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雑誌目次

雑誌文献

medicina16巻2号

1979年02月発行

雑誌目次

今月の主題 パーキンソン病とその周辺

理解のための10題

ページ範囲:P.241 - P.243

パーキンソン病の基礎知識

基底核の構造と機能

著者: 吉田充男

ページ範囲:P.176 - P.177

はじめに
 パーキンソン病に近年使用されるにいたったL-dopa療法や不随意運動を理解するには,基底核の構造と機能を理解するのが最も早道である.

パーキンソン病の生化学

著者: 中村重信 ,   亀山正邦

ページ範囲:P.178 - P.179

はじめに
 パーキンソン病に対するL-dopa療法が成功して以来,脳基底核の神経伝達物質,中でもドーパミンの生化学的知識が臨床上必要になってきているので,ここに概説する.

カラーグラフ

パーキンソン病の病理

著者: 朝長正徳 ,   吉村正博

ページ範囲:P.181 - P.184

はじめに
 パーキンソン病は錐体外路系の変性疾患であるが,そのほかにも錐体外路系の侵される疾患があり,その多くは臨床的にパーキンソニズムを呈する.しかし,その障害部位や病変の性質はさまざまであり(表),その神経病理学的知識は,パーキンソニズムの鑑別診断上,必要と考えられる.以下,重要な疾患につき概説する.

パーキンソン病の臨床

診断のポイント

著者: 濱口勝彦

ページ範囲:P.186 - P.189

はじめに
 パーキンソン病の診断は,患者が診察室にはいってくる時点から始められる.歩き方,立った姿勢,顔つき,話し方,手の状態など問診をしている間に推定し,神経学的検査にて確認することがポイントである.

精神症状

著者: 原田憲一

ページ範囲:P.190 - P.191

パーキンソン病の3精神症状
 パーキンソン病(paralysis agitans)のときいろいろの精神症状があらわれることは,以前から知られていた.筆者はここに,パーキンソン病の精神症状として抑うつ気分,せん妄,痴呆の3つを,その主なものとしてとりあげたい.
 抑うつ気分 最もしばしばみられる精神症状である.その出現頻度は,報告によって大きな差がある.90%の患者にみられたという人1)もいるし,10%を算した人2)もいる.この大きい差異は,軽度の気分変調をどこまで異常としてとるかの基準が人によって異なるからであろう.また,神経学的なアキネジアと,心的な自発性減退,抑うつ性意欲減弱とをていねいに区別することが大事だが,それがどの程度なされているかも問題であろう.心的な自発性や関心はよく保たれているのに,神経学的症状の故に,行動するのがどうも面倒だという事態は,パーキンソン病患者には非常に多いはずである.このような配慮を十分した上で,なおかつ精神医学的に何らかの対処を必要とするほどの抑うつ状態は,筆者の経験では決してそれほど多くはない.

パーキンソン症候群の鑑別

著者: 近藤喜代太郎

ページ範囲:P.192 - P.193

はじめに
 パーキンソン症候群は患者数の多い神経疾患の一群であり,近年,多くの方面から注目を浴びている.本稿の目的は,実地臨床で役立つように,パーキンソン症候群を中心とした疾患の鑑別について述べることである.
 パーキンソン症候群は,静止性振戦,筋固縮,無動症を3主徴とする病態を指すが,そのうちで原因不明のいわゆる本態性の症例を特発性(本態性)パーキンソン症候群,または単にパーキンソン病とよび,原因を指摘し得る症例を症候性パーキンソン症候群とよぶ.一方,パーキンソン症候群の特徴を部分的に共有するさまざまの遺伝変性性疾患があり,また,このような疾患ではないが,ときにパーキンソン症候群と紛らわしい特徴を呈することのある疾患がある.そこで,パーキンソン症候群の鑑別診断では,これらの種々の疾患が問題になる.

