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雑誌目次

雑誌文献

medicina15巻9号

1978年09月発行

雑誌目次

今月の主題 肝疾患のトピックス

理解のための10題

ページ範囲:P.1318 - P.1320

病態生理

ウイルス肝炎の病因と経過

著者: 三田村圭二

ページ範囲:P.1262 - P.1265

はじめに
 黄疸が流行性に発生することは古くから知られており,Hippocratesがすでに記載しているといわれている,また,血清を介しての黄疸の流行は1885年にLurmanが最初に種痘後の黄疸の流行について報告している,そして,急性ウイルス肝炎は流行性(伝染性)肝炎infectious hepatitisと血清肝炎serum hepatitisの2つの型に最近まで分けられていた.また,1947年にMac Callumは流行性肝炎にhepatitis A(virus A),血清肝炎にhepatitis B(virus B)という用語を提唱した,さらにKrugmanら1)はWillowbrook州立精薄施設における人体接種実験から,疫学的,免疫学的および臨床的に異なる少なくとも2つの型の肝炎(MS-1型とMS-2型)の存在を確認し,それぞれ,流行性肝炎(MS-1型)と血清肝炎(MS-2型)に相当することを明らかにした,ウイルス肝炎の本態究明は,1964年にBlumbergによりオーストラリア抗原(Au抗原)が発見され,急速に進歩した.
 Au抗原陽性血の輸血が輸血後肝炎の主要な原因であることが明らかになり,さらにKrugmanらのMS-2血清はAu抗原陽性であることからB型肝炎と密接な関連が認められ,hepatitis B antigen(HB抗原)と命名された.

肝疾患と免疫異常

著者: 山内真義 ,   藤沢洌

ページ範囲:P.1266 - P.1268

はじめに
 近年,B型肝炎関連抗原の本態が次々と解明されるに及んで,B型肝炎ウイルス(HBV)の感染の指標,さらには慢性化の指標としてのHBs抗原の意義が確立された.しかし,HBs抗原のasymptomatic carrierでは,血中に高力価のHBs抗原が持続的に証明され,しかも肝細胞内にHBs抗原が多数認められても,肝細胞障害は起こらずウィルスも排除されないことが明らかになって,HBV自体が感染肝細胞を直接破壊する可能性は否定され,またこのようなasymptornatic carrierの成立は,免疫応答に乏しい出生時前後から乳児期におけるHBVの初感染にあることなどが明らかにされて,B型肝炎の発症病理上,HBVの侵入(感染)と肝細胞の破壊(発病)の間にはHBs抗原に対する体液性免疫あるいは細胞性免疫が介在するという考えが有力となった.
 本稿ではB型肝炎の発症と慢性化をめぐる免疫学的な問題点を中心として述べ,さらに薬剤アレルギー性肝炎およびアルコール性肝障害についても若干ふれてみたい.

検査法の進歩

新しい肝機能検査としての—血清中総胆汁酸測定

著者: 遠藤了一 ,   上野幸久

ページ範囲:P.1270 - P.1271

はじめに
 コレステロールからの胆汁酸の生成,グリシンおよびタウリンとの抱合,胆汁中への分泌ならびに,腸肝循環によって肝にもたらされた胆汁酸のとりこみ,胆汁中への再分泌といった胆汁酸代謝は肝細胞に与えられた特異的な機能である.したがって,肝・胆道疾患においてはこのような胆汁酸代謝が障害され,血中胆汁酸レベルは肝機能の低下に応じて多少なりとも上昇する.このため血中胆汁酸濃度の測定は,特異性の高い鋭敏な肝機能検査となるはずである.しかしながら,従来,血中胆汁酸の測定はガスクロなどの器械ならびに時間と熟練とを必要とし,日常の臨床には応用できなかった.ところが近年,精度が高く迅速に胆汁酸を測定することができる酵素螢光法が開発され,わが国でも最近真重,大菅らにより導入され,血中胆汁酸の測定が急速に普及してきた.本稿では,筆者らの成績をもとにして,新しい肝機能検査としての血中胆汁酸測定の有用性について解説したい.

