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雑誌目次

雑誌文献

medicina16巻3号

1979年03月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床家のための輸血学

医療における輸血

著者: 安田純一

ページ範囲:P.318 - P.319

はじめに
 このたびの主題は「臨床家のたあの輸血学」ということである.いうまでもないが,輸血学は患者のためにあるので,患者が輸血学の研究のためにあるのではない.輸血学には,基礎医学の研究者ばかりでなく,もっと多くの臨床医家の参加が望まれるにもかかわらず,医療機関の中で輸血部というと,何かしら塞外の地のように思われるきらいがあった.以下,「輸血部疎外感」のよってきたる理由と思われるものを列挙し,その対策を考えてみたい.

血液事業の実態と将来

著者: 山口修秀

ページ範囲:P.320 - P.323

はじめに
 わが国において輸血が学会誌に紹介されだしたのは明治後期よりであるが,当初は家兎などについての実験結果についての考察である1),ヒトの血液に関する分類についてはLandsteiner,Moss,Leeらの研究に影響され,松原文四郎がその赤血球溶解および凝集反応について百数十人の実験結果を報告して2),これらの学説について立証している.
 また,人体に輸血を実施したことの報告は大正8年頃より行われている3).大正8年九大の後藤七郎が輸血法の実施と現況について講演した記録によると,第一次世界大戦により1916年の後半より英仏軍において盛んに輸血が実施され,その効果が大きかったとしており,輸血に際しては供血者と受血者の血清,血球による凝集現象と溶血現象をあげている.彼の行った方法としては,注射器の中に10%〜20%のクエン酸ソーダ液を注入しておき,それに給血者の静脈より血液を採取し,次いで「ガーゼ」により濾過してのち患者静脈内に注入したとしている.

輸血の準備

供血者(献血者)の条件

著者: 細井武光

ページ範囲:P.324 - P.325

献血でなければならぬ
 "輸血用の血液は献血によるものでなければならぬ"ということは,もはや世界中どこでも認められた動かしがたい事実である.わが国においても買血による苦い経験があるが,幸いにして,今や全血製剤や成分製剤はすべて献血によってまかなわれるようになった,しかし,血漿分画製剤については,いまだ国内外での買血による製剤が多く使用されている.
 アメリカにおいても,すべて献血に切り換えようとしており,とくに買血血液の輸血は献血のそれよりも3〜10倍肝炎の発症率があるため,FDA(Food and DrugAdministration)は血液製剤に献血によるものか,買血によるものかを血液バッグに標示するように提案しており,一部の州ではこれが実行に移されている1)

輸血業務の運営

著者: 臼井亮平

ページ範囲:P.327 - P.329

はじめに
 輸血業務とは輸血の安全性を向上させると同時に,輸血による治療効果を最大に発揮するための作業と理解している.
 輸血が医療行為の中で特殊な存在である理由は,血液そのものが工場生産的な医薬品と違って,第三者の身体の一部から提供された細胞レベルの臓器移植であるからである.しかもこれらの血液が本邦においては国民の善意に全面的に依存している.この現状から献血者に対する安全性や健康管理はもちろんのこと,輸血用血液の有効利用,受血者(患者)に対する副作用などの問題は医師ならびに輸血業務関係者の努力により解決されなければならない.

血液型とその検査

著者: 小松文夫

ページ範囲:P.330 - P.333

はじめに
 一般に,血液型というときはABO式血液型を指す場合が多いが,ABO式以外にも表1にみるように多種の血液型が発見されている。輸血に際しては,これらの血液型の存在をも考慮して検査をすすめなければならない.
 輸血事故の中でもっとも注意しなければならないのは不適合輸血である.不適合輸血を避けるには,まずABO式やRh式D因子(Rho(D))の誤判をしないことである.通常,不適合輸血の原因としては検査結果の記入ミスや交差適合試験用パイロット血液の取り違い,輸血用血液の取り違いなどの事務的なミスによる場合のほうが多いが,ここでは血液型誤判の回避を強調したい,また,ABO式やRho(D)以外の血液型に関する抗体のチェック,すなわち抗体スクリーニングや交差適合試験を的確に実施すべき重要性を強調したい.

