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雑誌目次

雑誌文献

medicina15巻5号

1978年05月発行

雑誌目次

今月の主題 消化・吸収の基礎と臨床

理解のための10題

ページ範囲:P.677 - P.679

消化・吸収の基礎的トピックス

小腸吸収上皮の超微細構造

著者: 山元寅男

ページ範囲:P.612 - P.615

はじめに
 小腸は,食物として摂取した物質をその管腔内で消化分解したのち,粘膜から吸収し,血管およびリンパ管を介して肝臓や全身の器官組織に送り込む役割を担っている.
 腸管内の消化は,主に膵液中に含まれる消化酵素により営まれるが,二糖やジペプチドの消化は,吸収上皮細胞の自由縁の細胞膜に局在するジサッカリダーゼやジペプチダーゼによって行われることが最近明らかになってきた.腸管における吸収はほとんどが吸収上皮細胞を経由して行われるもので,細胞間隙を通っての吸収はほとんどない.

膜消化と膜輸送機能

著者: 武藤泰敏

ページ範囲:P.616 - P.618

はじめに
 消化の最終段階(終末消化)と吸収の初発段階とを厳密に分離することは困難であり,むしろ両者は小腸微絨毛膜を場として,ほぼ同時に進行するものであると考えられるようになっている.これが膜消化(membrane digestion)という概念であり,電顕的観察の導入ならびに小腸粘膜刷子縁(微絨毛膜+内髄)や微絨毛膜の単離と,その生化学的分析の進歩によって裏付けられるに至っている(詳細は文献1)参照).本稿では,微絨毛膜に局在する酵素(膜消化酵素)と膜輸送(membranetransport)を,とくに糖質の消化・吸収に焦点を合わせて述べる.

消化・吸収の日周リズム

著者: 嶋津孝

ページ範囲:P.619 - P.622

はじめに
 口から摂取した食物が体内代謝の流れに入っていく最初の関門は腸管,とくに小腸での消化と吸収である.吸収された栄養素はついで肝臓に運ばれ,そこで分解ならびに再合成されて体組織の構成成分,貯蔵成分あるいはエネルギー源となる.胃液や膵液などの消化液や,種々の消化管ホルモンが周期的に摂取する食物の刺激によって分泌され,消化・吸収を助けていることは,ヒトにおいてもよく知られている.しかし,小陽の消化・吸収能や肝の代謝に日周性の変動があるかどうかを調べるためには,器官を摘出して分析する必要があり,動物実験に頼らざるを得ない.本稿では代表的な実験例として,ラットの小腸における消化酵素の日周リズムと,肝におけるグリコーゲン代謝の日周性変動について紹介する.そこで得られた知見は,おそらくヒトについてもいえる事柄であろう.また,消化・吸収の日周リズムに関する研究は,単に食物をいかに効率よく栄養素として摂取するかという栄養学上の問題にとどまらず,臨床的にも投与した薬物の治療効果をあげる上で重要視されるようになってきた.

栄養素と酵素蛋白の吸収

小腸における糖質の吸収

著者: 原泰寛

ページ範囲:P.623 - P.625

はじめに
 食品中の糖質はグリコーゲン,澱粉などの多糖類,麦芽糖,乳糖,庶糖などの二糖類,およびブドウ糖,果糖などの単糖類に分けることができる.このうち腸管において直接吸収されうるのは単糖類である.
 したがって,多糖類や二糖類は唾液,膵液,および腸管内の消化酵素の作用をうけ,単糖類にまで分解されたのち,吸収される.

小腸におけるアミノ酸ペプチドの吸収

著者: 荻平博

ページ範囲:P.626 - P.628

はじめに
 蛋白質の消化産物が如何なる形で,如何なる機構で吸収されるのかという問題の解明は単に生理学的な興味の対象となるだけではなく,栄養学的にも極めて重要な意義を含んでいる.
 蛋白質の摂取後,門脈中に現れるその消化産物はすべてアミノ酸であり,蛋白質は吸収される前に腸管腔内で完全にアミノ酸にまで分解されるものと考えられてきた.もっとも1960年NeweyとSmyth1)は,ラットを用いてグリシルグリシンをはじめとする5つのジペプチドは小腸粘膜細胞にとりこまれたのち,加水分解されることをかなり明瞭に示したにもかかわらず,ペプチド吸収の研究は最近までほとんど進展をみせなかった.