重症度評価判定

著者: 伊藤清

ページ範囲:P.194 - P.196

はじめに
 L-dopa療法が導入される直前に発表されたHoehn & Yahrの重症度分類1)(表1)は,パーキンソン病の経過をマクロ的に把握したものであるが,L-dopa療法によってもパーキンソン病自体の本質的な病期の進行は変わらないと思われるので,現今でもきわめて優れた重症度判定法といえよう.しかし一方L-dopa療法により,患者は時・日あるいは週単位の改善・増悪の変動がみられるようになった上,L-dopa療法はこれまでの治療法と異なり寡動にも著効がみられるため,日常生活動作の改善が顕著となり,これらの変動をミクロ的な目で簡便に評価判定するような重症度判定法が,上述のHoehn & Yahrの分類に合わせ必要となってきた.本稿では,これらを主眼にしたミクロ的な重症度評価判定法についての筆者の考えを述べてみたい.

続発性パーキンソニズム

薬剤性錐体外路症状

著者: 三浦貞則

ページ範囲:P.197 - P.199

はじめに
 薬剤性錐体外路症状は抗精神病薬antipsychotics,major tranquilizersの治療の過程でかなり頻繁にみられるものである,症状はきわめて多彩であり,寡動・筋緊張亢進を主徴とするものだけではなく運動亢進症状をきたすものも含まれ,また最近では,薬剤中止後も持続する非可逆性の症状群も注目されるようになった.発症機序については不明な点が多いが,基底核のドーパミン(DA)受容体阻害を中心にした仮説が提出されている.

動脈硬化性のもの

著者: 東儀英夫

ページ範囲:P.200 - P.201

はじめに
 続発性パーキンソニズムには,脳炎,脳腫瘍,各種の中毒など,種々の原因によるものがあげられる.動脈硬化性パーキンソニズムも,このような続発性パーキンソニズムの一つである.その頻度は,老年者では続発性パーキンソニズムのなかで最も多いものである.しかし,動脈硬化性パーキンソニズムの概念は古くからあるが1〜5),最近では否定的立場をとるものが少なくない.以下,動脈硬化性パーキンソニズムを認める立場に立って,その際に生ずるいくつかの問題点をとりあげ,考察する.

特殊疾患によるパーキンソニズム

線条体黒質変性症

著者: 斉藤佳雄

ページ範囲:P.202 - P.203

はじめに
 線条体黒質変性症Striato-nigral Degeneration(以下SNDと略す)は,1961年1)についで1964年にAdamsら1.2)により初めて記載された症候群である.臨床的にはパーキンソン症候群に類似の症状を呈し,病理解剖学的には黒質のほかに線条体にも強い変性がみられ,振戦麻痺とは別の新しい疾患であると報告された.
 先に筆者らも5)その3例の剖検例を報告したが,いままでに報告され,剖検で確かめられたのは欧米で約24例,わが国でも6例あり,これらの症例につき臨床的特徴,パーキンソン病との相違点および神経病理学的所見につき述べたい.

Shy-Drager症候群

著者: 海老原進一郎 ,   新美次男

ページ範囲:P.204 - P.205

はじめに
 Shy-Drager症候群とパーキンソン病との関連を中心に,Shy-Drager症候群をめぐる問題点を明らかにする.

進行性核上性麻痺—progressive supranuclear palsy(Steele-Richardson-Olzewski症候群)

著者: 飯島真 ,   小林槙雄

ページ範囲:P.206 - P.207

はじめに
 進行性核上性麻痺は,1964年Steeleら1)によって提唱された症候群で,パーキンソニズムに似ながら頭部は逆に後屈し,垂直方向の注視麻痺,仮性球麻痺,痴呆を伴う.本邦では,1971年筆者らが3臨床例を報告したのが最初で2),そのうちの1例は剖検例として検討しえたので3),この症例を中心に本症候群について述べる.

正常脳圧水頭症

著者: 矢島一枝 ,   塩沢瞭一

ページ範囲:P.208 - P.209

はじめに
 水頭症は髄液循環が障害されて生じるもので,その一般的な症状は脳圧亢進症状である.Adamsは脳圧亢進のない水頭症でも重大な神経症状を起こしうること,簡単な吻合術によって症状の消失することを指摘して,正常脳圧水頭症(以下NPHと記す)と命名し,痴呆,歩行障害,尿失禁を3主徴とした.それ以来,従来治療不能とされていた「痴呆」が簡単な外科手術で治りうるとあって,NPHの診断が拡大解釈され,広く手術が行われるようになった.しかし,手術無効例や合併例の報告も多く,手術適応の厳密な規定が強調されるようになった.一方,症候学的解析の困難とされていた「歩行障害」については,錐体外路徴候と思われる要素の強いことが知られてきた.文献的にもパーキンソン症候群と診断されていた症例が散見される.

