加し,医学的および社会的対策が望まれている.
 ところで老年痴呆の形態学的背景には脳神経細胞の一次的変性,萎縮があげられる.その病因がいまだ未知のヴェールに包まれている現状では,対症的治療と介護とが本症の治療に当たっては重要な課題とされる.

植物状態患者

著者: 児玉南海雄 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.2146 - P.2147

植物状態患者の定義
 Useful lifeを送っていた人が,脳障害を受けた後に以下の6項目を満たす状態に陥り,いかなる医療の努力によってもほとんど改善することなく満3カ月以上経過した場合,植物状態患者と定義している.
 1)自力で移動ができない.

7.いわゆる難病の治療と管理

重症筋無力症

著者: 飯田光男

ページ範囲:P.2150 - P.2151

はじめに
 重症筋無力症(MG)は,従来より発症機序として終板異常が考えられているが,最近はこれに対する治療法とともに,胸腺を中心とする免疫異常に対する治療法も積極的に開発され,厚生省難病研究班においても,現時点における本症の治療の一応のstandardを求めて,鋭意努力中であるが,なかなか一本化は困難のようである.ここでは,現時点において,MGについてこのような方策が,まず適当であろうと研究班で考慮中のものを中心として,まとめてみる.

進行性筋ジストロフィー症

著者: 大澤真木子 ,   福山幸夫

ページ範囲:P.2152 - P.2155

はじめに
 進行性筋ジストロフィー症は,単因子遺伝に従う,骨格筋の一次的な「進行性変性」を特徴とする疾患群である.表1のごとく,臨床的にも相互に異なるいくつかの疾患単位が含まれる1).治療上の最も重要なことは,診断を確実にすることである.臨床上,多発性筋炎との鑑別が非常に困難なことがあるからである2)
 筋鞘膜の透過性障害が主因と考えられているが未だ本態は明らかでない.不幸にして,本症の進行増悪を阻止,改善,治癒せしめるだけの有効な治療法はない.しかし,不十分ながら,現今の諸種の医療を受けることにより,確かに生活の改善や生存期間の大幅な延長などの効果が得られる.その治療は,①薬物療法,②一般的療法,③理学療法④社会生活への適応および心理的諸問題へのアドバイス,⑤遺伝相談に分けられる.

筋萎縮性側索硬化症

著者: 木下真男

ページ範囲:P.2156 - P.2157

はじめに
 筋萎縮性側索硬化症は,難治性神経疾患の中でも,臨床症状が発現してからの進行が著しく速い点で難病の典型として有名である.現在までに数多くの治療が試みられてきたが,わずかに若干の薬剤で対症療法的作用が知られているのみで,この病気自体に効果を有する治療法は見出されていない.したがって,現時点での治療の中心は,合併症を防いで可能な限り患者を生存させておくことに限定されてしまうが,その間できるだけ患者の不快を避けるような管理が必要となる.本稿ではこれらのあらましを述べるとともに,管理上の2,3の問題点に触れてみたい.

脊髄小脳変性症

著者: 中西孝雄

ページ範囲:P.2158 - P.2159

はじめに
 脊髄小脳変性症とは,運動失調を主症状とし脊髄ならびに小脳に主病変を有する原因不明の変性疾患である.運動失調のほかに,錐体路症状,錐体外路症状,末梢神経症状,脊柱側彎,足変形などを伴うことがある.しかし,これらの臨床症状は,病理学的所見と必ずしも一致しない.病型分類について未だ統一された見解がないのはこのためである.下記の分類は,厚生省特定疾患脊髄小脳変性症調査研究班(以下厚生省調査研究班,班長:祖父江逸郎教授)が作成したものである(1977)1)
 1)小脳が主として障害される型

多発性硬化症

著者: 濱口勝彦 ,   大野良三

ページ範囲:P.2160 - P.2162

はじめに
 多発性硬化症(以下MS)は中枢神経系の主として白質を障害する原因不明の慢性再発性疾患であり,その難治性のために治療法の確立が急がれているが,現在なお本症に対し特異的に有効な治療法は見出されていない.従来試みられた治療法としては,Histamine,Tetraethylammonium chloride(TEA),Hyderginなどの血管拡張剤,肝抽出液やビタミン剤,Dicoumarol,Clofibrateなどの血液凝固に関連する薬剤,Succinate,Adenosine monophosphate,Tolbutamide,Cocarboxylaseなどの糖質代謝に関連する薬剤,Galactose,Heparine,脂肪酸,消化酵素などの脂質代謝に関連する薬剤の投与や低脂肪または高脂肪の食事療法,Isonicotinic acid hydrazide投与,Piromen,膵抽出液,Pancorphen,髄腔内Tuberculin注入などの異種蛋白療法,Russian vaccine,輸血,ヒトγグロブリンやYeast(Proper-Myl)の静脈内投与などがあげられるが,いずれも効果は明らかでない.
 本稿では現在試みられている特異的療法について概説するとともに,増悪予防の一般的注意,筋力低下,膀胱直腸障害,疼痛などに対する対症療法,合併症の対策について述べることとする.

IX.免疫・アレルギー疾患 1.アレルギー疾患の局所療法

アレルギー性皮膚病変の局所療法

著者: 古谷達孝 ,   山崎雙次

ページ範囲:P.2164 - P.2166

はじめに
 アレルギー性疾患には皮膚を病変の座とするものがきわめて多い.アレルギー性反応の反応型で,すなわち発症機序別にみた場合,1,2,3,4型に属するアレルギー性病変のいずれにおいても皮膚に病変が発症する.反応型はさておき,病変を組織学的所見よりみた場合,表皮病変(粘膜病変を含む),真皮病変,血管病変(血管拡張,一過性浮腫を含む)が基調的病変を形成するものとに大別することができ,これらはまたしばしば軽重の差こそあれ,相互に重合していることが多い.そしてまた組織学的所見により滲出性病変,増殖性病変,肉芽腫性病変,さらには変性壊死性病変とに大別することができる.臨床的見地よりみて,痒みの有無もまた1指標とすることができる.このようにアレルギー性皮膚病変にはさまざまのものがあるが,汎く局所療法の対象となるものは臨床的所見よりみて,①ビラン・壊死性病変,②いわゆる湿疹性病変,③痒疹性病変,④その他に大別することができよう.上記の皮膚病変に対する皮膚科学的局所療法の概要につき列記してゆきたい.

鼻アレルギー局所薬物療法—適応と使い方

著者: 奥田稔 ,   今野昭義

ページ範囲:P.2167 - P.2169

はじめに
 全身的副作用をさけ,局所に大量の薬剤を投与できる点で局所薬物療法は大きな利点をもっている.鼻腔への局所投与は操作が簡単なため噴霧器やネブライザーを用いて,古くから一般に行われているが,最近鼻用の定量噴霧器,撒粉器が作られ,また局所療法に適当な抗アレルギー剤が開発されたためより一般的になり,患者自身の自宅治療が容易となった.鼻アレルギーの主な薬物療法について紹介したい.

2.アレルギー疾患の全身療法

アレルゲンエキスによる減感作療法

著者: 野口英世 ,   鈴木一

ページ範囲:P.2170 - P.2171

はじめに
 1910年,イギリスのNoonが花粉症の患者に花粉の抽出液の少量から,漸次増量して注射する現在の減感作療法を多数の患者に実施し,かなりの好成績をあげてから広くこの治療法が行われてきた.わが国では川上が室内塵抽出液を用いて初めて喘息患者に減感作療法を実施してから20年をすぎ,現在では減感作療法は喘息,アレルギー性鼻炎などアレルギー性疾患の治療法として位置づけられ,その有効性についても多くの研究がなされ異論は一掃された感がある1),しかし,社会保険支払基金における筆者の乏しい観察でも,一般開業医家のアレルギー疾患に対する減感作療法の関心は未だ多くない.
 その原因はどの辺にあるか.アレルゲン決定の面倒さか,周囲にある無数のアレルゲンに比し,実際治療に使用するアレルゲンエキスは少なく,この療法の限界もあることか,また有効性が少ないと考えられているのであろうか.この時にあたり,昨年,日本アレルギー学会において川上会長は気管支喘息治療の再評価をシンポジウムにとりあげられた.その内容をふまえて,減感作療法について述べてみたい.