アイソザイムの診断的意義

著者: 堺隆弘

ページ範囲:P.1272 - P.1273

はじめに
 血清酵素活性の上昇はそれぞれの酵素について診断的な意義をもっているが,病態の質的な差あるいは臓器由来を明らかにするためには,血清酵素のアイソザイムの分析が必要不可欠である.LDH,アルカリフォスファターゼ(Al-P),γ-GTP,コリンエステラーゼ,GOT,あるいはアミラーゼなど,数多くの酵素のアイソザイムの分析法が開発され,臨床応用がなされている.アイソザイムの分析には,電気泳動,カラムクロマト,免疫学的方法あるいは抑制因子,物理,化学的な処理による活性の変化をみる方法があり,中でも電気泳動による分析がルーチンに行われている.血清酵素の中でもLDH,Al-Pアイソザイムは広く行われており,γ-GTP,GOTなどのアイソザイムの臨床応用もすすんでいる.

超音波診断

著者: 福田守道

ページ範囲:P.1274 - P.1278

はじめに
 超音波診断法は超音波パルス波を使用し,軟部組織間の音響学的特性の差を利用して生体内部構造の測定や映像化を行うもので,患者に苦痛,障害を与えず,しかもX線によっては得ることのできない診断的情報の得られることから,いわゆる画像診断法の重要な一手段として注目されるようになってきた.
 超音波反射波の表示方式としては,従来から知られているように,A,B,M mode表示があるが,肝を対象とした場合,ほとんどB-mode(brightness modulated display)方式がとられ,いわゆる超音波断層像(ultrasonotomogram,echotomogram)を観察することになる.走査方法としては接触複合走査法と高速自動走査法が使用されている.

CTスキャン

著者: 右田徹

ページ範囲:P.1279 - P.1282

はじめに
 CTスキャンとはコンピューター断層撮影(computerized tomography)の略称で,人体の横断面の臓器組織の単位面積当たりの放射線吸収量の違いを濃淡の違いとして,横断面の画像を形成するものである.実用の段階に入ってからまだ日も浅く,とくに躯幹部については機器の性能も飛躍的に改善されつつあるが,既に臨床面での実績も積み重ねられているので,現段階での効用と将来の可能性について,肝のCTスキャンを中心に解説したい.

腹腔鏡検査

著者: 岩村健一郎

ページ範囲:P.1285 - P.1288

はじめに
 腹腔鏡検査法は1902年Kellingが膀胱鏡を用いてイヌの腹腔内臓器の観察を試みたことに始まり,1910年Jacobeusによって腹水患者の診断に試みられて以来,臨床的にとりあげられ,1950年代Kalkらの努力によって今日の基礎が築かれた.その後,器具の改良が重ねられ観察が容易になるとともに,腹腔鏡所見をカラーフィルムに記録することや腹腔鏡観察下の肝穿刺生検が可能となり,現在,肝疾患診断に大きな役割を担っている.わが国においてこの検査法がとりいれられるようになったのは1958年以来のことであり,山川,常岡の努力による.

肝生検による肝硬変の診断とその限界

著者: 奥平雅彦

ページ範囲:P.1290 - P.1291

はじめに
 肝生検材料を病理組織学的に検査することの最大の利点は,肝生検を反復施行することによって組織レベルで肝疾患の病的機転を,経時的に追求し把握することができるということであろう,事実,わが国では患者数の多いウイルス性肝炎の診断には,病期,活動性か非活動性か,進行性か治癒過程にあるのかなどの判定に最も確実な手がかりを得る方法として肝生検が広く行われている.
 しかしながら,肝硬変の診断となると事情が異なってくる.というのは,肝硬変の正しい診断は肝の部分性状によって行われるのではなく,肝全体にみられる変化に対して行うべきものだからである.したがって,肝全体の約1/50,000にすぎないとされる針生検材料や,約1/2,500にすぎない外科的なedge biopsyの材料による肝硬変の組織診断は,検査材料の矮小性から考えて,かなりむずかしいものであるという認識が必要である.

