icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina15巻6号

1978年06月発行

雑誌目次

今月の主題 免疫診断法と免疫療法 基礎知識

免疫機能と免疫不全

著者: 小林登

ページ範囲:P.762 - P.768

はじめに
 人類は,地球という生態圏の中で感染症と戦ってきたし,また現在も戦いつつあり,将来も戦っていくであろう.過去における感染症との戦いで,人類は「一度かかった感染症には二度かかることはない」という事実を学んだ.その代表は天然痘である.本症は皮膚に明らかな症状を発現し,しばしば死の転帰をとるが,生き残れば瘢痕がみられるので,上の事実は古くから明らかであったのであろう.
 この体験的な事実の科学的(医学的)分析の過程で免疫学immunologyは体系づけられた.そのルーツは,Dr. Edward Jennerが1798年に発表した論文,"AnEnquiry into the Causes and Effects of Variola Vacciniae"(痘瘡牛痘の原因と効果に関する調査)であった.それは,民間に伝承されていた牛痘接種を医師として試行し,その有効性を分析し確認した臨床的な研究であった.

免疫監視機構と老化・発癌

著者: 岸本進 ,   黒木政秀

ページ範囲:P.769 - P.773

免疫監視機構
免疫監視機構とは
 腫瘍の発生,転移,退縮,再発には,生体の免疫機能がなんらかの影響を及ぼしていると考えられている.Ehrlich(1908)は,生体の免疫機能が腫瘍発生を防いでおり,老人のごとく免疫機能が低下した場合に腫瘍が発生し増殖するという考えを提唱し,もしこのような免疫機能が存在しなければ,発癌の頻度はきわめて高いものになるだろうと述べている.
 その後,純系動物の実験使用が可能となって,この腫瘍免疫が動物レベルで証明されてきた.Forey(1953)は,純系マウスでmethylcholanthrene(MCA)誘発腫瘍を皮下に移植し,腫瘍が発育したあと腫瘍を結紮し,血行を遮断したマウスに再び自家腫瘍を移植したところ,これらのマウスが腫瘍を拒絶することを認め腫瘍免疫が成立することを証明した.これに続いてPrehn(1975),G. Klein(1960)らが同じくMCA誘発腫瘍でマウスに腫瘍免疫が成立することを証明し,腫瘍細胞に腫瘍特異の移植抗原が存在すると考えた.G. Kleinは,これを腫瘍特異移植抗原(tumor specific transplantation antigen;TSTA)と呼んだ.

免疫寛容と自己免疫

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.774 - P.777

はじめに
 今では,全身性エリテマトーデスの患者の血清中に抗核抗体が証明されるということは常識となっている.ところで抗核抗体といえば抗原は細胞核であり,細胞核はどの生物でも全身のいたる所にみられるふつうの自己の組織の成分である.ところがこのように自己の成分を抗原として生じた自己抗体というものは,誰でも持っているわけではない.それではどうして特定の患者にのみ見られるのであろうか.
 現在の考えでは,正常人には細胞核があってもそれに対して免疫が働かないという状態にあり,これを寛容(tolerance)とよんでいる,そして寛容が破れると免疫(immunity)の働きが出現し抗体が産生されるのである.したがってこの寛容という現象は,抗核抗体などの自己抗体の産生,さらに自己免疫病の発症に重要であることがわかる.以下この概念についてわかりやすく説明してみよう.

抗体産生調節とアレルギー

著者: 畔柳武雄

ページ範囲:P.778 - P.782

 特定の抗原に対する免疫反応には大きな個体差がある.抗原の性質,接種抗原の量,接種方法,adjuvantの有無,個体の健康状態,年齢など種々の要因が関係している.最近,ある特定の抗原に対する免疫反応が,遺伝子のcontrolのもとに質的にもまた量的にも規制されていることが明らかになった.また,種々の感染症に対する抵抗性,自己免疫疾患や悪性腫瘍の発現が遺伝子のcontrol下にあることが明らかになった.
 もともと免疫寛容は個体発生の初期,すなわち胎生期ないし新生期に人為的操作を加えることにより,特定の抗原に対し抗体(液性免疫および細胞免疫)を産生しなくなる状態を指したが,adultにおいても種々の操作による免疫寛容の状態をつくり出すことが可能となった.この免疫寛容の研究は,抗体産生の細胞レベルでの機序ならびに抗体産生調節機構に関する理解をより深いものにし,近代免疫学の基礎を築くに至った.