緊急時の対策

著者: 川越裕也

ページ範囲:P.334 - P.335

 重症患者に対し緊急輸血は帰死回生の効果を発揮することが多い.反面,緊急時の輸血はしばしば医療事故につながる危険性を蔵している.ここでは,緊急時の血液の確保,輸血検査の実際について述べることにする.

血球輸血

赤血球輸血

著者: 武藤良知

ページ範囲:P.336 - P.337

成分輸血について
 「輸血」というと,貧血改善,全血(保存血}輸血を連想しがちであるが,現在すすめられている「成分輸血」1~3)という考え方を理解し実践するには,まずこの連想を断ち切る必要がある.成分輸血とは,血液を赤血球,白血球,血小板,血漿などの各成分に分け,患者が必要とする成分のみを輸血することである.その利点としては,
 1)必要な成分を濃厚に大量投与できる
 2)不必要な成分の輸血により起こる可能性のある副作用の予防につながる
 3)血液を有効に利用できる
ことなどがあげられる.
 成分輸血の目でみると,現在行われている全血輸血の80%は赤血球輸血で代用でき4),赤血球輸血の占める割合からその医療施設のレベルがわかるとさえいわれている.新鮮凍結血漿の使用が激増している現在,わけもなく全血輸血に固執することは,限りある血液の円滑な供給に支障をきたす原因となることを銘記し,輸血の適応の決定を慎重に行うとともに,赤血球製剤(赤血球輸血)をもっと活用する必要がある.

血小板輸血

著者: 西村昂三

ページ範囲:P.338 - P.340

血小板の分離・採取法
 血小板減少に起因する出血の治療には,新鮮血小板を大量に輸注することが必要である.筆者の日常診療経験では,急性白血病や再生不良性貧血の患児が本輸注の適応となることが最も多い,新鮮血小板を大量に供給するには,従来からわが国で行われてきたように,一瓶200mlの銀行血から血小板を分離・採取する方法ではきわめてむずかしい.というのは,一人の供血者が月1回200mlの全血を供血しうるにすぎないので,同一供血者から採取しうる血小板量は,1回量のみならず,長期にわたる提供量も非常に強い制限をうけてしまうからである.
 そこで,一人の供血者から,より大量の血小板を選択的に分離採取する方法が研究・開発され,現在では連続または間欠血球分離装置を用いる方法と,プラスチック・バッグを用いる方法が普及している.前者は装置ならびに毎回用いる使い捨て部品などが高価であるのに対し,後者は血液バッグのはいるローターのついた恒温遠心分離器さえあれば特殊な設備は不要で,使い捨てのバッグ類も前者にくらべはるかに安価である.また,どちらの方法で分離しても,採取した血小板の機能には差異がないので,経済性から考えてもバッグ法が優れているといえる.

顆粒球輸血

著者: 八幡義人 ,   武元良整

ページ範囲:P.342 - P.343

顆粒球輸血の必要性
 白血病をはじめとする造血器悪性疾患に対する化学療法は,強力な多剤併用療法が主流を占め,その効果には特記すべきものがある.急性白血病の5年生存例は1966年には7例で,1976年は178例と増加してきているが,予後を大きく左右するものは,治療中の合併症に対する管理である,とくに感染症と出血は死因のほとんどを占めており,出血に対しては血小板輸血の使用によりかなり管理できるようになった.一方,化学療法後の顆粒球の著明に減少した状態では,その期間が長ければ長いほど,致命的重症感染症を合併し,抗生剤の大量投与にも反応しにくいといわれている.
 顆粒球数と感染の関係では,顆粒球1,000/μl以下で感染に対する危険度が高くなるといわれる.実際,敗血症の78%,播種性真菌感染症の90%で,顆粒球数は500/μl以下である.顆粒球数1,000/μl以上での感染死は32%,それに対して,100/μl以下での感染死は80%にも及ぶ.したがって,再生不良性貧血,無顆粒球症,急性白血病およびその化学療法後の骨髄荒廃時に伴った重症感染症では,顆粒球輸血1)(輸注)が必要となってくる.