パーキンソン病治療上の諸問題

病態からみた薬物療法

著者: 宇尾野公義

ページ範囲:P.210 - P.211

はじめに
 パーキンソン病(本態性パーキンソニズム,振戦麻痺)は中年期以後に初発する慢性進行性変性疾患(ときに若年発症,家族性のものあり)で,本態については錐体外路系,とくに黒質,尾状核を中心とするドーパミン(DA)代謝異常が明白にされ,治療面でも従来の副交感神経遮断剤とともにL-dopaを中心とした薬剤が広く用いられる,つまり,線条体におけるAch活性は抑制し,DA活性は高めるのが治療の原則であり,そのほか,病態に応じた適切な薬物の選択や投与法が重要となる.
 本症周辺疾患として,線条体黒質変性症は被殻の萎縮変性が強く,黒質ニューロンの障害は軽度,線条体からのDA消失も少なく,L-dopaによる改善はみられない.進行性核上性麻痺は黒質,淡蒼球,視床下核,青斑核,上丘,動眼神経核,下オリーブ核,小脳歯状核などに広範なニューロン消失や神経原線維変化などがみられるが,視床や線条体は侵されにくく,同様にL-dopaの効果は期待できない.これに比し,Shy-Drager症候群の一部,正常圧水頭症の多くの例で,L-dopaの有効なものがみられる.

抗パーキンソン剤の使い方

著者: 安藤一也

ページ範囲:P.212 - P.216

はじめに
 線条体の正常な働きにはドパミンとアセチルコリン系の動的バランスの保持が必要である.パーキンソン病では黒質病変によりドパミンの産生が著減し,線条体のドパミンの貯蔵不足を生じ,2系間のバランスが破れてアセチルコリン系が優位となっている.このようなバランスの破綻を回復する薬理作用をもった薬剤が抗パーキンソン剤とよばれるものであるが,この場合に優位となったアセチルコリン系を抑えるよりも,不足したドパミンを補充する薬剤が治療薬としてはより合理的であり,またその効果もすぐれている1)
 薬物性以外の症候性パーキンソニズムや線条体黒質変性症などでは線条体のドパミン受容体が病変の主座に含まれることが多いので,ドパミンを補充しても効果は乏しく,現在のところ有効な治療法は見出されていない.

L-dopaの副作用と対策

著者: 水野美邦

ページ範囲:P.218 - P.219

はじめに
 L-dopaはパーキンソン病に対し最も効果のある薬剤であるが,問題は高頻度に生ずる副作用である.患者の約80%は,何らかの副作用に悩まされる.いかにこれにうまく対処するかが治療の成否を決める.副作用の種類や頻度に関しては既に多数の報告があるので1〜3),ここでは昭和50年に全国7施設で行った調査結果のまとめのみを図に示しておく.

L-dopa長期治療の問題点—up and down現象とon and off現象

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.221 - P.223

はじめに
 パーキンソン病のL-dopa療法は,線条体におけるdopamine欠乏を補充するもので根治療法ではないことは周知のとおりである.したがって,L-dopa療法中でも,脳内の病変は徐々に進行する,L-dopa療法中,症状が比較的安定しているときは,L-dopaの腸管からの吸収速度,脳内への移行量,脳内での代謝過程,および脳内のdopamine欠乏状態は,比較的安定していると考えられる.しかし長期療法中には,L-dopaの濃度と,L-dopaに対する個体の必要量は,厳密にいえば,必ずしも恒常性を保っているのではなく,時間の推移とともに症状に多少の変動が起こることが推測される.事実最近になって,L.dopa療法中,1日のうちで症状の動揺(up and down現象)や,急激に症状の悪化と好転があるという現象(on and off現象)が起こることが注目され,その発現機序への考察から治療に至るまで広く検討が加えられている.
 パーキンソン病長期療法中のこの奇妙な現象については,すでにカナダ,米国をはじめ,わが国でも検討され,とくにわが国では,安藤1)らのすぐれた綜説がある.本稿は,これらの現象をとりあげ,一般医師のために,できるだけ平易に解説するのが目的である.