抗ヒスタミン剤の適応と与え方

著者: 水島裕

ページ範囲:P.2172 - P.2173

薬理作用と適応症
 抗ヒスタミン剤の薬理作用の中心はヒスタミン拮抗作用であるが,類似のchemical mediator,たとえばアセチルコリン,セロトニン,アドレナリンやブラディキニンなどに拮抗するものもある.その他の重要な薬理作用としては,中枢抑制作用,鎮吐作用,止痒作用,腺分泌抑制作用(アトロピン類似作用),局所麻酔作用などがある.これらの薬理作用のため,抗ヒスタミン剤はアレルギー性疾患以外の種々の疾患にも広く応用されている.
 適応性としては,多くのタイプの蕁麻疹,アトピー性皮膚炎,接触性皮膚炎などの皮膚疾患がまずあげられる.これらの疾患に対しては,抗ヒスタミン剤のヒスタミン拮抗作用とともに,その止痒作用が役に立つ.アレルギー性鼻炎に対しても有効であるが,気管支喘息に対しては,小児を除き概して有効ではなく,痰を粘稠にし,喀出を困難にするので,むしろ症状を悪化させる.

心身医学的治療

著者: 吾郷晋浩

ページ範囲:P.2174 - P.2176

心身医学的な考え方
 いわゆるアレルギー性疾患(表1)に対する心身医学的な考え方は,それを遺伝的・先天的な素質と後天的な諸因子とによって,"いわゆる発症準備状態(感作された状態を含む)"ができ,そのような状態ができあがったときに,さらに誘因(抗原を含む)が加わって発症してくるものと考える.そして,そのような"準備状態"の成立に,心理・社会的な因子によってひき起こされる身体的な変化の影響を無視できないものと考える(図1,2).
 したがって,心身医学的な治療における心理的治療のねらいも,ただ単に誘因としての心理・社会的な因子を処理するだけでなく,それで直ちに身体症状は起こらないが,"準備状態"を成立させる因子として働いている心理・社会的な因子をも処理しようとするとてうにある.すなわち,次の臨床症状の出現を予防しようとするところにあるということができる.

生活指導

著者: 高橋昭三

ページ範囲:P.2178 - P.2179

はじめに
 アレルギー性鼻炎,気管支喘息,蕁麻疹,アトピー性皮膚炎,アレルギー性接触性皮膚炎などを代表とする多くのアレルギー疾患は,多かれ少なかれ急性疾患と慢性疾患の両方の性格をもっている.多くの場合,急性疾患としての症状を反復しているうちに,慢性疾患としての性格を現してきて治癒が困難となり,患者のみならず,家族をも苦しめることになる.治癒しにくいために生ずる不安,あせり,迷いは,現在のような情報過多の時代ではいたずらに助長され,ときには医師に対する不信を生み,転々と医師をかえることにもなりかねない.
 これを避けるためには,病気の性質,治療の方法や目標,予後のある程度の見通しなどを患者(および家族)にできるだけ詳しく説明し,理解させ,また治療効果をあげるたあには患者(および家族)の協調が必要であることを十分理解させ,よい医師・患者関係を築きあげることが大切である.治療の面で大きな役割を果たす生活指導も,その前提となるのは医師・患者の信頼関係である.

3.免疫異常の治療

免疫抑制療法の効果

著者: 螺良英郎

ページ範囲:P.2180 - P.2181

免疫抑制療法とは—現状からみた批判
 免疫抑制療法とは免疫抑制を招く因子を利用して治療をはかる方法である.免疫能の抑制をきたす因子には,広い意味では種々の薬剤や方法が入っている.すなわち,抗炎症剤や副腎皮質ホルモン剤も,また胸腺切除や胸管ドレナージも,広義の免疫抑制療法に加えてもよいが,実際には,サイクロホスファミドやアザチオプリンなどの化学的免疫抑制剤による治療に限って免疫抑制療法とよんでいる.本治療法の対象となる疾患は結合織病(膠原病)が主であるが,その他の自己免疫疾患群も含まれる.別に外科的領域では,臓器移植後の拒絶反応の抑制にも用いられている.
 免疫抑制療法の終極目標は難治である結合織病をはじめ自己免疫疾患群にあって,病因となる免疫学的機序を免疫抑制剤でもって是正することにより治療を計るものであって,病因に対する根治療法ともいえるものである.しかし実際には,これら自己免疫疾患群における免疫学的な病因論が確立されておらず,また免疫病態についても漸く一部が明らかになってきた段階であるので,目下のところは,ただ免疫抑制剤による臨床効果の上からその作用機作を推察しているにすぎない.

γグロブリン製剤の適応と使い方

著者: 堀誠

ページ範囲:P.2182 - P.2184

はじめに
 抗体保有量が生体のホメオスタシス維持のために必要なレベル以下になれば,感染防御に抗体を必要とする微生物による感染症を反復し,症状の重篤・遷延化がみられるようになる.
 このような状態は,各種の先天性免疫不全症をはじめとして,後天性にも惹起される.後者においてはリンパ組織の悪性腫瘍,血液疾患およびその治療に基づくものが目立っている.生理的にも幼若乳児期にはこの傾向があり,従来からこれらの状態を補強するため,成人血清,成人血漿の移入,輸血,回復期患者血清の使用が行われてきたが,一部の微生物の抗体を除けば,その抗体活性の大部分がCohnの免疫グロブリン分画にあることが判明してから,最近では免疫グロブリン製剤が広く用いられるようになった.

X.血液・造血器疾患 1.貧血の治療

鉄欠乏性貧血における鉄剤の使い方

著者: 岡崎通

ページ範囲:P.2186 - P.2189

はじめに
 貧血の診療に際しては,貧血は病名ではなく,症状であるという認識が重要である.しばしば貧血の原因の追究およびその治療が放置され,症状である貧血のみが診断,治療の対象となっている.特に鉄欠乏性貧血の原因には消化管出血が多く,鉄欠乏が治療可能な初期の癌の最初の所見であることがある.鉄欠乏性貧血の発見には,自覚症の有無はあまり参考にはならない.貧血は高度であっても,長年にわたる場合,患者は鉄欠乏状態に適応し,また患者自身が真の健康を知らないために,比較の対照がなく,問診では自覚症状がないということになる.鉄欠乏を是正してやると,初めて治療前の病的状態を認識できるようになる.鉄欠乏には貧血を呈するまでにその前段階があり,すべてが治療の対象となる.鉄欠乏の診断は,鉄欠乏の確認とその原因の発見,治療は鉄欠乏の原因の除去あるいは治療と鉄剤による鉄欠乏の是正と,各々が2つの要素からなる.

鉄欠乏性貧血の食事療法

著者: 長谷川淳

ページ範囲:P.2190 - P.2191

鉄欠乏性貧血の原因1〜3)
 鉄欠乏性貧血はあらゆる年齢層の男女両性にみられるが,その原因として多量の出血による鉄分の損失と,食事性不足による鉄欠乏などがあげられる.15〜50歳の女性では著しく出現頻度が高く,男性は女性に比して明らかに少ない.
 男性の場合は,正常の状態では鉄の排泄は少なく,0.6〜0.7mg/日が腸粘膜上皮・皮膚上皮,腎や膀胱上皮の脱落によって失われる.一般的に1日の食物中には10mg前後の鉄が含まれていて,そのうち6〜10%が吸収される.したがって,吸収鉄量と排泄鉄量とはバランスが保たれている.しかし,身体の発育に伴う全血液量,筋肉量,組織量の増加は当然鉄需要の急激な増加をもたらすので,成長期の子供や女性の場合には鉄の需要が大きく,食物の内容が鉄欠乏の発症に大きな影響がある.出生時母から引き継いだ300mgの体内総鉄量が,成長期には3〜4gになるので,それを充足するためには前述の0.6mg/日が必要となる.

溶血性貧血の治療

著者: 三輪史朗

ページ範囲:P.2192 - P.2193

はじめに
 溶血性貧血とは,なんらかの機序によって赤血球が早期に崩壊する結果生ずる貧血の総称で,一つの症候群であり,原因はさまざまである.先天性のものは赤血球膜,酵素,ヘモグロビンのいずれかの遺伝的欠陥により起こり,後天性のものは発作性夜間血色素尿症の例外を除いては,抗体とか血管壁の異常など赤血球以外の異常にもとづく.赤血球崩壊亢進にもとづく症状,すなわち貧血,黄疸(間接ビリルビン増加),脾腫と,赤血球の代償的産生亢進にもとづく症状,すなわち網赤血球増加,骨髄赤芽球系過形成像の存在などにより診断し,各病型の診断にはさらに詳細な検査を行う.治療方針決定のうえに正確な病型診断が要求される.以下,主要な溶血性貧血の治療につき述べる.