血漿輸血

血漿輸血の適応

著者: 小野寺時夫

ページ範囲:P.344 - P.345

はじめに
 血漿輸血の目的は,①急性の血漿喪失による末梢循環不全時の補給,または,高度低蛋白血症時の膠質浸透圧の一時的な是正,②赤血球輸血との併用,または,赤血球輸血までのつなぎ,③血液凝固因子の補給の3つに大別される.血漿輸血は,患者の病態と血漿輸注の生理をよく理解して施行し,濫用を慎まねばならない.他人の蛋白の移入による医原性副作用を惹起する危険を常に伴っているからである.

第VIII因子

著者: 風間睦美

ページ範囲:P.346 - P.347

はじめに
 血友病を含む先天性凝固因子欠乏症の出血に対しては,欠乏因子の補充療法が唯一の療法である.このためには旧くは全血輸血が,次いで新鮮血漿輸注が行われたが,一層有効な補充療法を目指して,純化度の高い血漿分画製剤が用いられるようになった.
 輸血学の進歩とともに患者が必要とする成分のみを輸生する成分輸血が常識化しつつあるが,数多ある先天性出血性疾患の補充療法剤の中でことに第VIII因子がとり上げられる理由は,この因子を欠く血友病の発生頻度が人口10万人対7〜8人と最も高いことと,各種の血漿蛋白製剤の製造過程の中で本因子製剤が大量に分画されるようになったからである.

血漿交換療法

著者: 坂本久浩

ページ範囲:P.349 - P.351

血漿交換療法とは
 血漿交換療法(plasma exchange)とは,患者の循環血液中の有害な物質,とくに透析除去することが不可能な有害血漿蛋白成分や血漿蛋白と結合した毒性物質を血漿とともに取り除くplasmapheresis(血漿除去術)と,除去された循環血漿量や,低下した凝固因子などを補充するために,健康人より得られた新鮮血漿,新鮮凍結血漿,あるいはその分画製剤(アルブミンなど)または代用血漿製剤を,分離された患者の血球成分とともに返還する治療法である.
 交換に用いる血漿製剤は,成分輸血の普及により,健康な献血者より得られた血液を,血漿と赤血球濃厚液とに分離された血漿が用いられることにより,入手が容易となってきた.

免疫からみた輸血

免疫グロブリン製剤

著者: 矢田純一

ページ範囲:P.352 - P.353

免疫グロブリン補充療法の適応
 低γグロブリン血症 免疫グロブリンの補充は低γグロブリン血症患者治療の絶対的な適応である.Bruton型無γグロブリン血症(X-linked infantile agammaglobulinemia),原発性獲得性低γグロブリン血症など(variable immunodeficiency)がその対象となる.重症な細胞性免疫不全も伴っているような低γグロブリン血症(severe combined immunodeficiency)には投与してもそれほど効果をあげないことが多い.
 乳児期一過性低γグロブリン血症に対しては易感染性がみられない限り,使用はひかえたほうがよいと思われる,免疫グロブリン産生系の発達を阻害し,治癒を遅らせる可能性があるからである.