L-dopa長期治療の問題点—ジスキネジー

著者: 進藤政臣 ,   柳沢信夫

ページ範囲:P.224 - P.225

 1969年Cotziasらによってパーキンソン病におけるL-dopaの長期大量投与法の有効性が報告されて以来,L-dopaはパーキンソン病の治療上最も重要な薬として広く用いられるようになった.しかし,L-dopa治療に際してその副作用はしばしば問題となり,とくに長期治療におけるジスキネジーは,精神症状,on and off現象またはup and down現象と並んで大きな問題であり,投与中止または減量を強いられることがある.本稿では,L-dopa治療に伴うジスキネジーにつきその臨床的特徴,病態生理および対策について述べる.

L-dopa長期治療の問題点—精神症状

著者: 雨宮克彦

ページ範囲:P.226 - P.227

はじめに
 パーキンソン病のL-dopa治療中に特異な精神症状が出現することがある.そして,この精神症状のためL-dopa治療を中途で断念せざるをえない場合もある.この副作川としての精神症状は,後でも触れるが,治療開始後数ヵ月以内で出現することが多い,そこで,本稿では標題のように必ずしも長期投与例のみに限定せずに,その症状,対策などについて述べたい.

外科療法の適応

著者: 大本尭史

ページ範囲:P.228 - P.230

はじめに
 パーキンソン病における外科的治療は,振戦と筋強剛に対して視床腹外側核部を破壊する定位脳手術が,現在最も普遍的である.近年,L-dopaと末梢性脱炭酸酵素阻害剤の併用による薬物療法が一般化してより,薬剤による臨床効果が非常に増大したため,定位脳手術の適応をもつ患者は激減した.しかし,L-dopaを中心とした現在の薬物療法は,効果と副作用の点で,決してすべての例に満足しうる治療法とはいえない.しかも,長期投与例においては効果の減退やup and down effectなど,治療に困惑する例が増加しつつあり,これら長期治療の観点からも,薬剤との併用を考慮した定位脳手術が,パーキンソン病に対する最も確実な治療法の一つこして見直されつつあるのが現状である.

座談会

パーキンソン病の治療をめぐって

著者: 楢林博太郎 ,   中西孝雄 ,   木下潤 ,   古和久幸

ページ範囲:P.232 - P.240

 L-dopaの出現によりパーキンソン病の治療は飛躍的に進歩した.しかし,L-dopaはパーキンソン病そのものの病因を除去するものではなく,また副作用の点とも相俟って,従来の薬剤,そして外科治療なども再び見直されてきている.
 ここでは,パーキンソン病の治療上の問題点と,今後の展望などをお話しいただく.

心エコー図のみかた

各論 1.僧帽弁

著者: 島田英世 ,   石川恭三

ページ範囲:P.244 - P.251

 石川 今回は僧帽弁疾患ならびにその周辺の疾患についていろいろお話ししていただきたいと思います.僧帽弁疾患で一番多いのはやはり僧帽弁狭窄症(MS)だと思いますが,心エコー図ではどういう特徴的な所見がみられるのでしょう.

プライマリ・ケア

対談 プライマリ・ケアの現状と将来(その2)

