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雑誌目次

雑誌文献

medicina16巻4号

1979年04月発行

雑誌目次

今月の主題 肺機能検査の実際

理解のための10題

ページ範囲:P.560 - P.562

肺機能検査で何がわかるか

スパイログラム

著者: 末次勧

ページ範囲:P.482 - P.483

概念
 スパイログラム(=呼吸曲線)とは,時間を横軸に,換気量を縦軸にとり,その上に換気運動を描記したものである.このスパイログラムをとる装置をスパイロメーター(またはレスピロメーター)と呼び,スパイログラムをとることをスパイログラフィー(またはスパイロメトリー)と称する.
 スパイロメーターには多くの種類があるが,Benedict-Roth型が従来よく用いられてきた.この装置は,基礎代謝を測定するために作られたもので,その回路は図1に示すようになっている.スパイログラフィーの際には,ソーダライム容器と2箇のバルブははずし,呼吸に対する抵抗を少なくして用いる.最近では,スパイログラフィー用に回路を単純化したユニ・スパイロが本邦ではかなり普及している.また,コンピューター化の便利なニューモタコグラフや熱線流量計を応用した装置も用いられている.

努力性呼出曲線

著者: 小野寺壮吉 ,   佐々木信博

ページ範囲:P.484 - P.485

はじめに
 最近,大気汚染,喫煙,人口の高齢化などによる呼吸器障害患者の増加に伴い,その早期発見のために,closing volumeの測定,flow volume曲線の解析などの検査法が臨床に応用されてきている.努力性呼出曲線(FVC曲線)の解析は,換気能力を全体的に評価する手段として,気道閉塞の存在を知る比較的鋭敏なスクリーニングテストとして,その装置,手技の手軽さとあいまって,現在最も普及し,肺機能検査の基本と考えられている.

残気量測定

著者: 大崎饒

ページ範囲:P.486 - P.488

はじめに
 残気量(residual volume,RV)は強制呼気を行った後にも,なお肺に残存している空気量をいう.RVを規定するものとしては,肺,胸壁の弾性収縮力(traction force),気道閉塞が最も大きな因子となる.それ故,これらに変化を及ぼす病態によってRVは変化する.RVは肺気量分画(図1)の一部を占めるが,その測定法,臨床的意義について記す.

肺内ガス分布測定

著者: 白石晃一郎

ページ範囲:P.489 - P.491

概念
 肺または肋膜に発生した病変のために,吸入した空気が肺内に均等に分布しなくなるような場合が起こる.範囲が限局され,しかもある程度高度の場合には,聴診上局所的呼吸音の減弱として,また透視により横隔膜の動きの左右差や呼吸に伴う肺野の局所的明るさの変動として捉えられることもある.このような現象を呼気ガス分析によりより軽度のものまでより定量的に把握しようとするのが,肺内ガス分布測定法である.

拡散能力測定

著者: 𠮷田稔

ページ範囲:P.493 - P.495

肺拡散能力とは
 肺拡散能力に関しての理論的な基礎は,すでに1914年Kroghにより確立されていたが,その臨床応用への道を開いたのはForster一派(1954)である.
 ところで、肺胞内ガスと肺毛細管血とのガス交換は物理的な拡散現象により行われる.肺胞から肺胞毛細管膜を介して肺毛細管内の赤血球までO2はそのガス分圧差に従って拡散していくし,CO2も同様の機序で逆の経路を通り血液相からガス相へと拡散する.このガス移動の効率の良否,程度をみることを目的としたものが,肺拡散能力(diffusing capacity,DL)の測定である.したがって,肺拡散能力(DL)はO2を例にとってみると,次のような表すことができる.

Closing volume

著者: 西田修実

ページ範囲:P.496 - P.501

低肺気量レベルでの呼吸とairway closure
 Nunnらは,健康者を対象として低肺気量レベルで空気呼吸を行わせると,28歳以下の若年者ではSaO2(動脈血O2飽和度)は有意に低下しないけれども,老年者ではSaO2はまもなく低下し,再度FRC(機能的残気量)レベルで安静換気させるとSaO2はすぐ正常値に戻るという成績を得て,老年者でみられるこのような変化はreversible airway obstructionに基づくのであろうと考えた.さらに彼らは,老年者にFRCレベルでO2を呼吸させた後,低肺気量レベルでO2呼吸を行わせたところ,PaO2(動脈血O2分圧)は著明に低下し(PaO2が243mmHg低下した症例がある),その後,呼吸をFRCレベルの安静換気に戻してもPaO2はなかなか上昇せず,20分経過後においても以前の値に戻らないという成績を得た.そして,このような症例の胸部X線所見をみると,両側の上葉はまったく正常であるが,両側下葉のbasal segmentにはatelectasisがみられ,また右中葉にもpartial atelectasisが認められたという.したがって,老年老が低肺気量レベルで換気したときにPao2の低下する原因はatelectasisに基づくshuntによるものであろうと考えた.

