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雑誌目次

雑誌文献

medicina15巻2号

1978年02月発行

雑誌目次

今月の主題 急性期脳卒中の臨床

理解のための10題

ページ範囲:P.240 - P.242

基礎

膵臓の機能

著者: 杉本正邦 ,   内藤聖二

ページ範囲:P.171 - P.173

はじめに
 膵臓の機能は内分泌部と外分泌部に分けられ,内分泌部は膵島を形成し,中にインスリンを分泌するB細胞,グルカゴンを分泌するA細胞,その他のホルモンを分泌するD,G細胞などが含まれている.外分泌部には主として蛋白,膵酵素を分泌する腺房細胞と,水分,重炭酸塩を分泌する膵管上皮系細胞がある.これらの内外分泌細胞は相互に関連性を有しており,消化管ホルモンや血中の栄養,代謝物質に反応して活動しているものと考えられている.
 内外分泌細胞を最も強力に刺激する因子としてセクレチンは1902年に発見され,塩酸が小腸に進入すると小腸粘膜中に存在するセクレチン分泌細胞からセクレチンが放出され,血中を介して膵管上皮系細胞に到達し,水,重炭酸塩は大量分泌排泄されることが知られている.膵酵素はCCK-PZ(コレチストキニン・パンクレオザイミン)とCa++,アセチルコリンなどの作用により,腺房細胞より分泌されるが,CCK-PZ作用はセクレチンにより増強される.また,水,重炭酸塩の分泌はセクレチンとVIPによる膵動脈の血流増加によりさらに強力となる.一方,セクレチンは膵よりインスリンを分泌させるホルモンでもあり,他方ガストリン分泌を抑制する作用も著明に認められる.

膵臓の病理

著者: 林活次

ページ範囲:P.174 - P.178

はじめに
 膵疾患を理解する上に必要な病理形態学的変化については「medicina」10巻10号(1973年10月)に,また,"いわゆる急性膵炎"については「胃と腸」9巻11号(1974年11月)に発表しているので参照されたい.今回は慢性膵炎・膵腫瘍,とくに膵癌を理解する上に,あるいはこれらの病変が成り立つ上に必要な病理形態学的変化について述べよう.
 膵疾患を理解するには,①膵組織の脂肪組織による置換-脂肪組織化または脂肪織化,②膵管上皮の変化,③膵組織の再生増殖能の3項目を十分頭に入れておくことが重要であるが,今回は膵組織の再生増髄能を重点に述べる.

診断法

膵疾患の診察のしかた

著者: 石井兼央 ,   加賀谷寿孝

ページ範囲:P.179 - P.181

はじめに
 慢性膵疾患では,病変がある程度まで進展してはじめて臨床症状および理学的所見が出現することが多く,その早期診断はなお困難である.膵疾患の診断には既往歴,自覚症状,他覚所見などから膵疾患の疑いをおくことが第一であるが,各種の検査については,対象とする膵疾患に対する診断的価値や適応,あるいはその限界などを十分に把握し総合的に診断しなければならない.
 ここでは,病歴および理学的所見のとり方を中心として,膵疾患に対する診断の進め方について述べる.

膵外分泌機能検査法

著者: 竹内正 ,   柴田泉

ページ範囲:P.182 - P.183

はじめに
 膵外分泌機能とは,消化管内での食物の消化に必要な消化酵素と,それが作用するために消化管内のpHを調節する重炭酸塩とを分泌する膵臓の能力であるということができる.
 膵の外分泌機能を直接みるためには,膵から分泌された膵液を十二指腸内容として回収し,その量と成分を測定する必要がある.そのためには十二指腸内にチューブを挿入しなければならず,多少煩雑な検査である.膵刺激物質として消化管ホルモンであるパンクレオザイミン・コレシストキニン(CCK-PZ)とセクレチンが用いられる(P-Sテスト).