著者: 渡辺淳 ,   本吉鼎三

ページ範囲:P.252 - P.254

地域性ということの大切さ
 本吉 プライマリ・ケアという場合,地域との結びつきが重要だと思いますが,地域との結びつきをどういう形で実践していったらいいのでしょう.
 渡辺 老人医療が始まってから,たとえば岐阜県和良村の中野先生のように,脳溢血の発生率を減らそうという目標を立ててやっておられる先生がいる.中野先生が実際に農村を回ってみると,労働に寄与できる人,したがって若夫婦が南向きの一番いい部屋を占領している.卒中を起こしそうな,あるいは起こしたような年寄は,真っ暗な納戸の北向きの部屋に押し込められている.これはもう廃物だから,生産に関係ないからということで,これは一種のうば捨てですね,これは農村の昔からの風習でやっているわけです,むしろ若い人が北向きの部屋でいい.年寄や脳卒中を起こしたような人こそ,南向きの部屋でリハビリテーションをやりなさいと指導している.また食べ物だって指導していかなければ,脳卒中は減っていかない.またそれも,外からきていきなりいってもだめで,その土地に住んで同じものを食い,同じ言葉をしゃべり,あらゆる風俗習慣をともにしてはじめて医療の成果があがる.だから,ただ医療は医学を適用しさえすればいいというものじゃない,血が通った適用でなければならない.血を通わせるには,その土地に住みつくことです.それは地域の先生でないとできない.

演習・放射線診断学 シンチグラム読影のコツ・8

骨シンチグラム

著者: 木下文雄 ,   前川全 ,   久保敦司 ,   彌富晃一

ページ範囲:P.256 - P.263

はじめに
 骨シンチグラムの第1の診断的有用性は,各種悪性腫瘍における骨転移の検出です.X線撮影による骨腫瘍の診断は,病変部のカルシウム分が30〜50%増減しないと因難であるといわれています.
 骨シンチグラムによる診断は,X線診断と異なり,そのRadioisotopeの集積機序は必ずしも明確ではありませんが,骨のヒドロキシアパタイトのカルシウムに摂取されるといわれており,骨塩の代謝の増加,促進を利用しているため,X線診断より早期に骨腫瘍を検出し得る可能性があります.

図譜・消化器病の超音波診断 他検査法との対比による症例の検討

超音波映像による臓器穿刺診断—方法と症例

著者: 大藤正雄 ,   土屋幸浩 ,   木村邦夫 ,   唐沢英偉 ,   五月女直樹 ,   高橋法昭 ,   江原正明 ,   鈴木泰俊 ,   税所宏光 ,   大野孝則 ,   庵原昭一

ページ範囲:P.265 - P.271

はじめに
 細い穿刺針を使って腹部臓器を直接に穿刺し,診断に役立てる方法は最近臨床に一般的に行われるようになってきた.肝,腎の組織生検や吸引細胞診,膿瘍の穿刺ドレナージ,さらに経皮的穿刺による胆管や門脈造影などがある.体表に近い部位の穿刺は可能であっても,深い部位にあったり,穿刺目標物が小さい場合に確実に穿刺することは必ずしも容易ではない.X線透視によっても困難である.
 生体内の構造を一つの断層面の映像としてとらえることのできる超音波診断はこのような臓器穿刺にきわめて好都合であり,穿刺の方向および深さを容易に決定することができる.1972年,Rassmussen,Holm1),Goldberg2)らは転移性肝癌,腎嚢胞,体腔内貯留液などの穿刺診断にBモードの穿刺用探触子を作製して応用し,その有用性を報告した,この方法はSmith(1974)3)により膵の細胞診や膿瘍穿刺に,またGrφvll,Conrad,Hanckeらにより同様の試みがなされている.わが国においても沢村4)の腎生検,横井,幕内ら5)の経皮的胆道造影,木村ら6)の膵細胞診への応用が報告され,さらに最近では電子走査形装置を応用し,実時間で映像を観察しながら穿刺手技を行う方法を著者らが報告している.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.274 - P.279

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・13

溶血の検査

著者: 河合忠

ページ範囲:P.281 - P.284

 溶血が亢進する病態,すなわち溶血性疾患は前回の表1にまとめたが,溶血の原因は図1のごとくになる.溶血性疾患の診断は,まず溶血亢進があるか否かを検査することから始まり,次に溶血があるとき,どのような原因で起こっているかを鑑別することになる.今回は,溶血の有無を診断する検査についてまとめてみよう.

