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今月の主題 実地医のための臨床細菌学 感染症の管理
老年者感染症の臨床細菌学と治療
著者: 島田馨1
所属機関: 1東京都養育院付属病院内科
ページ範囲:P.1018 - P.1019
文献購入ページに移動老年者は感染症をなおりにくいようにさせる因子をかかえている場合が多い.たとえば,糖尿病,気管支拡張症,胆石症,残尿などは老年者に珍しくないが,このような基盤のあるところに感染が成立すると,慢性の経過をとりやすくなる.したがって,若い人にみられるような急性単純性の感染症よりも,慢性複雑性感染症が老年者の感染症に大きな比重をしめてくる.
臨床細菌学的な立場から老年者の感染症を眺めると,いくつかの特徴を指摘できる.その一つは複数菌による混合感染が多いことである.呼吸器感染の起炎菌の決定は容易ではなく,とくに喀痰の培養だけでは呼吸器感染が一種類の細菌によるものか,混合感染を起こしているのかを決めるのは不可能に近いが,老年者の敗血症,胆道感染症,軟部組織感染症,尿路感染症では明らかに混合感染の比率が高い.一般に,敗血症での複数菌感染は6〜10%程度と考えられているが,自験の老年者の敗血症210例のうち17.6%は複数菌の敗血症であった1).また老年者の胆道手術の際に,胆嚢を穿刺して採取した胆汁の培養成績では,40の有菌胆汁のうち32胆汁が混合感染であった2).老年者の軟部組織の感染症で多いのは褥瘡部位の感染であるが,褥瘡は仙骨部や大転子部に好発して糞便に汚染されやすいため,ほとんどすべてが混合感染を起こしている.
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