免疫診断法・血清成分

免疫グロブリンの定性・定量

著者: 河合忠

ページ範囲:P.784 - P.785

 免疫グロブリン(Ig)にはIgG,IgA,IgM,IgD,IgEの5つのクラスがあり,それぞれのクラスはL鎖の違いからκ型とλ型からなっている.正常のIgが増減するほかに,病的にM蛋白(単一クローン性Ig)が出現する場合があるので,Ig異常症は大きくIg欠乏症,多クローン性高Ig血症,単一クローン性Ig異常症(M蛋白血症)の3群に分けられる.

補体の定量

著者: 天野哲基

ページ範囲:P.786 - P.788

はじめに
 補体は19世紀末に血清中の殺菌作用を有する物質として発見されたが,現在では,種々の炎症反応,凝固線溶系,カリクレイン-キニン系と密接に交叉した生体防御に重要な役割を果たす反応系として理解されている.日常,われわれ臨床家がこのような補体の定量を行う意義は,補体系と病変との関係を知り,疾患の診断や予後予見に役立てるためである.
 補体定量には活性と蛋白量とを測定する方法があり,本稿では主として前者につき述べる.後者については他の文献1)を参照されたい.

自己抗体の検出

著者: 大藤眞

ページ範囲:P.789 - P.791

はじめに
 日常の臨床で検出の必要な自己抗体は15以上あり,それぞれに有用な検出法が用いられている.それらの検出法と出現する主なる疾病を一括すると表のごとくなる.
 以上のうち抗赤血球抗体検出のクームス試験や二相性寒冷溶血素検出のDonath-Landsteiner反応は古くからよく知られているので,本稿では誌面の都合もあって,その他の現今最も重要視されているいくつかの自己抗体の検出法とその臨床的意義について述べる.

免疫コンプレックスの証明

著者: 濱島義博 ,   高橋勲 ,   中井庸二 ,   吉田治義

ページ範囲:P.792 - P.794

免疫複合体検出の意義
 Immune complex(免疫複合体,以下ICと略)の意義は,Dixonらのone shot serum sicknessの動物実験モデルにおいて明瞭に示されている.その後DNA抗原と抗DNA抗体のICとループス腎炎との間に密接な関係が認められたのをはじめとして,SLEを代表とする結合織の病変とか腎糸球体の炎症あるいは系統的血管炎などの病変の発症,さらにその病態の進行に対し,ICは重要な役割を演じているものと考えられている.それはICの存在に伴った補体成分の関与(すなわち形成されたICが補体を活性化することなど),あるいは血小板とか好中球などとFcレセプターを介して反応し,種々の酵素活性物質を放出させることを契機として凝固線溶系,キニン産生系など種々のplasma mediator systemの関与を導き,さまざまな組織障害をきたすということである.
 このようにICと病因との間に密接な関係が考えられることより,病変部の局所とか,あるいは患者の血中よりICの存在を証明しようとする試みのなされることは当然のことであり,またもし明確にICの存在を証明できうるならば,その発症のメカニズムとか予後などの関係が明らかとなり,その貢献はさらに大きいものである.

免疫診断法・細胞成分

リンパ球の機能検査

著者: 矢田純一

ページ範囲:P.795 - P.797

 リンパ球の機能
 リンパ球の機能検査について述べる前に,リンパ球にはどのような機能があるのかを整理しておきたい.

リンパ球の表面マーカーの検査

著者: 渡辺信雄 ,   橘武彦

ページ範囲:P.798 - P.801

はじめに
 リンパ球は免疫担当細胞群の中で主役を担うものとされている.しかし.このリンパ球も決して均一の集団ではなく,機能を異にするT,B細胞の2大集団(subpopulation)よりなることが判明し,各大集団もさらに機能的細分化を遂げた小集団(subset)によって構成され,これらの細胞の相互作用によって免疫応答が遂行,調節されていることが明らかにされつつある.
 このような異なる細胞集団には,機能的分化に従って,それぞれに特徴的な細胞形質(細胞マーカー)が発現されている.さらに,このようなマーカーのあるものは,その細胞の機能と密接な関係を有することが明らかにされつつある1).したがって,これらのマーカーを検出することにより,機能の異なる細胞集団を質的,量的に測定することは,免疫機能を解析する上で重要な手がかりを与えてくれるものである.