Transfer factorとInterferon

著者: 伊藤碩侯 ,   松本脩三

ページ範囲:P.354 - P.355

はじめに
 輸血における白血球製剤の利用は限られていて,赤血球,血小板およびその他の成分と同様に考えるわけにはいかない.白血球輸血の主な目的は食菌作用の補強であって,今日ではsingle donorからleukapheresisによって単離された大量の顆粒球のみが用いられている.この方法以外の白血球輸血については,白血球に多くの型物質があり,それぞれの抗原性が強いために,赤血球型にみられるように一部の型(ABO式およびRh型の各血液型)が適合すれば,輸血に使用してもよいというものではなく,さらに患者が免疫抑制療法を行っているような例では,しばしばgraft versus host反応が見られるために,副作用の危険性も危惧されるところから,1回200mlの採血による白血球の利用は,現在の輸血療法における血液成分製剤の中からはずされている.そこで近年では,成分輸血後に剰余される白血球の有効利用として,一つは細胞性免疫の伝達因子としてのtransferfactor(以下TF),いま一つはウイルス抑制因子としてinterferon(以下IF)の作成の面での利用法が模索されている.
 これらはいずれも多くの血液を扱う施設の積極的な協力がなければ,広汎な利用の道がひらかれない.

HLA抗原抗体と輸血副作用

著者: 十字猛夫

ページ範囲:P.356 - P.357

はじめに
 白血球は同種抗原系の研究が始まってすでに4分の1世紀が経過している.その中でHLA抗原系の解明が急速に進められ,ヒトのmajor histocompatibility complex(MHC)に関してきわめて詳細な情報が得られている.しかしながら,このヒトのMHCが輸血においてどのような意義をもっているのかに関する情報は少ない.その理由の一つは抗白血球抗体がすべて抗HLA抗体と考えられているからである.しかしながら,HLA抗原系は赤血球以外の血球成分における同種抗原のうちの氷山の一角にすぎず,そのほかに未同定の抗原系が多数存在することが想定されている,このような未知の抗原の存在を考慮に入れて,輸血副作用とHLA抗原の関連を考えてゆかなければならない.

HLA抗原抗体と腎移植—とくに輸血の影響について

著者: 柏木登

ページ範囲:P.358 - P.360

はじめに
 臓器移植の拒絶反応は,移植された臓器の細胞表面上にあるHLA抗原群に対する宿主のリンパ球と抗体とによる免疫反応である.このことは腎移植にとっても例外ではない.拒絶反応の原因であるHLA抗原系についても,また反応の担い手であるリンパ球と抗体の作用機序についても筆者は他の機会に比較的詳しく論じておいたので1,2),腎移植拒絶反応におけるHLA抗原・抗体の直接の役割についてはそれらを参照いただくこととして,ここでは輸血という観点から,腎移植前に腎不全患者が受けた輸血が,拒絶反応にどのような影響を与えるかという問題について述べたいと思う.

non-HLA型抗原抗体と輸血副作用

著者: 柴田洋一

ページ範囲:P.362 - P.363

はじめに
 白血球および血小板は赤血球に比較して免疫原として強力であることが知られている,つまり輸血をくり返していると,患者には赤血球に対するよりも高頻度に白血球および血小板に対する抗体が生じる.これらの抗体の特異性は十分に解明されていないが,白血球および血小板に共通な抗原であるHLA(human Ieukocyteantigen system,ヒト白血球抗原系)とそれに属さないnon-HLA抗原に大別されている(図1).
 白血球および血小板による輸血副作用の主たるものは,悪寒戦慄,発熱,発疹などであるが,稀には肺水腫やアナフィラキシーショックに至る重篤なものもある.これらの症状をきたすのが,①HLA抗原抗体反応によるのか,②non-HLA抗原抗体反応によるのかについては十分な証拠は集まっていない.たぶん両方の抗体ともにこれらの副作用に関係していると考えられる.