再生不良性貧血に対する蛋白同化ホルモン療法

著者: 広田豊

ページ範囲:P.2194 - P.2197

はじめに
 再生不良性貧血(以下再不貧と略す)は骨髄中の幹細胞が障害をうけているものと推測され,その影響かまたは骨髄微小環境(HIM)の障害も関連してか分化方向をもった幹細胞のunitであるCFU-EおよびCFU-Cの産生低下が証明される.根本的に荒廃しきった骨髄組織の置換が最も合目的治療法であるが,実際臨床上これを推進する骨髄移植については技術的にもまた社会医学的にも問題が残されており,一般普及には未だ時を要する.そこで,骨髄刺激を期待し血球の増加をはかる薬物療法が取り上げられることになるが,これには昨今蛋白同化ホルモン(以下「蛋白ホ」と略す)・男性ホルモン(以下「男性ホ」と略す)が第一治療選択剤としての評価を得つつある.
 この治療法が再不貧治療に取り上げられる端緒となったのは,乳癌患者の治療に男性ホを投与していると血球の増加がみられたとすることより1),再不貧に対し小児についてはShahidi,Diamondらの副腎皮質ステロイドホルモン(以下「副皮ホ」と略す)と本剤の併用2)がまた成人再不貧に対してGardnerらの報告を以ってである.

ビタミンB12の与え方

著者: 内野治人

ページ範囲:P.2198 - P.2199

はじめに
 貧血治療にあたってのビタミンB12投与の必要がある場合は,B12欠乏性貧血のみである.したがって,その対象疾患は表1に示すB12欠乏症にかぎられる.一般的にいって,巨赤芽球性貧血のうちのB12欠乏症であり,貧血の種類でいえば,高色素性大球性貧血である.

葉酸治療の適応と投与法

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.2200 - P.2201

葉酸についての基礎的事項
 葉酸の構造 一般的に葉酸とは葉酸同族体folatesとして総称される一群の化合物をいう.その基本的構造は,図に示すプテロイル・モノグルタミン酸pteroylmonoglutamic acid(以下PGAと略す.狭義の葉酸folic acidである)で,プテリジンとパラアミノ安息香酸とから成るプテロイン酸に1個のグルタミン酸が結合している.葉酸同族体としては,①複数のグルタミン酸(通常5〜6個)の結合した型(polyglutamate),②プテリジン核に2ないし4個の水素が結合した還元型(それぞれFAH2,FAH4とよばれる),③5または10の位置にホーミル基(-CHO),メチル基(-CH3-),メチレン基(-CH2-),メチニル基(-CH=),ホルムイミノ基(-CHNH-)などの結合した型がある.
 所要量および貯蔵量 血液葉酸値の低下をきたさない最少葉酸摂取量は50〜100μg/日以上で,葉酸欠乏症で血液学的反応を起こし得る最少葉酸投与量は25〜50μg/日または100〜800μg/日といわれているので,成人の葉酸所要量は100〜200μg/日とされている.乳児の場合には5〜20μg/日,妊娠の場合には200〜300μg/日である.成人の体内貯蔵量は10〜20mgである.

ピリドキシンの適応と与え方

著者: 宮崎保 ,   高橋正知

ページ範囲:P.2202 - P.2205

はじめに
 ピリドキシン投与により効果の認められる貧血はまれながら存在する.赤血球造血にピリドキシンの関与していることは,豚のピリドキシン欠乏にて貧血を認めたWintrobeらの報告,ヒトでは2人の脳水腫,幼児の1人に貧血を認めたSnyderrnanらの報告以来多くの研究がなされている.ピリドキシン投与で効果の認められる貧血は広義のピリドキシン反応性貧血であるが,これは大別するとピリドキシンの少量(1〜5mg/日)1,2)で効果の認あられるピリドキシン欠乏性貧血と大量(50〜500mg/日)1,2)で初めて効果の認められるピリドキシン反応性貧血(狭義)がピリドキシンの適応症である.以下,これら疾患について要点を記し,自験例を紹介しピリドキシンと赤血球造血についてその病態生理にふれ,最後にピリドキシンの与え方を述べる.

2.白血病の治療

抗白血病剤の使い方—急性非リンパ性白血病

著者: 宇塚善郎

ページ範囲:P.2206 - P.2207

はじめに
 成人急性非リンパ性白血病(ANLL)の治療は,最近,DNR,Ara-Cを中心とした多剤併用療法の導入によって著しい進歩がみられ,完全寛解率は50〜60%に達しており,70%を超える報告も散見されている1)が,本稿では筆者の開発したDCMP2段治療法について述べる.

抗白血病剤の使い方—急性リンパ性白血病

著者: 山口潜

ページ範囲:P.2210 - P.2211

はじめに
 急性リンパ性白血病(以下ALL)の治療方針は基本的には急性骨髄性白血病(以下AML)の場合と大差はなく,作用機序を異にした強力な4〜6剤の多剤併用投与が行われるが,一般にALLのほうがAMLよりも寛解導入が容易である.
 AMLの治療と比較した場合,ALL治療の特徴としては,①プレドニソロン(以下PSL)を比較的大量用いる(1日60mgぐらいまで),②ダウノマイシン(以下DM)はあまり大量用いない(他の抗白血病剤で完全寛解導入が比較的容易であり,DMは心筋障害・粘膜の潰瘍形成など副作用に重篤なものが多い),③L-アスパラギナーゼが有効である,などの点があげられる.

急性白血病における感染予防と治療

著者: 武尾宏

ページ範囲:P.2212 - P.2213

はじめに
 急性白血病の緩解率は,新しい抗白血病剤の出現と投与法の進歩により,着実に上昇しつつあり,生存期間も明らかに延長している.しかし反面,強力な骨髄抑制により,正常の顆粒球およびリンパ球をも減少させ,治療経過中にみられる種々の感染症の出現頻度も増加している.これらの感染症は重篤であり,しばしば直接死因となる.したがって,治療経過中に出現する感染症を予防することができれば,より強力な抗白血病治療が可能となり,急性白血病の緩解率と生存期間はさらに向上するものと思われる.このような目的で無菌環境下における白血病の治療が行われており,今後さらに普及すると思われる.以下,筆者らの経験も含めて,急性白血病における感染症の予防とその治療について述べる.

白血病におけるDICの治療

著者: 正岡徹

ページ範囲:P.2214 - P.2215

はじめに
 急性白血病はとくに急性前骨髄球性白血病においては,DICを合併することが多いこのような白血病においては診断後,入院までの間に脳出血をきたし死亡することもしばしば経験するので,とくに注意が必要である.当センターにおいて1973年以前のAPL 6例はいずれも1〜2カ月で死亡しており,その後の9例では,そのうち6例に完全寛解が得られているものの,計15例中には4例の入院前または入院2日以内の死亡を含んでいる.急性前骨髄球性白血病の治療の問題点としてはDICによる早期死亡1)と白血病性の前骨髄球の抗白血病剤に対する感受性の低いことがあげられる.以下,主として急性前骨髄球性白血病にDICを合併した場合の治療について述べる.

中枢神経白血病の治療

著者: 藤本孟男

ページ範囲:P.2217 - P.2219

はじめに
 白血病の近代的治療は,生存期間を著しく延長させた.この延長は,抗白血病剤が浸透しにくい薬理学的聖域に撒布・残存している白血病細胞に,増殖浸潤する時間的余裕を与え,寛解期合併症として,中枢神経白血病(CNS-Lと略)を増加させた.1960年以前では,CNS-Lの頻度は急性リンパ性白血病(ALL)で4〜25%であったが,1960年後半より1970年にかけて27〜61%に増加し,当教室でも1)CNS-L頻度は,1960〜70年では22〜27%であったが,1971〜73年では48%に急増している(表).急性骨髄性白血病(AML)でも12.8%であり,最近の治療の向上に伴う生存期間の延長は,ALLと同様にAMLでもCNS-Lの増加をさせている.
 CNS-Lはまずarachnoid表在の血管壁の白血病細胞浸潤にはじまり,さらに血管および血管周囲に浸潤して脳・脊髄に進展し,遂にはpia-glial membraneを破壊して,脳・脊髄の実質に浸潤し破壊していく.