問題となる肝疾患

微小肝癌

著者: 奥田邦雄

ページ範囲:P.1292 - P.1293

はじめに
 癌は小さいうちに切除するのが最もよい治療法である.あるいは前癌状態の部位が把握できればなおよいが,それは肝癌については現在不可能である.肝癌は比較的最近までは不治の癌で,たまたま小さい肝癌を腹腔鏡検査とか,他の目的で開腹したときに発見して切除できたという報告以外には,微小肝癌を一定の診断方法で発見するということはまず考えられなかった.欧米では今でもその点は変わらないが,本邦では,最近B型肝炎との関連において,α-フェト蛋白(AFP)を頻回に追うことにより,切除可能な肝細胞癌がかなり診断されるようになったことは,世界的にも高く評価されるべき実績であると考えている.

肝癌の手術

著者: 長谷川博 ,   山崎晋

ページ範囲:P.1294 - P.1295

はじめに
 従来から,手術それ自体も術後管理も「賭け」的な危険に満ちている—と少なくとも大部分の医師に信じ込まれてきた広範囲肝切除が,ごく最近急に安全になった.
 この事実には当事者である筆者らとしても実は驚きを隠し切れないでいる—というのが本音であり,宗教的に考えれば神仏のご加護を,賭け事でいえばツキを,学問でいえばペニシリンの発見のようなハプニングの面白さを感ぜずにはいられない.

門脈圧亢進症とその対策

著者: 二川俊二 ,   杉浦光雄

ページ範囲:P.1296 - P.1297

はじめに
 門脈圧亢進症による食道静脈瘤の治療対策としては保存的治療と手術的治療とがある.保存的治療としては近年,選択的腹腔動脈または上腸間膜動脈内Vasopressin注入法,経安経肝門脈カテーテル法による静脈瘤の血栓性閉塞1)(PTP),内視鏡下静脈瘤硬化剤注入法2)などが試みられている.外科的治療としては血管吻合術と直達手術に大別され,血管吻合術は欧米では相変わらず標準術式とされているが,Warren's shunt3)などの選択的門脈減圧手術や,手術の容易なmesocaval H-type shunt4)が主流となっている.本邦では食道離断術と噴門切除術などの直達手術が主流をなし,多くの施設で行われているのは経胸的食道離断術5)である.

慢性肝内胆汁うっ滞

著者: 佐々木博 ,   大貫啓三 ,   岩下貞厚

ページ範囲:P.1298 - P.1300

はじめに
 胆汁うっ滞cholestasisは肝外閉塞性黄疸におけるほか,肝内外の主要胆管に機械的閉塞ないし狭窄のない場合にもみられることがあり,後者を肝内胆汁うっ滞intrahepatic cholestasisとよぶ.そのうちウイルス,薬剤などによる肝内胆汁うっ滞の多くは数ヵ月以内に黄疸は消退し,予後良好な病型で急性肝内胆汁うっ滞とよばれている.しかし,肝内胆汁うっ滞のなかには原発性胆汁性肝硬変primary biliary cirrhosis(PBC)で代表されるごとく年余にわたって黄疸が持続し,非可逆的な肝病変を示す病型があり,これらを慢性肝内胆汁うっ滞chronic intrahepatic cholestasisとよんでいる.
 現在この病型にはPBCのほか慢性薬剤起因性肝内胆汁うっ滞,原発性硬化性胆管炎などがあり,これらの多くは原因不明である1).本稿ではPBCを中心にして述べる.

肝不全の対策

人工肝補助装置

著者: 井上昇

ページ範囲:P.1301 - P.1303

はじめに
 広範で複雑な肝臓の機能を代行できる人工肝臓(artificiai liver)の開発は,長い間研究者の夢にしか過ぎなかった.
 1974年LondonのKing's College Hospitalのグループ(R.Williamsら)1)が劇症肝炎の患者の治療に活性炭による血液浄化を行い画期的な治療成績を報告してから,体外で肝機能を代行させる試みが再びとりあげられるようになった.現在,実用化されている人工肝補助装置(artificial liversupport)は肝臓の解毒機能の一部を体外で代行できるが,合成・代謝などすべての肝機能を代償できるわけではない.したがって,肝再生の期待できる急性肝不全の症例を対象にして一時的な延命を目的にして用いられ,多数の成功例や救命率の改善が報告されている.