輸血の副作用とその対策

抗原抗体反応に関するもの—赤血球血液型不適応輸血

著者: 遠山博

ページ範囲:P.364 - P.365

機構
 赤血球は,その膜に抗原決定基を持っており,不適合輸血があって対応する抗体がたくさん結合すれば赤血球は凝集し,補体活性化の連鎖反応が起こってC1→C9に到り,これが作用して赤血球膜が破壊されて溶血が起こる,Hbが血漿中に放出されると,α2グロブリンに属するハプトグロビンhaptoglobin,Hpがこれに結合し,Hp-Hb結合体をつくり,肝その他の網内系で処理される.この他にβグロブリンの一部もHbと結合して同様にして処理されるが,この成分はヘモペキシンhemopexinと呼ばれる.しかし,これらの防衛機転には限界があり,それ以上のHbは処理できない.補体活性化途中のC3あたりの成分が血管活性物質様のpolypeptideを遊離してこれがショックを起こす主原因となる.
 血漿中のHbが25mg/100mlぐらいで尿中に排泄され始め,腎に対してHbが毒性を発揮し,とくに血液のpHの低いときに著しい.低血圧による腎循環の低下,フィブリン塊による腎血管・細尿管の閉塞などと相まって腎不全を起こし,乏尿・無尿に移行する.

抗原抗体反応に関するもの—血漿蛋白

著者: 清水勝

ページ範囲:P.366 - P.368

はじめに
 血漿蛋白には数十種類以上もあることが知られており,各血漿蛋白にはそれぞれに特有の型が存在する。通常見出される血漿蛋白のなかで,輸血副作用との関係で現在問題とされているものは,IgA,IgGあるいはAgに対する抗体によるものである.そのほか,ペニシリン抗体とペニシリン,レアギンとアレルゲンなどが輸血により共在すると副作用を起こすことがある.
 血漿蛋白による輸血副作用は,アレルギー性反応であり,その最も激しい症状を示すのがアナフィラキシー反応である.輸血によるアナフィラキシー反応は2万回の輸血に1回の割合に認められるといわれている.

感染に関するもの—肝炎

著者: 片山透

ページ範囲:P.369 - P.371

輸血後肝炎とその発症率の低下
 輸血された血液中に含まれる肝炎ウイルスによって発症したものを輸血後肝炎といい,麻酔剤・そのほかの薬剤によるものは除外する.かつて血清肝炎と呼ばれたものが,ほぼこれに相当する.その発症率は表1に示すとおり供血者の社会層が変わったり,さらにHBs抗原陽性の保存血を輸血に使用しなくなってから,かなり低率となった,数値には若干の差があるものの,国内だけでなく欧米でも同様の傾向である.

感染に関するもの—肝炎以外のもの

著者: 品田章二 ,   小島健一

ページ範囲:P.372 - P.373

はじめに
 救命のために行われる輸血も稀に副作用として,感染症の伝播の機会になり得る.
 輸血により伝播される輸血後肝炎以外の感染症としては,①細菌汚染およびエンドトキシン,②梅毒,③ウイルス,とくにcytomegaloviru(CMV)およびEpstein-Barr virus(EBV),④マラリヤ,⑤トキソプラズマなどがある.これらについては,その発生が幸いきわめて稀のために,意外に注目されない傾向にあるが,いずれも重篤な事態につながる可能性を秘めている.

抗原抗体反応・感染以外の副作用

著者: 遠山博

ページ範囲:P.374 - P.375

有害物質輸注による障害
 発熱物質による反応 輸血に際して発熱することは極めて多い.それには溶血性反応,抗白血球抗体や抗血小板抗体による反応,アレルギー性反応,細菌汚染血輸血などほとんどすべての速発性輸血副作用は発熱を伴うといってもよいぐらいである.したがって,発熱反応といっても原因は皆違う.往年,俗に発熱反応と称していたものの大部分が,実は抗原抗体反応によるものであったろうということが1950年代になってだんだんわかってきた.
 狭義の発熱反応は,発熱物質pyrogenが輸血血液中に混入していたために発熱が起こるものであって,pyrogenic reactionという.発熱物質には細菌によって生産されたbacterial pyrogenと,細菌生産と関係のないnon bacterial pyrogenとがある.細菌の存在している水の中に発熱物質を発見したのはSeibert(1923)の歴史的な業績とされている.後にこの物質は細菌そのものではないが,高分子量の細菌性多糖類bacterial polysaccharideであることが証明された.たとえばE.coliから分離したある種のlipopolysaccharideの一種は極めて強力な発熱物質であって,0.001g/kgといった超微量でもウサギに発熱を起こすに十分であったという.