図解病態のしくみ 血液疾患・5

白赤芽球症

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.286 - P.287

 白赤芽球症leukoerythroblastosisとは,末梢血中に白血球および赤血球の幼若型の出現する状態をいう.赤血球の大小不同,奇型などを伴うことが多い.貧血を伴うことが多く,この場合に白赤芽球性貧血leukoerythroblastic anemiaとよばれている.
 骨髄の構造をみると骨内膜につながる細網細胞が連結して網状構造をつくり,これに血管系がからまっている,血管系は細動脈から毛細血管,さらに静脈洞から静脈へとつながっている.これらの支持組織の間に造血細胞が充満して細胞髄を形成している.細胞髄で生成された血球は隣接する静脈洞に入り,末梢血中に遊出する.静脈洞壁は,内皮細胞,基底膜および細網細胞層から成るが,部位により間隙がある.血球がこの静脈洞壁の間隙を通過する機序は未だ明らかではない.顆粒球は成熟すると遊走性を示し,変形にも耐えられるようになるので,静脈洞壁の間隙を通過して洞内に遊出する.

職業病の知識

呼吸器障害—じん肺

著者: 千代谷慶三

ページ範囲:P.288 - P.290

はじめに
 空気中に浮遊する不溶性もしくは難溶性粉じんが,吸入されて肺に沈着しかつ長く滞留すれば,当然そこに異物反応が起きる.吸入された粉じんがある程度量が多く,しかも化学的にあるいは物理的に生体により刺激的であれば,それだけ反応量も増大して,臨床的に疾病として認識できるようになる.
 人間が社会生活を送る限り粉じん吸入をまったく避けて通ることはあり得ないが,臨床的に疾病として認識できる程度に至るのは,ほとんどまったく作業環境中の粉じんを職業性に吸入した場合に限られている.

外来診療・ここが聞きたい

心不全とは

著者: 五十嵐正男 ,   西崎統

ページ範囲:P.292 - P.296

症例
患者 H. H. 56歳 女性
 現病歴 若い頃から風邪をひきやすく,咳嗽が長びくほうであった.数年前から体重が増えはじめ,現在太り気味である.

臨床医のための心の科学

癌の自然退縮例に関する心身医学的考察

著者: 中川俊二

ページ範囲:P.298 - P.299

はじめに
 癌の自然退縮Spontaneous Regression of Cancer(SRCと略す)という概念は,20世紀初頭から,臨床的に癌患者に対して用いられてきた.文献的にはLomer,GaylordやHandlyらの報告があり,系統的には1966年Boyed,さらにEversonおよびCole1)の臨床的集計が行われた,このように,ヒトの癌や動物移植癌が自然に退縮したり,長期間その宿主生体が生存したりすることがみられる.このことは,専門家に限らず,経験ある医師では,長期間の診察中に遭遇するものである.

虚と実の心理学

著者: 北山修

ページ範囲:P.300 - P.301

テレビジョンと「メディア現実」
 テレビジョンが一般家庭に普及して20年近い年月が流れ,生まれたときからテレビと接触している者たちが次々と「成人」している.不特定多数の人々に向けて同じ内容のものを同時に送り届けるという意味では,テレビジョンが代表的なマスメディアとしてあげられるが,ラジオ,映画,新聞からレコード,ポスターにいたるまでのそれぞれのメディアがテレビジョンの私的な接触を契機にして社会全体にひろがる「メディア現実」と呼ばれるものの現実性と存在感の一部を支えており,それは私たちの肉体が灰になる現実とは区別されるはずのものだろう,実際,楽観論者たちは「子供たちや人々は現実とテレビの世界を区別している」と語るのだが,そういう主張がおしだされる背景には「区別できない」可能性についての不安があるのではなかろうか.
 従来のマス・コミュニケーション論や情報理論では,テレビジョンなどのメディアは現実生活の手段でしかなかったが,60年代にはいって私たちの生きる空間の構成要素となり,物的現実,外的現実,事実の系から独立した経験世界となりつつあると主張されるようになった.そして,マスメディアのつくりだす「メディア現実」の存在が人間の精神構造を変容させることの「予言」もすでになされており,その変化が日常的なものになればなるほど,それに伴う危険の可能性も日常的なものになるはずである.