Flow-volume

著者: 佐々木孝夫

ページ範囲:P.503 - P.505

はじめに
 細長い管中を空気が流れる場合,管内側圧は上流ほど高く,下流ほど低い,ある圧差を持つ.逆に細長い管中に空気を流す場合には,流れの方向に圧差・駆動圧をつくらねばならない.管の性状が変わらない場合,一般に駆動圧が大きくなると気流速度も大となる.また,駆動圧が変わらず,管がさらに細く長くなると気流速度は減少する.すなわち,駆動圧と流速の関係をみれば,管の性状を推測でき,概念的に駆動圧/気流速度比を抵抗と呼び,その大小で,たとえば気道が狭くなっているかどうかを判断する.
 複雑に分岐した気道系に空気を流す場合も,同様に駆動圧をつくらねばならない.呼吸器では空気が流れると同時にその容積も変化するため,われわれは容積を変えるために駆動圧とは別に,肺弾性圧あるいは呼吸器弾性圧に亢する圧もつくらねばならない.気道系の内径,長さは固定されたものでなく,肺容積あるいは肺弾性圧の程度によって変わってくる.

肺コンプライアンス

著者: 杉山正春 ,   大久保隆男

ページ範囲:P.507 - P.509

肺コンプライアンスとは
 肺組織は弾性体であり,吸気の際に呼吸筋(外力)によりバネのように引き伸ばされ,外力が除かれると原形に戻る.気流のない状態,または非常にゆっくり吸ったり吐いたりした場合の肺の力と伸び,または圧と肺気量との関係は,弾性体としての性質に従い,その傾きが急であれば,一定圧当たりの肺気量変化は小さく,すなわち膨みやすく,逆に臥てくれば,一定圧での肺気量増加は少ないので硬いことになる(図2を参照).肺に加わる圧と肺気量との関係を肺コンプライアンス(compliance,C)と称し,
C=ΔV/ΔP

肺粘性抵抗と呼吸抵抗

著者: 冨田友幸

ページ範囲:P.510 - P.511

概念
 肺粘性抵抗pulmonary resistance(RI)は吸気や呼気のしにくさを表す指標の一つであり,その内容は主として気道を流れる空気の摩擦抵抗である.摩擦抵抗は気道の大きさに支配され,したがって,喘息など気道に狭窄がある症例では肺粘性抵抗は著しく増大する.一方,呼吸抵抗respiratory resistance(Rrs)またはrespiratory impedance(Zrs)も同様に呼吸のしにくさを表す指標の一つであって,これも臨床的には気道の抵抗の大きさを知る目的で測定されることが多い.
 通常ベッドサイドや外来診察室で診る症例について気道狭窄の有無や程度を判断するためには,呼吸困難や息切れに関する問診や呼吸音の聴診をていねいに行うが,より客観的に評価しようとする場合,あるいはごく軽度の気道障害の有無を判断する必要がある場合,さらにより正確な鑑別診断や治療効果の判定を要する場合などには,肺粘性抵抗や呼吸抵抗の測定を行って定量的に直接的に気道狭窄の状態をとらえる必要がある.

A-aD測定(O2,CO2

著者: 鶴谷秀人

ページ範囲:P.512 - P.514

A-aDとは
 ガスと血液とが接触する肺胞で理想的な状態であれば,肺胞内のガスと動脈血ガスとの分圧は,まったく平衡していて両者に差がないはずである.しかし,実際には両者間に差が生じる.この差を肺胞気動脈血分圧較差,A-aDという.A-aDが大きいことは,肺胞のガス交換機能になんらかの障害があることを意味する.
 肺胞に出入りするガスには,02,CO2,N2が含まれているので,それぞれについてA-aDが存在する.酸素についていえば,A-aDO2,と記し,alveolar-arterial oxygen difference(肺胞気-動脈血間酸素分圧較差)と称する.CO2とN2の場合は,動脈血中の分圧のほうが高く,O2の場合と異なり圧勾配が逆となるので,a-ADCO2,a-ADN2となる.これらの中で臨床的に最もよく使われ,ガス交換のよい指標とされているA-aDO2を中心に述べる.