貪食細胞機能の検査

著者: 籠崎祐次 ,   天野孝子 ,   小林陽之助 ,   臼井明包

ページ範囲:P.802 - P.805

 多核白血球に代表される貪食細胞機能について,検査法および臨床的意義を簡単に述べる.

組織適合性の検査

著者: 十字猛夫

ページ範囲:P.806 - P.809

はじめに
 組織適合性抗原として世界的に公認されている抗原系は現在5種類である.それらはヒト第6染色体の限局した場所に,互いに連鎖した遺伝子座に座を占める遺伝子によって決定されている.
 HLA抗原系は,ほかの動物における最も強い移植抗原系と相同であり,この意味において,組織適合性抗原と呼ばれている.しかしながら,これらの抗原の適合性が,移植の成否を1対1の対応で決定しているかどうかについては十分明らかにされていない.

免疫診断法・その他の検査

アレルゲンの検査

著者: 秋山一男 ,   宮本昭正

ページ範囲:P.810 - P.811

はじめに
 アレルギー疾患の原因抗原であるアレルゲンを検索する方法には表のようなものが列挙される.本稿では,即時型(IgE mediated)アレルギーに関与するアレルゲンの検査法のうち,in vivo testとしての誘発試験およびin vitro testとして現在広く行われているRAST(radioallergo sorbent test)を中心に,その原理,臨床的意義,問題点につき述べ,さらに皮膚テストを加えた3者の比較より診断上の問題点を考えたい.具体的な実施法については成書を参照されたい.

皮膚反応—皮内・スクラッチ

著者: 石崎達

ページ範囲:P.812 - P.814

 即時型皮膚反応の理論1)
 アレルギー疾患(気管支喘息・アレルギー性鼻炎・同結膜炎・じん麻疹・食餌アレルギー・薬品アレルギー・花粉症など)の発症機序は抗原抗体反応である.抗原(アレルゲン)は空気中の浮遊物(吸入),食品・内服薬(経口),薬品(注射)などの手段で患者の体内にとり入れられる.アレルギー疾患の患者では,これら侵入物質に対して特異的に反応するIgE(石坂発見)免疫グロブリンがあるので,抗原抗体反応により発症するのである.
 IgEは組織中のマスト細胞・血中好塩基球の細胞膜に付着する(親和性)特徴があるために,リンパ球系で生産され体液中に遊離されるIgEは直ちに上記細胞に付着するので,結果として全身の組織に広く分布している.

免疫療法

免疫強化剤

著者: 関口守正

ページ範囲:P.815 - P.817

はじめに
 免疫強化剤が癌の免疫療法剤と同義語である現状は,その開発の歴史からみて当然のことといえよう.現在までに免疫刺激能が実験的または臨床的に確かめられた物質は表に示すとおりで,数も多く,その種類も多岐にわたる.物質によって,作働する免疫系の標的細胞(Tリンパ球,Bリンパ球,マクロファージなど)が異なる.刺激をうける免疫反応の種類も異なる.投与量,投与のタイミングによっても発現する刺激効果は異なってくる.したがって,目的とする免疫増強効果が十分に発揮されるためには,強化剤の最少有効量以上の投与が必要であり,抗原刺激と免疫強化剤との投与のタイミングも大切である.そのためには免疫応答能を経時的に測定することが必要となるが,これには一定の方式が確立されているわけではない.本稿では,誌面の都合上,現在わが国で入手可能な製剤について記述するにとどめる.

免疫抑制剤

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.818 - P.822

免疫抑制剤の種類とその適応1〜3)
 免疫抑制剤は,生体内における免疫反応を抑制することによって治療効果を表す薬剤の総称である.免疫抑制剤は表1に示したごとく①副腎皮質ステロイド,②細胞毒性免疫抑制剤,③抗原特異性免疫抑制剤の3種類に大別される,このうち最後の抗原特異性免疫抑制剤,すなわち抗リンパ球血清,抗Rh抗体については別稿で取り扱われているので,ここでは副腎皮質ステロイドと細胞毒性免疫抑制剤の両者について述べる.
 免疫抑制剤は,免疫反応がその病態の発現に関与しているすべての疾患に対して適応がある.その主要なものを示したのが表2で,その適応範囲はきわめて広範囲に及んでいる.副腎皮質ステロイド剤と細胞毒性免疫抑制剤とはともに表2に示した疾患の大部分のものに対して有効で,この両者は臨床的にしばしば併用されて用いられている.しかしながら,副腎皮質ステロイドは免疫抑制作用とともに強い抗炎症作用を有しているのに対して,細胞毒性免疫抑制剤は免疫担当細胞の増殖および分化に対する抑制作用が主で,抗炎症作用は免疫の抑制に伴って現れてきたものである.したがって,この両群の薬剤の使用法は個々の疾患によって相違があり,たとえば表2の最初に示したアレルギー性疾患の場合には,もっぱら副腎皮質ステロイドが用いられている.本稿においては,副腎皮質ステロイド剤と細胞毒性免疫抑制剤の各々についてその作用の機序,臨床的応用ならびに副作用について述べる.