紫煙考

タバコと閉塞性肺疾患—タバコの煙は気道に悪い

著者: 金上晴夫

ページ範囲:P.302 - P.303

●Smoking cough
 俗に"smoking cough"という言葉がある.タバコのみがよく咳をしたり,黒っぽい痰をゲェッと吐き出すのをいう.確かにタバコをすうと咳が多いし,痰も多い.私の知人で毎日スコッティーを一箱使っていた人がいる.オフィスに一箱おいて痰を吐き,鼻をかむのに毎日一箱使っていたのである,タバコは1日80〜100本喫っていたが,一念発起してタバコをすぱっと止めてから,2週間もたったら痰も出ないし,おまけに鼻も出なくなったというのである.彼は会う人ごとにタバコの害,禁煙の効果を説いている.

天地人

○肉○食

著者:

ページ範囲:P.305 - P.305

 A新聞に掲載された○肉○食という投書は多くの方々の目にふれたことと思う.この空白部分を埋める問題が某社の入社試験に出題され,「焼肉定食」と解答したものがいるとのことである.しかし,適当な文字を入れればよいので,画一的に弱肉強食を求める必要はないのではないか,焼肉定食を誤りといえるだろうかという投書である.これは確かに誤りではないが珍解答に属するもので,採点者がどんな顔をしたか考えるだけで楽しい.
 よく使われている自由国民社の"現代用語の基礎知識"の1979年版には,就職試験珍解答話題学がのっている.「用語の説明を行え」という問題で,たとえば「ムック」,これは医学関係でも目にするようになっており,magazineとbookの合成語で,一つの主題で特集した雑誌とも書籍ともいえない出版物のことである.この言葉を「ものや人が立ち上がるときの様を形容した言葉,一種の威圧感をもって立ち上がること.反対語はスックである」と解答したのは努力賞ものではなかろうか.「ボツリヌス菌」については「食中毒をおこす細菌でボツリと発疹が出て,すぐにスヌ(死ぬ)」という珍妙なものもある.珍解答にはそれなりに多少の評価が与えられる事もあるかも知れない.このような記述式の解答には採点者の主観によって評価は変わるであろうが,人間味のある対処ができる.

オスラー博士の生涯・69

英国の医学校・病院のシステムの改革と試験制度への批判

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.306 - P.309

 アメリカ合衆国ニューヘブンのエール大学でのSilliman講演は,大きな反響を及ぼした.その後,彼は,ボストン,ニューヨーク,フィラデルフィア,ボルチモアの大学を訪れ,友人や弟子たちに会い,さらにカナダに旅して,親戚や旧友を訪ね,5月15日出帆のBritain号で英国に帰った.

医師の眼・患者の眼

本邦初演

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.310 - P.312

アスピリンだけ出して退院させるとは……
 「それにしてもさっきのハタハタの怒ったというか,落胆したというか」と,イノシシはラッシュアワーの終わった甲州街道を12年愛用したフォルクス・ワーゲンを駆って家路を急ぎながら思い浮かべた.というのは,62歳の女性で多発性筋炎の患者に,アスピリンだけ処方して退院させてしまったレジデントにハタハタは「しょうがないな,この間あれほど説明したのに…….もっと本を読め」と注意した.しかし,「アスピリンでも出して退院させとけよ」と指示したイノシシのことについては「どうしようもない,教科書に書いてあることさえ理解しようとしない」とつぶやいていた.
 ハタハタはその患者にCoumadinを投与しておきたかったのである.患者は多発性筋炎の治療中,1年前,胸痛とともにショックになった.喀血はなかったが,胸部X線写真と肺シンチグラムから肺梗塞と診断した.そのとき,イノシシは「X線写真やシンチで出ていても,アンギオで出なけりゃなんともいえんさ,胸痛は神経痛だ.腓腸筋の圧痛は筋炎のためだよ,ショックはたぶんステロイドをやめたからだ」と話していた.患者はその後もときどき胸痛を訴えていたのであるが,2カ月前には遂に喀血して入院した.イノシシは肺梗塞を認めた.ハタハタは再び肺シンチのほかに,撰択的肺血管造影を行って,肺梗塞を確認したのであった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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