アミラーゼ・アイソザイム

著者: 大槻眞

ページ範囲:P.184 - P.186

はじめに
 急性膵炎時に血清・尿中アミラーゼ活性が上昇することが報告されて以来,血清総アミラーゼ活性測定が膵疾患診断の有力な手段として用いられてきたが,アミラーゼ活性の変動は膵疾患に特異的なものではないことが知られるようになり,カラムクロマトグラフィーや電気泳動法を用いてアミラーゼをアイソザイムに分離し,個々のアイソザイムの起源臓器が検索され,疾患特異性のある変化を明らかにしようと種々の検討が行われてきた.
 一般臨床検査として行うには方法の簡便性,迅速性,分離度の優秀性と信頼性が問題となるが,これらを満足する方法として筆者らは,ポリアクリルアミドゲルを支持体とした薄層電気泳動法によるアミラーゼ・アイソザイムの解析を行ってきた1).ここでは,膵疾患診断におけるアミラーゼ・アイソザイムの有用性について,現在までの検討をまとめてみた.

PFD

著者: 細田四郎 ,   中木高夫

ページ範囲:P.187 - P.189

PFDとは
 これまで膵外分泌機能として一般に用いられているP-S試験は,Dreiling型二重管を挿管して採取した膵液について液量,最高重炭酸塩濃度,アミラーゼ総排出量を測定するものであるため,被検者および検査施行者にとって大変煩雑であり,検査症例数が制限されるものである.これに対しPFD(Pancreatic Function Diagnostant)は無管法による膵外分泌機能検査法で,はるかに簡便な検査法であり,P-S試験の代わりとして,あるいはP-S試験と併用して今後広く用いられることが予想される.

GTT,インスリン,グルカゴンの測定—膵内外分泌相関

著者: 早川哲夫 ,   野田愛司

ページ範囲:P.190 - P.192

 膵外分泌腺がほとんど破壊消失した膵でも膵島が残存していることがあり,膵内分泌腺は外分泌腺より抵抗性が高いとされている.しかし,臨床的には膵疾患は他の疾患より糖代謝異常の出現が多い.種々な負荷を行い,血中のインスリン,グルカゴンの変動を検討すると,膵内分泌機能も膵疾患の早期からすでに異常が認められる.
 膵内分泌機能の異常は膵疾患,一次性糖尿病,肝疾患,内分泌疾患など多くの疾患にみられる.しかし,疾患により膵内分泌機能障害の機序や状態に差がみられ,鑑別も可能である.

CTスキャンへの期待

著者: 草野正一

ページ範囲:P.193 - P.196

 コンピュータ断層撮影法(Computed Tomography,以下CTと略す)とは,X線ビームと検出器を用いて目的とする人体の小さなX線吸収差を多方向からコンピュータで測定し,人体を構成する物質の相対的X線吸収係数分布を画像に表示するものである,この研究は,古くから行われてきたが,実際の臨床で応用可能な,短時間で画像に再構成できる装置を完成するまでには至らなかった.しかし,コンピュータのめざましい発展ともあいまって,英国のHounsfieldとAmbroseによって共同研究が進められていたCTが,臨床でも応用できるようになり,1973年に初めてその成果が報告された1).その後数年の間に,CTは,神経放射線の領域ではレントゲンによるX線発見以来の技術革命とまでいわれるほどの画期的成果をすでにあげている.
 北里大学病院でも,1976年9月から世界で最初に開発された全身用CT,ACTA 01002)の臨床応用を開始し,1年間に約1,800件の検査を行ってきた,この装置は,1回のスライスに要する時間が約6分と長いために,腹部の検査の場合には呼吸運動や腸蠕動運動などによって出現するmotion artifactでしばしば情報が制限された3).しかしながら,この問題もCT装置の急速な進歩によってすでに解決し,本邦でも数秒でスキャン可能な装置の臨床応用が,現在行われている.

EPCGの読影と病理との対比

著者: 大井至

ページ範囲:P.198 - P.199

 膵管造影は膵管の形態を描写する検査であり,病変の局在性の表現に1つの重要な意義を持っている.膵管像にみられる閉塞,狭窄,拡張など個々の変化は必ずしも単一な病理学上の変化と対応するものではないが,これら膵管隊にみられる変化が具体的にどのような病理学的変化を意味しているかを知ることは,膵管像の読影を発展させる上で非常に重要である.
 しかし,膵管像と病理組織を1対1に対応させ,膵管像における変化の病理学的意味を検討するには,実際上多くの技術的困難があり,筆者らは,この点についてまだ十分な知識を持っていない.ここでは,EPCGによる膵管像を切除標本となるべく厳密に対応せしめた2〜3の症例を示すにとどめたい.