輸血の事故と法律問題

著者: 池木卯典

ページ範囲:P.376 - P.379

はじめに
 輸血事故を含め,医療事故の実態を正確に把握することは困難とされているが,日本医師会法制委員会の報告によると,1963年に発生した紛争件数は63件であり,1971年には511件に増えている1),こうした医事紛争増加の原因としては,市民の医学知識の向上,衛生思想の普及,権利意識の増強,医師対患者の人間関係の悪化,新薬・新医療法の開発に伴う危険度の増大などが指摘されている2,3,6).輸血についても,血液の需要量からみて輸血医療の増加は推定される.反面,献血制度は輸血や血液型に関する知識を著しく大衆化した.このような相対的な関係も,輸血事故紛争の潜在的要因となっているのかも知れない.ちなみに,1977年における医事紛争件数は952件であり,輸血事故は11件(約11.5%)を占めている1)

理解のための10題

ページ範囲:P.380 - P.382

心エコー図のみかた

各論 2.大動脈弁,三尖弁,肺動脈弁

著者: 島田英世 ,   石川恭三

ページ範囲:P.386 - P.392

 石川 今回は,大動脈弁疾患,三尖弁疾患,肺動脈弁疾患の心エコー図の読み方についてお話を伺いたいと思います.

プライマリ・ケア

対談 老人医療を考える(その1)

著者: 西田一彦 ,   鈴木荘一

ページ範囲:P.393 - P.397

実地医の目からみた老人医療の実態
 鈴木 戦後日本人の平均寿命が急速に延びてくるとともに,昭和48年ごろから老人の医療費無料化政策がとられるようになって,私たち一般実地医家の外来には,患者さんの数が急激に増えてきました.
 元来,人間は年をとれば老化が起こります,この老化には,それぞれの人の生理的な年齢も加味されますが,同時にその人自身の生まれながらの遺伝的な素因,免疫などが絡んで,非常に個別的な老化現象が起こるわけです.また,この老化と同時にいろんな老人病がすべての臓器に発生してくるわけです.

図譜・消化器病の超音波診断 他検査法との対比による症例の検討

黄疸の鑑別と胆管閉塞性病変の診断

著者: 唐沢英偉 ,   大藤正雄 ,   守田政彦 ,   三木亮 ,   上野高次 ,   土屋幸浩 ,   木村邦夫 ,   五月女直樹 ,   江原正明

ページ範囲:P.398 - P.404

はじめに
 黄疸の診断,とくに肝内胆汁うっ滞と肝外閉塞性黄疸との鑑別は,早期に確実に行うことが必要である.その理由は,両者の治療方法がまったく異なること,また閉塞性黄疸の持続する症例の手術成績が著しく不良で,予後にも大きく影響することなどによる.黄疸は臨床症状や血液化学検査などからは,しばしば鑑別がむずかしく,胆管閉塞の有無を直接証明することが確定診断の上から必要となる,現在のところ,直接胆道造影法としてPTCやERCPが応用されている1),しかし,これらの造影法は患者に対して少なからず苦痛を与え,また術者の熟練を要する検査であり,日常臨床上簡便に実施できる方法とはいいがたい.
 最近,超音波診断装置の開発,進歩は目覚しく,消化器疾患の分野にも広く超音波検査が応用されるようになってきた.とくに電子走査型リアルタイム装置(電子スキャン)を用いることにより,拡張した胆管ばかりでなく,従来の手動走査方式では描出が困難とされた拡張のみられない胆管の確実な描出も可能となった2〜4).このことは超音波検査が黄疸例に対する基本的診断法となりうることを意味する.また,精密検査法としてのPTCやERCPの適応や,それぞれの方法の選択についても超音波所見に基づいて決定することができる.