小腸における脂肪吸収

著者: 石森章 ,   長崎明男

ページ範囲:P.630 - P.635

はじめに
 日本人の脂肪摂取量は年々増加しているが,欧米の1日脂肪摂取量に比べて半分以下の50gに満たず,総カロリーの20%ぐらいである1).一般に摂取された脂肪は胃内滞留時間が長く,50g脂肪負荷の場合,4〜6時間で十二指腸に達するといわれ,1時間あたり8〜12gの脂肪消化が小腸で行われる.正常状態では,脂肪の消化・吸収は主に空腸で行われ(図1),1日に150〜200gの脂肪を吸収できることが知られている.したがって,通常の脂肪摂取量の際認められる糞便中の脂肪は未吸収のものではなく,小腸や大腸の粘膜上皮細胞や腸内バクテリアに由来する内因性のものである.
 われわれが食物として摂取する脂肪は中性脂肪が大部分であるが,最近ではコレステロールの摂取も増加する傾向にあり,そのほか動・植物の細胞成分であるリン脂質などの脂質があるが,量的にはきわめて少量である.これら脂肪の消化・吸収は種類によりそれぞれ特徴が認められるので,以下,各項目に分けて概説するとともに,脂肪吸収における消化管ホルモンの役割など,最近の知見についても述べることとする.

酵素蛋白質の腸管吸収

著者: 村地孝

ページ範囲:P.636 - P.637

はじめに
 酵素蛋白質の腸管吸収力ま臨床的に問題になったきっかけは,いわゆる経口消炎酵素剤の投与の開始であろう1),古典的生理学の教えるところに従えば,蛋白質はすべて消化され,アミノ酸またはごく短いペプチドとして吸収されるべきであって,新生児期の上一部を除いては,高分子の蛋白質がそのまま哺乳動物の小腸粘膜を通過するなどということはありうべからざることとされていた.しかし,実験をしてみると,微量の蛋白質吸収が家兎やラットで証明される.このことは消炎酵素剤を販売する側には大へん都合のよい実験事実であり,また逆に異種蛋白質の体内導入という面からは危険性を予測させる事実でもある.極めて単純な実験系で酵素蛋白質の腸管収吸が実証されてからすでに十数年になるが2),その後の実験的観察によって,話はどうなっているのかということを解説したい.
 表に,この主題をめぐって提起されそうな質間とそれに対する回答とを掲げてある.以下の各節はこの回答欄の補足説明のつもりでお読みいただきたい.

外分泌と消化・吸収

胆汁分泌

著者: 大菅俊明

ページ範囲:P.638 - P.639

はじめに
 胆汁は有機,無機の化合物を含む複雑な水溶液で,肝において生成され,毛細胆管を経て胆管に分泌される.他の外分泌液と異なる点は,いったん腸管内に排泄されたのち,胆汁の諸成分が再び腸管から吸収されて,腸肝循環をすることであり,この現象は胆汁生成,分泌の生理に大きな影響を与えている.胆汁の1日分泌量は約1500mlである.その生理的意義の最たるものは,食餌脂肪の消化・吸収を助けることであるが,胆汁主成分の一つである胆汁酸はコレステロールの異化産物であるから,胆汁生成はコレステロール代謝の調節にも関連している.

膵液分泌

著者: 菅野富夫

ページ範囲:P.640 - P.642

膵臓の構成
 膵臓の大部分を占めているのは膵外分泌腺である.膵外分泌腺は,食物中の高分子物質を腸管から吸収されやすい形の低分子物質に分解する消化酵素,あるいは酵素原(zymogen)を分泌している,外分泌腺の間に島状に散在している内分泌腺(Langerhans島,膵島)は,膵臓全重量の1〜2%を占めているにすぎないが,炭水化物,蛋白質,脂質の中間代謝調節に重要な役割をはたしている.このように,膵外分泌腺と膵内分泌腺とはそれぞれ消化機能中で重要な位置を占めていることはよくわかっていたが,膵内分泌腺が膵外分泌の機能に直接効果を現しているという考えが近年次第に有力になってきている.
 膵外分泌腺は腺房組織と導管組織から構成されている.腺房組織は腺房細胞からなりたち,cholecystokinin-pancreozymin(CCK-PZ)や迷走神経の刺激をうけて,消化酵素,酵素原を分泌すると同時に,NaClも分泌していると筆者は考えている.導管組織は導管終末部細胞から構成され,主としてsecretin(Sc)の刺激をうけてNaHCO3に富む膵液を分泌していると考えられている.腺房の中心部にある腺房中心細胞は,膵臓の腺房に特有な細胞とされ,細胞の一端は腺腔に面しているが,他端は基底板にのびているとする研究者もある1)