換気・血流比不均等分布

著者: 川城丈夫 ,   佐藤勝

ページ範囲:P.516 - P.517

換気・血流比不均等分布の概念
 いまここに吸入気および混合静脈血ガス組成が一定に維持されている恒常状態下にある肺内のガス交換スペースの一つをとり上げて考えてみる.そこのガス分圧はそこを換気する換気量のみによって決まるものではない.またそこを灌流している血流量のみによって決定されるものでもない.その両者の比,すなわち換気量と血流量の比(VA/Q)によってそのガス交換スペースのガス分圧は決定され,そのスペースでガス交換を終え,そこを去る血液のガス分圧はそのスペースのガス分圧に等しい.
 実際の肺の有するガス交換スペースは単一なものではなく,肺は数多くのガス交換スペースよりなりたっている.これらのガス交換スペースのVAQは空気呼吸をしているヒトではおおむね0.8〜1.0を中心に分布し,正常恒常状態下にある場合でも,ある程度の不均一性をもつものである.このように,個々の肺内のガス交換スペースのVA/Qが不均等性を有する分布をしていることをVA/Q不均等分布と呼んでいる.この不均等性は病的肺においてはさらに著明となる.

動脈血ガス分析

著者: 岡安大仁 ,   長尾光修

ページ範囲:P.518 - P.521

 動脈血ガスは肺機能の各ステップ,すなわち換気,肺内ガス分布,拡散,換気・血流分布の集約されたものであり,さらにまた,循環・腎および代謝機能の正常ないし異常の指標でもある.すなわち,電極法による動脈血ガス分析では,動脈血酸素分圧(PaO2),炭酸ガス分圧(PaCO2),pH,さらにこれから酸素飽和度Sao2,HCO3-,base excess(BE)などが算出されるが,最近の装置では数秒間でPaO2,PaCO2,pH値が直読しうることは,とくに急性呼吸不全の管理などでは不可欠で,しかも時には唯一の指標でさえあることが少なくない.
 PaO2は95±5mmHgを正常値とするが,年鹸,体位によって異なり,当施設での臥位での採血時の正常値はPaO2=104.1-0.31×agemmHgである.したがって,70〜80歳代でもPaO2は正常の場合80mmHg以上あると考えてよい.これは吸入気酸素分圧PIO2=〔(大気圧PB-飽和水蒸気圧47)×0.209〕≒150mmHgが気道〜肺胞を経て静脈血を動脈血化し,血流によって組織からさらに細胞のミトコンドリアにいたる間の酸素運搬経路(O2cascade)をみると理解しやすい(図1).

体プレチスモグラフィー

著者: 太田保世

ページ範囲:P.522 - P.523

体プレチスモグラフィーとは
 Body plethysmographyは,体プレチスモグラフィーと訳すことになっている.プレチスモグラフは,体積(変動)記録という意味である.からだの容積変化といっても,呼吸に伴う肺・胸郭系の容積変動が最も大きく,現在の体プレチスモグラフは,後述するような呼吸機能検査に応用されている.
 指尖脈波記録法(finger plethysmography)というものがあって,血流による指尖容積の変動を計測する方法もあるが,からだ全体としてみれば,血流の分布が変化するだけで,全体の容積変動はないと考えてよい.

肺表面張力測定

著者: 徳田良一 ,   吉村正治 ,   西田由美子

ページ範囲:P.524 - P.526

はじめに
 肺におけるガス交換の過程は,肺毛細管と吸入されたガスの間の広い接触表面が存在する場合に,はじめて能率的に進行される.肺胞の内側の表面は薄い液体の層(alveolar lining layer)で被覆され,ガスと絶えず接触しているので気体-液体の界面とみなすことができる.この気体-液体の界面には表面張力が存在する.肺表面活性物質の主成分をなしているのは燐脂質1)であり,なかでもdipalmityl lecithin(DPL)2)であることが証明されている.肺表面活性物質は,DPLとproteinのcomplexの型で肺胞壁のlining layerを形成している.肺表面活性物質はII型肺上皮細胞から分泌される.