急性白血病の免疫療法

著者: 大野竜三 ,   山田一正

ページ範囲:P.2220 - P.2221

はじめに
 急性白血病に対する化学療法の進歩はめざましく,完全寛解率の向上と生存期間の着実なる延長を認めている.しかしながら,抗白血病剤による維持療法にもかかわらず,大部分は再発し,死の転帰をとるのが現状である.したがって,化学療法に加える他の治療法の開発が切望され,その一手段としての免疫療法は,Mathéらの小児急性リンパ性白血病に対し有効であったとする報告1)来,各種の方法で急性白血病に対し試みられている.
 しかるに,人癌の免疫療法の施行に当たっては免疫療法の対象とする腫瘍に免疫が効果を発揮しうる抗原すなわち腫瘍特異抗原が存在していることの確認が必要であり,この特異抗原の存在の証明なしには,免疫療法の妥当性はえられない.したがって,本稿ではまずこの問題を明らかにし,ついで癌の免疫療法の原則にふれ,最後に現在筆者らが試みつつある急性白血病の免疫療法のポイントにつき述べる.

3.薬剤使用のコツ

抗凝血薬治療のコツ

著者: 前川正

ページ範囲:P.2222 - P.2223

はじめに
 抗凝血薬とは血液凝固や血小板凝集を阻害することにより血栓塞栓症を予防し,血栓の成長を抑制することを主目的とする薬剤である.血栓溶解剤ウロキナーゼ(UK)も広義の抗凝血薬とみなして本項に加えたい.

副腎皮質ステロイド大量療法の適応と使い方

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.2224 - P.2225

はじめに
 血液疾患の治療に用いられている副腎皮質ステロイドの量は通常極あて大量で,どの程度の量をもって副腎皮質ステロイドの大量療法とするかは,その定義が極めて曖昧である.またかつて一部の急性白血病に対してprednisolone 1日1000mgのような極めて大量の副腎皮質ステロイドの投与が行われたことがあったが,現在ではこのような大量投与はほとんど行われていない.上述のような理由のため,本稿では血液疾患全体に対する副腎皮質ステロイドの投与について,その概要を述べるにとどめたい.

抗プラスミン剤の使い方

著者: 青木延雄

ページ範囲:P.2226 - P.2227

はじめに
 種々のストレスや炎症,組織損傷などにより,その局所や血中において,プラスミノゲン活性化因子が増加し,自然に存在する阻害因子との間の平衡が破れ,過剰にプラスミノゲンが活性化された状態が,病的な線溶抗進状態である.プラスミノゲンが活性化して出現したプラスミンはフィブリン溶解以外に,フィブリノゲン,第Ⅴ,第Ⅷ因子などの血液凝固因子を分解し不活性化したり,そのほかにもプレカリクレインを活性化し,キニン系を賦活して毛細血管透過性を亢進させ,また補体系を活性化させるなどの働きがあり,炎症反応を増強せしめ,またATCHを分解する作用を持つとされている.
 このように線溶亢進は炎症やアレルギーなどにも関連を有しており,出血傾向を惹起するほかに種々の障害をきたすことに注目する必要がある.したがって,過剰な線溶の亢進は抑える必要があるが,一方,線溶活性は血液凝固活性といわば平衡状態を保ち,生体全体の動的平衡状態の一端を担っていることも事実であり,いたずらに線溶活性を抑え,その動的平衡を破ることは各種臓器におけるフィブリン析出ないしは血栓傾向の増大という好ましからざる状態をきたし,危険であることを十分認識する必要がある.したがって,抗線溶剤(抗プラスミン剤)は,病的線溶活性の亢進とそれに基づく各種障害に対してきわめて強力な武器ではあるが,一方,安易に不必要な抗プラスミン剤の投与を続けることは厳に慎むべきと考えられる.

薬剤による血液障害の対策と治療

著者: 伊藤宗元

ページ範囲:P.2228 - P.2231

はじめに
 薬剤による臓器障害の中で,最も多く,かつ重篤なものに血液障害がある,その中で,顆粒球減少症,血小板減少症が最も多く,再生不良性貧血,溶血性貧血がそれに次ぎ,稀なものに巨赤芽球性貧血,赤芽球癆,鉄芽球性貧血,ポルフィリア,メトヘモグロビン血症,凝固因子異常,さらに白血病発生などがある.

4.血液成分の輸血と骨髄移植

冷凍血液とその適応

著者: 湯浅晋治

ページ範囲:P.2232 - P.2233

はじめに
 最近の輸血療法は患者の治療にあたって合理的な,そして血液の有効利用に役立つ成分輸血へと変わってきた.冷凍血液といえば一時は稀な血液型の保存にのみしか利用されなかったが,現在ではその臨床的効果の面から赤血球輸血のうちでもとくにすぐれたものとして多く利用されるようになってきた.本邦でも厚生省の規準もでき,健康保険にも適用されている.

血友病および類縁疾患の補充療法

著者: 安部英

ページ範囲:P.2234 - P.2236

血友病A
 血友病には,欠損する凝固因子によりAおよびBの2種類があるが,同様にこれらの因子の活性が低下するvon Willebrand病も類縁疾患として取り扱われ,治療には,それらの欠損している凝固因子を補充するのが最も的確かつ容易である.その補充薬剤としては正常血漿も用いられるが,血友病Aおよびvon Wiliebrand病の場合,現在はこれを低温で凍結させた後0〜4℃で再び融解させ,析出するクリオプレシピテート,あるいはこれをさらに精製した第VIII因子濃縮製剤が用られている.本稿ではこのうち,主に第VIII因子製剤の用法について述べることにする.
 濃縮乾燥抗血友病ヒトグロブリンの特性 本剤は,採血後4時間以内につくった新鮮血漿または新鮮凍結血漿から直接に,またはそれからクリオプレシピテートを分離し,さらに精製してつくったものである.従来のクリオプレシピテートは1人の供血者の血液から1製剤がつくられるのに対し,本剤は50人分以上の血漿を集めた原血漿を原料にしてクリオプレシピテートをつくり,これを溶解して硫安や塩化カリで塩析したり,あるいはポリエチレングリコールで沈殿させたりした後,さらに合成樹脂による濾過を行ってフィブリノゲンや第VIII因子以外の凝固因子をできるだけ除き,第VIII因子の含量を高くして凍結したものである.

血小板輸血

著者: 雨宮洋一

ページ範囲:P.2237 - P.2239

はじめに
 血小板輸血の適応症は原則として,その治療目的とする血小板減少性出血が,種々の原因に基づく血小板産生能低下によるものであり,また血小板減少状態が,一定期間に限られている症例に対して行うべきである.
 すなわち,消費性の血小板減少症である特発性血小板減少性紫斑病(ITP)では,致命的出血の危険があるとき以外は用いるべきではなく,また効果も期待できない.また再生不良性貧血は,その血小板減少状態が持続的であるため,高度の出血がすでに存在するか,その危険が予測されるとき,あるいは外科的処置が必要なとき,などにのみ限定して用いるべきで,漫然と血小板輸血をくり返すことは慎まなければいけない.

白血球輸血—とくに顆粒球輸血について

著者: 下山正徳

ページ範囲:P.2240 - P.2242

はじめに
 近年,セルトリフユージやヘモネティックスモデル30などの血液成分分離装置を用いたり,ナイロンやテトロン線維からなる吸着濾過装置を用いて大量の顆粒球を採取することが可能となった.それに伴って,白血病や再生不良性貧血患者での顆粒球減少時に合併した重症感染症に対し,大量の抗生物質療法に加えて大量の顆粒球輸血が試みられ,著しい効果が期待できるようになった.
 当初は,慢性骨髄性白血病患者の末梢血顆粒球を採取して,顆粒球輸血として用いられたが,白血病細胞の生着とか,GVH反応などの副作用のため,現在はまず用いられない.主として正常人供血者から分離された正常顆粒球が現在用いられている.