診断

消化・吸収障害の検査のすすめ方

著者: 笹川力

ページ範囲:P.643 - P.648

はじめに
 脂肪,蛋白質,糖質,ビタミン,電解質,鉄などの各種栄養素の消化・吸収障害により特徴的な欠乏症状を示す疾患群を総称して吸収不良症候群という.
 本症候群は表1のように,病因別に本態性,続発性,消化障害性の3つに大別されるが,わが国では二糖類分解酵素ラクターゼ欠乏症を除いては本態性は少なく,大部分は胃腸手術後や膵・肝・胆道疾患にみられる続発性または消化障害性吸収不良症候群である.

消化吸収試験

著者: 細田四郎 ,   中木高夫

ページ範囲:P.649 - P.652

消化吸収機能
 日頃われわれが口にする食物は物理的に磨砕され,酵素によって分解され,水に不溶のものは水に親和性の形にされ,主として小腸粘膜より吸収され,一部は腸粘膜内で再合成されるなどして,あるいは血行性に,あるいはリンパ行性に輸送され,エネルギー源や体を構成する成分となる.このように,消化吸収機能は,口から摂取され肛門から排泄されるまでの物理的,化学的,生化学的な機能が複雑にからみあって,消化吸収という一つの目的に集約される機能であるため,こうした消化吸収機能を総合的に,あるいはある段階を特異的にあらわす検査法として,種々の消化吸収試験が工夫考案されている.

内視鏡からみた消化・吸収

著者: 川中三千雄 ,   堤京子

ページ範囲:P.654 - P.656

はじめに
 消化管の内視鏡検査の日的は,本来,消化管の"器質"的変化の発見とその質的診断にあった.これを「第1の内視鏡学」とすれば,「第2の内視鏡学」ともいうべき内視鏡によれば,「第2の内能"検査がある.しかし,まだ後者の歴史は新しい.「消化・吸収」の主たる場は小腸であることはいうまでもないが,臨床の場でこの小賜粘膜を直接検索する手段は,手術,剖検を除けば,かつては盲目生検によう小腸粘膜採取法1)が唯一のものであった.しかし,1971年に小腸全域への内視鏡挿入が世界にさきがけて日本ではじめて成功2)してからは,内視鏡を用いての「消化・吸収」の本格的な研究も可能になった.表は内視鏡を川いて今日行われている「消化・吸収」に関する諸検索法の詳細をまとめたものである.
 検索手段としての内視鏡の利点は,①手術その他の操作なしに,非観血的に腸管を直接検索できる.②その際,生体での腸管の状態が動的に観察でき,また限局性の粘膜の変化(消化・吸収に関して)をキャッチすることも可能である,③直視下に粘膜を狙撃生検できる.④経過観察ができる,など数多い.なかでも生体の腸内腔をファイバースコープを通して肉眼的に直接観察できることは最大の利点といえる.しかし,従来の内視鏡検査法のように,単に長時間空腹にした空虚な腸管の内腔をみるだけでは,そこから得られる「消化・吸収」に関する情報は極めて乏しい.

吸収不良症候群

胃切除術後吸収不良症候群

著者: 渡部洋三

ページ範囲:P.657 - P.659

はじめに
 消化・吸収の面における胃の役割は,摂取された食物を胃液とよく混和し,これを粥状にして少量ずつ小腸に送り込むことである.したがって,胃は消化・吸収の面ではあくまでも脇役で,摂取食物を細かくして小腸における消化酵素の作用面積を大きくし,消化を効率のよいものにしている.胃の消化・吸収の面におけるもう一つの大きな役割としては,鉄とビタミンB12の吸収がある.すなわち,胃液中の塩酸は食物中の鉄をイオン化して吸収しやすくし,また胃壁に存在する内因子はビタミンB12の吸収にとって不可欠である.胃切除術はこのような胃の役割をがらりと変えてしまう.胃切除術後吸収不良症候群はsecondary malabsorptionの一つであるが,これを病態生理学的な面より捉え,その予防あるいは治療について述べる.