アイソトープによる局所肺機能測定

著者: 井沢豊春

ページ範囲:P.527 - P.529

はじめに
 肺機能研究の進歩には著しいものがあり,今日肺機能検査成績をぬきにして,心肺疾患を論ずることができない.ここにいう肺機能検査とは,スパイロメトリーをはじめ,本特集にもられているような検査項目を網羅するが,これら肺機能検査に共通していることは,肺を一つの総合体とみてその総合体が全体としてどのような機能を営んでいるか,種々のパラメーターについて検索することにある.これをかりに総合肺機能検査とよぶと,アイソトープを用いた肺機能の検索は,肺内の各領域での血流分布や換気分布についての情報を提供することから,総合肺機能に対応して,本法を局所肺機能検査とよぶことができる.

インピーダンスニューモグラフィー

著者: 吉良枝郎

ページ範囲:P.530 - P.531

概念
 本法は生体に無害な20〜100kHz(20,000〜100,000サイクル)の高周波交流電流を定電流状態で胸壁上から流し,呼吸により発生する肺内気量の変動に対応して変化するインピーダンス(以下Zと略す)を計測して,その変化から換気量を測定・記録しようとするものである.Zとは直流電流の場合の抵抗に相当し,簡単に表現すれば電圧(E)と電流(i)との間には(1)式に示される関係
 E=i・Z(1)

肺機能検査のapplication

過換気症候群

著者: 田村昌士 ,   工藤英俊

ページ範囲:P.532 - P.534

はじめに
 なんら器質的病変がないにもかかわらず,心理的因子,身体的因子または両者が誘因となって発作的過換気の状態となり,それに伴って身体精神両面にわたり多彩な症状を呈するものを過換気症候群という.本症は必ずしも稀ではなく,若い女性に比較的多い.また本症は多種多様の症状を示すため,しばしば他疾患と誤診されやすく,本症に対する十分な理解が必要と考えられる.本症の診断で重要な点は,特徴的な自覚症状,過換気発作を自発的に誘発できること,paper bag rebreathingで発作を阻止できることなどの臨床症状および発作時の呼吸数増多,換気量増大,呼吸性アルカローシス,低炭酸ガス血症などの検査所見である.本稿では本症の呼吸機能検査上の特徴および診断への応用を主として述べ,あわせて自験例を呈示する.

慢性肺気腫

著者: 福地義之助 ,   原沢道美

ページ範囲:P.535 - P.537

はじめに
 肺気腫は形態学的に定義された疾患である.現在広く受け入れられているのは,"終末細気管支より末梢の気腔の大きさが正常範囲を越えて増大し,かつその壁が破壊されて変化している抹態"という定義であり,WHOやアメリカ胸部疾患学会により採用されている.近年,選択的肺胞気管支造影法が導入されて,生存中に形態学的変化を相当に正確に推定しえるようになりつつあるものの,肺機能検査法が肺気腫の診断や経過観察に最も重要なものであることに変わりはない.
 臨床的にみて,肺気腫と慢性気管支炎の鑑別は心ずしも容易ではなく,両者をまとめて慢性閉塞性肺疾患と呼ぶことも少なくない.既に述べられたさまざまな肺機能検査を組み合わせて判定することは,この両者の鑑別をすすめる一助ともなり,両者の肺機能の特徴を対比することができる.ここでは,肺気腫の診断,経過観察,予後判定などにおける肺機能検査の応用について簡単にまとめるとともに,肺気腫の早期診断に関連して末梢気道機能検査についてもふれることにする.

気管支喘息

著者: 中島重徳 ,   津谷泰夫

ページ範囲:P.538 - P.541

はじめに
 気管支喘息(以下喘息)の肺機能上の変化は主に閉塞性障害のパターンを示すが,通常は発作性・可逆性のair-flowの障害であり,換気/血流(VA/Qc)比の異常によってhypoxemiaが惹起される.しかし,喘息の特徴は発作時と非発作時で明らかに障害の程度が異なることで,便宜上この両時期に分けて述べる.

急性呼吸不全

著者: 芳賀敏彦

ページ範囲:P.542 - P.543

はじめに
 急性呼吸不全で外来を訪れたり緊急入院してくる患者にいわゆる肺機能検査室で行われる検査を行うことは困難であり,それよりもベッドサイドで,または外来処置室で(いずれすぐ入院となるが)行えるもの,また検査結果が分の単位で判明し診断・治療に役立つものと,一度入院してICUやIRCUで処置を始めたり,また処置中に行われるものに限られる.このような制限された中での必要な検査法およびその応用について述べる.

