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文献詳細

雑誌文献

medicina16巻13号

1979年12月発行

開業誌日誌

臨死のこころ

著者: 西田一彦1

所属機関: 1西田内科医院

ページ範囲:P.2338 - P.2340

文献概要

鉄造さんが死んだ……
 鉄造さんが死んだ.開業以来,20有余年診ていた患者である.肺結核であった.享年82歳天寿を全うしたというべきなのだろうが,結核がなければもっと長生きしていたかもしれない.両肺,とくに右上肺野に空洞があったが,長年の化学療法の効果か,空洞は硬くガードされていて,撲菌もなかった.それでも聴診器を当てると,木枯しを思わせるような荒々しい呼吸音が聴えてきていた.長い闘病生活はその身体つきにも,まざまざと表われていた.背骨は胸椎の中程から前に曲がり,胸骨は馬の背のように前にとび出して胸は格好の悪いビア樽のようで,首を前に突き出してビア樽状の胸郭を細い下半身に載せて,息を切らせながら,1週間に一度は診察に来ていた.
 その鉄造さんの臨終に私は間に合わなかった.長く診ている患者の臨終に立ち合えなかったのは,初あてのことだった.臨終の場に立ち合うことの大切なことを主張し,実行してきていた私にとっては不覚であり,残念なことであった.鉄造さんは,この夏以来,暑さの故か元気がなく,歩くのも大儀だといって来なくなっていた.それで7日か10日に1回の割合で往診していたのだが,この半月ばかり前から全身倦怠と息苦しさを訴え姶めていた.それでも,食欲はあったので安心していたのである.そして,その2日前にも往診していた.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

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