抗Rhγグロブリン製剤

著者: 白川光一

ページ範囲:P.823 - P.825

はじめに
 "予防に勝る治療なし"というのは医療の鉄則である.したがって,胎児・新生児溶血性疾患(hemolytic disease of the fetus and the newborn,以下HDNと略記.旧称は胎児・新生児赤芽球症Erythroblastosis fetalis et neonatorum)についても,その原因解明(1940)直後から多数の予防法が提唱されたことはいうまでもない.しかし,すべてみるべき効果はあげえなかった.
 しかるに,1961年頃から現在の抗Rh IgG(抗Rhγグロブリン)の投与による予防法が台頭し,その効果はかなり高く評価され,現在の普及をみるに至っている.思うに本予防法は,ほぼ同じ頃に出現した羊水分析(1961)および子宮内胎児輸血(1963)と並んで,HDN対策史上,交換輸血(1946)に次ぐ,第2のエポックを画するものである.

抗リンパ球血清

著者: 折田薫三 ,   阪上賢一

ページ範囲:P.826 - P.827

はじめに
 1963年Woodruffらが異種動物抗リンパ球血清heterologous antilymphocyte serum(ALS)が強い移植免疫反応抑制効果を有することを発表して以来,その有効性は多くの人達によって報告されてきた.このALSは最近の免疫学の進歩や腎移植を中心とした臓器移植の発展に刺激されて,再びその有効性が確認される機運にあるので,今回はALSの臨床応用に焦点を当てて解説を試みたい.

免疫因子の補充による治療法—γグロブリン製剤(主として筋注)

著者: 堀誠

ページ範囲:P.828 - P.831

はじめに
 現在,臨床で応用されているγグロブリン製剤には,標準ヒト免疫血清グロブリン(筋注用γグロブリン),特異的ヒト免疫血消グロブリン,および静注用ヒト免疫血清グロブリンがある.

免疫因子の補充による治療法—静注用γグロブリン製剤

著者: 安部英 ,   松田重三

ページ範囲:P.832 - P.834

静注用γグロブリン製剤の種類
 現在わが国で市販されている静注用γグロブリン製剤には,ガンマベニン(Gammavenin,ヘキストジャパン),グロベニン(Glovenin,日本製薬),静注グロブリン(化血研),およびベノグロブリン(Venoglobulin,ミドリ十字)の4種類があり,さらに富士臓器製薬からも近く発売が予定されている.
 従来の多数のヒトからの血清より分離精製して作った静注用γグロブリン製剤を静脈内に投与すると,発熱やショックなどの副作用が起こることがあるが,これは製剤中のγグロブリンが凝集ないし重合し,その重合体が血液中の補体を活性化するため,結果的にアナフィラトキシン様物質や血管透過性因子などが遊離することによると考えられている.

骨髄,胎児肝・胸腺の移植

著者: 合屋長英

ページ範囲:P.836 - P.837

はじめに
 骨髄をはじめとする幹細胞移植療法は,donorの正常機能をそなえた幹細胞を用いて,先天性あるいは続発性に欠損しているrecipientの造血機能を回復することを目的としている。骨髄移植は手技自体はむずかしいものではないが,移植幹細胞を生着させるためのrecipientの前処置,takeされても高頻度に起こるgraft-versus-host disease(GVHD)をいかにして防ぐかなど重要な問題を有している.
 幹細胞および胸腺移植療法の適応疾患を表1に掲げたが,最も行われているのは骨髄移植である.すなわち,重症複合免疫不全症のほか劇症型再生不良性貧血,難治の急性白血病に試みられているが,わが国では未だ成功例がない.欧米ではすでに300例近くの骨髄移植が行われ,成功例も増加している.本稿では骨髄移植を中心にその問題点を述べ,胎児肝・胸腺移植については簡単に記す.