じん肺法

著者: 西本幸男 ,   西田修実 ,   有田健一

ページ範囲:P.544 - P.547

はじめに
 じん肺は職業性肺疾患の代表的なものの一つで,成書によればその歴史は遠くヒポクラテスまで遡ることができるという.しかしながら,じん肺を職業病と認定しその対策について検討が加えられたのは,国際的にみても約50年前であり,わが国においては戦後のことである.すなわち昭和24年珪肺措置要綱が定められたが,これが国家レベルでの対策の始まりであった.昭和35年に至りじん肺法が制定され,珪肺以外のじん肺も対象となった.また,X線所見(PR1〜PR4)および肺機能所見(F0〜F3)により健康管理区分(I〜IV)を行うことになった.じん肺法による健康診断や健康管理は,長くその道に携わる人々に親しまれたところであったが,昭和52年に至り,その後の学問の進歩や社会状勢の変化に対応するため,じん肺法が改正され,昭和53年4月から施行されることとなった.
 両者を比べると,じん肺の定義・X線写真読影法・肺機能検査法・管理区分の決定および事後措置等において,大幅な改正が行われている.なかんずく肺機能検査に関しては検査方法が全面的に変更され,また障害の程度に関しても「著しい障害」の有無のみを判定することとなったため,とまどいを感じた人は少なくなかったようである.

肺機能検査成績のよみ方

このデータから何を考えるか

著者: 長野準 ,   井上甝夫 ,   西本幸男 ,   西田修実 ,   佐竹辰夫 ,   高木健三 ,   滝島任 ,   菊地亮 ,   山林一

ページ範囲:P.548 - P.559

症例1 25歳,男 溶接工
 現病歴 1年前に何ら誘因なく突然息苦しくなり,喘鳴を発するようになった.薬物ではほとんど改善しなかった.そのままで1年間就労したが,溶接の際のガス吸入で増悪はしていない.1年後に咳,少量の痰が加わってきた.呼吸困難は呼気で強く,抗生物質や気管支拡張剤を試みたが効果はなかった.
 入院時所見 強い肩呼吸あり.チアノーゼ(-).聴診で胸骨上部付近に鋭いラ音がある.

心エコー図のみかた

各論 3.先天性心疾患と心筋症

著者: 島田英世 ,   石川恭三

ページ範囲:P.565 - P.571

 石川 今回は先天性心疾患の診断を中心に,心筋症についてもお話を伺いたいと思います.
 まず,心エコー図で診断できる先天性心疾患と心筋症にはどんなものがありますか.

図譜・消化器病の超音波診断 他検査法との対比による症例の検討

胆道疾患における超音波診断—X線造影との対比による

著者: 土屋幸浩 ,   大藤正雄 ,   五月女直樹 ,   唐沢英偉 ,   大野孝則 ,   税所宏光 ,   木村邦夫

ページ範囲:P.572 - P.579

はじめに
 胆道疾患の診断はX線造影を主体に行われてきた.X線診断はスクリーニングから精密検査まで,病状に応じて適宜選択して行え,また病変の全体像が把握できるなどの利点があり,胆道疾患における基本的診断法といえる.
 一方,最近になり超音波診断装置の開発進歩は目覚ましく,とりわけ実時間で簡便に病像を表示できる電子スキャンの出現は,消化器病診断に大きな進歩をもたらした.電子スキャンを胆道疾患の診断に応用することにより,次のような利点を見出せる.

演習・放射線診断学 シンチグラム読影のコツ・10

膵シンチグラム

著者: 彌富晃一 ,   鈴木謙三 ,   盛山眞行 ,   木下文雄

ページ範囲:P.580 - P.587

はじめに
 膵癌は消化器の癌の中で,最も死亡率の高いものの一つです.それにもかかわらず,胃癌,肺癌のように早期診断,早期治療がなかなかむずかしく,診断法の進歩が待たれています.
 膵臓癌の診断が遅くなる理由の一つに,自覚症状が一定でないことがあげられます.食欲不振,腹痛または背部痛,黄疸,原因不明のやせなどがありますが,いずれも特異的なものでなく,このため他の病気と誤診して,いたずらに検査,加療を受け,時間を空費することが多いためです.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.590 - P.595

プライマリ・ケア

対談 老人医療を考える(その2)