超音波診断と生検

著者: 伊東紘一 ,   山中桓夫

ページ範囲:P.201 - P.203

はじめに
 膵疾患における超音波検査法の利用が広まりつつあるのは,検査法のもつ手軽さと非侵襲性による.近年機器の性能の向上により正常膵もよく描出される(図1).膵エコー像は矢状断面像を基本とする人が多いが,左上斜方向で右腎中央と左腎上部ないし脾臓を結ぶ線で水平面に対して30°の角度をもった断面像を得ると,頭部,体部,尾部を1枚に描し得る(図2).超音波のもつ特性のために膵病変の質的判定の可能性があり,とくに膵嚢胞の診断は容易である.しかし,現最階では膵癌と腫瘤形成型慢性膵炎の鑑別は血管造影,膵管造影,シンチグラフィー,CTなどを利用しても困難なことが多い.そこで超音波検査法が期待されるが,超音波病理学の未熟な現況ではいまだしの感が多い.
 このような点から筆者らは超音波により確認された腫瘤が癌腫か否かを決定するために超音波ガイド下の経皮的針生検を行っている,本法は比較的容易に安全にできることから,今後各地で膵癌の診断に利用されて決定的な役割を果たすものと思われる.

診断の手がかり

腹水を主訴として―急性膵炎

著者: 内田耕太郎 ,   松岡国雄

ページ範囲:P.204 - P.205

症例 33歳,男性,労務者
 生来,飲酒を好み,日に7合〜1升常飲していた.入院2日前より心窩部に持続性の疼痛があったが放置していた.入院日の夕方いつものように飲酒したところ,疼痛が激烈となり,悪心をきたして来院す.過去1年間に上腹部激痛を3回経験している.
 上腹部を中心として筋性防御,ブルンベルグ徴候あり,肺肝境界がやや不明で腸雑音減弱す.尿蛋白・尿糖陽性,白血球増多とともに血清アミラーゼ値の上昇,Ht値の上昇あり.腹部X線単純撮影で膨満した腸管にガス像がみられ,立位で鏡面像,腰筋陰影の消失が認められた.十二指腸潰瘍穿孔による腹膜炎も否定できず開腹した.

腹水を主訴として―慢性膵炎

著者: 久保勝彦 ,   原田善雄

ページ範囲:P.206 - P.209

症例1 66歳,男性,無職
 主訴 腹部膨満,食思不振,るいそう.
 家族歴 特記事項なし.

黄疸を主訴として―急性膵炎

著者: 伊藤俊哉 ,   土屋涼一

ページ範囲:P.210 - P.212

症例 49歳,男性
主訴 黄疸および食思不振
現病歴 昭和50年1月に数日間食欲が減退し,同年2月25日に全身倦怠感とともに食思不振に陥り,無理に食べると悪心嘔吐をきたした.翌26日某医を受診し,黄疸を指摘され,肝機能検査で黄疸指数 45,SGOT 272,SGPT 176,LDH 2,120,TTT 8.2を示し,肝硬変症の疑いで28日に紹介されて入院した.腹部に明らかな自発痛はないが,咳をすると心窩部痛に気づいた.熱感はなく,便通も正常である.酒は1日5合程度を飲んでいた.

黄疸を主訴として―慢性膵炎

著者: 北村次男 ,   久保博重

ページ範囲:P.213 - P.215

症例 53歳,女性,主婦
主訴 黄疸
既往歴 10年前に右卵巣,子宮筋腫,および虫垂の同時切除をうけている.