免疫療法・これから期待されるもの

Interferon

著者: 岸田綱太郎

ページ範囲:P.838 - P.839

はじめに
 最近,「Interferon(IF)」という名前は一般に知れわたるようになったが,その発見は25年も前に日本の長野泰一,小島保彦により「ウイルス抑制因子」として発表されたのがはじまりである.その後英国のアイザックスとリンデンマンによって異なる実験系で同様の物質を報告し,「インターフェロン」と名づけられた.
 この物質が従来の抗ウイルス物質や中和抗体とまったく異なる,また非常にすぐれた感染防御効果を示すことは発見の初期から明らかとなり,その臨床応用は時間の問題と思われながら未だに臨床医学者の手に渡らないのは,その作用機転や物質としての解明が不十分だからではない,サルファ剤や抗生物質が臨床応用された当時,それらの薬剤の作用機転は現在のIFのそれよりもずっと不明確であった.要はヒト用IFの量産が未だ軌道に乗っていないからである.

Transfer factor

著者: 松本脩三 ,   伊藤碩候

ページ範囲:P.840 - P.841

はじめに
 Transfer factor(TF)は,遅延型皮膚反応(DTH)陽性の供血者から陰性の受療者へ,その皮膚反応性を受働的に伝達することが可能な感作白血球由来の透析性抽出物として,Lawrenceにより1955年に初めて記載された1)
 正常人では,DTHの伝達ばかりでなく,この物質を介して特異抗原に対するMIF産生反応とか,あるいはin vitroのリンパ球反応性も伝達されうることも同時に知られていた.Lawrenceの報告から15年を経てTFが多くの臨床家の注目を集め始めたことの背景には,2つの疾患の存在がきわめて重要な役割を果たしている.すなわちWiskott-Aldrich症候群(WAS)と慢性皮膚粘膜カンジダ症(CMC)である.

胸腺因子

著者: 大沢仲昭

ページ範囲:P.842 - P.843

胸腺因子とは
 胸腺はT細胞の分化を誘導して生体の免疫機能を維持している.図1はヒトにおける免疫系機能の誘導機構を示しているが,骨髄中のT前駆細胞が胸腺を経てT細胞に誘導される.このT綿胞には種々の段能を有する群があり,細胞性免疫を司るとともに,B細胞に対しても調節作用を及ぼして体液性免疫にも影響を与えている.この胸腺の作用を具体的に担っている物質的基盤が胸腺因子(胸腺液性園子,胸腺ホルモン)であると考えられている.
 T細胞の分化を僕式的に示すと図2のように、T前駆細胞(T0)から未熟なT1,T2と徐々に誘導され,機能を有するT細胞となる.胸腺因子は誘導の過程のいずれにおいても作用する可能性があるが,現在得られている胸腺因子には最初の過程に確実に作用するものは未だ証明されておらず,大部分はそれ以後に作用するものである.一つの胸腺因子がすべての過程に作用する可能性もあるが,現在の考えは,多数の胸腺因子が個々の過程に作用し,これらが一群となってはじめて完全なT細胞が誘導されるのではないかということである.

理解のための10題

ページ範囲:P.844 - P.846

心電図の診かたとその鑑別 基礎編・波型異常のみかた・6

不整脈のみかた

著者: 石川恭三 ,   前田如矢

ページ範囲:P.848 - P.851

 前田 心電図が診断武器として最も威力を発揮するのは,何らかの原因で起こってきた心筋の異常と,不整脈だと思います.
 "基礎編"の最後として,不整脈のみかたについてお話し願いたいと患います,不整脈をみていく場合,どういう点に着目して分析すればいいでしょうか.

教養講座比較生物学 生命と環境との調和

食物と消化

著者: 石田寿老

ページ範囲:P.852 - P.856

はじめに
 動物の消化器官は種によって決まっているから,系統的であり遺伝的である.一方,生物は環境に適応するが,その一つの方法として,消化のためには適応的な共生関係が成立している.