著者: 西田一彦 ,   鈴木荘一

ページ範囲:P.630 - P.633

 鈴木われわれ実地医家の立場で老人をみていく場合の診察のポイントをまとめてみたいと思います.継続的にみている患者さんにしろ,初めてこられた患者さんにしろ,老人は複雑な病気をいろいろ持っていますので,老人の愁訴だけにとらわれて,その臓器だけをみると往往にして誤ちを犯しますから,一応頭の先から足の爪先までみるように心がけたいと思います.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・15

活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)

著者: 河合忠

ページ範囲:P.598 - P.601

はじめに
 止血のしくみと出血傾向のスクリーニングについては,本シリーズの5「全血凝固時間と血餅の観察」(15巻5号p.714)で概説した.その折,内因性血液凝固系のスクリーニングとして部分トロンボプラスチン時間(partial thromboplastin time,PTT)の重要性を強調した.今回は,PTTについて,その特徴ならびに臨床的意義の詳細をとりあげることにしよう.

図解病態のしくみ 消化器疾患・1

逆流性食道炎

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.602 - P.607

はじめに
 胃内容物の食道への逆流に関する病態生理学の最近の発展に伴い,逆流性食道炎の原因は,下部食道弁の閉鎖不全のため胃液および十二指腸液の食道への逆流によって起こる食道粘膜の損傷によることが明らかになってきた.この新しい情報と後述する新しい診断法の確立により,逆流性食道炎の診断はより正確になったばかりでなく,これに対する合理的な治療が可能になってきた.
 一方,健康な人でも胃内容物の食道への逆流は1日を通じて周期的に起こることは,食道内にpH電極を留置してみると明らかで,この逆流した胃内容物が食道を刺激し,食道の蠕動運動を起こして逆流した物質を自動的に胃に送り返すため,健康な個人は,症状はもとより,その逆流に気づくことは少ない.

職業病の知識

呼吸器障害—肺癌

著者: 瀬良好澄 ,   信友浩一

ページ範囲:P.608 - P.609

はじめに
 わが国の臨床家が,常に癌を職業(発癌物質への職業性曝露)と関連させて因果関係を検討することはほとんど不可能であると思い,また,ほとんどの肺癌例は職業と無関係である,と思い込むのはやむをえない点がある.なぜなら,現在の臨床家は,医学生時代あるいは研修時代に職歴(狭義の外因子曝露歴)の問診を系統的かつ具体的に行う習慣がつかず,えてしてつけたりだけの病歴情報源であったことが一因であろう.また,そのような系統的にはとれていない職歴情報では,「職業性」肺癌の実数は不正確極まりないものとなる.この推測は,職業性肺癌の報告例数を諸外国とわが国とで比較した表1)があるが,一見してわが国の職業性肺癌の把握状態がきわめて不十分である事実から裏付けられよう.
 以上のように,少なからぬ不正確な数字を基にした上での印象を臨床家がもちつづけることは,患者にとっても予防医学にとっても不幸なことである.これらの問題を解決するため,当院においては図1のような外因子曝露歴調査票を用い(患者記入)一助としている.

外来診療・ここが聞きたい

過敏性大腸症候群への対応

著者: 松枝啓 ,   西崎統

ページ範囲:P.610 - P.615

症例
患者 I. U. 17歳,男性 高校生
現病歴 約2ヵ月前から1日5〜6回の軟便または水様便の下痢が続いている.時々粘液便のこともあり,また血液が線状に混じることもある.学校が忙しく,売薬のワカマツ,ビオフェルミンを服用していたが効果がなく,最近になって腹痛を伴うようになってきた.その後放置していたところ,便通は1日1回程度で普通便から軟便の状態であるが,腹痛が頻繁に出現するようになってきた

臨床医のための心の科学

臨死患者に対するチームアプローチ

著者: 柏木哲夫

ページ範囲:P.616 - P.617

はじめに
 日本において臨死患者のケアに対する関心が高まったのは,ここ数年のことである.死にゆく患者に対してわれわれは何をなすべきかについての書物も出版され始めた1〜4).1977年には第1回「死の臨床研究会」が大阪で開催され,第2回は1978年,東京で開かれた.これまで死を否定的にとらえてきた医療の世界に変化が起こりつつある.
 われわれが臨死患者に対するチームアプローチを始めてからやがて6年になる.死にゆく患者をチームを組んでケアすることの理由,患者の持っている必要,チームの目標,チームの実際的な働き,チームアプローチの利点などについて述べてみたい.