黄疸を主訴として―膵頭部癌

著者: 税所宏光 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.216 - P.218

症例 57歳,男性
 生来健康で既往歴に特記すべきことはない.当科入院の6週間前より心窩部鈍痛と腹部膨満感が出現し,食欲が減退した,近医で上部消化管X線検査および血液の検査が行われ,軽い肝機能障害を指摘された.約2週間で前記の自覚症は軽快してきたが,その頃から夜間の全身掻痒感が現れた.3週間前に眼球結膜の黄染に気づいたので某診療所を受診,肝炎の疑い診断で直ちに入院した.しかし,黄疸が漸次増強し,発症前と比べて8kgの体重減少があるなど,臨床症状に改善がみられないので当科へ紹介され入院した.
 入院時現症 体格中等,栄養比較的良.体温36.4℃,血圧136/82.眼球結膜,皮膚は高度黄染,眼瞼結膜はやや貧血性,頸部リンパ節触知せず,心・肺に理学的異常を認めず,肺肝境界は第6肋間であった.腹部には右季駒下乳線上に辺縁鈍な肝を2横指触知,さらに肝縁に接して球状に緊張した胆のうが触知された.脾およびその他の腫瘤は触知されず.腹壁静脈の怒張はない.

糖尿を主訴として―慢性膵炎

著者: 渡辺清 ,   建部高明

ページ範囲:P.220 - P.221

症例 51歳男性(1977年9月入院)
 近親者には糖尿病患者はみあたらず,自然気胸以外には特別の既往疾患はない.しかし,20歳頃から最近に至るまで1日3合程度の焼酎を常飲していた.35歳頃から45歳頃にかけて,数日間持続する心窩部痛が時々出現している.41歳になって糖尿病と診断され,インスリン治療が開始されたが,血糖のコントロールは十分でなく,50歳には両下肢の浮腫が出現し,またX線検査で膵石の存在が指摘された.入誌時の主訴は,糖尿と両下肢の浮腫である.
 現症 身長169cm,体重53kg,栄養状態不良.眼瞼結膜やや貧血状,対光反射やや遅延.心肺正常,肝1横指触知,四肢筋萎縮状,膝蓋腱およびアキレス腱反射著明に低下.両下肢浮腫著明.血圧220/102.

糖尿を主訴として―膵癌

著者: 小口寿夫 ,   本間達二

ページ範囲:P.222 - P.223

症例 62歳,男性
 主訴:体重減少と糖尿
 家族歴および既往歴:長女が35歳で糖尿痛である以外,特記すべきことなし.既往歴では,5年前より高血圧症にて治療中.飲酒歴なし.

膵石を発見されて―無症状性膵石症を主として

著者: 若林明

ページ範囲:P.224 - P.225

症例 29歳,男性,自動車運転手
 現病歴 昭和51年9月頃,仕事中に心窩部不快感を覚えた.腹痛,下痢はなく,某医の投薬を受け1日で軽快した.その際,尿糖の存在を指摘されている.
 昭和52年1月,膝関節痛をきたし,某病院整形外科に受診,躯幹部X線検査により上腹部に石灰像を発見され,精査のため本病院に紹介された.飲酒は付き合い程度.

膵石を発見されて―慢性再発性膵炎の型を示す膵石症

著者: 鶴敬雄 ,   香月武人

ページ範囲:P.226 - P.227

症例 34歳,男性,地方公務員
 主訴 心窩部疝痛発作
 現病歴 22歳頃よりアルコール量に換算して100mlを毎日飲酒している.30歳より心窩部鈍痛発作を頻発する.受診の10日前には疝痛発作が1日中反復した.高校時代55kg(身長158cm)あった体重が入院時48kgに減少していた.下痢なし.偏食なし.

診療の実際

急性膵炎

著者: 斎藤洋一 ,   中島康之

ページ範囲:P.228 - P.230

はじめに
 急性膵炎の治療に関する歴史的変遷をみると,かつては早期手術が是認され直接膵に侵襲を加えるような積極的な手段がとられてきたが,その手術成績はきわめて悪く,50%前後の死亡率であった.その後早期手術に批判的な意見が多くなり,1938年のNordmannの報告以来絶対的保存療法の治療方針がとられ最近に至っている.
 しかし,近年外科治療の進歩に伴い従来ほど手術死亡率は高くなく,かつまた積極的な手術をすすめる報告が多くなってきた.胆道系に対する手術の有用性に関しては多くの報告があり,さらにLawsonら1)は膵周辺の積極的なドレナージを,伊藤ら2)は後腹膜腟のドレナージが有効と報告している.またLawsonら1)は重症膵炎に対して胃瘻空腸瘻造設兼胆道ドレナージが有効であり,Hollerlderら3)は膵全摘術などを報告している.また一方,急性膵炎時の呼吸不全,DIC,腎障害などの合併症の報告もあり,これらに対する処置に関しても報告がみられる.今回筆者らは自験例をもとに,急性膵炎の手術適応,治療などに関する若干の問題について触れてみたい.