Hyperviscosity syndromeのplasmapheresis療法

著者: 臼井亮平

ページ範囲:P.2243 - P.2245

はじめに
 hyperviscosity syndrome(過粘稠度症候群)の定義についてふれることにする.
 本症候群はある疾患において,血漿蛋白の異常に伴って血液粘度が著しく上昇し,その結果,流血中の流体力学的抵抗が増加し,特有な臨床症状をあらわす病態をいうのである1).代表的な疾患としては,多発性骨髄腫,マクログロブリン血症などがある.

骨髄移植

著者: 服部絢一

ページ範囲:P.2246 - P.2248

はじめに
 ヒトの骨髄移植は1939年頃から血液学者にょり試みられ,以来幾多の試行と失敗とをくり返したが,①動物およびヒトの組織適合抗原HLAの解明とテスト法の開発,②移植拒絶やgraft versus host reaction(GVHR)に対する予防法・治療法の改善,③成分輸血,無菌室療法などの支持療法の開発,強化など,移植免疫学,遺伝学,血液学の緊密な協同研究により,1970年以降,骨髄移植の成功例が相次いで報告され,世界的規模の登録制が布かれ,今日では世界でおそらく500を越える症例が積まれるに到っている.その実際と現状を簡単に紹介しよう.

5.放射線および外科的治療

悪性リンパ腫における放射線療法の適応

著者: 金田浩一

ページ範囲:P.2250 - P.2251

はじめに
 悪性リンパ腫は細網肉腫,リンパ肉腫,巨大濾胞性リンパ腫ならびにホジキン病の総称である.わが国においては細網肉腫が最も多く72%,リンパ肉腫とポジキン病はともに13%,巨大濾胞性リンパ腫が2%とされ,欧米のポジキン病が多いのと異なっている.
 近時,病理組織学,細胞免疫学の進歩によって悪性リンパ腫はホジキン病以外は非ポジキンリンパ腫とよばれ,後者は結節型とびまん型とに分かれ,結節型は進行がゆるやかであるが,びまん型は進展の早いものが多く,わが国にはびまん型が多い.

摘脾の適応

著者: 衣笠恵士

ページ範囲:P.2252 - P.2254

はじめに
 脾は血球の崩壊処理の主たる臓器として,また自己免疫抗体の産生部位として,種々の血液疾患と深いかかわりを有する.
 球状赤血球症(家族性溶血性貧血)では摘脾は絶対的適応となるほか,自己免疫性溶血性貧血,血小板減少性紫斑病では症状の改善が期待でき,同様の意味から再生不良性貧血に対しても摘脾が試みられている.

XI.腎疾患 1.腎炎薬物治療の問題点

腎炎の抗凝固療法の適応と限界

著者: 東條静夫

ページ範囲:P.2256 - P.2257

はじめに
 諸種の腎疾患において,その発生ならびに進展機序に免疫学的過程の有無にかかわらず,糸球体内血液凝固機転が密接に関連していることは,実験的および臨床の諸病態より実証されている.
 糸球体腎炎は,衆知のごとく免疫学的機序により発症するが,その発症過程において,血液凝固,線溶系が,補体活性系,カリクレイン-キニン系,白血球遊走などのmediatorsとともに糸球体障害を惹起するのに不可欠なものとされ,さらに進展過程においても,血液凝固線溶系が主要な役割を演ずることは,尿中FDP,プラスミンが血中フィブリノーゲンなどとともに,その活動性,進行性の指標となると考えられている.その他の腎障害,たとえば急性腎不全(腎皮質壊死),溶血性尿毒症症候群でも,血液凝固線溶系が病変の発生に中心的役割を演ずるとされ,さらに膠原病性腎障害,悪性高血圧症,晩期妊娠中毒症,糖尿病性糸球体硬化症,腎移植の拒絶反応などにも強い関連がみられるといわれている.かかる趨勢下に,上記諸種腎疾患に抗凝固療法が試みられている.ここにヘパリンを主体とする抗凝固療法と,血小板凝集阻止剤による療法につき概説する.

腎炎の線溶療法の適応と効果

著者: 石川兵衞

ページ範囲:P.2258 - P.2259

線溶療法の意義
 糸球体腎炎の成立機序については今日なお不明の点が少なくないが,基本的には免疫学的機序によって発症し,補体活性化,白血球遊走および糸球体内凝血などが腎炎の慢性化・進展に関与する組織傷害因子として重要な意義を有することが明らかにされている.
 一方,糸球体腎炎の治療については,まだ確実な方法のないのが現状であるが,最近の考え方として,上述の腎炎の成立・進展機序から表1のように整理することができる.このうち糸球体沈着フィブリンの除去を目的として行われるのが線溶療法であり,通常ウロキナーゼ(以下UK)が用いられる.UKはプラスミノーゲンの活性化を促進する組織性アクチベーターであるから,活性化されたプラスミンがフィブリン溶解作用をあらわすことになるが,腎炎に対する本薬剤の奏効機序の詳細はなお不明である.

腎炎の細胞免疫と免疫賦活剤

著者: 三條貞三 ,   小野駿一郎

ページ範囲:P.2260 - P.2261

はじめに
 人の糸球体腎炎の成因については未だ不明の点が多いが,現在までの実験腎炎における研究や腎生検組織の電子顕微鏡および螢光抗体法による観察などから,糸球体腎炎が免疫学的機序によって発症することが明らかになってきている.
 現在,糸球体障害の機序としては,血中の抗原抗体複合物が糸球体の基底膜やメサンギウムに沈着するか,あるいは抗基底膜抗体が糸球体の基底膜に沈着して腎炎が起こると考えられている.

ステロイドpulse therapyの適応と治療効果

著者: 飯田喜俊 ,   岩崎悦子

ページ範囲:P.2262 - P.2264

はじめに
 ネフローゼ症候群,SLE腎症や慢性に経過する腎炎の一部でステロイドがよく反応するが,最近,このステロイド,とくにメチルプレドニンを大量静注する治療が行われている,これがpulse therapyといわれるもので,はじめ腎移植に際して用いられ,効果が確かめられた.その後,ネフローゼ症候群,ループス腎炎,さらに進行性腎炎に対する積極的な治療法としても試みられている.

2.問題となる腎炎の対策

感冒のたびに再発をくり返す腎炎患者の対策

著者: 奥田六郎 ,   藤澤晨一

ページ範囲:P.2265 - P.2267

はじめに
 先に筆者らは急性糸球体腎炎の遷延化の背景の検討を行い,感染の影響を述べた.また扁桃の病巣の検討も発表した.これらの成績とともに自験例を提示し,与えられた問題を考えたい.なお,ここでいう腎炎患者とは,急性糸球体腎炎の遷延例,遷延性(慢性)糸球体腎炎で,尿所見も軽く(尿蛋白0.5g/日,せいぜい1.0g以下,赤血球沈渣10〜20/HPF以下),尿所見以外臨床症状もなく,諸検査成績も正常範囲(大島のdormant stage,木下のsmoldering form1,2)に大体相当)のものとする.また,再発とは上記の尿所見の悪化,腎症状のいずれかの再現したものとし,再燃ももちろん含めているものとする.

治療困難な腹水の対策

著者: 太田和夫 ,   阿岸鉄三

ページ範囲:P.2268 - P.2270

はじめに
 腹水の処置は古く,また常に新しい問題である.とくに最近は腹水に対する人工臓器的アプローチがなされつつあり,その効果も見るべきものがある.ここでは腎疾患に由来する腹水をいかに処理していくか,筆者らの経験を中心に述べてみたい.

3.腎不全の成因と対策

Uremic toxinの解明と透析装置の変遷

著者: 小林快三 ,   前田憲志 ,   小林千太郎

ページ範囲:P.2271 - P.2273

はじめに
 現在の透析療法はすぐれた方法であり,10年以上の長期生存も容易になってきている.しかし,この透析法もなお習慣的に行われている部分がかなりあり,能率のよい効果の高い透析法への道を複雑なものにしている.
 本稿においては,透析法によって除去しなければならないuremic toxinsの各々の毒性の強さや,その性状に応じた除去方法について述べる.さらに,これらの物質は透析時の透析効果判定の指標,非透析時の全身状態の指標としてもきわめて重要であるので,その臨床応用についてもふれたい.

非乏尿性急性腎不全の成因と対策

著者: 須藤睦雄 ,   本田西男

ページ範囲:P.2274 - P.2275

はじめに
 一般に,急性腎不全は,急激な乏尿,腎機能の廃絶および尿毒症を主徴とする症候群として定義されているが,その一部には乏尿(1日尿量400ml以下)を伴わない1群があり,非乏尿性(または多尿性)急性腎不全と呼ばれ,近年,注目されている.