肝性昏睡とアミノ酸

著者: 高橋善弥太

ページ範囲:P.1304 - P.1305

はじめに
 最近,重症肝疾患における血漿アミノ酸組成の異常が注目を集めている.この異常は肝硬変における肝性脳症の発生機序に密に関係しており,新しい脳症の治療法の発見をもたらした.他方,脳症を起こさない肝硬変においても既に軽度ではあるが同様の血漿アミノ酸組成の異常がみられることから,重症肝疾患における全身的代謝異常の一つの表現として捉え,その背後にある内分泌学的な異常を明らかにすると共に,肝疾患患者の栄養管理の問題にまで発展する可能性を内蔵した問題である。

重症肝疾患と血液凝固異常—とくにDICの診断とその対策

著者: 佐藤俊一 ,   柏原紀文

ページ範囲:P.1306 - P.1307

はじめに
 重症肝疾患では高度の血液凝固異常が生じ,したがって,プロトロンビン時問,トロンボテスト,ヘパプラスチンテストなどの血液凝固試験が肝疾患の重症度ならびに予後の判定にとくに有用である1).一方最近,重症肝疾患,ことに劇症肝炎では血管内血液凝固(disseminated intravascular coagulation, DIC)の合併が重視され,約30%に認められるとされる.本稿では肝疾患におけるDICについて,診断ならびに対策を中心に述べる.

座談会

薬物性およびアルコール性肝障害

著者: 浪久利彦 ,   石井裕正 ,   岡部和彦 ,   上野幸久

ページ範囲:P.1308 - P.1317

 薬物性肝障害やアルコール性肝障害はウイルス肝炎などと臨床像の紛らわしい点が多々あり,診断に際してはそういった肝障害を予め念頭に置くと同時に,Anamneseを明確に把握しないと意外に見落としてしまうことがある.そこで今回は,薬物およびアルコール性肝障害に焦点を合わせ,その発症機序から臨床像のvariation,また肝機能検査上の特徴,診断のポイントなどをお話しいただく.

図譜・大腸内視鏡診断学

IX.大腸隆起性病変—(2)非上皮性悪性腫瘍(転移性腫瘍,カルチノイドを含む)

著者: 長廻紘 ,   佐々木宏晃

ページ範囲:P.1321 - P.1324

 今回は大腸肉腫とその類似疾患について述べる.大腸の肉腫は稀な疾患であるが,回盲部には比較的好発し,その存在を知っていることは,各種の回盲部疾患との鑑別上重要である.大腸の転移性癌,悪性リンパ腫,白血病の大腸病変も,興味ある内視鏡所見を呈するので,あわせて述べる.また,上皮性腫瘍であるが,肉眼像は非上皮性腫瘍像を呈するカルチノイドについても述べる.

演習・放射線診断学 シンチグラム読影のコツ・3

肝シンチグラム(2)—胆道シンチグラム

著者: 久保敦司 ,   高木八重子 ,   木下文雄

ページ範囲:P.1326 - P.1332

 肝シンチグラムの主目的は,肝内のSpace occupying lesionの検索にありますが,それについては前回に解説しました.肝のびまん性疾患の診断は主に生化学的諸検査によりますが,肝シンチグラムも時に有用な情報を与えることがあります.また一方,ある種の色素系RI化合物を用いると,肝実質細胞に摂取された後,胆道系を経て腸管へ排泄されるため,経時的にシンチグラムを撮影することによって胆道系の形態や機能の異常を知るのに役立ちます.
 今回は,肝のびまん性疾患の肝シンチグラムと肝・胆道系シンチグラムについて,症例を中心に述べてみたいと思います.