慢性膵炎にみられる吸収不良症候群

著者: 若杉英之 ,   木村寿成

ページ範囲:P.660 - P.663

発症機序
 ヒトが摂取する食物の主要栄養素である蛋白質,脂肪および含水炭素は,いずれもその大部分は消化されたあとにpeptide,アミノ酸,脂肪酸,monoglycerideおよび単糖類として小腸から吸収される,一部は唾液amylase,胃lipase,pepsin,小腸disaccharidase,peptidaseなどの酵素も関与するが,大部分は膵外分泌液中の諸酵素により消化される.主な膵酵素を表1に示した1).蛋白分解酵素はzymogenないしproenzyme(trypsinogen,chymotrypsinogen,proelastaseおよびprocarboxypeptidase A,B)として不活性の状態で膵組織で生成され分泌され,十二指腸粘膜細胞のbrushborderに存在するenterokinaseによりtrypsinogenがtrypsinに活性化され,次いでtrypsinはchymotrypsinogen,proelastase,carboxypeptidaseなどを活性化し,またtrypsinogenはtrypsinによって活性化される.phospholipase Aも不活性の状態で分泌され,蛋白分解酵素により十二指腸内で活性化される.lipaseは水溶性であり,水-脂肪の境界面に作用するので,乳化によるこの境界面の増大が不可欠である.

日本におけるスプルー

著者: 平塚秀雄 ,   後町浩二 ,   豊田利男

ページ範囲:P.664 - P.668

はじめに
 「日本におけるスプルー」という大変に大きな,しかも意義深いテーマを与えられた,"大きな"といっても,わが国での報告例は極めて稀であるので,数のうえでのことではない.従来,原発性吸収不良症celiac sprueは白人にのみみられる疾患であり,白色人種の血をひかない有色人種にはみられないとさえいわれてきた.それだけに,日本で報告されているこれら症例が果たして真のceliac sprueであろうかということに言及しなければならない責め,さらに食事の欧米化により今後増加する可能性が予想されることなどを併せ考えると,大変に大きな意義深いテーマといわざるをえない.
 一方,celiac sprueの多い欧米においても,その報告頻度は臨床的関心によって地方別に,また病院別に予想以上のばらつきがあり,1例もみたことがない医師もいるという.ましてやわが国においては,まず先入観として本疾患がないと決めこむことなく,強い関心を示す心構えが望まれる.

蛋白漏出性胃腸症

著者: 土屋雅春

ページ範囲:P.670 - P.671

はじめに
 蛋白漏出性胃腸症protein losing gastroenteropathyとは,血漿蛋白,とくにアルブミンが胃腸管壁を経て胃腸管腔内へ異常に漏出することにより惹起される低蛋白血症を主徴とする症候群のことをいう.
 胃腸内に蛋白漏出をきたす疾患は多いが,Ménétrier病と,炎症,腫瘍,潰瘍など器質的病変を伴わぬ蛋白漏出性腸症(Waldmannのいわゆるlymphangiectasia intestinalis)とが原発性蛋白漏出性胃腸症として分類されている.

治療

消化酵素

著者: 内藤聖二

ページ範囲:P.672 - P.673

はじめに
 治療の面から消化酵素を考えると,最近はきわめて安易に消化酵素剤を投与している.従来は消化酵素の分泌障害,消化不良症候群の認められる場合に消化酵素剤が用いられていたが,近年,多種の消化酵素剤の入手ができるようになり,胃,腸,肝をはじめ,消化機構に障害のみられない疾患にも使用されている,しかし,消化と代謝の研究が進歩し,一方,吸収面では電子顕微鏡学的研究,細胞膜消化酵素の研究が発展してくると,臨床面においても消化と吸収を分けて治療に当たることが必要であり,消化酵素の治療も理論をもとにした方法を新しく作るべきものと考えられる.
 消化の要素は胃腸管腔内の栄養素と消化酵素の作用する面と,各種の栄養素により分泌される消化管ホルモンの作用する面が複雑に組み合わされている。胃腸管内粘膜は消化液を分泌するが,消化機構の上では消化管ホルモンを分泌して,胃液,十二指腸液,膵液,胆汁を分泌させ,吸収の面に関与する胃腸管運動を促進させる,アルカリ液,アミノ酸,アルコール,脂肪酸が胃に入ると,幽門部に多く存在するガストリン分泌細胞はこれら物質の刺激をうけ,胃より塩酸,ペプシンその他の消化要素を分泌させる,胃において消化された一部の物質と酸は小腸に進入すると,小腸の内分泌細胞を刺激して,胆汁,膵液を分泌させる.