図譜・大腸内視鏡診断学

VI.大腸炎症性疾患—5)潰瘍性大腸炎(その2)

著者: 佐々木宏晃 ,   長廻紘

ページ範囲:P.857 - P.860

 潰瘍性大腸炎(以下ucと略す)の内視鏡所見による病期の判定は比較的容易である.しかし,緩解期と考えられる例の内視鏡所見と組織所見には,しばしば解離が認められる,すなわち,肉眼的にほぼ完全に緩解期と考えられる例でも,組織学的にはまだ軽度の炎症所見が残存することはよくある1),この解離を解消するために,色素(インジゴカルミン,メチレンブルーなど)を用いた内視鏡検査が施行されるようになった2,3).さらに切除標本の実体顕微鏡的観察による成果4)をふまえて,拡大大腸内視鏡が開発され,ucの緩解期における組織所見との解離は,ほぼなくなったと考えてよい.
 今回は,前回にひき続き,非活動期(緩解期)quiescent stageの内視鏡像,色素による内視鏡検査,炎症性ポリープ,そしてucの鑑別診断について述べる.

演習・X線診断学 血管造影写真読影のコツ・18

心血管造影(3)

著者: 松山正也 ,   渡部恒也 ,   栗林彰夫

ページ範囲:P.862 - P.868

僧帽弁狭窄症
 Brockenbrough法による経心房中隔左房造影や,肺動脈への造影剤の注入による静脈相で左房が造影されると,僧帽弁尖がdome状に左室側へ向かって張り出して,狭窄部から左室へ向かう造影剤の噴出像jetがみられる.左室が造影されると,左室との間に肥厚した弁尖が陰影欠損となってdomeを形成しているのがよくわかる3).しばしばこの弁尖や弁輪部に著しい変形と運動制限がみられるが,これは正面,側面または右前斜位でのX線映画で最もよく観察される.左房の拡大程度や血栓による左房内陰影欠損,辺縁不整などを1もよくみておくことが大切である.
 左房が造影されていながら左心耳の造影がみられない場合は,血栓の可能性が高い.左室造影では僧帽弁尖を直接に認めることはできないが,弁口部の不整像,収縮期・拡張期における弁尖の動き,ことに側面での弁尖部の後方への移動などに注意する.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.870 - P.875

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・6

出血時間

著者: 河合忠

ページ範囲:P.878 - P.881

はじめに
 血管内を流れている血液は,正常では決して凝固しない.しかし,血管になんらかの外傷が加わると組織内または体外に出血がみられるが,小さな血管が損傷されても短時間のうちに出血は止まる.止血は血管,血小板,血液凝固因子の3つが協調して起こるが,最初の止血血栓を作るのにとくに重要なのは血小板である.出血時間測定は生体の止血現象を総合的に検査しうる唯一の方法で,主として毛細血管機能,血小板機能を反映する重要な検査法である.

図解病態のしくみ 先天性心疾患・3

動脈管開存症

著者: 原田研介

ページ範囲:P.882 - P.883

 動脈管開存症(patent ductus arteriosus:PDA)は非常に多い先天性心疾患である.過去の報告によれば,心室中隔欠損に次いで,2番目に多い疾患で,全先天性心疾患の約15%をしめている.

話題の新薬

アルサルミン(中外製薬)

著者: 松尾裕

ページ範囲:P.885 - P.887

はじめに
 アルサルミンは1967年1),本邦における中外製薬綜合研究所において独自に研究開発され,1968年より市販された新しい作用機序をもつ胃・十二指腸潰瘍治療剤として広く臨床医家に使用されている薬剤である.

内科臨床に役立つ眼科の知識

血圧亢進に伴う眼底病変(3)—本態性高血圧症の眼底所見

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.888 - P.889

 前回まで2回にわたって,血圧亢進をきたす原因疾患に関係なく,眼底にみられる病変をどのようにとらえ,またどのように解釈するかという立場から,血圧亢進に際してみられる眼底病変について解説を行ってきた.しかし,個々の症例に実際に眼底検査を行うときには,何らかの原因がある血圧亢進か,本態性高血圧症かということになる.今回はなんといっても頻度の高い本態性高血圧症を取り上げて,その眼底病変について解説する.
 さて本態性高血圧症にみられる眼底病変は,前回までに述べた高血圧性変化と細動脈硬化性変化とがいろいろに組み合わさって構成されるものであり,4月号の表2に示した眼底病変の病名でいえば,高血圧眼底,動脈硬化性網膜症,高血圧性網膜症,高血圧性視神経網膜症の所見がみられるということになる.