4.透析患者の合併症対策

肝炎合併患者の透析上の問題点

著者: 小出桂三

ページ範囲:P.2276 - P.2279

はじめに
 従来から透析室は肝炎のhigh riskの部門と考えられており,透析患者および医顔従事者の間にB型肝炎が多発したという事実が報告されている1).したがって,医療従事者にとって透析室における肝炎の発生を防止することは極めて重大な関心事である.このような意味から肝炎合併患者の透析をどのようにするかという問題は,現実的に重要な問題である.これまで透析における肝炎予防対策を示したものに,WHOのTechnical Report Viral Hepatitis(No. 512,1973,No. 570,1975)があり,わが国では透析療法合同専門委員会から出された「透析医療従事者のウイルス肝炎予防対策」(第一次案,昭和49年6月)(第二次案,昭和53年7月)と「東京都B型肝炎対策専門委員会答申」(昭和51年1月)とがある.しかし,最近のウイルス肝炎の研究の進歩はめざましく,たくさんの新しい知見が得られている.
 本稿においては,まずわが国の透析施設における肝炎の発生状況を述べ,ついで筆者らの施設における肝炎発生の実態を報告し,その後,肝炎合併患者の透析上の問題点と透析室における肝炎予防対策について,述べてみたい.

心筋梗塞合併患者の透析上の問題点

著者: 原晃 ,   沢西謙次

ページ範囲:P.2280 - P.2281

はじめに
 正常な腎機能を有する者が,急性心筋梗塞のためショクッに陥り,急性腎不全になって透析を受ける場合と,すでに血液透析や腹膜透析を受けている者が心筋梗塞を合併した場合が考えられるが,前者については心筋梗塞のpump failureのうちでもショック(収縮期血圧90mmHg以下)に陥ると,その状態が持続するものは最も重症に属し,死亡率は90%といわれる.このような状態が続いて急性尿細管壊死を起こし,透析を必要とするに至るものは比較的稀である.後者については,従来慢性腎不全に合併する心疾患としては,うっ血性心不全,高血圧性左心不全,心包炎,心タンポナーデなどがとりあげられ,心筋梗塞の合併はあまり論じられたことがなかった.しかし,現在長期透析患者の動脈硬化が問題となっており,将来普通の人に比べて罹患率に差がでてくるかもしれない.

透析患者の分娩は可能か

著者: 大坪公子

ページ範囲:P.2282 - P.2283

はじめに
 透析患者の社会復帰は単に職場に復帰するだけでなく,幸福な家庭を築くことにあり,若い患者にとっては結婚,分娩は切実な問題となっている.一方,透析患者を管理する面からみれば,妊娠,出産は母体に危険が伴うので避けたいところであるが,医学的な面のみでは片づけられない患者側からの出産に対する強い要望があるのも事実である.
 原則的には透析患者の妊娠・分娩は避けるように指導すべきであるが,一般に女性透析患者は,月経不順の問題が多く,妊娠しても胎児の発育が遅れるため,妊娠に気づくことが遅い,したがって,母親や家族全員の強い分娩希望がある場合分娩へ向かって万全を期して準備させねばならない.

長期透析患者の合併症とその対策

著者: 中川成之輔 ,   吉山直樹

ページ範囲:P.2284 - P.2287

至適透析
 透析合併症のすべてが透析不足under dialysisによるとは限らないが,予防の基本は至適透析にある.この決め方は未だに本領域における論争テーマである.いくつかを紹介するにとどめる.
 Dialysis index1)次式において,D. I.=1.0に近いほど透析は適正に行われているとするものであり,逆算して透析時間/週を決定しうる.簡便なノモグラムが作製されており,提唱者に依頼すると送ってくれる.

長期透析患者の不安とその対策

著者: 平沢由平

ページ範囲:P.2288 - P.2290

はじめに
 長期透析患者は治癒を望めない基礎疾患をもち,生涯,透析治療を続けなければならない宿命を背負っている.十分に透析療法をうけていても健康体の活動力には遠く及ばないし,種々の合併症も発展しやすい.毎回の治療に関係した代謝性変動はしばしば苦痛を与え,いっそう健康感を障害する.また,治療そのものの安全性も絶対的とはいえず,慣れた患者でも不安感を伴うことは避けられない.治療による時間的制限や身体的条件のために職場を失い,収入も低下し,立身の道も閉ざされ,家族内や夫婦間のトラブルもしばしば起こりうる.慢性疾患はいずれもこのような種々のストレスを負うことになるが,その程度は長期透析患者ではいっそう強いと考えられる場合が多い.これらのストレスは患者に不安感,喪失感,絶望感などの情緒反応を起こし,うまく適応できないときは,いらいら症状や抑うつ症状などの心因性精神症状や,拒絶,自殺などの異常行動を発現することが少なくない.

5.透析療法の問題点

透析患者のCa代謝とビタミンD投与法

著者: 小椋陽介

ページ範囲:P.2291 - P.2293

はじめに
 慢性腎不全にみられるカルシウム代謝異常ないし骨病変の主要な発症機序は図のごとくであり,治療は矢印で示した経路を阻止することにある.
 治療指針としては,①低カルシウム血症を是正すること,②副甲状腺ホルモンの過剰分泌を抑制すること,③腎性骨ジストロフィーを治癒させること,④異所性石灰化を防止ないし消失させることなどがあげられる.

透析中いかなる患者に腎移植をすすめるか

著者: 三村信英

ページ範囲:P.2294 - P.2296

はじめに
 "透析中いかなる患者に腎移植をすすめるか"というテーマをいただき,はたと困惑しているしだいである.なぜならば純医学的に可能であれば,腎移植が絶対的に有利なことは周知のことであり,すべての透析症例に腎移植をすすめることになろう.
 しかし,現状を考えると,上記のテーマは臨床医にとって重大な問題となる.医学の進歩,医療の普及,社会性,経済性などを考慮しなければならなくなる.数年前までは"いかなる腎不全患者に透析療法をするか"が問題となっていたが,現在は透析療法の進歩と普及により,おそらく臨床医であれば,すべての腎不全患者に透析療法をすすめ実施するであろう.腎移植法も組織適合性の有利な腎提供を自由に得られるようになれば,すべての慢性腎不全患者に実施し,現状の透析療法は腎移植手術を実施する前,および機能するまでの期間の治療法に過ぎなくなるであろう.

6.その他の腎疾患

腎結石の成因と経口治療の適応

著者: 園田孝夫

ページ範囲:P.2297 - P.2299

はじめに
 尿路結石症は最近ではきわめて頻度の高い疾患の一つとなっている.尿路結石症は上部尿路結石症と下部尿路結石症に大別されているが,いずれも尿路のどこかに尿流通過障害があり,そのために尿路内尿停滞や尿路感染が合併し,結石発生の原因となることが多い.とくに下部尿路結石(膀胱結石)では尿道狭窄,前立腺肥大あるいは膀胱頸部狭窄などの通過障害が原因となっていることが多い.同様のことは上部尿路結石(腎結石)についてもいい得ることで,腎回転異常,腎性盂腎?腫,嚢胞腎,馬蹄腎あるいは海綿腎などに結石を合併する頻度が高い.以上のごとき尿路通過障害に起因する尿路結石は,通過障害そのものを根本的に治癒せしめ得ぬ限り結石の再発は避けられない.すなわち,その状態によっては外科的に治療の可能なものと不可能なものとがあるのは当然である.
 リン酸マグネシウムアンモニウム結石(struvite)は尿路感染症,ことに尿素分解細菌の感染症にみられ,腎では巨大なサンゴ状結石を形成する傾向があるが,これには前述の尿路通過障害の存在が前提となっていることが多い.この種の結石の発生防止あるいは結石の増大防止には菌種の確定と十分な化学療法を行うことが大切である.