慢性膵炎—病態からみた内科的治療の考え方

著者: 安部宗顕

ページ範囲:P.232 - P.233

 最近,膵臓病についての関心が高まり,従来稀とされていた慢性膵炎がわが国でもかなりの頻度で存在することがわかり,その成因や病態が解明されるようになってきた1).したがって,慢性膵炎の内科的治療も成因や膵機能障害のパターンや程度に応じて対策をたてることが必要になってきた.本稿では,筆者が日頃から感じている内科的治療の2,3の考え力2〜4)につき述べてみたい.

膵臓癌

著者: 木南義男 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.234 - P.236

はじめに
 膵癌は,厚生省の死亡統計によれば本邦において増加傾向にあるとされ,Brooksら1)もアメリカにおける本症の発生頻度は増加しつつあると述べている.しかるに,膵癌は腹部臓器癌のうちでも診断および治療面ともに取り扱いにくい癌であるのみならず,経過が早く予後不良といわざるを得ない.Baylorら2)は,膵の悪性腫瘍5,075例を集計し,92%が1年以内に死亡していると述べている.ところで,近年この分野における診断法の進歩とともに外科治療の研究も進められ,実際治療成績の向上がみられつつある.そこで,過去15年間に筆者らの教室において治験された膵癌症例から得られた若干の知見とともに,文献上にみられる外科領域の膵癌について述べたいと思う.

膵島腫瘍

著者: 黒田慧 ,   赤尾周一

ページ範囲:P.237 - P.239

はじめに
 膵島腫瘍は膵に発生する内分泌腫瘍の総称名として用いられ,腫瘍から分泌されるホルモンによって特有の症候群を呈するfunctioning tumorと,とくに症状を呈しないnon-functioning tumorとがある.膵島腫瘍には複数のホルモンを産生するものが多いが,そのうち最も多量に産生・分泌されるホルモン(原因ホルモン)によって症状が発現すると考えられており,膵島腫瘍およびそれによる症候群は,ともにその原因ホルモン名に-omaを付して呼ばれることが多い.
 膵島腫瘍による症候群のうち最も多い疾患はインスリノーマで,次いでガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)が多く,WDHA症候群がこれに次ぎ,グルカゴノーマはさらに稀で,ソマトスタチノーマは最近2例の報告をみたに過ぎない.また,膵島腫瘍によるクッシング症候群やカルチノイド症候群なども稀に報告されているが,ここでは膵島腫瘍に特有で比較的頻度の高い前4者について概説することとしたい.

心電図の診かたとその鑑別 基礎編・波型異常のみかた・2

QRSのみかた

著者: 太田怜 ,   前田如矢

ページ範囲:P.243 - P.249

QRS異常の種類
 前田 QRSは心室の電気的興奮により最初にみられる大きなフレで,心電図をみる上に大事な情報の1つですが,まず基礎病態からみて,どのような場合にQRS異常が起こりますか.
 太田 まず,心室負荷があると,QRSの異常を生じます.たとえば左室肥大や右室肥大というのが,よく見られるQRSの異常です.もう1つは心室内伝導障害で,やはりQRS異常を示します.たとえば左脚ブロック,右脚ブロック,WPW症候群といったものがあげられます.