高カロリー輸液

著者: 岡田正

ページ範囲:P.674 - P.676

はじめに
 消化・吸収障害をきたす疾患として数多くのものが知られているが,いずれの場合においても,程度の差はあれ,何らかの栄養障害が存在し,しかも経口摂取による栄養改善はあまり期待し得ないことが多い.
 一般に栄養障害が存在すると,身体を構成する各臓器においても,組織・細胞レベルでの栄養代謝の低下がみられ,ひいては胃腸管の病変自体の治癒機転が障害される.ところが,このような場合,栄養改善を期待して積極的に経口摂取を行ってみても,食餌が病巣を刺激し,さらに病態悪化をたどるというのがお決まりの経過であった.このような「食べるといっそう病状が悪くなる」消化器疾患特有のジレンマに対して大きな光明を与えつつあるのが高カロリー輸液法である.1967年米国,ペンシルバニアのDudrickら1)によって試みられ,その幅広い臨床効果が示された高カロリー輸液法は,静脈経路のみよりの栄養補給を可能とし,これのみで長期生存が可能であること,また積極的な栄養改善が可能であることを示したのである.当初は相次いであらわれた副作用のため,極めて危険視され,一般には容易に受け入れられなかった本輸液も,次第に副作用対策が確立され,システム化管理が行われるようになって,ますます各科領域において広く用いられるようになりつつある.高カロリー輸液の実施法に関しては,現在,数多くの教科書,文献に詳述されているので他誌に譲り,本稿では触れない.

心電図の診かたとその鑑別 基礎編・波型異常のみかた・5

P波およびU波のみかた

著者: 石川恭三 ,   前田如矢

ページ範囲:P.680 - P.686

 前田 P波は,心電図では小さなフレとして描かれるために,以前は軽視されていたのですが,最近はいろいろな意味で大事な情報を含んでいることが再認識され,その重要性が確認されています.
 まず,P波の一般的なみかたについてお話しいただくことにします.P波とはどういうものか,その成り立ちについて説明してください.

教養講座・比較生物学 生命と環境との調和

カルシウム(2)—血清Ca調節機構を中心に

著者: 折茂肇 ,   山内広世

ページ範囲:P.687 - P.691

魚類における血清Ca調節機構
 硬骨魚類 魚類には陸生脊椎動物に認められる副甲状腺が認められず,魚類特有の器官としてStannius小体が存在する.一方,鰐後腺は円口類以上のすべての脊椎動物に存在し,サケ,サメ,ウナギなどからCT(カルチトニン)の分離,精製が行われ,組織学的にもニジマス(Salmo gairdneri),サメ(Squalus acanthias)などに鯉後腺を思わせる分泌顆粒が存在することから,血清Ca調節機構になんらかの役割を演じていることが考えられる.
 1)CTの役割:魚類にカルチトニンを投与した際の血清Caの変化については低下するとの報告と不変であるとの報告があり,現在意見の一致をみていない.すなわちChanら27)はウナギ(Anguilla lapQnica)の鯉後腺を除去すると4週間後に血清Caが上昇すること,淡水適応ウナギIA. Anguilla)にブタCTを投与すると血清Caが低下すること28)を報告しており,Louwら29)はナマズ(lctalurus melas)にブタCTを注射すると1時間後に血清Caが明らかに低下すると述べている。一方,Pangら30)はFundulus heteroclitusにブタまたはサケCTを投与しても血清Caは不変であったと述べている.Coppら31)もサケにブタまたはサケCTを投与したが,血清Caの低下は認めなかったと報告している.