演習・放射線診断学 シンチグラム読影のコツ・9

腎・副腎シンチグラム

著者: 久保敦司 ,   木下文雄

ページ範囲:P.405 - P.411

はじめに
 腎における形態診断法の一つとして,腎シンチグラムが古くから用いられています.腎シンチグラムは,X線診断法である経静脈的腎盂造影,血管造影,CTや超音波診断法などと比べて必ずしも診断能は高くはありませんが,簡便で非侵襲的であることから捨てがたい検査法です.
 一方,副腎シンチグラムは,高度の技術を必要とし侵襲の比較的大きい選択的副腎動静脈造影を除いては,確実な形態診断法のない副腎にとってきわめて有力な検査法で,原発性アルドステロン症,クッシング症候群あるいは副腎性器症候群の疑われる場合には欠かせない検査法です.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.414 - P.420

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・14

網状赤血球と有核赤血球

著者: 河合忠

ページ範囲:P.425 - P.429

赤血球の体内での動き
 赤血球は,主として骨髄において,血液幹細胞(stem cell)のうち,エリスロポエチン反応性幹細胞から発生し,図1に示すような過程を経て赤血球に成熟する.すなわち,前赤芽球(proerythroblast)→塩基好性赤芽球(basophilic erythroblast)→多染性赤芽球(polychrornatic erythroblast)→正染性赤芽球(orthochromatic erythroblast)→網(状)赤血球(reticulocyte)→赤血球(erythrocyte)の順である.このうち赤芽球のみが細胞核を有し,末血に出現すると有核赤血球(nucleated red blood cell)とも呼ばれるが,正しくは赤芽球と呼ぶべきである.このような成熟過程で,細胞と核の大きさは小さくなり,核小休は消失し,核クロマチンは濃縮してくる.一.方,細胞質のRNAが減少して塩基好性を失うとともにヘモグロビンの合成が盛んとなり赤味を増してくる.
 赤芽球は胎生期においては,骨髄以外に肝,脾でも造られている.また,生後においても病的な場合には骨髄以外の組織で造血がみられることがある(髄外造血).

職業病の知識

肝臓障害

著者: 兼高達貳

ページ範囲:P.431 - P.433

はじめに
 経済成長とともに産業技術も大きな進歩をとげたが,一方において労働環境の不備による健康障害も生じた,本稿においては,これらの労務災害とみなされている疾患のうち,塩化ビニール・モノマー(VCM)と,有機溶媒による肝障害について,その概略を述べてみたい.

外来診療・ここが聞きたい

浮腫,色素沈着を伴った下痢

著者: 松枝啓 ,   西崎統

ページ範囲:P.434 - P.439

症例
患者 Y. H. 50歳 主婦
現病歴 約10年前より便秘がひどくなり,大量の下剤を服用していた.4年前から時々顔面,下肢の浮種がみられるようになった.8年くらい前から皮膚の黒っぽいことに気づいている.最近,食欲はあるため「食べる→腹満・腹鳴→下痢(水様〜軟便)→顔面,下肢の腫脹」をくり返している

臨床医のための心の科学

慢性関節リウマチの心理的ケア

著者: 権田信之

ページ範囲:P.456 - P.457

はじめに
 慢性関節リウマチ(RA)に限らず治癒することのない慢性疾患の診療においては,原疾患の治療のほかに患者に対する心理面からのケアを必要とする場合が少なくない.RA患者は,①関節筋肉系の訴えのほかに多彩な精神身体性愁訴を訴えることが多く,②関節痛が疾患の活動性と無関係に出現したり,心労と一致して関節症状が悪化する例が時に見られること,③RAの病因として心因説があげられていることなどにより,他の慢性疾患に比較し,RA患者の診療に際しては,心理的ケアがよりいっそう必要と思われる.