プライマリー・ケアの実際

輸血の実際

著者: 真栄城優夫

ページ範囲:P.890 - P.893

はじめに
 輸血の目的は,急性出血に対し循環血液最を維持し,酸素の運搬能力を改善することであるが,ときには貧血や出血傾向の治療にも使用される.輸血は,血液の同種移植であるとともに,保存に伴う保存血の種々の変化があり,いろいろな危険や合併症も存在する.これら輸血の基本的知識と,その実際について述べていきたい.

medicina CPC—下記の症例を診断してください

労作後の失神発作をくり返した73歳男性の例

著者: 石村孝夫 ,   五味朋子 ,   藤田安幸 ,   春見建一 ,   後藤晃 ,   太田怜

ページ範囲:P.895 - P.908

症例 M. I. 73歳 男性
 主訴 労作に伴う失神発作
 現病歴 生来健康.昭和51年4月,坂道を登ったあと,突然,前胸部不快感,冷汗を覚え,その場に坐りこんだ直後,失神した.意識は数分後に回復したが,そのとき,とくに頭痛,めまい,動悸,悪心,嘔吐,手足のしびれ,麻痺などの自覚症状を感じることはなかった.その後,同様の失神発作が階段昇降,歩行,食事などの労作中あるいは労作後に頻発するようになり,昭和52年4月30日,当科外来受診し,同年5月17日,失神発作精査のため当科に入院した.

私の本棚

—高瀬吉雄 著—アレルギ—入門一臨床医のための66章 —小林登著—免疫系と免疫病一臨床細胞免疫学 —山村 雄一,小林 登監修—免疫

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.894 - P.894

新しい免疫学を学びとるために
 この20年たらずの間の免疫学の発達はすさまじい.爆発的な発展をみたのはBurnetの抗体産生理論(1959)以後のことであろうか.いつのまにかすべての臨床分野に新しい免疫学が導入されて,内科の各領域が書き改められてしまった.古い血清学の講義を聞いてきた者にとっては,まったくの革命といえるような状態になってきて,内科の教科書ですらその知識なくしては理解しにくい点が多くなってきた.
 こんな時に,私も免疫学の簡単な知識を得たいと思い何冊かアタックして,中断も何度かくり返したが,3冊の本を読むことにより一応その基礎知識を得ることができたように思うので同じ悩みを持つ同学の士も多いと考えて経験を述べてみよう.

天地敢人

ペニス

著者:

ページ範囲:P.909 - P.909

 相変わらず新聞紙上で過激派の内ゲバが伝えられている.このようなニュースを見聞するたびに私は動物園の檻の中でお互いに争っている原猿類のことが思い出される.原猿類,たとえばキツネザルなどは,ヒトと同じように霊長類に分類されているが,生活に好適な場所があり余るほどある環境でも,わざわざ集まって内ゲバを行い,オスとメスの間にさえ敵対関係がみられるということだ.それで種族維持が可能なのであろうか.これに関連して京都大学名誉教授の宮地伝三郎氏は大変興味ある意見を述べられている.同類の動物についてみると,愛情の発達が悪いほど,ペニスの構造が複雑になっており,これが種族維持のために重要な意味があるという説である.
 原猿類のペニスにはトゲが密生し,しかもその先端がペニスの基部に向かっており,膣への挿入は容易であるが,勃起している間はなかなか引き抜くのが不可能らしいということである.原猿類では愛情も乏しく,メスの合意が不十分なままで性交が行われるため,性器にひっかかりが必要だというのである.それが,真猿類になるにつれてペニスの外形もだんだん単純になり,オランウータンではほとんど人類と同じようになっている.真猿類では愛情の表現も豊かになり,性交中親愛的でさえあるから性器にひっかかりを必要とせず,ペニスの表面からトゲが消えたのであろう.

オスラー博士の生涯・61

オックスフォード生活4年目—欧州旅行

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.910 - P.913

 オスラーは,オックスフォードに移ってから1年半後の1907年の初めに,やっと改築された立派な家がNorham Garden 13番地に与えられた.このすばらしい家にはいつも大勢の来客が集まり,庭では若者がテニスなどをして楽しんでいた.
 1907年のクリスマス・ディナーには,16人もの若者が招待され,そのほかアメリカからの来客の絶間がなかった.さすがのオスラー夫人も激しい人々の出入りで疲れ切ったような様子が見られた.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?