教養講座・比較生物学 生命と環境との調和

水と浸透圧

著者: 内田清一郎

ページ範囲:P.250 - P.254

はじめに
 生命は海に誕生したというが,海にすむ無脊椎動物の体液浸透圧は海水に等しく―約1000mOsm/l―イオン組成もまた海水にきわめて近い.海という非常に安定した環境にあって,無脊椎動物は多様な進化をとげたが,外部環境にほぼ等しいその内部環境(体液)は,これと浸透圧は等しいが,構成成分を異にする原形質(細胞)を保護して,その活動を可能にしている.動物体の体積と体液中の溶質濃度とは,普通,比較的狭い範囲で一定に保たれ,正常の状態からの大きな変動は死を意味する.すなわち,水と溶質に関して定常状態にあること―内部環境(浸透圧)の恒常性―が生命の維持にはきわめて重要である.
 地球表面の2/3以上は水でおおわれているが,その大部分は海で,川や湖の淡水が占める面積は1%にも満たない.淡水が海に接する海岸には汽水域があり,海水の塩分が35%。(パーミル,パーセントの1/10)であるのに対して,汽水の塩分は0.5〜30%。と大きな変動を示す.淡水は普通0.001〜0.1%。の塩分しか含まない.汽水域もまた地球表面の1%以下であるが,ここにすむ生物群は多彩で,生理学的にも進化学的にもきわめて重要な存在である.海の生物はこの汽水域を経て,淡水,さらには陸上にまで進出した,外部環境の濃度低下に伴って,内部環境の濃度も低下したが,細胞の機能を保つためには,内部環境の濃度低下にも限度があり,動物によってさまざまの濃度の体液がつくられた.

演習・X線診断学 血管造影写真読影のコツ・14

頭部血管造影(2)—腫瘍内の循環の変化

著者: 志賀逸夫

ページ範囲:P.256 - P.263

はじめに
 脳腫瘍の血管造影による診断は,腫瘍の循環の変化と,血管の偏位に基づく.腫瘍内の循環の変化には,種瘍内の血管の数・太さの変化と循環時間の変化とがあり,これらは病変の有無,部位および性質に関して,血管造影上最も有用な情報を与えてくれる.
 本稿では代表的な脳腫瘍として,髄膜腫,神経膠腫および転移性脳腫瘍をとり上げ,これらの腫瘍の循環の変化について症例を呈示しながら解説する.

図譜・大腸内視鏡診断学

II.大腸炎症性疾患(1)—薬剤性腸炎,一過性虚血性大腸

著者: 佐々木宏晃 ,   長廻紘

ページ範囲:P.265 - P.269

 今回から炎症性疾患の内視鏡像を中心に紹介する.初回は,抗生物質により惹起されたと考えられる大腸炎(ここでは薬剤性腸炎と呼ぶ)と,これと類似した臨床所見,内視鏡像を有する一過性虚血性大腸炎について紹介したい,両者とも急.性の経過をとる出血性限局性腸炎であり,検査時期を失すると,診断が困難にもなりかねない.
 以下,筆者らの経験した例の臨床所見を簡単に紹介し,内視鏡隊を中心に述べてみたい.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.270 - P.275

内科臨床に役立つ眼科の知識 カラーグラフ

見ておきたい眼底所見(その2)

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.276 - P.277

 14巻1号(1977年1月号)に全身疾患と関係のある眼底写真のいくつかを供覧したが,今回も引き続いて,いくつかの全身疾患の,あるいは全身症状を伴う眼病変の眼底写真を供覧したい.血液疾患,ぶどう膜炎が主体で,それに薬物による眼障害の1例としてクロロキン網膜症をとりあげてみた.次回は,眼底検査を行うときに知っておきたい,病的意味のない眼底所見や正常所見のいくつかをとりあげて供覧する予定である.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・2

赤色尿,とくに血尿について

著者: 河合忠

ページ範囲:P.278 - P.281

 健康人の尿は通常淡黄色ないし黄褐色である.ときに,病的に赤く着色することがあり,診断に有用である.とくに鮮紅色ならば,血尿,ヘモグロビン尿(Hb尿),ミオグロビン尿(Mb尿)が疑われ,いずれも臨床的にきわめて重要な所見である.

プライマリー・ケアの実際

小児の発熱

著者: 安次嶺馨

ページ範囲:P.282 - P.285

はじめに
 第一線の小児医療で最も多い訴えのひとつが発熱である.小児は種々の原因で発熱をきたす.その大多数は感染であるが,環境因子,便秘,脱水なども発熱の原因となる.日常,数多く遭遇する発熱患児を取り扱う医師は,熱の原因や病態を十分に把握しないまま,漫然と安易な治療を行う傾向にある.ここでは,小児の発熱に伴う種々の問題について簡単に述べてみたい.