イメージ療法

著者: 柴田出

ページ範囲:P.458 - P.459

はじめに
 心理的な原因でひきおこされる神経症ばかりでなく,身体的疾患の発病や経過に何らかの心理的な影響が加わっている心身症に,精神療法的な接近が症状の改善に効を奏することはよく知られている.そこで,この一つとしてイメージ療法を,筆者のこれまで行ってきた約300例の体験をふまえてとりあげてみたい.

medicina CPC—下記の症例を診断してください

頭痛・胸痛を訴え,意識障害をきたした44歳男子の例

著者: 岡本新悟 ,   田中隆二 ,   木村肇 ,   春見建一 ,   佐川文明 ,   後藤晃 ,   太田怜

ページ範囲:P.442 - P.454

症例 44歳 男性
主訴 頭痛,胸痛

紫煙考

不確実性時代のタバコ論争

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.422 - P.423

 不確実性の時代といわれる.確実なものが何もないのだろうか.否,あらゆるものが「確実」なのかも知れない.無知なのではない.無学なのでもあるまい.にもかかわらず,不確実といわれる.あるいはそれ故にこそ,不確実とされるのかも知れない,いつの頃から,この「不確実性の時代」は始まっているのだろうか.
 イギリス医学理事会のリチャード・ドルとロンドン大学衛生熱帯医学研究所の医学統計の教授であったブラッドフォード・ヒルの二人が,喫煙と肺癌の関連を初めて訴えたのは1950年であった.

天地人

Pembine Conferenceのこと

著者:

ページ範囲:P.465 - P.465

 若い頃,アメリカのボストンに留学していて,ペンバイン・カンファレンスというものに出席したことがある.ペンバインというのは確か,マサチューセッツ州の町の名前で,そこのサナトリウムで初めて行われた学会の形式がペンバイン・カンファレンスと呼ばれ,その後,毎年何回かマサチューセッツで行われる結核病学会のうち一度は,このペンバイン・カンファレンスという形式で行われるようになったのである.
 さて,このカンファレンスの趣旨は症例検討会であるが,ただ違うのは,このカンファレンスに出せる症例は,一定の期間内に入院あるいは手術した症例だけに限られるという点がポイントであった.確かその年の1月に入院し,あるいは手術した最初の10例か5例に限られていたようである.こういう症例を当番にあたったいくつかのサナトリウムが持ちよって入院時の所見,診断の根拠,検査のすすめ方,治療の決め方,手術適応の決め方などについて1例ずつ詳しく検討するのである.

オスラー博士の生涯・70

英国の医科大学・病院組織の刷新への努力(1913〜14年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.466 - P.469

 1913年の8月には,ロンドン市で第17回国際医学会が開催され,オスラーは地元の世話人として,そつのない受け入れ準備と会期中の内科方面の分科会プログラムの運営に心身をひどく労した.その後,約1カ月はスコットランドに息子とともに避暑して休養した.

医師の眼・患者の眼

2人の社長

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.470 - P.472

解断ち,酒断ち3日間
 糖尿病患者の間に「餡断ち,酒断ち,3日間」という言葉があるそうだ.つまり,食事療法単独でコントロールできるような比較的軽症の成人型糖尿病の場合,病院での検査の3日前から食事を守れば,血糖値はけっこういい線が出るというのである.
 「冗談じゃない」と主治医は怒るが,現実食事療法をよく守らない人はそれほど多い.しかし,餡断ち,酒断ち3日ののち何喰わぬ顔をして,医者の前へ来る患者に,糖尿病専門医が無防備であるはずはない.とくに糖尿病治療の基本的問題である食事療法を守っているか,いないかを抜きにして,長い年月ののちに発症してくる糖尿病の合併症について,なにも語ることはできないからである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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