自律訓練法

著者: 佐々木雄二

ページ範囲:P.618 - P.619

はじめに
 自律訓練法は,中性的催眠状態(neutral hypnotic state)に含まれている疲労回復・健康保持機能を,より効果的に治療に利用しようとして作られた心理生理的治療法である.自律訓練法は一種の自己催眠法ともいえるが,従来のそれが催眠状態における被暗示性の亢進を利用して,治療暗示をかけることに重点がおかれていたのに対し,この方法は催眠状態そのもの(hypnosis per se)を得ることが重視される.また自律訓練法は,多くの人が段階的に習得できるように体系化されているところと生理学的側面が重視されている点で,従来の自己催眠法とは異なる.
 自律訓練法の基本的な治療メカニズムは,生理学的には,求心性インパルスの減少による中枢神経系の興奮の鎮静にあり,また心理学的には,精神的態度を受動的にすることによって過敏性を軽減するところにある.自律訓練法はこのように心身活動の基盤にはたらきかけ,心身全般をエネルギー消費体制(エルゴトローピック状態:ergotropic state)からエネルギー蓄積体制(トロフォトローピック状態:trophotropic state)へ,つまり活動型から休息型へと変換するので,ストレッサーに対する過敏状態,不安,緊張,自律神経系の過興奮などが関与している心身症や神経症の非特異的治療法として用いられることが多い.

天地人

老人の群

著者:

ページ範囲:P.621 - P.621

 文芸春秋誌上で読んだのだから間違いはない.トンチン公債というのがあるそうである.定年になったとしよう.そのときの退職金が2000万あったとすれば,そのような人が100人あつまって,一種の講を立てるのである.つまり2000万×100の金額を,国または公団に譲渡してしまうのだ.その金はかえってこない.しかし,その配当金だけは,その人が生きているかぎりもらえるのである.かりにそれが年5分とすれば,年に100万円はもらえることになる.これは大した金ではない.しかし,同志が死亡すれば,その配当金は,残った同志に分配される.だから,講を立てあった同志が50人に減れば,配当金は200万になる.25人になれば400万,さらにその半分になれば800万ということになる.つまり,長生きすればするほど,年収はどんどん増えることになるのである.
 ところが,これが意外にはやらなかった.元金がかえってこないということもあるであろうが,一番大きな問題は,他人の死が自分の利につながることにあったようである.人間は慾ばりだから,自分の年収を増したいばかりに,人の死を願うことになり,これは倫理的に面白くないということのようである.

オスラー博士の生涯・71

第一次欧州戦争勃発前後(1914年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.622 - P.626

 1914年の2月には,オスラーが父と慕ったフィラデルフィアのW.Mitchel老教授が亡くなったことは,オスラーにとっては精神的に大きな打撃だった.
 1年中でオクスフォードが一番美しい5月にはエール大学の友人Hadley博士夫妻の来訪をうけ,オスラーは文学的な会話を楽しんだ.

医師の眼・患者の眼

テタヌス・ショック

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.627 - P.629

サレムの魔女
 急患室からストレッチャーを押して長い通路を行く.頭の傷の痛みがとれはじめたのか,子供は何かしゃべりはじめた.碧い眼のナースがペチャクチャ応じているが,何をいってるのかわからない.アメリカでインターンを始めて間もない日のできごとであった.ナースは子供に答えている以外に,母親とEmergency roomで手当をした開業医Silver先生の悪口をいっているらしい.「あたしゃ金さえあれば,あんなSilverなどには子供を診せたくもないんだが,しようがないね.本当は入院などさせなくていいのにさ」
「Silverのお父さんはいい先生よ」

紫煙考

中年男子の死亡とタバコ論争

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.634 - P.635

はじめに
 1949年の調査によって喫煙と肺癌の「確実」な関係を明らかにしたドルとヒルは(本誌前号参照),つづいて51年10月,医籍登録にあるイギリスの医師男女59,600名を対象として,喫煙歴の調査を行った.ここに疫学研究史の中でも特筆される,20年間におよぶ「喫煙に関係する死亡」の研究が始まった.51年の質問調査に対しては,男性医師34,445名,女性医師6,192名,計40,637名から有効回答があった.以降57年11月(男性),60年11月(女性),66年3月,72年7月に追跡調査が行われ,64年と76年に英国医師会雑誌にその結果が発表された.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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