演習・X線診断学 血管造影写真読影のコツ・17

心血管造影(2)—先天性心疾患の造影診断

著者: 松山正也 ,   渡部恒也 ,   栗林幸夫

ページ範囲:P.698 - P.707

 先天性心疾患の造影診断の目的は,理学的所見や他の検査所見からは得られない解剖学的な情報をより詳しく得ることにある.したがって,造影は適切な部位と撮影方法を選んで行うことが診断の第一歩であり,また検査にあたっては,心臓カテーテルのデータや,カテーテルの走行など新しい情報を逐次おりこんで,注入部位と撮影の方法を決定しなければならない.ことに乳幼児では全身状態をも考慮して,短時間内に検査がすむように,また造影剤の使用量も最小限にとどめるように努力しなければならない.
 今回は先天性心疾患の造影診断につき,実症例をあげて解説することにしたい.

図譜・大腸内視鏡診断学

V.大腸炎症性疾患—4)潰瘍性大腸炎(その1)

著者: 佐々木宏晃 ,   長廻紘

ページ範囲:P.693 - P.695

 潰瘍性大腸炎(以下ucと略す)は,主として粘膜を侵し,しばしばびらんや潰瘍を形成するびまん性非特異性炎症性疾患である.日本では比較的稀な疾患であるが,近年増加傾向にある.病因は,Wilksら1)の報告以来1世紀を経た現在でもなお不明である.臨床的には,下痢,下血を主症状とし,そのほか腹痛,体重減少,裏急後重,発熱,不定の消化器症状を呈する.緩解,再燃をくり返すものが多く,治療は困難であるが,内科的コントロールは可能である.予後は,激症例癌化例を除き,比較的良好である.今回から2回にわたり,ucの代表的な内視鏡像を紹介する.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.708 - P.713

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・5

全血凝固時間と血餅の観察

著者: 河合忠

ページ範囲:P.714 - P.716

止血のしくみ
 血液は流動性を示し,血管系を循環している.しかし,血管になんらかの外傷が加わると,組織内または体外に出血が起こる.正常では小さな血管が損傷されても短時間のうちに出血は止まる.それには毛細血管,血小板,血液凝固の3つの働きが協調して止血する.このうちのどの部分に異常が起きても出血が長引き,出血傾向が現れる.そのほかに,フィブリン溶解が異常に亢進しているために出血する場合もある.図1には血液凝固機序を模式的に示した.

図解病態のしくみ 先天性心疾患・2

心房中隔欠損

著者: 原田研介

ページ範囲:P.718 - P.719

 心房中隔欠損(ASD)は先天性心疾患のなかでも比較的多い疾患である.その頻度は全先天性心疾患の約10%をしめている.

プライマリー・ケアの実際

直腸診,肛門鏡,直腸鏡による診察の実際

著者: 真栄城優夫

ページ範囲:P.720 - P.723

はじめに
 直腸診と肛門直腸鏡による診察は,急性腹症,外傷,泌尿器疾患,さらには悪性腫瘍などの診断にあたって,欠かすことのできないものである.これらは,35歳以上の全症例の一般的診察に際しても行うべきであり,若年者でも,腹痛,下痢,出血,便秘などの腹部症状の訴えのある場合や,腹部外傷,骨盤骨折などにも必ず施行しなければならない.これらの実際的な診察のやり方に加えて,プライマリー・ケアとして日常よくみられる直腸肛門疾患について述べてみたい.

話題の新薬

イノバン(注)(協和醗酵)

著者: 細野清士

ページ範囲:P.724 - P.725

はじめに
 ノイバン(注)(Inovan)はドーパミン製剤で,ドーパミンは最近ショックに広く用いられるようになった.以下,ドーパミンの薬理学的特徴,臨床的応用,使用上の注意について簡単に述べる.

外来診療・ここが聞きたい

薬疹とその処置

著者: 安田利顕 ,   西崎統

ページ範囲:P.726 - P.728

症例
患者 T. K. 67歳 男性 無職
 現症歴 数年前からくり返す膀胱炎で時々治療を受けている老人.5日ほど前に高熱(38.5℃),関節痛,咽頭痛のインフルエンザ様症状で近医に受診し,そこで抗生物質(アンピシリン)の投与を受けた.服用後2日目に,顔面の一部を除いてほぼ全身に及ぶ掻痒感を伴った発赤・発疹が出現して来院した.