遊走腎の症状と手術適応

著者: 町田豊平

ページ範囲:P.2300 - P.2301

遊走腎とは
 遊走腎とは,腎が生理的な移動範囲をこえて遊動する現象に対してつけられた疾患名である.しかし腎は生理的にも(臥位と立位,呼吸性)移動する臓器であり,正常の範囲の規定がむずかしい.このため臨床的には「立位によって腎の位置が異常に移動し,それに伴って症状の出現するもの」を遊走腎と称し,さらに字句上,遊走腎だけでは誤解を招きやすいので,症状を有する遊走腎を遊走腎症と呼ぶことが多い.こうした規定からもわかるように,遊走腎(症)は,腎移動の程度よりもむしろその症状によって診断されるので,臨床医の注目のしかたが問題となる.
 遊走腎の病態には,腎の移動に伴う腎偏位,尿管屈曲による尿流停滞,腎血管の捻転牽引による血流障害,および腎の周囲組織・臓器への圧迫刺激がみられる(図).したがって,腎の組織変化による症状,尿路の刺激症状,腹部諸臓器への関連症状など多様で,しかも不特定な症状が発現する.たとえば,患者の1/3は一般内科・外科に,1/3は胃腸科を受診,残りの1/3が泌尿器科を訪れるといわれたのも症状の多彩な背景を物語るものである.

膀胱尿管逆流を伴う腎盂腎炎の治療

著者: 新島端夫

ページ範囲:P.2302 - P.2303

はじめに
 膀胱尿管逆流現象(以下VURと略す)を伴う腎盂腎炎の治療に当たっては,VURを無視して正しい治療を行うことはできない.すなわち,腎盂腎炎の再発あるいは再感染ないし慢性化は,併存するVURの消長に影響されるところが大きいからである.ただし,VURといっても,その個々における病態,程度などはかなり異なるものがあり,それによって対策も異なってくる.したがって本稿では,まずVURの種々相について略述し,それに伴う治療および最近報告された遠隔成績を簡単に紹介しておく.

特発性腎出血の診断と治療

著者: 岸本孝

ページ範囲:P.2304 - P.2305

はじめに
 特発性腎出血あるいは本態性腎出血とは,腎からの出血が明らかであるにもかかわらず,現時点での臨床的な診断技術では原因が解明できない腎性の肉眼的血尿である.すなわち「原因不明の腎性血尿」と同意語で,単一の疾患ではなく,多くの原因がからみあった一つの症候群と考えられている.したがって,これらのなかには初期の腎結核や腎腫瘍の場合のように,のちになって原因の判明するものや血管撮影の普及によって,腎出血の原因としての種々の血管系の異常が発見されるものも含まれている可能性があり,診断技術にも負うところが大きく,その診断を下すにあたっては慎重でなければならない.

XII.感染症 1.最近の感染症とその治療

感染症原因菌の変遷と化学療法

著者: 清水喜八郎

ページ範囲:P.2308 - P.2309

はじめに
 感染症変貌の要因の1つは,原因菌種の変化である.その大きな要因としてあげられるのが化学療法である.診療各科領域における感染症原因菌の変遷は,1960年代の後半からグラム陰性桿菌が増加し,1970年代になり,その傾向がきわめてはっきりしてきている.
 この時期が,広域スペクトラムpenicillin剤,cephalosprin剤が一般に広く使用され始めた時期,およびその後かなり大量に使用されるようになってきたときである.つまり使用化学療法剤によって菌種に変貌がおこってきたのである.

緑膿菌感染症の治療と効果判定

著者: 滝上正

ページ範囲:P.2310 - P.2311

はじめに
 昭和48年に本特集号が発行された後,PS症の治療に関係する分野でみられた変化,進歩をみると,GM耐性菌の出現・増加,Psに有効な抗生物質の出現,免疫療法の開発,エンドトキシンショックに関する知見の進歩,バイオクリーンルームの開発などである.また,この間に抗生物質の再評価が行われたことは周知の事実であろう.
 本稿では抗生物質療法を中心に述べることとするが,治験途上にある抗生物質については触れない.

セラチアによる尿路感染症と治療

著者: 和志田裕人

ページ範囲:P.2312 - P.2313

はじめに
 SerratiaはFamily Enterobacteriaceaeの一菌属であり,広く自然界に分布し,人,動物から分離されるが,従来,本菌は弱毒菌で人への病原性はないものとされて,自然治癒もあるといわてきた.しかし複雑多様化した医療に伴い,感染防禦力の低下を伴う患者が増加し,時には患者を死に至らしある菌種として大きく注目されてきている.Serratia属はS. marcesens,S. liquefaciens,S. rubideae,S. plymusthicaの4種類に分けられるが,臨床的に遭遇する大半がS. marcescensである.
 本菌の同定はprodigiosinなる赤色色素を産生する色素産生株は容易であるが,最近では非色素産生株が増加し,同定には困難なこともあるが,同定の詳細については他の報告にゆずる1,2)

非発酵性グラム陰性桿菌感染症と治療方針

著者: 富岡一

ページ範囲:P.2314 - P.2316

はじめに
 いわゆるブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌(non F GNRs)とはブドウ糖を発酵して酸産生する菌種(腸内細菌など)以外のグラム陰性桿菌でブルセラ菌や百日咳菌といった一次感染菌を除いてよんでいる.しかし,ここでは,この中で最も病原性の面と頻度の上から重視される緑膿菌を除いて述べるが,これらの菌種は本来は自然生活菌で,水や土の中からしばしば分離される1)

敗血症の変貌と治療方針

著者: 国井乙彦

ページ範囲:P.2317 - P.2319

はじめに
 化学療法の発達によって多くの細菌感染症の治療が進歩し,その致命率が著しく低下している.しかし,一方では化学療法剤耐性菌の問題が発生し,とくにブドウ球菌,これに続いてグラム陰性桿菌の耐性頻度増加は臨床的にも重要な問題となっている.このことは敗血症患者の血中分離菌についても指摘されている.
 また,かつては敗血症は各年代層にほぼ同等に分布していたが,抗生物質の登場以来,これにも変化がみられ,近年では幼児と老年者に年齢分布の山がみられるようになってきている.

opportunistic infectionとその対策

著者: 川名林治

ページ範囲:P.2320 - P.2321

はじめに
 近年感染症は著しい変貌を示している.多くの急性伝染病が化学療法の進歩,ワクチンの開発,公衆衛生の向上などによって激減する一方,細菌の薬剤耐性,菌交代症,薬剤の副作用の問題などが注目されてきた.ことに,従来弱毒ないしは非病原と思われるものによる感染症が増加し,しかも,これらは難治のものが少なくないことから臨床的に多大の関心を集めている.また,混合感染,嫌気性菌感染,ウイルス感染など,検査技術の進歩もさることながら,新しい感染症として見直すべきときにある.とくに宿主との関連などで,いわゆるopportunistic infectionについての配慮が重要となってきた.

2.宿主の特殊条件下の化学療法

老人の感染症とその治療法

著者: 美田誠二 ,   藤森一平

ページ範囲:P.2322 - P.2323

はじめに
 医学の発展,生活環境の向上に伴い高齢化社会が出現し,老人の感染症も増加してきている.したがって,われわれ臨床医はその治療法を熟知している必要がある.
 老人の感染症は青壮年に比し,症状や所見が非定型的で診断困難なことが多く,宿主側因子の関与が大きいため,その治療に際しては個々の症例の病態を早期に正しく把握し,化学療法はもちろん,一般療法をも積極的に施行する必要がある.

周産期感染症の治療法—小児科領域から

著者: 西村忠史

ページ範囲:P.2324 - P.2326

はじめに
 小児科の立場より周産期感染症をみた場合,そこには養護,医療システムの向上はもとより,臨床,診断,治療に対する積極的な対応が大きな力となって現れている.しかしながら新生児未熟児のもつ特殊性は,感染抵抗性の面でも周産期の諸因子と組みあって重要性をおびている.化学療法の進歩がこの特殊性をいかに克服できるか,感染症でも敗血症,髄膜炎など重症疾患においてそれが問われるであろう.治療開始の時期は早期診断の重要性とあいまって予後に密接な関係をもつ.とくに化学療法の迅速な適応は大切で,起炎菌の現況薬剤感受性の動向に対する知識をもとに安全かつ有効な薬剤の選択,用量,用法が実地に移せるよう一定の方針を作っておくことである.もちろんそこには一般療法の適切な実施が必要で,これがとくにこの時期での治療のむずかしさを示している.