外来診療・ここが聞きたい

かぜ症候群と治療

著者: 国井乙彦 ,   西崎統

ページ範囲:P.286 - P.289

症例
 患者 T. S. 37歳,主婦.
 現病歴 数年前から冬になると2,3度かぜをひくようになった.そのかぜの症状はほとんど同じである.今回も,約10日くらい前に咽頭痛,全身倦怠感が出現,うがいをして様子をみていた.咽頭痛は4〜5日で改善したが,その後,夕方になると微熱および乾性の咳が出てきた.とくに夜間に激しいとのことで来院.

話題の新薬

ゼオペンU(台糖ファイザー)

著者: 深谷一太

ページ範囲:P.291 - P.293

 はじめに ゼオペンUは1971年米国ファイザー社において開発され,翌年わが国に導入され,種々の検討が行われたのち,台糖ファイザー社から市販を承認された新しい経口投与抗生物質である1).その適応は緑膿菌とインドール陽性プロテウス(変形菌)による尿路感染症とされている.本剤についての紹介を行うこととする.

medicina CPC—下記の症例を診断してください

右季肋部腫瘤を主訴として来院した女性

著者: 渡辺昌裕 ,   片山正一 ,   門奈丈之 ,   革島恒徳 ,   吉田静雄 ,   谷口徹 ,   河田肇

ページ範囲:P.296 - P.307

症例 M. T. 64歳 女
主訴 右季肋部腫瘤
既往歴 5年前,交通事故にあい,頭部と左側腹部に打撲傷

私の本棚

臨床検査を正しく生かすために

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.294 - P.294

 25年来ほとんど毎月小宅にくるKという医学書店の主人は,私のその時々の読みたい本,ほしい本が鋭敏にわかるらしい.この人が発刊時に持ってきた本で,土屋俊夫監修,河合忠,河野均也共著,演習臨床病理学(中外医学社,1973)があった.B5版,220頁のあまり厚くもなく活字もぎっしりつまったものではなく,パラパラとめくってみて面白そうなので,演習という言葉に抵抗を感じたが,いつかは読むだろうと買っておいたしかるに半年ほど前,書類の整理の際出てきた昭和50年の年頭号の医学会新聞で慈恵医大の阿部正和教授がこの本をすすめておられた.早速その夜読み始めると,面白くてやめられず,次の日も外来を終え食事をすます暇もなく読み続け,結局毎晩午前2時頃まで没頭して数日で読了してしまった.
 臨床病理学という学問は新しい臨床医学の一分野であるにもかかわらず,予算の関係からほとんどの国立大学に中検はあっても講座がなく,講座があるのはごく一部の私大に限られている.その創始者は当時の県立山口医大の柴田進教授であったというが,国立になったとき解散したという.私も言葉から受ける印象では病理解剖学的なもの,あるいは私達が教わった病理解剖示説のようなものを想像していたが,この本を読んでみると臨床的に得られる検査データをもとに,これをいかに解釈し,診断と経過の判定にいかに役立たせるかという実践的な学問である.

天地人

医師とマスコミ

著者:

ページ範囲:P.309 - P.309

 もう一年以上前になるだろうか,ある医師向けの月刊誌が,医師の不安材料をアンケート調査したところ,医療訴訟の増加や低医療費の悩みを大きく引き離して,マスコミの医師攻撃が断然,トップを占めたということである.
 事実,連日のように"また深夜の医院をタライ廻しで,急患が手おくれ"とか,"医師会のゴリ押しで医師優遇税制の手直し,今年も見送り",あるいは"サラリーマンが一生かかっても稼げぬような高額寄付金で,子弟を私立医大へ裏口入学させた開業医の脱税を摘発"といった大見出しが紙面を賑わすのだから,マスコミは大嫌いと言い切る医師が多いのも無理はない.どうもジャーナリストのほうに,活字を暴力のように振るって,医師をやっつけることに快感を味わっている人がいるのではないかと思えるほどである.

開業医日誌

暖冬の1日

著者: 西田一彦

ページ範囲:P.310 - P.311

おばあちゃんの電話
 12月〇日
 朝……7時半起床新聞をひっくり返しながらの朝食.電話が鳴る.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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