心電図の診かたとその鑑別 臨床編・各種心疾患の心電図・3

後天性弁膜症

著者: 町井潔 ,   前田如矢

ページ範囲:P.1334 - P.1347

 前田 今回は後天性弁膜症を取りあげることにしました,弁膜症は理学的所見,とくに心雑音の聴診とその客観化である心音図でほぼ定性診断ができますが,UCGが診断的に非常に有用で,最近はむしろルチン検査ということさえいわれています.後天性弁膜症に関しては,心電図は診断をつけるという意味ではなく,心房,心室が大きいということをみるものですが,弁膜症の種類によっては特異的な心電図所見を示すものもあるので,有力な参考情報の一つになることが多いわけです.
 最近は心臓手術が普及していますので,重症度・手術適応の決定とか,術前と術後の比較により心負荷がどの程度とれたかということも推定できるのではないでしょうか.そういうことでいろいろ応用できると思います.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1354 - P.1359

特別寄稿

PTC針使用による経皮的胆汁ドレナージ—安全,確実な方法としての応用

著者: 土屋幸浩 ,   江原正明 ,   木村邦夫 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.1348 - P.1353

はじめに
 閉塞性黄疸患者は,適切な処置の時期を失すると回復不可能な状態になるため,早期の診断と治療が必要とされる,その対策として,比較的侵襲の少ない経皮的胆汁ドレナージが広く行われつつあるが1〜6),手技の安全性と確実性の点でなお検討の余地が残されている.
 筆者らの考案した細い穿刺針によるPTCは安全な方法として広く応用されているが7〜9),さらにこの手技を応用した経皮的胆汁ドレナージを考案し,多数の臨床例に施行した.その結果,本法の安全性と確実性が確かめられたので手技を中心に述べる.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・9

尿酸

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1360 - P.1363

 尿酸はプリン体の終末代謝産物として体内で合成され,主として尿中へ排泄される.尿酸合成量は主としてプリン体の合成量に影響されるので,プリン体の合成・分解系をも十分理解しておく必要がある.

図解病態のしくみ 先天性心疾患・6

全肺静脈還流異常

著者: 原田研介

ページ範囲:P.1364 - P.1365

 全肺静脈還流異常(total anomalous pulmonary venous connection:TAPVC)は比較的頻度の少ない疾患である.全先天性心疾患の1〜2%である.
 Total anomalous pulmonary venous drainage(TA-PVD)という言葉も用いられるが,これはTAPVCとは意味が異なる.TAPVCは純然たる解剖学的な用語であるが,TAPVDは生理学的な言葉である.

プライマリー・ケアの実際

救急室での意識障害患者のみかた

著者: 西平竹夫 ,   豊永一隆

ページ範囲:P.1366 - P.1369

 筆者らの救急病院を訪れる意識障害患者は,疾患別重症度別にみて種々雑多で多岐にわたるが,成人ではなんといっても脳血管障害が最も多い.今回は意識障害患者を取り扱う場合の一般原則および最も多い脳血管障害の主な治療方針を記してみたい.また昨年11月以来CTの導入により,救急診療も容易になり,診断的アプローチもCT導入以前とは大分変わってきたと思われる.

話題の新薬

トレンタール(ヘキスト・ジャパン)

著者: 高松滋 ,   水野成徳

ページ範囲:P.1370 - P.1372

はじめに
 トレンタールTrentalは図1に示したような構造式を有し,化学名を3-7-dimethyl-1-(5-oxohexyl)-xanthine,一般名をpentoxifyllineと称するxanthine系薬剤である.本剤は他のxanthine系薬剤と同様,末梢血管の拡張を目的として開発されたが,その後の研究により本剤による血流増加には血管拡張作用のほか,他のxanthine系薬剤にはみられない血液の流動性の改善作用が大きな役割を果たしていることが確かめられた.本剤は現在,わが国では脳血栓後遺症,ヨーロッパではこのほか末梢血管の閉塞性疾患の治療に使用されている.最近,閉塞性血管疾患におけるhemorheologyの重要性が強調されており,本剤はこれら疾患の治療のみならず,病態追究上でも注目される.そこで本剤の概略を述べてみたい.