内科臨床に役立つ眼科の知識

血圧亢進に伴う眼底病変(2)

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.730 - P.731

 前回は,血圧亢進をきたす原疾患と関係なく,眼底病変を高血圧性変化と硬化性変化という2つの観点から評価するという方法について述べたが,今回は高血圧性変化と硬化性変化とに相当する個々の所見について解説を行ってみたい.

診療相談室

慢性肝炎における昏睡の原因と対策

著者: 門奈丈之

ページ範囲:P.744 - P.744

質問 慢性肝炎でしばしば昏睡に陥り,軽度のときは1日の休養で翌日は仕事ができる患者がおります.血中アンモニアは正常で,普段,苦痛,苦悶などの症状もなく機嫌も悪くありません.上このような患者の昏睡の原因,また予防法などについてご教示ください. (東京都江戸川区 T. T. 生 67歳)

medlcina CPC—下記の症例を診断してください

発熱と失神発作をくり返した30歳主婦の例

著者: 斉藤久雄 ,   内潟雅信 ,   池本秀雄 ,   角田孝穂 ,   村上義次 ,   田崎義昭

ページ範囲:P.733 - P.743

症例 30歳 女 主婦
 主訴 発熱と意識障害家族歴 特記すべきことなし.

私の本棚

—佐野 量造 著—「胃疾患の臨床病理」 「胃と腸の臨床病理ノート」

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.732 - P.732

日常の診療に直結する胃の病理解剖
 私は最近,はからずも癌の病理学の探究にその長いとはいえない一生を燃焼させて他界された偉大な学者の足跡の一部を2冊の本によって知ることができた.2冊の本を引き続き読んだあと,この拙文を綴りながらその感激が甦ってきて故人の他界が惜しまれてならない.その2冊というのは,元国立がんセンター病理部の佐野量造博士著「胃疾患の臨床病理」(医学書院1974)と「胃と腸の臨床病理ノート」(医学書院,1977)である.私は以前から前著の存在は知ってはいたが,むずかしくて一般の内科医には手のとどかない内容だろうと想像していた.
 しかるに昨年後著が出版され,村上忠重教授の故人に語りかけるような悲しみと敬愛の念に満ちた名書評を何かで読み(弊誌vol. 14 no. 8:編集部注),はじめて佐野先生の偉大さと同時代の同じ道を歩む方々から寄せられている信頼を知り,むずかしい内容かもしれないが,ぜひ私も読みたいと思っていた.なにぶんに,私は胃に関してはX線診断以外の部門にはほとんど接していなかったので,ただ出版された順序に従って読了した.両著ともわが国の医学書の最高の水準に達する内容であることはもとより,その格調の高さは世界に誇りうるものであろう,数年前に50歳そこそこで逝かれた著者の後生への最大のかたみである.

天地人

なるほど

著者:

ページ範囲:P.745 - P.745

 患者は,病に堪える人という意味で,patientと呼ばれているが,そのpatientと接していると,patienceを要求されるのは,むしろ医者のほうだと思われる場合が少なくない.
 例えば胸痛を訴える患者が来たとしよう.それが発作的にくるものであり,しめつけられるような左前胸部痛であり,しかも数分でおさまるものであれば,狭心症であろう,という見当はつく.ところが,これだけのことを患者から聞き出すのが実は至難の業なのである.胸痛の起こり方など,聞けば聞くほどあいまいな返事しか返ってこないし,胸痛の持続時間にいたっては,あるときは1日中痛かったような返事もするし,あるときはすぐよくなったような返事になることもある。「一体どっちがほんとうなんですか? サァサァサァー」と歌舞伎もどきに迫りたいところだが,そうすればするほど,患者はますますドギドキするので,ここは医者のほうがじっと我慢である.

オスラー博士の生涯・60

オスラーの身辺と諸活動(1908年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.746 - P.750

 オスラーは,何回となく医学生や医師のために,また一般大衆のために公開講演をしているが,その中でも1906年10月18日に行ったハーベイ記念講演会は特記すべきものの一つである,日頃,忍耐強く持説を築きあげ,世の反対,非難にもかかわらず,ついにその新しい循環学説を医学界に承認させたというハーベイの研究・生活の態度は,オスラーに強い感銘を与えていたようであり,その意味で,この講演はとくに彼の情熱を捧げてなされたものと思われる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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