周産期感染症の治療法—産科領域から

著者: 高瀬善次郎

ページ範囲:P.2328 - P.2329

はじめに
 周産期の感染症に対して治療を行う場合,最も留意しなければならないのは,投与した薬剤の母体,胎児および新生児に対する影響である.
 現在,日常使用されている抗生剤は,程度の差はあるが,すべて胎盤の通過性は良く,母体血清中濃度の約12〜40%が胎児に移行するものであり,抗生剤の種類によっては,胎児への影響も考慮しなければならない.また,胎児のみならず,母体に直接影響を与えるものもあり,さらにまた,妊娠中毒症などの場合で,とくに重症型で腎機能が低下しているものもあり,このような症例では,血中濃度の半減期の延長などが起こり,血中に蓄積することにより,副作用の発現なども起こりやすくなるので,投与量,投与間隔などにも考慮する必要がある.

腎不全時の抗生剤療法

著者: 斎藤篤

ページ範囲:P.2330 - P.2331

はじめに
 腎不全患者に適正抗生剤療法を行うためには,腎不全の程度を正確に把握するとともに,薬剤ごとの体内動態や副作用についても熟知しておく必要がある.
 以下,腎不全時にみられる一般細菌感染症の適正抗生剤療法について述べる.

術後感染の対策

著者: 岩井重富

ページ範囲:P.2332 - P.2335

はじめに
 外科治療において化学療法の発展は大きく寄与し,今日の外科的治療の適応の拡大をもたらしたが,術後感染症はより複雑なものとなっている.ここ10年来グラム陰性桿菌感染が主位を占め,近年ではPseudomonas,Klebsiella,Proteus,Enterobacter,Serratiaなどの従来弱毒菌とされてきたもの,またBacteroidesなどの嫌気性菌による重症感染が増加しており,改めてhost-parasite relationshipが問われるようになってきている.
 胃癌患者の胃切除術後感染の頻度は,潰瘍その他の良性疾患と比較して,感染率は2倍以上であり,創外感染でも2倍,手術創,腹腔内感染では3倍以上の感染率である.診断技術および麻酔の進歩に伴い,悪性腫瘍などの宿主条件の悪いものに対する拡大外科手術症例は増加し,術後感染の軽重を問わず,菌交代症や菌血症,敗血症,Endotoxin shockそしてDICへと進展する可能性をもっている.したがって,感染部位や臓器の早期確認につとめ,原因菌の推定,同定,薬剤感受性成績と臓器移行性を考慮して適切な化学療法を行う必要がある.

3.抗生物質の使いわけ

ペニシリン剤の使いわけ

著者: 松本慶蔵

ページ範囲:P.2336 - P.2338

はじめに
 ペニシリン剤は化学療法係数が著明に高く,かつ近年における進歩は,この系の抗生物質のみでも,今日の起炎菌を制圧し得るところまでに至っているが,現時点では,それらのすべてが広く臨床的に用い得るわけではなく,その意味ではなお,ある欠点を内蔵していると考えてさしつかえない.
 ペニシリン剤のもつ全般的な欠点として,臨床上考慮しておくべき点は,次のごとくである.

セファロスポリン剤の使いわけ

著者: 岡本緩子

ページ範囲:P.2339 - P.2344

一般的性状
 Cephalosporiumが産生するセファロスポリンCを主体とする半合成物質である.
 構造 母体はペニシリンと類似しているが,構造(3位あるいは7位など,図1)を少し換えることにより抗菌力に差を生ずるため,つぎつぎにいずれかの点で優れたものが開発されつつある.

アミノグルコシッド剤の使いわけ

著者: 三木文雄

ページ範囲:P.2345 - P.2347

はじめに
 ペニシリン系やセファロスポリン系抗生物質とともに,アミノグルコシッド系抗生物質の最近の進歩はめざましいものがある.とくに,菌の耐性メカニズムの解明からゲンタミシン系の薬剤の進歩がみられ,一方では,低毒性のアミノグルコシッド剤の開発にも努力が払われており,数多くのアミノグルコシッド剤について基礎,臨床両面の検討が行われ,その一部は一般に用いられるようになりつつある.しかしながら,数多く臨床に提供される抗生物質が,必ずしも,適切に感染症に投与され,各薬剤の特徴が治療に生かされているとは限らないのが現状である.ことに,アミノグルコシッド剤は,抗菌力,抗菌スペクトラムの点で他の抗生物質よりすぐれている反面,その副作用を無視することのできない薬剤であり,適切な選択投与が強く望まれるわけである.

4.抗生物質大量療法と併用療法

抗生物質大量療法の適応

著者: 斎藤厚 ,   原耕平

ページ範囲:P.2348 - P.2349

はじめに
 抗生剤の大量療法とはとくに定義があるわけではなく,常用投与量の何倍以上を大量と呼ぶかは問題のあるところであるが,常識的に3〜10倍,たとえばCBPCであれば5〜10g以上を1日量として用いる場合,これを大量療法と呼んでさしつかえないと思われる.抗生剤の大量療法は最近5〜6年来注目されてきた投与法であり,多くのすぐれた臨床効果が報告されている1,2)が,これは何も新しい概念ではなく,臨床効果の高揚にはまず抗生剤の増量が考えられるわけで,従来PC-Gを除けば副作用の発現ということで,それほど多く増量して使用できなかったものが,低毒性薬剤の開発に伴って大量使用が可能となったことと,一方では,大量を用いなければ効果が得られないような起炎菌ないしは生体側要因が数多く存在するようになったことを意味している.

抗生物質の相互併用の適応と問題点

著者: 紺野昌俊

ページ範囲:P.2350 - P.2351

抗生物質相互併用の問題点
 抗生物質の併用についての検討は,古くから多くの研究があり,中でも石山,Jawetzの理論が有名である.その概要はpenicillin(第1群)はstreptomycinやpolymixin Bおよびcolistin(第2群)との併用で相乗効果を示すが,chloramphenicolやtetracyclineやmacrolide系およびsulfa剤(第3群)との併用では拮抗作用を示し,第2群と第3群の併用は相加・平均的な作用であるというものである.これらの基礎的な検討は確かなことであるが,臨床で相乗効果なり拮抗的な現象が見られるかというと,ほとんど証明されていない.
 しかし,一般の臨床医家の中には,たとえばアスピリンとフェナセチンの併用のように,併用したほうが効くのではないかという感覚を持っておられる方が圧倒的に多いことも確かである.かくて,一つの抗生物質が効かなければ,それに別な抗生物質を上乗せし,やがては無原則といえるほどに数種の抗生物質が併用されていく.

5.その他の感染症の治療

梅毒の治療方針と効果判定

著者: 岡本昭二

ページ範囲:P.2352 - P.2353

治療方針
 伝染力の強い早期梅毒,すなわち第1期・第2期梅毒の症例は近年減少しているが,梅毒血清学的検査の成績のみが長期にわたって陽性反応の続く晩期潜伏梅毒の症例はなおかなりの数に達している.
 梅毒の治療方針としては,体内に生存する病原体であるニコルス株トレポネーマ・パリズムを殺すことである.そのために使用される薬剤は,現在でもペニシリン系薬剤が第1にあげられている,したがって,梅毒の治療にはペニシリン系薬剤の内服ないし注射療法が第一選択剤である.この系列の薬剤が使用しえないときには,マクロライド系薬剤が梅毒の治療に用いられる.

輸入伝染病とその対策

著者: 今川八束

ページ範囲:P.2354 - P.2357

はじめに
 かつて日本は島国という地理的条件から,外来性の伝染病に対しては有利な条件下にあった.しかし国際交通網の発達に伴い,その利点は失われ,入国者数も年々増加し,1977年には533万余名を数えるに至った.幸いわが国には検疫伝染病(コレラ,ペスト,痘瘡,黄熱)は常在しないが,もはや検疫段階で入国を阻止することは困難であり,国内での発病を想定しなければならぬ時代となった.以下,わが国に侵入の危険性の大きいマラリア,コレラ,痘瘡,およびラッサ熱などについて記す.

抗真菌剤の使用上のポイント

著者: 伊藤章

ページ範囲:P.2358 - P.2361

はじめに
 抗真菌剤は,抗生剤と化学物質に分けられる.そして,真菌症の治療は容易ではないが,抗真菌剤の使用にあたっては,①病型あるいは菌種による適切な抗真菌剤の選択,②局所療法をはじめとした投与方法の工夫,③副作用をいかに軽減して治療を継続しうるかがポイントとなるであろう.

基本情報

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出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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