内科臨床に役立つ眼科の知識

サルコイドーシスの眼所見

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1374 - P.1375

 サルコイドーシスは全身の諸臓器に肉芽性の炎症をきたす疾患であり,眼科領域では,内因性ぶどう膜炎—すなわち,血行性あるいはリンパ行性に起炎体がぶどう膜に到達し,ここで種々の組織反応を起こす病型—の原因として重要視されている.また,全身の部位別出現率をみても,肺野についで皮膚とともに高率である.このため,眼所見からサルコイドーシスの診断につながることも決して稀ではない.今回は眼サルコイドーシスの臨床像を中心に解説を行ってみよう.

私の本棚

循環器病学へ目を開かされた数冊の本

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.1377 - P.1377

 循環器病に関するある程度の知識は,内科系の開業医にとっては避けて通ることのできないものであるが,循環器病といえば難解なものとして,とかく敬遠されがちである.
 しかし,この領域では,ある本から得た数行の知識が患者に救命をもたらすということも珍しくない.それだけに勉強しがいのある領域であることを最近痛感している.

天地人

犬の腰

著者:

ページ範囲:P.1381 - P.1381

 わが家の,ことに女房の可愛がっているトーイプードルが,ある日突然悲鳴をあげて,それっきり腰が抜けてしまった.獣医院に入院して加療してもらったがなかなか埒があかない.海老の殼を食べさせるとそうなるのだという人もいたが,できすぎたシャレのようで信用する気にもなれない.可愛想だから殺してしまおうというのが女房の気持であったし,それは可愛想だというのがまわりの意見であった.
 そんなある日,所用で広島へ行った.空港の待合室で,同じ紙袋を持った男の集団に逢った.臨床獣医学会と一様にかかれていたからその学会員に間違いない.思わずそのうちの数人に,わが家の犬のことを話したいと切に思った.流石にそうはしなかったが,次の2つのことを私はききたかったのである.1つはわが家の犬の腰抜けの原因はなにかということ,もう1つは,この病気は治るものか,もしくは治らない種類のものかということであった.

オスラー博士の生涯・64

病気をもちながらのオスラーの活動

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1382 - P.1385

 1909年の4月から3ヵ月の北アメリカ訪問の旅から帰ると,オスラーは,英国における最初の医学司書協会の学会を発足する世話をし,その最初の会には自ら講演を引き受けて,図書館の使命や読書を習慣化することの意義を強く述べた.
 秋には,熱帯医学に関する講演をし,英国が征服した未開発国の国民の健康の保障をする義務が大きいことを強調した.また,アメリカ合衆国よりは小規模ながら,結核対策運動の推進の第一線に立っての活躍もしたのである.

医師の眼・患者の眼

「酒は焼酎,世は情」—民生病院・その2

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.1386 - P.1388

戸田橋の旦那,氏名・年齢不詳
 「さて急患室はどうなっているだろう」とチーフレジデントのボッカは重い腰を上げる.「重い」というのも先ほど"ねずみ男"を守衛さんと3人の看護婦さんで廊下で大立ち廻りの末,押さえつけて寝かせたばかりだったからである."ねずみ男"氏は40歳の労務者で,毎日焼酎5合を愛飲していたのだから,入院後3〜4日するとやたらと「ねずみ,ねずみ」と口走りながら部屋の中を熊のように動きまわっていたからつけられた仇名で,Delirium tremensの一病期として大暴れしたのである.Diazepam(セルシン)10mgの静注で一応すやすや眠った.頭部外傷もないし,呼吸器感染もない,水分収納もうまく行っている.ボッカは看護婦に30分ごとのバイタルサインのチェックを命じて急患室へ急いだ.
 廊下を小走りに急いでいると,救急室のほうから男のウメキ声に混じってレジデントのケロヨンが救急車のクルーと何かやり合っているのが聞こえる.酒の匂いをただよわせながら,口や鼻から血をふいている患者を横にケロヨンはどなっている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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